複合構造体及びその製造方法
【課題】イリジウムを基材とし、白金合金で当該基材をカバーした複合構造体において、イリジウムの酸化による揮発消耗を防ぐとともに、基材(イリジウム)とカバー(白金合金)との拡散を防いでカーケンダルボイドが生成することを防止することである。
【解決手段】本発明に係る複合構造体は、イリジウム又はイリジウム基合金からなる構造体の表面のうち、少なくとも使用時に酸素含有雰囲気に曝される表面領域を、二層構造のカバーで被覆してなり、該二層構造のカバーは、白金又は白金ロジウム合金からなる外側層と金属種を含む白金又は白金ロジウム合金からなる内側層とが接合されてなり、かつ、該内側層は、前記外側層に接する面とは反対側の表面に、前記金属種の酸化物粒子が分散状態で析出していることを特徴とする。
【解決手段】本発明に係る複合構造体は、イリジウム又はイリジウム基合金からなる構造体の表面のうち、少なくとも使用時に酸素含有雰囲気に曝される表面領域を、二層構造のカバーで被覆してなり、該二層構造のカバーは、白金又は白金ロジウム合金からなる外側層と金属種を含む白金又は白金ロジウム合金からなる内側層とが接合されてなり、かつ、該内側層は、前記外側層に接する面とは反対側の表面に、前記金属種の酸化物粒子が分散状態で析出していることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス溶融に使用される装置又はその部品などの高温で使用される構造体の部材として、一般に使用されている白金(Pt)又は白金合金よりも強度の優れたイリジウム(Ir)を使用した構造体に関し、特に、高温で長時間にわたって使用することが可能な複合構造体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高温で使用される構造体の部材として使用される白金又は白金合金は、1000℃以上の高温域で、しかも、酸素含有雰囲気であっても極めて安定であり、酸化揮発消耗が少ない材料である。また、白金は、冷間においても加工しやすいという利点がある。
【0003】
しかし、近年、光学ガラスや液晶ディスプレイ用ガラスにおいて環境問題を配慮してガラスに含有させる重金属の種類が制限されてきている。そのため、従来よりもガラスの溶解温度が高くなってきている。特に液晶ディスプレイ用ガラスでは、1500℃以上の高温で溶融される場合が多い。白金又は白金合金を使用したとしても、特に、1500℃を超える高温域では粒成長しやすく、強度が低下する。そこで、この問題を改善すべく、白金に酸化物を混ぜた酸化物分散型強化白金が使用されることが多い。しかし、それでも強度的に限界があり、寿命が短いという課題が残っている。
【0004】
ところで、イリジウムは、1000℃以上の高温酸素含有雰囲気の環境下において白金又は白金合金よりも高い強度を有しているという特徴がある。しかし、イリジウムが酸化によって揮発消耗することから、酸素含有雰囲気では使用できない状況であった。そこで、イリジウムに白金等を塗布し揮発防止と、中間拡散層を設けて拡散防止を図る技術がある(例えば特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002‐180268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に開示された技術の場合、サブミクロンオーダーの薄膜による防止層であり、例えば1500℃以上で数千〜数万時間に及ぶ高温長時間の条件下では次第に拡散が進み、イリジウムが表面に出てきてしまい、イリジウムの酸化揮発消耗を防止することが難しい。1500℃、1000時間の条件下で白金とイリジウムを接触させた場合、生じる拡散層の厚さは0.5mm程度まで到達することが判明した。このような条件であると、前記中間拡散層を設けてもイリジウムの拡散を防止しきれない。したがって、ガラス溶融を目的とした装置又はその部品の構造体について特許文献1の技術を適用する場合、白金層の厚みを0.1mm以上設けたいところであるが、当該白金層を形成するためには数百回もの塗布が必要となり、層の欠陥がないように均質な白金層を形成しなければならない。よって、高温長時間の条件下で使用する構造体には容易に適用できない。
【0007】
また、溶射法を用いて、白金とイリジウムとの間に酸化物からなる拡散バリア層を設ける方法も考えられるが、加熱と冷却を繰り返すこととなり、形成した酸化物層は膨張と収縮によって割れて剥がれてしまうことが懸念される。
【0008】
さらに、イリジウム基材の表面上に0.1mm以上の厚さの白金層を設けて、イリジウムの酸化揮発消耗を防止したとしても、その界面においてカーケンダルボイドが生成し、長時間の使用は困難であるという問題がある。
【0009】
このように、1000℃以上、時には1500℃以上の高温域でかつ酸素含有雰囲気において長時間使用することができる構造体はなかった。そこで、本発明の目的は、このような高温酸素含有雰囲気の条件であっても長時間強度を保持しうる構造材及びその製造方法を提供することである。より具体的には、イリジウムを基材とし、白金合金で当該基材をカバーした複合構造体において、イリジウムの酸化による揮発消耗を防ぐとともに、基材(イリジウム)とカバー(白金合金)との拡散を防いでカーケンダルボイドが生成することを防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記の課題を解決するために、鋭意検討した結果、中間拡散層ではなく、拡散遮断層となる二層構造のカバー、具体的には、分散させた金属種を酸化・表出させた白金カバー(内側層)でイリジウム表面を被覆することで、白金とイリジウムとの接触を防止して拡散を防ぎ、かつ、内側層の表面に配置した白金カバー(外側層)が酸素含有雰囲気を遮断することで、前記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させた。具体的には、本発明に係る複合構造体は、イリジウム又はイリジウム基合金からなる構造体の表面のうち、少なくとも使用時に酸素含有雰囲気に曝される表面領域を、二層構造のカバーで被覆してなり、該二層構造のカバーは、白金又は白金ロジウム合金からなる外側層と金属種を含む白金又は白金ロジウム合金からなる内側層とが接合されてなり、かつ、該内側層は、前記外側層に接する面とは反対側の表面に、前記金属種の酸化物粒子が分散状態で析出していることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る複合構造体では、前記金属種の酸化物粒子は、前記二層構造のカバーを酸化処理して、前記内側層に含有されている前記金属種が酸化されて析出し、粒成長したものであることが好ましい。イリジウム又はイリジウム基合金からなる構造体の表面と二層構造のカバーとを接触させず、かつ、その隙間の空間の容積を小さくすることができ、しかも、前記カバーの内側層は、酸化物分散強化型白金となっているため、強度が高まっている。ここで、前記二層構造のカバーの内側層は、既に酸化物が分散された強化型白金を使用すると、酸化物の密度が小さく目的を果たせないので、前記二層構造のカバーを形成後、含有されている前記金属種を酸化させることにより、表面に高密度に酸化物を分散させることが重要である。
【0012】
本発明に係る複合構造体では、前記金属種は、ジルコニウム(以下、Zr)、アルミニウム(以下、Al)、珪素(以下、Si)、チタン(以下、Ti)、イットリウム(以下、Y)、ハフニウム(以下、Hf)、タンタル(以下、Ta)、マグネシウム(以下、Mg)、セリウム(以下、Ce)、クロム(以下、Cr)から選択される少なくともいずれか1種であることが好ましい。従来知られている酸化物分散強化型白金に適用できる金属種の使用が可能である。
【0013】
本発明に係る複合構造体では、前記二層構造のカバーは、縁部にて全周に亘って前記構造体に溶接され、かつ、端面は白金肉盛溶接されていることが好ましい。二層構造のカバーの縁部は、溶接によって白金とイリジウムとの合金となっており、当該合金の表面はイリジウムの揮発消耗が発生するため、当該部分を白金肉盛溶接で被覆することによって、酸素含有雰囲気との接触を遮断し、揮発消耗を防止することができる。
【0014】
本発明に係る複合構造体では、前記二層構造のカバーの縁部が、使用時に酸素含有雰囲気に晒されない位置に配置されていることが好ましい。例えば、ガラス融液中のように酸素含有雰囲気でない箇所に二層構造のカバーの縁部を配置すれば、二層構造のカバーの縁部からの酸素の混入を防止できるので、基材の揮発消耗を防止することができる。
【0015】
本発明に係る複合構造体の製造方法は、白金又は白金ロジウム合金からなる外側配置用部品と金属種を含む白金又は白金ロジウム合金からなる内側配置用部品とを接合して二層構造体を形成する工程と、前記二層構造体を、酸素含有雰囲気下で加熱酸化処理を行なって、前記内側配置用部品の表面に前記金属種の酸化物粒子を分散状態で析出させて二層構造のカバーを形成する工程と、イリジウム又はイリジウム基合金からなる構造体の表面のうち、少なくとも使用時に酸素含有雰囲気に曝される表面領域を、前記二層構造のカバーで覆う工程と、を有することを特徴とする。
【0016】
本発明に係る複合構造体の製造方法では、前記二層構造体を形成する工程の前に、前記内側配置用部品を冷間圧延又は熱間圧延する工程、及び/又は、前記二層構造のカバーを形成する工程の前に、前記二層構造体を冷間圧延又は熱間圧延する工程を有していてもよい。内側配置用部品を予め冷間圧延又は熱間圧延することで容易に肉厚調整をすることができ、加工されやすい。また、割れやひびが入ることが防止できる。換言すると、酸化物生成後に圧延や成形を行なうと、材料が硬くなっているため加工しにくくなる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、イリジウムを基材とし、白金合金で当該基材をカバーした複合構造体において、イリジウムの酸化による揮発消耗を防ぐとともに基材(イリジウム)とカバー(白金合金)との拡散を防いでカーケンダルボイドが生成することを防止することができる。これによって、今まで白金が主流であったガラス溶融用部品の材料をイリジウムに代替することができ、その結果、さらに要求の高い高強度の装置又は部品に、本発明に係る複合構造体を使用することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施形態に係る複合構造体の一形態の断面概略図である。
【図2】図1の点線6で囲まれた箇所の部分拡大断面図である。
【図3】本実施形態に係る複合構造体の第2形態の断面概略図である。
【図4】本実施形態に係る複合構造体の第3形態の断面概略図である。
【図5】ジルコニウムの添加量が1質量%のサンプルの表面画像を示し、(a)は1500℃2時間、(b)は1500℃100時間、(c)は1500℃300時間である。
【図6】ジルコニウムの添加量が2質量%のサンプルの表面画像を示し、(a)は1500℃2時間、(b)は1500℃100時間、(c)は1500℃300時間である。
【図7】二層構造のカバーとイリジウムの構造体との相互拡散の調査における電子顕微鏡による断面画像を示した。
【図8】図7の調査における相互拡散の組成分析結果を示した。
【図9】Pt‐Zr単層構造のカバーとイリジウムの構造体との相互拡散の調査における電子顕微鏡による断面画像を示した。
【図10】白金単層構造のカバーとイリジウムの構造体との相互拡散の調査における電子顕微鏡による断面画像を示した。
【図11】図10の調査における相互拡散の組成分析結果である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について実施形態を示して詳細に説明するが、本発明は、これらの記載に限定して解釈されない。本発明の効果を奏する限り、実施形態は、種々の変形をしてもよい。
【0020】
図1は、本実施形態に係る複合構造体の一形態の断面概略図を示した。図2は、図1の点線6で囲まれた箇所の部分拡大断面図である。図1に示すように、本実施形態に係る複合構造体100は、イリジウム又はイリジウム基合金からなる構造体1の表面1aのうち、少なくとも使用時に酸素含有雰囲気に曝される表面領域5を、二層構造のカバー4で被覆してなり、二層構造のカバー4は、白金又は白金ロジウム合金からなる外側層3と金属種を含む白金又は白金ロジウム合金からなる内側層2とが接合されてなり、かつ、内側層2は、図1及び図2に示すように、外側層3に接する面2aとは反対側の表面2bに、金属種の酸化物粒子6aが分散状態で析出している。なお、図1では、構造体1の表面のうち、二層構造のカバー4をしていない表面部分、例えば、構造体1の裏面、端面などは、酸素含有雰囲気に晒されていないとして図示している。
【0021】
構造体1は、装置又はそれで使用する部品などの構造物であり、本実施形態では、その形状は、用途に応じて各種形状とされるため、特に限定されない。ただし、本発明の目的を考慮すれば、高温で使用され、強度を要求される構造体であることが好ましい。構造体1の材質は、1000℃以上の高温で長時間高強度を白金よりも保持することが求められることから、イリジウム又はイリジウム基合金とする。イリジウム基合金ついては、主成分をイリジウムとし、副成分をロジウム(以下、Rh)、レニウム(以下、Re)、モリブデン(以下、Mo)、タングステン(以下、W)、ニオブ(以下、Nb)、Ta、Zr、Hfとする。このとき、イリジウムの割合は、例えば、90質量%以上である。
【0022】
構造体1の表面1aは、高温の酸素含有雰囲気において、イリジウムの酸化揮発消耗が生じることから、少なくとも使用時に酸素含有雰囲気に曝される表面領域5を、二層構造のカバー4で被覆する。これによって、構造体1の表面1aは、酸素との接触が制限されることから、イリジウムの揮発消耗が生じにくくなる。
【0023】
二層構造のカバー4は、白金又は白金ロジウム合金からなる外側層3と金属種を含む白金又は白金ロジウム合金からなる内側層2とが接合されてなる。白金ロジウム合金はロジウム30質量%以下とすることが好ましい。ここで外側層3は、内側層2との酸素含有雰囲気との接触を防止し、さらにはイリジウムの構造体1との酸素含有雰囲気との接触を防止する。一方、内側層2は、イリジウムの構造体1との相互拡散を抑制する拡散遮断層となる。すなわち、内側層2の表面2bに分散状態で析出している金属種の酸化物粒子6aは、図2に示すように、表面2bから突出していることが好ましく、この突出によって、構造体1の表面1aと内側層2の表面2bとは、非接触となるか、又は接触があってもその接触面積は小さくなる。つまり、内側層2の表面2bに分散状態で析出している金属種の酸化物粒子6aは、スペーサーの役割をなしている。そして構造体1の表面1aと内側層2の表面2bとの接触が制限されることによって、構造体1(イリジウム又はイリジウム基合金)と内側層2(主成分としては白金)との相互拡散を抑制してカーケンダルボイドの生成を抑制する。なお、内側層2と構造体1とは一部が接触していてもよい。この場合、金属種の酸化物粒子6aの存在によって、内側層2の白金と構造体1のイリジウムとが相互拡散可能な箇所の面積は限られ、また、金属種の酸化物粒子6a自体が相互拡散の進行を抑制する。このように内側層2は拡散遮断層の役割をなしていることから、その厚さは0.1mm以上が好ましく、0.2mm以上がより好ましい。0.1mm未満であると、高温、酸素含有雰囲気下に1000時間以上晒された場合、内側層2の白金と構造体1のイリジウムとの接触が金属種の酸化物粒子6aによって無い場合は相互拡散の進行のおそれがないが、仮に接触箇所があった場合、多少なりとも相互拡散の進行のおそれはあるが、図8に示す通り、接触されていても拡散層は、ほとんどみられていない。なお、このような場合には、内側層2を0.1mm以上の厚さとするのが望ましい。
【0024】
金属種の酸化物粒子6aは、二層構造のカバー4を酸化処理して、内側層2に含有されている金属種が酸化されて析出し、粒成長したものであることが好ましい。イリジウム又はイリジウム基合金からなる構造体の表面と二層構造のカバーとを接触させず、かつ、その隙間空間の容積を小さくすることができる。このような白金に合金として含有させておき、酸化処理によって容易に金属種の酸化物粒子6aを表面に析出させることができる金属種としては、Zr、Al、Si、Ti、Y、Hf、Ta、Mg、Ce、Crから選択される少なくともいずれか1種であることが好ましい。この金属種の選択については、従来、酸化物分散強化型白金に適用できる金属種と同じ種類が使用可能である。
【0025】
なお、金属種の酸化物粒子は、図2に示すように、内側層2の内部に酸化物粒子6bとして分散していてもよく、この場合、内側層2は、2b側の表面に酸化物が密集した酸化物粒子分散型強化白金となっている。また、金属種の酸化物粒子6aのスペーサー的の役割によって、内側層2と構造体1との間には、僅かな隙間空間7が存在することもある。この隙間空間7には酸素が含まれ、構造体1のイリジウムの酸化揮発消耗に消費されることもあるが、その酸素量は微量であることから、隙間空間7に新たな酸素が流入してこないように制限すれば、構造体1のイリジウムの酸化揮発消耗が問題となるほど生じることはない。
【0026】
隙間空間7に新たな酸素が流入してこないようにするための対策について説明する。図3は、本実施形態に係る複合構造体の第2形態の断面概略図である。なお、図3では、構造体1の表面のうち、二層構造のカバー4をしていない表面部分、例えば、構造体1の裏面などは、酸素含有雰囲気に晒されていないとして図示している。図3に示した本実施形態に係る複合構造体200の二層構造のカバー4は、縁部にて全周に亘って構造体1に溶接され、かつ、端面は白金肉盛溶接されていることが好ましい。溶接部8によって、隙間空間7は密閉され、酸素が流入してこない。図3において、二層構造のカバー4の縁部の溶接部を符号8で示した。溶接部8では、二層構造のカバー4の外側層3(白金)と、内側層2(白金)と構造体1(イリジウム)とをそれぞれ構成する材料が溶接によって合金化しており、具体的には、イリジウム‐白金合金となっている。溶接部8による隙間空間7への酸素の流入は防止されることとなったが、溶接部8はイリジウム‐白金合金化しているため、酸素含有雰囲気に晒されればイリジウムの酸化揮発消耗が生じやすくなる。そこで、溶接部8を白金肉盛溶接で被覆することによって、酸素含有雰囲気との接触を遮断し、揮発消耗を防止する。図3において白金肉盛溶接部を符号9で示した。
【0027】
構造体1に二層構造のカバー4を溶接する場合、隙間空間7を真空封じすることが好ましい。構造体のイリジウムの酸化揮発消耗をより一層防ぐことが可能である。また、高温使用時に残留ガスによる膨れも生じにくくなる。例えば、二層構造のカバー4に隙間空間7に連通する排気管を設け、二層構造のカバー4の縁部の溶接を行った後、排気管を通じて隙間空間7を真空引きし、その後、排気管にて封止することで隙間空間7を真空封じできる。
【0028】
隙間空間7に新たな酸素が流入してこないようにするための別の対策について説明する。図4は、本実施形態に係る複合構造体の第3形態の断面概略図である。複合構造体300の構造体1の両面には、それぞれ二層構造のカバー4で被覆されている。そして、酸素含有雰囲気に曝される表面領域5以外の表面領域10を、酸素含有雰囲気に晒されない領域、例えばガラス融液中又は不活性ガスが充満した室内に配置することで、二層構造のカバー4の縁部などから隙間空間7に新たな酸素が流入してこず、構造体1の揮発消耗を防止することができる。
【0029】
このように、二層構造のカバー4は、構造体1のイリジウムの酸化揮発消耗とカーケンダルボイドの生成を抑制することから、二層構造のカバー4を取り付けた構造体1は、例えば1000時間以上の高温‐酸素含有雰囲気において、長時間安定的に使用できる。
【0030】
本発明に係る複合構造体の使用例としては、例えば、ガラス融液を攪拌するための攪拌棒がある。攪拌棒の一端には攪拌のための掻き混ぜ部が設けられ、この掻き混ぜ部分はガラス融液中に完全に浸漬される。攪拌棒の他端は、モーターに接続された回転軸に固定されている。そして、攪拌棒のうち、掻き混ぜ部より上のガラス融液に浸漬されない軸部が酸素含有雰囲気に晒されることとなる。ガラス融液中に浸漬される部分は、イリジウム構造体のままで使用が可能である。したがって、この酸素含有雰囲気に晒される当該軸部の表面を二層構造のカバー4で被覆して複合構造体を形成することで、高温の酸素含有雰囲気でも長時間使用することが可能となる。ここで、攪拌棒の他端側の二層構造のカバーの縁部は、溶接したのち、さらに白金肉盛溶接しておくことが好ましい。一方、攪拌棒の一端の二層構造のカバーの縁部は、溶接したのち、溶接部がガラス融液中に浸漬される位置にあれば白金肉盛溶接しなくてもよい。もちろん、白金肉盛溶接しておいてもよい。なお、攪拌棒の軸部はパイプ状とすることが好ましいが、パイプの内面は、酸素含有雰囲気に晒されないように、真空封じをしておくか、又は、密封化しておくことが好ましい。
【0031】
二層構造のカバーは、シート状のほか、前記攪拌棒の場合のように、パイプ状(円筒状)のような、構造体の形状に合わせた形状となる。
【0032】
次に本実施形態に係る複合構造体の製造方法の好ましい例を説明する。本実施形態に係る複合構造体の製造方法は、白金又は白金ロジウム合金からなる外側配置用部品と金属種を含む白金又は白金ロジウム合金からなる内側配置用部品とを接合して二層構造体を形成する工程(以下、第1工程という。)と、二層構造体を、酸素含有雰囲気下で加熱酸化処理を行なって、内側配置用部品の表面に金属種の酸化物粒子を分散状態で析出させて二層構造のカバーを形成する工程(以下、第2工程という。)と、イリジウム又はイリジウム基合金からなる構造体の表面のうち、少なくとも使用時に酸素含有雰囲気に曝される表面領域を、二層構造のカバーで覆う工程(以下、第3工程という。)と、を有する。
【0033】
(第1工程)
白金又は白金ロジウム合金からなる外側配置用部品は、例えば、図1の外側層3となる部品である。金属種を含む白金又は白金ロジウム合金からなる内側配置用部品は、例えば図1の内側層2となる部品である。内側配置用部品を形成するため材料は、白金又は白金ロジウム合金に金属種として、Zr、Al、Si、Ti、Y、Hf、Ta、Mg、Ce、Crから選択される少なくともいずれか1種を添加し、アーク溶解にて作製した合金とする。金属種の添加量は0.1〜3質量%が好ましい。本材料を使用して、内側配置用部品を形成する。そして、外側配置用部品と内側配置用部品とを、放電プラズマ焼結法(SPS、Spark Plasma Sintering)、ホットアイソスタティックプレス法(HIP、Hot Isostatic Press)、熱間圧延法などによって接合する。
【0034】
(第2工程)
二層構造体を、酸素含有雰囲気下で加熱酸化処理を行なって、内側配置用部品の表面に金属種の酸化物粒子を分散状態で析出させて二層構造のカバーを形成する。内側配置用部品の表面から酸素が拡散していくため、内側配置用部品の表面に近いほど、金属種の酸化物粒子が酸化され、粒成長する。金属種の酸化物粒子が内側配置用部品の表面に析出した段階で、酸化処理を終了させると、内側配置用部品の内部では、内側配置用部品の表面に近いほど、金属種の酸化物粒子が存在しているという傾斜組成となる。酸素含有雰囲気下で加熱する酸化処理は、例えば大気雰囲気下、1000〜1500℃、1時間〜500時間とする。第2工程では、加熱温度、加熱時間は適宜変更が可能であり、金属種に応じて、表面に析出する金属種の酸化物粒子の分散状態をもとに決定する。
【0035】
二層構造のカバーを所望の厚さ、例えば、0.1〜1.0mmに加工するためには、圧延加工が便利である。圧延加工を行なう場合、金属種の酸化物粒子を析出した後で行なうと、硬くなるため加工性が低下し、また、割れ、ヒビが発生しやすくなる。そこで、前記二層構造体を形成する工程の前に、内側配置用部品を冷間圧延又は熱間圧延する工程を設けることが好ましい。また、前記二層構造のカバーを形成する工程の前に、前記二層構造体を冷間圧延又は熱間圧延する工程を有していてもよい。圧延加工によって、二層構造のカバーを厚くし、特に、内側層の厚さを0.1mm以上に制御することは容易となる。
【0036】
(第3工程)
第3工程は、構造体1と二層構造のカバー4とを組み合わせて、本実施形態に係る複合構造体を形成する工程である。具体的には、構造体1に二層構造のカバー4を溶接等の手段により固定する。また、二層構造のカバー4の縁部(端面)を溶接して、構造体1と二層構造のカバー4との隙間空間7を密封又は真空封じする。
【実施例】
【0037】
以下、実施例を示しながら本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明は実施例に限定して解釈されない。
【0038】
金属種としてジルコニウムを選択し、白金‐ジルコニウム合金をアーク溶解にて作製した。ジルコニウムの添加量は、1質量%、2質量%、4質量%、8質量%の4種類を作製した。それらを冷間圧延し、加工性について確認した。その結果、ジルコニウムの添加量が1質量%及び2質量%のサンプルは冷間圧延しても割れも無く良好な加工性を得た。しかし、ジルコニウムの添加量が4質量%及び8質量%のサンプルは冷間圧延すると、圧延時に割れてしまい、冷間では加工ができなかった。
【0039】
ジルコニウムの添加量が1質量%と2質量%で冷間圧延したサンプル(厚さ1mm)に対して、大気中、1500℃で2時間、100時間又は300時間で酸化処理を行った。図5にジルコニウムの添加量が1質量%のサンプルの表面画像を示した。図6にジルコニウムの添加量が2質量%のサンプルの表面画像を示した。この結果、1500℃で2時間の酸化処理で、粒子径(走査型電子顕微鏡の画像を用いた測定法による)1〜3μmの酸化ジルコニウム微粒子が表面に分散、析出していることが確認できた。処理時間が100時間、300時間と長くなると、酸化ジルコニウム微粒子が粒成長し、また、粒子間距離が拡がっていた。1500℃で2時間の酸化処理で内側層の表面に析出した酸化ジルコニウム微粒子によって、構造体表面と内側層との接触を十分に防止することができた。また、この酸化ジルコニウム微粒子は、白金中にあったジルコニウムが表面酸化によって生成し、粒成長したものであるから、母材である白金との整合性もよく、白金と剥がれてしまうことが非常に少ないことも利点であった。
【0040】
次に二層構造のカバーとイリジウムの構造体との相互拡散について調べた。条件は、1500℃、1000時間とした。構造体であるイリジウム板(厚さ、1.5mm)の両面を、ジルコニウムを1質量%添加した白金からなる内側層(厚さ、0.5mm)と白金からなる外側層(厚さ、0.5mm)とを接合した二層構造のカバーで被覆した複合構造体を用いて調べた。ここで、内側層は、1500℃、2時間の酸化処理を行なって酸化ジルコニウム微粒子をその表面に析出、分散させている。図7に電子顕微鏡による断面画像を示した。図7中、外側層をPt、内側層をPt−Zr、構造体をIrで表記した。構造体と内側層とはSPS法により接合しているため、接触し合っているが、図7を参照すると、構造体と内側層とは相互拡散していないように見える。これは、内側層の表面に析出した酸化ジルコニウム微粒子が、接触を防いでいるからと推測される。なお、本サンプルは、構造体と内側層との隙間空間に大気が流入して来ないように、縁部を溶接している。
【0041】
このサンプルを用いて、相互拡散の状況を組成分析によって解析した。結果を図8に示した。図8は、図7の調査における相互拡散の組成分析結果である。図8中、Ir(構造体)とPt‐Zr(内側層)との境界部分における部分拡大画像を上の画像として示した。画像中、黒い粒状物は酸化ジルコニウム微粒子である。さらに、当該境界部分におけるIrとPtの元素濃度分析の結果を下のグラフで示した。図8から、IrとPtとは拡散していないことが確かめられた。これは、Pt‐Zrに析出した酸化ジルコニウム微粒子がIr(構造体)とPt‐Zr(内側層)との接触を防いでいることによるものと考えられる。
【0042】
次に比較例として、外側層を設けずに、ジルコニウムを1質量%添加した白金からなる内側層(厚さ、0.5mm)のみからなる単層構造のカバー(厚さ、0.5mm、以下、Pt−Zrカバーという。)とイリジウムの構造体との相互拡散の調査を行った。それ以外は同条件とした。図9に電子顕微鏡による断面画像を示した。図9中、Pt‐ZrカバーをPt‐Zr、構造体をIrで表記した。構造体と内側層とはSPS法により接合しているため、接触し合っているが、図9を参照すると、構造体とPt−Zrカバーとは相互拡散しており、さらに、Pt−Zrカバーにおいて酸化物の生成により、酸化物と母材の間で酸素の通り道ができることで、イリジウム構造体の内部まで酸化揮発消耗しているように見受けられた。
【0043】
次に比較例として、白金単層構造のカバーとイリジウムの構造体との相互拡散について調べた。条件は1500℃、1000時間とした。構造体であるイリジウム板(厚さ、2.5mm)の両面を、白金単層構造のカバー(厚さ、0.5mm)で被覆した複合構造体を用いて調べた。図10に電子顕微鏡による断面画像を示した。図10中、最外のPtは、大気進入防止用の白金パックであり、その内側のPtが白金単層構造のカバーである。構造体をIrで表記した。構造体と白金カバーとは、SPS法により接合している。図10を参照すると、構造体と白金カバーとの境界部分にカーケンダルボイドが観察され、相互拡散が生じていることがわかった。
【0044】
このサンプルを用いて、相互拡散の状況を組成分析によって解析した。結果を図11に示した。図11は、図10の調査における相互拡散の組成分析結果である。図11中、Ir(構造体)と白金単層構造のカバーとの境界部分における部分拡大画像を上の画像として示した。さらに、当該境界部分におけるIrとPtの元素濃度分析の結果を下のグラフで示した。図11から、IrとPtとは拡散していることが確かめられた。Ir/Pt拡散層の中でカーケンダルボイドの層が二層存在している。また、Ir側についてもカーケンダルボイドが発生しており、長時間の使用にはIrの強度低下が生じるおそれがある。
【符号の説明】
【0045】
1 構造体
1a 構造体の表面
2 内側層
2a 内側層の外側層3と接する面
2b 面2aの反対側の表面
3 外側層
4 二層構造のカバー
5 使用時に酸素含有雰囲気に曝される表面領域
6a 金属種の酸化物粒子(表面)
6b 金属種の酸化物粒子(層内)
7 隙間空間
8 溶接部
9 白金肉盛溶接部
10 酸素含有雰囲気に曝される表面領域以外の表面領域
100,200,300 複合構造体
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス溶融に使用される装置又はその部品などの高温で使用される構造体の部材として、一般に使用されている白金(Pt)又は白金合金よりも強度の優れたイリジウム(Ir)を使用した構造体に関し、特に、高温で長時間にわたって使用することが可能な複合構造体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高温で使用される構造体の部材として使用される白金又は白金合金は、1000℃以上の高温域で、しかも、酸素含有雰囲気であっても極めて安定であり、酸化揮発消耗が少ない材料である。また、白金は、冷間においても加工しやすいという利点がある。
【0003】
しかし、近年、光学ガラスや液晶ディスプレイ用ガラスにおいて環境問題を配慮してガラスに含有させる重金属の種類が制限されてきている。そのため、従来よりもガラスの溶解温度が高くなってきている。特に液晶ディスプレイ用ガラスでは、1500℃以上の高温で溶融される場合が多い。白金又は白金合金を使用したとしても、特に、1500℃を超える高温域では粒成長しやすく、強度が低下する。そこで、この問題を改善すべく、白金に酸化物を混ぜた酸化物分散型強化白金が使用されることが多い。しかし、それでも強度的に限界があり、寿命が短いという課題が残っている。
【0004】
ところで、イリジウムは、1000℃以上の高温酸素含有雰囲気の環境下において白金又は白金合金よりも高い強度を有しているという特徴がある。しかし、イリジウムが酸化によって揮発消耗することから、酸素含有雰囲気では使用できない状況であった。そこで、イリジウムに白金等を塗布し揮発防止と、中間拡散層を設けて拡散防止を図る技術がある(例えば特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002‐180268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に開示された技術の場合、サブミクロンオーダーの薄膜による防止層であり、例えば1500℃以上で数千〜数万時間に及ぶ高温長時間の条件下では次第に拡散が進み、イリジウムが表面に出てきてしまい、イリジウムの酸化揮発消耗を防止することが難しい。1500℃、1000時間の条件下で白金とイリジウムを接触させた場合、生じる拡散層の厚さは0.5mm程度まで到達することが判明した。このような条件であると、前記中間拡散層を設けてもイリジウムの拡散を防止しきれない。したがって、ガラス溶融を目的とした装置又はその部品の構造体について特許文献1の技術を適用する場合、白金層の厚みを0.1mm以上設けたいところであるが、当該白金層を形成するためには数百回もの塗布が必要となり、層の欠陥がないように均質な白金層を形成しなければならない。よって、高温長時間の条件下で使用する構造体には容易に適用できない。
【0007】
また、溶射法を用いて、白金とイリジウムとの間に酸化物からなる拡散バリア層を設ける方法も考えられるが、加熱と冷却を繰り返すこととなり、形成した酸化物層は膨張と収縮によって割れて剥がれてしまうことが懸念される。
【0008】
さらに、イリジウム基材の表面上に0.1mm以上の厚さの白金層を設けて、イリジウムの酸化揮発消耗を防止したとしても、その界面においてカーケンダルボイドが生成し、長時間の使用は困難であるという問題がある。
【0009】
このように、1000℃以上、時には1500℃以上の高温域でかつ酸素含有雰囲気において長時間使用することができる構造体はなかった。そこで、本発明の目的は、このような高温酸素含有雰囲気の条件であっても長時間強度を保持しうる構造材及びその製造方法を提供することである。より具体的には、イリジウムを基材とし、白金合金で当該基材をカバーした複合構造体において、イリジウムの酸化による揮発消耗を防ぐとともに、基材(イリジウム)とカバー(白金合金)との拡散を防いでカーケンダルボイドが生成することを防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記の課題を解決するために、鋭意検討した結果、中間拡散層ではなく、拡散遮断層となる二層構造のカバー、具体的には、分散させた金属種を酸化・表出させた白金カバー(内側層)でイリジウム表面を被覆することで、白金とイリジウムとの接触を防止して拡散を防ぎ、かつ、内側層の表面に配置した白金カバー(外側層)が酸素含有雰囲気を遮断することで、前記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させた。具体的には、本発明に係る複合構造体は、イリジウム又はイリジウム基合金からなる構造体の表面のうち、少なくとも使用時に酸素含有雰囲気に曝される表面領域を、二層構造のカバーで被覆してなり、該二層構造のカバーは、白金又は白金ロジウム合金からなる外側層と金属種を含む白金又は白金ロジウム合金からなる内側層とが接合されてなり、かつ、該内側層は、前記外側層に接する面とは反対側の表面に、前記金属種の酸化物粒子が分散状態で析出していることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る複合構造体では、前記金属種の酸化物粒子は、前記二層構造のカバーを酸化処理して、前記内側層に含有されている前記金属種が酸化されて析出し、粒成長したものであることが好ましい。イリジウム又はイリジウム基合金からなる構造体の表面と二層構造のカバーとを接触させず、かつ、その隙間の空間の容積を小さくすることができ、しかも、前記カバーの内側層は、酸化物分散強化型白金となっているため、強度が高まっている。ここで、前記二層構造のカバーの内側層は、既に酸化物が分散された強化型白金を使用すると、酸化物の密度が小さく目的を果たせないので、前記二層構造のカバーを形成後、含有されている前記金属種を酸化させることにより、表面に高密度に酸化物を分散させることが重要である。
【0012】
本発明に係る複合構造体では、前記金属種は、ジルコニウム(以下、Zr)、アルミニウム(以下、Al)、珪素(以下、Si)、チタン(以下、Ti)、イットリウム(以下、Y)、ハフニウム(以下、Hf)、タンタル(以下、Ta)、マグネシウム(以下、Mg)、セリウム(以下、Ce)、クロム(以下、Cr)から選択される少なくともいずれか1種であることが好ましい。従来知られている酸化物分散強化型白金に適用できる金属種の使用が可能である。
【0013】
本発明に係る複合構造体では、前記二層構造のカバーは、縁部にて全周に亘って前記構造体に溶接され、かつ、端面は白金肉盛溶接されていることが好ましい。二層構造のカバーの縁部は、溶接によって白金とイリジウムとの合金となっており、当該合金の表面はイリジウムの揮発消耗が発生するため、当該部分を白金肉盛溶接で被覆することによって、酸素含有雰囲気との接触を遮断し、揮発消耗を防止することができる。
【0014】
本発明に係る複合構造体では、前記二層構造のカバーの縁部が、使用時に酸素含有雰囲気に晒されない位置に配置されていることが好ましい。例えば、ガラス融液中のように酸素含有雰囲気でない箇所に二層構造のカバーの縁部を配置すれば、二層構造のカバーの縁部からの酸素の混入を防止できるので、基材の揮発消耗を防止することができる。
【0015】
本発明に係る複合構造体の製造方法は、白金又は白金ロジウム合金からなる外側配置用部品と金属種を含む白金又は白金ロジウム合金からなる内側配置用部品とを接合して二層構造体を形成する工程と、前記二層構造体を、酸素含有雰囲気下で加熱酸化処理を行なって、前記内側配置用部品の表面に前記金属種の酸化物粒子を分散状態で析出させて二層構造のカバーを形成する工程と、イリジウム又はイリジウム基合金からなる構造体の表面のうち、少なくとも使用時に酸素含有雰囲気に曝される表面領域を、前記二層構造のカバーで覆う工程と、を有することを特徴とする。
【0016】
本発明に係る複合構造体の製造方法では、前記二層構造体を形成する工程の前に、前記内側配置用部品を冷間圧延又は熱間圧延する工程、及び/又は、前記二層構造のカバーを形成する工程の前に、前記二層構造体を冷間圧延又は熱間圧延する工程を有していてもよい。内側配置用部品を予め冷間圧延又は熱間圧延することで容易に肉厚調整をすることができ、加工されやすい。また、割れやひびが入ることが防止できる。換言すると、酸化物生成後に圧延や成形を行なうと、材料が硬くなっているため加工しにくくなる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、イリジウムを基材とし、白金合金で当該基材をカバーした複合構造体において、イリジウムの酸化による揮発消耗を防ぐとともに基材(イリジウム)とカバー(白金合金)との拡散を防いでカーケンダルボイドが生成することを防止することができる。これによって、今まで白金が主流であったガラス溶融用部品の材料をイリジウムに代替することができ、その結果、さらに要求の高い高強度の装置又は部品に、本発明に係る複合構造体を使用することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施形態に係る複合構造体の一形態の断面概略図である。
【図2】図1の点線6で囲まれた箇所の部分拡大断面図である。
【図3】本実施形態に係る複合構造体の第2形態の断面概略図である。
【図4】本実施形態に係る複合構造体の第3形態の断面概略図である。
【図5】ジルコニウムの添加量が1質量%のサンプルの表面画像を示し、(a)は1500℃2時間、(b)は1500℃100時間、(c)は1500℃300時間である。
【図6】ジルコニウムの添加量が2質量%のサンプルの表面画像を示し、(a)は1500℃2時間、(b)は1500℃100時間、(c)は1500℃300時間である。
【図7】二層構造のカバーとイリジウムの構造体との相互拡散の調査における電子顕微鏡による断面画像を示した。
【図8】図7の調査における相互拡散の組成分析結果を示した。
【図9】Pt‐Zr単層構造のカバーとイリジウムの構造体との相互拡散の調査における電子顕微鏡による断面画像を示した。
【図10】白金単層構造のカバーとイリジウムの構造体との相互拡散の調査における電子顕微鏡による断面画像を示した。
【図11】図10の調査における相互拡散の組成分析結果である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について実施形態を示して詳細に説明するが、本発明は、これらの記載に限定して解釈されない。本発明の効果を奏する限り、実施形態は、種々の変形をしてもよい。
【0020】
図1は、本実施形態に係る複合構造体の一形態の断面概略図を示した。図2は、図1の点線6で囲まれた箇所の部分拡大断面図である。図1に示すように、本実施形態に係る複合構造体100は、イリジウム又はイリジウム基合金からなる構造体1の表面1aのうち、少なくとも使用時に酸素含有雰囲気に曝される表面領域5を、二層構造のカバー4で被覆してなり、二層構造のカバー4は、白金又は白金ロジウム合金からなる外側層3と金属種を含む白金又は白金ロジウム合金からなる内側層2とが接合されてなり、かつ、内側層2は、図1及び図2に示すように、外側層3に接する面2aとは反対側の表面2bに、金属種の酸化物粒子6aが分散状態で析出している。なお、図1では、構造体1の表面のうち、二層構造のカバー4をしていない表面部分、例えば、構造体1の裏面、端面などは、酸素含有雰囲気に晒されていないとして図示している。
【0021】
構造体1は、装置又はそれで使用する部品などの構造物であり、本実施形態では、その形状は、用途に応じて各種形状とされるため、特に限定されない。ただし、本発明の目的を考慮すれば、高温で使用され、強度を要求される構造体であることが好ましい。構造体1の材質は、1000℃以上の高温で長時間高強度を白金よりも保持することが求められることから、イリジウム又はイリジウム基合金とする。イリジウム基合金ついては、主成分をイリジウムとし、副成分をロジウム(以下、Rh)、レニウム(以下、Re)、モリブデン(以下、Mo)、タングステン(以下、W)、ニオブ(以下、Nb)、Ta、Zr、Hfとする。このとき、イリジウムの割合は、例えば、90質量%以上である。
【0022】
構造体1の表面1aは、高温の酸素含有雰囲気において、イリジウムの酸化揮発消耗が生じることから、少なくとも使用時に酸素含有雰囲気に曝される表面領域5を、二層構造のカバー4で被覆する。これによって、構造体1の表面1aは、酸素との接触が制限されることから、イリジウムの揮発消耗が生じにくくなる。
【0023】
二層構造のカバー4は、白金又は白金ロジウム合金からなる外側層3と金属種を含む白金又は白金ロジウム合金からなる内側層2とが接合されてなる。白金ロジウム合金はロジウム30質量%以下とすることが好ましい。ここで外側層3は、内側層2との酸素含有雰囲気との接触を防止し、さらにはイリジウムの構造体1との酸素含有雰囲気との接触を防止する。一方、内側層2は、イリジウムの構造体1との相互拡散を抑制する拡散遮断層となる。すなわち、内側層2の表面2bに分散状態で析出している金属種の酸化物粒子6aは、図2に示すように、表面2bから突出していることが好ましく、この突出によって、構造体1の表面1aと内側層2の表面2bとは、非接触となるか、又は接触があってもその接触面積は小さくなる。つまり、内側層2の表面2bに分散状態で析出している金属種の酸化物粒子6aは、スペーサーの役割をなしている。そして構造体1の表面1aと内側層2の表面2bとの接触が制限されることによって、構造体1(イリジウム又はイリジウム基合金)と内側層2(主成分としては白金)との相互拡散を抑制してカーケンダルボイドの生成を抑制する。なお、内側層2と構造体1とは一部が接触していてもよい。この場合、金属種の酸化物粒子6aの存在によって、内側層2の白金と構造体1のイリジウムとが相互拡散可能な箇所の面積は限られ、また、金属種の酸化物粒子6a自体が相互拡散の進行を抑制する。このように内側層2は拡散遮断層の役割をなしていることから、その厚さは0.1mm以上が好ましく、0.2mm以上がより好ましい。0.1mm未満であると、高温、酸素含有雰囲気下に1000時間以上晒された場合、内側層2の白金と構造体1のイリジウムとの接触が金属種の酸化物粒子6aによって無い場合は相互拡散の進行のおそれがないが、仮に接触箇所があった場合、多少なりとも相互拡散の進行のおそれはあるが、図8に示す通り、接触されていても拡散層は、ほとんどみられていない。なお、このような場合には、内側層2を0.1mm以上の厚さとするのが望ましい。
【0024】
金属種の酸化物粒子6aは、二層構造のカバー4を酸化処理して、内側層2に含有されている金属種が酸化されて析出し、粒成長したものであることが好ましい。イリジウム又はイリジウム基合金からなる構造体の表面と二層構造のカバーとを接触させず、かつ、その隙間空間の容積を小さくすることができる。このような白金に合金として含有させておき、酸化処理によって容易に金属種の酸化物粒子6aを表面に析出させることができる金属種としては、Zr、Al、Si、Ti、Y、Hf、Ta、Mg、Ce、Crから選択される少なくともいずれか1種であることが好ましい。この金属種の選択については、従来、酸化物分散強化型白金に適用できる金属種と同じ種類が使用可能である。
【0025】
なお、金属種の酸化物粒子は、図2に示すように、内側層2の内部に酸化物粒子6bとして分散していてもよく、この場合、内側層2は、2b側の表面に酸化物が密集した酸化物粒子分散型強化白金となっている。また、金属種の酸化物粒子6aのスペーサー的の役割によって、内側層2と構造体1との間には、僅かな隙間空間7が存在することもある。この隙間空間7には酸素が含まれ、構造体1のイリジウムの酸化揮発消耗に消費されることもあるが、その酸素量は微量であることから、隙間空間7に新たな酸素が流入してこないように制限すれば、構造体1のイリジウムの酸化揮発消耗が問題となるほど生じることはない。
【0026】
隙間空間7に新たな酸素が流入してこないようにするための対策について説明する。図3は、本実施形態に係る複合構造体の第2形態の断面概略図である。なお、図3では、構造体1の表面のうち、二層構造のカバー4をしていない表面部分、例えば、構造体1の裏面などは、酸素含有雰囲気に晒されていないとして図示している。図3に示した本実施形態に係る複合構造体200の二層構造のカバー4は、縁部にて全周に亘って構造体1に溶接され、かつ、端面は白金肉盛溶接されていることが好ましい。溶接部8によって、隙間空間7は密閉され、酸素が流入してこない。図3において、二層構造のカバー4の縁部の溶接部を符号8で示した。溶接部8では、二層構造のカバー4の外側層3(白金)と、内側層2(白金)と構造体1(イリジウム)とをそれぞれ構成する材料が溶接によって合金化しており、具体的には、イリジウム‐白金合金となっている。溶接部8による隙間空間7への酸素の流入は防止されることとなったが、溶接部8はイリジウム‐白金合金化しているため、酸素含有雰囲気に晒されればイリジウムの酸化揮発消耗が生じやすくなる。そこで、溶接部8を白金肉盛溶接で被覆することによって、酸素含有雰囲気との接触を遮断し、揮発消耗を防止する。図3において白金肉盛溶接部を符号9で示した。
【0027】
構造体1に二層構造のカバー4を溶接する場合、隙間空間7を真空封じすることが好ましい。構造体のイリジウムの酸化揮発消耗をより一層防ぐことが可能である。また、高温使用時に残留ガスによる膨れも生じにくくなる。例えば、二層構造のカバー4に隙間空間7に連通する排気管を設け、二層構造のカバー4の縁部の溶接を行った後、排気管を通じて隙間空間7を真空引きし、その後、排気管にて封止することで隙間空間7を真空封じできる。
【0028】
隙間空間7に新たな酸素が流入してこないようにするための別の対策について説明する。図4は、本実施形態に係る複合構造体の第3形態の断面概略図である。複合構造体300の構造体1の両面には、それぞれ二層構造のカバー4で被覆されている。そして、酸素含有雰囲気に曝される表面領域5以外の表面領域10を、酸素含有雰囲気に晒されない領域、例えばガラス融液中又は不活性ガスが充満した室内に配置することで、二層構造のカバー4の縁部などから隙間空間7に新たな酸素が流入してこず、構造体1の揮発消耗を防止することができる。
【0029】
このように、二層構造のカバー4は、構造体1のイリジウムの酸化揮発消耗とカーケンダルボイドの生成を抑制することから、二層構造のカバー4を取り付けた構造体1は、例えば1000時間以上の高温‐酸素含有雰囲気において、長時間安定的に使用できる。
【0030】
本発明に係る複合構造体の使用例としては、例えば、ガラス融液を攪拌するための攪拌棒がある。攪拌棒の一端には攪拌のための掻き混ぜ部が設けられ、この掻き混ぜ部分はガラス融液中に完全に浸漬される。攪拌棒の他端は、モーターに接続された回転軸に固定されている。そして、攪拌棒のうち、掻き混ぜ部より上のガラス融液に浸漬されない軸部が酸素含有雰囲気に晒されることとなる。ガラス融液中に浸漬される部分は、イリジウム構造体のままで使用が可能である。したがって、この酸素含有雰囲気に晒される当該軸部の表面を二層構造のカバー4で被覆して複合構造体を形成することで、高温の酸素含有雰囲気でも長時間使用することが可能となる。ここで、攪拌棒の他端側の二層構造のカバーの縁部は、溶接したのち、さらに白金肉盛溶接しておくことが好ましい。一方、攪拌棒の一端の二層構造のカバーの縁部は、溶接したのち、溶接部がガラス融液中に浸漬される位置にあれば白金肉盛溶接しなくてもよい。もちろん、白金肉盛溶接しておいてもよい。なお、攪拌棒の軸部はパイプ状とすることが好ましいが、パイプの内面は、酸素含有雰囲気に晒されないように、真空封じをしておくか、又は、密封化しておくことが好ましい。
【0031】
二層構造のカバーは、シート状のほか、前記攪拌棒の場合のように、パイプ状(円筒状)のような、構造体の形状に合わせた形状となる。
【0032】
次に本実施形態に係る複合構造体の製造方法の好ましい例を説明する。本実施形態に係る複合構造体の製造方法は、白金又は白金ロジウム合金からなる外側配置用部品と金属種を含む白金又は白金ロジウム合金からなる内側配置用部品とを接合して二層構造体を形成する工程(以下、第1工程という。)と、二層構造体を、酸素含有雰囲気下で加熱酸化処理を行なって、内側配置用部品の表面に金属種の酸化物粒子を分散状態で析出させて二層構造のカバーを形成する工程(以下、第2工程という。)と、イリジウム又はイリジウム基合金からなる構造体の表面のうち、少なくとも使用時に酸素含有雰囲気に曝される表面領域を、二層構造のカバーで覆う工程(以下、第3工程という。)と、を有する。
【0033】
(第1工程)
白金又は白金ロジウム合金からなる外側配置用部品は、例えば、図1の外側層3となる部品である。金属種を含む白金又は白金ロジウム合金からなる内側配置用部品は、例えば図1の内側層2となる部品である。内側配置用部品を形成するため材料は、白金又は白金ロジウム合金に金属種として、Zr、Al、Si、Ti、Y、Hf、Ta、Mg、Ce、Crから選択される少なくともいずれか1種を添加し、アーク溶解にて作製した合金とする。金属種の添加量は0.1〜3質量%が好ましい。本材料を使用して、内側配置用部品を形成する。そして、外側配置用部品と内側配置用部品とを、放電プラズマ焼結法(SPS、Spark Plasma Sintering)、ホットアイソスタティックプレス法(HIP、Hot Isostatic Press)、熱間圧延法などによって接合する。
【0034】
(第2工程)
二層構造体を、酸素含有雰囲気下で加熱酸化処理を行なって、内側配置用部品の表面に金属種の酸化物粒子を分散状態で析出させて二層構造のカバーを形成する。内側配置用部品の表面から酸素が拡散していくため、内側配置用部品の表面に近いほど、金属種の酸化物粒子が酸化され、粒成長する。金属種の酸化物粒子が内側配置用部品の表面に析出した段階で、酸化処理を終了させると、内側配置用部品の内部では、内側配置用部品の表面に近いほど、金属種の酸化物粒子が存在しているという傾斜組成となる。酸素含有雰囲気下で加熱する酸化処理は、例えば大気雰囲気下、1000〜1500℃、1時間〜500時間とする。第2工程では、加熱温度、加熱時間は適宜変更が可能であり、金属種に応じて、表面に析出する金属種の酸化物粒子の分散状態をもとに決定する。
【0035】
二層構造のカバーを所望の厚さ、例えば、0.1〜1.0mmに加工するためには、圧延加工が便利である。圧延加工を行なう場合、金属種の酸化物粒子を析出した後で行なうと、硬くなるため加工性が低下し、また、割れ、ヒビが発生しやすくなる。そこで、前記二層構造体を形成する工程の前に、内側配置用部品を冷間圧延又は熱間圧延する工程を設けることが好ましい。また、前記二層構造のカバーを形成する工程の前に、前記二層構造体を冷間圧延又は熱間圧延する工程を有していてもよい。圧延加工によって、二層構造のカバーを厚くし、特に、内側層の厚さを0.1mm以上に制御することは容易となる。
【0036】
(第3工程)
第3工程は、構造体1と二層構造のカバー4とを組み合わせて、本実施形態に係る複合構造体を形成する工程である。具体的には、構造体1に二層構造のカバー4を溶接等の手段により固定する。また、二層構造のカバー4の縁部(端面)を溶接して、構造体1と二層構造のカバー4との隙間空間7を密封又は真空封じする。
【実施例】
【0037】
以下、実施例を示しながら本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明は実施例に限定して解釈されない。
【0038】
金属種としてジルコニウムを選択し、白金‐ジルコニウム合金をアーク溶解にて作製した。ジルコニウムの添加量は、1質量%、2質量%、4質量%、8質量%の4種類を作製した。それらを冷間圧延し、加工性について確認した。その結果、ジルコニウムの添加量が1質量%及び2質量%のサンプルは冷間圧延しても割れも無く良好な加工性を得た。しかし、ジルコニウムの添加量が4質量%及び8質量%のサンプルは冷間圧延すると、圧延時に割れてしまい、冷間では加工ができなかった。
【0039】
ジルコニウムの添加量が1質量%と2質量%で冷間圧延したサンプル(厚さ1mm)に対して、大気中、1500℃で2時間、100時間又は300時間で酸化処理を行った。図5にジルコニウムの添加量が1質量%のサンプルの表面画像を示した。図6にジルコニウムの添加量が2質量%のサンプルの表面画像を示した。この結果、1500℃で2時間の酸化処理で、粒子径(走査型電子顕微鏡の画像を用いた測定法による)1〜3μmの酸化ジルコニウム微粒子が表面に分散、析出していることが確認できた。処理時間が100時間、300時間と長くなると、酸化ジルコニウム微粒子が粒成長し、また、粒子間距離が拡がっていた。1500℃で2時間の酸化処理で内側層の表面に析出した酸化ジルコニウム微粒子によって、構造体表面と内側層との接触を十分に防止することができた。また、この酸化ジルコニウム微粒子は、白金中にあったジルコニウムが表面酸化によって生成し、粒成長したものであるから、母材である白金との整合性もよく、白金と剥がれてしまうことが非常に少ないことも利点であった。
【0040】
次に二層構造のカバーとイリジウムの構造体との相互拡散について調べた。条件は、1500℃、1000時間とした。構造体であるイリジウム板(厚さ、1.5mm)の両面を、ジルコニウムを1質量%添加した白金からなる内側層(厚さ、0.5mm)と白金からなる外側層(厚さ、0.5mm)とを接合した二層構造のカバーで被覆した複合構造体を用いて調べた。ここで、内側層は、1500℃、2時間の酸化処理を行なって酸化ジルコニウム微粒子をその表面に析出、分散させている。図7に電子顕微鏡による断面画像を示した。図7中、外側層をPt、内側層をPt−Zr、構造体をIrで表記した。構造体と内側層とはSPS法により接合しているため、接触し合っているが、図7を参照すると、構造体と内側層とは相互拡散していないように見える。これは、内側層の表面に析出した酸化ジルコニウム微粒子が、接触を防いでいるからと推測される。なお、本サンプルは、構造体と内側層との隙間空間に大気が流入して来ないように、縁部を溶接している。
【0041】
このサンプルを用いて、相互拡散の状況を組成分析によって解析した。結果を図8に示した。図8は、図7の調査における相互拡散の組成分析結果である。図8中、Ir(構造体)とPt‐Zr(内側層)との境界部分における部分拡大画像を上の画像として示した。画像中、黒い粒状物は酸化ジルコニウム微粒子である。さらに、当該境界部分におけるIrとPtの元素濃度分析の結果を下のグラフで示した。図8から、IrとPtとは拡散していないことが確かめられた。これは、Pt‐Zrに析出した酸化ジルコニウム微粒子がIr(構造体)とPt‐Zr(内側層)との接触を防いでいることによるものと考えられる。
【0042】
次に比較例として、外側層を設けずに、ジルコニウムを1質量%添加した白金からなる内側層(厚さ、0.5mm)のみからなる単層構造のカバー(厚さ、0.5mm、以下、Pt−Zrカバーという。)とイリジウムの構造体との相互拡散の調査を行った。それ以外は同条件とした。図9に電子顕微鏡による断面画像を示した。図9中、Pt‐ZrカバーをPt‐Zr、構造体をIrで表記した。構造体と内側層とはSPS法により接合しているため、接触し合っているが、図9を参照すると、構造体とPt−Zrカバーとは相互拡散しており、さらに、Pt−Zrカバーにおいて酸化物の生成により、酸化物と母材の間で酸素の通り道ができることで、イリジウム構造体の内部まで酸化揮発消耗しているように見受けられた。
【0043】
次に比較例として、白金単層構造のカバーとイリジウムの構造体との相互拡散について調べた。条件は1500℃、1000時間とした。構造体であるイリジウム板(厚さ、2.5mm)の両面を、白金単層構造のカバー(厚さ、0.5mm)で被覆した複合構造体を用いて調べた。図10に電子顕微鏡による断面画像を示した。図10中、最外のPtは、大気進入防止用の白金パックであり、その内側のPtが白金単層構造のカバーである。構造体をIrで表記した。構造体と白金カバーとは、SPS法により接合している。図10を参照すると、構造体と白金カバーとの境界部分にカーケンダルボイドが観察され、相互拡散が生じていることがわかった。
【0044】
このサンプルを用いて、相互拡散の状況を組成分析によって解析した。結果を図11に示した。図11は、図10の調査における相互拡散の組成分析結果である。図11中、Ir(構造体)と白金単層構造のカバーとの境界部分における部分拡大画像を上の画像として示した。さらに、当該境界部分におけるIrとPtの元素濃度分析の結果を下のグラフで示した。図11から、IrとPtとは拡散していることが確かめられた。Ir/Pt拡散層の中でカーケンダルボイドの層が二層存在している。また、Ir側についてもカーケンダルボイドが発生しており、長時間の使用にはIrの強度低下が生じるおそれがある。
【符号の説明】
【0045】
1 構造体
1a 構造体の表面
2 内側層
2a 内側層の外側層3と接する面
2b 面2aの反対側の表面
3 外側層
4 二層構造のカバー
5 使用時に酸素含有雰囲気に曝される表面領域
6a 金属種の酸化物粒子(表面)
6b 金属種の酸化物粒子(層内)
7 隙間空間
8 溶接部
9 白金肉盛溶接部
10 酸素含有雰囲気に曝される表面領域以外の表面領域
100,200,300 複合構造体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イリジウム又はイリジウム基合金からなる構造体の表面のうち、少なくとも使用時に酸素含有雰囲気に曝される表面領域を、二層構造のカバーで被覆してなり、
該二層構造のカバーは、白金又は白金ロジウム合金からなる外側層と金属種を含む白金又は白金ロジウム合金からなる内側層とが接合されてなり、かつ、該内側層は、前記外側層に接する面とは反対側の表面に、前記金属種の酸化物粒子が分散状態で析出していることを特徴とする複合構造体。
【請求項2】
前記金属種の酸化物粒子は、前記二層構造のカバーを酸化処理して、前記内側層に含有されている前記金属種が酸化されて析出し、粒成長したものであることを特徴とする請求項1に記載の複合構造体。
【請求項3】
前記金属種は、Zr、Al、Si、Ti、Y、Hf、Ta、Mg、Ce、Crから選択される少なくともいずれか1種であることを特徴とする請求項1又は2に記載の複合構造体。
【請求項4】
前記二層構造のカバーは、縁部にて全周に亘って前記構造体に溶接され、かつ、端面は白金肉盛溶接されていることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の複合構造体。
【請求項5】
前記二層構造のカバーの縁部が、使用時に酸素含有雰囲気に晒されない位置に配置されていることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の複合構造体。
【請求項6】
白金又は白金ロジウム合金からなる外側配置用部品と金属種を含む白金又は白金ロジウム合金からなる内側配置用部品とを接合して二層構造体を形成する工程と、
前記二層構造体を、酸素含有雰囲気下で加熱酸化処理を行なって、前記内側配置用部品の表面に前記金属種の酸化物粒子を分散状態で析出させて二層構造のカバーを形成する工程と、
イリジウム又はイリジウム基合金からなる構造体の表面のうち、少なくとも使用時に酸素含有雰囲気に曝される表面領域を、前記二層構造のカバーで覆う工程と、を有することを特徴とする複合構造体の製造方法。
【請求項7】
前記二層構造体を形成する工程の前に、前記内側配置用部品を冷間圧延又は熱間圧延する工程、及び/又は、前記二層構造のカバーを形成する工程の前に、前記二層構造体を冷間圧延又は熱間圧延する工程を有することを特徴とする請求項6に記載の複合構造体の製造方法。
【請求項1】
イリジウム又はイリジウム基合金からなる構造体の表面のうち、少なくとも使用時に酸素含有雰囲気に曝される表面領域を、二層構造のカバーで被覆してなり、
該二層構造のカバーは、白金又は白金ロジウム合金からなる外側層と金属種を含む白金又は白金ロジウム合金からなる内側層とが接合されてなり、かつ、該内側層は、前記外側層に接する面とは反対側の表面に、前記金属種の酸化物粒子が分散状態で析出していることを特徴とする複合構造体。
【請求項2】
前記金属種の酸化物粒子は、前記二層構造のカバーを酸化処理して、前記内側層に含有されている前記金属種が酸化されて析出し、粒成長したものであることを特徴とする請求項1に記載の複合構造体。
【請求項3】
前記金属種は、Zr、Al、Si、Ti、Y、Hf、Ta、Mg、Ce、Crから選択される少なくともいずれか1種であることを特徴とする請求項1又は2に記載の複合構造体。
【請求項4】
前記二層構造のカバーは、縁部にて全周に亘って前記構造体に溶接され、かつ、端面は白金肉盛溶接されていることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の複合構造体。
【請求項5】
前記二層構造のカバーの縁部が、使用時に酸素含有雰囲気に晒されない位置に配置されていることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の複合構造体。
【請求項6】
白金又は白金ロジウム合金からなる外側配置用部品と金属種を含む白金又は白金ロジウム合金からなる内側配置用部品とを接合して二層構造体を形成する工程と、
前記二層構造体を、酸素含有雰囲気下で加熱酸化処理を行なって、前記内側配置用部品の表面に前記金属種の酸化物粒子を分散状態で析出させて二層構造のカバーを形成する工程と、
イリジウム又はイリジウム基合金からなる構造体の表面のうち、少なくとも使用時に酸素含有雰囲気に曝される表面領域を、前記二層構造のカバーで覆う工程と、を有することを特徴とする複合構造体の製造方法。
【請求項7】
前記二層構造体を形成する工程の前に、前記内側配置用部品を冷間圧延又は熱間圧延する工程、及び/又は、前記二層構造のカバーを形成する工程の前に、前記二層構造体を冷間圧延又は熱間圧延する工程を有することを特徴とする請求項6に記載の複合構造体の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−37244(P2011−37244A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−189558(P2009−189558)
【出願日】平成21年8月18日(2009.8.18)
【出願人】(000136561)株式会社フルヤ金属 (48)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月18日(2009.8.18)
【出願人】(000136561)株式会社フルヤ金属 (48)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]