説明

複層摺動部材の製造方法

【課題】高荷重用途であって乾燥摩擦条件下での使用において優れた摩擦摩耗特性を発揮する複層摺動部材の製造方法を提供する。
【解決手段】(a)ふっ化エチレン樹脂粉末を含有した熱硬化性合成樹脂ワニスを、合成繊維の紡績糸を含む織布に含浸塗布し(b)乾燥し(c)切断するとともに複数枚積層し(d)積層方向に加熱、加圧成形し(e)加熱下において曲げ加工を施し(f)その円筒外面及び円筒状裏金の円筒内面に接着層を形成し(g)二つの接着層を接触させ(h)内面に熱膨張係数が大きい金属製パイプを圧入し(i)乾燥炉内において150〜200℃の温度で20〜40分間乾燥させ(j)冷却する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滑り軸受等に用いられる複層摺動部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、低摩擦摺動部を表面層のみに有する軸受などの摺動部材としては、例えば特許文献1及び特許文献2などで提案されている。特許文献1は、積層摺動部材に関するものであり、特許文献2は、ふっ素樹脂繊維と他の繊維との交織布を低摩擦摺動面とする軸受の製造方法に関するものである。特許文献3には、固体潤滑剤粒と熱硬化性樹脂液とを一様に混合してなる混合液をシート状補強基材の一方の面から該基材の繊維組織間隙内に加圧充填する段階と、前記熱硬化性樹脂液と付着性を有する熱硬化性樹脂を前記基材の他方の面に付着する段階とからなる摺動部材の製造方法が開示されている。特許文献4には、(イ)低摩擦係数を有する樹脂加工シート基材を所望の寸法に裁断し、これを成形金型の芯金に捲きつける工程、(ロ)熱硬化性合成樹脂によって樹脂加工されたチップ基材を金型を用いて所望の成形物に近い形状に予備成形する工程、(ハ)樹脂加工シート基材を捲きつけた芯金を有する成形金型に上記予備成形物を装填し、延滞を加温すると同時に押型によって芯金の軸線方向に内容物を押圧して樹脂加工シート基材とチップ基材とを一体に圧縮成形する工程、以上(イ)(ロ)(ハ)の工程からなる内孔面に低摩擦摺動面層を有する合成樹脂摺動部材の製造方法が開示されている。
【0003】
特許文献1のように、積層構成の成形物においては、それが平板状あるいは半円筒、半球状のものであれば、表面層に低摩擦を有する樹脂加工シートを配して通常の圧縮成形法により何ら支障なく成形することができる。また、それが円筒状、長尺のパイプ状のものであっても積層管成形法(ロールド成形法)によればその積層物は容易に成形することができる。
【0004】
【特許文献1】特公昭39−14852号公報
【特許文献2】特公昭47−50893号公報
【特許文献3】特開昭56−160423号公報
【特許文献4】特開昭57−100134号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、表面層の樹脂加工シートの基体部が、特許文献1のように積層構成であると、軸受などの摺動部材としたときの耐荷重性に劣り、自ら摺動部材としての使用範囲が限定されるという問題がある。そこで、表面層の樹脂加工シートの基体部を金属製の円筒体、例えば鋼管とした場合は、積層管成形法は当然のことながら採用できない。特許文献2は、このような円筒内面に配される低摩擦摺動面層のシワやずれを防止すべく案出された製造方法であるが、ここに開示された技術は、圧縮成形法を排除し、射出成形、移送成形(基体部が金属の場合はダイキャスト法など)を採用するものであるが、製造方法が煩雑であるという問題があるばかりでなく、表面層の肉厚を薄肉とする必要があるなど、摺動部材としての使用範囲が限定されるという問題もある。
【0006】
本発明は、上記諸点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、大型の設備を必要とせず、その製造コストを著しく減少させることができるばかりでなく、裏金の円筒内面に一体に接合された摺動面材の表面を何ら機械加工等を必要とすることなく寸法精度を確保し得、製品コストをも低減することができると共に、高荷重用途であって乾燥摩擦条件下での使用において優れた摩擦摩耗特性を発揮する複層摺動部材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る複層摺動部材の製造方法は、金属製の円筒体からなる円筒状裏金と、該円筒上裏金の円筒内面に一体的に形成された摺動面材の摺動層とからなる複層摺動部材の製造方法であって、(a)四ふっ化エチレン樹脂粉末を含有した熱硬化性合成樹脂ワニスを、合成繊維の紡績糸を含む織布に含浸塗布する含浸塗布工程と、(b)該含浸塗布工程にて、得られた織布を乾燥して四ふっ化エチレン樹脂25〜35重量%と熱硬化性合成樹脂25〜50重量%と織布25〜50重量%からなる摺動面材を作製する摺動面材作製工程と、(c)該摺動面材作製工程にて得られた摺動面材を、前記円筒状裏金の円筒内面の展開長さ及び前記円筒状裏金の高さに相当する寸法に切断すると共にこれを複数枚重ね合わせて積層する切断積層工程と、(d)該切断積層工程にて得られた複数枚積層された摺動面材を、積層方向に加熱、加圧成形して積層摺動面材を作製する積層摺動面材作製工程と、(e)該積層摺動面材作製工程にて得られた積層摺動面材に加熱下において曲げ加工を施し、該積層摺動面材を前記円筒状裏金の円筒内面の曲率に合致する曲率を有すると共に、両端に突合せ端部を有する予備円筒積層摺動面材に成形する予備円筒積層摺動面材成形工程と、(f)該予備円筒積層摺動面材成形工程にて得られた予備円筒積層摺動面材の円筒外面に接着層を形成するとともに、前記金属製の円筒体からなる円筒状裏金の円筒内面に接着層を形成する接着層形成工程と、(g)該接着層形成工程にて得られた予備円筒積層摺動面材を接着剤が塗布された円筒外面を前記円筒状裏金の円筒内面に形成された接着層と接触させて該円筒状裏金の円筒内面に挿入する挿入工程と、(h)該円筒状裏金の円筒内面に挿入された予備円筒積層摺動面材の内面に、熱膨張係数が大きい金属製パイプを圧入する金属製パイプ圧入工程と、(i)該金属製パイプ圧入工程にて得られた円筒状裏金、予備円筒積層摺動面材及び金属性パイプを乾燥炉内において150〜200℃の温度で20〜40分間乾燥させる乾燥工程と、(j)該乾燥工程にて得られた円筒状裏金、予備円筒積層摺動面材及び金属製パイプを冷却し、金属性パイプを収縮によりはずす冷却工程と、からなり、乾燥炉内において金属製パイプの径方向外方への熱膨張により予備円筒積層摺動面材を円筒状裏金の円筒内面側に圧接し、摺動面材からなる摺動層を該裏金の円筒内面に一体に接合することを特徴とするものである。
【0008】
前記円筒状裏金は、鋼管からなることとすることが望ましい。
【0009】
前記織布は、ポリエステル繊維、ポリビニルアルコール繊維及びアラミド繊維から選択される合成繊維の少なくとも一つの紡績糸から形成される。
【0010】
前記織布は、ポリエステル繊維、ポリビニルアルコール繊維及びアラミド繊維から選択される合成繊維の紡績糸と四ふっ化エチレン樹脂繊維のフィラメント糸又は紡績糸との交撚糸から形成されることが望ましい。
【0011】
前記織布は、平織、綾織、朱子織の三原組織、変化平織、変化綾織、変化朱子織の変化組織、三原組織と変化組織の混合組織の各組織から選ばれた織布である。
【0012】
前記熱硬化性合成樹脂は、レゾール型フェノール樹脂、エポキシ樹脂及び不飽和ポリエステル樹脂から選択される合成樹脂の一つである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の複層摺動部材の製造方法によれば、金属製の円筒体からなる裏金の円筒内面に挿入された予備円筒積層摺動面材の内面に、熱膨張係数が大きい金属製パイプを圧入し、これらを乾燥炉内において150〜200℃の温度で20〜40分間乾燥した後、冷却する工程において、金属製パイプに生じた径方向外方への熱膨張によリ、該摺動面材には、裏金の円筒内面側に高い圧力が持続的に作用し、該摺動面材は裏金の円筒内面に圧接されるものであり、これにより摺動面材は該裏金の円筒内面に強固に接合一体化される。そして、この製造方法においては、何ら大型の設備を必要としないため、その製造コストを著しく減少させることができるばかりでなく、裏金の円筒内面に一体に接合された摺動面材の表面を何ら機械加工等必要とすることなく寸法精度を確保し得るため、製品コストをも低減することができる。
【0014】
また、得られた複層摺動部材は、金属製の円筒体からなる裏金の円筒内面に支持された摺動面となる摺動層が積層摺動面材で形成されていると共にその肉厚が厚く形成されているので、高荷重用途であって乾燥摩擦条件下での使用において優れた摩擦摩耗特性を発揮する。
【0015】
本発明によれば、何ら大型の設備を必要としないため、その製造コストを著しく減少させることができるばかりでなく、裏金の円筒内面に一体に接合された摺動層としての摺動面材の表面を何ら機械加工等必要とすることなく寸法精度を確保し得るため、製品コストをも低減することができると共に、金属製の円筒体からなる裏金の円筒内面に支持された摺動面となる摺動層が積層摺動面材で形成されていると共にその肉厚が厚く形成されているので、高荷重用途であって乾燥摩擦条件下での使用において優れた摩擦摩耗特性を発揮する複層摺動部材の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の複層摺動部材の製造方法について詳細に説明する。
本発明の複層摺動部材の製造方法は、金属製の円筒体からなる円筒状裏金と、該円筒状裏金の円筒内面に一体的に形成された摺動面材の摺動層とからなる複層摺動部材の製造方法であって、(a)四ふっ化エチレン樹脂粉末を含有した熱硬化性合成樹脂ワニスを、合成繊維の紡績糸を含む織布に含浸塗布する含浸塗布工程と、(b)該含浸塗布工程にて、得られた織布を乾燥して四ふっ化エチレン樹脂25〜35重量%と熱硬化性合成樹脂25〜50重量%と織布25〜50重量%からなる摺動面材を作製する摺動面材作製工程と、(c)該摺動面材作製工程にて得られた摺動面材を、前記円筒状裏金の円筒内面の展開長さ及び前記円筒状裏金の高さに相当する寸法に切断すると共にこれを複数枚重ね合わせて積層する切断積層工程と、(d)該切断積層工程にて得られた複数枚積層された摺動面材を、積層方向に加熱、加圧成形して積層摺動面材を作製する積層摺動面材作製工程と、(e)該積層摺動面材作製工程にて得られた積層摺動面材に加熱下において曲げ加工を施し、該積層摺動面材を前記円筒状裏金の円筒内面の曲率に合致する曲率を有すると共に、両端に突合せ端部を有する予備円筒積層摺動面材に成形する予備円筒積層摺動面材成形工程と、(f)該予備円筒積層摺動面材成形工程にて得られた予備円筒積層摺動面材の円筒外面に接着層を形成するとともに、前記金属製の円筒体からなる円筒状裏金の円筒内面に接着層を形成する接着層形成工程と、(g)該接着層形成工程にて得られた予備円筒積層摺動面材を接着剤が塗布された円筒外面を前記円筒状裏金の円筒内面に形成された接着層と接触させて該円筒状裏金の円筒内面に挿入する挿入工程と、(h)該円筒状裏金の円筒内面に挿入された予備円筒積層摺動面材の内面に、熱膨張係数が大きい金属製パイプを圧入する金属製パイプ圧入工程と、(i)該金属製パイプ圧入工程にて得られた円筒状裏金、予備円筒積層摺動面材及び金属性パイプを乾燥炉内において150〜200℃の温度で20〜40分間乾燥させる乾燥工程と、(j)該乾燥工程にて得られた円筒状裏金、予備円筒積層摺動面材及び金属製パイプを冷却し、金属性パイプを収縮によりはずす冷却工程と、からなり、乾燥炉内において金属製パイプの径方向外方への熱膨張により予備円筒積層摺動面材を円筒状裏金の円筒内面側に圧接し、摺動面材からなる摺動層を該裏金の円筒内面に一体に接合するものである。
【0017】
上記製造方法において、金属製の円筒体からなる裏金としては、JISG3445で規定されている機械構造用炭素鋼鋼管(STKM13C)などが使用されて好適である。摺動面材は、合成繊維の紡績糸からなる織布、あるいは合成繊維の紡績糸と四ふっ化エチレン樹脂(以下「PTFE」と略称する。)繊維のフィラメント糸又は紡績糸との交撚糸からなる織布と、該織布に含浸されたPTFEを含有した熱硬化性合成樹脂とから形成される。織布を形成する合成繊維としては、ポリエステル繊維、ポリビニルアルコール繊維(ビニロン繊維)及びアラミド繊維の少なくとも一つから選択されることが好ましい。ポリエステル繊維は、一般にジカルボン酸成分とジオール成分より重縮合されて得られるポリエステル繊維である。ポリエステルのカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸等、ポリエステルのジオール成分としては、エチレングリコール、ハイドロキノン、ビスフェノールA、ビフェニル等があげられる。又、両成分を兼ねるものとしては、p−ヒドロキシ安息香酸、2−オキシ−6−ナフトエ酸等が挙げられる。ポリビニルアルコール繊維(ビニロン繊維)は、ポリ酢酸ビニルをアルカリでケン化してポリビニルアルコール(PVA)とし、その水溶液を湿式又は乾式紡糸をして繊維にしたものである。
【0018】
アラミド繊維は、その分子骨格によりパラ型とメタ型に大別される。メタ系アラミド繊維は、メタフェニレンジアミン(MPDA)とイソフタル酸ジクロライド(IPC)を原料として、縮重合したポリメタフェニレンイソフタルアミド(MPIA)を繊維化したものである。そして、メタ系アラミド繊維の具体例としては、テイジン社製の「コーネックス(テイジン社の商標)」が挙げられる。
【0019】
パラ系アラミド繊維は、通常アミド結合を少なくとも一個有する繊維であって、少なくとも一個のベンゼン環がパラ位で結合している繊維である。例えば、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維、ポリパラフェニレンジフェニルエーテルテレフタルアミド繊維又はコポリパラフェニレン−3,4'−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維等が挙げられる。そして、パラ系アラミド繊維の具体例としては、米国デュポン、東レ・デュポン社製の「ケブラー(デュポン社の商標)」、テイジン・トワロン社製の「トワロン(トワロン社の商標)」、テイジン社製の「テクノーラ(テイジン社の商標)」が挙げられる。
【0020】
上記した合成繊維の紡糸の形態は、後述する熱硬化性合成樹脂を含浸保持するという観点から紡績糸であることが好ましく、これら合成繊維の紡績糸から織布が形成される。
【0021】
織布としては、上記合成繊維の紡績糸からなる織布の他に、該合成繊維の紡績糸とPTFE繊維のフィラメント糸、マルチフィラメント糸及び紡績糸との交撚糸を使用して織られた織布であってもよい。交撚糸を使用した織布においては、表面に低摩擦性を発揮するPTFE繊維糸が露出することになる。この織布の肉厚は、使用する合成繊維の紡績糸の番手、あるいはPTFE繊維のフィラメント糸のデニール番手によって適宜調整することができる。
【0022】
織布としては、平織、綾織、朱子織の三原組織、変化平織、変化綾織、変化朱子織の変化組織、三原組織と変化組織の混合組織の各組織から選ばれた織布であることが好ましい。そして、摺動面材中に含まれる織布の量は、25〜50重量%が適当である。織布の量が25重量%未満では、充分な摩擦摩耗特性が発揮されず、また50重量%を超えると後述する熱硬化性合成樹脂の量が少なくなり、成形性を著しく阻害する虞がある。
【0023】
本発明において使用される熱硬化性合成樹脂は、レゾール型フェノール樹脂、エポキシ樹脂及び不飽和ポリエステル樹脂などが好適であり、これら熱硬化性合成樹脂の揮発性溶剤としては、メタノール、アセトン、メチルエチルケトンなど使用する熱硬化性合成樹脂によって適宜選択される。そして、摺動面材中に含まれる熱硬化性合成樹脂の量は、30〜50重量%が適当である。熱硬化性合成樹脂の量が30重量%未満では、摺動面材の成形加工性に支障をきたし、また50重量%を超えると摺動面材の機械的強度を低下させる。
【0024】
上記熱硬化性合成樹脂に含有されるPTFEは、成形用のモールディングパウダー(以下「高分子量PTFE」と略称する。)と、放射線照射などにより高分子量PTFEに比べて分子量を低下させた、粉砕し易くまた分散性がよい、主に添加材料として使用されるPTFE(以下「低分子量PTFE」と略称する。)が使用できる。
【0025】
高分子量PTFEの具体例としては、三井デュポンフロロケミカル社製の「テフロン(登録商標)7J」、「テフロン(登録商標)7A-J」、「テフロン(登録商標)70-J」等、ダイキン工業社製の「ポリフロンM‐12(ダイキン工業社の商標)」等、旭硝子社製の「フルオンG163(旭硝子社の商標)」、「フルオンG190(旭硝子社の商標)」等が挙げられる。
【0026】
また、低分子量PTFEの具体例としては、三井デュポンフロロケミカル社製の「TLP-10F(商品型番)」等、ダイキン工業社製の「ルブロンL‐5(ダイキン工業社の商標)」等、旭硝子社製の「フルオンL150J(旭硝子社の商標)」、「フルオンL169J(旭硝子社の商標)」等、喜多村社製の「KTL‐8N(喜多村社の型番)」等が挙げられる。
【0027】
本発明においては、上記高分子量PTFE及び低分子量PTFEのいずれも使用することができるが、上記熱硬化性合成樹脂と混合するにあたって、均一に分散しボイドを生成しにくくするためには低分子量PTFEの粉末が好ましい。また、PTFE粉末の平均粒径は、均一に分散し、ボイドの生成を防ぐという観点から1〜50μm、好ましくは1〜30μmである。
【0028】
そして、摺動面材中に含まれるPTFEの量は、10〜30重量%が適当である。PTFEの量が10重量%未満では、摩擦摩耗特性の向上に効果が得られず、また30重量%を超えると成形の際に樹脂の粘度が増大し、ボイドを生成する虞があるのと、上記熱硬化性合成樹脂の接着性を低下させ、複層摺動部材としての強度低下を来たす虞がある。
【0029】
次に、上記した摺動面材及び該摺動面材を使用した複層摺動部材の製造方法について、図に示す好ましい例に基づいて説明する。
【0030】
摺動面材は、次のようにして作製される。図1は、摺動面材(樹脂加工基材)の製造装置を示す説明図である。図1に示す製造装置において、アンコイラ1に巻かれた織布からなる補強基材2は、送りローラ3によってPTFE粉末を均一に分散含有した熱硬化性合成樹脂ワニス4を貯えた容器5に送られ、容器5内に設けられた案内ローラ6及び7によって容器5内に貯えられた該熱硬化性合成樹脂ワニス4内を通過せしめられることにより、補強基材2の表面に該熱硬化性合成樹脂ワニス4が塗工される。ついで、該熱硬化性合成樹脂ワニス4が塗工された補強基材2は、送りローラ8によって圧縮ロール9及び10に送られ、圧縮ロール9及び10によって補強基材2の表面に塗工された該熱硬化性合成樹脂ワニス4を繊維組織隙間にまで含浸せしめる。
【0031】
そして、熱硬化性合成樹脂ワニス4が含浸塗布された補強基材2に対して乾燥炉11内で溶剤を飛ばすと同時に該樹脂ワニス4の反応が進められ、これによりPTFE25〜35重量%と熱硬化性合成樹脂25〜50重量%と織布25〜50重量%からなる成形可能な摺動面材(樹脂加工基材)12が作製される。このように形成された摺動面材12の肉厚は、おおよそ0.2〜0.5mmとされる。図2は、このようにして作製された摺動面材を示す斜視図である。熱硬化性合成樹脂を揮発性溶剤に溶かして形成される熱硬化性合成樹脂ワニスの固形分は、おおむね30〜65重量%であり、該樹脂ワニスの粘度は、おおむね800〜5000cP、就中1000〜4000cPが好ましい。
【0032】
次に、摺動面材12を使用した複層摺動部材及びその製造方法について説明する。
【0033】
図3は、金属製の円筒体からなる円筒状裏金の斜視図である。金属製の円筒体からなる円筒状裏金13として、機械構造用炭素鋼鋼管を準備し、該円筒状裏金13の円筒内面14に接着層15を形成する。接着層15としては、エポキシ樹脂を溶剤としてのアセトンに溶解し、これを接着剤として該円筒状裏金13の円筒内面14に一様に塗布し、乾燥することにより形成される。
【0034】
図4は、円筒状裏金の円筒内面の展開長さ及び円筒状裏金の高さに相当する寸法に切断した摺動面材を示す平面図である。前記摺動面材(樹脂加工基材)12を準備し、該摺動面材12を前記円筒状裏金13の円筒内面14の展開長さに相当する長さl1と該円筒状裏金13の高さhに相当する長さl2の寸法に切断すると共に、該摺動面材12を複数枚重ね合わせて積層した後、積層方向に加熱、加圧成形し、積層体からなる少なくとも厚さ1mmの積層摺動面材16を作製する。図5は、積層摺動面材を示す断面図である。
【0035】
図6は、予備円筒積層摺動面材を示す斜視図である。積層摺動面材16を加熱下において、前記円筒状裏金13の円筒内周面14の曲率と合致する曲率を有する円筒状に捲回し、該積層摺動面材16を両端に突合せ端部17及び17を有する予備円筒積層摺動面材18に成形する。
【0036】
予備円筒積層摺動面材18の外面19に、エポキシ樹脂を溶剤としてのアセトンに溶解して作製した接着剤を塗布し、乾燥して接着層20を形成する。
【0037】
図7は、複層摺動部材の製造工程を示す斜視図である。該予備円筒積層摺動面材18を前記円筒状裏金13の円筒内面14に挿入したのち、該予備円筒積層摺動面材18の内面21に、熱膨張係数が大きい金属製パイプ22を圧入する。金属製パイプ22としては、黄銅(熱膨張係数20.5×10-6/℃)、アルミニウム青銅(熱膨張係数17×10-6/℃)、オーステナイト系ステンレス鋼(熱膨張係数17.3×10-6/℃)などが挙げられる。
【0038】
円筒状裏金13の円筒内面14に挿入された予備円筒積層摺動面材18の内面21に金属製のパイプ22を圧入した状態で、これらを乾燥炉内において150〜200℃の温度で20〜40分間乾燥させた後、冷却する。
【0039】
この工程において、金属製のパイプ22は乾燥炉内の温度上昇に伴い径方向外方に熱膨張を来たし、この熱膨張により予備円筒積層摺動面材18は裏金13の円筒内面14側に強く圧接されることになり、該摺動面材18からなる摺動層23が裏金13の円筒内面14に一体に接合された複層摺動部材24が得られる。この複層摺動部材24において、予備円筒積層摺動面材18に形成された両端の突合せ端部17及び17は当接するので、該摺動層23に隙間を生じることはない。図8は、このようにしてできあがった複層摺動部材を示す斜視図である。
【0040】
このように上記製造方法によれば、何ら大型の設備を必要としないため、その製造コストを著しく減少させることができるばかりでなく、裏金の円筒内面に一体に接合された摺動層としての摺動面材の表面を何ら機械加工等必要とすることなく寸法精度を確保し得るため、製品コストをも低減することができる。得られた複層摺動部材24は、金属製の円筒体からなる裏金13の円筒内面14に支持された摺動面となる摺動層23が積層摺動面材16で形成されていると共にその肉厚が厚く形成されているので、高荷重用途であって乾燥摩擦条件下での使用において優れた摩擦摩耗特性を発揮する。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0042】
裏金として、内径50mm、外径62mm、長さ48mmの機械構造用炭素鋼鋼管(STKM13C)を準備した。エポキシ樹脂を溶剤としてのアセトンに溶解し、これを接着剤として裏金の円筒内面に一様に塗布し、乾燥して該円筒内面に接着層を形成した。
【0043】
合成繊維としてパラ系アラミド繊維(テイジン社製の「テクノーラ(商品名)」)の紡績糸から平織織布を作製した。
【0044】
樹脂固形分64.5重量%を有するエポキシ樹脂ワニス100重量部と平均粒径1〜30μmの低分子量PTFE(喜多村社製の「KTL‐8N(商品名)」)粉末20重量部とを混合し、これにメタノール15重量部を加えて粘度を2750〜2800cpsに調整した混合液を作製した。この混合液を前記図2に示す製造装置の容器に貯えた。図2に示す製造装置において、アンコイラに巻かれた平織織布からなる補強基材を、送りローラによっ混合溶液を貯えた容器に送り、容器内に設けられた案内ローラによって容器内に貯えられた該混合液内を通過せしめることにより、補強基材の表面に該混合液を塗工した。ついで、該混合溶液を塗工した補強基材を送りローラによって圧縮ロールに送り、圧縮ロールによって補強基材の表面に塗工した該混合溶液を繊維組織隙間にまで含浸せしめた。そして、混合溶液を含浸塗布した補強基材を乾燥炉内に送り、該補強基材中の溶剤を飛ばすと同時に該混合溶液の反応を進め、補強基材(平織織布)30重量%と低分子量PTFE31重量%と残部エポキシ樹脂(39重量%)からなる成形可能な摺動面材(樹脂加工基材)を作製した。
【0045】
この摺動面材を、前記裏金の円筒内面の展開長さに相当する長さと該裏金の高さに相当する長さの寸法、すなわち展開長さ157mm、高さ48mmの長方形状の寸法に切断し、これを4枚重ね合わせて積層した後、積層方向に加熱、加圧成形し、積層体からなる厚さ1mm以上の積層摺動面材を作製した。
【0046】
ついで、該積層摺動面材に加熱下において曲げ加工を施し、前記裏金の円筒内面の曲率と合致する曲率を有する円筒状に捲回し、該積層摺動面材に両端に突合せ端部を有する予備円筒積層摺動面材に成形した。
【0047】
エポキシ樹脂を溶剤としてのアセトンに溶解し、これを接着剤として前記予備円筒積層摺動面材の円筒外面に一様に塗布し、乾燥して該予備円筒積層摺動面材の円筒外面に接着層を形成した。
【0048】
円筒外面に接着層が形成された予備円筒積層摺動面材を、前記裏金の円筒内面に挿入したのち、該予備円筒積層摺動面材の内面に、熱膨張係数が大きい金属製パイプを圧入した。金属製パイプとして、黄銅(熱膨張係数20.5×10-6/℃)を使用した。
【0049】
裏金の円筒内面に挿入された予備円筒積層摺動面材の内面に金属製のパイプを圧入した状態で、これらを乾燥炉内において180℃の温度で30分間乾燥し、冷却した後、乾燥炉から取出し、裏金の円筒内面に積層摺動面材からなる摺動層を具備した複層摺動部材を得た。摺動層の肉厚は、1.0mmであった。
【0050】
この工程において、金属製のパイプは乾燥炉内の温度上昇に伴い径方向外方に熱膨張を来たし、この熱膨張により予備円筒積層摺動面材は裏金の円筒内面側に強く圧接されることになり、該積層摺動面材が裏金の円筒内面に一体に接合され、該積層摺動面材からなる摺動層が裏金の円筒内面に形成される。
【0051】
このようにして作製された複層摺動部材は、
荷重(面圧) 29MPa(300kgf/cm2)
すべり速度 1m/min
揺動角度 ±45°
相手材 S45C(機械構造用炭素鋼)クロムメッキ
試験サイクル 3万サイクル
潤滑 なし(乾燥潤滑)
の試験条件でのジャーナル揺動試験において、摩擦係数0.08、摩耗量40μmと優れた摩擦摩耗特性を発揮するものであった。
【0052】
以上のように本発明の複層摺動部材の製造方法は、金属製の円筒体からなる裏金の円筒内面に挿入された予備円筒積層摺動面材の内面に、熱膨張係数が大きい金属製パイプを圧入し、これらを乾燥炉内において150〜200℃の温度で20〜40分間乾燥させた後、冷却する工程において、金属製パイプに生じた径方向外方への熱膨張によリ、該摺動面材に、裏金の円筒内面側に高い圧力を持続的に作用させ、該摺動面材を裏金の円筒内面に圧接させるものである。そして、この製造方法においては、何ら大型の設備を必要としないため、その製造コストを著しく減少させることができるばかりでなく、裏金の円筒内面に一体に接合された摺動面材の表面を何ら機械加工等必要とすることなく寸法精度を確保し得るため、製品コストをも低減することができる。また、得られた複層摺動部材24は、金属製の円筒体からなる円筒状裏金13の円筒内面14に支持された摺動面となる摺動層23が積層摺動面材16で形成されていると共にその肉厚が厚く形成されているので、高荷重用途であって乾燥摩擦条件下での使用において優れた摩擦摩耗特性を発揮する。
【産業上の利用可能性】
【0053】
軸受の製造方法として利用できる。特に、小ロット生産に適している。さらに言えば、多品種小ロット生産にて軸受を製造するのに適している。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】摺動面材(樹脂加工基材)の製造装置を示す説明図である。
【図2】摺動面材を示す斜視図である。
【図3】金属製の円筒体からなる円筒状裏金の斜視図である。
【図4】円筒状裏金の円筒内面の展開長さ及び円筒状裏金の高さに相当する寸法に切断した摺動面材を示す平面図である。
【図5】積層摺動面材を示す断面図である。
【図6】予備円筒積層摺動面材を示す斜視図である。
【図7】複層摺動部材の製造工程を示す斜視図である。
【図8】複層摺動部材を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0055】
1 アンコイラ
2 補強基材
3,8 送りローラ
4 熱硬化性合成樹脂ワニス
5 容器
6,7 案内ローラ
9,10 圧縮ロール
11 乾燥炉
12 摺動面材
13 円筒状裏金
14 円筒内面
15,20 接着層
16 積層摺動面材
17 突合せ端部
18 予備円筒積層摺動面材
19 外面
21 内面
22 金属製パイプ
23 摺動層
24 複層摺動部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の円筒体からなる円筒状裏金と、該円筒状裏金の円筒内面に一体的に形成された摺動面材の摺動層とからなる複層摺動部材の製造方法であって、
(a)四ふっ化エチレン樹脂粉末を含有した熱硬化性合成樹脂ワニスを、合成繊維の紡績糸を含む織布に含浸塗布する含浸塗布工程と、
(b)該含浸塗布工程にて、得られた織布を乾燥して四ふっ化エチレン樹脂25〜35重量%と熱硬化性合成樹脂25〜50重量%と織布25〜50重量%からなる摺動面材を作製する摺動面材作製工程と、
(c)該摺動面材作製工程にて得られた摺動面材を、前記円筒状裏金の円筒内面の展開長さ及び前記円筒状裏金の高さに相当する寸法に切断すると共にこれを複数枚重ね合わせて積層する切断積層工程と、
(d)該切断積層工程にて得られた複数枚積層された摺動面材を、積層方向に加熱、加圧成形して積層摺動面材を作製する積層摺動面材作製工程と、
(e)該積層摺動面材作製工程にて得られた積層摺動面材に加熱下において曲げ加工を施し、該積層摺動面材を前記円筒状裏金の円筒内面の曲率に合致する曲率を有すると共に、両端に突合せ端部を有する予備円筒積層摺動面材に成形する予備円筒積層摺動面材成形工程と、
(f)該予備円筒積層摺動面材成形工程にて得られた予備円筒積層摺動面材の円筒外面に接着層を形成するとともに、前記金属製の円筒体からなる円筒状裏金の円筒内面に接着層を形成する接着層形成工程と、
(g)該接着層形成工程にて得られた予備円筒積層摺動面材を接着剤が塗布された円筒外面を前記円筒状裏金の円筒内面に形成された接着層と接触させて該円筒状裏金の円筒内面に挿入する挿入工程と、
(h)該円筒状裏金の円筒内面に挿入された予備円筒積層摺動面材の内面に、熱膨張係数が大きい金属製パイプを圧入する金属製パイプ圧入工程と、
(i)該金属製パイプ圧入工程にて得られた円筒状裏金、予備円筒積層摺動面材及び金属性パイプを乾燥炉内において150〜200℃の温度で20〜40分間乾燥させる乾燥工程と、
(j)該乾燥工程にて得られた円筒状裏金、予備円筒積層摺動面材及び金属製パイプを冷却し、金属性パイプを収縮によりはずす冷却工程と、
からなり、乾燥炉内において金属製パイプの径方向外方への熱膨張により予備円筒積層摺動面材を円筒状裏金の円筒内面側に圧接し、摺動面材からなる摺動層を該裏金の円筒内面に一体に接合することを特徴とする複層摺動部材の製造方法。
【請求項2】
前記円筒状裏金は、鋼管からなることを特徴とする請求項1に記載の複層摺動部材の製造方法。
【請求項3】
前記織布は、ポリエステル繊維、ポリビニルアルコール繊維及びアラミド繊維から選択される合成繊維の少なくとも一つの紡績糸から形成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の複層摺動部材の製造方法。
【請求項4】
前記織布は、ポリエステル繊維、ポリビニルアルコール繊維及びアラミド繊維から選択される合成繊維の紡績糸と四ふっ化エチレン樹脂繊維のフィラメント糸又は紡績糸との交撚糸から形成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の複層摺動部材の製造方法。
【請求項5】
前記織布は、平織、綾織、朱子織の三原組織、変化平織、変化綾織、変化朱子織の変化組織、三原組織と変化組織の混合組織の各組織から選ばれた織布である請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の複層摺動部材の製造方法。
【請求項6】
前記熱硬化性合成樹脂は、レゾール型フェノール樹脂、エポキシ樹脂及び不飽和ポリエステル樹脂から選択される合成樹脂の一つであることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の複層摺動部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−103194(P2009−103194A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−274675(P2007−274675)
【出願日】平成19年10月23日(2007.10.23)
【出願人】(000103644)オイレス工業株式会社 (384)
【Fターム(参考)】