説明

触媒の製造方法並びに電気触媒としての使用

本発明は、白金族金属並びに白金族金属又は遷移金属から選択される第2の金属を含有する触媒を製造する方法に関し、その際、第1の工程で、白金族金属を有する触媒を、第2の金属を有する錯化合物と混合し、乾燥した粉末にし、引き続き、前記白金族金属と前記第2の金属との間の化合物を得るために、前記粉末を熱処理する。更に、本発明は、本発明により製造された触媒の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白金族金属並びに白金族金属又は遷移金属から選択される第2の金属を含有する触媒の製造方法に関する。本発明は、更に、本発明により製造された触媒の使用に関する。
【0002】
少なくとも2種の異なる金属からなる合金を含有し、少なくとも1つの金属は白金族金属である触媒は、例えば燃料電池中の電気触媒として使用される。特に、この種の触媒は、直接型メタノール燃料電池(Direct-Methanol-Fuel-Cells, DMFC)中でのカソード触媒としての使用のために適している。酸素還元のための高い電流密度の他に、DMFC中のカソード触媒には他の要求が課せられる。セパレータとして使用される膜を通過するメタノール透過が、原理的にカソードでのメタノールの酸素による接触酸化を許容するため、使用されるカソード触媒はこのメタノール酸化に対してできる限り活性でない必要がある。つまり、前記カソード触媒はメタノール酸化と比べて酸素還元のために高い選択性を有していなければならない。
【0003】
例えばJ. Applied Electrochemistry (1998), 673-682頁から公知の熱処理されたポルフィリン−遷移金属錯体又は例えばJ. Electrochem. Soc, 145 (10), 1998, 3463 -3471頁から公知の遷移金属硫化物、例えばReRuS又はMoRuS系は、酸素還元のために高い電流密度を有し、かつメタノールに対して良好な耐性を示す。もちろん、前記触媒はPtに基づく触媒の活性には到達せず、燃料電池の酸性の環境中で長時間にわたり十分な電流密度を保証するためには安定性も不十分である。
【0004】
US-A 2004/0161641からは、遷移金属と合金されているPt触媒が良好なメタノール耐性を有し、かつ酸素還元のために十分に高い電流密度を保障することは公知である。このようにUS-A 2004/0161641からは、例えば活性のメタノール耐性カソード触媒は、低い水素結合エネルギーと同時に、できる限り高い酸素結合エネルギーを有することが好ましいことは公知である。高い酸素結合エネルギーは、酸素還元のための高い電流密度を保証し、低い水素結合エネルギーはメタノールから二酸化炭素への電気酸化脱水素を弱め、ひいてはメタノール耐性を高める。この特性は、US-A 2004/0161641によるとFe、Co、Ni、Rh、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn及びCdの元素からなる合金が有している。メタノール耐性のカソード触媒として適している合金組成についての具体的例は、しかしながら記載されていない。
【0005】
メタノール耐性触媒の使用とは別に、例えばPlatinum Metals Rev. 2002, 46, (4)では、前記メタノール透過を適当な膜の選択により低減する方法が挙げられている。このために、例えばより厚いナフィオン(Nafion)膜を使用することができる。この低いメタノール透過は、しかしながら同時に膜抵抗の上昇を引き起こし、これは最終的に燃料電池の出力損失を引き起こす。
【0006】
白金とルテニウムとを含有する触媒の製造は、例えばAJ. Dickinson et. AI.著, "Preparation of a Pt-Ru/C Catalyst from carbonyl complexes for fuel cell applications", Elektrochimica Acta 47 (2002), 3733-3739頁から公知である。このために、[Ru3(CO)12]及び[Pt(CO)2x及び活性炭をo−キシレンと混合する。前記混合物を、143℃で24時間一定に機械的に撹拌しながら還流で加熱した。引き続き前記混合物を冷却し、o−キシレンを蒸留により除去した。前記還流加熱を空気雰囲気下で実施した。この記載された方法により、ルテニウムに富んでいる触媒が生じる。
【0007】
直接型メタノール燃料電池に使用するためのPt−Ru−触媒を製造するための調製技術についての概要は、H. Liu et. al.著, "A review of anode catalysis in the direct methanol fuel cell", Journal of Power Sources, 155 (2006) 95- 110頁に記載されている。適当な製造方法として、一方で、炭素担体の金属含有前駆体での含浸、担体上へのコロイド状の金属合金粒子の塗布及びマイクロエマルション中での高分散性金属粒子の合成が記載されている。担体上へのコロイド状の金属合金粒子の塗布及びマイクロエマルション中での高分散性金属粒子の合成は、費用のかさむ出発材料、例えば界面活性剤の使用を必要とする。この理由から、触媒の製造のために炭素担体の含浸が最も頻繁に使用される。この含浸の欠点は、しかしながら、一般にナノ粒子のサイズ及びその分布を制御することが困難であることである。更に、含浸において頻繁に行われるような高沸点の溶剤の使用は、工業的に重要な触媒量の製造の場合に問題がある。
【0008】
他の公知の方法の場合には、まず、第1工程において白金触媒が製造される。前記触媒は、濾過、洗浄及び乾燥後に、新たに液状の反応媒体、一般に水に分散される。この分散液に合金されるべき元素を適当な可溶性の塩の形で添加し、適当な沈殿剤、例えば炭酸ナトリウムを用いて沈殿させる。この得られた分散液を濾過し、分離された固体を洗浄し、乾燥し、引き続き還元雰囲気下で高温処理にさらす。しかしながら、この方法の欠点は、既に一度濾過し、洗浄しかつ乾燥した生成物を、二度も加工工程のこのシーケンスにさらさなければならないことにある。
【0009】
従って、本発明の課題は、先行技術から公知の方法の欠点を有しない触媒の製造方法を提供することである。特に、本発明の課題は、ナノ粒子の再現可能なサイズ及び分布を有する触媒を製造することができ、かつ2つの相互に引き続く方法工程で、同じ湿式化学的方法工程を実施する必要がない方法を提供することである。
【0010】
前記課題は、次の工程:
(a) 白金族金属を有する触媒を、第2の金属を有する錯化合物と混合し、乾燥した粉末にする工程、
(b) 前記白金族金属と前記第2の金属との間で化合物を得るために、前記粉末を熱処理する工程
を有する、白金族金属並びに白金族金属又は遷移金属から選択される第2の金属を含有する触媒を製造する方法により解決される。
【0011】
工程(b)における熱処理により得られる化合物は一般に合金である。
【0012】
工程(a)において白金族金属を有する触媒を、第2の金属を有する錯化合物と混合して、乾燥した粉末にすることにより、既に、白金族金属を有する洗浄及び乾燥された触媒を、新たに濾過、洗浄及び乾燥することは避けられる。これは、合金を得るために、単に工程(b)での熱処理において高温処理が行われるだけである。
【0013】
白金族金属を有する触媒は、第1の実施態様の場合に、粉末の形で存在する純粋な金属である。別の実施態様の場合に、白金族金属を含有する触媒は担持されて存在している。担体として、この場合、一般に触媒活性でない材料が利用され、その上に触媒活性材料が設けられているか又は前記担体が触媒材料を含有する。
【0014】
白金族金属とは、本発明の場合に、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、金である。しかしながら、本発明の有利な実施態様の場合には、白金族金属は白金である。
【0015】
工程(a)で使用された触媒が非担持で存在する場合、白金族金属は有利に1〜200μmの範囲内の粒径を有する粉末として存在する。この場合、白金族金属は、2〜20nmの範囲内の一次粒径を有する。白金族金属の粉末は、更に、他の触媒不活性の成分を含有することもできる。これは、例えば離型剤として利用される。このために、例えば触媒担体として使用することができる全ての材料が適している。
【0016】
工程(a)中で使用された白金族金属を有する触媒が担持されている場合には、担体として一般に炭素を使用する。この炭素は、例えば活性炭として、カーボンブラックとして又はナノストラクチャードカーボン(nanostrukturierter Kohlenstoff)として存在することができる。カーボンブラックとして、例えばVulcan XC72又はKetjen Black EC300が適している。前記炭素がナノストラクチャードカーボンとして存在する場合、有利にカーボンナノチューブが使用される。前記触媒を製造するために、白金族金属は担体材料と結合される。白金族金属を含有する担持触媒又は非担持触媒の製造は公知であり、相応する触媒は市場により入手することができる。
【0017】
錯体化合物、有利に有機金属錯化合物の形で含まれ、かつ白金族金属又は遷移金属から選択される第2の金属は、有利にルテニウム、コバルト、ニッケル及びパラジウムからなるグループから選択される。
【0018】
有利に、この第2の金属は、有機金属錯化合物として存在する。前記有機金属錯化合物を形成するための有利な配位子は、オレフィン、有利にジメチルオクタジエン、芳香族、有利にピリジン、2,4−ペンタンジオンである。更に、前記第2の金属が、混合されたシクロペンタジエニル−カルボニル−錯体の形で又は純粋な又は混合されたカルボニル錯体、ホスファン錯体、シアノ錯体又はイソシアノ錯体として存在することも有利である。
【0019】
特に、前記第2の金属が、配位子としてアセチルアセトナート又は2,4−ペンタジオンを有する有機金属錯化合物として存在する場合が有利である。前記第2の金属は、この場合、有利にイオン性で存在する。
【0020】
白金族金属又は遷移金属から選択される第2の金属を、白金族金属を有する触媒と混合するために、前記第2の金属を有する錯化合物が乾燥して存在している場合が有利である。しかしながら、これとは別に、前記錯化合物が溶剤中に溶かされていることも可能である。この溶剤は、この場合、有利にヘキサン、シクロヘキサン、トルエン及びエーテル化合物からなるグループから選択される。有利なエーテル化合物は、開鎖エーテル、例えばジエチルエーテル、ジ−n−プロピルエーテル又は2−メトキシプロパン、並びに環状エーテル、例えばテトラヒドロフラン又は1,4−ジオキサンである。
【0021】
第2の金属を有する錯化合物が溶剤中に溶かされている場合、白金族金属を有する触媒と有機金属化合物又は金属錯体からなる混合物は、工程(b)における熱処理の前に乾燥される。この乾燥は、この場合、周囲温度で又は高めた温度で行うことができる。前記乾燥を高めた温度で行う場合、この温度は、有利に前記溶剤の沸点を上回る。この乾燥時間は、この乾燥の後に、白金族金属を有する触媒と錯化合物とからなる混合物中の溶剤の割合が、5質量%未満、有利に2質量%未満であるように選択される。
【0022】
白金族金属を有する触媒と、第2の金属を有する錯化合物との混合物は、固体の混合のために当業者に公知の任意の方法により行われる。適当な固体混合機は、通常では、混合されるべき材料を運動させる容器を有する。適当な固体混合機は、例えばパドルミキサ、スクリューミキサ、ホッパーミキサ又はニューマティックミキサである。
【0023】
前記錯化合物が溶剤中に溶かされている場合、有利に白金族金属を有する触媒と、溶解された錯化合物との混合は、当業者に公知の通常の分散法によって行われる。このため、例えば、迅速に回転するナイフ又は刃を備えている容器が使用される。この種の装置は、例えばUltra-Turrax(登録商標)である。
【0024】
白金族金属と、白金族金属又は遷移金属から選択される第2の金属との間の化合物を得るために、工程(a)中での混合により製造された粉末を熱処理する。この熱処理は、有利に異なる温度で少なくとも2段階で実施され、その際、前記温度は段階的に高められる。
【0025】
前記熱処理により前記錯化合物は分解され、その中に結合する金属が放出される。前記金属は、白金族金属と化合する。これは、それぞれの金属微結晶が副次的に並存する合金を生じる。個々の金属微結晶は、この場合、一般に、2〜7nmの範囲内のサイズを有する。
【0026】
有利な実施態様の場合に前記熱処理は3段階で行われ、第1の段階は主に一定の温度で、90〜140℃の範囲内で、有利に100〜110℃の範囲内で、90〜180分の期間、有利に100〜150分の範囲内の期間で実施される。第2の段階は、主に一定の温度で、300〜350℃の範囲内で、3〜5時間の期間、有利に3.5〜4.5時間の範囲内の期間で行われる。前記第2の段階が実施される温度は、この場合、使用される第2の金属に依存する。例えば第2の金属としてコバルトを使用する場合、第2の段階は、有利に200〜240℃の範囲内の温度で、有利にほぼ210℃で実施される。第2の金属としてレニウムを使用する場合には、第2段階は、有利に290〜310℃の範囲内の温度で、特に主に300℃で行われる。
【0027】
第3の段階は、有利に主に一定の温度で、500〜800℃の範囲内で、20分〜4時間の範囲内の期間で実施される。この第3の段階の温度及び時間は、この場合もまた使用された第2の金属に依存する。この第3の段階は、例えば第2の金属としてコバルトを使用する場合に、580〜620℃の範囲内の温度で、2.5〜3.5時間の期間で実施される。有利に、この第3の段階は、主に600℃の温度で、主に3時間で実施される。ルテニウムを使用する場合には、それに対してこの第3の段階は、680〜720℃の範囲内の温度で、20〜40分の期間で行われる。白金族金属として、この場合それぞれ白金が使用される。
【0028】
個々の工程の間の温度は、有利に線状に上昇させて高められる。第1の段階から第2の段階への温度上昇は、この場合、有利に20〜60分間で行われ、第2の段階から第3の段階への温度上昇は、この場合、2〜4時間で、有利に2.5〜3.5時間で行われる。
【0029】
この熱処理プロセスの第1の段階は、有利に不活性雰囲気下で実施される。この不活性雰囲気は、有利に窒素雰囲気である。しかしながら、これとは別に、窒素に代えてアルゴンを使用することも可能である。窒素とアルゴンとからなる混合物を使用することも可能である。しかしながら、窒素が有利である。
【0030】
第1の段階に引き続き行われる少なくとも1つの段階は、有利に、還元雰囲気下で実施される。この還元雰囲気は、有利に水素を含有する。水素の割合は、この場合、製造される触媒の組成に依存する。例えば、Pt−Ru−触媒のために、3段階の熱処理プロセスで、第2の段階は、有利に主に同じ割合の水素及び窒素を含有する雰囲気下で実施される。前記熱処理の第3の段階は、しかしながら、水素と窒素とが有利に1:9の割合で存在する雰囲気下で実施される。
【0031】
従って、3段階の熱処理プロセスでPt−Ru−触媒の製造の場合に、第2の熱処理工程も、第3の熱処理工程も、水素と窒素とが2:1の割合で存在する雰囲気下で実施される。
【0032】
工程(b)における熱処理の完了後に、有利に不活性雰囲気下で周囲温度への冷却が行われる。この不活性雰囲気は、この場合、前記した有利に窒素雰囲気又はアルゴン雰囲気と同様である。窒素とアルゴンとからなる混合物を使用することも可能である。
【0033】
Pt−Co−触媒の製造の場合に、冷却後に有利に過剰の、酸安定性でないコバルトは除去される。このために、熱処理された触媒を有利に硫酸中に懸濁させ、窒素雰囲気下で撹拌する。この懸濁のために、有利に硫酸0〜1M、有利に0.4〜0.6Mが使用される。この温度は、この場合、60〜100℃、有利に85〜95℃の範囲内にある。前記経過の期間は、有利に30〜90分の範囲内、有利に50〜70分の範囲内である。前記硫酸を用いた懸濁後に、前記触媒を洗浄し、濾過し、乾燥する。前記乾燥は、この場合、有利に真空下で行われる。
【0034】
本発明により製造された触媒は、酸に対して安定であり、直接型メタノール燃料電池において望ましいように酸素還元のために高い電流密度を有する。更に、本発明により製造された触媒は、メタノール汚染に対して極めて耐性でもある。
【0035】
十分に良好な触媒活性を達成するために、前記触媒は大きな比表面積を有する必要がある。これは、有利に、前記触媒が担体を有し、その際、白金族金属及び第2の金属からなる合金が前記担体上に設けられていることにより達成される。大きな表面積を達成するために、前記担体が多孔性である場合が有利である。
【0036】
前記触媒が担体上に設けられている場合、一般に触媒材料からなる個々の粒子は前記担体表面上に含まれる。通常では、前記触媒は、前記担体表面上に連続する層として存在していない。
【0037】
担体として、例えばセラミック又は炭素が適している。特に、担体材料として、炭素が有利である。担体材料としての炭素の利点は、この炭素が導電性であることである。前記触媒を燃料電池中の電気触媒として、例えば燃料電池のカソードとして使用する場合、燃料電池の機能を保証するために、前記カソードは導電性である必要がある。
【0038】
炭素の他に、他の適当な担体材料は、例えば酸化スズ、有利に半導電性の酸化スズ、場合によりC被覆されているγ−酸化アルミニウム、二酸化チタン、二酸化ジルコニウム、二酸化ケイ素であり、後者は有利に高分散性で存在し、一次粒子は50〜200nmの直径を有する。
【0039】
更に、酸化タングステン及び酸化モリブデンも適しており、これはブロンズとしても、つまり化学量論的不足の酸化物として存在する。更に、元素の周期表の第IV副族〜第VII副族の金属、有利にタングステン及びモリブデンの炭化物及び窒化物が適している。
【0040】
前記担体のための材料として炭素を使用する場合、有利にカーボンブラック又は黒鉛が挙げられる。前記炭素は、それとは別に活性炭としても又は前記のナノストラクチャードカーボンとしても存在することができる。前記のナノストラクチャードカーボンの代表物は、例えばカーボンナノチューブである。
【0041】
白金族金属を有する触媒が、更に担体を有する場合、通常ではまず白金族金属が前記担体上に堆積される。これは、一般に溶液中で行われる。このために、例えば金属化合物を溶剤中に溶かすことができる。前記金属は、この場合、共有結合、イオン結合又は錯結合されていてもよい。更に、前記金属は、還元性で、前駆体として、又は相応する水酸化物の沈殿によりアルカリ性で堆積させることもできる。白金族金属を堆積させる他の方法は、前記金属を含有する溶液を用いた含浸(Incipient Wetness)、化学蒸着(CVD)法又は物理蒸着(PVD)法、並びに金属を堆積させることができる他の全ての当業者に公知の方法である。有利に、まず前記白金族金属の塩を沈殿させる。その沈殿後に、乾燥及び前記白金族金属を含有する触媒の製造のために熱処理が行われる。
【0042】
本発明による方法により製造された触媒は、例えば燃料電池中の電極材料として使用するために適している。他の適当な適用分野は、燃料電池を除いたメタノール又は水素の電解酸化、酸素の電解還元、クロロアルカリ−電気分解及び水−電気分解である。同様に、本発明による方法により製造された触媒は、例えば自動車排気ガス触媒において、例えば三元触媒又はディーゼル酸化触媒として、又は化学工業における接触水素化のため又は脱水素のために使用される。これには、例えば不飽和脂肪族、芳香族及び複素環式化合物の水素化が該当する。カルボニル基、ニトリル基、ニトロ基及びカルボン酸及びそのエステルの脱水素、アミノ化する水素化、鉱油及び一酸化炭素の水素化である。脱水素の例として、パラフィン、ナフテン、アルキル芳香族及びアルコールの脱水素が挙げられる。前記水素化又は脱水素は、この場合、気相中でも液相中でも実施することができる。
【0043】
特に有利な実施態様の場合、本発明による方法により製造された触媒は、直接型メタノール燃料電池中の電極のために使用される。触媒が使用される電極は、特に直接型メタノール燃料電池のカソードである。直接型メタノール燃料電池のカソードとして使用する場合、本発明による方法により製造された触媒は、酸素還元のために十分に高い電流密度を示す。更に、本発明による方法により製造された触媒は、メタノール汚染(Methanol-Verunreinigungen)に対して耐性である。これは、本発明による方法により製造された触媒が、メタノール酸化に対してほぼ不活性であることを意味する。
【0044】
実施例
比較例
a) 担持された白金触媒の製造
水3.5リットル中にTyps EC300タイプのカーボンブラック75gを装入し、2分間、Ultra-Turrax T25で110000rpmで均質化し、引き続き二重撹拌機を備えたIKA-撹拌機を用いて撹拌した。引き続き、Pt(NO32 130gを水1.5リットルに溶かし、エタノール5リットルを混合した。この溶液を、反応混合物の製造のためにカーボンブラック懸濁液と混合した。この反応混合物を、引き続き室温で30分間撹拌し、その後5時間還流下で乾燥させた。この場合に生じるPt/Cを濾別し、水242リットルで16時間硝酸塩不含になるまで洗浄した。最後に、窒素50リットル/hの流量で窒素雰囲気下で、100℃で54時間ロータリーキルン中で乾燥を行った。
【0045】
b) 炭素上の白金及びコバルトからなる混合物(PtCo/C)の製造
前記の製造したPt/C材料16gを、水1.5リットル中に装入し、30分間撹拌した。引き続き、水50ml中に溶かしたCo(NO32・6H2O 20gを添加した。この混合物のpH値は、5%のソーダ溶液の添加により一定に5.6に保持される。Co(NO32の添加後に、空気を供給しながら60℃で1時間後撹拌し、このpH値は4.3に低下した。1時間後に、5%のソーダ溶液でpH値を7.5に調節した。引き続き、このPtCo/Cを濾別し、水12リットルで硝酸塩不含になるまで洗浄した。その後で、50リットル/hの窒素体積流で窒素雰囲気下で100℃で16時間、ロータリーキルン中で乾燥を行った。
【0046】
PtCo/C材料4gを、ロータリーキルン中で3時間に600℃にし、この温度で3時間保持した。この熱処理の間に、前記試料を窒素5リットル/h及び水素10リットル/hで洗浄し、その際、窒素及び水素の添加は同時に行った。この熱処理後に、前記試料を室温でN2 15リットル/h及び空気3リットル/hで不動態化した。このために、まず、純粋な窒素を供給し、前記ロータリーキルンから前記水素を完全に除去し、引き続き窒素に空気を添加した。
【0047】
過剰な、酸安定性でないCoを除去するために、この熱処理した触媒を、引き続き0.5MのH2SO4に懸濁し、引き続き窒素下で90℃で1時間撹拌した。引き続き、この触媒を吸引し、真空中で乾燥させた。
【0048】
このように製造した触媒は、白金52質量%、コバルト18.2質量%を有していた。この微結晶サイズを、X線回折法により測定した。4.2nmの微結晶サイズが生じた。
【0049】
製造例1
比較例a)と同様に製造した白金触媒8gを、コバルト−ジ−アセチルアセトナート8.9gと乾式混合した。この混合物を、窒素雰囲気又は水素雰囲気下で運転することができるロータリーキルン中に充填した。この熱処理を、3つの段階で実施した。第1の段階では、前記混合物を110℃で2時間窒素雰囲気下で保持した。引き続き、この温度を30分間で210℃に上昇させた。引き続き、この温度を210℃で4時間保持した。ガス雰囲気として、1:2の割合の窒素と水素とからなる混合物を使用した。更なる処理のために、210℃の温度を3時間で600℃にまで上昇させ、更に3時間この温度に保持した。このガス雰囲気は、1:2の割合の窒素及び水素から変えずに構成された。600℃の温度で3時間の経過の後に、窒素雰囲気下で冷却した。室温に到達したら、空気雰囲気に置き換えた。この際に生成物中での温度上昇は観察されなかった。
【0050】
過剰量の、反応されていない、酸安定性でないコバルトを除去するために、前記触媒を、90℃の温度で1時間0.5molerのH2SO4で洗浄を行った。引き続き、前記触媒を洗浄し、濾過し、かつ乾燥した。こうして得られた触媒は48.4質量%の白金割合を有し、コバルト割合は21.2質量%であり、X線回折法により測定した微結晶サイズは3.1nmであった。
【0051】
製造例2
比較例の工程a)により製造した白金触媒4gを、ルテニウム−トリ−アセチルアセトナート4.7gと混合した。この混合物を、窒素雰囲気又は水素雰囲気下で運転することができるロータリーキルン中に充填し、次の処理を行った。
【0052】
まず、前記混合物を窒素雰囲気下で110℃の温度で2時間保持した。引き続き、この温度を30分間で300℃に上昇させた。その後、この混合物をこの温度で4時間保持した。ガス雰囲気として、1:1の割合の水素と窒素とからなる混合物を使用した。引き続き、このガス雰囲気を水素対窒素1:9の割合に変更した。この温度を3時間内で700℃に高め、700℃で30分間保持した。それに引き続き窒素雰囲気下で冷却を行った。
【0053】
この冷却後に、前記触媒を、取り外しの前に不動態化のために、それぞれ30分間、それぞれ窒素中で、まず酸素0.1%で、次いで酸素0.5%で、酸素1%で、及び酸素5%で処理した。このように製造した触媒は、ルテニウム37質量%、コバルト23質量%を有していた。この微結晶サイズは3.3nmであり、格子定数(XRD)は0.386nmであった。TEM−電子顕微鏡により、白金−ルテニウム−金属合金は均質でかつカーボンブラック担体上に高分散性で堆積されていることが示された。個々の金属粒子の粒子サイズは、1〜10nmの範囲内にある。
【0054】
メタノール耐性の評価
比較例及び製造例1により製造された触媒をインクに加工した。このために、触媒6mg、H2O 1g、5パーセントのナフィオン溶液(アルコール/水混合物)0.1g及びイソプロパノール7.07gを混合した。この試験を、3−電極装置中で、カロメル基準電極を用いてリングディスク電極で実施した。この被覆のために、インキ200μlを20μlの分量で100mm2の面積を有する測定ヘッドに塗布し、熱風で乾燥させた。この試験を1molarの硫酸中で70℃で実施した。測定の開始前に、前記電解質を1時間酸素で飽和した。前記触媒層を定義された出発状態にするために、本来の測定の前に、カロメルに対して、−150mVから850mV並びに−150mVに戻す2サイクリックボルタンメトリースキャンを、50mV/sの上昇速度で600rpmの回転数で実施した。本来の測定のために、作業電極の電極電位をカロメル電極に対して500mVで一定に保持し、カソード電流の時間的推移を記録した。試験開始後の1700〜1710秒の間に測定されかつ貴金属含有量に関して基準化された電流密度を、試験された触媒についての酸素還元のための電流密度の尺度として利用した。メタノールの影響を試験するために、この試験をまず純粋な硫酸性電解質中で、引き続きメタノール含有の電解質中で測定し、この場合、メタノール含有の電解質はメタノール3mMを含有していた。
【0055】
比較例により製造された触媒について、MeOHなしでの酸素還元のための電流密度は34.7mA/mg Ptであり、メタノールの存在での酸素還元のための電流密度について、32.3mA/mg Ptであった。製造例1により製造された触媒について、MeOHなしでの酸素還元のための電流密度は39.7mA/mg Ptであり、メタノールの存在での酸素還元のための電流密度について、32.3mA/mg Ptであった。この場合、本発明により製造された触媒についての電流密度は、先行技術により製造された触媒についての電流密度よりも大きいことが明らかである。
【0056】
メタノール−活性試験
実施例2により製造された白金−ルテニウム触媒を、電気化学的メタノール酸化について試験するために、まず触媒80mgからインクを製造した。このために、前記触媒に水2g及びエタノール中の5パーセントナフィオン溶液2gを添加し、超音波浴中でいくつかの3mmガラス球を添加しながら1時間加工して均質な懸濁液に加工した。触媒を含有するこのインキは、その後で、回転するディスク電極の測定ヘッドに塗布し、加熱されていない空気中で乾燥した。前記ディスク電極の被覆の場合に、触媒100〜150μgを乾式塗布した。この正確な触媒量は、ディスク電極の再秤量によって得られた。
【0057】
この測定のために、作業電極、対電極及び基準電極を有する3−電極装置を使用した。この電位差測定は、Jaissle社の装置(PGU 10V-1A-E)を用いて実施した。電解質として、1M H2SO4を使用し、これを60℃に加熱し、窒素で不活性条件下に維持した。この作業電極を、1600rpmの一定の回転数で回転させた。この試料を本来の測定の前に定義された状態にするために、電位を基準水素電極に対して50mV〜500mVの間で5回、20mV/sの走査速度で走査した。本来の測定のために、電解質に1Mメタノールを添加し、電位を段階的に50mVから250mV、300mV、350mV、400mV、450mV、500mV及び550mVに高めた。それぞれの電位を180秒間保持した。この電流密度を、それぞれ次の電位変化の前に、つまり前の電位変化の後で180秒間測定した。次の表中に、電位に依存して測定された電流密度が示されている。
【0058】
表1:電位に依存する電流密度
【表1】

【0059】
前記表から明らかなように、基準水素電極に対して300mVの電位ですでに、メタノールの電気化学的酸化が観察できる。この挙動は、直接型メタノール燃料電池用の良好に合金されたPtRu含有アノード触媒を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の工程:
a. 白金族金属を有する触媒を、第2の金属を有する錯化合物と混合し、乾燥した粉末にする工程、
b. 前記白金族金属と前記第2の金属との間の化合物を得るために、前記粉末を熱処理する工程
を有する、白金族金属並びに白金族金属又は遷移金属から選択される第2の金属を含有する触媒の製造方法。
【請求項2】
前記熱処理を、少なくとも2つの段階で異なる温度で実施し、前記熱処理を段階的に高めることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記熱処理を3段階で実施し、その際、第1段階を90〜140℃の範囲内のほぼ一定の温度でかつ90〜180分の期間で実施し、第2の段階において、200〜350℃の範囲内のほぼ一定の温度でかつ3〜5時間の期間で実施し、第3の段階を500〜800℃の範囲内のほぼ一定の温度で20分〜4時間の期間で実施することを特徴とする、請求項2記載の方法。
【請求項4】
個々の段階の間の温度を線形に上昇させて高めることを特徴とする、請求項2又は3記載の方法。
【請求項5】
第1の段階から第2の段階への温度上昇を20〜60分の範囲内の時間で行い、第2の段階から第3の段階への温度上昇を2〜4時間の範囲内で行うことを特徴とする、請求項4記載の方法。
【請求項6】
第1の段階を不活性雰囲気下で実施し、少なくとも1つの後続する段階を還元雰囲気下で実施することを特徴とする、請求項2から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記不活性雰囲気は窒素雰囲気であり、前記還元雰囲気は水素を含有することを特徴とする、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記還元雰囲気は水素及び窒素からなる混合物を含有する、請求項6又は7記載の方法。
【請求項9】
工程(b)での熱処理の完了の後に、周囲温度への冷却を不活性雰囲気下で行うことを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
白金族金属が白金であることを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
第2の金属は、ルテニウム、コバルト、ニッケル及びパラジウムからなるグループから選択されることを特徴とする、請求項1から10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
第2の金属は、配位子としてオレフィン、有利にジメチルオクタジエン、芳香族、有利にピリジン、2,4−ペンタンジオンを有する金属錯体として、混合したシクロペンタジエニルカルボニル錯体として又は純粋な又は混合したカルボニル錯体、ホスファン錯体、シアノ錯体又はイソシアノ錯体として存在することを特徴とする、請求項1から11までのいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
第2の金属は、配位子としてアセチルアセトナート又は2,4−ペンタンジオンを有する金属錯体として存在することを特徴とする、請求項1から12までのいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
第2の金属を有する金属化合物又は金属錯体は、粉末として又は溶剤中に溶解して存在することを特徴とする、請求項1から13までのいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
前記溶剤は、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン及びエーテル化合物からなるグループから選択されることを特徴とする、請求項14記載の方法。
【請求項16】
白金族金属を有する触媒は、金属粉末として存在することを特徴とする、請求項1から15までのいずれか1項記載の方法。
【請求項17】
白金族金属を有する触媒は、更に担体を有することを特徴とする、請求項1から15までのいずれか1項記載の方法。
【請求項18】
前記担体は炭素担体であることを特徴とする、請求項17記載の方法。
【請求項19】
請求項1から18までのいずれか1項記載の方法により製造された触媒の、メタノールもしくは水素の電気酸化のための、酸素の電解還元のための、クロロアルカリ電気分解もしくは水電気分解のための電気触媒としての、自動車排気ガス触媒中の触媒としての、又は水素化もしくは脱水素のための触媒としての使用。
【請求項20】
前記自動車触媒中の触媒は、三元触媒又はディーゼル酸化触媒であることを特徴とする、請求項19記載の使用。
【請求項21】
前記触媒を、不飽和の脂肪族、芳香族又は複素環式化合物の、カルボニル基の、ニトリル基の、ニトロ基の、カルボン酸及びそのエステルの水素化のため、アミノ化する水素化のため、鉱油の水素化のため又は二酸化炭素の水素化のために使用することを特徴とする、請求項19記載の使用。
【請求項22】
前記触媒を、パラフィン、ナフテン、アルキル芳香族又はアルコールの脱水素のために使用することを特徴とする、請求項19記載の使用。

【公表番号】特表2011−502758(P2011−502758A)
【公表日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−532584(P2010−532584)
【出願日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際出願番号】PCT/EP2008/065039
【国際公開番号】WO2009/060019
【国際公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】