説明

複数の共振器を備えた装置および共振器の共振周波数調整方法

【課題】 共振器の無負荷Qの低下を最低限に留めたままで共振周波数の調整を行う。
【解決手段】 基板1上にキャパシタ部11、12とインダクタ部13が形成されてなる共振器10において、基板1上にキャパシタ部11、12と容量結合する容量素子18、19を形成し、その面積を調整することにより共振周波数を調整する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、共振器の共振周波数調整方法およびその方法を用いて周波数調整された共振器に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、共振器の周波数を調整する方法としては、共振器のパターンをレーザトリミングする方法が知られている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、共振器のパターンをレーザトリミングすると、トリミング近辺の導電率が悪化し、共振器の無負荷Qが低下する。特に、超伝導材料を用いて構成された共振器のように高い無負荷Qを有する場合には、その最大の利点を失うことになる。
【0004】本発明は上記問題を解決できる共振器の共振周波数調整方法およびその方法を用いて周波数調整された共振器を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、基板上にキャパシタ部とインダクタ部が形成されてなる共振器の共振周波数を調整する調整方法であって、基板上にキャパシタ部と容量結合する調整用キャパシタ部を形成し、その面積を調整することにより共振周波数を調整することを特徴としている。
【0006】このようにキャパシタ部と容量結合する調整用キャパシタ部の面積を調整することによって、調整用キャパシタ部とグランドプレーン間の容量が変化し、共振器の共振周波数を調整することができる。また、調整用キャパシタ部に流れる電流が小さいため、例えばトリミングによって調整用キャパシタ部の面積調整を行いトリミング近辺の導電率が悪化したとしても、共振器の無負荷Qの低下を少なくすることができる。
【0007】なお、調整用キャパシタ部の面積の調整は、調整用キャパシタ部を削ることによって行うことができる。この場合、請求項2に記載したレーザトリミングあるいは請求項3に記載したフォトリソグラフィ技術を用いて調整用キャパシタ部を削ることができる。前者のようにレーザトリミングを用いた場合には、共振周波数を測定しながらトリミングの調整を行うことができるというメリットがある。
【0008】また、調整用キャパシタ部の面積の調整は、請求項4に記載の発明のように、調整用キャパシタ部に新たに導電材料を付加して行うこともできる。請求項5に記載の発明においては、上記した方法によって共振器の共振周波数が調整された共振器を提供することができる。
【0009】
【発明の実施の形態】図1に、本発明の一実施形態に係る共振器を用いた集中定数型フィルタの平面構成を示す。この集中定数型フィルタは、誘電体基板(以下、単に基板という)1の表面に共振器10を構成するパターンが形成され、基板1の裏面にグランドプレーンが形成されたマイクロストリップライン型の構造となっている。
【0010】共振器10は、キャパシタ部11、12、およびインダクタ部13を有しており、キャパシタ部11は、入力配線14に接続された入力側のキャパシタ部15と容量結合し、キャパシタ部12は、出力配線16に接続された出力側のキャパシタ部17と容量結合している。この実施形態においては、上記したキャパシタ部11、12、インダクタ部13、入力配線14、キャパシタ部15、出力配線16、キャパシタ部17、およびグランドプレーンを構成する膜は、いずれも超伝導材料を用いて形成されている。
【0011】ここで、キャパシタ部11、12の近傍には、図に示すように、共振周波数を調整するための調整用キャパシタ部18、19がぞれぞれ形成されている。調整用キャパシタ部18、19は、金などの常伝導材料、あるいは超伝導材料を用いて形成されており、キャパシタ部11、12とそれぞれ容量結合している。このような集中定数型フィルタにおいて、共振器10の共振周波数を調整する場合、例えばプローブを用いて共振器10の共振周波数を測定し、その共振周波数が所望の値になるように調整用キャパシタ部18、19の面積を調整する。
【0012】例えば、調整用キャパシタ部18、19を削って面積を小さくすると、グランドプレーンとの間の容量が小さくなり、共振周波数が高い方にシフトするため、共振周波数を所望の値に調整することができる。ここで、調整用キャパシタ部18、19を削る場合、キャパシタ部11、12と対向する領域はそのままにして他の領域を削るようにするのが好ましい。これは、調整用キャパシタ部18、19とキャパシタ部11、12間のそれぞれの結合容量に影響を与えないようにするためである。この場合、具体的には、キャパシタ部11、12と対向する側と反対側から、すなわち図1に示す矢印方向からレーザトリミングを用いて削るようにする。このようにレーザトリミングを用いて調整用キャパシタ部18、19を削るようにすると、共振周波数を測定しながらトリミングの調整を行うことができ、精度よく共振周波数の調整を行うことができる。
【0013】また、調整用キャパシタ部18、19が超伝導材料で形成されている場合、レーザトリミングを用いると超伝導材料にダメージを与えるため、半導体のフォトリソグラフィ技術を用いたトリミングによりキャパシタ部11、12と対向する側と反対側の領域を削るようにするのが好ましい。このようにフォトリソグラフィ技術を用いて調整用キャパシタ部18、19を削るようにすると、高精度で一度に周波数調整を行うことができる。
【0014】また、共振周波数が所望の値より高いときには、調整用キャパシタ部18、19に常伝導材料(導電材料)を新たに付加して面積を大きくする。この場合、調整用キャパシタ部18、19とグランドプレーン間の容量が大きくなって、共振周波数が低い方にシフトするため、共振周波数を所望の値に調整することができる。
【0015】図2に、図1に示す集中定数型フィルタの等価回路を示す。図において、C1はキャパシタ部15とキャパシタ部11間に形成されるキャパシタ、C2はキャパシタ部11とグランドプレーン間に形成されるキャパシタ、C3はキャパシタ部12とグランドプレーン間に形成されるキャパシタ、C4はキャパシタ部12とキャパシタ部17間に形成されるキャパシタ、C5はキャパシタ部11と調整用キャパシタ部18間に形成されるキャパシタ、C6はキャパシタ部12と調整用キャパシタ部19間に形成されるキャパシタ、C7は調整用キャパシタ部18とグランドプレーン間に形成されるキャパシタ、C8は調整用キャパシタ部19とグランドプレーン間に形成されるキャパシタを示している。また、Lはインダクタ部13、R1はキャパシタ部11の抵抗成分、R2はキャパシタ部12の抵抗成分、R3は調整用キャパシタ部18の抵抗成分、R4は調整用キャパシタ部19の抵抗成分を示している。
【0016】上記したように調整用キャパシタ部18、19の面積を変えると、キャパシタC7、C8の容量がそれぞれ変化する。ここで、図2に示す等価回路を用い、キャパシタC7、C8の容量を変化させた場合の共振周波数の変化の一例を図3に示す。この図3は、キャパシタC7、C8の容量(両者とも同じ値)を、5pF、4pF、3pF、2pF、1pFに変化させたときの共振周波数の変化を示している。この図3から、キャパシタC7、C8の容量が小さくなると、共振周波数が高い方にシフトしていくことが分かる。なお、キャパシタC7、C8の容量を小さくしていくことは、調整用キャパシタ部18、19の面積を小さくしていくこと意味する。
【0017】図4に、共振器10を構成するキャパシタ部11、12を削った場合と、調整用キャパシタ部18、19を削った場合における、それぞれの抵抗成分の抵抗値と無負荷Qとの関係を示す。キャパシタ部11、12を削った場合には、図4中の黒四角で示すように、その抵抗成分(図2に示すR1、R2)の抵抗値変化に伴って、無負荷Qが大きく低下する。しかし、調整用キャパシタ部18、19を削った場合には、図4中の黒丸で示すように、その抵抗成分(図2に示すR3、R4)の抵抗値変化に対し、無負荷Qはほとんど変化しない。これは、調整用キャパシタ部18、19に流れる電流が小さいため、調整用キャパシタ部18、19の抵抗値変化に対し無負荷Qへの影響が小さいためである。
【0018】従って、調整用キャパシタ部18、19をトリミングし、トリミング付近の導電率が悪化したとしても、共振器10の無負荷Qの低下を最低限に留めたままで共振周波数の調整を行うことができる。なお、上記した実施形態においては、1つの共振器10により集中定数型フィルタを構成するものを示したが、共振器10を複数形成して集中定数型フィルタを構成するようにしてもよい。この場合の集中定数型フィルタの平面構成を図5に示す。
【0019】この実施形態においては、基板1の表面に複数の共振器10、入力配線14、キャパシタ部15、出力配線16、キャパシタ部17が形成され、基板1の裏面の全面にグランドプレーンが形成されたマイクロストリップライン型構造の集中定数型フィルタとなっている。また、個々の共振器10におけるキャパシタ部11、12の近傍には図1に示したのと同様の調整用キャパシタ部18、19がそれぞれ形成されている。
【0020】このように構成された集中定数型フィルタにおいて、複数の共振器10の共振周波数を、それぞれに設けた調整用キャパシタ部18、19の面積を調整することによって独立して調整する。この場合、複数の共振器10の共振周波数を個々に測定する必要があるが、図5に示すように複数の共振器10が並んで配置されていると、測定しようとする共振器(以下、被測定共振器という)とそれ以外の共振器が電磁結合によって干渉するため、個々の共振器の共振周波数を正確に測定することができない。
【0021】そこで、この実施形態においては、図6に示すように、被測定共振器のキャパシタ部以外において、キャパシタ部が容量結合している個所に導電部材(導電性テープなどのように容易に着脱できるもの)21、22、23、24を設け、被測定共振器以外の共振器の共振周波数をシフトさせて、被測定共振器とそれ以外の共振器が干渉しないようにする。そして、入力プローブ31、出力プローブ32を用いて被測定共振器の共振周波数を測定する。
【0022】この場合、調整用キャパシタ部18、19が金などの常伝導材料で形成されているときには、共振周波数を測定しながら調整用キャパシタ部18、19をレーザトリミングする、あるいは調整用キャパシタ部18、19に新たに導電材料を付加して、被測定共振器の共振周波数を調整する。他の共振器においても同様に、共振周波数を測定して、その共振周波数の調整を行う。
【0023】なお、調整用キャパシタ部18、19が超伝導材料で形成されているときには、複数の共振器10の共振周波数を個々に測定し、その測定結果に基づいてそれぞれの共振器10に設けられた調整用キャパシタ部18、19をフォトリソグラフィ技術を用いてトリミングする。この場合、調整用キャパシタ部18、19の面積が小さくなる、すなわち共振器10の共振周波数が高い方にシフトすることになるため、予め複数の共振器10のそれぞれの共振周波数を所望の値より若干低めに設計しておけば、上記した調整によって複数の共振器の共振周波数を所望の値にそれぞれ調整することができる。
【0024】図6に示す測定方法においては、キャパシタ部が容量結合している個所に導電部材21〜24を設けるものを示したが、図7に示すように、被測定共振器以外の共振器のインダクタ部に、上記と同様の導電部材25、26、27、28を設けても、被測定共振器以外の共振器の共振周波数をシフトさせることができるため、被測定共振器とそれ以外の共振器の干渉をなくして被測定共振器の共振周波数を測定することができる。
【0025】なお、上記した実施形態においては、1つの共振器に対し2つの調整用キャパシタ部18、19を形成するものを示したが、そのいずれか一方のみでもよい。また、上記した実施形態においては、グランドプレーンを構成する膜を基板1の裏面に形成するものを示したが、基板1とは別の基板にグランドプレーンを構成する膜を形成し、そのグランドプレーンを構成する膜と共振器を構成するパターンが空間を隔てて対向するように、基板1と別の基板を対向配置した構成としてもよい。
【0026】また、集中定数型フィルタは、超伝導材料を用いて構成されているものに限らず、常伝導材料を用いて構成されていてもよい。さらに、本発明に係る共振器は、集中定数型フィルタに用いるものに限らず、例えば発振器を構成するものに用いるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態に係る共振器を用いた集中定数型フィルタの平面構成を示す図である。
【図2】図1に示す集中定数型フィルタの等価回路である。
【図3】図2に示す等価回路を用い、キャパシタC7、C8の容量を変化させた場合の共振周波数の変化の一例を示す図である。
【図4】共振器10を構成するキャパシタ部11、12を削った場合と、調整用キャパシタ部18、19を削った場合における、それぞれの抵抗成分の抵抗値と無負荷Qとの関係を示す図である。
【図5】共振器10を複数形成した集中定数型フィルタの平面構成を示す図である。
【図6】図5に示す構成において、キャパシタ部が容量結合している個所に導電部材を設けて被測定共振器の共振周波数を測定する状態を示す図である。
【図7】図5に示す構成において、インダクタ部に導電部材を設けて被測定共振器の共振周波数を測定する状態を示す図である。
【符号の説明】
1…基板、10…共振器、11、12…キャパシタ部、13…インダクタ部、14…入力配線、15…入力側のキャパシタ部、16…出力配線、17…出力側のキャパシタ部、18、19…調整用キャパシタ部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 基板上にキャパシタ部とインダクタ部が形成されてなる共振器の共振周波数を調整する調整方法であって、前記基板上に前記キャパシタ部と容量結合する調整用キャパシタ部を形成し、その面積を調整することによって共振周波数を調整することを特徴とする共振器の共振周波数調整方法。
【請求項2】 レーザトリミングにより前記調整用キャパシタ部を削って前記調整用キャパシタ部の面積を調整することを特徴とする請求項1に記載の共振器の共振周波数調整方法。
【請求項3】 フォトリソグラフィ技術により前記調整用キャパシタ部を削って前記調整用キャパシタ部の面積を調整することを特徴とする請求項1に記載の共振器の共振周波数調整方法。
【請求項4】 前記調整用キャパシタ部に新たに導電材料を付加して前記調整用キャパシタ部の面積を調整することを特徴とする請求項1に記載の共振器の共振周波数調整方法。
【請求項5】 基板上にキャパシタ部とインダクタ部が形成されてなる共振器において、前記基板上に前記キャパシタ部と容量結合する調整用キャパシタ部が形成されており、その面積が共振周波数を調整するために調整されていることを特徴とする共振器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2000−252713(P2000−252713A)
【公開日】平成12年9月14日(2000.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−54373
【出願日】平成11年3月2日(1999.3.2)
【出願人】(595000793)株式会社移動体通信先端技術研究所 (7)
【Fターム(参考)】