説明

触媒層

担持されていない金属の個別粒子から形成された多孔質触媒層であって、該個別粒子の少なくとも80%、好適には少なくとも90%が1〜1000ゼプトグラムの質量を有し、該触媒層の金属体積画分が30%未満であり、金属充填量が0.09 mg/cm未満である、触媒層を開示する。この触媒層は、燃料電池及び他の電気化学的用途に好適である。

【発明の詳細な説明】
【発明の概要】
【0001】
本発明は、燃料電池及び他の電気化学的用途に好適な新規な触媒層に関する。
【0002】
燃料電池は、電解質により分離された2個の電極を備えてなる電気化学的電池である。燃料、例えば水素、アルコール(例えばメタノール又はエタノール)、水素化物又はギ酸、がアノードに供給され、酸化体、例えば酸素又は空気、もしくは他の酸化体、例えば過酸化水素、がカソードに供給される。これらの電極で電気化学的反応が起こり、燃料及び酸化体の化学的エネルギーが電気的エネルギー及び熱に変換される。電気触媒を使用してアノードにおける燃料の電気化学的酸化及びカソードにおける酸化体の電気化学的還元を促進する。
【0003】
燃料電池は、通常、それらの電解質に応じて、水素(改質炭化水素燃料を包含する)燃料電池、直接メタノール燃料電池(DMFC)、直接エタノール燃料電池(DEFC)、ギ酸燃料電池及び水素化物燃料電池を包含するプロトン交換メンブラン(PEM)燃料電池、アルカリ電解質燃料電池、リン酸燃料電池(水素又は改質炭化水素燃料を包含する)、固体酸化物燃料電池(改質又は非改質炭化水素燃料)、及び溶融カーボネート燃料電池(水素及び改質炭化水素燃料)に分類される。
【0004】
プロトン交換メンブラン(PEM)燃料電池では、電解質が固体重合体メンブランである。このメンブランは、電気的には絶縁性であるが、イオン的には伝導性である。典型的には、アノードで発生するプロトンがメンブランを横切ってカソードに送られ、そこで酸素と結合して水を形成する。
【0005】
PEM燃料電池の主要構成要素は、メンブラン電極アセンブリー(MEA)と呼ばれ、実質的に5つの層から構成されている。中央層は重合体メンブランである。このメンブランの両側に、アノード及びカソードにおける様々な必要条件に合わせて調製された電気触媒を含む電気触媒層がある。最後に、各電気触媒層に隣接してガス拡散層がある。ガス拡散層は、反応物を電気触媒層に到達させる必要があり、生成物を電気触媒層から除去する必要があり、電気化学的反応により発生した電流を通す必要がある。従って、ガス拡散層は多孔質で、導電性でなければならない。
【0006】
電気触媒層は、一般的に担持されていない、細かく分散した金属粉末(金属黒)の形態にある、又は導電性担体、例えば高表面積炭素材料、上に担持された、金属、(例えば白金族金属(白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム及びオスミウム)、金または銀、もしくは卑金属)から構成される。好適な炭素には、典型的にはカーボンブラック群の炭素、例えばオイルファーネスブラック、超導電性ブラック、アセチレンブラック及びこれらのグラファイト化された品種、が挙げられる。代表的な炭素には、Akzo Nobel Ketjen EC300J、Cabot Vulcan XC72R及びDenka Acetylene Blackが挙げられる。電気触媒層は、層中のイオン伝導性を改良するために配合する他の成分、例えばイオン伝導性重合体、を含んでなるのが好適である。電気触媒層は、反応物を進入させ、生成物を排出させる特定体積画分の多孔度も含んでなる。
【0007】
白金黒も、燃料電池アノードまたはカソード中の触媒として使用することができる。白金黒は、黒色の細かく分割された形態にある担持されていない金属白金である。白金黒は、溶融硝酸ナトリウム中で塩化白金酸アンモニウムを500℃で30分間加熱することを包含する様々な方法により形成することができる。この溶融材料を水中に注ぎ込み、続いて沸騰させ、洗浄して泥状の褐色沈殿物(二酸化白金と考えられる)を形成し、これを遠心分離により濃縮することができる(Platinum Metals Rev. 2007, 51 (1), 52)。この懸濁液を水中で気体状水素で還元することにより、層を形成する粒子径0.5μm〜10μmの黒色懸濁液が得られる(図1参照)。典型的には、白金黒から製造される触媒層の白金充填量は少なくとも1 mg/cmである。
【0008】
燃料電池または燃料電池構成部品の製造業者は、構成部品の性能及び耐久性を改良(またはより低いコストで性能を維持)することを常に求めている。従って、本発明の目的は、燃料電池用途に好適な触媒層を改良することであり、それによって、その触媒層が、高い性能を与えるか、または白金充填量を少なくして同等の性能を与える電気触媒として、または化石燃料、例えばリホーミングのような処理における天然ガス、を転化することにより水素燃料を製造する時に形成される燃料流中の不純物を除去するための気相触媒として、例えば選択的酸化触媒として機能するようにすることである。
【0009】
従って、本発明は、担持されていない金属の個別粒子から形成された多孔質触媒層であって、該個別粒子の少なくとも80%、好適には少なくとも90%が1〜1000ゼプトグラム(zeptogram:10−21g)
の質量を有し、該触媒層の金属体積画分が30%未満であり、金属充填量が0.09 mg/cm未満である、触媒層を提供する。
【0010】
個別粒子の質量は、質量分光測定により測定するが、そのような方法は、当業者には良く知られている。好適には、個別粒子の少なくとも80%、より好適には少なくとも90%が、1〜200ゼプトグラムの質量を有する。
【0011】
好適には、担持されていない金属の個別粒子は実質的に球形である。用語「実質的に球形」とは、我々は、長軸が短軸の長さの2倍以下であることを意味する。好適には、長軸は短軸の長さの1.5倍以下であり、好ましくは、長軸及び短軸が実質的に同等の長さを有する。
【0012】
金属体積画分は、好適には30%未満、好ましくは20%未満である。金属体積画分の計算方法は、当業者には良く知られているであろうが、下記の方法を使用して計算することができる、すなわち(i)正しい金属充填量で固体金属層が有するであろう厚さを計算する、(ii)その層中の金属体積画分を、測定された触媒層の厚さから計算する。下記の式を使用することができる。
金属固体厚さ=金属充填量(cmあたり)/金属の密度
金属体積画分=100x金属固体厚さ/触媒層厚さ
0.02 mgPtcm−2を含む厚さ150 nmの白金触媒層に関する典型的な例は、下記の通りである。
Pt固体厚さ=0.02x10−3 g/21.45 gcm−3=9.32x10−7 cm=9.32 nm
Pt体積画分=100x9.32 nm/150 nm=6.21%
【0013】
触媒層中の総金属の充填量は、好適には0.001 mg/cm金属〜0.09 mg/cm金属、好適には0.005 mg/cm金属〜0.09 mg/cm金属の範囲内であり、触媒層の究極的な用途、例えば触媒層が燃料電池のアノードまたはカソード側に使用されるか、及び触媒層を使用する燃料電池の種類、例えば水素燃料電池、直接メタノール燃料電池、リン酸燃料電池、等によって異なる。
【0014】
本発明の好ましい実施態様では、触媒層の反射率値(平行光反射の寄与(specular contribution)は除く)が少なくとも4、より好適には少なくとも7、例えば少なくとも9である。反射率測定は、当業者には公知の方法を使用して、具体的には、Datacolour International Spectraflash 500分光光度計を使用して行うことができる。
【0015】
金属は、白金族金属(白金、ルテニウム、パラジウム、ロジウム、イリジウム及びオスミウム)、金、銀または卑金属もしくはそれらの酸化物、合金または混合物からなる群から選択することができる。
【0016】
アノードとして使用する場合、特に好適な金属には、Pt、及びRu、Pd、Rh、Os、Sn、Bi、Pb、Ir、Mo、Sb、W、Au、Reからなる群から選択された一種以上の金属またはそれらの酸化物と合金化または混合されたPt、Pd、及びRu、Rh、Os、Sn、Bi、Pb、Ir、Mo、Sb、W、Au、Reからなる群から選択された一種以上の金属またはそれらの酸化物と合金化または混合されたPd、及び国際特許第WO 2005/117172号に挙げられている合金が挙げられる。
【0017】
カソードとして使用する場合、特に好適な金属には、Pt、及びRu、Rh、Ir、Pd、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、V、Zr及びHf、Ta及びNbからなる群から選択された一種以上の金属またはそれらの酸化物と合金化されたPt、及びRu、Rh、Ir、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、V、Zr及びHf、Ta及びNbからなる群から選択された一種以上の金属またはそれらの酸化物と合金化されたPdが挙げられる。
【0018】
触媒層の厚さは、多くのファクター、例えば金属体積画分、使用する金属、金属充填量、及び触媒層の用途、によって異なるが、これらのファクターに限定するものではない。必要な厚さは、触媒層の究極的な用途に応じて、当業者が容易に決定することができる。一実施態様では、非常に薄い、例えば厚さが1μm未満、例えば500 nm未満、の触媒層を使用することができる。
【0019】
本発明の触媒層は、一種以上の重合体、例えばイオノマー、例えばプロトン交換重合体(例えばペルフルオロスルホン酸重合体)または疎水性重合体、例えばPTFE、も含むことができる。イオノマーの存在は、触媒層を電気触媒として使用する場合にプロトン伝導を支援し、疎水性重合体の存在は、ガス透過性を保存するのに役立つ。イオノマーまたは疎水性重合体は、金属堆積工程の際に、イオノマーの分散物を、金属粒子を含むインクに加えることにより加えるか、または後に液体分散物または溶液として加えることができ、それらの一部または全部が触媒層の中に浸透する。金属を乾燥粉末として堆積させる場合、イオノマーも同時に乾燥粉末として堆積させることができる。あるいは、後に続く処理の際に、例えばMEAを形成するためのホットプレス加工の際に、イオノマーを配合することもできる。
【0020】
本発明の触媒層は、多くの方法により製造することができるが、実質的には、質量が1〜1000ゼプトグラムの範囲内にあるゼプトグラム粒子を先ず製造し、次いでこれらの粒子を基材上に堆積させる。本発明の一実施態様では、金属蒸着技術を使用して触媒層を形成し、必要とされるゼプトグラム粒子を形成し、これらを基材に向ける。本発明で必要とされる範囲内のゼプトグラム粒子を製造するのに使用できる他の方法は、当業者には公知であり、化学的方法(例えばアルコール還元、水素化物還元、マイクロ-エマルション法、化学蒸着、電気化学的合成、光分解及び放射線分解、音響化学的合成および熱分解)、物理的方法(例えば超臨界流体、金属蒸着、スプレー熱分解及びプラズマスプレー処理)及びスプレー/熱的方法(例えばスプレー熱分解、ガス噴霧器(スプレーガン)超音波ネブライザー、ファーネス熱分解、火炎熱分解及び熱分解に使用する光源)が挙げられる。
【0021】
触媒金属は、非触媒成分(金属性または非金属性)と共に、共堆積させることもでき、これらの成分は、続いて熱的または化学的処理により、除去しても、しなくてもよい。金属成分と非触媒成分の比を調整することにより、触媒層の多孔度及び構造をさらに制御することができる。続いて除去しない非触媒成分を共堆積することは、層の機械的安定性に貢献し、焼結及び/または凝集を防止するのに役立つ。
【0022】
本発明の触媒層は、どのような好適な基材にでも施すことができる。
【0023】
本発明の一実施態様では、触媒層をガス拡散層に付け、ガス拡散電極(アノードまたはカソード)を形成することができる。従って、本発明の別の態様は、本発明の触媒層を含んでなるガス拡散電極を提供する。続いて一個以上の追加触媒層(例えばPt、PtRu)をガス拡散電極上の本発明の触媒層に付け、2個以上の触媒層(層状構造)を有する電極を形成することができる。一個以上の追加触媒層は、本発明の触媒層でよいか、または従来技術、例えばスクリーン印刷またはスプレー被覆、により付けた従来の触媒層(例えば金属黒または炭素担持触媒)でよい。本発明の触媒層は、電気触媒層または気相触媒層、例えば選択的酸化触媒層、でよい。選択的酸化触媒層の場合、その層は、ガス拡散層に最も近く、メンブランから最も遠い所に位置することになろう。
【0024】
触媒層を付けるガス拡散層は、当業者には公知の従来のガス拡散基材である。典型的な基材には、炭素紙(例えばToray Industries、日本国、から市販のToray(商品名)紙またはMitsubishi Rayon、日本国、から市販のU105またはU107紙)、炭素織布(例えばMitsubishi Chemicals、日本国から市販のMKシリーズ炭素織布)、または不織炭素繊維ウェブ(例えばE-TEK Inc.米国、から市販のELATシリーズ不織基材、Freudenberg FCCT KG、独国、から市販のH2315シリーズ、またはSGL Technologies GmbH、独国、から市販のSigracet(商品名)シリーズ)が挙げられる。炭素紙、布またはウェブは、典型的には、基材中に埋め込まれた、または平らな面上に被覆された、もしくは両者の組合せによる、粒子状材料で変性されている。粒子状材料は、典型的にはカーボンブラックと重合体、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、の混合物である。好適には、ガス拡散層は、厚さが100〜300μmである。好ましくは、粒子状材料、例えばカーボンブラック及びPTFE、の層が、ガス拡散層の、電気触媒層と接触する面上にある。ガス拡散層は、平らでも、構造化されていてもよい。用語「構造化された」とは、我々は、ガス拡散層が、ガス流路を与えるために波形になっている、巻き込んである、または予め粗面化してあることを意味する。
【0025】
あるいは、本発明の触媒層を付ける基材は、予備形成されたガス拡散電極、アノードまたはカソード、でよい、すなわち従来技術、例えばスクリーン印刷またはスプレーコーティング、により、触媒層をすでに付けてあるガス拡散層(上に説明したような) でよく、その触媒層は、本発明の触媒層または従来の触媒層(例えば金属黒または炭素担持触媒)でよい。やはり、多層構造が得られるが、電極上の最終層は本発明の触媒層である。
【0026】
本発明の別の実施態様では、本発明の触媒層は、メンブラン、例えばイオン伝導性メンブラン、に付けることもできる。従って、本発明の別の態様は、本発明の触媒層を含んでなる触媒被覆されたメンブランを提供する。続いて、一個以上の追加触媒層(例えばPt、PtRu)を、メンブラン上の本発明の触媒層に付け、2個以上の触媒層を有する触媒被覆されたメンブランを形成することができる。一個以上の追加触媒層は、本発明の触媒層でよいか、または従来技術、例えばスクリーン印刷、により付けた従来の触媒層(例えば金属黒または炭素担持触媒)でよい。一実施態様では、本発明の触媒層に由来する金属粒子がメンブラン中に埋め込まれており、これによってメンブラン/触媒層界面の相互作用を最大限にする。これを達成する方法は、触媒層の形成に使用する方法によって異なるが、当業者なら容易に決定することができよう。例えば、触媒被覆されたメンブランを、形成後にホットプレス加工し、本発明の触媒層の一部をメンブラン中に押し込むことができる。ホットプレス加工条件を制御することにより、層の多少の部分をメンブランをメンブラン中にむことができる。あるいは、金属蒸着のような経路を使用する場合、触媒層を堆積させる際に、金属粒子がメンブラン中に埋め込まれるように、処理条件を変えることができる。
【0027】
あるいは、本発明の触媒層を上に付けるメンブランは、予備形成された、触媒被覆されたメンブランでよく、その触媒層は、本発明の層でよいか、または従来技術、例えばスクリーン印刷またはスプレー被覆、により付けられた従来の触媒層(例えば金属黒または炭素担持触媒)でよい。やはり、多層構造が得られるが、触媒被覆されたメンブラン上の最終層は本発明の触媒層である。本発明の触媒層は、電気触媒層または気相触媒層、例えば選択的酸化触媒層、でよい。選択的酸化触媒層の場合、その層は、ガス拡散層に最も近く、メンブランから最も遠い所に位置することになろう。
【0028】
メンブランは、燃料電池で使用するのに好適な、どのようなメンブランでもよく、例えば、メンブランは、過フッ化スルホン酸材料、例えばNafion(商品名)(DuPont de Nemours)、Flemion(商品名)(Asahi Glass)およびAciplex(商品名)(Asahi Kasei)、を基材とすることができ、これらのメンブランは、変性せずに使用することも、あるいは高温性能を改良するか、または過酸化物分解生成物による攻撃に対する耐性を改良するために、例えば添加剤を配合することにより、変性することもできる。メンブランは、プロトン伝導性材料及び他の、機械的強度のような特性を与える材料を含む複合材料メンブランでよい。例えば、メンブランは、ヨーロッパ特許第875524号明細書に記載されているように、プロトン伝導性メンブランおよびシリカ繊維のマトリックスを含むか、またはメンブランは、膨脹させたPTFEウェブを含むこともできる。あるいは、メンブランは、スルホン化炭化水素メンブラン、例えばPolyFuel、JSR Corporation、FuMA-Tech GmbH、その他から市販のメンブラン、を基材とすることができる。あるいは、メンブランは、リン酸でドーピングされたポリベンズイミダゾールを基材とすることもでき、BASF Fuel Cell GmbHのような開発者から市販のメンブラン、例えば120℃〜180℃で機能するCeltec(商品名)-Pメンブラン、及び他の新開発メンブラン、例えばCeltec(商品名)-Vメンブラン、が挙げられる。本発明の触媒層は、プロトン以外の電荷キャリヤーを使用するメンブラン、例えばOH伝導性メンブラン、例えばSolvay Solexis S.p.A., FuMA-Tech GmbHから市販のメンブラン、による使用にも適している。メンブランは、平らでも、構造化されていてもよい。用語「構造化された」とは、我々は、メンブランが、触媒層と接触する表面積を増加するために、巻き込んである、または予め粗面化してある、あるいは表面の構造的特徴を追加していることを意味する。
【0029】
本発明の別の実施態様では、触媒層を上に施す基材が転写基材である。従って、本発明の別の態様は、本発明の触媒層を含んでなる転写基材を提供する。転写基材は、当業者には公知の好適などのような転写基材でもよいが、好ましくは、重合体状材料、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)またはポリプロピレン(特に二軸延伸したポリプロピレン、BOPP)またはポリイミド、例えばKapton、もしくは重合体被覆された紙、例えばポリウレタン被覆された紙、である。転写基材は、シリコーン剥離紙または金属ホイル、例えばアルミニウムホイル、でもよい。本発明の触媒層は、ガス拡散基材、ガス拡散電極、メンブランまたは触媒被覆されたメンブランに、当業者には公知の技術により転写することができる。
【0030】
本発明の別の実施態様では、本発明の触媒層を上に施す基材が、粒子状材料、例えば粉末または繊維状材料、である。粉末材料には、カーボンブラック、グラファイト、炭化タングステン、ケイ素及び他のいずれかの好適な粉末が挙げられる。好適な繊維状材料には、炭素の繊維またはナノ繊維、金属または好適な重合体、が挙げられるが、これらに限定するものではない。好ましくは、粉末または繊維状基材は、電子伝導性であるが、非導電性基材も、堆積させた触媒が基材の表面上に導電性層を形成するのであれば、使用できる。
【0031】
別の実施態様では、本発明の触媒層は、他の基材、例えばモノリス、例えば炭素モノリス(例えば国際特許第WO 2008/032115号に記載されているような)、に付けることができる。モノリスは、燃料電池中のフローフィールド及びガス拡散層の代わりに使用することができるが、但し、燃料及び酸化体を触媒層に供給し、触媒層から反応生成物を除去することができるように、モノリスの、触媒層に隣接する壁が多孔質である必要がある。本発明により、触媒層をそのようなモノリスに、直接堆積させるか、または転写媒体を使用して施すことができる。
【0032】
本発明の触媒層は、2個の電極を分離した状態に保持し、液体電解質用の貯蔵部として作用する多孔質構造(以下、セパレータと呼ぶ)中に電解質が保持される電池、例えばリン酸燃料電池、にも使用できる。従って、別の実施態様では、触媒層がセパレータ、例えば炭化ケイ素マトリックス、に施されており、電極は、セパレータの片側にあっても、なくてもよい。
【0033】
別の実施態様では、本発明の触媒層を、テンプレートに施すことができ、そのテンプレートは、触媒層の形成に続いて除去するように設計されている。熱を加えて分解を引き起こすことにより除去できる材料、例えば重合体及び他の有機材料(ポリスチレン、メチルセルロース、ポリプロピレンカーボネート、等)、または昇華により除去できる材料、例えば炭酸アンモニウム、が、溶解または分解により化学的に除去できる材料、例えば糖及び塩、例えば炭酸カルシウム、シュウ酸アンモニウム、炭酸リチウム、酸化アルミニウム、と同様に、好適である。
【0034】
別の実施態様では、触媒層がパターン形成または組織化された様式で堆積するように、基材を変性することができる。例えば、基材は、電圧を直接印加することにより、パターン形成または組織化した導電性基材でよい。触媒は、電界が最も高い所に優先的に堆積し、パターン形成または組織化された触媒層を形成する。あるいは、基材を、導電性及び絶縁性区域でパターン形成することができ、堆積は導電性区域で優先的に起こる。あるいは、触媒を、水性または有機性溶剤を基剤とする液体中に分散させる場合、基材を疎水性材料で変性し、触媒層の堆積を特定区域に向けることができる。他の、基材を変性し、構造化またはパターン形成された触媒層を造り出す方法は、当業者には公知であるか、または当業者が容易に決定することができる。
【0035】
本発明の別の実施態様は、本発明の触媒層を備えてなるメンブラン電極アセンブリー(MEA)を提供する。このMEAは、下記の方法、すなわち
a)イオン伝導性メンブランを、少なくとも一方が本発明の電極である2個のガス拡散電極(1個のアノード及び1個のカソード)間に挟むことができる、
b)片側だけを触媒層で被覆した触媒被覆されたメンブランを、(i)ガス拡散層とガス拡散電極の間に、ガス拡散層が、メンブランの、触媒層で被覆された側と接触させて挟むか、あるい(ii)触媒層の少なくとも一方及びガス拡散電極が本発明に従う2個のガス拡散電極の間に挟むことができる、
c)両側を触媒層で被覆した触媒被覆されたメンブランを、(i)2個のガス拡散層、(ii)ガス拡散層とガス拡散電極または(iii)2個のガス拡散電極の間に挟むことができ、その際、触媒層及びガス拡散電極の少なくとも一方が本発明に従う、を包含する多くの様式で製造することができるが、これらに限定するものではない。
【0036】
MEAは、例えば国際特許第WO 2005/020356号に記載されているように、MEAの縁部区域を密封及び/または補強する構成部品をさらに備えてなることができる。MEAは、当業者には公知の従来方法により組み立てる。
【0037】
MEAは、燃料電池積重構造、例えばプロトン交換メンブラン燃料電池(PEMFC)、直接メタノール燃料電池(DMFC)、高温燃料電池(100℃〜250℃の温度範囲で使用する)またはアルカリ陰イオン交換メンブラン燃料電池で使用することができる。 従って、本発明の別の態様は、本発明のMEAを備えてなる燃料電池を提供するMEAは、従来方法を使用して燃料電池中に組み込むことができる。
【0038】
あるいは、本発明の電極は、液体電解質燃料電池、例えば電解質が担持マトリックス、例えば炭化ケイ素、中の液体リン酸であるリン酸燃料電池、または電解質が典型的には高濃度アルカリ、例えば6M水酸化カリウム、であるアルカリ燃料電池に直接使用することができる。従って、本発明の別の態様は、本発明の電極を備えてなる燃料電池、特にリン酸燃料電池を提供する。そのような燃料電池は、150℃〜210℃で操作することができる。
【0039】
ここで本発明を下記の例によりさらに説明するが、これらの例は、例示のためであって、本発明を制限するものではない。
【0040】
触媒層の調製
本発明の触媒層を、ナノ粒子堆積方式を使用して調製した。マグネトロンスパッター供給源を使用して白金を霧状にした。原子が凝集してナノ粒子を形成し、薄く裂いたPTFEシート基材に向けて放射した。堆積条件を変え、それぞれ異なった層密度を有し、白金充填量が0.02 mgPt/cmである3種類の異なった触媒層をPTFE基材上に形成した。層が厚い程、金属体積画分が低く、従って、遊離多孔度がより高く、これは、電気触媒挙動に対して有益な効果を有することが分かった。
【0041】
【表1】

【0042】
図2は、形成後の、但し触媒層中に配合する前の、個別粒子の粒子質量分布を示す。粒子の形式上質量は約40ゼプトグラム(zg)であり、これは、球形と仮定してPtに対する3.3 nmの粒子直径に相当する。非常に僅かな粒子が100 zgを超える質量を有し、これは4.5 nmのPt粒子径に相当する。本発明の層で使用する粒子は、図1でPt黒分散物に対して示す粒子よりはるかに小さい。
【0043】
PTFEシートから、Asahi GlassからSH-30の商品名で市販されているポリフルオロスルホン酸メンブラン上に転写紙を使用する転写により形成された#1層の反射率を測定し、白金黒から調製した触媒層の反射率と比較した。反射率の測定は、Datacolour International Spectraflash 500分光光度計を使用して行った。分光光度計は、どちらもDatacolour Internationalから供給される白色標準タイル及び黒色トラップを使用して校正した。反射百分率を400〜700 nmの領域で記録し、平行光反射の寄与を除外した。試料を黒色標準カード(Sheen Instruments, Teddington, 英国から市販のRef 301/2A)上に取り付け、その反射率も測定した(バックグラウンド)。図3に示す反射率データは、比較用のPt黒を基材とする触媒層上で測定した反射率より、はるかに高い触媒層#1からの反射率を示している。
【0044】
触媒被覆されたメンブランの調製
3個の触媒被覆されたメンブラン(CCMs)を、上で調製した3個の触媒層のそれぞれから調製した。触媒層をPTFE基材から、Asahi GlassからSH-30の商品名で市販のポリフルオロスルホン酸メンブラン(厚さ30μm)上に、転写紙法により温度150℃、圧力400 psiで転写した。Nafion 1100EWイオノマーを、炭素の重量に対して90%充填量で添加した従来のカーボンブラック担持された白金触媒(0.4 mgPt/cm)を、転写紙により同じ条件下で、メンブランの第二の側面に付けた。
【0045】
MEA調製及び性能試験
上で調製した各CCMを、2個のガス拡散層(Carbon-PTFE微小多孔質層で被覆したToray TGP-H-60)と、CCMの各側面に1個のガス拡散層を配置して組み立てた。これらの層を、燃料電池性能試験用に、本発明の触媒層であるアノードと共に、3.14単一電池に圧縮した。電池を、アノード上の純粋H及びカソード上の純粋Oで、80℃で、ガスを露点80℃で加湿(すなわち完全加湿)して作動させた。本発明の触媒層を使用するMEAを、アノード及びカソードの両方に白金充填量0.4 mgPt/cmの標準的な触媒層を有する電池と比較した。図4は、本発明の触媒層がアノードである場合に得られる性能を示す。本発明のMEAの活性は、はるかに低い白金充填量で、標準的なMEAの活性に匹敵する。
【0046】
性能 vs. 相対湿度に対するアノード触媒層の影響
CCM及びMEAを、表1における層#1と同じ様式で調製した触媒層から、上記のように、但し、活性面積を50 cmにして、単一電池構造に取り付けて調製し、80℃、50 kPaゲージ、両方のHと空気の化学量論的比を2.0にして試験した。分極曲線を、アノード/カソード上の3種類の異なった湿度条件、すなわち100/100%、100/50%及び30/30%相対湿度、下で測定した。図5に示す結果は、3種類の異なった条件で電流密度1.0 Acm−2で得た電池電圧を記録している。これは、本発明の僅か0.2 mgPt/cmアノードが、100/100%及び100/50%では、0.4 mgPt/cmの炭素担持されたアノードと非常に類似した挙動を示すが、30/30%相対湿度の乾燥条件下では、本発明の層により、1 Acm−2で60 mVの改良が得られることを立証している。従って、本発明の触媒層により、従来の層よりも低いMEA乾燥が可能になるという、さらなる有益性が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】図1は、処理された白金黒層が調製される粒子径分布を示すグラフである。
【図2】図2は、触媒層#1〜3の粒子質量分布を示すグラフである。
【図3】図3は、触媒層#1の反射率データを、白金黒から調製した層と比較して示すグラフである。
【図4】図4は、カソード上に純粋酸素を有する電池性能に対するアノード種類の影響を示すグラフである。
【図5】図5は、性能 vs. 湿度に対するアノード充填量の影響を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
担持されていない金属の個別粒子から形成された多孔質触媒層であって、
前記個別粒子の少なくとも80%が1〜1000ゼプトグラムの質量を有してなり、
前記触媒層の金属体積画分が30%未満であり、及び
金属の充填量が0.09 mg/cm未満である、多孔質触媒層。
【請求項2】
前記個別粒子の少なくとも80%が1〜200ゼプトグラムの質量を有する、請求項1に記載の多孔質触媒層。
【請求項3】
前記金属が、白金、ルテニウム、パラジウム、ロジウム、イリジウム、オスミウム、金、銀又は卑金属、或いはこれらの酸化物、合金若しくは混合物からなる群から選択されてなる、請求項1又は2に記載の多孔質触媒層。
【請求項4】
前記金属が白金である、請求項3に記載の多孔質触媒層。
【請求項5】
前記触媒層が、一個以上の重合体をさらに含んでなる、請求項1〜4の何れか一項に記載の多孔質触媒層。
【請求項6】
前記重合体がイオノマーである、請求項5に記載の多孔質触媒層。
【請求項7】
前記重合体が疎水性重合体である、請求項5に記載の多孔質触媒層。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか一項に記載の多孔質触媒層を備えてなる、ガス拡散電極。
【請求項9】
請求項1〜7の何れか一項に記載の多孔質触媒層を備えてなる、触媒被覆されたメンブラン。
【請求項10】
前記触媒層に由来する金属粒子が前記メンブラン中に埋め込まれてなる、請求項9に記載の触媒被覆されたメンブラン。
【請求項11】
請求項1〜7の何れか一項に記載の多孔質触媒層を備えてなる、転写基材。
【請求項12】
請求項1〜7の何れか一項に記載の触媒層を備えてなる、メンブラン電極アセンブリー。
【請求項13】
請求項12に記載のメンブラン電極アセンブリーを備えてなる、燃料電池。
【請求項14】
請求項8に記載の電極を備えてなる、燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−530805(P2010−530805A)
【公表日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−512779(P2010−512779)
【出願日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際出願番号】PCT/GB2008/050467
【国際公開番号】WO2008/155580
【国際公開日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(590004718)ジョンソン、マッセイ、パブリック、リミテッド、カンパニー (152)
【氏名又は名称原語表記】JOHNSON MATTHEY PUBLIC LIMITED COMPANY
【Fターム(参考)】