説明

視覚障がい者用歩行者信号機

【課題】視覚障がい者が好適に利用できる視覚障がい者用歩行者信号機を提供する。
【解決手段】車道横断の可否を表示する表示部6を備えた柱状体に形成された信号柱5を有しており、該信号柱5を振動させるための振動装置9と、既存の信号機に連動して表示部6における表示態様とともに振動装置9の動作を制御する制御装置8とを備えており、車道に面した歩道内に、表示部6を歩道内側へと向けた状態で立設した。尚、信号柱5に、音声による報知を行うスピーカ7を備えてもよいし、信号柱5を、リサイクル可能で且つ高い弾性を有するゴム又は合成樹脂によって折れ曲がり可能に形成してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば弱視者といった視覚障がい者のための歩行者信号機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、歩行者信号機に音声発生手段としてスピーカ等を備え、たとえば鳥の鳴き声といった種々の音声をスピーカから発生させることによって、歩行者に現在の信号機の状態(すなわち、「赤」であるか又は「青」であるか)を報知するものが知られている。また、歩行者にスピーカ等の音声発生手段を備えた携帯端末装置を携帯させるといった歩行者信号機システム(たとえば、特許文献1)も考案されている。このような歩行者信号機や歩行者信号機システムは、信号機の状態を視認しづらい(又は視認できない)視覚障がい者を対象として考案されたものである。
【0003】
【特許文献1】特開2005−46607号公報
【0004】
ここで、特許文献1に開示されている歩行者信号機システムについて、図3を基に説明する。図3は、従来の歩行者信号機システムの使用状態を示した説明図である。
図3に示す歩行者信号機システムによると、歩行者51にスピーカを備えた携帯端末装置52を携帯させる一方、信号機53内に送受信装置等を備えている。そして、歩行者51が横断歩道手前の所定位置に立つと、該状態が視覚障がい者用杖54やICタグ55等により検知され、信号機53の送受信装置から携帯端末装置52へと現在の信号の状態に係る信号機情報が送信される。携帯端末装置52は、信号機情報を受信すると、該信号機情報に基づき、音声等により信号機53の状態を歩行者51に報知する(たとえば、「只今、信号機は赤です」等)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、音声により信号機の状態を報知する歩行者信号機では、周囲の雑音や騒音等により、視覚障がい者が正確な状態を把握しづらいといった状況が考えられる。また、現在、スピーカを備えた歩行者信号機では、近隣への騒音に対する配慮等から深夜から早朝にかけてスピーカ機能を停止する場合が多く見受けられる。したがって、スピーカ機能が停止している間における信号機の状態の把握は、視覚障がい者にとって極めて困難となってしまう(たとえば、自動車の走行音等を基に把握するしかない)。
また、たとえば弱視者といった視覚障がい者にとっては、信号機における表示部(「赤」や「青」による表示)の視認が不可能ではないことから、上述の如く問題点の多い音声にたよった歩行者信号機よりも、より視認しやすい表示部を備えた歩行者信号機が求められている。しかしながら、従来の歩行者信号機は、一般的に横断歩道の対面にいる歩行者に表示部を視認させるようにしているため、歩行者からかなり離れた位置に設置されることになる。したがって、弱視者は、好適に歩行者信号機を利用することができない。また、従来の歩行者信号機において、表示部は高さ3m程度に設置されているため、特に上方が視認しにくいとされる弱視者にとっては、極めて利用しにくい構造となっている。
【0006】
そこで、本発明は、上記課題に鑑みなされたものであって、視覚障がい者が好適に利用できる視覚障がい者用歩行者信号機を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明のうち請求項1に記載の発明は、車道横断の可否を表示する表示部を備えた柱状体で、該柱状体を振動させるための振動装置と、既存の信号機に連動して前記表示部における表示態様とともに前記振動装置の動作を制御する制御装置とを備えており、車道に面した歩道内に、前記表示部を歩道側へと向けた状態で立設されることを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1の発明において、制御装置による制御のもと、既存の信号機に連動して音声による報知を行う音声発生手段を備えたことを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2の発明において、柱状体を、リサイクル可能で且つ高い弾性を有するゴム又は合成樹脂によって折れ曲がり可能に形成したことを特徴とする。
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3の発明において、表示部における表示面積が少なくとも50mm2以上設けられているとともに、柱状体の高さを0.8m〜2.0m程度としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、視覚障がい者用歩行者信号機を、車道に面した歩道内に、表示部を歩道側へと向けた状態で立設しているため、歩行者は従来の歩行者用信号機と比較して極めて間近で表示部を視ることができる。したがって、たとえ弱視者であっても、信号機の状態(たとえば、「赤」であるか又は「青」であるか等)を容易に視認することができる。また、既存の信号機に連動して柱状体を振動させる振動装置が設置されているため、表示部による報知に加えて、振動による報知を行うことができる。したがって、歩行者に対して、極めて確実に信号機の状態を報知することができる。さらに、振動による報知を行うことによって、たとえば騒音等の問題により音声による報知を行い難い地域や地区等であっても好適に利用することができる。
また、請求項2の発明によれば、表示部による報知のみならず、スピーカ等の音声発生手段による音声を利用した報知をも行うため、弱視者等には勿論のこと、たとえ全く目の見えない障がい者であっても好適に利用することができる。尚、従来の歩行者用信号機と比較して歩行者の近辺に設置されることから、音声の面においても報知内容を聞き取りやすいといった利便性の向上に係る効果を期待できることは言うまでもない。
さらに、請求項3の発明によれば、柱状体を、リサイクル可能で且つ高い弾性を有するゴム又は合成樹脂によって折れ曲がり可能に形成しているため、たとえば緊急車両等が交差点から歩道内へと乗り込んでくる際に、邪魔になったりしない。さらにまた、弱視者や目の見えない障がい者等が不用意に接触したとしても怪我等の心配がなく安全である上、リサイクル可能であることから、環境にも配慮した構成であると言える。
加えて、請求項4の発明によれば、表示部における表示面積が少なくとも50mm2以上設けられているとともに、柱状体の高さを0.8m〜2.0m程度としているため、特に上方の視認が困難とされる弱視者であっても、表示部における表示態様を極めて容易に視認することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態となる視覚障がい者用歩行者信号機(以下、信号機とする)について図面を基に説明する。尚、本発明における信号機は、たとえば弱視者等、若干でも視力を有する者を主に対象とするものである。
【0010】
図1は、信号機1を交差点に設置した状態を示す説明図であり、図2は、信号機1を示した説明図である。
図1に示す如く、一般道路の交差点付近において車道に面した歩道内には、視覚障がい者に交差点の存在を知らせるための多数の点字ブロック2、2・・が敷設されており、特に横断歩道手前では、点字ブロック2、2・・がT字状に敷設されている。このような交差点において、信号機1は、T字状に敷設された点字ブロック2、2・・の交叉部に立設されている。尚、3は、従来より一般的に設置されている歩行者用信号機である。
【0011】
ここで、信号機1について詳述する。
信号機1は、リサイクル可能なゴム又は合成樹脂を高さ1.5m程度の円柱状体に形成してなる信号柱5に、「進んでよい」や「止まれ」といった情報を表示する(所謂、「赤」や「青」の表示を行う)表示部6、信号機1の状態(「赤」であるか又は「青」であるか等)を音声により報知するためのスピーカ(音声発生手段)7、信号柱5を振動させるための振動装置9等を備えてなるものである。尚、信号柱5はフレキシブルに構成されており、たとえば緊急車両が乗り入れる際等に折れ曲がり可能となっている。
【0012】
表示部6は、「止まれ」を示す「赤」表示部6aと、「進んでよい」を示す「青」表示部6bとを上下に並設したものである。「赤」表示部6aには多数の赤色LEDが、「青」表示部6bには多数の青色LEDがそれぞれ設置されており、各表示部6a、6bにおける発光面積は、少なくとも50mm2以上となっている。また、該「赤」表示部6a及び「青」表示部6bは、少なくとも上下左右それぞれ45度の範囲内で視認可能となっている。そして、これら赤色LED及び青色LEDを点灯・消灯させたり点滅させたりすることによって、「止まれ」や「進んでよい」等といった意を報知する。尚、各表示部6a、6bにおけるLEDの点灯動作や点滅動作等は、信号柱5の下方(地下)に設置されている制御装置8によって制御される。また、赤色LEDとしては、光度2000〜4000mcd/20mAのものを、青色LEDとしては、光度2000〜6000mcd/20mAのものをそれぞれ用いる。
一方、スピーカ7は、表示部6の下方に設置されており、制御装置8による制御のもと、表示部6における表示態様に連動して、たとえば「ただいま、信号は青に変わりました」といったように音声による報知を行う。また、信号柱5内には、上述の如く振動装置9が設置されている。該振動装置9は、、制御装置8による制御のもと、「青」表示部6bが点灯(すなわち、「進んでよい」という状態)している間、信号柱5を振動させるようになっており、歩行者は信号柱5を触れることによって信号の状態を確認することができる。
【0013】
以上のように構成される信号機1は、上述の如くT字状に敷設された点字ブロック2、2・・の交叉部に、表示部6を歩道側(車道とは反対側)へと向けた状態で立設される。したがって、歩道を歩いてきた視覚障がい者に、通常の信号機のように車道を挟んで対面に設置された信号機の表示部を視認させるのではなく、視覚障がい者と同じ側にある信号機1の表示部6を視認させるようになっている。尚、信号機1を設置するにあたり、制御装置8は、上述の如く信号柱5の下方に埋設設置し、制御装置8と表示部6及びスピーカ7とは、無線或いは有線によって接続するものとする。また、制御装置8は、既存の信号機(たとえば、歩行者用信号機3)に連動して、表示部6やスピーカ7、振動装置9の動作を制御する。
【0014】
上述の如き信号機1によれば、T字状に敷設された点字ブロック2、2・・の交叉部に、表示部6を歩道内側(車道とは反対側)へと向けた状態で立設されるため、歩行者は従来の歩行者用信号機と比較して極めて間近で表示部6を視ることができる。したがって、たとえ弱視者であっても、信号機1の状態(「赤」であるか又は「青」であるか等)を容易に視認することができる。また、信号柱5の高さを1.5m程度としているため、特に上方の視認が困難とされる弱視者にとって、極めて利用しやすい構成となっている。さらに、制御装置8を地下へと埋設するとともに、信号柱5をリサイクル可能なゴム又は合成樹脂により折れ曲がり可能に形成しているため、たとえば緊急車両等が交差点から歩道内へと乗り込んでくる際に、邪魔になったりしない。加えて、信号柱5を上述の如く構成することにより、弱視者や目の見えない障がい者等が不用意に接触したとしても怪我等の心配がなく安全である上、リサイクル可能であることから、環境にも配慮した構成であると言える。
【0015】
また、表示部6において、「赤」表示部6a及び「青」表示部6bの発光面積を少なくとも50mm2以上設けているため、たとえ弱視者であっても容易に各表示部6a、6bにおける表示態様を視認することができる。またさらに、各表示部6a、6bにおける表示態様を、上下左右45度の範囲内にて視認可能としているため、身長差といった個人差に拘わらず誰もが容易に利用可能となっている。
さらに、表示部6による報知のみならず、スピーカ7による音声を利用した報知をも行うため、弱視者等には勿論のこと、たとえ全く目の見えない障がい者であっても好適に利用することができる。尚、従来の歩行者用信号機と比較して歩行者の近辺に設置されることから、音声の面においても報知内容を聞き取りやすいといった利便性の向上に係る効果を期待できることは言うまでもない。加えて、「青」表示部6bが点灯している間、振動装置9により信号柱5が振動している。したがって、騒音等により音声による報知等が聞き取りにくい状態にあっても、歩行者は、信号柱5に触れることによって、確実に信号機の状態を認知することができる。
【0016】
なお、本発明の視覚障がい者用歩行者信号機に係る構成は、上記実施形態の態様に何ら限定されるものではなく、柱状体、制御装置、スピーカ、振動装置、及びLED等の構成を、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、必要に応じて適宜変更することができる。
【0017】
たとえば、上記実施の形態では、「赤」表示部と「青」表示部とを上下に並設する構成を採用しているが、左右に並設するようにしても何ら問題はない。また、信号柱の高さは1.5m程度に何ら限定されることはなく、それ以上又はそれ以下であっても何ら問題はない。尚、信号柱の高さは、0.8m〜2.0mの範囲内とするのが好ましい。
【0018】
さらに、上記実施の形態の如く「青」表示部に青色LEDを設置するのではなく、緑色LEDを設置することも当然可能である。この場合、緑色LEDとしては、光度2000〜6000mcd/20mAのものが好ましい。さらにまた、表示部における表示を、有機EL等を用いて行うようにしてもよい。この場合、輝度85cd/m2以上のものを使用するのが好ましい。
【0019】
またさらに、既存の信号機の如く「赤」や「青」を利用した報知ではなく、「○」や「×」といった記号や「しばらくお待ち下さい」「横断可能です」といったメッセージ等を表示部に表示することによって、交差点の状況を報知するよう構成することも可能である。尚、メッセージ等を利用した表示を「赤」や「青」を利用した報知と組み合わせて用いることも当然可能である。
【0020】
また、視覚障がい者用歩行者信号機の設置位置としては、上記実施の形態の如きT字状に敷設された点字ブロックの交叉部に何ら限定されることはなく、点字ブロックの交叉部から半径5m程度の範囲内の歩道上であれば、上記効果を損なうことなく好適に利用可能となる。
【0021】
さらに、制御装置を信号柱内に設置してもよいし、スピーカのない視覚障がい者用歩行者信号機としても何ら問題はない。加えて、信号柱を折れ曲がり可能とするにあたり、信号柱の基部(地面側)に蛇腹を設けるような構成としてもよい。
【0022】
さらにまた、スピーカを設置した視覚障がい者用歩行者信号機にあっては、夜間等に音声による報知を自粛しなければならない場合もあることから、夜間には音声による報知を停止するよう構成してもよい。加えて、音声による報知を停止する間のみ振動による報知を行うよう報知態様切換手段を備えるようにしても何ら問題はない。
またさらに、視覚障がい者用歩行者信号機にタグリーダー(読み取り手段)等を設置するとともに、歩行者にICタグを内蔵したカード等を携帯させ、タグリーダーとICタグとの間で無線通信を行うことにより、信号機が設置されている所在地の案内を行ったり、無線通信を行うことによってスピーカを利用した音声による報知が行われるようにしたりすることも可能である。尚、所在地の案内に係る情報等は制御装置に記憶されているものとする。
【0023】
加えて、信号柱内に監視カメラ等を内蔵し、事故等の不測の事態に対応可能とすべく、適宜撮像データを取得可能としてもよいし、各視覚障がい者用信号機を統括コンピュータと無線接続することによって、所在地の案内に係る情報の更新や撮像データの管理、故障やメンテナンスの有無に係る管理等を容易に可能とするようにしても何ら問題はない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】視覚障がい者用歩行者信号機を交差点に設置した状態を示す説明図である。
【図2】視覚障がい者用歩行者信号機を示した説明図である。
【図3】従来の歩行者信号機システムの使用状態を示した説明図である。
【符号の説明】
【0025】
1・・視覚障がい者用歩行者信号機、2・・点字ブロック、5・・信号柱、6・・表示部、6a・・「赤」表示部、6b・・「青」表示部、7・・スピーカ、8・・制御装置、9・・振動装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車道横断の可否を表示する表示部を備えた柱状体で、該柱状体を振動させるための振動装置と、既存の信号機に連動して前記表示部における表示態様とともに前記振動装置の動作を制御する制御装置とを備えており、
車道に面した歩道内に、前記表示部を歩道側へと向けた状態で立設されることを特徴とする視覚障がい者用歩行者信号機。
【請求項2】
制御装置による制御のもと、既存の信号機に連動して音声による報知を行う音声発生手段を備えたことを特徴とする請求項1に記載の視覚障がい者用歩行者信号機。
【請求項3】
柱状体を、リサイクル可能で且つ高い弾性を有するゴム又は合成樹脂によって折れ曲がり可能に形成したことを特徴とする請求項1又は2に記載の視覚障がい者用歩行者信号機。
【請求項4】
表示部における表示面積が少なくとも50mm2以上設けられているとともに、柱状体の高さを0.8m〜2.0m程度としたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の視覚障がい者用歩行者信号機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−140704(P2007−140704A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−330841(P2005−330841)
【出願日】平成17年11月15日(2005.11.15)
【出願人】(505424778)株式会社 INBプランニング (3)
【出願人】(592253574)社会福祉法人名古屋ライトハウス (1)
【出願人】(500512830)
【出願人】(000244660)木曽興業株式会社 (7)
【Fターム(参考)】