説明

触媒付きパティキュレートフィルタ

【課題】触媒付きパティキュレートフィルタのパティキュレート燃焼性及び排気ガス浄化性を高める。
【解決手段】フィルタ本体5の排気ガス通路壁部に、酸素吸蔵放出能をもつCe含有酸化物粒子23と、アルミナ粒子26と、触媒金属25とを有する触媒層7が形成されている触媒付きパティキュレートフィルタにおいて、触媒層25には、Ce含有酸化物粒子23及びアルミナ粒子26各々に接触する粒径300nm以下の酸化鉄粒子24が多数分散して含まれ、電子顕微鏡観察において、粒径300nm以下の酸化鉄粒子24が酸化鉄粒子総面積に占める面積比率が30%以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒付きパティキュレートフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
軽油を主成分とする燃料を用いるディーゼルエンジンや、ガソリンを主成分とする燃料を用いて希薄燃焼させるリーンバーンガソリンエンジンでは、その排気ガス中にパティキュレート(パティキュレートマター;炭素粒子を含む浮遊粒子状物質)が含まれていることが知られている。このパティキュレートの大気中への排出は、環境負荷の増大に繋がるため、ディーゼルエンジンでは、このパティキュレートを捕集するフィルタをエンジンの排気通路に配置し、捕集したパティキュレートの燃焼を促進する触媒層を当該フィルタに設けることがなされている。
【0003】
上記触媒層には、捕集したパティキュレートの着火燃焼開始温度を下げる効果があるPtと、該Ptを担持する高比表面積アルミナやCe含有酸化物(例えば、CeZr複合酸化物)を設けることが多い。上記Ce含有酸化物は、排気ガス中の酸素を取り込んで当該酸化物内の酸素と交換する酸素交換反応により活性酸素を放出する機能を有すると考えられ、この活性酸素はパティキュレートの燃焼速度を高める働きをする。このCe含有酸化物の活性酸素放出機能は、当該酸化物にPt等の触媒貴金属が担持されていると助長される。
【0004】
また、特許文献1に記載されているように、Zrを主成分とし、これにCe以外の希土類金属、例えばNdを固溶させたZrNd複合酸化物をパティキュレートフィルタの触媒層に添加することも知られている。
【0005】
ところで、近年は触媒貴金属の資源保護の観点から、触媒の性能を落とすことなく、その貴金属の使用量を低減する研究開発が進められている。例えば、特許文献2には、三元触媒の例ではあるが、触媒金属量を増大させることなく、酸素吸蔵材の酸素吸蔵放出能を向上させることが記載されている。それは、セリウム酸化物を含む担体と、この担体に担持された遷移金属及び貴金属からなる触媒金属とよりなり、セリウム原子及び貴金属各々に対する遷移金属の原子比を所定の範囲にするというものである。遷移金属としては、Co、Ni及びFeの少なくとも一種が好ましいとされている。但し、実施例として開示されているのはCo及びNiだけであり、Feについての実施例はない。
【0006】
また、特許文献2では、セリアジルコニア固溶体粉末に硝酸Ni(又は硝酸Co)を含浸させ、蒸発乾固、乾燥及び焼成を行ない、得られた粉末にPt溶液を含浸させ、蒸発乾固、乾燥及び焼成を行なうことにより触媒粉末を得るとされている。そして、この触媒粉末とRh/ZrO粉末とAl粉末とアルミナゾルとイオン交換水とを混合してスラリーを調製し、このスラリーをハニカム担体にウォッシュコートして触媒層を形成するとされている。
【0007】
一方、パティキュレートフィルタに関しては、特許文献3に、アルミニウム、ケイ素、チタン、セリウム、ジルコニウム、ハフニウム、マグネシウム、鉄およびそれらの混合酸化物からなる金属の酸化物の群から選択される、1μm未満の粒径を有するコロイド状金属酸化物または混合金属酸化物を、フィルタの排気ガス流に接触可能な全ての表面に担持することが記載されている。但し、具体的な実施例についての記載はなく、そのようなコロイド状金属酸化物または混合金属酸化物がパティキュレートの燃焼、或いは排気ガスの浄化にどのような効果があるのかは不明である。
【0008】
特許文献4には、P含有量が0.005重量%以下であって、CuKαでX線回折測定した際の結晶面(104)の結晶子サイズが150Å以下であるヘマタイト(α−Fe2O3)粒子からなるパティキュレート除去触媒が記載されている。この触媒によれば、COを発生させることなく、パティキュレートを燃焼させることができ、1000ppmのNOガス存在下ではパティキュレート燃焼開始温度が低くなるとされている。
【特許文献1】特開2007−209913号公報
【特許文献2】特開2003−220336号公報
【特許文献3】特表2008−501496号公報
【特許文献4】特開2004−267807号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、酸化鉄は、CeOと同じく、酸素吸蔵放出能を有することが知られている。従って、特許文献2に記載されているCeO−ZrO複合酸化物のようなCe含有酸化物粒子に酸化鉄を担持させることが考えられる。そこで、本願発明者は、Ce含有酸化物粉末に硝酸鉄を含浸させて蒸発乾固、乾燥及び焼成を行ない、得られた粉末の酸素吸蔵放出能を調べた。その結果、酸素吸蔵放出能の向上が認められたものの、その向上はそれほど大きなものではなく、また、長期の使用を想定した所定の熱エージングを行なったところ、酸素吸蔵放出能がかなり低いレベルまで低下することがわかった。また、上記硝酸鉄により得られる酸化鉄粒子はその粒径が500nm以上の大きな粒子であることがわかった。
【0010】
また、特許文献4には酸化鉄をパティキュレートの燃焼に利用することが開示されているものの、酸化鉄とCe含有酸化物とを組み合わせるものではなく、酸化鉄がパティキュレートの燃焼等に有効に利用されているとは言い難い。
【0011】
本発明は、かかる点に鑑み、触媒付きパティキュレートフィルタに関し、酸化鉄を上記Ce含有酸化物の酸素吸蔵放出能の向上に有効に利用できるようにして、パティキュレート燃焼性の向上を図るとともに、排気ガス中のHC(炭化水素)及びCOについても効率良く浄化できるようにすることを課題とする。
【0012】
また、別の本発明の課題は、酸化鉄を、Ce含有酸化物と共に、パティキュレートの燃焼、排気ガス中のHC及びCOの浄化に利用するだけでなく、フィルタ本体に触媒層を形成するためのバインダとしても利用することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、このような課題を解決するために、粒径の小さな微細酸化鉄粒子を触媒層に多数分散させるようにした。
【0014】
すなわち、本発明は、排気ガス中のパティキュレートを捕集するフィルタ本体の排気ガス通路壁部に、酸素吸蔵放出能をもつCe含有酸化物粒子と、高比表面積耐熱性酸化物粒子と、触媒金属とを有する触媒層が形成されている触媒付きパティキュレートフィルタであって、
上記触媒層には、酸化鉄粒子が多数分散して含まれ、少なくとも一部の酸化鉄粒子は粒径が300nm以下の微細酸化鉄粒子であり、上記Ce含有酸化物粒子及び上記高比表面積耐熱性酸化物粒子に当該微細酸化鉄粒子が接触しており、電子顕微鏡観察において、上記微細酸化鉄粒子の酸化鉄粒子総面積に占める面積比率が30%以上であることを特徴とする。
【0015】
上記粒径300nm以下の微細酸化鉄粒子の酸化鉄粒子総面積に占める面積比率が30%以上であるということは、該微細酸化鉄粒子が触媒層に多数分散して含まれていることを意味する。また、Ce含有酸化物粒子や高比表面積耐熱性酸化物粒子はその二次粒子径が数μmであることが通常であるから、少なくとも一部のCe含有酸化物粒子及び高比表面積耐熱性酸化物粒子各々には、複数の微細酸化鉄粒子が分散して接触しており、且つそれら粒子に対する微細酸化鉄粒子の付着量が比較的多いことを意味する。そのため、触媒金属量が少ない場合でも、パティキュレート燃焼性及び排気ガス中のHCやCOの浄化性が向上することになる。
【0016】
すなわち、微細酸化鉄粒子とCe含有酸化物粒子との接触点では各々の粒子内酸素が不安定な状態になるため、各々の酸素吸蔵放出能が高くなると考えられ、その結果、当該触媒層によるパティキュレートの燃焼やHCやCOの酸化反応が促進される。
【0017】
上記高比表面積耐熱性酸化物粒子には上記触媒金属が担持されていてもよい。この場合、上記微細酸化鉄粒子と高比表面積耐熱性酸化物粒子とが接触していることにより、この微細酸化鉄粒子に解離吸着した酸素が、高比表面積耐熱性酸化物粒子表面の触媒金属に吸着したHCやCOにスピルオーバーし易くなり、HC及びCOの酸化が促進され、また、パティキュレートも燃焼し易くなると考えられる。さらに、高比表面積耐熱性酸化物粒子表面の触媒金属によるNOのNOへの酸化が促進され、該NOによるパティキュレートの燃焼が図れることになる。
【0018】
上記微細酸化鉄粒子の酸化鉄粒子総面積に占める面積比率は40%以上であることが好ましい。粒径50nm以上300nm以下の酸化鉄粒子についてみれば、酸化鉄粒子総面積に占める面積比率が40%以上95%以下程度であることが好ましい。
【0019】
上記触媒層には、さらに、Ce以外の希土類金属から選ばれる少なくとも一種とZrとの複合酸化物粒子が含まれ、該複合酸化物粒子に上記粒径300nm以下の微細酸化鉄粒子が接触していることが好ましい。
【0020】
すなわち、当該Zr系複合酸化物粒子は、高い酸素イオン伝導性を有し、酸素イオンを輸送して該酸化物粒子表面での酸素交換反応により活性酸素として放出するが、この活性酸素の放出を上記微細酸化鉄粒子が促進する。また、Zr系複合酸化物粒子表面にパティキュレートを燃焼させる火種ができ、その火種部位が酸素不足状態になると、別の酸素濃度が高い部分から酸素が輸送されてくるため、燃焼が継続されて当該火種から燃焼領域が周囲に広がり易くなる。一方、上記Ce含有酸化物粒子は、酸素過剰のガス雰囲気においても、Ceイオンの価数変化により、先に説明した酸素交換反応により活性酸素を放出する。従って、Zr系複合酸化物粒子が放出する活性酸素が、パティキュレートの燃焼、並びにHCやCOの浄化に効果的に利用され、さらに、異なる酸素放出メカニズムを持ったCe含有酸化物粒子が、上記パティキュレートの燃焼、HCやCOの浄化を助ける。
【0021】
上記触媒層に占める上記粒径300nm以下の微細酸化鉄粒子の割合は7質量%以上17質量%以下であることが好ましい。上記微細酸化鉄粒子の割合が少ない場合には、触媒層の酸素吸蔵放出能の向上効果が十分に現れず、また、その割合が多くなると、酸素吸蔵放出能の面では有利になるものの、触媒金属が微細酸化鉄粒子で覆われ、パティキュレートの燃焼、HCやCOの浄化に不利になるからである。
【0022】
上記微細酸化鉄粒子は、上記触媒層において上記Ce含有酸化物粒子等を上記フィルタ本体に保持するバインダの少なくとも一部を構成するものとすることができる。すなわち、触媒一般におけるバインダについては次のように定義することができる。
A.バインダは、フィルタ本体にウォッシュコートするスラリーに粘性を与えることにより、触媒金属を担持する酸素吸蔵材、その他の助触媒粒子をスラリー中に均一に分散させるとともに、乾燥・焼成前のウォッシュコート層をフィルタ本体に安定した状態に保持する。
【0023】
そのため、粒径が1nm〜50nm程度のコロイド粒子(水酸化物、含水物、酸化物等)が分散したコロイド溶液(市販のアルミナゾルやコロイダルシリカではコロイド粒子の粒径は10nm〜30nm程度)がバインダとして一般に使用される。
B.バインダは、上記乾燥・焼成後は微粒子となって触媒層に略均一に分散し、上記助触媒粒子間に介在して該助触媒粒子同士を結合するとともに、フィルタ本体の排気ガス通路壁部の多数の微小凹部ないし細孔に入り、触媒層がフィルタ本体から剥離しないようにする(アンカー効果)。
【0024】
そのため、乾燥・焼成後において、助触媒粒子よりも粒径が小さな酸化物粒子となって助触媒粒子やフィルタ本体に固着するものがバインダとして一般に使用される。
C.触媒層に、触媒金属等が後から含浸担持されるケースでは、バインダはそれら触媒成分を担持するサポート材となる。
D.バインダ粒子間、バインダ粒子と助触媒粒子との間には排気ガスが通る微細孔が形成される。
E.触媒層におけるバインダ量は、一般には触媒層全体の5質量%〜20質量%とされる。
【0025】
本発明の場合、上記粒径300nm以下の微細酸化鉄粒子は、上記Ce含有酸化物粒子や高比表面積耐熱性酸化物粒子の平均粒径(数μm程度)よりも小さく、上記触媒層に略均一に分散し、上記酸化物粒子間に介在して該酸化物粒子同士を結合するとともに、フィルタ本体の排気ガス通路壁部の多数の微小凹部ないし細孔に入り、触媒層がフィルタ本体から剥離しないようにする。このため、当該微細酸化鉄粒子は上記触媒層においてバインダとしての機能も発揮するものである。
【0026】
上記触媒層のバインダは、上記微細酸化鉄粒子のみで構成するようにしてよいが、安定な触媒層を得るためには、この微細酸化鉄粒子の他に、遷移金属及び希土類金属から選ばれる少なくとも一種の金属の酸化物粒子(例えば、アルミナ粒子、ZrO粒子、CeO粒子等)をバインダとして含むことが好ましい。このようなバインダ粒子(上記微細酸化鉄粒子及び上記金属酸化物粒子)は、フィルタ本体にウォッシュコートするスラリーに粘性を与えることにより、触媒成分をスラリー中に均一に分散させるとともに、乾燥・焼成前のウォッシュコート層をフィルタ本体に安定した状態で保持することができるように、前駆体である金属化合物がそれぞれコロイド粒子として分散したゾルを原料とすることが好ましい。
【0027】
上記微細酸化鉄粒子の少なくとも一部は、X線回折測定によって得られるピーク強度が結晶面(104)、結晶面(110)、結晶面(116)の順で小さくなっているヘマタイトであることが好ましく、また、上記酸化鉄粒子は、マグヘマイト、ゲータイト及びウスタイトがコロイド粒子として分散したゾルを原料とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0028】
以上のように本発明によれば、フィルタ本体の排気ガス通路壁部に、Ce含有酸化物粒子と、高比表面積耐熱性酸化物粒子と、触媒金属とを有する触媒層が形成されている触媒付きパティキュレートフィルタにおいて、上記触媒層には、上記Ce含有酸化物粒子及び上記高比表面積耐熱性酸化物粒子各々に接触する粒径300nm以下の微細酸化鉄粒子が多数分散して含まれているから、触媒金属量が少ない場合でも、微細酸化鉄粒子がCe含有酸化物粒子と相俟って触媒層の酸素吸蔵放出能の向上に有効に働き、また、上記微細酸化鉄粒子が高比表面積耐熱性酸化物粒子に担持されている触媒金属と相俟って排気ガス中のNOのNO(パティキュレート燃焼のための酸化剤となる)への酸化を促進し、パティキュレート燃焼性及びHCやCOの浄化性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0030】
図1において、1はエンジンの排気ガス通路11に配置されたパティキュレートフィルタ(以下、単に「フィルタ」という。)である。フィルタ1よりも排気ガス流の上流側の排気ガス通路11には、活性アルミナ等のサポート材にPt、Pd等に代表される触媒金属を担持した酸化触媒(図示省略)を配置することができる。このような酸化触媒をフィルタ1の上流側に配置するときは、該酸化触媒によって排気ガス中のHC、COが酸化され、その酸化燃焼熱でフィルタ1に流入する排気ガス温度が高められる。また、NOがNOに酸化され、該NOがフィルタ1にパティキュレートを燃焼させる酸化剤として供給されることになる。
【0031】
図2及び図3に模式的に示すように、このフィルタ1は、ハニカム構造をなしており、互いに平行に延びる多数の排気ガス通路2,3を備えている。すなわち、フィルタ1は、下流端が栓4により閉塞された排気ガス流入路2と、上流端が栓4により閉塞された排気ガス流出路3とが交互に設けられ、排気ガス流入路2と排気ガス流出路3とは薄肉の隔壁5を介して隔てられている。なお、図2においてハッチングを付した部分は排気ガス流出路3の上流端の栓4を示している。
【0032】
フィルタ1は、上記隔壁5を含むフィルタ本体がコージェライト、SiC、Si、サイアロンのような無機多孔質材料から形成されており、排気ガス流入路2内に流入した排気ガスは図3において矢印で示したように周囲の隔壁5を通って隣接する排気ガス流出路3内に流出する。すなわち、図4に示すように、隔壁5は排気ガス流入路2と排気ガス流出路3とを連通する微細な細孔(排気ガス通路)6を有し、この細孔6を排気ガスが通る。そして、パティキュレートは、主に排気ガス流入路2と細孔6の壁部に捕捉され堆積する。
【0033】
上記フィルタ1のフィルタ本体の上記排気ガス通路(排気ガス流入路2、排気ガス流出路3及び細孔6)の壁部には触媒層7が形成されている。なお、排気ガス流出路3の壁部に触媒層を形成することは必ずしも要しない。
【0034】
図5は上記触媒層7の構成を模式的に示す。触媒層7は、酸素吸蔵放出能を持つCe含有酸化物粒子23と、バインダ粒子24と、Fe以外の触媒金属25と、高比表面積耐熱性酸化物粒子としてのアルミナ粒子26とを有する。なお、触媒層7には、Ce含有酸化物粒子23及びアルミナ粒子26以外に、Zr系複合酸化物粒子(Ce以外の希土類金属から選ばれる少なくとも一種とZrとの複合酸化物粒子)など他の助触媒粒子を含ませることができる。バインダ粒子24は、Ce含有酸化物粒子23及びアルミナ粒子26各々の平均粒径よりも小さな、粒径300nm以下の微細酸化鉄粒子で構成されている。なお、バインダ粒子24の一部を上記微細酸化鉄粒子で構成し、残部を遷移金属及び希土類金属より選ばれる少なくとも一種の金属酸化物粒子で構成するようにしてもよい。
【0035】
上記バインダ粒子としての微細酸化鉄粒子24は、触媒層7の全体にわたって略均一に分散していて、助触媒粒子(Ce含有酸化物粒子23、アルミナ粒子26等)間に介在し該助触媒粒子同士を結合している。従って、少なくとも一部の微細酸化鉄粒子24はCe含有酸化物粒子23やアルミナ粒子26に接触している。また、上記微細酸化鉄粒子24は、隔壁5のポア(微小凹部ないし細孔)27に充填され、アンカー効果によって触媒層7を隔壁5に保持している。触媒金属25は、Ce含有酸化物粒子23及びアルミナ粒子26に担持されている。
【0036】
<触媒付きパティキュレートフィルタの調製>
エタノール100mL当たり硝酸第二鉄40.4gを溶かし、90℃から100℃の温度で2時間から3時間の還流を行なうことによって、スラリー状の液体、すなわち、酸化鉄ゾル(バインダ)を得る。Ce含有酸化物粉末及びアルミナ粉末に酸化鉄ゾル及びイオン交換水を適量混合したスラリーを調製する。このスラリーには他のバインダを添加することができる。このスラリーをフィルタ本体にコーティングし、乾燥及び焼成を施す。フィルタ本体上のコーティング層に触媒金属溶液を含浸させ、乾燥及び焼成を行なう。以上により触媒付きパティキュレートフィルタが得られる。
【0037】
上記スラリーには他の助触媒材料を加えてもよい。触媒金属は予めCe含有酸化物粒子、アルミナ粒子等のサポート材に担持させておいてもよい。
【0038】
<酸化鉄粒子の粒径等>
上記酸化鉄ゾルとCe含有酸化物粉末としてのCeZrNd複合酸化物(CeO:ZrO:Nd=23:67:10(質量比))とイオン交換水とを混合することによりスラリーを調製し、このスラリーを基材にコーティングし、乾燥(150℃)及び焼成(大気中において500℃の温度に2時間保持)を行なうことにより、触媒材を得た。酸化鉄ゾルとCeZrNd複合酸化物粉末とは、上記焼成後における質量比で、酸化鉄とCeZrNd複合酸化物とが2:8となるように混合した。
【0039】
図6は得られた触媒材の透過電子顕微鏡を用いたSTEM(走査透過)像、図7乃至図9はFe、Zr及びCe各原子の相対濃度分布をマッピングしたものである。図6乃至図9から、CeZrNd複合酸化物粒子の粒径は1μm程度であること、酸化鉄粒子は粒径が300nm以下であり、50nm以上300nm以下の大きさの複数個の酸化鉄粒子がCeZrNd複合酸化物粒子に接触(粒子上に分布)していることがわかる。この場合、当該顕微鏡観察において、粒径300nm以下の微細酸化鉄粒子の酸化鉄粒子総面積に占める面積比率は100%である(つまり、全ての酸化鉄粒子が粒径300nm以下である)ということができる。
【0040】
図10乃至図13は上記触媒材のエージング(酸素を2%、水蒸気を10%含む窒素ガス中で900℃の温度に24時間保持)後でのSTEM像及び各原子の相対濃度分布のマッピングである。CeZrNd複合酸化物粒子の粒径は1μm程度であり、酸化鉄粒子の粒径は300nm以下であり、50nm以上300nm以下の大きさの酸化鉄粒子がCeZrNd複合酸化物粒子に複数個接触(粒子上に分布)している。エージング後においても、当該電子顕微鏡観察によれば、全ての酸化鉄粒子の粒径が300nm以下になっている。
【0041】
図14は酸化鉄ゾルを150℃で乾燥したもの(乾燥品)、上記エージング前の触媒材(焼成品)、並びに上記エージング後の触媒材(焼成・エージング品)各々のX線回折チャートである。なお、同図の「OSC」は上記CeZrNd複合酸化物のことを意味する(この点は他の図面でも同様である。)。酸化鉄ゾルは、マグヘマイト(γ-Fe)、ゲータイト(Fe3+O(OH))及びウスタイト(FeO)がコロイド粒子として分散したものであることがわかる。そして、酸化鉄ゾルのコロイド粒子は焼成によってヘマタイト(α-Fe)になっている。
【0042】
上記エージング前の焼成品におけるヘマタイトの、結晶面(104)のピーク強度を100とする各結晶面の相対ピーク強度は表1に示す通りである。また、上記エージング後のヘマタイトの、結晶面(104)のピーク強度を100とする各結晶面の相対ピーク強度は表2に示す通りである。なお、表中「−」はピーク重複や、ピーク小のために、正確な数値が得られなかったものである。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
エージング後において、X線回折測定によって得られるヘマタイトの各結晶面のピーク強度は、結晶面(104)、結晶面(110)、結晶面(116)の順で小さくなっている。
【0046】
一方、比較のために、上記酸化鉄ゾルに代えて、硝酸第二鉄水溶液を上記CeZrNd複合酸化物粉末に含浸させ、同様の乾燥及び焼成を行なった。硝酸第二鉄とCeZrNd複合酸化物粉末とは、上記焼成後における質量比で、酸化鉄とCeZrNd複合酸化物とが2:8となるように混合した。
【0047】
図15乃至図18は得られた上記硝酸第二鉄による触媒材のSTEM像及び各原子の相対濃度分布のマッピングである。CeZrNd複合酸化物粒子の粒径は1μm程度であるが、酸化鉄粒子の粒径は600〜700nm程度になっている。
【0048】
図19乃至図22は上記硝酸第二鉄による触媒材のエージング(酸化鉄ゾルの場合と同じ条件)後でのSTEM像及び各原子の相対濃度分布のマッピングである。CeZrNd複合酸化物粒子の粒径は1.5〜2μm程度であるが、酸化鉄粒子としては、粒径が600〜700nm程度の粒子が1個と、100nm程度の粒子が3個見られる。当該電子顕微鏡観察において、粒径300nm以下の酸化鉄粒子の酸化鉄粒子総面積に占める面積比率は10%未満である。
【0049】
上記酸化鉄ゾルの場合、焼成によって酸化鉄粒子となるコロイド粒子(マグヘマイト、ゲータイト及びウスタイト)が比較的安定なFe化合物であり、そのために、酸化鉄粒子の粒成長を生じ難い。これに対して、上記硝酸第二鉄の場合は、反応性が高いFeイオンから酸化鉄粒子を生ずるから、粒成長し易い。このことが、上記酸化鉄ゾルから得られる酸化鉄粒子と上記硝酸第二鉄から得られる酸化鉄粒子の粒径の差違となっていると考えられる。
【0050】
<酸素吸蔵放出能>
上記酸化鉄ゾルを用いて調製した触媒サンプルAと、上記硝酸第二鉄を用いて調製した触媒サンプルBと、鉄成分を含まない触媒サンプルCとについて、各々の酸素吸蔵放出能を調べた。但し、いずれのサンプルも触媒金属量は零とした。
【0051】
−触媒サンプルAの調製−
上記CeZrNd複合酸化物と上記酸化鉄ゾルとZrOバインダ(第一稀元素化学工業株式会社製)とイオン交換水とを混合することによりスラリーを調製し、このスラリーを担体にコーティングし、乾燥(150℃)及び焼成(大気中において500℃の温度に2時間保持)を行なった。上記スラリーは、上記CeZrNd複合酸化物の担持量が80g/L、上記酸化鉄ゾルによる酸化鉄の担持量が20g/L、上記ZrOバインダによるZrOの担持量が10g/Lとなるように調製した。なお、各担持量は上記焼成後における上記担体1L当たりの各成分の量である。担体としては、セル壁厚さ3.5mil(8.89×10−2mm)、1平方インチ(645.16mm)当たりのセル数600のコージェライト製ハニカム担体(容量25mL)を採用した。
【0052】
−触媒サンプルBの調製−
上記酸化鉄ゾルに代えて硝酸第二鉄水溶液を採用し、他は触媒サンプルAと同じ条件で第2触媒サンプル2を調製した。硝酸第二鉄水溶液による酸化鉄担持量は触媒サンプルAの上記酸化鉄ゾルによる酸化鉄担持量と同じく、20g/Lである。
【0053】
−触媒サンプルCの調製−
上記酸化鉄ゾルを用いず(酸化鉄担持量=0g/L)、上記CeZrNd複合酸化物担持量が100g/L、上記ZrOバインダによるZrOの担持量が10g/Lとなるようにする他は、触媒サンプルAと同じ条件で触媒サンプルCを調製した。
【0054】
−酸素吸蔵放出能の評価−
図23は、酸素吸蔵放出量を測定するための試験装置の構成を示す。同図において、符号11は触媒サンプル12を保持するガラス管であり、触媒サンプル12はヒータ13によって所定温度に加熱保持される。ガラス管11の触媒サンプル12よりも上流側には、ベースガスNを供給しながらO及びCOの各ガスをパルス状に供給可能なパルスガス発生装置14が接続され、ガラス管11の触媒サンプル12よりも下流側には排気部18が設けられている。ガラス管11の触媒サンプル12よりも上流側及び下流側にはA/Fセンサ(酸素センサ)15,16が設けられている。ガラス管11のサンプル保持部には温度制御用の熱電対19が取付けられている。
【0055】
測定にあたっては、ガラス管11内の触媒サンプル温度を所定値に保ち、ベースガスNを供給して排気部18から排気しながら、図24に示すようにOパルス(20秒)とCOパルス(20秒)とを交互に且つ間隔(20秒)をおいて発生させることにより、リーン→ストイキ→リッチ→ストイキのサイクルを繰り返すようにした。ストイキからリッチに切り換えた直後から、図25に示すように、触媒サンプル前後のA/Fセンサ15,16によって得られるA/F値出力差(前側A/F値−後側A/F値)がなくなるまでの時間における、当該出力差をO量に換算し、これを触媒サンプルのO放出量(酸素吸蔵放出量)とした。このO放出量を200℃から600℃までの50℃刻みの各温度で測定した。
【0056】
結果を図26に示す。触媒サンプルA(酸化鉄ゾル+OSC)及び触媒サンプルB(硝酸第二鉄+OSC)のいずれも、酸化鉄を含まない触媒サンプルC(OSCのみ)よりも酸素放出量が多くなっている。(酸化鉄ゾル+OSC)と(硝酸第二鉄+OSC)とを比較すると、250℃〜600℃において、酸化鉄ゾルの方が硝酸第二鉄よりも酸素放出量が多くなっている。
【0057】
図27は(酸化鉄ゾル+OSC)及び(硝酸第二鉄+OSC)の各触媒サンプルのエージング(酸素を2%、水蒸気を10%含む窒素ガス中で900℃の温度に24時間保持)後の酸素放出量を測定した結果を示す。いずれもエージング後は酸素放出量が少なくなっているが、それでも、酸化鉄ゾルの方が硝酸第二鉄よりも酸素放出量が多い。
【0058】
触媒サンプルAの場合は、酸化鉄ゾルによる複数の粒径300nm以下の酸化鉄粒子がCeZrNd複合酸化物(OSC)粒子に分散して接触しており(図6乃至図9参照)、そのため、それら酸化鉄粒子がCeZrNd複合酸化物粒子と相俟って触媒の酸素吸蔵放出能の向上に有効に働いているものと認められる。これに対して、触媒サンプルBの場合は、硝酸第二鉄による酸化鉄粒子の粒径が大きく(図15乃至図18参照)、そのため、酸化鉄粒子による酸素吸蔵放出能の向上が酸化鉄ゾルによるものに比べて低いものと認められる。
【0059】
図28は上記エージング後の触媒サンプルA(酸化鉄ゾル+OSC)及び触媒サンプルB(硝酸第二鉄+OSC)の酸素放出量(測定温度500℃)を、従来触媒及び実施例触媒各々の当該エージング後の酸素放出量(測定温度500℃)と共に示すグラフである。従来触媒は、上記触媒サンプルC(OSCのみ)においてそのCeZrNd複合酸化物粒子に触媒金属としてPtを1g/L担持させたものである。実施例触媒は、上記触媒サンプルA(酸化鉄ゾル+OSC)においてそのCeZrNd複合酸化物粒子に触媒金属としてPtを1g/L担持させたものである。
【0060】
触媒サンプルA(酸化鉄ゾル+OSC)は、触媒金属PtをCeZrNd複合酸化物粒子に担持させていないにも拘わらず、CeZrNd複合酸化物粒子に触媒金属Ptを担持させた従来触媒と同程度の酸素放出量になっている。また、触媒サンプルAにおいてCeZrNd複合酸化物粒子に触媒金属Ptを担持させた実施例触媒は、従来触媒に比べて酸素放出量が格段に多くなっている。これらから、酸化鉄ゾルによる粒径の小さな酸化鉄粒子が酸素吸蔵放出能の向上に大きな効果を示すことがわかる。
【0061】
<排気ガス浄化性能>
実施例1及び比較例1〜4の各フィルタを調製し、排気ガス浄化性能を評価した。
【0062】
−実施例1−
Ce含有酸化物粉末としてのCeZr複合酸化物(70mol%CeO−30mol%ZrO)粉末と、Zr系複合酸化物としてのZrNd複合酸化物(88mol%ZrO−12mol%Nd)粉末と、La含有アルミナ粉末(La含有量;5質量%)とを混合し、これにジニトロジアンミン白金硝酸溶液及びイオン交換水を混合した。この混合物を蒸発乾固し、充分に乾燥した後、大気中で500℃の温度に2時間保持する焼成を行なった。得られた触媒粉末にバインダとしての上記酸化鉄ゾル及びイオン交換水を混合することによりスラリーを調製し、このスラリーをフィルタ本体にコーティングし、乾燥(150℃)及び焼成(大気中において500℃の温度に2時間保持)を行なった。
【0063】
当該フィルタは、CeZr複合酸化物担持量が10g/L、ZrNd複合酸化物担持量が20g/L、La含有アルミナ担持量が20g/L、上記酸化鉄ゾルによる酸化鉄担持量が10g/L、Pt担持量が0.8g/Lである。なお、各担持量は上記焼成後における上記担体1L当たりの各成分の量である。また、フィルタ本体としては、セル壁厚さ12mil(3.048×10−1mm)、1平方インチ(645.16mm)当たりのセル数300のSiC製ハニカム状フィルタ(容量25mL;直径25.4mm,長さ50mm)を採用した。
【0064】
−比較例1−
バインダとして阿南化成株式会社製CeOバインダ(CeOとしての担持量;10g/L)を採用する他は実施例1と同じ条件で比較例1に係るフィルタを調製した。
【0065】
−比較例2−
バインダとして触媒化成工業株式会社製Alバインダ(Alとしての担持量;10g/L)を採用する他は実施例1と同じ条件で比較例2に係るフィルタを調製した。
【0066】
−比較例3−
バインダとして第一稀元素化学工業株式会社製ZrOバインダ(ZrOとしての担持量;10g/L)を採用する他は実施例1と同じ条件で比較例3に係るフィルタを調製した。
【0067】
−比較例4−
実施例1と同じ触媒粉末に、バインダとしての上記ZrOバインダと、硝酸第二鉄水溶液とイオン交換水とを混合することによりスラリーを調製する他は、実施例1と同じ条件で比較例4に係るフィルタを調製した。但し、上記ZrOバインダによるZrO担持量は5g/Lとなるようにし、硝酸第二鉄による酸化鉄担持量は10g/Lとなるようにした。
【0068】
−排気ガス浄化性能の評価−
上記実施例1及び比較例1〜4の各フィルタについて、模擬排気ガス流通反応装置及び排気ガス分析装置を用いて、540℃×1時間の大気中エージング後、800℃×24時間の大気中エージング後、並びに1000℃×24時間の大気中エージング後の、HC浄化及びCO浄化に関するライトオフ温度T50を測定した。模擬排気ガスの組成は、HC=200ppmC、CO=400ppm、NO=100ppm、O=10%、CO=4.5%、HO=10%、残りNとした。空間速度は50000/hとし、フィルタ入口ガス温度の昇温速度は30℃/分とした。
【0069】
結果は図29乃至図31に示されている。実施例1は、540℃×1時間の大気中エージング後、800℃×24時間の大気中エージング後、並びに1000℃×24時間の大気中エージング後のいずれにおいても、HC及びCOの浄化に関するライトオフ温度T50が比較例1〜4よりも格段に低くなっており、酸化鉄ゾルをバインダとして用いて触媒層に微細酸化鉄粒子を分散させると、排気ガス浄化性能が高くなることがわかる。比較例4は、実施例1と同じく、フィルタ本体の触媒層に酸化鉄が含まれるが、酸化鉄を含まない比較例1〜3よりも、ライトオフ温度T50が高い。これは、比較例4の酸化鉄粒子は硝酸第二鉄によるものであって、粒径が大きく、しかも、焼成及びエージングの過程において、触媒金属であるPtが凝集・粒成長する当該酸化鉄粒子に埋没していき、触媒活性が低くなったことによるものと認められる。
【0070】
<パティキュレート燃焼性>
上記実施例1及び比較例1〜4の各フィルタ、並びに次に説明する実施例2のフィルタについて、パティキュレートとしてカーボンを採用してパティキュレート燃焼性を評価した。
【0071】
−実施例2−
この実施例2では、上記CeZr複合酸化物担持量を30g/Lとし、上記ZrNd複合酸化物担持量を0g/Lとする他は、実施例1と同じ条件でフィルタを調製した。
【0072】
−パティキュレート燃焼性の評価−
フィルタ1L当たり10g相当量のカーボン(カーボンブラック)に10mLのイオン交換水を加え、スターラーを用いて5分間攪拌することにより、カーボンを水中に十分に分散させた。このカーボン分散液にフィルタの一端面を浸すと同時に、他端面よりアスピレータによる吸引を行なった。この吸引によって除去できない水分を、上記一端面からのエアブローにより除去し、次いで供試材を乾燥器に入れ150℃の温度に2時間保持して乾燥させた。これにより、カーボンをフィルタの排気ガス通路壁部に堆積させた。
【0073】
フィルタを模擬ガス流通反応装置に取り付け、模擬排気ガス(O;10%,NO;300ppm,HO;10%,残N)を空間速度80000/hで供試材に流し、且つ供試材入口ガス温度を15℃/分の速度で上昇させていき、該温度が590℃に達した時点のカーボン燃焼速度を測定した。この場合、カーボン燃焼速度は、カーボンの燃焼によって生成するCO及びCO量に基いて次式により算出した。結果を図32に示す。
【0074】
カーボン燃焼速度(g/h)
={ガス流速(L/hr)×[(CO+CO)濃度(ppm)/(1×10)]}×12(g/mol)/22.4(L/mol)
カーボン燃焼速度に関しても、酸化鉄ゾルをバインダとして採用した実施例1,2は、酸化鉄ゾルを採用しない比較例1〜4のいずれよりも、その燃焼速度が大きくなっている。これから、酸化鉄ゾルをバインダとして用いて触媒層に微細酸化鉄粒子を分散させることがパティキュレートの燃焼性向上に大きな効果があることがわかる。実施例1の方が実施例2よりもカーボン燃焼速度が大きいのは、ZrNd複合酸化物の方がCeZr複合酸化物よりも活性酸素を放出する能力が高いためであると認められる。
【0075】
<酸化鉄量がパティキュレート燃焼性に及ぼす影響>
上記実施例1に関し、酸化鉄ゾルによる酸化鉄担持量を変化させたときの、温度590℃でのカーボン燃焼速度に与える影響を調べた。結果を図33に示す。同図の横軸「バインダ添加量」はフィルタ1L当たりの酸化鉄ゾルによる微細酸化鉄粒子担持量を示す。酸化鉄バインダ添加量が4g/L以上になると、その添加量の増大に伴ってカーボン燃焼速度が増大している。同図から、酸化鉄バインダ添加量が4g/L以上10g/L以下において、触媒層に占める微細酸化鉄粒子の割合に換算すると、その割合が7質量%以上17質量%以下において、パティキュレート燃焼性が良くなることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】パティキュレートフィルタをエンジンの排気ガス通路に配置した状態を示す図である。
【図2】パティキュレートフィルタを模式的に示す正面図である。
【図3】パティキュレートフィルタを模式的に示す縦断面図である。
【図4】パティキュレートフィルタの排気ガス流入路と排気ガス流出路とを隔てる壁を模式的に示す拡大断面図である。
【図5】パティキュレートフィルタの触媒層を模式的に示す断面図である。
【図6】酸化鉄ゾルを用いた触媒材のSTEM像図である。
【図7】酸化鉄ゾルを用いた触媒材のFe原子相対濃度分布のマッピング図である。
【図8】酸化鉄ゾルを用いた触媒材のZr原子相対濃度分布のマッピング図である。
【図9】酸化鉄ゾルを用いた触媒材のCe原子相対濃度分布のマッピング図である。
【図10】酸化鉄ゾルを用いた触媒材のエージング後のSTEM像図である。
【図11】酸化鉄ゾルを用いた触媒材のエージング後のFe原子相対濃度分布のマッピング図である。
【図12】酸化鉄ゾルを用いた触媒材のエージング後のZr原子相対濃度分布のマッピング図である。
【図13】酸化鉄ゾルを用いた触媒材のエージング後のCe原子相対濃度分布のマッピング図である。
【図14】酸化鉄ゾル乾燥品、触媒材(焼成品)及び触媒材エージング品各々のX線回折チャート図である。
【図15】硝酸第二鉄を用いた触媒材のSTEM像図である。
【図16】硝酸第二鉄を用いた触媒材のFe原子相対濃度分布のマッピング図である。
【図17】硝酸第二鉄を用いた触媒材のZr原子相対濃度分布のマッピング図である。
【図18】硝酸第二鉄を用いた触媒材のCe原子相対濃度分布のマッピング図である。
【図19】硝酸第二鉄を用いた触媒材のエージング後のSTEM像図である。
【図20】硝酸第二鉄を用いた触媒材のエージング後のFe原子相対濃度分布のマッピング図である。
【図21】硝酸第二鉄を用いた触媒材のエージング後のZr原子相対濃度分布のマッピング図である。
【図22】硝酸第二鉄を用いた触媒材のエージング後のCe原子相対濃度分布のマッピング図である。
【図23】酸素吸蔵放出量測定装置の構成図である。
【図24】酸素吸蔵放出量の測定における触媒前後のA/F及び触媒前後のA/F差の経時変化を示すグラフ図である。
【図25】酸素吸蔵放出量の測定における触媒前後のA/F差の経時変化を示すグラフ図である。
【図26】各触媒サンプルのフレッシュ時における酸素放出量の温度による変化を示すグラフ図である。
【図27】各触媒サンプルのエージング後における酸素放出量の温度による変化を示すグラフ図である。
【図28】各触媒サンプルのエージング後の酸素放出量を示すグラフ図である。
【図29】実施例及び比較例の540℃×1時間エージング後のライトオフ温度T50を示すグラフ図である。
【図30】実施例及び比較例の8000℃×24時間エージング後のライトオフ温度T50を示すグラフ図である。
【図31】実施例及び比較例の1000℃×24時間エージング後のライトオフ温度T50を示すグラフ図である。
【図32】実施例及び比較例のカーボン燃焼速度を示すグラフ図である。
【図33】実施例の酸化鉄バインダ添加量とカーボン燃焼速度との関係を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0077】
5 フィルタ本体の隔壁
7 触媒層
23 Ce含有酸化物粒子
24 バインダ粒子(微細酸化鉄粒子)
25 触媒金属
26 アルミナ粒子
27 ポア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気ガス中のパティキュレートを捕集するフィルタ本体の排気ガス通路壁部に、酸素吸蔵放出能をもつCe含有酸化物粒子と、高比表面積耐熱性酸化物粒子と、触媒金属とを有する触媒層が形成されている触媒付きパティキュレートフィルタであって、
上記触媒層には、酸化鉄粒子が多数分散して含まれ、少なくとも一部の酸化鉄粒子は粒径が300nm以下の微細酸化鉄粒子であり、上記Ce含有酸化物粒子及び上記高比表面積耐熱性酸化物粒子に当該微細酸化鉄粒子が接触しており、電子顕微鏡観察において、上記微細酸化鉄粒子の酸化鉄粒子総面積に占める面積比率が30%以上であることを特徴とする触媒付きパティキュレートフィルタ。
【請求項2】
請求項1において、
上記触媒層には、さらに、Ce以外の希土類金属から選ばれる少なくとも一種とZrとの複合酸化物粒子が含まれ、該複合酸化物粒子に上記粒径300nm以下の微細酸化鉄粒子が接触していることを特徴とする触媒付きパティキュレートフィルタ。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
上記触媒層に占める上記微細酸化鉄粒子の割合が7質量%以上17質量%以下であることを特徴とする触媒付きパティキュレートフィルタ。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一において、
上記微細酸化鉄粒子は、上記触媒層においてバインダの少なくとも一部を構成していることを特徴とする触媒付きパティキュレートフィルタ。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一において、
上記微細酸化鉄粒子の少なくとも一部は、X線回折測定によって得られるピーク強度が結晶面(104)、結晶面(110)、結晶面(116)の順で小さくなっているヘマタイトであることを特徴とする触媒付きパティキュレートフィルタ。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一において、
上記微細酸化鉄粒子は、マグヘマイト、ゲータイト及びウスタイトがコロイド粒子として分散したゾルを原料とすることを特徴とする触媒付きパティキュレートフィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図14】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2009−287528(P2009−287528A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−143539(P2008−143539)
【出願日】平成20年5月30日(2008.5.30)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】