説明

複数の姿勢においてプローブを用いて物体をプロービングすることによってプローブを物体とレジストレーションする方法およびシステム

【課題】複数の姿勢においてプローブを用いて物体をプロービングすることによって、プローブが物体とレジストレーションされる方法を提供する。
【解決手段】プローブ110の各姿勢は、ロケーションおよび向きを含む。プローブ110の現在のロケーションの確率分布が、粒子のセットによって表され201、プローブ110の現在の向きの確率分布が、各粒子について、現在のロケーションを条件とするガウス分布によって表される。候補動作のセットが選ばれ215、各候補動作について、粒子のセットに基づく期待不確実性が求められる220。最小の期待不確実性を有する候補動作が、プローブ110の次の動作として選択され230、プローブ110は、次の動作に従って移動され202、粒子のセットは、プローブ110の次の姿勢を用いて更新される210。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、包括的には、産業ロボットに関し、より詳細には、産業ロボットにおける確率的ロケーション特定(probabilistic localization)のためのプロービングベースの方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
ロボットに対して物体をレジストレーションすることは、把持および挿入等の多くの産業アセンブリの作業において行われる。「レジストレーションする」とは、物体とロボットとの間の相対的な姿勢(pose)を決める(find)ことをいう。プロービングベースのレジストレーション方法は、ロボットに取り付けられたプローブを用いて、物体と接触するロケーションを測定し、それらのロケーションを用いて、物体に対してロボットをレジストレーションする。
【0003】
いくつかの従来の方法は、プロービングおよび粒子ベースのモンテカルロロケーション特定を用いて、レジストレーション問題を解いている。例えば、1つの方法は、鍵および鍵穴のアセンブリ(lock and key assembly)にプロービングおよび粒子フィルタリングを用いるロケーション特定を記載している。前処理ステップとして、この方法は、プローブを用いて物体上の(x,y)ロケーションのグリッドを高密度にプロービングし、接触ロケーション(x,y,z)の高密度なセットを取得し、接触構成−空間マップ(contact configuration−space map)を生成する。この接触構成−空間マップは、プローブが物体と接触する可能な姿勢を示している。次に、この方法は、プロービングから取得された接触ロケーションのシーケンスを用いて、物体を順次プロービングすることによって粒子フィルタリングを行う。接触構成−空間マップを用いて尤度が評価される。
【0004】
物体を高密度にプロービングする前処理ステップを用いる別の方法は、プローブに接続された力およびトルクセンサーを用いて、力トルクマップを生成する。力トルクマップは、プローブと物体との間に接触が存在するあらゆる可能な姿勢における接触力およびトルクを含む。この方法は、コンピューター支援設計(CAD:computer aided design)モデルから直接、力トルクマップを推定することも記載している。高密度プロービングによって事前に取得された力トルクマップを用いて、力トルク測定値をマップと照合するために、粒子フィルタリングが順次プロービングとともに用いられる。この方法は、カメラからの観測値も任意選択で組み込む。
【0005】
6自由度(6−DOF:6−degree of freedom)レジストレーションに必要とされる粒子数を削減するために、別の方法は、各粒子に、単一の点の代わりに領域を割り当てることによる粗密(coarse to fine)手法を用いる。この方法は、最初に、測定不確実性を増大させることによって粗い解像度で高い尤度の領域を求め、その後、不確実性を低減させながら、領域内の粒子を反復的に再サンプリングする。
【0006】
物体の点測定値のセットおよび平面のセットとしての物体の3Dモデルが与えられると、いくつかの方法は、3D平面と3D点との間の3つの対応関係を6−DOFレジストレーションの法線とともに用いる。1つの方法は、6つの3D点対3D平面の対応関係を用いる。これらの方法は、それぞれ、最小数の対応関係を用い、ランダムサンプルコンセンサス(RANSAC:RANdom SAmple Consensus)等の仮説検定フレームワークにおける仮説生成器として適している。点対平面の対応関係を用いる別の方法は、分岐限定最適化を利用して、大域的に最適なレジストレーションを達成する。反復最近傍点(ICP:iterative closest point)法は、多くの場合、レジストレーションの良好な初期推定値を有しない限り、大域的最適解に達しない。これらのオフライン法は、点−平面レジストレーション問題に対する解を提供するが、接触測定値の完全なセットが既に収集されていることを前提とする。これらの方法は、接触測定値の既に収集されたサブセットに基づいて次の良好な動作を選択する方法も提供していないし、十分な測定値がいつ収集されたのかを判断する終了条件も提供していない。
【0007】
この発明の発明者らの知る限りでは、動作選択、すなわち、次にプロービングする箇所を計画する一般的な問題は、プロービングベースのレジストレーションにおいてこれまで対処されてこなかった。しかしながら、動作選択は、或る方法が移動ロボットの次の動作を計画するアクティブな同時のロケーション特定およびマッピング(アクティブSLAM:active simultaneous localization and mapping)の用途等の移動ロボット工学においては既知である。
【0008】
移動ロボット工学では、次の動作を選択することは、多くの場合、不確実性の低減量の尺度を示す期待情報利得またはエントロピーの低減量等のエントロピーベースの尺度を用いて対処される。しかしながら、ガウス近似を用いて粒子分布のエントロピーを求める等、通常は、従来の移動ロボットにおいて用いられるエントロピー推定方法は、プロービングベースのレジストレーションにあまり適していない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ロボットに対して物体をレジストレーションすることは、把持および挿入等の多くの産業アセンブリの作業において行われる。プロービングベースのレジストレーション方法は、ロボットに取り付けられたプローブを用いて、物体との複数の接触ロケーションを測定し、それらのロケーションを用いて、ロボットを物体のモデルにレジストレーションする。このレジストレーション手法では、接触ロケーションの選択は、通常、議論されていない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明の実施の形態は、次のロボットの動作を選択し、期待情報として定量化され、結果として行われる物体との接触によって得られる、不確実性の期待低減量を最大にする方法を提供する。本方法は、以下のように、ラオブラックウェル化粒子フィルタリング(RBPF:Rao Blackwellized particle filtering)フレームワークにおいて6−DOFレジストレーションを実行する。
【0011】
プローブのロケーションは、粒子のセットによって表される。3Dガウス角度分布が各粒子について規定される。
【0012】
物体の3Dモデルおよび不確実性モデルから導出されたマップ、並びに現在の粒子分布を用いると、次のロボット動作からの期待情報利得が、動作によって更新された粒子のエントロピーを用いて求められる。
【0013】
最大情報利得、すなわち最小エントロピーを提供する動作が選択され、次の測定に用いられる。このプロセスは、粒子分布の収束または所定のプロービング回数等の終了条件に達するまで繰り返される。
【発明の効果】
【0014】
この発明の発明者らのRBPFベースの方法は、各動作をランダムに選ぶ従来技術の方法とは異なり、いくつかの候補動作を選び、次に、期待エントロピーの形態の期待不確実性の推定値を用いて、最良の候補動作を選択する。この発明の発明者らは、この発明の発明者らの方法を完全自動レジストレーションだけでなく、人間がガイドするレジストレーションにも適用する。この発明の発明者らのエントロピーベースの動作選択方法は、性能がランダムな動作選択よりも大幅に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明の実施の形態によるロボットに取り付けられるかまたはロボット内に組み込まれるプローブに対して物体をレジストレーションするシステムの概略図である。
【図2】この発明の実施の形態によるプローブに対して物体をレジストレーションする方法のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
この発明の実施の形態は、ロボットに取り付けられるかまたはロボット内に組み込まれるプローブに対して物体をレジストレーションする方法およびシステムを提供する。プローブの姿勢は、(並進)ロケーションおよび(角度の)向きを含む。各プロービングは、物体とプローブとの間の接触点を求め、それによって、各接触点における姿勢を推定することができる。物体は、関連付けられた物体座標系を有し、プローブは、関連付けられたプローブ座標系を有する。プローブは、ロボットの座標系に対してレジストレーションされる。したがって、ロボットと物体との間のレジストレーションは、プローブと物体との間のレジストレーションによって求められる。
【0017】
米国出願第12/751366号において、この発明の発明者らは、6−DOFレジストレーション問題にラオブラックウェル化粒子フィルタリング(RBPF)を用いた。粒子は、確率分布を、粒子の3−DOFロケーションと、各粒子のロケーションを条件とするガウス分布によって近似された3−DOF角度分布とに因数分解する。
【0018】
この米国出願では、ロボットアームに取り付けられたプローブを用いて物体にタッチすることによって物体をプローブとレジストレーションする。タッチのシーケンスを用いてこのレジストレーションを行った。このシーケンスにおける次のタッチ点を求める各動作は、ランダムに選択された。
【0019】
次に、前に開示したRBPFフレームワークに基づく動作選択方法を説明する。この方法は、エントロピーに基づいて最適な次の動作を求める。また、自動レジストレーションだけでなく、人がガイドするレジストレーションについても、この方法の新規な適用を説明する。
【0020】
ラオブラックウェル化粒子フィルタリングを用いたプロービングベースの6−DOFレジストレーション
図1は、物体120をプローブ110とレジストレーションするシステム100および方法200を示している。この発明のさまざまな実施の形態において、プローブは、タッチプローブ、例えば、力およびトルクの測定値を用いるプローブであるか、またはタッチレスプローブ、例えば、電気的プローブ、機械的プローブ、光学的プローブ、若しくはレーザープローブである。各プロービングによって、物体との接触点115が求められる。
【0021】
物体に対するプローブの姿勢(ロケーションおよび向き)が求められる。姿勢は、その後、産業プロセスにおいて用いることができる。産業プロセスは、物体をピックアップすること、物体を位置決めすること、物体に部品を接合すること、物体に対するロボットの姿勢を求めること、ロボット座標系に対して物体若しくはワールドの座標系を較正すること、またはスプレーガン、アーク溶接機、ドリル、若しくはグラインダー等の道具を物体に対して用いることを含むことができる。
【0022】
物体は、CADモデル等の3Dモデル125によって表される。3つまでの自由度(3−DOF)の不確実性モデル126は、プローブによって取得される測定値に内在する不確実性を記述する。3Dモデルおよび不確実性モデルを組み合わせて、プロセッサ140において実行される方法200によって用いられるマップ127を生成し、姿勢150を求めることができる。プロセッサは、当該技術分野で知られているように入出力インターフェースおよびメモリ145を含む。3Dモデル、不確実性モデル、およびマップは、メモリ145に記憶することができる。代替的に、本方法は、ディスクリート回路、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA:field programmable gate array)、または専用デジタル信号プロセッサ等の他の手段によって実施することができる。
【0023】
1つの実施の形態では、プロービングは、プローブと物体との間の接触を検出するまで、プローブが配置されているロボットアーム160に動作を適用することによって達成される。
【0024】
一般的な方法
この発明の実施の形態は、プローブの6−DOF姿勢の推定に適用される標準的な粒子フィルタリングが、必要とされる粒子の数が自由度の数の概ね指数関数となるので極めて非効率的であるという認識に基づいている。しかしながら、6−DOF姿勢は、2つの部分、すなわち、粒子のセットによって表される3−DOFロケーションと、各粒子がプローブの向きについてそれ自身の分布を保持するようにガウス分布によって表される3−DOF向きとに因数分解することができる。各粒子の向きは、カルマンフィルタリングを用いて更新することができる。この認識に基づくと、6−DOF粒子フィルタリングは、3−DOF粒子フィルタリングおよび3−DOFカルマンフィルタリングに縮約される。このような因数分解のフレームワークは、ラオブラックウェル化粒子フィルタリング(RBPF)として知られている。
【0025】
一般的に、問題は、物体をプローブとレジストレーションすることである。これは、3D接触ロケーションを測定することによって、物体に対するプローブの姿勢を求めることによって行われる。
【0026】
姿勢における6−DOFの不確実性は、(s,θ)である。ここで、sは3D並進ロケーション(x,y,z)であり、θは3D角度の向き(α,β,γ)であり、Tは転置演算子ある。
【0027】
時間1〜tの動作のシーケンス(u1:tで示す)および時間0〜tの測定値のシーケンス(z0:tで示す)が与えられると、この発明の発明者らの目標は、ロケーションおよび向きにわたる事後確率分布
【0028】
【数1】

【0029】
を推測することである。
【0030】
この発明の発明者らの手法は、以下のように、事後確率分布をロケーションおよび向きに因数分解することである。
【0031】
【数2】

【0032】
ロケーションにわたる確率分布(式(1)の右側の第1因数)は、粒子によって表され、これによって、ロケーションの多モード分布を表すことが可能になる。向きにわたる確率分布(式(1)の右側の第2因数)は、各粒子について、この粒子の現在のロケーションおよび前のロケーションを条件とするガウス分布として表される。
【0033】
向きにわたる分布p(θ|s0:t,z0:t)は、各粒子のロケーションs0:tが粒子フィルタリングによって求められた後、拡張カルマンフィルタリング(EKF:extenden Kalman filtering)を用いて解析的に求めることができるので、式(1)は、効率的に解くことができる。
【0034】
より具体的には、まず、動作モデルを用いて各粒子のロケーションを更新し、マップ127および向きにわたる粒子の前のガウス分布に基づいて尤度を計算することによって粒子の重みを求める。次に、EKFを用いて粒子の向きのガウス分布を更新する。
【0035】
このプロセスは、終了条件が満たされるまで繰り返すことができる。可能な終了条件には、所定のプロービング回数に達すること、または粒子ロケーションの収束が含まれる。
【0036】
動作選択のためのエントロピー推定
マップおよびロケーションの双方が経時的に推定されるSLAMとは異なり、この発明の発明者らのプロービングベースのレジストレーションでは、マップ127が既知であり、物体とプローブとの間の相対的な姿勢150のみが未知である。
【0037】
この発明の発明者らの出願である米国出願第12/751366号により詳細に記載されているこの発明の発明者らの前のRBPFレジストレーションフレームワークでは、ランダムな次の動作を用いて次の各接触点を得ていた。この出願では、不確実性を最小にすることに基づいて最適な次の動作を選択する。これは、エントロピーを最小にすることによって達成される。
【0038】
図2に示すように、物体120に対するプローブ110の現在のロケーションは、粒子のセット201によって表される。プローブの向きは、粒子のロケーションを条件とする、各粒子に関連付けられたガウス分布によって表される。この発明の発明者らの目標は、式(1)におけるこの発明の発明者らのRBPFフィルタリング分布の期待エントロピーを最小にする次の動作を選ぶことである。この期待エントロピーを最小にすることは、物体とプローブとの間の相対的なロケーションおよび相対的な向きの双方にわたる不確実性を最小にすることとして見ることができる。それを行うために、M個の候補動作のセット222を選び、各候補動作を用いて、粒子の現在のセット201を更新し(210)、更新された粒子のM個のセット215を取得する。次に、更新された粒子のこれらのセットそれぞれの期待エントロピー221を推定し(220)、最小エントロピー221になる動作を選択する(230)。
【0039】
1つの実施の形態では、単一の多変量ガウス分布を用いて粒子分布を近似することによってエントロピーを推定する。このガウス近似手法を他のエントロピー推定方法と対比する。この発明の発明者らの実施の形態のうちの1つは、粒子重み(particle weight:粒子量)のみに基づき、他の実施の形態は、パルツェン窓(Parzen window)に基づくノンパラメトリックエントロピー推定値を用いる。
【0040】
ラオブラックウェル化粒子フィルターのエントロピー
ラオブラックウェル化粒子フィルター(RBPF)の事後確率分布(式(1))のエントロピーは、
【0041】
【数3】

【0042】
と表すことができる。ここで、
【0043】
【数4】

【0044】
は、確率変数s0:tにわたる期待値を示す。式(2)の右側の第1項は、粒子を用いて表されるロケーション分布のエントロピーを表し、以下で説明する第2項は、角度分布のエントロピーを表す。
【0045】
第1項を求めるために、重み付きサンプルの集合体に基づいて連続分布のエントロピーを推定するが、これは簡単ではない。このエントロピーを求めるさまざまな代替形態を以下で説明する。
【0046】
角度分布のエントロピー
式(2)の右側の第2項は、次のように求めることができる。ロケーションs0:tにわたる分布は、粒子によって表されるので、期待値は、
【0047】
【数5】

【0048】
として近似される。ここで、s[j]0:tは、j番目の粒子の時間tまでのロケーションのシーケンスであり、w[j]は、時間tにおけるj番目の粒子の重み(Σ[j]=1となるように正規化されている)であり、Jは粒子数である。p(θ|s[j]0:t,z0:t)はガウス分布であるので、p(θ|s[j]0:t,z0:t)=N(θ;μ,Σ)と書くことができ、これは、平均μおよび共分散行列Σを有する、θの多変量ガウス確率密度関数(pdf:probability density function)を表す。
【0049】
ガウス分布のエントロピーは、d次元ガウス分布のエントロピーの公式
【0050】
【数6】

【0051】
を用いて求められる。ここで、|Σ|は共分散行列Σの行列式を示す。
【0052】
ロケーション分布のエントロピー
重み付き粒子の集合体によって表されるロケーション分布のエントロピーを求めることは、結局、有限個の重み付きサンプルに基づいて未知の確率密度関数(pdf)のエントロピーを求めることになる。これは、有限のサンプルが任意の密度分布を求めるのに十分ではないので、本来的に不良設定問題である。したがって、分布の関数形式またはその平滑性のいずれかについていくつかの仮定を行わなければならない。
【0053】
式(2)の第1項であるロケーション分布のエントロピーを
【0054】
【数7】

【0055】
として近似する。すなわち、粒子の現在のロケーションのみを考慮し、粒子の前のロケーションを考慮しない。推定したいエントロピーの分布は、
【0056】
【数8】

【0057】
となる。
【0058】
この表記は、変数sおよびwから下付き文字tを省くことによって簡単化することができる。例えば、式(5)の関数をf(s)と示し、s[j]およびw[j]を用いて、時間tにおける粒子jのロケーションおよび重みをそれぞれ表す。
【0059】
J個の粒子のロケーションおよび重みを用いて、未知のpdfであるf(s)のエントロピーを推定する。
【0060】
ロケーション分布のエントロピーの推定
このエントロピーを推定するいくつかの方法を比較する。
【0061】
まず、パラメトリック手法を用いてこの分布のエントロピーを近似する。パラメトリック手法では、エントロピーは、分布がガウスであると仮定することによって求められる。分布がガウスでない場合、このパラメトリック手法は、不正確なものとなる。したがって、さまざまなカーネルを有する分布のパルツェン窓ベースのカーネル密度推定値を用いてエントロピーを求める、エントロピー推定の非パラメトリック手法も考慮する。また、重みのセットを離散確率分布における確率質量のセットとして扱うことによって、粒子重みのみを用いる一方、粒子の空間ロケーションを無視してエントロピーを推定することも考慮する。
【0062】
粒子分布のガウス近似
時間tにおける粒子分布にガウス関数を当てはめるために、重み付き平均s(バー)および重み付き共分散行列Σを求める。
【0063】
【数9】

【0064】
ここで、w[j]は、時間tにおける粒子jの重み(Σ[j]=1である)であり、s[j]は、物体座標系における粒子のロケーションである。このように、f(s)を多変量 ガウスf(ハット)(s)=N(s;s(バー),Σ)として近似している。そのエントロピーは、式(4)を用いて求めることができる。
【0065】
粒子分布のカーネル密度推定
ガウスエントロピー近似では、粒子は、特定の関数形式(ガウス)を有する分布からの重み付きサンプルであると仮定し、それらのサンプルを用いて、関数のパラメーターを推定した。サンプルの集合体から分布を推定する代替的な手法は、カーネル密度推定等の非パラメトリック方法を用いることである。ここでは、分布のパルツェン窓ベースの近似を用いて、分布のエントロピーを推定する。ロケーションサンプルの集合体および対応する非負の重みから、重み付きパルツェン密度推定値を用いて未知の確率密度f(s)を近似することができる。
【0066】
従来のパルツェン窓は、通常、非重み付きサンプルまたは等しい重みを有するサンプルを指す。これとは対照的に、この発明の発明者らは、パルツェン密度推定の重み付きのもの
【0067】
【数10】

【0068】
を用いる。ここで、k()はカーネル関数である。f(ハット)(s)のエントロピー
【0069】
【数11】

【0070】
によってf(s)のエントロピーを推定する。ここで、Ep(x)[g(x)]は、確率変数xがpdf p(x)に従って分布しているときの関数g(x)の期待値を表す。
【0071】
不都合なことに、単純なガウスカーネルを含めて、カーネル関数k()の多種多様な選択肢のために、式(8)における積分を解析的に求めることは、困難であるかまたは不可能である。しかしながら、確率分布f(ハット)(s)にわたる期待値を、重み付きサンプルs[j]にわたる期待値として近似することができる。この発明の発明者らのエントロピー推定値は、それゆえ、
【0072】
【数12】

【0073】
に簡単化される。
【0074】
さまざまなカーネル関数を用いることができる。形式
【0075】
【数13】

【0076】
のゼロ平均放射対称性カーネル関数族を考える。この形式において、パラメーターσはカーネル幅を制御し、指数nはカーネル関数がどのような重い裾を有するのかを制御する。n=2である場合、式(10)におけるカーネル関数は、各次元においてσの周辺分散(marginal variance)を有する球対称ガウスカーネルである。式(10)におけるカーネルの比例定数を無視することができる。これは、その定数が、nおよびσの値のどの特定の選択肢についても不変であるからであり、式(9)におけるカーネル関数kに定数因数を乗算することが、定数(定数因数の負の対数)をエントロピー推定値に単に加算することであるからである。
【0077】
粒子重みのみを用いたエントロピーの推定
粒子重みのみを用いるエントロピー推定は、粒子ロケーションを完全に無視する。この推定は、重みのセット全体を、離散確率分布における確率質量のセットとして扱い、この離散分布のエントロピー
【0078】
【数14】

【0079】
を求める。
【0080】
動作選択方法
上述したRBPFのエントロピー尺度を用いて最適な次の動作を選択する方法を説明する。本方法は、ランダムな動作選択と比較すると、より少ない数の測定値を用いて同じ正確度を達成することを可能にするか、または代替的に、同じ数の測定値を用いてより高い正確度を達成することを可能にする。
【0081】
この発明の発明者らのエントロピーベースの動作選択方法の概要を説明し、次に、本方法を2つの異なる用途、すなわち、自動レジストレーションおよび人間がガイドするレジストレーションに適用する方法を説明する。
【0082】
方法の概要
時間tにおける粒子のセット201 Xが与えられると、M個の候補動作222 Γ(m={1,...,M})から最適な次の動作202を選択する(230)欲張り手法を用いる。各候補動作222の期待エントロピー221を求め(220)、次の動作について最小期待エントロピーを有する動作を選択する(230)。エントロピーの計算を効率的にするために、粒子セットXをそのサブセットY(最も大きな重みを有するK個の粒子)によって近似する。ここで、K≦Jである。
【0083】
各動作候補Γは、ランダムに選ばれる。各動作候補Γについて、Yから粒子の重みに比例する確率を有するランダムな粒子q[c]を選択するごとに、測定プロセスをC回シミュレートする。各q[c]について、次の質問、すなわち「q[c]が物体とロボットとの間の相対的な姿勢について正しい場合において、Γによって指示される動作を実行するとき、どのような接触位置測定値が結果として得られるのか?」に対する答えを計算する。この答えは、推定された動作u(ハット)[c]を与える。この推定された動作は、粒子セットYを更新するのに用いられる。この結果、更新された粒子セットY[c]t+1が得られ、そのエントロピーが計算される。このシミュレーション手順をC回繰り返し、動作候補Γの期待エントロピーをC回のシミュレーションにわたる平均として計算する。
【0084】
この発明の発明者らの用途では、ロボットを測定位置間で移動させるのに必要な時間は、単一の接触ロケーションを精密に測定するのに必要な時間よりもはるかに短いので、プローブを次の位置に移動させるコストは、位置とは無関係であると仮定する。異なる動作候補が異なるコストを有する用途では、例えば、より遠くの位置に移動することがより多くの時間を要する場合、その移動をエントロピーに加えてコスト関数に組み込むことができる。
【0085】
自動レジストレーションへの適用
自動レジストレーションの場合、米国出願第12/751366号における方法は、ロボット座標系に対するx方向およびy方向にランダムな動作を適用し、次に、接触するまで、物体に向かって、ロボット座標系のz軸に平行にプローブを移動させることによってz位置を測定する。
【0086】
このフレームワークにおいてこの発明の発明者らのエントロピーベースの動作選択方法を適用するために、各動作候補Γは、ロボット座標系におけるx方向およびy方向におけるランダムな変位を示し、z位置の測定が各粒子q[c]についてシミュレートされる。粒子q[c]は、ロボットと物体との間の相対的な姿勢の推定値を保持し、この推定値は、3D位置s[c]と、平均μθ[c]を有する、角度にわたるガウス分布とを含む。粒子の位置s[c]および平均角度μθ[c]を、物体のモデルと併せて用い、プローブが物体に接触することになるロケーションを推定する。z方向における推定された動作は、Γによって与えられた(x,y)変位と組み合わされて、期待動作u(ハット)[c]を構成する。
【0087】
自動レジストレーション中、この発明の発明者らのシステムおよび方法は、物体に向かってロボットを移動させながら、プローブに印加される力/トルクの値を連続的に測定する。この動作は、測定が所定のしきい値を超えると終了する。この発明の発明者らのシステムは、まず、大きな動作ステップサイズを用いて接触ロケーションを粗く検出し、次に、小さな動作ステップサイズを用いて接触ロケーションを精緻化して、精密なロケーション測定を達成する。
【0088】
人間がガイドするレジストレーションへの適用
いくつかの場合には、上述した自動レジストレーションプロセスは、実用的でない場合がある。例えば、ロボットの可能な動作を制限する他の物体が近くに存在する場合がある。別の例は、物体が、単一の方向からプロービングすることができる十分に有用な特徴を有していない場合に、複数の方向から物体をプロービングする場合があることである。そのような場合、人間のオペレーターにロボットを移動させて接触位置を測定することが、多くの場合、より安全であり、より実用的である。
【0089】
視覚化システムは、物体上の最適なタッチロケーションを人間のオペレーターに提案して、高速かつ正確なレジストレーションを達成することができる。
【0090】
この発明の発明者らのシステムは、人間のオペレーターによって始動される。オペレーターは、プローブを物体表面上の任意の位置に移動させ、物体表面上の近似の位置をシステムに指定する。システムは、その粒子の全てを、オペレーターによって示されたロケーションの近くに初期化し、角度分布が、プローブと表面とのあらゆる可能な初期接触角度を含む範囲から選択される。この人間がガイドする場合には、各候補動作Γは、物体座標における物体表面上のランダムに選ばれた点である。各粒子q[c]について、物体表面上の選択された点に粒子を移動させるのに必要な動作を計算することによって期待動作u(ハット)[c]を求める。この期待動作は、その後、粒子Yを更新するのに用いられる。
【0091】
本方法は、期待エントロピーを最小にする動作候補Γを選択し、物体上のそのロケーションで次にプロービングを行うようにオペレーターに指示する。また、この発明の発明者らのシステムは、現在の力/トルク測定値をオペレーターに視覚化し、オペレーターが、精密な接触ロケーションを求めるようロボットの動作を制御できるようにする。
【0092】
オペレーターは、提案された位置にプローブを精密に移動させる必要はないことに留意されたい。RBPFフレームワークは、次の接触が物体の表面上のいずれかの場所である限り、適切に機能する。一方、提案された位置は、動作候補の全ての最小エントロピーを達成するので、本方法の提案したロケーションを用いることによって、より少ない測定で正確なレジストレーションを行うことが可能になる。
【0093】
発明の効果
その3Dモデルが既知である物体へのロボットのプロービングベースのレジストレーションにおけるオンラインの動作選択のための方法およびシステムを説明した。この発明の発明者らのRBPFベースの方法は、各動作をランダムに選ぶ従来技術の方法とは異なり、いくつかの候補動作を選び、次に、期待エントロピーの形態の期待不確実性の推定値を用いて、最良の候補動作を選択する。この発明の発明者らは、この発明の発明者らの方法を完全自動レジストレーションだけでなく、人間がガイドするレジストレーションにも適用する。この発明の発明者らのエントロピーベースの動作選択方法は、性能がランダムな動作選択よりも大幅に優れている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の姿勢においてプローブを用いて物体をプロービングすることによって前記プローブを前記物体とレジストレーションする方法であって、前記プローブの前記各姿勢は、ロケーションおよび向きを含み、前記方法は、
粒子のセットによって前記プローブの現在のロケーションの確率分布を表し、なお、前記各粒子は、前記粒子のロケーションと前記粒子の確率に対応する重みとを有し、前記各粒子について、前記粒子の前記ロケーションを条件とするガウス分布によって前記プローブの現在の向きの確率分布を表すステップと、
候補動作のセットを選ぶステップと、
前記各候補動作について、前記粒子のセットに基づいて期待不確実性を求めるステップと、
最小の期待不確実性を有する前記候補動作を前記プローブの次の動作として選択するステップと、
前記次の動作に従って前記プローブを移動させるステップと、
前記プローブの次の姿勢を用いて前記粒子のセットを更新するステップと、
を含む、複数の姿勢においてプローブを用いて物体をプロービングすることによって前記プローブを前記物体とレジストレーションする方法。
【請求項2】
前記更新するステップは、
動作モデルを用いて前記粒子のセット内の前記各粒子の前記ロケーションを求めることと、
前記物体の3Dモデルおよび不確実性モデルから導出されたマップに基づく尤度を用いて前記粒子のセット内の前記各粒子の前記重みを求めることであって、前記不確実性モデルは、前記プローブによって取得された測定値に内在する不確実性を記述する、求めることと、
拡張カルマンフィルタリングを用いて前記粒子のセット内の前記各粒子の前記ガウス分布を更新することと、
を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記姿勢は、(s,θ)であり、ここで、sは相対的な3D並進ロケーション(x,y,z)であり、θは相対的な3D角度の向き(α,β,γ)であり、Tは転置演算子ある、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
姿勢のシーケンスが時間0〜tのs0:t であり、動作のシーケンスが時間1〜tのu1:tであり、測定値のシーケンスが時間0〜tのz0:tであり、
前記ロケーションおよび前記向きにわたる事後確率分布p(s0:t,θ|z0:t,u1:t)を推測することを更に含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ロケーションおよび前記向きにわたる前記事後確率分布を
【数1】

として因数分解すること、
を更に含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記事後確率分布の前記不確実性は、エントロピー
【数2】

として求められ、ここで、
【数3】

は、s0:tにわたる期待値を示し、
【数4】

は、前記ロケーションにわたる前記確率分布の前記エントロピーを表し、
【数5】

は、前記向きにわたる前記確率分布の前記エントロピーを表す、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記向きにわたる前記確率分布の前記エントロピーは、前記粒子のセット内の前記粒子の前記重みおよび前記粒子のセット内の前記粒子の前記ガウス分布から推定される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ロケーションにわたる前記確率分布の前記エントロピーは、単一のガウス分布を用いて前記粒子のセット内の前記粒子の前記ロケーションおよび前記重みを近似することによって推定される、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記ロケーションにわたる前記確率分布の前記エントロピーは、前記粒子のセット内の前記粒子の前記ロケーションおよび前記重みからのカーネル密度推定を用いることによって推定される、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記ロケーションにわたる前記確率分布の前記エントロピーは、前記粒子のセット内の前記粒子の前記重みのみを用いることによって推定される、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
前記プローブは、ロボットアームに取り付けられ、前記プローブは、前記次の動作に従って前記ロボットアームによって自動的に移動される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記プローブは、オペレーターによって手動で移動され、前記次の動作は、前記プローブを移動させるように前記オペレーターをガイドするのに用いられる、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記候補動作は、ランダムに選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記ステップは、終了条件が満たされるまで繰り返される、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記終了条件は、所定のプロービング回数である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記終了条件は、前記粒子のセット内の前記粒子の前記ロケーションの収束である、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記複数の姿勢は、前記プローブの座標系で測定される、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記ロケーションおよび前記向きは、物体座標系とプローブ座標系との間の変換を示す、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記候補動作は、前記プローブの座標系で表される、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
複数の姿勢においてプローブを用いて物体をプロービングすることによって前記プローブを前記物体とレジストレーションするシステムであって、前記プローブの前記各姿勢は、ロケーションおよび向きを含み、前記システムは、
粒子のセットによって前記プローブの現在のロケーションの確率分布を表し、なお、前記各粒子は、前記粒子のロケーションを有し、前記粒子の確率に対応する重みを有し、前記各粒子について、前記粒子の前記ロケーションを条件とするガウス分布によって前記プローブの現在の向きの確率分布を表す手段と、
候補動作のセットを選ぶ手段と、
前記各候補動作について、前記粒子のセットに基づいて期待不確実性を求める手段と、
最小の期待不確実性を有する前記候補動作を前記プローブの次の動作として選択する手段と、
前記次の動作に従って前記プローブを移動させるように構成されるロボットアームと、
前記プローブの次の姿勢を用いて前記粒子のセットを更新する手段と、
を備える、複数の姿勢においてプローブを用いて物体をプロービングすることによって前記プローブを前記物体とレジストレーションするシステム。

【図1】
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【図2】
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