説明

触媒の製造方法及び触媒を有する燃料電池の製造方法

【課題】 触媒を構成する金属粒子の粒径が小さくなり過ぎることによって、反応系や反応物に対して粒径を最適化できないなどの不都合を回避する。
【解決手段】 導電性粉体2の表面に、触媒活性を有する金属粒子4と、この金属粒子の触媒活性を向上させる添加物粒子3とを物理蒸着例えばスパッタリングによって析出担持させ、更に析出担持と同時に或いは前後して加熱すなわちアニール処理を施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒活性を有する金属粒子とこの金属粒子の触媒活性を向上させる添加物粒子とを有する触媒の製造方法、及びこの触媒を有する燃料電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子固体電解質型燃料電池(PEFC;Polymer Electrolyte Fuel Cells)、例えばメタノールを直接酸化反応させることによってHもしくはHを生成させるダイレクトメタノール型燃料電池(DMFC;Direct Methanol Fuel Cells)は、電気化学反応に関わるイオン導電性が100℃前後の比較的低い温度領域で十分に得られることから、移動用動力源や小型動力源として注目されている。
【0003】
図3は、このDMFCの構成を示す概略図である。
この図に示されるように、DMFCは通常、例えばnafion膜(デュポン社製)による電解質膜22を挟んで、燃料極23と空気極24とが互いに対向配置された構成を有する。
【0004】
燃料極23は、電解質膜22側から順に、例えばカーボン担体にPt(白金)やPt−Ru(白金―ルテニウム)が担持されて成る触媒とnafion膜とによるアノード電極23d
及び触媒層23cと、例えばフッ素樹脂による拡散層23bと、例えばカーボンペーパーによるメタノール流路23aとを有する。一方、空気極24は、電解質膜23側から順に、例えばカーボン担体にPt(白金)やPt−Ru(白金―ルテニウム)が担持されて成る触媒とnafion膜とによるカソード電極24d及び触媒層24cと、例えばフッ素樹脂による拡散層24bと、例えばカーボンペーパーによる空気(酸素)流路24aとを有する。
【0005】
燃料極23では、流路23aに供給されるメタノール水溶液が、拡散層23bを経て触媒層23c及びアノード電極23dで酸化され、イオン(HもしくはH)と電子(e)及び二酸化炭素(CO)が生成される。ここで生じる電子が外部に取り出され、エネルギーとして利用される。一方、空気極24では、流路24dに供給される酸素が、拡散層24cを経て触媒層24b及びカソード電極24aに至り、アノード電極23aから電解質膜22を通過してきたイオンによる還元反応によって水(HO)が生成される。
【0006】
従来、DMFC等の燃料電池を構成する触媒層及び電極に用いられる触媒の製造には、分散用の溶媒すなわち分散媒に、例えばカーボン担体を分散させるとともに、例えば塩化白金酸などの金属粒子源を溶解させてイオン化させることにより、カーボン担体に金属粒子例えば白金を担持させる湿式法が用いられてきた(例えば特許文献1参照)。
しかし、湿式法は分散用の溶媒によって、金属粒子の溶解状態が例えば塩や錯体などに変化してしまう可能性を常に考慮する必要がある。そのため、この問題を容易に回避することのできる乾式法が、触媒の製造手法として重視される傾向にある。
【0007】
図4は、この乾式法による触媒の製造装置を示す概略図である。
乾式法は、真空中で物理蒸着法例えばスパッタによって、カーボン担体に直接Pt(白金)やPt−Ru(白金―ルテニウム)等の触媒活性を有する金属粒子を析出担持させる手法である。この乾式法について、本出願人は先に、図4Aに上面図を示すようなターゲットを用いて、図4Bに示すように物理蒸着を行うことによって、触媒活性を有する金属粒子と同時に、この金属粒子の触媒活性を向上させる、金属粒子に対して熱的に非固溶系の添加物粒子を析出担持させる触媒の製造方法を提案した(例えば特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平4−118860号公報
【特許文献2】特開2003−80085号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般に、触媒活性を有する金属粒子は、粒径が小さいほど比表面積を向上させることができることから、触媒活性が向上する。したがって、上述の特許文献2に記載の触媒の製造方法によれば、金属粒子の増大化が可能であり、触媒活性の向上を図ることができる。
しかし、触媒が対象とする反応系や反応物によって、触媒活性を有する金属粒子の最適粒子径も変化することから、これに応じて触媒の粒径を調整することが必要となる。上述の特許文献2に記載の触媒の製造方法によれば、粒径を小さくすることは可能とされるものの、粒径を一定以上に大として金属粒子を形成することに問題があった。
【0009】
例えば、上述のダイレクトメタノール型燃料電池(DMFC)を構成する燃料極のアノード電極に用いられる触媒は、粒子径が4nm程度の白金粒子によって形成することが好ましいとされているが、上述の特許文献2に記載の触媒の製造方法による場合、金属粒子とこの金属粒子の触媒活性を向上させる添加物粒子としてPtとSiOを用い、同時スパッタによって導電性粉体の表面に析出担持させると、金属粒子の粒径は約2nmとなり、粒径をこれより大として触媒を形成することは困難とされていた。
【0010】
本発明は、上述した触媒活性を有する金属粒子とこの金属粒子の触媒活性を向上させる添加物粒子とを有する触媒の製造と、この触媒を有する燃料電池の製造における上述の諸問題の解決を図るものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明による触媒の製造方法は、導電性粉体の表面に、触媒活性を有する金属粒子と、該金属粒子の触媒活性を向上させる添加物粒子とを、物理蒸着によって析出担持させる触媒の製造方法であって、少なくとも上記金属粒子の析出担持がなされた導電性粉体の加熱処理を行うことを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、上記触媒の製造方法において、上記金属粒子と、上記添加物粒子とを、上記導電性粉体上に同時に析出担持させることを特徴とする。
また、本発明は、上記触媒の製造方法において、上記物理蒸着が、スパッタリングであることを特徴とする。
また、本発明は、上記触媒の製造方法において、上記添加物粒子が、半導体もしくは絶縁体からなることを特徴とする。
また、本発明は、上記触媒の製造方法において、上記添加物粒子が、上記金属粒子に対して熱的に非固溶であることを特徴とする。
また、本発明は、上記触媒の製造方法において、上記金属粒子が、Pt(白金)もしくはPt合金による金属粒子であり、上記加熱温度が、400℃以上500℃以下であることを特徴とする。
【0013】
本発明による触媒を有する燃料電池の製造方法は、導電性粉体の表面に、触媒活性を有する金属粒子と、該金属粒子の触媒活性を向上させる添加物粒子とを、物理蒸着によって析出担持させて触媒を形成し、少なくとも上記金属粒子の析出担持がなされた導電性粉体の加熱処理を行うことを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、上記触媒を有する燃料電池の製造方法において、上記金属粒子と、上記添加物粒子とを、上記導電性粉体上に同時に析出担持させることを特徴とする。
また、本発明は、上記触媒を有する燃料電池の製造方法において、上記物理蒸着が、スパッタリングであることを特徴とする。
また、本発明は、上記触媒を有する燃料電池の製造方法において、上記添加物粒子が、半導体もしくは絶縁体からなることを特徴とする。
また、本発明は、上記触媒を有する燃料電池の製造方法において、上記添加物粒子が、上記金属粒子に対して熱的に非固溶であることを特徴とする。
また、本発明は、上記触媒を有する燃料電池の製造方法において、上記金属粒子が、Pt(白金)もしくはPt合金による金属粒子であり、上記加熱温度が、400℃以上500℃以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
上述したように、本発明による触媒の製造方法は、導電性粉体の表面に、触媒活性を有する金属粒子と、この金属粒子の触媒活性を向上させる添加物粒子とを、物理蒸着例えばスパッタリングによって析出担持させ、少なくとも上記金属粒子の析出担持がなされた導電性粉体の加熱処理を行うものである。
【0016】
そして、このような触媒の製造方法をとることにより、つまり金属粒子や添加物粒子の析出担持がなされた導電性粉体に対してアニール処理を施すことにより、金属粒子の粒径を大とすることができ、粒径が小さくなり過ぎることによって反応系や反応物に対して最適化できないなどの不都合を回避することができることを見出したものである。
【0017】
すなわち、例えばDMFCを構成する燃料極のアノード電極に用いられる触媒を、例えば金属粒子とこの金属粒子の触媒活性を向上させる添加物粒子としてPtとSiOを用いた場合にも、金属粒子の粒径を一定以上に大として、例えば粒子径3〜7nm程度の白金粒子によって形成することができる。
【0018】
また、添加物粒子を半導体もしくは絶縁体によって構成することにより、互いに接する導電性の金属粒子と添加物粒子との間に非オーミック性の接続が形成され、フェルミレベルの差によって局所的なチャージアップ現象に伴って電荷が発生することから、界面反応による、特に高い活性を有する触媒を形成することができる。
【0019】
更に、金属粒子の物理蒸着と同時に添加物粒子の物理蒸着を行って析出担持させることにより、最終的に金属粒子の径が増大化されるまでの過程で金属粒子と添加物粒子との間の非オーミック性接続をより多く形成することができることから、触媒活性の更なる向上を図ることが可能とされるものである。
【0020】
したがって、本発明による触媒を有する燃料電池の製造方法によれば、燃料電池、特にDMFCの燃料極を構成するアノード電極を、例えばメタノールを反応物とする反応系に対する最適な粒径及び触媒活性を有する金属粒子を有する触媒によって構成することができたものであり、より高出力な燃料電池を得ることができたものである。
【0021】
また、本発明による触媒の製造方法、及びこの触媒を有する燃料電池の製造方法によれば、金属粒子に対して熱的に非固溶である添加物粒子を、金属粒子の結晶格子内部に導入することができることから、添加物粒子が金属粒子の結晶格子内部に導入されない場合に比べて金属粒子の内部自己拡散に伴う金属粒子間のシンタリングすなわち凝集が抑制され、粒子径の変化による触媒活性の低下を回避することが可能とされる。
【0022】
更に、金属粒子をPt(白金)もしくはPt合金によって構成し、この金属粒子の担持析出と同時に或いは前後して導電性粉体になされる加熱の温度を400℃以上500℃以下の範囲で選定することにより、DMFCの燃料極の反応系に応じて金属粒子の粒径を最適な大きさとすることができるなど、本発明構成によれば、重要かつ多くの効果をもたらすことができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明による触媒の製造方法、及び触媒を有する燃料電池の製造方法の実施の形態例を説明するが、本発明は、この実施の形態例に限られるものではない。
【0024】
触媒の製造方法の第1の実施の形態例
図1A及び図1Bは、本発明による触媒の製造方法における金属粒子及び添加物粒子の物理蒸着を行う物理蒸着装置の第1の例の概略図と、物理蒸着による導電性粉体の表面の変化を示す模式図である。
【0025】
この実施の形態例では、物理蒸着装置11は、図1Aに示すように、少なくとも、添加物粒子ターゲット12と、金属粒子ターゲット13と、例えばヒーターによる加熱手段14とを有する。
添加物粒子ターゲット12は、金属粒子ターゲット13によって導電性粉体2の表面に金属粒子の触媒活性を向上させる例えばSi(シリコン)ターゲットによることができる。また、金属粒子ターゲット13は、触媒活性を有する金属ターゲット、例えばPt(白金)ターゲットやPt−Ru(白金―ルテニウム)ターゲットによることができる。
【0026】
この物理蒸着装置11内に、例えばカーボンによる導電性粉体2を載置し、この導電性粉体2に対して物理蒸着例えばスパッタリングを行うことによって、図1Bに示すように、添加物粒子3と金属粒子4とを析出担持させる。
このスパッタリングは、例えば、添加物粒子ターゲット12を有する直径100mmの金属粒子ターゲット13を用い、Ar(アルゴン)雰囲気中、投入電力150W〜400Wの条件で行うことができる。
【0027】
そして、導電性粉体2の表面における金属粒子及び添加物粒子の析出担持と同時に或いは前後して、導電性粉体2に対して加熱手段14によって加熱すなわちアニール処理を施すことにより、金属粒子の粒径を大とすることができる。また、例えば金属粒子をPtもしくはPt−Ru合金などによって構成する場合には、このアニール処理の温度を400℃以上500℃以下の範囲で選定することによって、後述するように、燃料電池を構成する触媒の金属粒子の粒子径を4nm以上にまで増大化することができる。
【0028】
触媒の製造方法の第2の実施の形態例
図2A及び図2Bは、本発明による触媒の製造方法における金属粒子及び添加物粒子の物理蒸着を行う物理蒸着装置の第2の例の概略図と、物理蒸着装置とは別に設けられた加熱器16の一例の構成を示す概略図である。
【0029】
この実施の形態例では、物理蒸着装置11は、図2Aに示すように、少なくとも、添加物粒子ターゲット12と、金属粒子ターゲット13とを有する。
添加物粒子ターゲット12は、金属粒子ターゲット13によって導電性粉体2の表面に金属粒子の触媒活性を向上させる例えばSi(シリコン)ターゲットによることができる。また、金属粒子ターゲット13は、触媒活性を有する金属ターゲット、例えばPt(白金)ターゲットやPt−Ru(白金―ルテニウム)ターゲットによることができる。
【0030】
この物理蒸着装置11内に、例えばカーボンによる導電性粉体2を載置し、この導電性粉体2に対して物理蒸着例えばスパッタリングを行うことによって、図1Bに示すように、添加物粒子3と金属粒子4とを析出担持させる。
このスパッタリングは、例えば、添加物粒子ターゲット12を有する直径100mmの金属粒子ターゲット13を用い、Ar(アルゴン)雰囲気中、投入電力150W〜400Wの条件で行うことができる。
【0031】
そして、導電性粉体2の表面における金属粒子及び添加物粒子の析出担持とは別に、図2Bに示すような加熱器によって、導電性粉体2に対して加熱手段14によって加熱すなわちアニール処理を施すことにより、金属粒子の粒径を大とすることができる。
この実施の形態例におけるアニール処理は、窒素雰囲気中で、加熱手段14によって、触媒1を構成する導電性粉体2を加熱することにより行うことができる。
【0032】
このアニール処理は、例えば金属粒子をPtもしくはPt−Ru合金などによって構成する場合、加熱温度を400℃以上500℃以下の範囲で選定することができる。これにより、後述するように金属粒子の粒子径を4nm以上にまで増大化することが可能とされる。
【0033】
なお、最終的に得るDMFCの特性に基づいて要求される金属粒子の粒径に応じて導電性粉体に対するアニール処理の加熱温度を選定することもでき、後述するように、燃料電池を構成する触媒の金属粒子の粒径を例えば4nm以上とすることが可能とされるものである。
【0034】
また、上述の第1及び第2の実施の形態例において、添加物粒子を半導体もしくは絶縁体によって構成することにより、互いに接する導電性の金属粒子と添加物粒子との間に非オーミック性の接続が形成され、フェルミレベルの差によって局所的なチャージアップ現象に伴って電荷が発生することから、特に高活性な触媒を形成することができる。
【0035】
更に、金属粒子の物理蒸着と同時に添加物粒子の物理蒸着を行って析出担持させることにより、最終的に金属粒子の径が増大化されるまでの過程で金属粒子と添加物粒子との間の非オーミック性接続をより多く形成することができることから、触媒活性の更なる向上を図ることが可能とされるものである。
【0036】
触媒を有する燃料電池の製造方法の実施の形態例
図3は、本発明製造方法によって得た触媒によって構成することのできるダイレクトメタノール型燃料電池(DMFC)の構造を示す概略構成図である。
上述の物理蒸着装置11によって製造した触媒1を用いて、このDMFCの例えば燃料極を構成する例えば触媒層23cやアノード電極23dを形成することにより、DMFCの高出力化を図ることができる。
【0037】
つまり、燃料電池例えばDMFCの燃料極を構成するアノード電極や触媒層を、例えばメタノールを反応物とする反応系に対する最適な粒径の金属粒子を有する、高い触媒活性を示す触媒によって構成することができることから、より高出力な燃料電池を得ることができるものである。
【0038】
この、本発明製造方法によって得た触媒を有する燃料電池例えばDMFCにおける、本発明製造方法による出力の変化について検討した結果について説明する。
この検討は、導電性粉体である担体カーボンに添加物粒子を析出担持させることなく、例えばPt−Ruによる金属粒子のみを析出担持させた触媒(金属粒子の粒子径7nm)をアニール処理せずに製造し、この触媒をDMFCの燃料極側のアノード電極及び触媒層に用いた場合のDMFCの出力を100として、これに対する出力の相対値を測定することにより行った。
【0039】
まず、従来の金属粒子と添加物粒子とを同時に物理蒸着する触媒の製造方法によって、導電性粉体である担体カーボンに金属粒子(Pt−Ru)と添加物粒子(SiO)を同時に析出担持させて触媒を製造し、この触媒をDMFCの燃料極側のアノード電極及び触媒層に用いてDMFCの出力を測定した。なお、添加物粒子(SiO)は金属粒子(Pt−Ru)に対して重量比で5%となるように調整した。このときの粒子径は2nmであった。
測定の結果、DMFCの出力の相対値は115であった。
【0040】
次に、本発明による触媒の製造方法によって、導電性粉体である担体カーボンに金属粒子(Pt−Ru)と添加物粒子(SiO)を同時に析出担持させた後、450℃で1時間アニール処理を施して触媒を製造し、この触媒をDMFCの燃料極側のアノード電極及び触媒層に用いてDMFCの出力を測定した。なお、添加物粒子(SiO)は金属粒子(Pt−Ru)に対して重量比で5%となるように調整した。このときの金属粒子の粒子径は6nmであった。
測定の結果、DMFCの出力の相対値は130であり、従来の製造方法によるDMFCに比べ、出力が10%以上向上していることが確認できた。
【0041】
以上の実施の形態例で説明したように、本発明による触媒の製造方法によれば、表面に触媒活性を有する金属粒子とこの金属粒子の触媒活性を向上させる添加物粒子とが析出担持された導電性粉体に対して加熱すなわちアニール処理を行うことにより、金属粒子の粒径を大とすることができ、粒径が小さくなり過ぎることによって反応系や反応物に対して最適化できないなどの不都合を回避することができる。
【0042】
すなわち、例えばDMFCを構成する燃料極のアノード電極に用いられる触媒を、例えば金属粒子とこの金属粒子の触媒活性を向上させる添加物粒子としてPtとSiOを用いた場合にも、金属粒子の粒径を一定以上に大として粒子径3〜7nm程度の白金粒子によって形成することができ、反応系や反応物に対して最適な粒子径とすることが可能とされる。
【0043】
更に、本発明による触媒の製造方法、及びこの触媒を有する燃料電池の製造方法によれば、金属粒子に対して熱的に非固溶である添加物粒子を、金属粒子の結晶格子内部に導入することができることから、添加物粒子が金属粒子の結晶格子内部に導入されない場合に比べて、金属粒子の内部自己拡散に伴う金属粒子間のシンタリングすなわち凝集が抑制され、粒子径の変化による触媒活性の低下を回避することが可能とされるものである。
【0044】
なお、本発明による触媒の製造方法及びこの触媒を有する燃料電池の製造方法は、上述の実施の形態例に限られるものではない。
【0045】
例えば、触媒の担体である導電性粉体と金属粒子との間のイオン伝導性を向上させるために、金属粒子及び添加物粒子の析出担持に先立って、導電性粉体の表面をイオン導電膜で被覆し、この外側面に添加物粒子や金属粒子を析出担持させる構成とすることも可能である。
また、上述の実施の形態例では、物理蒸着手法としてスパッタを用いる例を説明したが、他にも例えばPVD(Pulse Laser Deposition)を用いて本発明製造方法を実施することも可能である。
【0046】
また、上述の実施の形態例では、触媒粒子をPt−Ru、添加物粒子をSiもしくはSiOとする例を説明したが、本発明製造方法はこれに限られず、金属粒子は触媒活性を示す各種金属によって構成することができるし、添加物粒子はSiOなどの各種Si酸化物、BC、Ge、Ge酸化物、各種セラミックスなどによって構成することができる。
【0047】
また、上述の触媒の製造方法の第1の実施の形態例では、物理蒸着すなわちスパッタリングの雰囲気としてArを用い、Ar雰囲気中で加熱すなわちアニール処理を行い、上述の触媒の製造方法の第2の実施の形態例では、加熱器中の雰囲気としてN(窒素ガス)を用いてアニール処理を行う例を説明したが、アニール処理の雰囲気には、種々の不活性ガスや還元性ガスを用いることができ、真空中で加熱を行う構成とすることもできる。
【0048】
よって、これらアニール処理における雰囲気の選定や、アニール処理すなわち加熱の時間などの選定によっても、触媒を構成する金属粒子の粒径を調整することができ、所望の粒径を有する金属粒子によって触媒及び触媒を有する燃料電池を構成することも可能とされる。
【0049】
また、加熱すなわちアニール処理がなされる段階では、導電性粉体に少なくとも上記金属粒子の析出担持がなされていればよく、本発明製造方法においては、必ずしも同時に金属粒子と添加物粒子とを析出担持させずに別々に析出担持させ、少なくとも金属粒子が析出担持された段階でることも可能であるなど、本発明による触媒の製造方法とこの触媒を有する燃料電池の製造方法は、種々の変更及び変形をなされうる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】図1A及び図1Bは、それぞれ、本発明による触媒の製造方法を実施する物理蒸着装置の一例を示す概略図、及び物理蒸着による導電性粉体の表面の変化を示す模式図である。
【図2】図2A及び図2Bは、それぞれ、本発明による触媒の製造方法を実施する物理蒸着装置の他の例を示す概略図、及び物理蒸着とは別に触媒を構成する導電性粉体に対するアニール処理を行う加熱器の一例を示す概略図である。
【図3】本発明による燃料電池の製造方法によって得ることのできるダイレクトメタノール型燃料電池(DMFC)の構造を示す概略構成図である。
【図4】図4A及び図4Bは、それぞれ、従来の触媒の製造方法における蒸着源すなわちターゲットの構造を示す上面図と、このターゲットを用いた物理蒸着工程を示す概略図である。
【符号の説明】
【0051】
1・・・触媒、2・・・導電性粉体、3・・・添加物粒子、4・・・金属粒子、11・・・物理蒸着装置、12・・・添加物粒子ターゲット、13・・・金属粒子ターゲット、14・・・加熱手段、15・・・窒素ボンベ、16・・・加熱器、21・・・ダイレクトメタノール型燃料電池、22・・・電解質膜、23・・・燃料極、23a・・・メタノール流路、23b・・・拡散層、23c・・・触媒層、23d・・・アノード電極、24a・・・空気(酸素)流路、24b・・・拡散層、24c・・・触媒層、24d・・・カソード電極、12・・・導電性粉体、111・・・従来の物理蒸着装置、112・・・添加物粒子ターゲット、113・・・金属粒子ターゲット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性粉体の表面に、触媒活性を有する金属粒子と、該金属粒子の触媒活性を向上させる添加物粒子とを、物理蒸着によって析出担持させる触媒の製造方法であって、
少なくとも上記金属粒子の析出担持がなされた導電性粉体の加熱処理を行うことを特徴とする触媒の製造方法。
【請求項2】
上記金属粒子と、上記添加物粒子とを、上記導電性粉体上に同時に析出担持させることを特徴とする請求項1に記載の触媒の製造方法。
【請求項3】
上記物理蒸着が、スパッタリングであることを特徴とする請求項1または2に記載の触媒の製造方法。
【請求項4】
上記添加物粒子が、半導体もしくは絶縁体からなることを特徴とする請求項1または2に記載の触媒の製造方法。
【請求項5】
上記添加物粒子が、上記金属粒子に対して熱的に非固溶であることを特徴とする請求項1または2に記載の触媒の製造方法。
【請求項6】
上記金属粒子が、Pt(白金)もしくはPt合金による金属粒子であり、上記加熱温度が、400℃以上500℃以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の触媒の製造方法。
【請求項7】
導電性粉体の表面に、触媒活性を有する金属粒子と、該金属粒子の触媒活性を向上させる添加物粒子とを、物理蒸着によって析出担持させて触媒を形成し、
少なくとも上記金属粒子の析出担持がなされた導電性粉体の加熱処理を行うことを特徴とする触媒を有する燃料電池の製造方法。
【請求項8】
上記金属粒子と、上記添加物粒子とを、上記導電性粉体上に同時に析出担持させることを特徴とする請求項8に記載の触媒を有する燃料電池の製造方法。
【請求項9】
上記物理蒸着が、スパッタリングであることを特徴とする請求項7または8に記載の触媒を有する燃料電池の製造方法。
【請求項10】
上記添加物粒子が、半導体もしくは絶縁体からなることを特徴とする請求項7または8に記載の触媒を有する燃料電池の製造方法。
【請求項11】
上記添加物粒子が、上記金属粒子に対して熱的に非固溶であることを特徴とする請求項7または8に記載の触媒を有する燃料電池の製造方法。
【請求項12】
上記金属粒子が、Pt(白金)もしくはPt合金による金属粒子であり、上記加熱温度が、400℃以上500℃以下であることを特徴とする請求項7または8に記載の触媒を有する燃料電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−31978(P2006−31978A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−205202(P2004−205202)
【出願日】平成16年7月12日(2004.7.12)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】