説明

複合構造物の構成部材を製造する方法

【課題】風車の翼の構成部材を製造するための改良された方法を提供する。
【解決手段】ロービング束を形成するために、多数の結合されていないロービングが使用され、多数のロービング束が自動的に成形型内に配置され、ロービング束は、構成部材の少なくとも1つの層が組み立てられるように配置され、ロービング束が、成形型内に一方向に整列させられ、各ロービング束が、成形型内に配置される前に少なくともマトリックス材料で浸潤される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合構造物の構成部材を製造する方法に関する。
【0002】
本発明は、好適には、風車翼の構成部材を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
複合構造物は、風車のための構成部材を形成するために広く用いられている。通常、好適にはガラス繊維織物を含む一連の織物がこのために用いられる。
【0004】
翼又は構成部材を製造するために、いわゆる"ガラス繊維強化プラスチック"が使用される。ガラス繊維強化プラスチックは、通常、ポリエステル又はエポキシ樹脂を含む。
【0005】
いわゆる"一方向ガラス織物"は、翼又は構成部材の耐力部分においてしばしば用いられる。
【0006】
これらの織物は、織物のガラス繊維が互いに平行に並んでいる、いわゆる"ガラス繊維ロービング"を含む。
【0007】
翼又は構成部材を形成するためにその他の織物も用いられる。織物の1つのタイプは、ガラス繊維又はガラス繊維ロービングがヤーンによって縫い合わされているウィーブのように成形される。ヤーンはポリエステル又は同様の材料を含む。
【0008】
翼又は構成部材が製造される場合、ウィーブは後で樹脂に含浸される。樹脂は、例えば技術的真空によって、所望の構造内、つまりウィーブ内へ注入される。1つの一般的に使用されるプロセスは、例えば"真空樹脂含浸成形法(VARTM)"として知られている。
【0009】
様々な異なる量の樹脂を備えた製造面積又は体積が、製造された構造物に導入される。これらの体積は、構造物内で使用される隣接し合う織物の間、又は織物内にも配置されてよい。
【0010】
頑強な翼又は構成部材のためには、構造物内に樹脂過多の"ポケット"が存在せずに、ガラス繊維と樹脂とが均一に分布していることが極めて重要である。
【0011】
これらのポケットは、特に翼又は構成部材の耐力領域に沿っては回避されなければならない。
【0012】
公知の標準的な製造方法は、織物及び/又はチョップドストランドマットを使用する。この材料は、上述のような樹脂過多ポケットの問題に寄与してしまう。
【0013】
翼の主要耐力領域に近い一方向繊維は、翼の長手方向(ゼロ度方向)に沿って整合させられるべきである。従って、使用される繊維は、フィラメント巻付けマンドレルに巻き付けることはできない。そこでは、高価な織布を用いる通常のハンドレイアップ作業が用いられなければならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の課題は、複合構造物、好適には風車の翼、の構成部材を製造するための改良された方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題は、請求項1の特徴によって達成される。好適な構成は、従属請求項の対象である。
【0016】
本発明によれば、好適には繊維強化構造物の構成部材が製造される。
【0017】
構成部材は、風車翼の一部であってよいが、本発明の方法によって翼全体を製造することもできる。
【0018】
本発明によれば、多数の結合されていないロービングが、ロービング束を形成するために使用される。多数のロービング束は、成形型内に自動的に配置される。ロービング束は、構成部材の少なくとも1つの層が組み立てられるように配置される。ロービング束は、成形型内に一方向に整列させられる。各ロービング束は、成形型内に配置される前に、少なくともマトリックス材料(樹脂又は接着剤等)によって浸潤される。
【0019】
本発明の方法によれば、構成部材内の樹脂過多ポケットは、減じられるか又は回避される。従って、構成部材に作用する機械的荷重の観点から、構成部材全体が強化される。
【0020】
構成部材、及び構成部材を含む構造物の剛性は、高められる。従って、構成部材の品質が高められる。
【0021】
好適には、風車翼全体は、本発明による方法によって製造される。
【0022】
好適には、ロービングヤーンとして供給されてよいガラス繊維が使用される。
【0023】
ロービングヤーンは、好適にはボビンによって提供又は支持される。
【0024】
各ロービングヤーンは、例えば複数の1000〜3000本の単繊維から成る。
【0025】
浸潤又は含浸は、好適には進行中のプロセスにおいて行われる。好適には、浸潤された束を成形型上又は成形型内に配置するために、ロボット装置が使用される。
【0026】
浸潤又は含浸により、最終積層体のより高いガラスパーセンテージが達成される。
【0027】
構成部材全体は、より均一であり、従って、樹脂過多部が回避又は排除される。
【0028】
付着力及び表面張力は、成形型におけるロービングの平行な向き付けを達成することを助ける。従って、個々のロービング束の取扱いが、より容易になる。
【0029】
本発明は、構造体の疲労特性を損なうことなく、層内の繊維の均一な分布と、可能な限り高いガラスパーセンテージとが得られることを保証する。従って、風車の中央耐力スパーを製造することができる。
【0030】
マトリックス材料(樹脂又は接着剤等)は、全ての材料が成形型(例えばマンドレル)に配置される前には硬化させられない。好適には、樹脂と類似の熱硬化性エポキシがこのために使用される。
【0031】
好適には、硬化サイクルを遅延させる阻害物質が添加されたポリエステル又はエポキシ樹脂が使用される。
【0032】
浸潤又は含浸は、好適には浸潤システムを用いて行われる。ガラス繊維の束は、樹脂浴において浸潤させられ、好適には浸潤システムのノズルを引き通される。
【0033】
ノズルから出た後、繊維は一方向である。付着力及び表面張力の助けにより、繊維束は、個々の繊維の平行でかつ整列させられた向きを維持する。
【0034】
好適には、構成部材の層は、織物を用いずに構成される。ガラス繊維のクロスステッチング及び締付けによる樹脂過多ポケットは回避される。
【0035】
織物の性質と、時間のかかる手作業によるレイアップ作業とが組み合わさると、通常、構造物におけるしわの形成の原因となる。本発明は、織物の使用を回避するので、層におけるしわの形成が回避される。
【0036】
予め製造された繊維マットの代わりにロービング束を使用することは、構成部材の材料コストも低減する。ロービングボビンから直接にガラスを使用することは、織物を織るコストを排除し、ひいては、最終製品のコストを低減する。
【0037】
本発明による自動化されたレイアップは、従来公知のレイアップ作業と組み合わされてもよい。例えば、翼の最も困難で決定的な部分、例えばビームは、自動的にレイアウトされてよいのに対し、低荷重層は、従来の手作業によるレイアップ法によってレイアウトされてよい。
【0038】
本発明による方法は、大きくて重い織物又は織物のロールが持ち上げられて成形型内に配置される必要がある過酷な手作業のレイアップ作業の量も減じる。従って、レイアップ作業者のための作業条件が改善される。
【0039】
さらに、樹脂チャンバ等の実質的に閉鎖された浸潤システムの使用は、作業者のための作業条件を改善する。なぜならば、揮発性物質が、浸潤システム内に閉じ込められるからである。
【0040】
ロービングの各束は、好適にはボビンによって提供される。従って、典型的な製造装置は、100〜200個以上のボビンの配列を必要とする。
【0041】
ここで説明される方法は、風車翼の中央耐力スパーを製造するために使用されてよい。
【0042】
ロボット装置は、含浸された繊維束を、中空スパーの形状を有するマンドレルに配置する。
【0043】
繊維束は、根元端部から、さらに外に向かって配置され、幾つかの束は先端の近傍において終わっている。
【0044】
スパーの最も大きな荷重を受ける部分は、最も多数の繊維束を有する。従って、全ての束が、翼の根元部において出発し、一部の束だけが先端まで延びている。
【0045】
翼の長手方向軸線に対して0゜ではない他の方向の繊維は、翼のねじり剛性を高めるために配置されてよい。これらの他の方向に配置された繊維は、機械又はロボット装置によって配置することもできる。
【0046】
全てのロービング束が配置されると、マンドレル上にプラスチックライナが配置されてよい。ライナの下側に、技術的真空が提供されてよい。
【0047】
樹脂は今や、翼が組み立てられながら/形成されながら硬化させられる。構造物を硬化させるために、後で熱が加えられてよい。
【0048】
上述のように形成されたスパーを使用する翼構造物全体は、ここで説明するように完成されてよい:
風車翼のスキンラミネートのための全ての所要の材料は、閉鎖された型システム内に配置される。閉鎖された型システムは、結合された上側及び下側の型を含む。これにより、翼は閉鎖された型システムによって包囲される。
【0049】
真空が提供されるために必要な真空ライナが、構造物に提供される。
【0050】
硬化させられたバックボーン構造と、2つの補足的な柔軟なマンドレル(1つはバックボーンの前側に、もう1つはバックボーンの後側にある)は、2つの型部分の間に配置される。
【0051】
高い技術的真空が提供され、樹脂が翼のスキン領域に注入され、これにより、バックボーン構造の周囲の閉鎖された空間が達成される。
【0052】
好適には、それぞれの1つのロービング束は、所定の長さに個々に自動的に切断される。ロービング束の長さを制御することにより、繊維層の進歩した、より正確な設計及び構成が達成される。
【0053】
機械は、例えば、上述のように各ロービング束を個々に切断するために使用される多数の切断装置を有する。切断は、上述のように積層されたロービング束の特定の終了を達成するために、所定の形式で行われる。
【0054】
第1の実施の形態において、専用の切断装置がそれぞれの1つのロービング束に割り当てられているか、又は切断装置は多数のロービング束に割り当てられている。
【0055】
例えば、ロービング束が機械の穴を通過し、切断装置は穴の近傍に配置されている。
【0056】
第2の実施の形態において、使用される切断装置は、機械内に可動に配置されている。従って、様々なロービング束のために1つの切断装置のみが必要とされ、ロービング束を機械の様々な位置において切断する。
【0057】
別の実施の形態において、ロービング束は、成形型内にレイアウトされ、成形型は、風車翼のための型として配置されているか、又は風車翼の製造のために使用される型の一部として配置されている。繊維の少なくとも1つの層は、型部分の長手方向にレイアウトされる。型は、風車翼の吸込面又は圧力面のための型部分であることができる。
【0058】
別の実施の形態において、成形型は、風車翼の一部を形成するために配置されており、キャリヤは、成形型の底部に配置されている。繊維材料の結合されていない一方向ロービング束の少なくとも1つの層は、キャリヤの上部にレイアウトされる。キャリヤは、真空リフティング等によって部材を持ち上げるために使用される。
【0059】
上述のように、ロービング束は好適には、好適には定置のフィクスチャに配置されているか又は機械に取り付けられたボビンによって、供給される。機械は、層における積層されたロービング束を形成するために構成部材の長手方向軸線に沿って前後に移動するように配置されている。
【0060】
本発明は、ガラス繊維ロービングに限定されず、炭素繊維、天然繊維等が使用されてもよい。
【0061】
本発明は図面を参照することによって、より詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の方法を示す図である。
【図2】本発明の方法を用いる、別の風車翼の製造を示す図である。
【図3A】本発明の方法においてO字形のバックボーンビームを用いる、別の風車翼の製造を示す図である。
【図3B】本発明の方法においてI字形のバックボーンビームを用いる、別の風車翼の製造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0063】
図1は、本発明の方法を示している。風車翼BLは製造され、この場合、メイン構造スパーである。
【0064】
多数のボビン1が示されている。各ボビン1は、ロービング束GFを支持しており、このロービング束GFを、浸潤装置3に供給する。
【0065】
浸潤装置3は、ノズル(詳細には示されていない)を有しており、このノズルに、ボビン1のロービング束GFが引き通される。
【0066】
ロービング束GFが浸潤装置3に引き通されながら、ロービング束GFに樹脂2が含浸される。
【0067】
樹脂2は、樹脂タンクから浸潤装置3に供給される。
【0068】
今や樹脂が含浸されたロービング束GFは、浸潤装置3から出る時に、含浸されたロービング束5を形成している。この含浸されたロービング束5内においては、全てのロービングは一方向に整列させられている。
【0069】
翼BL又は翼の一部の三次元形状を形成するために、含浸されたロービング束5は、成形型FT内に配置される。
【0070】
成形型FTは、例えば真空樹脂含浸成形法(VARTM)内で使用される、下側型として構成及び設計されていてよい。
【0071】
好適には、浸潤装置3は機械Mに取り付けられている。機械Mは、多数の積層されたロービング束を層に形成するために、翼BLの長手方向軸線に沿って前後に移動する。
【0072】
好適には、ボビン1は機械Mに取り付けられている。
【0073】
翼構造体を形成するために使用されかつ例えば加圧空気で充填されたマンドレル4上に、多数の含浸されたロービング束5を配置することも可能である。
【0074】
全ての材料がマンドレル4上に配置される前には樹脂2(又は別のマトリックス材料)は硬化させられない。
【0075】
好適には、これは、マトリックス材料として熱硬化性エポキシを使用することによって達成される。
【0076】
いわゆる"プリプレグ"構成部材又はその他の予め含浸された織物又はロービングを使用することもできる。
【0077】
好適には、阻害物質が添加されたポリエステル樹脂又はエポキシ樹脂が使用され、阻害物質は、硬化サイクルを遅延させる。
【0078】
好適には、真空が提供されながら、マンドレル4の周囲に真空気密ライナが装着される。マンドレル4は、樹脂の硬化を開始及び完了するために加熱される。
【0079】
図2は、本発明の方法を用いた別の風車翼BLの製造を示している。
【0080】
多数の乾燥織物又は予め含浸された織物6が、下側型7に配置される。
【0081】
本発明の方法によって製造されたO字形のバックボーンビーム8が、下側型7に配置され、後側マンドレル9及び前側マンドレル10も、下側型7に配置される。
【0082】
最後に、乾燥織物又は予め含浸された織物6の別の層が、構造物の上側に配置される。
【0083】
下側型7は上側型11と結合され、閉鎖された型システムを形成する。
【0084】
最後に、"真空樹脂含浸成形法(VARTM)"を用いて構造物に樹脂が注入される。
【0085】
図3Aは、本発明の方法を用いて製造されたO字形のバックボーンビームを用いた風車翼の製造を示している。
【0086】
前縁シェル12と、後縁シェル13と、O字形のバックボーンビーム8とが設けられている。前縁部材12と、後縁部材13とは、別個の型において形成され、バックボーンビーム8に接着される。
【0087】
図3Bは、図3Aに示された翼と同様であるが、I字形のバックボーンビーム15が代用されている、別の風車翼の製造を示している。
【0088】
図2及び図3を参照すると、個々のロービング束を用いて、本発明の方法により、各構成部材8,12,13及び15が製造されてよい。しかしながら、前縁及び後縁は、大きな荷重が加わるわけではく、別個の型において通常のレイアップ作業を用いて製造することができる。
【符号の説明】
【0089】
1 ボビン、 2 樹脂、 3 浸潤装置、 4 マンドレル、 5 含浸されたロービング束、 6 織物、 7 下側型、 8 バックボーンビーム、 9 後側マンドレル、 10 前側マンドレル、 11 上側型、 12 前縁部材、 13 後縁部材、 BL 風車翼、 GF ロービング束、 FT 成形型、 M 機械

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維強化構造物の構成部材を製造する方法において、
ロービング束を形成するために、多数の結合されていないロービングが使用され、
多数のロービング束が自動的に成形型内に配置され、ロービング束は、構成部材の少なくとも1つの層が組み立てられるように配置され、
ロービング束が、成形型内に一方向に整列させられ、
各ロービング束が、成形型内に配置される前に少なくともマトリックス材料で浸潤されることを特徴とする、繊維強化構造物の構成部材を製造する方法。
【請求項2】
各ロービング束に、マトリックス材料が含浸又は飽和させられる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ロービング束が少なくともマトリックス材料によって浸潤されるように設計及び配置された浸潤システムに、各ロービング束が引き通される、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
ロービング束が少なくとも浸潤されるように及び/又はロービング束が成形型内に整列させられるように設計及び配置された浸潤システムのノズルに、各ロービング束が引き通される、請求項3記載の方法。
【請求項5】
各ロービング束が、ボビンから提供される、請求項1記載の方法。
【請求項6】
浸潤システム及び/又はボビンが、機械と相互作用し、
該機械が、多数の積層されたロービング束を層に形成するために、構成部材又は成形型の長手方向軸線に沿って前後に移動する、請求項3又は5記載の方法。
【請求項7】
成形型として、型、レイアップテーブル、ベンチ、又はマンドレルが使用される、請求項1記載の方法。
【請求項8】
真空樹脂含浸成形法(VARTM)を用いて構成部材を製造するために型が使用される、請求項7記載の方法。
【請求項9】
各ロービング束が、マトリックス材料を含んだ閉鎖されたチャンバに引き通される、請求項1記載の方法。
【請求項10】
ロービング束を形成するために、ガラス繊維、炭素繊維、又は天然繊維が使用される、請求項1記載の方法。
【請求項11】
各ロービング束が、成形型内に配置された時に個々に及び/又は自動的に所定の長さに切断される、請求項1から10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
マトリックス材料として、樹脂又は接着剤が使用される、請求項1から11までのいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
請求項1から12までのいずれか1項記載の方法によって翼の少なくとも1つの層が製造されていることを特徴とする、風車のための翼。
【請求項14】
請求項1から12までのいずれか1項記載の方法によってバックボーンの少なくとも1つの層が製造されていることを特徴とする、風車翼のためのバックボーン。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【公開番号】特開2012−16948(P2012−16948A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−149731(P2011−149731)
【出願日】平成23年7月6日(2011.7.6)
【出願人】(390039413)シーメンス アクチエンゲゼルシヤフト (2,104)
【氏名又は名称原語表記】Siemens Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Wittelsbacherplatz 2, D−80333 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】