説明

複合式熱交換型反応器およびそれを用いたポリカプロアミドプレポリマーの製造方法

【課題】反応器内部を流れる反応液の熱履歴を精密に制御することで、熱交換反応の安定性に優れる複合式熱交換型反応器および反応装置を提供するものである。
【解決手段】反応器の内部が複数の領域に分割されており、反応液流入部から(a)2本以上の反応管からなる多管式熱交換領域、(b)内部に障害物が存在しない熱均一化領域、(c)2本以上の反応管からなる多管式熱交換領域の順に構成されることを特徴とする複合式熱交換型反応器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応器内部を流れる反応液の熱履歴を精密に制御することで、熱交換反応の安定性に優れる複合式熱交換型反応器に関する。
【背景技術】
【0002】
反応液に熱を与える、または奪うことで生成物を得る反応は、反応液中の熱を均一化し、安定した反応をさせることで、安定した生成物を得ることが出来る。そのためには反応時間、反応温度の精密制御を行う必要がある。
【0003】
従来、このような反応に用いられる熱交換型反応器は、反応液に効率良く熱を授受するため、特許文献1記載のように反応管を有する多管式熱交換器が広く用いられている。また、反応温度を所定の温度に制御するため、特許文献2のように反応管の周囲を覆う領域が複数に分割され、分割された領域ごとに独立した加熱条件が設定可能な熱交換型反応器が知られている。
しかしながら、これまでのような多管式熱交換器では各管内の中心部と管壁部または各管に熱斑が発生しやすいため、熱交換反応により得られる生成物の反応性が安定しないという問題があり、反応時間・温度の精密制御に適した装置がこれまで存在しなかった。
【特許文献1】特開2004−299924号公報
【特許文献2】特開2005−288441号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明では、より優れた熱交換反応の安定性に優れる複合式熱交換型反応器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記問題を鑑み、鋭意検討した結果、反応器内部を2本以上の反応管からなる多管式熱交換領域と、内部に障害物が存在しない熱均一化領域と多孔板を備えた整流領域から構成することにより、より安定した反応が可能であることを見出し、本発明に到達した。
【0006】
すなわち、本発明は、
(1)反応器の内部が複数の領域に分割されており、反応液流入部から(a)2本以上の反応管からなる多管式熱交換領域、(b)内部に障害物が存在しない熱均一化領域、(c)2本以上の反応管からなる多管式熱交換領域の順に構成されることを特徴とする複合式熱交換型反応器、
(2)(c)2本以上の反応管からなる多管式熱交換領域の後に、(e)多孔板を備えた整流領域を備えることを特徴とする(1)記載の複合式熱交換型反応器、
(3)(c)2本以上の反応管からなる多管式熱交換領域と(e)多孔板を備えた整流領域の間に(d)内部に障害物が存在しない熱均一化領域を備えることを特徴とする(2)の複合式熱交換型反応器、
(4)反応器が熱媒体、またはヒーターにより加熱されることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか記載の複合式熱交換型反応器、
(5)反応器の各領域のすべて、もしくはいずれかが熱媒、またはヒーターにより加熱されることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか記載の複合式熱交換型反応器、
(6)(1)〜(5)のいずれか記載の複合式熱交換型反応器、当該複合式熱交換型反応器に反応液を連続的に供給するポンプ、および圧力調整バルブを具備することを特徴とする反応装置、
(7)ポンプが、2つ以上のシリンダーを有することを特徴とする(6)記載の反応装置、
(8)カプロラクタムおよび水を、(1)〜(5)のいずれか記載の複合式熱交換型反応器または(6)〜(7)のいずれか記載の反応装置に供給し、反応させることを特徴とするポリカプロアミドプレポリマーの製造方法、および
(9)(8)記載の製造方法により得られたポリカプロアミドプレポリマーを重合することを特徴とするポリカプロアミドの製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、安定した熱交換反応を行うことができる反応器および反応装置を提供することができる。さらに、本発明の反応器または反応装置を使用することで、熱交換反応の安定性に優れる生成物を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
まず、本発明における複合式熱交換型反応器について説明する。
【0009】
本発明の複合式熱交換型反応器は、反応器内部が複数の領域に分割されており、2本以上の反応管からなる多管式熱交換領域と、内部に障害物が存在しない熱均一化領域と多孔板を備えた整流領域から構成される。このような構成とすることにより、熱効率の良い多管式熱交換領域と、反応液を均一に混合し、濃度分布や温度分布をなくすことができる熱均一化領域を有するため、熱効率が良好で安定した反応を達成することができる。
【0010】
当該複合式熱交換型反応器は、反応液の種類や反応条件に応じて、各領域を水平方向に配置した横型、または垂直方向に配置した縦型のどちらであってもよいが、通常は気層の発生を抑制するため、各領域を垂直方向に配置し、反応液を下方から上方へと垂直方向に通過させる縦型が好ましい。また、発明の複合式熱交換型反応器は、反応液の種類や反応条件に応じて、加熱反応の際の気相発生を抑制するため、加圧仕様としても良い。
【0011】
また、本発明の複合式熱交換型反応器は、反応器をジャケットで覆い、ジャケット内に熱媒体を循環させることで、反応液との熱交換を行う。
【0012】
ジャケットは反応器全体を一つのジャケットで覆っても良いし、反応器内部の領域に合わせて個別のジャケットで覆っても良い。さらに個別ジャケットの場合、各ジャケットは反応条件に合わせ、別種の熱媒体を使用しても良い。
【0013】
本発明では、反応器と、当該反応器に反応液を連続的に供給するポンプ、および圧力調整バルブを具備する反応装置として使用することができる。
【0014】
当該複合式熱交換型反応器へ反応液を送液するポンプは、定量ポンプが好ましく、反応液の脈流を抑制するために2つ以上のシリンダーを有する定量ポンプがより好ましい。
【0015】
熱媒体の循環方法は軸流ポンプ、遠心渦巻ポンプなどのポンプで強制循環させても良いし、還流式で自己循環させても良い。
【0016】
熱媒体の加熱方法は熱媒体入りのジャケットに直接加熱器を投入しても良いし、ポンプ循環の場合は循環ライン上に加熱器を設置しても良い。
【0017】
循環する熱媒体としては、目的とする反応温度、熱媒体の取扱いの容易さなどに応じて適宜選択され、例えば亜硝酸ナトリウム、硝酸ナトリウム質量、硝酸カリウムの混合物や、亜硝酸ナトリウム、硝酸カリウムの混合物などの溶融塩、金属ナトリウムなどの溶融金属などの無機物からなる無機熱媒体、アルキルビフェニル類、ビフェニル類とジフェニルオキサイド類との混合物、ビフェニル類とジフェニルエーテル類との混合物、トリフェニル類、ジベンジルトルエン類、アルキルベンゼン類、アルキルナフタリン類、アリールアルキル類などの有機物からなる有機熱媒体、イオン性液体、水、スチームなどが挙げられる。
【0018】
本発明の複合式熱交換型反応器における好ましい領域の配列は、反応液流入部から(a)多管式熱交換領域、(b)熱均一化領域、(c)多管式熱交換領域の順であり、熱交換ならびに反応が均一化されるので好ましい。また、(c)多管式熱交換領域の後に、(e)整流領域を配したほうがさらに好ましく、さらに(c)多管式熱交換領域と(e)整流領域の間に(d)熱均一化領域を配するほうが、より熱交換ならびに反応が均一化されるので特に好ましい。
【0019】
本発明の複合式熱交換型反応器において、流入した反応液の流れを整流化させ、より熱交換ならびに反応を均一化させる目的で、反応液流入部に多孔板を配しても良い。
【0020】
次に本発明の複合式熱交換型反応器における各領域について具体的に説明する。本発明における多管式熱交換領域とは、主に加熱源との熱交換を行う領域で、反応液を一端側から他端側へと一方向に通過させながら加熱することにより生成物を得るための反応管を備えることを特徴とする。
【0021】
反応管は2本以上10000本以下の複数の反応管を反応条件に合わせ用いた方が良く、反応管の内径および外径についても、反応器をどのような反応に用いるか、反応管,熱媒体をどのように設計するか等の種々の条件で異なり、目的に応じて決定される。反応管は、曲線部を持たせても良いが、通常は直線状の直管を用いる。反応管は、上管板および下管板によって、反応器に対して固定される。
【0022】
本発明における熱均一化領域とは、反応器内で反応液中の熱を、熱量差による自己対流を用いて均一化する領域で、当該領域に何も備えないことを特徴とする。
【0023】
本発明における整流領域とは、反応液の流れをピストンフロー化することで滞留時間を一定にし、均一に反応させる領域で、流動方向を整えるための整流板を備えることを特徴とする。流動方向を整えるための整流板の形状としては、例えば円板状、穴開円板状、欠円形などが挙げられる。整流板は通常、熱媒体の流れ方向が反応管に対して概ね直角になるように設けられる。一つの領域に設けられる整流板の数に制限は無いが、通常、1〜10枚程度である。
【0024】
本発明の複合式熱交換型反応器は、特に制限は無いが、加・減熱による均一反応が必要な反応に適用することができ、その中でも、環状2量体の含有量が少ないポリカプロアミドを効率的かつ安定的に製造するために用いることができる。
【0025】
まず含水率2〜14重量%のカプロラクタム水溶液を加圧下に220〜300℃の温度で5〜60分加熱して、環状2量体含有量が0.06重量%以下であるポリアミドプレポリマーを得、該ポリアミドプレポリマーを常圧重合装置に供給し、重合温度の最高値が250〜270℃の温度で5〜12時間、液相重合し、硫酸相対粘度が2.0以上、カプロラクタム含有量が10重量%以下、オリゴマー含有量が2.0重量%以下、カプロラクタム環状2量体含有量の合計が0.3重量%以下のポリアミドを得ることができる。
【0026】
本発明に言うポリアミドプレポリマーとは、カプロラクタムの加熱処理により得られる組成物であり、鎖状オリゴマー、環状オリゴマー、未反応モノマを含む混合物を言う。環状オリゴマーとは、鎖状オリゴマーの末端基が同一分子鎖内でアミド結合することにより環化したものであり、重合度6までのものをいう。
【0027】
本発明の反応器または反応装置を使用してポリアミドを製造する場合、まず、カプロラクタム水溶液を調製する。この時の含水率の下限は総量に対し、2重量%であり、好ましくは2.5重量%、特に好ましくは3重量%である。また含水率の上限は総量に対し、14重量%であり、好ましくは13重量%、特に好ましくは12重量%である。含水率が2重量%未満であるとポリアミドプレポリマーを得るに際しカプロラクタム環状オリゴマーが多く生成し、重合後の環状2量体量が0.3重量%を超え、オリゴマー除去工程の負担が大きくなる。また含水率が14重量%を超えると原料を加熱するのに必要なエネルギーが大きくなるために好ましくない。
【0028】
本発明の複合式熱交換型反応器を用いて、環状2量体含有量が0.06重量%以下のポリアミドプレポリマーを得るための処理温度の下限は220℃が好ましく、さらに好ましくは225℃、特に好ましくは230℃である。また処理温度の上限は300℃が好ましく、さらに好ましくは290℃、特に好ましくは280℃である。本処理温度において、カプロラクタム水溶液の水分率を前記した範囲に維持するためには、処理時の圧力を、処理温度での蒸気圧以上に維持する必要があるが、このような圧力制御は、圧力調節弁などを用いて行うことが可能である。この際の圧力は系内の水分の揮散を防ぐのに十分な圧力であれば特に制限はないが、0.111〜6.08MPa(1.1〜60atm、1.14〜62.00kg/cm)の範囲が好ましく、0.152〜5.065MPa(1.5〜50atm、1.55〜51.67kg/cm)がより好ましい。0.111MPa未満の圧力下ではプレポリマー化時のオリゴマー量が多くなってしまい、一方、6.08MPaを超える場合は、生産性や経済性に劣るものとなる。処理温度が220℃未満でポリマーを得るに際し時間を要するために生産性に劣り、工業的生産には不適当である。また、処理温度が300℃を超えると短時間で処理が可能であるが、水分を保持するための圧力が高くなるために設備費用が割高となることカプロラクタム環状オリゴマーの生成速度が大きくなりすぎるために工業的な安定性に欠ける。
【0029】
本発明の複合式熱交換型反応器を用いて、ポリアミドプレポリマーを調製する際の処理時間は5〜60分間が好ましい。上限として好ましくは50分以下、特に好ましくは40分以下である。60分を超えるとポリアミドプレポリマー中にカプロラクタム環状オリゴマーが多く生成し、重合後の環状2量体量が0.06重量%を超え、後工程であるオリゴマー除去、精製工程の負担が大きくなる。5分未満で環状2量体量が0.06重量%以下のポリアミドプレポリマーを得ようとするとカプロラクタム環状オリゴマーの生成速度が速くなるために工業的な安定性に欠ける。
【0030】
このようにして得られたポリアミドプレポリマーを250〜270℃で5〜12時間、液相にて重合を進め、ポリアミドを得る。ポリアミド中のカプロラクタム含有量は10重量%以下であり、好ましくは9重量%以下、さらに好ましくは8重量%以下である。下限に特に制限はないが、通常3重量%である。また、ポリアミド中のオリゴマー含有量は2.0重量%以下であり、好ましくは1.9重量%以下である。下限に特に制限はないが、通常1.0%である。ポリアミド中のカプロラクタム環状2量体の合計は0.3重量%以下であり、好ましくは0.25重量%以下である。本発明でいうポリアミド中のオリゴマー含有量は、ポリアミド粉末約20gをメタノール200mlで3時間ソックスレイ抽出し、その抽出液を蒸発乾固し、更に真空乾燥してカプロラクタムも除去した後に得られる残渣量から、重量を求め、それを試料であるポリアミド粉末の重量で除して求めた割合である。
【0031】
本発明のポリアミドの製造方法では、加圧下熱処理によって得られたポリアミドプレポリマーを常圧重合装置に供給する際に、加圧下熱処理後の反応物を常圧重合装置上部などにフラッシュさせて水分を蒸散除去させることが好ましく採用される。水分を蒸散除去させることにより、ポリアミドを製造する際の加熱に要する熱量を低減し、かつ重合温度制御を容易にすることができる。
【0032】
本発明のポリアミドの製造方法において、用いる重合装置は常圧で重合を行える装置であれば特に制限はなく、一般的にカプロラクタムの重合に用いられる装置を用いることができる。具体的には連続式常圧重合装置、回分式重合装置などの液相重合装置が挙げられる。中でも生産性の面から連続式常圧重合装置が好ましい。
【0033】
重合温度、重合時間は重合後のポリアミドポリマーに含有されるオリゴマーが2.0重量%以下、カプロラクタム環状2量体が0.3重量%以下かつカプロラクタムが10重量%以下となるように上記範囲から選べばよい。重合後のポリアミドポリマーに含有されるオリゴマー量が2.0重量%を超える、または、環状2量体が0.3重量%を超えると、後工程であるオリゴマー除去、精製工程の負担が大きくなる。カプロラクタムが10重量%を超えるとポリアミドの収率が低いために経済的に好ましくない。
【0034】
重合温度は250〜270℃であり、好ましくは250〜267℃、さらに好ましくは250〜265℃である。重合温度が250℃未満の場合、重合速度が遅く重合に長時間を要し経済的でないばかりか、重合中にオリゴマーが2.0重量%を超えて生成されたり、カプロラクタム環状2量体が0.3重量%を超えて生成されたりするために、後工程であるオリゴマー除去、精製工程の負担が大きくなる。また、270℃を超える場合も、カプロラクタム環状オリゴマーの生成速度が大きくなるために、重合後のオリゴマーが2.0重量%を超えたり、環状2量体量が0.3重量%を超え、後工程であるオリゴマー除去、精製工程の負担が大きくなる。なお、ここでいう重合温度とは、重合装置内におけるポリアミドまたはその前駆体の最高温度である。重合時間が5時間未満ではカプロラクタムが10重量%を超えることがあるため、カプロラクタムを10重量%以下とするために重合温度が270℃を超えることが必要となり、カプロラクタム環状オリゴマーの生成速度が大きくなる等の問題がある。また、12時間を超えるとカプロラクタム環状2〜4量体の含有率が1.2重量%を超えて生成することや経済的ではないなどの問題を生じる。本発明において好ましい重合時間は6〜10時間である。また、本発明の方法によれば、ポリアミドポリマー中のカプロラクタム環状2量体の含有率は通常0.3重量%以下となり、好ましい態様においては0.25重量%以下となる。環状2量体は昇華性があり高融点であることから、フィルム製造時や紡糸時口金汚れの主たる原因物質となっているため、上記のようにカプロラクタム環状2量体が低減されることは、実用上極めて有用である。この環状2量体の下限に特に制限はないが、通常0.001重量%である。
【0035】
本発明のポリアミドの製造方法で用いる原料には主にカプロラクタムを用いるが、発明の目的を阻害しない範囲で、1種または2種以上の他のラクタムおよびその誘導体をポリアミドの原料全体の10mol%を超えない範囲で併用してもかまわない。10mol%を超えると得られるポリアミドポリマーの結晶性が低下する場合がある。かかる併用ラクタム及びその誘導体の具体例としては、バレロラクタム、エナントラクタム、カプリルラクタム、ウンデカラクタム、ラウロラクタムなどを挙げることができる。
【0036】
本発明のポリアミドの製造方法では、カプロラクタムに対して5mol%以下のジカルボン酸、ジアミン、およびこれらの塩の中から選ばれる少なくとも1種の添加剤を加熱処理前の原料中あるいは重合段階に供給して重合することができる。このことにより、必要な重合時間のさらなる短縮が可能である。ただし、この添加量としては4mol%以下が好ましく、更に好ましくは3mol%以下である。添加剤の添加量が5mol%を超えると得られるポリアミドポリマーの融点や結晶性が低下し、成形性・成形品物性が低下する場合がある。
【0037】
添加剤を構成するジカルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、ブラシリン酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、オクタデカン二酸のような脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸のような脂環式ジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸のような芳香族ジカルボン酸などが挙げられる。
【0038】
添加剤を構成するジアミンとしては、1,4−ジアミノブタン、1,5−ジアミノペンタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、1,11−ジアミノウンデカン、1,12−ジアミノドデカン、1,13−ジアミノトリデカン、1,14−ジアミノテトラデカン、1,15−ジアミノペンタデカン、1,16−ジアミノヘキサデカン、1,17−ジアミノヘプタデカン、1,18−ジアミノオクタデカン、1,19−ジアミノノナデカン、1,20−ジアミノエイコサン、ジエチルアミノプロピルアミンなどの脂肪族ジアミン、シクロヘキサンジアミン、ビス−(4−アミノヘキシル)メタンのような脂環式ジアミン、キシリレンジアミンのような芳香族ジアミンなどが挙げられる。この添加剤としては、好ましくはジカルボン酸とジアミンの塩であり、より好ましくは脂肪族および/または芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジアミンから誘導される塩であり、最も好ましくは、アジピン酸と1,6−ジアミノヘキサンから誘導される塩および/またはテレフタル酸と1,6−ジアミノヘキサンから誘導される塩である。
【0039】
前記添加剤を常圧重合装置に供給する方法に特に制限はない。粒状の固体を重合装置に添加してもよく、水などの溶媒に溶解し、溶液として添加してもよい。
【0040】
本発明のポリアミドの製造方法では、得られたポリアミドからさらにカプロラクタムおよびオリゴマーを熱水抽出によって除去してもよく、減圧下で加熱することにより揮発除去してもよく、減圧下で加熱して、カプロラクタムおよびオリゴマーを除去した後、さらに熱水抽出を行ってもよい。
【0041】
カプロラクタムおよびオリゴマーの減圧下加熱による揮発除去は、重合反応生成物をペレットなどの固体とした後、固相で行ってもよく、溶融状態で行ってもよい。溶融状態での揮発除去は、重合反応生成物をペレットなどの固体とした後、押出機や薄膜蒸発機などで溶融・減圧下加熱を行ってもよく、重合塔より吐出される溶融状態の重合反応生成物を、直接押出機や薄膜蒸発機などに供給してもよい。また、カプロラクタムおよびオリゴマーの減圧下加熱による揮発除去においてポリアミドの溶融重合または固相重合を同時に行うことにより、その重合度を用途に応じた好適な値に調整することができる。
【0042】
本発明のポリアミドの製造方法で得られるポリアミドは、高強度繊維や押出成形などポリアミドが高粘度であることを要求される用途に対しては、好適な粘度が得られるように、ポリアミドの融点未満の温度かつ窒素気流下または減圧下で加熱処理する固相重合によって所望の重合度に調整することが好ましい。
【0043】
本発明のポリアミドの製造方法では、必要に応じてカルボン酸化合物で末端を封鎖するもしくは末端基の構成を制御することができる。モノカルボン酸を添加して末端封鎖する場合には、得られたポリアミド樹脂の末端基濃度が末端封鎖剤を使用しない場合に比べて低下する。一方、ジカルボン酸で末端封鎖した場合には全末端基量は変化しないが、アミノ末端基とカルボキシル末端基との比率を変えることができる。カルボン酸化合物の具体例としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、ウンデカン酸、ラウリル酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ミリストレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、アラキン酸のような脂肪族モノカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、メチルシクロヘキサンカルボン酸のような脂環式モノカルボン酸、安息香酸、トルイル酸、エチル安息香酸、フェニル酢酸のような芳香族モノカルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、ブラシリン酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、オクタデカン二酸のような脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸のような脂環式ジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸のような芳香族ジカルボン酸などが挙げられる。
【0044】
また、末端封鎖剤の添加方法としてはポリアミドプレポリマーの加熱処理初期にカプロラクタム等の原料と同時に仕込む方法、常圧重合装置投入前に添加する方法、ポリアミド樹脂を溶融状態で未反応カプロラクタムおよびオリゴマーを除去する際に添加する方法などが採用される。末端封鎖剤はそのまま添加してもよいし、少量の溶剤に溶解して添加してもかまわない。
本発明の製造方法においては、用途に応じて例えば酸化防止剤や耐熱安定剤(ヒンダードフェノール系、ヒドロキノン系、ホスファイト系およびこれらの置換体、ハロゲン化銅、ヨウ素化合物等)、耐候剤(レゾルシノール系、サリシレート系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系等)、離型剤および滑剤(脂肪族アルコール、脂肪族アミド、脂肪族ビスアミド、ビス尿素およびポリエチレンワックス等)、顔料(酸化チタン、硫化カドミウム、フタロシアニン、カーボンブラック等)、染料(ニグロシン、アニリンブラック等)、結晶核剤(タルク、シリカ、カオリン、クレー等)、可塑剤(p−オキシ安息香酸オクチル、N−ブチルベンゼンスルホン酸アミド等)、帯電防止剤(アルキルサルフェート型アニオン系帯電防止剤、4級アンモニウム塩型カチオン系帯電防止剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートのような非イオン系帯電防止剤、ベタイン系両性帯電防止剤等)、難燃剤(メラミンシアヌレート、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、ポリリン酸アンモニウム、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンオキシド、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂あるいはこれらの臭素系難燃剤と三酸化アンチモンとの組合せ等)、充填剤(グラファイト、硫酸バリウム、硫酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化アンチモン、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化鉄、硫化亜鉛、亜鉛、鉛、ニッケル、アルミニウム、銅、鉄、ステンレス、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ベントナイト、モンモリロナイト、合成雲母等の粒子状、繊維状、針状、板状充填剤等)、他の重合体(他のポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、液晶ポリマー、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ABS樹脂、SAN樹脂、ポリスチレン等)を任意の時点で添加することができる。
【0045】
本発明の製造方法によって得られたポリアミドは、従来のポリアミドと同様に、通常の成形方法によって成形品とすることができる。成形方法に関しては特に制限はなく、射出成形、押出成形、吹き込み成形、プレス成形など公知の成形方法が利用できる。ここでいう成形品とは射出成形などによる成形品の他、繊維、フィルム、シート、チューブ、モノフィラメント等の賦形物も含む。
【実施例】
【0046】
以下に実施例をあげて本発明を具体的に説明する。なお、明細書本文および実施例、比較例に記した特性値の定義および測定方法は以下のとおりである。
【0047】
(1)ポリアミドプレポリマー中の環状オリゴマー含有量
被測定物を粉砕し、JIS標準ふるい24meshを通過し、124meshは不通過である被測定物の粉末を集め、該粉末約20gをメタノール200mlで3時間ソックスレイ抽出器を用いて抽出し、抽出液中に含まれる環状オリゴマーを、高速液体クロマトグラフを用いて定量した。なお、以下の実施例においては7量体以上の環状オリゴマーは検出されなかった。測定条件は下記のとおりである。
高速液体クロマトグラフ:ウォーターズ社600E
カラム:GLサイエンス社 ODS−3
検出器:ウォーターズ社484Tunable Absorbance Detector
検出波長:254nm
インジェクション体積:10μl
溶媒:メタノール/水(メタノール/水の組成は、20:80→80:20(体積比)のグラディエント分析とした。)
流速:1ml/min。
【0048】
熱交換反応の安定性は、30分間隔で20サンプルのポリアミドプレポリマーを採取し、その環状オリゴマー含有量の平均とバラツキ範囲で評価を実施した。
【0049】
(2)ポリアミド中のカプロラクタム量およびカプロラクタム環状2量体量
ポリアミドを粉砕し、JIS標準ふるい24meshを通過し、124meshは不通過のポリアミド粉末を集め、該粉末約20gをメタノール200mlで3時間ソックスレイ抽出し、抽出液中に含まれるカプロラクタムを、高速液体クロマトグラフを用いて定量した。測定条件は下記のとおりである。なお、カプロラクタムおよびカプロラクタム環状2量体のカラム保持時間はあらかじめ検量を行い決定した。
高速液体クロマトグラフ:ウォーターズ社600E
カラム:GLサイエンス社 ODS−3
検出器:ウォーターズ社484Tunable Absorbance Detector
検出波長:254nm
インジェクション体積:10μl
溶媒:メタノール/水(20:80(体積比))
流速:1ml/min
保持時間:カプロラクタム 15分
カプロラクタム環状2量体 13分
【0050】
(3)ポリアミド中のオリゴマー量
ポリアミドを粉砕し、JIS標準ふるい24meshは通過し、124mesh不通過のポリアミド粉末を集め、該粉末約20gをメタノール200mlで3時間ソックスレイ抽出し、エバポレーターで蒸発乾固し、更に80℃/8時間真空乾燥することによりカプロラクタムを除去した後に得られる残渣量を求めオリゴマー含有量とした。
【0051】
(4)硫酸相対粘度(ηr)
ポリアミドを粉砕し、JIS標準ふるい24meshは通過し、124mesh不通過のポリアミド粉末を集め、該粉末約20gをメタノール200mlで3時間ソックスレイ抽出し、残分を乾燥後測定試料とする。98%硫酸中、試料0.01g/ml濃度、25℃でオストワルド式粘度計を用いて測定を行った。
【0052】
[実施例1]
図1に示す装置を用いカプロラクタム水溶液の加熱処理、重合を実施した。複合式熱交換型反応器11は、流れ方向の順に(a)多管式熱交換領域,(b)熱均一化領域,(c)多管式熱交換領域,(d)熱均一化領域,(e)整流領域が設置されたものを用い、含水率9%のカプロラクタム水溶液を原料貯槽8に投入し、ついで圧力計10を吐出側に有する原料供給ポンプ9を用い、複合式熱交換型反応器11に供給し、内容物を、1.5MPa,225℃,20分で連続的に加熱処理を行った。次いで得られたポリアミドプレポリマーを重合塔14に供給、内容物を加熱し、表1記載の条件で常圧下にて連続重合を行い、重合塔14下部より重合反応生成物であるポリアミドを排出、ペレタイズ化し直径約2mm、長さ約3mmの円筒状ポリアミドペレットを得た。なお、加熱処理槽の圧力はカプロラクタム水溶液から水分が加熱処理時に蒸発しないように圧力調整バルブ12により維持、調整し、圧力調整バルブ後圧力を大気圧解放することでポリアミドプレポリマーから蒸発した水分を重合塔14上部から系外へ排出した。
【0053】
ポリアミドプレポリマーの分析に際しては、重合塔14への供給前にサンプル採取用バルブ13からポリアミドプレポリマーを採取し実施した。結果、カプロラクタム環状2量体の含有量の平均は0.01重量%でバラツキ範囲は0.01〜0.02と、環状2量体量のバラツキを少なくすることで、環状2量体の含有量が少ないポリアミドプレポリマーを得ることができた。
【0054】
また、重合塔14から排出したポリアミドは、相対粘度:2.3,モノマー含有量:7.5重量%,オリゴマー含有量:1.8重量%,環状2量体含有量:0.19重量%であり、環状2量体量の少ないポリカプロアミドを得た。
【0055】
[実施例2]
複合式熱交換型反応器11として、流れ方向の順に(a)多管式熱交換領域,(b)熱均一化領域,(c)多管式熱交換領域,(d)熱均一化領域が設置されたものに変更した以外は、実施例1と同様の方法で加熱処理、重合を実施した。
【0056】
結果、カプロラクタム環状2量体の含有量の平均は0.02重量%でバラツキ範囲は0.01〜0.03と、実施例1と比較し、若干環状2量体の生成量にバラツキが見られるものの、環状2量体のバラツキが少なく、含有量が少ないポリアミドプレポリマーを得ることができた。
【0057】
また、得られたポリカプロアミドは、相対粘度:2.4,モノマー含有量:6.0重量%,オリゴマー含有量:1.8重量%,環状2量体含有量:0.21重量%であり、実施例1と比較し、若干環状2量体の増加が見られるものの、環状2量体量の少ないポリカプロアミドを得た。
【0058】
[実施例3]
複合式熱交換型反応器11として、流れ方向の順に(a)多管式熱交換領域,(b)熱均一化領域,(c)多管式熱交換領域が設置されたものに変更した以外は、実施例1と同様の方法で加熱処理、重合を実施した。
【0059】
結果、カプロラクタム環状2量体の含有量の平均は0.04重量%でバラツキ範囲は0.01〜0.06と、実施例2と比較し、環状2量体生成量のバラツキが大きいものの、環状2量体の含有量が目標範囲内のポリアミドプレポリマーを得ることができた。
【0060】
また、得られたポリカプロアミドは、相対粘度:2.3,モノマー含有量:7.5重量%,オリゴマー含有量:1.9重量%,環状2量体含有量:0.28重量%であり、実施例2と比較し、環状2量体の増加が見られるものの、環状2量体量が0.3重量%以下であるポリカプロアミドを得ることができた。
【0061】
[比較例1]
複合式熱交換型反応器11として、多管式熱交換領域のみが設置されたものに変更した以外は、実施例1と同様の方法で加熱処理、重合を実施した。
【0062】
結果、カプロラクタム環状2量体の含有量の平均は0.05重量%でバラツキ範囲は0.02〜0.09と、環状2量体含有量のバラツキが大きく、環状2量体含有量が多くなる結果となった。
【0063】
また、得られたポリカプロアミドは、相対粘度:2.3,モノマー含有量:7.5重量%,オリゴマー含有量:2.2重量%,環状2量体含有量:0.32重量%であり、目標とする環状2量体含有量0.3重量%以下のポリカプロアミドを得ることができなかった。
【0064】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明における、反応装置の一例を示す図である。
【図2】本発明のおける多管式熱交換領域の一例を示す概略図である。
【図3】本発明のおける熱均一化領域の一例を示す概略図である。
【図4】本発明のおける整流領域の一例を示す概略図である。
【図5】本発明の反応装置を含むプロセスフローを示す図である。
【符号の説明】
【0066】
1.複合式熱交換型反応器
2.調圧弁
3.反応器
4.圧力計
5.送液ポンプ
6.反応管
7.多孔板
8.原料貯槽
9.原料供給ポンプ
10.圧力計
11.複合式熱交換型反応器
12.圧力調節バルブ
13.サンプル採取用バルブ
14.重合塔
(a)多管式熱交換領域
(b)熱均一化領域
(c)多管式熱交換領域
(d)熱均一化領域
(e)整流領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応器の内部が複数の領域に分割されており、反応液流入部から(a)2本以上の反応管からなる多管式熱交換領域、(b)内部に障害物が存在しない熱均一化領域、(c)2本以上の反応管からなる多管式熱交換領域の順に構成されることを特徴とする複合式熱交換型反応器。
【請求項2】
(c)2本以上の反応管からなる多管式熱交換領域の後に、(e)多孔板を備えた整流領域を備えることを特徴とする請求項1記載の複合式熱交換型反応器。
【請求項3】
(c)2本以上の反応管からなる多管式熱交換領域と(e)多孔板を備えた整流領域の間に(d)内部に障害物が存在しない熱均一化領域を備えることを特徴とする請求項2記載の複合式熱交換型反応器。
【請求項4】
反応器が熱媒体、またはヒーターにより加熱されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の複合式熱交換型反応器。
【請求項5】
反応器の各領域のすべて、もしくはいずれかが熱媒、またはヒーターにより加熱されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の複合式熱交換型反応器。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか記載の複合式熱交換型反応器、当該複合式熱交換型反応器に反応液を連続的に供給するポンプ、および圧力調整バルブを具備することを特徴とする反応装置。
【請求項7】
ポンプが、2つ以上のシリンダーを有することを特徴とする請求項6記載の反応装置。
【請求項8】
カプロラクタムおよび水を、請求項1〜5のいずれか記載の複合式熱交換型反応器または請求項6〜7のいずれか記載の反応装置に供給し、反応させることを特徴とするポリカプロアミドプレポリマーの製造方法。
【請求項9】
請求項8記載の製造方法により得られたポリカプロアミドプレポリマーを重合することを特徴とするポリカプロアミドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−80267(P2008−80267A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−264276(P2006−264276)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】