説明

触媒の製造方法

【課題】製造する触媒の活性のバラツキを抑制し、特に少なくともモリブデンを含む固体触媒の多ロット製造において、目標とする活性を有する触媒を得るための触媒の製造方法を提供する。
【解決手段】固体触媒を多ロット製造する方法であって、バッチ式反応釜を用いて触媒製造原料から触媒または触媒前駆体を調製する工程と、前記触媒または触媒前駆体を成形する工程とを有し、製造される触媒の活性値が各ロットとも目標値の0.80〜1.20倍となり、製造される全触媒の活性値の平均値が目標値の0.85〜1.15倍となるように、(I)触媒組成、(II)触媒または触媒前駆体の調製条件および(III)触媒または触媒前駆体の成形条件のいずれかを調整する。なお、触媒の活性値は、固定床流通式反応器を用いた触媒性能テストにおける反応速度定数である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体触媒、特にモリブデンを含む固体触媒を多ロット製造する触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モリブデンを含む固体触媒は、例えば、メタクロレインを分子状酸素で気相接触酸化してメタクリル酸を製造するために用いられるモリブデン、リンを主成分とするヘテロポリ酸系触媒(特許文献1)、アクロレインを分子状酸素で気相接触酸化してアクリル酸を製造するために用いられるモリブデン、バナジウムを主成分とする複合酸化物系触媒(特許文献2)、イソブチレンおよびtert−ブチルアルコールより選ばれる少なくとも一種を分子状酸素で気相接触酸化して(メタ)アクロレインおよび(メタ)アクリル酸を製造するために用いられるモリブデン、ビスマス、鉄を主成分とする複合酸化物系触媒(特許文献3)などが知られている。
【0003】
これらの触媒は、例えば、固定床多管式反応器を用いてメタクリル酸等を製造する際の目標製造量に対して必要とする触媒を連続式あるいは回分式反応釜で多ロット製造する方法によって製造される。この際、目標とする活性および選択性を有する触媒を得るために、各種の検討によって決定された触媒の組成、調製条件、成形条件などの決められた条件に従って触媒を製造する。
【特許文献1】特開平11−228487号公報
【特許文献2】特開平3−218334号公報
【特許文献3】特開昭61−22040号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、触媒の多ロット製造では、例えば、触媒中に主成分として存在するモリブデンの添加に用いるモリブデン原料のロットの変更、触媒製造場所における季節変動、または製造の中で完全に制御することはできないもしくは完全には把握しきれていない要因などによって、製造された触媒の活性が目標とする活性から乖離し、均質な触媒が製造できないという問題等がある。
【0005】
従って、本発明は、製造する触媒の活性のバラツキを抑制し、特に少なくともモリブデンを含む固体触媒の多ロット製造において、目標とする活性を有する触媒を得るための触媒の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明は、固体触媒を多ロット製造する方法であって、
バッチ式反応釜を用いて触媒製造原料から触媒または触媒前駆体を調製する工程と、前記触媒または触媒前駆体を成形する工程とを有し、
製造される触媒の活性値が各ロットとも目標値の0.80〜1.20倍となり、製造される全触媒の活性値の平均値が目標値の0.85〜1.15倍となるように、(I)触媒組成、(II)触媒または触媒前駆体の調製条件および(III)触媒または触媒前駆体の成形条件のいずれかを調整することを特徴とする触媒の製造方法である。
【0008】
ここで、触媒の活性値は、固定床流通式反応器を用いた触媒性能テストにおける反応速度定数であり、下記のように定義される。
【0009】
k=1/t・Ln〔100/(100−X)〕
式中、Xは供給した反応原料の転化率(%)、kは反応速度定数(s-1)、tは接触時間(s)である。
【0010】
また、多ロット製造におけるロットは固体触媒の製造における製品の生産単位であり、1回あたりの仕込みで反応釜に投入する触媒製造原料より製造される触媒製品重量を1ロットとする。
【0011】
前記固体触媒は、例えば、下記式(1)で表される、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化するために用いられるメタクリル酸製造用触媒;下記式(2)で表される、アクロレインを分子状酸素により気相接触酸化するために用いられるアクリル酸製造用触媒;下記式(3)で表される、プロピレン、イソブチレンおよびtert−ブチルアルコールのいずれかを分子状酸素により気相接触酸化するために用いられる(メタ)アクロレインおよび(メタ)アクリル酸製造用触媒;などのモリブデンを含む固体触媒であることが好ましい。
【0012】
Moabcde (1)
式(1)中、Mo、PおよびOはそれぞれモリブデン、リンおよび酸素を表し、Xはカリウム、ルビジウム、セシウムおよびタリウムからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を表し、Yは鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタン、バナジウム、クロム、タングステン、マンガン、銀、ホウ素、ケイ素、アルミニウム、ガリウム、ゲルマニウム、スズ、鉛、ヒ素、アンチモン、ビスマス、ニオブ、タンタル、ジルコニウム、インジウム、イオウ、セレン、テルル、ランタンおよびセリウムからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を表す。a、b、c、dおよびeは各元素の原子比を表し、a=12のとき、b=0.1〜3、c=0.01〜3、d=0〜3であり、eは前記各成分の原子価を満足するのに必要な酸素の原子比である。
【0013】
Mofgh1i1jk (2)
式(2)中、Mo、VおよびOはそれぞれモリブデン、バナジウムおよび酸素を表し、Aは鉄、コバルト、クロム、アルミニウムおよびストロンチウムからなる群より選ばれた少なくとも一種の元素を表し、X1はゲルマニウム、ホウ素、ヒ素、セレン、銀、ケイ素、ナトリウム、テルル、リチウム、アンチモン、リン、カリウムおよびバリウムからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を表し、Y1はマグネシウム、チタン、マンガン、銅、亜鉛、ジルコニウム、ニオブ、タングステン、タンタル、カルシウム、スズおよびビスマスからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を表し。f、g、h、i、jおよびkは各元素の原子比を表し、f=12のとき、g=0.01〜6、h=0〜5、i=0〜10、j=0〜5であり、kは前記各成分の原子価を満足するのに必要な酸素の原子比である。
【0014】
MolBimFenp2q2rsSitu (3)
式(3)中、Mo、Bi、Fe、SiおよびOはそれぞれモリブデン、ビスマス、鉄、ケイ素および酸素を表し、Mはコバルトおよびニッケルからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を表し、X2はクロム、鉛、マンガン、カルシウム、マグネシウム、ニオブ、銀、バリウム、スズ、タンタルおよび亜鉛からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を表し、Y2はリン、ホウ素、硫黄、セレン、テルル、セリウム、タングステン、アンチモンおよびチタンからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を表し、Zはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムおよびタリウムなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を表し。l、m、n、p、q、r、s、tおよびuは各元素の原子比を表し、l=12のとき、m=0.01〜3、n=0.01〜5、p=1〜12、q=0〜8、r=0〜5、s=0.001〜2、t=0〜20であり、uは前記各成分の原子価を満足するのに必要な酸素の原子比である。
【0015】
また、本発明は、上記方法で得られた式(1)で表されるメタクリル酸製造用触媒の存在下で、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化するメタクリル酸の製造方法である。
【0016】
また、本発明は、上記方法で得られた式(2)で表されるアクリル酸製造用触媒の存在下で、アクロレインを分子状酸素により気相接触酸化するアクリル酸の製造方法である。
【0017】
また、本発明は、上記方法で得られた式(3)で表される(メタ)アクロレインおよび(メタ)アクリル酸製造用触媒の存在下で、プロピレン、イソブチレンおよびtert−ブチルアルコールのいずれかを分子状酸素により気相接触酸化する(メタ)アクロレインおよび(メタ)アクリル酸の製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、多ロット製造する固体触媒の製造において、製造する触媒の活性のバラツキを抑制し、製造目標とする活性に近い活性を有する触媒を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明において、多ロット製造におけるロットは固体触媒の製造における製品の生産単位であり、1回あたりの仕込みで反応釜に投入する各種触媒製造原料より製造される触媒製品重量を1ロットとする。また、触媒の製造における乾燥工程や焼成工程などでロータリーキルンなどの連続式製造装置を使用する場合も、反応釜1回あたりの仕込みから製造される乾燥品または焼成品の重量を1ロットとし、触媒の製造はバッチ製造とみなすこととする。
【0020】
1ロットの製品重量について、例えば、固定床多管式反応器を用いたメタクリル酸製造のように年間数万トンの規模でメタクロレインの気相接触酸化でメタクリル酸を製造する反応器を用いたプラントでは、1ロットの触媒製品重量を700〜1000kg程度とすることが好ましい。
【0021】
固体触媒は、モリブデンを含む固体触媒であることが好ましい。モリブデンを含む固体触媒としては、下記式(1)で表される、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化するために用いられるメタクリル酸製造用触媒;下記式(2)で表される、アクロレインを分子状酸素により気相接触酸化するために用いられるアクリル酸製造用触媒;または下記式(3)で表される、プロピレン、イソブチレンおよびtert−ブチルアルコールのいずれかを分子状酸素により気相接触酸化するために用いられる(メタ)アクロレインおよび(メタ)アクリル酸製造用触媒が好ましい。
【0022】
Moabcde (1)
式(1)中、Mo、PおよびOはそれぞれモリブデン、リンおよび酸素を表し、Xはカリウム、ルビジウム、セシウムおよびタリウムからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を表し、Yは鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタン、バナジウム、クロム、タングステン、マンガン、銀、ホウ素、ケイ素、アルミニウム、ガリウム、ゲルマニウム、スズ、鉛、ヒ素、アンチモン、ビスマス、ニオブ、タンタル、ジルコニウム、インジウム、イオウ、セレン、テルル、ランタンおよびセリウムからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を表す。a、b、c、dおよびeは各元素の原子比を表し、a=12のとき、b=0.1〜3、c=0.01〜3、d=0〜3であり、eは前記各成分の原子価を満足するのに必要な酸素の原子比である。
【0023】
Mofgh1i1jk (2)
式(2)中、Mo、VおよびOはそれぞれモリブデン、バナジウムおよび酸素を表し、Aは鉄、コバルト、クロム、アルミニウムおよびストロンチウムからなる群より選ばれた少なくとも一種の元素を表し、X1はゲルマニウム、ホウ素、ヒ素、セレン、銀、ケイ素、ナトリウム、テルル、リチウム、アンチモン、リン、カリウムおよびバリウムからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を表し、Y1はマグネシウム、チタン、マンガン、銅、亜鉛、ジルコニウム、ニオブ、タングステン、タンタル、カルシウム、スズおよびビスマスからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を表し。f、g、h、i、jおよびkは各元素の原子比を表し、f=12のとき、g=0.01〜6、h=0〜5、i=0〜10、j=0〜5であり、kは前記各成分の原子価を満足するのに必要な酸素の原子比である。
【0024】
MolBimFenp2q2rsSitu (3)
式(3)中、Mo、Bi、Fe、SiおよびOはそれぞれモリブデン、ビスマス、鉄、ケイ素および酸素を表し、Mはコバルトおよびニッケルからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を表し、X2はクロム、鉛、マンガン、カルシウム、マグネシウム、ニオブ、銀、バリウム、スズ、タンタルおよび亜鉛からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を表し、Y2はリン、ホウ素、硫黄、セレン、テルル、セリウム、タングステン、アンチモンおよびチタンからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を表し、Zはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムおよびタリウムなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を表し。l、m、n、p、q、r、s、tおよびuは各元素の原子比を表し、l=12のとき、m=0.01〜3、n=0.01〜5、p=1〜12、q=0〜8、r=0〜5、s=0.001〜2、t=0〜20であり、uは前記各成分の原子価を満足するのに必要な酸素の原子比である。
【0025】
本発明では、バッチ式反応釜を用いて触媒製造原料から触媒または触媒前駆体を調製する工程と、前記触媒または触媒前駆体を成形する工程とを有する方法により、触媒を製造する。
【0026】
触媒製造原料から触媒または触媒前駆体を調製する方法は特に限定されず、共沈法、蒸発乾固法、酸化物混合法等の種々の方法を用いることができる。また、触媒または触媒前駆体を調製に用いる原料は特に限定されず、触媒を構成する各元素(酸素を除く)の硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩、アンモニウム塩、酸化物、酸素酸、ハロゲン化物等を組み合わせて使用することができる。モリブデンの原料としては、パラモリブデン酸アンモニウム、三酸化モリブデン、モリブデン酸、塩化モリブデン等を使用することができる。リンの原料としては、リン酸、五酸化二リン、リン酸アンモニウム等を使用することができる。バナジウムの原料としては、メタバナジン酸アンモニウム、五酸化バナジウム、塩化バナジウム等を使用することができる。
【0027】
具体的な触媒の製造方法として、例えば、式(1)で表されるメタクリル酸製造用触媒では、少なくともモリブデン、リンおよびX元素を含むスラリーを乾燥したものを成形した後に焼成する方法;式(2)で表されるアクリル酸製造用触媒では、少なくともモリブデンおよびバナジウム元素を含むスラリーを乾燥したものを成形した後に焼成する方法;式(3)で表される(メタ)アクロレインおよび(メタ)アクリル酸製造用触媒では、少なくともモリブデン、ビスマス、鉄およびM元素を含むスラリーを乾燥したものを成形した後に焼成する方法;などが挙げられる。
【0028】
本発明において、スラリーの乾燥方法としては、箱型乾燥機、噴霧乾燥機、ドラムドライヤーおよびスラリードライヤー等を用いる乾燥方法が挙げられる。その際に得られた乾燥物(触媒前駆体)は粉体状である方が後に触媒を成形する上で好ましい。乾燥物はそのまま成形してもよいし、焼成した後に成形してもよい。
【0029】
成形方法としては、例えば、打錠成型、押出成形、造粒および担持等が挙げられる。担持触媒の担体としては、例えば、シリカ、アルミナ、シリカ・アルミナおよびシリコンカーバイド等の不活性担体が挙げられる。成形に際しては、成形物の比表面積、細孔容積および細孔分布を制御したり、機械的強度を高めたりする目的で、例えば、硫酸バリウムおよび硝酸アンモニウム等の無機塩類;グラファイト等の滑剤;セルロース類、でんぷん、ポリビニルアルコールおよびステアリン酸等の有機物;シリカゾルおよびアルミナゾル等の水酸化物ゾル;ウィスカー、ガラス繊維および炭素繊維等の無機質繊維;等の添加物を適宜添加してもよい。
【0030】
成形体を焼成する場合、焼成は反応器に充填する前に行っても、反応器の中で行ってもよい。焼成条件は、用いる触媒の原料、触媒組成および調製条件等によって異なるが、空気等の酸素含有ガスおよび/または不活性ガス流通下で好ましくは300〜500℃、より好ましくは300〜450℃で、好ましくは0.5時間以上、より好ましくは1〜40時間である。
【0031】
本発明において、製造する触媒の活性の調整は、下記(I)〜(III)の方法により行うことができる。活性の調整は、下記(I)〜(III)の1つの手法を採用することによって行ってもよいが、活性の調整を行う触媒の種類や活性の調整幅に応じて複数の手法を組み合わせて行ってもかまわない。
(I)触媒組成を調整する。
(II)触媒または触媒前駆体の調製条件を調整する。
(III)触媒または触媒前駆体の成形条件を調整する。
【0032】
この際、製造する触媒の各ロットの活性が目標値に対して0.80〜1.20になるように活性の調整を行うことが好ましく、0.85〜1.15になるように行うことがより好ましい。また、多ロット製造する触媒の活性の平均値は、目標活性に対して相対値で0.85〜1.15になるように活性の調整を行うことが好ましく、0.90〜1.10になるように活性の調整を行うことがより好ましい。
【0033】
ここで、触媒の活性とは固定床流通式反応器を用いた触媒性能テストにおける反応速度定数であり、下記のように定義される。
【0034】
k=1/t・Ln〔100/(100−X)〕
式中、Xは供給した反応原料の転化率(%)、kは反応速度定数(s-1)、tは接触時間(s)である。
【0035】
例えば、式(1)〜(3)で表される触媒を製造するにあたり、その活性の調整を上記(I)に記載する触媒組成の調整により行う場合は、式(1)〜(3)で表される触媒の、X群、Y群、A群、X1群、Y1群、M群、X2群、Y2群およびZ群の少なくとも1種の元素の種類および/または量を変更することによって調整することができる。この際、変更する元素の種類と量は、活性の調整を行う触媒の種類や活性の調整幅に応じて適宜選択することができるが、活性の調整の行いやすさと再現性の観点から式(1)で表される触媒においてはX群の元素、式(2)で表される触媒においてはX1群の元素、式(3)で表される触媒においてはZ群の元素、の種類または量の少なくとも1つの条件を変更することが好ましい。この際、触媒の活性は、添加する元素の量を多く(少なく)するほど低く(高く)なる。同一の添加量では、添加する元素の種類によって活性を調整することができ、例えば、式(1)で表されるメタクロレインを分子状酸素により気相酸化するために用いられるメタクリル酸製造用触媒では、カリウム<ルビジウム<セシウムの順で活性の低下が大きくなる。また、触媒の多ロット製造における活性の調整としては、例えば、上記元素の添加量によって調整する場合、添加量の変更による活性の変動をあらかじめ把握しておき、その結果にもとづき、製造における添加量の変更を実施し、目標とする活性を有する触媒を製造することが好ましい。この際、活性を調整するために所定の添加量から変更しすぎると、触媒寿命などに悪影響を及ぼす可能性も生じることがあることから、モリブデン12モルに対する所定の添加量(モル比)に対して0.2モルの範囲内で添加量を変更することが好ましく、この範囲内の変更で活性を目標値に調整できない場合は、他の活性調整方法を併用して活性の調整を実施することが好ましい。
【0036】
例えば、式(1)〜(3)で表される触媒を製造するにあたり、その活性の調整を上記(II)に記載する触媒または触媒前駆体の調製条件の調整により行う場合は、式(1)〜(3)で表される触媒を調製する際のスラリーの液温、添加する各種触媒原料含有水溶液の濃度、添加速度、添加順序、スラリー調製時などのアンモニア根や硝酸根の添加、乾燥条件および焼成条件のを変更することによって実施することができる。この際、調製条件の変更による活性の調整は、1つの手法を採用することによって行ってもよいが、活性の調整を行う触媒の種類や活性の調整幅に応じて複数の手法を組み合わせてもかまわない。また、活性の調整を実施するために変更する調製条件は、製造における条件変更の行いやすさの観点からスラリーの液温、乾燥条件または焼成条件の少なくとも1つを選ぶことが好ましい。
【0037】
触媒の活性の調整をスラリーの液温の調整によって行う場合は、活性の調整を行う触媒の種類や活性の調整幅に応じて触媒調製時の任意の箇所で行うことができるが、触媒原料含有水溶液の添加によって沈殿を生成する箇所で行うことが好ましい。又、一般に液温は低く(高く)、触媒原料含有水溶液の濃度が高く(低く)、添加速度が速く(遅く)なるほど形成される沈殿粒子が小さくなり、表面積が大きな触媒が製造できるため、活性を強める(弱める)ことができるが、製造する触媒の種類や製造方法によってはその傾向が異なることがあるため、液温の変更による活性の変動をあらかじめ把握しておき、その結果にもとづき、製造における液温の変更を実施し、目標とする活性を有する触媒を製造することが好ましい。また、液温の変更幅は、活性を調整するために所定の製造条件から変更しすぎると、製造時のスラリー粘度が変動するなど、製造に悪影響を及ぼす可能性も生じることがあることから、所定の温度に対して10℃以内の範囲で実施することが好ましく、この範囲内の変更で活性を目標値に調整できない場合は、他の活性調整方法を併用して活性の調整を実施することが好ましい。
【0038】
触媒の活性の調整を触媒製造時の乾燥条件で調整する場合は、乾燥温度や乾燥時間の調整によって活性の調整を行うことができる。乾燥温度や乾燥時間の調整幅は、活性の調整を行う触媒の種類や活性の調整幅に応じて適宜選択することができるが、活性を強めたい場合は乾燥温度を高くするまたは乾燥時間を長くする、活性を弱めたい場合は乾燥温度を低くするまたは乾燥時間を短くすることが好ましい。また、乾燥条件の変更による活性の変動をあらかじめ把握しておき、その結果にもとづき、製造における乾燥条件の変更を実施し、目標とする活性を有する触媒を製造することが好ましい。この際、乾燥条件を変えることによって触媒前駆体の構造変化が起きないように注意することが必要であり、例えば、静置乾燥によって乾燥温度を変更する場合は、所定の乾燥温度に対して20℃以内とすることが好ましく、この範囲内の変更で活性を目標値に調整できない場合は、他の活性調整方法を併用して活性の調整を実施することが好ましい。
【0039】
触媒の活性の調整を触媒製造時の焼成条件で調整する場合は、焼成温度、焼成時間、昇温速度や焼成雰囲気等の調整によって活性の調整を行うことができる。この際、条件の変更の行いやすさから焼成温度の変更により調整を行うことが好ましい。又、焼成条件の変更によって活性の調整を行う場合は、製造した触媒の性能テストを順次行い、その結果出てくる活性によって次のロットより順次焼成条件の変更を行って活性を調整したり、製造した焼成前の触媒の一部を一定の条件で焼成して性能テストを行い、その結果によって焼成条件を決定する方法によって調整してもよいが、製造した焼成前の触媒の一部を一定の条件で焼成して性能テストを行い、その結果によって各ロットの焼成条件を決定し、かつ、製造した触媒の性能テストを順次行い、その結果出てくる活性によって次のロットより順次焼成条件の変更を行って活性の調整を実施することが好ましい。
【0040】
触媒の活性の調整を上記(III)に記載する触媒または触媒前駆体の成形条件の調整によって行う場合は、成形する前の各ロットの粉体の一部を用いて成形し、メタクロレイン製造テストなどの活性試験で反応速度定数を確認した後に、残りの粉体を目標とする反応速度定数になるようにロット間で粉体を混合し、その後成形を実施して目標とする活性を有する触媒を製造する方法が好ましい。
【0041】
次いで、本発明におけるメタクリル酸等の製造方法について説明する。本発明の方法で製造された触媒を用いる反応は公知の反応条件が採用される。
【0042】
以下、メタクロレインの気相接触酸化によりメタクリル酸を製造する方法;アクロレインの気相接触酸化によりアクリル酸を製造する方法;ならびにプロピレン、イソブチレンまたはtert−ブチルアルコールの気相接触酸化により(メタ)アクロレインおよび(メタ)アクリル酸を製造する方法について説明する。
【0043】
反応器の形式は特に限定されないが、例えば、固定床反応器および流動床反応器などが利用でき、固定床反応器が好ましく、固定床多管式反応器が特に好ましい。反応は原料と分子状酸素とを含む混合ガス(以下、原料ガスという。)を反応器中の触媒に接触させることにより行う。
【0044】
式(1)または式(2)で表される固体触媒を用いて(メタ)アクロレインの気相接触酸化により(メタ)アクリル酸を製造する場合、原料ガス中の(メタ)アクロレインの濃度は広い範囲で変えることができるが、1〜20容量%が好ましく、特に3〜10容量%が好ましい。原料の(メタ)アクロレイン中には、水および低級飽和アルデヒド等の実質的に反応に影響を与えない不純物が少量含まれていてもよい。
【0045】
原料ガス中の分子状酸素の量は、(メタ)アクロレインの0.4〜4モル倍が好ましく、特に0.5〜3モル倍が好ましい。原料ガスの分子状酸素源には空気を用いるのが工業的に有利であるが、必要に応じて純酸素で酸素を富化した空気も使用できる。また原料ガスは、窒素および炭酸ガス等の不活性ガス、ならびに水蒸気等で希釈されていることが好ましい。
【0046】
気相接触酸化の反応圧力は大気圧〜数気圧程度である。反応は固定床で行うことが好ましい。固体触媒は担体に担持させたものであっても、その他の添加成分を混合したものであってもよい。固体触媒を反応管に充填し、反応温度は、200〜450℃が好ましく、より好ましくは250〜400℃である。原料ガスと触媒の接触時間は1.5〜15秒が好ましく、より好ましくは2〜7秒である。
【0047】
式(3)で表される固体触媒を用いてプロピレン、イソブチレンまたはtert−ブチルアルコールの気相接触酸化により(メタ)アクロレインおよび(メタ)アクリル酸を製造する場合、原料ガス中のプロピレン、イソブチレンまたはtert−ブチルアルコールの濃度は広い範囲で変えることができるが、1〜20容量%が好ましく、特に3〜10容量%が好ましい。また、原料のプロピレン、イソブチレンまたはtert−ブチルアルコールには実質的に反応に影響を与えない不純物が少量含まれていてもよい。また、原料ガスには、原料のプロピレン、イソブチレンおよびtert−ブチルアルコールが2種以上含まれていてもよい。
【0048】
原料ガス中の分子状酸素の量は、プロピレン、イソブチレンまたはtert−ブチルアルコールの0.4〜4倍モルが好ましく、特に0.5〜3倍モルが好ましい。原料ガスの分子状酸素源には空気を用いるのが工業的に有利であるが、必要に応じて純酸素で酸素を富化した空気も使用できる。また原料ガスは、窒素および炭酸ガス等の不活性ガス、ならびに水蒸気等で希釈されていることが好ましい。
【0049】
気相接触酸化の反応条件等は(メタ)アクロレインの気相接触酸化により(メタ)アクリル酸を製造する場合と同様である。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例により説明する。反応原料ガスと反応生成物の分析はガスクロマトグラフィーにより行った。また、反応原料の転化率、反応生成物の選択率および反応生成物の単流収率は、以下のように定義される。
転化率(モル%) =(B/A)×100
選択率(モル%) =(C/B)×100
単流収率(モル%)=(C/A)×100
ここで、Aは供給した反応原料のモル数、Bは反応した反応原料のモル数、Cは反応で生成した反応生成物のモル数である。
【0051】
〔実施例1〕
(メタクリル酸製造用触媒1の製造(1ロット目))
以下の手順で、下記に示すメタクリル酸製造テストにおけるメタクロレインの目標転化率を85モル%(目標反応速度定数0.527s-1)として、1ロット目のメタクリル酸製造用触媒1を製造した。
【0052】
パラモリブデン酸アンモニウム750kg、メタバナジン酸アンモニウム33kgおよび硝酸セシウム69kgを純水2250Lに70℃で溶解させた。これに85質量%リン酸水溶液65.3kgを純水75Lに溶解した溶液を加え、次いで三酸化アンチモン41.3kgを加え、攪拌しながら95℃に昇温した後、硝酸銅8.3kgを純水75Lに溶解した溶液を加えた。更にこの混合液を95℃で15分間攪拌した後に、ドラムドライヤーを用いて乾燥した。得られた乾燥触媒前駆体を直径および高さが共に3mmの円柱状に成型し、空気流通下380℃で5時間熱処理して、1ロット目のメタクリル酸製造用触媒1(酸素原子を除く組成:Mo121.60.8Cu0.1Sb0.8Cs1)を得た。
【0053】
(メタクリル酸製造テスト)
メタクリル酸製造用触媒1を固定床流通式反応器に充填し、メタクロレイン5容量%、酸素10容量%、水蒸気30容量%および窒素55容量%の混合ガスを反応温度290℃、接触時間3.6秒で通じたところ、メタクロレイン転化率は82.9モル%(反応速度定数0.491s-1、目標反応速度に対する相対値:0.93)、メタクリル酸選択率は83.7モル%、メタクリル酸単流収率は69.3モル%であった。
【0054】
(メタクリル酸製造用触媒1の活性調整および製造(2ロット目))
1ロット目のメタクリル酸製造用触媒1の製造において、触媒の活性が目標値より低かったため、活性を上げるために硝酸セシウムの添加量を69kgから65.6kgに変更(触媒の組成を変更)し、それ以外は同様の手順で2ロット目のメタクリル酸製造用触媒1(酸素原子を除く組成:Mo121.60.8Cu0.1Sb0.8Cs0.95)を製造した。そして、メタクリル酸製造テストを行ったところ、メタクロレイン転化率は84.8モル%(反応速度定数0.523s-1、目標反応速度に対する相対値:0.99)、メタクリル酸選択率は83.4モル%、メタクリル酸単流収率は70.7モル%であった。
【0055】
(メタクリル酸製造用触媒1の多ロット製造)
1ロット目および2ロット目のメタクリル酸製造用触媒1の製造終了後も、メタクリル酸製造テストにおける反応速度定数を触媒1ロット毎に確認しながら、目標反応速度からのずれに応じて硝酸セシウムの添加量を調整し、計30ロットのメタクリル酸製造用触媒1を製造した。なお、各ロットにおける硝酸セシウムの添加量は、あらかじめ把握しておいた硝酸セシウムの添加量の変更による活性の変動幅にもとづいて決定した。得られた触媒のメタクリル酸製造テストにおける反応速度定数の平均は0.514s-1であり、目標反応速度に対する相対値は0.98であった。また、得られた触媒30ロットの反応速度定数の最大値と最小値は、それぞれ0.564s-1と0.489s-1であり、反応速度に対する相対値はそれぞれ1.07と0.93であった。結果を表1に示した。
【0056】
〔比較例1〕
(メタクリル酸製造用触媒2の多ロット製造)
実施例1におけるメタクリル酸製造用触媒1の製造において、硝酸セシウムの添加量の調整を行わなかった以外は、実施例1と同様の手順で、30ロットのメタクリル酸製造用触媒2(酸素原子を除く組成:Mo121.60.8Cu0.1Sb0.8Cs1)を製造した。得られた触媒のメタクリル酸製造テストにおける平均反応速度定数、反応速度定数の最大値と最小値、そのそれぞれの目標反応速度に対する相対値を表1に示した。
【0057】
〔実施例2〕
(メタクリル酸製造用触媒3の多ロット製造)
実施例1におけるメタクリル酸製造用触媒1の製造において、硝酸セシウムの添加量の調整の代わりに、触媒製造時の乾燥温度の調整(調製条件の変更)により触媒の活性調整を行った以外は、実施例1と同様の手順で、30ロットのメタクリル酸製造用触媒3(酸素原子を除く組成:Mo121.60.8Cu0.1Sb0.8Cs1)を製造した。なお、各ロットにおける乾燥温度は、あらかじめ把握しておいた乾燥温度の変更による活性の変動幅にもとづいて決定した。得られた触媒のメタクリル酸製造テストにおける平均反応速度定数、反応速度定数の最大値と最小値、そのそれぞれの目標反応速度に対する相対値を表1に示した。
【0058】
〔実施例3〕
(メタクリル酸製造用触媒4の多ロット製造)
実施例1におけるメタクリル酸製造用触媒1の製造において、硝酸セシウムの添加量の調整の代わりに、触媒製造時のスラリー液温の調整(調製条件の変更)により触媒の活性調整を行った以外は、実施例1と同様の手順で、30ロットのメタクリル酸製造用触媒4(酸素原子を除く組成:Mo121.60.8Cu0.1Sb0.8Cs1)を製造した。なお、各ロットにおけるスラリー液温は、あらかじめ把握しておいた液温の変更による活性の変動幅にもとづいて決定した。得られた触媒のメタクリル酸製造テストにおける平均反応速度定数、反応速度定数の最大値と最小値、そのそれぞれの目標反応速度に対する相対値を表1に示した。
【0059】
〔実施例4〕
(メタクリル酸製造用触媒5の多ロット製造)
実施例1におけるメタクリル酸製造用触媒1の製造において、硝酸セシウムの添加量の調整の代わりに、触媒製造時の焼成温度の調整(調製条件の変更)により触媒の活性調整を行った以外は、実施例1と同様の手順で、30ロットのメタクリル酸製造用触媒5(酸素原子を除く組成:Mo121.60.8Cu0.1Sb0.8Cs1)を製造した。なお、各ロットにおける焼成温度は、各ロットの成型品の一部を実施例1と同様の条件で焼成したものに実施例1と同様の条件で活性試験を実施した結果にもとづいて決定した。得られた触媒のメタクリル酸製造テストにおける平均反応速度定数、反応速度定数の最大値と最小値、そのそれぞれの目標反応速度に対する相対値を表1に示した。
【0060】
〔実施例5〕
(メタクリル酸製造用触媒6の製造(1ロット目)およびメタクリル酸製造テスト)
以下の手順で、メタクリル酸製造テストにおけるメタクロレインの目標転化率を85モル%(目標反応速度定数0.527s-1)として、1ロット目のメタクリル酸製造用触媒6を製造した。
【0061】
純水2000Lに、三酸化モリブデン500kg、85質量%リン酸水溶液36.5kg、五酸化バナジウム23.5kg、酸化銅4.5kgおよび酸化鉄1.0kgを加え、還流下で5時間攪拌した。得られた混合液を50℃まで冷却した後、29質量%アンモニア水187kgを滴下し、15分間攪拌した。次いで、硝酸セシウム45.0kgを純水150Lに溶解した溶液を滴下し、15分間攪拌した後にドラムドライヤーで乾燥した。このようにして得られた乾燥粉を実施例1のメタクリル酸製造用触媒1の製造と同様に成形および焼成を実施して、1ロット目のメタクリル酸製造用触媒6(酸素原子を除く組成:Mo121.10.9Cu0.2Fe0.05Cs0.8)を得た。
【0062】
このメタクリル酸製造用触媒6を固定床流通式反応器に充填し、メタクリル酸製造テストを行ったところ、メタクロレイン転化率87.4モル%(反応速度定数0.575s-1、目標反応速度に対する相対値:1.09)、メタクリル酸選択率85.8モル%、メタクリル酸単流収率75.0モル%であった。
【0063】
(メタクリル酸製造用触媒6の活性調整および製造(2ロット目))
1ロット目のメタクリル酸製造用触媒6の製造において、触媒の活性が目標値より高かったため、活性を下げるために還流後の冷却温度を55℃に変更(調製条件の変更)し、それ以外は同様の手順で2ロット目のメタクリル酸製造用触媒6(酸素原子を除く組成:Mo121.10.9Cu0.2Fe0.05Cs0.8)を製造した。そして、メタクリル酸製造テストを行ったところ、メタクロレイン転化率85.3モル%(反応速度定数0.533s-1、目標反応速度に対する相対値:1.01)、メタクリル酸選択率86.0モル%、メタクリル酸単流収率73.4モル%であった。
【0064】
(メタクリル酸製造用触媒6の多ロット製造)
1ロット目および2ロット目のメタクリル酸製造用触媒6の製造終了後も、メタクリル酸製造テストにおける反応速度定数を触媒1ロット毎に確認しながら、目標反応速度からのずれに応じて還流後の冷却温度を調整し、計30ロットのメタクリル酸製造用触媒6を製造した。なお、各ロットにおける還流後の冷却温度は、あらかじめ把握しておいた冷却後の液温の変更による活性の変動幅にもとづいて決定した。得られた触媒のメタクリル酸製造テストにおける平均反応速度定数、反応速度定数の最大値と最小値、そのそれぞれの目標反応速度に対する相対値を表1に示した。
【0065】
〔比較例2〕
(メタクリル酸製造用触媒7の多ロット製造)
実施例5におけるメタクリル酸製造用触媒6の製造において、還流後の冷却温度の調整を行わなかった以外は、実施例5と同様の手順で、30ロットのメタクリル酸製造用触媒7(酸素原子を除く組成:Mo121.10.9Cu0.2Fe0.05Cs0.8)を製造した。得られた触媒のメタクリル酸製造テストにおける平均反応速度定数、反応速度定数の最大値と最小値、そのそれぞれの目標反応速度に対する相対値を表1に示した。
【0066】
〔実施例6〕
(メタクロレイン製造用触媒1の製造(1ロット目の一部))
以下の手順で、下記に示すメタクロレイン製造テストにおけるイソブチレンの目標転化率を95モル%(目標反応速度定数0.832s-1)として、1ロット目のメタクロレイン製造用触媒1を製造した。
【0067】
純水1000Lに、パラモリブデン酸アンモニウム500kg、パラタングステン酸アンモニウム6.2kgおよび硝酸セシウム27.6kgを加え、60℃で溶解した(A液)。これとは別に、純水1000Lに、60質量%硝酸水溶液41.9kgを加え、均一にした後、硝酸ビスマス80.1kgを加え溶解した。これに、硝酸鉄200.2kg、硝酸コバルト295.3kg、硝酸ニッケル85.8kgおよび硝酸亜鉛14.0kgを順次加えて溶解した(B液)。前記A液にB液を加えて水性スラリーとした後、三酸化アンチモン38.5kgを加え、80℃で1時間熟成した後に、スプレードライヤーで乾燥機入口温度300℃、スラリー噴霧用回転盤20000回転/分の条件で乾燥した。このようにして得られた乾燥粉を300℃で1時間仮焼し、1次焼成粉を得た。その後、1次焼成粉を直径および高さが共に3mmの円柱状に打錠成形した。得られた成形品の一部を500℃で6時間焼成して、1ロット目の触媒の一部であるメタクロレイン製造用触媒1a(酸素原子を除く組成:Mo12Bi0.7Fe2.1Ni2.5Co4.9Zn0.20.1Sb0.7Cs0.6)を得た。
【0068】
(メタクロレインの製造テスト)
メタクロレイン製造用触媒1aを固定床流通式反応器に充填し、イソブチレン5容量%、酸素12容量%、水蒸気10容量%および窒素73容量%の混合ガスを反応温度340℃、接触時間3.6秒で通じたところ、イソブチレンの転化率97.7モル%(反応速度定数1.048s-1)、メタクロレインの選択率89.1モル%、メタクリル酸の選択率3.0モル%、メタクロレインの単流収率87.1モル%、メタクリル酸の単流収率2.9モル%であった。メタクロレイン製造用触媒1aの反応速度定数は、目標反応速度定数に対して相対値で1.26であり、目標値からのずれの範囲外であった。
【0069】
(メタクロレイン製造用触媒1の活性調整および製造(1ロット目の残部))
メタクロレイン酸製造用触媒1aの製造において、触媒の活性が目標値より高かったため、活性を下げるために残りの触媒粉の焼成温度を505℃に変更(調製条件の変更)し、それ以外は同様の手順で、1ロット目の触媒の残部であるメタクロレイン製造用触媒1bを製造した。得られたメタクロレイン製造用触媒1aとメタクロレイン製造用触媒1bとを混合して、1ロット目のメタクロレイン製造用触媒1とした。そして、メタクロレイン製造テストを行ったところ、イソブチレン転化率94.8モル%(反応速度定数0.821s-1、目標反応速度に対する相対値:0.99)、メタクロレイン選択率89.4モル%、メタクリル酸の選択率2.9モル%、メタクロレインの単流収率84.8モル%、メタクリル酸の単流収率2.7%モルであり、目標値からのずれの範囲内となった。
【0070】
(メタクロレイン製造用触媒1の多ロット製造)
1ロット目のメタクロレイン製造用触媒1の製造終了後も、触媒1ロット毎に少量を500℃で焼成して反応速度定数を確認しながら焼成温度を調整し、計30ロットのメタクロレイン製造用触媒1を製造した。得られた触媒のメタクロレイン製造テストにおける平均反応速度定数、反応速度定数の最大値と最小値、そのそれぞれの目標反応速度に対する相対値を表2に示した。
【0071】
〔比較例3〕
(メタクロレイン製造用触媒2の多ロット製造)
実施例6におけるメタクロレイン製造用触媒1の製造において、焼成温度の調整を行わなかった以外は、実施例6と同様の手順で、30ロットのメタクロレイン製造用触媒2(酸素原子を除く組成:Mo12Bi0.7Fe2.1Ni2.5Co4.9Zn0.20.1Sb0.7Cs0.6)を製造した。得られた触媒のメタクロレイン製造テストにおける平均反応速度定数、反応速度定数の最大値と最小値、そのそれぞれの目標反応速度に対する相対値を表2に示した。
【0072】
〔実施例7〕
(メタクロレイン製造用触媒3の多ロット製造)
実施例6におけるメタクロレイン製造用触媒1の製造において、1次焼成粉を30ロット分製造した。次いで各製造ロットから少量の1次焼成粉をサンプリングし、実施例6のメタクロレイン製造用触媒1の製造と同様の手順で成形した後に500℃で6時間焼成し、メタクロレイン製造テストと同様の手順で反応速度定数を確認した。確認した各ロットの反応速度定数にもとづいて残りの1次焼成粉を目標とする反応速度定数となるように混合(成形条件の変更)し、実施例6と同様の手順で成形、焼成を実施して、30ロットのメタクロレイン製造用触媒3(酸素原子を除く組成:Mo12Bi0.7Fe2.1Ni2.5Co4.9Zn0.20.1Sb0.7Cs0.6)を製造した。得られた触媒のメタクロレイン製造テストにおける平均反応速度定数、反応速度定数の最大値と最小値、そのそれぞれの目標反応速度に対する相対値を表2に示した。
【0073】
【表1】

【0074】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体触媒を多ロット製造する方法であって、
バッチ式反応釜を用いて触媒製造原料から触媒または触媒前駆体を調製する工程と、前記触媒または触媒前駆体を成形する工程とを有し、
製造される触媒の活性値が各ロットとも目標値の0.80〜1.20倍となり、製造される全触媒の活性値の平均値が目標値の0.85〜1.15倍となるように、(I)触媒組成、(II)触媒または触媒前駆体の調製条件および(III)触媒または触媒前駆体の成形条件のいずれかを調整することを特徴とする触媒の製造方法。
ここで、触媒の活性値は、固定床流通式反応器を用いた触媒性能テストにおける反応速度定数であり、下記のように定義される。
k=1/t・Ln〔100/(100−X)〕
式中、Xは供給した反応原料の転化率(%)、kは反応速度定数(s-1)、tは接触時間(s)である。
また、多ロット製造におけるロットは固体触媒の製造における製品の生産単位であり、1回あたりの仕込みで反応釜に投入する触媒製造原料より製造される触媒製品重量を1ロットとする。
【請求項2】
前記固体触媒が、モリブデンを含む固体触媒であることを特徴とする請求項1に記載の触媒の製造方法。
【請求項3】
前記モリブデンを含む固体触媒が、下記式(1)で表される、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化するために用いられるメタクリル酸製造用触媒であることを特徴とする請求項2に記載の触媒の製造方法。
Moabcde (1)
式(1)中、Mo、PおよびOはそれぞれモリブデン、リンおよび酸素を表し、Xはカリウム、ルビジウム、セシウムおよびタリウムからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を表し、Yは鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタン、バナジウム、クロム、タングステン、マンガン、銀、ホウ素、ケイ素、アルミニウム、ガリウム、ゲルマニウム、スズ、鉛、ヒ素、アンチモン、ビスマス、ニオブ、タンタル、ジルコニウム、インジウム、イオウ、セレン、テルル、ランタンおよびセリウムからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を表す。a、b、c、dおよびeは各元素の原子比を表し、a=12のとき、b=0.1〜3、c=0.01〜3、d=0〜3であり、eは前記各成分の原子価を満足するのに必要な酸素の原子比である。
【請求項4】
前記モリブデンを含む固体触媒が、下記式(2)で表される、アクロレインを分子状酸素により気相接触酸化するために用いられるアクリル酸製造用触媒であることを特徴とする請求項2に記載の触媒の製造方法。
Mofgh1i1jk (2)
式(2)中、Mo、VおよびOはそれぞれモリブデン、バナジウムおよび酸素を表し、Aは鉄、コバルト、クロム、アルミニウムおよびストロンチウムからなる群より選ばれた少なくとも一種の元素を表し、X1はゲルマニウム、ホウ素、ヒ素、セレン、銀、ケイ素、ナトリウム、テルル、リチウム、アンチモン、リン、カリウムおよびバリウムからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を表し、Y1はマグネシウム、チタン、マンガン、銅、亜鉛、ジルコニウム、ニオブ、タングステン、タンタル、カルシウム、スズおよびビスマスからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を表し。f、g、h、i、jおよびkは各元素の原子比を表し、f=12のとき、g=0.01〜6、h=0〜5、i=0〜10、j=0〜5であり、kは前記各成分の原子価を満足するのに必要な酸素の原子比である。
【請求項5】
前記モリブデンを含む固体触媒が、下記式(3)で表される、プロピレン、イソブチレンおよびtert−ブチルアルコールのいずれかを分子状酸素により気相接触酸化するために用いられる(メタ)アクロレインおよび(メタ)アクリル酸製造用触媒であることを特徴とする請求項2に記載の触媒の製造方法。
MolBimFenp2q2rsSitu (3)
式(3)中、Mo、Bi、Fe、SiおよびOはそれぞれモリブデン、ビスマス、鉄、ケイ素および酸素を表し、Mはコバルトおよびニッケルからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を表し、X2はクロム、鉛、マンガン、カルシウム、マグネシウム、ニオブ、銀、バリウム、スズ、タンタルおよび亜鉛からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を表し、Y2はリン、ホウ素、硫黄、セレン、テルル、セリウム、タングステン、アンチモンおよびチタンからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を表し、Zはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムおよびタリウムなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を表し。l、m、n、p、q、r、s、tおよびuは各元素の原子比を表し、l=12のとき、m=0.01〜3、n=0.01〜5、p=1〜12、q=0〜8、r=0〜5、s=0.001〜2、t=0〜20であり、uは前記各成分の原子価を満足するのに必要な酸素の原子比である。
【請求項6】
請求項3に記載の方法で得られた式(1)で表されるメタクリル酸製造用触媒の存在下で、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化するメタクリル酸の製造方法。
【請求項7】
請求項4に記載の方法で得られた式(2)で表されるアクリル酸製造用触媒の存在下で、アクロレインを分子状酸素により気相接触酸化するアクリル酸の製造方法。
【請求項8】
請求項5に記載の方法で得られた式(3)で表される(メタ)アクロレインおよび(メタ)アクリル酸製造用触媒の存在下で、プロピレン、イソブチレンおよびtert−ブチルアルコールのいずれかを分子状酸素により気相接触酸化する(メタ)アクロレインおよび(メタ)アクリル酸の製造方法。

【公開番号】特開2010−89012(P2010−89012A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−261598(P2008−261598)
【出願日】平成20年10月8日(2008.10.8)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】