説明

触媒の劣化判定装置

【課題】 NOxトラップ触媒の劣化を的確に判定する。
【解決手段】 NOxトラップ触媒の触媒温度を検出又は予測し、触媒温度から、劣化前及び劣化後の吸着効率ηB、Aを設定する(S4)。これらの吸着効率ηB、ηAと、排気中NOx量Qn(S5)との積により、単位時間当たりのNOxトラップ量BNOx、ANOxを求め(S6、S7)、これを所定時間積算して、劣化前及び劣化後のNOxトラップ量SBNOx、SANOxを予測する(S8)。そして、劣化前のNOxトラップ量予測値SBNOxと、劣化後のNOxトラップ量予測値SANOxとを比較し、その差(SBNOx−SANOx)が所定値#SLを下回ったときに、劣化と判定する(S10、S11)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気通路に配置され、少なくとも酸化機能を有する排気浄化用の触媒(NOxトラップ触媒を含む)の劣化判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
触媒の劣化判定装置としては、特許文献1に開示されているように、触媒の上流側及び下流側にそれぞれ空燃比センサ(O2センサ)を配置し、これらの空燃比センサの信号に基づいて、触媒の劣化を判定するシステム(デュアルO2センサシステム)がよく知られている。
【特許文献1】特開平2−030915号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記のデュアルO2センサシステムは、ガソリンエンジンでよく使用されていることからわかるように、ストイキ運転が必要であり、ディーゼルエンジンのように、通常リーンで運転する場合には、判定ができない。
本発明は、このような実状に鑑み、リーン条件下でも判定可能な触媒の劣化判定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
このため、本発明では、少なくとも酸化機能を有する触媒の劣化判定を行う場合に、前記触媒による酸化反応熱量若しくはこれに相当する値を検出又は予測し、前記触媒による酸化反応熱量若しくはこれに相当する値の低下に基づいて前記触媒の劣化を判定する。
また、本発明では、特に、リーン運転時に排気中のNOxをトラップし、ストイキないしリッチ運転時にトラップしたNOxを脱離浄化するNOxトラップ触媒の劣化判定を行う場合に、触媒温度を検出又は予測し、触媒温度に応じて新品状態でのNOx吸着効率を設定し、これに基づいて新品状態でのNOxトラップ量を予測し、また、触媒温度に応じて劣化状態でのNOx吸着効率を設定し、これに基づいて劣化状態でのNOxトラップ量を予測する。そして、新品状態でのNOxトラップ量予測値と、劣化状態でのNOxトラップ量予測値とを比較し、その差が所定値を下回ったときに、劣化と判定する。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、触媒が劣化すると、触媒での酸化反応が十分に行われなくなり、酸化反応熱量が低下することから、これに基づいて触媒の劣化を的確に判定できる。
また、NOxトラップ触媒についても、触媒が劣化すると、触媒での酸化反応(特に吸着のためのNO→NO2の酸化反応)が十分に行われなくなり、触媒温度が低下する。そして、NOx吸着効率は、触媒温度に依存し、触媒温度の上昇により吸着効率が低下するが、触媒が劣化すると吸着効率が低下し始める温度が低下し、また、触媒温度が高いときは、新品状態と劣化状態とで吸着効率の差が大きくなるものの、触媒温度が低下すると、新品状態と劣化状態とで吸着効率の差がなくなる。よって、新品状態でのNOxトラップ量と、劣化状態でのNOxトラップ量とを予測し、これらの差が所定値を下回ったときに、劣化と判定することで、NOxトラップ触媒の劣化を的確に判定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は本発明の一実施形態を示す内燃機関(ここではディーゼルエンジン)のシステム図である。
ディーゼルエンジン1の吸気通路2には可変ノズル型の過給機(ターボチャージャ)3の吸気コンプレッサが備えられ、吸入空気は吸気コンプレッサによって過給され、インタークーラ4で冷却され、吸気絞り弁5を通過した後、コレクタ6を経て、各気筒の燃焼室内へ流入する。燃料は、コモンレール式燃料噴射装置により、すなわち、高圧燃料ポンプ7により高圧化されてコモンレール8に送られ、各気筒の燃料噴射弁9から燃焼室内へ直接噴射される。燃焼室内に流入した空気と噴射された燃料はここで圧縮着火により燃焼し、排気は排気通路10へ流出する。
【0007】
排気通路10へ流出した排気の一部は、EGRガスとして、EGR装置により、すなわち、EGR通路11によりEGR弁12を介して、吸気側へ還流される。排気の残りは、可変ノズル型の過給機3の排気タービンを通り、これを駆動する。
ここで、排気通路10の排気タービン下流には、排気浄化のため、三元触媒にNOx吸着物質を添加してなり、排気空燃比がリーンのときに排気中のNOxをトラップし、トラップしたNOxを排気空燃比がストイキないしリッチのときに脱離浄化することのできるNOxトラップ触媒13を配置してある。尚、このNOxトラップ触媒13では、リーン領域にて、NOxを吸着しやすいように、白金などの貴金属上でNOを酸化して、NO2の形で吸着物質に貯蔵し、ストイキないしリッチ領域にて、NO2をHC、COなどと反応させてN2に還元する。
【0008】
コントロールユニット20には、エンジン1の制御のため、エンジン回転数Ne検出用の回転数センサ21、アクセル開度APO検出用のアクセル開度センサ22、吸入空気量Qa検出用のエアフローメータ23、エンジン冷却水温Tw検出用の水温センサ24から、信号が入力されている。
また、NOxトラップ触媒13の触媒温度(担体温度)Tcat を検出する触媒温度センサ25が設けられ、この信号もコントロールユニット20に入力されている。但し、NOxトラップ触媒13の触媒温度Tcat はその下流側などに排気温度センサを設けて、排気温度より間接的に検出するようにしてもよい。
【0009】
コントロールユニット20は、これらの入力信号に基づいて、燃料噴射弁9による燃料噴射の燃料噴射量及び噴射時期制御のための燃料噴射弁9への燃料噴射指令信号、吸気絞り弁5への開度指令信号、EGR弁12への開度指令信号、過給機3の可変ノズル機構15へのノズル開度指令信号等を出力する。
ここにおいて、コントロールユニット20では、NOxトラップ触媒13の劣化判定を行うようにしており、かかる劣化判定について、以下に詳細に説明する。
【0010】
図2は、NOxトラップ触媒の触媒温度と吸着効率との関係を、新品状態(劣化前)及び劣化状態(劣化後)のそれぞれの場合について示している。
特に暖機後の温度範囲(触媒温度#TC以上)について見ると、劣化前及び劣化後のいずれも、触媒温度の上昇に伴って吸着効率が低下し、逆に見れば触媒温度の低下に伴って吸着効率が上昇する傾向がある。そして、劣化前と劣化後とを比較すると、劣化後は、吸着効率が低下し始める温度がより低くなり、吸着効率の低下度合も大きくなる。
【0011】
従って、ある高温側の触媒温度THでの劣化前と劣化後の吸着効率の差Δη(TH)と、これより低温側の触媒温度TLでの劣化前と劣化後の吸着効率の差Δη(TL)とを比較すると、Δη(TH)>Δη(TL)となる。
一方、NOxトラップ触媒が劣化すると、触媒での酸化反応(特に吸着のためのNO→NO2の酸化反応)が十分に行われなくなって、酸化反応熱量が低下し、これにより触媒温度が低下する。従って、NOxトラップ触媒が劣化すると、触媒温度が低下することで、劣化前と劣化後の吸着効率の差が小さくなる(例えばΔη(TH)→Δη(TL))。
【0012】
本発明では、触媒が劣化すると、触媒での酸化反応が十分に行われなくなり、酸化反応熱量が低下することから、酸化反応熱量の低下、若しくは、酸化反応熱量に相当する値である触媒温度の低下に基づいて、触媒の劣化を判定するが、特に、本実施形態では、触媒温度に応じた劣化前の吸着効率を基に予測したNOxトラップ量と、触媒温度に応じた劣化後の吸着効率を基に予測したNOxトラップ量とをそれぞれ算出して、その差を求め、これが所定値より小さくなったときに、触媒での酸化反応熱量の低下による触媒温度の低下があったものとみなして、NOxトラップ触媒の劣化と判定するのである。
【0013】
図3はNOxトラップ触媒劣化判定ルーチンのフローチャートであり、所定時間毎に繰り返し実行される。
S1では、リーン運転中(ディーゼルエンジンでの通常のリーン燃焼中)か否かを判定し、リーン運転中でない場合は本ルーチンを終了する。リーン運転中の場合にのみNOxのトラップがなされ、図2の特性となるからである。
【0014】
S2では、S(イオウ)被毒解除状態か否かを判定し、S被毒解除状態でない場合は本ルーチンを終了する。NOxトラップ触媒がS被毒している状態では所望のNOxトラップ性能が発揮されないからである。
尚、S被毒解除状態か否かは、S被毒量を別途計算していて、これが所定値以下か否かを判定する。S被毒量の計算は、例えば、エンジンでの燃料噴射量に予め定めたイオウ濃度を乗じた値(単位時間当たりのS被毒量の増分)を積算する一方、定時的に空燃比をリッチ化すると共に燃料噴射時期を遅角するなどして排気温度を上昇させることによりS被毒解除処理を行うので、この処理時間などに応じた被毒解除分を減算することで、S被毒量を求める。
【0015】
S3では、触媒温度センサ25からの信号に基づいて触媒温度を検出し、検出された触媒温度が所定温度#TC以上か否かを判定し、触媒温度≧#TCでない場合は本ルーチンを終了する。ここでの所定温度#TCは、エンジンの暖機により触媒の浄化効率が所定値(例えば90%)以上となる活性化温度である。図2の暖機後の温度範囲での触媒温度−吸着効率特性を用いるからである。
【0016】
S4では、触媒温度センサ25により検出された触媒温度Tcat に基づき、図2のような特性のテーブルから、劣化前(新品状態)の吸着効率ηBを検索すると共に、劣化後(劣化状態)の吸着効率ηAを検索する。
S5では、エアフローメータ23により検出される吸入空気量Qaから排気中NOx量Qnを予測する。
【0017】
S6では、次式のごとく、排気中NOx量Qnに、劣化前の吸着効率ηBを乗じて、劣化前の単位時間当たりのNOxトラップ量(NOxトラップ速度)BNOxを算出する。
BNOx=Qn×ηB
S7では、次式のごとく、排気中NOx量Qnに、劣化後の吸着効率ηAを乗じて、劣化後の単位時間当たりのNOxトラップ量(NOxトラップ速度)ANOxを算出する。
【0018】
ANOx=Qn×ηA
S8では、劣化前の単位時間当たりのNOxトラップ量BNOx、及び、劣化後の単位時間当たりのNOxトラップ量ANOxを、それぞれ積算する。
SBNOx=Σ(BNOx)
SANOx=Σ(ANOx)
S9では、積算時間が所定時間に達したか否かを判定し、達していない場合は、そのまま本ルーチンを終了する。
【0019】
積算時間が所定時間に達した場合、すなわち、所定期間(所定時間)における劣化前のNOxトラップ量SBNOx、及び、劣化後のNOxトラップ量SANOxが算出された場合は、S10へ進む。
S10では、劣化前のNOxトラップ量予測値SBNOxと劣化後のNOxトラップ量予測値SANOxとを比較し、その差(SBNOx−SANOx)が所定値#SL以下か否かを判定する。
【0020】
SBNOx−SANOx>#SLの場合は、図2で触媒温度が高い側であり、酸化反応熱量が多いと判定できるので、NOxトラップ触媒は正常であるとみなし、S12で積算値SBNOx、SANOxをクリアして、本ルーチンを終了する。
SBNOx−SANOx≦#SLの場合は、図2で触媒温度が低い側であり、酸化反応熱量が少ないと判定できるので、NOxトラップ触媒の劣化と判定して、S11で劣化判定フラグをON状態にし、S12で積算値SBNOx、SANOxをクリアして、本ルーチンを終了する。
【0021】
本実施形態によれば、新品状態又は劣化状態でのNOxトラップ量を予測するに際し、触媒温度に応じて新品状態又は劣化状態でのNOx吸着効率を設定し、排気中NOx量との積により、単位時間当たりのNOxトラップ量を求め、これを所定時間積算して、新品状態又は劣化状態でのNOxトラップ量を予測することにより、予測精度を向上できる。
また、本実施形態によれば、前記排気中NOx量は、吸入空気量に基づいて予測することにより、的確に予測できる。
【0022】
また、本実施形態によれば、前記劣化判定は、触媒に流入する排気中の酸素が過剰な状態で実施することにより、判定精度を向上させることができる。
また、本実施形態によれば、前記劣化判定は、触媒のS被毒が解除されている状態で実施することにより、判定精度を向上させることができる。
また、本実施形態によれば、前記劣化判定は、触媒の温度が所定温度(エンジンの暖機により触媒の浄化効率が所定値以上となる活性化温度)以上の条件で実施することにより、判定精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態を示すエンジンのシステム図
【図2】NOxトラップ触媒の劣化前・後の触媒温度と吸着効率との関係を示す図
【図3】NOxトラップ触媒劣化判定ルーチンのフローチャート
【符号の説明】
【0024】
1 ディーゼルエンジン
2 吸気通路
3 可変ノズル型の過給機
5 吸気絞り弁
9 燃料噴射弁
10 排気通路
11 EGR通路
12 EGR弁
13 NOxトラップ触媒
15 可変ノズル機構
20 コントロールユニット
21 回転数センサ
22 アクセル開度センサ
23 エアフローメータ
24 水温センサ
25 触媒温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に配置され、少なくとも酸化機能を有する触媒の劣化判定装置であって、
前記触媒による酸化反応熱量若しくはこれに相当する値を検出又は予測し、前記触媒による酸化反応熱量若しくはこれに相当する値の低下に基づいて前記触媒の劣化を判定することを特徴とする触媒の劣化判定装置。
【請求項2】
前記触媒による酸化反応熱量相当値として、前記触媒の温度を検出又は予測し、前記触媒の温度低下に基づいて前記触媒の劣化を判定することを特徴とする請求項1記載の触媒の劣化判定装置。
【請求項3】
前記触媒は、リーン運転時に排気中のNOxをトラップし、ストイキないしリッチ運転時にトラップしたNOxを脱離浄化するNOxトラップ触媒であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の触媒の劣化判定装置。
【請求項4】
内燃機関の排気通路に配置され、リーン運転時に排気中のNOxをトラップし、ストイキないしリッチ運転時にトラップしたNOxを脱離浄化するNOxトラップ触媒の劣化判定装置であって、
触媒温度を検出又は予測する手段と、
触媒温度に応じて新品状態でのNOx吸着効率を設定し、これに基づいて新品状態でのNOxトラップ量を予測する手段と、
触媒温度に応じて劣化状態でのNOx吸着効率を設定し、これに基づいて劣化状態でのNOxトラップ量を予測する手段と、を備え、
新品状態でのNOxトラップ量予測値と、劣化状態でのNOxトラップ量予測値とを比較し、その差が所定値を下回ったときに、劣化と判定することを特徴とする触媒の劣化判定装置。
【請求項5】
前記新品状態又は劣化状態でのNOxトラップ量を予測する手段は、触媒温度に応じて新品状態又は劣化状態でのNOx吸着効率を設定し、排気中NOx量との積により、単位時間当たりのNOxトラップ量を求め、これを所定時間積算して、新品状態又は劣化状態でのNOxトラップ量を予測するものであることを特徴とする請求項4記載の触媒の劣化判定装置。
【請求項6】
前記排気中NOx量は、吸入空気量に基づいて予測することを特徴とする請求項5記載の触媒の劣化判定装置。
【請求項7】
前記劣化判定は、前記触媒に流入する排気中の酸素が過剰な状態で実施することを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1つに記載の触媒の劣化判定装置。
【請求項8】
前記劣化判定は、前記触媒のイオウ被毒が解除されている状態で実施することを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか1つに記載の触媒の劣化判定装置。
【請求項9】
前記劣化判定は、前記触媒の温度が所定温度以上の条件で実施することを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれか1つに記載の触媒の劣化判定装置。
【請求項10】
前記所定温度は、内燃機関の暖機により前記触媒の浄化効率が所定値以上となる活性化温度であることを特徴とする請求項9記載の触媒の劣化判定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−169997(P2006−169997A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−361094(P2004−361094)
【出願日】平成16年12月14日(2004.12.14)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】