複合積層構造およびそれによって形成される複合積層構造を製造するための方法
樹脂含浸織物層と樹脂含浸織物層の間に独立気泡コアを備えた樹脂含浸積層複合構造を製造するための方法、およびこのような方法によって形成される予備構造ならびに複合構造である。この方法には、コアを構造的に補強するように、コアを含む予備構造に粗糸を縫い付けるステップが含まれる。粗糸は、コア中の貫通孔を通り、予備構造の両外部表面を横断する。粗糸が横断する予備構造の外部表面は、コアの外部表面によって画定することができ、あるいは予備構造は、織物層と織物層の間にコアが位置し、粗糸が1つまたは複数の織物層を貫通し、かつ、粗糸が横断する予備構造の外部表面のうちの少なくとも一方が織物層によって画定されるように、コアの外部表面に複数の織物層をさらに含むことができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に複合物品およびそれらを製造するための方法に関する。より詳細には、本発明は、樹脂含浸織物積層物を備えた複合構造に関し、また、このような構造の負荷能力(せん断および厚さ全体にわたる張力を含む)を強化するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機エンジンナセル構成部品(例えばエンジン入口、スラストリバーサ、コアカウルおよびトランスカウル)および他の航空機構造(音響パネルを含む)に使用される典型的な構成は、比較的より薄い頂部複合層と底部複合層の間、すなわちスキンとスキンの間にコア材料を備えたサンドイッチ型層状構造である。コア材料は、通常、連続気泡、または他の多孔性構造を有する軽い材料である。特定の例には、連続気泡セラミック、金属、炭素および熱可塑性発泡体、ならびに例えばNOMEX(登録商標)アラミド繊維で形成されたハニカムタイプの材料がある。複合スキンには様々な材料が使用されており、広く使用されている材料には、樹脂(例えばエポキシ樹脂)で含浸された織物材料(例えば黒鉛織物)がある。これらの層状構造を製造するための従来の方法は、織物を樹脂で含浸させ、次に含浸済みスキンを予備硬化させることによって複合スキンを個別に製造することである。予備硬化した含浸済みスキンは、次いで加圧および加熱下でコア材料に結合される。この結合は、通常、オートクレーブ内で実施され、その間にさらに硬化される。この方法に伴う欠点には、サイクルタイムが長いこと、設備投資が高いこと、複雑な幾何形状を実施しようとするとそれが困難であることが含まれる。
【0003】
層状複合構造を製造するための代替方法には、樹脂トランスファー成形(RTM)、およびオートクレーブの使用を必要としない真空補助樹脂トランスファー成形(VaRTM)などのプロセスの使用を可能にする、独立気泡、または他の非多孔性構造を有するコア材料の使用が含まれる。独立気泡コア材料の例には、木材(例えばバルサ木材)および他のセルロース誘導体材料、ならびに独立気泡低密度構造発泡体材料があり、この材料の特に顕著な例は、Evonik Industries(以前はDegussa)からROHACELL(登録商標)の名称で市販されているポリメタクリルイミドで形成される。オートクレービング工程に伴うコストおよび投資の欠点は克服されるが、構造発泡体を使用にはある種の欠点、特に、得られる複合構造のせん断および張力負荷能力の点で欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第5267519号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明によれば、樹脂含浸織物層と樹脂含浸織物層の間に独立気泡コアを備えた樹脂含浸積層複合構造を製造するための方法、およびこのような方法によって形成される複合構造が提供される。本発明を使用して、エンジン入口、スラストリバーサ、コアカウルおよびトランスカウルを含む航空機エンジンナセル構成部品、ならびに他の航空機構造(主翼の前縁および後縁のフェアリングなど)および様々な他のサンドイッチ型層状構造を製造することができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様によれば、方法には、コアを構造的に補強するように、コアを備えた予備構造に粗糸を縫い付けるステップが含まれる。粗糸は、コア中の貫通孔を通り、予備構造の両外部表面を横断し、粗糸および樹脂がコア中の貫通孔を閉じる。粗糸がコアを貫通する角度を調整することにより、コアのための所望のせん断および張力負荷能力を得ることができる。
【0007】
本発明の第2の態様によれば、粗糸が横断する予備構造の外部表面は、コアの外部表面によって画定することができ、その場合、この方法は、少なくとも2つの織物層の間にコアが位置するように、縫い付けるステップの後に少なくとも2つの織物層をコアの外部表面に加えるステップをさらに含むことができる。粗糸は、少なくとも2つの織物層のいずれをも貫通することはなく、粗糸は、少なくとも2つの織物層によって覆われている。
【0008】
本発明の第3の態様によれば、予備構造は、2つの織物層の間にコアが位置するように、コアの外部表面に少なくとも2つの織物層をさらに備えることができる。次に、少なくとも2つの織物層のうちの少なくとも1つを粗糸が貫通することになり、また、少なくとも1つの織物層が、粗糸が横断する予備構造の外部表面のうちの少なくとも一方を画定することになる。
【0009】
本発明のさらに他の態様は、上で説明した予備構造およびそれを使用して形成される樹脂含浸積層複合構造である。
【0010】
本発明の有意な利点には、負荷能力を改善し(特にせん断および厚さ全体にわたる張力の点で)、かつ、それぞれ独立気泡コア材料およびRTM/VaRTMプロセスを含む、より低コストなコア材料およびプロセスの使用を可能にする可能性が含まれる。したがって、オートクレーブを必要とすることなく硬化プロセスを実施する能力、および低コストなツーリングの使用を可能にするより低い硬化温度の使用を含む本発明により、サイクルタイムをより短くすることができ、また、設備投資を著しく削減することができる。また、この方法は、幾何形状が比較的複雑な複合構造の製造と両立する。
【0011】
本発明の他の態様および利点は、以下の詳細な説明からより深く理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】航空機エンジンナセルのために使用されるタイプのファンカウルの斜視図である。
【図2】従来技術で知られているタイプのハニカムコアを備えた複合構造を概略的に示す図である。
【図3】従来技術で知られているタイプの独立気泡コアを備えた複合構造を概略的に示す図である。
【図4】本発明の第1の実施形態による粗糸補強を備えた独立気泡構造発泡体コアの横断面図を概略的に示す図である。
【図5】本発明の第1の実施形態による一対の織物スタックの間に図4の粗糸補強コアを備えた複合構造の横断面図を概略的に示す図である。
【図6】本発明の他の実施形態による複合構造全体にわたって粗糸補強を備えた、一対の織物スタックの間に独立気泡構造発泡体コアを備えた複合構造の横断面図を概略的に示す図である。
【図7】本発明の他の実施形態による複合構造全体にわたって粗糸補強を備えた、一対の織物スタックの間に独立気泡構造発泡体コアを備えた複合構造の平面図を概略的に示す図である。
【図8】図6の複合構造に類似しているが、本発明のさらに他の実施形態による複合構造全体にわたって斜角で配置された粗糸補強を備えた複合構造の横断面図を概略的に示す図である。
【図9】図4の実施形態による、黒鉛粗糸による補強の前の独立気泡構造発泡体の走査イメージを示す図である。
【図10】図4の実施形態による、黒鉛粗糸による補強の後の独立気泡構造発泡体の走査イメージを示す図である。
【図11】図4または6のいずれかの複合構造、および図1のファンカウルの半分を成形するためにその複合構造が上に置かれる型の分解図を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本発明の処理ステップを使用して製造することができる2つのエンジン入口(ファン)カウル12を有する航空機エンジンナセル10を示したものである。本発明は、ファンカウル12を参照して説明されているが、本発明は、それには限定されないが、他の航空機エンジンナセル構成部品(例えばスラストリバーサ、コアカウルおよびトランスカウル)および他の航空機構造(例えば音響パネル)を含む、複合構造を有することによって利点を得ることができる様々な構成部品に適用することができることを理解されたい。
【0014】
個々のファンカウル12は、一対の外部スキンの間にコア層を含む樹脂含浸複合構造を有している。図2および3は、ファンカウルのための従来の構造の2つの例を示したものである。個々の例において、コア14は、個々の織物層の樹脂含浸スタック16の間に配置されている。図2のコア14は、連続気泡ハニカム材料で構築されており、連続通路26がコア14全体にわたって通っている。このタイプのコア材料の非限定的な例は、上で言及したNOMEX(登録商標)アラミド繊維である。このようなコア材料は当分野でよく知られており、したがって詳細な説明は省略する。通路26は、通常、六角形の断面形状を有しており、典型的な気泡幅は約3ミリメートル乃至約10ミリメートルであるが、より狭い幅およびより広い幅も予見可能な範囲であることに言及しておくだけで十分であろう。一方、図3のコア14は独立気泡、または他の、図2の連続通路26がない非多孔性材料で構築されている。このタイプのコア材料の非限定的な例は、上で言及した、ROHACELL(登録商標)の名称で市販されているポリメタクリルイミド発泡体材料である。コア14のために使用することができる他の非多孔性材料には、木材および他のセルロース誘導体材料があり、この材料の特に顕著な例はバルサ木材である。これらのコア材料も同じく当分野ではよく知られており、したがって詳細な説明は省略する。コア14の厚さは、製造される複合構造の特定の応用例によって決まる。例えばファンカウルの場合、典型的な厚さは約12ミリメートル乃至約25ミリメートルであるが、これよりはるかに薄い厚さ、およびはるかに厚い厚さも予見可能な範囲である。
【0015】
織物スタック16およびそれらの個々の織物層は、樹脂で含浸させる前は「ドライ」織物と呼ぶことができる。ドライ織物は様々な材料で形成することができ、それらの非限定的な例には、黒鉛繊維、ガラス繊維、重合体(例えばKevlar(登録商標)などのアラミド)繊維およびセラミック(例えばNextel(登録商標))繊維で形成された織物がある。コア14の場合と同様、織物層の適切な個々の厚さ、および織物スタック16を形成するためのこれらの層の総合厚さは、製造される複合構造の特定の応用例によって決まる。一例としてファンカウルの場合、個々の織物層の典型的な個々の厚さは約0.2ミリメートル乃至約0.4ミリメートルであり、また、織物スタック16の典型的な厚さは約1.3ミリメートル乃至約2.5ミリメートルであるが、これよりはるかに薄い厚さ、およびはるかに厚い厚さも予見可能な範囲である。
【0016】
本発明の特定の態様によれば、図1のファンカウル12を製造するために使用されるコアは、図3を参照して言及されている独立気泡構造発泡体材料を含む独立気泡構造発泡体材料であることが好ましい。しかしながら、図4乃至8に示されているように、コア14は、そのせん断および張力負荷能力を促進し、かつ、より低コストな材料およびRTM/VaRTMプロセスなどのプロセスを含む構造発泡体材料の特定の利点を維持するために補強されている。図4乃至8では、粗糸28は、コア14の厚さ全体にわたって、あるパターンで縫い付けられており、また、図6乃至8に示されているように、粗糸28は、コア14の両外部表面22および24に加えられた織物スタック16の厚さ全体にわたってさらに縫い付けることも可能である。図4および5では、粗糸28はコア14の外部表面22および24を横断し(図4)、一方、図6乃至8では、粗糸28は、織物スタック16によって画定された外部表面30および32を横断する。
【0017】
図4には、図3の織物スタック16がない構造発泡体コア14が示されている。この実施形態では、粗糸28がコア14の外部表面22と24の間の部分を横断するように、粗糸28をコア14の厚さにわたって、あるパターンで縫い付けることによってコア14の独立気泡発泡体構造が直接補強され、それによりコア14の構造強度が強化されている。図4のコア14は、単独で縫付け操作のための予備構造を画定している。図5は、織物スタック16と、コア14の表面22および24に露出した粗糸28とが重畳するように、含浸されていない一対のドライ織物スタック16の間に位置している図4の粗糸補強コア14を示したものである。コア14および織物スタック16は、それらを合わせて積層構造18と呼ぶことができ、その外部表面30および32はスタック16によって画定されている。図5に示されているように、織物スタック16には未だ樹脂で含浸されていない。樹脂の含浸は、以下で説明するように引き続いて実施することができ、それにより織物スタック16がコア14に結合され、樹脂含浸複合構造が得られる。
【0018】
図6乃至8は代替実施形態を示したもので、コア14およびドライ織物スタック16は、コア14およびその織物スタック16によって形成された積層構造18全体を粗糸28が構造的に補強するように、粗糸28で合わせて縫い付けられている。図6および8の実施形態は、図6では、粗糸28がコア表面22および24ならびに積層構造18の外部表面30および32(スタック16によって画定されている)に対して直角で図6のコア14を貫通し、一方、図8では、粗糸28がコアおよび外部表面22、24、30および32に対して斜角(約45度)でコア14を貫通している点で異なっている。これらの実施形態の各々は、発泡体コア14および織物スタック16が合わせて縫い付けられているため、より損傷許容性のある構造を提供することができる。図4および5の実施形態の場合と同様、図6および7の織物スタック16は、引き続いて樹脂含浸プロセスが実施され、それにより織物スタック16が含浸され、かつ、スタック16がコア14に結合されるように、ドライ状態であることが好ましい。図5および6のコア14および織物スタック16は、縫付け操作の前は予備構造と呼ぶことができ、縫付け操作によってその外部表面30と32(スタック16によって画定されている)の間を粗糸28が横断する。
【0019】
粗糸28は、通常、実質的に平行の連続繊維のコードまたはロープであり、黒鉛、ガラス、重合体(例えばKevlar(登録商標)などのアラミド)で形成することができ、あるいはコア14および織物スタック16の材料との温度抵抗、強度および化学的互換性の点で同様の特性を有する他の材料で形成することができる。単一の粗糸28を使用してコア14または積層構造18を補強することができ、あるいは複数の個別の粗糸28を使用することも可能である。粗糸28は任意の数の連続繊維を備えることができるが、少なくとも3000フィラメントであることが好ましく、また、黒鉛粗糸28の場合、約12,000フィラメント程度であることが好ましい。フィラメントの適切な直径は、特定の応用例およびフィラメント材料に応じて広範囲にわたって変更することができる。粗糸28の適切な直径は、粗糸28中のフィラメントの材料、直径および数、ならびにフィラメント、コア14および織物スタック16のために選択される応用例および材料によって決まる。
【0020】
粗糸28は、ドライ粗糸であっても、あるいは織物スタック16に含浸させるのに適した樹脂を含む樹脂で予め含浸された粗糸であってもよい。図4乃至8の実施形態の場合、ドライ状態で粗糸28を縫い付けた後に樹脂で含浸させ、硬化させることも、あるいは樹脂で含浸された状態で粗糸28を縫付け、硬化させることも可能である。図4および5の実施形態の場合、粗糸28の樹脂の硬化は、引き続いてコア14の表面22および24に積層される樹脂含浸織物スタック16を硬化させる前、または樹脂含浸織物スタック16の硬化と同時に実施することができる。図6乃至8の実施形態の場合、粗糸28に含浸させるために使用される樹脂の硬化は、織物スタック16に含浸させるために使用される樹脂の硬化と同時に実施されることが好ましい。織物スタック16および粗糸28の樹脂含浸は、真空補助樹脂トランスファー成形(VaRTM)プロセスまたは樹脂トランスファー成形(RTM)プロセスによって実施することができる。注目すべきことには、コア14の構造が独立気泡構造であるため、コア14が連続気泡構造を有している場合のような最終複合構造の不必要な重量の増加を伴うことなく、織物スタック16を濡らすための樹脂注入を単一ステッププロセスで達成することができる。他の樹脂含浸および注入プロセスも可能であり、本発明の範囲内である。別法としては、粗糸補強発泡体コア14を、オートクレーブ内で高圧で硬化される含浸済み織物スタック16と共に使用することも可能である。
【0021】
図7は、チェッカー盤パターンを画定している粗糸28を示したものであるが、他のパターンも本発明の範囲内である。粗糸28のパターンは、コア14および任意選択で織物スタック16(存在している場合)を貫通する微小な孔を穿つことによって展開することができる。コア表面22および24(図4)ならびに繊維スタック表面30および32(図6)に対する直角配向から、これらの表面22、24、30および32に対する斜角まで、コア14の厚さを貫通する縫付け角度を変えることによってパターンを変更することができ、それにより所望の張力またはせん断強度を得ることができる。また、パターンの密度(孔の間隔)を調整して粗糸28の補強効果に影響を及ぼすことも可能である。貫通孔34の中心間の間隔を約25ミリメートルにすることによって適切な結果が得られ、孔の中心間の間隔は、約10ミリメートル程度の長さから約50ミリメートル程度の長さが好ましい範囲であると思われる。図4乃至8には一様な孔間隔が示されているが、非一様な孔間隔を使用することも可能であり、例えばより高い孔密度(したがってより高い粗糸密度)を利用してコア14および/または積層構造18の剛性または強度を修正することも予見可能な範囲である。
【0022】
貫通孔34は、穴抜き、機械穿孔またはレーザ穿孔等を含む様々な技法を使用して形成することができる。所与の応用例に対する特に適切な孔形成プロセスは、コア14の特定の材料、サイズ、形状および厚さによって決まる。貫通孔34内の粗糸28部分への樹脂の含浸を促進するためには、場合によっては、粗糸28の直径に対して著しく大きい状態で貫通孔34を形成することが望ましいか、あるいはそのようにしなければならない。例えば、粗糸28の直径より約0.7mm、より好ましくは約1.0mm乃至約1.3mm大きい直径を有するように貫通孔34を形成することができる。貫通孔34の特に適切な直径および間隔は、粗糸28に浸透させるために使用される特定の樹脂によって決まり、これには樹脂の粘性および他の流動特性が含まれる。貫通孔34は、縫付けおよび樹脂含浸に引き続いて、粗糸28および樹脂の組合せによってその全体が塞がれることが好ましい。
【0023】
図9は、コア14内に貫通孔34が形成された後で、かつ、粗糸で縫い付けられる前の独立気泡構造発泡体コア14の走査イメージである。図10は、図4の実施形態に対応する、黒鉛粗糸28で補強された後の図9のコア14を示す走査イメージである。
【0024】
粗糸28および織物スタック16に浸透させるために使用される樹脂として、広範囲にわたる様々な重合材料を選択することができる。樹脂の原理的役割は、粗糸28および織物スタック16に浸透してそれらの個々の繊維状材料のための基質材料を形成することであり、したがって樹脂は、粗糸28および織物スタック16、ならびに全体としての積層構造18の構造的強度および他の物理的特性に寄与している。したがって樹脂は、粗糸28および織物スタック16と組成的に両立しなければならない。さらに、樹脂はコア14の表面22および24と接触し、また、コア14中の貫通孔34の壁と接触することになるため、樹脂は、同じく、コア14を形成している材料とも組成的に両立しなければならない。また、樹脂は、コア14、織物スタック16および粗糸28の材料を熱的に劣化させない、あるいはこれらの材料に悪影響を及ぼさない温度および条件下で硬化させることができなければならない。これを基に、特に適切な樹脂材料は、硬化温度が通常200℃未満、例えば約180℃であるエポキシが含まれると考えられる。
【0025】
図11は、図1のカウル12のうちの一方を製造するのに適した型38の型空洞表面36のコア14および2つの織物スタック16(粗糸28を除く)の配置を概略的に示したものである。コア14および織物スタック16によって形成された非含浸(ドライ)スタック積層構造18は、型38の上に置かれると、その形状が型38の表面36の形状と一致する。成形システムの他の可能な構造構成部品は、織物スタック16に樹脂を浸透させ、かつ、得られた樹脂含浸スタック構造を硬化させるために使用される技法によって決まる。例えば、真空補助樹脂トランスファー成形(VARTM)方式が使用される場合、積層構造18がバッグ40によって覆われ、それにより、バッグ40が積層構造18を圧縮し、構造18を介して樹脂を吸引することができるように、型空洞表面36とバッグ40の間を真空にすることができる。オートクレーブプロセスでも同様にバッグ40を使用することができ、それにより、バッグ40が積層構造18を圧縮し、織物スタック16を介した樹脂の流れが促進されるように、バッグ40の上部表面に圧力が印加される。樹脂が織物スタック16および粗糸28に十分に浸透すると、得られた樹脂含浸スタック構造を樹脂を硬化させる十分な温度に、十分な期間の間、加熱することができる。浸透/含浸および硬化温度、圧力/真空レベル、ならびに浸透および硬化サイクルの他のパラメータは、使用される特定の材料によって決まり、慣例的な実験によって決定することができる。
【0026】
以上、本発明について、特定の実施形態に関して説明したが、当業者は他の形態を採用することができることは明らかである。例えば、樹脂を浸透させる前、および樹脂を浸透させた後の両方の複合構造の物理的構成は、示されている物理的構成とは異なっていてもよく、また、言及されている材料およびプロセスとは異なる材料およびプロセスを使用することも可能である。したがって本発明の範囲は、特許請求の範囲によってのみ制限される。
【符号の説明】
【0027】
10 航空機エンジンナセル
12 エンジン入口(ファン)カウル
14 コア
16 織物層の樹脂含浸スタック(織物スタック)
18 積層構造
22、24 コア14の両外部表面
26 連続通路
28 粗糸
30、32 織物スタック16によって画定された外部表面
34 貫通孔
36 型空洞表面
38 型
40 バッグ
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に複合物品およびそれらを製造するための方法に関する。より詳細には、本発明は、樹脂含浸織物積層物を備えた複合構造に関し、また、このような構造の負荷能力(せん断および厚さ全体にわたる張力を含む)を強化するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機エンジンナセル構成部品(例えばエンジン入口、スラストリバーサ、コアカウルおよびトランスカウル)および他の航空機構造(音響パネルを含む)に使用される典型的な構成は、比較的より薄い頂部複合層と底部複合層の間、すなわちスキンとスキンの間にコア材料を備えたサンドイッチ型層状構造である。コア材料は、通常、連続気泡、または他の多孔性構造を有する軽い材料である。特定の例には、連続気泡セラミック、金属、炭素および熱可塑性発泡体、ならびに例えばNOMEX(登録商標)アラミド繊維で形成されたハニカムタイプの材料がある。複合スキンには様々な材料が使用されており、広く使用されている材料には、樹脂(例えばエポキシ樹脂)で含浸された織物材料(例えば黒鉛織物)がある。これらの層状構造を製造するための従来の方法は、織物を樹脂で含浸させ、次に含浸済みスキンを予備硬化させることによって複合スキンを個別に製造することである。予備硬化した含浸済みスキンは、次いで加圧および加熱下でコア材料に結合される。この結合は、通常、オートクレーブ内で実施され、その間にさらに硬化される。この方法に伴う欠点には、サイクルタイムが長いこと、設備投資が高いこと、複雑な幾何形状を実施しようとするとそれが困難であることが含まれる。
【0003】
層状複合構造を製造するための代替方法には、樹脂トランスファー成形(RTM)、およびオートクレーブの使用を必要としない真空補助樹脂トランスファー成形(VaRTM)などのプロセスの使用を可能にする、独立気泡、または他の非多孔性構造を有するコア材料の使用が含まれる。独立気泡コア材料の例には、木材(例えばバルサ木材)および他のセルロース誘導体材料、ならびに独立気泡低密度構造発泡体材料があり、この材料の特に顕著な例は、Evonik Industries(以前はDegussa)からROHACELL(登録商標)の名称で市販されているポリメタクリルイミドで形成される。オートクレービング工程に伴うコストおよび投資の欠点は克服されるが、構造発泡体を使用にはある種の欠点、特に、得られる複合構造のせん断および張力負荷能力の点で欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第5267519号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明によれば、樹脂含浸織物層と樹脂含浸織物層の間に独立気泡コアを備えた樹脂含浸積層複合構造を製造するための方法、およびこのような方法によって形成される複合構造が提供される。本発明を使用して、エンジン入口、スラストリバーサ、コアカウルおよびトランスカウルを含む航空機エンジンナセル構成部品、ならびに他の航空機構造(主翼の前縁および後縁のフェアリングなど)および様々な他のサンドイッチ型層状構造を製造することができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様によれば、方法には、コアを構造的に補強するように、コアを備えた予備構造に粗糸を縫い付けるステップが含まれる。粗糸は、コア中の貫通孔を通り、予備構造の両外部表面を横断し、粗糸および樹脂がコア中の貫通孔を閉じる。粗糸がコアを貫通する角度を調整することにより、コアのための所望のせん断および張力負荷能力を得ることができる。
【0007】
本発明の第2の態様によれば、粗糸が横断する予備構造の外部表面は、コアの外部表面によって画定することができ、その場合、この方法は、少なくとも2つの織物層の間にコアが位置するように、縫い付けるステップの後に少なくとも2つの織物層をコアの外部表面に加えるステップをさらに含むことができる。粗糸は、少なくとも2つの織物層のいずれをも貫通することはなく、粗糸は、少なくとも2つの織物層によって覆われている。
【0008】
本発明の第3の態様によれば、予備構造は、2つの織物層の間にコアが位置するように、コアの外部表面に少なくとも2つの織物層をさらに備えることができる。次に、少なくとも2つの織物層のうちの少なくとも1つを粗糸が貫通することになり、また、少なくとも1つの織物層が、粗糸が横断する予備構造の外部表面のうちの少なくとも一方を画定することになる。
【0009】
本発明のさらに他の態様は、上で説明した予備構造およびそれを使用して形成される樹脂含浸積層複合構造である。
【0010】
本発明の有意な利点には、負荷能力を改善し(特にせん断および厚さ全体にわたる張力の点で)、かつ、それぞれ独立気泡コア材料およびRTM/VaRTMプロセスを含む、より低コストなコア材料およびプロセスの使用を可能にする可能性が含まれる。したがって、オートクレーブを必要とすることなく硬化プロセスを実施する能力、および低コストなツーリングの使用を可能にするより低い硬化温度の使用を含む本発明により、サイクルタイムをより短くすることができ、また、設備投資を著しく削減することができる。また、この方法は、幾何形状が比較的複雑な複合構造の製造と両立する。
【0011】
本発明の他の態様および利点は、以下の詳細な説明からより深く理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】航空機エンジンナセルのために使用されるタイプのファンカウルの斜視図である。
【図2】従来技術で知られているタイプのハニカムコアを備えた複合構造を概略的に示す図である。
【図3】従来技術で知られているタイプの独立気泡コアを備えた複合構造を概略的に示す図である。
【図4】本発明の第1の実施形態による粗糸補強を備えた独立気泡構造発泡体コアの横断面図を概略的に示す図である。
【図5】本発明の第1の実施形態による一対の織物スタックの間に図4の粗糸補強コアを備えた複合構造の横断面図を概略的に示す図である。
【図6】本発明の他の実施形態による複合構造全体にわたって粗糸補強を備えた、一対の織物スタックの間に独立気泡構造発泡体コアを備えた複合構造の横断面図を概略的に示す図である。
【図7】本発明の他の実施形態による複合構造全体にわたって粗糸補強を備えた、一対の織物スタックの間に独立気泡構造発泡体コアを備えた複合構造の平面図を概略的に示す図である。
【図8】図6の複合構造に類似しているが、本発明のさらに他の実施形態による複合構造全体にわたって斜角で配置された粗糸補強を備えた複合構造の横断面図を概略的に示す図である。
【図9】図4の実施形態による、黒鉛粗糸による補強の前の独立気泡構造発泡体の走査イメージを示す図である。
【図10】図4の実施形態による、黒鉛粗糸による補強の後の独立気泡構造発泡体の走査イメージを示す図である。
【図11】図4または6のいずれかの複合構造、および図1のファンカウルの半分を成形するためにその複合構造が上に置かれる型の分解図を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本発明の処理ステップを使用して製造することができる2つのエンジン入口(ファン)カウル12を有する航空機エンジンナセル10を示したものである。本発明は、ファンカウル12を参照して説明されているが、本発明は、それには限定されないが、他の航空機エンジンナセル構成部品(例えばスラストリバーサ、コアカウルおよびトランスカウル)および他の航空機構造(例えば音響パネル)を含む、複合構造を有することによって利点を得ることができる様々な構成部品に適用することができることを理解されたい。
【0014】
個々のファンカウル12は、一対の外部スキンの間にコア層を含む樹脂含浸複合構造を有している。図2および3は、ファンカウルのための従来の構造の2つの例を示したものである。個々の例において、コア14は、個々の織物層の樹脂含浸スタック16の間に配置されている。図2のコア14は、連続気泡ハニカム材料で構築されており、連続通路26がコア14全体にわたって通っている。このタイプのコア材料の非限定的な例は、上で言及したNOMEX(登録商標)アラミド繊維である。このようなコア材料は当分野でよく知られており、したがって詳細な説明は省略する。通路26は、通常、六角形の断面形状を有しており、典型的な気泡幅は約3ミリメートル乃至約10ミリメートルであるが、より狭い幅およびより広い幅も予見可能な範囲であることに言及しておくだけで十分であろう。一方、図3のコア14は独立気泡、または他の、図2の連続通路26がない非多孔性材料で構築されている。このタイプのコア材料の非限定的な例は、上で言及した、ROHACELL(登録商標)の名称で市販されているポリメタクリルイミド発泡体材料である。コア14のために使用することができる他の非多孔性材料には、木材および他のセルロース誘導体材料があり、この材料の特に顕著な例はバルサ木材である。これらのコア材料も同じく当分野ではよく知られており、したがって詳細な説明は省略する。コア14の厚さは、製造される複合構造の特定の応用例によって決まる。例えばファンカウルの場合、典型的な厚さは約12ミリメートル乃至約25ミリメートルであるが、これよりはるかに薄い厚さ、およびはるかに厚い厚さも予見可能な範囲である。
【0015】
織物スタック16およびそれらの個々の織物層は、樹脂で含浸させる前は「ドライ」織物と呼ぶことができる。ドライ織物は様々な材料で形成することができ、それらの非限定的な例には、黒鉛繊維、ガラス繊維、重合体(例えばKevlar(登録商標)などのアラミド)繊維およびセラミック(例えばNextel(登録商標))繊維で形成された織物がある。コア14の場合と同様、織物層の適切な個々の厚さ、および織物スタック16を形成するためのこれらの層の総合厚さは、製造される複合構造の特定の応用例によって決まる。一例としてファンカウルの場合、個々の織物層の典型的な個々の厚さは約0.2ミリメートル乃至約0.4ミリメートルであり、また、織物スタック16の典型的な厚さは約1.3ミリメートル乃至約2.5ミリメートルであるが、これよりはるかに薄い厚さ、およびはるかに厚い厚さも予見可能な範囲である。
【0016】
本発明の特定の態様によれば、図1のファンカウル12を製造するために使用されるコアは、図3を参照して言及されている独立気泡構造発泡体材料を含む独立気泡構造発泡体材料であることが好ましい。しかしながら、図4乃至8に示されているように、コア14は、そのせん断および張力負荷能力を促進し、かつ、より低コストな材料およびRTM/VaRTMプロセスなどのプロセスを含む構造発泡体材料の特定の利点を維持するために補強されている。図4乃至8では、粗糸28は、コア14の厚さ全体にわたって、あるパターンで縫い付けられており、また、図6乃至8に示されているように、粗糸28は、コア14の両外部表面22および24に加えられた織物スタック16の厚さ全体にわたってさらに縫い付けることも可能である。図4および5では、粗糸28はコア14の外部表面22および24を横断し(図4)、一方、図6乃至8では、粗糸28は、織物スタック16によって画定された外部表面30および32を横断する。
【0017】
図4には、図3の織物スタック16がない構造発泡体コア14が示されている。この実施形態では、粗糸28がコア14の外部表面22と24の間の部分を横断するように、粗糸28をコア14の厚さにわたって、あるパターンで縫い付けることによってコア14の独立気泡発泡体構造が直接補強され、それによりコア14の構造強度が強化されている。図4のコア14は、単独で縫付け操作のための予備構造を画定している。図5は、織物スタック16と、コア14の表面22および24に露出した粗糸28とが重畳するように、含浸されていない一対のドライ織物スタック16の間に位置している図4の粗糸補強コア14を示したものである。コア14および織物スタック16は、それらを合わせて積層構造18と呼ぶことができ、その外部表面30および32はスタック16によって画定されている。図5に示されているように、織物スタック16には未だ樹脂で含浸されていない。樹脂の含浸は、以下で説明するように引き続いて実施することができ、それにより織物スタック16がコア14に結合され、樹脂含浸複合構造が得られる。
【0018】
図6乃至8は代替実施形態を示したもので、コア14およびドライ織物スタック16は、コア14およびその織物スタック16によって形成された積層構造18全体を粗糸28が構造的に補強するように、粗糸28で合わせて縫い付けられている。図6および8の実施形態は、図6では、粗糸28がコア表面22および24ならびに積層構造18の外部表面30および32(スタック16によって画定されている)に対して直角で図6のコア14を貫通し、一方、図8では、粗糸28がコアおよび外部表面22、24、30および32に対して斜角(約45度)でコア14を貫通している点で異なっている。これらの実施形態の各々は、発泡体コア14および織物スタック16が合わせて縫い付けられているため、より損傷許容性のある構造を提供することができる。図4および5の実施形態の場合と同様、図6および7の織物スタック16は、引き続いて樹脂含浸プロセスが実施され、それにより織物スタック16が含浸され、かつ、スタック16がコア14に結合されるように、ドライ状態であることが好ましい。図5および6のコア14および織物スタック16は、縫付け操作の前は予備構造と呼ぶことができ、縫付け操作によってその外部表面30と32(スタック16によって画定されている)の間を粗糸28が横断する。
【0019】
粗糸28は、通常、実質的に平行の連続繊維のコードまたはロープであり、黒鉛、ガラス、重合体(例えばKevlar(登録商標)などのアラミド)で形成することができ、あるいはコア14および織物スタック16の材料との温度抵抗、強度および化学的互換性の点で同様の特性を有する他の材料で形成することができる。単一の粗糸28を使用してコア14または積層構造18を補強することができ、あるいは複数の個別の粗糸28を使用することも可能である。粗糸28は任意の数の連続繊維を備えることができるが、少なくとも3000フィラメントであることが好ましく、また、黒鉛粗糸28の場合、約12,000フィラメント程度であることが好ましい。フィラメントの適切な直径は、特定の応用例およびフィラメント材料に応じて広範囲にわたって変更することができる。粗糸28の適切な直径は、粗糸28中のフィラメントの材料、直径および数、ならびにフィラメント、コア14および織物スタック16のために選択される応用例および材料によって決まる。
【0020】
粗糸28は、ドライ粗糸であっても、あるいは織物スタック16に含浸させるのに適した樹脂を含む樹脂で予め含浸された粗糸であってもよい。図4乃至8の実施形態の場合、ドライ状態で粗糸28を縫い付けた後に樹脂で含浸させ、硬化させることも、あるいは樹脂で含浸された状態で粗糸28を縫付け、硬化させることも可能である。図4および5の実施形態の場合、粗糸28の樹脂の硬化は、引き続いてコア14の表面22および24に積層される樹脂含浸織物スタック16を硬化させる前、または樹脂含浸織物スタック16の硬化と同時に実施することができる。図6乃至8の実施形態の場合、粗糸28に含浸させるために使用される樹脂の硬化は、織物スタック16に含浸させるために使用される樹脂の硬化と同時に実施されることが好ましい。織物スタック16および粗糸28の樹脂含浸は、真空補助樹脂トランスファー成形(VaRTM)プロセスまたは樹脂トランスファー成形(RTM)プロセスによって実施することができる。注目すべきことには、コア14の構造が独立気泡構造であるため、コア14が連続気泡構造を有している場合のような最終複合構造の不必要な重量の増加を伴うことなく、織物スタック16を濡らすための樹脂注入を単一ステッププロセスで達成することができる。他の樹脂含浸および注入プロセスも可能であり、本発明の範囲内である。別法としては、粗糸補強発泡体コア14を、オートクレーブ内で高圧で硬化される含浸済み織物スタック16と共に使用することも可能である。
【0021】
図7は、チェッカー盤パターンを画定している粗糸28を示したものであるが、他のパターンも本発明の範囲内である。粗糸28のパターンは、コア14および任意選択で織物スタック16(存在している場合)を貫通する微小な孔を穿つことによって展開することができる。コア表面22および24(図4)ならびに繊維スタック表面30および32(図6)に対する直角配向から、これらの表面22、24、30および32に対する斜角まで、コア14の厚さを貫通する縫付け角度を変えることによってパターンを変更することができ、それにより所望の張力またはせん断強度を得ることができる。また、パターンの密度(孔の間隔)を調整して粗糸28の補強効果に影響を及ぼすことも可能である。貫通孔34の中心間の間隔を約25ミリメートルにすることによって適切な結果が得られ、孔の中心間の間隔は、約10ミリメートル程度の長さから約50ミリメートル程度の長さが好ましい範囲であると思われる。図4乃至8には一様な孔間隔が示されているが、非一様な孔間隔を使用することも可能であり、例えばより高い孔密度(したがってより高い粗糸密度)を利用してコア14および/または積層構造18の剛性または強度を修正することも予見可能な範囲である。
【0022】
貫通孔34は、穴抜き、機械穿孔またはレーザ穿孔等を含む様々な技法を使用して形成することができる。所与の応用例に対する特に適切な孔形成プロセスは、コア14の特定の材料、サイズ、形状および厚さによって決まる。貫通孔34内の粗糸28部分への樹脂の含浸を促進するためには、場合によっては、粗糸28の直径に対して著しく大きい状態で貫通孔34を形成することが望ましいか、あるいはそのようにしなければならない。例えば、粗糸28の直径より約0.7mm、より好ましくは約1.0mm乃至約1.3mm大きい直径を有するように貫通孔34を形成することができる。貫通孔34の特に適切な直径および間隔は、粗糸28に浸透させるために使用される特定の樹脂によって決まり、これには樹脂の粘性および他の流動特性が含まれる。貫通孔34は、縫付けおよび樹脂含浸に引き続いて、粗糸28および樹脂の組合せによってその全体が塞がれることが好ましい。
【0023】
図9は、コア14内に貫通孔34が形成された後で、かつ、粗糸で縫い付けられる前の独立気泡構造発泡体コア14の走査イメージである。図10は、図4の実施形態に対応する、黒鉛粗糸28で補強された後の図9のコア14を示す走査イメージである。
【0024】
粗糸28および織物スタック16に浸透させるために使用される樹脂として、広範囲にわたる様々な重合材料を選択することができる。樹脂の原理的役割は、粗糸28および織物スタック16に浸透してそれらの個々の繊維状材料のための基質材料を形成することであり、したがって樹脂は、粗糸28および織物スタック16、ならびに全体としての積層構造18の構造的強度および他の物理的特性に寄与している。したがって樹脂は、粗糸28および織物スタック16と組成的に両立しなければならない。さらに、樹脂はコア14の表面22および24と接触し、また、コア14中の貫通孔34の壁と接触することになるため、樹脂は、同じく、コア14を形成している材料とも組成的に両立しなければならない。また、樹脂は、コア14、織物スタック16および粗糸28の材料を熱的に劣化させない、あるいはこれらの材料に悪影響を及ぼさない温度および条件下で硬化させることができなければならない。これを基に、特に適切な樹脂材料は、硬化温度が通常200℃未満、例えば約180℃であるエポキシが含まれると考えられる。
【0025】
図11は、図1のカウル12のうちの一方を製造するのに適した型38の型空洞表面36のコア14および2つの織物スタック16(粗糸28を除く)の配置を概略的に示したものである。コア14および織物スタック16によって形成された非含浸(ドライ)スタック積層構造18は、型38の上に置かれると、その形状が型38の表面36の形状と一致する。成形システムの他の可能な構造構成部品は、織物スタック16に樹脂を浸透させ、かつ、得られた樹脂含浸スタック構造を硬化させるために使用される技法によって決まる。例えば、真空補助樹脂トランスファー成形(VARTM)方式が使用される場合、積層構造18がバッグ40によって覆われ、それにより、バッグ40が積層構造18を圧縮し、構造18を介して樹脂を吸引することができるように、型空洞表面36とバッグ40の間を真空にすることができる。オートクレーブプロセスでも同様にバッグ40を使用することができ、それにより、バッグ40が積層構造18を圧縮し、織物スタック16を介した樹脂の流れが促進されるように、バッグ40の上部表面に圧力が印加される。樹脂が織物スタック16および粗糸28に十分に浸透すると、得られた樹脂含浸スタック構造を樹脂を硬化させる十分な温度に、十分な期間の間、加熱することができる。浸透/含浸および硬化温度、圧力/真空レベル、ならびに浸透および硬化サイクルの他のパラメータは、使用される特定の材料によって決まり、慣例的な実験によって決定することができる。
【0026】
以上、本発明について、特定の実施形態に関して説明したが、当業者は他の形態を採用することができることは明らかである。例えば、樹脂を浸透させる前、および樹脂を浸透させた後の両方の複合構造の物理的構成は、示されている物理的構成とは異なっていてもよく、また、言及されている材料およびプロセスとは異なる材料およびプロセスを使用することも可能である。したがって本発明の範囲は、特許請求の範囲によってのみ制限される。
【符号の説明】
【0027】
10 航空機エンジンナセル
12 エンジン入口(ファン)カウル
14 コア
16 織物層の樹脂含浸スタック(織物スタック)
18 積層構造
22、24 コア14の両外部表面
26 連続通路
28 粗糸
30、32 織物スタック16によって画定された外部表面
34 貫通孔
36 型空洞表面
38 型
40 バッグ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂含浸織物層と樹脂含浸織物層の間にコアを備えた樹脂含浸積層複合構造を製造する方法であって、
前記コアを構造的に補強するように、前記コアを備えた予備構造に粗糸を縫い付けるステップであって、前記コアが独立気泡材料であり、また、前記粗糸が前記コア中の貫通孔を通り、前記予備構造の両外部表面を横断する、ステップ
を含み、前記粗糸および樹脂が前記コア中の貫通孔を閉じる方法。
【請求項2】
前記縫付けステップに先立って、前記粗糸が予め樹脂で含浸される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記縫付けステップの後に、前記貫通孔が塞がれ、前記粗糸が樹脂で含浸される、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記予備構造が前記コアの外部表面に少なくとも2つの織物層をさらに備え、前記コアが前記2つの織物層の間に位置し、前記粗糸が前記少なくとも2つの織物層のうちの少なくとも1つを貫通し、前記粗糸が横断する前記予備構造の前記外部表面のうちの少なくとも一方が前記少なくとも1つの織物層によって画定される、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記粗糸が前記少なくとも2つの織物層の各々を貫通し、前記粗糸が横断する前記予備構造の前記外部表面が前記少なくとも2つの織物層によって画定される、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記縫付けステップに先立って、前記粗糸が予め樹脂で含浸される、請求項4記載の方法。
【請求項7】
前記縫付けステップの後に、前記少なくとも2つの織物層を樹脂で含浸させるステップをさらに含む、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記縫付けステップの後に、前記粗糸および前記少なくとも2つの織物層が樹脂で含浸され、前記貫通孔が塞がれる、請求項4記載の方法。
【請求項9】
型の上に前記予備構造を配置するステップであって、前記少なくとも2つの織物層のうちの第1の織物層が前記型の表面と前記コアの前記外部表面のうちの第1の外部表面の間に配置され、前記少なくとも2つの織物層のうちの第2の織物層が前記コアの前記外部表面のうちの第2の外部表面に配置され、前記予備構造の形状が前記型の前記表面の形状と一致するステップと、
前記少なくとも2つの織物層に含浸させるために前記予備構造に樹脂を注入するステップと、次に、
前記少なくとも2つの織物層を前記コアに結合し、それにより前記樹脂含浸積層複合構造を形成するために前記樹脂を硬化させるステップと
をさらに含む、請求項4記載の方法。
【請求項10】
請求項4の方法によって製造される予備構造。
【請求項11】
前記粗糸が横断する前記予備構造の前記外部表面が前記コアの外部表面によって画定される、請求項1記載の方法。
【請求項12】
前記縫付けステップの後に前記コアの前記外部表面に少なくとも2つの織物層を加えるステップをさらに含み、それにより前記コアが前記少なくとも2つの織物層の間に位置し、前記粗糸が前記少なくとも2つの織物層のいずれをも貫通せず、また、前記粗糸が前記少なくとも2つの織物層によって覆われる、請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記縫付けステップに先立って、前記粗糸が予め樹脂で含浸される、請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記縫付けステップおよび織物層を加えるステップの後に、前記少なくとも2つの織物層を樹脂で含浸させるステップと、次に、
前記少なくとも2つの織物層を前記コアに結合し、それにより前記樹脂含浸積層複合構造を形成するために前記樹脂を硬化させるステップと
をさらに含む、請求項12記載の方法。
【請求項15】
織物層を加える前記ステップが、型の上に前記予備構造を配置するステップであって、前記少なくとも2つの織物層のうちの第1の織物層が前記型の表面と前記コアの前記外部表面のうちの第1の外部表面の間に配置され、前記少なくとも2つの織物層のうちの第2の織物層が前記コアの前記外部表面のうちの第2の外部表面に配置され、前記予備構造の形状が前記型の前記表面の形状と一致するステップと、
前記少なくとも2つの織物層に含浸させるために前記予備構造に樹脂を注入するステップと、次に、
前記少なくとも2つの織物層を前記コアに結合し、それにより前記樹脂含浸積層複合構造を形成するために前記樹脂を硬化させるステップと
を含む、請求項12記載の方法。
【請求項16】
請求項11の方法によって製造される予備構造。
【請求項17】
請求項12の方法によって製造される予備構造。
【請求項18】
前記コアが、重合材料およびセルロース誘導体材料からなるグループから選択される材料で形成される、請求項1記載の方法。
【請求項19】
前記粗糸が黒鉛繊維を備えた、請求項1記載の方法。
【請求項20】
前記樹脂含浸積層複合構造が航空機ナセルの構成部品である、請求項1記載の方法。
【請求項1】
樹脂含浸織物層と樹脂含浸織物層の間にコアを備えた樹脂含浸積層複合構造を製造する方法であって、
前記コアを構造的に補強するように、前記コアを備えた予備構造に粗糸を縫い付けるステップであって、前記コアが独立気泡材料であり、また、前記粗糸が前記コア中の貫通孔を通り、前記予備構造の両外部表面を横断する、ステップ
を含み、前記粗糸および樹脂が前記コア中の貫通孔を閉じる方法。
【請求項2】
前記縫付けステップに先立って、前記粗糸が予め樹脂で含浸される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記縫付けステップの後に、前記貫通孔が塞がれ、前記粗糸が樹脂で含浸される、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記予備構造が前記コアの外部表面に少なくとも2つの織物層をさらに備え、前記コアが前記2つの織物層の間に位置し、前記粗糸が前記少なくとも2つの織物層のうちの少なくとも1つを貫通し、前記粗糸が横断する前記予備構造の前記外部表面のうちの少なくとも一方が前記少なくとも1つの織物層によって画定される、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記粗糸が前記少なくとも2つの織物層の各々を貫通し、前記粗糸が横断する前記予備構造の前記外部表面が前記少なくとも2つの織物層によって画定される、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記縫付けステップに先立って、前記粗糸が予め樹脂で含浸される、請求項4記載の方法。
【請求項7】
前記縫付けステップの後に、前記少なくとも2つの織物層を樹脂で含浸させるステップをさらに含む、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記縫付けステップの後に、前記粗糸および前記少なくとも2つの織物層が樹脂で含浸され、前記貫通孔が塞がれる、請求項4記載の方法。
【請求項9】
型の上に前記予備構造を配置するステップであって、前記少なくとも2つの織物層のうちの第1の織物層が前記型の表面と前記コアの前記外部表面のうちの第1の外部表面の間に配置され、前記少なくとも2つの織物層のうちの第2の織物層が前記コアの前記外部表面のうちの第2の外部表面に配置され、前記予備構造の形状が前記型の前記表面の形状と一致するステップと、
前記少なくとも2つの織物層に含浸させるために前記予備構造に樹脂を注入するステップと、次に、
前記少なくとも2つの織物層を前記コアに結合し、それにより前記樹脂含浸積層複合構造を形成するために前記樹脂を硬化させるステップと
をさらに含む、請求項4記載の方法。
【請求項10】
請求項4の方法によって製造される予備構造。
【請求項11】
前記粗糸が横断する前記予備構造の前記外部表面が前記コアの外部表面によって画定される、請求項1記載の方法。
【請求項12】
前記縫付けステップの後に前記コアの前記外部表面に少なくとも2つの織物層を加えるステップをさらに含み、それにより前記コアが前記少なくとも2つの織物層の間に位置し、前記粗糸が前記少なくとも2つの織物層のいずれをも貫通せず、また、前記粗糸が前記少なくとも2つの織物層によって覆われる、請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記縫付けステップに先立って、前記粗糸が予め樹脂で含浸される、請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記縫付けステップおよび織物層を加えるステップの後に、前記少なくとも2つの織物層を樹脂で含浸させるステップと、次に、
前記少なくとも2つの織物層を前記コアに結合し、それにより前記樹脂含浸積層複合構造を形成するために前記樹脂を硬化させるステップと
をさらに含む、請求項12記載の方法。
【請求項15】
織物層を加える前記ステップが、型の上に前記予備構造を配置するステップであって、前記少なくとも2つの織物層のうちの第1の織物層が前記型の表面と前記コアの前記外部表面のうちの第1の外部表面の間に配置され、前記少なくとも2つの織物層のうちの第2の織物層が前記コアの前記外部表面のうちの第2の外部表面に配置され、前記予備構造の形状が前記型の前記表面の形状と一致するステップと、
前記少なくとも2つの織物層に含浸させるために前記予備構造に樹脂を注入するステップと、次に、
前記少なくとも2つの織物層を前記コアに結合し、それにより前記樹脂含浸積層複合構造を形成するために前記樹脂を硬化させるステップと
を含む、請求項12記載の方法。
【請求項16】
請求項11の方法によって製造される予備構造。
【請求項17】
請求項12の方法によって製造される予備構造。
【請求項18】
前記コアが、重合材料およびセルロース誘導体材料からなるグループから選択される材料で形成される、請求項1記載の方法。
【請求項19】
前記粗糸が黒鉛繊維を備えた、請求項1記載の方法。
【請求項20】
前記樹脂含浸積層複合構造が航空機ナセルの構成部品である、請求項1記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2012−516254(P2012−516254A)
【公表日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−548036(P2011−548036)
【出願日】平成22年1月15日(2010.1.15)
【国際出願番号】PCT/US2010/021113
【国際公開番号】WO2010/088063
【国際公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(310022132)エムアールエイ・システムズ・インコーポレイテッド (11)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月15日(2010.1.15)
【国際出願番号】PCT/US2010/021113
【国際公開番号】WO2010/088063
【国際公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(310022132)エムアールエイ・システムズ・インコーポレイテッド (11)
【Fターム(参考)】
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