説明

複層ガラス窓の防火構造

【課題】 建物の室外側または室内側からの加熱によっても、建築基準法および同施工令等に規定された防火性能に保つことができるように、窓枠または窓框と複層ガラスの周囲に発生する火炎抜けの防止、および網入りガラス崩落の発生を可及的に防止することができるとともに、施工性が良好で、複層ガラスを長期間に亘って安定させることができるようにする。
【解決手段】 複層ガラス3を装着する窓枠2(または窓框)の内周溝部10内に、金属製アングル材17と金属製ガラス外れ止め24を室内外方向に対向させて設ける。金属製アングル材と金属製ガラス外れ止め間に、複層ガラスの外周端を位置させる。窓枠(または窓框)における内周溝部内の底面10aと、複層ガラスの外周端面3cとの間に、発泡性コーキング材19を介在させる。金属製アングル材と複層ガラス間に耐熱性テープ18を介在させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、住宅や事務所等の建物の火災時に、建物の開口部に設けられた複層ガラス窓の室外側または室内側からの加熱によって複層ガラスの周囲に発生する火炎抜けを防止するようにした複層ガラス窓の防火構造に関する。
【背景技術】
【0002】
建物には、防災上の観点から不燃化が進められており、特に、火災時におけるガラス窓からの類焼を避けるために、ガラス窓の外部から迫る火炎または輻射熱による着火等による類焼を防止することが重要な課題となっている。
【0003】
ガラス窓に防火対策を施す場合、建築基準法および同施工令等によって、火炎に対する防火性能が規定されている。
たとえば木造三階建などの住宅では、ガラス窓の防火試験を行う際に、ガスバーナ等を用い、放射される火炎が窓ガラス面に直接触れないように所定の距離を隔てるとともに、加熱温度がISOに規定されている標準加熱温度曲線(該標準加熱温度曲線に従えば20分後の加熱温度は781℃に達する)となるように、室内又は室外の方向から加熱したときに、それぞれ加熱を開始してから20分間、非加熱側に延焼しないという条件、具体的には、
(1)非加熱側へ10秒を超えて継続する火炎の噴出がない
(2)非加熱面で10秒を超えて継続する発炎がない
(3)火炎が通る亀裂等の損傷および隙間が生じない
という3条件を同時に満たす必要がある。
【0004】
従来、建物のガラス窓においては、たとえばフロートガラスと網入りガラスとの2枚の板ガラスが、アルミニウム製のスペーサによる密閉空間を介して、内外に配置された複層ガラスを、窓枠(サッシ枠)に嵌殺し状態をもって取り付け、内外両ガラス間の内面とスペーサとの間にブチルゴム、および窓枠の内周と複層ガラスの外周との間にシリコーンゴムのシール材を介在させてシールすることにより、防水性を高めるようになっているが、この場合、シール材が、400℃程度で発火する炭化水素系からなるため、火災時の高熱によってシール材から発生する可燃性ガスが板ガラス間の密閉空間内に蓄積されて発火し易く、その火炎によって、シール材がさらに加熱されて発火し、この発火によって、板ガラスが局部的に加熱されて割れるという現象が見られるため、これを防止する必要がある。
そのため、シール材の内側に、難燃性または不燃性のシール材を設けることにより、防火性能を高めるようになっている(特許文献1参照)。
【0005】
しかし、特許文献1に記載の複層ガラスは、防火性能は改善されているものの、シール材の発火を完全に防止することはできず、該複層ガラスを用いて防火構造を構成しても建築基準法および同施工令等に規定された防火性能を保つことは困難であった。
【0006】
すなわち、例えば室外側に網入りガラスを、室内側に厚さ3mm程度のフロートガラスを配置し、室外側から加熱して前記した建築基準法等に基づく防火試験を行った場合には、数分程度で加熱炉の輻射熱による温度上昇により室内側のフロート板ガラスに割れが生じ、その後シール材が自然発火して、燃え続けるばかりでなく、さらには窓枠が、たとえば塩化ビニール樹脂等の合成樹脂で成型されている場合には、その火が非加熱面側における室内側の樹脂に燃え移ることがあった。
また、フロートガラスの割れを防止するために、室内側のガラスを耐熱強化硝子等割れの生じないガラスとした場合には、耐熱強化ガラスは割れずに残るため網入りガラスの非加熱面側からの熱の放射が妨げられるようになる。
その結果、網入りガラスの温度が上昇して軟化し、加熱開始後20分未満で網入りガラスが崩落してしまうことがあった。
【0007】
さらに、ガラス窓の防火構造としては、窓枠と単一板ガラスの周端部との嵌合部分の隙間に、防火性シーラントと共にセラミック繊維や熱膨張性充填材を充填し、火災発生時に、熱膨張性充填材を発泡させることにより膨張させ、その膨張圧でもって板ガラスが変形しないように強力に保持することにより、窓枠と板ガラスとの間に充填した防火性シーラントの剥離を防止するようにしたものがある(特許文献2参照)。
【0008】
しかし、特許文献2に示される防火構造は、単板の構成であり、該構造を複層ガラスに適用しても、上記問題を解決することはできない。
また、特許文献2に示される防火構造では、防火ガラス板のぐらつきを防止するため、ガラスの両側の隙間に充填材をきつく詰め込む必要があるが、複層ガラスでは、板ガラスの間にアルミスペーサを挟んでいるため、加熱開始後温度上昇に伴ってアルミスペーサが変形や脱落してしまい、ぐらつき防止効果を長期間維持することができない。
さらに、特許文献2に示される防火構造では、窓枠の取り付け溝と防火ガラス板との隙間に充填材を充填してから隙間の開口部を防火シーラントで封止する必要があり、施工性に問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7−237941号公報
【特許文献2】特開平7−229372号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前記の現状に鑑み、建物の室外側または室内側からの加熱によっても、建築基準法および同施工令等に規定された防火性能に保つことができるように、窓枠または窓框と複層ガラスの周囲に発生する火炎抜けの防止、および網入りガラス崩落の発生を可及的に防止することができるとともに、施工性が良好で、複層ガラスを長期間に亘って安定して使用することができる複層ガラス窓の防火構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は、「特許請求の範囲」の欄における各請求項に記載するように、次のような構成からなる発明によって解決される。
(1) 合成樹脂製の窓枠または窓框に複層ガラスを装着してなる複層ガラス窓の防火構造において、複層ガラスを装着する窓枠または窓框の内周溝部内に、金属製アングル材と金属製ガラス外れ止めを室内外方向に対向させて設けるとともに、この金属製アングル材と金属製ガラス外れ止め間に、複層ガラスの外周端を位置させ、かつ前記内周溝部内の底面と、複層ガラスの外周端面との間に、発泡性コーキング材を介在させ、さらに前記金属製アングル材と複層ガラス間に耐熱性テープを介在させる。
【0012】
(2) 上記(1)項において、発泡性コーキング材と、窓枠または窓框の内周溝部の底面との間に、発泡性黒鉛を主成分とする発泡性遮炎材を介在させる。
【0013】
(3) 上記(1)項または(2)項において、発泡性コーキング材と耐熱性テープとの間に、バックアップ材を介在させる。
【0014】
(4) 上記(1)〜(3)項のいずれかにおいて、嵌殺し窓の窓枠または開閉窓の窓框および窓枠におけるそれぞれ窓枠、窓框の内部空間に、金属製補強材を設けるとともに、前記内部空間内において、前記金属製補強材と、窓枠または窓框との間の縦方向または横方向の間隙内に、発泡性黒鉛を主成分とする発泡性遮炎材を介在させる。
【0015】
(5) 上記(1)〜(4)項のいずれかにおいて、発泡性コーキング材を、発泡性シリコーンシーラントとする。
【0016】
(6) 上記(1)〜(5)項のいずれかにおいて、金属製アングル材と金属製ガラス外れ止めを、相互に連結する。
【0017】
(7) 上記(1)〜(6)項のいずれかにおいて、金属製アングル材と金属製ガラス外れ止めとを、窓枠または窓框を構成する部材の長手方向に、交互に配設する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、次のような効果を奏することができる。
請求項1記載の発明によれば、複層ガラスを装着する窓枠または窓框の内周溝部内に、金属製アングル材と金属製ガラス外れ止めを室内外方向に対向させて設けるとともに、この金属製アングル材と金属製ガラス外れ止め間に、複層ガラスの外周端を位置させ、かつ前記内周溝部内の底面と、複層ガラスの外周端面との間に、発泡性コーキング材を介在させ、さらに前記金属製アングル材と複層ガラス間に耐熱性テープを介在させてあるため、たとえば複層ガラスを、室外側に耐熱ガラス、室内側に網入りガラスを位置させてなる構造とした場合において、火災時に、複層ガラス窓が室外側から加熱されたときに、耐熱ガラスが3〜4分程度の間に崩落しても、発泡性コーキング材が発泡硬化することによって、この発泡性コーキング材と、金属製アングル材とをもって、室内側の網入りガラスを挾持し、少なくとも20分間以上に亘って網入りガラスの崩落を防止することができる。
窓枠の内周溝部の底面と複層ガラスの外周端面との間は、耐熱性テープと金属製アングル材とによって遮炎することができ、室内側の非加熱側からの火炎の目視を防止することができる。
【0019】
一方、複層ガラス窓が室内側から加熱されたときには、発泡性コーキング材が発泡し硬化することによって、この発泡性コーキング材と、耐熱性テープと金属製アングル材とでもって複層ガラスを挾持し、少なくとも20分間以上に亘って網入りガラスの崩落を防止するとともに、網入りガラスが熱を遮ることによって室外側の耐熱ガラスの加熱を抑制して耐熱ガラスの破損を防止し、更に、室内側の火炎を、金属製アングル材と耐熱性テープによって遮炎することができる。
これにより、複層ガラス窓を、建築基準法および同施工令等に規定された防火性能に保つことができる。
【0020】
また、窓枠または窓框の内周溝部内の底面と、複層ガラスの外周端面との間に、発泡性コーキング材を介在させてあるため、従前のように、窓枠の取り付け溝と防火ガラス板との隙間に充填材を充填してから隙間の開口部を防火シーラントで封止する必要がなく、施工性が良好となる。
さらに、複層ガラスの板ガラス間に挟まれたアルミスペーサが変形や脱落しても、金属製アングル材と複層ガラス間に耐熱性テープを介在させてあるため、複層ガラスのぐらつきを防止し、複層ガラスを長期間に亘って安定して使用することができる。
【0021】
請求項2記載の発明によれば、発泡性コーキング材と、窓枠または窓框の内周溝部の底面との間に、発泡性黒鉛を主成分とする発泡性遮炎材を介在させてあるため、この発泡性遮炎材が、火災時の高温加熱により発泡し、窓枠の内周溝部の底面と複層ガラスの外周端面との間に生じた間隙を閉塞し、室内外間の酸素の流通を遮断し、防火機能を向上させることができる。
【0022】
請求項3記載の発明によれば、発泡性コーキング材と耐熱性テープとの間に、バックアップ材を介在させてあるため、発泡性遮炎材が長期に渡り密着性を有し、複層ガラス周りに水が侵入することを防止するため、複層ガラスのシールの信頼性を高める効果がある。
【0023】
請求項4記載の発明によれば、嵌殺し窓の窓枠または開閉窓の窓框および窓枠におけるそれぞれ窓枠、窓框の内部空間に、金属製補強材を設けるとともに、内部空間内において、金属製補強材と、窓枠または窓框との間の縦方向または横方向の間隙内に、発泡性黒鉛を主成分とする発泡性遮炎材を介在させてあるため、火災時の高温加熱により、発泡性遮炎材が発泡して、前記内部空間内における窓枠または窓框と金属製補強材との間の間隙を発泡した黒鉛によって埋めることができ、室内外間の酸素の流通を遮断し、窓枠または窓框の防火性能を向上させることができる。
【0024】
請求項5記載の発明によれば、発泡性コーキング材を、発泡性シリコーンシーラントとしてあるため、窓枠または窓框と複層ガラスとの間の間隙から火炎が抜けようとしたときの遮炎効果を良好に高めることができる。
【0025】
請求項6記載の発明によれば、金属製アングル材と金属製ガラス外れ止めを、相互に連結してあるため、金属製アングル材と金属製ガラス外れ止めが分離することがなく、窓枠または窓框からの複層ガラスの外れを効果的に防止することができる。
【0026】
請求項7記載の発明によれば、金属製アングル材と金属製ガラス外れ止めとを、窓枠または窓框を構成する部材の長手方向に、交互に配設してあるため、窓枠または窓框からの複層ガラスの外れを、より効果的に防止することができる。
発明の具体的な内容は、次のとおりである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の複層ガラス窓の防火構造の一実施形態を一部破断して示す斜視図である。
【図2】金属製ガラス外れ止めが配置されていない個所を示す要部拡大縦断面図である。
【図3】図1におけるIII−III線の金属製ガラス外れ止めが配置された個所を示す要部拡大縦断面図である。
【図4】金属製ガラス外れ止めによる複層ガラスの挾持状態を示す要部拡大縦断面図である。
【図5】金属製ガラス外れ止めの分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の複層ガラス窓の防火構造の一実施形態を一部破断して示す斜視図、図2は、金属製ガラス外れ止め部材が配置されていない個所を示す要部拡大縦断面図、図3は、図1におけるIII−III線の金属製ガラス外れ止め部材が配置された個所を示す要部拡大縦断面図である。
なお、本実施形態では、複層ガラス窓として、嵌殺し窓の窓枠に複層ガラスを装着した場合を例にして説明するが、開閉窓の窓框に複層ガラスを装着した場合にも同様に適用されるものである。
【実施例】
【0029】
本発明の複層ガラス窓は、図1に示すように、建物の躯体1の開口部に組付けられた合成樹脂製の窓枠2と、この窓枠2に装着される複層ガラス3とより構成されている。
窓枠2は、建物の躯体1に取り付けられる中空構造を有する枠本体2Aと、この枠本体2Aに取り付けた押縁2Bとより構成されている。
前記窓枠2は、たとえば特開平9−137675号公報に開示されているように、塩化ビニル樹脂に、木材の粉砕物から調製したセルロース系微粉末を配合した樹脂組成物をもって成形した枠部材を、正面視矩形状に枠組みすることにより形成されている。
【0030】
枠本体2Aには、図2に示すように、その内部空間4内に鉄等の断面ほぼ矩形の中空チャンネル部材からなる金属製補強材5が配置されているとともに、この金属製補強材5をビス6をもって、前記内部空間4内に位置決め固定することにより補強されている。
【0031】
枠本体2Aにおける室内側Aの外周には、建物の躯体1に、ビス等で固定される取付片部7が形成されているとともに、その内周には、前記複層ガラス3における室内側Aの外周端3aを支持する支持片部8が形成され、かつその室外側Bの内周には、嵌合溝9が形成されている。
この嵌合溝9には、押縁2Bが取外し可能に取付られるとともに、この押縁2Bと前記枠本体2Aの支持片部8とより、窓枠2の内周には、複層ガラス3の外周端が嵌殺し状態をもって装着される内周溝部10が形成されている。
【0032】
複層ガラス3は、室内側Aの網入りガラス11と室外側Bの耐熱ガラス12と、それらの外周端側の内面間にシリコーンゴムからなるシール材(図示せず)を介して介在されるアルミニウム製のスペーサ13とより、密閉空間14が形成されるように接合してなる構成を有する。
なお、複層ガラス3を構成する板ガラス11,12は、室内側Aを耐熱ガラス、室外側Bを網入りガラスとしてもよいし、両者を網入りガラスまたは耐熱ガラスとするなど適宜選択しうる。
【0033】
複層ガラス3における室内外側A,Bの外周両端3a,3bは、前記支持片部8Aと押縁9との間に形成した内周溝部10内に、それぞれパッキン15,16を介して、水密的に挟持されているとともに、押縁9の先端に設けたパッキン16をもって、複層ガラス3における室外側Bの外周端3b、すなわち耐熱ガラス11の室外側Bの外周端を、室内側Aに向けて弾性的に押込むように付勢している。
【0034】
窓枠2の前記内周溝部10内には、金属製アングル材17が、窓枠2を構成する部材の長手方向に沿って連続して設けられている。
この金属製アングル材17は、たとえばステンレススチールからなるとともに、窓枠2における内周溝部10の底面10aにビス等をもって固定される水平片17aと、この水平片17aにおける室内側Aの一端から前記支持片部8Aの内面に対向するように直角に延出する延出片17bとをもって断面L字状に形成されており、この延出片17bは、前記支持片部8Aの内面に当接して組み付けられるようになっている。
【0035】
複層ガラス3における室内側Aの外周端3aと金属製アングル材17における延出片17bの内面との間には、耐熱性テープ18が介在されている。この耐熱性テープ18は、たとえばセラミック繊維からなるもの、具体的にはK‘Tape(商標:英国CGI社製)、ファイバーエクセル(商標:株式会社ITM社製)などが使用できる。
【0036】
窓枠2における内周溝部10の底面10aと複層ガラス3の外周端面3cとの間には、発泡性コーキング材19が介在されている。
この発泡性コーキング材19は、たとえば発泡性シリコーンシーラント、具体的にはSE5007、SE5006(商標:東レ・ダウコーニング株式会社製)などからなり、火災時の高温加熱によって発泡し、窓枠2における内周溝部10の底面10aと複層ガラス3の外周端面3cとの間の間隙を閉塞するとともに、発泡後の硬化によって、複層ガラス3の外周端面3cを支持する作用をなす。
【0037】
発泡性コーキング材19と前記耐熱性テープ18との間には、防水性を有するバックアップ材20が介在されている。このバックアップ材20は、たとえばポリエチレン樹脂、ポリスチレン樹脂等の発泡スチロールから形成されている。
【0038】
窓枠2における内周溝部10の底面10aと発泡性コーキング材19との間には、発泡性黒鉛を主成分とする発泡性遮炎材21、例えばフィブロック(商標:積水化学工業株式会社製)などが、金属製アングル材17の水平片17a上に配設することにより介在されている。
この発泡性遮炎材21は、前記した発泡性コーキング材19と同様に、火災時の高温加熱によって発泡し、窓枠2における内周溝部10の底面10aと複層ガラス3の外周端面3cとの間に生じた間隙を閉塞し、室内外間の酸素の流通を遮断し、防火機能を向上させる作用をなす。
【0039】
枠本体2Aの内部空間4内には、金属製補強材5が設けられているとともに、前記内部空間4内において、金属製補強材5と枠本体2Aとの間の縦方向または横方向の間隙内に、発泡性黒鉛を主成分とする発泡性遮炎材22,23を介在させてある。
これらの発泡性遮炎材22,23は、火災時の高温加熱により発泡して、前記内部空間4内における金属製補強材5と枠本体2Aとの間の間隙を閉塞することにより、室内外間の酸素の流通を遮断し、窓枠2としての防火性能を向上させる作用をなす。
【0040】
窓枠2の内周溝部10内には、図1および図3に示すように、金属製アングル材17と室内外方向に対向するように、金属製ガラス外れ止め24が部分的に設置されており、金属製アングル材17と金属製ガラス外れ止め24との間に、複層ガラス9の外周端を位置させることにより、複層ガラス9を直接または間接に挾持して保持しうるようになっている。
【0041】
図4は、金属製ガラス外れ止めによる複層ガラスの挾持状態を示す要部拡大縦断面図、図5は、金属製ガラス外れ止めの分解斜視図である。
【0042】
金属製ガラス外れ止め24は、図4,図5に示すように、窓枠2における内周溝部10の底面10aにビス等により金属製アングル材17と共締め状態で相互に連結して固定されるガラス受部25と、このガラス受部25に着脱可能に組み付けられるガラス取付部26とを備えている。
これらガラス受部25およびガラス取付部26は、それぞれ一枚の1ミリ程度の厚みのステンレス板等の金属板を、レーザー加工やプレス加工等により所定形状に切断した後、折り曲げ加工して形成されている。
【0043】
ガラス受部25は、窓枠2における内周溝部10の底面10aにビス等によって固定される取付片部27と、この取付片部27の室内側端から直角に起立させた外れ止め片部28とよりなり、側面視略L字状をなす。
取付片部27は、係合孔29を開口させた1対の抱持片部30,30と、これらの抱持片部30間の中央部に切起し形成された係合溝部31とを有する。
【0044】
ガラス取付部26は、前記取付片部27の各抱持片部30に向けて室外側Bから差し込まれる差込片部32と、この差込片部32の室外側端から直角に起立させた外れ止め片部33とよりなり、側面視略L字状をなす。
前記差込片部32は、前記係合孔29に係止される、逆止爪状に切起し形成した1対の係止片部34,34と、これら係止片部34間の中央部に形成した、前記ガラス取付部26の係合溝部31に係合される係止片35とを有する。
また、差込片部32の両側の縁部は、延出片36が室内側Aに向けて直角に折り曲げて形成されており、これらの延出片36は、外れ止め片部33を室外側Bに折り曲げようとしたときに、複層ガラス3の外周端面3cに係止して、その折り曲げを防止する作用をなす。
【0045】
金属製ガラス外れ止め24上には、発泡性黒鉛を主成分とする発泡性遮炎材37が設けられており、この発泡性遮炎材37は、火災時の高温加熱により発泡して、前記金属製ガラス外れ止め24と複層ガラス3の外周端面3cとの間の間隙を閉塞することにより、室内外間の酸素の流通を遮断し、窓枠2としての防火機能を向上させる作用をなす。
【0046】
次に、窓枠2の内周溝部10内への複層ガラス3の装着手順を説明する。
まず、押縁2Bを未だ取り付けていない状態の枠本体2Aの内周面に、金属製アングル材17を組み付けるとともに、この金属製アングル材17上に、金属製ガラス外れ止め24のガラス受部25を、窓枠2を構成する部材の長手方向に沿って部分的に配設する。
【0047】
次いで、金属製アングル材17の延出片17bの内面(図2参照)および金属製ガラス外れ止め24が配設されたガラス受部25の内面(図3参照)に亘って、耐熱性テープ18を枠本体2Aの長手方向に沿って連続して配設した後、枠本体2の内周面に複層ガラス3の外周端を組み付ける。
【0048】
なお、枠本体2Aには、複層ガラス3を、その外周端面3cに当接して支持する駒形のガラス受台(図示せず)が、長手方向に部分的に設置されている。
また、火災時の高温加熱により、ガラス受台が欠損した場合には、その欠損部分には、その周囲の発泡性コーキング材19が埋入して閉塞しうるようになっている。
【0049】
次いで、枠本体2Aの室外側Bから、金属製ガラス外れ止め24のガラス取付部26を、複層ガラス3の外周端面3cと枠本体2Aの内周面との間の間隙内に向けて挿入して、ガラス取付部26の差込片部32を、ガラス受部25における抱持片部30に差込むとともに、この抱持片部30に開口させた係合孔29に、差込片部32の係止片34を挿入して係止させることにより、ガラス受部25の外れ止め片部28とガラス取付部26の外れ止め片部33とにより、複層ガラス3における室内外側A,Bの外周端3a,3bを、耐熱性テープ18を介して挾持状態で保持する。
このとき、複層ガラス3における室内側Aの外周端3aは、枠本体2Aにおける支持片部8Aの先端に設けたパッキン15を介して、水密的に被覆される。
【0050】
次いで、枠本体2Aの室外側Bの内周に形成した嵌合溝9内に押縁2Bを嵌着し、その先端に設けたパッキン16をもって、複層ガラス3の室外側Bの外周端3bを水密的に被覆する。
これにより、枠本体2Aと押縁2Bとより形成される窓枠2の内周溝部10内に複層ガラス3を装着する。
これにより、本実施形態では、予め枠本体2Aの室内外側A,Bに固定されたパッキン15.,16によりシールするので、硬化に時間を要するシーラントを用いて開口部を封止する特許文献2に記載された防火構造と比べて簡単に施工できる。
また、複層ガラス3は、押縁2Bからの適度な力によって押付けられて固定されるため、複層ガラス自体のシール性が低下したり、ガラスががたついてしまったりすることがなく、長期間安定に使用することができる。
【0051】
上記した構成によれば、火災時に、複層ガラス窓が室外側Bから加熱されたときに、耐熱ガラス12が3〜4分程度の間に崩落しても、発泡性コーキング材19が発泡し硬化することによって、この発泡性コーキング材19と、金属製アングル材17とでもって、室内側Aの網入りガラス11を挾持し、少なくとも20分間以上に亘って網入りガラスの崩落を防止することができる。
【0052】
窓枠2における内周溝部10の底面10aと複層ガラス3の外周端面3cとの間隙を通して、室内側Aに向けて火炎抜けが発生しようとする場合には、耐熱性テープ18と金属製アングル材17とによって遮炎することができる。
【0053】
一方、複層ガラス窓が室内側から加熱されたときには、発泡性コーキング材19が発泡し硬化することによって、その硬化体と金属製アングル材17に支持された耐熱性テープ18とでもって複層ガラス3を挾持し、少なくとも20分間以上に亘って、室内側Aの網入りガラス11の崩落を防止するとともに、網入りガラス11が熱を遮ることによって、室外側Bの耐熱ガラス12の加熱を抑制して、耐熱ガラス12の破損を防止し、更に、室内側Aの火炎を、金属製アングル材17と耐熱性テープ18によって遮炎することができる。
【0054】
なお、上記の実施形態においては、金属製アングル材17を、窓枠2を構成する枠本体2Aの長手方向に沿って連続して設けたが、金属製アングル材17と金属製ガラス外れ止め24とを、枠本体2Aの長手方向に、交互に配設してもよい。
【符号の説明】
【0055】
1 建物の躯体
2 窓枠
2A 枠本体
2B 押縁
3 複層ガラス
3a 室内側外周端
3b 室外側外周端
3c 外周端面
4 内部空間
5 金属製補強材
6 ビス
7 取付片部
8 支持片部
9 嵌合溝
10 内周溝部
10a 底面
11 網入りガラス
12 耐熱ガラス
13 スペーサ
14 密閉空間
15,16 パッキン
17 金属製アングル材
17a 水平片
17b 延出片
18 耐熱性テープ
19 発泡性コーキング材
20 バックアップ材
21,22,23 発泡性遮炎材
24 金属製ガラス外れ止め
25 ガラス受部
26 ガラス取付部
27 取付片部
28 外れ止め片部
29 係合孔
30 抱持片部
31 係合溝部
32 差込片部
33 外れ止め片部
34 係止片部
35 係止片
36 延出片
37 発泡性遮炎材
A 室内側
B 室外側

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂製の窓枠または窓框に複層ガラスを装着してなる複層ガラス窓の防火構造において、
複層ガラスを装着する窓枠または窓框の内周溝部内に、金属製アングル材と金属製ガラス外れ止めを室内外方向に対向させて設けるとともに、この金属製アングル材と金属製ガラス外れ止め間に、複層ガラスの外周端を位置させ、かつ前記内周溝部内の底面と、複層ガラスの外周端面との間に、発泡性コーキング材を介在させ、さらに前記金属製アングル材と複層ガラス間に耐熱性テープを介在させたことを特徴とする複層ガラス窓の防火構造。
【請求項2】
発泡性コーキング材と、窓枠または窓框の内周溝部の底面との間に、発泡性黒鉛を主成分とする発泡性遮炎材を介在させた請求項1記載の複層ガラス窓の防火構造。
【請求項3】
発泡性コーキング材と耐熱性テープとの間に、バックアップ材を介在させた請求項1または2記載の複層ガラス窓の防火構造。
【請求項4】
嵌殺し窓の窓枠または開閉窓の窓框および窓枠におけるそれぞれ窓枠、窓框の内部空間に、金属製補強材を設けるとともに、前記内部空間内において、前記金属製補強材と、窓枠または窓框との間の縦方向または横方向の間隙内に、発泡性黒鉛を主成分とする発泡性遮炎材を介在させた請求項1〜3のいずれかに記載の複層ガラス窓の防火構造。
【請求項5】
発泡性コーキング材を、発泡性シリコーンシーラントとした請求項1〜4のいずれかに記載の複層ガラス窓の防火構造。
【請求項6】
金属製アングル材と金属製ガラス外れ止めを、相互に連結した請求項1〜5のいずれかに記載の複層ガラス窓の防火構造。
【請求項7】
金属製アングル材と金属製ガラス外れ止めとを、窓枠または窓框を構成する部材の長手方向に、交互に配設した請求項1〜6のいずれかに記載の複層ガラス窓の防火構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−6874(P2011−6874A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−149797(P2009−149797)
【出願日】平成21年6月24日(2009.6.24)
【出願人】(300088186)株式会社エクセルシャノン (30)
【Fターム(参考)】