説明

複合材硬化用支持治具

【課題】たわみの発生を抑えることができるとともに、形状精度の高い成形材を得ることができる複合材硬化用支持治具を提供する。
【解決手段】加熱対象となる成形材Wが収納されて高温ガスが循環するオートクレーブ1内で、成形材Wを支持する複合材硬化用支持治具20において、オートクレーブ1内に載置される下段支持部30と、該下段支持部30の上面35に載置されるとともに成形材を下方から支持し、下段支持部よりも線膨張係数の小さい材料からなる上段支持部とを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機、産業機器等の構成部品としての繊維強化プラスチック(FRP)の成形材を加熱硬化させる際において、成形材を支持する支持治具(以下、単に「支持治具」と称する。)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、繊維強化プラスチックからなる複合材の製造方法として、薄板状をなす繊維強化プラスチックが多数積層されてなる成形材を、高圧下で加熱することで一体化させる成型方法、例えばオートクレーブ成形が知られている(例えば特許文献1参照)。このオートクレーブ成形は、高圧の高温ガスが内部を循環するオートクレーブによって行われる。
即ち、このオートクレーブにおいては、外部から高圧のガスが供給された圧力容器内に成形材を収容した状態で、該圧力容器内のガスを加熱しながら循環させる。これによって、成形材に対して高圧の高温ガスが絶え間なく供給され、多数の薄板状の繊維強化プラスチックからなる成形材が硬化、接着されて複合材を得ることができる。
他の加熱方法としては、加圧作用のない硬化炉内にて成型する場合や、冶具のみを加熱して成型品を硬化させる方法が知られている。
【0003】
高圧加熱処理が施される際、成形材は圧力容器内において支持治具に支持される(例えば特許文献2参照)。この支持治具は、その上面に成形材の形状を保持するための型を備えており、成形材は当該型に嵌め込まれた状態で高圧加熱処理が施される。通常、この支持治具の型に対する成形材のセットはオートクレーブの外部で行われ、高圧加熱処理を施す際に成形材が支持治具ごと圧力容器内に搬入される。
なお、上記支持治具は、高圧加熱処理時の成型材との熱変形の差を最少にするため、一般的に線膨張係数が成型材と略等しい材料によって構成されている。その材料には、炭素繊維複合材(CFRP)の成型においてはインバー材が用いられることが多いが、CFRPを用いる場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2799633号公報
【特許文献2】特開2009−51074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記オートクレーブにおいては、成形材が例えば数m以上の大型の場合、当該成形材の重みとこれを支持する支持治具の自重とによって、該支持治具にたわみが発生してしまう懸念があった。
高圧加熱処理時にたわみが発生すると、成形材の形状精度が劣化してしまう。さらに、高圧加熱処理を施して複合材を得た後、該複合材を支持治具ごと圧力容器外部に搬出する際に支持治具にたわみが生じると、複合材にひずみが生じて破損するおそれがある。
【0006】
これに対して、支持治具を構成する部材の厚みや支持治具自体の高さ寸法を大きくして支持治具の剛性を増加させることが考えられる。しかしながら、この場合、高価なインバー材やCFRPなどの使用量が増加するため、製造コストが増加してしまい好ましくない。一方で、インバー材やCFRPなどに代えて炭素鋼やステンレス鋼等の比較的安価な材料を用いて支持治具を構成した場合には、高圧加熱処理時の支持治具の熱変形が大きくなってしまい成形材の形状精度の劣化を招いてしまう。
【0007】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであって、たわみの発生を抑えることができるとともに、形状精度の高い成形材を得ることができる複合材硬化用支持治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は以下の手段を提供している。
即ち、本発明に係る複合材硬化用支持治具は、加熱対象となる成形材を加熱硬化させる際に前記成形材を支持する支持治具であって、下段支持部と、該下段支持部の上面に載置されるとともに前記成形材を下方から支持し、前記下段支持部と線膨張係数の異なる材料からなる上段支持部とを備えることを特徴とする。
【0009】
このような特徴の複合材硬化用支持治具によれば、下段支持部によって剛性を担保してたわみの防止を図る一方、成形材を直接的に支持する上段支持部によって成形材の形状精度の劣化の回避を図ることができる。
即ち、下段支持部によって複合材硬化用支持治具全体としての剛性を確保しつつ、成形材を線膨張係数の小さい上段支持部により支持することで、成形材に接触する部分の高温加熱処理時における熱膨張を抑制し、成形材の形状精度の劣化を回避することができる。
【0010】
ここで、仮に上段支持部を下段支持部の上面に固定した場合、成形材の高圧加熱処理時には、下段支持部の方が上段支持部よりも熱膨張が大きく、上段支持部が下段支持部の熱膨張方向に引っ張られることにより、複合材硬化用支持治具全体としてたわみが発生してしまう。
この点、本発明の複合材硬化用支持治具では、上段支持部は下段支持部の上面に載置されているのみで固定されていないため、例えば下段支持部の方が上段支持部に比べて大きく熱膨張しても、当該熱膨張によって上段支持部が影響を受けることはない。したがって、材料の線膨張係数の違いによってオートクレーブ支持治具自体にたわみが発生することを回避することができる。これによっても、剛性を確保しながら成形材の形状精度の劣化を防止することができる。
【0011】
さらに、本発明に係る複合材硬化用支持治具においては、前記上段支持部が前記成形材と線膨張係数が略等しい材料からなるとともに、前記下段支持部が炭素鋼あるいはステンレス鋼からなることが好ましい。
【0012】
上段支持部を成形材と線膨張係数が略等しい材料から構成することで、成形材の形状精度の劣化を防止することができる。
なお、成形材と線膨張係数が略等しい材料として、上段支持部を例えばインバー材で構成した場合にも、成形材の形状精度の劣化を防止することができる。ここで、一般にインバー材に比べて炭素鋼やステンレス鋼の方が安価であるため、下段支持部によって剛性を確保すべく該下段支持部を構成する材料を増加させたとしても、製造コストが著しく増加してしまうことはない。したがって、下段支持部を炭素鋼及びステンレス鋼により製造することで、製造コストを抑えながら、剛性を確保することが可能となる。
【0013】
また、本発明に係る複合材硬化用支持治具において、前記下段支持部は、前記上段支持部よりも剛性が大きい構造であることが好ましい。
これによって、複合材硬化用支持治具全体としての剛性をより大きくすることができ、たわみをより効果的に抑制することが可能となる。
【0014】
さらに、本発明に係る複合材硬化用支持治具は、前記上段支持部と前記下段支持部との間に、これら上段支持部及び下段支持部を水平方向に相対移動可能とする滑り手段を備えることが好ましい。
【0015】
これにより、下段支持部が上段支持部に比べて大きく熱膨張した場合に、これら下段支持部と上段支持部との間にすべりを生じさせてより円滑に相対移動させることができる。したがって、材料の線膨張係数の違いによってオートクレーブ支持治具自体にたわみが発生することをより確実に回避することができ、剛性を確保しながら成形材の形状精度の劣化を防止することができる。
【0016】
なお、本発明に係る複合材硬化用支持治具において、前記滑り手段は、前記下段支持部及び前記上段支持部との少なくとも一方に設けられた樹脂シートであることが好ましい。
また、前記滑り手段は、前記上段支持部と前記下段支持部とのいずれか一方に回転自在に設けられて他方に接触する回転体であってもよい。
これによって、下段支持部と上段支持部とが滑らかに相対移動させることができる。
【0017】
さらに、本発明に係る複合材硬化用支持治具は、前記上段支持部を前記下段支持部の上面の所定範囲内において相対移動可能に拘束する拘束手段を備えることが好ましい。
【0018】
これによって、複合材硬化用支持治具を例えばクレーン等により搬送する際に、下段支持部の上面から上段支持部が落下してしまうことを防止できる。
【0019】
なお、前記拘束手段は、前記下段支持部の上面に設けられ、前記上段支持部が水平方向から当接可能とされたストッパであることが好ましい。
また、前記拘束手段は、前記下段支持部と前記上段支持部とを接続する弾性部材であってもよい。
さらに、前記拘束手段は、前記下段支持部と前記上段支持部とのいずれか一方に設けられた凸部と、他方に設けられて前記凸部が挿入可能とされるスリットであってもよい。
これによって、上段支持部を下段支持部の上面に対して相対移動可能としつつ該上段支持部の落下を防止することができる。
【0020】
また、本発明に係る複合材硬化用支持治具においては、前記下段支持部に、前記高温ガスを通過させる通気孔が設けられていることが好ましい。
【0021】
これにより、オートクレーブ内部を例えば下方から上方に向かって流通する高温ガスを、効果的に上段支持部及びこれに支持された成形材に導入することができる。
また、このような通気孔を剛性を大きく設定することが可能な下段支持部に形成したため、支持治具全体としての剛性の低下を回避することができる。したがって、下段支持部においては剛性を確保するとともに高温ガスの上方への導入を容易とし、上段支持部においては熱膨張が小さく複合材の形状精度を高く維持する構成を実現することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の複合材硬化用支持治具によれば、下段支持部上に線膨張係数の小さい材料からなる上段支持部を載置したことにより、剛性を担保しながら成形材の形状精度の劣化を回避することができる。これにより、製造コストの上昇を抑えることができるとともに、成形材の高温加熱処理に適した複合材硬化用支持治具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】第一実施形態に係るオートクレーブ内部の複合材硬化用支持治具の正面図である。
【図2】第一実施形態に係るオートクレーブ内部の複合材硬化用支持治具の側面図である。
【図3】図1の複合材硬化用支持治具の拡大図である。
【図4】第二実施形態に係る複合材硬化用支持治具の正面図であって、滑り手段として樹脂シートを採用した例を説明する図である。
【図5】第二実施形態に係る複合材硬化用支持治具の正面図であって、滑り手段として回転体を採用した例を説明する図である。
【図6】第三実施形態に係る複合材硬化用支持治具の正面図であって、拘束手段としてストッパを採用した例を説明する図である。
【図7】第三実施形態に係る複合材硬化用支持治具の正面図であって、拘束手段として弾性部材を採用した例を示す図である。
【図8】第三実施形態に係る複合材硬化用支持治具の正面図であって、拘束手段として凸部及びスリットを採用した例を示す図である。
【図9】第四実施形態に係る複合材硬化用支持治具を示す図であって、(a)は縦断面図、(b)は(a)のA−A断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図1及び図2を参照して第一実施形態のオートクレーブ1について説明する。
オートクレーブ1は、例えば炭素繊維に樹脂を含浸させた繊維強化プラスチック(FRP)等の複合材のシートを積層してなる成形材Wに、加圧加熱処理を施すことで該成形材Wを接着硬化させて複合材を得るために用いられる。このオートクレーブ1は、圧力容器10と、内側容器11と、加熱手段15と、循環手段16と、複合材硬化用支持治具(以下、単に「支持治具」と称する。)20とを備えている。
【0025】
圧力容器10は、水平方向に延在する円筒形状の両端が密閉された構造をなしており、その内部には、図示しないガス導入手段によって導入される高圧のガスが密閉状態で封止される。
【0026】
内側容器11は、上記圧力容器10の内側に該圧力容器10の内壁面と間隔をあけて配置される容器であって、圧力容器10と同様、水平方向に延在する円筒状の両端が密閉された構造をなしている。本実施形態においては圧力容器10と内側容器11とは、中心軸線を一致させた同心円状に配置されており、これら圧力容器10及び内側容器11の延在方向両端の少なくとも一方は、開閉可能な扉状に構成されている。この扉を開放することによって内側容器11内に支持治具20ごと成形材Wを導入することができるようになっている。
【0027】
また、内側容器11の内部には、支持治具が載置される架台18が設けられている。この架台18は、上下方向に延在して下端が内側容器11の内周面に固定された複数の支持脚部18aと、これら複数の支持脚部に支持されて水平面に沿って延在する架台本体18bとを備えている。
【0028】
また、圧力容器10と内側容器11との間の空間は、圧力容器10内に導入されて加熱されたガスが循環するガス流路Rとされている。このガス流路Rは、内側容器11の外周面の全周にわたって該内側容器11を取り巻くように形成されている。
さらに、内側容器11の下部には、該内側容器11の内外を連通するガス流入口12が形成されており、内側容器11の上部には該内側容器11の内外を連通するガス流出口13が形成されている。
【0029】
なお、以下では、圧力容器10及び内側容器11の延在方向(図1の紙面奥行き方向、図2の左右方向)を奥行き方向と称し、当該奥行き方向に直交する断面の水平方向(図1の左右方向、図2の紙面奥行き方向)を幅方向と称する。
【0030】
加熱手段15は、ガス流路Rを循環するガスを加熱するためのヒーターであって、本実施形態においては、図1に示すように、内側容器11の幅方向両側におけるガス流路Rにそれぞれ配置されている。これにより、ガス流路Rを流通するガスが加熱手段15に接触することによって昇温される。
循環手段16は、内側容器11のガス流出口13の外側におけるガス流路R、即ち、ガス流路Rの最上部に配置されたファンであって、ガス流路R最上部から該ガス流路Rに沿ってガスを下方に向けて循環させる役割を有している。この循環手段16は、奥行き方向に間隔をあけて複数が設けられている。
【0031】
次に、支持治具20について説明する。この支持治具20は、下段支持部30と上段支持部40とから構成されている。
下段支持部30は、オートクレーブ1の圧力容器10内における架台18上に載置されるものであって、図1及び図2に示すように、一対の下段脚部31と、載置板部34と、複数の補強板36とを備えている。
【0032】
下段脚部31は、詳しくは図3に示すように、オートクレーブ1の奥行き方向を長手方向とするとともに幅方向を短手方向とする平板上をなす下段底板32を有している。一対の下段脚部31の各下段底板32は互いに短手方向に間隔をあけて架台18上に配置される。この下段底板32の幅方向略中央には、上方に向かって立ち上がり下段底板32の長手方向に延在する下段立設部33が設けられている。
【0033】
載置板部34は、オートクレーブ1の奥行き方向を長手方向とするとともに幅方向を短手方向とする平板上をなしている。この載置板部34は、上記一対の下段立設部33の上端に支持されており、即ち、一対の下段立設部33の上端に一体に固定されている。また、この載置板部34の上面35、即ち、下段支持部30の上面35は、水平面と平行な平坦状をなしている。
【0034】
補強板36は、図1から図3に示すように、下段脚部31の幅方向を長手方向とするとともに上下方向を短手方向する長方形平板状をなしており、下段脚部31における下段底板32と載置板部34との間に挟み込まれるようにして、下段脚部31の長手方向、即ち、オートクレーブ1の奥行き方向に間隔をあけて複数が設けられている。
複数の補強板36と一対の下段立設部33とは平面視において互いに直交しており、即ち、これら補強板36と下段立設部33とによって格子状をなす補強構造が構成されている。これによって、下段支持部の剛性が担保されている。
【0035】
このような構成の下段支持部30は、炭素鋼やステンレス鋼等の鋼材から構成されている。なお、下段支持部30を構成する材料としてはこれらに限られず、他の鋼材や金属材、合金等であってもよい。また、下段支持部30を構成する材料としては、後述するインバー材よりも剛性が大きく、即ち、ヤング率が大きく、また、安価であるものを採用することが好ましい。この点、上記炭素鋼及びステンレス鋼は、インバー材よりも比較的安価に入手することができる。
【0036】
上段支持部40は、下段支持部30の上面35に配置されるものであって、図1から図3に示すように、一対の上段脚部41と、型部44とを備えている。
上段脚部41は、詳しくは図3に示すように、オートクレーブ1の奥行き方向を長手方向とするとともに幅方向を短手方向とする平板状をなす上段底板42を有している。一対の上段脚部41の各上段底板42は、その短手方向に互いに間隔をあけて配置されている。この下段底板32の幅方向略中央には、上方に向かって立ち上がり上段底板42の長手方向に延在する上段立設部43が設けられている。
【0037】
型部44は、オートクレーブ1の奥行き方向を長手方向とするとともに幅方向を短手方向とする板状の部材であって、その幅方向中央が下方に向かって凸となるように屈曲した形状をなしている。この型部44は、上記一対の上段立設部43の上端に支持されており、即ち、一対の上段立設部43の上端に一体に固定されている。
【0038】
このような構成の上段支持部40は、本実施形態においては、インバー材を材料として構成されている。ここで、インバー材とは、Feと、Niとを少なくとも含む合金であって、具体的には34〜36原子%程度のNiと、残りのFeとをそれぞれ含む鉄合金である。このインバー材の線膨張係数は、室温で通常2.0(×10−6/K)以下である。
【0039】
また、インバー材としては、いわゆるスーパーインバーを用いてもよい。このスーパーインバーは、Niと、Coと、Feとを少なくとも含む合金であって、具体的には30〜33原子%のNiと、4〜6原子%のCoと、残りのFeとを含む鉄合金である。このスーパーインバーの線膨張係数は、室温で1.0(×10−6/K)以下である。
さらに、インバー材としては、いわゆるステンレスインバーを用いてもよい。このステンレスインバーは、Coと、Crと、Feとを少なくとも含む合金材料であって、例えば54原子%のCoと、9.5原子%のCrと、残りのFeとを含む鉄合金である。このステンレスインバーの線膨張係数は室温で0.1(×10−6/K)以下である。
【0040】
これに対して、上記下段支持部30を構成する炭素鋼やステンレス鋼の線膨張係数はともに10×10−6以上であり、即ち、インバー材(スーパーインバー、ステンレスインバーを含む、以下同じ)は炭素鋼やステンレス鋼に比べて線膨張係数が非常に低い。
また、本実施形態においては、上記下段支持部30の方が上段支持部40よりも剛性の大きい構造を有している。
【0041】
次に、上記構成の支持治具20の作用について説明する。
この支持治具20には、成形材Wのオートクレーブ成形に先立って、オートクレーブ1の外部にて成形材Wが載置される。即ち、オートクレーブ1の外部の床面に下段支持部30が配置されるとともにこの下段支持部30の上面35に上段支持部40が載置された状態で、該上段支持部40の型部44にその上方から成形材Wが載置される。その後、いわゆる真空バッグを施すことによって、成形材Wを型部44の形状に従って該型部44に密着させる。
そして、このように成形材Wを支持した支持治具20を、オートクレーブ1の圧力容器10内に例えばクレーンを使用することにより搬入する。これにより、支持治具20の下段支持部30が上段支持部40を下方から支持した状態でオートクレーブ1内の架台18上に載置される。
【0042】
次いで、オートクレーブ1内にて成形材Wに対してオートクレーブ成形、即ち、加圧加熱処理が施される。
オートクレーブ成形を施す際には、まず図示しないガス供給手段によって圧力容器10内にガスを供給し、該圧力容器10内を高圧状態とする。そして、ガス流路R内の高圧のガスを加熱手段15によって加熱するとともに循環手段16によってガス流路Rに沿って上部から下部に向かって送り込む。すると、加熱手段15により加熱された高温ガスが、ガス流路Rの下部からガス流入口12を介して内側容器11内に流入する。
【0043】
内側容器11内に流入した高温ガスは内側容器11内を下方から上方に向かって下段支持部30及び上段支持部40の順で流通していき、これによって成形材Wが加熱される。なお、この際、上段支持部40に比べて線膨張係数の大きい材料からなる下段支持部30は、上段支持部40に比べて大きく熱膨張するが、上段支持部40は下段支持部30上に固定されておらず、載置されているのみであるので、当該下段支持部30の熱膨張が上段支持部40に影響を与えることはない。
【0044】
そして、成形材Wを加熱した高温ガスは、内側容器11の上部においてガス流出口13を介して該内側容器11の外部、即ち、ガス流路Rの最上部に流出する。そして、このようにガス流路Rの最上部に到達した高温ガスは、循環手段16によってガス流路Rの下部に向かって送り込まれ、加熱手段15によって加熱された後、再度内側容器11内に流入する。これにより、成形材Wに対して絶え間なく高温ガスが供給され、該成形材Wの高圧加熱処理が進行していく。この際、多数積層された成形材Wが硬化、接着されることで、これら成形材Wが複合材へと変性していく。
【0045】
そして、上記高圧加熱処理が終了した後、例えばクレーンを用いることによってオートクレーブ1内から支持治具20を搬出する。その後、支持治具20の上段支持部40の型部44から複合材を取り外すことにより、該複合材を得ることができる。
【0046】
以上のような支持治具20によれば、下段支持部30によって剛性を担保してたわみの防止を図る一方、成形材Wを直接的に支持する上段支持部40によって成形材Wの形状精度の劣化の回避を図ることができる。
【0047】
即ち、下段支持部30の方が上段支持部40に比べて剛性の大きい構造を有しており、つまり、炭素鋼や下段支持部30によって支持治具20全体としての剛性を確保できるため、例えば、成形後の複合材を支持した支持治具20を搬送する際に該支持治具20にたわみが生じてしまうことにより、該複合材が破損してしまうことを回避することができる。
【0048】
また、成形材Wを線膨張係数の小さいインバー材からなる上段支持部40により支持することで、成形材Wに接触する部分の高温加熱処理時における熱膨張を抑制し、成形材Wの形状精度の劣化を回避することができる。
【0049】
ここで、仮に上段支持部40を下段支持部30の上面35に固定した場合、成形材Wの高圧加熱処理時には、下段支持部30の方が上段支持部40よりも熱膨張が大きく、上段支持部40が下段支持部30の熱膨張方向に引っ張られることにより、支持治具20全体としてたわみが発生してしまう。
この点、本実施形態の用支持治具20では、上段支持部40は下段支持部30の上面35に載置されているのみで固定されていないため、下段支持部30の方が上段支持部40に比べて大きく熱膨張しても、当該熱膨張によって上段支持部40が影響を受けることはない。したがって、材料の線膨張係数の違いによって支持治具20自体にたわみが発生することを回避することができる。これによっても、剛性を確保しながら成形材Wの形状精度の劣化を防止することができる。
【0050】
また、一般にインバー材に比べて炭素鋼やステンレス鋼の方が安価であるため、下段支持部30によって剛性を確保すべく該下段支持部30を構成する材料を増加させたとしても、製造コストが著しく増加してしまうことはない。したがって、下段支持部30を炭素鋼及びステンレス鋼により製造することで、製造コストを抑えながら、剛性を確保することが可能となる。
【0051】
次に第二実施形態の支持治具20について図4及び図5を参照して説明する。なお、この第二実施形態においては第一実施形態と同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
この第二実施形態の支持治具20には、第一実施形態の構成要素に加えて、上段支持部40と下段支持部30との間にこれら上段支持部40及び下段支持部30を水平方向に相対移動可能とする滑り手段50が設けられている。
【0052】
この滑り手段50の一例として、図4に示す支持治具20には、下段支持部30と上段支持部40との接触部、即ち、下段支持部30の上面35と上段支持部40の下面とにそれぞれ樹脂シート51が敷設されている。
この樹脂シート51は、例えばPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)からなるシートであって、本実施形態では下段支持部30の上面35全域と上段支持部40の下面全域を覆うようにしてそれぞれ設けられている。これら樹脂シート51の表面は平滑面とされており、摩擦係数が下段支持部30の上面35や上段支持部40の下面よりも小さく設定されている。
【0053】
このような樹脂シート51によって、下段支持部30と上段支持部40とは、それぞれ下段支持部30の上面35に沿って水平方向により円滑に相対移動可能とされる。これによって、上段支持部40と下段支持部30との線膨張係数の違いによって支持治具20自体にたわみが発生することをより確実に回避することができる。したがって、剛性を確保しながら成形材Wの形状精度の劣化を防止することができる。
【0054】
なお、樹脂シート51は、下段支持部30の上面35と上段支持部40の下面との少なくとも一方に設けられていればよく、必ずしも両方に設けられている必要はない。これによっても、下段支持部30と上段支持部40との相対移動を円滑にすることができる。
また、樹脂シート51の材料としてはPTFEに限られず、他の樹脂を用いてもよい。さらに、樹脂シート51の表面は、平滑性をより向上させることができるように低摩擦処理が施されていることが好ましい。
【0055】
また、滑り手段50の他の例として、例えば図5に示すように、下段支持部30の上面35に回転自在に設けられて上段支持部40の下面に接触する回転体52を採用してもよい。即ち、この回転体52は、球体状をなしており、下段支持部30の上面35上に固定された受け部材53の凹部54内に一部が上方に突出するように回転自在に収納されている。本実施形態においては、複数の回転体52及び受け部材53を備えており、これら複数の回転体52の頂部に上段支持部40が載置されている。
【0056】
このような回転体52によって、下段支持部30と上段支持部40とは、それぞれ下段支持部30の上面35に沿って水平方向により円滑に相対移動可能とされる。したがって、剛性を確保しながら成形材Wの形状精度の劣化を防止することができる。
また、これら回転体52及び受け部材53の存在によって、下段支持部30と上段支持部40との間には間隙が形成されるため、高温ガスをより効果的に上段支持部40及びこれに支持された成形材Wに導入することができる。
【0057】
なお、本実施形態では、回転体52及び受け部材53をそれぞれ下段支持部30の上面35上に設けたが、これに代えて、上段支持部40の下面に回転体52及び受け部材53を設けてもよい。この場合、受け部材53をその凹部54が下方を向くように上段支持部40の下面に固定し、この凹部54内に下方に突出するように回転体52を収納する。これによっても上記同様、下段支持部30と上段支持部40との相対移動を容易にすることができる。
【0058】
また、回転体52は球体に限らず、例えば円盤状であってもよい。この場合、円盤状をなす回転体52は、その回転軸となる中心軸線が水平方向に沿って配置される。これによっても、下段支持部30と上段支持部40との相対移動を容易にすることができる。
【0059】
次に第三実施形態の支持治具20について図6〜図8を参照して説明する。なお、この第三実施形態においては第一実施形態と同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
この第三実施形態の支持治具20には、第一実施形態の構成要素に加えて、上段支持部40を下段支持部30の上面35の所定範囲内において相対移動可能に拘束する拘束手段60が設けられている。
【0060】
この拘束手段60の一例として、図6に示す支持治具20には、下段支持部30の上面35にストッパ61が設けられている。即ち、このストッパ61は、下段支持部30の上面35における外周縁部全域から上方に向かって突出するように設けられており、下段支持部30の上面35上に載置された上段支持部40をその周囲全域から包囲している。
これによって、支持治具20を例えばクレーン等によって搬送する際に、互いに相対移動可能とされた下段支持部30の上面35から上段支持部40が滑り落ちてしまうことを防止することができる。したがって、支持治具20を搬送する際の安全性を担保することが可能となる。
【0061】
また、拘束手段60の他の例として、例えば図7に示すように、下段支持部30と上段支持部40とを接続する弾性部材62を採用してもよい。本実施形態においては、この弾性部材62として、一端が上段支持部40の上段底板42に接続されるとともに他端が下段支持部30の上面35の外周縁部に固定された固定部62aに接続される複数のスプリングを採用している。
これによっても、下段支持部30の上面35における上段支持部40の相対移動を弾性部材62が所定範囲に拘束することで、該上段支持部40が下段支持部30の上面35から滑り落ちてしまうことを防止できる。
【0062】
さらに、拘束手段60の他の例として、例えば図8に示すように、下段支持部30の上面35に設けられた凸部63及び上段支持部40の上段底板42に形成されたスリット64を採用してもよい。
即ち、本実施形態においては、下段支持部30の上面35に水平断面略円形をなす凸部63が設けられており、上段底板42には、上下方向に貫通して凸部63が挿入されるとともに、水平方向位置方向に向かって延在するスリット64が形成されている。
これによって、下段支持部30と上段支持部40とはスリット64の形成領域内においてのみ相対移動可能となる。したがって、上記同様、凸部63とスリット64とによって下段支持部30の上面35における上段支持部40の相対移動が拘束されるため、上段支持部40が下段支持部30の上面35から滑り落ちてしまうことを防止できる。
【0063】
なお、ここでは、下段支持部30に凸部63を設けるとともに上段支持部40にスリット64を設けたが、この逆、即ち、上段支持部40に凸部63を設けるとともに下段支持部30にスリット64を設けた構成であってもよい。この場合も上記同様、上段支持部40が下段支持部30の上面35から滑り落ちてしまうことを防止できる。
また、凸部63及びスリット64は一組のみならず複数組み設けてもよい。これによって、例えば下段支持部30と上段支持部40とが凸部63を中心として互いに相対回転しまうことはなく、上段支持部40を下段支持部30の上面35上に安定的に保持することが可能となる。
さらに、下段支持部30の熱膨張量はその長手方向に顕著となるため、スリット64の延在方向を上段支持部40及び下段支持部30の長手方向に沿って配置させることが好ましい。
【0064】
次に第四実施形態の支持治具20について図9を参照して説明する。なお、この第四実施形態においては第一実施形態と同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明を省略する
この第三実施形態の支持治具20には、図9に示すように、その下段支持部30に高温ガスを通過させる通気孔70が形成されている。
【0065】
即ち、図9に示すように、本実施形態においては、下段支持部30の支持脚部18aに該下段支持部30の幅方向に貫通する通気孔70が形成されており、また、下段支持部30の載置板部34にも上下方向に貫通する通気孔70が形成されている。さらに、下段支持部30の補強板36には、該下段支持部30の長手方向に貫通する通気孔70が形成されている。
【0066】
これにより、オートクレーブ1の内側容器11内を下方から上方に向かって流通する高温ガスが通気孔70を通過することで、該高温ガスを効果的に上段支持部40及び成形材Wに導入することができる。したがって、成形材Wに効率よく高圧加熱処理を施すことが可能となる。
【0067】
また、このような通気孔70を剛性を大きく設定することが可能な下段支持部30に形成したため、支持治具20全体としての剛性の低下を回避することができる。したがって、下段支持部30においては剛性を確保するとともに高温ガスの上方への導入を容易とし、上段支持部40においては熱膨張が小さく複合材の形状精度を高く維持する支持治具20の構成を実現することができる。
【0068】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明の技術的思想を逸脱しない限り、これらに限定されることはなく、多少の設計変更等も可能である。
例えば、滑り手段50として、2つの構成について説明したが、これら2つの構成を組み合わせてもよい。即ち、樹脂シート51を設けるとともに回転体52及び受け部材53を設けた構成を採用してもよい。
【0069】
また、例えば、上記拘束手段60として3つの構成について説明したが、これら3つの構成を適宜組み合わせてもよい。例えば、ストッパ61と弾性部材62とを組み合わせて拘束手段60を構成してもよいし、さらに、これに凸部63及びスリット64を組み合わせてもよい。これによって、より確実に上段支持部40の下段支持部30からの落下を防止することができる。
【0070】
また、滑り手段50と拘束手段60とを両方備えた支持治具20としてもよい。
さらに、上記の支持治具20のいずれかに第四実施形態で説明した通気孔70を形成した構成としてもよい。
【0071】
また、実施形態においては、滑り手段50を下段支持部30と上段支持部40との間に設けたが、当該滑り手段50を下段支持部30と架台18との間に設けてもよい。これにより、下段支持部30と架台18との熱膨張量が異なる場合であっても、互いに影響を与えることなく、支持治具20を架台18上に安定的に載置した状態を保持することができる。
【0072】
なお、実施形態においては、上段支持部40の方が下段支持部30よりも線膨張係数の小さい材料、即ち、インバー材からなる場合について説明したが、これに限定されることはなく、上段支持部40と下段支持部30とは線膨張係数が互いに異なる材料から構成されていればよく、好ましくは、上段支持部40が成形材と線膨張係数が略等しい材料から構成されていてもよい。
【0073】
さらに、実施形態においては、下段支持部30の方が上段支持部40よりも剛性の大きい構造を有しているものとしたが、これに限定されることはなく、上段支持部40の方が下段支持部30よりも剛性の大きい構造としてもよいし、これら下段支持部30及び上段支持部40の剛性を等しくしてもよい。
【符号の説明】
【0074】
1 オートクレーブ
10 圧力容器
11 内側容器
12 ガス流入口
13 ガス流出口
15 加熱手段
16 循環手段
18 架台
18a 支持脚部
18b 架台本体
20 複合材硬化用支持治具
30 下段支持部
31 下段脚部
32 下段底板
33 下段立設部
34 載置板部
35 上面
36 補強板
40 上段支持部
41 上段脚部
42 上段底板
43 上段立設部
44 型部
50 滑り手段
51 樹脂シート
52 回転体
53 受け部材
54 凹部
60 拘束手段
61 ストッパ
62 弾性部材
63 凸部
64 スリット
70 通気孔
W 成形材
R ガス流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱対象となる成形材を加熱硬化させる際に前記成形材を支持する複合材硬化用支持治具であって、
下段支持部と、
該下段支持部の上面に載置されるとともに前記成形材を下方から支持し、前記下段支持部と線膨張係数の異なる材料からなる上段支持部とを備えることを特徴とする複合材硬化用支持治具。
【請求項2】
前記上段支持部が前記成形材と線膨張係数が略等しい材料からなるとともに、
前記下段支持部が炭素鋼あるいはステンレス鋼からなることを特徴とする請求項1に記載の複合材硬化用支持治具。
【請求項3】
前記下段支持部は、前記上段支持部よりも剛性が大きい構造であることを特徴とする請求項1又は2に記載の複合材硬化用支持治具。
【請求項4】
前記上段支持部と前記下段支持部との間に、これら上段支持部及び下段支持部を水平方向に相対移動可能とする滑り手段を備えることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の複合材硬化用支持治具。
【請求項5】
前記滑り手段は、前記下段支持部及び前記上段支持部との少なくとも一方に設けられた樹脂シートであることを特徴とする請求項4に記載の複合材硬化用支持治具。
【請求項6】
前記滑り手段は、前記上段支持部と前記下段支持部とのいずれか一方に回転自在に設けられて他方に接触する回転体であることを特徴とする請求項4に記載の複合材硬化用支持治具。
【請求項7】
前記上段支持部を前記下段支持部の上面の所定範囲内において相対移動可能に拘束する拘束手段を備えることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の複合材硬化用支持治具。
【請求項8】
前記拘束手段は、前記下段支持部の上面に設けられ、前記上段支持部が水平方向から当接可能とされたストッパであることを特徴とする請求項7に記載の複合材硬化用支持治具。
【請求項9】
前記拘束手段は、前記下段支持部と前記上段支持部とを接続する弾性部材であることを特徴とする請求項7に記載の複合材硬化用支持治具。
【請求項10】
前記拘束手段は、前記下段支持部と前記上段支持部とのいずれか一方に設けられた凸部と、他方に設けられて前記凸部が挿入可能とされるスリットであることを特徴とする請求項7に記載の複合材硬化用支持治具。
【請求項11】
前記下段支持部に、前記高温ガスを通過させる通気孔が設けられていることを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載の複合材硬化用支持治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−148522(P2012−148522A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−10173(P2011−10173)
【出願日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】