説明

複合母材

本発明は、少なくとも一つの第一層によって両側の表面がそれぞれ少なくとも90%以上被覆された補強繊維布部材を有する複合母材であって、その第一層が少なくとも一種類の分解性巨大分子からなり、第一層内のコラーゲン含有量が第一層の総重量に対して、重量比で50%〜100%である複合母材に関する。また、本発明はそのような母材を有する補綴物、および、そのような母材を製造する方法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1種類の巨大分子、特に、分解性生体高分子によって一部もしくは全面が被覆された補強用繊維布部材からなる複合母材(composite matrix)に関する。この母材は外科および補綴医療の分野において特に有用である。本発明の母材によって、外科、特に、心臓血管外科においては、例えば、動脈の置換をするために用いられ、臓器病態外科においては、例えば、ヘルニアや内臓脱出を治療するために、特に、腹壁補強材として用いられ、あるいは、整形外科においては、例えば、腱やじん帯を一部もしくは全部置換するために用いられる補綴物を形成できる。
【背景技術】
【0002】
一般に、医療用繊維布は繊維産業で生産される埋め込み素材である。このような医療用繊維布は、外科手術や怪我の後で傷ついた組織を物理的に補強するためのもので、例えば、腹膜、筋肉壁、あるいは腱やじん帯など重要な関節組織のような支持組織を修復するのに用いられる。このようなタイプの組織においては、堅い医療素材、特に、金属製のものは、周囲の組織と機械的物性が違いすぎるために用いることが出来ない。しかしその一方で、柔らかい医療素材は一般に分解性があり、機械的な強度が不十分である。
【0003】
医療用繊維布は、心臓血管外科においては、特に、動脈の置換をするため、臓器病態外科においては、例えば、ヘルニアや内臓脱出を治療するための、特に、腹壁補強材として、あるいは、整形外科においては、特に、腱やじん帯を置換するために用いられる。
【0004】
臓器病態外科では、治療の対象となる病気の多くはヘルニアや内臓脱出である。内臓脱出は、しばしば、大がかりな腹部外科手術、特に、開腹手術を要するものである。
【0005】
ヘルニアや内臓脱出の治療目的は、開口を閉じ、腹壁の機能を回復することである。この治療は、多くが外科的なものであり、腹壁補強材と呼ばれる(補強メッシュ、ネット、パッチ、スクリーンなどとしても知られている)医療用繊維布を配置することで行われる。
【0006】
最初の腹壁補強材が登場したのは第二次世界大戦後のことである。それ以来用いられてきた外科医療用材料は、例えば、ポリビニルアルコール、ポリエチレン、ポリプロピレン(商品名:プロレン)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素化有機ポリマー、ナイロンなどのポリアミド、メルシレン(商品名)等の高分子密度飽和ポリエステルなどである。
【0007】
上記のような可撓性材料は、しばしば、強い炎症反応を引き起こすが、この炎症反応こそ、補強メッシュが線維状抵抗性コラーゲンによって定着することを促進して、腹壁の強度を確保するものである。しかし、このように定着に必要な炎症反応ではあるが、一方で、ひどい傷跡、反応の拡大および/または全身的な有害反応などの好ましくない副作用を引き起こすことも極めて多い。
【0008】
今日、補強材の配置については二つの方法があり、補強材を腹膜前の位置、すなわち腹腔の深部筋肉層内に配置することも、あるいは腹腔内に配置することも可能である。これらの方法は施術する修復のタイプによって選択することができる。一般に、内臓脱出の治療では組織が完全に開裂しているので腹腔内に配置し、ヘルニアの治療では必ずしも腹膜が開裂しているとは限らない状態で内部の筋肉層が弛緩しているので腹膜前に配置する。
【0009】
しかしながら、この選択は、腹腔内の配置に適した材料が、特に、内臓との接面における癒着性の点で不満足な特性および/または性質しか持っていないという事実によっても左右されてしまうことがある。
【0010】
結果として、腹腔内に配置する場合、腹壁に接する繊維布の面は腹膜前に配置するときのように腹壁にしっかりと固定される一方で、外側の面については、特に、隣接する内臓や組織との癒着形成を抑制することが条件となる。しかし、流通している製品は、一般に、この性質について不十分であり、特に、この性質と満足できる補強や回復を可能にする性質とを同時に有する物はない。
【0011】
今日、ほとんどの腹壁補強材は腹膜前の位置に配置され、腹腔内に埋め込まれることはまれである。しかしながら、後者の場合、癒着を防止あるいは、かなり抑制するには二つの方法がある。すなわち、一方の面をPET、シリコーンあるいはPTFEなどの合成物質でコーティングする方法、および/または、コラーゲンや多糖類誘導体のような生体抗癒着物質で一方の面をコーティングする方法である。たとえば、今日、最も一般的に使用されているパリテックスコンポジット(商品名)は3次元ポリエステル繊維布の一面をコラーゲンフィルムでコーティングすることで形成された補綴物である。
【0012】
合成物質によるコーティングがされた埋め込み素材は非分解性であり、生体となじむことなく腹壁に付着した異物となるため、好ましくない反応を引き起こす可能性がある。実際、シリコーン系合成コーティングを用いた補綴物では、そのようなことが観察されてきた。
【0013】
分解性物質でコーティングされた製品はその点は幾分かマシではあるが、それらの分解性層には問題がある。実際、癒着を防止することと表面に新たな腹膜を形成することを両立するために抗癒着層の成分と分解時間とを調整することは極めて困難である。さらに、多糖類と使用する架橋剤の作用として炎症反応が起こりやすく、内臓側の面ではその「癒着性」のために極めて有害なものとなる可能性がある。
【0014】
一方、筋肉側の一面のみコーティングされた製品、特に、抗癒着性生体物質でコーティングされたものは、炎症を定着する過程として利用している。しかし、これは(上記したように)好ましくない反応の原因となることもある。
【0015】
さらに、急速分解性抗癒着性生体物質によるコーティングは、例えば、長期間にわたる癒着防止作用を確保する観点、および/または、表面に腹膜の薄い層を形成することで繊維布を生体になじませるという観点から好ましくない場合もある。
【0016】
整形外科においては、傷害された腱やじん帯を置換したり補強したりすることはごく普通のことである。傷害は、単に線維組織を伸ばしたものから、断裂には至らないものの何本かの線維組織を切ったもの、あるいは、完全な断裂まで様々である。
【0017】
ごく一般的なねんざは、正常な関節機能を恒久的に失うことのない、じん帯の損傷である。すなわち、ねんざは正常な関節機能を恒久的に失うような脱臼とは異なるものである。
【0018】
ねんざにはいくつかの段階がある。単にじん帯を伸ばしただけの単純な腫れの段階;一部の線維束が断裂し、他の線維束は健常なままでいる段階;そして、じん帯全体が断裂している段階である。ねんざは傷害の程度に応じて、軽症、あるいは、じん帯断裂の場合は重傷と分類される。
【0019】
最も有名なじん帯断裂は、膝の前十字じん帯(ACL)の断裂である。足首のねんざは一般に単純な安静によって治療するのに対して、前十字じん帯断裂は外科手術による治療が必要となることが多い。
【0020】
前十字じん帯の再建には主に二つの方法があるが、両方ともに自己移植片の埋め込みを行うものである。第一の方法はケネス−ジョーンズ法で、骨−膝蓋腱−骨の移植を行い、膝蓋じん帯を膝蓋骨と前脛骨結節から採取するものである。もうひとつの方法は半腱様筋薄筋腱(ハムストリング腱)法で、薄筋の下端と内腿の半腱様筋から移植組織を採取するものである。
【0021】
移植片は、血管系と神経系を取り去った不活性な組織であり、患者が添え木を当てた状態からゆっくりと歩くくらいまで急速に回復するほどの初期強度を有している。移植片は、膝を安定させるのに必要な強度を有していれば、生物学的な「じん帯化」によって関節と一体化していく。
【0022】
自己移植は様々な原因によって失敗することがある。例えば、技術的な失敗や化膿によるじん帯化の失敗である。また、すべての場合で、このタイプの移植片はドナー側、一般に施術する側の膝、場合によっては反対側の膝、を必要とするが、このことは局所的な病状を悪化させ、治療期間や止血帯の使用期間を長引かせる。さらに、再発した場合、ドナー部位を再使用することが困難になる可能性もある。
【0023】
この問題を回避するために、アメリカでは多くのFDA公認生体組織バンクの助けを借りて同種異系移植が頻繁に行われている。同種異系移植では自家ドナー部位への依存を避けることができるが、その一方で、その供給源、すなわち、移植片ドナー患者に関するリスクがある。すなわち、当然のことながら、支援体制の成熟に時間がかかるとともに、感染や潜在的に拒絶反応の心配もある。さらに、消毒、保存、免疫抑制処理などによって移植片が劣化する恐れもある。一方、合成移植片は、しばしば、ナイロン、デクロンあるいはゴアテックスなどの繊維や炭素を含有するもので、1980年代には頻繁に使用されていた。しかし、骨による磨滅に弱く、滑膜炎をしばしば引き起こし、さらに生体とのなじみが悪いために現在では余り使用されなくなっている。
【0024】
以上のことから、安価で効果的かつ許容性が高く、好ましくない副作用をほとんどあるいは全く起こさず、摩擦や縫合、磨滅に対する機械的強度があり、接合および/または細胞の増殖・定着に優れ、生体組織と一体化できる部位を有し、さらに/または、十分な滑り性および/または、ほとんどあるいは全く細胞や組織との癒着を起こさない性質をもった部位を有し、一部または全体に分解性があり、縫合の際にすべることなく、施術中に再配置が必要となったときでも動かすことができ、さらに/または、特に外科医が簡単に使用できるような補綴物、特に擬生体的補綴物、を形成するための複合母材は依然として必要とされている。
【0025】
特に、好ましくない作用を最小に抑えつつ、例えば、ほとんどあるいは全く炎症を起こすことなく、かつ、癒着を起こすことなく繊維布に細胞を増殖・定着させることで腹壁またはじん帯を効果的に補強する埋め込み補綴物が必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
本発明の目的は、上記の問題のすべてあるいは一部を解決することにある。
【課題を解決するための手段】
【0027】
第一に、本発明は、少なくとも一種類の分解性巨大分子からなる少なくとも一つの第一層によって両側の表面がそれぞれ少なくとも90%以上被覆された補強繊維布部材を有する複合母材にある。
【0028】
上記の第一層は、繊維布部材の両側の表面に配置された二つの同じ層からなっていても良いし、あるいは、異なる層が両側の表面に配置されていてもよい。後者の場合、分解性巨大分子は同じだが異なる成分と組み合わされていても良いし、あるいは、それぞれの層で濃度が異なっていても良い。また、それぞれの層で異なる分解性巨大分子を使用していても良い。
【0029】
分解性巨大分子は、特に、生物由来もしくは合成または半合成由来のものであり、生物由来の巨大分子と結合した合成部分を有することが好ましい。
【0030】
本発明において「生物由来の巨大分子」とは生体から抽出されたポリマー、もしくは、それと同等の合成物であり、必要ならば、本発明に有用な性質を実質的に改変することなく、物理的、化学的あるいは酵素学的方法によって化学構造を変化させたものである。
【0031】
このような生物由来の分解性巨大分子は、例えば、タンパク質、特に分子量が10000Da以上のもの、あるいは、ポリアミノ酸、特に、分子量が1000Da以上のもの;多糖類、特に、糖単位が少なくとも10以上および/または分子量が1500Da以上のもの;核酸、特に、ヌクレオチドが少なくとも40以上および/または分子量が10000Da以上のもの、などから選択することができる。
【0032】
本発明において「合成巨大分子」とは化学合成されたポリマーで生体から抽出されないポリマー、特に、生物由来の巨大分子と同等ではない合成物を言う。
【0033】
分解性合成巨大分子は、例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、およびそれらの混合物;あるいはポリリジンのような合成ポリアミノ酸ヘテロあるいはホモポリマー、などから選択することができる。
【0034】
本発明において「分解性」とは、与えられた時間内に巨大分子が生体の細胞もしくは酵素系の中で壊れる性質を意味し、特に、生物体液に接触することによる加水分解あるいは化学的環境変化、例えば、pHの変化や酵素の攻撃を受けてオリゴマーやモノマー、あるいはモノマーの一部および/または構成要素を脱離させられることで分解する性質を言う。
【0035】
特に、本発明の分解性物質は、適応箇所あるいは皮下におかれた時、具体的には、ラットに埋め込まれた場合に、18カ月以下、好ましくは12カ月以下、さらに好ましくは8カ月以下、さらには4カ月以下、場合によって2か月以下で最後には完全に消滅してしまうものである。
【0036】
その一方で、本発明の分解性物質は、ラットの皮下に埋め込まれた場合、10日間、好ましくは20日間、さらには30日間、場合によっては40日間、始めの乾燥質量の少なくとも80%、好ましくは90%以上を保持することができるものである。
【0037】
本発明の分解性物質の評価は、マウスもしくはラットの皮下に埋め込むことで明確に測定することができる。試料母材の1cmを埋め込み、いくつかのパラメーター、具体的には埋め込み時間に対する質量減少を測定して、ここに記載された方法で母材が定着し機能するか否かを確認する。
【0038】
補強繊維布は10g/m以上、好ましくは15g/m以上、さらに好ましくは20g/m以上の密度を有している。
【0039】
一方、補強繊維布の密度は400g/m以下であり、好ましくは300g/m以下であり、さらに好ましくは200g/m以下である。
【0040】
補強繊維布の密度は15〜400g/m、好ましくは20〜200g/mである。
【0041】
本発明の第一の態様では、補強繊維布は非分解性でよい。特に、補強繊維布はポリプロピレンおよび/またはポリウレタンからなっていることが好ましい。
【0042】
本発明の別の態様では、補強繊維布は分解性である、特に、補強繊維布は、少なくとも1種類の生物由来の分解性巨大分子、および/または、少なくとも1種類の、コラーゲン、キトサン、シルク、ポリ乳酸(PLA)および/またはポリグリコール酸(PGA)、およびそれらの混合物などの合成もしくは天然ポリマーからなっていることが好ましい。
【0043】
特に、上記の分解性補強繊維布は、適応箇所あるいは皮下におかれた時、具体的には、ラットあるいはマウスに埋め込まれた場合に、18カ月で最後には完全に消滅してしまうことが好ましい。
【0044】
分解性補強繊維布の評価は、1cmの試料母材あるいは補強繊維布単体をマウスもしくはラットの皮下に埋め込み、いくつかのパラメーター、具体的には質量減少を測定することで行うことができる。
【0045】
補強繊維布は分解性、非分解性にかかわらず、2次元的でも3次元的でもよい。ここで「3次元的」とは、補強繊維布がある程度の太さを持った糸で作られた布地であることを言う。
【0046】
補強繊維布は、織布でも不織布でもニット生地でもよい。
【0047】
第一層は補強繊維布の表面を、少なくとも90%以上、好ましくは95%以上、特に好ましくは99%以上、最も好ましくは100%被覆するものである。
【0048】
第一層は、直接、繊維布に接していてもよいし、あるいは、中間層を介して繊維布から離れていてもよい。この中間層はどのような性質のものでもよい。
【0049】
態様によっては、第一層および/または中間層がヒアルロン酸とカルボキシメチルセルロースの混合物ではない場合もある。
【0050】
第一層は、様々な種類のコーティング方法によって形成することができる。
【0051】
表面コーティングによって補強繊維布の表面が第一層で被覆された母材を形成することが出来るが、一方で、ディープコーティングによれば第一層が補強繊維布と一体化して被覆するような母材を形成することが出来る。特に、後者の場合、繊維布は3次元的なものとなる。
【0052】
第一層は不織的なものでよい。特に、第一層は繊維質からなっているが、糸を含有している訳ではないことが好ましい。
【0053】
繊維布が完全に被覆されているか否かを判定するには、得られた母材を水和させればよい。この場合、もし被覆が完全ならば、触っても繊維布の感触を得ることはできない。あるいは、得られた母材が20℃の水に対して不浸透性を5分間以上示したなら、繊維布は完全に被覆されていると考えられる。
【0054】
第一層はI型、I+III型、III型および/またはIV型のコラーゲン、ポリアスパラギン酸やポリグルタミン酸などのポリアミノ酸、グリコサミノグリカン類、特に、硫酸化グリコサミノグリカン類、および、ヒアルロン酸およびカルボキシメチルセルロース以外の、グリコーゲンやアミロペクチン類のような天然または修飾多糖類によって構成できる。
【0055】
また、第一層は、2009年4月28日出願の出願番号FR09/52768に記載された腱の酸性線維性コラーゲン、あるいは、酸溶解性コラーゲンおよび/またはアテロコラーゲンを可変的比率で含有する皮膚の酸性線維性コラーゲンによっても構成できる。FR09/52768および下記に記載するこれらのコラーゲンによって抗癒着層を形成することができる。
【0056】
第一層中のコラーゲン、特に、FR09/52768に記載されたコラーゲンの含有量は、第一層の総重量に対する重量比で50〜100%、好ましくは75〜100%、さらに好ましくは90〜100%である。
【0057】
第一層中のコラーゲンは、特に、FR09/52768に記載されているように、グルタルアルデヒド、ホルムアルデヒドあるいは酸化多糖類によって架橋されていることが好ましい。
【0058】
第一層は、抗癒着層として機能させる場合、FR09/52768に記載のコラーゲンに加えて、ポリ−L−グルタミン酸および/またはポリ−L−アスパラギン酸を第一層の総重量に対する重量比で0.001〜50%、好ましくは0.001〜30%の濃度で配合することが好ましい。本明細書の記述において、FR09/52768に記載のコラーゲンは抗癒着性物質である。
【0059】
第一層がコラーゲン、特に、FR09/52768に記載のコラーゲンからなっている場合、それに加えて、サクシニル化コラーゲンが混合されていることが好ましい。このサクシニル化コラーゲンは抗癒着性を強化したり、表面を細胞との癒着に対して、より「はじく」ようにしたりする。
【0060】
第一層の外表面は、第一層の抗癒着性を向上させる物質によって被覆、あるいは、そのような物質と結合、あるいは、そのような物質を構造中に取り込んでいる。このような物質は、合成トリグリセリド類;脂肪酸、好ましくは出願番号FR2877669に記載された脂肪酸、特に、サクシニル化コラーゲンと結合した変性または非変性のコラーゲン;および/またはステアリン酸、ポリ−L−グルタミン酸および/またはポリ−L−アスパラギン酸と結合したコラーゲンから選択することができる。
【0061】
本明細書の記述において「構造中に取り込んでいる」とは、構造中、特に、第一層中に均一に分布していることを意味する。
【0062】
第一層の乾燥膜厚は、一般に10〜200μm、好ましくは30〜120μmである。ここで「乾燥膜厚」とは、水分量が第一層の総重量に対する重量比で25%以下であるときの膜厚である。
【0063】
第一層の密度は、一般に1〜20mg/cm、好ましくは3〜12mg/cmである。
【0064】
第一層の膨潤比は、一般に6未満であり、好ましくは2〜6である。
膨潤比は以下のようにして測定することができる。すなわち、20mgの試料を37℃、pH7.4の1Xリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に60分間浸漬する。60分後、過剰な水を吸収紙で取り除き、試料の重さを計測する。試料の乾燥時質量に対する湿潤時質量の比を計算することで膨潤比を得ることができる。
【0065】
第一層は架橋している場合、単独、すなわち繊維布の支持がない状態で1Nを超える、好ましくは1〜2.5Nの吻合強度を有することが好ましい。もちろん、補強繊維布と結合していれば、吻合強度はずっと大きくなる。
【0066】
さらに、第一層は少なくとも補強繊維布と同等の伸縮性を有している。すなわち、補強繊維布が最大限伸びたとしても、第一層が開裂してしまうことはない。このような開裂は視覚的に、すなわち、裸眼ではっきりと確認できる。
【0067】
第一層は架橋している場合、単独、すなわち繊維布の支持がない状態で2MPa超える、好ましくは4〜7MPaの引っ張り強度を有することが好ましい。もちろん、補強繊維布と結合していれば、引っ張り強度はずっと大きくなる。
【0068】
第一層、および、繊維布に関して必要に応じて設けられる他の層の(乾燥)重量は、繊維布の重量に対して10〜600%、好ましくは10〜400%である。
【0069】
第一層は、架橋コラーゲン、特に、FR09/52768に記載されているように、グルタルアルデヒド、ホルムアルデヒドあるいは酸化多糖類によって架橋されたコラーゲンからなることが好ましい。
【0070】
すなわち、本発明の複合母材は、FR09/52768に記載されているような、酸性域pHで反応しないアルデヒド架橋剤とともにアンモニアガスによる処理を行って酸性水溶液中で凝固およびそれに付随して架橋させることで得られたコラーゲンを第一層中に有している。
【0071】
第一層、好ましくはコラーゲンからなる第一層、さらに好ましくは架橋されたコラーゲンからなる第一層、特に好ましくはFR09/52768に記載されているようなグルタルアルデヒド、ホルムアルデヒドあるいは酸化多糖類によって架橋されたコラーゲンからなる第一層は、所望により、少なくとも一つの、以下に述べるような抗癒着性を向上させる物質によってコーティングされていてもよい。すなわち、このような第一層は、所望により、サクシニル化コラーゲンおよび/またはポリアミノ酸のような改質コラーゲンなど、抗癒着性を向上させる少なくとも一つの物質によってコーティングされており、繊維布の重量に対して10〜600%、好ましくは10〜400%の乾燥重量を有していることが好ましい。
【0072】
機械的強度(吻合強度およびストレス)は、引っ張り強度試験機を用いてダンパー付き5mm幅試験管によって測定することができる。吻合強度については、3/0号ポリアミド縫合撚糸を層に通し、吻合が破壊される最大の力を引っ張り強度試験機によって測定する。
【0073】
第一層のトリプシン酵素分解の割合は、層厚と架橋率によって決まるが、60%未満、好ましくは20〜35%である。
トリプシン酵素分解の割合を測定するには、10mg〜20mgの試料片を量り取り、3mLのpH7.6の1Xリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に浸漬したのち、500単位のトリプシンを加える。48時間の分解後、分解された試料を採取、脱水、秤量し、最初の重量に対する重量ロスを計算することで酵素分解の割合を見積もることできる。
【0074】
本発明の一つの態様として、繊維布の両面、すなわち、内側と外側の面で、外側面を被覆する第一外層と内側面を被覆する第一内層が同一であるような態様がある。特に、この場合は両側ともに抗癒着性であることが好ましい。
【0075】
また、異なる態様として、繊維布の両面、すなわち、内側と外側の面で、外側面を被覆する第一外層が内側面を被覆する第一内層と異なるような態様もある。本発明において「外側」とは内臓側に位置する側を意味し、「内側」とは筋肉側に位置する側を意味する。
【0076】
上記の場合、一方の面が抗癒着性で、他の面が癒着性であることが好ましい。特に、外側の面が抗癒着性、すなわち、上記したような第一抗癒着層でコーティングされ、内側の面が癒着性、すなわち、以下に述べるような癒着層でコーティングされていると好都合である。
【0077】
抗癒着性側には、上記および実施例に示したような第一抗癒着層が配置されていることが好ましい。
【0078】
癒着性側には、繊維布部材の表面を被覆する癒着層または、所望により、繊維布部材の表面上にある抗癒着層を被覆する癒着層が配置されていることが好ましい。このような癒着層は、いったん水分を含むと滑りが悪くなったり、接着強度を示したりするものである。すなわち、いったん母材を置けば、それ取り除くためには垂直方向に力を加えることが必要になり、さらに、例えば、縫合する際に術者の手によって平面に平行な方向に力が加わっても、母材が動くことがない。
【0079】
このような癒着層によって、細胞の増殖・定着が可能となり、さらには促進される。
【0080】
癒着層は、母材や補綴物が組織の上を滑って、置かれた位置からずれてしまうこと防止する。従って、例えば、縫合するときに母材や補綴物を押さえておくための特別な器具が不要になる。そのため、追加的な補助をしたり組織を固定したりしなくても、母材や補綴物を縫合したり針留めしたりすることが可能になる。
【0081】
さらに、癒着層があることで、組織上に置かれた母材や補綴物をはぎ取ることも可能になる。
【0082】
また、癒着層によって線維芽細胞の増殖が活性化されて、癒着層側で細胞形成が促進されるようになる。従って、より目的にかなった細胞形成を、より迅速に行うことができ、より天然の組織に近い形質を得ることができる。この理論に固執するつもりはないが、上記のような癒着層は、これらの優れた性質が得られる「制御された」炎症を引き起こすと考えられる。
【0083】
癒着層は、所望により通常の架橋法によりわずかに架橋されていてもよい、ゼラチン、非改質コラーゲン、アテロコラーゲンといった比較的非構造的なコラーゲン、ポリリジン、および/またはキトサンのような、好ましくは低分子量の多糖類からなっている。この多糖類は、架橋率がコラーゲンのNH当たりのCHOで0.001〜0.5の間、好ましくは、0.005〜0.2の間になるように酸化されることが可能なものである。
【0084】
癒着性側には、上記および実施例に示したような癒着層が配置されていることが好ましく、特に、FR09/52768に記載されているように、例えば、上記の癒着層でコーティングされていることが好ましい。
【0085】
第一抗癒着層は滑らか、および/または、非多孔質であってもよい。
【0086】
抗癒着層中の主な巨大分子、すなわち、乾燥重量で少なくとも50%以上、好ましくは75%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上を占める、あるいは、そのもの単独で層を構成している巨大分子は、FR09/52768に記載されている方法で得られたコラーゲンであることが好ましい。
【0087】
「FR09/52768に記載されている方法」とは、下記の方法である。すなわち、腱の酸性線維性コラーゲンを製造する方法であって、
a)豚、子牛、子羊あるいは子馬の腱、あるいは、それらの腱の混合物を0.1〜0.5Mの酢酸水溶液に、少なくとも7日間浸漬して膨潤させる工程、
b)得られた腱を機械的に撹拌して水性懸濁液を得る工程、
c)工程b)の水性懸濁液から線維性コラーゲンを沈殿させ、洗浄する工程、および
d)得られたコラーゲンを脱水する工程
からなる方法である。
【0088】
特に、線維性コラーゲンの採取は月齢10カ月未満の動物の腱を用いて行うことが好ましく、月齢10カ月未満の豚の腱を用いて行うことがより好ましい。
【0089】
第一の工程では、月齢10カ月未満の豚(子牛、子羊あるいは子馬でもよい)の足から腱を採取し、洗浄し、連結組織や腱以外の組織を可能な限り取り除いてから、約1cmの長さの切片に細分して水洗いする。
【0090】
膨潤は少なくとも7日間、長くても15日間、好ましくは15日間、0.1〜0.5Mの酢酸水溶液浴中で行う。酢酸水溶液浴は、腱1kgに対して、0.3Mの酢酸水溶液を20L〜30L、好ましくは25Lの割合で使用することが好ましい。
【0091】
第2の工程では、膨潤した腱の切片から長い腱線維が得られるように穏やかな撹拌を行う。膨潤した腱切片を含む浴液を、例えば、3000rpmで2分間撹拌し、水で希釈した後、同様の条件で乾燥物濃度で4.8〜6.5g/kgのペースト状になるまで撹拌する。
【0092】
第3の工程では、撹拌によって得られたペーストから線維性コラーゲンを沈殿させ、通常の方法で精製する。この工程では、塩化ナトリウムを用いて1回もしくは複数回コラーゲンを沈殿させる。このときの塩化ナトリウムの最終濃度は0.45〜1.2M、好ましくは0.6Mである。次に、析出したコラーゲンを0.45〜1.2M、好ましくは0.6Mの塩化ナトリウム溶液で1回もしくは複数回洗浄する。一般に、1Nの塩化ナトリウム溶液で20℃、1時間処理すればウイルスは失活すると考えられる。また、非コラーゲンタンパクは加水分解されるので、この工程で補助的な精製も行われる。工程の最後に、0.6Mの塩化ナトリウムで再び洗浄する。コラーゲンを脱水し塩類を除去するために、アセトン処理を行って乾燥線維を得る。
【0093】
上記の方法を腱に施すことによって、可溶性部分を維持しながらも組織片を含まず、長い線維を高濃度で含有するという点で、通常のコラーゲンとは異なるコラーゲンを得ることができる。
【0094】
酸性コラーゲンは、下記の工程からなる方法によって形成することができる。すなわち、
a)酸型コラーゲンを重量比で0.05〜3%含む水溶液を調製する工程、
b)コラーゲン水溶液を成型もしくは展延する工程、
c)アンモニアガスで処理をしてコラーゲン水溶液を凝固させる工程、および
d)アンモニアを除去してコラーゲンを得る工程、
である。
【0095】
特に好ましいコラーゲン形成法は下記の工程からなるものである。すなわち、
a)酸型コラーゲンを含む水溶液を調製する工程、
b)酸性pH域では反応しないアルデヒド架橋剤を加える工程、
c)コラーゲン水溶液を成型もしくは展延する工程、
d)アンモニアガスで処理をしてコラーゲン水溶液を凝固・架橋させる工程、および
e)アンモニアを除去してコラーゲンを得る工程、
である。
【0096】
第1の工程はコラーゲン水溶液を調製する工程である。ここでの「コラーゲン水溶液」はコラーゲン懸濁液も含むものとする。
【0097】
また「酸型コラーゲン」とは、ほとんどのカルボキシ部位がプロトン化されているコラーゲンを言い、水溶液中あるいは水懸濁液中で酸性pHを示すものである。
【0098】
コラーゲン素材としては、酸性線維性コラーゲンを使用することができる。
【0099】
「線維性コラーゲン」とは、コラーゲン分子がほとんど、あるいは、全くバラバラになることなく、弱い共有結合による自然な集合体の構造として線維や原線維(fibril)を形成しているようなコラーゲンを言う。線維性コラーゲンは、水性媒体に分散させると均一な懸濁液になる巨大粒子(水和時に5μmをはるかに越える)で形成されていることが好ましい。
【0100】
線維性コラーゲンは、皮膚の線維性コラーゲンまたは腱の線維性コラーゲンであることが好ましい。皮膚の線維性コラーゲンは、組織本来の働きのために比較的短い線維と、酸可溶性コラーゲンおよび小さな凝集体からなっている。腱の線維性コラーゲンは、比較的長い線維と難溶性コラーゲンからなっている。
【0101】
線維性コラーゲンは、腱の線維性コラーゲンであることがより好ましく、豚の腱の線維性コラーゲンであることがさらに好ましく、月齢10カ月未満の豚の腱の線維性コラーゲンであることが最も好ましい。
【0102】
腱の酸性線維性コラーゲンは上記の方法によって得ることが好ましく、長い線維を有していることが好ましい。
【0103】
上記のように第1の工程で、コラーゲンを水中に溶かすが、これは公知の文献に記載の標準的な方法で行うことができる。コラーゲンが酸性線維性コラーゲンである場合、この工程では、細線維状コラーゲンに覆われた線維と、いわゆる原線維性に必要な構造を有する可溶性コラーゲンとを懸濁させることになる。
【0104】
典型的なコラーゲン水溶液は、重量比で0.05〜3%、好ましくは0.05%、0.1%、0.8%、1%、1.5%、2%、2.5%あるいは3%のコラーゲンを含有している。重量比0.8%のコラーゲンを含有していると好都合である。通常、この水溶液化は機械的撹拌によって、好ましくは減圧下で行われる。得られた懸濁液もしくは水溶液を30℃〜100℃で2分〜20分間加熱して、コラーゲンを部分的もしくは完全に改質することもできる。
【0105】
上記の方法を使えば、成型もしくは展延によってどのような形状にするかで様々なコラーゲン素材を得ることができる。すなわち、コラーゲン素材は、膜状、マトリックス状、フィルム状、糸状、ゲル状、チューブ状あるいはスポンジ状などの形態にすることができる。
【0106】
コラーゲン水溶液の展延あるいは成型は、当業者には公知のものであり、文献等に記載されている。第2の工程では、このようにコラーゲン溶液を展延あるいは型に流し込んで成型するが、その厚さは必要とする素材や型の表面積によって変化する。
【0107】
コラーゲン膜は、線維と原線維を一定の比率で含有するコラーゲンの溶液もしくは均一な懸濁液を平らな型の上に展延し、乾燥することで得られる2次元素材である。コラーゲンは架橋されていてもいなくてもよい。最終的に得られる素材の厚さは、乾燥する懸濁液の濃度によって決まるが、通常、数ミクロン〜数百ミクロンの間である。
【0108】
コラーゲンフィルムは、均一なコラーゲン溶液を平らな型の上に展延し、乾燥することで得られる2次元素材である。コラーゲンは架橋されていてもいなくてもよい。最終的に得られる素材の厚さは、乾燥する溶液の濃度によって決まる。縫合や接着のために必要ならば、フィルムや膜は折りたたんで、閉じることのできるスリーブを形成することもできる。厚さは、通常、数ミクロン〜数百ミクロンの間である。コラーゲンチューブは、壁面がコラーゲンフィルムまたはコラーゲン膜で出来ている3次元中空円筒である。このようなチューブは、型芯の周りに膜を巻きつけるか、あるいは押出し法によって形成することができる。コラーゲンは架橋されていてもいなくてもよい。壁厚は型芯の周りに析出させるコラーゲンの量、あるいは使用する押出し液によって決まる。
【0109】
膜やフィルムを得るためには、コラーゲン溶液もしくは懸濁液を乾燥させて、平らな型の上に析出させて2次元素材を形成する。すなわち、膜やフィルムは溶媒を蒸発させることで形成される。
【0110】
コラーゲンチューブは、溶液もしくは懸濁液を円筒形の型の上に配置し析出させ、乾燥もしくは凍結乾燥させることで得られる。
【0111】
スポンジを得るためには、溶液やの溶媒を蒸発させるのではなく、溶媒を凍結乾燥して除去する。
【0112】
コラーゲンを凝固、成型するのにアンモニアを使用することはすでに知られていたが、一般に、例えば、押出し成型のときに溶液やゲルを凝固させるのにアンモニアが使用できるかは疑問であった。すなわち、アンモニア処理は浴中で、極めて急速に行うものであった。本発明の方法は、コラーゲン溶液中へのアンモニアの拡散速度に依存するものであるが、この拡散速度は本質的に溶液中のアンモニア濃度に依存する。コラーゲンとアンモニアはコラーゲンが凝固するのに十分な時間接触するが、同時に処理液全体が原線維性を有するようになる。このため、引っ張り強度、伸縮性、吻合強度などで、従来技術では得られなかった機械的特性を持ったコラーゲン素材を得ることができる。
【0113】
このように、第3の工程では、コラーゲンの凝固とフィブリル化(fibrillation)の両方が十分可能な時間、アンモニアで処理してコラーゲンの凝固を行う。典型的なアンモニアの処理時間は4、8、12、24、36〜48時間である。処理時間は24時間より長いことが好ましく、36時間であることがより好ましい。
【0114】
アンモニアの量は、コラーゲンゲルのpHが酸性pHから少なくとも8を超えるpHになるまで増加するように調整する。実際、コラーゲンの架橋はコラーゲンゲルのpHが少なくとも8を超える値に到達すると始まる。この長時間の処理によってコラーゲンのpHは徐々に増加し、凝固のみならずフィブリル化も起こるようになる。このフィブリル化によってメッシュが形成されるが、このメッシュによって得られる母材は、使用するコラーゲン線維の長さに応じた機械的強度と伸縮性の両方を有するようになる。
【0115】
アンモニアガスはアンモニア溶液から発生させることが好ましい。好適な量のアンモニアガスは、一般に、10℃〜25℃の少なくも30%以上のアンモニア溶液から得ることができる。この工程は、密封封止系の中で、アンモニアガスを系内に充満させてコラーゲン溶液に接触するようにして行うことが好ましい。この時、コラーゲン溶液はアンモニア溶液と接触しないようにする。
【0116】
得られたコラーゲンゲルを処理して過剰なアンモニアを除去し、そのまま保存しても、あるいは脱水しても良い。そのために、ゲルを吸湿剤および/またはアンモニア吸収剤を備えた密封系内に置いても良い。過剰なアンモニアを除去した後、ゲルを乾燥気流中において脱水すれば膜、フィルムおよびチューブが得られる。一方、ゲルを凍結乾燥すればスポンジ、3次元マトリックスあるいはチューブが得られる。ゲルは湿潤な状態で保存することが可能である。
【0117】
上記のコラーゲン素材の製造方法においては、高粘稠性液媒体中でフィブリル化が行われる。このフィブリル化は、アンモニアの拡散によるpHの増加に従って、溶液の外側から内側に向かって深さ方向に進行する。すなわち、pHが4〜5以上の値になるとフィブリル化が起こる。アンモニア蒸気法の利点は、母材を中和溶液に浸漬する必要がないので、時間を短縮でき、収益性、同質性を向上させられることである。
【0118】
コラーゲン医療素材の吸収速度を増加させるとともに、その機械的強度を強化したいときには、コラーゲン素材を架橋する必要がある。当業者には有名な数多くのコラーゲン素材の架橋法あり、それらは主に2種類に分類できる。すなわち、例えば、加熱脱水のような物理的架橋と、架橋剤を添加する化学的架橋である。最も一般的に使われているコラーゲン架橋剤は、アルデヒド剤、特に、ホルムアルデヒドおよびグルタルアルデヒドである。上記のようにして得られたコラーゲン素材はこれらの架橋法によって架橋することができる。
【0119】
コラーゲンあるいはコラーゲン素材の機械的強度は、上記のように架橋が進むにつれて増加する。この架橋工程は、コラーゲン素材製造方法の最終工程d)の後に行う。架橋工程は、例えば、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、酸化グリコーゲンおよび酸化アミロペクチンから選ばれる架橋剤を含む浴中にコラーゲン素材を浸漬することで行うことができる。
【0120】
架橋は単一の工程で行っても良いが、コラーゲンの凝固、フィブリル化に引き続いて行うことが好ましい。この場合、酸性pH領域ではコラーゲンと反応しないアルデヒド架橋剤を最初のコラーゲン溶液に加え、その後にアンモニア処理を行ってpHが少なくとも8を超えるようにする。
【0121】
アルデヒド架橋剤は多糖類から選択することが好ましく、酸化多糖類から選択することがさらに好ましい。特に、酸化グリコーゲンおよび酸化アミロペクチンから選択することが好ましい。本発明の方法に用いることのできる架橋剤は、例えば、酸化デンプン、酸化デキストランおよび酸化セルロースなどであり、これらは当業者によく知られている。アルデヒド架橋剤としては、酸化グリコーゲンが好ましい。
【0122】
架橋剤は、コラーゲンのNHに対するアルデヒド架橋剤のCHOの比率が、0.05、0.1、0.5、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5〜5になるように添加する。架橋剤の比率は、架橋剤の機能に応じて当業者によって調整できる。従って、コラーゲン溶液に加える架橋剤の量は、当業者の一般的な知識を用いることで決めることができる。
【0123】
フィブリル化に引き続いて架橋を行う場合、選択した酸化多糖類の濃厚(15%)水溶液を調製することが好ましい。架橋剤の酸化率および添加量は必要とする吸収および機械的物性に応じて決定する。このようにすれば、完全に制御された再現性のある量の架橋剤を(ホルマリン蒸気による架橋か、あるいは、例えば、浴中浸漬による架橋かの違いはあっても)、コラーゲンに添加することができる。この段階では添加する架橋剤だけの操作である。調製した架橋剤溶液は、展延または成型の前、すなわち、減圧下での均質化の最後にコラーゲン溶液に加える。これによって得られる液は、コラーゲンと架橋剤の均質な混合物であるが、両者の間に結合は存在せず、全体として塩基性pHにはなっていない。後続の工程はコラーゲンのフィブリル化と同じものである。すなわち、フィブリル化と架橋とを連続してこの順で行う。
【0124】
所望のフィブリル化と架橋を達成するためのアンモニア量およびアンモニアとの接触時間を決定することは当業者ならば可能である。
【0125】
本発明において、上記の工程はいくつかの理由で特徴的である。
アルデヒド多糖類による架橋は、すでに文献に記載されている(ギャグニーCHとフォレストPO、EP0862468)。この架橋は、架橋しようとする試料を酸化多糖類溶液に浸漬して、あるいは、試料中に酸化多糖類を添加して、その後に、(pHを増加させて)架橋反応を引き起こすような浴中に乾燥した試料を浸漬することで行われる。一般的に、pHの調整は緩衝液を用いて行う。これは良く知られている架橋法則(メイラード反応、すなわち、コラーゲンのNHと架橋剤のCHOとの反応)を考慮して、それ自体がアミノ残基を有する塩基によるpH調整を避けるためである。すなわち、アンモニアの存在下では、酸化多糖類はアンモニアのアミンと反応し、結果として、失活することが理論的に予想でき、架橋は起こらないものと考えられていた。
【0126】
しかし、実際は、アンモニアの存在はコラーゲンゲルのpHを大きく変化させ、架橋だけでなくフィブリル化もすることが判明した。驚くべきことに、アンモニアと架橋剤のアルデヒドとの間で起こり、架橋剤を失活させるとされていたメイラード反応は、アンモニアでもアルデヒドでも起こらないか、わずかしか起こらない、あるいは、酸化多糖類のアルデヒド基とコラーゲン中のリジンに含まれるアミンとの間の架橋反応と競争しないために、効率的な割合で架橋が起こる。このことは、この方法で架橋した素材が酸性水溶液に不溶となり、タンパク質分解酵素と接しても非架橋素材と比較して劣化が少なく、水和した状態での機械的物性、特に、機械的強度が非架橋素材と比較して向上しているという事実から証明できる。
【0127】
本発明は、また、少なくとも下記の工程を含む母材の製造方法を提供することも目的としている。すなわち、
−補強繊維布の外側表面の少なくとも90%以上、好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上、最も好ましくは全面を少なくとも1種類の、例えば、上記のような分解性巨大分子からなる層でコーティングする工程、および
−このようして得られた母材を、再度、被覆する工程
である。
【0128】
上記の方法は、本発明の母材を得るのに特に用いられる。
【0129】
特に、本発明の母材は、酸性pH領域では反応しないアルデヒド架橋剤と酸性コラーゲンとからなる第一層をアンモニアガスで処理する工程を含む方法によって得ることができる。
【0130】
より詳しく述べれば、上記の母材製造方法は下記の工程からなっている。すなわち、
a)少なくとも1種類の分解性巨大分子からなる層を製膜する工程、
b)補強繊維布を貼り付ける工程、
c)ゲル化する工程、
d)少なくとも1種類の分解性巨大分子からなる層を製膜する工程、
e)乾燥する工程、および
f)母材を、再度、被覆して、補強繊維布表面の少なくとも90%以上を少なくとも1種類の分解性巨大分子からなる層で被覆する工程、
である。
【0131】
工程a)およびd)の少なくとも一方における「少なくとも1種類の分解性巨大分子からなる層」は抗癒着層であることが好ましい。特に、コラーゲン、好ましくは抗癒着性にできる機能をもったコラーゲンから成っていることが好ましい。
【0132】
第一層は、上記したような方法および/またはFR09/52768に記載の方法によって得られた、もしくは、得ることのできるコラーゲンからなっていることが特に好ましい。また、目的とする効果に応じて、抗癒着性あるいは癒着性を示す物質、および/または、抗癒着性あるいは癒着性を強化する物資でコーティングされていたり、および/または、そのような物資が添加されていたりしても良い。
【0133】
上記の方法は、さらに、特に、工程a)の前、および/または、工程d)の後に、親水性物質をコーティングする工程を含んでいても良い。
【0134】
工程a)およびd)の一方における「少なくとも1種類の分解性巨大分子からなる層」は癒着層であることも好ましい。
【0135】
さらに、上記の方法には、特に、癒着層および/または抗癒着層を架橋する工程が含まれていても良い。この架橋はアンモニア蒸気にさらされることで開始もしくは触発されることが好ましい。
【0136】
架橋工程は工程d)の前または後に行うことができる。もちろん、2回の架橋工程を、1回目は工程d)の前、2回目は工程d)の後に行うことも可能である。
【0137】
従って、各々の層で異なる架橋をしたり、特定の層だけ架橋して他の層は架橋しないようにしたりすることが可能なので、分解性などの性質が異なる層を形成することができる。癒着性側には、細胞が増殖・定着する細胞外母材のための空間が迅速に形成される。
【0138】
さらにまた、本発明は、本発明の母材からなる補綴物を提供することも目的としている。この補綴物は外科手術用のものである。
【0139】
第一の態様の補綴物は、腹壁補強用またはじん帯の手術用である。この場合、使用する母材は内側が癒着性で外側が抗癒着性のものである。母材は2層タイプのものを使用することができる。例えば、補強用線維布の一方の面を抗癒着層で被覆し、他方の面を異なる癒着層で被覆したものが用いられる。
【0140】
第二の態様の補綴物は、じん帯の少なくとも一部、場合によっては全体を置きかえるようなものである。
【0141】
母材は、内側と外側、ともに同じ癒着性面を有していてもよい。母材の両面が同じであれば、母材は単層タイプのものを使用することができる。例えば、補強用線維布を唯一の分解性巨大分子層で包みこんだものが用いられる。
【0142】
母材は、内側と外側、ともに同じ抗癒着性面を有していてもよい。
【0143】
補綴物には、じん帯細胞を補綴物に引きつけ、定着、一体化させ、じん帯や腱の細胞が再生できるような生物学的組成物を使用する。例えば、じん帯用補綴物は、本発明の母材を「シート」として円筒状に巻くことで得ることができる。
【0144】
第三の態様の補綴物は、内側と外側、ともに同じ抗癒着性面を有する母材からなる補綴物である。
【0145】
本発明の母材を補綴物の製造、特に、腱やじん帯の一部もしくは全部と置き換わる、じん帯手術用補綴物の製造や、腹膜前もしくは腹腔内の位置に置いて腹壁を補強する補綴物の製造に用いることも本発明の目的である。
【0146】
以下に実施例を示すが、これらは単に本発明の説明をするためだけのものである。
【実施例1】
【0147】
多層母材
50mgのステアリン酸と結合した変性コラーゲン(結合比:26%、特許FR2877669の方法で調製する)を、60℃で25mLのエタノール/水混合物(体積比60:40)中に溶かす。
【0148】
得られた溶液を型の上に1cmあたりの変性コラーゲン量が0.4mgとなるような密度で展延し、制御された気流下で溶媒を蒸発させる。
【0149】
一方、800mgの腱の酸性線維性コラーゲン(FR09/52768の方法で得る)を100mLの水のなかで16時間、機械的に撹拌・分散する。均一な懸濁液が得られたら、酸化アミロペクチンをpH7.7リン酸緩衝液に溶かした15%溶液を、コラーゲンのNH1個につきアミロペクチンのCHOが0.4となるような割合で懸濁液中に加える。得られた粘稠懸濁液を、すでに変性コラーゲンが展延されている型の上に、1cmあたりのコラーゲン量が6mgとなるように展延し、得られたコラーゲン層の上に、密度150m/gのポリプロピレン繊維布を載せ置く。
【0150】
次に、30gの2.5%変性コラーゲン溶液を繊維布上に、繊維布の面積当たり5mg/cmの密度で展延する。
【0151】
これらのコラーゲン溶液と繊維布を載せた型を、2mLの30%アンモニアを含む3Lの密閉容器内に20℃で24時間静置する。得られたゲルを、アンモニア吸収剤と吸湿剤を備えた密閉容器内に置いて、過剰のアンモニアを除去するとともに、ゲルに含まれる水分を蒸発させて、水分量が20%未満の素材を得る。
こうして得られる母材は、腹壁を補強するのに好適に用いることができる。
【実施例2】
【0152】
単層母材
400mgの腱の酸性線維性コラーゲン(FR09/52768)を10Lの水のなかで16時間、機械的に撹拌して分散させる。
【0153】
均一な溶液が得られたら、酸化グリコーゲンをpH7.7リン酸緩衝液に溶かした15%溶液を、コラーゲンのNH1個につきアミロペクチンのCHOが0.25となるような割合で懸濁液中に加える。
【0154】
均質化の後、得られた粘稠懸濁液を密度4mg/cmで型の上に展延し、その上に、型表面の面積当たり250g/mの密度の繊維布を載せる。
【0155】
コラーゲン溶液と繊維布を載せた型を、160mLの32%アンモニアが均質に充満した約300Lの密閉容器内に入れて20℃で1時間静置する。
【0156】
上記のフィブリル化および架橋の時間の後、上記溶液を密度4mg/cmで繊維布上に展延して別の層を形成する。
【0157】
型を再び密閉容器内に入れ、20℃で48時間静置して、フィブリル化および架橋を終了させる。
【0158】
得られたゲルを、アンモニア吸収剤を備えた密閉容器内に置いて、過剰のアンモニアを除去して、2層のコラーゲン膜に挟まれた線維布を得る。
こうして得られる母材は、じん帯を補強するのに好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つの第一層によって両側の表面がそれぞれ少なくとも90%以上被覆された補強繊維布部材を有する複合母材であって、前記第一層が少なくとも一種類の分解性巨大分子からなり、第一層内のコラーゲン含有量が第一層の総重量に対して、重量比で50%〜100%、好ましくは75%〜100%、さらに好ましくは90%〜100%である複合母材。
【請求項2】
分解性巨大分子が生物由来であることを特徴とする請求項1に記載の複合母材。
【請求項3】
生物由来の分解性巨大分子が、
−タンパク質、特に分子量が10000Da以上のタンパク質;ポリアミノ酸、特に、分子量が1000Da以上のポリアミノ酸ヘテロまたはホモポリマー、
−多糖類、特に、糖単位が少なくとも10以上および/または分子量が1500Da以上の多糖類、および
−核酸、特に、ヌクレオチドが少なくとも40以上および/または分子量が10000Da以上の核酸
から選ばれるものであることを特徴とする請求項2に記載の複合母材。
【請求項4】
分解性巨大分子が合成物であることを特徴とする請求項1に記載の複合母材。
【請求項5】
分解性合成巨大分子が
−ポリ乳酸、ポリグリコール酸、およびそれらの混合物、および
−ポリリジンのような合成ポリアミノ酸ヘテロあるいはホモポリマー、
から選ばれるものであることを特徴とする請求項4に記載の複合母材。
【請求項6】
第一層が、I型、I+III型、III型および/またはIV型のコラーゲン、ポリアミノ酸、グリコサミノグリカン類、天然または修飾多糖類、およびそれらの混合物から選ばれる少なくとも一つの化合物からなることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の複合母材。
【請求項7】
第一層が、腱の酸性線維性コラーゲン、および、酸溶解性コラーゲンおよび/またはアテロコラーゲンを可変的比率で含有する皮膚の酸性線維性コラーゲン、および、それらの混合物からなることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の複合母材。
【請求項8】
第一層のコラーゲンが架橋されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の複合母材。
【請求項9】
第一層の架橋されたコラーゲンが、酸性域pHで反応しないアルデヒド架橋剤とともにアンモニアガスによる処理を行って酸性水溶液中で凝固およびそれに付随して架橋させたことで得られたものであることを特徴とする請求項8に記載の複合母材。
【請求項10】
第一層の乾燥膜厚が10〜200μm、特に、30〜120μmであることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の複合母材。
【請求項11】
第一層の密度が、1〜20mg/cm、特に、3〜12mg/cmの範囲にあることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の複合母材。
【請求項12】
第一層が、特に、その一方の面を、合成トリグリセリド類および脂肪酸と結合した変性または非変性のコラーゲンから選ばれる少なくとも一つの物質によって、特には、ステアリン酸、サクシニル化コラーゲン、ポリ−L−グルタミン酸および/またはポリ−L−アスパラギン酸と結合したコラーゲンによって被覆されていることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の複合母材。
【請求項13】
抗癒着性第一層によって被覆された第一の面と、癒着層、特に、細胞の増殖・定着に好適な癒着層によって被覆された第二の面とを有することを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の複合母材。
【請求項14】
癒着層が、ゼラチン、変性コラーゲン、アテロコラーゲン、あるいは、場合によっては、わずかに架橋していてもよい、ポリリジンおよび/またはキトサンのような多糖類といった低構造性コラーゲンからなることを特徴とする請求項13に記載の複合母材。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれかに記載の複合母材からなり、特に外科手術のために、さらに特には、腹壁の補強のために、もしくは、じん帯の少なくとも一部と置きかえるために用いられる補綴物。
【請求項16】
少なくとも、
−少なくとも一種類の分解性巨大分子からなる第一層であって、コラーゲンの含有量が第一層の総重量に対して、重量比で50%〜100%、好ましくは75%〜100%、さらに好ましくは90%〜100%であるような少なくとも一つの第一層によって、補強繊維布部材の両側の表面をそれぞれ少なくとも90%以上、好ましくは、少なくとも95%以上、さらに好ましくは、少なくとも98%以上、最も好ましくは全面にわたって被覆する工程、および
−このようして得られた母材を、再度、被覆する工程
を含む母材の製造方法。
【請求項17】
酸性pH領域では反応しないアルデヒド架橋剤と酸性コラーゲンとからなる第一層をアンモニアガスで処理する工程を含むことを特徴とする請求項16に記載の方法。

【公表番号】特表2013−516201(P2013−516201A)
【公表日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−546392(P2012−546392)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際出願番号】PCT/EP2010/066328
【国際公開番号】WO2011/079976
【国際公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(511260724)
【氏名又は名称原語表記】BIOM’UP
【Fターム(参考)】