説明

視覚ノイズ発生装置

【課題】人の視点固着を解消させる視覚ノイズ発生装置を提供すること。
【解決手段】複数の光源(例えばLED)から成る光源群と、この光源群の視者に確率共振現象を生じさせる視覚ノイズが発生するように上記複数の光源の各々をランダムなタイミングでランダムな輝度で点灯制御する制御手段とを有する視覚ノイズ発生装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、人に視覚的刺激を与える視覚ノイズ発生装置に係り、特に、人の視野が狭く固定されてしまういわゆる視点固着を解消させる視覚ノイズ発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、人に視覚的刺激を与える装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1には、車両において、人の網膜の中心位置付近の臨界融和周波数と対応した周波数で点滅又は明滅する画像をフロントウィンドシールド上に表示する装置が開示されている。
【特許文献1】特開2003−48453号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1記載の従来装置によれば、運転者が前方を見ているときには上記画像がちらつきのない画像として視認され、運転者が脇見をしているときには上記画像がちらついた画像として視認されるため、運転者に脇見をしていることを認識させることができるとされているが、たとえちらついた画像を視認したとしても、脇見をしていると認識するか否かについては個人差が生じる。
【0005】
また、上記特許文献1記載の従来装置は、もっぱら脇見運転の防止を狙いとするものであって、例えば図1に示すように、車両Vの運転者Dの視点が前景内の一点(例えば、思わず視線が引かれてしまうような広告・看板(例えば「△△が50%OFF!」など)といった誘目性の高い物体、など;図中、星印で表す)に対して固着されて、他の領域への注意力が低下するおそれがある、という問題に対しては何ら対策とはならない。このように運転者Dの注意が前景内の一点に固着された状態では、例えば図中に示すように、先行車Fのストップランプ点灯や歩行者Pの道路への進入などについて発見が遅れる可能性がある。
【0006】
本発明はこのような課題を解決するためのものであり、視覚ノイズを利用して人の視点固着を解消させる視覚ノイズ発生装置を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明の一態様は、人に視覚的刺激を与える視覚ノイズ発生装置であって、複数の光源(例えばLED)から成る光源群と、この光源群の視者に確率共振現象(Stochastic Resonance Phenomenon)を生じさせる視覚ノイズが発生するように上記複数の光源の各々を点灯制御する制御手段とを有する視覚ノイズ発生装置である。
【0008】
上記一態様において、上記複数の光源は、例えば横一列に配置されて上記光源群を形成する。
【0009】
また、上記一態様において、上記制御手段は、上記光源群の視者に確率共振現象を生じさせる視覚ノイズが発生するように、上記複数の光源の各々を、例えば、ランダムなタイミングで、ランダムな輝度で点灯させる。
【0010】
上記一態様によれば、上記光源群の視者に確率共振現象を生じさせるような視覚ノイズが与えられることによって、視者の視覚能力が活性化されて視野が広がり、当該光源群に視線が合っているときであっても、視者はより離れたところの様子も認識できるようになる。
【0011】
したがって、上記一態様において、上記光源群を、例えば、車両を運転中の運転者の視界に入るように、当該車両の車室内に(例えば、フロントガラス周辺や、車両運転者が視線を固着してしまいがちな例えばナビゲーションシステムのディスプレイ周りなどに)設置しておけば、当該光源群から発生した視覚ノイズが視野に入った運転者の視野を広げることができ、運転者が誘目性の高い周辺物に視線が引かれてしまっている場合であってもより広い領域に注意を払うことができるようになる。
【0012】
これにより、車両運転者が誘目性の高い物へ視線が奪われ、固着してしまっている場合であっても、例えば先行車や道路に侵入してくる歩行者などの存在を認識しやすくなり、運転者はそのような注意を払うべき物の存在を認識したときには容易に視線先を切り替えることができるようになるため、注意固着が容易に解消され得る状態を創出することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、人の視点固着を解消させる視覚ノイズ発生装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、添付図面を参照しながら実施例を挙げて説明する。
【0015】
なお、以下に説明する実施例においては、一例として、本発明に係る視覚ノイズ発生装置を車両に適用した場合を例に挙げる。
【実施例】
【0016】
以下、図2〜8を用いて、本発明の一実施例に係る視覚ノイズ発生装置について説明する。本実施例では、車両運転者に視覚ノイズを与えて確率共振現象を生じさせ、運転者の視点固着の解消を図る。
【0017】
確率共振現象とは、非線形な系において、信号に適切なノイズを重畳することによって微弱な信号を検出する能力が上昇する現象である。ここで、確率共振現象を引き起こすためのノイズは、特定の周波数帯域において他の帯域よりも極端に高い強度を示すことのないランダムな広帯域ノイズである必要であることが判っている。
【0018】
確率共振現象の現象そのものについては、例えば、特開2002−221546号公報や、米国特許第6,285,249号明細書などにおいても紹介されている。
【0019】
まず、図2を用いて、本実施例に係る視覚ノイズ発生装置が依拠する現象・原理について、本願発明者らが行った実験を説明する。
【0020】
実験では、まず被験者(視者)に前方画面Dの中央に設けられた注視点A(図中、×印で表す)に視線を固定してもらい、その状態のままで注視点Aの左右からターゲットT(図中、○印で表す)を水平に注視点Aへ向けて移動させ、ターゲットTが注視点Aにどこまで近づいた段階で被験者がターゲットTの存在を認識できたかを観察した。
【0021】
そして、このとき、図2(b)に示すように、注視点AとターゲットTとの間に横一列に水平に並べられた線状の光源群Nを用意し、これら光源を肉眼でははっきりとは見えない程度の微弱なレベルで点灯させた。ここで、各光源は、ランダムなタイミングで、ランダムな輝度で点灯されて視覚ノイズを発生させ、被験者に確率共振現象が生じるようにした。
【0022】
このような状態で、図2(b)に示すように視覚ノイズを与えた場合と、図2(a)に示すように視覚ノイズを与えない場合とで被験者によってターゲットTが認識されたときの注視点AからターゲットTまでの距離を比較した。
【0023】
すると、実験では、図2(b)に示すようにして光源群Nにより確率共振現象を生じさせる視覚ノイズを与えると、注視点Aからより離れた位置で被験者がターゲットTの存在を認識することができるようになることが確認された。すなわち、視覚ノイズを与えて確率共振現象を生じさせることにより、注視点Aに視線を固定している視者の視野を広げることができることが確認された。
【0024】
本実施例は、このような実験結果を利用して、本発明に係る視覚ノイズ発生装置を車両に適用し、車両運転者の視野が広がり、注意固着が適切に解消されるように視覚ノイズを発生させるものである。
【0025】
図3は、本実施例に係る視覚ノイズ発生装置300の概略構成図である。
【0026】
視覚ノイズ発生装置300は、横一例に並べられた複数の光源301から成る光源群302と、この光源群302を構成する個々の光源301へ制御信号を供給し、点灯制御する通電制御部303とを有する。
【0027】
本実施例において、光源301は、典型的には、例えばLED(Light Emitting Diode;発光ダイオード)である。
【0028】
通電制御部303は、光源群302の各光源301に1〜nのチャンネル(CH)番号を付し、各チャンネルにランダムな階調値を割り当て、光源群302へ出力する。これをサンプリング周波数ごとに繰り返し、光源群302が点灯する光源301及び点灯時の輝度がランダムに切り替わる点滅光列となって光源群302が視野に入っている視者に確率共振現象を生じさせる視覚ノイズが与えられるようにする。
【0029】
ここで、いずれの点灯状態においても、光源群302の出力レベルは、肉眼でははっきりとは見えない程度の微弱なレベルとする。
【0030】
このようにして光源群302を信号制御することより、光源群302の視者に確率共振現象を生じさせることができる。
【0031】
本実施例に係る視覚ノイズ発生装置300を車両に適用する際の光源群302の具合的配置例を図4〜8に示す。
【0032】
図4及び5は、車両運転者Dが自車両前方を見て運転している際に光源群302が発生させた視覚ノイズが運転者Dの視野内に入るように光源群302をフロントガラスの周囲に配置する場合の例を示しており、図4が車両のダッシュボード上に配置した場合、図5がフロントガラス左右のピラー部分(いわゆるAピラー)上に配置した場合、をそれぞれ概略的に示している。
【0033】
図4及び5に示した例の場合、車両運転者Dが運転中に例えば思わず視線が引かれてしまうような広告・看板などの誘目性の高い物体に視線を向けた場合であっても、視覚ノイズによる確率共振現象によって視野が広がっているため、先行車や歩行者などの注意を払うべき存在を早く認識することができ、注意固着が解消されやすい状態となる。
【0034】
図6〜8は、車両運転者Dが車両運転中に視線を向ける可能性がある車室内の領域の近傍に光源群302を配置し、これらの領域に運転者が視線を向けた際に運転者の注意が固着しないようにする場合の例を示しており、図6は室内灯601の近くに配置した場合、図7はインストルメントパネル(インパネ)701内にメーター類と共に配置した場合、図8はナビゲーションシステムのディスプレイ(ナビディスプレイ)801近くに配置した場合、をそれぞれ概略的に示している。
【0035】
図6〜8に示した例の場合、車両運転者Dが運転中に室内灯601、インパネ701、又はナビディスプレイ801に視線を向けた場合であっても、視覚ノイズによる確率共振現象によって視野が広がっているため、先行車や歩行者などの注意を払うべき存在を早く認識することができ、注意固着が解消されやすい状態となる。
【0036】
当業者には明らかなように、図4〜8にそれぞれ示した具体例は任意に組み合わせて実現可能である。また、図4〜8のいずれの場合においても、光源群302は、1)イグニッションスイッチ(IG)がONのときは常に視覚ノイズを発生させるように点灯制御されてもよく、或いは、2)IGオンで且つ所定の条件(例えば車速が所定速以上など)が満たされたときのみ視覚ノイズを発生させるように点灯制御されてもよい。
【0037】
後者2)の場合の一例として、例えば図8に示した具体例の場合、光源群302による視覚ノイズの発生とナビゲーションシステムの動作とを連動させるようにしてもよい。
【0038】
例えば、A)ナビゲーションシステムが運転者Dによって操作されていることが検出されている間のみ視覚ノイズを発生するようにしてもよく、或いは、B)ナビゲーションシステムが運転者Dによって操作されていることが検出されており且つ車速が所定速以上の間のみ視覚ノイズを発生するようにしてもよく、或いは、C)ナビディスプレイに交差点コマ地図が表示されている間のみ視覚ノイズを発生するようにしてもよい。
【0039】
このように、本実施例によれば、車両運転中の運転者に確率共振現象を生じさせる視覚ノイズが与えられるため、確率共振現象の効果によって運転者の視野を広げることができる。
【0040】
視野が広がることにより、運転者は、視覚ノイズが与えられない場合に比べてより広い領域の視覚情報を認識することができるようになるため、例えば先行車のストップランプ点灯や歩行者の道路内への侵入など注意を払うべき対象の存在をより早期に認識することができるようになる。
【0041】
このような注意を払うべき対象の存在を認識した運転者は、それまで注意を引かれていた対象から新たに認識した当該注意を払うべき対象へ視線を移すと考えられる。すなわち、視線の移動がより促されやすく、よって注意固着がより容易に解消され得る状態が創り出されることになる。
【0042】
なお、上記一実施例においては、視覚ノイズを発生させる光源群が複数のLEDにより構成されるものとしたが、本発明はこの形に限定されるものではなく、変形例として、例えば図9に示すように、図4〜8の光源群302の代わりに、既知のヘッドアップディスプレイ(HUD)装置を利用して視覚ノイズを発生させる光源群をホログラム虚像302’としてフロントガラス上に生成してもよい。
【0043】
さらに、上記一実施例においては、上述のような本願発明者らによる実験の結果に基づいて、光源群は一列に並べられた複数の光源によって形成されるものとしたが、これは光源の配置パターンの一例に過ぎず、光源群が視野に入った視者の視野を広げる効果をもたらす視覚ノイズを発生させる限り、光源の配置パターンは任意でよい。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、視覚ノイズを利用して人の視点固着を解消させる視覚ノイズ発生装置に利用できる。上記一実施例(及びその変形例)では車両に搭載される場合を例に挙げたが、本発明に係る視覚ノイズ発生装置の利用場所は車両に限定されるものではなく、視者の注意固着を解消すべき任意の場所・領域において利用可能である。なお、上記一実施例(及びその変形例)のように本発明に係る視覚ノイズ発生装置が車両に適用される場合、搭載される車両の外観、重量、サイズ、走行性能等は問わない。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】車両運転者の注意が固着した様子の一例を示す図である。
【図2】本発明の一実施例に係る視覚ノイズ発生装置の原理を示す実験の様子を示す図である。
【図3】本発明の一実施例に係る視覚ノイズ発生装置の概略構成図である。
【図4】本発明の一実施例に係る視覚ノイズ発生装置を車両に適用する場合の一具体的配置例(具体例1)を示す概略図である。
【図5】本発明の一実施例に係る視覚ノイズ発生装置を車両に適用する場合の別の一具体的配置例(具体例2)を示す概略図である。
【図6】本発明の一実施例に係る視覚ノイズ発生装置を車両に適用する場合の別の一具体的配置例(具体例3)を示す概略図である。
【図7】本発明の一実施例に係る視覚ノイズ発生装置を車両に適用する場合の別の一具体的配置例(具体例4)を示す概略図である。
【図8】本発明の一実施例に係る視覚ノイズ発生装置を車両に適用する場合の別の一具体的配置例(具体例5)を示す概略図である。
【図9】本発明の別の一実施例に係る視覚ノイズ発生装置を車両に適用する場合の一具体的配置例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0046】
300 視覚ノイズ発生装置
301 光源
302 光源群
303 通電制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人に視覚的刺激を与える視覚ノイズ発生装置であって、
複数の光源から成る光源群と、
前記光源群の視者に確率共振現象を生じさせる視覚ノイズが発生するように前記複数の光源の各々を点灯制御する制御手段と、を有することを特徴とする視覚ノイズ発生装置。
【請求項2】
請求項1記載の視覚ノイズ発生装置であって、
前記複数の光源は、横一列に配置されて前記光源群を形成する、ことを特徴とする視覚ノイズ発生装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の視覚ノイズ発生装置であって、
前記制御手段は、前記光源群の視者に確率共振現象を生じさせる視覚ノイズが発生するように、前記複数の光源の各々を、ランダムなタイミングで、ランダムな輝度で点灯させる、ことを特徴とする視覚ノイズ発生装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項記載の視覚ノイズ発生装置であって、
前記光源群は、車両を運転中の運転者の視界に入るように、当該車両の車室内に設けられる、ことを特徴とする視覚ノイズ発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−257173(P2007−257173A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−79116(P2006−79116)
【出願日】平成18年3月22日(2006.3.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】