説明

複式炭酸ガスエンジン

【課題】燃料資源に起因する問題を起こさずに、従来の内燃機関によるのと同等程度以上のエネルギを効率よく取り出すこと
【解決手段】密閉に形成されるハウジング101と、該ハウジング内に断面円形に形成される内室103と、該内室に回転可能に設けられるロータ105とからなる。ロータ105は回転方向に沿った周面に5個以上に等分された作動面を有する。ハウジング101に複数の供給口107及び排出口109を設け、上記供給口から供給される高圧状態の炭酸ガスが上記排出口から常圧で排出されるときの体積膨張による力により上記ロータを一方向に回転し、上記ロータが1回転する間に複数回の吸入膨張行程、膨張排出行程及び大気圧保持行程を経る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、炭酸ガスの物理的性状を最大限に活用した、燃料の燃焼を伴わずにエネルギを取り出す複式炭酸ガスエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関は機関の内部で燃料を燃焼させてその熱エネルギを利用する。使用する燃料のちがいによりガソリン機関、ガス機関、石油機関等種々のものがあり、世界中で広く普及し使用されている。
【0003】
しかしながら、石油資源の枯渇が懸念されており、また燃焼の結果排出される排気ガスによる公害問題を惹起している。
【0004】
外燃機関も燃料を燃焼させるという点で、上記した問題、即ち、資源の枯渇や排気ガスによる公害問題を惹起する。
【0005】
これらを解消すべく、クリーンエネルギとして水素の利用が注目されているが、取扱いが至難のため、開発に行き詰まっているのが現状である。
【0006】
このようにエネルギー源の確保が重要である反面、炭酸ガスの増大による弊害とくに地球温暖化問題が指摘されている。日本の炭酸ガス排出量は全世界の5%を占めると言われ、毎年約38100万トンもの膨大な量の炭酸ガスが大気中に排出されている。このうち約3割が発電等のエネルギ転換部門が占めている。このような憂慮すべき状態にあるにもかかわらず、世界経済の活発化・発展途上国の発展等により、京都議定書の如き政治的制約を尻目に炭酸ガスの排出は一層増大すると言われ、その有効利用はおろか増大防止を阻止できないでいる。とくに現代生活を支える電力エネルギは炭酸ガスを大量に発生させる石油等の化石燃料を燃焼する火力発電が中心であるため、上記憂慮は深刻である。
【0007】
本願発明はこのような背景の下に、提唱される全く新しい画期的なエネルギシステムである。
【0008】
本願発明に関し、先行技術文献の調査をしたが、有効な特許文献を発見することができなかった。強いて挙げるとすれば出願人の特許出願に係る次の特許文献である。特許文献1は三面ロータによる炭酸ガスエンジン、特許文献2は二面ロータによる炭酸ガスエンジン及び特許文献3はこれら炭酸ガスエンジンを用いた循環システムに関する。
【特許文献1】特願2006−213941
【特許文献2】特願2006−213943
【特許文献3】特許第3929477号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本願発明は燃料の燃焼を伴わずにエネルギを取り出すことにより上記欠点を解消する全く新しい画期的な複式炭酸ガスエンジンを提案する。
【0010】
つまり本願発明の目的は、燃料資源に起因する問題を起こさずにエネルギ源を確保することであり、従来の内燃機関によるのと同等程度以上のエネルギを効率よく取り出すことができる複式炭酸ガスエンジンを供する。
【0011】
また他の目的は、内燃機関使用による炭酸ガスの増加を防止することであり、ひいては温暖化現象の防止に寄与することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的達成のため、本願発明による複式炭酸ガスエンジンは、密閉に形成されるハウジングと、該ハウジング内に断面円形に形成される内室と、該内室に回転可能に設けられるロータとからなり、該ロータは回転方向に沿った周面に5個以上に等分された作動面を有し、上記ハウジングに複数の供給口及び排出口を設け、上記供給口から供給される高圧状態の炭酸ガスが上記排出口から常圧で排出されるときの体積膨張による力により上記ロータを一方向に回転し、上記ロータが1回転する間に複数回の吸入膨張行程、膨張排出行程及び大気圧保持行程を経ることを特徴とする。
また、請求項1記載の複式炭酸ガスエンジンにおいて、上記ロータの作動面が凹弧状に形成されることを特徴とする。
また、請求項2記載の複式炭酸ガスエンジンにおいて、上記作動面が対応する上記ハウジングの内周面の弧と略線対称であることを特徴とする。
また、請求項1又は請求項2記載の複式炭酸ガスエンジンにおいて、上記ロータの作動面が奇数個であることを特徴とする。
また、請求項1又は請求項2記載の複式炭酸ガスエンジンにおいて、上記ロータの作動面が5個であることを特徴とする。
また、請求項1又は請求項2記載の複式炭酸ガスエンジンにおいて、上記ロータの作動面が7個であることを特徴とする。
また、請求項1又は請求項2記載の複式炭酸ガスエンジンにおいて、上記ロータの作動面が9個であることを特徴とする。
また、請求項1記載の複式炭酸ガスエンジンにおいて、上記ロータを複数とし、上記各ロータは作動面の位相が重ならないようにずらせて設けることを特徴とする。
また、請求項1又は請求項2記載の複式炭酸ガスエンジンにおいて、上記ハウジングの外側に加熱部を設けることを特徴とする複式炭酸ガスエンジン。
【発明の効果】
【0013】
本願発明は炭酸ガスの有する3つの優れた物理的性状、即ち、ガスの不活性、常温液化性及び高度の体積膨張性を利用し、高圧状態で内室に供給された炭酸ガスが常圧になるときの体積膨張による力により作動子を駆動させ、これにより発生するエネルギを複数回取り出す。よって、燃料の燃焼を伴わずにエネルギを取り出すから、燃料資源に起因する問題、即ち、資源の枯渇や排気ガスによる公害問題を惹起することがない。よって完全なクリーンエネルギである。
【0014】
また、炭酸ガスを用いるものの炭酸ガスを生じることがないので、現在以上の炭酸ガスの増加を防止することができ、温暖化現象の防止に寄与することができる。
【0015】
エネルギ源は資源枯渇のおそれがない炭酸ガスであり、しかも取り出されるエネルギは後述するようにガソリンエンジンと同等程度以上であるから、エネルギの実行性の点でも問題はない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、実施の形態を示す図面に基づき本願発明による複式炭酸ガスエンジンをさらに詳しく説明する。なお、便宜上同一の機能を奏する部分には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0017】
図1及び図2において、炭酸ガスエンジン1はアルミニウム合金製の密閉された円筒からなるハウジング101と、該ハウジング101の内室103に回転可能に設けられるアルミニウム合金製のロータ105とからなる。上記ハウジング101は密閉に形成された円筒が横設され、内部に断面円形に形成される内室103を有する。上記ハウジング101の周壁を4等分した部位に第1供給口107a、第1排出口109a、第2供給口107b及び第2排出口109bを順次設ける(総称するときは便宜上供給口「107」、排出口「109」の如く表記する)。これにより、第1排出口109a、第2排出口109bは、第1供給口107a、第2供給口107bより供給される高圧の炭酸ガス35aが常圧の炭酸ガス35bとなる圧力の均衡点の直前となるよう配設される。上記第1排出口109a、第2排出口109bは上記第1供給口107a、第2供給口107bより大に形成される。
【0018】
上記ロータ105は矢示する回転方向に沿って周面を5等分して作動面a、b、c、d、eを形成する。各作動面a、b、c、d、eは凹弧状に形成され、対応するハウジング101の内周面の弧と略線対称に形成される。上記ロータ105の各頂点部は弯曲に形成され、また圧力保持のための圧力シール105aを設ける。該圧力シール105aはオイルシールも兼ねる。
【0019】
本実施例の場合、上記構成のハウジング101及びロータ105が2個連結される。なお、図1及び図2ではハウジング及びロータを「ハウジング101A」、「ハウジング101B」、「ロータ105A」、「ロータ105B」と示すが、以下の説明で区別する必要がないとき及び総称するときは便宜上「ハウジング101」及び「ロータ105」と表記する。102は上記2個のロータ105が固着されるロータ軸であり、該ロータ軸102により2個のロータ105が2個のハウジング101内の中央部に回転可能に取り付けられる。この際各ロータ105は出力の円滑性を確保するため、作動面の位相が重ならないようずらせて設ける。110は上記ロータ軸102の一端に設けるフライホイールである。
【0020】
上記各ハウジング101の各内室103には高圧状態の炭酸ガス35aが供給され、該炭酸ガス35aが大気圧になるときの体積膨張による力により上記各ロータ105がロータ軸102を中心にして矢示する一方向に回転する。上記内室103は上記ロータ105の回転に伴ない、第1室111、第2室112、第3室113、第4室114、第5室115に区画・形成される。上記各室111、112、113、114、115は上記ロータ105の作動面a,b,c,d,eとの関係で、吸入膨張行程、膨張排出行程又は大気圧保持行程のいずれかを担う。第1室111はある作動面(図3A及び図3Bの場合はa面)が第1供給口107aを「開」とする位置にきたときから第1排出口109aを「開」に至らしめないまでの位置とし、このとき第1室111に隣接する各室を回転方向に順次第2室112、第3室113、第4室114及び第5室115とする。
【0021】
吸入膨張行程は炭酸ガス35aが第1室111内に供給され、上記ロータ105のいずれかの作動面a〜eを押圧する行程で、このとき供給口107a、107bは「開」、排出口109a、109bは「閉」となっている(図3AのA1〜A2、図3BのB1〜B2)。膨張排出行程はロータ105の回転に与り大気圧状態となった炭酸ガス35bが排出口109a、109bより外部に排出される行程で、このとき供給口107a、107bは「閉」、排出口109a、109bは「開」となっている(図3AのA3〜A4、図3BのB3〜B4)。大気圧保持行程は、供給口107a、107bが「閉」、排出口109a、109bが「開」であり、図3AのA5の場合作動室111、112が、図3BのB5の場合作動室113、114がいずれも大気圧となった炭酸ガス35bを大気圧状態に保持する行程であり、これによりロータ105の回転に円滑性を付与する(図3AのA5、図3BのB5)。
【0022】
炭酸ガスエンジン1の第1室内で高圧の炭酸ガスが亜膨張となり膨張エネルギを溜めるのに貢献する常圧化手段としては、炭酸ガスエンジン1の内部から大気圧にする場合、又は炭酸ガスエンジン1の外部から大気圧にする場合のいずれであってもよい。前者はロータ軸102の軸受部(図示省略)を介して内室103に接せられる大気により常圧とする場合であり、図6及び図7に示す例である。この場合は必ずしも排出される炭酸ガスの循環回路の設置は必要的ではない。後者は、排出される炭酸ガスの循環回路における大気乾燥部65を介して内室103に接せられる大気により常圧とする場合(図10)、弁圧調整のための弁圧調整弁及び回路を付設する場合(図11)がある。詳しくは後述する。
【0023】
次に図3A及び図3Bに基づき本願発明の作動原理を説明する。図3A及び図3Bはロータ105が内室103内で回転するときの位置と炭酸ガスの膨張の様子を模式化した図である。図3AのA1乃至A5は作動面aにおける1回目の膨張エネルギー取出工程を示し、図3BのB1乃至B5は作動面aにおける2回目の膨張エネルギー取出工程を示す。図3AのA1及びA2は吸入膨張行程を示し、このときの炭酸ガスは「亜膨張」の状態となる。図3AのA3及びA4は膨張排出行程を示し、このときの炭酸ガスは「連鎖膨張」の状態となる。図3AのA5は大気圧保持行程を示し、このときの作動室111、112は大気圧(1気圧)となる。また図3BのB1及びB2は吸入膨張行程を示し、このときの炭酸ガスは「亜膨張」の状態となる。図3BのB3及びB4は膨張排出行程を示し、このときの炭酸ガスは「連鎖膨張」の状態となる。図3BのB5は大気圧保持行程を示し、このときの作動室113、114は大気圧(1気圧)となる。これによりロータ105が1回転し他の面(b面)が作動面となる。
【0024】
炭酸ガス35aは初期タンク31又は循環タンク73よりパイプ33を経て高圧状態のまま炭酸ガスエンジン1に供給されるのであるが、この炭酸ガス35aが炭酸ガスエンジン1の内室103に流入されるときの様子を図3A及び図3Bに基づいて説明してみる。
【0025】
まず始動を図示しないセルスターターにより行ない、ロータ105を強制回転させる。ロータ105が図3AのA1の位置即ち供給口107aが「開」のときは、高圧状態の炭酸ガス35aが第1室111に流入してくる。この炭酸ガス35aは第1室111に流入するとすぐに膨張を開始するが、この膨張はロータ105が図3AのA2に示すように排出口109aの位置にくると一旦終了する。これは炭酸ガス35aの膨張が第1室111の容積の限度内で行われるためである。これを仮りに「亜膨張」と呼ぶ。亜膨張時にロータ105が受ける圧力エネルギーは、ガソリンエンジンにおける場合と同様、a面全体で圧力を受けることになる。つまり図3AのA1及びA2の吸入膨張行程において、炭酸ガス35aは亜膨張エネルギーのストレスを溜め保持した状態で次の膨張排出行程に移行することになる。
【0026】
図3AのA3及びA4の膨張排出行程において、ロータ105の回転により排出口109aが「開」となった瞬間、即ち排出口109aがピンホール状態となると炭酸ガス35aは大気圧となるため爆発的に膨張する。このとき炭酸ガス35aの動きを中心にみると、膨張した炭酸ガス35aはロータ105の表面に沿って動き「開」となった排出口109aに向かって急激に移動する。このときの炭酸ガス35aの膨張圧力は吸入膨張行程における場合とは異なり、ロータ105のa面全体に均等にかかるのではなく、ロータ105の排出口109a側の半面にだけ集中してかかる。よって排出口109aは益々大きく開口し、これにより炭酸ガス35aが益々排出口109aに向かって急激に移動するため、炭酸ガス35aの膨張による力(これを「膨張力」と呼ぶ)は一層ロータ105の排出口109a側の半面にだけ集中する。この状態は「連鎖膨張」の状態と呼ぶことができ、こうなると炭酸ガス35aは十分に膨張しきり、このためロータ105の排出口109a側の半面には十分な回転モーメントを得ることができ、これによりロータ105は回転する。
【0027】
この点を図4A(A)乃至(D)に基づきもう少し詳しく説明する。図4A(A)は図3Aの行程A2のA部拡大図、図4A(B)は図3Aの行程A3のB部拡大図、図4A(C)は図3Aの行程A3と行程A4の中間状態を示す拡大図、図4A(D)は図3Aの行程A4のD部拡大図である。図4A(A)に示すように膨張排出行程の直前の状態では炭酸ガス35aの膨張(亜膨張)の力は第1室111及びロータ105のすべての面にかかっている。しかし、排出口109aが「開」となった瞬間、炭酸ガス35aは高圧の第1室111から低圧(大気圧)の開口部分109aに向けて急激に流れ噴出する(図4A(B))。このとき第1室111内をみると、排出口109a付近は大気圧に曝されるので圧力が不均衡となる圧力不均衡部P0が形成され、この圧力不均衡部P0は、炭酸ガス35aが噴出すると低圧となるので、隣接する層P1の炭酸ガス35aが移動してくる。これにより、第1室111内の排出口109aの反対側には比較的に低圧の部分L(図3AのA3に示す)が形成される。このような炭酸ガス35aの移動は図4A(C)及び図4A(D)に示すように次々に連鎖的になされる。よって第1室111には炭酸ガス35aが抜けた低圧空間Lが形成されこの低圧空間Lは徐々に大となり、他方、排出口109a付近の圧力不均衡部P0には次々に新たな炭酸ガス35aが爆発的に移動してくるので、圧力不均衡部P0は大気圧より常に高圧となっている。そして圧力不均衡部P0から次々に排出される炭酸ガス35aは排出口109aより排出されるとき、即ちロータ105が「1」の位置から「n」の位置に至るまで爆発的に膨張するから、排出される炭酸ガス35aはロータ105の第1排出口109a側の半面を押圧し、ロータ105はハウジング101に枢着されているため、上記した炭酸ガス35aの膨張力により回転するのである。つまり、排出される炭酸ガス35aは圧力不均衡部P0での爆発的膨張と該圧力不均衡部P0への補給が連続的になされるため爆発的な膨張が持続的になされ、これによりロータ105が回転する。
なお、ロータ105の回転に伴ない各室の区画が変化しているから、正確に言えば、図3Aの行程A3以降の行程において「111」で示す区画は第1室ではないかもしれないが、便宜上図3Aの行程A3乃至行程A5及び図3Bの行程B1乃至行程B5のいずれも図3Aの行程A1で示した各室の符号を用いることとする。
【0028】
次いで図3AのA4に示す膨張排出行程の終了時から図3AのA5に示す大気圧保持行程においてロータ105は慣性力により回転し、a面が大気圧の第2室112に移行し、さらに、図3BのB1に示す位置まで回転する。これにより、a面における2回目の膨張エネルギー取出工程となる。
【0029】
即ち、ロータ105が慣性モーメントにより回転しa面が図3BのB1に示す位置のときは供給口107bが「開」であり、高圧状態の炭酸ガス35aが第3室113に流入してくる。この炭酸ガス35aは第3室113に流入するとすぐに膨張を開始するが、この膨張はロータ105が図3BのB2に示すように排出口109bの位置にくると一旦終了する。これは炭酸ガス35aの膨張が第3室113の容積の限度内で行われる「亜膨張」のためである。亜膨張時にロータ105が受ける圧力エネルギーは、ガソリンエンジンにおける場合と同様、a面全体で圧力を受けることになる。つまり図3BのB1及びB2の吸入膨張行程において、炭酸ガス35aは亜膨張エネルギーのストレスを溜め保持した状態で次の膨張排出行程に移行することになる。
【0030】
図3BのB3及びB4の膨張排出行程において、ロータ105の回転により排出口109bが「開」となった瞬間、即ち排出口109bがピンホール状態となると炭酸ガス35aは大気圧となるため爆発的に膨張する。このとき炭酸ガス35aの動きを中心にみると、膨張した炭酸ガス35aはロータ105の表面に沿って動き「開」となった排出口109bに向かって急激に移動する。このときの炭酸ガス35aの膨張圧力は吸入膨張行程における場合とは異なり、ロータ105のa面全体に均等にかかるのではなく、ロータ105の排出口109b側の半面にだけ集中してかかる。よって排出口109bは益々大きく開口し、これにより炭酸ガス35aが益々排出口109bに向かって急激に移動するため、炭酸ガス35aの膨張による力(膨張力)は一層ロータ105の排出口109b側の半面にだけ集中する。この状態は「連鎖膨張」の状態と呼ぶことができ、こうなると炭酸ガス35aは十分に膨張しきり、このためロータ105の排出口109b側の半面には十分な回転モーメントを得ることができ、これによりロータ105は回転する。
【0031】
この点を図4B(E)乃至図4B(H)に基づきもう少し詳しく説明する。図4B(E)は図3Bの行程B2のE部拡大図、図4B(F)は図3Bの行程B3のF部拡大図、図4B(G)は図3Bの行程B3と行程B4の中間状態を示す拡大図、図4B(H)は図3Bの行程B4のH部拡大図である。図4B(E)に示すように膨張排出行程の直前の状態では炭酸ガス35aの膨張(亜膨張)の力は第3室113及びロータ105のすべての面にかかっている。しかし、排出口109bが「開」となった瞬間、炭酸ガス35aは高圧の第3室113から低圧(大気圧)の開口部分109bに向けて急激に流れ噴出する(図4B(F))。このとき第3室113内をみると、排出口109b付近は大気圧に曝されるので圧力が不均衡となる圧力不均衡部P0が形成され、この圧力不均衡部P0は、炭酸ガス35aが噴出すると低圧となるので、隣接する層P1の炭酸ガス35aが移動してくる。これにより、第3室113内の排出口109bの反対側は比較的に低圧の部分L(図3BのB3に示す)が形成される。このような炭酸ガス35aの移動は図4B(G)及び図4B(H)に示すように次々に連鎖的になされる。よって第3室113には炭酸ガス35aが抜けた低圧空間Lが形成されこの低圧空間Lは徐々に大となり、他方、排出口109b付近の圧力不均衡部P0には次々に新たな炭酸ガス35aが爆発的に移動してくるので、圧力不均衡部P0は大気圧より常に高圧となっている。そして圧力不均衡部P0から次々に排出される炭酸ガス35aは排出口109bより排出されるとき、即ちロータ105が「1」の位置から「n」の位置に至るまで爆発的に膨張するから、排出される炭酸ガス35aはロータ105の第2排出口109b側の半面を押圧し、ロータ105はハウジング101に枢着されているため、上記した炭酸ガス35aの膨張力により回転するのである。つまり、排出される炭酸ガス35aは圧力不均衡部P0での爆発的膨張と該圧力不均衡部P0への補給が連続的になされるため爆発的な膨張が持続的になされ、これによりロータ105が回転する。
【0032】
次いで図3BのB4に示す膨張排出行程の終了時から図3BのB5に示す大気圧保持行程においてロータ105は慣性力により回転し、a面が大気圧の第4室114に移行する。これにより、他面(b面)が第1供給口107a「開」の位置となり作動面となるので、今度はロータ105のb面において上記した一連の行程が繰り返されることになる。
【0033】
その後は上記した一連の行程が連続的に繰り返されることにより炭酸ガスエンジンが作動することになるのである。
【0034】
そしてb面においても上記したと同様の行程を経て炭酸ガスによる2回の膨張エネルギーを取り出す。さらにロータ105が回転し、c面乃至e面においても上記したと同様の行程を経て炭酸ガスによる2回の膨張エネルギーを取り出す。また本実施例においてはロータ105は位相をずらせて2個連接されているため、作動面a〜eにおける上記行程はロータ105Aの作動面a〜eとロータ105Bの作動面a〜eがそれぞれ連続して行われる。よってエンジン出力が増大するとともに、出力の円滑性が確保される。
【0035】
図5A乃至図5Cはロータ105の作動面a、b、c、d、e、f、gを7個とした他の実施の形態を示す。ハウジング101は、周壁を6等分にした部位に第1供給口107a、第1排出口109a、第2供給口107b、第2排出口109b及び第3供給口107c、第3排出口109cを順次設ける。(総称するときは便宜上供給口「107」、排出口「109」の如く表記する)。これにより第1排出口109a、第2排出口109b、第3排出口109cは第1供給口107a、第2供給口107b、第3供給口107cより供給される高圧の炭酸ガス35aが常圧の炭酸ガス35bとなる圧力の均衡点の直前となるよう配設される。上記第1排出口109a、第2排出口109b、第3排出口109cは上記第1供給口107a、第2供給口107b、第3供給口107cより大に形成される。
【0036】
ロータ105は矢示する回転方向に沿って周面を7等分して作動面a、b、c、d、e、f、gを形成する。各作動面a、b、c、d、e、f、gは凹弧状に形成され、対応するハウジング101の内周面の弧と略線対称に形成される。五面ロータと同様にこの七面ロータ105の各頂点部は弯曲に形成され、また圧力保持のための圧力シールを設ける。該圧力シール105aはオイルシールも兼ねる(図示省略)。
【0037】
次にこの実施の形態の作動原理を図5A乃至図5Cに基づき説明する。図5A乃至図5Cはロータ105が内室103内で回転するときの位置と炭酸ガスの膨張の様子を模式化した図である。図5AのA1乃至A5は作動面aにおける1回目の膨張エネルギー取出工程を示し、図5BのB1乃至B5は作動面aにおける2回目の膨張エネルギー取出工程を示し、図5CのC1乃至C5は作動面aにおける3回目の膨張エネルギー取出工程を示す。図5AのA1及びA2は吸入膨張行程を示し、このときの炭酸ガスは「亜膨張」の状態となる。図5AのA3及びA4は膨張排出行程を示し、このときの炭酸ガスは「連鎖膨張」の状態となる。図5AのA5は大気圧保持行程を示し、このときの作動室111、112は大気圧(1気圧)となる。また図5BのB1及びB2は吸入膨張行程を示し、このときの炭酸ガスは「亜膨張」の状態となる。図5BのB3及びB4は膨張排出行程を示し、このときの炭酸ガスは「連鎖膨張」の状態となる。図5BのB5は大気圧保持行程を示し、このときの作動室113、114は大気圧(1気圧)となる。さらに図5CのC1及びC2は吸入膨張行程を示し、このときの炭酸ガスは「亜膨張」の状態となる。図5CのC3及びC4は膨張排出行程を示し、このときの炭酸ガスは「連鎖膨張」の状態となる。図5CのC5は大気圧保持行程を示し、このときの作動室115、116は大気圧(1気圧)となる。これによりロータ105が1回転し他の面(b面)が作動面となる。
【0038】
炭酸ガス35aは初期タンク31又は循環タンク73よりパイプ33を経て高圧状態のまま炭酸ガスエンジン1に供給されるのであるが、この炭酸ガス35aが炭酸ガスエンジン1の内室103に流入されるときの様子を図5A乃至図5Cに基づいて説明してみる。
【0039】
まず始動を図示しないセルスターターにより行ない、ロータ105を強制回転させる。ロータ105が図5AのA1の位置即ち供給口107aが「開」のときは、高圧状態の炭酸ガス35aが第1室111に流入してくる。この炭酸ガス35aは第1室111に流入するとすぐに膨張を開始するが、この膨張はロータ105が図5AのA2に示すように排出口109aの位置にくると一旦終了する。これは炭酸ガス35aの膨張が第1室111の容積の限度内で行われる「亜膨張」のためである。亜膨張時にロータ105が受ける圧力エネルギーは、ガソリンエンジンにおける場合と同様、a面全体で圧力を受けることになる。つまり図5AのA1及びA2の吸入膨張行程において、炭酸ガス35aは亜膨張エネルギーのストレスを溜め保持した状態で次の膨張排出行程に移行することになる。
【0040】
図5AのA3及びA4の膨張排出行程において、ロータ105の回転により排出口109aが「開」となった瞬間、即ち排出口109aがピンホール状態となると炭酸ガス35aは大気圧となるため爆発的に膨張する。このとき炭酸ガス35aの動きを中心にみると、膨張した炭酸ガス35aはロータ105の表面に沿って動き「開」となった排出口109aに向かって急激に移動する。このときの炭酸ガス35aの膨張圧力は吸入膨張行程における場合とは異なり、ロータ105のa面全体に均等にかかるのではなく、ロータ105の排出口109a側の半面にだけ集中してかかる。よって排出口109aは益々大きく開口し、これにより炭酸ガス35aが益々排出口109aに向かって急激に移動するため、炭酸ガス35aの膨張による力(膨張力)は一層ロータ105の排出口109a側の半面にだけ集中する。この状態は「連鎖膨張」の状態と呼ぶことができ、こうなると炭酸ガス35aは十分に膨張しきり、このためロータ105の排出口109a側の半面には十分な回転モーメントを得ることができ、これによりロータ105は回転する。詳細については五面ロータで述べた通りであるので省略する。
【0041】
なお、ロータ105の回転に伴ない各室の区画が変化しているから、五面ロータで述べたように正確に言えば、図5Aの行程A3以降の行程において「111」で示す区画は第1室ではないかもしれないが、便宜上図5Aの行程A3乃至行程A5、図5Bの行程B1乃至行程B5及び図5Cの行程C1乃至行程C5のいずれも図5Aの行程A1で示した各室の符号を用いることとする。
【0042】
次いで図5AのA4に示す膨張排出行程の終了時から図5AのA5に示す大気圧保持行程においてロータ105は慣性力により回転し、a面が大気圧の第2室112に移行し、さらに、図5BのB1に示す位置まで回転する。これにより、a面における2回目の膨張エネルギー取出工程となる。
【0043】
即ち、ロータ105が慣性モーメントにより回転しa面が図5BのB1に示す位置のときは供給口107bが「開」であり、高圧状態の炭酸ガス35aが第3室113に流入してくる。この炭酸ガス35aは第3室113に流入するとすぐに膨張を開始するが、この膨張はロータ105が図5BのB2に示すように排出口109bの位置にくると一旦終了する。これは炭酸ガス35aの膨張が第3室113の容積の限度内で行われる「亜膨張」のためである。亜膨張時にロータ105が受ける圧力エネルギーは、ガソリンエンジンにおける場合と同様、a面全体で圧力を受けることになる。つまり図5BのB1及びB2の吸入膨張行程において、炭酸ガス35aは亜膨張エネルギーのストレスを溜め保持した状態で次の膨張排出行程に移行することになる。
【0044】
図5BのB3及びB4の膨張排出行程において、ロータ105の回転により排出口109bが「開」となった瞬間、即ち排出口109bがピンホール状態となると炭酸ガス35aは大気圧となるため爆発的に膨張する。このとき炭酸ガス35aの動きを中心にみると、膨張した炭酸ガス35aはロータ105の表面に沿って動き「開」となった排出口109bに向かって急激に移動する。このときの炭酸ガス35aの膨張圧力は吸入膨張行程における場合とは異なり、ロータ105のa面全体に均等にかかるのではなく、ロータ105の排出口109b側の半面にだけ集中してかかる。よって排出口109bは益々大きく開口し、これにより炭酸ガス35aが益々排出口109bに向かって急激に移動するため、炭酸ガス35aの膨張による力(膨張力)は一層ロータ105の排出口109b側の半面にだけ集中する。この状態は「連鎖膨張」の状態と呼ぶことができ、こうなると炭酸ガス35aは十分に膨張しきり、このためロータ105の排出口109b側の半面には十分な回転モーメントを得ることができ、これによりロータ105は回転する。この点についての詳細も前述の通りであるので省略する。
【0045】
次いで図5BのB4に示す膨張排出行程の終了時から図5BのB5に示す大気圧保持行程においてロータ105は慣性力により回転し、a面が大気圧の第4室114に移行し、さらに、図5CのC1に示す位置まで回転する。これにより、a面における3回目の膨張エネルギー取出工程となる。
【0046】
即ち、ロータ105が慣性モーメントにより回転しa面が図5CのC1に示す位置のときは供給口107cが「開」であり、高圧状態の炭酸ガス35aが第5室115に流入してくる。この炭酸ガス35aは第5室115に流入するとすぐに膨張を開始するが、この膨張はロータ105が図5CのC2に示すように排出口109cの位置にくると一旦終了する。これは炭酸ガス35aの膨張が第5室115の容積の限度内で行われる「亜膨張」のためである。亜膨張時にロータ105が受ける圧力エネルギーは、ガソリンエンジンにおける場合と同様、a面全体で圧力を受けることになる。つまり図5CのC1及びC2の吸入膨張行程において、炭酸ガス35aは亜膨張エネルギーのストレスを溜め保持した状態で次の膨張排出行程に移行することになる。
【0047】
図5CのC3及びC4の膨張排出行程において、ロータ105の回転により排出口109cが「開」となった瞬間、即ち排出口109cがピンホール状態となると炭酸ガス35aは大気圧となるため爆発的に膨張する。このとき炭酸ガス35aの動きを中心にみると、膨張した炭酸ガス35aはロータ105の表面に沿って動き「開」となった排出口109cに向かって急激に移動する。このときの炭酸ガス35aの膨張圧力は吸入膨張行程における場合とは異なり、ロータ105のa面全体に均等にかかるのではなく、ロータ105の排出口109c側の半面にだけ集中してかかる。よって排出口109cは益々大きく開口し、これにより炭酸ガス35aが益々排出口109cに向かって急激に移動するため、炭酸ガス35aの膨張による力(膨張力)は一層ロータ105の排出口109c側の半面にだけ集中する。この状態は「連鎖膨張」の状態と呼ぶことができ、こうなると炭酸ガス35aは十分に膨張しきり、このためロータ105の排出口109c側の半面には十分な回転モーメントを得ることができ、これによりロータ105は回転する。この点についての詳細も上記と同様であるので省略する。
【0048】
次いで図5CのC4に示す膨張排出行程の終了時から図5CのC5に示す大気圧保持行程においてロータ105は慣性力により回転し、a面が大気圧の第6室116に移行する。これにより、他面(b面)が第1供給口107a「開」の位置となり作動面となるので、今度はロータ105のb面において上記した一連の行程が繰り返されることになる。
【0049】
その後は上記した一連の行程が連続的に繰り返されることにより炭酸ガスエンジンが作動することになるのである。
【0050】
そしてb面においても上記したと同様の行程を経て炭酸ガスによる3回の膨張エネルギーを取り出す。さらにロータ105が回転し、c面乃至g面においても上記したと同様の行程を経て炭酸ガスによる3回の膨張エネルギーを取り出す。また本実施例においてはロータ105は位相をずらせて2個連接されているため、作動面a〜gにおける上記行程はロータ105Aの作動面a〜gとロータ105Bの作動面a〜gがそれぞれ連続して行われる。よってエンジン出力が増大するとともに、出力の円滑性が確保される。
【0051】
図6は上記炭酸ガスエンジン1に圧料となる炭酸ガス35aを供給する回路の一例を示す。図6の回路は炭酸ガスが循環する循環回路を示す。なお、圧料となる炭酸ガス35aの供給は必ずしも循環回路でなくてもよいことは前記の通りであるが、以下の説明ではこの循環回路による供給に基づいて説明する。
【0052】
上記供給経路34Aは、具体的には、液体状態のバージン炭酸ガスを貯溜する圧力容器からなる初期タンク31と、該初期タンク31に切替弁51、三方切替弁54及び流量制御弁55を介してパイプ33a、33b、33cにより連結される加熱部56と、該加熱部56に連結された炭酸ガスエンジン1の供給口107に接続されるパイプ33dとからなる。
【0053】
上記回収経路34Bは、具体的には、炭酸ガスエンジン1の排出口109から噴出状態で排出される大気圧の炭酸ガス35bを回収する冷却部57と、大気圧の排出炭酸ガス35bよりエンジンオイル成分を分離するフィルタからなる分離部68と、圧縮機からなり該分離部68による上記分離処理を経た上記排出炭酸ガス35bが圧送される1次炭酸ガス圧縮部69aと、該1次炭酸ガス圧縮部69aにて加圧・圧縮される炭酸ガス35a’が送給され、送給されてくる上記炭酸ガス35a’を例えば−30℃の排気の気化熱等にて冷却する上記冷却部57と、圧縮機からなり上記冷却部57から送給されてくる上記炭酸ガス35a’をさらに加圧・圧縮する2次炭酸ガス圧縮部69bと、上記2次炭酸ガス圧縮部69bから送給されてくる炭酸ガス35aを貯溜する圧力容器からなる循環タンク73とからなる。上記炭酸ガスエンジン1と上記冷却部57とはパイプ33eにより、上記冷却部57と上記分離部68とはパイプ33gにより、上記分離部68と上記1次炭酸ガス圧縮部69aとはパイプ33hにより、上記1次炭酸ガス圧縮部69aと上記冷却部57とはパイプ33iにより、上記冷却部57と上記2次炭酸ガス圧縮部69bとはパイプ33kにより、上記2次炭酸ガス圧縮部69bと上記循環タンク73とはパイプ33mにより、さらに上記循環タンク73と上記三方切替弁54とはパイプ33nにより、各連結されている。なお、上記パイプを総称するときは「パイプ33」と表わす。
【0054】
上記供給経路34Aと上記回収経路34Bとの接点には上記した三方切替弁54を設けてあり、上記炭酸ガスエンジン1及び上記三方切替弁54を介して両経路34A、34Bが閉回路に接続され、循環回路34を構成する。また、供給経路34Aのパイプ33aと回収経路34Bのパイプ33nには炭酸ガス35aの純度を検知するセンサ53が接続されている。該センサ53はパイプ33a及びパイプ33n内を送給されてくる炭酸ガス35aの純度を常に検知し、上記純度が設定範囲内に満たないときは初期切替信号を発し、設定範囲内であるときは循環切替信号を発する。
【0055】
炭酸ガスエンジン1から排出される炭酸ガスが冷却部57に回収される際、炭酸ガスは気化熱等により−30℃位に冷却される。この排出炭酸ガスは大気圧になる際爆発的に膨張する。この膨張した炭酸ガスは、排気される際噴出状態で排出されるので、この噴出力により、上記排出炭酸ガス35bは上記冷却部57内に回収され、該冷却部57を介して1次炭酸ガス圧縮部69aまで圧送される。上記分離部68には逆止弁75が設けられ、分離されたエンジンオイルが該逆止弁75を介して炭酸ガスエンジン1に戻される。
【0056】
上記冷却部57は、ケーシング57aと該ケーシング57a内に幾重にも重なるように内蔵される復路のパイプ33jとからなる。該パイプ33jは前記パイプ33iと前記パイプ33kと連結される。往路のパイプ33eより流れてくる排出炭酸ガス35bは大気圧下に曝されると気化熱等により例えば−30℃と低温になるため、ケーシング57aには−30℃の排出炭酸ガス35bが充満している。ここに1次炭酸ガス圧縮部69aにてすべての量を圧縮処理しきれなかった炭酸ガス35a’が復路のパイプ33j中に流れてくる。よってかかる炭酸ガス35a’を上記−30℃の排出炭酸ガスの気化熱等により冷却するのである。この一次冷却ステップを経ることにより、次の2次炭酸ガス圧縮部69bによる炭酸ガス35bの圧縮のための負荷エネルギを小とすることが可能となる。
【0057】
この点をもう少し詳しく説明する。炭酸ガス圧縮部を構成する1次炭酸ガス圧縮部69a及び2次炭酸ガス圧縮部69bの構造はいずれも同様の圧縮機からなり、その羽根構造(図示省略)により流入する炭酸ガスの引張り込み(吸引)と流出する炭酸ガスの排出(圧送)をする。よって前機69aによる吸引と後機69bによる圧送とがセットとなって作用するので、両者の相乗作用により炭酸ガスの圧縮処理能力を炭酸ガスの量に応じて容易に増大させることができる。これが炭酸ガス圧縮部を複数とする実質的な理由である。
【0058】
冷却部57には、高圧の炭酸ガス35aが常圧の炭酸ガス35bになって排出口109よりパイプ33eを経て回収されるのであるが、このとき冷却部57内に混入している大気は計測ができないほど微量であるので、この大気が以降の炭酸ガス35a、35bの循環に混入していてもエンジン1の作動にとって実質上全く問題ないことが最近の実験で判明した。炭酸ガスは外界の空気より比重が大であり、かつ、この炭酸ガス35aが高圧状態で下方に移動し排出口109より噴出する。このため排出口109付近の圧力不均衡部P0で炭酸ガス35aが大気圧になっても、同圧の外界の空気は内室103内に流入してこない。よって冷却部57に回収される大気圧となった炭酸ガス35bには外界の空気が混入せず、以降の炭酸ガスの循環において空気が混入してこないためと考えられる。よって、空気の混入による実質上の弊害がないので、回収経路34Bに空気を放出するための単離装置を設けなくともよいのである。
【0059】
初期タンク31内に貯蔵されている炭酸ガス35aは大部分液体状態であるが、一部がタンク内において気体状態となっている場合がある。この場合は液体の炭酸ガス35aはタンクの下部に、また気体の炭酸ガス35aはタンクの上部に存在する。
【0060】
図7に本実施例回路による動作のステップを示す。初期始動は、まず切替弁51を「開」とし、初期タンク31よりバージン炭酸ガス35aをパイプ33aに流す(S1)。パイプ33aを流れてくるバージン炭酸ガス35aの純度はセンサ53により検知され(S2)、初期切替信号が発せられる(S3)。これにより三方切替弁54が作動し、パイプ33a・パイプ33b間を「開」としパイプ33b・パイプ33n間を「閉」とする「第1開」の状態にする(S4)。次いでエンジンスロットル用の流量制御弁55が「開」とされ(S5)、炭酸ガス35aは加熱部56により熱せられ圧力を一層大にした状態でパイプ33d内より(S6)、炭酸ガスエンジン1内に供給される(S7)。
【0061】
炭酸ガスエンジン1が炭酸ガス35aの体積膨張による力により駆動されると、その動力により例えば自動車が駆動される(A)。このとき同時に上記動力がベルト58aにより1次炭酸ガス圧縮部69aに伝動され、該1次炭酸ガス圧縮部69aの作動に寄与する。また上記動力はベルト58bにより2次炭酸ガス圧縮部69bに伝動され、該2次炭酸ガス圧縮部69bの作動に寄与する。
【0062】
炭酸ガスエンジン1から排出された炭酸ガス35bは爆発的に膨張した後排出されるが、この排出時の噴出力により冷却部57に送給される(S8)。冷却部57から出た炭酸ガス35bは分離部68でオイルを分離されてから(S10)、1次炭酸ガス圧縮部69aに圧送される(S9)。該1次炭酸ガス圧縮部69aにて圧縮された炭酸ガス35a’は再び冷却部57に送給され、ここでケーシング57a内の排出炭酸ガス35bの低温と接触しその気化熱等により冷却される(S11)。冷却された炭酸ガス35a’は2次炭酸ガス圧縮部69bに送られ、ここで加圧され炭酸ガス35aとされる(S12)。次いでこの炭酸ガス35aはパイプ33mより循環タンク73に送られ、該循環タンク73に貯溜される(S13)。
【0063】
始動後においては、センサ53はパイプ33nとパイプ33aを流れる炭酸ガス35aの濃度を検知している(S2)。この炭酸ガス35aの濃度が設定範囲内であるときは、循環切替信号を発する(S3)。この循環切替信号により三方切替弁54が作動し、パイプ33n・パイプ33b間を「開」としパイプ33a・パイプ33bを間を「閉」とする「第2開」の状態にする(S4)。以降は上記した一連のステップが繰返され、エンジンが連続的に作動する。
【0064】
炭酸ガスはパイプ33を通って開弁された供給口107より密室内に高圧状態35aで供給され、常圧状態で排出・回収される。炭酸ガス35につき、高圧状態の炭酸ガスを「35a」で表わし、常圧状態のものを「35b」で表わす。
【0065】
ここで従来のガソリンエンジンと原理の対比をしてみる。
従来のガソリンエンジンは〈1〉吸入行程、〈2〉圧縮行程、〈3〉燃焼行程及び排気行程の4行程が必要であるが、本願発明による炭酸ガスエンジンは上記〈3〉燃焼行程が不要であり、〈2〉圧縮行程についてはあってもなくてもよいのである。本願発明による炭酸ガスエンジンの行程は、〈a〉吸入膨張行程、〈b〉膨張排出行程及び〈c〉大気圧保持行程である。またエンジン特性についてみれば、従来のガソリンエンジン(内燃機関)の燃焼膨張は一過性エネルギーであるのに対し、本願発明による炭酸ガスエンジン(内圧機関)は連続膨張エネルギーである。このようなエネルギー特性の違いにより、従来のガソリンエンジンでは各行程が明瞭に区別できるのであるが、本願発明による炭酸ガスエンジンの各行程は連続している。
よって従来のガソリンエンジンと本願発明による炭酸ガスエンジンとは原理が全然異なり、ガソリンエンジンに適用される理論をそのまま本願発明による炭酸ガスエンジンに適用することはできないのである。
【0066】
上記の点をもう少し具体的に見てみる。ガソリンエンジンは爆発燃焼時の瞬間エネルギを利用するため、ロータ面にかかる均等圧力をロータの結合部分を中心軸より偏心させて楕円に回転方向性を与えている。空気と燃料の圧縮行程は必ず必要であり、ロータを偏心させ内室の容積変化を起こさせるためにシリンダを楕円構成とするのである。
これに対し、本願発明による炭酸ガスエンジンにおいては圧縮行程は必ずしも必要でなく、図示実施態様に示すようになくてもよいのである。これは、本願発明においてはガソリンエンジンのように燃焼のための空気と燃料との圧縮行程が不要であるので、大気圧保持行程より吸入膨張行程に移行するとすぐに「亜膨張」となり、ロータの先端が排出口を切った瞬間高圧状態の炭酸ガスが爆発的に膨張する「連鎖膨張」を起こすからである。この結果、排出口109側のロータの半面に膨張圧力が集中し、これによりロータが回転するのである。このように、従来のガソリンエンジンと本願発明による炭酸ガスエンジンとは原理が全然相違するのである。
【0067】
このように原理が相違する結果、炭酸ガスエンジンの態様も次のように相違することになる。まず、ロータについては、従来のガソリンエンジンはシリンダが楕円構成でなければならず、正円構成のシリンダとすることができない。その理由は前述したように、ガソリンエンジンは爆発燃焼時の瞬間エネルギを利用するため、ロータ面にかかる均等圧力を偏心させて回転方向性を与える必要があるからであり、また吸入、圧縮時の作動室の容積変化が必要だからである。
これに対し、本願発明においては、圧縮行程が不要であるから、シリンダは楕円構成であっても正円構成であってもよく、いずれでもロータは回転するのである。
【0068】
ここで炭酸ガス35について詳しく説明する。炭酸ガス(二酸化炭素 CO2)は次のような物理的性状を有する。
空気との比重 1.529
毒性 無
臭 無臭
性状 不燃性
分子量 44.01
三重点(0.53MPa) −56.6℃
沸点(昇華) −78.5℃
臨界温度 31.1℃
臨界圧 7.38MPa
熱力学的性質 図8の通り
【0069】
また炭酸ガスは物の燃焼や動物の呼吸、有機物の腐敗、発酵等に伴って発生し、空気中に普通に存在する。一方で植物は炭酸ガスを吸収し炭素同化作用を営む。
【0070】
本願発明はこのような物理的性状を有する炭酸ガスの不活性、常温液化性及び高度の体積膨張性に着目し、これを最大限に活用する。
【0071】
ここで炭酸ガス35aの膨張率、即ち炭酸ガス35aにより取り出されるエネルギの大きさについてみる。密室たる第1室111等内室103内に供給される炭酸ガス35aが常温(25℃)の場合、該炭酸ガス35aの圧力は図8より6.432MPa(64.32気圧)であるから、大気圧(1気圧)の第1室111等内室103内にあるロータ105には64.32倍の圧力がかかる。よって理論上約64倍の運動エネルギを取り出すことが可能となる。
【0072】
このエネルギと従来の内燃機関の代表としてガソリンエンジンから取り出されるエネルギとを比較する。
【0073】
(オープン条件化でのガソリン燃焼)
ガソリンの分子表記は難しいため、ガソリンの平均分子量に比較的近い炭化水素であるオクタン(C818)をガソリンの組成と見なして計算する。オクタンの物理的性状は次の通りである。
化学式 C818
比重 d=0.7
分子量 M=114.0
燃焼熱 10200kcal/kg=10200×114/1000×4.186≒4868kJ/mol
【0074】
オクタンの燃焼反応式は(1)式の通りである。
【数1】

(1)式よりオクタン1molが燃焼すると空気中の酸素を取り込みながら17molのガスが発生する。
【0075】
(ガス比容V0の計算)
生成ガスを理想気体として仮定しているので、標準状態で1molの占める容積は22.4lとなる。従って、ガス比容V0は(1)式から
【数2】

となる。
【0076】
(燃焼温度T1の計算)
爆発温度T1を求めるには、生成ガスのモル数、発熱量、生成ガスの定容比熱が必要となる。ここでは、定容比熱のみ不明であるが、TNTのような火薬類と同じとしてみる。
【0077】
爆発温度T1は(2)式によって求めることができる。
【数3】

なお、生成ガスの平均定容比熱が約40J/℃として知られていることについては、日本火薬工業会、「一般火薬学新改訂第2版」、P18(2005)参照。
【0078】
(2)式より爆発温度T1
【数4】

従って
【数5】

【0079】
つまり、1kgのオクタンは、爆発すると7430(K)(約7100℃)で、90900(l)を占める。反応前の容積は1000/0.7=1430(ml)であるから、反応前の温度を0℃とした場合の膨張率は
【数6】

となる。
【0080】
しかしながら上記値は、火薬と同じ爆発状態を想定しているため現実以上に爆発温度が高くなっている。現実的には、爆発温度が1500K程度であり、また燃焼に空気が十分ないと反応が進まない。よって、現実には酸素が不足するためTNT火薬のようには反応が起きないのである。
【0081】
(空気を考慮したガス比容)
そこで空気を考慮したオクタンの燃焼反応式を考える。(1)式で必要な酸素は12.5molであり、空気の組成を酸素21%、窒素79%とすると、それに伴う窒素は
12.5mol×(79/21)=47.0mol
となる。したがって、燃焼反応式は
【数7】

となる。
【0082】
オクタン1molが燃焼すると空気中の酸素を取り込みながら合計17molのガスが発生し、燃焼に与らない窒素47.0molが存在する。
【0083】
生成ガスを理想気体と仮定しているので、標準状態で1molの占める容積は22.4lとなる。したがって、ガス比容V0は(3)式から、
【数8】

となる。
【0084】
(空気を考慮した燃焼温度T1の計算)
燃焼温度T1を求めるには、生成ガスのモル数、発熱量、生成ガスの定容比熱が必要となる。ここでは、定容比熱のみ不明であるが、TNTのような火薬類と同じとしてみる。燃焼温度T1は次式によって求めることができる。
【数9】

【0085】
(4)式より爆発温度T1
【数10】

従って、
【数11】

【0086】
つまり1kgのオクタンは空気の初期体積を考慮すると、瞬間的に燃焼したとして、2175(K)(約1900℃)で100185(l)を占める。反応前の容積は
(12.5+47)×22.4+1/0.7=1334(l)であるから、反応前の温度を0℃とした場合の膨張率は100185/1334≒75倍となる。ただし上記値は実際上は燃焼中に熱が周囲に逸散するので、燃焼温度はさらに低くなる筈である。
【0087】
(ガソリンエンジン内の燃焼)
燃費10km/l、排気量2000cc、平均速度40km/h、平均回転数2000rpm/minの自動車のガソリンエンジンを考える。上記ガソリンエンジンは1時間あたりでは4(l)のガソリンを消費する。また、上記ガソリンエンジンは2000rpm/minであるので、2000×2×60(ストローク/h)となる。また、上記エンジンのボアストロークが直径86mm、ストローク86mmよりシリンダ室内の容積は
S=(8.6)×(4.3)2×π=500(cm3
となる。
【0088】
これは1ストロークあたりでは
4000(ml)/(2000×2×60)=1/60(ml)
のガソリンを消費し、そのときの燃焼ガスは500(cm3)になる。
【0089】
次に、圧縮比からこのエンジンの行程を解析してみる。
圧縮比は一般的な乗用車エンジンでは「9」前後である。燃焼室容積をVb(ml)とすると、圧縮比=(Vb+500)/Vbであるので、9Vb=Vb+500となり、これを解くと
Vb=62.5(ml)となる。
【0090】
以上を詳細を省いて簡単にまとめると、
62.5(ml)の燃焼室と500(ml)のシリンダ室に1/60(ml)(=16.7×10-3(ml)=1.025×10-4(mol)のガソリンが空気約560(ml)(酸素5.25×10-3(mol)と窒素19.75×10-3(mol))と一緒に吸い込まれ(1気圧)、9倍に圧縮されたガソリンと空気(9気圧)に点火される。(3)式から消費される酸素は
1.025×10-4×12.5=1.281×10-3
である。したがって、残りの酸素と窒素は、それぞれ
(5.25−1.28)×10-3=1.97×10-3(mol)、19.75×10-3(mol)
となる。
【0091】
また、発生するガスと熱量は、
2O:1.025×10-4×9=9.225×10-4(mol)
CO2:1.025×10-4×8=8.200×10-4(mol)
Q=1.025×10-4×4868=0.499kJ
である。
【0092】
燃焼温度T1を求めるには、前記のように生成ガスのモル数、発熱量、生成ガスの定容比熱が必要となる。ここでは、定容比熱のみ不明であるが、TNTのような火薬類と同じとしてみる。燃焼温度T1は前記のように次式によって求めることができる。
【数12】

【0093】
(4’)より燃焼温度T1
【数13】

【0094】
つまり、2000ccのエンジンでは瞬間的に燃焼したとして、805(K)(約532℃)で23.5×10-3(mol)(=9.225×10-4+8.200×10-4+19.7×10-4+197.5×10-4)のガスが、62.5(ml)を占める。
【0095】
このときの、圧力P1を計算してみると、理想気体として状態方程式から
【数14】

である。
【0096】
最後に、この高温高圧のガスがシリンダを押し下げる膨張行程で9倍に膨張すると、
10=一定であるから、9倍に膨張したときの圧力P2
2=P1/9=24.8/9=2.7(atm)
となる。
【0097】
このように従来のガソリンエンジンより取り出すエネルギの大きさは、この場合約25倍程度である。
【0098】
よって本願発明による炭酸ガスエンジンから取り出されるエネルギは従来の内燃機関から取り出されるエネルギと比較し、同程度以上である。とくに、上記実施例(25℃のとき64倍の例)及び上記比較例(25倍の例)に限って言えば、従来に比し2.5倍のエネルギを得ることができる。
【0099】
このように本願発明によるエネルギの発生は燃料の燃焼を伴わないから、燃料資源に起因する資源の枯渇や排気ガスによる公害問題を惹起することがなく安全であり、完全なクリーンエネルギを得ることができる。また、炭酸ガスを生じることがないので、炭酸ガスの増加を防止することができ、温暖化現象の防止に寄与することができる。しかも取り出されるエネルギは上記のようにガソリンエンジンと同等程度以上であるから、エネルギの実行性も担保される。
【0100】
本願発明による複式炭酸ガスエンジンによれば、密室(内室103)の圧縮比に影響されず、供給される炭酸ガス35aの圧力は一定(例えば常温(25℃)の場合約64倍)である。またタンク乃至ボンベに収納される炭酸ガス35aは最後の1molまで有効に使用可能である。よって、エネルギの取出効率が大変よい。
【0101】
上記エネルギの取出しにおいて、循環回路を構成することにより排出された炭酸ガスを回収して再利用するから、エネルギ効率を非常に増大することができる。
【0102】
また、炭酸ガス35aの常温液化性及び高度の体積膨張性により、密室(内室103)の設計が容易となる。さらに炭酸ガス35aの不活性により、例えば水素ガスや酸素ガスより遙かに扱い易く、制御性が大である。よって高度の実用性を有する。
【0103】
炭酸ガス35の体積膨張率と温度とは相関関係にあり、第1室111等の内室103内に供給されている高圧状態の炭酸ガス35aは上記加熱部56による加熱により一層体積が膨張するから、炭酸ガスエンジンの仕事率は一層向上する。
【0104】
この点につき、図8及びボイル・シャルルの法則により第1室111等の内室103内に供給される炭酸ガス35aの圧力を具体的に算出してみる。
【0105】
ボイル・シャルルの法則は一定量の気体ではPV/Tは常に一定の値となるという法則で、
【数15】

の式により表わす。炭酸ガス35aは初期タンク31からパイプ33を経由して大気圧(25℃)・気体状態にて上記内室103に供給されるから、内室103の内圧は内室103が50℃に加熱される場合次の如く算出される。ただし、内室103の容量を20ccとする。
【数16】

【0106】
また第1室111等の内室103が100℃に加熱される場合、第1室111等の内室103の内圧は次の算出値となる。
【数17】

【0107】
よって第1室111等の内室103が加熱部56により加熱されると炭酸ガスエンジン1の仕事率は一層向上する。
【0108】
本願発明は上記した実施の形態に限定されない。例えば、ロータ105の作動面を5個以上の任意の個数とすることができる。ロータ105の作動面が4個以下の場合はロータ105が1回転する間に炭酸ガスの膨張エネルギを2回以上取り出すことはできない。
【0109】
ロータ105の作動面の個数は、下表に示すように、「ハウジング101のすべての供給口107+すべての排出口109」と一定の関係を有する。
【0110】
┌──────────┬─────┬──────┬──────┬───────┐
│ハウジング101の │ ロータ │ロータ │膨張エネルギ│ 備考 │
│すべての供給口107│105の │105の │の取出回数 │ │
│+排出口109 │作動面 │名称 │ │ │
├──────────┼─────┼──────┼──────┼───────┤
│ 4個 │ 5個 │五面ロータ │ 2回 │図1乃至図4B│
├──────────┼─────┼──────┼──────┼───────┤
│ 4個 │ 6個 │六面ロータ │ 2回 │ 図示省略 │
├──────────┼─────┼──────┼──────┼───────┤
│ 6個 │ 7個 │七面ロータ │ 3回 │ 図5A乃至 │
│ │ │ │ │ 図5C │
├──────────┼─────┼──────┼──────┼───────┤
│ 6個 │ 8個 │八面ロータ │ 3回 │ 図示省略 │
├──────────┼─────┼──────┼──────┼───────┤
│ 8個 │ 9個 │九面ロータ │ 4回 │ 図示省略 │
├──────────┼─────┼──────┼──────┼───────┤
│ 8個 │ 10個 │十面ロータ │ 4回 │ 図示省略 │
└──────────┴─────┴──────┴──────┴───────┘
【0111】
ロータ105の作動面及びハウジング101のすべての供給口107+すべての排出口109が夫々上表の個数以上になる場合(例えば十一面ロータ等)も理論上はあり得るが、実用上の観点から実益がないので省略する。五面ロータと六面ロータ、七面ロータと八面ロータ、九面ロータと十面ロータは、夫々膨張エネルギの取出回数が同一である。これらの各場合においては、ロータ105の作動面の個数が小さい程、ハウジング101の内壁との間に形成される室(図1の場合各室「111」〜「115」、図5A乃至図5Cの場合各室「111」〜「117」)の内容積が大となるので、炭酸ガスの膨張エネルギの取出効率が大となり望ましい。即ち、ロータ105の作動面の個数が「ハウジング101のすべての供給口107+すべての排出口109」の個数に「1」を加算した場合はロータ105の作動面の個数が奇数個となり、この場合は膨張エネルギの取出回数が増加する。
【0112】
また、「膨張力」を得るために炭酸ガスを常圧化する手段としては、例えば図11に示すように、圧力調整弁により圧力の調整をされた炭酸ガスを炭酸ガスエンジン1に供給してもよく、かかる場合も本文中で述べたような炭酸ガスの膨張による「亜膨張」、「連鎖膨張」を惹起せしめ「膨張力」を得ることができる。
【0113】
加熱部(56)の設置は任意であり、設置する場合もその設置部位は、高圧状態の炭酸ガス35aが炭酸ガスエンジン1に供給される前に加熱される部位であれば、必ずしも供給系経路34Aのパイプ接続の中に設けられなくてもよい。例えば、炭酸ガスエンジン1自体に加熱部(137)を設けてもよい。図9はそのような場合を例示したものである。
【0114】
図9において、ハウジング101はアルミニウム合金製のハウジングカバー139にて一体に被覆され、シリンダ本体の側壁の外側に中空体からなる加熱部137を設ける。上記ハウジングカバー139の側壁には熱風供給口141及び熱風排出口143が開口され、夫々、加熱部137を加熱するための熱風40aを供給する熱風供給パイプ145、加熱部137の加熱を終了した熱風40bを排出するための熱風排出パイプ147が連結される。上記熱風供給パイプ145、上記熱風排出パイプ147は別に設ける圧縮機149に循環可能に連結される。
【0115】
また、図6の回路において炭酸ガスエンジン1を図9に示すような加熱部137を有するエンジン1に置き換え、加熱部56を設置しないことも可能である。かかる場合、エンジンシリンダを構成する金属製の各部やエンジンオイルへの低温による悪影響を排除する利益がある。
【0116】
図10及び図11は炭酸ガスエンジン1の外部から大気圧にする場合である。図10の場合図6と異なるのは、冷却部57にパイプ33r、33sにより逆止弁63及び大気乾燥部65が接続され、大気乾燥部65を介して内室103に接せられる大気により常圧とされる点である。その余の構成は図6の構成と同一であるので説明を省略する。
【0117】
図11の場合図6と異なるのは、弁圧調整装置により内室103を常圧にする。即ち、弁圧調整装置は調整タンク72と圧力調整弁70aと圧力調整弁70bとからなり、上記冷却部57及び上記循環タンク73に夫々圧力調整弁70a、70bを介して炭酸ガスを貯溜する調整タンク72が連結される。また上記調整タンク72と上記冷却部57とはパイプ33tにより、上記調整タンク72と上記パイプ33mとはパイプ33uにより、各連結されている。上記調整タンク72は炭酸ガスエンジン1の排気口109側の内室の圧力を常圧にする圧力調整弁70aを設けるとともに、炭酸ガスエンジン1の給気口107側の圧力を高圧にする圧力調整弁70bを設ける。圧力調整弁70aは図示しないコンピュータによる自動制御により調整タンク72内の炭酸ガスの圧力を設定された圧力(例えば1気圧)に調整する。また圧力調整弁70bは炭酸ガスの圧力を設定された圧力(例えば40気圧)に調整する。その余の構成は図6の構成と同一であるので説明を省略する。
【0118】
さらには図6や図10のように内室103が大気に接して常圧とされる場合、2次炭酸ガス圧縮部69bと循環タンク73との間に炭酸ガス成分のみ単離する逆止弁を設けたタンクからなる単離装置を設け、空気成分を放出して炭酸ガス成分の一層の純化をする装置を設けもよい。しかし、炭酸ガスの循環において、前述のように、冷却部57内に混入する空気は計測ができない程微量であるので、この空気が以降の炭酸ガス35a、35bの循環に混入していてもエンジン1の作動にとって実質上全く問題ないことが最近の実験で判明したので、図6や図10に示すように単離装置の設置は必ずしも必要的でない。いずれにしても内室103内に接する大気は第1室内では高圧の炭酸ガスが亜膨張となり膨張エネルギを溜めるのに貢献する。また他室内での上記大気は膨張排出行程となっている室では爆発的に膨張して排出される炭酸ガスとともに排出され、大気圧行程となっている室では大気圧の保持に寄与する。
【0119】
炭酸ガス圧縮部の多段化は、前機による吸引と後機による圧送とのセットとし、両者の相乗作用により炭酸ガスの圧縮処理能力を炭酸ガスの量に応じて容易に増大させる趣旨であるから、所望の出力に応じて、例えば図12(A)、(B)に示すように炭酸ガス圧縮部69a、69b、69cを3個以上の多段にすることができる。本願発明により発電機を作動して発電する場合は、大量の炭酸ガスを容易迅速に処理できるようこのように3段以上の多段にするのが望ましい。もちろん所望の大出力を得られるのであれば、炭酸ガス圧縮部が単一機であることを妨げない。
【0120】
また複数個の炭酸ガス圧縮部の相互の接続は、例えば図12(A)に示すように直列接続はもとより、例えば図12(B)に示すように並列接続にすることもできる。
【0121】
また1次炭酸ガス圧縮部69a及び2次炭酸ガス圧縮部69bの駆動力は、その1として、上記実施態様で述べた大気圧に曝され連鎖膨張し排出される炭酸ガスの噴出力及びベルト58a、58bにより伝動される炭酸ガスエンジン1からの駆動力、その2として前者(炭酸ガスの噴出力)のみの駆動力、その3として後者(ベルト58a、58bにより伝動される炭酸ガスエンジン1からの駆動力)のみの駆動力の3パターンがある。つまり、ベルト58a、58bにより伝動される炭酸ガスエンジン1からの駆動力は場合によりあってもなくてもよい。
【0122】
炭酸ガス圧縮部69bと循環タンク73の間に他の循環タンク(図示せず)を設け、循環タンクを1次と2次に分けると、炭酸ガスエンジン1制御のための炭酸ガス35aの流量調整が円滑になることが期待され望ましい。
【0123】
初期始動を循環タンク73の残溜分より取り出し、初期タンク31を設けないこととしてもよい。
【0124】
炭酸ガス圧縮部による加圧は、温度等の外部環境によって適宜に選択され、必ずしも常温で液化しない程度の圧力、例えば20気圧位乃至40気圧位でも可能である。ちなみに、例えば水素ガスの場合、常温液化性を有しないから、この程度の冷却では液化しない。
【0125】
供給系のパイプの中を流れる炭酸ガスは、気体と粉体としてのドライアイスの混合又は液体の状態での送給もあり得る。どの相をとるかは現場の気圧、温度等の条件による。
【0126】
複式炭酸ガスエンジンを構成する素材も鉄その他適宜に選択することができる。
【0127】
取り出したエネルギの適用は任意であり、発電機の駆動乃至発電はもちろん、例えば自動車、電車、航空機、船舶等の駆動、モータの駆動等をすることができる。
【0128】
本願発明において「高圧」とは、炭酸ガスエンジンを作動せしめるに十分な圧力の程度を指称し、常温で液化する70気圧位はもちろん、それより低い例えば20気圧程度乃至40気圧程度とか60気圧程度も含む。また「大気圧」と「常圧」とは同義で用いている。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本願発明は例えば、発電、自動車、電車、航空機、船舶等の駆動、モータの駆動、発電機の駆動に活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0130】
【図1】本願発明による複式炭酸ガスエンジンの実施形態を示す正面図である。
【図2】図1の分解斜視図である。
【図3A】本願発明による複式炭酸ガスエンジンの作動原理を示す説明である。
【図3B】本願発明による複式炭酸ガスエンジンの作動原理を示す説明である。
【図4A】本願発明による複式炭酸ガスエンジンの作動原理を示す説明である。
【図4B】本願発明による複式炭酸ガスエンジンの作動原理を示す説明である。
【図5A】本願発明による複式炭酸ガスエンジンの他の実施形態を示す正面図である。
【図5B】本願発明による複式炭酸ガスエンジンの他の実施形態を示す正面図である。
【図5C】本願発明による複式炭酸ガスエンジンの他の実施形態を示す正面図である。
【図6】本願発明による複式炭酸ガスエンジンに炭酸ガスを供給する回路の実施例を示す図である。
【図7】図6の動作ステップを示すフローチャートである。
【図8】炭酸ガスの勢力学的性質を示す表である。
【図9】本願発明による複式炭酸ガスエンジンのさらに他の実施形態を示す正面図である。
【図10】本願発明による複式炭酸ガスエンジンに炭酸ガスを供給する回路の他の実施例を示す図である。
【図11】本願発明による複式炭酸ガスエンジンに炭酸ガスを供給する回路のさらに他の実施例を示す図である。
【図12】(A)は本願発明に使用する炭酸ガス圧縮部の接続例、(B)は他の接続例を示す。
【符号の説明】
【0131】
1 炭酸ガスエンジン
31 初期タンク
33 パイプ
34 循環回路
34A 供給経路
34B 回収経路
35 炭酸ガス
35a 炭酸ガス
35b 炭酸ガス
51 切替弁
53 センサ
54 三方切替弁
55 流量制御弁
56 加熱部
57 冷却部
58a ベルト
58b ベルト
63 逆止弁
65 大気乾燥部
68 分離部
69a 1次炭酸ガス圧縮部
69b 2次炭酸ガス圧縮部
73 循環タンク
75 逆止弁
101 ハウジング
102 ロータ軸
103 内室
105 ロータ
105a オイルシール兼用圧力シール
105A ロータ
105B ロータ
107 供給口
107a 第1供給口
107b 第2供給口
107c 第3供給口
109 排出口
109a 第1排出口
109b 第2排出口
109c 第3排出口
110 フライホイール
111 第1室
112 第2室
113 第3室
114 第4室
115 第5室
137 加熱部
139 ハウジングカバー
141 熱風供給口
143 熱風排出口
145 熱風供給パイプ
147 熱風排出パイプ
149 圧縮機
a 作動面
b 作動面
c 作動面
d 作動面
e 作動面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉に形成されるハウジングと、該ハウジング内に断面円形に形成される内室と、該内室に回転可能に設けられるロータとからなり、該ロータは回転方向に沿った周面に5個以上に等分された作動面を有し、上記ハウジングに複数の供給口及び排出口を設け、上記供給口から供給される高圧状態の炭酸ガスが上記排出口から常圧で排出されるときの体積膨張による力により上記ロータを一方向に回転し、上記ロータが1回転する間に複数回の吸入膨張行程、膨張排出行程及び大気圧保持行程を経ることを特徴とする複式炭酸ガスエンジン。
【請求項2】
請求項1記載の複式炭酸ガスエンジンにおいて、上記ロータの作動面が凹弧状に形成されることを特徴とする複式炭酸ガスエンジン。
【請求項3】
請求項2記載の複式炭酸ガスエンジンにおいて、上記作動面が対応する上記ハウジングの内周面の弧と略線対称であることを特徴とする複式炭酸ガスエンジン。
【請求項4】
請求項1又は請求項2記載の複式炭酸ガスエンジンにおいて、上記ロータの作動面が奇数個であることを特徴とする複式炭酸ガスエンジン。
【請求項5】
請求項1又は請求項2記載の複式炭酸ガスエンジンにおいて、上記ロータの作動面が5個であることを特徴とする複式炭酸ガスエンジン。
【請求項6】
請求項1又は請求項2記載の複式炭酸ガスエンジンにおいて、上記ロータの作動面が7個であることを特徴とする複式炭酸ガスエンジン。
【請求項7】
請求項1又は請求項2記載の複式炭酸ガスエンジンにおいて、上記ロータの作動面が9個であることを特徴とする複式炭酸ガスエンジン。
【請求項8】
請求項1記載の複式炭酸ガスエンジンにおいて、上記ロータを複数とし、上記各ロータは作動面の位相が重ならないようにずらせて設けることを特徴とする複式炭酸ガスエンジン。
【請求項9】
請求項1又は請求項2記載の複式炭酸ガスエンジンにおいて、上記ハウジングの外側に加熱部を設けることを特徴とする複式炭酸ガスエンジン。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−297955(P2008−297955A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−144076(P2007−144076)
【出願日】平成19年5月30日(2007.5.30)
【出願人】(300045248)有限会社新科学開発研究所 (18)
【Fターム(参考)】