説明

複数の骨格層を有する金属多孔質体およびその製造方法

【課題】 本発明の目的は、一体に形成されたセル数が小さくかつ空孔率が大きい、複数の骨格層を有する金属多孔質体の提供である。
【解決手段】 本発明は、空孔率が80%以上であり、セル数5〜20個の第一骨格層と該第一骨格層の1.4倍以上のセル数を有するセル数15〜45個の第二骨格層との少なくとも2種の骨格層を有し、前記骨格層は、前記第二骨格層のセル数以下のセル数を有し、かつ、セル数の大きさの順に配列されて一体に焼結形成されている、複数の骨格層を有する金属多孔質体である。第一骨格層の厚さが5〜25mm、第二骨格層の厚さが1〜15mmであることが望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車等のディーゼルエンジンの排気ガスに含まれる煤の除去用フィルタ(以下、DPFという)等に使用される触媒担体用部品に利用可能な、複数の骨格層を有する金属多孔質体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属多孔質体は、金属による骨格部と空間である空孔部により構成され、一連の骨格とそれに囲まれた1個の空孔部をセルともいう。例えば、流体、つまり気体や液体を金属多孔質体に通すと、流体に混在する異物粒子等は骨格部で吸着または捕集されて除去され、異物粒子等が除去された流体はセル部を通過していく。この場合、除去したい異物粒子等の大きさに応じてセルのサイズを選択する。このような機能を有する金属多孔質体は各種フィルタ部材として利用されている。
【0003】
また、例えばDPF等に使用される触媒担体用部品として金属多孔質体を用いる場合、骨格部の表面に触媒を担持させて反応物質との接触面積を増やし、これにより反応を増大させるために使用される。このように反応物質との接触面積をできるだけ増やすため、金属多孔質体には、大きな空孔(セル)サイズ、すなわち、セル数が小さくかつ空孔率が大きいことが望まれている。また、例えばDPF用途では、排気ガスに含まれる煤は触媒と反応して除去されるが、除去しきれなかった比較的大きいサイズの煤をさらに捕獲するための機能を併せ持つことも望まれている。
【0004】
従来、上述した各種のフィルタや触媒担体用部品に使用される金属多孔質体としては、例えば特開昭57−174484号公報(特許文献1)に開示される、多孔質の発泡樹脂フォームに導電処理を施し、NiやCrを電気メッキした後に熱処理して発泡樹脂フォームを除去し、これにより得た金属多孔質体が知られている。
また、例えば特開昭38−017554号公報(特許文献2)に開示される、分散媒に金属粉末やバインダ等を加えたスラリーを、多孔質の発泡樹脂フォームに含浸させて乾燥させ、次いで発泡樹脂フォームを除去して金属粉末を焼結させ、これにより得た金属多孔質体が知られている。
【0005】
また、例えば特開平09−088705号公報(特許文献3)に開示される、金属粉末やバインダ等を加えた分散媒に、さらに発泡剤を加えた発泡性スラリーを用いて形状成形し、次いで発泡剤を発泡させて成形体(グリーン体)を形成して乾燥させ、次いでバインダ等を除去して金属粉末を焼結させ、これにより得た金属多孔質体が知られている。
上記特許文献3には、発泡剤を発泡させて形成した成形体の上に、さらに発泡性スラリーを積層して成形体を多層に形成し、この後に多層とした成形体を一体に焼結して、これにより複数の骨格層を有する金属多孔質体を得ることが開示される。
【0006】
また、一体焼結された複数の骨格層を有する多孔質体としては、例えば特開平04−202069号公報(特許文献4)に開示される、特許文献3と同様な製造方法によって得られるセラミック多孔質体が知られている。また、例えば特開平09−085866号公報(特許文献5)に開示される、フィラーを混入させて空孔率やセル数等を傾斜的に配して形成させた複合材プリフォーム(多孔質体)が知られている。
【0007】
【特許文献1】特開昭57−174484号公報
【特許文献2】特開昭38−017554号公報
【特許文献3】特開平09−088705号公報
【特許文献4】特開平04−202069号公報
【特許文献5】特開平09−085866号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した特許文献1、2が開示する製造方法によれば、セル数が小さくかつ空孔率が大きい骨格層を有する金属多孔質体を形成することができ、例えばDPF等に使用される触媒担体用部品に適用可能である。また、この金属多孔質体に触媒を担持させても除去しきれなかった比較的大きいサイズの煤をさらに捕獲する機能は、上記触媒担体用金属多孔質体よりも小さいセル数の金属多孔質体を別形成し、これを上記触媒担体用金属多孔質体の下流側に配置し、個々の金属多孔質体がずれないよう密着させてネジ止めやクランプあるいは耐熱接着剤等によって機械的に固定することによって実現可能である。
【0009】
しかしながら、複数の金属多孔質体をネジ止めやクランプで固定しているため、例えば自動車では、走行中の振動や衝撃によって金属多孔質体に欠けや割れ等が生じてDPF機能を損ねることがある。あるいは、固定する際に、確実な密着を得るために過分な締結力を負荷することによって金属多孔質体を損傷させることがある。また、耐熱接着剤で固定した場合、高温の排気ガスが通過することによって接着剤自体が脆化し、これにより金属多孔質体が相互に微摺動し、摩滅粉による空孔部の目詰まりや、さらには欠け等を生じてDPF機能を損ねることがある。
【0010】
上述の問題点を解消するためには、個々の金属多孔質体を密着させる機械的な固定を必要としない、複数の骨格層を有する一体に形成された金属多孔質体を使用することが考えられる。上述した特許文献3〜5が開示する製造方法によれば、複数の骨格層を有する一体に形成された金属多孔質体を形成することができる。
【0011】
しかしながら、例えば特許文献3、4が開示するような発泡性スラリーを用いる場合には、触媒担体用部品等に利用可能となるセル数が小さくかつ空孔率が大きい骨格層を有する金属多孔質体を安定量産することは極めて難しく、安定して形成可能な空孔率は30%程度以下、空孔(セル)サイズは0.5mm程度以下でしかなかった。例えば、空孔サイズが0.5mm程度の場合には、骨格部の形成を考慮してセル数に換算すると40個程度であって、これよりも小さなセル数を有する例えばセル数が20個以下の金属多孔質体を安定量産することは困難であった。また、発泡によって空孔サイズを均一化しようとすると、ひとつの骨格層の厚さを5mm程度に抑える必要があった。
【0012】
また、例えば特許文献5が開示するようなフィラー用いて得た複合材プリフォーム(多孔質体)では、フィラーを混入させて空孔率を傾斜的に配することができる。しかしながら、特許文献5の実施例に記載されるように傾斜可能な空孔(セル)サイズはせいぜい2〜10μm程度までであって、また、空孔率もせいぜい40%程度までであった。特許文献5に具体的に開示される、空孔サイズが10μm程度の場合には、骨格部の形成を考慮してセル数に換算すると1000個以上の極めて大きなセル数となっていたのである。
【0013】
本発明の目的は、上述の問題点を解決し、例えばDPF等に使用される触媒担体用部品において、触媒で除去しきれなかった比較的大きいサイズの煤をさらに捕獲するための機能を併せ持つ、一体に形成されたセル数が小さくかつ空孔率が大きい、複数の骨格層を有する金属多孔質体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、セル数の異なる少なくとも2種類の骨格層を組み合せ、金属多孔質体を形づくる一面の側から対抗する他面の側に向かってセル数が大きくなるように一体に焼結形成した金属多孔質体とすることにより、上述の問題点を解決できることを見出し本発明に想到した。
【0015】
すなわち本発明は、空孔率が80%以上であり、セル数5〜20個の第一骨格層と該第一骨格層の1.4倍以上のセル数を有するセル数15〜45個の第二骨格層との少なくとも2種の骨格層を有し、前記骨格層は、前記第二骨格層のセル数以下のセル数を有し、かつ、セル数の大きさの順に配列されて一体に焼結形成されている、複数の骨格層を有する金属多孔質体である。
【0016】
本発明は、望ましくは、第一骨格層の厚さが5〜25mmであり、第二骨格層の厚さが1〜15mmである複数の骨格層を有する金属多孔質体である。
また、望ましくは、ステンレス鋼からなる複数の骨格層を有する金属多孔質体である。
また、より望ましくは、質量%でNi≧10およびCr≧20を含むステンレス鋼からなる複数の骨格層を有する金属多孔質体である。
本発明の金属多孔質体は、前記第一骨格層を触媒担持用とし、前記第二骨格層をフィルタ用とすることができる複数の骨格層を有する金属多孔質体である。
【0017】
また、上述の本発明の金属多孔質体は、例えば、少なくとも2種の互いに異なる骨格層を有する発泡樹脂フォームを用いて、該発泡樹脂フォームの周りに金属粉末と熱可塑性樹脂とを含む骨格を形成し、次いで該骨格の周りに前記金属粉末と前記熱可塑性樹脂とを含む新たな骨格を形成し、さらに該新たな骨格を形成する工程を繰り返して前記発泡樹脂フォームの周りに形成した前記骨格を多層に形成することによって、少なくとも2種の互いに異なる骨格層を有する前駆体を得た後、得られた該前駆体をセル数の大きさの順に互いに密接させて配列し、前記前駆体を互いに密接させたまま加熱して前記発泡樹脂フォームおよび前記熱可塑性樹脂を除去し、次いで前記前駆体を互いに密接させたまま前記金属粉末を焼結させることにより一体に焼結形成する、本発明の製造方法によって製造することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、一体に焼結形成された複数の骨格層を有する金属多孔質体であるため、従来のように金属多孔質体を密着させる機械的な固定を必要としない。したがって、金属多孔質体の有するフィルタ機能や担持機能を利用し、例えば、触媒で除去しきれなかった比較的大きいサイズの煤をさらに捕獲するための機能を併せ持つ金属多孔質体として、高温の排気ガスが通過するDPF等の触媒担体用部品には好適であり、実用化する上で有用な技術となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の複数の骨格層を有する金属多孔質体における重要な特徴は、上述したようにセル数の異なる少なくとも2種類の骨格層を組み合せ、セル数の大きさの順に骨格層が配列されて一体に焼結形成した金属多孔質体としたことである。
【0020】
本発明の金属多孔質体は、空孔率が80%以上であって、複数の骨格層を有しており、それぞれの骨格層は、セル数15〜45個の第二骨格層のセル数以下のセル数を有し、かつ、セル数の大きさの順に配列されて一体に焼結形成されている。よって、本発明の金属多孔質体自体は、空孔率が80%以上でセル数が45個以下の金属多孔質体として形成されている。ここでいうセル数とは、金属多孔質体における各骨格層において代表的に選択される表面や断面において、長さ25mmの任意方向の直線と交差する空孔の平均個数を意味するものである。
なお、空孔率が80%未満では、例えば金属多孔質体の内部を気体や液体が通過する空隙が不十分となって、これを通過する流量が確保できないことがある。また、金属多孔質体に対する所望特性に適応する機械強度が得られる限り、本発明においては空孔率を大きくすることができる。望ましい空孔率は85〜95%である。
【0021】
例えば、金属多孔質体を触媒担体用途やフィルタ用途に使用する場合、セル数を好適に選定することにより、骨格部の機械強度を確保しつつ、触媒を担持するための骨格部の総表面積を確保し、また、異物を捕獲するために好適なメッシュを形成することができる。具体的には、セル数を5個以上として、空孔の大きさ(セルサイズ)が大きくなり過ぎないようにし、骨格部の総表面積を十分に確保する。また、セル数を45個以下として、空孔の大きさが小さくなり過ぎないようにして通気性を確保する。
【0022】
また、本発明の金属多孔質体では、上述した少なくとも2種類の骨格層におけるひとつの骨格層を、第一骨格層として、セル数5〜20個の骨格層とする。より望ましいセル数は5〜10個である。例えば金属多孔質体を触媒担体用途に使用する場合、セル数が5個未満では骨格部の総表面積が不足して十分な量の触媒を担持できないことがある。また、セル数が20個を超えると空孔の大きさが小さくなり過ぎて触媒が担持し難くなることがある。このように空孔率が十分に大きい骨格層において、セル数を調整することにより、触媒を担持させる骨格部に十分な表面積を確保できるので、触媒と反応物質とを十分に反応させることができる、触媒担体機能を有することができる。
【0023】
また、本発明では、上述した少なくとも2種類の骨格組織層におけるひとつの骨格層を第二骨格層として、セル数が15〜45個の骨格層とする。このとき本発明においては、第二骨格層のセル数を上述した第一骨格層の1.4倍以上のセル数とする。これにより、上述したように第一骨格層に触媒担体機能を持たせた場合の後段として、第二骨格層にフィルタ機能を持たせることができる。この第二骨格層において、より望ましいセル数は35〜40個である。また、望ましくは第二骨格層のセル数を第一骨格層の2.0倍以上、より望ましくは2.5倍以上のセル数とすることである。
【0024】
例えば金属多孔質体をフィルタ用途に使用する場合、上述の第二骨格層のセル数が15個未満ではフィルタメッシュが大きすぎて異物の捕獲ができないことがある。また、セル数が45個を超えると空孔の大きさが小さくなり過ぎて異物の目詰まりによる機能低下を引き起こすことがある。このように空孔率が十分に大きい骨格層において、上述の第一骨格層とは異なるようにセル数を適度に大きくすることにより、例えば、圧力損失を抑えながらトラップ用メッシュを形成できるので、触媒と反応しきれずに除去しきれなかった排気ガスに含まれる煤のうち、比較的大きいサイズの煤をさらに捕獲できる、フィルタ機能を有することができる。
【0025】
また、本発明においては、セル数の大きさの順に骨格層を配列して一体に焼結形成している。この骨格層の配列は、上述した第一骨格層と第二骨格層を含むすべての骨格層を対象とする。このように構成することにより、セル数の小さい骨格層では触媒を担持させ、セル数の大きい骨格層では除去しきれなかった煤を捕獲させるといった、触媒担体機能とフィルタ機能とを兼ね備えた金属多孔質体を得ることができる。
【0026】
例えば、本発明の金属多孔質体をDPFに使用する場合、金属多孔質体のセル数の小さい骨格層の側からセル数の大きい骨格層の側へ向かって排気ガスを通過させることにより、上述の触媒担体機能と捕獲機能とを有効に発揮することができる。また、例えば、排気ガス等の気体や液体が通過する場合の流量や圧力損失は、最もセル数の大きい骨格層のセル数や骨格層の厚さを適宜選定することにより簡易に調整することができる。
【0027】
ここで、本発明でいうセル数とは、一般に、多孔質体の空孔数を示す指標であって、多孔質体の構造を識別するために使用され、多孔質体において任意方向に長さ25mmの直線を仮想し、この直線と交差する空孔の平均個数として定義される。
また、本発明でいう空孔率とは、一般に、多孔質体の密度(質量/体積)と多孔質体を形成する材料の比重とで決まり、多孔質体における空間部分の構成比を示す指標である。なお、空孔率と上述のセル数とは、例えばセル数が同一の場合、空孔率が小さくなると骨格部分が太くなるといった関係となる。
【0028】
以下、本発明において望ましい構成を説明する。
本発明の金属多孔質体においては、上述した第一骨格層の厚さを5〜25mmとすることが望ましい。例えば金属多孔質体を触媒担体用途に使用する場合、5mm未満では触媒の担持量がやや不足することがあり、また、25mmを超えると圧力損失や通過流量にやや影響を及ぼすことがある。よって、十分な量の触媒を担持しつつ通過流量を確保し、より有効な触媒担体機能を発揮させるために、望ましくは5〜25mmとする。
【0029】
また、上述した第二骨格層の厚さを1〜15mmとすることが望ましい。例えば金属多孔質体をフィルタ用途に使用する場合、1mm未満では異物を捕獲する空間距離がやや不足することがあり、また、15mmを超えると確保した異物による目詰まりを生じやすくなって圧力損失や通過流量にやや影響を及ぼすことがある。よって、異物を捕獲する空間距離を確保しつつ通過流量を確保し、より有効なフィルタ機能を発揮させるために、望ましくは1〜15mmとする。
【0030】
また、本発明の金属多孔質体にはステンレス鋼を用いることが望ましい。ステンレス鋼は、一般に金属粉末として入手し易く比較的安価な材料である。また、種類も豊富であって、用途に応じて適当な耐食性や耐熱性を有する材質を容易に選択することができる。
また、例えば、高温の排気ガスを通過させるDPF用途で使用する場合には、特段に耐熱性や耐酸化性に優れる、質量%でNi≧10およびCr≧20を含むSUS310S(JIS−G4303)等のステンレス鋼や、SCH13(JIS−G5122)等の耐熱鋼を使用することが望ましい。上述したSUS310SやSCH13は、1988年にWCO(World Customs Organization)にて、質量%でCrを10.5%以上含む合金鋼と定義されたステンレス鋼に含まれるものである。
【0031】
次に、上述した本発明の金属多孔質体について望ましい製造方法を説明する。本発明の金属多孔質体は、例えば、少なくとも2種の互いに異なる骨格層を有する発泡樹脂フォームを用いて、該発泡樹脂フォームの周りに金属粉末と熱可塑性樹脂とを含む骨格を形成し、次いで該骨格の周りに前記金属粉末と前記熱可塑性樹脂とを含む新たな骨格を形成し、さらに該新たな骨格を形成する工程を繰り返して前記発泡樹脂フォームの周りに形成した前記骨格を多層に形成することによって、少なくとも2種の互いに異なる骨格層を有する前駆体を得た後、得られた該前駆体をセル数の大きさの順に互いに密接させて配列し、前記前駆体を互いに密接させたまま加熱して前記発泡樹脂フォームおよび前記熱可塑性樹脂を除去し、次いで前記前駆体を互いに密接させたまま前記金属粉末を焼結させることにより一体に焼結形成する、本発明の製造方法が望ましい。
【0032】
上述した本発明の製造方法について、以下、より具体的に製造工程に従って説明する。
まず、分散媒と、金属粉末と、および分散媒に不溶性の熱可塑性樹脂粉末とを含むスラリーを準備する。スラリーとは、液体に微細な固体を分散させた懸濁液のことで、一般にポンプ移送できる程度の流動性を有する混合体の呼称である。
次いで、金属多孔質体に所望する空孔率とセル数とに適する、例えば上述した第一骨格層に適する発泡樹脂フォームを準備する。発泡樹脂フォームとは例えばスポンジ状の表面および内部に多数の空孔を有する樹脂製固体である。この発泡樹脂フォームの周りに上述のスラリーを塗布する。そして、塗布したスラリーから分散媒を蒸発させることによって熱可塑性樹脂粉末を融着させて金属粉末の相互に架橋させ、発泡樹脂フォームの周りに金属多孔質体の原骨格を形成する。
【0033】
さらに、上述の原骨格の周りに再びスラリーを塗布した後、再塗布したスラリーから分散媒を蒸発させ、熱可塑性樹脂粉末を融着させて金属粉末の相互に架橋させ、原骨格の上に新たな骨格を形成する。そして、金属多孔質体に所望する機械強度が確保できるまで、骨格の上に新たな骨格を形成する工程を繰り返して骨格部を多層に形成し、金属多孔質体における上述した第一骨格層の素材となる第一前駆体を得る。
【0034】
一方、上述した製造工程によって、同様に、金属多孔質体における上述した第二骨格層の素材となる第二前駆体を形成する。そしてさらに、所望する金属多孔質体に必要な複数の骨格層の素材となる複数の前駆体を、同様にして形成する。
この後に、得られた上述の複数の前駆体を、セル数の大きさの順に配列して密接させ、複数の前駆体を密接させた状態で一体として加熱し、これにより発泡樹脂フォームおよび熱可塑性樹脂を除去する。次いで、密接させた状態で一体としたままで金属粉末を焼結させることによって、一体に焼結形成された複数の骨格層を有する金属多孔質体を得ることができる。
このように、本発明の複数の骨格層を有する金属多孔質体は、一例として説明した上述のような本発明の製造方法によって製造することができる。
【0035】
また、金属粉末を焼結させるにおいては、(タップ密度/真密度)が0.5程度の値の金属粉末を焼結させるとき、一般には概ね2%〜20%の収縮を生じる。このため、焼結された金属多孔質体の形状寸法は、使用した発泡樹脂フォームの形状寸法よりも縮小される。具体的には、空孔は縮小し、セル数は増加することとなる。例えば、セル数30の発泡樹脂フォームを使用し、焼結時に20%の収縮を生じた場合、セル数が37〜38個である金属多孔質体となる。
【実施例】
【0036】
本発明の金属多孔質体の一例を以下の製造手順によって製造した。
まず、分散媒として純水を、金属粉末としてオーステナイト系ステンレス鋼SUS310Sの平均粒径7μm粉末を、熱可塑性樹脂粉末として平均粒径0.25μmのアクリル酸エステル共重合体を分散させたエマルジョン液であるLDM7512(ニチゴー・モビニール株式会社製、樹脂固形分50%)を使用し、質量比率で金属粉末71%、熱可塑性樹脂粉末21%、残部純水として十分に混合して攪拌し、金属粉末および熱可塑性樹脂粉末が分散媒にほぼ均一に分散するスラリーを得た。
【0037】
【表1】

【0038】
次に、発泡樹脂フォームとして表1に示す骨格層を有する発泡ウレタンフォーム(以下、発泡ウレタンという)A〜Eを使用し、上述の工程で得たスラリーを発泡ウレタンの周りおよび内部に十分に塗布浸透させた。そして、平行ローラーを用いた加圧装置によって余剰のスラリーを発泡ウレタンから加圧除去した後に、発泡ウレタンを槽内温度80℃の温風循環式乾燥機内に20分間静置して純水を蒸発させた。これにより、アクリル酸エステル共重合体粉末を融着させてSUS310S粉末の相互に架橋させて、発泡ウレタンの周りに1層の骨格を形成させた。
次いで、1層の骨格を有する発泡ウレタンを使用し、この既存の1層の骨格の上に、上述と同様な製造方法を用いて新たな骨格を形成することによって骨格を2層に形成した。そして、この工程を繰り返すことにより、骨格が6層となった金属多孔質体の素材となる前駆体を得た。
【0039】
【表2】

【0040】
この後、得られた6層の骨格を有する前駆体を表2に示すように組み合せて、例えば金属多孔質体P6ならばセル数の大きさ順(発泡ウレタンB、C、Eの順)に接触させて配列して、水素ガス雰囲気中の焼結炉に静置し、昇温速度60℃/hで600℃に昇温して加熱し、2h保持した。そして、この工程により発泡ウレタンおよびアクリル酸エステル共重合体からなる粘着層を気化あるいは分解して除去した。
これに引き続き、真空雰囲気中の焼結炉を使用し、昇温速度150℃/hで1250℃に昇温して加熱し、2h保持し、SUS310S粉末を焼結させて表2に示す複数の骨格層を有する本発明の金属多孔質体P1〜P6を得た。
【0041】
上述の製造手順によって得られた本発明の実施例となる金属多孔質体P1〜P6の外観写真を図1〜図6に示す。写真を使用するのは、本発明の金属多孔質体における複数の骨格層や、これら骨格層が一体に焼結形成されている構造をより明確に示すためである。
いずれの金属多孔質体P1〜P6も、少なくとも2種の骨格層を有しており、一体に焼結形成された金属多孔質体として形成することができた。具体的には、金属多孔質体P1〜P5は、いずれも2種の第一骨格層(1)および第二骨格層(2)を有する。そして、金属多孔質体P6は、さらに中間層(3)を有した3種の骨格層からなる金属多孔質体である。また、いずれの金属多孔質体P1〜P6も、形成されたそれぞれの骨格層は、第二骨格層(2)のセル数以下となっていた。なお、各々の骨格層の空孔率やセル数、あるいは骨格層の厚さについては表2に示す通りであった。
また、すべての金属多孔質体P1〜P6は、目視によっては金属骨格の欠損や割れ、空孔の目詰まり等の不具合が認められなかった良好な金属多孔質体として形成されていた。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の一例となる2層の骨格層を有する金属多孔質体の外観図である。
【図2】本発明の一例となる2層の骨格層を有する金属多孔質体の外観図である。
【図3】本発明の一例となる2層の骨格層を有する金属多孔質体の外観図である。
【図4】本発明の一例となる2層の骨格層を有する金属多孔質体の外観図である。
【図5】本発明の一例となる2層の骨格層を有する金属多孔質体の外観図である。
【図6】本発明の一例となる3層の骨格層を有する金属多孔質体の外観図である。
【符号の説明】
【0043】
(1)第一骨格層、(2)第二骨格層、(3)中間層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空孔率が80%以上であり、セル数5〜20個の第一骨格層と該第一骨格層の1.4倍以上のセル数を有するセル数15〜45個の第二骨格層との少なくとも2種の骨格層を有し、前記骨格層は、前記第二骨格層のセル数以下のセル数を有し、かつ、セル数の大きさの順に配列されて一体に焼結形成されている、ことを特徴とする複数の骨格層を有する金属多孔質体。
【請求項2】
第一骨格層の厚さが5〜25mmであり、第二骨格層の厚さが1〜15mmであることを特徴とする請求項1に記載の複数の骨格層を有する金属多孔質体。
【請求項3】
ステンレス鋼からなることを特徴とする請求項1または2に記載の複数の骨格層を有する金属多孔質体。
【請求項4】
質量%でNi≧10およびCr≧20を含むステンレス鋼からなることを特徴とする請求項3に記載の複数の骨格層を有する金属多孔質体。
【請求項5】
前記第一骨格層を触媒担持用とし、前記第二骨格層をフィルタ用とすることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の複数の骨格層を有する金属多孔質体。
【請求項6】
少なくとも2種の互いに異なる骨格層を有する発泡樹脂フォームを用いて、該発泡樹脂フォームの周りに金属粉末と熱可塑性樹脂とを含む骨格を形成し、次いで該骨格の周りに前記金属粉末と前記熱可塑性樹脂とを含む新たな骨格を形成し、さらに該新たな骨格を形成する工程を繰り返して前記発泡樹脂フォームの周りに形成した前記骨格を多層に形成することによって、少なくとも2種の互いに異なる骨格層を有する前駆体を得た後、得られた該前駆体をセル数の大きさの順に互いに密接させて配列し、前記前駆体を互いに密接させたまま加熱して前記発泡樹脂フォームおよび前記熱可塑性樹脂を除去し、次いで前記前駆体を互いに密接させたまま前記金属粉末を焼結させることにより一体に焼結形成することを特徴とする複数の骨格層を有する金属多孔質体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−88461(P2008−88461A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−267828(P2006−267828)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(305022598)株式会社日立メタルプレシジョン (69)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】