説明

複合材、これを用いた燃料電池、および複合材の製造方法

【課題】基材シートと炭化ナノファイバー層との間の密着性に優れる複合材を提供する。
【解決手段】本発明に係る複合材は、導電性繊維からなる基材シート24cと、該基材シート24cの導電性繊維に付着されたバインダー24eにより基材シート24c上に密着された多数のナノファイバーが基材シート24cと共に焼成されることによって、基材シート24c上に密着して形成された炭化ナノファイバー層24bとからなることを特徴とする。また、表面を樹脂保護層によって覆うと好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合材、これを用いた燃料電池、および複合材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明者は、先に、導電性繊維からなる基材シート上に高分子溶液もしくは溶融高分子をエレクトロスピニング法によってスプレーして多数のナノファイバーを形成し、これを基材シートと共に焼成して、導電性繊維からなる基材シートと炭化ナノファイバー層とからなる複合材を形成する技術を開発し、特許出願をした(特願2006−95993)。
【特許文献1】特願2006−95993
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記複合材は、炭化ナノファイバー層を密に形成できるので、燃料電池における電極材の拡散層として用いた場合、集電性が高められ、発電する起電力のロスが小さくなる等の良好な特性を有している。
本発明は、上記複合材をさらに改良した複合材、これを用いた燃料電池、および複合材の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明に係る複合材は、導電性繊維からなる基材シートと、該基材シートの導電性繊維に付着されたバインダーにより基材シート上に密着された多数のナノファイバーが基材シートと共に焼成されることによって、基材シート上に密着して形成された炭化ナノファイバー層とからなることを特徴とする。
また、表面を樹脂保護層によって覆われていることを特徴とする。
前記基材シートが、布状をなす絹素材を焼成して形成されたものであることを特徴とする。
前記多数のナノファイバーが、前記基材シート上にエレクトロスピニングによって形成されたものであることを特徴とする。
上記複合材を電極材の拡散層として用いて、出力特性に優れる燃料電池を提供できる。
【0005】
また、本発明に係る複合材の製造方法は、導電性繊維からなる基材シートの導電性繊維にバインダーを付着する工程と、該バインダーにより基材シートの導電性繊維に多数のナノファイバーを密着させる工程と、該ナノファイバーを基材シートと共に焼成する工程とを含むことを特徴とする。
また、焼成された基材シートの表面をさらに樹脂保護層により被覆する工程を含むことを特徴とする。
前記基材シートに、布状をなす絹素材を焼成して形成した基材シートを用いることができる。
【0006】
前記バインダーを、2wt%よりも多く、10wt%未満のバインダー溶液を基材シートに、樹脂成分の担持量が、0.2mg/cm以下となるように付着させることを特徴とする。
また、前記樹脂成分の担持量を0.1mg/cm以下とすることを特徴とする。
また、前記樹脂成分の担持量を0.04mg/cm〜0.1mg/cmとすると好適である。
前記ナノファイバーを、高分子溶液もしくは溶融高分子をエレクトロスピニング装置によってスプレーすることによって基材シート上に形成することを特徴とする。
前記高分子が、レーヨン、ポリアクリロニトリル樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド前駆体等の合成高分子、あるいはシルク,セルロース等の天然高分子であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る複合材は、各種のフィルターや燃料電池の電極材における拡散層等として好適に用いることができる。また、複合材を、導電性繊維からなる基材シートと、該基材シートの導電性繊維に付着されたバインダーにより基材シート上に密着された多数のナノファイバーが基材シートと共に焼成されることによって、基材シート上に密着して形成された炭化ナノファイバー層とで構成したので、基材シートと炭化ナノファイバー層との密着性に優れ、燃料電池の拡散層に組み入れて、出力特性に優れる燃料電池を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下本発明に係る好適な実施の形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。
以下、複合材として燃料電池の拡散層を例として説明する。
図1は、燃料電池におけるセル20構造の一例を示す説明図である。
22は電解質膜である。この電解質膜22の一方の面にカソード層24が形成され、他方の面にアノード層(燃料極)26が形成されてセル20構造が構成される。28はセパレータであり、カソード層24およびアノード層26にそれぞれ対向して配置され、カソード層24、アノード層26に対向する面に複数の平行な凹溝が形成され、該凹溝が、空気供給用流路30および燃料供給用流路32にそれぞれ形成されている。
【0009】
各凹溝を挟む凸部はカソード層24、アノード層26に接触している。
流路30に空気が、流路32に水素、メタノール等の燃料が供給され、電解質膜22を介して酸化還元反応が生起されて起電力が生じるのである。
なお、燃料電池自体の種類は特に限定されるものではない。
【0010】
カソード層24およびアノード層26の電解質膜22側には、電極反応を促進する触媒金属を担持させた触媒層24a、26aがそれぞれ設けられている。触媒層24a、26aの反対側には炭化ナノファイバー層24b、26bが形成されている。さらにこの炭化ナノファイバー層24b、26bの反対側には基材シート(導電性繊維からなる)24c、26cが形成されている。この基材シート24c、26cが、カソード層24およびアノード層26の、空気および燃料が供給される側を向くことになる。本実施の形態では、上記炭化ナノファイバー層24b、26bと基材シート24c、26cとでそれぞれカソード24側の拡散層とアノード26側の拡散層を形成する。
以下、このカソード層24、アノード層26をその製造方法と共に説明する。
【0011】
基材シート24c、26cは、燃料もしくは酸化剤が供給される側の面に外方に突出する突起状部24d、26dを有する炭素繊維布からなる。
このような基材シートは、カソード層24、アノード層26の少なくとも一方の側に形成される。図1の例では、カソード層24、アノード層26の両層に、突起状部24d、26dを形成した例で示した。
【0012】
上記突起状部24d、26dは、独立した多数の小突起状であってもよいが、図1に示すように、畝状をなす突起状部24d、26dに形成するのが好適である。この畝状の突起状部24d、26dは、空気もしくは燃料の流れる方向と交差する方向に延びるようにすると好適である。
【0013】
上記のように、基材シート24c、26cに突起状部24d、26dを形成することによって、各突起状部24d、26d間に空隙が生じることから、空気、あるいは燃料の通気部が確保され、通気性が良好となる。したがって、カソード層24側において、生じた水蒸気は突起状部24c間の隙間および流路30を通じて外部に流出されやすくなる。したがって、水蒸気が凝縮して基材シート24cに目詰まりする状態を可及的に少なくでき、空気が基材シート24b内に良好に浸透することから、電極反応が促進され、出力が向上する。特に、突起状部24dが畝状をなし、この畝(したがって凹溝)が流路30と交差する方向に延びると、流路30間が連絡され、空気が基材シート24c全面に行き渡ることから、空気の浸透が一層良好となり、電極反応を促進できる。
【0014】
同様に、アノード側において、燃料がメタノールの場合に生じる炭酸ガスが、やはり、突起状部24d間の隙間および流路32を通じて外部に流出されやすくなる。したがって、炭酸ガスが滞留することが防止され、電極反応が促進される。
【0015】
突起状部24d、26dを有する炭素繊維布(導電部材)からなる基材シート(基材)24c、26cは、例えば、絹繊維を編んだ編地を焼成することによって良好に形成できる。図2は、この絹の編地を焼成して得た炭素繊維布の電子顕微鏡写真である。このような編地の場合、一方の面の側に、畝状の突起状部(図2の縦方向に延びる突起状部)が形成され、この突起状部間に隙間が形成されている状態がよくわかる。この炭素繊維布の他方の面側は突起状部が存在せず、比較的平坦な面となる。
【0016】
なお、編地を焼成することによって、畝状の突起状部を形成できるが、例えば、仏像の頭部に形成されるような独立した多数の突起を有する編地などを焼成することによって、独立した突起からなる突起状部を有する炭素繊維布を形成することもできる(図示せず)。
【0017】
編地等からなる絹布の焼成温度は600〜3000℃程度の高温で行うようにする。
また焼成雰囲気は、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気中、あるいは真空中で行い、絹素材が燃焼して灰化してしまうのを防止する。
【0018】
絹素材は、その糸(単糸)の太さ、撚り方、編み方、織り方、不織布の密度を調整して、布の厚さや密度等を自由自在に変更できるので、これら布の厚さや密度を調整することによって、得られる絹焼成体の通気性(燃料やガスの浸透性)を自在に調整できる。
そして、絹素材を焼成した絹焼成体は、図3のFE−SEMイメージ像に示すように、1本1本の繊維が寄り集まった単糸あるいは撚糸同士の間に適宜な隙間があることから、燃料や空気の接触効率がよくなり、安定した起電力が生起される。
【0019】
なお、上記では、基材シートを形成する導電部材の例として絹素材を焼成した絹焼成体を説明したが、この絹焼成体に限定されるものではない。例えば、アクリロニトリル繊維、フェノール樹脂からなる繊維などの、各種合成樹脂繊維からなる編地等の布を焼成することによっても、一方の面側に突起状部を有する炭素繊維布を形成することができる。
あるいはまた、基材シート24c、26cとしては、従来のカーボンペーパーやカーボンクロスからなる炭化導電部材を用いるものであってもよい。図4は、カーボンペーパーからなる炭化導電部材の表面の電子顕微鏡写真を示す。炭素繊維がランダムな方向に重なって延びているが、表裏とも比較的平坦な面となっていて、特に突起状部は存在しない。
【0020】
本実施の形態に係る拡散層(複合材)では、上記のようにして形成した基材シート24c、26cの導電性繊維にバインダーを付着させ、このバインダーを付着させた基材シート24c、26c上に、好適にはエレクトロスピニング法によって高分子溶液あるいは溶融高分子をスプレーして多数のナノファイバーを形成する。ナノファイバーはバインダーにより、基材シートの導電性繊維上に密着性よく付着する。そして、基材シートと共にナノファイバーを焼成し、基材シート上に炭化したバインダーによって結着した炭化ナノファイバー層24b、26bを形成した拡散層(複合材)24、26を形成するのである。
【0021】
バインダーの樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン、ユリア樹脂、ポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂を使用できる。これら樹脂を溶剤に溶かして、樹脂溶液(バインダー)とし、このバインダーをスプレーにより塗布して、基材シートの導電性繊維上に付着させるとよい。
【0022】
この場合、バインダーを、樹脂の含有量が2wt%よりも多く、10wt%未満のバインダー溶液に調整し、基材シートに、樹脂成分の担持量が、0.2mg/cm以下となるように付着させるようにすると、基材シートと炭化ナノファイバー層との密着性が良好な複合材(拡散層)とすることができる。
【0023】
バインダー中の樹脂濃度は、2wt%以下であると、樹脂成分そのものが少なすぎて、基材シートと炭化ナノファイバー層との密着性がよくなく、焼成時に剥がれが生じやすい。また、バインダー中の樹脂濃度が、10wt%よりも多いと、炭化ナノファイバー層が炭化したバインダーから浮き上がってしまい、破れたような状態となって好ましくなかった。
【0024】
また、基材シートの単位面積当たりの、バインダーの樹脂成分の担持量(溶剤を除いた樹脂成分の絶対量)が多ければ多いほどよいというわけではなく、担持量が、概ね0.2mg/cmよりも多くなると、炭化ナノファイバー層が炭化したバインダーから浮き上がってしまい、破れたような状態となって好ましくなかった。
したがって、この樹脂成分の担持量は、0.2mg/cm以下で、好ましくは0.1mg/cm以下、さらに好適には、樹脂成分の担持量が0.04mg/cm〜0.1mg/cmであるとよい。
【0025】
本実施の形態では、上記基材シート(基材)24b、26bの一表面側(触媒層24a、26a側)に炭化ナノファイバー層24d、26dを形成してそれぞれ拡散層とするものである。
【0026】
炭化ナノファイバー層は、例えば、高分子材をエレクトロスピニング法によってナノファイバー化し、焼成することによって形成される。
エレクトロスピニングは公知の技術であるが、本実施の形態では、拡散層の一部となる基材シート24c、26cをエレクトロスピニング装置(図示せず)の電極基板上に配置し、該基材シート24c、26cに向けて、エレクトロスピニング装置のキャピラリー電極のキャピラリーから高電圧を印加された高分子溶液をスプレーし、基材シート24c、26c上に多数のナノファイバーを形成する。
【0027】
このように、基材シートをエレクトロスピニング装置の電極基板上に配置してこの基材シート上にエレクトロスピニングすることによって次のような効果が生じる。
すなわち、絹布等を焼成して得た導電性を有する基材シート24c、26c上にエレクトロスピニングよりナノファイバー層を形成することによって、基材シート24c、26cに対してナノファイバー層の密着性に優れる。すなわち、スプレー状に飛散する際の液滴は正に帯電して反発しあい、これによりファイバー状に形成されるが、基材シート24c、26c上に到達すると、基材シート24c、26cは導電性を有するので直ちに接地され、これによりナノファイバー層と基材シート24c、26cとの密着性は良好となる。そして、これを焼成した際の基材シート24c、26cと炭化ナノファイバー層24b、26bとの密着性は極めて良いのである。
【0028】
高分子材としては、レーヨン、ポリアクリロニトリル樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド前駆体等の合成高分子、あるいはシルク,セルロース等の天然高分子を用いることができ、これら高分子材の高分子溶液あるいは溶融高分子をエレクトロスピニングして基材シート上にスプレーして、多数のナノファイバーをバインダーが付着された基材シート上に形成するのである。この多数のナノファイバーは、基材シート上に付着されたバインダーにより基材シート上に密着する。
【0029】
そして、該ナノファイバーが形成された基材シート24c、26cを不活性ガス雰囲気中で焼成して、基材シート上に炭化ナノファイバー層24b、26bを形成するのである。
エレクトロスピニングによって形成されるファイバーの太さは、印加電圧、溶液濃度、スプレーの飛散距離に依存する。これら条件は特に限定されるものではないが、高分子溶液の濃度は2〜12wt%、好ましくは6〜8wt%、印加電圧は4〜18kV、好ましくは10〜15kV、飛散距離は2〜20cm、好ましくは6〜10cm程度がよい。これにより太さが数百nmのナノファイバーを形成することができる。
【0030】
上記エレクトロスピニングによってナノファイバーを形成すると、立体的な網目をもつ3次元構造の薄膜(不織布)が得られ、これを焼成した炭化ナノファイバー層24b、26bはスリップフロー効果により通気性に優れたものとなる。すなわち、超極細繊維からなる炭化ナノファイバー層24b、26bは、気体分子がスリップフローし、圧力損失が低く、燃料、空気の拡散が良く、触媒へ接触しやすくなるため、出力が向上する。
【0031】
上記のように形成した複合材(拡散層)は、各種フィルターや、燃料電池の拡散層等に好適に用いることができる。
なお、上記基材シート上に炭化ナノファイバー層を形成した複合材は、バインダーが固まり、もろくなって強度的に弱いので、複合材をPTFE等の樹脂保護層で覆って補強するとよい。この樹脂保護層は、PTFEの他に、ポリエチレン類、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ABS樹脂、AS樹脂、アクリル樹脂等の熱可塑性樹脂類を用いることができる。
【0032】
複合材を燃料電池の電極材として用いるときは、複合材に触媒層を形成する。上記炭化ナノファイバー層は、極細炭素繊維で形成されるので、この炭化ナノファイバー層に、直接触媒金属を担持させたり、あるいは、例えばVGCF(登録商標)等のカーボンナノファイバーに白金や白金ルテニウムの触媒金属を担持し、この触媒金属を担持したカーボンナノファイバーをナフィオン溶液等の溶媒に混合してペースト状に形成し、このペーストをシート状をなす炭化ナノファイバー層に塗布することによって、触媒層24a、26aを形成することができる。
触媒金属としては、白金、白金合金、白金ルテニウム、金、パラジウムなどが好適である。
【実施例】
【0033】
1)基材シートの作成
基材シートの作成例について説明する。
シルク織物である天竺32番手を窒素雰囲気下で700℃になるまで昇温し、その温度を6時間キープした。その後室温になるまで降温させ、導電性繊維からなる基材シートを得た。
【0034】
2)バインダーの塗布
具体的な濃度、塗布量に関しては後述の 5)バインダー塗布条件の検討 で説明し、ここでは塗布方法についてだけ説明する。
1)で焼成した基材シートを50mm×200mmの大きさにカッターで裁断し、バインダーの塗布を行った。塗布方法としてはスプレー塗布を行った。
スプレー塗布の条件としては
試験装置 : Tamiya-BADGER250, PROXXON MINIMOT-COMPRESSOR
塗布速度 : 0.2MPa
雰囲気 : 大気中 (温度22℃、湿度45%)
バインダー : フェノール樹脂、住友ベークライト株式会社 PR−50087
【0035】
3)ナノファイバーの作成
2)でバインダー塗布した基材シートにナノファイバーを以下の条件で密着させた。
エレクトロスピニング装置 : カトーテック株式会社 Nanofiber Electrospining Unit
試料 : PAN/DMF 12wt%
印加電圧 : 20kV
キャピラリー : 18G×1・1/2”(φ1.20mm×38mm)
飛散距離 : 10cm
雰囲気 : 温度22℃ 湿度14%
【0036】
4)焼成
3)で形成した基材シートとナノファイバーの複合体を50mm×50mmの大きさにカッターで裁断し、焼成した。
すなわち、上記複合体を耐熱処理として大気下で240℃になるまで昇温し、その温度を3時間キープした後、炭化処理として窒素雰囲気下で1400℃になるまで昇温し、その温度を3時間キープした。その後室温になるまで降温させて焼成複合材を得た。
【0037】
5)バインダー塗布条件の検討
バインダーの塗布条件を検討した。
表1

なお、塗布方法は上記の 2)バインダー塗布方法 のとおりである。
上記塗布サンプルのバインダー塗布量の下限を0.10gとしてサンプル作成したのはスプレー塗布試験機の性能であり、また上限を0.50gとしたのはカットした基材シートに塗布できる上限だからである。それ以上塗布すると基材シートがバインダーを留めておくことができず、流れ出てしまうからである。
【0038】
また、単位面積あたりのバインダーにおけるフェノール樹脂の担持量を求めると表2のようになる。
表2

これらの基材シートに、エレクトロスピニング法によって多数のナノファイバーを付着させた。なお、ナノファイバーの形成条件は上記の 3)ナノファイバーの作成 のとおりである。この際の写真を図5a〜eに表す。図5でCNFbcはナノファイバーをいう。なお図でのaはバインダー濃度2wt%、bは4wt%、cは6wt%、dは8wt%、eは10wt%を一枚の写真で表している。また、一枚の写真の中で、上の段の左からバインダー塗布量0.1g、0.12〜0.13g、0.16〜0.18g、下の段の左から0.25g、0.49〜0.50gである。以下の図においても同様とする。
【0039】
これらの複合体を 4)焼成 の方法で焼成した。この際の写真を図6a〜eで表す。また同サンプルのマイクロスコープでの写真を図7a〜eで表す。図7a(2wt%)の写真では、表面が黒っぽく見え、炭化ナノファイバー層が浮き上がり、剥がれているのがわかる。また、図7e(10wt%)の写真では、基材シートの繊維が露出していて、炭化ナノファイバー層が破れてしまっているのがわかる。
このようにして出来上がったサンプルを評価した。評価方法としては目視であり、観点として基材シートと炭化ナノファイバー層の剥離や、炭化ナノファイバー層に破れが生じているか否かである。結果を表3に示す。
表3

また、表3をグラフにしたものを図8に示す。□が表3における良好に対応する。
この結果より、バインダー濃度は2wt%を超え、10wt%未満が良く、好適には3〜5wt%であると考えられる。また、バインダー塗布量は今回使用したスプレー塗布試験機の性能上、表1のとおりバインダー量が0.1g以下の試験は行えなかったが、この結果からすると、0.1 g以下も良好であるといえ、フェノール樹脂担持量(絶対量)の観点から考えると0.2 mg/cm以下が良好であり、好適には0.1mg/cm以下である。
よってこれらの条件をまとめると、
バインダー濃度2wt%を超え、10wt%未満、フェノール樹脂担持量0.2mg/cm以下が良好であり、更に好適にはバインダー濃度2wt%を超え、6wt%未満、フェノール樹脂担持量0.1mg/cm以下であるといえる。また、フェノール樹脂担持量は、0.04 mg/cm以上で0.1mg/cm以下が最適といえる。
【0040】
6)PTFEの担持
5)の焼成工程後に、複合材の強度を確保するためにPTFEの担持を行った(樹脂保護層の形成)。以下に担持条件を述べる。
60wt%のPTFEディスパージョンを蒸留水で希釈し、6wt%とした。この分散液に5)で作製した複合材(拡散層)を含浸した後、余分な分散液を取り除いた。なおPTFEについての担持条件はここで述べら以外の方法も多数試験したが、どの結果も有効であり、一般的な条件であれば特に限定しない。重要なのは、バインダーを塗布し、ナノファイバーを形成して焼成した複合材に、PTFEなどの補強の役割を持つ薬剤を塗布することである。
【0041】
7)乾燥
6)の工程後にPTFEを乾燥させた。乾燥条件としては120℃で1時間予備乾燥を行った後、次いで350℃で30分加熱を行った。
8)出力評価
上記のようにして作成したサンプルの一部を燃料電池の拡散層として組み込んだ燃料電池(図1)の出力評価した。なお、拡散層の組み込み方は一般的なものであり、ここでは省く。評価条件を以下に記載する。

燃料 : 1.5 M MeOH水
酸化剤 : Air
セル温度 : 60 ℃
送り量 : アノード 2.8 ml / min
カソード 500 ml / min
拡散層 : アノード 東レ(カーボンペーパー:TGP-H-060)
カソード 本件複合材(フェノール樹脂濃度4%、担持量0.10mg/ cm
測定時間 : 3 h後測定

結果を図9に表す。図9において、PS32とは、上記1)で形成した基材シートであり、CNFbcとは、上記炭化ナノファイバー層であり、「挟んだだけ」とはバインダーを用いないで、基材シート上に炭化ナノファイバー層を形成したものである。図9より、バインダーを用い、さらにPTFEで被覆したもので拡散層を形成した場合の出力が、単に基材シートに炭化ナノファイバー層を形成したものの場合(挟んだだけ)の約2.5倍、基材シートと、バインダーと炭化ナノファイバー層の場合(PTFE被覆無し)の約1.3倍の出力を示した。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】燃料電池のセル構造を示す模式的な説明図である。
【図2】絹の編地を焼成して得た炭素繊維布の電子顕微鏡写真である。
【図3】絹繊維を2000℃で焼成した場合の、FE―SEM写真図である。
【図4】従来のカーボンペーパーからなる拡散層の表面の電子顕微鏡写真である。
【図5】基材シート上にエレクトロスピニング法によってナノファイバーを形成した複合体の表面写真である。
【図6】図5の複合体を焼成した複合材の表面写真である。
【図7】図6の複合材の表面のマイクロスコープ写真である。
【図8】バインダー濃度とフェノール樹脂担持量のバインダー塗布条件を変化させた場合の複合材の剥がれ等を示すグラフである。
【図9】燃料電池の出力特性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0043】
20 燃料電池のセル
22 電解質膜
24 カソード層
24a 触媒層
24b 炭化ナノファイバー層
24c 基材シート
24d 突起状部
26 アノード層
26a 触媒層
26b 炭化ナノファイバー層
26c 基材シート
26d 突起状部
28 セパレータ
30、32 流路


【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性繊維からなる基材シートと、
該基材シートの導電性繊維に付着されたバインダーにより基材シート上に密着された多数のナノファイバーが基材シートと共に焼成されることによって、基材シート上に密着して形成された炭化ナノファイバー層とからなることを特徴とする複合材。
【請求項2】
表面を樹脂保護層によって覆われていることを特徴とする請求項1記載の複合材。
【請求項3】
前記基材シートが、布状をなす絹素材を焼成して形成されたものであることを特徴とする請求項1または2記載の複合材。
【請求項4】
前記多数のナノファイバーが、前記基材シート上にエレクトロスピニングによって形成されたものであることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載の複合材。
【請求項5】
電極材の拡散層が請求項1〜4いずれか1項記載の複合材により形成されていることを特徴とする燃料電池。
【請求項6】
導電性繊維からなる基材シートの導電性繊維にバインダーを付着する工程と、
該バインダーにより基材シートの導電性繊維に多数のナノファイバーを密着させる工程と、
該ナノファイバーを基材シートと共に焼成する工程とを含むことを特徴とする複合材の製造方法。
【請求項7】
焼成された基材シートの表面をさらに樹脂保護層により被覆する工程を含むことを特徴とする請求項6記載の複合材の製造方法。
【請求項8】
前記基材シートに、布状をなす絹素材を焼成して形成した基材シートを用いることを特徴とする請求項6または7記載の複合材の製造方法。
【請求項9】
前記バインダーを、2wt%よりも多く、10wt%未満のバインダー溶液を基材シートに、樹脂成分の担持量が、0.2mg/cm以下となるように付着させることを特徴とする請求項6〜8いずれか1項記載の複合材の製造方法。
【請求項10】
前記樹脂成分の担持量を0.1mg/cm以下とすることを特徴とする請求項9記載の複合材の製造方法。
【請求項11】
前記樹脂成分の担持量を0.04mg/cm〜0.1mg/cmとすることを特徴とする請求項10記載の複合材の製造方法。
【請求項12】
前記ナノファイバーを、高分子溶液もしくは溶融高分子をエレクトロスピニング装置によってスプレーすることによって基材シート上に形成することを特徴とする請求項6〜11いずれか1項記載の複合材の製造方法。
【請求項13】
高分子が、レーヨン、ポリアクリロニトリル樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド前駆体等の合成高分子、あるいはシルク,セルロース等の天然高分子であることを特徴とする請求項12記載の複合材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−201106(P2008−201106A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−42878(P2007−42878)
【出願日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【出願人】(000106944)シナノケンシ株式会社 (316)
【Fターム(参考)】