説明

観察装置

【課題】一方向のみの電荷の受け渡しに対応した撮像素子を用いた場合において撮像を短時間で行うことができる、観察装置を提供する。
【解決手段】被検物を保持するステージと、タイム・ディレイ・インテグレーション方式により被検物を撮像可能な撮像部と、被検物と撮像部とを相対移動させる移動機構と、被検物からの戻り光による像を回転可能な回転機構と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、観察装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、高速で移動する物体の観察、生体試料の蛍光観察、或いはミクロン単位の微細な欠陥の観察する観察装置の撮像方法として、高感度且つ高速で画像を取得可能な、タイム・ディレイ・インテグレーション(Time Delay Integration:TDI)方式が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このようなTDI方式で用いられる撮像素子は、一般的に、一方向からの電荷の受け渡しのみに対応している。また、撮像素子は、被検物に対してXY平面内にて二次元走査するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4020893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のような一方向のみの電荷の受け渡しに対応した撮像素子は、例えば電荷の受け渡し方向に一致する往路(+X方向)の走査ではTDI方式の検出が可能であるが、電荷の受け渡し方向と逆となる復路(−X方向)の走査ではTDI方式の検出ができなかった。そのため、被検物上を通過する復路分の時間だけ撮像時間が長くなってしまうといった問題があった。また、二方向からの電荷の受け渡しに対応した撮像素子に置き換えることも考えられるが、このような撮像素子は高価であるとともに往路及び復路でのゲインを合わせる手間が煩雑であるといった問題があるため実用性に乏しいといった問題があった。
【0006】
本発明の態様は、一方向のみの電荷の受け渡しに対応した撮像素子を用いた場合において撮像を短時間で行うことができる、観察装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るに観察装置は、被検物を保持するステージと、タイム・ディレイ・インテグレーション方式により前記被検物からの光による像を撮像可能な撮像部と、前記被検物と前記撮像部とを相対移動させる移動機構と、前記相対移動に伴う前記像の移動方向が、前記撮像部の電荷転送方向と一致するように、前記像を回転可能に構成された回転機構と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の態様によれば、一方向のみの電荷の受け渡しに対応した撮像素子を用いた場合において撮像を短時間で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】顕微鏡装置の全体構成を示す斜視図。
【図2】ステージに保持されている基板の形状を示す図。
【図3】撮像素子の構成を示す図。
【図4】TDI方式の撮像動作時の撮像素子の動きの説明図。
【図5】TDI方式の信号電荷の転送状態を説明図。
【図6】撮像素子に蓄積される信号電荷の電荷量の変化を示す図。
【図7】従来構成の撮像素子のスキャン方式の説明図。
【図8】第二実施形態に係るステージの概略構成を示す図。
【図9】第二実施形態に係るTDI方式の撮像動作の説明図。
【図10】観察装置の変形例に係る構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、本実施形態では、観察装置として、TDI方式を用いた顕微鏡装置を例に挙げて説明する。以下の各図において、観察装置の構成を説明するにあたり、XYZ空間座標系を用いる場合がある。本実施形態では、観察装置が載置される床面に平行な方向をそれぞれX方向及びY方向とし、当該床面(XY平面)に垂直な方向をZ方向とする。ただし、X軸及びY軸は、直交している。
【0011】
図1は本実施形態に係る顕微鏡装置1の全体構成を示す斜視図である。図1に示すように、顕微鏡装置1は、基板ステージ2と、基板ステージ2を移動させるステージ駆動部3と、照明装置4と、撮像装置5と、回転機構6と、を備えている。
【0012】
基板ステージ2は、基板Sを保持するとともに、ステージ駆動部3により撮像装置5に対して移動可能になっている。基板ステージ2の基板Sの表面には、XY方向に沿ってスケール21が形成されている。計測部22は、計測結果を制御部CONTに出力する。制御部CONTでは、計測部22による計測結果に基づいて基板ステージ2のX,Y方向の位置を求めることができるようになっている。このように、スケール21、計測部22及び制御部CONTにより、基板ステージ2のX,Y方向における位置を検出する位置検出部が構成されている。
【0013】
ステージ駆動部3は、制御部CONTと電気的に接続されている。ステージ駆動部3は、基板ステージ2を駆動するアクチュエータである。ステージ駆動部3としては、例えばリニアモータ機構などを用いることができる。ステージ駆動部3は、制御部CONTの制御(移動量、移動のタイミングなど)に基づいて、基板ステージ2をXY方向に移動させる。このような構成に基づき、撮像装置5は基板ステージ2上の基板Sに対し、相対的に移動するようになっている。
【0014】
照明装置4は基板Sに所定の励起光を照射するものであり、例えばケーラー照明が可能なコンポーネントを有している。照明装置4が照射した励起光は、ダイクロイックミラー8により反射された後、対物レンズ7を介して基板Sに照射される。ダイクロイックミラー8は、基板Sからの戻り光(蛍光)を透過させるようになっている。
【0015】
撮像装置5は、投影レンズ50、撮像素子51、対物レンズ7、及びダイクロイックミラー8を含む。対物レンズ7は、基板ステージ2と対向する位置に配置されている。投影レンズ50には、ダイクロイックミラー8を透過した基板Sからの戻り光(蛍光)が入射する。投影レンズ50は、入射した光を所定の位置に集光(結像)する。撮像素子51は、基板Sからの戻り光を検知可能な位置に配置されている。
【0016】
図2(a)は基板ステージ2に保持されている基板Sの形状を示す図であり、図2(b)は、基板Sの要部を示す拡大断面図である。基板Sは、いわゆるマイクロアレイチップと呼ばれる板状部材であり、例えば矩形に形成されている。
【0017】
基板Sは、例えばガラス板やプラスチック板などの材料で形成されている。基板Sは、一方向に長手となるように形成されている。基板Sは、当該長手方向がX方向に平行になるように基板ステージ2に保持されている。基板Sの表面Saには、標本載置部110がマトリクス状に形成されている。このように、マトリクス状に配置された複数の標本載置部110により、基板Sに標本列110Lが形成されている。
【0018】
標本載置部110は、Z方向視で例えば円形に形成されている。そして、標本載置部110内には、図2(b)に示すように、測定対象である試料100として、例えば、所定の反応を触媒する酵素と、その反応によって光応答性物質へ変化する基質が配置されている。試料100は、照明装置4から所定の励起光が照射されると励起されて蛍光を発する。
【0019】
図3は撮像素子51の構成を示す図であり、図3(a)は平面図を示し、図3(b)は撮像素子51の画素53と標本載置部110との対応関係を説明するための図である。撮像装置5の撮像素子51は、図3(a)に示すように、複数の画素53を備えたCCDカメラから構成されるものである。具体的に、撮像素子51は、ライン状に配列された複数の画素53が垂直方向にも複数列配置されることで構成されている。本実施形態では、例えば、1024×128画素、すなわち1024個の画素53がライン状にY方向に沿って配列された画素ライン53Rと、該画素ライン53Rが垂直方向に128列配置された画素列53Lとを含む撮像素子51を用いた。撮像素子51は、後述のように、基板ステージ2の移動に対応して、画素列53L単位で信号電荷の転送をすることでTDI方式による撮像を行うことができる。
【0020】
撮像素子51の画素53の画素サイズは、図3(b)に示すように、標本載置部110の外径に対応しており、平面視した状態で画素53内に標本載置部110が配置される大きさとなっている。また、画素53のX,Y方向に沿った配列ピッチは、基板Sの標本載置部110の配置ピッチに対応している。ここで、標本載置部110の外径及び配置ピッチに対応するとは、投影レンズ50を介して拡大又は縮小した状態の標本載置部110と画素53との外径又はピッチとを比較する場合も含むことを意味する。なお、図3(a)に示した撮像素子51により撮像される領域は、顕微鏡装置1における視野領域に相当するものである。
【0021】
図1に戻って、回転機構6は、イメージローテータをなすプリズム部60と、該プリズム部60を回転可能な状態に保持する保持部61と、を有している。回転機構6(プリズム部60)は、撮像装置5の投影レンズ50とダイクロイックミラー8との間における試料100からの戻り光(蛍光)の光路の途中に配置されている。回転機構6の保持部61は、制御部CONTに電気的に接続されている。これにより、制御部CONTは、プリズム部60の回転角度を種々に制御可能となっている。
【0022】
プリズム部60は、入射する試料100からの戻り光を所定角度だけ回転させた状態で射出可能な特徴を有している。試料100の観察画像における回転角度は、保持部61に保持されたプリズム部60における入射面の位置に応じて変化するようになっている。プリズム部60の回転角度と試料100からの戻り光の回転角度とは、例えばプリズム部60を初期状態から90°だけ回転させるとプリズム部60を透過後の光が180°回転するといった所定の関係を有している。このようにプリズムの回転角に比例して像が回転する機能を持つプリズムとして台形柱状の形状を持つタブプリズムがある。
【0023】
このような構成に基づき、回転機構6は、保持部61がプリズム部60の回転角度を変更することで試料100からの蛍光像を所望の角度だけ回転させることが可能となっている。
【0024】
続いて、撮像装置5によるTDI方式の撮像動作について説明する。
図4は、基板Sに対する撮像素子51の動作を説明するための図である。また、図5(a)〜(c)は、TDI方式の信号電荷の転送の概念を説明するための図である。また、図6(a)〜(c)は、撮像素子51のスキャン方向における第一列目、第ニ列目、及び第三列目を構成する画素53に蓄積される信号電荷の電荷量の変化を示す図である。なお、本実施形態においては基板ステージ2を動かすことで撮像装置5(撮像素子51)と基板Sとを相対移動させるようにしている。しかしながら、図4〜6においては、図示の容易化のため、撮像素子51が試料100上を移動する形態で示すものとする。
【0025】
また、本実施形態では、ステージ駆動部3が基板ステージ2を移動させることで撮像素子51と試料100とを相対移動可能な構成としたが、ステージ駆動部3が基板ステージ2上の試料100に対して撮像素子51のみを移動させる構成であっても構わない。
【0026】
図4に示すように、撮像素子51は、基板Sの移動方向における上流端(+X方向の端部)側から下流端側に向かって当該基板S上を相対移動することで撮像を行う。
【0027】
まず撮像を開始すると、図5(a)に示されるように、基板Sの移動方向先端の標本列110Lの標本載置部110aが撮像素子51の移動方向(以下、スキャン方向(−X方向)と呼ぶ場合もある)における第一列目53L1の画素53上に投影される。すると、第一列目53L1の画素53には、図6(a)に示すように、標本載置部110aからの蛍光に対応した強度の信号電荷が蓄積される。
【0028】
図5(b)に示すように、撮像素子51がスキャン方向に沿って画素列53Lの一つ分だけ移動すると、図6(b)に示すように、撮像素子51の移動と同時に、第一列目53L1の画素53に蓄積された信号電荷は、スキャン方向とは反対方向である(撮像素子51に形成された像の移動方向と同じ方向)第二列目53L2の画素53に転送される。そして、標本載置部110aからの蛍光が、第一列目53L1及び第二列目53L2の画素53によって撮影される。なお、第一列目53L1の画素53は、基板Sの2列目の標本載置部110b(図3(b)参照)からの蛍光を撮像している。
【0029】
したがって、第二列目53L2の画素53には、図5(b)に示すように、前回時に蓄積された信号電荷と今回の撮影時に蓄積された信号電荷が加算されることになる。つまり、第二列目53L2の画素53には、前回及び今回の撮影で得られた信号電荷が累積される。その結果、画素列が1列のみである撮像素子と比較して、2倍の強度の信号電荷を得ることができる。このように、図5(a)に示す状態から、図5(b)に示す状態のように電荷転送が行われる。
【0030】
さらに、図5(c)に示すように、撮像素子51がスキャン方向に沿って画素列53Lの一つ分だけ移動すると、標本載置部110aの撮像が続行される。このとき、図5(c)に示すように、撮像素子51の移動と同時に、第二列目53L2の画素53に蓄積された信号電荷が、第三列目53L3の画素53に転送される。また、第一列目53L1の画素53に蓄積された信号電荷が、スキャン方向とは反対方向である第二列目53L2の画素53に転送される(電荷転送方向と撮像素子51に形成された像の移動方向とは、同じ方向である)。そして、標本載置部110aからの蛍光が、第一列目53L1、第ニ列目53L2、及び第三列目53L3によって撮影される。このとき、第ニ列目53L2の画素53は、基板Sの2列目の標本載置部110b(図3(b)参照)からの蛍光を撮像し、第一列目53L1の画素53は、基板Sの3列目の標本載置部110c(図3(b)参照)からの蛍光を撮像する。
【0031】
したがって、第三列目53L3の画素53には、図6(c)に示すように、今回の撮影時に得られた信号電荷が、加算されていくことになる。よって、第三列目53L3の画素53には、前々回、前回及び今回の撮影で得られた信号電荷が、蓄積される。つまり、画素列が1列のみである撮像素子と比較して、3倍の強度の信号電荷を得ることができる。なお、第二列目53L2の撮像素子51には、前回及び今回の撮影時に得られた信号電荷が蓄積される。
【0032】
撮像装置5は、1つの標本載置部110に対して上記動作を撮像素子51の画素列53Lの数(128個)だけ繰り返し行うこととなる。これにより、標本載置部110の同一箇所に対応する信号電荷が、128回だけ蓄積されることになる。このように、TDI方式では、撮像面に投影される標本載置部110からの蛍光が、基板ステージ2の移動に伴ってシフトするが、それに同期して撮像素子51に蓄積される信号電荷をシフトさせている。したがって、上記動作を128回だけ続けた場合、TDI方式を採用した撮像装置5は、リニアイメージセンサに比べて、128倍の感度を実現できる。すなわち、128倍のコントラストと、√128だけノイズを軽減することが可能となる。
【0033】
撮像装置5は、撮像素子51を基板S上に複数回往復させることで全ての標本載置部110内の試料100を撮像することができる。そのため、撮像装置5は、撮像素子51が基板Sの−X方向における端部まで移動し終わると、図4に示したように撮像が終了していない他の標本載置部110と撮像素子51の画素53とを位置合わせするため、−Y方向に移動する。具体的には、ステージ駆動部3が基板ステージ2を移動し、基板Sと撮像素子51とをX方向に沿って相対移動させる。そして、撮像素子51を反対方向(図4中の±X方向)にスキャンしつつ、上述のTDI方式による撮像を開始する。
【0034】
ところで、本実施形態に係る撮像素子51は一般的なTDI方式に用いられるものと同様、上述の電荷転送方向が一方向のみに対応したものとなっている。具体的に、電荷転送方向は、+X方向にのみ転送可能となっており、撮像素子51が−X方向にスキャンする場合は、電荷転送方向(+X方向)と撮像素子51に形成された像の移動方向(+X方向)が、同じ方向なので、画像取得可能であるが、撮像素子51が+X方向(図4中における左方向)にスキャンする場合は、電荷転送方向(+X方向)と撮像素子51に形成された像の移動方向(−X方向)が、反対方向なので、画像取得は不可能である。
【0035】
よって、従来、撮像素子の信号電荷の転送方向が一方向のみに対応している場合、図7に示すように、撮像素子51が初期位置から基板Sの一端側までスキャンした後、撮像素子51を初期位置まで戻した後、再度基板S上をスキャンする必要があった。そのため、撮像素子51は基板Sに対する往路のみしか撮像を行うことができなかった。
【0036】
これに対し、本実施形態に係る顕微鏡装置1は、撮像素子51が+X方向にスキャンする場合は、撮像素子51に形成された像の移動方向が−X方向なので、電荷転送方向(+X方向)と像の移動方向が同じ方向になるように、上記回転機構6を動作させるようにしている。具体的に、制御部CONTは、回転機構6の保持部61を駆動し、該保持部61に保持されるプリズム部60を初期位置から90°だけ回転させる。
【0037】
このようにプリズム部60が90°回転すると、試料100からの蛍光像が180°回転した状態となる。180°回転した蛍光像は、撮像素子51が+X方向にスキャンしている場合あっても、撮像素子51が−X方向(図4中における右方向)に移動したとき同様、撮像素子51の画素53内を同図中の左方向に移動することとなる(電荷転送方向と同じ方向)。このように本実施形態によれば、撮像素子51を往復スキャンした場合であっても、電荷転送を行うことができる。
【0038】
図4に示したように、撮像素子51が基板Sの左端(+X方向端部)に到達すると、撮像が終了していない他の標本載置部110と撮像素子51の画素53とを位置合わせするように撮像素子51を−Y方向に移動する。そして、再度−X方向に沿って撮像素子51がスキャンする。
【0039】
制御部CONTは、撮像素子51が−X方向に沿ってスキャンするに際し、回転機構6を再度駆動する。具体的に、プリズム部60を−90°回転させて初期位置に戻す。このようにプリズム部60が初期位置に戻ると、試料100からの蛍光像は、プリズム部60を透過したとしても回転することがない。よって、試料100からの蛍光像は、通常通り、撮像素子51の画素53内を当該撮像素子51のスキャン方向と反対方向(+X方向)に移動することとなる。したがって、撮像素子51は、電荷転送を問題なく行うことができる。よって、撮像素子51が基板S上の往復時のいずれにおいてもTDI方式の撮像を行うことができるので、基板Sの全面を撮像する時間を短縮することができる。
【0040】
以上述べたように、本実施形態に係る顕微鏡装置1によれば、像の移動方向が電荷転送方向と異なる場合でも、回転機構6により撮像素子51の各画素53における試料100からの蛍光像の移動方向を所定の方向に揃えることができる。よって、撮像素子51としてコストの低い電荷転送が一方向のみに対応したものを採用することができ、観察装置全体としてのコスト低減を実現できる。
【0041】
また、このように電荷転送が一方向のみに対応した撮像素子51は電荷転送がニ方向に対応した素子のように基板ステージ2の往路と復路とで信号電荷のゲインを合わせる制御を行う必要が無い。よって、本発明は、従来のTDI方式を用いた方法において撮像素子の制御を大きく変更する必要が無い。
【0042】
(第二実施形態)
続いて、本発明の観察装置の第二実施形態に係る構成について説明する。本実施形態と上記実施形態との違いは、撮像素子がステージに対して移動する点と、ステージが基板を保持する保持部を複数備えている点とである。なお、それ以外の部材及び構成については、上記実施形態と同一であることから、その説明については省略若しくは簡略するものとする。
【0043】
図8は本実施形態に係るステージの概略構成を示す図である。図8に示すように、基板ステージ200は、試料100を載置する保持部201〜204を複数(本実施形態では4個)有している。これら各保持部201〜204は、撮像装置5の移動経路内に進退するように移動可能に構成されている(図9参照)。
【0044】
撮像装置5は、駆動部210により、撮像素子151が各保持部201〜204に載置される基板Sの長辺方向に沿って移動しつつTDI方式の撮像を行うようになっている。また、本実施形態で使用する撮像素子151は一方向のみに電荷転送を行うようになっている。そのため、原則として、図8に示すように、保持部201〜204のうち、1方向(X方向又はY方向)に沿って配置された2つに保持される基板SについてのみTDI方式の撮像を行うことが可能である。また、画素ライン53Rと画素列53Lとにおける画素53の数が等しく、平面形状が矩形となっている。また、撮像素子151は、保持部201〜204に保持される基板Sの全域を1度のスキャンで撮像できる大きさに設定されている。
【0045】
これに対し、本実施形態では、上記実施形態と同様、回転機構6を備えているので、基板Sに対する撮像素子51のスキャン方向を種々に変更する場合であっても、プリズム部60の回転に伴って試料100からの蛍光像を所定角度回転させることで後述のように撮像素子51によるTDI方式の撮像を行うことができる。
【0046】
次に、本実施形態におけるTDI方式の撮像動作について図9を参照しながら説明する。
はじめに、基板ステージ200の各保持部201〜204にそれぞれ基板Sを配置する。本実施形態では、基板Sは、その長手方向を各保持部201〜204の長さ方向に一致させるように当該各保持部201〜204上に載置されている。
【0047】
保持部201〜204は、試料100を載置しない状態においては、撮像素子151の移動領域INの外側に設定される退避領域OT1〜OT4に待機している。保持部201〜204に対する試料100の載置工程は、退避領域OT1〜OT4にて行われる。
【0048】
続いて、撮像素子151は、図9に示すように、保持部201に保持される基板Sに対して−Y方向にスキャンすることで、TDI方式による撮像を行う。ここで、撮像素子151における保持部201に対するスキャン方向は、撮像素子151の各画素内における試料100からの蛍光像の移動方向と電荷転送方向とが一致する方向となっている。ここで、回転機構6のプリズム部60は初期位置に配置されているため、試料100からの蛍光像はプリズム部60を通過した場合でも回転することがない。
【0049】
よって、撮像素子151は、保持部201上をスキャンしつつ、電荷を所定方向に移動させることができるので、保持部201上に保持される基板Sの試料100についてTDI方式による撮像を良好に行うことができる。撮像素子151が保持部201の端部まで到達すると、撮像素子151はスキャン方向を+X方向に変更し、保持部202の基板Sに対し、TDI方式による撮像を行う。
【0050】
保持部202は、上記保持部201とは90°ずれた方向に延在しているため、撮像素子151における保持部202に対するスキャン方向は、撮像素子151の各画素53内における試料100からの蛍光像の移動方向と電荷転送方向とが一致しない方向となっている。この場合、電荷転送方向が一方向のみに対応した撮像素子51は、保持部202上の試料100に対し、TDI方式の撮像を行うことができない。
【0051】
これに対し、本実施形態では、回転機構6を動作して、試料100からの蛍光像を所定角度だけ回転させるようにしている。具体的には、保持部202上の試料100の蛍光像を同図中における半時計周りに90°回転可能な角度だけプリズム部60を回転させる。すると、保持部202上の試料100に対して+X方向にスキャンしている撮像素子51の各画素53内における試料100からの蛍光像の移動方向と、電荷転送方向とが一致した状態となる。
【0052】
よって、撮像素子151は、電荷を所定方向に移動させることができ、保持部202上の試料100についてTDI方式による撮像を良好に行うことができる。撮像素子151が保持部202の端部まで到達すると、撮像素子151はスキャン方向を+Y方向に変更し、保持部203の試料100に対し、TDI方式による撮像を行う。
【0053】
保持部203は、上記保持部202とは90°ずれた方向に延在しているため、撮像素子151における保持部203に対するスキャン方向は、撮像素子151の各画素53内における試料100からの蛍光像の移動方向と電荷転送方向とが一致しない方向となっている。この場合、電荷転送方向が一方向のみである撮像素子151は、保持部203上の試料100に対し、TDI方式の撮像を行うことができない。
【0054】
これに対し、本実施形態では、回転機構6を動作して、保持部203上の試料100からの蛍光像を同図中における半時計周りにさらに90°回転可能な角度だけプリズム部60を回転させる。すると、保持部203上の試料100に対して+Y方向にスキャンする撮像素子51は、各画素53内での試料100からの蛍光像の移動方向と、電荷転送方向とが一致した状態となる。
【0055】
よって、撮像素子151は、電荷を所定方向に移動させることができ、保持部203上の試料100についてTDI方式による撮像を良好に行うことができる。撮像素子151が保持部203の端部まで到達すると、撮像素子151はスキャン方向を−X方向に変更し、保持部204の試料100に対し、TDI方式による撮像を行う。
【0056】
保持部204は、上記保持部203とは90°ずれた方向に延在しているため、撮像素子151における保持部204に対するスキャン方向は、撮像素子151の各画素53内における試料100の蛍光像の移動方向と電荷転送方向とが一致しない方向となっている。この場合、電荷転送方向が一方向のみである撮像素子151は、保持部202上の試料100に対し、TDI方式の撮像を行うことができない。
【0057】
これに対し、本実施形態では、回転機構6を動作して、保持部204上の試料100からの蛍光を同図中における半時計周りに90°回転可能な角度だけプリズム部60をさらに回転させる。すると、保持部204上の試料100に対して−X方向にスキャンする撮像素子151は、各画素53内での試料100からの蛍光像の移動方向と、電荷転送方向とが一致した状態となる。
【0058】
よって、撮像素子151は、電荷を所定方向に移動させることができ、保持部204上の試料100についてTDI方式による撮像を良好に行うことができる。
【0059】
以上のように、本実施形態に係る顕微鏡装置1によれば、撮像素子151が複数の基板Sに対してそれぞれ異なる方向にスキャンする場合においても、回転機構6により試料100からの蛍光像を所定角度だけ回転させることで撮像素子151の各画素53内における試料100からの蛍光像の移動方向と電荷転送方向とを一致させることができる。したがって、撮像素子151として電荷転送方向が一方向のみのものを用いた場合であっても、保持部201〜204上の全ての試料100についてTDI方式の撮像を行うことができる。
【0060】
なお、上記実施形態では、撮像素子151が保持部201上から撮像を開始する場合について説明したが、撮像素子151は他の保持部202〜204のいずれかの上から撮像を開始するようにしても構わない。
【0061】
また、上記実施形態では、保持部201〜204の全てに基板Sを載置した後、撮像素子151を駆動する構成について説明したが、少なくとも撮像を行う保持部201〜204上に基板Sが載置されていれば撮像素子151を駆動しても構わない。
【0062】
また、上記実施形態では、基板Sを載置した各保持部201〜204を全て撮像素子151の移動領域INに配置した後、撮像素子151の駆動を開始する場合について説明したが、基板Sを載置した各保持部201〜204は、撮像素子151がスキャンを開始するまでに撮像素子151の移動領域IN内に配置される構成であっても構わない。すなわち、撮像素子151がいずれかの保持部201〜204の基板Sについて撮像を行っている間に、他の保持部201〜204について基板Sを載置したり、又は交換するようにしても構わない。このようにすれば、試料100を載置する時間を有効に利用することで撮像素子51の撮像時間を短くすることができる。
【0063】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において適宜変更可能である。例えば、上記実施形態では、試料100からの蛍光像を回転可能なプリズム部60を常に戻り光の光路上(試料100と撮像素子51との間)に配置した状態のままとする場合について説明したが、戻り光の光路内に対してプリズム部60を挿脱させる構成であっても構わない。
このような場合の挿脱するプリズムとしては上述同様タブプリズムが使えるが、像の回転角として0度と180度のみが必要な場合には180度のみダハプリズムを使用することもできる。さらに、光軸が偏向することを許容するのであれば、シュミットプリズムやペンタプリズムを使用することもできる。その際、0度と180度の切り替えに伴う偏向は、ミラーを同時に挿脱することで補正することが望ましい。
【0064】
すなわち、試料100からの蛍光像を回転させる必要が無い場合、プリズム部60に観察画像を透過させる必要がなく、プリズム部60を観察画像の光路内に配置しなくてもよいからである。この場合、上記回転機構6は、図10に示すように、プリズム部60に代えて上記観察画像の光路に挿脱可能な光学部材300を備えている。この光学部材300は、上記プリズム部60と同じ光路長を有している。この構成によれば、試料100からの蛍光像は、プリズム部60を通過した場合と、光学部材300を通過した場合とで同一の収差条件とすることが可能であり、結像光学系を共有することができる。
【0065】
また、上記実施形態では、測定対象として標本載置部110に配置した試料(所定の反応を触媒する酵素と、その反応によって光応答性物質へ変化する基質)からの蛍光像についてTDI方式の撮像を行う場合について説明したが、本発明の観察装置は顕微鏡装置に限定されることはなく、細胞以外の測定、例えば高速で移動する物体の観察等といったTDI方式を用いた撮像にも適用することができる。すなわち、測定対象物に対して励起光を照射する必要が無い場合、観察装置は照明装置を構成要素として備えていなくても構わない。
【符号の説明】
【0066】
1…顕微鏡装置(観察装置)、2…基板ステージ(ステージ)、3…ステージ駆動部(移動機構)、5…撮像装置(撮像部)、6…回転機構、60…プリズム部(光学素子)、201〜204…保持部、210…駆動部、300…光学部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検物を保持するステージと、
タイム・ディレイ・インテグレーション方式により前記被検物からの光による像を撮像可能な撮像部と、
前記被検物と前記撮像部とを相対移動させる移動機構と、
前記相対移動に伴う前記像の移動方向が、前記撮像部の電荷転送方向と一致するように、前記像を回転可能に構成された回転機構と、を備える観察装置。
【請求項2】
前記回転機構は光学素子を含む請求項1に記載の観察装置。
【請求項3】
前記光学素子は、前記撮像部と前記被検物との間に挿脱可能とされる請求項2に記載の観察装置。
【請求項4】
前記光学素子に代えて前記撮像部と前記被検物との間に挿脱可能とされ、前記光学素子と同じ光路長を有する光学部材を備える請求項3に記載の観察装置。
【請求項5】
前記ステージは、前記被検物を保持する保持部を複数有しており、
前記移動機構は、前記複数の保持部に保持される前記被検物と前記撮像部とをそれぞれ相対移動させる請求項1〜4のいずれか一項に記載の観察装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−163535(P2012−163535A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−26260(P2011−26260)
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】