説明

触媒層担持基板の製造方法および燃料電池

【課題】高い触媒利用効率と高い耐久性を持つ触媒層担持基板を提供し、さらに高出力の燃料電池を提供する。
【解決手段】燃料電池のアノード/カソード電極に使用される触媒層担持基板において、基板1上に形成される触媒層15が、触媒材料層または触媒ワイヤー12と空隙13とを含む触媒層を具備し、前記触媒層のX線回折スペクトルの触媒に属するメインピークの半値幅が1.5度以上であり、触媒層の空隙率が30%以上であることすることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒層担持基板の製造方法及び燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池、特にメタノール溶液を燃料としたメタノール型固体高分子型燃
料電池は、低温で動作が可能であって、かつ小型軽量化が可能なため、最近ではモバイル
機器などの電源として盛んに研究されている。しかし、燃料電池の電極の触媒材料には主
に貴金属触媒材料が使用されているため、コストが高く、幅広い普及が可能な水準にはま
だ達していない。少ない貴金属触媒材料の使用で高い燃料電池特性を示す技術が求められ
ている。
【0003】
従来の燃料電池用の電極(触媒層担持基板)の製造には触媒材料、プロトン伝導体、溶
媒などを混ぜてスラリーを作製し、基板に塗布する方法が一般的に使われている。しかし
ながらこの方法ではプロセスによる触媒ロスが約3割と非常に多いという問題点がある。
【0004】
これに対し、プロセスによる触媒ロスが少ない方法としてスパッタ法または蒸着法によ
る製造方法が検討されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、基板に触媒材料をスパッタした後、その上に粒子状カーボン
層を形成することが報告されている。しかしながらこの方法を用いて触媒層を作製すると
、触媒材料の微粒子が大きく凝集し、触媒材料の利用効率が不十分であるという問題点が
ある。
【0006】
また、触媒材料をスパッタした後、Feを含む金属層をスパッタし、多層構造を形成し
、その後金属層を造孔プロセスによって除去し触媒層中に空孔構造を形成すること等が報
告されている(特許文献2)。また溶解しやすい金属(造孔金属)と触媒材料と合金化ま
たは混合してスパッタ或いは蒸着にて形成し、その後の造孔プロセスによって触媒層中に
空孔を形成すること(特許文献3)が報告されている。しかしながら、いずれも触媒材料
の利用効率と耐久性が十分ではなく、更なる向上が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO2002/073722
【特許文献2】特表2007−507328
【特許文献3】米国特許4126934
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑み、触媒層中の触媒材料の利用効率と、触媒層の耐久性を向上
させることが可能な触媒層担持基板を提供することを目的とする。また、それを用いて高
出力の燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、基板上に、触媒材料をスパッタもしくは蒸着し、一層あたりの触媒材料含有
量が、触媒材料のみの層を形成した際の平面相当厚さが0.3nm以上4nm以下に相当
する量である第1層を形成する第1工程、及び、第1層上に造孔材料をスパッタもしくは
蒸着し、平均厚さが1層あたり10nm以上500nm以下である第2工程を複数回交互
に繰り返して前記第1層と前記第2層の積層体を形成する積層工程と、
前記積層工程の後に、前記積層体を造孔処理し、前記造孔材料を溶解除去する造孔処理
工程を具備することを特徴とする触媒層担持基板の製造方法である。
【0010】
また、本発明は、基板と、前記基板上に形成され、触媒材料層または触媒ワイヤーと空
隙とを含む触媒層を具備し、前記触媒層のX線回折スペクトルの触媒に属するメインピー
クの半値幅が1.5度以上であり、前記触媒層の空隙率が30%以上であることすること
を特徴とする触媒層担持基板である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、触媒層の触媒材料の利用効率と触媒層の耐久性を向上させることが可
能となる。また、それを用いて高出力の燃料電池を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施形態に関わる触媒担持基板製造工程を示す断面模式図。
【図2】実施形態に関わる触媒担時基板製造工程を示す断面模式図。
【図3】実施形態に係る膜電極複合体を模式的に示す断面模式図。
【図4】実施例に係る触媒担持基板の触媒層の断面TEM写真。
【図5】実施例に関わる第2層(無機酸化物使用)の厚さと、触媒層の触媒材料に属するメインピークの半値幅及び燃料電池単セル性能を示す特性図。
【図6】実施例に関わる第1層の触媒量と触媒材料に属するメインピークの半値幅及びその触媒層を用いた燃料電池単セル性能を示す特性図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書では、燃料電池の膜電極複合体(MEA)における基板とプロトン伝導性膜間
にある触媒材料を含む層全体を触媒層として記載する。
本実施形態の触媒層担持基板の製造方法及び触媒層担持基板の概略は以下の通りである

【0014】
まず、基板上に触媒材料をスパッタもしくは蒸着により成膜し、触媒材料層(以下、「
第1層」とする。)を形成する(第1工程)。このとき第1層の1層あたりの触媒材料量
を低くする。具体的には、第1層の1層あたりの触媒材料の量は、触媒材料のみの層を形
成した際の平面相当厚さが0.3nm以上4nm以下に相当する量とする。
【0015】
次に第1層上に造孔材料スパッタもしくは蒸着により成膜し、造孔材料層(以下、「第
2層」とする。)を形成する(第2工程)。このとき第2層を第1層に比べて比較的厚く
する。具体的には、第2層の平均厚さは1層あたり10nm以上500nm以下とする。
【0016】
この第1工程と、第2工程を複数回交互に繰り返して前記第1層と前記第2層の積層体
を形成する(積層工程)。
【0017】
次に、前記積層体を造孔処理し、前記第2層の造孔材料を溶解除去する造孔処理を行う
(造孔処理工程)。
【0018】
この製造方法によれば、基板上に形成される触媒層は、第2層の造孔材料が溶解するこ
とにより形成された空隙を介して、第1層の触媒材料がきわめて薄い触媒材料層、又はき
わめて微細な触媒ワイヤーとなり、分散或いは積層された構造となる。これは、特に第1
層中の触媒材料の量が少なく、一方、第2層の厚さが比較的厚いため、積層された第1層
の触媒材料同士が凝集しにくくなることに起因すると考えられる。このとき触媒層は、当
該触媒層のX線回折スペクトルのうち、触媒材料に属するメインピークの半値幅が1.5
度以上となり、また空隙率が30%以上であるであることが望ましい。
【0019】
このような触媒層においては、空隙が多くかつ得られた触媒材料層、或いは触媒ワイヤ
ーが極めて微細であるため、触媒利用効率を高くすることができる。またこれらが多数の
空隙を介して存在するため、触媒粒子の凝集や成長を抑制でき耐久性が向上する。また、
燃料の供給・生成物の排出、高分子プロトン伝導体の導入がよりスムーズに行われ、さら
に触媒利用効率が高くなる。また、燃料電池の電極においては、触媒層中の触媒の利用効
率は燃料―触媒―プロトン伝導体で形成される三相界面の密度に強く依存しているため、
三相界面ができるだけ多くなるよう空隙が多く形成されている点でもこの触媒層は望まし
い。
【0020】
さらに、第1層を形成する際には、触媒材料と共に無機酸化物を成膜することが望まし
い。それにより第1層には触媒材料と共に無機酸化物が含まれる。また、第2層を形成す
る際には、造孔材料として無機酸化物を成膜することが望ましい。第1層又は第2層中の
無機酸化物は造孔処理により一部溶解除去されて空隙を形成するが、一部は残存し、得ら
れた触媒層には微細な無機酸化物が分散して形成される。
【0021】
この触媒層における無機酸化物の存在により、触媒材料の凝集、成長を更に抑制できる
ものと考えられる。また、第1層において空隙が多数形成できるため、触媒材料の凝集、
成長を抑制すると共に、燃料の供給・生成物の排出、高分子プロトン伝導体の導入効果も
促進される。また、成膜時に第1層又は第2層の無機酸化物の構成元素が触媒材料と無機
酸化物との間に特殊な界面が形成し、それが、プロトン伝導性をもたらす可能性がある。
これによって、触媒表面の電極反応によって生成したプロトンがスムーズに伝導され、電
極触媒反応を促進し、高い触媒材料の利用効率と耐久性をもたらしている可能性もある。
【0022】
(実施形態)
以下、本発明を実施するための具体的な実施形態について説明する。
【0023】
図1、図2に第1の実施形態に関わる触媒層の製造工程及び触媒層を説明する模式図を
示す。
【0024】
(第1の工程:触媒材料層形成)
まず、図1(a)に示すように、基板1上に、触媒材料ターゲット2を用い、触媒材料
をスパッタ若しくは蒸着によって成膜し、触媒材料層(第1層)3を形成する。
【0025】
このとき第1層の1層あたりの触媒含有量を低く制限する。具体的には、第1層の1層
あたりの触媒材料の量は、当該触媒材料のみの層を形成した際の平面相当厚さが0.3n
m以上4nm以下に相当する量とする。なお、「平面相当厚さ」は表面に分子が分布した
層に関して、それは不規則に分布し、その表面が平坦でない表面である場合があるが、層
の全質量が表面積として同じ投影面積を覆う平面に亘り均一に分散したと仮定して算出さ
れる厚さを意味する。高い燃料電池特性を得るため触媒層の触媒ローディング量が十分で
あることが必要であるから、0.3nm未満では更なる触媒凝集/成長の抑制効果が少な
いうえに、十分な触媒ローディング量を得るため触媒材料層の層数を増やす必要があり、
製造プロセスのコスト上昇を招く可能性がある。4nmを超えると触媒凝集/成長を抑制
できず、触媒利用効率が低くなる可能性がある。
【0026】
なお、1層あたりの触媒含有量は平面相当厚さを用いて規定しているが、平面相当厚さ
と触媒材料の比重から触媒層単位面積あたりの触媒重量を計算できる。また、化学組成分
析によって触媒層全体の触媒重量を測定し、積層の層数を分母とし、一層あたりの触媒含
有量を求めることができる。本発明では平面相当厚さから求めた1層あたりの触媒含有量
は化学組成分析によって求めた値と一致していることを確認した。
【0027】
第1の工程では、触媒材料ターゲット2に加えて無機酸化物ターゲット4を用い、触媒
材料と無機酸化物を同時にスパッタ又は蒸着して、第1層を触媒材料と無機酸化物の混合
層5とすることが望ましい。この場合、触媒材料と金属酸化物を含む多元合金ターゲット
を使用してもよい。
【0028】
第1層3が、触媒材料と共に無機酸化物を含有すると、造孔処理の後、無機酸化物の一
部が溶解し、一部が残存する。それにより触媒層に微細な空隙が形成されると同時に微細
な無機酸化物粒子が触媒層中に分散される。それにより触媒粒子の凝集/成長を抑制する
効果、及び燃料、反応生成物の出入りの促進及び高分子プロトン伝導体の導入促進効果が
より高くなる。
【0029】
第1層の1層あたりの無機酸化物の量は、当該無機酸化物のみの層を形成した際の平面
相当厚さが0.5nm以上20nm以下に相当する量であることが望ましい。
【0030】
0.5nm未満では無機酸化物の触媒凝集/成長抑制が不十分な場合が多い。20nm
を超えると電極全体の抵抗が大きくなる場合が多い。0.5nm以上10nm以下である
ことがより望ましい。スパッタまたは蒸着によって導入した無機属酸化物の構造は殆どア
モルファスであり、一部は造孔処理によって除去されるが、一部が残存する。成膜時に雰
囲気に酸素を含有させ、酸素量を調整することによって無機酸化物の構造、安定性を調整
することが可能である。この場合は成膜時の雰囲気の酸素分圧を1%以上10%未満にす
ることが好ましい。なお、雰囲気に窒素を含有させ、窒素量を調整することによって無機
酸化物の構造、安定性を調整することもが可能である。この場合は成膜時の雰囲気の窒素
分圧を1%以上10%未満にすることが好ましい。
【0031】
基板1の材料は燃料電池電極の拡散層として用いられることを考慮して、導電性基板材
料若しくはプロトン伝導性基板材料を用いることが出来る。
【0032】
導電性基板材料としては、導電性多孔質シートが望ましい。導電性多孔質シートには、
通気性あるいは通液性を有する材料から形成されたシートを使用することができる。例え
ば、カーボンクロス、カーボンペーパーなどのカーボン材料の多孔質ペーパーや多孔質ク
ロスを挙げることができる。特に繊維状のカーボンを含むことが望ましい。これに限定さ
れるものではなく、導電性と安定性に優れる担体であれば使用することができる。またカ
ーボン材料以外には、導電性を持つセラミックス多孔質基板を導電性基板材料として用い
ても良い。
【0033】
また、プロトン伝導性基板材料としては、例えばフッ素系電解質膜、炭化水素系電解質
膜、及び超強酸性質を持つ複合酸化物膜などを挙げることが出来るが、これに限定される
ものではない。プロトン伝導性を有する材料であれば使用することが出来る。プロトン伝
導性基板材料に触媒層を作製する場合には、プロトン伝導性基板材料の熱安定性を考慮し
て、成膜時の基板温度などのパラメータを調整することが必要である。
【0034】
触媒材料は、触媒活性、導電性、安定性が良い物が望ましく、例えば、貴金属系触媒が
挙げられる。貴金属系触媒とは、Pt、Ru、Rh、Os、Ir、Pd、Auなどの貴金
属元素を用いた触媒のことである。これらの貴金属元素を他の元素の合金として用いるこ
とが望ましい。
【0035】
アノード電極用に用いる場合には、例えば、PtRu1−y−zで示される組成
が挙げられる。ここで、yは0.2≦y≦0.8であり、zは0≦z≦0.5であり、元
素TはW、Hf、Si、Mo、Ta、Ti、Zr、Ni、Co、Nb、V、Sn、Al及
びCrよりなる群から選ばれる少なくとも一種の元素である。
【0036】
また、カソード電極用に用いる場合には、例えばPt1−uで示される組成とする
ことが出来る。ここで、uは0.2≦u≦0.75であり、元素TはW、Hf、Si、M
o、Ta、Ti、Zr、Ni、Co、Nb、V、Sn、Al、Cr、Fe及びMnよりな
る群から選ばれる少なくとも一種の元素である。
【0037】
触媒材料は、貴金属系触媒に限定するものではなく、酸化物系触媒や窒化物系触媒、カ
ーバイド系触媒などを使用してもよい。
【0038】
第1層に導入する無機酸化物は、Zr、Ti、Ta、Ru、Si、Al、Sn、Hf、
Ge、Ga、In、Ce、Nb、W、Mo、Cr、B及びVよりなる群から選択される少
なくとも一種の元素の酸化物であることが触媒成長の抑制効果が安定であるため望ましい

【0039】
(第2の工程 造孔材料層の作製)
図1(b)示すように第1の工程により形成された第1層3上に造孔材料ターゲット7
を用い、スパッタするか若しくは蒸着によって成膜を行い、造孔材料層(第2層)6を形
成する。第2層6の平均厚さは1層あたり10nm以上500nm以下とする。10nm
未満では空隙のサイズが小さくなる。それにより空隙の存在による促進効果が小さくなる
。500nmを超える場合は更なる触媒凝集の抑制効果または空隙構造改善の効果が少な
いうえに、製造プロセスのコスト上昇を招く可能性が高い。より望ましくは15nm以上
200nm以下、さらに望ましくは20nm以上150nm以下である。
【0040】
第2層6の造孔材料は、大部分は最終的には触媒層内の空隙となるため、酸洗浄、アル
カリ洗浄などの造孔工程によって除去できるものであればよい。金属又は無機酸化物が挙
げられるが限定されない。特に無機酸化物が望ましい。無機酸化物を使用することによっ
て、造孔処理により一部が溶解して空隙となり、一部が残存して微細な酸化物粒子となっ
て触媒層中に分散する。それにより触媒粒子の凝集/成長を抑制できる。金属と無機酸化
物の両方を用いてもよい。
【0041】
金属を用いる場合は、短時間で形成できる、除去できるなどプロセスのコストを考える
と、Mn,Fe,Co,Ni,Zn,Sn,Al,Cuから選択される少なくとも一種の
金属が望ましい。特にMnまたはFe単独で使用する。なぜならば、MnやFeは造孔能
力が(特に酸処理の場合に)高いと考えられ、空隙率の高い触媒層が得られ触媒の利用率
が向上するためである。またMnまたはFeのうちの少なくとも1種の金属と、Co,N
i,Zn,Sn,Alから選択される少なくとも一種の金属と少なくとも2種を混合使用
することにより、造孔能力の調節をすることができる。
【0042】
無機酸化物を用いる場合は、Zr,Ti,Ta,Ru,Si,Al,Sn,Hf,e,
Ga,In,Ce,Nb,W,Mo,Cr,B及びVよりなる群から選択される少なくと
も一種の元素の酸化物が触媒成長の抑制効果が安定であるため望ましい。
【0043】
また、造孔材料は、固体酸性を示す無機酸化物であることが望ましい。一般に無機酸化
物のプロトン伝導性は固体酸性と強く相関性を有するため、このような酸化物導入によっ
て酸化物と触媒との界面にはプロトン伝導性を齎す。
【0044】
このような固体酸性を示す無機酸化物として、Zr,Ti,Ta,Ru,Si,Al,
Sn,Hf,Ge,Ga,In,Ce,およびNbよりなる群から選択される少なくとも
一種類からなるX元素を含有する無機酸化物担体(以下、「酸化物担体X」とする。)に
、W,Mo,Cr,B及びVよりなる群から選択される少なくとも一種類からなるY元素
を含有する無機酸化物粒子(以下、「酸化物粒子Y」とする。)を担持させた混合無機酸
化物が挙げられる。この混合無機酸化物の正確なプロトン伝導機構はまだ解明されていな
いが、元素Xを含有する酸化物担体、例えばTiO、ZrO、およびSnOなど、
の表面に元素Yを含有する酸化物粒子例えばWO、MoO、およびVなど、が
担持されることで、酸化物粒子の構造内にルイス酸点が生成する。このルイス酸点が水和
することでブレンステッド酸点になり、プロトンの伝導場が形成されると考えられる。ま
た、プロトン伝導性無機酸化物は非晶質構造を有した場合、このこともルイス酸点生成の
促進に寄与しているものと推測される。
【0045】
酸化物担体Xの形状は粒子状、繊維状、平板状、層状、多孔性などの形状が挙げられる
が限定されるものではない。酸化物担体Xの表面がプロトン伝導サイトになるため、プロ
トン伝導サイトを増大させるにはナノサイズの微粒子状の酸化物を使用することが望まし
い。酸化物粒子Yは、酸化物粒子Xの表面の少なくとも一部に担持されていれば良く、例
えば、酸化物担体Xの表面に点在する微粒子、あるいは酸化物担体Xの表面を覆うような
層状物が挙げられる。酸化物Xまたは酸化物担体Yの結晶性は限定されるものではない。
しかし、ルイス酸点生成の促進、酸性度の向上に寄与する可能性、製造コストの低下、製
造プロセスの容易さを考慮すれば酸化物Yは非晶質であることが望ましい。
【0046】
第2層6に酸化物担体Xに酸化物粒子Yを担持させた無機酸化物を形成するには、まず
、第1の工程で形成した第1層3上に、Y元素無機酸化物7をターゲットとして、スパッ
タし、その後、X元素無機酸化物8をターゲットとしてスパッタし、更にその後にY元素
を含む無機酸化物7をターゲットとしてスパッタする。
【0047】
X元素酸化物とY元素酸化物を同時にスパッタするか若しくは蒸着した層を形成しても
よい。それにより超強酸性が強くなり、プロトン伝導性を向上させる。また、X元素酸化
物とY元素酸化物を同時にスパッタし、XとYの酸化物の自己組織化によってコアシェル
構造を生成させる方法でもよい。また、X元素またはY元素の金属ターゲットを用い、酸
素雰囲気中でスパッタ若しくは蒸着することによって混合無機酸化物層を形成してもよい

【0048】
また、プロトン伝導性無機酸化物としては、硫酸担持金属酸化物(例えば特開P200
4−158261号公報記載)なども挙げられる。
【0049】
スパッタまた蒸着法によって無機酸化物を導入するとき、雰囲気に酸素を含有させ、酸
化物の構造と安定性を調整できる。この場合は酸素分圧を1%以上10%未満とすること
が望ましい。また、雰囲気に窒素を含有させ、窒素量を調整することによって無機酸化物
の構造、安定性を調整することもが可能である。この場合は成膜時の雰囲気の窒素分圧を
1%以上10%未満にすることが好ましい。
【0050】
さらに第2層6の形成時に造孔材料と同時に炭素をスパッタ・蒸着し、第2層に炭素を
含有させても良い。炭素は触媒粒子成長の抑制、導電パスの形成などに効果があると考え
られる。また炭素は酸処理による結晶状態の変化はほとんどない。炭素の添加により空隙
構造を形成でき、多孔質触媒層構造の耐久性を向上させる。炭素の結晶状態については特
に限定されず、スパッタ/蒸着プロセスにおいて基板温度、成長レートを変化させること
により、アモルファス状態或いは結晶状態の炭素を形成することが出来る。結晶性炭素を
用いる場合には、カーボンの導電性と安定性が向上するという効果もある。
【0051】
(第1工程、第2工程の繰り返し)
以上のような第2の工程を行った後にさらに第1の工程を行い、その後第1の工程及び
第2の工程を複数回繰り返すことにより図1(c)に示すような、触媒材料層3と造孔材
料層6とが各々複数層積層された積層体9を得る。
【0052】
本実施形態では基板1上に第1層を形成した後、第2層を積層する例について示したが
、基板1上にまず第2層を形成し、その上に第1層を形成する順序であっても良い。
【0053】
十分な触媒量を確保するため、各々5層以上1000層以下積層するよう、スパッタ若
しくは蒸着を交互に繰り返すことが望ましい。5層以上とすることにより、プロトン伝導
性及び耐久性の付与と触媒ローディング量の向上を両立しやすいという効果を得ることが
出来る。また1000層以下とすることによりプロセスのコスト削減に繋がるという効果
を得ることが出来る。
【0054】
各層の成膜時のスパッタ/蒸着レートは、例えば0.5〜100nm/minにするこ
とが出来る。スパッタリング中の基板温度は400℃以下にすることが望ましい。それよ
り高い温度では、触媒粒子において相分離が生じて触媒活性が不安定になる場合がある。
また、基板の冷却に必要なコストを低減するため、基板温度の下限値は10℃にすること
が望ましい。
【0055】
触媒材料層、造孔材料層の形成時に、スパッタ/蒸着における組成を調整することによ
って、各々の層にまたがって組成勾配を持たせても良い。それにより最終的に空隙率勾配
を持つ多孔質触媒層も作製できる。具体的には、例えば、基板材料側に触媒の含有量を高
め、空隙率を低くし、反対側の触媒を高くすることにより、触媒の利用効率を高めること
が出来る。
【0056】
(造孔処理工程)
次に積層体9に対し造孔処理を行い、空隙構造をもつ多孔質触媒層が形成される。図1
(c)に示す積層体9の場合、第1層3、第2層6から造孔材料を除去する。それにより
図2(d)に示したように、第1層は触媒材料層又は触媒ワイヤー12となる。第2層6
は空隙13となる。これらが積層された触媒層15が得られる。
【0057】
第1層3に無機酸化物を混在した場合は、第1層中に残存した一部の無機酸化物が分散
された構造となる。なお、造孔材料が金属である場合でもその一部は造孔工程後に触媒層
に残存してもよい。残存した金属は雰囲気中の酸素と結合し酸化物となる。残存した酸化
物は触媒粒子の成長抑制に効果があるほか、触媒反応の燃料供給にも寄与できると思われ
る。つまり、アノードの場合であれば、水の供給を、カソードの場合であれば、酸素の供
給を促進する作用もあると考えられる。
造孔処理は、具体的には酸洗浄による造孔処理が容易であり望ましいが、これは限定さ
れるものではなく、十分な空隙構造を作ればほかのプロセスを採用しても良い。例えばア
ルカリ溶液による洗浄造孔、または電解法による造孔でも良い。
【0058】
酸洗浄を行なう場合には、例えば、硝酸、塩酸、硫酸、またはこれらの混合液を用い、
5分〜50時間程度の時間で行うことが出来る。このとき、50〜100℃程度に加熱し
て酸処理を行っても良い。また、場合によっては、触媒中の造孔材料の溶解を促進するた
めにバイアス電圧を加えたり、熱処理などの後処理を加えても良い。
【0059】
また、造孔処理による触媒の流出を抑制するため、基板に触媒層を固定できるものを付
与しても良い。例えば、Nafionなどポリマー溶液に触媒層担持基板を含浸させ、乾
燥させてから造孔処理を行ってもよい。
【0060】
(触媒層担持基板の微細構造)
本実施形態では造孔処理後の触媒層担持基板について以下に説明する。
【0061】
本実施形態の触媒層担持基板は上述した本実施形態の製造方法によって得ることができ
るが、同様の構造が得られる他の製造方法で製造されるものであっても良い。
【0062】
触媒層担持基板は、基板上に触媒層が形成されている。触媒層は、空隙を介して触媒材
料層または触媒ワイヤーが多数積層或いは分散された層となる。触媒層中の触媒材料の形
状の観察はTEM観察にて行うことができる。触媒ワイヤーは長さ方向とワイヤー径の比
(アスペクト比)が3以上と定義する。本実施形態の製造方法において、第1層の1層あ
たりの触媒含有量を、当該触媒材料のみの層を形成した際の平面相当厚さが2nm以下に
相当する量であると、ワイヤー状になる可能性が高い。層状に比べるとワイヤー状のほう
が触媒粒子の凝集/成長が少ないため望ましい。
【0063】
触媒利用効率は触媒材料の結晶粒サイズに依存し、サイズの小さい触媒材料は高利用効
率を得ることができる。また、触媒材料の結晶粒サイズはX線回折ピークの半値幅にて近
似される。X線回折ピークの半値幅は結晶粒のサイズに強く依存し、Scherrer式
に示されるように半値幅が大きい触媒材料は結晶粒が小さい。本実施形態では触媒材料に
属するX線回折ピークの半値幅を用いて触媒層における触媒材料の結晶粒のサイズを規定
する。触媒層は、X線回折スペクトルにおける触媒材料に属するメインピークの半値幅が
1.5度以上であるものを使用する。それにより触媒粒子の凝集/成長の抑制が高く、高
い触媒利用効率や耐久性を示す。1.5度未満では触媒材料のサイズが大きすぎ、上記作
用が十分ではない。
【0064】
なお、触媒材料の微細構造がアモルファス構造である場合と、結晶構造であって結晶粒
サイズが1nm以下の微結晶の場合は、X線回折スペクトルには明確なピークが観察され
ないこともある。X線回折スペクトルは、触媒層に含まれる結晶構造を持つ触媒の平均の
ものであるため、これらアモルファスや微結晶の触媒が多く存在する場合は、X線回折ス
ペクトルが触媒層に存在する触媒の全体平均を反映していない可能性もある。本発明では
第1層の一層あたりの触媒含有量が1nm未満で作製した触媒においてはX線回折ピーク
が観察されない場合がある。触媒に属するX線回折ピークが観察されないことはメインピ
ークの半値幅が無限とし、1.5度以上であるものとみなせる。
【0065】
また、触媒材料の利用効率は、触媒材料のサイズのほかに、燃料―触媒―プロトン伝導
体で形成される三相界面の密度に強く依存しているため、三相界面ができるだけ多くなる
よう触媒層に空隙を導入する必要がある。したがって、触媒層の空隙率が30%以上であ
るものを使用する。空隙率が30%未満では、触媒凝集と触媒成長を十分に抑制できず、
触媒サイズが大きく、高い触媒利用効率が得られにくい。触媒層の空隙率は40%以上9
0%以下となることが特に望ましい。90%以上の場合は更なる触媒凝集の抑制効果が少
ないため、製造プロセスのコスト上昇を招く可能性が高い。
【0066】
なお、上記にて空隙率を示したが、本明細書では以下のように空隙率を求めた。
【0067】
空隙率=1−(造孔処理工程後触媒層中の造孔材料原子含有量+造孔工程後の後触媒原
子含有量)/(造孔工程前触媒層中の造孔材料原子含有量+造孔工程前の触媒原子含有量

なお、本明細書では触媒層の空隙率の測定法は次のように行なった。対象となる触媒層
担持基板と造孔処理前後の組成をICP法によって分析し、上記式に従って、空隙率を求
めるというものである。
【0068】
触媒層には無機酸化物粒子が存在することが望ましい。それにより触媒粒子の凝集/成
長の抑制が高く、高い触媒利用効率や耐久性を示す。造孔処理後触媒層に含まれる無機酸
化物粒子の平均直径は0.5nm以上3nm以下であることが望ましい。3nmを超える
と電極の抵抗が向上し、燃料電池の特性が不安定になる場合が多い。0.5nm未満であ
ると、酸化物微粒子の存在による効果が低くなる。
【0069】
(膜電極複合体及び燃料電池)
膜電極複合体(MEA)は、アノード触媒層、カソード触媒層、及び前記アノード触媒
層とカソード触媒層の間に介挿されたプロトン伝導性膜を有する膜電極複合体であって、
前記アノード触媒層または前記カソード触媒層のいずれか一方は本発明のいずれかの触媒
層担持基板を具備する。
【0070】
燃料電池は、前述したMEA体と、アノードに燃料を供給する手段と、カソードに酸化
剤を供給する手段とを含む。膜電極複合体に加えて、燃料電池流路板を備え、さらにこの
膜電極複合体と燃料電池流路板との間に多孔質燃料拡散層を備えていても良い。使用する
MEAの数は1つでもよいが、複数でもよい。複数使用することにより、より高い起電力
を得ることができる。燃料としては、メタノール、エタノール、蟻酸、あるいはこれらか
ら選ばれる1種類以上を含む水溶液等を使用することができる。
【0071】
図3は、本実施形態に係る膜電極複合体(MEA)を模式的に示す側面図である。
【0072】
図3に示すMEAは、アノード21と、カソード22と、プロトン伝導性膜23とを具
備する。アノード21は、拡散層24と、それに積層形成されたアノード触媒層25とを
備える。カソード22は、拡散層26と、その上に形成されたカソード触媒層27とを含
む。アノード21とカソード22は、プロトン伝導性膜23を介して、アノード触媒層2
5とカソード触媒層27とが対向するように作製される。
【0073】
本実施形態の触媒層はアノード触媒層25及び/またはカソード触媒層27、基板はア
ノード拡散層24及び/またはカソード拡散層26として用いられる。
【0074】
プロトン伝導性膜13に含まれるプロトン伝導性物質は、プロトンを伝達できる材料で
あれば特に制限されることなく使用することができる。プロトン伝導性物質としては、高
分子物質、例えば、ナフィオン(デュポン社製)、フレミオン(旭化成社製)、アシブレ
ック(旭硝子社製)などのスルホン酸基を持つフッ素樹脂や、タングステン酸やリンタン
グステン酸などの無機物などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0075】
なお、本発明の係る触媒担持基板に形成された触媒層をプロトン伝導性膜に転写して膜
電極複合体を作製することにも適用できる。この場合は、膜電極複合体と燃料電池流路板
との間に多孔質燃料拡散層を導入し、空孔率、撥水度、厚さなど多孔質燃料拡散層の構造
を調整し、更なる高い燃料電池特性を得ることが可能である。
【0076】
なお、本発明に係る触媒担持基板はガスを燃料とする燃料電池、例えば改質ガス型高分
子電解質型燃料電池にも適用できる。
【0077】
また、本発明に係る触媒担持基板はMEMS型燃料電池においても有効である。
【実施例】
【0078】
以下、本発明の実施例について説明する。本発明はこの実施例に限定されるものではな
い。
【0079】
[実施例1〜27、28〜30]
(第1工程)
表面に厚さが5〜50μmの炭素層を持つカーボンペーパー(商品名Toray060
)を基板とし、触媒材料ターゲット、または触媒材料ターゲットと酸化物材料ターゲット
をそれぞれ用い、第1層、即ち触媒材料層、或いは触媒材料と無機酸化物との混合層をス
パッタリングにて形成した。第1層は、一層あたりの触媒材料含有量が、触媒材料のみの
層を形成した際の平面相当厚さが0.3〜4nmに相当する量であり、一層あたりの無機
酸化物含有量が、無機酸化物のみの層を形成した際の平面相当厚さが0.5〜20nmに
相当する量である。表1、2に第1層の組成と、第1層の一層あたりの触媒材料含有量、
すなわち当該触媒材料のみの層を形成した際の平面相当厚さ、第1層の一層あたりの無機
酸化物含有量、すなわち当該無機酸化物のみの層を形成した際の平面相当厚さを示す。
【0080】
(第2工程)
造孔材料ターゲットを用い、前記第1層上に第2層、すなわち造孔材料層をスパッタリ
ングにて形成した。第2層は平均厚さが1層あたり10nm以上500nmである。表1
、2に、第2層の組成と厚さを示した。
【0081】
(積層工程)
以上のような第1の工程、第2の工程、PtRuのトータルのローディング量が1mg
/cmになるように、繰り返しスパッタし、積層体を作製した。
【0082】
(造孔処理工程)
その後80℃において10重量%硫酸に積層体を入れ、2時間酸処理を行い、純水によ
って洗浄し、乾燥させ、触媒層担持基板を得た。
【0083】
[比較例1〜5,7,8]
第1層の触媒材料含有量、第2層の平均厚さ等の条件が実施例1〜27と異なる以外、
実施例と同様な方法によって触媒層担持基板を得た。表1、2に比較例1〜5,7,8の
第1層の組成と、第1層の触媒材料含有量、すなわち触媒材料のみの層を形成した際の平
面相当厚さ、及び第2層の組成と厚さを示す。
【0084】
[比較例6]
表面に厚さが5〜50μmの炭素層を持つカーボンペーパー(商品名Toray060
)を基板とし、市販のPtRuブラック(無担持触媒)を用いてスプレー法によって、厚
さが10〜300nmの触媒材料層(触媒量の相当厚さ10nm)を形成した(第1工程
)。
【0085】
その後、溶液法によって作製した無機酸化物を、上記触媒材料層の上に、スプレー法に
よって積層し、厚さが1〜100nmの無機酸化物層を形成した(第2工程)。
【0086】
以上のような、第1の工程及び第2の工程を、PtRuのローディング量が1mg/c
になるように繰り返しスパッタし、積層体を作製した。
【0087】
その後、80℃において10重量%硫酸に積層体を入れ、2時間酸処理を行い、純水に
よって洗浄し、乾燥させ、触媒層担持基板を得た。プロトン伝導性無機酸化物層の一部が
除去され、多孔質構造となった。
【0088】
表1、2に比較例6の第1層の組成と、第1層の触媒材料含有量、すなわち触媒材料の
みの層を形成した際の平面相当厚さ、第2層の組成と厚さを示す。
【0089】
[基板の評価]
透過電子顕微鏡(TEM)によって各実施例と比較例の触媒層を評価した。実施例の触
媒層は、層状の触媒材料層と空隙とを有する触媒層、または触媒ワイヤーと空隙を有する
触媒層であることを確認した。また、触媒層に含まれる無機酸化物粒子の平均直径が3n
m以下であることを確認した(表1、2に無機酸化物粒子の粒径を記載)。また、各触媒
層の造孔処理前後の組成をICPによって分析し、空隙率を求めた。造孔処理後の基板の
X線回折分析(XRD CuKα)を行い、触媒材料に属するメインピークの半値幅を求
めた。その結果を下記表1、2に併記した。
また、燃料電池電極、膜電極複合体、単セルを以下に示す方法で作製し、評価を行った

【0090】
実施例1〜27の一部の触媒層担持基板に5%重量のNafion(R)(デュポン社
製)真空含浸させ、乾燥し、一部には含浸は行なわずに、貴金属触媒のローディング密度
が1mg/cmのアノード電極を作成した。
【0091】
一方、比較例1〜6の触媒層担持基板に5%重量のNafion(R)(デュポン社製
)を含浸させ、乾燥し、貴金属触媒のローディング密度が1mg/cmのアノード電極
を作成した。
【0092】
実施例1〜20、比較例1〜6の基板を使用したこれらのアノード電極と、標準カソー
ド電極(カーボンブラック担持のPt触媒 市販品 田中貴金属社製)を使用し、膜電極
複合体及び燃料電池を作成した。
【0093】
また、実施例28〜30の触媒層担持基板に5%重量のNafion(R)(デュポン
社製)含浸させ、乾燥し、一部には含浸は行なわずに、貴金属触媒のローディング密度が
1mg/cmのカソード電極を作成した。
【0094】
一方、比較例7、8の触媒層担持基板にNafion(R)(デュポン社製)を含浸
させ、乾燥し、貴金属触媒のローディング密度が1mg/cmのカソード電極を作成し
た。
【0095】
実施例28〜30、比較例7,8の基板を使用したこれらのカソード電極と、標準アノ
ード電極(カーボンブラック担持のPtRu触媒 市販品 田中貴金属社製)を使用し、
膜電極複合体及び燃料電池を作成した。
【0096】
なお、表1、2の「Nafion含浸」に「〇」と記入したものにはNafion(R)(デ
ュポン社製)含浸を行い、「−」と記入したものには含浸が行われていない。
【0097】
標準カソード電極は、以下のように作成した。田中貴金属社製Pt触媒2gを秤量した
。このPt触媒と、純水5gと、20%ナフィオン溶液5gと、2−エトキシエタノール
20gとを良く攪拌し、分散した後、スラリーを作製した。撥水処理したカーボンペーパ
ー(350μm、東レ社製)に上記のスラリーをコントロールコータで塗布し、乾燥させ
、貴金属触媒のローディング密度が1mg/cmのカソード電極を作製した。
【0098】
標準アノード電極は、以下のように作成した。田中貴金属社製PtRu触媒2gを秤量
した。このPtRu触媒と、純水5gと、20%ナフィオン溶液8gと、2−エトキシエ
タノール20gとを良く攪拌し、分散した後、スラリーを作製した。撥水処理したカーボ
ンペーパー(350μm、東レ社製)に上記のスラリーをコントロールコータで塗布し、
乾燥させ、貴金属触媒のローディング密度が1mg/cmのアノード電極を作製した。
【0099】
また、標準アノード電極と標準カソード電極を使用し、膜電極複合体及び燃料電池を作
成した。評価結果などは比較例9として表1、2に記載した。なお、標準アノード電極、
標準カソード電極についてXRD,TEM観察を行ったが、何れも層状の触媒材料層と空
隙層とを有する触媒層、または触媒ワイヤーと空隙を有する触媒層を持つことを確認でき
なかった。
【0100】
各電極を使用した膜電極複合体、燃料電池の製造方法の詳細は以下の通りである。
【0101】
<膜電極複合体の作製>
カソード電極、アノード電極それぞれを電極面積が10cmになるよう、3.2×3
.2cmの正方形に切り取り、カソード電極とアノード電極の間にプロトン伝導性固体高
分子膜としてナフィオン117(デュポン社製)を挟んで、125℃、10分、30kg
/cmの圧力で熱圧着して、膜電極複合体を作製した。
【0102】
この膜電極複合体と流路板とを用いて燃料直接供給型高分子電解質型燃料電池の単セル
を作製した。この単セルに燃料としての1Mメタノール水溶液、流量0.6ml/min
.でアノード極に供給すると共に、カソード極に空気を500ml/分の流量で供給し、
セルを65℃に維持した状態で150mA/cm電流密度を放電させ、100時間後の
セル電圧を測定し、その結果を下記表1、2に併記する。耐久性としては2000時間発
電後のセル電圧を測定し、100時間後のセル電圧と比較し、低下率が2%以内のものは
耐久性(◎二重丸)として、2〜5%のものは耐久性(○丸)として、5%以上のものは
耐久性(△三角)として、それぞれ表1、2にまとめた。
【表1】

【表2】

【0103】
表1、2の結果が示されるように、実施例1〜27と比較例1〜5、9と、実施例28
〜30と比較例7〜9とそれぞれ比較すると、実施例によって作製したものは電圧が高く
、耐久性が良く、燃料電池特性が高いとわかる。触媒材料層または造孔材料層に酸化物を
導入することによって燃料電池特性、特に耐久性の向上が得られた。更に、造孔材料層に
混合酸化物を導入することによって特性の更なる向上が得られた。また、Nafionを
導入していない電極でも十分な燃料電池特性が得られたことで、実施例によって作製した
ものはプロトン伝導性をもつことがわかる。
【0104】
また、実施例1と比較例6とを比較すると、本実施例の電極はスプレー法によって作製
した電極より燃料電池特性が高い。スパッタによって触媒層と酸化物層との間に特殊な界
面構造が得られたためと思われる。
【0105】
また、図4に実施例3の触媒層のTEM断面図を示す。触媒層中に細線状で示される微
細な層状の触媒材料が空隙を介して分散していることがわかる。
【0106】
図5、図6に実施例1〜9、比較例1〜4の場合の特性図を示す。図5に第2層(無機
酸化物使用)の厚さと、触媒層の触媒材料に属するメインピークの半値幅及びその触媒層
を用いた燃料電池単セル性能を示す特性図、図6に第1層の触媒量と触媒材料に属するメ
インピークの半値幅及びその触媒層を用いた燃料電池単セル性能を示す特性図を示す。図
5から、第2層が厚くなるにつれ、触媒材料に属するメインピークの半値幅が高くなり(
結晶粒が細かくなり)それに伴い単セル特性が上がっていることがわかる。また、図6か
ら、一層あたりの触媒層が少なくなるにつれ、触媒材料に属するメインピークの半値幅が
高くなり(結晶粒が細かくなり)それに伴い単セル特性が上がっていることがわかる。
【符号の説明】
【0107】
1・・・基板
2・・・触媒材料ターゲット
3・・・触媒材料層(第1層)
4・・・無機酸化物ターゲット
5・・・混合層(第1層)
6・・・造孔材料層(第2層)
7・・・造孔材料ターゲット(Y元素無機酸化物)
8・・・X元素無機酸化物
9・・・積層体
12・・・触媒材料層又は触媒ワイヤー
13・・・空隙
15・・・触媒層
21・・・アノード
22・・・カソード
23・・・プロトン伝導性膜
24・・・アノード拡散層
25・・・アノード触媒層
26・・・カソード拡散層
27・・・カソード触媒層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、触媒材料をスパッタもしくは蒸着し、一層あたりの触媒材料含有量が、触媒
材料のみの層を形成した際の平面相当厚さが0.3nm以上4nm以下に相当する量であ
る第1層を形成する第1工程、及び、第1層上に造孔材料をスパッタもしくは蒸着し、平
均厚さが1層あたり10nm以上500nm以下である第2工程を複数回交互に繰り返し
て前記第1層と前記第2層の積層体を形成する積層工程と、
前記積層工程の後に、前記積層体を造孔処理し、前記造孔材料を溶解除去する造孔処理
工程を具備することを特徴とする触媒層担持基板の製造方法。
【請求項2】
前記第2工程は、前記造孔材料が無機酸化物を有することを特徴とする特徴とする請求項
1記載の触媒層担持基板の製造方法。
【請求項3】
前記第1工程は、前記触媒材料と無機酸化物をスパッタ若しくは蒸着し、第1層が触媒材
料及び無機酸化物を含有し、一層あたりの酸化物含有量が無機酸化物層のみを形成した際
の平面相当厚さが0.3nm以上20nm以下に相当する量であることを特徴とする請求
項1又は2記載の触媒層担持基板の製造方法。
【請求項4】
前記積層工程において、前記第1層及び前記第2層は、各々5層以上1000層以下交互
に積層することを特徴とする請求項1乃至3記載の触媒層担持基板の製造方法。
【請求項5】
前記触媒材料は、W、Hf、Si、Mo、Ta、Ti、Zr、Ni、Co、Nb、V、S
n,Al、Cr、Fe及びMnよりなる群から選ばれる少なくとも一種の元素と貴金属元
素の合金であることを特徴とする請求項1〜4記載の触媒層担持基板。
【請求項6】
前記無機酸化物は、Zr、Ti、Ta、Ru、Si、Al、Sn、Hf、Ge、Ga、I
n、Ce、Nb、W、Mo、Cr、B及びVよりなる群から選択される少なくとも一種の
元素の酸化物であることを特徴とする請求項2又は3に記載の触媒層担持基板。
【請求項7】
前記無機酸化物は、Zr、Ti、Ta、Ru、Si、Al、Sn、Hf、Ge、Ga、I
n、Ce、Nb、W、Mo、Cr、B及びVよりなる群から選択される少なくとも一種の
元素Xを含有する無機酸化物担体に、W、Mo、Cr、B及びVよりなる群から選択され
る少なくとも一種類からなるY元素を含有する無機酸化物粒子を担持させた混合無機酸化
物であることを特徴とする請求項6記載の触媒層担持基板。
【請求項8】
基板と、前記基板上に形成され、触媒材料層または触媒ワイヤーと空隙とを含む触媒層を
具備し、前記触媒層のX線回折スペクトルの触媒に属するメインピークの半値幅が1.5
度以上であり、前記触媒層の空隙率が30%以上であることすることを特徴とする触媒層
担持基板。
【請求項9】
前記触媒層は、無機酸化物を含み、前記無機酸化物は、平均直径0.5nm以上3nm以
下の粒子であることを特徴とする請求項8記載の触媒層担持基板。
【請求項10】
前記触媒材料層または触媒ワイヤーに含まれる触媒材料は、W、Hf、Si、Mo、Ta
、Ti、Zr、Ni、Co、Nb、V、Sn,Al、Cr、Fe及びMnよりなる群から
選ばれる少なくとも一種の元素と貴金属元素の合金であることを特徴とする請求項8また
は9記載の触媒層担持基板。
【請求項11】
前記無機酸化物は、Zr、Ti、Ta、Ru、Si、Al、Sn、Hf、Ge、Ga、I
n、Ce、Nb、W、Mo、Cr、B及びVよりなる群から選択される少なくとも一種の
元素の酸化物であることを特徴とする請求項9に記載の触媒層担持基板。
【請求項12】
前記無機酸化物は、Zr、Ti、Ta、Ru、Si、Al、Sn、Hf、Ge、Ga、I
n、Ce、Nb、W、Mo、Cr、B及びVよりなる群から選択される少なくとも一種の
元素Xを含有する無機酸化物担体に、W、Mo、Cr、B及びVよりなる群から選択され
る少なくとも一種類からなるY元素を含有する無機酸化物粒子を担持させた混合無機酸化
物であることを特徴とする請求項9記載の触媒層担持基板。
【請求項13】
アノード触媒層、カソード触媒層、及び前記アノード触媒層とカソード触媒層の間に介挿
されたプロトン伝導性膜を有する燃料電池であって、前記アノード触媒層または前記カソ
ード触媒層のいずれか一方は請求項8〜12に記載の触媒層担持基板であることを特徴と
する燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−221090(P2010−221090A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−68659(P2009−68659)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】