説明

視界不良時における航空機着陸支援装置

【課題】 本発明の課題は、視界不良時の航空機の着陸の際、計器に頼らざるを得ない操縦士の不安を、有視界時と同様な滑走路進入時のシュミレーション映像を操縦士の前方に表示して解消する視界不良時の航空機着陸支援装置を提供することにある。
【解決手段】 有視界時にコックピットから看視される滑走路進入時の光景の三次元CGでなるシミュレーション映像を表示するシミュレーション映像表示装置と、前記シミュレーション映像を航空機の位置、高度、滑走路への進入角度、速度、機体の傾き、あるいは進入時刻など航空機の時々刻々の現状に対応して変化するようGPS衛星からの位置情報、搭載機器からの飛行情報等によって制御するシュミレーション映像制御装置とからなり、かつ前記シミュレーション映像表示装置が、シミュレーション映像が表示されない場合には透明になる液晶パネルで構成された視界不良時の航空機着陸支援装置による。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
濃霧や豪雨などの視界不良時に航空機の着陸に際し、計器に頼らざるを得ない操縦士の不安を、有視界時と同様な滑走路進入時のシュミレーション映像をシミュレーション映像表示装置に表示して解消する視界不良時の航空機着陸支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機の運航において操縦士の緊張が最も高まるのは離着陸時といわれている。特に着陸時、濃霧や豪雨に見舞われたときには、操縦士の視界は閉ざされ、空港の航空機誘導管制システムの誘導とコックピットの航空機操縦支援用電子装置に表示される図形及び英数字によって機体の姿勢、機首方向、速度、高度、下降率などの情報を得て対応するしかない。しかも、空港には着陸するか否かを決定する高度が定められており、この高度を横切るとき操縦士は滑走路を視認して着陸を続行するか中断するかの決定を行わねばならないことになっているが、滑走路を視認できるのがその高度寸前ということもあり得る。したがって、有視界時に滑走路を視認しつつ着陸操作を行うのと異なり、強度の緊張を強いられることになる。
そこで視界が閉ざされたとき、着陸態勢にある航空機のコックピットから有視界時に看視できる光景を例えば航空機に搭載した赤外線センサやミリ波レーダーで捕らえて操縦士の視野内に、コックピットのフロントガラス面に看視される実際の光景と重ね合わせ表示させるシステムが使用されている。これは視界が不十分な場合、特に霧の中にあるときに直接の視界を補足するためであり、例えばコリメータによって操縦士の視野内にあるガラスパネル上に投影するなどして表示される。
この赤外線センサやミリ波レーダーで捕らえられた光景の表示は、有視界時はもとより前記着陸の是非を決定する高度を横切る際には、遅滞なく絶たれなくてはならないが、一般的にコリメータによって投影される映像は高輝度であり、その表示が絶たれてもフロントガラス外の光景に目が慣れるまでにある程度の時間を必要とし、着陸の是非の判断が遅れるおそれがある。といって早期に前記赤外線センサやミリ波レーダーで捕らえた映像の操縦士への表示を絶つと、操縦士から着陸に必要な情報を奪ってしまう危険がある。
これを解消して着陸決定高度を横切ったとき赤外線センサやミリ波レーダーで捕らえられた光景の表示を的確に絶つ装置に関する発明が、特開平7−323899号公報に開示されている。
【特許文献1】特開平7−323899号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記背景技術に記載したシステムも、航空機に搭載された赤外線センサやミリ波レーダーが、着陸に必要な情報が得られる光景を操縦士に供給し得ることを条件としており、それが満足されない場合には当該空港への着陸を断念し他の空港への着陸を余儀なくされることになる。
また、赤外線センサやミリ波レーダーで捕らえられ、コリメータ等によって操縦士の視野内にあるガラスパネル上に投影され映像情報は、可視光線から得られる情報とは異なり、赤外線センサーやミリ波レーダーが捕らえた画像情報の平均輝度、コントラストなどの違いを識別して得られる、滑走路のビーコン・ライティング、ペイント・マーク、コンクリートと草地の境界等であり、有視界時に操縦士によって直接見られる光景と等価としてはいるが、操縦士が得る情報量には大差があるのは否めない。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、上記課題を下記の手段によって解決した。
(1) 視界不良時の航空機着陸支援装置であって、有視界時にコックピットから看視される滑走路進入時の光景のシミュレーション映像を操縦士に表示するためにコックピットの前方に配設されたシミュレーション映像表示装置と、航空機の位置、高度、滑走路への進入角度、速度、機体の傾き、あるいは進入時刻など航空機の時々刻々の現状に対応して前記シミュレーション映像を実際に看視される光景に合致するよう制御するシュミレーション映像制御装置とからなることを特徴とする視界不良時の航空機着陸支援装置。
【0005】
(2)シミュレーション映像表示装置が、シミュレーション映像が表示されない場合には透明になる液晶パネルで構成されてなることを特徴とする前項(1)に記載の視界不良時の航空機着陸支援装置。、
【0006】
(3)シミュレーション映像表示装置が、コックピットの操縦士席及び副操縦士席の前方にそれぞれ配設されてなり、視界不良時には滑走路進入時の光景のシミュレーション映像を表示し、有視界時には前記シミュレーション映像表示装置の透明液晶パネルを透過してフロントガラス外の光景を看視可能にしてなることを特徴とする前項(1)又は(2)に記載の視界不良時の航空機着陸支援装置。
【0007】
(4)シミュレーション映像表示装置が、コックピットの操縦士席及び副操縦士席のフロントガラス面にそれぞれ配設されてなり、視界不良時には滑走路進入時の光景のシミュレーション映像を表示し、有視界時には前記シミュレーション映像表示装置の透明液晶パネルを透過してフロントガラス外の光景を看視可能にしてなることを特徴とする前項(1)又は(2)に記載の視界不良時の航空機着陸支援装置。
【0008】
(5)シュミレーション映像制御装置が、GPS衛星からの位置情報、搭載機器から得られる航空機の姿勢、高度、進行速度などの飛行情報、空港の管制システムから得られる進入路に関する情報によってシミュレーション映像の三次元処理を行うものであることを特徴とする前項(1)〜(4)のいずれか1項に記載の視界不良時の航空機着陸支援装置。
【0009】
(6)シミュレーション映像表示制御装置が、当該航空機が空港進入決定高度に達した際に、画像表示装置へのシミュレーション映像の供給を絶つよう制御してなることを特徴とする前項(1)〜(5)のいずれか1項に記載の視界不良時の航空機着陸支援装置。
【0010】
(7)シミュレーション映像表示装置に表示されるシミュレーション映像が、有視界時に当該空港に着陸する際、着陸時の機体の位置、姿勢、時刻等によってコックピットから操縦士、及び副操縦士がそれぞれ直接目にする光景の実写を基に構成された三次元CGであることを特徴とする前項(1)〜(6)のいずれか1項に記載の視界不良時の航空機着陸支援装置。
【0011】
(8)シミュレーション映像の三次元CGを表示するためのシミュレーション映像三次元CG用データが、離着陸する空港ごと、また昼間や夜間等の時間帯ごとに記憶媒体に記録されてなり、前記記憶媒体を選択し交換することによって、当該航空会社の航空路のすべての空港に適用できることを特徴とする前項(1)〜(7)のいずれか1項に記載の視界不良時の航空機着陸支援装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明によって下記の効果が発揮される。 〈1〉視界不良時に、有視界時にコックピットから看視される時々刻々に変化する滑走路進入時の光景のシミュレーション映像を、航空機の位置、高度、滑走路への進入角度、速度、機体の傾き、あるいは進入時刻など航空機の現状に対応してコックピットの前方に配設されたシミュレーション映像表示装置に表示するので、有視界時と同様な感覚が保たれ安心して着陸操作が行える。
〈2〉シミュレーション映像表示装置が、シミュレーション映像が表示されない場合には透明になる液晶パネルで構成されているので、有視界時には前記シミュレーション映像表示装置の透明液晶パネルを透過してフロントガラス外の光景を看視でき操縦士の視野を妨げることなく、安全な着陸操作を可能にする。
〈3〉シミュレーション映像表示装置が操縦士席と副操縦士席の前方にそれぞれ配設され、それぞれのシミュレーション映像表示装置に操縦士席、副操縦士席から有視界時に看視される光景と等価なシミュレーション映像を表示するので、操縦士、副操縦士とも有視界時と同様な感覚で安心して着陸操作が行える。
〈4〉また、当該航空機が空港進入決定高度に達した際に、シミュレーション映像表示装置へのシミュレーション映像の入力を絶つので、空港進入決定高度での視界を操縦士が直接確認でき、着陸するか否かの判断が的確に行える。
〈5〉シミュレーション映像を表示するためのシミュレーション映像三次元CG用データを、離着陸する空港ごと、また昼間や夜間等の時間帯ごとに記憶媒体に記録しておけるので、前記記憶媒体を選択し交換することによって、当該航空会社の航空路のすべての空港に適用できる視界不良時の航空機着陸支援装置とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の視界不良時の航空機着陸支援装置の実施の形態を、実施例の図に基づいて説明する。
図1は本発明の視界不良時の航空機着陸支援装置の構成説明図、図2はシミュレーション映像表示装置の作用の説明図である。
図において1、1’はシミュレーション映像表示装置、2はシミュレーション映像の入力装置、3はシミュレーション映像制御装置、4はシミュレーション映像三次元CG用データ、5はGPS衛星からの位置情報、6は搭載機器からの飛行情報、7は空港管制からの進入路関連情報であり、10はコックピットのフロントガラス、11はオートフライト計器パネルを示す。
【0014】
本発明の視界不良時の航空機着陸支援装置は、図1に示すように、有視界時にコックピットから看視される滑走路進入時の光景のシミュレーション映像を操縦士に表示するためにコックピットの前方に配設されたシミュレーション映像表示装置1と、GPS衛星から得られる航空機の現在位置の情報5、搭載機器から得られる高度、滑走路への進入角度、速度、機体の傾き、あるいは進入時刻などの飛行情報6、及び空港管制から得られる滑走路の状態、天候、視界距離などの進入路関連情報7に基づいて航空機の時々刻々の状況に対応してシミュレーション映像三次元CG用データ4を実際に看視される光景に合致するよう制御して取り出すシュミレーション映像制御装置3と、前記シミュレーション映像制御装置3で制御して取り出されたシミュレーション映像を前記シミュレーション映像表示装置1に入力するためのシミュレーション映像入力装置2とで構成されている。
そして、前記シミュレーション映像は、有視界時に当該空港に着陸する際、着陸時の機体の位置、姿勢、時刻等によってコックピットから操縦士、及び副操縦士がそれぞれ直接目にする光景の実写を基に構成された三次元CGで構成されたものであり、視界不良時の着陸の際に、同時刻、同進入経路において時々刻々変化する有視界時の光景を、前記シミュレーション映像制御装置3によってシミュレーション映像表示装置1に表示可能にしてなるものである。
【0015】
本発明の視界不良時の航空機着陸支援装置のシミュレーション表示装置は、同装置にシミュレーション映像が入力されていない場合には透明になる液晶パネルからなるので、有視界時には図2(a)に示すように透明液晶パネルを透過してコックピットのフロントガラス外の光景が看視でき、また視界不良時には図2(b)に示すようにシミュレーション映像を入力・表示することができる。したがって、視界不良時でも操縦士及び副操縦士にあたかもフロントガラス外に滑走路進入時の光景を看視しているような感覚をもたらし、安心して着陸操作が行えることになる。
また、視界不良時の着陸の際にも、当該航空機が空港進入決定高度に達したときには、シミュレーション映像表示装置1へのシミュレーション映像の供給を絶つので、空港進入決定高度での視界を操縦士が直接確認でき、着陸するか否かの判断が的確に行えるようになる。
【0016】
さらに、シミュレーション映像を表示するためのシミュレーション映像三次元CG用データを、離着陸する空港ごと、昼間や夜間等の時間帯ごとに記憶媒体に記録しておくことにより、前記記憶媒体を選択し交換することによって、当該航空会社の航空路のすべての空港に適用できる視界不良時の航空機着陸支援装置とすることができる。
【0017】
さらにまた、シミュレーション映像表示装置1に、航空機操縦支援用電子装置に表示される図形及び英数字を重ね合わせて表示することも好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の視界不良時の航空機着陸支援装置の構成説明図
【図2】シミュレーション映像表示装置の作用の説明図
【符号の説明】
【0019】
1、1’: シミュレーション映像表示装置
2: シミュレーション映像入力装置
3: シミュレーション映像制御装置
4: シミュレーション映像三次元CG用データ
5: GPS衛星からの位置情報
6: 搭載機器からの飛行情報
7: 空港管制からの進入路関連情報
10: コックピットのフロントガラス
11: オートフライト計器パネル


【特許請求の範囲】
【請求項1】
視界不良時の航空機着陸支援装置であって、有視界時にコックピットから看視される滑走路進入時の光景のシミュレーション映像を操縦士に表示するためにコックピットの前方に配設されたシミュレーション映像表示装置と、航空機の位置、高度、滑走路への進入角度、速度、機体の傾き、あるいは進入時刻など航空機の時々刻々の現状に対応して前記シミュレーション映像を実際に看視される光景に合致するよう制御するシュミレーション映像制御装置とからなることを特徴とする視界不良時の航空機着陸支援装置。
【請求項2】
シミュレーション映像表示装置が、シミュレーション映像が表示されない場合には透明になる液晶パネルで構成されてなることを特徴とする請求項1に記載の視界不良時の航空機着陸支援装置。、
【請求項3】
シミュレーション映像表示装置が、コックピットの操縦士席及び副操縦士席の前方にそれぞれ配設されてなり、視界不良時には滑走路進入時の光景のシミュレーション映像を表示し、有視界時には前記シミュレーション表示装置の透明液晶パネルを透過してフロントガラス外の光景を看視可能にしてなることを特徴とする請求項1又は2に記載の視界不良時の航空機着陸支援装置。
【請求項4】
シミュレーション映像表示装置が、コックピットの操縦士席及び副操縦士席のフロントガラス面にそれぞれ配設されてなり、視界不良時には滑走路進入時の光景のシミュレーション映像を表示し、有視界時には前記シミュレーション表示装置の透明液晶パネルを透過してフロントガラス外の光景を看視可能にしてなることを特徴とする請求項1又は2に記載の視界不良時の航空機着陸支援装置。
【請求項5】
シュミレーション映像制御装置が、GPS衛星からの位置情報、搭載機器から得られる航空機の姿勢、高度、進行速度などの飛行情報、空港の管制システムから得られる進入路に関する情報によってシミュレーション映像の三次元処理を行うものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の視界不良時の航空機着陸支援装置。
【請求項6】
シミュレーション映像表示制御装置が、当該航空機が空港進入決定高度に達した際に、シミュレーション映像表示装置へのシミュレーション映像の供給を絶つよう制御してなることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の視界不良時の航空機着陸支援装置。
【請求項7】
シミュレーション映像表示装置に表示されるシミュレーション映像が、有視界時に当該空港に着陸する際、着陸時の機体の位置、姿勢、時刻等によってコックピットから操縦士、及び副操縦士がそれぞれ直接目にする光景の実写を基に構成された三次元CGであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の視界不良時の航空機着陸支援装置。
【請求項8】
シミュレーション映像の三次元CGを表示するためのシミュレーション映像三次元CG用データが、離着陸する空港ごと、また昼間や夜間等の時間帯ごとに記憶媒体に記録されてなり、前記記憶媒体を選択し交換することによって、当該航空会社の航空路のすべての空港に適用できることを特徴とする請求項1〜7に記載の視界不良時の航空機着陸支援装置。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−56046(P2008−56046A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−234198(P2006−234198)
【出願日】平成18年8月30日(2006.8.30)
【出願人】(506080957)
【Fターム(参考)】