説明

観察点焦点合わせ支援機能付きの工作機械

【課題】テレセントリック光学系顕微鏡システムを用いながらも、観察対象物に対する焦点合わせを容易に実施できるような観察点焦点合わせ支援機能付きの工作機械を提供すること。
【解決手段】落射照明用の光源と光路とが設けられたテレセントリック光学系顕微鏡システムと、前記テレセントリック光学系顕微鏡システムの画像を撮影するCCDカメラと、前記落射照明用の光路に対して斜め方向から第1スポット光を投影させる第1スポット光源と、前記落射照明用の光路に対して斜め方向から第2スポット光を投影させる第2スポット光源と、を備える。第1スポット光も第2スポット光も、テレセントリック光学系顕微鏡システムの焦点レベルにおいて、テレセントリック光学系顕微鏡システムの画像内に入るようになっている。第1スポット光と第2スポット光とは、テレセントリック光学系顕微鏡システムの焦点レベルにおいて、互いに交差するようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顕微鏡システムを用いて観察対象物(例えばワーク)を観察する機能を有する工作機械(スライサー、ダイシングマシン、旋盤、フライス盤)に関している。
【背景技術】
【0002】
本件発明者は、特願2010− 49407において、チャック上面にセットされるワークに対して、回転する研削砥石を相対移動させることで当該ワークを研削する研削盤であって、鉛直方向に移動可能な顕微鏡システムと、前記顕微鏡システムの画像を撮影するCCDカメラと、前記CCDカメラで撮影された画像を処理することによって前記顕微鏡システムの基準面と当該顕微鏡システムの観察対象物との鉛直方向距離を測定する画像処理装置と、を備え、前記画像処理装置は、前記顕微鏡システムのピントが合っているか否かの程度である鮮鋭度に基づいて、当該顕微鏡システムの基準面と観察対象物との鉛直方向距離を測定するようになっていることを特徴とする距離測定機能付きの研削盤を提案している。
【0003】
このような距離測定機能付きの研削盤によれば、顕微鏡システムの画像に基づいて当該顕微鏡システムの基準面と当該顕微鏡システムの観察対象物との鉛直方向距離が測定されるため、例えば顕微鏡システムの基準面とワークとの鉛直方向距離を測定するにあたって、ワーク損傷のおそれがなく、また、導電性がないワークにも適用できる。そして、研削砥石と顕微鏡システムの基準面との相互の位置関係を利用することで、研削砥石とワークとの鉛直方向距離を得ることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、顕微鏡システムに関して、対物レンズ付き顕微鏡システムが用いられる場合には、図6に示すように、いわゆる落射照明用の光が観察対象物に対してスポット状の光として照射されることになるため、観察対象物のどこが観察点であるのかを比較的容易に判別することができる。しかしながら、対物レンズ付き顕微鏡システムが用いられる場合には、いわゆるワーキングディスタンス(W.D.)が小さく(×20の対物レンズで、通常20mm程度)、当該距離まで対物レンズを観察対象物に近づける必要があるため、クーラントやミストが対物レンズに付着してしまうという問題がある。
【0005】
一方、図7に示すようなレンズ原理のテレセントリック光学系顕微鏡システムが用いられる場合には、ワーキングディスタンス(W.D.)が大きいため(通常50〜150mm程度)、前記のような問題は生じない。しかしながら、テレセントリック光学系顕微鏡システムが用いられる場合には、いわゆる落射照明用の光が平行光となるために、観察対象物に対する焦点合わせを容易に実施し難いという問題がある。
【0006】
本発明は、当該問題点に着目してなされたもので、その目的とするところは、テレセントリック光学系顕微鏡システムを用いながらも、観察対象物に対する焦点合わせを容易に実施できるような観察点特定機能付きの工作機械を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、落射照明用の光源と光路とが設けられたテレセントリック光学系顕微鏡システムと、前記テレセントリック光学系顕微鏡システムの画像を撮影するCCDカメラと、前記落射照明用の光路に対して斜め方向から第1スポット光を投影させる第1スポット光源と、前記落射照明用の光路に対して斜め方向から第2スポット光を投影させる第2スポット光源と、を備え、前記第1スポット光は、少なくとも前記テレセントリック光学系顕微鏡システムの焦点レベルにおいて、当該テレセントリック光学系顕微鏡システムの画像内に入るようになっており、前記第2スポット光も、少なくとも前記テレセントリック光学系顕微鏡システムの焦点レベルにおいて、当該テレセントリック光学系顕微鏡システムの画像内に入るようになっており、前記第1スポット光と前記第2スポット光とは、前記テレセントリック光学系顕微鏡システムの焦点レベルにおいて、互いに交差するようになっていることを特徴とする観察点特定機能付きの工作機械である。
【0008】
本発明によれば、テレセントリック光学系顕微鏡システムが用いられてワーキングディスタンス(W.D.)が大きいため、クーラントやミストが顕微鏡システムのレンズに付着するおそれが小さい一方で、第1スポット光と第2スポット光とがテレセントリック光学系顕微鏡システムの焦点レベルにおいて互いに交差する(重なる)ようになっているため、当該交点を識別(判別)することで、観察対象物に対する焦点合わせを容易に実施することができる。
【0009】
あるいは、本発明は、落射照明用の光源と光路とが設けられたテレセントリック光学系顕微鏡システムと、前記テレセントリック光学系顕微鏡システムの画像を撮影するCCDカメラと、前記落射照明用の光路に対して斜め方向から第1スポット光を投影させる第1スポット光源と、前記落射照明用の光路に対して斜め方向から第2スポット光を投影させる第2スポット光源と、を備え、前記第1スポット光は、少なくとも前記テレセントリック光学系顕微鏡システムの焦点レベルにおいて、当該テレセントリック光学系顕微鏡システムの画像内に入るようになっており、前記第2スポット光も、少なくとも前記テレセントリック光学系顕微鏡システムの焦点レベルにおいて、当該テレセントリック光学系顕微鏡システムの画像内に入るようになっており、前記第1スポット光と前記第2スポット光とは、前記テレセントリック光学系顕微鏡システムの焦点位置において、互いに最も接近するようになっていることを特徴とする観察点焦点合わせ支援機能付きの工作機械である。
【0010】
本発明によれば、テレセントリック光学系顕微鏡システムが用いられてワーキングディスタンス(W.D.)が大きいため、クーラントやミストが顕微鏡システムのレンズに付着するおそれが小さい一方で、第1スポット光と第2スポット光とがテレセントリック光学系顕微鏡システムの焦点レベルにおいて互いに最も接近するようになっているため、当該接近状態を識別(判別)することで、観察対象物に対する焦点合わせを容易に実施することができる。
【0011】
好ましくは、前記テレセントリック光学系顕微鏡システムと、前記第1スポット光源と、前記第2スポット光源とは、前記観察対象物に対して一体的に上下動するようになっている。この場合、これら構成要素間の相互の位置関係が固定されるので、焦点合わせの際に誤差が生じることが効果的に抑制される。
【0012】
また、好ましくは、前記落射照明用の光路に対して、前記第1スポット光源と前記第2スポット光源とは、互いに対称に配置される。この場合、第1スポット光と第2スポット光との互いの重なり乃至接近を、より明瞭に識別(判別)することができる。
【0013】
また、好ましくは、前記第1スポット光源と前記第2スポット光源とは、それぞれ、調光手段を有している。この場合、各スポット光の状態を、現場の明るさ等の状況に合わせて好適に調整することができる。
【0014】
また、好ましくは、前記第1スポット光源と前記第2スポット光源とは、互いに異なる色(波長)のスポット光を投影させるようになっている。この場合、光の色の組み合わせを好適に利用することができる。例えば、第1スポット光源として赤色光(R)のレーザ光源を用い、第2スポット光源として緑色光(G)のレーザ光源を用いる場合、それら二つのスポット光が重なる領域では黄色(Y)が識別(判別)されることになるため、第1スポット光と第2スポット光との互いの重なり乃至接近を、より明瞭に識別(判別)することができる。
【0015】
また、好ましくは、前記第1スポット光源と前記第2スポット光源とは、互いに異なるスポット径の光を投影させるようになっている。例えば、大径のスポット光の中に小径のスポット光が重なるように投影される状況は、識別(判別)がより容易であると言える。この場合、二つのスポット光の色が異なれば、さらに識別(判別)が容易である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、テレセントリック光学系顕微鏡システムが用いられてワーキングディスタンス(W.D.)が大きいため、クーラントやミストが顕微鏡システムのレンズに付着するおそれが小さい一方で、第1スポット光と第2スポット光とがテレセントリック光学系顕微鏡システムの焦点レベルにおいて互いに交差するようになっているため、当該交点を識別(判別)することで、観察対象物に対する焦点合わせを容易に実施することができる。
【0017】
あるいは、本発明によれば、テレセントリック光学系顕微鏡システムが用いられてワーキングディスタンス(W.D.)が大きいため、クーラントやミストが顕微鏡システムのレンズに付着するおそれが小さい一方で、第1スポット光と第2スポット光とがテレセントリック光学系顕微鏡システムの焦点レベルにおいて互いに最も接近するようになっているため、当該接近状態を識別(判別)することで、観察対象物に対する焦点合わせを容易に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施の形態における観察点焦点合わせ支援機能付きのスライサー(工作機械)の概略図である。
【図2】図1のテレセントリック光学系顕微鏡システムとその周辺要素を示す概略図である。
【図3】第1スポット光と第2スポット光の見え方を説明する図である。
【図4】他の実施の形態の第1スポット光と第2スポット光の見え方を説明する図である。
【図5】更に他の実施の形態の第1スポット光と第2スポット光の見え方を説明する図である。
【図6】対物レンズから出るスポット光を説明するための概略図である。
【図7】テレセントリックレンズの原理を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の一実施の形態における観察点焦点合わせ支援機能付きのスライサー(工作機械)の概略図である。図2は、図1のテレセントリック光学系顕微鏡システムとその周辺要素を示す概略図である。
【0020】
図1及び図2に示すように、本実施の形態によるスライサー10は、ワークWがセットされるチャック上面11を備えている。チャック上面11は、X方向(図1の左右方向)及びY方向(図1の紙面に垂直な方向)にそれぞれ平行移動可能となっている。さらに、チャック上面11は、XY平面内において、不図示の回転軸まわりに回転可能となっている(Rの自由度をも有している)。
【0021】
そして、本実施の形態によるスライサー10は、回転する薄刃ブレード12を備えており、当該回転する薄刃ブレード12の回転軸を相対移動させることによって、ワークWをスライスすることができるようになっている。
【0022】
また、本実施の形態によるスライサー10は、鉛直方向に移動可能なテレセントリック光学系顕微鏡システム21を備えている。テレセントリック光学系顕微鏡システム21には、当該テレセントリック光学系顕微鏡システム21の画像を撮影するCCDカメラ22が接続されている。そして、CCDカメラ22には、当該CCDカメラ22で撮影された画像を処理することによって観察対象物、ここではワークWの上面、を観察する画像処理装置23が接続されている。画像処理装置23は、ここでは、観察対象物(ワークWの上面)の観察の結果として、テレセントリック光学系顕微鏡システム21の基準面21sと観察対象物(ワークWの上面)との鉛直方向距離を測定できるようになっている。もっとも、画像処理装置23の代わりに、単なるモニタテレビが接続されていてもよい。
【0023】
テレセントリック光学系顕微鏡システム21は、固有のワーキングディスタンス(W.D.)が大きいという特徴を有する。また、テレセントリック光学系顕微鏡システム21は、固有の被写界深度において、オートフォーカス機能を有する。
【0024】
また、図2に示すように、テレセントリック光学系顕微鏡システム21には、落射照明用の光源21aが設けられており、当該光源21aからプリズム21pを経て観察対象物(ワークWの上面)に至る光路21wが形成されている。
【0025】
さらに、図2に示すように、落射照明用の光路21wに対して斜め方向から第1スポット光を投影させる第1スポット光源61と、落射照明用の光路21wに対して斜め方向から第2スポット光を投影させる第2スポット光源62と、が設けられている。第1スポット光源61及び第2スポット光源62は、不図示の支持機構によってテレセントリック光学系顕微鏡システム21と一体的に支持固定されていて、テレセントリック光学系顕微鏡システム21と一体的に上下移動するようになっている。また、本実施の形態では、落射照明用の光路21wに対して、第1スポット光源61と第2スポット光源62とは、互いに対称に配置されている。
【0026】
第1スポット光は、テレセントリック光学系顕微鏡システムの焦点レベルにおいて、当該テレセントリック光学系顕微鏡システム21の画像内(撮像領域内)に入るようになっており、第2スポット光も、テレセントリック光学系顕微鏡システムの焦点レベルにおいて、当該テレセントリック光学系顕微鏡システム21の画像内に入るようになっている。そして、図3の(b)に示すように、第1スポット光と第2スポット光とは、テレセントリック光学系顕微鏡システム21の焦点レベルにおいて、互いに交差するようになっている。図3の(a)及び(c)に示すように、テレセントリック光学系顕微鏡システム21の焦点レベルより上方ないし下方では、第1スポット光と第2スポット光とは互いに離れて観察される。
【0027】
各スポット光源61、62は、本実施の形態では、スポット径が小さいレーザ光のレーザ光源である。また、スポット光は、識別がより容易であるように、可視の有色光であることが好ましい。さらに、2つのスポット光は、互いに異なる色(波長)のスポット光であることが好ましい。この場合、交差状態となる時に2つのスポット光が別の色に見えるので、交差状態を識別(判別)することがより容易である。例えば、第1スポット光源61は、赤色光のレーザ光源であり、第2スポット光源は、緑色光のレーザ光源であることが好ましい。この場合、2つのスポット光が交差状態となる時、黄色光となるため、交差状態を識別(判別)することがより容易である。
【0028】
画像処理装置23は、本実施の形態では、パネルPC23aと、画像入力ボード23bと、を有している。CCDカメラ22からの映像(画像)は、画像入力ボード23bを介してパネルPC23aに取り込まれ、当該パネルPC23aによって各種画像診断が可能となっている。例えば、スライス加工後のワークの状態について、各種の評価を行うことができる。
【0029】
さらに、パネルPC23aは、画像処理プログラムによって、各取得画像の鮮鋭度を評価するようになっていてもよい。画像の鮮鋭度とは、ピントが合っているか否かの程度を示す指標であり、画像とその画像を上下右左にわずかにオフセットした画像との絶対差や相関係数などによって評価できることがレンズ関連業者に知られている。この場合、テレセントリック光学系顕微鏡システム21の取得画像の鮮鋭度が評価される。テレセントリック光学系顕微鏡システム21の取得画像の鮮鋭度が最も高い状態である時こそ、テレセントリック光学系顕微鏡システム21の基準面とテレセントリック光学系顕微鏡システム21の観察対象物(ここではワークWの上面)との距離が、テレセントリック光学系顕微鏡システム固有のワーキングディスタンス(W.D.)に一致している状態に対応する。すなわち、そのような状態が得られる時のテレセントリック光学系顕微鏡システム21の鉛直方向位置において、パネルPC23aは、テレセントリック光学系顕微鏡システム21の基準面21sとワークWの上面との鉛直方向距離を、テレセントリック光学系顕微鏡システム固有のワーキングディスタンス(W.D.)として測定できる(対応付けることができる)。
【0030】
また、本実施の形態の画像処理装置23は、NC装置31に接続され得る。例えば、画像処理装置23は、NC装置31から、テレセントリック光学系顕微鏡システム21の基準面に関する座標値を取得するようになっている。そして、画像処理装置23は、当該テレセントリック光学系顕微鏡システム21の基準面21sに関する座標値と、前記測定された鉛直方向距離(テレセントリック光学系顕微鏡システム固有のワーキングディスタンス(W.D.))とに基づいて、ワークWの上面の座標値を決定するようになっている。そして、画像処理装置23は、当該ワークWの上面の座標値をNC装置31に送るようになっている。
【0031】
画像処理装置23の代わりに単なるモニタテレビが接続されている場合には、オペレータが目視で直接的にワークの状態を観察ないし評価できる。
【0032】
また、本実施の形態のテレセントリック光学系顕微鏡システム21は、薄刃ブレード12の回転軸(主軸)を軸支する固定部材13に(少なくともZ軸方向において)固定されており、当該固定部材13と一体に鉛直方向移動するようになっている。これにより、テレセントリック光学系顕微鏡システム21の基準面21sとワークWの上面との鉛直方向距離を、直接的に、薄刃ブレード12の基準面(例えば下限)とワークWの上面との鉛直方向距離に換算することができる。
【0033】
そして、NC装置31は、薄刃ブレード12の回転軸(主軸)を軸支する固定部材13及びテレセントリック光学系顕微鏡システム21の鉛直方向の移動を制御する駆動制御部41に接続されていて、当該駆動制御部41を制御するようになっていてよい。
【0034】
例えば、NC装置31は、駆動制御部41を介して、固定部材13及びテレセントリック光学系顕微鏡システム21を鉛直方向に連続的に走査させるようになっている。そして、画像処理装置23が、当該走査中のテレセントリック光学系顕微鏡システム21の画像を所定の時間間隔で連続的に取得すると共に、取得した各画像の鮮鋭度に基づいて鮮鋭度のピークを示す画像を特定することによって、テレセントリック光学系顕微鏡システム21の基準面21sとワークWの上面との鉛直方向距離を測定するようになっている。具体的には、当該走査中の鮮鋭度のピークをもたらすテレセントリック光学系顕微鏡システム21の位置において、テレセントリック光学系顕微鏡システム21の基準面とワークWの上面との鉛直方向距離=テレセントリック光学系顕微鏡システム固有のワーキングディスタンス(W.D.)を決定(測定)するようになっている。
【0035】
次に、以上のような本実施の形態の作用について説明する。
【0036】
まず、薄刃ブレード12の回転軸(主軸)を軸支する固定部材13及びテレセントリック光学系顕微鏡システム21が、NC装置31の制御に従って、駆動制御部41を介して鉛直方向に移動(走査)される。当該走査中、図3の(b)に示すように、第1スポット光と第2スポット光とが互いに交差することを識別(判別)することによって、テレセントリック光学系顕微鏡システム21の焦点合わせを極めて容易に行うことができる。焦点合わせがなされた時、テレセントリック光学系顕微鏡システム21の基準面とワークWの上面との鉛直方向距離=テレセントリック光学系顕微鏡システム固有のワーキングディスタンス(W.D.)となっている。
【0037】
あるいは、所定の時間間隔で、テレセントリック光学系顕微鏡システム21の画像がCCDカメラ22を介して画像処理装置23に取得され、画像処理装置23が、得られた各画像について、COGNEXというプログラムで処理して、テレセントリック光学系顕微鏡システム21のピントが合っているか否かの程度である鮮鋭度を把握してもよい。そして、鮮鋭度のピークを示す画像を特定することによって、テレセントリック光学系顕微鏡システム21の基準面とワークWの上面との鉛直方向距離が測定される。具体的には、当該走査中の鮮鋭度のピークをもたらすテレセントリック光学系顕微鏡システム21の位置において、テレセントリック光学系顕微鏡システム21の基準面21sとワークWの上面との鉛直方向距離を、テレセントリック光学系顕微鏡システム固有のワーキングディスタンス(W.D.)として決定(測定)してもよい。この場合、画像処理装置23は、当該測定時点におけるテレセントリック光学系顕微鏡システム21の基準面21sに関する座標値を、NC装置31からを取得する。そして、当該基準面の座標値と前記測定された鉛直方向距離(テレセントリック光学系顕微鏡システム固有のワーキングディスタンス(W.D.))とに基づいて、ワークWの上面の座標値を決定する。さらに、画像処理装置23は、決定したワークWの上面の座標値をNC装置31に送る。これにより、自動的にNC加工制御用のデータ(座標値)を作成することができる。
【0038】
ここで、本実施の形態によれば、各スポット光源61、62によるスポット光(例えば異なる色のレーザ光)が交差状態となるレベル(位置)を識別することにより、テレセントリック光学系顕微鏡システム21の焦点レベルを容易に識別することができ、すなわち、テレセントリック光学系顕微鏡システム21の焦点合わせを極めて容易に行うことができる。これにより、観察対象物の観察点を容易に特定(判別)することができる。すなわち、ワークWのどの位置について観察がなされているのかを、容易に識別することができる。従って、識別結果に応じて、XY平面内においてワークWを平行移動することが容易である。
【0039】
なお、各スポット光源61、62によるスポット光の照射は、作業の安全や省エネルギー等のため、必要な時にのみ行われることが好ましい。例えば、各スポット光源61、62からのスポット光の照射を遮断ないし調光するための開閉可能なシャッタないし公知の他の調光手段が設けられることが好ましい。
【0040】
以上のような本実施の形態によれば、テレセントリック光学系顕微鏡システム21が用いられてワーキングディスタンス(W.D.)が大きいため、クーラントやミストが顕微鏡システムのレンズに付着するおそれが小さい一方で、第1スポット光と第2スポット光とがテレセントリック光学系顕微鏡システムの焦点レベルにおいて互いに交差する(重なる)ようになっているため、当該交点を識別(判別)することで、観察対象物に対する焦点合わせを容易に実施することができる。
【0041】
なお、第1スポット光と第2スポット光とがテレセントリック光学系顕微鏡システムの焦点レベルにおいて互いに交差する代わりに、両者が互いに最接近する場合においても、本発明の作用効果が期待できる。そのような場合の第1スポット光と第2スポット光の見え方を図4に示す。
【0042】
また、第1スポット光源と第2スポット光源とは、互いに異なるスポット径の光を投影させるようになっていることが好ましい場合もある。そのような場合の第1スポット光と第2スポット光の見え方を図5に示す。
【0043】
なお、以上の実施の形態において、テレセントリック光学系顕微鏡システム21の画像に基づいて、テレセントリック光学系顕微鏡システム21の基準面21sとワークWの上面との鉛直方向距離が測定されれば、薄刃ブレード12とテレセントリック光学系顕微鏡システム21の基準面21sとの相互の位置関係を利用することで、薄刃ブレード12とワークWとの鉛直方向距離を得ることができる。
【0044】
特に、テレセントリック光学系顕微鏡システム21が、駆動制御部41を介して鉛直方向に移動(走査)されれば、鮮鋭度のピークをもたらすテレセントリック光学系顕微鏡システム21の位置におけるテレセントリック光学系顕微鏡システム21の基準面21sとワークWの上面との鉛直方向距離が測定され、測定を半自動的に行うことができる。
【0045】
また、より正確に座標値データを得るためには、テレセントリック光学系顕微鏡システム21の鉛直方向の移動(走査)の回数を複数にすることが推奨される。もっとも、単に複数回の走査を行うより、例えば、NC装置31が、駆動制御部41を介して、テレセントリック光学系顕微鏡システム12を鉛直方向に1回粗く(速く)走査させ、画像処理装置23が、当該粗い走査中のテレセントリック光学系顕微鏡システム21の画像を所定の時間間隔で連続的に取得すると共に、取得した各画像の鮮鋭度に基づいて鮮鋭度のピークを示す画像を特定すると共に、当該画像に対応する鉛直方向位置を含む領域を抽出し、NC装置31が、再び駆動制御部41を介して、前記領域についてテレセントリック光学系顕微鏡システム21を鉛直方向に少なくとも1回微細に(ゆっくり)再走査させ、画像処理装置23が、当該微細な走査中のテレセントリック光学系顕微鏡システム21の画像を所定の時間間隔で連続的に取得すると共に、取得した各画像の鮮鋭度に基づいて鮮鋭度のピークを示す画像を特定することによって、テレセントリック光学系顕微鏡システム21の基準面21sと観察対象物との鉛直方向距離を測定するようになっていることが好ましい。このような態様により、半自動的に、正確かつ迅速に、テレセントリック光学系顕微鏡システム21の基準面と観察対象物との鉛直方向距離を測定することができる。
【0046】
また、前記の実施の形態において用いられるテレセントリック光学系顕微鏡システム21の被写界深度については、浅い(小さい)値であることが好ましいことが、本件発明者による実際の実験で確認されている。具体的には、被写界深度が70μmであるテレセントリック光学系顕微鏡システムを用いた場合の距離測定誤差は、20μm〜30μmであったのに対して、被写界深度が17μmであるテレセントリック光学系顕微鏡システムを用いた場合の距離測定誤差は、5μm程度であった。従って、より高精度の加工が要求されるスライサーでは、被写界深度が浅いテレセントリック光学系顕微鏡システムを用いることが推奨される。具体的には、5μm〜20μm程度の被写界深度が好適である。
【符号の説明】
【0047】
10 観察点焦点合わせ支援機能付きのスライサー
11 チャック上面
12 薄刃ブレード
13 固定部材
21 テレセントリック光学系顕微鏡システム
21s 基準面
21a 落射照明用の光源
21p プリズム
21w 落射照明用の光路
22 CCDカメラ
23 画像処理装置
23a パネルPC
23b 画像入力ボード
31 NC装置
41 駆動制御部
61、62 スポット光源(レーザ光源)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
落射照明用の光源と光路とが設けられたテレセントリック光学系顕微鏡システムと、
前記テレセントリック光学系顕微鏡システムの画像を撮影するCCDカメラと、
前記落射照明用の光路に対して斜め方向から第1スポット光を投影させる第1スポット光源と、
前記落射照明用の光路に対して斜め方向から第2スポット光を投影させる第2スポット光源と、
を備え、
前記第1スポット光は、少なくとも前記テレセントリック光学系顕微鏡システムの焦点レベルにおいて、当該テレセントリック光学系顕微鏡システムの画像内に入るようになっており、
前記第2スポット光も、少なくとも前記テレセントリック光学系顕微鏡システムの焦点レベルにおいて、当該テレセントリック光学系顕微鏡システムの画像内に入るようになっており、
前記第1スポット光と前記第2スポット光とは、前記テレセントリック光学系顕微鏡システムの焦点レベルにおいて、互いに交差するようになっている
ことを特徴とする観察点焦点合わせ支援機能付きの工作機械。
【請求項2】
落射照明用の光源と光路とが設けられたテレセントリック光学系顕微鏡システムと、
前記テレセントリック光学系顕微鏡システムの画像を撮影するCCDカメラと、
前記落射照明用の光路に対して斜め方向から第1スポット光を投影させる第1スポット光源と、
前記落射照明用の光路に対して斜め方向から第2スポット光を投影させる第2スポット光源と、
を備え、
前記第1スポット光は、少なくとも前記テレセントリック光学系顕微鏡システムの焦点レベルにおいて、当該テレセントリック光学系顕微鏡システムの画像内に入るようになっており、
前記第2スポット光も、少なくとも前記テレセントリック光学系顕微鏡システムの焦点レベルにおいて、当該テレセントリック光学系顕微鏡システムの画像内に入るようになっており、
前記第1スポット光と前記第2スポット光とは、前記テレセントリック光学系顕微鏡システムの焦点位置において、互いに最も接近するようになっている
ことを特徴とする観察点焦点合わせ支援機能付きの工作機械。
【請求項3】
前記テレセントリック光学系顕微鏡システムと、前記第1スポット光源と、前記第2スポット光源とは、前記観察対象物に対して一体的に上下動するようになっている
ことを特徴とする請求項1または2に記載の観察点焦点合わせ支援機能付きの工作機械。
【請求項4】
前記落射照明用の光路に対して、前記第1スポット光源と前記第2スポット光源とは、互いに対称に配置されている
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の観察点焦点合わせ支援機能付きの工作機械。
【請求項5】
前記第1スポット光源と前記第2スポット光源とは、それぞれ、調光手段を有している
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の観察点焦点合わせ支援機能付きの工作機械。
【請求項6】
前記第1スポット光源と前記第2スポット光源とは、互いに異なる色のスポット光を投影させるようになっている
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の観察点焦点合わせ支援機能付きの工作機械。
【請求項7】
前記第1スポット光源は、赤色光のレーザ光源であり、
前記第2スポット光源は、緑色光のレーザ光源である
ことを特徴とする請求項6に記載の観察点焦点合わせ支援機能付きの工作機械。
【請求項8】
前記第1スポット光源と前記第2スポット光源とは、互いに異なるスポット径の光を投影させるようになっている
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の観察点焦点合わせ支援機能付きの工作機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−88375(P2012−88375A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−232623(P2010−232623)
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【出願人】(000003458)東芝機械株式会社 (843)
【Fターム(参考)】