説明

親水性乳化剤

【課題】
酸性水溶液中で安定なポリグリセリン脂肪酸エステルを用いた親水性乳化剤を提供すること、及びこの親水性乳化剤を用いた食品、医薬品または化粧品を提供すること。
【解決手段】
平均重合度2〜20のポリグリセリン及び脂肪酸を酸系触媒の存在下でエステル化反応させたポリグリセリン脂肪酸エステルを含有するpH4以下の酸性水溶液中において耐酸性を有する親水性乳化剤であって、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルの構成脂肪酸が炭素数8〜22の飽和脂肪酸または炭素数16〜22の不飽和脂肪酸から選択される一種または二種以上からなり、かつ、エステル化率が30%以下であることを特徴とする親水性乳化剤を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水性乳化剤に関する。より詳細には、乳化、可溶化、分散、起泡、洗浄などの用途において、高い界面活性能を有する親水性乳化剤であって、食品、医薬品、化粧品に利用することができる親水性乳化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリグリセリン脂肪酸エステルは、安全性の高い界面活性剤であり、食品用乳化剤として広く利用されている。また、ポリグリセリン脂肪酸エステルは、ポリグリセリンの重合度、構成脂肪酸の種類、エステル化度を調節することで親水性から親油性まで様々な物性を示し、食品のみならず、医薬品、化粧品、その他の工業用途にも幅広く利用されている。
【0003】
一般に、親水性を有するポリグリセリン脂肪酸エステルは、乳化、可溶化、分散、起泡、洗浄などの様々な用途において、高い界面活性能を有する乳化剤として利用されている。その中でも、これらのポリグリセリン脂肪酸エステルは、特に乳化や可溶化に利用されることが多いため、以下はこれらの用途に限定して述べる。
【0004】
乳化は、水相の中に油相を分散させるO/W型乳化と、油相の中に水相を分散させるW/O型乳化がある。一般に、親水性乳化剤はO/W型乳化に用いられ、例えば、食品分野では、コーヒーフレッシュ、ドレッシング、ホイップクリームなど、多くの食品に利用されている。
【0005】
また、可溶化とは、O/W型乳化の一種であるが、可溶化組成物は、油溶性物質を水相中に微細に分散して生成されているため、透明性が高い液である。可溶化組成物は、特定の界面活性剤を使用して、油溶性物質を水相中に平均粒径0.1μmオーダー以下の微細粒子として分散することにより調製される。また、可溶化組成物は、水相と油相に乳化剤を加え、撹拌して得られる乳化組成物とは異なり、熱力学的に安定であり、経時安定性が高い組成物である。これらの可溶化組成物は食品分野では、主に飲料向けに利用されることが多い。
【0006】
これらの乳化剤は、様々な形態で食品に利用されている。その中で、ドレッシングや飲料においては、酸性領域での安定な乳化状態及び可溶化状態が要求される。例えば、ドレッシングでは、健康志向から従来の卵黄を使用したマヨネーズの代わりに食品用乳化剤を使用したものが提案されている。また、飲料では、製造の際、精油などの香料や脂溶性ビタミンなどの機能性物質をpH3〜4程度の果汁飲料やスポーツドリンクに可溶化させることがある。このことから、酸性領域で安定に乳化及び可溶化できる親水性乳化剤が必要となる。
【0007】
これまで、ポリグリセリン脂肪酸エステルを利用して水相の中に油相を乳化させる方法が種々検討されてきた。例えば、特許文献1には、ポリグリセリン脂肪酸エステルを用いて、ドレッシング用酸性O/W型乳化組成物を得る方法が開示されている。しかしながら、この方法では保存状態によっては、経時的に油分の分離を生じ、酸性領域で十分な安定性を有するO/W型乳化組成物を得ることは困難であった。
【0008】
また、ポリグリセリン脂肪酸エステルを利用して油溶性物質を可溶化させる方法として、特許文献2には、ポリグリセリンラウリン酸エステルとポリグリセリン縮合リシノール酸エステルの混合物を用いて油溶性物質を可溶化させる方法、特許文献3には、炭素数8〜22の飽和脂肪酸と炭素数16〜22の不飽和脂肪酸を特定のモル比率で組み合わせて成るポリグリセリン脂肪酸エステルを用いて油溶性物質を可溶化させる方法が開示されている。しかしながら、これらの方法では、エステル化反応の触媒として、水酸化ナトリウム等のアルカリ触媒を用いているために、エステル中に脂肪酸塩(石けん分)を含有している。そのため、酸性領域の水溶液中において、これらの脂肪酸塩は脂肪酸として析出し、可溶化組成物の透明性を低下させたり、安定性を阻害し、分離や沈殿を生じたりするなど、十分な透明性を有する安定な可溶化組成物を得ることは困難であった。
【0009】
そこで、前記の方法の問題を解決し、酸性溶液中に油溶性物質を配合した場合であっても、安定な乳化組成物及び可溶化組成物を得る方法が望まれており、この方法に使用するための親水性乳化剤の開発が望まれている。
【特許文献1】特開2005−110599号公報
【特許文献2】特許第3534199号公報
【特許文献3】特開2008−119568号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、ポリグリセリン脂肪酸エステルを用い、食品、医薬品、化粧品の用途に利用することができる親水性乳化剤であって、酸性水溶液中に油溶性物質を配合した場合であっても、安定なO/W型乳化組成物及び可溶化組成物を与えることができる親水性乳化剤を提供することにある。本発明は、さらにこの親水性乳化剤を利用した食品、医薬品、化粧品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は鋭意研究を重ねた結果、ポリグリセリンと脂肪酸とをエステル化反応させる際に酸系触媒を使用したポリグリセリン脂肪酸エステルを用いることにより、前記課題を達成する親水性乳化剤が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、平均重合度2〜20のポリグリセリン及び脂肪酸を酸系触媒の存在下でエステル化反応させたポリグリセリン脂肪酸エステルを好ましくは80%以上含有する、pH4以下の酸性水溶液中において耐酸性を有する親水性乳化剤であって、構成脂肪酸が炭素数8〜22の飽和脂肪酸または炭素数16〜22の不飽和脂肪酸から選択される一種または二種以上からなり、かつ、エステル化率が30%以下である前記ポリグリセリン脂肪酸エステルを含有することを特徴とする親水性乳化剤である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の親水性乳化剤を用いることにより、酸性水溶液中に油溶性物質を配合した場合であっても、安定なO/W型乳化組成物及び可溶化組成物を得る技術が提供される。また、本発明の親水性乳化剤は、食品添加物として認可された原料から構成されるものであるため、安全性は高く、食品のみならず、医薬品、化粧品にも広く利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態をより詳細に説明するが、本発明の範囲はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で、変更等が加えられた形態も本発明に属する。
【0015】
本発明の親水性乳化剤を構成するポリグリセリン脂肪酸エステルは、ポリグリセリンと脂肪酸の混合物を、酸系触媒の存在下、加熱してエステル化させることにより合成することを特徴とする。酸系触媒を使用することで、水酸化ナトリウムなどのアルカリ触媒を用いて得られるポリグリセリン脂肪酸エステルに比べて、酸性水溶液中での耐酸性が向上する。
【0016】
さらに、酸系触媒の添加量は、0.005〜0.5重量%(全原材料の重量に対して)の範囲内にあることを特徴とする。より好ましくは、0.01〜0.2重量%の範囲内である。酸系触媒の添加量をこの範囲とすることにより、酸性領域での乳化及び可溶化性能が顕著に発揮される。酸系触媒の添加量が0.005重量%より少なくなると、酸性領域での乳化組成物及び可溶化組成物に十分な安定性を付与できない。また、0.5重量%より多くなると、得られるポリグリセリン脂肪酸エステルの色相及び臭気が著しく悪化し、食品などの最終製品への影響が大きくなる。
【0017】
酸系触媒は、好ましくは、無機酸であり、より好ましくは、食品添加物として使用し得る酸から選択される一種または二種以上からなる。酸系触媒としては、例えば、硫酸、塩酸、リン酸等を挙げることができ、中でも、リン酸が好適である。
【0018】
本発明のポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸は、炭素数8〜22の飽和脂肪酸または炭素数16〜22の不飽和脂肪酸から選択される一種または二種以上からなることを特徴とする。
【0019】
炭素数8〜22の飽和脂肪酸としては、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸を挙げることができ、中でも、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸が好適である。
【0020】
炭素数16〜22の不飽和脂肪酸としては、例えば、パルミトオレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸を挙げることができ、中でも、オレイン酸が好適である。なお、ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸には、本発明の目的とする効果が達成される範囲で、炭素数8〜22の飽和脂肪酸及び炭素数16〜22の不飽和脂肪酸以外の脂肪酸が少量含まれていても良い。
【0021】
ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成するポリグリセリンとしては、平均重合度(n)が2〜20のものが良く、好ましくは、平均重合度が4〜15である。ここで平均重合度(n)とは、末端分析法によって得られる水酸基価から算出される値であり、具体的には、下記(式1)及び(式2)から平均重合度(n)が算出される。
【0022】
(式1)分子量=74n+18
(式2)水酸基価=56110(n+2)/分子量
【0023】
前記(式2)中の水酸基価とは、エステル化物中に含まれる水酸基数の大小の指標となる数値であり、1g中のエステル化物に含まれる遊離ヒドロキシル基をアセチル化するために必要な酢酸を、中和するために要する水酸化カリウムのミリグラム数をいう。水酸化カリウムのミリグラム数は、社団法人日本油化学会編纂、「日本油化学会制定、規準油脂分析試験法(I)、2003年度版」に準じて算出される。
【0024】
本発明のポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、そのエステル化率が30%以下、好ましくは、25%以下のものが良い。ここでエステル化率とは、水酸基価から算出されるポリグリセリンの平均重合度(n)、ポリグリセリンに付加する脂肪酸のモル数(M)から、次式により算出される値である。
(M/(n+2))×100=エステル化率(%)
【0025】
本発明の親水性乳化剤は、ポリグリセリンと脂肪酸とを酸系触媒の存在下でエステル化反応させたポリグリセリン脂肪酸エステルを80%以上含有するのが好ましい。前記ポリグリセリン脂肪酸エステル以外を使用する場合、残分の乳化剤としては、多価アルコール脂肪酸エステルが有効に使用される。多価アルコール脂肪酸エステルとしては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどが挙げられ、これらは、一般的な製法により製造された汎用品で十分な効果が得られる。
【0026】
本発明の親水性乳化剤をO/W型乳化用途に使用する場合、先ず乳化剤と酸性領域の水相を混合、溶解し、この混合物に油相を滴下して使用することができる。乳化剤と水相の混合物を、ホモミキサー等の乳化機で撹拌しながら、油相を滴下すると、安定なO/W型乳化組成物を得ることができる。また、この用途に使用される親水性乳化剤は、1種または2種以上を組み合わせたものであってよい。
【0027】
本発明の親水性乳化剤を可溶化用途に使用する場合、先ず乳化剤と油溶性物質を混合し、この混合物を酸性水溶液に添加して使用することができる。また、酸性水溶液の代わりに酸性のアルコール水溶液に添加して使用することもできる。乳化剤と油溶性物質の混合物が添加された水相を、ホモミキサー等の乳化機または、マグネチックスターラー等の簡易な撹拌機を用いて撹拌することにより、油溶性物質が平均粒径0.1μmオーダー以下の微細粒子に分散され、透明性の高い可溶化組成物を得ることができる。また、この用途に使用される親水性乳化剤は、1種または2種以上を組み合わせたものであってよい。2種以上の乳化剤を組み合わせる場合、2種以上の乳化剤と油溶性物質を同時に混合することができる。
【0028】
本発明の親水性乳化剤は、植物性油脂、動物性油脂、及びこれらの混合物等、いずれの油溶性物質の乳化にも使用できる。植物性油脂としては、例えば、オリーブ油、からし油、小麦胚芽油、米ぬか油、ごま油、サフラワー油、大豆油、コーン油、菜種油、パーム油、ひまわり油、綿実油、ヤシ油、落花生油、ツバキ油、カカオ油等が挙げられる。動物性油脂としては、例えば、EPA油、DHA油、牛脂、鶏脂、豚脂、羊脂、まいわし油、さば油、たら油、鯨油等が挙げられる。本発明の親水性乳化剤により乳化される油溶性物質は、前記例示したような油溶性物質の1種類のみからなるものでもよいし、2種類以上の油溶性物質からなるものでもよい。
【0029】
本発明の親水性乳化剤は、植物性油脂、動物性油脂、及びこれらの混合物等、さらに、着色料、精油、香料、脂溶性ビタミン類、脂溶性薬剤、酸化防止剤、保存料、飽和または不飽和の高級アルコール、炭化水素類等、いずれの油溶性物質の可溶化にも使用できる。
【0030】
植物性油脂としては、例えば、オリーブ油、からし油、小麦胚芽油、米ぬか油、ごま油、サフラワー油、大豆油、コーン油、菜種油、パーム油、ひまわり油、綿実油、ヤシ油、落花生油、ツバキ油、カカオ油等が挙げられる。動物性油脂としては、例えば、EPA油、DHA油、牛脂、鶏脂、豚脂、羊脂、まいわし油、さば油、たら油、鯨油等が挙げられる。
【0031】
着色料としては、例えば、カカオ色素、βカロチン、パプリカ色素、アナトー色素、サフロールイエロー、リボフラビン、ラック色素、クルクミン、クロロフィル、ウコン色素等が挙げられる。
【0032】
精油及び香料としては、例えば、オレンジ油、レモン油、ライム油、ペパーミント油、スペアミント油、クローブ油、ジンジャー油、ハッカ油、ローズマリー油、スパイス油、ピネン、リナロール、リナリールアセテート、リモネン、シトラール、シトロネロール、オイゲノール、ゲラニオール、シンナミックアルデヒド、カンフェン、ボルネオール、メントール等が挙げられる。
【0033】
脂溶性ビタミン類及び脂溶性薬剤としては、例えば、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、あるいはこれらビタミン類の酢酸、酪酸、ニコチン酸、パルミチン酸等のエステル、βカロチン、CoQ10(ユビデカレノン)、エリスロマイシン、キサンタマイシン等の抗生物質、γ−オリザノール等が挙げられる。酸化防止剤としては、例えば、ミックストコフェロール、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、アスコルビン酸ステアリン酸エステル、γ−オリザノール、カテキン類等が挙げられる。
【0034】
保存料としては、例えば、デヒドロ酢酸等が挙げられる。飽和または不飽和の高級アルコールとしては、例えば、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セタノール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、イソステアリルアルコール、2−オクチルドデカノールオクタコサノール等が挙げられる。炭化水素類としては、例えば、流動パラフィン、流動イソパラフィン、セレシン、パラフィン、マイクロクリスタリンワックス、ワセリン、スクワラン、スクワレン等が挙げられる。本発明の親水性乳化剤により可溶化される油溶性物質は、前記例示したような油溶性物質の1種類のみからなるものでもよいし、2種類以上の油溶性物質からなるものでもよい。
【0035】
本発明の親水性乳化剤を使用した乳化組成物または可溶化組成物を含有する食品としては、例えば、パン、ケーキ、ビスケット、キャラメル、チューインガム、チョコレート、キャンディー、アイスクリーム、マーガリン、チーズ、乳飲料、マヨネーズ、サラダドレッシング等を挙げることができる。この他にも、本発明の親水性乳化剤は、清涼飲料水の香料、ビタミン等の可溶化にも用いることができる。また、本発明の食品には、健康食品や機能性食品も包含される。具体的には、粉剤、タブレット、細粒、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、流動食等の各種形態の食品が挙げられる。
【0036】
本発明の親水性乳化剤は、脂溶性医薬品や難水溶性医薬品等の医薬品の乳化または可溶化に使用することができる。本発明の親水性乳化剤を使用した乳化組成物または可溶化組成物を含有する医薬品としては、カプセル、軟膏、例えば乳化型基剤等を挙げることができる。
【0037】
本発明の親水性乳化剤を使用した乳化組成物または可溶化組成物を含有する化粧品としては、シャンプー、洗顔剤、歯磨き、ボディシャンプー等の洗浄を目的とするもの、コールドクリーム、バニシングクリーム等のクリーム状化粧品、乳液、化粧水等の基礎化粧品、仕上げ化粧品、例えばパーマネントウェーブ、整髪料、ヘアーリキッド、ヘアーリンス等の頭髪用化粧品、バスオイル等が挙げられる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例に基づき、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0039】
<合成例1>
実施例及び比較例で使用されるポリグリセリン脂肪酸エステルは、以下に示す方法により合成されたものである。すなわち、先ず、ポリグリセリン(阪本薬品工業株式会社製)及び脂肪酸の混合物を調製した。この混合物に触媒としてリン酸または水酸化ナトリウムを0.1%(混合物に対する重量%)添加し、その後、240〜250℃に昇温してエステル化反応を行い、実施例及び比較例で使用されるポリグリセリン脂肪酸エステルを調製した。ここで使用されるポリグリセリン、脂肪酸及び触媒の種類は、後記の実施例及び比較例に示されている。なお、エステル化反応は、窒素気流下において撹拌しながら、酸価が1以下となるまで行った。
【0040】
<試験方法1>
後記の実施例、比較例及び表に示される乳化剤1重量部をpH2のリン酸水溶液40重量部に溶解し、ホモミキサーで撹拌しながら70℃で油溶性物質60部を滴下し、乳化組成物(pH約3.5)を調製した。これらの乳化組成物を100mlスクリュー管に70g取り、20℃にて1日放置し、油の分離率より乳化安定性を評価した。
油の分離率=(分離した油の全長/乳化物の全長)×100(%)
【0041】
なお、下記の表1では以下の基準に基づき乳化安定性の評価結果を表している。
◎は分離率が2%未満、
○は分離率が2%以上5%未満、
△は分離率が5%以上20%未満、
×は分離率が20%以上であるものを示す。
【0042】
<実施例1〜8、比較例1〜8>
ポリグリセリンとして、デカグリセリンを用い、脂肪酸として、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸及びこれらの混合脂肪酸を用い、合成例1の方法によりエステル化反応を行った。このエステル化反応により得られたポリグリセリン脂肪酸エステルを乳化剤として用い、油溶性物質を用いて、試験方法1に従い、乳化安定性試験を行った。結果を表1に示す。なお、各実施例及び比較例で使用したポリグリセリンの種類、脂肪酸の種類、触媒の種類、脂肪酸のモル比、エステル化率及び油溶性物質の種類は、表1中に示されている。
【0043】
【表1】

【0044】
<試験方法2>
後記の実施例、比較例及び表に示される乳化剤と油溶性物質を室温で均一に混合した。得られた混合物を50℃のpH3の水溶液中に0.5重量%となるように添加し、ホモミキサーにて撹拌を行い、可溶化組成物を調製した。レーザー回折式粒度分布測定装置にて、この可溶化組成物中の油溶性物質粒子の平均粒子径を測定した。また、可溶化組成物の透明性を目視にて評価した。
【0045】
<試験方法3>
試験方法2において、pH3の水溶液の代わりに、pH3の20vol%アルコール水溶液を用いた以外は、同様の方法で評価を行った。
【0046】
なお、下記の表2では以下の基準に基づき評価結果を表している。
平均粒子径に関しては、
◎は平均粒子径が0.1μm未満、
○は平均粒子径が0.1μm以上0.2μm未満、
△は平均粒子径が0.2μm以上1.0μm未満、
×は平均粒子径が1.0μm以上であるものを示す。
可溶化物の透明性に関しては、◎は透明なもの、○はくすみがあるが透明性が高いもの、△は白濁しているもの、×は水相と油相が分離しているものを示す。
【0047】
<実施例9〜16、比較例9〜16>
ポリグリセリンとして、デカグリセリンを用い、脂肪酸として飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸を用い、合成例1の方法によりエステル化反応を行った。このエステル化反応により得られたポリグリセリン脂肪酸エステルを乳化剤として用い、油溶性物質を用いて、試験方法2及び3に従い、可溶化物の平均粒子径及び透明性を評価した。結果を表2に示す。なお、各実施例及び比較例で使用したポリグリセリンの種類、脂肪酸の種類、触媒の種類、脂肪酸のモル比、エステル化率、水相の種類、油溶性物質の種類、及び乳化剤と油溶性物質の混合比は、表2中に示されている。
【0048】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明によれば、酸性水溶液中に油溶性物質を配合した場合でも、安定な乳化組成物及び可溶化組成物を得る技術が提供される。また、これらの組成物は食品、医薬品、化粧品に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均重合度2〜20のポリグリセリン及び脂肪酸を酸系触媒の存在下でエステル化反応させたポリグリセリン脂肪酸エステルを含有するpH4以下の酸性水溶液中において耐酸性を有する親水性乳化剤であって、
前記ポリグリセリン脂肪酸エステルの構成脂肪酸が炭素数8〜22の飽和脂肪酸または炭素数16〜22の不飽和脂肪酸から選択される一種または二種以上からなり、かつ、エステル化率が30%以下であることを特徴とする親水性乳化剤。
【請求項2】
酸系触媒が、無機酸であることを特徴とする請求項1に記載の親水性乳化剤。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の親水性乳化剤を含有する食品、医薬品または化粧品。

【公開番号】特開2010−110660(P2010−110660A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−282748(P2008−282748)
【出願日】平成20年11月4日(2008.11.4)
【出願人】(390028897)阪本薬品工業株式会社 (140)
【Fターム(参考)】