説明

複合材料の製造方法および医療用複合材料

【課題】遠心力を利用することにより高分子の多孔質金属への充填を可能にする。
【解決手段】 回転可能な容器に多孔質金属と高分子を配置し,高分子の溶融温度以上にて加熱することで高分子を溶解させ,溶融過程から冷却までの一部あるいは全時間に容器に遠心力を印加し,溶融した高分子を多孔質金属の孔内に強制的に充填させることによって,多孔質金属と高分子とを複合化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,遠心力を利用して,貫通孔を有する多孔質金属に高分子を複合化するための方法および医療用複合材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在,硬組織代替材料としてチタン合金が広く使用されているが,ヤング率が骨のそれ(約20GPa)に対して約100〜120GPaと高く,人工骨と骨との界面の応力集中に伴う骨折や骨組織の収縮,腫瘍の発生の原因となる事が問題となっている。 また,チタンはオッセオインテグレーションを実現した骨結合性の高い材料であるが,長期使用に伴う部材の緩みなど固定の問題もある。そこで,低ヤング率化と骨と材料との長期固定を実現する材料として,多孔質チタンが注目されている。しかし,この材料は表面が平滑でないため,生体内に埋入した直後に生体との接触により周辺組織を損傷する恐れがある。また,強度や耐摩耗性が低く,生体内で摩耗粉を生じ周辺組織の壊死や骨吸収の原因となる恐れがある。
【0003】
これらの問題を解決する手段の一つとして,多孔質金属材料の空孔内に生分解性高分子材料を分布させ表面を平滑した医療用複合材料が考えられた。この材料は,生体内に埋入されると徐々に生分解性高分子が分解される。そこへ骨組織が侵入し,骨結合表面の増大と機械的嵌合力による部材固定向上が見込める。この作用により骨と人工骨が強固に固定されるだけでなく,多孔質であることでヤング率の低減の効果も期待できる。また,平滑化によって周辺組織の損傷や摩耗粉の発生を防止出来る。
【0004】
この様な生分解性高分子と多孔質チタンの複合化技術として,特許文献1に示されるような金属と高分子の複合粉末を作製する方法を始め,非特許文献1で提案されている,生分解性高分子繊維とチタン粉末を放電プラズマ焼結炉にて焼結する技術がある。しかし,特許文献1は複合粉末の作製技術であり,また非特許文献1で提案された手法は,生分解性高分子とチタンの融点差からチタンの焼結が完了せず人工骨としての強度が不足する欠点を有していた。更に,特許文献2で提案されている多孔質チタンへの溶融生分解性高分子の繰り返し真空含浸による複合化がある。しかし,この従来法は溶融生分解性高分子の空孔への充填に手間と時間が掛かり,また,高分子の種類によっては貫通孔が存在しても材料中心部までの充填が困難であるという問題点を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開1995−53726号公報
【特許文献2】特開2009−120644号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】H.Sato, S.Umaoka, Y.Watanabe, I.Kim, M.Kawahara and M.Tokita, Mater. Sci. Forum, Vols.539-543, p.3201 (2007).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明で解決しようとする課題は,充填に手間と時間が掛かっていた多孔質金属への高分子の充てんにある。特に,高分子の種類によっては複合材料中心部までの高分子充填が不可能であったという問題点があり,本発明でこれを解決する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決すべく,発明者は検討を重ねた結果,遠心力を利用し,加圧を行えば,今まで不可能であった高分子の多孔質金属への充填が容易に行えることを見出した。すなわち,回転可能な容器に多孔質金属と高分子を配置し,高分子の溶融温度以上にて加熱することで高分子を溶解させ,溶融過程から冷却までの間に容器に遠心力を印加し,溶融した高分子を多孔質金属の孔内に強制的に充填させることによって,多孔質金属と高分子とを複合化させる方法を発明した。多孔質金属を多孔質チタン,高分子を生体用高分子あるいは生分解性高分子とすることにより,請求項3から6に記載の医療用複合材料の製造が可能となる。
【発明の効果】
【0009】
本発明による多孔質金属と高分子の複合化技術は,回転可能な容器に多孔質金属と高分子を投入し,溶融温度まで加熱することで高分子を溶解させ,溶融過程から冷却までの間に容器に遠心力を印加し,溶融した高分子を強制的に多孔質金属の開放貫通孔の内部まで強制的に充填させて複合化するものである。特許文献2に記載の技術では生分解性高分子であるポリ-L-乳酸(PLLA)の溶融後,加圧と減圧を繰り返さねばならないのに対し,請求項1から4に記載の方法では,遠心力を印加することにより高分子の多孔質金属への充填が可能であり,また遠心力の印加は空気中,雰囲気ガス下あるいは真空中の何れでもかまわないことから,より簡略化された方法である。また,特許文献2に記載の手法では,PLLAの様な粘性の高いポリマーでは材料中心部までの充填が困難であるが,本発明では遠心力の印加によって強制的に高分子を空孔内へ充填させるため,多孔質金属を多孔質チタン,高分子を生体用高分子あるいは生分解性高分子とすることにより,例えば図5に示す様にPLLA材料内部まで高分子が充填された請求項5から6に記載の医療用複合材料の製造が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】遠心力を用いて多孔質金属に高分子を複合化させる手法を示す模式図である。
【図2】図1に示す手法を用いて,多孔質チタンにPLLAを充填させた複合材料の全体像を示す図である。
【図3】図1に示す手法を用いて,多孔質チタンにPLLAを充填させた複合材料の上面遠心力印加方向に対して上面の顕微鏡写真である。上面の開口部にPLLAが充填されている。
【図4】複合材料の断面組織図1の発明を用いて,多孔質チタンにPLLAを充填させた複合材料遠心力印加方向に対して上面の高倍顕微鏡写真である。開口部にPLLAが充填されている。
【図5】複合材料の断面顕微鏡写真である。殆どの空孔にPLLAが充填されている。
【図6】得られた複合材料のPLLA充填量,充填体積および空孔体積に占めるPLLA充填率を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
請求項1および請求項2に記載の発明では,回転可能な容器に多孔質金属と高分子を配置し,高分子の溶融温度以上にて加熱することで高分子を溶解させ,溶融過程から冷却までの間(一部あるいは全時間)に容器に遠心力を印加し,溶融した高分子を多孔質金属の孔内に強制的に充填させることによって,多孔質金属と高分子とを複合化させることを特徴としている。また,請求項3および請求項4に記載の発明では,回転可能な容器に開放貫通孔を有する多孔質チタンと生体用高分子を配置し,生体用高分子の溶融温度以上にて加熱することで生体用高分子を溶解させ,溶融過程から冷却までの間(一部あるいは全時間)に容器に遠心力を印加し,溶融した生体用高分子を多孔質チタンの開放貫通孔の内部に強制的に充填させることによって,多孔質チタンと生体用高分子とを材料内部まで複合化させた医療用複合材料を製造することを特徴としている。
【0012】
図1に、請求項1から請求項4の発明である,遠心力を用いて多孔質金属に高分子を複合化させる方法の模式図を示す。回転可能な容器に多孔質金属と高分子を投入し,高分子溶融温度まで加熱する。高分子の溶融過程から冷却までの間(一部あるいは全時間)に容器に遠心力を印加し,溶融した高分子を強制的に多孔質金属の開放貫通孔の内部まで強制的に充填させる。遠心力印加は空気中,雰囲気ガス下あるいは真空中の何れでもかまわない。また,図1ではリング状容器の一部に多孔質金属を留置し,その上に高分子を配置しているが,容器の形状や遠心力を印加する方法は問わず,この形態が実施を制限するものではない。
【実施例】
【0013】
請求項1から請求項4の発明による請求項5から請求項6の複合材料製造の実地例として,図2から図6で示した多孔質チタンとPLLAの医療用複合材料の製造方法を示す。図1の模式図で示した回転可能な容器は,直径90mm x 深さ36mmの円筒状の金型に,外径と長さは金型と同じかつ内径約25mmの超硬質石膏製の中子を設置したものである。超硬質石膏製の中子は,遠心力方向に平行に深さ約26mm x 直径約23mmの空洞を有する。この空洞底面に縦9.5mm x 横9.9mm x 高さ6.4mmの多孔質チタンを図1の様に留置し,多孔質チタン上面よりPLLAを空洞正面まで配置した。この容器を約200℃に加熱して30分間保持してPLLAを溶解し,その後重力倍数100Gの遠心力を印加しながら冷却を開始した。尚,遠心力は30分間印加した。
【0014】
図2は,この手法で得られた複合材料の全体像である。この多孔質チタンは空孔率約45%の材料であるが,図3と図4に示す様に,遠心力による充填圧力がかかる材料上面だけでなく,側面や底面の孔にもPLLAが充填されていた。図5の複合材料の断面写真では,ほぼ全ての空孔にPLLAが入っていた。アルキメデス法で充填率を計測したところ,図6に示す様に,質量にしてPLLAはおよそ260mg充填され,その空孔体積に対するPLLA充填体積率は約75%であることがわかった。
【0015】
この実地例で示した多孔質チタンとPLLA複合材は,例として歯根インプラント材料としての用途が考えられる。すなわち,時間経過に伴い孔中のPLLAが分解され,骨組織の空孔中への成長を促進し,それによって機械的に多孔質チタンと嵌合する事により生体インプラントの骨固定を促進して,多孔質チタンの体内中で高い固定力を維持する材料としての利用が可能である。また,貫通孔内部はPLLAが充填された状態のままのため,貫通孔内で骨組織とPLLAの組成傾斜を得ることが可能となり,顎骨と生体インプラント界面の応力集中を抑制し,骨吸収を抑制が期待できる。
【0016】
尚,本発明は,一定以下の粘度を持つ熱可塑性樹脂であれば適用可能である。また,遠心力を印加可能であれば容器の形状や遠心力を印加する手法は問わない。遠心力印加は空気中,雰囲気ガス下あるいは真空中の何れでもかまわない。また,本発明は上記実地例に制限されるものではなく,その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0017】
請求項1から4に記載の発明は,金属と高分子を複合化した複合材料製造の分野に利用可能である。また,請求項5ならびに請求項6に示す多孔質チタンと生分解性高分子の複合材料は,生体インプラント材料としての用途が考えられる。すなわち,時間経過に伴い孔中の生分解性高分子が分解され,骨組織の空孔中への成長を促進し,それによって機械的に多孔質チタンと嵌合する事により生体インプラントの骨固定を促進して,多孔質チタンの体内中で高い固定力を維持する材料としての利用が可能である。また,貫通孔内部は生分解性高分子が充填された状態のままのため,貫通孔内で骨組織と生分解性高分子の組成傾斜を得ることが可能となり,骨と生体インプラント界面の応力集中を抑制し,骨吸収を抑制する硬組織代替材料としての利用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能な容器に多孔質金属と高分子を配置し,高分子の溶融温度以上にて加熱することで高分子を溶解させ,溶融過程から冷却までの一部あるいは全時間に容器に遠心力を印加し,溶融した高分子を多孔質金属の孔内に強制的に充填させることによって,多孔質金属と高分子とを複合化させることを特徴とする複合材料の製造方法。
【請求項2】
回転可能な容器に開放貫通孔を有する多孔質金属と高分子を配置し,高分子の溶融温度以上にて加熱することで高分子を溶解させ,溶融過程から冷却までの一部あるいは全時間に容器に遠心力を印加し,溶融した高分子を多孔質金属の開放貫通孔の内部に強制的に充填させることによって,多孔質金属と高分子とを材料内部まで複合化させることを特徴とする複合材料の製造方法。
【請求項3】
回転可能な容器に開放貫通孔を有する多孔質チタンと生体用高分子を配置し,生体用高分子の溶融温度以上にて加熱することで生体用高分子を溶解させ,溶融過程から冷却までの一部あるいは全時間に容器に遠心力を印加し,溶融した生体用高分子を多孔質チタンの開放貫通孔の内部に強制的に充填させることによって,多孔質チタンと生体用高分子とを材料内部まで複合化させた医療用複合材料を製造することを特徴とする複合材料の製造方法。
【請求項4】
回転可能な容器に開放貫通孔を有する多孔質チタンと生分解性高分子を配置し,生分解性高分子の溶融温度以上にて加熱することで生分解性高分子を溶解させ,溶融過程から冷却までの一部あるいは全時間に容器に遠心力を印加し,溶融した生分解性高分子を多孔質チタンの開放貫通孔の内部に強制的に充填させることによって,多孔質チタンと生分解性高分子とを材料内部まで複合化させた医療用複合材料を製造することを特徴とする複合材料の製造方法。
【請求項5】
回転可能な容器に開放貫通孔を有する多孔質チタンと生分解性高分子を配置し,生分解性高分子の溶融温度以上にて加熱することで生分解性高分子を溶解させ,溶融過程から冷却までの一部あるいは全時間に容器に遠心力を印加し,溶融した生分解性高分子を多孔質チタンの開放貫通孔の内部に強制的に充填させることによって製造した,多孔質チタンの材料内部まで生分解性高分子が複合化した医療用複合材料。
【請求項6】
回転可能な容器に開放貫通孔を有する多孔質チタンとポリ-L-乳酸(PLLA)を配置し,200℃以上にて加熱することでPLLAを溶解させ,溶融過程から冷却までの一部あるいは全時間に容器に遠心力を印加し,溶融したPLLAを多孔質チタンの開放貫通孔の内部に強制的に充填させることによって製造した,多孔質チタンの材料内部までPLLAが複合化した医療用複合材料。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−10879(P2012−10879A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−149283(P2010−149283)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】