説明

視野計

【課題】 被検者の自覚のみに頼らず、正確な視野測定を可能にする。
【解決手段】
被検眼の視野内に呈示する刺激視標の位置を変化させる視標呈示手段を備え、被検者の視認による応答を得て被検眼の視野を計測する視野計において、被検者の後頭部の大脳皮質視覚野付近に近赤外光を照射する照射部と大脳皮質視覚野を透過・散乱してきた光を検出する検出部とを持ち、検出部の出力に基づいて視覚野の脳活動の有無を検出する脳活動検出手段と、検出結果に基づいて刺激視標の呈示に対する被検者の応答が刺激視標を視認できて応答したものか否かを判断する判断手段と、を備える。被検者の応答が刺激視標を視認できて応答されたもので無いと判断されたときには、その刺激視標に対する応答結果を不採用とし、再び同じ呈示条件で視標を呈示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検眼の視野を計測する視野計に関する。
【背景技術】
【0002】
被検眼の緑内障等の疾病を診断する上で、被検眼の視野を計測することが有効な手段とされている。視野計としては、ドーム型のスクリーンやLCDディスプレイ等の電子表示パネルに刺激視標を呈示し、この刺激視標の位置や輝度を変化させ、視標が視認できるか否かの被検者の応答を得ることにより、被検眼の視野を計測するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。この種の視野計においては、被検者は視標が視認できたときに応答スイッチを押して応答する。
【特許文献1】特開平6−54804号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の視野計測においては、呈示視標が実際に被検者に見えているか否かは被検者の自覚に頼っている。このため、視標が見えていないのに被検者が応答スイッチを押してしまった場合でも、その視標が見えたものとして計測されてしまい、計測結果が不正確になりがちであった。
【0004】
本発明は、上記従来装置の問題点に鑑み、被検者の自覚のみに頼らず、正確な視野測定が可能な視野計を提供することを技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するために、次のような構成を備えることを特徴とする。
【0006】
(1) 被検眼の視野内に呈示する刺激視標の位置を変化させる視標呈示手段を備え、被検者の視認による応答を得て被検眼の視野を計測する視野計において、被検者の後頭部の大脳皮質視覚野付近に近赤外光を照射する照射部と大脳皮質視覚野を透過・散乱してきた光を検出する検出部とを持ち、該検出部の出力に基づいて視覚野の脳活動の有無を検出する脳活動検出手段と、該検出結果に基づいて刺激視標の呈示に対する被検者の応答が刺激視標を視認できて応答したものか否かを判断する判断手段と、を備えることを特徴とする。
(2) (1)の視野計において、前記判断手段により被検者の応答が刺激視標を視認できて応答されたもので無いと判断されたときには、その刺激視標に対する応答結果を不採用とし、再び同じ呈示条件で前記視標呈示手段を制御する制御手段を備えることを特徴とする。
(3) (1)の視野計において、前記照射部は脱酸素化ヘモグロビンより酸素化ヘモグロビンの方が吸光係数が高い波長の第1近赤外光と脱酸素化ヘモグロビンより酸素化ヘモグロビンの方が吸光係数が低い波長の第2近赤外光とを照射し、前記脳活動検出手段は前記検出部で検出される前記第1近赤外光と第2近赤外光の検出光量の変化により視覚野の脳活動の有無を検出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、被検者の自覚のみに頼らず、正確な測定が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明に係る視野計の概略構成図である。
【0009】
被検者の眼前には半球状のドーム型のスクリーン1が配置され、このスクリーン1には視標投影ユニット2から刺激視標が呈示される。視標投影ユニット2は、光源3、投影レンズ4、可動ミラー5を備える。可動ミラー5は図示を略す駆動機構により駆動され、光源3及び投影レンズ4によりスクリーン1に投影されるスポット視標(刺激視標)の位置を変える。可動ミラー5は、2組のガルバノミラーで構成することができる。また、スクリーン1の中心には固視標10が設けられている。視標投影ユニット2は制御ユニット20に接続されている。制御ユニット20は、視標投影ユニット2の可動ミラー5を駆動制御し、スクリーン1に投影され刺激視標の位置を変化させる。また、光源3の光量を調整し、スクリーン1に投影され刺激視標の輝度を変化させる。制御ユニット20には、モニタ21、キーボード等の入力装置22、応答スイッチ15等が接続されている。
【0010】
30は、被検者の後頭部に取り付けられるプローブである。プローブ30の概略構成を図2に示す。プローブ30は、近赤外光を照射する照射部30aと大脳皮質視覚野で散乱反射して光を検出する検出部30bとからなる。照射部30aは、波長λ1=780nmの近赤外光を発する第1半導体レーザ31aと、波長λ2=830nmの近赤外光を発する第2半導体レーザ31bと、第1半導体レーザ31aに接続された変調器33aと、第2半導体レーザ31bに接続された変調器33bと、半導体レーザ31a及び31bからのレーザ光を被検者の頭部に照射するための照射用光ファイバ35とを備える。検出部30bは、照射用光ファイバ35の先端から30mm程隔たれて配置される検出用光ファイバ36と、検出用光ファイバ36に入射した光を検出する光検出器であるアバランシュフォトダイオード37と、変調器33a,33bの変調周波数を参照するロックインアンプ39a,39bとを備える。プローブ30は制御ユニット20に接続され、各半導体レーザ31a,31bが駆動制御されると共に、フォトダイオード37で検出された各半導体レーザの散乱反射光強度の電気信号が出力される。このプローブ30には、基本的には光トポグラフィで使用されるものを利用できるが、本装置では脳活動のマップを得るわけでなく、大脳皮質の視覚野の脳活動を検出できればよいので、照射部30aと検出部30bは少なくとも1組あれば良い。
【0011】
プローブ30を用いて大脳皮質の活動を測定する方法の測定原理は、近赤外分光法に基づいている。近赤外分光法を以下に説明する。
【0012】
一般に、光は生体を通らないものと認識されているが、「生体の窓」と呼ばれる近赤外領域の光(700〜1300nm)は比較的良く透過する。この領域の光は、可視光よりも散乱の影響を受けにくく、赤外領域の光に比べて、特に水の吸収が少ないためである。このため、掌に800nmの光を照射し、CCDカメラでその透過像を撮像すると、骨の吸収を描写するX線画像とは異なり、血管内を流れる血液中のヘモグロビンを反映した画像となる。
【0013】
一方、酸素を運搬する役割を担う血液中のヘモグロビンは、酸素と結合した時(酸素化ヘモグロビン)と分離した時(脱酸素化ヘモグロビン)とで色(スペクトル)の変化を生じる。図3は、波長(横軸)に対する吸光度(縦軸)を示した吸光スペクトルで、上に行くほどその波長の光を吸収する。このスペクトルから明らかなように、近赤外領域において、酸素化ヘモグロビンと脱酸素化ヘモグロビンは、800nm付近に等しい吸収点を持ち、その両側で吸収強度が逆転するという特徴的な吸収特性を持っている。つまり、800nmより長い波長帯では、酸素化ヘモグロビンの吸光度が高く、800nmより短い波長帯では脱酸素化ヘモグロビンの吸光度が高くなる。したがって、我々が見ることができる可視の領域では、酸素化ヘモグロビンは鮮やかな赤、脱酸素化ヘモグロビンは暗い赤として観察されるが、もう少し長い波長領域では逆の現象となっている。近赤外による生体分光法とは、このスペクトルの違いを利用して生体内の酸素濃度を計測することである。すなわち、このヘモグロビンの性質を利用し、生体に照射される内部を通った光を調べることで、血液を抜き取ることなく(非観血的に)、身体を傷つけることなく(非侵襲的に)、連続的に内部の酸素状態を測定することができる。
【0014】
実際の装置では、測定部位に近赤外光を照射する照射部と生体の内部を透過・散乱してきた光を受光して検出する検出部とを組み合わせて測定を行う。本装置では、図2に示したように、半導体レーザ31aからの780nmの近赤外光と半導体レーザ31bからの830nmの近赤外光とを照射用ファイバ35によって生体に照射し、その光が生体中を拡散・透過して体表面から再放出されたところを検出用光ファイバ36によって接続された検出器であるフォトダイオード37で検出する。この生体から再放出された光には、生体内部のヘモグロビン吸収情報が含まれており、これを捉えることで脳内の酸素化変化を測定できる。
【0015】
さらに詳しく述べると、脱酸素化ヘモグロビン(Deoxy-Hb)よりも酸素化ヘモグロビン(Oxy-Hb)の方が吸光係数が高い波長(800nmより長い波長)の近赤外光Aと、脱酸素化ヘモグロビンより酸素化ヘモグロビンの方が吸光係数が低い(800nmより短い波長)の近赤外光Bと、を被検者の後頭部の視覚野付近に照射し、そこから約30nmほど離れたところに置いた検出用光ファイバにより光検出器で受光する。
【0016】
近赤外光では、吸光係数μa=εCの大小は分子吸光係数εと濃度Cの2つの変数に影響される。そして、吸光係数μaから濃度Cを求めるために、光吸収スペクトルの値であるεを予め必要とする。スペクトルの特徴をあらわす2つの波長を使って測定し、それぞれの吸収係数μa1とμa2が求められれば、μa=εCの関係式から以下の連立方程式が成り立つ。
【0017】
μa1=ε(Oxyλ1)・C(Oxy-Hb)+ε(Deoxyλ1)・C(Deoxy-Hb)
μa2=ε(Oxyλ2)・C(Oxy-Hb)+ε(Deoxyλ2)・C(Deoxy-Hb)
この式を解けば、酸素化ヘモグロビンの濃度C(Oxy-Hb)と、脱酸素化ヘモグロビンの濃度C(Deoxy-Hb)とを求めることができる。その和C(Oxy-Hb)+C(Deoxy-Hb)が血液量であり、比C(Oxy-Hb)/(C(Oxy-Hb) +C(Deoxy-Hb))が酸素飽和度である。つまり、光の吸収係数が得られれば、酸素飽和度と血液量が求められるわけである。
【0018】
通常、脳活動には神経活動に伴って酸素が消費され、酸素を供給するために活動部位への血液量が増加すると共に、酸素化ヘモグロビンが増加して、脱酸素化ヘモグロビンが減少する。このため、近赤外光Aは酸素化ヘモグロビンの増加に伴って、吸収される光量が増加し、検出光量が減少する。これに対して、近赤外光Bは脱酸素化ヘモグロビンの減少に伴って、吸収される光量が減少し、検出光量が増加する。ただし、血液量自体も増加しているため、脱酸素化ヘモグロビンの減少は酸素化ヘモグロビンの増加ほど多くはなく、近赤外光Bの検出光量増加は、近赤外光Aの検出光量減少よりも少なくなる。
【0019】
したがって、実際に被検者に視覚刺激が与えられた場合は、酸素化ヘモグロビンの濃度C(Oxy-Hb)が増加し、脱酸素化ヘモグロビンの濃度C(Deoxy-Hb)が減少し、血液量C(Oxy-Hb)+C(Deoxy-Hb)が増加し、酸素飽和度C(Oxy-Hb)/(C(Oxy-Hb) +C(Deoxy-Hb))が増加するということになる。視覚刺激に対するこれらの変化の中で、最も大きく変化するパラメータを指標として用いれば、視覚野の脳活動の有無を精度良く検出可能となる。また、幾つかの変化を組み合わせて判断しても良い。
【0020】
次に、図1に示した視野計における検査を説明する。プローブ30の照射用光ファイバ35及び検出用光ファイバ36を後頭部の視覚野付近に設置する。制御ユニット20は、半導体レーザ31a,31bから出射される光をそれぞれ変調器33a,33bを介して変調する。半導体レーザ31a,31bから出射された2波長の光は、混合されて照射用光ファイバ35から照射する。近赤外光により後頭部で拡散・透過して再放出された光は、検出用光ファイバ36を通ってフォトダイオード37に受光される。フォトダイオード37から出力される信号は、アンプ39a,39bで復調され、2波長の検出が区別される。アンプ39a,39bからの信号は、制御ユニット20に入力される。制御ユニット20では、各検出光強度データを基に酸素化ヘモグロビンの濃度C(Oxy-Hb)、脱酸素化ヘモグロビンの濃度C(Deoxy-Hb)、血液量C(Oxy-Hb)+C(Deoxy-Hb)、酸素飽和度C(Oxy-Hb)/(C(Oxy-Hb) +C(Deoxy-Hb))を演算し、脳活動のモニタリングを行う。被検者に固視標10を固視させた状態での各値を測定し、これを制御ユニット20が持つメモリに記憶させる。
【0021】
次に、制御ユニット20は、視標投影ユニット2を制御し、スクリーン1に刺激視標を呈示する。被検者には、中央の固視標10を固視させつつ、呈示視標が見えるか否かを応答スイッチ15により応答させる。この応答スイッチ15の信号が入力されたときに、上記の各値を測定し、その変化を検出する。一般に、人が視標を見て、大脳の視覚野が反応していれば、その部分の酸素の消費量が多くなり、酸素化ヘモグロビンの濃度C(Oxy-Hb)、血液量C(Oxy-Hb)+C(Deoxy-Hb)、酸素飽和度C(Oxy-Hb)/(C(Oxy-Hb) +C(Deoxy-Hb))が増加し、脱酸素化ヘモグロビンの濃度C(Deoxy-Hb)が減少する。もし、被検者が視標を見えていないのに応答スイッチ15で返答をしている場合には、この脳活動のモニタリングによる各値の変化が生じないため、被検者が間違って応答していることが検出できる。
【0022】
制御ユニット20は、予め定められた視野計測プログラムに従って呈示視標の位置をランダムに変化させると共に、各呈示位置での視標輝度を順次暗い輝度に変化させ、被検者が明視できる識別閾値を計測する。制御ユニット20は、被検者による応答スイッチ15があり、かつプローブ30での脳活動の検出により被検者が視標を視認できて応答したものと判断きた場合に、正答として扱う。一方、応答スイッチ15が押されているが、プローブ30での脳活動検出により被検者が間違って応答していると判断された場合には、その応答は不採用とする。この場合、制御ユニット20は、その視標を再度同じ呈示条件で呈示するように視標投影ユニット2を制御して計測を繰り返す(計測を繰り返す順番は、他の位置に視標を呈示した後でランダムに決められる)。これにより、被検者の自覚のみに依存しない、精度の高い視野測定が可能となる。また、プローブ30での脳活動検出により被検者が間違って応答していると判断された結果を基に測定結果の信頼度を算出し、その信頼度を測定結果と共にモニタ21に表示しても良い。すなわち、被検者が間違って応答している回数が多ければ測定結果の信頼度は低く、被検者が間違って応答している回数が少なければ測定結果の信頼度は高くなる。
【0023】
上記の実施形態は、いわゆる静的視野検査の視野計を例にとって説明したが、一定の明るさの刺激視標を移動させ、その視標が見えなくなる時点を応答させる動的視野計においても、本発明を適用できる。また、視野計の構成は、ドーム型のスクリーンに視標を呈示するタイプに限らず、ディスプレイ等の電子表示器に視標を呈示するタイプであっても良い。さらに、本発明の視野計は、走査型レーザ検眼鏡(SLO)により網膜上に直接検査視標を投影して行われる暗点計測(Scotometry)、網膜局所視力検査(Visumetry)や、微小視野検査(Microperimetry)に適用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る視野計の概略構成図である。
【図2】被検者の後頭部に取り付けられるプローブの概略構成
【図3】波長(横軸)に対する吸光度(縦軸)を示した吸光スペクトルの図である。
【符号の説明】
【0025】
1 スクリーン
2 視標投影ユニット
15 応答スイッチ
20 制御ユニット
30 プローブ
30a 照射部
31a 第1半導体レーザ
31b 第2半導体レーザ
37 フォトダイオード



【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検眼の視野内に呈示する刺激視標の位置を変化させる視標呈示手段を備え、被検者の視認による応答を得て被検眼の視野を計測する視野計において、被検者の後頭部の大脳皮質視覚野付近に近赤外光を照射する照射部と大脳皮質視覚野を透過・散乱してきた光を検出する検出部とを持ち、該検出部の出力に基づいて視覚野の脳活動の有無を検出する脳活動検出手段と、該検出結果に基づいて刺激視標の呈示に対する被検者の応答が刺激視標を視認できて応答したものか否かを判断する判断手段と、を備えることを特徴とする視野計。
【請求項2】
請求項1の視野計において、前記判断手段により被検者の応答が刺激視標を視認できて応答されたもので無いと判断されたときには、その刺激視標に対する応答結果を不採用とし、再び同じ呈示条件で前記視標呈示手段を制御する制御手段を備えることを特徴とする視野計。
【請求項3】
請求項1の視野計において、前記照射部は脱酸素化ヘモグロビンより酸素化ヘモグロビンの方が吸光係数が高い波長の第1近赤外光と脱酸素化ヘモグロビンより酸素化ヘモグロビンの方が吸光係数が低い波長の第2近赤外光とを照射し、前記脳活動検出手段は前記検出部で検出される前記第1近赤外光と第2近赤外光の検出光量の変化により視覚野の脳活動の有無を検出することを特徴とする視野計。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−14902(P2006−14902A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−195046(P2004−195046)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【出願人】(000135184)株式会社ニデック (745)
【Fターム(参考)】