観測装置、観測方法、ファラデー回転角測定方法、ファラデー楕円率測定方法、カー回転角測定方法及びカー楕円率測定方法
【課題】 高速測定が可能な観測装置、観測方法等を提供する。
【解決手段】 本発明の第1の側面は、液晶変調素子によって、右回り円偏光及び左回り円偏光が選択的に作り出されるように前記液晶変調素子が制御され、偏光子を通過する光によって試料を観測することを特徴とする観測装置にある。また、本発明の他の側面は、偏光子及び液晶変調素子を順に通過するように光の光路が設定された状態で、前記偏光子を通過する光によって試料を観測する際に、前記液晶変調素子によって、右回り円偏光及び左回り円偏光が選択的に作り出されるように前記液晶変調素子を制御する工程と、前記液晶変調素子によって作り出される右回り円偏光状態及び左回り円偏光状態に対応した、前記試料の光学データをそれぞれ生成する工程とを有することを特徴とする観測方法にある。
【解決手段】 本発明の第1の側面は、液晶変調素子によって、右回り円偏光及び左回り円偏光が選択的に作り出されるように前記液晶変調素子が制御され、偏光子を通過する光によって試料を観測することを特徴とする観測装置にある。また、本発明の他の側面は、偏光子及び液晶変調素子を順に通過するように光の光路が設定された状態で、前記偏光子を通過する光によって試料を観測する際に、前記液晶変調素子によって、右回り円偏光及び左回り円偏光が選択的に作り出されるように前記液晶変調素子を制御する工程と、前記液晶変調素子によって作り出される右回り円偏光状態及び左回り円偏光状態に対応した、前記試料の光学データをそれぞれ生成する工程とを有することを特徴とする観測方法にある。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、観測装置、観測方法、ファラデー回転角測定方法、ファラデー楕円率測定方法、カー回転角測定方法及びカー楕円率測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な試料に対して、非常に微小な領域での光学活性(旋光性と円二色性)の分布状態を観察すること、及び、光学活性の定量的評価を行うことが重要になってきている。光学活性には、自然活性、電気光学効果、磁気光学効果、ピエゾ光学効果がある。また、近年、ハードディスクや光磁気ディスクなどの技術分野の進展から、材料の磁気光学効果についての新しい観察方法や測定方法の要求が急速に高まっている。
【0003】
光学活性として磁気光学効果の分布状態を高分解能で観察することは、磁区や磁壁を観察することである。その方法として、偏光顕微法、ローレンス透過型電子顕微法、スピン偏極走査電子顕微法、磁気顕微法などが知られている。走査型近視顕微鏡を用いて垂直磁化膜の磁壁を観測した例も近年報告されている。
【0004】
一方、旋光性や円二色性のさまざまな定量的測定方法が非特許文献1に詳しく述べられている。磁気光学効果の場合を例にとると(他の光学活性でも同様である)、直交偏光子法(クロスーニコル法)、試料保持装置法、回転検光子法などを用いることにより、磁気旋光角の測定が可能である。円偏光変調法を用いれば、高感度に磁気旋光角と磁気二色性とを同時に測定することができる。
【0005】
図1は、直交偏光子法(クロスーニコル法)によるファラデー効果を測定する場合の原理図を示すものである。カー効果を測定する場合は、反射光に対しての測定になるが、基本的な原理はファラデー効果の測定の場合と同様である。
【0006】
ここではスペクトルの測定は念頭におかないため、光源LとしてHe−Neレーザのようなものを用い、また簡単にするため、試料Sは磁気円二色性を持たないものとし磁気旋光性のみを考える。
【0007】
試料Sは、磁極に穴をあけた電磁石の磁極の間に置かれ、光の進行方向と平行に磁界が印加されるようにコイルCを配置される(ファラデー配置)。なお、図2に示すように、光の進行方向と磁界とが直交するようにコイルCを配置するフォークト配置とすることもある。
【0008】
二つの直線偏光素子を用いた偏光子PとA(試料の後に置かれる偏光子Aは検光子と呼ばれることが多い)が試料Sを挟んで配置される。磁界のないときに光検光器Dの出力が最小になるように検光子Aの角度を調整し、その時の目盛θ0を読取っておく。次に、磁界Hを印加して光検光器Dの出力を最小とする検光子Aの目盛θHを読取り、θ0とθHの差を求めることにより偏光角を得る。
【0009】
読取りの精度は、検光子Aの微調機構の精度で決まり、あまりに小さい旋光角を測定することはできない。この欠点をカバーするため、通常半影板、対数増幅器を用いることが行われる。旋光角が180°を越える場合は、検光子Aの目盛をH=0の状態に固定し、磁界Hを次第に強くしていくと、光検出器Dの出力は180°の周期で振動するため、これから旋光角を決めることができる。
【0010】
以上述べた零位法による測定法は、測定に手間がかかる上、精度もあまり高くはない。そこで、試料保持装置法と回転検光子法とが考案されている。
【0011】
試料保持装置法では、検光子Aを回転させて行う信号の最小値を探す代りに次のことを行う。検光子Aは、偏光子Pと偏光方向が直交するように固定しておく。試料Sのファラデー効果によって起きた回転を試料保持装置に設けたコイルCに光検出器Dの出力が0になるように電流を流して偏光の向きを回転して試料Sによる回転を打ち消す。コイルCの電流と回転角の関係をあらかじめ校正しておくことにより、その電流を読むことにより回転角を検出する。
【0012】
感度を上げるために消光比の高い偏光素子を用いると共に、試料保持装置のコイルCに加える直流電流に、変調用の交流を重量させて、光検出器Dの出力を、ロックインアンプ等の高感度増幅器で増幅することにより0.001°以下の旋光角も測定することができる。
【0013】
この方法の欠点は、(1)試料を磁化するための磁界が試料の偏光に影響を与えること、(2)大きな旋光性を持つ試料の場合、これを補償するためにセルに流す電流が大きくなり、これによる温度上昇のために、ヴェルデ定数が変化して誤差の原因になること、(3)試料のヴェルデ定数が波長λに対して1/λ2のような波長分散を持ち、長波長側での感度が低くなることがあることである。
【0014】
また、回転検光子法は、磁気光学効果の感度を上げるため、偏光子Pまたは検光子Aのいずれかをモータで回転させて変調させる方法である。この方法によれば直交偏光子法よりも高い精度が得られるが、光軸と検光子の回転軸が合致していないと系統的な誤差を生じる。
【0015】
【非特許文献1】佐藤勝昭著,「光と磁気」,改定版,株式会社朝倉書店,2001年11月20日,p90
【0016】
上述の方法はいずれも試料を一つ一つ観察・測定しなければならないため、使用目的に適した成分や組成の材料(試料)を見つけ出そうとする場合のように、成分や組成を変えた無数の試料の光学特性を測定する場合には多大な測定時間を要し、研究開発のネックになっていた。そこで、円偏光を利用して成分や組成の異なる複数の試料の光学特性を二次元的に一括して評価することを可能とし、希望する試料を速やかに見出し、選択することが出来る観察・測定方法が提案されている。
【0017】
【特許文献1】特開2004-294293号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかしながら、1/4波長板を用いた磁気光学顕微鏡では、波長板を機械的に回転させていたために計測時間が長いという問題があった。
【0019】
本発明は、上述の背景技術に鑑みてなされたものであり、高速測定が可能な観測装置、観測方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
この発明によれば、上述の目的を達成するために、特許請求の範囲に記載のとおりの構成を採用している。以下、この発明を詳細に説明する。
【0021】
本発明の第1の側面は、
偏光子と、
液晶変調素子と
を備え、
前記偏光子及び前記液晶変調素子を順に通過するように光の光路が設定され、
前記液晶変調素子によって、右回り円偏光及び左回り円偏光が選択的に作り出されるように前記液晶変調素子が制御され、
前記偏光子を通過する光によって試料を観測することを特徴とする観測装置にある。
【0022】
本構成によれば、高速測定が可能である観測装置が得られる。
本発明の第2の側面は、
偏光子と、
液晶変調素子と、
検光子と
を備え、
前記検出子の偏光方向は、前記偏光子に対して垂直以外の状態であり、
前記偏光子、前記液晶変調素子及び前記検光子を順に通過するように光の光路が設定され、
前記偏光子を通過する光によって試料を観測することを特徴とする観測装置にある。
【0023】
本構成によれば、高速測定が可能であり、楕円率と回転角との双方を測定することが可能な観測装置が得られる。
【0024】
本発明の第3の側面は、
偏光子及び液晶変調素子を順に通過するように光の光路が設定された状態で、前記偏光子を通過する光によって試料を観測する際に、前記液晶変調素子によって、右回り円偏光及び左回り円偏光が選択的に作り出されるように前記液晶変調素子を制御する工程と、
前記液晶変調素子によって作り出される右回り円偏光状態及び左回り円偏光状態に対応した、前記試料の光学データをそれぞれ生成する工程と
を有することを特徴とする観測方法にある。
【0025】
本構成によれば、高速測定が可能な観測方法が得られる。
【0026】
本発明の第4の側面は、
偏光子及び液晶変調素子を順に通過するように光の光路が設定された状態で、前記偏光子を通過する光によって試料を観測する際に、前記液晶変調素子によって、右回り円偏光、左回り円偏光及び直線偏光が選択的に作り出されるように前記液晶変調素子を制御する工程と、
前記液晶変調素子によって作り出される右回り円偏光状態、左回り円偏光状態及び直線偏光状態に対応した、前記試料の光学データをそれぞれ生成する工程と
を有することを特徴とする観測方法にある。
【0027】
本構成によれば、高速測定が可能であり、回転角と楕円率との双方を測定することが可能となる。
【0028】
本発明の第5の側面は、
検出子の偏光方向が偏光子に対して垂直以外の状態であり、前記偏光子、液晶変調素子及び前記検出子を順に通過するように光の光路が設定された状態で、前記偏光子を通過する光によって試料を観測することを特徴とする観測方法にある。
【0029】
本構成によれば、高速測定が可能な観測方法が得られる。
【0030】
本発明の第6の側面は、
偏光子及び液晶変調素子を順に通過するように光の光路が設定された状態で、前記偏光子を通過する光によって試料を観測する際に、
液晶変調素子の光学遅延の大きさが0、π/2、-π/2のときの出射光の光強度I(0)、I(π/2)、I(-π/2)、ファラデー楕円率ηFとしたとき、
【数1】
によって前記試料のファラデー回転角θFを近似測定することを特徴とするファラデー回転角測定方法にある。
【0031】
本構成によれば、ファラデー回転角を簡便に高速測定することが可能となる。
【0032】
本発明の第7の側面は、
偏光子及び液晶変調素子を順に通過するように光の光路が設定された状態で、前記偏光子を通過する光によって試料を観測する際に、
液晶変調素子の光学遅延の大きさが0、π/2、-π/2のときの出射光の光強度をそれぞれI(0)、I(π/2)、I(-π/2)とした場合、ファラデー楕円率ηFが1より十分に小さいとき
【数2】
によって前記試料のファラデー回転角θFを近似測定することを特徴とするファラデー回転角測定方法にある。
【0033】
本構成によれば、ファラデー回転角をさらに簡便に高速測定することが可能となる。
【0034】
本発明の第8の側面は、
偏光子及び液晶変調素子を順に通過するように光の光路が設定された状態で、前記偏光子を通過する光によって試料を観測する際に、
液晶変調素子の光学遅延の大きさが0、π/2、-π/2のときの出射光の光強度をそれぞれI(0)、I(π/2)、I(-π/2)とした場合、ファラデー楕円率ηFが1より十分に小さいとき
【数3】
または
【数4】
によって前記試料のファラデー回転角θFを近似測定することを特徴とするファラデー回転角測定方法にある。
【0035】
本構成によれば、ファラデー回転角をさらに簡便に高速測定することが可能となる。
【0036】
本発明の第9の側面は、
偏光子及び液晶変調素子を順に通過するように光の光路が設定された状態で、前記偏光子を通過する光によって試料を観測する際に、
液晶変調素子の光学遅延の大きさがπ/2、-π/2のときの前記検出子からの出射光の光強度をそれぞれI(π/2)、I(-π/2)としたとき、
【数5】
によって前記試料のファラデー楕円率ηFを近似測定することを特徴とするファラデー楕円率測定方法にある。
【0037】
本構成によれば、ファラデー楕円率を簡便に高速測定することが可能となる。
【0038】
本発明の第10の側面は、
偏光子及び液晶変調素子を順に通過するように光の光路が設定された状態で、前記偏光子を通過する光によって試料を観測する際に、
液晶変調素子の光学遅延の大きさが0、π/2、-π/2のときの出射光の光強度I(0)、I(π/2)、I(-π/2)、カー楕円率ηKとしたとき、
【数6】
によって前記試料のカー回転角θKを近似測定することを特徴とするカー回転角測定方法にある。
【0039】
本構成によれば、カー回転角を簡便に高速測定することが可能となる。
【0040】
本発明の第11の側面は、
偏光子及び液晶変調素子を順に通過するように光の光路が設定された状態で、前記偏光子を通過する光によって試料を観測する際に、
液晶変調素子の光学遅延の大きさが0、π/2、-π/2のときの出射光の光強度をそれぞれI(0)、I(π/2)、I(-π/2)とした場合、カー楕円率ηKが1より十分に小さいとき
【数7】
によって前記試料のカー回転角θKを近似測定することを特徴とするカー回転角測定方法にある。
【0041】
本構成によれば、カー回転角をさらに簡便に高速測定することが可能となる。
【0042】
本発明の第12の側面は、
偏光子及び液晶変調素子を順に通過するように光の光路が設定された状態で、前記偏光子を通過する光によって試料を観測する際に、
液晶変調素子の光学遅延の大きさが0、π/2、-π/2のときの出射光の光強度をそれぞれI(0)、I(π/2)、I(-π/2)とした場合、カー楕円率ηKが1より十分に小さいとき
【数8】
または
【数9】
によって前記試料のカー回転角θKを近似測定することを特徴とするカー回転角測定方法にある。
【0043】
本構成によれば、カー回転角をさらに簡便に高速測定することが可能となる。
【0044】
本発明の第13の側面は、
偏光子及び液晶変調素子を順に通過するように光の光路が設定された状態で、前記偏光子を通過する光によって試料を観測する際に、
液晶変調素子の光学遅延の大きさがπ/2、-π/2のときの出射光の光強度をそれぞれI(π/2)、I(-π/2)としたとき、
【数10】
によって前記試料のカー楕円率ηKを近似測定することを特徴とするカー楕円率測定方法にある。
【0045】
本構成によれば、カー楕円率を簡便に高速測定することが可能となる。
【発明の効果】
【0046】
本発明によれば、高速測定が可能な観測装置、観測方法等が得られる。
【0047】
本発明のさらに他の目的、特徴又は利点は、後述する本発明の実施の形態や添付する図面に基づく詳細な説明によって明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。すなわち、液晶を用いた円偏光変調磁気光学顕微鏡について説明する。また、ジョーンズマトリックス法を使って行う定量的な磁気光学像の測定法、実際に磁性ガーネットの磁区構造が明瞭に観察できたようすを示す。
【0049】
本実施形態では、光学顕微鏡(オリンパス、BH-UMA)を改良し、偏光子(Glan-Thompson prism; Karl
Lambrecht corp., MG*B10)、液晶変調素子、検光子(Glan-Thompson
prism; Karl Lambrecht corp., MG*B10)をこれに組み込んだ。光源には顕微鏡に内蔵された20Wハロゲンランプを用い、測定波長を選択するための干渉フィルタ用ホルダーを取り付けた。使用したCCDカメラは、画素数1280・1024の冷却型CCDカメラ (Hamamatsu,
C4880)である。
【0050】
以下、装置の各部について詳細に説明する。
【0051】
図3は、本実施形態に用いた装置の光学系部材配置の平面図、図4は、本実施形態に用いた装置の光学系部材配置の正面図である。この装置には、ハロゲンランプを用い出射レンズ1aを備えた光源1、手動回転の可変フィルタ2、グラントムソンプリズムを用いた偏光子(ポーラライザ)3、液晶変調素子4が設けられている。
【0052】
さらに、この装置には、集光レンズ5、コイルをファラデー配置し且つ磁気特性検出器6aを内蔵した試料保持装置6、試料を試料保持装置の所定位置に挿入するサンプルホルダー7、リレーレンズ8、グラントムソンプリズムを用いた検光子(アナライザ)9、入射レンズ10aを備えた冷却付高感度・高解像度のCCDカメラ10が設けられている。検出子9の偏光方向は、偏光子3に対して45度の角度をなす。
【0053】
ここで、検出子9の偏光方向を偏光子3に対して垂直以外の状態(90°以外の角度)とすれば、回転角と楕円率との両方を測定することができる。CCDカメラに入射する光の光量を大きくとれるため、40度から50度の範囲とするのが好ましい。さらに好ましくは、光量がもっとも大きくかつ回転角および楕円率を算出する計算式が簡単になるため、検出子9の偏光方向が、偏光子3に対してほぼ45度の角度であるのが好ましい。
【0054】
なお、横カー効果又は赤道カー効果の場合には、検出子9なしに磁気光学効果の測定ができる。また、検出子9なしでも楕円率の測定は可能である。
【0055】
図5は、図3及び図4に示した光学系部材とその制御装置との接続を示すブロック図である。液晶変調素子4は、コントローラ11によって制御される。試料保持装置6に備えたコイルに流す電流はコントローラ12によって制御される。さらに、この装置には、画像階調輝度調整機能及び画像間引き算機能を持った画像処理装置13、インターフェース14、電子計算装置15、画像表示装置16、プリンタ17が関与している。なお、撮像カメラとしては、CCDカメラのみに限定されるものではなくCMOS素子やFOVEON素子を用いた他の撮像カメラでもよい。
【0056】
本発明においては、図5に拡大表示したように、先ず1mm×1mm角のガラス基板18に複数の成分割合の異なる薄膜試料を塗布し、乾燥したものをサンプルホルダー7にセットして試料保持装置6内の所定位置に挿入し、光源1を点灯する。
【0057】
次に可変フィルタ2の1つを光路中にセットした後、偏光画像の状態をCCDカメラ10及び画像処理装置13を介して電子計算装置15内のメモリに記憶させる。また必要に応じて、可変フィルタ2の他のフィルタを光路中にセットし、その場合の偏光画像の変化を同様にして電子計算装置15内のメモリに記憶させる。試料が磁性材料の場合は、同時に各偏光状態における磁気特性も併せて電子計算装置15のメモリに記憶させる。
【0058】
このようにして、記憶された画像情報を画像表示装置16に表示させると、ガラス基板18上に設けた試料の偏光画像が、あたかもMRI診断装置の断層写真のように一括して表示される。
【0059】
光学特性によって決まる表示画像は、成分・組成によってコントラストが変化する。したがって、あらかじめ希望する成分の画像を表にし、認識していれば、その表示画像を見て直ちに希望する成分・組成の試料(材料)を見つけることができる。また、その試料を指定すれば電子計算装置15により、旋光性、円二色性等の光学特性や磁気光学特性の詳細を画像装置16又はプリンタ17によって知ることができる。
【0060】
ここで、本実施形態では、サンプルに照射する光の偏光状態を変化させるために液晶変調素子4を使用した。液晶は、電圧を印加することでリターデーション(光学遅延)の大きさを変化させることができる。
【数11】
【0061】
つまり、高速で右回り円偏光、直線偏光、左回り円偏光を作り出すことができるため、円偏光変調法における変調素子として利用できる。逆に言えば、液晶変調素子に印加する電圧の大きさにより光学遅延量が制御されることになる。また、この素子の応答速度は10ms以下であるので、波長板を用いた方法では不可能であった1秒間に数十コマの画像を得ることも可能になる。
【0062】
実際の測定で使用する左円偏光LCP、 直線偏光LP、 右円偏光RCPに対応する電圧を調べるために、液晶に印加する交流電圧に対する出射光の消光比Imin/Imaxを測定した。
【0063】
図6は、液晶偏光素子に電圧を印加したときの出射光の消光比を示す。図6から、電圧を、右円偏光は2V、左円偏光は3V、直線偏光は
2.5Vとした際にそれぞれ得られることがわかる。
【0064】
このように、液晶変調素子に印加する電圧を、所定の偏光を得ることができる大きさにあらかじめ調べて決めておくことにより、多くの印加電圧の大きさについてそれぞれ測定するのではなく、必要な偏光状態を選択的に切り替えて実現することができる。これにより、測定の高速化が図られる。すなわち、印加電圧を、直線偏光、右回り偏光、左回り偏光にあらかじめ優先的に対応付けておくことにより、高速測定を実現できることになる。
【0065】
次に図7に示す光学系の原理図及び図8に示す円偏光変調法を行うための光学素子の構成を用い、本実施形態で用いた測定方法を説明する。本測定で用いた装置の磁気光学測定に関する構成の要素は、図8に示すように偏光子3、液晶変調素子4、検光子9である。ここで、液晶変調素子4による光学遅延をδ、検光子の角度(検光子の方位角)をαとする。また、ファラデー回転角と楕円率とをそれぞれθF、ηFとする。
【0066】
円偏光変調法による測定では光弾性変調器(PEM)を用いて偏光状態を変調し、光電子増倍管などの検出器を使って磁気光学効果による信号をロックイン検出する。しかし、顕微鏡で使用するCCD素子はPEMの変調周波数である50kHzに応答させることは困難である。そのため、本実施形態では液晶変調素子を使って偏光状態を変化させた。
【0067】
ここで、円偏光変調法を用いた測定の原理を説明するために、ジョーンズマトリックス法を使って説明する。ジョーンズマトリックス法では、偏光子P、液晶変調素子Q、試料S、検光子Aはそれぞれ次のように表される。
【数12】
【数13】
【数14】
【数15】
【0068】
このとき、入射光をE1 = (Ex, Ey)、αを45°とすると出射光E2は次のように求めることができる。
【数16】
【0069】
この結果から出射光の光強度は波長板の角度ψ、ファラデー回転角θFおよび楕円率ηFの関数として
【数17】
となる。ここで、I0は入力光の光強度である。ファラデー回転角θF、楕円率ηFは、入射光の強度と液晶変調素子の光学遅延の大きさδが0、π/2、-π/2のときの光強度をつかって次のように計算することができる。光学遅延の大きさδが0、π/2、-π/2というのは、それぞれ直線偏光、右回り偏光、左回り偏光に対応している。
【数18】
【数19】
【0070】
CCDカメラによって得られた3枚の画像の各ピクセルについてファラデー回転角および楕円率が得られる。それらの値を2次元表示すれば磁気光学画像が得られる。したがって、得られた磁気光学画像はビクセル毎にファラデー回転角や楕円率の絶対値を持つ。
【0071】
実際の測定では、入射光強度の測定には光学素子および試料を取り外す必要があるため現実的ではない。そこで、|Ex|の代わりに を使ってファラデー回転角と楕円率を次のように書き直した。
【数20】
【数21】
【0072】
これらの式では、置き換えによる誤差を含む。その大きさは、30°と大きいときには30%程度と大きくなるが、1°の時には、0.1%となる。また、楕円率が小さい場合は (9)式の分母にあるηF2の項は無視してもよい。なお、これらの数式から明らかなように、楕円率は、光学遅延の大きさδが0のときの値がなくとも求めることができる。また、測定が容易な光強度により、回転率又は楕円率が近似できることになる。
【0073】
図9は、Liquid Phase Epitaxy (LPE)法で作製された磁性ガーネット膜を(a)RCP、 (b)LP、 (c)LCPの光で測定した光学像である。磁気光学効果が大きいために磁区構造が観察される。(a)と(c)とは、それぞれ右回り円偏光、左回り円偏光による画像であるが、コントラストが反転しているのが分かる。これは、試料が楕円率を持つためによるものである。このことより、液晶変調素子によって右円偏光と左円偏光が作り出されていることが確認できる。これらは、試料の位置に対応する2次元データとして画像データが生成されている。
【0074】
図10は、LPEで作製した磁性ガーネットの(a)ファラデー回転像 と(b)ファラデー楕円率像である。これらは、図9で示した光学像を用いて得られた像である。これらには、明瞭な磁区構造が観察される。また、光学像で観察された光強度のむらは磁気光学像では観察されない。このことは、本手法で得られる画像が磁気光学効果の絶対で表されることに対応している。したがって、多少の光量の変化によって本手法の定量性が影響を受けないことが分かる。
【0075】
また、図11は、図10とは縮尺の異なるファラデー回転像である。観察対象は、液晶変調素子を使って測定したBi:YIG膜である。図11によっても、図10と同様に明瞭な磁区構造が得られていることが分かる。
【0076】
他の実施形態として、カー回転角およびカー楕円率を求める場合について説明する。
【0077】
図12は、磁気光学顕微鏡の概略図である。偏光子の後に偏光変調を行うための液晶変調素子を光学軸が45度の角度に配置してある。液晶変調素子として、市販の液晶(ZLI-4792)をITOコートしたガラス基板に挟んだものを作製し、これを使用した。液晶変調素子に交流の電圧を印加することで直線偏光、右回り円偏光、左回り円偏光を試料に照射することができる。反射光は、検光子を通った後、CCDカメラによって画像化される。3つの偏光状態の画像をそれぞれ計測し、各ピクセルの光強度の値を次式に代入し、カー回転角およびカー楕円率を求め、画像として再構築する。
【数22】
【0078】
ここで、I(0)、I(π/2)、I(-π/2)は、液晶により光学遅延0、π/2および-π/2を与えたときにCCDに入射する光の強度であり、それぞれ直線偏光、右回り円偏光および左回り円偏光に対応する。つまり、液晶変調素子を使って右円偏光、直線偏光、左円偏光の光を連続的に試料に照射し、同時に計測した3枚のデジタルイメージを演算処理することによりカー回転およびカー楕円率の画像を得ていることになる。
【0079】
上述のように楕円率のみを測定するときは、
【数23】
からわかるように2枚の画像を計測するだけで足りる。同様に回転角に対して測定の高速化を考慮する場合には、右回り円偏光と左回り円偏光のどちらかだけでよいことになる。つまり、この場合の回転角の式は次のように簡単になる。
【0080】
ファラデー楕円率ηFが1より十分に小さいとき、ファラデー回転角θFは、
【数24】
または
【数25】
となる。
【0081】
また、カー楕円率ηKが1より十分に小さいとき、カー回転角θKは、
【数26】
または
【数27】
となる。
【0082】
なお、上記の場合においてファラデー楕円率ηFが1より十分に小さいときとは、例えば、ファラデー楕円率ηFが10°以下であるとき、さらに好ましくは3°以下であるときをいう。また、カー楕円率ηKが1より十分に小さいときとは、例えば、カー楕円率ηKが10°以下であるとき、さらに好ましくは3°以下であるときをいう。
【0083】
図13は、ガラス基板上に作製した1辺50μmの正方形の垂直磁化薄膜の磁性ガーネット(Y2BiFe4GaO12)のカー回転画像である。測定波長は520nmである。光源としては緑色LEDを使用した。印加した磁場は、(a)-600Oe、(b)+600Oe 、(c)+250Oeである。(c)が保磁力程度の磁場を印加した場合に相当する。磁場を反転させることで磁化反転している様子が明瞭に観察できる。また、カー回転角が0.2度程度と小さいにもかかわらず、磁化がほぼゼロとなる保磁力付近の250Oeにおいて、1μm程度の微細な磁区構造が観察できることがわかる。
【0084】
次に、上述の実施形態の装置によれば高速に試料の状態を観測できることについて説明する。
【0085】
図14は、試料の状態を変化させながら連続的に取得したカー回転画像を示す。試料としてはY2BiFe4GaO12 を使用し、パターンサイズ50mm角である。また、フレームレートは1フレーム毎秒である。図14に示すように、1フレーム毎秒という短時間であっても鮮明に試料を測定できることがわかる。また、原理的に1秒10〜30コマでも同様の測定が十分実現できると考えられる。これは、上述の装置であれば、試料の状態変化にも対応したリアルタイム測定も可能であることを示している。
【0086】
上述の実施形態の装置では、実際の測定で使用するLCP, LP, RCPに対応する電圧をあらかじめ調べておき、少ない測定数により磁気光学像を得ることができる。したがって、短時間で、図14に示す磁気光学像を得ることができている点で優れている。逆に言えば、実際の測定で使用する電圧を決めずに多くの電圧値に対して測定したのでは、測定数が多くなり演算処理等に長時間を要してしまうため短時間に磁気光学像を得ることは比較的困難になる。
【0087】
カー効果、ファラデー効果などの磁気光学効果を利用した磁区構造の観察は一般的な光学顕微鏡を使って比較的簡単に行うことができることから最も一般的な方法として用いられてきた。また、磁気光学効果そのものは材料の電子構造に起因するため、磁気光学効果の測定は磁性材料の評価方法の一つとして重要な役割を果たしてきた。以上のことを考えると、上述のように磁気光学効果を定量的に画像化することができれば、試料内の磁気光学効果の大きさの分布を一括して取得することができ、試料の組成や結晶構造の分布などの情報を得ることが可能になる。上述の方法は、例えば、コンビナトリアルマテリアル又は不均質な試料の評価に対して有力な評価手法となると考えられる。
【0088】
一般的な磁気光学顕微鏡で用いられるクロスニコル法では、2枚の偏光板を90°に近い角度に配置して、ファラデー回転などによる偏光の回転を明るさのコントラストとして画像化する。この方法は、非常に簡単な方法であるため、一般に広く使用されてきた。しかし、クロスニコル法では、定量的な測定が難しく、回転角と楕円率が同時に測定できないことや、不均質な試料の測定は困難であるといった欠点がある。そこで、上述のように、磁気光学効果を定量的に測定する方法の一つである円偏光変調法を磁気光学顕微鏡に適用することによって、回転角と楕円率を同時にしかも定量的に磁気光学像を得るための磁気光学顕微鏡の開発を行った。
【0089】
なお、光源としては、例えば、ハロゲンランプ、キセノンランプ、重水素ランプ、グローバー、ニクロム線等の熱源、サファイア窓のハロゲンランプのいずれでもよい。偏光子としては、二色性偏光子、複屈折偏光子、ワイヤグリッド偏光子、ブリュースター偏光子のいずれでもよい。光検出器としては、光電子増倍管又は半導体光検出器のいずれでもよい。
【0090】
観測対象として、例えば、酸化物磁性体(磁性ガーネット)、金属磁性体(Fe, Co, Ni)、金属間化合物・合金(PtMnSbなど)、磁性半導体(CdMnTeなど)、アモルファス(TbFeCo, GdFeCoなど)、人工構造膜(Fe/Au, Pt/Coなど)がある。
【0091】
光の進行方向と磁界(磁化)の方向が垂直である場合の磁気光学効果であるコットン‐ムートン効果も上述の装置によって測定できる。
【0092】
液晶変調素子を電気的に駆動する方式としては、セルに直接制御電圧を掛ける単純方式、トランジスタなどのアクティブ素子をセルに直結し、この素子を介して駆動するアクティブ方式でもよい。また、マトリックス駆動方式に組み合わせた単純マトリックス駆動方式とアクティブマトリックス駆動方式の他に、強誘電性液晶に特有の駆動方式、レーザ光などを用いて熱的な書込みを行う方式、マトリックス方式で2つの周波数を用いて駆動する2周波駆動方式のいずれでもよい。
【0093】
また、液晶の分子配列の構造としては、ネマティック、スメクティック又はコレステリックでもよい。さらに、ツイステッドネマティック(TN)、超ツイステッドネマティック(STN)、DSTN形、TFT形、強誘電性液晶、反強誘電性液晶でもよい。
【0094】
可変フィルタに代えて分光器を使ってもよいことは勿論である。分光器は、分解能よりも明るさに重点を置いて選ぶ必要がある。焦点距離25cm程度であり、fナンバーが3〜4のものが望ましい。
【0095】
また、磁気光学効果以外の電気光学効果、ピエゾ光学効果、自然活性も測定可能である。
【0096】
以上、特定の実施形態を参照しながら、本発明について説明してきた。しかしながら、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者が該実施形態の修正又は代用を成し得ることは自明である。すなわち、例示という形態で本発明を開示してきたのであり、本明細書の記載内容を限定的に解釈するべきではない。本発明の要旨を判断するためには、冒頭に記載した特許請求の範囲の欄を参酌すべきである。
【0097】
また、この発明の説明用の実施形態が上述の目的を達成することは明らかであるが、多くの変更や他の実施例を当業者が行うことができることも理解されるところである。特許請求の範囲、明細書、図面及び説明用の各実施形態のエレメント又はコンポーネントを他の1つまたは組み合わせとともに採用してもよい。特許請求の範囲は、かかる変更や他の実施形態をも範囲に含むことを意図されており、これらは、この発明の技術思想および技術的範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】公知の直交偏光子法によるファラデー効果を測定する場合の原理図である。
【図2】フォークト配置の説明図である。
【図3】実施形態に用いた装置の光学系部材配置の平面図である。
【図4】実施形態に用いた装置の光学系部材配置の正面図である。
【図5】図3及び図4に示す光学系部材とその制御装置との接続を示すブロック図である。
【図6】液晶偏光素子に電圧を印加したときの出射光の消光比である。
【図7】光学系の原理図である。
【図8】円偏光変調法を行うための光学素子の構成である。
【図9】Liquid Phase Epitaxy (LPE)法で作製された磁性ガーネット膜を(a)RCP、 (b)LP、(c)LCPの光で測定した光学像である。
【図10】LPEで作製した磁性ガーネットの(a)ファラデー回転像と(b)ファラデー楕円率像である。
【図11】図10と縮尺の異なるファラデー回転像である。
【図12】磁気光学顕微鏡の概略図である。
【図13】ガラス基板上に作製した1辺50μmの正方形の垂直磁化薄膜の磁性ガーネット(Y2BiFe4GaO12)のカー回転画像である。
【図14】試料の状態を変化させながら連続的に取得した磁気光学像を示す。
【符号の説明】
【0099】
1
光源
2
可変フィルタ
3
偏光子
4
液晶変調素子
5
集光レンズ
6
試料保持装置
7
サンプルホルダー
8
リレーレンズ
9
検光子
10
CCDカメラ
11,12
コントローラ
13
画像処理装置
14
インターフェース
15
電子計算装置
16
画像表示装置
17
プリンタ
18
基板
【技術分野】
【0001】
本発明は、観測装置、観測方法、ファラデー回転角測定方法、ファラデー楕円率測定方法、カー回転角測定方法及びカー楕円率測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な試料に対して、非常に微小な領域での光学活性(旋光性と円二色性)の分布状態を観察すること、及び、光学活性の定量的評価を行うことが重要になってきている。光学活性には、自然活性、電気光学効果、磁気光学効果、ピエゾ光学効果がある。また、近年、ハードディスクや光磁気ディスクなどの技術分野の進展から、材料の磁気光学効果についての新しい観察方法や測定方法の要求が急速に高まっている。
【0003】
光学活性として磁気光学効果の分布状態を高分解能で観察することは、磁区や磁壁を観察することである。その方法として、偏光顕微法、ローレンス透過型電子顕微法、スピン偏極走査電子顕微法、磁気顕微法などが知られている。走査型近視顕微鏡を用いて垂直磁化膜の磁壁を観測した例も近年報告されている。
【0004】
一方、旋光性や円二色性のさまざまな定量的測定方法が非特許文献1に詳しく述べられている。磁気光学効果の場合を例にとると(他の光学活性でも同様である)、直交偏光子法(クロスーニコル法)、試料保持装置法、回転検光子法などを用いることにより、磁気旋光角の測定が可能である。円偏光変調法を用いれば、高感度に磁気旋光角と磁気二色性とを同時に測定することができる。
【0005】
図1は、直交偏光子法(クロスーニコル法)によるファラデー効果を測定する場合の原理図を示すものである。カー効果を測定する場合は、反射光に対しての測定になるが、基本的な原理はファラデー効果の測定の場合と同様である。
【0006】
ここではスペクトルの測定は念頭におかないため、光源LとしてHe−Neレーザのようなものを用い、また簡単にするため、試料Sは磁気円二色性を持たないものとし磁気旋光性のみを考える。
【0007】
試料Sは、磁極に穴をあけた電磁石の磁極の間に置かれ、光の進行方向と平行に磁界が印加されるようにコイルCを配置される(ファラデー配置)。なお、図2に示すように、光の進行方向と磁界とが直交するようにコイルCを配置するフォークト配置とすることもある。
【0008】
二つの直線偏光素子を用いた偏光子PとA(試料の後に置かれる偏光子Aは検光子と呼ばれることが多い)が試料Sを挟んで配置される。磁界のないときに光検光器Dの出力が最小になるように検光子Aの角度を調整し、その時の目盛θ0を読取っておく。次に、磁界Hを印加して光検光器Dの出力を最小とする検光子Aの目盛θHを読取り、θ0とθHの差を求めることにより偏光角を得る。
【0009】
読取りの精度は、検光子Aの微調機構の精度で決まり、あまりに小さい旋光角を測定することはできない。この欠点をカバーするため、通常半影板、対数増幅器を用いることが行われる。旋光角が180°を越える場合は、検光子Aの目盛をH=0の状態に固定し、磁界Hを次第に強くしていくと、光検出器Dの出力は180°の周期で振動するため、これから旋光角を決めることができる。
【0010】
以上述べた零位法による測定法は、測定に手間がかかる上、精度もあまり高くはない。そこで、試料保持装置法と回転検光子法とが考案されている。
【0011】
試料保持装置法では、検光子Aを回転させて行う信号の最小値を探す代りに次のことを行う。検光子Aは、偏光子Pと偏光方向が直交するように固定しておく。試料Sのファラデー効果によって起きた回転を試料保持装置に設けたコイルCに光検出器Dの出力が0になるように電流を流して偏光の向きを回転して試料Sによる回転を打ち消す。コイルCの電流と回転角の関係をあらかじめ校正しておくことにより、その電流を読むことにより回転角を検出する。
【0012】
感度を上げるために消光比の高い偏光素子を用いると共に、試料保持装置のコイルCに加える直流電流に、変調用の交流を重量させて、光検出器Dの出力を、ロックインアンプ等の高感度増幅器で増幅することにより0.001°以下の旋光角も測定することができる。
【0013】
この方法の欠点は、(1)試料を磁化するための磁界が試料の偏光に影響を与えること、(2)大きな旋光性を持つ試料の場合、これを補償するためにセルに流す電流が大きくなり、これによる温度上昇のために、ヴェルデ定数が変化して誤差の原因になること、(3)試料のヴェルデ定数が波長λに対して1/λ2のような波長分散を持ち、長波長側での感度が低くなることがあることである。
【0014】
また、回転検光子法は、磁気光学効果の感度を上げるため、偏光子Pまたは検光子Aのいずれかをモータで回転させて変調させる方法である。この方法によれば直交偏光子法よりも高い精度が得られるが、光軸と検光子の回転軸が合致していないと系統的な誤差を生じる。
【0015】
【非特許文献1】佐藤勝昭著,「光と磁気」,改定版,株式会社朝倉書店,2001年11月20日,p90
【0016】
上述の方法はいずれも試料を一つ一つ観察・測定しなければならないため、使用目的に適した成分や組成の材料(試料)を見つけ出そうとする場合のように、成分や組成を変えた無数の試料の光学特性を測定する場合には多大な測定時間を要し、研究開発のネックになっていた。そこで、円偏光を利用して成分や組成の異なる複数の試料の光学特性を二次元的に一括して評価することを可能とし、希望する試料を速やかに見出し、選択することが出来る観察・測定方法が提案されている。
【0017】
【特許文献1】特開2004-294293号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかしながら、1/4波長板を用いた磁気光学顕微鏡では、波長板を機械的に回転させていたために計測時間が長いという問題があった。
【0019】
本発明は、上述の背景技術に鑑みてなされたものであり、高速測定が可能な観測装置、観測方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
この発明によれば、上述の目的を達成するために、特許請求の範囲に記載のとおりの構成を採用している。以下、この発明を詳細に説明する。
【0021】
本発明の第1の側面は、
偏光子と、
液晶変調素子と
を備え、
前記偏光子及び前記液晶変調素子を順に通過するように光の光路が設定され、
前記液晶変調素子によって、右回り円偏光及び左回り円偏光が選択的に作り出されるように前記液晶変調素子が制御され、
前記偏光子を通過する光によって試料を観測することを特徴とする観測装置にある。
【0022】
本構成によれば、高速測定が可能である観測装置が得られる。
本発明の第2の側面は、
偏光子と、
液晶変調素子と、
検光子と
を備え、
前記検出子の偏光方向は、前記偏光子に対して垂直以外の状態であり、
前記偏光子、前記液晶変調素子及び前記検光子を順に通過するように光の光路が設定され、
前記偏光子を通過する光によって試料を観測することを特徴とする観測装置にある。
【0023】
本構成によれば、高速測定が可能であり、楕円率と回転角との双方を測定することが可能な観測装置が得られる。
【0024】
本発明の第3の側面は、
偏光子及び液晶変調素子を順に通過するように光の光路が設定された状態で、前記偏光子を通過する光によって試料を観測する際に、前記液晶変調素子によって、右回り円偏光及び左回り円偏光が選択的に作り出されるように前記液晶変調素子を制御する工程と、
前記液晶変調素子によって作り出される右回り円偏光状態及び左回り円偏光状態に対応した、前記試料の光学データをそれぞれ生成する工程と
を有することを特徴とする観測方法にある。
【0025】
本構成によれば、高速測定が可能な観測方法が得られる。
【0026】
本発明の第4の側面は、
偏光子及び液晶変調素子を順に通過するように光の光路が設定された状態で、前記偏光子を通過する光によって試料を観測する際に、前記液晶変調素子によって、右回り円偏光、左回り円偏光及び直線偏光が選択的に作り出されるように前記液晶変調素子を制御する工程と、
前記液晶変調素子によって作り出される右回り円偏光状態、左回り円偏光状態及び直線偏光状態に対応した、前記試料の光学データをそれぞれ生成する工程と
を有することを特徴とする観測方法にある。
【0027】
本構成によれば、高速測定が可能であり、回転角と楕円率との双方を測定することが可能となる。
【0028】
本発明の第5の側面は、
検出子の偏光方向が偏光子に対して垂直以外の状態であり、前記偏光子、液晶変調素子及び前記検出子を順に通過するように光の光路が設定された状態で、前記偏光子を通過する光によって試料を観測することを特徴とする観測方法にある。
【0029】
本構成によれば、高速測定が可能な観測方法が得られる。
【0030】
本発明の第6の側面は、
偏光子及び液晶変調素子を順に通過するように光の光路が設定された状態で、前記偏光子を通過する光によって試料を観測する際に、
液晶変調素子の光学遅延の大きさが0、π/2、-π/2のときの出射光の光強度I(0)、I(π/2)、I(-π/2)、ファラデー楕円率ηFとしたとき、
【数1】
によって前記試料のファラデー回転角θFを近似測定することを特徴とするファラデー回転角測定方法にある。
【0031】
本構成によれば、ファラデー回転角を簡便に高速測定することが可能となる。
【0032】
本発明の第7の側面は、
偏光子及び液晶変調素子を順に通過するように光の光路が設定された状態で、前記偏光子を通過する光によって試料を観測する際に、
液晶変調素子の光学遅延の大きさが0、π/2、-π/2のときの出射光の光強度をそれぞれI(0)、I(π/2)、I(-π/2)とした場合、ファラデー楕円率ηFが1より十分に小さいとき
【数2】
によって前記試料のファラデー回転角θFを近似測定することを特徴とするファラデー回転角測定方法にある。
【0033】
本構成によれば、ファラデー回転角をさらに簡便に高速測定することが可能となる。
【0034】
本発明の第8の側面は、
偏光子及び液晶変調素子を順に通過するように光の光路が設定された状態で、前記偏光子を通過する光によって試料を観測する際に、
液晶変調素子の光学遅延の大きさが0、π/2、-π/2のときの出射光の光強度をそれぞれI(0)、I(π/2)、I(-π/2)とした場合、ファラデー楕円率ηFが1より十分に小さいとき
【数3】
または
【数4】
によって前記試料のファラデー回転角θFを近似測定することを特徴とするファラデー回転角測定方法にある。
【0035】
本構成によれば、ファラデー回転角をさらに簡便に高速測定することが可能となる。
【0036】
本発明の第9の側面は、
偏光子及び液晶変調素子を順に通過するように光の光路が設定された状態で、前記偏光子を通過する光によって試料を観測する際に、
液晶変調素子の光学遅延の大きさがπ/2、-π/2のときの前記検出子からの出射光の光強度をそれぞれI(π/2)、I(-π/2)としたとき、
【数5】
によって前記試料のファラデー楕円率ηFを近似測定することを特徴とするファラデー楕円率測定方法にある。
【0037】
本構成によれば、ファラデー楕円率を簡便に高速測定することが可能となる。
【0038】
本発明の第10の側面は、
偏光子及び液晶変調素子を順に通過するように光の光路が設定された状態で、前記偏光子を通過する光によって試料を観測する際に、
液晶変調素子の光学遅延の大きさが0、π/2、-π/2のときの出射光の光強度I(0)、I(π/2)、I(-π/2)、カー楕円率ηKとしたとき、
【数6】
によって前記試料のカー回転角θKを近似測定することを特徴とするカー回転角測定方法にある。
【0039】
本構成によれば、カー回転角を簡便に高速測定することが可能となる。
【0040】
本発明の第11の側面は、
偏光子及び液晶変調素子を順に通過するように光の光路が設定された状態で、前記偏光子を通過する光によって試料を観測する際に、
液晶変調素子の光学遅延の大きさが0、π/2、-π/2のときの出射光の光強度をそれぞれI(0)、I(π/2)、I(-π/2)とした場合、カー楕円率ηKが1より十分に小さいとき
【数7】
によって前記試料のカー回転角θKを近似測定することを特徴とするカー回転角測定方法にある。
【0041】
本構成によれば、カー回転角をさらに簡便に高速測定することが可能となる。
【0042】
本発明の第12の側面は、
偏光子及び液晶変調素子を順に通過するように光の光路が設定された状態で、前記偏光子を通過する光によって試料を観測する際に、
液晶変調素子の光学遅延の大きさが0、π/2、-π/2のときの出射光の光強度をそれぞれI(0)、I(π/2)、I(-π/2)とした場合、カー楕円率ηKが1より十分に小さいとき
【数8】
または
【数9】
によって前記試料のカー回転角θKを近似測定することを特徴とするカー回転角測定方法にある。
【0043】
本構成によれば、カー回転角をさらに簡便に高速測定することが可能となる。
【0044】
本発明の第13の側面は、
偏光子及び液晶変調素子を順に通過するように光の光路が設定された状態で、前記偏光子を通過する光によって試料を観測する際に、
液晶変調素子の光学遅延の大きさがπ/2、-π/2のときの出射光の光強度をそれぞれI(π/2)、I(-π/2)としたとき、
【数10】
によって前記試料のカー楕円率ηKを近似測定することを特徴とするカー楕円率測定方法にある。
【0045】
本構成によれば、カー楕円率を簡便に高速測定することが可能となる。
【発明の効果】
【0046】
本発明によれば、高速測定が可能な観測装置、観測方法等が得られる。
【0047】
本発明のさらに他の目的、特徴又は利点は、後述する本発明の実施の形態や添付する図面に基づく詳細な説明によって明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。すなわち、液晶を用いた円偏光変調磁気光学顕微鏡について説明する。また、ジョーンズマトリックス法を使って行う定量的な磁気光学像の測定法、実際に磁性ガーネットの磁区構造が明瞭に観察できたようすを示す。
【0049】
本実施形態では、光学顕微鏡(オリンパス、BH-UMA)を改良し、偏光子(Glan-Thompson prism; Karl
Lambrecht corp., MG*B10)、液晶変調素子、検光子(Glan-Thompson
prism; Karl Lambrecht corp., MG*B10)をこれに組み込んだ。光源には顕微鏡に内蔵された20Wハロゲンランプを用い、測定波長を選択するための干渉フィルタ用ホルダーを取り付けた。使用したCCDカメラは、画素数1280・1024の冷却型CCDカメラ (Hamamatsu,
C4880)である。
【0050】
以下、装置の各部について詳細に説明する。
【0051】
図3は、本実施形態に用いた装置の光学系部材配置の平面図、図4は、本実施形態に用いた装置の光学系部材配置の正面図である。この装置には、ハロゲンランプを用い出射レンズ1aを備えた光源1、手動回転の可変フィルタ2、グラントムソンプリズムを用いた偏光子(ポーラライザ)3、液晶変調素子4が設けられている。
【0052】
さらに、この装置には、集光レンズ5、コイルをファラデー配置し且つ磁気特性検出器6aを内蔵した試料保持装置6、試料を試料保持装置の所定位置に挿入するサンプルホルダー7、リレーレンズ8、グラントムソンプリズムを用いた検光子(アナライザ)9、入射レンズ10aを備えた冷却付高感度・高解像度のCCDカメラ10が設けられている。検出子9の偏光方向は、偏光子3に対して45度の角度をなす。
【0053】
ここで、検出子9の偏光方向を偏光子3に対して垂直以外の状態(90°以外の角度)とすれば、回転角と楕円率との両方を測定することができる。CCDカメラに入射する光の光量を大きくとれるため、40度から50度の範囲とするのが好ましい。さらに好ましくは、光量がもっとも大きくかつ回転角および楕円率を算出する計算式が簡単になるため、検出子9の偏光方向が、偏光子3に対してほぼ45度の角度であるのが好ましい。
【0054】
なお、横カー効果又は赤道カー効果の場合には、検出子9なしに磁気光学効果の測定ができる。また、検出子9なしでも楕円率の測定は可能である。
【0055】
図5は、図3及び図4に示した光学系部材とその制御装置との接続を示すブロック図である。液晶変調素子4は、コントローラ11によって制御される。試料保持装置6に備えたコイルに流す電流はコントローラ12によって制御される。さらに、この装置には、画像階調輝度調整機能及び画像間引き算機能を持った画像処理装置13、インターフェース14、電子計算装置15、画像表示装置16、プリンタ17が関与している。なお、撮像カメラとしては、CCDカメラのみに限定されるものではなくCMOS素子やFOVEON素子を用いた他の撮像カメラでもよい。
【0056】
本発明においては、図5に拡大表示したように、先ず1mm×1mm角のガラス基板18に複数の成分割合の異なる薄膜試料を塗布し、乾燥したものをサンプルホルダー7にセットして試料保持装置6内の所定位置に挿入し、光源1を点灯する。
【0057】
次に可変フィルタ2の1つを光路中にセットした後、偏光画像の状態をCCDカメラ10及び画像処理装置13を介して電子計算装置15内のメモリに記憶させる。また必要に応じて、可変フィルタ2の他のフィルタを光路中にセットし、その場合の偏光画像の変化を同様にして電子計算装置15内のメモリに記憶させる。試料が磁性材料の場合は、同時に各偏光状態における磁気特性も併せて電子計算装置15のメモリに記憶させる。
【0058】
このようにして、記憶された画像情報を画像表示装置16に表示させると、ガラス基板18上に設けた試料の偏光画像が、あたかもMRI診断装置の断層写真のように一括して表示される。
【0059】
光学特性によって決まる表示画像は、成分・組成によってコントラストが変化する。したがって、あらかじめ希望する成分の画像を表にし、認識していれば、その表示画像を見て直ちに希望する成分・組成の試料(材料)を見つけることができる。また、その試料を指定すれば電子計算装置15により、旋光性、円二色性等の光学特性や磁気光学特性の詳細を画像装置16又はプリンタ17によって知ることができる。
【0060】
ここで、本実施形態では、サンプルに照射する光の偏光状態を変化させるために液晶変調素子4を使用した。液晶は、電圧を印加することでリターデーション(光学遅延)の大きさを変化させることができる。
【数11】
【0061】
つまり、高速で右回り円偏光、直線偏光、左回り円偏光を作り出すことができるため、円偏光変調法における変調素子として利用できる。逆に言えば、液晶変調素子に印加する電圧の大きさにより光学遅延量が制御されることになる。また、この素子の応答速度は10ms以下であるので、波長板を用いた方法では不可能であった1秒間に数十コマの画像を得ることも可能になる。
【0062】
実際の測定で使用する左円偏光LCP、 直線偏光LP、 右円偏光RCPに対応する電圧を調べるために、液晶に印加する交流電圧に対する出射光の消光比Imin/Imaxを測定した。
【0063】
図6は、液晶偏光素子に電圧を印加したときの出射光の消光比を示す。図6から、電圧を、右円偏光は2V、左円偏光は3V、直線偏光は
2.5Vとした際にそれぞれ得られることがわかる。
【0064】
このように、液晶変調素子に印加する電圧を、所定の偏光を得ることができる大きさにあらかじめ調べて決めておくことにより、多くの印加電圧の大きさについてそれぞれ測定するのではなく、必要な偏光状態を選択的に切り替えて実現することができる。これにより、測定の高速化が図られる。すなわち、印加電圧を、直線偏光、右回り偏光、左回り偏光にあらかじめ優先的に対応付けておくことにより、高速測定を実現できることになる。
【0065】
次に図7に示す光学系の原理図及び図8に示す円偏光変調法を行うための光学素子の構成を用い、本実施形態で用いた測定方法を説明する。本測定で用いた装置の磁気光学測定に関する構成の要素は、図8に示すように偏光子3、液晶変調素子4、検光子9である。ここで、液晶変調素子4による光学遅延をδ、検光子の角度(検光子の方位角)をαとする。また、ファラデー回転角と楕円率とをそれぞれθF、ηFとする。
【0066】
円偏光変調法による測定では光弾性変調器(PEM)を用いて偏光状態を変調し、光電子増倍管などの検出器を使って磁気光学効果による信号をロックイン検出する。しかし、顕微鏡で使用するCCD素子はPEMの変調周波数である50kHzに応答させることは困難である。そのため、本実施形態では液晶変調素子を使って偏光状態を変化させた。
【0067】
ここで、円偏光変調法を用いた測定の原理を説明するために、ジョーンズマトリックス法を使って説明する。ジョーンズマトリックス法では、偏光子P、液晶変調素子Q、試料S、検光子Aはそれぞれ次のように表される。
【数12】
【数13】
【数14】
【数15】
【0068】
このとき、入射光をE1 = (Ex, Ey)、αを45°とすると出射光E2は次のように求めることができる。
【数16】
【0069】
この結果から出射光の光強度は波長板の角度ψ、ファラデー回転角θFおよび楕円率ηFの関数として
【数17】
となる。ここで、I0は入力光の光強度である。ファラデー回転角θF、楕円率ηFは、入射光の強度と液晶変調素子の光学遅延の大きさδが0、π/2、-π/2のときの光強度をつかって次のように計算することができる。光学遅延の大きさδが0、π/2、-π/2というのは、それぞれ直線偏光、右回り偏光、左回り偏光に対応している。
【数18】
【数19】
【0070】
CCDカメラによって得られた3枚の画像の各ピクセルについてファラデー回転角および楕円率が得られる。それらの値を2次元表示すれば磁気光学画像が得られる。したがって、得られた磁気光学画像はビクセル毎にファラデー回転角や楕円率の絶対値を持つ。
【0071】
実際の測定では、入射光強度の測定には光学素子および試料を取り外す必要があるため現実的ではない。そこで、|Ex|の代わりに を使ってファラデー回転角と楕円率を次のように書き直した。
【数20】
【数21】
【0072】
これらの式では、置き換えによる誤差を含む。その大きさは、30°と大きいときには30%程度と大きくなるが、1°の時には、0.1%となる。また、楕円率が小さい場合は (9)式の分母にあるηF2の項は無視してもよい。なお、これらの数式から明らかなように、楕円率は、光学遅延の大きさδが0のときの値がなくとも求めることができる。また、測定が容易な光強度により、回転率又は楕円率が近似できることになる。
【0073】
図9は、Liquid Phase Epitaxy (LPE)法で作製された磁性ガーネット膜を(a)RCP、 (b)LP、 (c)LCPの光で測定した光学像である。磁気光学効果が大きいために磁区構造が観察される。(a)と(c)とは、それぞれ右回り円偏光、左回り円偏光による画像であるが、コントラストが反転しているのが分かる。これは、試料が楕円率を持つためによるものである。このことより、液晶変調素子によって右円偏光と左円偏光が作り出されていることが確認できる。これらは、試料の位置に対応する2次元データとして画像データが生成されている。
【0074】
図10は、LPEで作製した磁性ガーネットの(a)ファラデー回転像 と(b)ファラデー楕円率像である。これらは、図9で示した光学像を用いて得られた像である。これらには、明瞭な磁区構造が観察される。また、光学像で観察された光強度のむらは磁気光学像では観察されない。このことは、本手法で得られる画像が磁気光学効果の絶対で表されることに対応している。したがって、多少の光量の変化によって本手法の定量性が影響を受けないことが分かる。
【0075】
また、図11は、図10とは縮尺の異なるファラデー回転像である。観察対象は、液晶変調素子を使って測定したBi:YIG膜である。図11によっても、図10と同様に明瞭な磁区構造が得られていることが分かる。
【0076】
他の実施形態として、カー回転角およびカー楕円率を求める場合について説明する。
【0077】
図12は、磁気光学顕微鏡の概略図である。偏光子の後に偏光変調を行うための液晶変調素子を光学軸が45度の角度に配置してある。液晶変調素子として、市販の液晶(ZLI-4792)をITOコートしたガラス基板に挟んだものを作製し、これを使用した。液晶変調素子に交流の電圧を印加することで直線偏光、右回り円偏光、左回り円偏光を試料に照射することができる。反射光は、検光子を通った後、CCDカメラによって画像化される。3つの偏光状態の画像をそれぞれ計測し、各ピクセルの光強度の値を次式に代入し、カー回転角およびカー楕円率を求め、画像として再構築する。
【数22】
【0078】
ここで、I(0)、I(π/2)、I(-π/2)は、液晶により光学遅延0、π/2および-π/2を与えたときにCCDに入射する光の強度であり、それぞれ直線偏光、右回り円偏光および左回り円偏光に対応する。つまり、液晶変調素子を使って右円偏光、直線偏光、左円偏光の光を連続的に試料に照射し、同時に計測した3枚のデジタルイメージを演算処理することによりカー回転およびカー楕円率の画像を得ていることになる。
【0079】
上述のように楕円率のみを測定するときは、
【数23】
からわかるように2枚の画像を計測するだけで足りる。同様に回転角に対して測定の高速化を考慮する場合には、右回り円偏光と左回り円偏光のどちらかだけでよいことになる。つまり、この場合の回転角の式は次のように簡単になる。
【0080】
ファラデー楕円率ηFが1より十分に小さいとき、ファラデー回転角θFは、
【数24】
または
【数25】
となる。
【0081】
また、カー楕円率ηKが1より十分に小さいとき、カー回転角θKは、
【数26】
または
【数27】
となる。
【0082】
なお、上記の場合においてファラデー楕円率ηFが1より十分に小さいときとは、例えば、ファラデー楕円率ηFが10°以下であるとき、さらに好ましくは3°以下であるときをいう。また、カー楕円率ηKが1より十分に小さいときとは、例えば、カー楕円率ηKが10°以下であるとき、さらに好ましくは3°以下であるときをいう。
【0083】
図13は、ガラス基板上に作製した1辺50μmの正方形の垂直磁化薄膜の磁性ガーネット(Y2BiFe4GaO12)のカー回転画像である。測定波長は520nmである。光源としては緑色LEDを使用した。印加した磁場は、(a)-600Oe、(b)+600Oe 、(c)+250Oeである。(c)が保磁力程度の磁場を印加した場合に相当する。磁場を反転させることで磁化反転している様子が明瞭に観察できる。また、カー回転角が0.2度程度と小さいにもかかわらず、磁化がほぼゼロとなる保磁力付近の250Oeにおいて、1μm程度の微細な磁区構造が観察できることがわかる。
【0084】
次に、上述の実施形態の装置によれば高速に試料の状態を観測できることについて説明する。
【0085】
図14は、試料の状態を変化させながら連続的に取得したカー回転画像を示す。試料としてはY2BiFe4GaO12 を使用し、パターンサイズ50mm角である。また、フレームレートは1フレーム毎秒である。図14に示すように、1フレーム毎秒という短時間であっても鮮明に試料を測定できることがわかる。また、原理的に1秒10〜30コマでも同様の測定が十分実現できると考えられる。これは、上述の装置であれば、試料の状態変化にも対応したリアルタイム測定も可能であることを示している。
【0086】
上述の実施形態の装置では、実際の測定で使用するLCP, LP, RCPに対応する電圧をあらかじめ調べておき、少ない測定数により磁気光学像を得ることができる。したがって、短時間で、図14に示す磁気光学像を得ることができている点で優れている。逆に言えば、実際の測定で使用する電圧を決めずに多くの電圧値に対して測定したのでは、測定数が多くなり演算処理等に長時間を要してしまうため短時間に磁気光学像を得ることは比較的困難になる。
【0087】
カー効果、ファラデー効果などの磁気光学効果を利用した磁区構造の観察は一般的な光学顕微鏡を使って比較的簡単に行うことができることから最も一般的な方法として用いられてきた。また、磁気光学効果そのものは材料の電子構造に起因するため、磁気光学効果の測定は磁性材料の評価方法の一つとして重要な役割を果たしてきた。以上のことを考えると、上述のように磁気光学効果を定量的に画像化することができれば、試料内の磁気光学効果の大きさの分布を一括して取得することができ、試料の組成や結晶構造の分布などの情報を得ることが可能になる。上述の方法は、例えば、コンビナトリアルマテリアル又は不均質な試料の評価に対して有力な評価手法となると考えられる。
【0088】
一般的な磁気光学顕微鏡で用いられるクロスニコル法では、2枚の偏光板を90°に近い角度に配置して、ファラデー回転などによる偏光の回転を明るさのコントラストとして画像化する。この方法は、非常に簡単な方法であるため、一般に広く使用されてきた。しかし、クロスニコル法では、定量的な測定が難しく、回転角と楕円率が同時に測定できないことや、不均質な試料の測定は困難であるといった欠点がある。そこで、上述のように、磁気光学効果を定量的に測定する方法の一つである円偏光変調法を磁気光学顕微鏡に適用することによって、回転角と楕円率を同時にしかも定量的に磁気光学像を得るための磁気光学顕微鏡の開発を行った。
【0089】
なお、光源としては、例えば、ハロゲンランプ、キセノンランプ、重水素ランプ、グローバー、ニクロム線等の熱源、サファイア窓のハロゲンランプのいずれでもよい。偏光子としては、二色性偏光子、複屈折偏光子、ワイヤグリッド偏光子、ブリュースター偏光子のいずれでもよい。光検出器としては、光電子増倍管又は半導体光検出器のいずれでもよい。
【0090】
観測対象として、例えば、酸化物磁性体(磁性ガーネット)、金属磁性体(Fe, Co, Ni)、金属間化合物・合金(PtMnSbなど)、磁性半導体(CdMnTeなど)、アモルファス(TbFeCo, GdFeCoなど)、人工構造膜(Fe/Au, Pt/Coなど)がある。
【0091】
光の進行方向と磁界(磁化)の方向が垂直である場合の磁気光学効果であるコットン‐ムートン効果も上述の装置によって測定できる。
【0092】
液晶変調素子を電気的に駆動する方式としては、セルに直接制御電圧を掛ける単純方式、トランジスタなどのアクティブ素子をセルに直結し、この素子を介して駆動するアクティブ方式でもよい。また、マトリックス駆動方式に組み合わせた単純マトリックス駆動方式とアクティブマトリックス駆動方式の他に、強誘電性液晶に特有の駆動方式、レーザ光などを用いて熱的な書込みを行う方式、マトリックス方式で2つの周波数を用いて駆動する2周波駆動方式のいずれでもよい。
【0093】
また、液晶の分子配列の構造としては、ネマティック、スメクティック又はコレステリックでもよい。さらに、ツイステッドネマティック(TN)、超ツイステッドネマティック(STN)、DSTN形、TFT形、強誘電性液晶、反強誘電性液晶でもよい。
【0094】
可変フィルタに代えて分光器を使ってもよいことは勿論である。分光器は、分解能よりも明るさに重点を置いて選ぶ必要がある。焦点距離25cm程度であり、fナンバーが3〜4のものが望ましい。
【0095】
また、磁気光学効果以外の電気光学効果、ピエゾ光学効果、自然活性も測定可能である。
【0096】
以上、特定の実施形態を参照しながら、本発明について説明してきた。しかしながら、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者が該実施形態の修正又は代用を成し得ることは自明である。すなわち、例示という形態で本発明を開示してきたのであり、本明細書の記載内容を限定的に解釈するべきではない。本発明の要旨を判断するためには、冒頭に記載した特許請求の範囲の欄を参酌すべきである。
【0097】
また、この発明の説明用の実施形態が上述の目的を達成することは明らかであるが、多くの変更や他の実施例を当業者が行うことができることも理解されるところである。特許請求の範囲、明細書、図面及び説明用の各実施形態のエレメント又はコンポーネントを他の1つまたは組み合わせとともに採用してもよい。特許請求の範囲は、かかる変更や他の実施形態をも範囲に含むことを意図されており、これらは、この発明の技術思想および技術的範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】公知の直交偏光子法によるファラデー効果を測定する場合の原理図である。
【図2】フォークト配置の説明図である。
【図3】実施形態に用いた装置の光学系部材配置の平面図である。
【図4】実施形態に用いた装置の光学系部材配置の正面図である。
【図5】図3及び図4に示す光学系部材とその制御装置との接続を示すブロック図である。
【図6】液晶偏光素子に電圧を印加したときの出射光の消光比である。
【図7】光学系の原理図である。
【図8】円偏光変調法を行うための光学素子の構成である。
【図9】Liquid Phase Epitaxy (LPE)法で作製された磁性ガーネット膜を(a)RCP、 (b)LP、(c)LCPの光で測定した光学像である。
【図10】LPEで作製した磁性ガーネットの(a)ファラデー回転像と(b)ファラデー楕円率像である。
【図11】図10と縮尺の異なるファラデー回転像である。
【図12】磁気光学顕微鏡の概略図である。
【図13】ガラス基板上に作製した1辺50μmの正方形の垂直磁化薄膜の磁性ガーネット(Y2BiFe4GaO12)のカー回転画像である。
【図14】試料の状態を変化させながら連続的に取得した磁気光学像を示す。
【符号の説明】
【0099】
1
光源
2
可変フィルタ
3
偏光子
4
液晶変調素子
5
集光レンズ
6
試料保持装置
7
サンプルホルダー
8
リレーレンズ
9
検光子
10
CCDカメラ
11,12
コントローラ
13
画像処理装置
14
インターフェース
15
電子計算装置
16
画像表示装置
17
プリンタ
18
基板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光子と、
液晶変調素子と
を備え、
前記偏光子及び前記液晶変調素子を順に通過するように光の光路が設定され、
前記液晶変調素子によって、右回り円偏光及び左回り円偏光が選択的に作り出されるように前記液晶変調素子が制御され、
前記偏光子を通過する光によって試料を観測することを特徴とする観測装置。
【請求項2】
検光子をさらに備え、
前記偏光子、前記液晶変調素子、前記検光子を順に通過するように光の光路が設定され、
前記偏光子を通過する光によって試料を観測することを特徴とする請求項1記載の観測装置。
【請求項3】
前記液晶変調素子によって、直線偏光がさらに選択的に作り出されるように前記液晶変調素子が制御されることを特徴とする請求項1又は2記載の観測装置。
【請求項4】
前記検出子の偏光方向は、前記偏光子に対して垂直以外の状態であることを特徴とする請求項3記載の観測装置。
【請求項5】
前記検出子の偏光方向は、前記偏光子に対してほぼ45度の角度であることを特徴とする請求項3記載の観測装置。
【請求項6】
前記液晶変調素子に印加する電圧の大きさにより光学遅延量が制御されることを特徴とする請求項1又は2記載の観測装置。
【請求項7】
前記液晶変調素子に印加する電圧を、所定の偏光を得ることができる大きさにあらかじめ決めておくことを特徴とする請求項1又は2記載の観測装置。
【請求項8】
磁気光学顕微鏡であることを特徴とする請求項1又は2記載の観測装置。
【請求項9】
偏光子と、
液晶変調素子と、
検光子と
を備え、
前記検出子の偏光方向は、前記偏光子に対して垂直以外の状態であり、
前記偏光子、前記液晶変調素子及び前記検光子を順に通過するように光の光路が設定され、
前記偏光子を通過する光によって試料を観測することを特徴とする観測装置。
【請求項10】
前記検出子の偏光方向は、前記偏光子に対してほぼ45度の角度であることを特徴とする請求項9記載の観測装置。
【請求項11】
偏光子及び液晶変調素子を順に通過するように光の光路が設定された状態で、前記偏光子を通過する光によって試料を観測する際に、前記液晶変調素子によって、右回り円偏光及び左回り円偏光が選択的に作り出されるように前記液晶変調素子を制御する工程と、
前記液晶変調素子によって作り出される右回り円偏光状態及び左回り円偏光状態に対応した、前記試料の光学データをそれぞれ生成する工程と
を有することを特徴とする観測方法。
【請求項12】
偏光子及び液晶変調素子を順に通過するように光の光路が設定された状態で、前記偏光子を通過する光によって試料を観測する際に、前記液晶変調素子によって、右回り円偏光、左回り円偏光及び直線偏光が選択的に作り出されるように前記液晶変調素子を制御する工程と、
前記液晶変調素子によって作り出される右回り円偏光状態、左回り円偏光状態及び直線偏光状態に対応した、前記試料の光学データをそれぞれ生成する工程と
を有することを特徴とする観測方法。
【請求項13】
検出子の偏光方向が偏光子に対して垂直以外の状態であり、前記偏光子、液晶変調素子及び前記検出子を順に通過するように光の光路が設定された状態で、前記偏光子を通過する光によって試料を観測することを特徴とする観測方法。
【請求項14】
前記光学データは、試料の位置に対応する2次元データとして生成されることを特徴とする請求項11、12又は13記載の観測方法。
【請求項15】
偏光子及び液晶変調素子を順に通過するように光の光路が設定された状態で、前記偏光子を通過する光によって試料を観測する際に、
液晶変調素子の光学遅延の大きさが0、π/2、-π/2のときの出射光の光強度I(0)、I(π/2)、I(-π/2)、ファラデー楕円率ηFとしたとき、
【数1】
によって前記試料のファラデー回転角θFを近似測定することを特徴とするファラデー回転角測定方法。
【請求項16】
偏光子及び液晶変調素子を順に通過するように光の光路が設定された状態で、前記偏光子を通過する光によって試料を観測する際に、
液晶変調素子の光学遅延の大きさが0、π/2、-π/2のときの出射光の光強度をそれぞれI(0)、I(π/2)、I(-π/2)とした場合、ファラデー楕円率ηFが1より十分に小さいとき
【数2】
によって前記試料のファラデー回転角θFを近似測定することを特徴とするファラデー回転角測定方法。
【請求項17】
偏光子及び液晶変調素子を順に通過するように光の光路が設定された状態で、前記偏光子を通過する光によって試料を観測する際に、
液晶変調素子の光学遅延の大きさが0、π/2、-π/2のときの出射光の光強度をそれぞれI(0)、I(π/2)、I(-π/2)とした場合、ファラデー楕円率ηFが1より十分に小さいとき
【数3】
または
【数4】
によって前記試料のファラデー回転角θFを近似測定することを特徴とするファラデー回転角測定方法。
【請求項18】
偏光子及び液晶変調素子を順に通過するように光の光路が設定された状態で、前記偏光子を通過する光によって試料を観測する際に、
液晶変調素子の光学遅延の大きさがπ/2、-π/2のときの前記検出子からの出射光の光強度をそれぞれI(π/2)、I(-π/2)としたとき、
【数5】
によって前記試料のファラデー楕円率ηFを近似測定することを特徴とするファラデー楕円率測定方法。
【請求項19】
偏光子及び液晶変調素子を順に通過するように光の光路が設定された状態で、前記偏光子を通過する光によって試料を観測する際に、
液晶変調素子の光学遅延の大きさが0、π/2、-π/2のときの出射光の光強度I(0)、I(π/2)、I(-π/2)、カー楕円率ηKとしたとき、
【数6】
によって前記試料のカー回転角θKを近似測定することを特徴とするカー回転角測定方法。
【請求項20】
偏光子及び液晶変調素子を順に通過するように光の光路が設定された状態で、前記偏光子を通過する光によって試料を観測する際に、
液晶変調素子の光学遅延の大きさが0、π/2、-π/2のときの出射光の光強度をそれぞれI(0)、I(π/2)、I(-π/2)とした場合、カー楕円率ηKが1より十分に小さいとき
【数7】
によって前記試料のカー回転角θKを近似測定することを特徴とするカー回転角測定方法。
【請求項21】
偏光子及び液晶変調素子を順に通過するように光の光路が設定された状態で、前記偏光子を通過する光によって試料を観測する際に、
液晶変調素子の光学遅延の大きさが0、π/2、-π/2のときの出射光の光強度をそれぞれI(0)、I(π/2)、I(-π/2)とした場合、カー楕円率ηKが1より十分に小さいとき
【数8】
または
【数9】
によって前記試料のカー回転角θKを近似測定することを特徴とするカー回転角測定方法。
【請求項22】
偏光子及び液晶変調素子を順に通過するように光の光路が設定された状態で、前記偏光子を通過する光によって試料を観測する際に、
液晶変調素子の光学遅延の大きさがπ/2、-π/2のときの出射光の光強度をそれぞれI(π/2)、I(-π/2)としたとき、
【数10】
によって前記試料のカー楕円率ηKを近似測定することを特徴とするカー楕円率測定方法。
【請求項1】
偏光子と、
液晶変調素子と
を備え、
前記偏光子及び前記液晶変調素子を順に通過するように光の光路が設定され、
前記液晶変調素子によって、右回り円偏光及び左回り円偏光が選択的に作り出されるように前記液晶変調素子が制御され、
前記偏光子を通過する光によって試料を観測することを特徴とする観測装置。
【請求項2】
検光子をさらに備え、
前記偏光子、前記液晶変調素子、前記検光子を順に通過するように光の光路が設定され、
前記偏光子を通過する光によって試料を観測することを特徴とする請求項1記載の観測装置。
【請求項3】
前記液晶変調素子によって、直線偏光がさらに選択的に作り出されるように前記液晶変調素子が制御されることを特徴とする請求項1又は2記載の観測装置。
【請求項4】
前記検出子の偏光方向は、前記偏光子に対して垂直以外の状態であることを特徴とする請求項3記載の観測装置。
【請求項5】
前記検出子の偏光方向は、前記偏光子に対してほぼ45度の角度であることを特徴とする請求項3記載の観測装置。
【請求項6】
前記液晶変調素子に印加する電圧の大きさにより光学遅延量が制御されることを特徴とする請求項1又は2記載の観測装置。
【請求項7】
前記液晶変調素子に印加する電圧を、所定の偏光を得ることができる大きさにあらかじめ決めておくことを特徴とする請求項1又は2記載の観測装置。
【請求項8】
磁気光学顕微鏡であることを特徴とする請求項1又は2記載の観測装置。
【請求項9】
偏光子と、
液晶変調素子と、
検光子と
を備え、
前記検出子の偏光方向は、前記偏光子に対して垂直以外の状態であり、
前記偏光子、前記液晶変調素子及び前記検光子を順に通過するように光の光路が設定され、
前記偏光子を通過する光によって試料を観測することを特徴とする観測装置。
【請求項10】
前記検出子の偏光方向は、前記偏光子に対してほぼ45度の角度であることを特徴とする請求項9記載の観測装置。
【請求項11】
偏光子及び液晶変調素子を順に通過するように光の光路が設定された状態で、前記偏光子を通過する光によって試料を観測する際に、前記液晶変調素子によって、右回り円偏光及び左回り円偏光が選択的に作り出されるように前記液晶変調素子を制御する工程と、
前記液晶変調素子によって作り出される右回り円偏光状態及び左回り円偏光状態に対応した、前記試料の光学データをそれぞれ生成する工程と
を有することを特徴とする観測方法。
【請求項12】
偏光子及び液晶変調素子を順に通過するように光の光路が設定された状態で、前記偏光子を通過する光によって試料を観測する際に、前記液晶変調素子によって、右回り円偏光、左回り円偏光及び直線偏光が選択的に作り出されるように前記液晶変調素子を制御する工程と、
前記液晶変調素子によって作り出される右回り円偏光状態、左回り円偏光状態及び直線偏光状態に対応した、前記試料の光学データをそれぞれ生成する工程と
を有することを特徴とする観測方法。
【請求項13】
検出子の偏光方向が偏光子に対して垂直以外の状態であり、前記偏光子、液晶変調素子及び前記検出子を順に通過するように光の光路が設定された状態で、前記偏光子を通過する光によって試料を観測することを特徴とする観測方法。
【請求項14】
前記光学データは、試料の位置に対応する2次元データとして生成されることを特徴とする請求項11、12又は13記載の観測方法。
【請求項15】
偏光子及び液晶変調素子を順に通過するように光の光路が設定された状態で、前記偏光子を通過する光によって試料を観測する際に、
液晶変調素子の光学遅延の大きさが0、π/2、-π/2のときの出射光の光強度I(0)、I(π/2)、I(-π/2)、ファラデー楕円率ηFとしたとき、
【数1】
によって前記試料のファラデー回転角θFを近似測定することを特徴とするファラデー回転角測定方法。
【請求項16】
偏光子及び液晶変調素子を順に通過するように光の光路が設定された状態で、前記偏光子を通過する光によって試料を観測する際に、
液晶変調素子の光学遅延の大きさが0、π/2、-π/2のときの出射光の光強度をそれぞれI(0)、I(π/2)、I(-π/2)とした場合、ファラデー楕円率ηFが1より十分に小さいとき
【数2】
によって前記試料のファラデー回転角θFを近似測定することを特徴とするファラデー回転角測定方法。
【請求項17】
偏光子及び液晶変調素子を順に通過するように光の光路が設定された状態で、前記偏光子を通過する光によって試料を観測する際に、
液晶変調素子の光学遅延の大きさが0、π/2、-π/2のときの出射光の光強度をそれぞれI(0)、I(π/2)、I(-π/2)とした場合、ファラデー楕円率ηFが1より十分に小さいとき
【数3】
または
【数4】
によって前記試料のファラデー回転角θFを近似測定することを特徴とするファラデー回転角測定方法。
【請求項18】
偏光子及び液晶変調素子を順に通過するように光の光路が設定された状態で、前記偏光子を通過する光によって試料を観測する際に、
液晶変調素子の光学遅延の大きさがπ/2、-π/2のときの前記検出子からの出射光の光強度をそれぞれI(π/2)、I(-π/2)としたとき、
【数5】
によって前記試料のファラデー楕円率ηFを近似測定することを特徴とするファラデー楕円率測定方法。
【請求項19】
偏光子及び液晶変調素子を順に通過するように光の光路が設定された状態で、前記偏光子を通過する光によって試料を観測する際に、
液晶変調素子の光学遅延の大きさが0、π/2、-π/2のときの出射光の光強度I(0)、I(π/2)、I(-π/2)、カー楕円率ηKとしたとき、
【数6】
によって前記試料のカー回転角θKを近似測定することを特徴とするカー回転角測定方法。
【請求項20】
偏光子及び液晶変調素子を順に通過するように光の光路が設定された状態で、前記偏光子を通過する光によって試料を観測する際に、
液晶変調素子の光学遅延の大きさが0、π/2、-π/2のときの出射光の光強度をそれぞれI(0)、I(π/2)、I(-π/2)とした場合、カー楕円率ηKが1より十分に小さいとき
【数7】
によって前記試料のカー回転角θKを近似測定することを特徴とするカー回転角測定方法。
【請求項21】
偏光子及び液晶変調素子を順に通過するように光の光路が設定された状態で、前記偏光子を通過する光によって試料を観測する際に、
液晶変調素子の光学遅延の大きさが0、π/2、-π/2のときの出射光の光強度をそれぞれI(0)、I(π/2)、I(-π/2)とした場合、カー楕円率ηKが1より十分に小さいとき
【数8】
または
【数9】
によって前記試料のカー回転角θKを近似測定することを特徴とするカー回転角測定方法。
【請求項22】
偏光子及び液晶変調素子を順に通過するように光の光路が設定された状態で、前記偏光子を通過する光によって試料を観測する際に、
液晶変調素子の光学遅延の大きさがπ/2、-π/2のときの出射光の光強度をそれぞれI(π/2)、I(-π/2)としたとき、
【数10】
によって前記試料のカー楕円率ηKを近似測定することを特徴とするカー楕円率測定方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2007−46943(P2007−46943A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−229373(P2005−229373)
【出願日】平成17年8月8日(2005.8.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年3月29日に第52回応用物理学関係連合会講演会の8.応用物性、29a−YC−7にて発表 平成17年4月5日にThe2005 IEEE International Magnetics ConferenceのSession BD,Magnetic Imaging I,BD−10にて発表
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年8月8日(2005.8.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年3月29日に第52回応用物理学関係連合会講演会の8.応用物性、29a−YC−7にて発表 平成17年4月5日にThe2005 IEEE International Magnetics ConferenceのSession BD,Magnetic Imaging I,BD−10にて発表
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]