説明

角層剥離酵素保護用組成物

【課題】ターンオーバーの調節に関与するプロテアーゼを、乾燥による活性低下から保護するとともに、活性が低下した場合にプロテアーゼの活性を回復させることができる角層剥離酵素保護用組成物であって、乾燥性の肌荒れの予防改善効果に優れた、角層剥離酵素保護用組成物を提供する。
【解決手段】本発明による角層剥離酵素保護用組成物は、二価の金属イオンと、加水分解シルクタンパク質とを必須成分として含んでなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚の角層剥離酵素保護用組成物に関する。詳しくは、本発明は、皮膚のターンオーバーの調節に関与するプロテアーゼを、皮膚における乾燥による活性低下から保護するとともに、低下したプロテアーゼの活性を回復させる効果を有する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は、真皮、表皮、そして最外層の角質層(角層)からなる。正常な皮膚では、表皮細胞の分裂、角化、角質層の形成、そして角質層の剥離というターンオーバーが繰り返され、常に新陳代謝が行われている。角質層を構成する角質細胞はデスモソームと呼ばれる糖タンパク質等を介し強固に結合されているが、ターンオーバーに伴ってこの細胞間接着構造が分解され、角質層の自然な剥離が行われる。この細胞間接着構造の分解には、プロテアーゼ(タンパク質分解酵素)が関与していることが明らかにされつつある。前記ターンオーバーの調節に関与するプロテアーゼとして、セリンプロテアーゼタイプやシステインプロテアーゼタイプのものが知られているが、中でもトリプシン様およびキモトリプシン様セリンプロテアーゼが重要と考えられている。
【0003】
乾燥性の肌荒れを起こした皮膚(ドライスキン)では、細胞間接着構造の分解と角質層の剥離が正常に行われないことが観察されている。これは、ドライスキンでは、細胞間接着構造の分解に関与するプロテアーゼの活性が低下し、十分に機能していないことを示唆するものである。
【0004】
このため、前記プロテアーゼの乾燥条件下における活性低下を防止し、かつ低下したプロテアーゼの機能を正常な状態へ回復させることが、皮膚のターンオーバーの正常化につながり、乾燥性の肌荒れの予防改善に有効であると考えられる。
【0005】
例えば、特開2002−234845号公報(特許文献1)には、皮膚のトリプシンおよびキモトリプシン様プロテアーゼの角層剥離効果を高める物質として、ビタミンB12活性を有するコバラミン類を含む角質剥離促進剤および皮膚化粧料が開示されている。またこの文献において言及されている、特開平10−175844号公報(特許文献2)には、トリプシンおよびキモトリプシン様酵素の活性が低下した個体では、保湿剤のみによって酵素が活動し易い状態に導くのみでは、充分な角質剥離が達成できないことが示されている。
【0006】
また、特開2003−226613号公報(特許文献3)には、植物抽出物を含有するプロテアーゼ活性促進剤および化粧料組成物が開示されている。
【0007】
これらの文献に記載の技術はいずれも、皮膚のプロテアーゼの活性を増強し、角質層の剥離を加速することによって肌荒れを改善しようとするものである。しかしながら、これらの技術では、プロテアーゼが過剰に活性化されて皮膚刺激を生じる可能性があり、ドライスキンのように刺激に過敏な皮膚への適用が躊躇われる場合もあると考えられた。
【0008】
一方、肌荒れの予防改善を目的とする従来技術として、保湿剤または他の機能性成分として、ペプチド類や金属塩を皮膚外用剤に配合することが知られている。例えば、特開2007−277119号公報(特許文献4)には、アスコルビン酸と加水分解シルクタンパク質とを含有する皮膚外用剤が開示されている。また、特開平11−5725号公報(特許文献5)には、エリスリトールとミネラルとを含有する皮膚外用剤が開示されている。
【0009】
これらの技術はいずれも、皮膚の水分量を保持することにより乾燥性の肌荒れを改善しようとするものである。しかしながら、皮膚のターンオーバーの調節に関与するプロテアーゼの活性低下防止や、低下したプロテアーゼの活性回復という観点で検討されたものではなく、乾燥性の肌荒れに対する予防改善効果はさらに改善できる余地があると考えられた。
【0010】
また、特開2004−284962号公報(特許文献6)には、ミョウバン、カルシウム塩及びマグネシウム塩を含有する肌あれ改善皮膚外用剤が開示されている。特開2004−300065号公報(特許文献7)には、一価金属及び/又は二価金属と、オキシ酸、キレート形成物質、多糖類カルボン酸、及びメチルビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体から選ばれた少なくとも1種の水溶性物質からなる皮膚保護剤が開示されている。
【0011】
しかしながら、これらの技術も、プロテアーゼの活性低下防止や、低下したプロテアーゼの活性回復という観点で検討されたものではなく、乾燥性の肌荒れに対する予防改善効果も依然として改善の余地があると考えられた。
【0012】
このように、皮膚における乾燥によって引き起こされるプロテアーゼの活性低下を防止する効果を有し、乾燥性の肌荒れに対する予防改善効果に優れたプロテアーゼ保護用組成物が依然として望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2002−234845号公報
【特許文献2】特開平10−175844号公報
【特許文献3】特開2003−226613号公報
【特許文献4】特開2007−277119号公報
【特許文献5】特開平11−5725号公報
【特許文献6】特開2004−284962号公報
【特許文献7】特開2004−300065号公報
【発明の概要】
【0014】
本発明者らは今般、二価の金属イオンと加水分解シルクタンパク質とを組み合わせて使用すると、ターンオーバーの調節に関与するプロテアーゼの乾燥による失活を極めて効果的に防止することに予想外にも成功した。さらに本発明者らはこの組合せを、活性が低下した前記プロテアーゼに対して使用したところ、プロテアーゼ本来の酵素活性を回復させることができることも予想外にも見出した。本発明はこれら知見に基づくものである。
【0015】
よって本発明は、ターンオーバーの調節に関与するプロテアーゼを、乾燥による活性低下から保護するとともに、活性が低下した場合にプロテアーゼの活性を回復させることができる角層剥離酵素保護用組成物であって、乾燥性の肌荒れの予防改善効果に優れた、角層剥離酵素保護用組成物の提供をその目的とする。
【0016】
本発明による角層剥離酵素保護用組成物は、二価の金属イオンと、加水分解シルクタンパク質とを必須成分として含んでなることを特徴とする。
【0017】
本発明の一つの好ましい態様によれば、前記加水分解シルクタンパク質は加水分解セリシンである。本発明のさらに好ましい態様によれば、加水分解セリシンの重量平均分子量は、1,000〜100,000である。
【0018】
本発明の一つの別の好ましい態様によれば、前記二価の金属イオンはカルシウムイオンである。
【0019】
本発明の一つの別の好ましい態様によれば、前記二価の金属イオンは、水溶性の金属塩の形態で加えられたパントテン酸カルシウムに由来するものである。
【0020】
本発明の好ましい態様によれば、前記金属イオンの含有量は、組成物全量に対して、0.01〜10,000mg/kgであり、かつ、加水分解シルクタンパク質の含有量は、組成物全量に対して、200〜200,000mg/kgである。
【0021】
本発明のさらに好ましい態様によれば、本発明による組成物は、皮膚のターンオーバーの調節に関与するプロテアーゼの、皮膚における乾燥による活性低下を防止するか、または、前記プロテアーゼの低下した活性を回復させるために用いられる。
【0022】
本発明のさらにより好ましい態様によれば、本発明による組成物は、乾燥性の肌荒れを予防改善するための皮膚外用組成物である。
【0023】
本発明の角層剥離酵素保護用組成物によれば、乾燥性の肌荒れを効果的に予防および改善することができる。すなわち、本発明による組成物は、皮膚のターンオーバーの調節に関与していると考えられている各種プロテアーゼ、特にセリンプロテアーゼを、乾燥による失活から保護する効果(プロテアーゼ活性低下防止効果)を有する。本発明による組成物はまた、活性が低下したプロテアーゼに対しては、その本来の活性を回復させる効果(プロテアーゼ活性回復効果)を有し、肌荒れを起こした皮膚のターンオーバーを正常な状態に導くことができる。加えて、本発明において使用される加水分解シルクタンパク質は、生体適合性に優れた素材であることが古くから知られており、皮膚に対する刺激が無く、安全性が高い。このように、本発明の組成物は、外部刺激に過敏な肌にも適用できるという利点も有し、乾燥性の肌荒れの予防改善に極めて有効である。
【発明の具体的説明】
【0024】
角層剥離酵素保護用組成物
本発明による角層剥離酵素保護用組成物は、前記したように、二価の金属イオンと、加水分解シルクタンパク質とを必須成分として含んでなることを特徴とする。
【0025】
ここで、「必須成分として含んでなる」とは、本発明による角層剥離酵素保護用組成物が、上記成分、二価の金属イオンおよび加水分解シルクタンパク質を、所望の角層剥離酵素保護効果を発揮するのに充分な量(すなわち、有効量)で必然的に含むことを意味し、その限りにおいて、必要により他の成分を含んでも良いことを意味する。
【0026】
二価の金属イオン
本発明において使用される二価の金属イオンは、生体への安全性が高いものである限り特に限定されるものでなく、例えば、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムなどの周期表第2族元素の金属イオンを挙げることができる。これらは二種以上組み合わせて用いてもよい。皮膚に適用した際に皮膚刺激が少なく、本発明の効果が優れているという点から、該二価の金属イオンとしては、カルシウムイオン(Ca2+)が好ましい。
【0027】
本発明において使用される二価の金属イオンは、プロテアーゼと電気的に相互作用することによって、プロテアーゼの乾燥による失活を防止すると考えられる。また、加水分解シルクタンパク質を併用することによって、その効果は相乗的に向上すると考えられる。なおこれら作用メカニズムに関する説明は、一つの理論的考察であって、本発明を限定するものではない。
【0028】
本発明において、前記二価の金属イオンは、水溶性の金属塩として組成物に添加することができる。金属塩は特に制限されるものでなく、例えば塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩などの無機酸の塩、パントテン酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、乳酸塩などの有機酸の塩を挙げることができ、これらを一種単独でまたは二種以上組み合わせて用いることができる。中でも、皮膚に対する安全性と本発明の効果とが優れた金属塩として、水溶性の前記金属塩としては、乳酸カルシウム、塩化カルシウム、パントテン酸カルシウムが好ましい。さらに、安全性、安定性、溶解性、および皮膚刺激性の観点から、水溶性の前記金属塩としては、パントテン酸カルシウムが特に好ましい。
【0029】
加水分解シルクタンパク質
本発明において使用される加水分解シルクタンパク質は、家蚕(Bombyx mori)や野蚕が生産するシルクタンパク質を加水分解して得られるものである。シルクタンパク質は、フィブロイン、セリシンを主成分とするタンパク質の混合物であり、本発明においては、フィブロイン、セリシンを単独もしくは混合状態で加水分解したものを用いることができる。
【0030】
すなわち、本発明において使用される加水分解シルクタンパク質は、繭、生糸あるいは精練しセリシンを除去した絹糸を、高温高圧処理、酸またはアルカリ処理、もしくは酵素処理法によって加水分解し、フィブロイン、セリシンの単独もしくは混合水溶液として得ることができる。得られた加水分解シルクタンパク質の水溶液に対して、必要に応じて等電点沈殿、アルコール沈殿、膜分離、ゲル濾過などの手法を用いて、濃縮や精製を行うことができる。また加水分解シルクタンパク質の水溶液を乾燥させ、加水分解シルクタンパク質を粉体化することができる。
【0031】
こうして得られる加水分解シルクタンパク質の分子量は、通常、200〜200,000の範囲に分布している。本発明においては、そのいずれも使用可能である。
【0032】
加水分解シルクタンパク質がフィブロインの加水分解物(加水分解フィブロイン)である場合には、重量平均分子量が、300〜50,000であることが好ましく、500〜30,000であることがより好ましい。重量平均分子量が300未満であると、加水分解物のペプチド鎖が短いために、フィブロインの機能性が十分に発揮されないおそれがある。重量平均分子量が50,000を超えると、加水分解フィブロインの溶液安定性が低下したり、皮膚への浸透が不十分であったりするため、本発明の効果が十分に発揮されないおそれがある。
【0033】
加水分解シルクタンパク質がセリシンの加水分解物(加水分解セリシン)である場合には、重量平均分子量が、1,000〜100,000であることが好ましく、2,000〜70,000であることがより好ましく、5,000〜50,000であることがさらに好ましい。重量平均分子量が1,000未満であると、加水分解物のペプチド鎖が短いために、セリシンの機能性が十分に発揮されないおそれがある。重量平均分子量が100,000を超えると、加水分解セリシンの溶液安定性が低下したり、皮膚への浸透が不十分であったりするため、本発明の効果が十分に発揮されないおそれがある。
【0034】
本発明における加水分解シルクタンパク質は、分子内に水酸基やカルボキシル基を豊富に含むことから、水素結合やイオン結合を介してプロテアーゼと相互作用し、酵素の立体構造を安定化させる効果があると考えられる。なおこれら作用メカニズムに関する説明は、一つの理論的考察であって、本発明を限定するものではない。
【0035】
本発明において用いられる加水分解シルクタンパク質としては、水溶性が高く保湿作用が特に優れているという点から、加水分解セリシンを用いることが好ましい。
【0036】
セリシンは、The Journal of Biological Chemistry 257 15192-15199(1982)に記載されているように、セリンに富む特徴的なアミノ酸配列を有しており、プロテアーゼによって切断されやすいと考えられるリジンやアルギニンなどのアミノ酸が少ない。したがって、セリシンおよび加水分解セリシン自身は皮膚のプロテアーゼによって分解され難いという特徴がある。このため、本発明の角層剥離酵素保護用組成物は、長時間にわたってプロテアーゼ活性低下防止効果およびプロテアーゼ活性回復効果を発揮し続けることができるという優れた利点がある。
【0037】
本発明における前記金属イオンの含有量は、組成物全量に対して、0.01〜10,000mg/kgが好ましく、より好ましくは0.05〜5,000mg/kg、さらに好ましくは0.1〜1,000mg/kgである。含有量が0.01mg/kgよりも低いと、本発明の効果が十分に得られないおそれがある。また、10,000mg/kgよりも高いと、組成物の安定性が低下するおそれがある。
【0038】
本発明における加水分解シルクタンパク質の含有量は組成物全量に対して、200〜200,000mg/kgが好ましく、より好ましくは300〜100,000mg/kg、さらに好ましくは500〜30,000mg/kgである。含有量が100mg/kgよりも低いと、本発明の効果が十分に得られないおそれがあり、200,000mg/kgより高くても、本発明の効果のさらなる向上は得られ難いため実用的でない。
【0039】
本発明において、前記金属イオンと加水分解シルクタンパク質との配合比は、金属イオン/加水分解シルクタンパク質の濃度比が、0.0001/1〜10/1であることが好ましく、より好ましくは、0.001/1〜5/1である。この範囲であると、本発明の効果が相乗的に高まるため好ましい。加水分解シルクタンパク質に対する金属イオンの配合比が0.0001よりも小さいと、本発明の効果が十分に得られない場合があり、10より大きくても、本発明の効果のさらなる向上は得られ難い。
【0040】
本発明による角層剥離酵素保護用組成物の製造において、前記金属イオンと加水分解シルクタンパク質とを共存させる方法は特に限定されない。例えば、繭から調製した加水分解シルクタンパク質に、必要に応じて水溶性の金属塩を添加または除去することができる。金属塩の添加は、シルクタンパク質の加水分解工程の前、加水分解中、加水分解工程の後、あるいは製剤調合時など、任意の時点に行うことができる。また、加水分解シルクタンパク質中から金属イオンを除去し、金属イオンの濃度を調整してもよい。金属イオンを除去する場合には、従来公知の脱塩方法を用いることができる。例えば、イオン交換樹脂による吸着、ゲル濾過、透析、膜分離などの方法を用いることができる。また、金属イオン濃度の測定には、原子吸光光度計などの公知の方法を用いることができる。
【0041】
本発明の組成物は、例えば、ローション、乳液、軟膏、クリーム、パック等の形態とし、化粧料、医薬品、医薬部外品等の皮膚外用組成物として適用することができる。
【0042】
本発明の組成物を皮膚外用組成物として用いる場合、上記の金属イオンおよび加水分解シルクタンパク質に加えて、本発明の効果を損なわない範囲内で、通常化粧品や医薬品等の皮膚外用組成物に用いられる他の任意成分、例えば、保湿剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、乳化剤、増粘剤、界面活性剤、キレート剤、油性成分、アルコール類、色材、粉末成分、ビタミン類、抗炎症剤、pH調整剤、防腐剤等を必要に応じて適宜配合することができる。
【実施例】
【0043】
本発明を以下の例によって詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0044】
1. 加水分解シルクタンパク質の製造
加水分解シルクタンパク質として、加水分解セリシン、加水分解フィブロインをそれぞれ含む水溶液を製造した。
【0045】
1a) 加水分解セリシン
まず家蚕由来の切り繭50gを水洗した後、1Lの水に浸漬し、溶液のpHが9.5になるように水酸化ナトリウムを添加した。続いて、アルカリ条件下で繭を2時間煮沸し、セリシンの抽出と加水分解を行った。得られた抽出液を塩酸を用いて中和した。続いて抽出液を平均孔径0.2μmのフィルターを用いてろ過し、不溶物を除去した。さらに、抽出液を脱塩カラム(PD−10:GEヘルスケアバイオサイエンス株式会社製)を用いて脱塩し、濃度約50,000mg/kgの加水分解セリシン水溶液を得た。
なお水溶液中の加水分解セリシンの重量平均分子量は約30,000であった。
【0046】
1b) 加水分解フィブロイン
まず家蚕由来の切り繭50gを水洗した後、1Lの水に浸漬し、溶液のpHが9.5になるように水酸化ナトリウムを添加した。続いて、アルカリ条件下で繭を2時間煮沸して、セリシンを除去し、フィブロイン繊維を得た。得られたフィブロイン繊維を水で洗浄した後、9M臭化リチウム水溶液500mLに溶解し、フィブロイン水溶液を調製した。さらにこのフィブロイン水溶液を透析して、溶液中の臭化リチウムを除いた後、最終濃度が0.2Nとなるように塩酸を加え、80℃で1時間加温して加水分解を行った。加水分解後、水酸化ナトリウムを用いて溶液を中和した。続いて、得られた溶液を平均孔径0.2μmのフィルターを用いてろ過し、不溶物を除去した。さらに脱塩カラム(PD−10:GEヘルスケアバイオサイエンス株式会社製)を用いて脱塩し、濃度約50,000mg/kgの加水分解フィブロイン水溶液を得た。
なお水溶液中の加水分解フィブロインの重量平均分子量は約1,500であった。
【0047】
2. 実施例1〜9および比較例1〜11の各組成物の調製
前述の加水分解シルクタンパク質の水溶液を用いて、表1および表2に示す各組成物を調製し、各試験に適用した。この内、比較例8および9の組成物は、アスコルビン酸と加水分解シルクタンパク質とを含有する公知の皮膚外用剤(特開2007−277119号公報(特許文献4))に関するものであり、アスコルビン酸としては、L−アスコルビン酸ナトリウムとして使用した。
なお、各組成物において、水溶性の金属塩の形態で塩化カルシウム、パントテン酸カルシウムおよび塩化マグネシウムを加え、金属イオンとしては、これらに由来するもの用いた。またpH条件を一定にするため、本実施例では100mM Tris−HCl緩衝液(pH7.0)を用いて、各組成物を調製した。
【0048】
2a) 試験a[プロテアーゼ活性低下防止効果]
前記の実施例1〜9および比較例1〜11の各組成物に、最終濃度が100μg/mlとなるようにトリプシン(シグマ社製)を添加し、酵素溶液を調製した。
得られた酵素溶液10μlをそれぞれ、96wellマイクロプレートに分注し、40℃の恒温器内に2時間静置して乾燥処理を行った。続いて、100mM Tris−HCl緩衝液(pH7.0)190μlをここに添加し、酵素を再溶解させた。比較対照として、100mM Tris−HCl緩衝液に上記濃度のトリプシンを添加し、乾燥処理を行わないサンプルを同時に調製した。
【0049】
次に、酵素反応基質(N-Succinyl-Arg-p-Nitroanilide[シグマ社製]を10mMとなるようにDMSOに溶解)10μlをそれぞれ添加し、37℃で2時間酵素反応させた。反応終了後、遊離したp−ニトロアニリドの発色(吸光波長420nm)をマイクロプレートリーダーIWAKI ASAHI TECHNO GLASS EZS-ABS(IWAKI社製)を用いて測定した。比較対照の活性値を100とし、乾燥処理後のプロテアーゼの活性値の比率(乾燥処理を行わない場合の活性値に対する乾燥処理後の活性値の割合)を各サンプルについて算出した。この値が高いほど、プロテアーゼの活性低下防止効果に優れていることを意味する。
【0050】
結果は表1および表2の「活性低下防止効果」の欄に示されるとおりであった。
【0051】
結果から明らかなように、実施例ではプロテアーゼの活性低下防止効果が大幅に高くなっており、金属イオンと加水分解シルクタンパク質との相乗作用によって、優れたプロテアーゼ活性低下防止効果が得られることが確認された。
【0052】
2b) 試験b[プロテアーゼ活性回復効果]
まず、100mM Tris−HCl緩衝液(pH7.0)に、最終濃度が100μg/mlとなるようにトリプシン(シグマ社製)を添加し、これを酵素溶液とした。
次にこの酵素溶液10μlを96wellマイクロプレートに分注し、40℃の恒温器内に2時間静置して乾燥処理を行った。続いて、前記実施例3および6、ならびに比較例1、3、4、5、6、10および11の各組成物をそれぞれ190μlずつ添加し、酵素を再溶解させた。比較対照として、前記酵素溶液10μlに、100mM Tris−HCl緩衝液(pH7.0)180μlを添加し、乾燥処理を行わないサンプルを同時に調製した。
【0053】
次に、酵素反応基質(N-Succinyl-Arg-p-Nitroanilide(シグマ社製)を10mMとなるようにDMSOに溶解)10μlをそれぞれ添加し、37℃で2時間酵素反応させた。反応終了後、遊離したp−ニトロアニリドの発色(吸光波長420nm)をマイクロプレートリーダー IWAKI ASAHI TECHNO GLASS EZS-ABS(IWAKI社製)を用いて測定した。比較対照の活性値を100とし、乾燥処理後のプロテアーゼの活性値の比率(乾燥処理を行わない場合の酵素の活性値に対する乾燥処理後の活性値の割合)を算出した。この値が高いほど、プロテアーゼの活性回復効果に優れていることを意味する。
【0054】
結果は表1および表2の「活性回復効果」の欄に示されるとおりであった。
【0055】
結果から明らかなように、実施例ではプロテアーゼの活性回復効果が有意に高くなっていた。すなわち本発明の組成物は、優れたプロテアーゼ活性回復効果を有しており、乾燥により活性が低下した酵素を、再び正常な活性状態に導くことが確認された。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

【0058】
3. ヒトの肌に対する使用試験
表3に示す実施例10の組成物を調製した。表中、クエン酸の適量とは、組成物をpH6.5にするのに必要な量のことであり、フェノキシエタノールは防腐剤として使用した。
【0059】
乾燥肌を自覚し、肌のかさつきを感じる独立した専門パネラー20名を対象に、使用試験を実施した。
パネラーは、実施例10の組成物の適量(約2ml)を、毎日朝と夜の2回、8週間継続して顔全体に塗布した。塗布開始前と塗布後8週間の皮膚の表面状態をレプリカに採り、レプリカ法の常法に従ってキメの状態を評価した。
【0060】
ここで、「キメ」とは、皮膚表面に網目状に走っている細かい溝(皮溝)と、その皮溝に囲まれて三角形、ひし形、多角形などの形に隆起している部分(皮丘)のことを言う。ここでは、単位面積当りに存在するキメの体積すなわちキメ体積率(μm/mm/100)と、単位面積当りにおけるキメ個数(N/mm)を評価した。
一般に、キメ体積率が大きいほど皮丘が高く、規則的に整ったキメの状態であるといえる。また、キメ個数が多いほど、細かく整ったキメであるといえる。
【0061】
結果は表4に示されるとおりであった。
結果から明らかなように、塗布後はキメ体積率の増加、キメ個数の増加がみられた。このことから、本発明の組成物は、乾燥肌における角層のターンオーバーを正常化し、キメを整える効果が優れており、乾燥性の肌荒れを予防改善するための皮膚外用剤として有用性が高いことが確認された。
【0062】
【表3】

【0063】
【表4】

【0064】
4. 角層剥離酵素保護用組成物の処方例
本発明による角層剥離酵素保護用組成物の他の処方例を下記に示す。
処方例1: ローション
(1)1,3−ブチレングリコール 8(重量%)
(2)濃グリセリン 6
(3)エタノール 3
(4)L−アスコルビン酸−2−グルコシド 2
(5)加水分解セリシン 0.2
(6)アロエエキス 0.2
(7)クロレラエキス 0.2
(8)カッコンエキス 0.01
(9)酵母エキス 0.2
(10)塩化カルシウム 0.001
(11)水酸化ナトリウム 適量
(12)クエン酸ナトリウム 適量
(13)クエン酸 適量
(14)パラオキシ安息香酸エステル 0.1
(15)精製水 残量
pH:6.7
製法:精製水に全ての成分を順次添加して、混合、均一化する。
【0065】
処方例2: ミルク
(1)濃グリセリン 10(重量%)
(2)エタノール 8
(3)トリ2−エチルヘキサン酸グリセリル 6
(4)1,3−ブチレングリコール 5
(5)ジステアリン酸ポリグリセリル 2
(6)バチルアルコール 2
(7)L−アスコルビン酸−2−グルコシド 2
(8)加水分解セリシン 0.2
(9)水素添加大豆リン脂質 0.5
(10)アロエエキス 0.2
(11)クロレラエキス 0.2
(12)カッコンエキス 0.01
(13)酵母エキス 0.2
(14)カンゾウ抽出末 0.1
(15)d−δ−トコフェロール 0.1
(16)塩化カルシウム 0.005
(17)ジエチレントリアミン五酢酸五ナトリウム 適量
(18)カルボキシビニルポリマー 適量
(19)ヒドロキシエチルセルロース 適量
(20)クエン酸ナトリウム 適量
(21)水酸化ナトリウム 適量
(22)パラオキシ安息香酸エステル 0.1
(23)精製水 残量
pH:7.0
製法:油性成分、及び水性成分をそれぞれ混合均一化して80℃に加熱する。水性成分に油性成分を添加して乳化し、撹拌しながら冷却する。
【0066】
処方例3: クリーム
(1)濃グリセリン 15(重量%)
(2)1,3−ブチレングリコール 10
(3)スクワラン 10
(4)硬化油 5
(5)バチルアルコール 5
(6)エタノール 5
(7)ベヘニルアルコール 2
(8)パルミチン酸セチル 2
(9)親油型モノステアリン酸グリセリン 2
(10)イソステアリン酸ポリオキシエチレングリセリル 1
(11)メチルポリシロキサン 1
(12)L−アスコルビン酸−2−グルコシド 2
(13)加水分解セリシン 1
(14)アロエエキス 0.2
(15)クロレラエキス 0.2
(16)塩化カルシウム 0.01
(17)カッコンエキス 0.01
(18)クワエキス 0.1
(19)マロニエエキス 0.1
(20)ワレモコウエキス 0.1
(21)酵母エキス 0.2
(22)ツボクサエキス 0.1
(23)テルミナリアエキス 0.01
(24)カンゾウ抽出末 0.1
(25)バチルアルコール 0.1
(26)ジエチレントリアミン五酢酸五ナトリウム 適量
(27)ヒドロキシエチルセルロース 適量
(28)クエン酸ナトリウム 適量
(29)水酸化ナトリウム 適量
(30)パラオキシ安息香酸エステル 0.1
(31)精製水 残量
pH:6.5
製法:油性成分、及び水性成分をそれぞれ混合均一化して80℃に加熱する。水性成分に油性成分を添加して乳化し、撹拌しながら冷却する。
【0067】
処方例4: ローション
(1)1,3−ブチレングリコール 8(重量%)
(2)濃グリセリン 6
(3)エタノール 3
(4)L−アスコルビン酸−2−グルコシド 2
(5)加水分解セリシン 0.2
(6)アロエエキス 0.2
(7)クロレラエキス 0.2
(8)カッコンエキス 0.01
(9)酵母エキス 0.2
(10)パントテン酸カルシウム 0.005
(11)水酸化ナトリウム 適量
(12)クエン酸ナトリウム 適量
(13)クエン酸 適量
(14)パラオキシ安息香酸エステル 0.1
(15)精製水 残量
pH:6.7
製法:精製水に全ての成分を順次添加して、混合、均一化する。
【0068】
処方例5: ミルク
(1)濃グリセリン 10(重量%)
(2)エタノール 8
(3)トリ2−エチルヘキサン酸グリセリル 6
(4)1,3−ブチレングリコール 5
(5)ジステアリン酸ポリグリセリル 2
(6)バチルアルコール 2
(7)L−アスコルビン酸−2−グルコシド 2
(8)加水分解セリシン 0.2
(9)水素添加大豆リン脂質 0.5
(10)アロエエキス 0.2
(11)クロレラエキス 0.2
(12)カッコンエキス 0.01
(13)酵母エキス 0.2
(14)カンゾウ抽出末 0.1
(15)d−δ−トコフェロール 0.1
(16)パントテン酸カルシウム 0.01
(17)ジエチレントリアミン五酢酸五ナトリウム 適量
(18)カルボキシビニルポリマー 適量
(19)ヒドロキシエチルセルロース 適量
(20)クエン酸ナトリウム 適量
(21)水酸化ナトリウム 適量
(22)パラオキシ安息香酸エステル 0.1
(23)精製水 残量
pH:7.0
製法:油性成分、及び水性成分をそれぞれ混合均一化して80℃に加熱する。水性成分に油性成分を添加して乳化し、撹拌しながら冷却する。
【0069】
処方例6: クリーム
(1)濃グリセリン 15(重量%)
(2)1,3−ブチレングリコール 10
(3)スクワラン 10
(4)硬化油 5
(5)バチルアルコール 5
(6)エタノール 5
(7)ベヘニルアルコール 2
(8)パルミチン酸セチル 2
(9)親油型モノステアリン酸グリセリン 2
(10)イソステアリン酸ポリオキシエチレングリセリル 1
(11)メチルポリシロキサン 1
(12)L−アスコルビン酸−2−グルコシド 2
(13)加水分解セリシン 1
(14)アロエエキス 0.2
(15)クロレラエキス 0.2
(16)パントテン酸カルシウム 0.01
(17)カッコンエキス 0.01
(18)クワエキス 0.1
(19)マロニエエキス 0.1
(20)ワレモコウエキス 0.1
(21)酵母エキス 0.2
(22)ツボクサエキス 0.1
(23)テルミナリアエキス 0.01
(24)カンゾウ抽出末 0.1
(25)バチルアルコール 0.1
(26)ジエチレントリアミン五酢酸五ナトリウム 適量
(27)ヒドロキシエチルセルロース 適量
(28)クエン酸ナトリウム 適量
(29)水酸化ナトリウム 適量
(30)パラオキシ安息香酸エステル 0.1
(31)精製水 残量
pH:6.5
製法:油性成分、及び水性成分をそれぞれ混合均一化して80℃に加熱する。水性成分に油性成分を添加して乳化し、撹拌しながら冷却する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二価の金属イオンと、加水分解シルクタンパク質とを必須成分として含んでなることを特徴とする、角層剥離酵素保護用組成物。
【請求項2】
前記加水分解シルクタンパク質が加水分解セリシンである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
加水分解セリシンの重量平均分子量が、1,000〜100,000である、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
二価の金属イオンがカルシウムイオンである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
二価の金属イオンが、水溶性の金属塩の形態で加えられたパントテン酸カルシウムに由来する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記金属イオンの含有量が、組成物全量に対して、0.01〜10,000mg/kgであり、かつ、加水分解シルクタンパク質の含有量が、組成物全量に対して、200〜200,000mg/kgである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
皮膚のターンオーバーの調節に関与するプロテアーゼの、皮膚における乾燥による活性低下を防止するか、または、前記プロテアーゼの低下した活性を回復させるために用いられる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
乾燥性の肌荒れを予防改善するための皮膚外用組成物である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物。

【公開番号】特開2010−65025(P2010−65025A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−185627(P2009−185627)
【出願日】平成21年8月10日(2009.8.10)
【出願人】(000107907)セーレン株式会社 (462)
【Fターム(参考)】