説明

触媒及びこれを用いたカルボン酸又はカルボン酸無水物の製造方法

【課題】部分酸化反応において特に優れた性能を有する触媒、及び当該触媒の存在下、有機化合物を酸素含有ガスによって気相部分酸化してカルボン酸又はカルボン酸無水物を効率よく製造する製造方法を提供する。
【解決手段】(1)ダイヤモンド、(2)周期律表5族遷移元素の酸化物群から選ばれる1種以上の酸化物A、及び(3)周期律表4族遷移元素の酸化物群から選ばれる1種以上の酸化物Bを含有する触媒、ならびに当該触媒の存在下に、有機化合物を酸素含有ガスによって気相部分酸化することを特徴とし、該有機化合物が芳香環と結合した炭素原子を含む置換基を分子内に1つ以上有する芳香族化合物であるカルボン酸又はカルボン酸無水物の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒及び当該触媒の存在下で有機化合物を酸素含有ガスによって気相部分酸化してカルボン酸又はカルボン酸無水物を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンドと周期律表5族遷移元素の酸化物とを含有する触媒を用いて有機化合物を気相部分酸化してカルボン酸を製造する方法の公知文献例としては、化学気相成長法(Chemical Vapor Deposition)によって金属酸化物表面上へ多孔質ダイヤモンド層を成長させる方法を開示した学術文献(非特許文献1参照)がある。当該非特許文献には応用案として酸化触媒能を損なうことなく五酸化バナジウム(V)の表面上にダイヤモンド層を成長させることができたと仮定した場合に、特定の数理モデルとパラメーターに基づき模擬計算(simulation)すると、o−キシレンの気相部分酸化による無水フタル酸を得る触媒反応の選択性がある程度改善されるとの推算結果が記載されている。そして、ダイヤモンド層を成長させる化学気相成長法は400〜500℃、25torrの高温低圧条件下にメタン−水素混合ガス(還元性ガス)雰囲気下で実施すると記載されている。一方、このような条件下では、五酸化バナジウムは速やかに低価数の酸化バナジウムにまで還元されること(非特許文献2〜3参照)、充分な酸化触媒活性を示さないこと(非特許文献4参照)が知られている。すなわち、非特許文献1に開示される化学気相成長法では、酸化触媒能を有し、かつダイヤモンド層が担持された五酸化バナジウム触媒を実際に調製することは難しい。また化学気相成長法は特殊なプロセス装置を必要とするため、処理能力が低く、触媒製造方法として有効なものとはいえない。さらに、非特許文献1には、酸化バナジウム以外の遷移金属元素成分の添加の記載はなく、化学気相成長法以外のダイヤモンドの付与方法やダイヤモンドの形状への言及もない。
【0003】
ところで、周期律表5族遷移元素の酸化物(特に五酸化バナジウム)と周期律表4族及び6族遷移元素の酸化物とを含有する触媒を用いて、有機化合物を酸素含有ガスによって気相部分酸化してカルボン酸を製造する方法は公知であり、非常に多くの報告例がある。例えば、低級炭化水素化合物や低級含酸素有機化合物を気相部分酸化する例としてはMoO−WO−V触媒(特許文献1参照)などによるブテン類から酢酸の製造法;V−P−TiO触媒(特許文献2参照)などによるn−ブタン等の直鎖C4化合物類から無水マレイン酸の製造法;V−WO−P−TiO触媒(特許文献3参照)などによるベンゼンから無水マレイン酸の製造法、などが報告されている。
【0004】
また、置換基を有する芳香族化合物を酸素含有ガスによって気相部分酸化する例としてはV−TiO−TeO−Sb触媒(特許文献4参照)などによるトルエンから安息香酸の製造法;V−TiO−Nb−P−KO触媒(特許文献5参照)などによるo−キシレンから無水フタル酸の製造法;V−Nb−TiO−P触媒(特許文献6参照)などによるナフタレンから無水フタル酸の製造法;V−TiO−MoO−P触媒(特許文献7参照);V−TiO−AgO−MoO−P−CaO触媒(特許文献8参照);V−MoO−P−AgO触媒とV−TiO−稀土類酸化物−P−CeO触媒の積層充填物(特許文献9参照)などによるデュレンを含む1,2,4,5−テトラアルキルベンゼンからピロメリット酸二無水物の製造法;V−TiO−P−(Sb,CsO)触媒(特許文献10参照);V−TiO−AgO−MoO−P触媒(特許文献11及び12参照)などによる2,4,5−トリアルキルベンズアルデヒドからピロメリット酸二無水物の製造法、なども報告されている。
【0005】
上記したように、これらの特許文献1〜12は、有機化合物を酸素含有ガスによって気相部分酸化してカルボン酸を製造するにあたり、周期律表5族遷移元素の酸化物(特に五酸化バナジウム)と周期律表4族及び/又は6族遷移元素の酸化物とを含有する触媒を用いることを開示するものである。しかし、ダイヤモンドを含有する触媒に関する記載は認められない。
【0006】
これらの特許文献に開示される触媒は、触媒活性、反応選択性、性能安定性などについて様々に改良され、一定の技術レベルに到達したものであるが、より優れた触媒の開発が継続的に求められている。特に部分酸化反応では高い反応選択性が求められており、その改善には触媒添加成分の検討が一般的であるため、高選択的な触媒ほど成分数が多いという傾向がある。このような触媒では多成分の原料調合、前処理などの触媒調製手順が煩雑になることや、最適な反応成績を与える触媒組成範囲、反応条件範囲が狭くなることなどが問題点としてあげられる。これらの問題点を解決するためには、簡便に利用することが可能であり、かつ触媒調製条件や反応条件に対する適用範囲の広い添加成分を見出すことは有用なことである。
【0007】
有機化合物を酸素含有ガスによって気相部分酸化する反応は、完全燃焼反応を伴った激しい発熱反応であることが知られている。そのため周期律表5族遷移元素の酸化物を含む触媒組成物を、反応に不活性な担体上に担持して熱の分散を図る方法が広く実施されており、好適な担体として高純度炭化ケイ素の自己焼結成型担体(特許文献13及び14参照)などが提案されている。しかし、この担体は、窒素ガスなどの不活性(非酸化性)ガス雰囲気下において、非常に高温度の焼結工程を経て製造されるため、製造コストが高価になる欠点がある。一方で、炭化ケイ素担体のうち、低温度の空気焼成によって簡便に製造できるために安価であるが、成分の一部にシリカを含有する低純度なものもあるが、これでは良好な反応成績が得難い。このことから、より安価な担体が利用可能な添加成分を見出すことも、大きな工業的な価値を有することである。
【0008】
上記のような触媒担体からの開発ではなく、触媒からの開発、すなわち周期律表5族遷移元素の酸化物を含む触媒組成物中に熱の分散を促進する添加物を含有させるという方法も検討されている。例えば、特許文献15−17には、各々粒状炭化ケイ素;窒化ケイ素,窒化ホウ素,窒化アルミニウム;粒状β−炭化ケイ素といった添加物が開示されている。しかし、これらの特許文献中に、ダイヤモンドを含有する触媒組成物又は触媒に関する記載は認められない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】独国特許第2040455号明細書
【特許文献2】特開昭51−95990号公報
【特許文献3】独国特許第1141343号明細書
【特許文献4】特開平05−255181号公報
【特許文献5】特公昭49−41036号公報
【特許文献6】特公昭59−1378号公報
【特許文献7】特公昭45−15018号公報
【特許文献8】特開平07−171393号公報
【特許文献9】特開2000−1484号公報
【特許文献10】特開平07−2864号公報
【特許文献11】特開2002−105078号公報
【特許文献12】特開2002−105079号公報
【特許文献13】特開昭57−105241号公報
【特許文献14】特開昭61−28456号公報
【特許文献15】特開平08−318160号公報
【特許文献16】米国特許第6660681号明細書
【特許文献17】国際公開第2000/62926号パンフレット
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Ind.Eng.Chem.Res.,32,263−273(1993)
【非特許文献2】工業化学雑誌,55,p68(1952)
【非特許文献3】日本化学雑誌,82,p276(1961)
【非特許文献4】触媒,8,p302(1966)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、従来技術における上記のような課題を解決し、部分酸化反応において特に優れた性能を有する触媒及び当該触媒の存在下で有機化合物を酸素含有ガスによって気相部分酸化して効率よくカルボン酸又はカルボン酸無水物を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、固体触媒を用いて有機化合物を酸素含有ガスによって気相部分酸化する方法について鋭意研究を重ねた結果、ダイヤモンドと周期律表5族遷移元素の酸化物と周期律表4族の酸化物とを効果的に組み合わせて用いることによって有機化合物を酸素含有ガスによって気相部分酸化して効率よくカルボン酸又はカルボン酸無水物を製造できることを見いだし本発明に到達した。
すなわち、本発明の要旨は下記のとおりである。
【0013】
1.(1)ダイヤモンド、(2)周期律表5族遷移元素の酸化物群から選ばれる1種以上の酸化物A、及び(3)周期律表4族遷移元素の酸化物群から選ばれる1種以上の酸化物Bを含有する触媒
2.さらに、(4)周期律表6族遷移元素の酸化物群から選ばれる1種以上の酸化物Cを含有する上記1に記載の触媒。
3.さらに、(5)周期律表1、13、14、15及び16族典型元素(ただし炭素を除く)の酸化物群から選ばれる1種以上の酸化物Dを含む上記1に記載の触媒。
4.上記1に記載の触媒が、担体上に担持されてなる担体担持触媒。
5.上記1〜3のいずれかに記載の触媒、又は上記4に記載の担体担持触媒の存在下に、有機化合物を酸素含有ガスによって気相部分酸化することを特徴とし、該有機化合物が芳香環と結合した炭素原子を含む置換基を分子内に1つ以上有する芳香族化合物であるカルボン酸又はカルボン酸無水物の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、部分酸化反応において特に優れた性能を有する触媒、及び当該触媒の存在下、有機化合物を酸素含有ガスによって気相部分酸化してカルボン酸又はカルボン酸無水物を効率よく製造する製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】炭化ケイ素成型担体(a)のSi29MAS-NMRスペクトルである。
【図2】炭化ケイ素成型担体(b)のSi29MAS-NMRスペクトルである。
【図3】炭化ケイ素成型担体(a)のエネルギー分散型X線分析の結果である。
【図4】炭化ケイ素成型担体(b)のエネルギー分散型X線分析の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[触媒]
本発明にかかる触媒から説明する。
本発明の触媒は、(1)ダイヤモンド、(2)周期律表5族遷移元素の酸化物群から選ばれる1種以上の酸化物A、及び(3)周期律表4族遷移元素の酸化物群から選ばれる1種以上の酸化物Bを含有するものである。
【0017】
《(1)ダイヤモンド》
本発明の触媒に用いられるダイヤモンドに特に制限はなく、天然に産したものであっても人工的に合成されたものであってもよい。天然品の場合には産地、品位などに特に制限はない。人工品の場合には従来公知の方法で合成されたものでよく、出発原料や方法に特に制限はない。
ダイヤモンドの合成方法としては、例えば鉄、コバルト、ニッケル、クロム、マンガン、タンタルなどの遷移金属存在下に1500℃、5GPa程度の高温高圧条件下で黒鉛から合成する方法;アルカリ金属又はアルカリ土類金属元素の炭酸塩、水酸化物、硫酸塩の存在下で2000℃、7GPa程度のより高温高圧条件下で黒鉛から合成する方法;無触媒下で3000℃、15GPa程度の更に高温高圧条件下で黒鉛を直接相転移させる方法(静的高圧法)、マイクロ波、高周波、加熱等によってメタン、一酸化炭素等の含炭素化合物と水素ガス気流中で気相から成長させる方法(化学気相成長法);火薬の爆破によって炭素質を圧縮して合成する方法(爆発衝撃法)などが公知である。これらの方法によって得られた単結晶又は多結晶のダイヤモンドを用いることができる。
【0018】
本発明に用いられるダイヤモンドの形状に特に制限はなく、粒状、板状、薄片状などのものを用いることができる。粒状である場合には、他の材料と共に触媒組成物又は触媒の製造に用いることができるものであれば、その粒度に特に制限はないがmmサイズのダイヤモンドは天然品又は人工品いずれであっても触媒材料として用いるには非常に高価であるため、より安価に供給される粉末状ダイヤモンドを用いることが好ましい。天然品又は人工品の由来に限らず大きなサイズのダイヤモンドを破砕したものや粉末状ダイヤモンドとして産出又は合成されたものなどを用いることができる。その中でも研磨材料として広く利用されている100μm以下、好ましくは10μm以下の粒子径を持つ微粉状ダイヤモンドが好ましい。また、特にダイヤモンドの1重量%以上が100μm以下の粒子径を有するダイヤモンドであることが好ましい。このようなダイヤモンドは、研磨用途に応じて分級処理や化学処理などがなされており、粒度分布や不純物量が管理された工業市販品として容易に入手できるので好適である。一方、ダイヤモンドの粒子径が上記の範囲であると、ダイヤモンドと酸化物との十分な分散混合が可能となるので、良好な触媒を得ることができる。ここで、ダイヤモンドの粒径は、既存のレーザー散乱式粒度測定装置などによって容易に測定評価することができる。
【0019】
本発明に用いられるダイヤモンドの純度にも特に制限はない。天然品、人工品いずれもダイヤモンドが形成された雰囲気や後の加工処理に由来する炭素以外の元素がダイヤモンドの外表面や内部に取り込まれていること、それらが場合によっては数千ppm以上に及ぶことは良く知られている。ダイヤモンドの純度は高い方が望ましいが、そうでなくとも使用に問題はない。ダイヤモンドを含有される不純物や色調などにより分類する方法としてFieldの分類(The Properties of Diamond,p641,Academic Press(1979))が良く知られているが、この分類でいうところのIa型、Ib型、IIa型、IIb型のいずれのタイプであっても単独及び/又は混合して用いることができる。
【0020】
本発明において、ダイヤモンドは耐酸化性の高いものを用いることが好ましい。本発明の触媒を有機化合物の部分酸化反応に用いた場合、有機化合物に比較してダイヤモンドは難酸化性ではあるが、全く酸化されないわけではなく、完全酸化によるダイヤモンドの消失を避けるためである。
ダイヤモンドの耐酸化性は、含まれているホウ素や遷移金属元素の量やダイヤモンド表面の酸化性官能基によって影響を受けると考えられる。このことから、不純物として含まれるFe、Co、Niなどの遷移金属元素は、常圧付近ではダイヤモンドを黒鉛化する触媒作用を有し、黒鉛化した炭素の耐酸化性は著しく低下すると考えられるため遷移金属元素は少ない方が好ましい。そのようなダイヤモンドの例としては天然ダイヤモンド、アルカリ金属又はアルカリ土類金属元素の炭酸塩、水酸化物、硫酸塩の存在下で合成されたダイヤモンド(特公平07−45652号公報、NEW DIAMOND,15(2),p13−19(1999))や無触媒下で黒鉛から直接相転移して合成されたダイヤモンドなどがあげられる。またホウ素含有量を高めることで耐酸化性が向上することも知られており、例えばホウ素含有ダイヤモンド(特表2006−502955号公報、米国出願特許2004/0018137号など)も好適に用いることができる。またダイヤモンドの合成又は加工過程で含まれる遷移金属元素などの不純物を除去処理する方法(特開昭63−303806号公報、特開平9−25110号公報、特開平9−328307号公報など)、ダイヤモンド表面を水素化処理する方法(日本化学会誌,No.11,p631−635(2001)など)などの処理方法も公知であり、これらの処理を施したダイヤモンドも好適に用いることができる。
【0021】
《(2)酸化物A》
本発明の触媒は、(2)周期律表5族遷移元素の酸化物群から選ばれる1種以上の酸化物Aを含む。酸化物Aとしては、酸化バナジウム、酸化ニオブ及び酸化タンタルが好ましく挙げられ、該遷移元素が取り得る範囲で価数に制限はない。これらのうち、酸化雰囲気下で安定であって触媒性能を発揮するためには高価数の酸化物が好ましく、そのような酸化物としては、例えばVO、V、NbO、Nb、TaO、Taなどが好ましく挙げられ、より好ましくはVO、Vといった酸化バナジウムである。反応条件下において少なくとも一部がV、V、V13といったような、より複雑な価数、結晶相をとっていてよい。これらの酸化物を得るための出発原料は、これらの酸化物を与えるものであれば特に制限はなく、例えば対応する元素の、水酸化物、オキシアンモニウム塩、塩化物、オキシ塩化物、オキシ硝酸塩、蓚酸塩、オキシ蓚酸塩などを用いることができる。これらの酸化物は単独使用又は2種以上を併用することができる。
【0022】
《(3)酸化物B》
本発明の触媒は、(3)周期律表4族遷移元素の酸化物群から選ばれる1種以上の酸化物Bを含む。酸化物Bとしては、酸化チタン、酸化ジルコニウム及び酸化ハフニウムが好ましく挙げられ、該遷移元素が取り得る範囲で価数に制限はない。これらのうち、酸化雰囲気下で安定であって触媒性能を発揮するためには高価数の酸化物が好ましく、そのような酸化物としては、例えばTiO、ZrO、HfOなどが好ましく挙げられ、より好ましくはTiOなどの酸化チタンである。これらの酸化物を得るための出発原料は、これらの酸化物を与えるものであれば特に制限はなく、例えば対応する元素の、水酸化物、塩化物、オキシ塩化物、オキシ硫酸塩、オキシ炭酸塩、硝酸塩、蓚酸塩、蓚酸アンモニウム塩、オキシ蓚酸アンモニウム塩などを用いることができる。これらの酸化物は単独使用又は2種以上を併用することができる。
【0023】
《(4)酸化物C》
本発明の触媒は、さらに(4)周期律表6族遷移元素の酸化物群から選ばれる1種以上の酸化物Cを好ましく含む。酸化物Cとしては、酸化クロム、酸化モリブデン及び酸化タングステンが好ましく挙げられ、該遷移元素が取り得る範囲で価数に制限はない。これらのうち、酸化雰囲気下で安定であって触媒性能を発揮するためには高価数の酸化物が好ましく、そのような酸化物としては、例えばCr、CrO、CrO、MoO、MoO、WO、WOなどが好ましく挙げられ、より好ましくはCr、CrO、CrOなどの酸化クロムやMoO、MoOなどの酸化モリブデンである。反応条件下において少なくとも一部がMo11、Mo23、Mo26、W1849、W2058といったような、より複雑な価数、結晶相をとっていてよい。これらの酸化物を得るための出発原料は、これらの酸化物を与えるものであれば特に制限はなく、例えば対応する元素の、水酸化物、塩化物、オキシ塩化物、オキシ酸アンモニウム塩、硝酸塩、酢酸塩、蓚酸塩などを用いることができる。これらの酸化物は単独使用又は2種以上を併用することができる。
【0024】
《(5)酸化物D》
本発明の触媒は、さらに(5)周期律表1、13、14、15及び16族典型元素(ただし炭素元素を除く)の酸化物群から選ばれる1種以上の酸化物Dを好ましく含む。
【0025】
(周期律表1族典型元素の酸化物)
本発明の触媒に用いられる周期律表1族典型元素の酸化物としては、酸化リチウム、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化ルビジウム及び酸化セシウムが好ましく挙げられ、該典型元素が取り得る範囲で価数に制限はない。これらのうち、酸化雰囲気下で安定であるためには高価数の酸化物が好ましく、例えばLiO、NaO、KO、RbO、CsOなどが好ましく挙げられる。これらの酸化物を得るための出発原料は、これらの酸化物を与えるものであれば特に制限はなく、例えば対応する元素の、水酸化物、塩化物、硝酸塩、蓚酸塩、炭酸塩などを用いることができる。これらの酸化物は単独使用又は2種以上を併用することができる。
【0026】
(周期律表13族典型元素の酸化物)
本発明の触媒に用いられる周期律表13族典型元素の酸化物としては、酸化硼素、酸化アルミニウム、酸化ガリウム、酸化インジウム及び酸化タリウムが好ましく挙げられ、該典型元素が取り得る範囲で価数に制限はない。これらのうち、酸化雰囲気下で安定であるためには高価数の酸化物が好ましく、例えばB、Al、Ga、In、Tlなどが好ましく挙げられ、より好ましくはBで示される酸化硼素、Alで示される酸化アルミニウムである。これらの酸化物を得るための出発原料は、これらの酸化物を与えるものであれば特に制限はなく、例えば対応する元素の、水酸化物、塩化物、硝酸塩、蓚酸塩等を用いることができる。これらの酸化物は単独使用又は2種以上を併用することができる。
【0027】
(周期律表14族典型元素の酸化物)
本発明の触媒に用いられる周期律表14族典型元素の酸化物としては、酸化ケイ素、酸化ゲルマニウム、酸化スズ及び酸化鉛が好ましく挙げられ、該典型元素が取り得る範囲で価数に制限はない。これらのうち、酸化雰囲気下で安定であるためには高価数の酸化物が好ましく、例えばSiO、GeO、SnO、PbOなどが好ましく挙げられ、より好ましくはGeOで示される酸化ゲルマニウムである。これらの酸化物を得るための出発原料は、これらの酸化物を与えるものであれば特に制限はなく、例えば対応する元素の、水酸化物、塩化物、硝酸塩、蓚酸塩、酢酸塩などを用いることができる。これらの酸化物は単独使用又は2種以上を併用することができる。
【0028】
(周期律表15族典型元素の酸化物)
本発明の触媒に用いられる周期律表15族典型元素の酸化物としては酸化リン、酸化アンチモン及び酸化ビスマスが好ましく挙げられ、該典型元素が取り得る範囲で価数に制限はない。これらのうち、酸化雰囲気下で安定であるためには高価数の酸化物が好ましく、例えばP、Sb、Sb、Bi、Biなどが好ましく挙げられ、より好ましくはPで示される酸化リン、Sb、Sbといった酸化アンチモンである。これらの酸化物を得るための出発原料は、これらの酸化物を与えるものであれば特に制限はなく、例えば対応する元素の、水酸化物、塩化物、オキシ塩化物、オキシアンモニウム塩、硝酸塩、蓚酸塩、酢酸塩、オキシ酢酸塩などを用いることができる。これらの酸化物は単独使用又は2種以上を併用することができる。
【0029】
(周期律表16族典型元素の酸化物)
本発明に用いられる周期律表16族典型元素の酸化物としては酸化セレン及び酸化テルルが好ましく挙げられ、該典型元素が取り得る範囲で価数に制限はない。これらのうち、酸化雰囲気下で安定であるためには高価数の酸化物が好ましく、例えばTeO、TeO、SeOなどが好ましく挙げられ、より好ましくはTeO、TeOといった酸化テルルである。これらの酸化物を得るための出発原料は、これらの酸化物を与えるものであれば特に制限はなく、例えば対応する元素の、水酸化物、オキシアンモニウム塩、塩化物、オキシ塩化物、オキシ硝酸塩などを用いることができる。これらの酸化物は単独使用又は2種以上を併用することができる。
【0030】
本発明の触媒に用いられる酸化物A〜Dは、個々にアモルファスでも結晶であってもよく、同一化学組成において複数の結晶構造を持つ場合には、それらのいずれか一つ又は二つ以上が混じった状態で用いられてもよい。例えば二酸化チタンの場合には、化学組成式TiOに対してルチル型、アナターゼ型、ブルッカイト型の結晶形が知られているが、これらのいずれか一つであってよく、またこれらから選ばれる二つ以上の結晶形の混晶、双晶や混合物であってもよい。
【0031】
本発明の触媒に含まれる酸化物A〜Dは、個々の成分の混合物であっても、触媒中の成分の少なくとも一部が複合酸化物を形成してもよい。そして、本発明の触媒において、酸化物Aとして酸化バナジウムを採用して有機化合物を部分酸化する場合、助触媒成分として他の酸化物と組み合わせて用いることにより、触媒活性を著しく向上させることができる場合がある。酸化バナジウムと他の酸化物とを組み合わせた場合、反応条件下で有効に作用している具体的な触媒活性点の組成についての詳細は不明であるが、酸化バナジウムの少なくとも一部が酸化チタン、酸化クロム、酸化モリブデンなどの他の酸化物成分と複合酸化物相を形成して、触媒活性や反応選択性を向上させていると考えられる。本発明においては、これらの触媒成分にダイヤモンドが加わることによって、さらに触媒活性が増大されるものと考察される。複合酸化物相が形成されるときには、ヘテロポリ酸のように複数種の酸化物群によって特定の結晶構造を形成するものであってもよい。この場合においても複合酸化物として同一の化学組成で複数の結晶構造を持つ場合には、それらのいずれか一つの結晶構造であってよく、幾つかの結晶構造から選ばれる二つ以上の結晶構造の混晶,双晶や混合物であってよい。
【0032】
《触媒組成》
本発明の触媒は、酸化物Aが酸化バナジウムであり、かつ酸化物Bが酸化チタンであることが好ましい。本発明の触媒が酸化物Cを含有するときは、酸化物Aが酸化バナジウムであり、酸化物Bが酸化チタンであり、かつ酸化物Cが酸化モリブデン及び酸化クロムから選ばれる1種以上であることが好ましい。
また、本発明の触媒は、酸化物Dが、硼素、アルミニウム、ゲルマニウム、リン、アンチモン及びテルルの酸化物から選ばれる1種以上であることが好ましく、硼素及びリンから選ばれる1種以上であることがより好ましい。
【0033】
本発明の触媒におけるダイヤモンドの含有量には特に制限はないが、触媒中の酸化物Aと酸化物Bとの合計含有量100重量部、酸化物Cを含む場合は酸化物A〜Cの合計含有量100重量部に対するダイヤモンド含有量は、0.1重量部以上であることが好ましく、1重量部以上であることがより好ましく、3重量部以上がさらに好ましく、特に好ましくは5重量部以上である。また、発明者は、ダイヤモンド自体には強い酸化能力はなく、必要以上にダイヤモンド添加量を増やしたとしても触媒性能に問題ないことを確認しているが、この場合には触媒製造費が高価になる欠点がある。このことから、触媒中の酸化物Aと酸化物Bとの合計含有量100重量部、酸化物Cを含む場合は酸化物A〜Cの合計含有量100重量部に対するダイヤモンド含有量は、好ましくは200重量部以下、より好ましくは100重量部以下、さらに好ましくは50重量部以下であり、特に好ましくは10重量部以下である。
【0034】
また、本発明における上記酸化物の全重量(酸化物A〜B、酸化物A〜C又は酸化物A〜D)に対する酸化物Aの合計重量は、好ましくは0.5〜50重量%であり、より好ましくは1〜20重量%であり、酸化物Bの合計重量は、好ましくは1〜99重量%であり、より好ましくは70〜99重量%であり、酸化物Cの合計重量は、好ましくは0〜50重量%であり、より好ましくは1〜10重量%であり、酸化物Dの合計重量は、好ましくは0〜50重量%であり、より好ましくは0.5〜10重量%である。この時、各場合において上記酸化物の重量の合計は100重量%である。ダイヤモンドと遷移元素の酸化物A〜B、又は酸化物A〜Cの合計重量に関してのみ好ましい比率があるもの、それ以外の各成分間の比率については上記の組成範囲を満たす限り、特に制限はない。
【0035】
《触媒の製造方法》
部分酸化反応に用いられる触媒においては、反応選択性の向上のために様々な成分を添加する手法が一般的であり、高選択性を有する触媒ほど、成分数が多い傾向がある。添加成分数が多いほど、多成分の原料調合のような調製操作、触媒前処理操作が煩雑になることや最適な反応成績を与える触媒組成範囲、反応条件範囲が狭くなるなどの弊害が予想される。しかし、ダイヤモンドは、物理的、化学的な安定性が非常に高く、他成分との反応による変質や異なる結晶相への転化などが一般的な触媒調製条件下では容易に起こらないため、そのような懸念は少ない。添加時あるいは添加後の処理条件や保存条件などに対しても制約はほとんどなく、適用範囲の広い添加成分として簡便に用いることができる。このことから、本発明の触媒の製造方法として従来公知な触媒製造方法を用いることに何ら問題はない。なかでも、先行技術の特許文献1〜12に記載されているような方法を用いることができ、場合によっては製造スキームの任意の一工程に全く条件変更することなくダイヤモンドを添加するだけで本発明の触媒組成物の製造が可能である。
【0036】
上述のように、ダイヤモンドを含む本発明の触媒の製造方法に特に制限はないが、本発明者の検討によれば、ダイヤモンドと他の金属酸化物群とが触媒中でより充分に分散混合されると、より高い触媒活性あるいは反応選択性が得られる傾向があることから、十分な分散混合を可能とする製造方法が特に好ましい。
【0037】
充分な分散混合状態を図るためには、他の酸化物成分の原料物質に微粉状ダイヤモンドを添加して充分に攪拌又は混合する操作などを調製工程の一部で行うことにより、容易に実施可能である。この操作を取り入れた触媒の製造法の例として、(a)各酸化物成分の水溶性原料からなる均一水溶液に、微粉状ダイヤモンドを加えて充分に撹拌し懸濁状態とした後に、水溶媒を蒸発させるか又は適当な沈澱剤を用いて共沈澱させて前駆物質を形成し、これを焼成などの操作によってダイヤモンドを含有する酸化物混合物へ転化させる方法、(b)一部の酸化物成分の水溶性原料からなる均一水溶液に、一部の酸化物成分及び微粉状ダイヤモンドを加えて充分に撹拌して懸濁状態とした後に、水溶媒を蒸発させるか又は適当な沈澱剤を用いて共沈澱させて前駆物質を形成し、これを焼成などの操作によってダイヤモンドを含有する酸化物混合物へ転化させる方法、あるいは(c)ダイヤモンドと周期律表5族遷移元素の酸化物とを組み合わせた先行技術例(非特許文献1)に記載されているような、酸化バナジウム上にCVD法でダイヤモンド層を成長担持する方法が挙げられる。これらのうち、ダイヤモンドと他の金属酸化物群とが触媒中でより充分に分散混合された場合により高い触媒性能が発揮されることを考慮すると、(a)及び(b)の触媒調製方法が、好ましい。
【0038】
本発明の触媒は、担体を用いずに、それ自体を粒状物あるいは成型体へと加工することで触媒として反応に用いることができる。粒状物あるいは成型体へと加工するには、従来公知な方法を用いることができる。触媒の製造方法の例としては、(d)各酸化物成分の水溶性原料からなる均一水溶液に、微粉状ダイヤモンドを加えて充分に撹拌し懸濁状態のまま噴霧して粒状前駆体を形成し、これを焼成などによってダイヤモンドを含有する酸化物混合物の粒状触媒とする方法、(e)各酸化物成分の水溶性原料からなる均一水溶液に、微粉状ダイヤモンドを加えて充分に撹拌し懸濁状態とした後に、水溶媒を蒸発させるか又は適当な沈澱剤を用いて共沈澱させて前駆物質を形成し、これを打錠、押し出し、造粒等によって成型した後に焼成などによってダイヤモンドを含有する酸化物混合物の成型触媒とする方法、(f)一部の酸化物成分の水溶性原料からなる均一水溶液から水溶媒を蒸発させるか又は適当な沈澱剤を加えて沈澱させて前駆物質を形成し、これに一部の酸化物成分及び微粉状ダイヤモンドを加えて充分に混練し、これを打錠、押し出し、造粒などによって成型した後に焼成などによってダイヤモンドを含有する酸化物混合物の成型触媒とする方法、(g)各酸化物成分の水溶性原料からなる均一水溶液に、微粉状ダイヤモンドを加えて充分に撹拌し懸濁状態とした後に、水溶媒を蒸発させるか又は適当な沈澱剤を用いて共沈澱させて前駆物質を形成し、焼成などによってダイヤモンドを含有する酸化物混合物へ転化した後に、これを打錠、押し出し、造粒などによって成型触媒とする方法、などが挙げられる。
本発明において、粒状物の形状、粒度分布や成型体の形状、寸法などは従来公知のものと同様で反応に適したものを採用することができる。成型体である場合には、その形状は球状、円柱状、リング状などが好適である。
【0039】
《担体担持触媒》
本発明に用いられる触媒は、反応に不活性な担体上に担持されてなる担体担持触媒として、反応に用いることができる。担体材料に特に制限はなく、従来公知なものを用いることができ、担体材料の例としては炭化ケイ素、アルミナ、シリカ、ジルコニア、ステアタイト、コージェライト、ムライト、陶器及び磁器などが好ましく挙げられる。本発明の担体担持触媒においては、これらの担体材料から選ばれた少なくとも1種類を含有する成型担体を使用することが好ましい。これらの担体の形状にも制限はなく、球状、円柱状、リング状などの従来公知な形状のものが好適に用いられ、また担体の寸法、気孔率、BET比表面積などの物性にも制限はなく、従来公知のものと同様の反応に適したものを採用することができる。
【0040】
本発明に用いられる触媒組成物の担体への担持方法として特に制限はなく、従来公知の方法を用いることができるが、上述したように、ダイヤモンドと他の金属酸化物群とが触媒中でより充分に分散混合された状態になるように配慮した担持方法が好ましい。このような観点から、担持方法としては、例えば(h)各酸化物成分の水溶性原料からなる均一水溶液に、微粉状ダイヤモンドを加えて充分に撹拌し懸濁状態とし、これを噴霧しながら担体に吹き付けて担持した後に、焼成などによってダイヤモンドを含有する酸化物混合物が担持された触媒へ転化する方法、(i)一部の酸化物成分の水溶性原料からなる均一水溶液に、一部の酸化物成分及び微粉状ダイヤモンドを加えて充分に撹拌して懸濁状態とし、これを噴霧しながら担体に吹き付けて担持した後に、焼成などによってダイヤモンドを含有する酸化物混合物が担持された触媒へ転化させる方法などが好ましく挙げられる。
本発明の担体担持触媒において、担体担持触媒の全重量に対する触媒の担持量は、好ましくは0.1〜20重量%であり、より好ましくは0.5〜15重量%であり、さらに好ましくは1〜10重量%である。触媒の担持量が20重量%以下であれば、担持成分が剥離しにくくない、0.1重量%以上であれば、充分な反応活性が得られるので好ましい。
【0041】
《触媒の用途》
本発明の触媒は、有機化合物の気相部分酸化に好適に用いられる。有機化合物としては、炭素数1〜20の飽和脂肪族炭化水素、不飽和脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、複素環式化合物、アルコール化合物、アルデヒド化合物、ケトン化合物、エーテル化合物、エステル化合物(ラクトン化合物を含む)と、これら化合物中の炭素原子の一部がカルボキシル基にまで部分酸化される過程で生成する含酸素中間体類であって、気化させて触媒上で部分酸化反応に供することができるものであれば特に制限はない。また、これらから選ばれる1種類又は2種類以上を混合して用いることができ、異なる2種類以上の有機化合物を用いる場合にも混合比率などに何ら制限はない。
本発明の触媒が適用しうる有機化合物を、以下に例示する。
【0042】
(飽和脂肪族炭化水素)
飽和脂肪族炭化水素は直鎖、分枝又は環状のアルカンであれば特に制限はない。例としてメタン、エタン、プロパン、n−ブタン、イソブタン、2−メチルブタン、2,2−ジメチルブタン、n−ヘキサン、2,2,4−トリメチルペンタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、デカリンなどが挙げられる。
【0043】
(不飽和脂肪族炭化水素)
不飽和脂肪族炭化水素は直鎖、分枝又は環状のアルカン中のC−C単結合の少なくとも1つをC=C二重結合へ置換した不飽和化合物であれば特に制限はない。2つ以上の二重結合で置換した化合物の場合、それら二重結合が共役であってもなくてもよい。また幾何異性体が存在する場合、個々の異性体であっても異性体の混合物であってもよい。例としてエチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、イソブテン、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、1−ヘキセン、1,5−ヘキサジエン、シクロペンテン、シクロペンタジエン、シクロヘキセンなどが挙げられる。
【0044】
(芳香族炭化水素)
芳香族炭化水素は少なくとも1つの芳香環を有する化合物であれば特に制限はない。芳香環に直鎖、分枝又は環状のアルキル基、アルケニル基が結合していてよい。複数の芳香環を有する場合、環同士が縮合していても、直接結合していても、環外の少なくとも1つの炭素鎖を介して結合していてもよい。例として、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、n−プロピルベンゼン、i−プロピルベンゼン、n−ブチルベンゼン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、1,2,4−トリメチルベンゼン、1,2,4,5−テトラメチルベンゼン、1,2,4,5−テトラエチルベンゼン、6,7−ジメチル−1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン、スチレン、i−プロペニルベンゼン、スチルベン、テトラリン、ナフタレン、1−メチルナフタレン、2−メチルナフタレン、1,4−ジメチルナフタレン、1,5−ジメチルナフタレン、2,3−ジメチルナフタレン、2,6−ジメチルナフタレン、2,6−ジエチルナフタレン、2,6−ジ−i−プロピルナフタレン、2,7−ジメチルナフタレン、1−アセチルナフタレン、2−アセチルナフタレン、アントラセン、1,2,3,4−テトラヒドロアントラセン、1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロアントラセン、ビフェニル、4−メチルビフェニル、4,4’−ジメチルビフェニル、4,4’−ジメチルビフェニル、4,4’−ジエチルビフェニル、4,4’−ジ−i−プロピルビフェニル、シクロヘキシルベンゼン、ジフェニルメタン、トリフェニルメタン、1,2−ジフェニルエタン、1,2−ビス−(2,4,5−トリメチルフェニル)−エタン、インデン、5,6−ジメチル−1H−インデン、5,6−ジメチル−2,3−ジヒドロ−1H−インデン、インダン、s−インダセン、1,2,3,5,6,7−ヘキサヒドロ−s−インダセンなどが挙げられる。
【0045】
(複素環式化合物)
複素環式化合物は少なくとも1つの複素環を有する化合物であれば特に制限はない。複素環に直鎖、分枝又は環状のアルキル基、アルケニル基、アリール基が結合していてよい。複数の複素環を有する場合、環同士が縮合していても、直接結合していても、環外の少なくとも1つの炭素鎖を介して結合していてもよい。例として、オキシラン、オキセタン、フラン、3−メチルフラン、テトラヒドロフラン、3−メチルテトラヒドロフラン、ピラン、テトラヒドロピラン、ジオキサン、アジリジン、アゼチジン、ピロール、ピロリジン、ピペリジン、ピリジン、ピラジン、ピペラジン、2−メチルピリジン、2−メチル−5−エチルピリジン、3−メチルピリジン、4−メチルピリジン、2−メチルピラジン、イミダゾール、オキサゾール、モルホリン、イソベンゾフラン、フタラン、イソクロメン、イソクロマン、などが挙げられる。
【0046】
(アルコール化合物)
アルコール化合物は上記の飽和脂肪族炭化水素、不飽和脂肪族炭化水素直鎖、芳香族炭化水素、複素環式化合物の中から選ばれる化合物中のC−H結合の少なくとも1つをC−OH結合(水酸基)へ置換したものであれば特に制限はない。例としてメタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノール、イソブタノール、ネオペンタノール、アリルアルコール、クロチルアルコール、メタリルアルコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ピナコール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール、クミルアルコール、2−メチルベンジルアルコール、3−メチルベンジルアルコール、4−メチルベンジルアルコール、3,4−ジメチルベンジルアルコール、2,4−ジメチルベンジルアルコール、2,4,5−トリメチルベンジルアルコール、ベンズヒドロール、フェネチルアルコール、などが挙げられる。
【0047】
(アルデヒド化合物)
アルデヒド化合物は上記の飽和脂肪族炭化水素、不飽和脂肪族炭化水素直鎖、芳香族炭化水素、複素環式化合物の中から選ばれる化合物中の末端メチル(CH)基の少なくとも1つをホルミル(CHO)基へ置換したものであれば特に制限はない。例としてホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n−ブチルアルデヒド、カプロアルデヒド、アクロレイン、メタクロレイン、クロトンアルデヒド、スクシンアルデド、マレアルデヒド、グルタルアルデヒド、ベンズアルデヒド、o−トルアルデヒド、m−トルアルデヒド、p−トルアルデヒド、p−エチルベンズアルデヒド、p−i−プロピルベンズアルデヒド、フタルアルデヒド、イソフタルアルデヒド、テレフタルアルデヒド、3,4−ジメチルベンズアルデヒド、2,4−ジメチルベンズアルデヒド、2,4,5−トリメチルベンズアルデヒド、1−ナフチルアルデヒド、2−ナフチルアルデヒド、1−ナフチルアセトアルデヒド、ビフェニル−4−カルバルデヒド、4'−メチルビフェニル−4−カルバルデヒド、ニコチンアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、シンナムアルデヒド、などが挙げられる。
【0048】
(ケトン化合物)
ケトン化合物は上記の飽和脂肪族炭化水素、不飽和脂肪族炭化水素直鎖、芳香族炭化水素、複素環式化合物の中から選ばれる化合物中のメチレン(CH)基の少なくとも1つをカルボニル(C=O)基へ置換したものであれば特に制限はない。例としてアセトン、2−ブタノン、2−ペンタノン、ピナコロン、2−ヘキサノン、2,3−ブタンジオン、2,4−ペンタンジオン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルビニルケトン、メシチルオキシド、1−フェニル−エタノン、1−o−トリル−エタノン、1−m−トリル−エタノン、1−p−トリル−エタノン、1−(2,4−ジメチルフェニル)− エタノン、1−(2,5−ジメチルフェニル)−エタノン、1−(2,4,5−トリメチルフェニル)−エタノン、ベンゾフェノン、ベンジル、1−ナフタレノン、インデン−1−オン、フルオレノン、1,4−ナフトキノン、6,7−ジメチル−1,4−ナフトキノン、9,10−アントラキノン、2,3,7,8−テトラメチル−9,10−アントラキノン、アントラセン−1,4−ジオン、アントラセン−1,4,5,8−テトラオンなどが挙げられる。
【0049】
(エーテル化合物)
エーテル化合物は上記の飽和脂肪族炭化水素、不飽和脂肪族炭化水素直鎖、芳香族炭化水素、複素環式化合物の中から選ばれる化合物中のメチレン(CH)基の少なくとも1つをエーテル(−O−)結合へ置換したものであれば特に制限はない。例としてジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、シクロヘキシルメチルエーテル、ベンジルメチルエーテル、ジアリルエーテル、アリルメチルエーテル、メタリルメチルエーテル、1,1−ジメトキシエタン、1,1−ジメトキシプロパン、メトキシメチルベンゼン、1−メトキシメチル−2−メチルベンゼン、1−メトキシメチル−3−メチルベンゼン、1−メトキシメチル−4−メチルベンゼン、1−メトキシメチル−2,4−ジメチルベンゼン、1−メトキシメチル−2,4,5−トリメチルベンゼン、1−ジメトキシメチル−2−メチルベンゼン、1−ジメトキシメチル−3−メチルベンゼン、1−ジメトキシメチル−4−メチルベンゼン、1−ジメトキシメチル−2,4,5−トリメチルベンゼンなどが挙げられる。
【0050】
(エステル化合物)
エステル化合物(ラクトン化合物を含む)は上記の飽和脂肪族炭化水素、不飽和脂肪族炭化水素直鎖、芳香族炭化水素、複素環式化合物の中から選ばれる化合物中のメチレン(CH)基の少なくとも1つをエステル(−C(=O)O−)結合へ置換したものであれば特に制限はない。例として酢酸アリル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸メタリル、酪酸メチル、クロトン酸メチル、β−プロピオラクトン、γ−ブチロラクトン、α−メチル−γ−ブチロラクトン、ε−カプロラクトン、2−メチル安息香酸メチル、2,4−ジメチル安息香酸メチル、3,4−ジメチル安息香酸メチル、4−メチルフタル酸ジメチル、4−メチルイソタル酸ジメチル、5−メチルイソタル酸ジメチル、2−メチルテレフタル酸ジメチル、2,4,5−トリメチル安息香酸メチル、4,5−ジメチルフタル酸ジメチル、4,6−ジメチルイソタル酸ジメチル、2,5−ジメチルテレフタル酸ジメチル、5−メチルトリメリット酸トリメチル、6−メチルナフタリン−2−カルボン酸メチル、5−メチルナフタリン−1−カルボン酸メチル、4’−メチル−ビフェニル−4−カルボン酸メチル、フタリド、メチルフタリド、ジメチルフタリドなどが挙げられる。
【0051】
(その他)
有機化合物の分子内の異なる部位が固体触媒上の複数の活性点によって同時期に酸化されるか、あるいは有機化合物分子のある部位が逐次的に酸化されながら触媒層を移動する中で異なる部位の酸化が始まるなどして、酸化反応中には有機化合物分子内に酸化度合いの異なる複数の炭素原子を有した含酸素中間体が生成していると考えられる。その中間体を出発物質として用いても本発明のカルボン酸生成に適用することに全く問題はない。
【0052】
このような含酸素中間体の例としては上記の有機化合物の複数箇所を水酸基、ホルミル基、カルボニル基、エーテル結合、エステル基から選ばれる2つ以上で同時に置換した化合物や、一部の炭素原子がカルボキシル基まで酸化されていて、なお分子内にカルボキシル基まで酸化することが可能な炭素原子を有する化合物(カルボン酸化合物)などである。一部の炭素原子がカルボキシル基まで酸化されている場合には、そのカルボキシル基が近接する他の官能基と結合を形成していてもよく、例えば近接する他のカルボキシル基間で脱水して生成したカルボン酸無水物や近接する水酸基との脱水反応によって生成したラクトン化合物などが該当する。例として、プロピオン酸、アクリル酸、ブタン酸、イソブタン酸、メタクリル酸、3−ブテン酸、2−ブテン酸、4−ヒドロキシ−ブチルアルデヒド、4−ヒドロキシブタン酸、4−ヒドロキシ−2−ブテン酸、4−ヒドロキシブタン酸メチル、4−オキソ−ブタン酸、4−オキソ−2−ブテン酸、マロンアルデヒド酸、アジプアルデヒド酸、2−ホルミル−ベンジルアルコール、3−ホルミル−ベンジルアルコール、4−ホルミル−ベンジルアルコール、フタルアルデヒド酸、イソフタルアルデヒド酸、テレフタルアルデヒド酸、o−トルイル酸、m−トルイル酸、p−トルイル酸、3,4−ジメチル安息香酸、2,4−ジメチル安息香酸、3,5−ジメチル安息香酸、2,4,5−トリメチル安息香酸、4−メチルフタル酸、4−メチルイソタル酸、5−メチルイソタル酸、2−メチルテレフタル酸、4,5−ジメチルフタル酸、4,6−ジメチルイソフタル酸、2,5−ジメチルテレフタル酸、5−メチルトリメリット酸、6−メチルナフタリン−2−カルボン酸、5−メチルナフタリン−1−カルボン酸、4’−ホルミル−ビフェニル−4−カルボン酸、4’−メチル−ビフェニル−4−カルボン酸、フタル酸無水物、メチルフタル酸無水物、ジメチルフタル酸無水物、ピロメリド(7H−Benzo[1,2−c;4,5−c']difuran−1,3,5−trione)などが挙げられる。
【0053】
本発明の触媒は、上記した有機化合物のうち、芳香環と結合した炭素原子を含む置換基を分子内に1つ以上有する芳香族化合物の気相部分酸化反応において、特に優れた性能を有するので好適に用いられる。
【0054】
[カルボン酸又はカルボン酸無水物の製造方法]
本発明のカルボン酸又はカルボン酸無水物の製造方法は、上記した本発明の触媒の存在下に、芳香環と結合した炭素原子を含む置換基を分子内に1つ以上有する芳香族化合物を酸素含有ガスによって気相部分酸化することを特徴とする。ここで、「部分酸化」とは、原料物質中の炭素原子の少なくとも1つ以上をカルボキシル基にまで酸化することをいう。生成するカルボン酸は、モノカルボン酸であってもポリカルボン酸であってもよい。原料物質の分子骨格は保持されていてもいなくともよく、保持されない場合には分解及び/又は燃焼によって原料物質よりも炭素数の少ない低級カルボン酸が生成し、場合によっては生成する低級カルボン酸が多種類になってもよく、原料物質のモル数以上で生成してもよい。この事柄を簡単に示すための例として、ブテン類の気相部分酸化によるギ酸、酢酸、プロピオン酸、マレイン酸の生成(英国特許第1165442号実施例)、1,2−ビス−(2,4,5−トリメチルフェニル)−エタンの気相部分酸化によるピロメリット酸二無水物の生成(特公昭56−12637号公報)などを挙げることができる。
【0055】
原料物質のカルボキシル基へ転化しなかった部位に含まれる炭素原子の飽和度が保持されていてもいなくてもよく、保持されていない場合には分解及び/又は酸化によって不飽和度のより高いカルボン酸が生成してよい。この事柄を簡単に示すための例として、プロパンの気相部分酸化によるアクリル酸の生成(国際公開第06/100128号パンフレット)などを挙げることができる。
【0056】
また生成したカルボキシル基が近接する他の官能基と結合を形成していてもよい。例えば部分酸化の結果、二つのカルボキシル基が近接する場合には、カルボキシル基間の脱水によってカルボン酸無水物となる場合や部分酸化によって生成したカルボキシル基が、近接する水酸基によってラクトン環を形成する場合なども本発明の製造方法に含まれる。ここで、二つのカルボキシル基が近接する場合、もう一方は原料物質が本来持っていたものでも、部分酸化によって生成したものであってもよい。また、生成したカルボキシル基が近接する水酸基は、原料物質が本来持っていたものでも、部分酸化の過程で生成したものであってもよい。なお、この事柄を簡単に示すための例として、o−キシレンの気相部分酸化による無水フタル酸(カルボン酸無水物)、およびフタリド(ラクトン化合物)の生成などを挙げることができる(特公昭49−41271号公報実施例)。
【0057】
《有機化合物》
本発明の製造方法において、原料として用いられる有機化合物は、芳香環と結合した炭素原子を含む置換基を分子内に1つ以上有する芳香族化合物である。本発明の製造方法においては、本発明の触媒を用いることにより、芳香環を保持したまま置換基を側鎖カルボキシル基へ部分酸化した芳香族カルボン酸又は芳香族カルボン酸無水物(以下「芳香族カルボン酸類」ということがある)を製造することができる。このようにして製造される芳香族カルボン酸類は、様々な工業原料として有用である。
本発明の製造方法に原料化合物として用いられる有機化合物について、以下に詳細に記述する。
【0058】
本発明の製造方法により芳香族カルボン酸類を与える、原料化合物として用いられる有機化合物は、分子内に少なくとも1つの芳香環を有し、その芳香環と結合した炭素原子を持つ置換基を分子内に1つ以上、好ましくは2つ以上有する芳香族化合物であり、その炭素数は好ましくは7〜20である。ここで、本発明における芳香環は、単環式のもの、縮合多環式のものや、芳香環を一つ以上有する縮合複素環式のものを含むものである。
【0059】
芳香環と結合した炭素原子を持つ置換基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基(n−プロピル基、i−プロピル基)などのアルキル基;ビニル基、プロペニル基のようなアルケニル基;ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基のようなアシル基;これらアルキル基、アルケニル基、アシル基上の少なくとも1つ以上の水素原子を水酸基又はアルコキシ基で置換したもの、これらアルキル基、アルケニル基、アシル基上の少なくとも1つ以上の炭素原子をホルミル基、カルボニル基、エステル基のいずれかで置換したものなどが挙げられる。これらの置換基のうち、メチル基、エチル基、プロピル基、アセチル基及びホルミル基が好適に使用され、置換基は、これらから選ばれる1種以上であることが好ましい。
さらに置換基は、同じ芳香環上の別の部位と結合して環状構造を形成していてもよい。分子内に複数の芳香環を有する場合には環同士が縮合していても、直接結合していても、環外の少なくとも1つの炭素鎖を介して結合していてもよい。例えば、後に例示するが、ビフェニルやナフタレンなども、本発明で用いられる芳香族化合物に含まれる。分子内に複数の置換基がある場合は同じでも異なってもよく、これらの位置関係にも何ら制限はない。複数の芳香環がある場合の置換基の配置に関しても何ら制限はない。
【0060】
(有機化合物の例示)
本発明で用いられる芳香族化合物としては、本発明の触媒を適用しうる有機化合物として例示した、(i)化合物中の炭素原子の一部がカルボキシル基にまで部分酸化される過程で生成する含酸素中間体、及び(ii)酸化反応中において、分子内に酸化度合いの異なる複数の炭素原子を有した含酸素中間体のほか、(iii)全ての置換基が、側鎖カルボキシル基にまで部分酸化される過程で生成する含酸素中間体も挙げられる。この(iii)の例としては、少なくとも一つの置換基が側鎖カルボキシル基まで酸化されていて、なお分子内にカルボキシル基まで酸化することが可能な置換基を有する芳香族化合物などが挙げられる。この時、生成したカルボキシル基は近接する他の官能基と結合を形成していてもよく、この例として近接する他のカルボキシル基間で脱水して生成したカルボン酸無水物や近接する水酸基との脱水反応によって生成したラクトン化合物などが挙げられる。
【0061】
本発明で用いられる芳香族化合物は、上記したようなものであって、気化させて触媒上で部分酸化反応に供することができるものであれば特に制限はなく、これらから選ばれる1種類又は2種類以上を混合して用いることができる。異なる2種類以上の芳香族化合物を用いる場合にも混合比率などに何ら制限はない。
以下に、本発明で用いられる芳香族化合物を具体的に例示する。
【0062】
上記芳香族化合物の例としては、トルエン、エチルベンゼン、n−プロピルベンゼン、i−プロピルベンゼン、n−ブチルベンゼン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、1,2,4−トリメチルベンゼン、1,2,4,5−テトラメチルベンゼン、1,2,4,5−テトラエチルベンゼン、テトラリン、6,7−ジメチル−1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン、スチレン、i−プロペニルベンゼン、o−トルイル酸、m−トルイル酸、p−トルイル酸、4−エチル安息香酸、4−i−プロピル安息香酸、3,4−ジメチル安息香酸、2,4−ジメチル安息香酸、3,5−ジメチル安息香酸、2,4,5−トリメチル安息香酸、4−メチルフタル酸、4−メチルイソタル酸、5−メチルイソタル酸、2−メチルテレフタル酸、4,5−ジメチルフタル酸、4,6−ジメチルイソタル酸、2,5−ジメチルテレフタル酸、5−メチルトリメリット酸、メチルフタル酸無水物、ジメチルフタル酸無水物、などの単環式芳香族化合物;
スチルベン、ビフェニル、4−メチルビフェニル、4,4’−ジメチルビフェニル、4,4’−ジエチルビフェニル、4,4’−ジ−i−プロピルビフェニル、シクロヘキシルベンゼン、ジフェニルメタン、トリフェニルメタン、1,2−ジフェニルエタン、1,2−ビス−(2,4,5−トリメチルフェニル)−エタン、4’−ホルミル−ビフェニル−4−カルボン酸、4’−メチル−ビフェニル−4−カルボン酸、などの複数の芳香環を有する単環式芳香族化合物;
ナフタレン、1−メチルナフタレン、2−メチルナフタレン、1,5−ジメチルナフタレン、1,4−ジメチルナフタレン、2,3−ジメチルナフタレン、2,6−ジメチルナフタレン、2,6−ジエチルナフタレン、2,6−ジ−i−プロピルナフタレン、2,7−ジメチルナフタレン、アントラセン、1,2,3,4−テトラヒドロアントラセン、1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロアントラセン、5,6−ジメチル−1H−インデン、5,6−ジメチル−2,3−ジヒドロ−1H−インデン、6−メチルナフタリン−2−カルボン酸、5−メチルナフタリン−1−カルボン酸、などの芳香環同士が縮合した芳香環を有する縮合多環式芳香族化合物;
インデン、インダン、s−インダセン、1,2,3,5,6,7−ヘキサヒドロ−s−インダセン、アセナフテン、イソベンゾフラン、フタラン、イソクロメン、イソクロマン、ピロメリド(7H−Benzo[1,2−c;4,5−c']difuran−1,3,5−trione)、などの複素環式化合物;
ベンジルアルコール、クミルアルコール、2−メチルベンジルアルコール、3−メチルベンジルアルコール、4−メチルベンジルアルコール、3,4−ジメチルベンジルアルコール、2,4−ジメチルベンジルアルコール、2,4,5−トリメチルベンジルアルコール、ベンズヒドロール、フェネチルアルコール、2−ホルミル−ベンジルアルコール、3−ホルミル−ベンジルアルコール、4−ホルミル−ベンジルアルコールなどのアルコール化合物;
ベンズアルデヒド、o−トルアルデヒド、m−トルアルデヒド、p−トルアルデヒド、p−エチルベンズアルデヒド、p−i−プロピルベンズアルデヒド、3,4−ジメチルベンズアルデヒド、2,4−ジメチルベンズアルデヒド、2,4,5−トリメチルベンズアルデヒド、フタルアルデヒド、イソフタルアルデヒド、テレフタルアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、シンナムアルデヒド、1−ナフチルアルデヒド、2−ナフチルアルデヒド、1−ナフチルアセトアルデヒド、ビフェニル−4−カルバルデヒド、4'−メチルビフェニル−4−カルバルデヒド、フタルアルデヒド酸、イソフタルアルデヒド酸、テレフタルアルデヒド酸、などのアルデヒド化合物;
1−フェニル−エタノン、1−フェニル−プロパノン、1−o−トリル−エタノン、1−m−トリル−エタノン、1−p−トリル−エタノン、1−(2,4−ジメチルフェニル)− エタノン、1−(2,5−ジメチルフェニル)−エタノン、1−(2,4,5−トリメチルフェニル)−エタノン、ベンゾフェノン、ベンジル、1−ナフタレノン、インデン−1−オン、フルオレノン、1,4−ナフトキノン、6,7−ジメチル−1,4−ナフトキノン、9,10−アントラキノン、2,3,7,8−テトラメチル−9,10−アントラキノン、アントラセン−1,4−ジオン、アントラセン−1,4,5,8−テトラオン、1−アセチルナフタレン、2−アセチルナフタレンなどのケトン化合物;
メトキシメチルベンゼン、1−メトキシメチル−2−メチルベンゼン、1−メトキシメチル−3−メチルベンゼン、1−メトキシメチル−4−メチルベンゼン、1−メトキシメチル−2,4−ジメチルベンゼン、1−メトキシメチル−2,4,5−トリメチルベンゼン、1−ジメトキシメチル−2−メチルベンゼン、1−ジメトキシメチル−3−メチルベンゼン、1−ジメトキシメチル−4−メチルベンゼン、1−ジメトキシメチル−2,4,5−トリメチルベンゼンなどのエーテル化合物;
2−メチル安息香酸メチル、3−メチル安息香酸メチル、4−メチル安息香酸メチル、2,4−ジメチル安息香酸メチル、3,4−ジメチル安息香酸メチル、3,5−ジメチル安息香酸メチル、4−メチルフタル酸ジメチル、4−メチルイソタル酸ジメチル、5−メチルイソタル酸ジメチル、2−メチルテレフタル酸ジメチル、2,4,5−トリメチル安息香酸メチル、4,5−ジメチルフタル酸ジメチル、4,6−ジメチルイソタル酸ジメチル、2,5−ジメチルテレフタル酸ジメチル、5−メチルトリメリット酸トリメチル、6−メチルナフタリン−2−カルボン酸メチル、5−メチルナフタリン−1−カルボン酸メチル、4’−メチル−ビフェニル−4−カルボン酸メチル、フタリド、メチルフタリド、ジメチルフタリドなどのエステル化合物などが挙げられる。
【0063】
上記した芳香族化合物の部分酸化により製造される芳香族カルボン酸の例としては、安息香酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、無水トリメリット酸、ピロメリット酸二無水物、ナフタレンモノカルボン酸類、ナフタレンジカルボン酸類、ナフタレンジカルボン酸無水物、ビフェニルモノカルボン酸類、ビフェニルジカルボン酸類、ビフェニルジカルボン酸無水物などが挙げられる。
【0064】
また、上記した芳香族化合物のうち、本発明においては、キシレンや、炭素数1〜3のアルキル基を有する1,2,4,5−テトラアルキルベンゼンや2,4,5−トリアルキルベンズアルデヒド、なかでも1,2,4,5−テトラメチルベンゼンや2,4,5−トリメチルベンズアルデヒドを用いた場合、特に本発明の触媒の良好な性能を得ることができる。
例えば、芳香族化合物としてキシレンの三異性体であるo−キシレン、m−キシレン及びp−キシレンを使用すれば、安息香酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸などの芳香族カルボン酸類を製造できる。また、炭素数1〜3のアルキル基を有する1,2,4,5−テトラアルキルベンゼンや2,4,5−トリアルキルベンズアルデヒドを使用すれば、ピロメリット酸二無水物などを製造できる。
【0065】
《反応条件など》
本発明の製造方法において、気相部分酸化反応の反応方式、反応条件に特に制限はなく、従来公知な方式や条件を用いることができる。触媒層としては、流動床流通方式か固定床流通方式のいずれの方法も用いることができる。
流動床流通方式の場合には、担体に担持されていない触媒からなる微粒状触媒を用いるのが一般的であり、流動状態下で部分酸化反応を行うに適した粒子径、粒度分布などの触媒物性と反応条件とが採用される。一方、固定床流通方式の場合には、担体に担持されていない触媒からなる成型触媒、又は触媒を担体に担持した成型触媒を用いるのが一般的であり、固定状態下で部分酸化反応を行うのに適した触媒形状、寸法などの触媒物性と反応条件とが採用される。また、固定床流通方式の場合には、触媒組成や触媒成分量の異なる複数種の触媒を反応管中に多層充填して用いることも一般的である。例えば、本発明の触媒を含有する触媒を多層充填層の任意の1つ以上の充填層、あるいは全充填層に用いることができる。いずれの方式とするかは、上記したような状況などを考慮して適宜選択すればよいが、本発明においては、多様な状況に対応しうる点で固定床流通方式が好ましい。
【0066】
反応温度は加熱熱媒温度で250〜550℃が好ましく、より好ましくは300〜500℃の範囲である。反応温度が250℃よりも高ければ、充分な反応速度が得られ、550℃よりも低ければ、完全燃焼が優位になることがなく、部分酸化生成物の収量が低下することもないので、好ましい。ガス空間速度は500〜10000hr−1、好ましくは1000〜8000hr−1である。原料物質のガス濃度は酸素含有ガス1m(標準状態)当たりで5〜200g/m、好ましくは10〜100g/mである。本発明に用いられる酸素含有ガスは分子状酸素を含むものであれば特に制限はなく、空気や酸素ガス又はこれらを窒素、二酸化炭素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガスなどと任意の濃度で混合したものを用いることができる。
【0067】
一般的に有機化合物を酸素含有ガスによって気相部分酸化する反応は完全燃焼反応を伴う激しい発熱反応であることが知られている。反応によって発生した熱を分散させるためには熱伝導性に優れる高純度炭化ケイ素の自己焼結成型体のような担体が好ましいとする公知文献(特許文献13及び14など)もある。しかし、このような担体は、窒素ガスなどの不活性(非酸化性)ガス雰囲気下において、非常に高温度の焼結工程を経て製造されるため、製造コストが高価である。一方で、炭化ケイ素のうち、低温度の空気焼成によって簡便に製造できるために安価であるが、成分の一部(特に表面)にシリカを含有する低純度なものもあるが、これでは良好な反応成績が得難い。
【0068】
本発明者らは、今回見出された触媒の検討を詳細に行う中で、ダイヤモンドを含まない酸化物成分からなる触媒を担持した担体担持触媒の場合には部分酸化生成物の収率が担体中の炭化ケイ素純度に大きく依存するような反応系であっても、触媒の成分中にダイヤモンドが含まれることによって担体の炭化ケイ素純度にほとんど依存せず、高い部分酸化生成物収率が得られるという驚くべき現象を見出した。このことから触媒へのダイヤモンドの添加効果は、部分酸化反応の触媒活性、反応選択性を高めるだけでなく、特殊で高価な担体材料を用いなくても、より廉価な担体材料を採用可能にするという効果も併せ持つことが明らかになった。
【実施例】
【0069】
以下に、本発明の方法について実施例および比較例を挙げてさらに具体的に説明するが、本発明は要旨を超えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。
【0070】
<触媒担体>
炭化ケイ素を主成分とするSaint−Gobain NorPro社製の触媒成型担体として下記の二種類を用いた。
担体(a)素性 不活性ガス雰囲気下で焼成した高純度炭化ケイ素担体
形状:リング状成型品(外径7φ×内径3φ×高さ5mm)
BET比表面積:0.06m/g
細孔容積:0.29ml/g
気孔率:44.0%
担体(b)素性 空気雰囲気下で焼成した炭化ケイ素担体
形状:リング状成型品(外径6φ×内径3φ×高さ6mm)
BET比表面積:0.05m/g
細孔容積:0.24ml/g
気孔率:44.3%
【0071】
両担体の差異を次の方法で評価した。担体(a)及び担体(b)のSi29MAS−NMRスペクトルを、それぞれ図1、図2に示した。J.Ceram.Soc.Jpn.,108,p1110−1113(2000)、及びJ.Am.Chem.Soc.,109,p6059−67(1987)の文献にはSi29MAS−NMRスペクトルの−10〜−30PPM付近にピークを持つシグナルは炭化ケイ素に、−110〜−120PPM付近にピークを持つシグナルは酸化ケイ素に帰属されると報告がある。このことから、図1の担体(a)はほとんど炭化ケイ素のみで構成されており、酸化ケイ素が含まれていないこと、図2の担体(b)では炭化ケイ素のほかに酸化ケイ素が含まれていることがわかる。またSEM−EDXによる表面元素分析の結果をそれぞれ図3、図4、及び表1に示した。こちらでも担体(a)の表面は炭素、ケイ素で占められ、高純度炭化ケイ素であることがわかる。一方で担体(b)では多くの酸素が検出されていること、金属元素のほとんどがケイ素であることから表面に多くの酸化ケイ素が存在していることがわかる。
【0072】
<Si29MAS−NMRの分析条件>
装置名:日本電子株式会社(JEOL)製
JNM−EX270 Solid NMR system
測定モード名:MASGNN(Magic Angle Spin without decoupling)
測定温度:室温(22℃)
パルス幅(PW1):4.5μs
Dead Time:27.8μs
繰り返し時間(PD):15s
<SEM−EDXの分析条件>
装置名:SEM 日立ハイテクノロジー製 S−3400N
EDX エネルギー分散型X線分析装置 堀場製作所製 EX−350
測定モード名:低真空モード 30Pa,加速電圧 15kV,
WD 10mm,反射電子検出器
【0073】
【表1】

【0074】
<実施例1>
市販試薬のバナジン酸アンモニウム〔NHVO〕1.81g(和光純薬工業株式会社製)、蓚酸チタニルアンモニウム〔(NH)TiO(C)〕2.56g、蓚酸〔(COOH)〕2.74g(添川理化学株式会社製)を50℃に加温したイオン交換水100mlに溶解させて原料溶液を調製した。この溶液に市販の粉末状アナターゼ型二酸化チタン(BET比表面積28.0m/g,細孔容積0.17ml/g)10.5g、市販の粉末状天然ダイヤモンド(粒径0〜1μmグレード、BET比表面積24.9m/g、細孔容積0.23ml/g)1.0gを良く混合してスラリー溶液を調製した。上記の炭化ケイ素担体(a)を150℃以上に加熱しながら上記のスラリー溶液を噴霧する事によって担持し、続けて電気炉で500℃、3hrの空気焼成処理によって触媒を製造した。この時の触媒成分の担持量及び組成を表2に記した。
この触媒7.5gを管型反応器(内径18mm、長さ500mm)に充填して溶融塩(硝酸カリウムと硝酸ナトリウムの共溶融物)浴に浸した。溶融塩浴温度を所定温度(表3参照)に調節して、常圧下に2,4,5−トリメチルベンズアルデヒド 12.3g/Nm−空気の濃度のガスを所定のガス空間速度(表3参照)で流通させて接触酸化反応を行った。反応生成物の分析はガスクロマトグラフ分析によった。単位時間当たりに供給した2,4,5−トリメチルベンズアルデヒドのモル基準で生成ピロメリット酸二無水物の収率を算出し、その結果を溶融塩浴温度、空間速度と共に表3に示した。
【0075】
<比較例1>
実施例1においてダイヤモンドを除いてスラリー溶液を調製した以外は同様の操作によって炭化ケイ素担体(a)を用いて触媒を調製した。この時の触媒成分の担持量及び組成を表2に記した。実施例1と同様の方法で2,4,5−トリメチルベンズアルデヒドの接触酸化反応を行った。その結果を溶融塩浴温度、空間速度と共に表3に示した。
【0076】
【表2】

【0077】
【表3】

【0078】
<実施例2>
実施例1において、さらにパラモリブデン酸アンモニウム〔(NH)Mo24〕0.95gを加えて原料溶液を調製した以外は同様の操作によって炭化ケイ素担体(a)を用いて触媒を調製した。この時の触媒成分の担持量及び組成を表4に記した。実施例1と同様の方法で2,4,5−トリメチルベンズアルデヒドの接触酸化反応を行った。その結果を溶融塩浴温度、空間速度と共に表5に示した。
【0079】
<比較例2>
実施例2においてダイヤモンドを除いてスラリー溶液を調製した以外は同様の操作によって炭化ケイ素担体(a)を用いて触媒を調製した。この時の触媒成分の担持量及び組成を表4に記した。実施例1と同様の方法で2,4,5−トリメチルベンズアルデヒドの接触酸化反応を行った。その結果を溶融塩浴温度、空間速度と共に表5に示した。
【0080】
<実施例3>
実施例1において、さらにリン酸二水素アンモニウム〔NHPO〕0.62gを加えて原料溶液を調製した以外は同様の操作によって炭化ケイ素担体(a)を用いて触媒を調製した。この時の触媒成分の担持量及び組成を表4に記した。実施例1と同様の方法で2,4,5−トリメチルベンズアルデヒドの接触酸化反応を行った。その結果を溶融塩浴温度、空間速度と共に表5に示した。
【0081】
<比較例3>
実施例3において、ダイヤモンドを除いてスラリー溶液を調製した以外は同様の操作によって炭化ケイ素担体(a)を用いて触媒を調製した。この時の触媒成分の担持量及び組成を表4に記した。実施例1と同様の方法で2,4,5−トリメチルベンズアルデヒドの接触酸化反応を行った。その結果を溶融塩浴温度、空間速度と共に表5に示した。
【0082】
<実施例4>
実施例3において、ダイヤモンドの種類を市販の粉末状人工ダイヤモンド(平均粒径d50=0.208μm、粒径d10=0.128μm、粒径d90=0.307μm、BET比表面積21.2m/g、細孔容積0.18ml/g)1.0gに変更したこと以外は同様の操作によって炭化ケイ素担体(a)を用いて触媒を調製した。この時の触媒成分の担持量及び組成を表4に記した。実施例1と同様の方法で2,4,5−トリメチルベンズアルデヒドの接触酸化反応を行った。その結果を溶融塩浴温度、空間速度と共に表5に示した。
【0083】
<比較例4>
実施例3において、ダイヤモンドの替わりに市販の粉末状炭化ケイ素(平均粒径0.6μm、BET比表面積12.4m/g、細孔容積0.16ml/g)1.0gを用いてスラリー溶液を調製した以外は同様の操作によって炭化ケイ素担体(a)を用いて触媒を調製した。この時の触媒成分の担持量及び組成を表4に記した。実施例1と同様の方法で2,4,5−トリメチルベンズアルデヒドの接触酸化反応を行った。その結果を溶融塩浴温度、空間速度と共に表5に示した。
【0084】
<実施例5>
実施例1において、さらにリン酸二水素アンモニウム〔NHPO〕0.62gとホウ酸〔HBO〕0.11gを加えて原料溶液を調製した以外は同様の操作によって炭化ケイ素担体(a)を用いて触媒を調製した。この時の触媒成分の担持量及び組成を表4に記した。実施例1と同様の方法で2,4,5−トリメチルベンズアルデヒドの接触酸化反応を行った。その結果を溶融塩浴温度、空間速度と共に表5に示した。
【0085】
<比較例5>
実施例5において、ダイヤモンドを除いてスラリー溶液を調製した以外は同様の操作によって炭化ケイ素担体(a)を用いて触媒を調製した。この時の触媒成分の担持量及び組成を表4に記した。実施例1と同様の方法で2,4,5−トリメチルベンズアルデヒドの接触酸化反応を行った。その結果を溶融塩浴温度、空間速度と共に表5に示した。
【0086】
<実施例6>
実施例3において、炭化ケイ素担体(a)から担体(b)へ変更した以外は同様の操作によって触媒を調製した。この時の触媒成分の担持量及び組成を表4に記した。実施例1と同様の方法で2,4,5−トリメチルベンズアルデヒドの接触酸化反応を行った。その結果を溶融塩浴温度、空間速度と共に表5に示した。
【0087】
<比較例6>
実施例6においてダイヤモンドを除いてスラリー溶液を調製した以外は同様の操作によって炭化ケイ素担体(b)を用いて触媒を調製した。この時の触媒成分の担持量及び組成を表4に記した。実施例1と同様の方法で2,4,5−トリメチルベンズアルデヒドの接触酸化反応を行った。その結果を溶融塩浴温度、空間速度と共に表5に示した。
【0088】
【表4】

【0089】
【表5】

【0090】
<実施例7>
実施例3において調製した触媒を用いて、1,2,4,5−テトラメチルベンゼン 10.7g/Nm−空気の濃度のガス供給した以外は実施例1と同様の方法で、1,2,4,5−テトラメチルベンゼンの接触酸化反応を行った。その結果を溶融塩浴温度、空間速度と共に表6に示した。
【0091】
<比較例7>
比較例3において調製した触媒を用いて、実施例7と同様の方法で、1,2,4,5−テトラメチルベンゼンの接触酸化反応を行った。その結果を溶融塩浴温度、空間速度と共に表6に示した。
【0092】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明によれば、部分酸化反応において特に優れた性能を有する触媒、及び当該触媒の存在下に、有機化合物を酸素含有ガスによって気相部分酸化してカルボン酸又はカルボン酸無水物を効率よく製造する製造方法を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)ダイヤモンド、(2)周期律表5族遷移元素の酸化物群から選ばれる1種以上の酸化物A、及び(3)周期律表4族遷移元素の酸化物群から選ばれる1種以上の酸化物Bを含有する触媒。
【請求項2】
さらに、(4)周期律表6族遷移元素の酸化物群から選ばれる1種以上の酸化物Cを含有する請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
さらに、(5)周期律表1、13、14、15及び16族典型元素(ただし炭素元素を除く)の酸化物群から選ばれる1種以上の酸化物Dを含む請求項1に記載の触媒。
【請求項4】
酸化物Aが酸化バナジウムであり、かつ酸化物Bが酸化チタンである請求項1に記載の触媒。
【請求項5】
酸化物Aが酸化バナジウムであり、酸化物Bが酸化チタンであり、かつ酸化物Cが酸化モリブデン及び酸化クロムから選ばれる1種以上である請求項2に記載の触媒。
【請求項6】
酸化物Dが、硼素、アルミニウム、ゲルマニウム、リン、アンチモン及びテルルの酸化物から選ばれる1種以上である請求項3に記載の触媒。
【請求項7】
酸化物Dが、硼素及びリンから選ばれる1種以上である請求項3に記載の触媒。
【請求項8】
ダイヤモンドの含有量が、酸化物Aと酸化物Bとの合計100重量部に対して、0.1〜200重量部である請求項1に記載の触媒。
【請求項9】
酸素含有ガスによる有機化合物の気相部分酸化に用いられる請求項1に記載の触媒。
【請求項10】
請求項1に記載の触媒が、担体上に担持されてなる担体担持触媒。
【請求項11】
担体が、炭化ケイ素、アルミナ、シリカ、ジルコニア、ステアタイト、コージェライト、ムライト、陶器及び磁器から選ばれる1種以上を含有する成型担体である請求項10に記載の担体担持触媒。
【請求項12】
触媒の担持量が、担体担持触媒の重量に対して0.1〜20重量%の範囲である請求項10に記載の担体担持触媒。
【請求項13】
請求項1〜8のいずれかに記載の触媒又は請求項10〜12のいずれかに記載の担体担持触媒の存在下に、有機化合物を酸素含有ガスによって気相部分酸化することを特徴とし、該有機化合物が芳香環と結合した炭素原子を含む置換基を分子内に1つ以上有する芳香族化合物であるカルボン酸又はカルボン酸無水物の製造方法。
【請求項14】
置換基が、メチル基、エチル基、プロピル基、アセチル基及びホルミル基から選ばれる1種以上である請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
前記芳香族化合物が、o−キシレン、m−キシレン及びp−キシレンから選ばれる1種以上である請求項13に記載の製造方法。
【請求項16】
前記芳香族化合物が、1,2,4,5−テトラアルキルベンゼン及び/又は2,4,5−トリアルキルベンズアルデヒドである請求項13に記載の製造方法。
【請求項17】
前記芳香族化合物が、1,2,4,5−テトラメチルベンゼン及び/又は2,4,5−トリメチルベンズアルデヒドである請求項13に記載の製造方法。
【請求項18】
気相部分酸化が、固定床流通方式で行われる請求項13に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−23030(P2010−23030A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−144444(P2009−144444)
【出願日】平成21年6月17日(2009.6.17)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】