説明

角層蛋白質の検出方法並びにこれを利用する表皮ターンオーバーの評価方法及び肌状態評価方法

【課題】 デスモグレインをはじめとする角層蛋白質の発現ないしは存在状態を簡便に検出する方法を見出し、これに基づいた皮膚評価方法を開発すること。
【解決手段】 テープストリッピングにより皮膚から角層を剥離、採取し、採取した角層試料を蛍光抗体法により染色することを特徴とする角層蛋白質の検出方法および皮膚同一部位の角層をテープストリッピングにより複数回剥離、採取し、採取した複数の角層試料を蛍光抗体法により染色することを特徴とする角層中の角層蛋白質の存在位置の検出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、角層中に存在する角層蛋白質の検出方法に関するものであり、より詳細には、テープストリッピングにより角層を剥離、採取し、簡便な方法でこれを視覚化し検出する方法並びにこれを利用する表皮ターンオーバーの評価方法及び肌状態評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
表皮は様々な種類の細胞により構成されており、角化細胞(ケラチノサイト)が大部分を占めている。このケラチノサイトが増殖し、上層に移行するに伴い、角化により最外層の角層を形成する。このような表皮の正常な角化や角層の維持には表皮細胞が重要な役割を果たしている。また、ケラチノサイトの細胞接着の異常は、角化症等の皮膚疾患原因であると言われている。更に、ニキビ、フケ、落屑等のスキントラブルは細胞接着性の亢進により角化が亢進することが原因であることが知られている。また、角層には他にも多くの角層蛋白質が存在し、これらが皮膚の老化等に関連しているとされている。
【0003】
上記した角層蛋白質としては、細胞接着蛋白、角層間物質、角層細胞構成成分等が挙げられるが。このうち、角化細胞の接着装置として代表的なものにデスモソームがある。デスモソームは、表皮細胞間及び角層細胞間の接着に関与している構造物であり、デスモソームを介する表皮細胞同士の接着はケラチン線維からなる細胞骨格と連携し、上皮組織における強固な構築が維持されるものであることが知られている(非特許文献1)。このデスモソームの構成タンパクは、デスモグレイン1、2、3、4、デスモコリン1、2、3、デスモプラキン1、2等が知られており、これら細胞接着因子、細胞骨格のいずれの構造あるいは結合能が傷害されても、表皮細胞骨格ネットワークは崩壊し、水疱症を生じるものである(非特許文献2)。
【0004】
これらデスモソームの構成タンパクの中でも、特にデスモグレイン1が角層デスモソーム成分の蛋白分解と細胞剥離との間に密接な相関関係がある。このため、角層のデスモグレインの存在状態を確認することは、デスモソーム機能を評価することでもあり、皮膚の状態を評価する上で極めて重要である。このため、従来より様々な評価方法が提案されている。具体的には、顕微鏡による組織観察や、角層に存在するプロテアーゼ類の作用からキモトリプシン様酵素およびトリプシン様酵素の活性を評価する方法(特許文献1参照)等が挙げられる。
【0005】
しかし、従来の評価方法では、角層細胞の接着機能またはそれらの剥離機能がどのような指標によれば正確に評価できるがについては、明確になっておらず、特許文献1記載の方法は、デスモグレインの残量を測定するため、簡便な方法ではない上、角層でデスモグレインがどのように存在しているのかを示すことはできなかった。同様、他の角層蛋白質についても、簡単にその存在状態を示す方法は知られていなかった。
【特許文献1】特開平8−68791号公報
【非特許文献1】標準皮膚科学第7版,第17章,医学書院,2004
【非特許文献2】青山裕美、北島康雄,臨床免疫30(suppl.18):252,1998
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、デスモグレインをはじめとする角層蛋白質の発現ないしは存在状態を簡便に検出する方法を見出し、これに基づいた皮膚評価方法の開発が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記実情に鑑み、本発明者らは鋭意検討した結果、表皮から角層をテープストリッピングにより剥離し、これを蛍光抗体法により染色することにより角層中の角層蛋白質を視覚化して検出できることを見出した。そして、同一部位の角層をテープストリッピングにより複数剥離し、これを蛍光抗体法により染色することにより角層中のデスモグレインの存在位置を検出することができること、更にはこの方法は、角層中の角層蛋白質の存在位置を指標とする表皮ターンオーバーの評価方法及び肌状態評価方法に利用できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち本発明は、テープストリッピングにより皮膚から角層を剥離、採取し、採取した角層試料を蛍光抗体法により染色することを特徴とする角層蛋白質の検出方法を提供するものである。
【0009】
また本発明は、皮膚同一部位の角層をテープストリッピングにより複数回剥離、採取し、採取した複数の角層試料を蛍光抗体法により染色することを特徴とする角層中の角層蛋白質の存在位置の検出方法を提供するものである。
【0010】
更に本発明は、角層における角層蛋白質の存在位置を指標とすることを特徴とする表皮ターンオーバーの評価方法および肌状態評価方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、角層中の角層蛋白質を簡便な方法で視覚化し検出することが可能となる。また、簡便に表皮ターンオーバーを評価することができる。更に、簡便に肌荒れ等の肌状態を評価することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明において、測定対象となる角層蛋白質としては、細胞接着蛋白、角層間物質、角層細胞構成成分等が挙げられる。
【0013】
このうち、細胞接着蛋白としては、デスモグレイン1、2、3、4、デスモコリン1、2、3、コルネオデスモシン、デスモプラキン1、2、プラコグロビン、プラコフィリン等のデスモソーム構成成分、クローディン、オクルディン、ZO−1、2、3、MUPP−1、トリセルリン、Eカドヘリン、Nカドヘリン、Pカドヘリン、α−カテニン、β−カテニン、p120等を挙げることができる。
【0014】
また、角層間物質としては、グルコシルセラミド、セラミド1〜9、コレステロール、遊離脂肪酸、硫酸コレステロール等の脂質類、カリクレイン5、6、7、8、10、11、13、14、プラスミン、カテプシンD、E、G、L、トランスグルタミナーゼ1、2、3、5、6、ペプチジルアルギニンデイミナーゼ、ステロイドスルファターゼ、リパーゼ、カスパーゼ類等の酵素類、インターロイキン(IL)1ra、1α、1β、2、3、4、5、6、8、10、トランスフォーミング成長因子(TGF) α、β、インターフェロン(INF)α、β、腫瘍壊死因子(Tumor necrosis factor;TNF)、顆粒球マクロファージ・コロニー刺激因子(Granulocyte macrophage colony stimulating factor;GM−CSF)等のサイトカイン類や、フィラグリン、プロフィラグリン、各種リン酸化・脱リン酸化酵素、各種アミノ酸等を挙げることができる。
【0015】
更に、角層細胞構成成分としては、ロリクリン、インボルクリン、スモールプロリンリッチタンパク等を挙げることができる。
【0016】
本発明方法のうち、テープストリッピングにより皮膚から角層を剥離、採取し、採取した角層試料を蛍光抗体法により染色する角層蛋白質の検出方法(以下、「第一態様発明」という)は、例えば次のようにして実施することができる。
【0017】
第一態様発明を実施するには、まず、皮膚の皮表から角層をテープストリッピングにより剥離、採取し、角層試料とすることが必要である。このテープストリッピングは、皮膚に粘着性の透明テープ、例えば、粘着層は天然ゴムあるいはアクリル系粘着剤を主成分とし、透明フィルムがPET、セロファン等であるテープを貼付け、テープ全面が皮膚に張り付くようにした後、該テープを皮膚から剥がすことにより、角層をサンプリングする方法である。
【0018】
このテープストリッピングにおいては、1回の操作でテープの粘着性により剥離される角層細胞は、通常1層となるので、テープストリッピングの回数により剥離、取得できる角層細胞の深さが決まる。すなわち、この操作を複数回繰り返すことにより、角層を上層から内部(深さ)方向にかけて段階的に角層細胞をサンプリングすることができる。
【0019】
次に、テープに写し採った角層細胞に存在する角層蛋白質を、周知の蛍光抗体法により染色、検出する。この蛍光抗体法による染色は、例えば、テープストリッピングにより得た、角層が付着した透明テープをリン酸緩衝生理食塩水(PBS)等で洗浄し、次いでこれに蛍光標識された目的角層蛋白質に対する抗体を所定時間、室温等適当な温度にて反応させるか、上記透明テープを洗浄後、目的角層蛋白質に対する抗体を反応させ、次いで、標識されたこの抗体に対する抗体を反応させることにより行われる。蛍光抗体法による染色の好ましい例としては、一次抗体として目的とする角層蛋白質(例えば、デスモグレイン)に対するマウスIgG抗体を用い、二次抗体に蛍光標識抗マウスIgG抗体を用いることにより、免疫蛍光染色する方法が挙げられる。
【0020】
なお、上記において使用する抗体は、モノクローナル抗体であっても、ポリクローナル抗体であっても良く、これらの組み合わせであっても良い。またこれらの目的とする角層蛋白質に対する抗体は、いずれも公知であるか成書に記載の周知な方法により、容易に得ることができるものである。また、抗体に対する蛍光標識等も周知な方法により容易に実施可能である。
【0021】
そして、蛍光染色された試料を蛍光顕微鏡にて観察することにより、角層の形状と同時に角層蛋白質(例えば、デスモグレイン)の存在位置を蛍光により視覚化し、検出することができる。尚、得られた顕微鏡画像を画像処理し、角層蛋白質の蛍光分布を数値化して評価することも可能である。
【0022】
また本発明方法のうち、皮膚同一部位の角層をテープストリッピングにより複数回剥離、採取し、採取した複数の角層試料を蛍光抗体法により染色する角層中の角層蛋白質の存在位置の検出方法(以下、「第二態様発明」という)は、上記第一態様発明を繰り返すことにより実施できるものである。
【0023】
すなわち前記したように、テープストリッピングにおいては、1回の操作でテープの粘着性により剥離される角層細胞は、通常1層であるから、例えば皮膚の同じ部分で、最初にテープストリッピングして得た角層試料(表面試料)、10〜15回程度テープストリッピングして得た角層試料(中間層浅部試料)、20〜30回程度テープストリッピングして得た角層試料(中間層深部試料)、35〜40回程度テープストリッピングして得た角層試料(深層部試料)の4試料を得、これらについてそれぞれ目的とする角層蛋白質を検出すれば、この角層の存在位置やその分布(例えば、何れの部分に多いかや、どの様な形状で存在しているか)が明らかとなる。無論、この方法は、上記のように4試料で行うことに限定されるものでなく、簡易的には3試料でも、正確に分布を求める場合は4試料以上で実施しても良い。
【0024】
本発明の、角層における角層蛋白質の存在位置を指標とする表皮ターンオーバーの評価方法(以下、「第三態様発明」という)および角層における角層蛋白質の存在位置を指標とする肌状態評価方法(以下、「第四態様発明」という)は、上記第二態様発明を利用することにより容易に実施することができる。
【0025】
すなわち、複数のパネルについて、特定の角層蛋白質の存在位置と表皮ターンオーバーの関係を調べた後、評価すべき対象者の角層蛋白質の存在位置を調べ、これにより表皮ターンオーバーを評価すればよい。例えば、角層蛋白質としてデスモグレインを選択し、この存在位置を指標とすることにより、表皮ターンオーバーを評価する方法について説明すれば次の通りである。
【0026】
表皮ターンオーバーは、角層を深さ方向に調べることで、これが正常な状態にあるか否かを知ることができる。従って、まず、前記第二態様発明により、角層のどの位置にデスモグレインが存在しているかを調べ、これから角化、ひいては表皮ターンオーバーがどの状態にあるかを評価することができる。そして、例えば、デスモグレインが、主に角層深層部試料においては細胞全面に存在しているが、角層表面試料では細胞辺縁部に存在する場合は、角化が良好な状態にあり、皮膚のターンオーバーが適切に行われていると評価できる。一方、デスモグレインが、角層表面試料においても細胞全面に存在する場合は、角化は良好でない状態にあり、皮膚のターンオーバーが適切に行われていないと評価することができる。また、テープストリッピングする部位を変え、例えば、顔面と上腕内部とで比較することにより、皮膚の部位による表皮ターンオーバーの状態を比較することができる。
【0027】
また、肌状態は、角層の最外層の状態で評価できる、すなわち、第四態様発明は第一態様発明により角層蛋白質を検出し、その存在量を検出し、この存在量から肌状態を評価するものである。例えば、経表皮水分蒸散量(TEWL)や角層水分量、油分量は角層の状態あるいは肌状態を表すパラメーターとしてよく知られているものであるが、本発明では、これらのパラメータと、角層のデスモグレインの発現状態との間に相関性が見出された。特にTEWLと水分量に高い相関性があることが見出された。従って、第一態様発明により、例えば、デスモグレインを染色し、これが、主に角層細胞の辺縁部に存在する場合は、皮膚状態が良好であると評価できるし、逆に、デスモグレインが、主に角層細胞の全面に存在する場合は、皮膚状態が良好ではないと評価することができる。
【0028】
すなわち、ニキビ、フケ、日焼けによる落屑等のスキントラブルは、細胞接着性の亢進による角層の重層化が原因とされるのであるから、角層のどの位置にデスモグレインが存在しているかを指標とすることにより、肌の荒れ具合、落屑状態等を評価することができるのである。また、テープストリッピングする部位を変え、例えば、顔面と上腕内部とで比較することにより、皮膚の部位による肌状態が異なることが確認できる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例を挙げ、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら制約されるものではない。
【0030】
実 施 例 1
ヒト上腕内側を用いたデスモグレインの検出:
(試料調製)
透明両面テープ(ニチバン社製)を1.8cm×2.0cmの大きさに切り、これをスライドガラスに貼り付ける。そして、このスライドガラスの粘着面をヒト上腕内側に軽く押し当て、テープ全面が皮膚に張り付くようにした後、皮膚から剥がして最外層の試料とした。また、新たなスライドガラスを用いて、同様に同じ部位に塗布し、テープストリッピングを2〜39回繰り返し、中層、深部、最深部の試料を調製した。
【0031】
(一次抗体反応)
前記スライドガラス試料のテープ表面に抗デスモグレイン1 マウスIgGモノクロナール抗体(PROGEN社製)液を適量かけ、室温にて1時間反応させる。その後、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)に浸し、未反応の抗体を洗い流す。
【0032】
(二次抗体反応)
前記一次抗体反応させたスライドガラス試料のテープ表面に蛍光標識抗マウスIgG抗体(Invitrogen社製)の200倍PBS希釈溶液を適量かけ、室温にて1時間反応させる。その後、PBSに浸し、未反応の抗体を洗い流す。
【0033】
(封入)
前記二次抗体反応させたスライドガラス試料の表面にマウント・クイック・アクオス(Mount Quick Aqueous;SPI SUPPLIES)を滴下し、カバーガラスで覆い観察用試料とした。
【0034】
(観察)
前記包埋したスライドガラス試料をオリンパス社製の倒立型蛍光顕微鏡を用いて観察した。この観察画面を図1〜4に示した。
【0035】
(結果)
図1に示すように、角層細胞間付近を中心としたドット上の染色像が得られ、デスモグレインを視覚化し検出することができた。また、図1〜4より、角層の深い部分と表面でのデスモグレインの発現状態が変化していることが確認された。これより、表皮の上層に向かうほどデスモグレインがなくなるので、細胞接着力が弱まって、最終的に角層が剥がれていく過程を示している。このことより、本発明の方法により、表皮ターンオーバーを評価することが可能であることが示された。
【0036】
実 施 例 2
ヒト顔面と口唇および上腕外側を用いたデスモグレインの検出:
前記実施例1と同様に、サンプリング部位をヒト顔面と口唇、上腕外側に変えて、第1層の表皮を剥離し、一次抗体、二次抗体処理後、顕微鏡観察した。これにより得られた顔面の画像を図5、口唇の画像を図6、上腕外側を図7に示した。
【0037】
(結果)
図1〜4、図5〜7より、顔面では上腕内側の深い部分のように、角層細胞全体にデスモグレインが検出された。これは、外部環境刺激を受け易い顔面は、刺激を受け難い上腕内側より角化が亢進しており、肌荒れを生じているものと考えられる。また、角層の非常に薄い口唇では、角層細胞全体から上腕内側の深い部分のように、デスモグレインが検出された。逆に、上腕外側の角層は内側に近い結果であった。
【0038】
実 施 例 3
皮膚状態と角層デスモグレインの発現状態との相関性検討:
(1)TEWL・水分量の測定方法(皮膚計測)
インフォームドコンセントを行った健常人ボランティアを被験者とし、次の方法で経表皮水分蒸散量(TEWL)および角層水分量を測定した。まず、被験者の被験部位を洗浄剤にて洗浄後、室温22℃、湿度50%に保たれた試験室にて15分安静にした。次いで、デルフィン・テクノロジイズ(Delfin Technologies)社製バポメーター(Vapometer)
SWL2 タイプにてTEWLを4回測定し、その平均値を使用した。また水分量はアイ・ビイ・エス社製皮表角層水分量測定装置SKICON−200EXにて4回測定し、その平均値を使用した。
【0039】
(2)画像解析方法
上記(1)にてTEWL等を測定した被験者の測定部位から、透明両面テープ(ニチバン社製)を用いて1回テープストリッピングを行い、角層サンプルを採取した。この角層サンプルを、蛍光抗体法にてデスモグレインを染色後、これを蛍光顕微鏡に付属するCCDカメラにて撮影した。この撮影した画像は、三谷商事社製画像解析ソフト、WinR00Fにて解析を行った。具体的には顕微鏡にて撮影を行った画像において1mmの正方形のエリアを無作為に3ヶ所抽出し、その範囲に含まれる蛍光のドット数をWinR00Fにて測定し、その平均値を使用して数値化した。
【0040】
(3)相関性検討
上記(2)にて数値化したデスモグレインの発現状態と、前記(1)で得た角層水分量、およびTEWLとの相関性を調べたところ、図8および図9に示すようにデスモグレインの発現量とこれら2つの皮膚パラメーターに高い相関性が見られた。
【0041】
すなわちデスモグレインが角層細胞全面に見られ、その量が多いほど水分量は低く、TEWLは高い(いわゆる荒れ肌)。また逆にデスモグレインが角層細胞辺縁に限局して観察され、その量が少ないほど水分量は高く、TEWLは低い(いわゆる理想肌)ことが明らかとなった。この結果より角層内デスモグレインは皮膚のバリア形成に関与していると示唆された。また同時に本方法が角層の状態ならびにバリア状態の評価に有効であることが示された。
【0042】
実 施 例 4
口唇からのデスモグレイン3の検出:
インフォームドコンセントを行った何人かのボランティアの口唇について、透明両面テープ(ニチバン社製)を用い、1回ストリッピングを行った後、口唇角層サンプルを得た。この口唇角層サンプルについて、抗デスモグレイン3マウスモノクローナル抗体(Progen社製)と、FITC標識抗マウスIgG抗体を用い、実施例1と同様にデスモグレイン3の検出を行った。
【0043】
そして、口唇の荒れた状態ではデスモグレイン3の発現が多く、デスモグレイン1の発現は口唇の状態には大きく影響されないことから、デスモグレイン1と3を検出し、それらの比を見ることで、口唇の荒れた状態の指標となることを見出した。
【0044】
実 施 例 5
インボルクリン(Involucrin)の検出:
実施例1と同様の方法で角層からテープストリッピングを行い、得られたテープをPBSで洗浄後、これにPBSで500倍に希釈した抗インボルクリン抗体(abcam社製)を1時間反応させた。その後PBSで200倍に希釈したアレクサ・フルオル(Alexa Fluor)546抗マウスIgG抗体を1時間反応させて、蛍光顕微鏡観察を行った。その結果、角層細胞の全面が染色されるものとほとんど染色されない細胞が観察されることが明らかとなった(図10)。この結果もデスモグレインの結果と同様に、角層のターンオーバー、あるいは肌状態の評価法として利用できることを示唆するものであった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の角層中のデスモグレインの検出方法や、表皮ターンオーバーの評価方法及び肌状態評価方法は、医薬品、化粧品の開発に用いられるばかりでなく、顧客の肌の状態を客観的に示すものであるため、顧客に適する化粧品の選択する指標にも用いることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】上腕内側から得た角層(最外層:テープストリップ1回)の蛍光顕微鏡写真
【図2】上腕内側から得た角層(中層:テープストリップ9回)の蛍光顕微鏡写真
【図3】上腕内側から得た角層(深部:テープストリップ29回)の蛍光顕微鏡写真
【図4】上腕内側から得た角層(最深部:テープストリップ39回)の蛍光顕微鏡写真
【図5】顔面から得た角層の蛍光顕微鏡写真
【図6】口唇から得た角層の蛍光顕微鏡写真
【図7】上腕外側から得た角層(最外層)の蛍光顕微鏡写真
【図8】数値化したデスモグレインの発現状態と、角層水分量の相関性を示す図面
【図9】数値化したデスモグレインの発現状態と、TEWLとの相関性を示す図面
【図10】実施例5でのインボルクリンについての蛍光顕微鏡写真 以 上

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テープストリッピングにより皮膚から角層を剥離、採取し、採取した角層試料を蛍光抗体法により染色することを特徴とする角層蛋白質の検出方法。
【請求項2】
皮膚同一部位の角層をテープストリッピングにより複数回剥離、採取し、採取した複数の角層試料を蛍光抗体法により染色することを特徴とする角層中の角層蛋白質の存在位置の検出方法。
【請求項3】
角層における角層蛋白質の存在位置を指標とすることを特徴とする表皮ターンオーバーの評価方法。
【請求項4】
角層における角層蛋白質の存在位置を、同一部位の角層をテープストリッピングにより複数回剥離、採取し、採取した複数の角層試料を蛍光抗体法により染色することに決定する請求項3記載の表皮ターンオーバーの評価方法。
【請求項5】
角層における角層蛋白質の存在位置を指標とすることを特徴とする肌状態評価方法。
【請求項6】
角層における角層蛋白質の存在位置を、同一部位の角層をテープストリッピングにより複数回剥離、採取し、採取した複数の角層試料を蛍光抗体法により染色することに決定する請求項5記載の肌状態評価方法。

【図8】
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【図9】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−199053(P2007−199053A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−317008(P2006−317008)
【出願日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年5月25日 第31回日本香粧品学会学術大会事務局発行の「第31回日本香粧品学会学術大会講演要旨」に発表
【出願人】(000145862)株式会社コーセー (734)
【Fターム(参考)】