説明

触媒担体保持材及び触媒コンバータ

【課題】耐熱性に優れ、950℃を越える環境においても長期間触媒担体を支持するのに十分な保持力を維持することができる、触媒コンバータの担体保持材を提供すること。
【解決手段】結晶質アルミナ繊維と、該結晶質アルミナ繊維に分散された熱分解によって消失する有機バインダーとを、有する耐熱性層;及び該耐熱性層に積層された、結晶質アルミナ繊維と、該結晶質アルミナ繊維に分散された熱分解によって消失する有機バインダーと、該結晶質アルミナ繊維に分散されたバーミキュライトとを、有する熱膨張性層;を有する、触媒担体保持材であって、該結晶質アルミナ繊維が触媒担体保持材中1400g/m以上の量で存在しており、該耐熱性層中に存在する結晶質アルミナ繊維の量と前記熱膨張性層中に存在する結晶質アルミナ繊維の量との比率が0.98〜1.98であり、該バーミキュライトが熱膨張性層中に23〜33重量%の量で存在している、触媒担体保持材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は主に自動車に使用される触媒コンバータに関し、特にその担体保持材として使用される無機繊維成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
触媒コンバータは、内燃機関の排気ガス中に含まれる一酸化炭素、炭化水素、窒素酸化物などの有害成分を貴金属触媒によって除去する装置である。
【0003】
触媒及び排気ガスを高温にすれば、有害物質の分解効率が高まるため、近年、触媒コンバータはエンジンにできるだけ近づけて設置される。そして近年のエンジンは燃費を向上させるために排気ガス温度が高くなり、950℃を越えることもある。それゆえ、触媒コンバータの構成物品には950℃の環境で使用できる程度の耐熱性が要求されている。
【0004】
特許文献1には触媒コンバータの構成が記載されている。触媒コンバータは筒状に形成された排気ガス浄化用触媒の担体と、該担体を収容し排気ガス導管に接続される金属製のケーシングと、該担体に巻回されて担体とケーシングとの間隙に充填される触媒担体保持材とを有している。
【0005】
この触媒担体保持材はアルミナ繊維と、該アルミナ繊維に分散された熱分解によって消失する有機バインダーとを、有する耐熱性層;及び該耐熱性層に積層された、セラミック繊維と、該セラミック繊維に分散された熱分解によって消失する有機バインダーと、該セラミック繊維に分散された無機膨張材とを、有する熱膨張性層;を有している。熱膨張性層の高温熱劣化をアルミナ繊維の層によって防止することを企図したものである。但し、ここでは、アルミナ含有率が90%未満のムライト組成の繊維などもアルミナ繊維として説明されているが、本発明の結晶質アルミナ繊維とは、異なるものである。
【0006】
しかしながら、この触媒担体保持材は、上述のような近年の要求性能から見れば耐熱性が不十分である。例えば、排気ガス温度が950℃を越えると50時間程度の短期間で触媒担体保持材の触媒担体保持力が低下してしまう。
【0007】
耐熱性が不十分である原因は、この種の触媒担体保持材に通常膨張材として使用されるバーミキュライトにあると考えられている。例えば、特許文献2第0004段落には、アルミナシリカ繊維にバーミキュライトを添加した熱膨張性層は、800〜900℃を上限に発生面圧特性が低下することが記載されている。また、特許文献3第0012段落には、セラミック繊維にバーミキュライト等を添加した熱膨張材は、850℃を越える排気ガスに晒されると激しく劣化することが記載されている。
【0008】
特許文献4には触媒コンバータの構成が記載されており、バーミキュライトとセラミックファイバーとの混合物をシート状に成形した担体保持材が、耐熱性に劣ることが記載されている。そして、その原因は、バーミキュライトが850℃を越えると分解することと説明されている(第0004段落)。
【0009】
また、特許文献4には、耐熱性に優れた触媒コンバータの担体保持材として、有機繊維とともにニードルパンチされた圧縮結晶質アルミナファイバー層が記載されている。この担体保持材は耐熱性に劣るバーミキュライトを使用しないことを特徴としている。
【0010】
しかしながら、従来の触媒担体保持材はいずれも耐熱性が未だ不十分であり、950℃を越える環境において長期間適当な触媒担体保持力を維持することができない。
【特許文献1】特開平10−288032号公報
【特許文献2】特開平7−77036号公報
【特許文献3】特開平8−338237号公報
【特許文献4】特開平7−197811号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記従来の問題を解決するものであり、その目的とするところは、耐熱性に優れ、950℃を越える環境においても長期間触媒担体を支持するのに十分な保持力を維持することができる、触媒コンバータの担体保持材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、結晶質アルミナ繊維と、該結晶質アルミナ繊維に分散された熱分解によって消失する有機バインダーとを、有する耐熱性層;及び
該耐熱性層に集積された、結晶質アルミナ繊維と、該結晶質アルミナ繊維に分散された熱分解によって消失する有機バインダーと、該アルミナ繊維に分散されたバーミキュライトとを、有する熱膨張性層;
を有する、触媒担体保持材であって、
該結晶質アルミナ繊維が触媒担体保持材中1400g/m以上の量で存在しており、
該耐熱性層中に存在する結晶質アルミナ繊維の量と前記熱膨張性層中に存在する結晶質アルミナ繊維の量との比率が0.98〜1.98であり、
該バーミキュライトが熱膨張性層中に23〜33重量%の量で存在している、触媒担体保持材を提供するものであり、そのことにより、上記目的が達成される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の触媒コンバータの担体保持材は耐熱性に優れ、950℃を越える環境においても長期間触媒担体を支持するのに十分な保持力を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は本発明の触媒担体保持材の一部を示す斜視図である。この触媒担体保持材3は耐熱性層1とそれに積層された熱膨張性層2とを有している。
【0015】
耐熱性層1は、厚さ方向にほぼ均一に集積した結晶質アルミナ繊維の集合体であり、所謂ブランケット又はブロックと呼ばれるものを包含する。結晶質アルミナ繊維としては、通常、繊維径が1〜50μm、繊維長が0.5〜500mmのものが使用されるが、圧縮復元力および形状保持性の観点からは、繊維径が3〜8μm、繊維長が0.5〜300mmの繊維が特に好ましい。
【0016】
上記結晶質アルミナ繊維の組成としては、アルミナ含有率が90重量%以上、かつシリカ含有率が10重量%未満のものをいう。好ましくはアルミナ含有量が94重量%以上のものである。
【0017】
結晶質アルミナ繊維は、非結晶質セラミック繊維と比較して耐熱性に優れ、セラミック繊維の様に結晶化の進行に伴う収縮などによる熱劣化が極めて少ない上に、一定の圧縮がなされた場合に弾力性に富んでいる。すなわち、結晶質アルミナ繊維層は、低い嵩密度で高い保持力を発生し且つその高温における特性変化が少ないと言う性質を持つ。従って、触媒コンバータの担体保持材として使用した際、担体とケーシングとの熱膨張の差によって担体とケーシングとの間隙が変化し、その嵩密度が変化した場合にも、担体に対する保持圧力の変化を小さくできる。
【0018】
有機バインダーは、圧縮された層の厚さを常温下において維持でき、熱分解による消失後に上記層の厚さを復元し得るものであれば特に制限なく使用できるが、担体の使用温度以上でも分解しない様なもの、更には、有機バインダーを含浸させることによって層の柔軟性および復元面圧特性を阻害し、担体の破壊を助長する様な性質を持つ有機バインダーの使用は、避ける必要がある。有機バインダーとしては、各種のゴム、水溶性有機高分子化合物、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などを使用できる。
【0019】
上記ゴム類としては、天然ゴム;エチルアクリレートとクロロエチルビニルエーテルの共重合体、n−ブチルアクリレートとアクリロニトリルの共重合体、エチルアクリレートとアクリロニトリルの共重合体などのアクリルゴム;ブタジエンとアクリロニトリルの共重合体のニトリルゴム;ブタジエンゴム等が挙げられ、水溶性有機高分子化合物としては、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、アクリル酸、アクリル酸エステル、アクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル等の単独重合体および共重合体であるアクリル樹脂;アクリロニトリル・スチレン共重合体;アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体などが挙げられる。また、熱硬化性樹脂としては、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0020】
上記の有機バインダーを有効成分とした水溶液、水分散型エマルション、ラテックス、有機溶媒溶液(これらを総称して「バインダー液」と言う)が市販されており、これらのバインダー液は、そのまま水などの溶媒で希釈して使用できるため、比較的安価に適用し得る。なお、有機バインダーは一種である必要はなく2種以上の混合物であってもよい。
【0021】
有機バインダー含有量は、特に限定されるものではなく、結晶質アルミナ繊維の種類、形状、層の絶対厚さ、触媒コンバータの金属製ケーシングに組み込む前の有機バインダーを含む成形体としての厚さ及び反発力によって決定される。有機バインダー含有量は、通常、結晶質アルミナ繊維100重量部に対して有機バインダーの有効成分が3〜30重量部にするのがよい。有機バインダーの含有量が3重量部未満の場合は、基材層の反発によって成形体としての厚さを維持できない虞があり、30重量部を超える場合は、有機バインダー焼失に伴う重量減少により保持力の低下が増大する他、成形体の柔軟性が損なわれる虞が生ずる。斯かる観点から、有機バインダーの上記割合は5〜20重量部の範囲が通常もちいられる。
【0022】
耐熱性層1は、抄紙法を用いて形成することができる。水中に分散させた結晶質アルミナ繊維に有機バインダーを添加したスラリーを調整する工程、そのスラリーを抄紙法によりメッシュ上で脱水する工程、メッシュ上に形成された層を厚さ方向に圧縮する工程、有機バインダーの溶媒分および水を乾燥により除去する工程を経て製造される。
【0023】
耐熱性層1は、ニードルパンチ処理を施した結晶性アルミナ繊維ブランケットを用いて形成することもできる。その際には、ニードルパンチング処理したブランケットに有機バインダーを含浸する工程、有機バインダー液を含浸させた層を厚さ方向に圧縮する工程、有機バインダー液の溶媒分を乾燥により除去する工程を経て製造される。必要に応じ有機バインダーは水により希釈して使用しても良い。
【0024】
熱膨張性層2は、バーミキュライトの粒子を、結晶質アルミナ繊維を含むスラリー中に分散させること以外は抄紙法により形成される耐熱性層1と同様にして製造される。なお、必要に応じその他の無機充填材として例えばセピオライト鉱物などを含有させることが出来る。
【0025】
このようにして形成した保持材は、次の様な特性を有しているのが好ましい。すなわち、担体外周面とケーシング内面との間隙に相当する厚さの圧縮状態において、0.1〜8.0kgf/cmの復元力を有しているのが好ましい。斯かる復元力は、担体がセラミックス製の場合で0.5〜8.0kgf/cm程度とされ、担体が金属製の場合で0.1〜4.0kgf/cm程度とされる。
【0026】
上記の復元力は、層に分散された有機バインダーが熱分解によって消失した後においても維持される。層の復元力は、担体外周面とケーシング内面との間隙に相当する厚さに層を圧縮するのに要する力(圧縮力)に相当する。従って、本発明においては、層形成時の圧縮力によって上記の復元力の指標としている。
【0027】
得られる熱膨張性層中に、バーミキュライトは23〜33重量%、好ましくは25〜32重量%の量で存在している。バーミキュライトの量が23重量%未満であると高温におけるバーミキュライトの膨張により発生する圧力が不足し、十分な触媒担体保持力が得られない。33重量%を越えると高温に長時間さらされた際に、バーミキュライトの膨張により得られる圧力に比べ、そのバーミキュライトの劣化が与える影響が大きくなることにより十分な触媒担体保持力が得られないばかりでなく、初めて高温に曝された際のバーミキュライトが発生する圧力が過大となり、結果として保持材が発生する圧力がキャニング時面圧を上回り、触媒担体を圧損する可能性がある。
【0028】
得られる触媒担体保持材は厚さが7〜25mm、好ましくは10mm〜20mmである。厚さが7mm未満であると、作製する際に厚みをコントロールするための圧縮を過度に行う必要があり、それにより保持材を構成する結晶質アルミナ繊維が折損する。その結果、自動車の排気ガス等の圧力により保持材が飛散、脱落する等の不具合が発生する可能性がある。厚さが25mmを越えると、キャニング工程において触媒担体への保持材の巻き付け時に、その内外周差により発生する張力が過大となり、外周層すなわち熱膨張性層にクラックが発生する等の不具合が発生する可能性がある。
【0029】
得られる触媒担体保持材中に、結晶質アルミナ繊維は1400g/m以上、好ましくは1500〜2500g/mの量で存在している。結晶質アルミナ繊維の量が1400g/m未満であると熱膨張性層に含まれるバーミキュライトの熱による劣化を防ぐための耐熱性層の厚みが不足し、保持材としての耐熱性が不十分となる可能性がある。
【0030】
また、耐熱性層中に存在する結晶質アルミナ繊維の量と熱膨張性層中に存在する結晶質アルミナ繊維の量との比率は0.98〜1.98、好ましくは1.2〜1.9である。この比率が0.98未満であると触媒担体が発生する熱を耐熱層が十分に遮断できず、バーミキュライトの熱による劣化が促進され、十分な保持力性能が得られなくなる可能性がある。
【0031】
また、1.98を越えると保持材全体におけるバーミキュライトの量が不足し、十分な保持力性能が得られない。
【0032】
図2は本発明による触媒コンバータの典型的な構成を示した斜視図である。構成の容易な理解のため、触媒コンバータを展開した状態が示されている。図示の触媒コンバータ10は、金属ケーシング11と、その金属ケーシング11内に配置されたモノリスの固体触媒担体20と、金属ケーシング11と触媒担体20との間に配置された触媒担体保持材30とを備える。
【0033】
触媒担体保持材30は、本発明に従い、耐熱性層及び熱膨張性層を有している。そして、耐熱性層が触媒担体側に向くように配置されている。また、触媒コンバータ10には、円錐台の形をした排気ガス流入口12及び排気ガス流出口13が取り付けられている。
【0034】
上記の構成により、950℃の環境下で使用できる触媒コンバータが提供できる。
【0035】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【実施例】
【0036】
実施例1〜10および比較例1〜3
結晶質アルミナ繊維(Saffil社製「LA」アルミナ含有率96重量%)と水を固形分濃度0.5%となるようにWaringブレンダーに加え、約10秒間攪拌した。これを12リットルのビーカーに移し、固形分濃度45.5%のアクリルラテックス(ローム・アンド・ハース社製「Rhoplex HA−8」)を水に対し0.06%となるように添加し、プロペラミキサーにより混合した。硫酸アルミニウムの50%水溶液を十分量加え、pHを4〜6に調整した。凝集剤(Nalco社製「7530」)の0.1%溶液10グラムを加え、プロペラミキサーにより混合し、耐熱性層となる第1のスラリーとした。
【0037】
同様に結晶質アルミナ繊維(Saffil社製「LA」)と水を固形分濃度0.5%となるようにWaringブレンダーに加え、約10秒間攪拌した。これを12リットルのビーカーに移し、固形分濃度45.5%のアクリルラテックス(ローム・アンド・ハース社製「Rhoplex HA−8」)を水に対し0.06%となるように添加し、さらにメッシュサイズが18〜50メッシュである未膨張バーミキュライト(コーメタルズインク社製)を加え、プロペラミキサーにより混合した。硫酸アルミニウムの50%水溶液を十分量加え、pHを4〜6に調整した。凝集剤(Nalco社製「7530」)の0.1%溶液10グラムを加え、プロペラミキサーにより混合し、熱膨張性層となる第2のスラリーとした。
【0038】
第1のスラリーを抄紙法により成形した後、続けて第2のスラリーを注ぎ脱水し、2層構造の成形体を得た。これを1対の加圧ローラーにて圧縮して高密度化し、加熱ロールにて乾燥してバインダー含有率約12%の触媒担体保持材を得た。
各スラリーに投入する繊維量および第2のスラリーに添加するバーミキュライトの量を調整し、表1に示す実施例1〜10および比較例1〜3を得た。
【0039】
比較例4
結晶質アルミナ繊維(Saffil社製「LA」)と水を固形分濃度0.5%となるようにWaringブレンダーに加え、約10秒間攪拌した。これを12リットルのビーカーに移し、固形分濃度45.5%のアクリルラテックス(ローム・アンド・ハース社製「Rhoplex HA−8」)を水に対し0.06%となるように添加し、プロペラミキサーにより混合した。硫酸アルミニウムの50%水溶液を十分量加え、pHを4〜6に調整した。凝集剤(Nalco社製「7530」)の0.1%溶液10グラムを加え、プロペラミキサーにより混合し、耐熱性層となる第1のスラリーとした。
【0040】
同様にセラミック繊維(サーマルセラミックス社製「カオウールTM HAバルク」アルミナ含有率55重量%)と水を固形分濃度0.5%となるようにWaringブレンダーに加え、約20秒間攪拌した。これを12リットルのビーカーに移し、固形分濃度45.5%のアクリルラテックス(ローム・アンド・ハース社製「Rhoplex HA−8」)を水に対し0.06%となるように添加し、さらにメッシュサイズが18〜50メッシュである未膨張バーミキュライト(コーメタルズインク社製)を加え、プロペラミキサーにより混合した。硫酸アルミニウムの50%水溶液を十分量加え、pHを4〜6に調整した。凝集剤(Nalco社製「7530」)の0.1%溶液10グラムを加え、プロペラミキサーにより混合し、熱膨張性層となる第2のスラリーとした。
【0041】
第1のスラリーを抄紙法により成形した後、続けて第2のスラリーを注ぎ脱水し、2層構造の成形体を得た。これを1対の加圧ローラーにて圧縮して高密度化し、加熱ロールにて乾燥してバインダー含有率約12%の触媒担体保持材を得た。
【0042】
高温耐久面圧試験
高温耐久面圧試験は標準的な触媒担体を有する触媒コンバーターに見い出される実条件を作り、想定される使用条件下で触媒担体保持材の発生する圧力を測定する試験である。
MTSシステムズコーポレーション社製「シンテック1/D」には、45mm径の触媒担体保持材サンプルを挟み込むために試料台間の間隙(ギャップ)を可変することができる一対の試料台が装備されている。
【0043】
その上部には試料台間のギャップに挟み込んだ保持材が発生する圧力を測定するロードセルが装備されている。また、サンプルを保持する一対の試料台はそれぞれ異なった温度に加熱することができる。
【0044】
また、触媒コンバーターにおいては温度が上昇するとともに、金属ケースおよび触媒担体の熱膨張係数が異なることにより触媒担体保持材が存在するギャップが広くなる。この現象を再現するために、本測定においても温度とともに想定されるギャップとなるように温度が上昇するにつれて試料台間のギャップを連続的に増加させる。
【0045】
本実施例における測定では、耐熱性層側試料台の温度は室温(約25℃)から高温時920℃、熱膨張性層側試料台の温度は室温(約26℃)から高温時680℃まで昇温し、室温時から高温時に増大するギャップ変化量は0.5mmとした。室温から高温に達するまでの時間は約40分間、高温で16分間保持した後室温まで約60分間で冷却し、これを500サイクル繰り返した。
【0046】
500サイクルの高温保持終了時の面圧を耐久後面圧として、32kPa以上の場合を耐熱性を十分有する判定とした。試験結果を表1に示す。
【0047】
尚、試験開始時設定ギャップ、つまり、試験開始時に設定する間隙は、試料台間隙を25mm/分のスピードで圧縮した際に保持材が150kPaの面圧を発生するギャップを試験開始時設定ギャップとした。
【0048】
初期高温面圧試験
上記高温耐久試験と同様の試験方法により、下記の試験開始時設定ギャップにて試験を実施し、1サイクル目高温保持付近の最大ピーク面圧値を初期高温面圧値とした。試験結果を表1に示す。
【0049】
尚、試験開始時設定ギャップ、つまり、試験開始時に設定する間隙は、試料台間隙を25mm/分のスピードで圧縮した際に保持材が400kPaの面圧を発生するギャップを試験開始時設定ギャップとした。その際の試験スタート時面圧をキャニング面圧とした。
【0050】
[表1]

a:触媒担体保持材中の結晶質アルミナ繊維量
b:結晶質アルミナ繊維量の耐熱性層と熱膨張性層との比率
c:熱膨張性層中のバーミキュライト量
d:総繊維量は耐熱性層結晶性アルミナファイバー1056g/mと熱膨張性層のセラミックファイバー659g/mの和
【0051】
繊維量比率
耐熱性層繊維量/熱膨張性層繊維量で示される繊維量比率については実施例1〜4について比較を行った。高温耐久試験後面圧は繊維量比率0.98〜1.98の範囲で耐熱性を十分有すると判定される32kPaを上回ることが確認された。
【0052】
総繊維量
総繊維量については実施例3、6および比較例1について比較を行った。高温耐久試験後面圧は総繊維量1400g/m以上において耐熱性を十分有すると判定される32kPaを上回ることが確認された。
【0053】
バーミキュライト含有率
バーミキュライト含有率については実施例3および実施例6〜8、および比較例2について比較を行った。高温耐久試験後面圧は熱膨張性層に含まれるバーミキュライト含有率23〜33重量%において耐熱性を十分有すると判定される32kPaを上回ることが確認された。
【0054】
また、実施例9、10および比較例3についてキャニング面圧−初期高温面圧の値を比較した。初期高温面圧がキャニング面圧を上回る場合はその保持材の1サイクル目における高温時に発生する圧力がキャニングで設定した面圧を上回ることを意味し、触媒担体をその圧力差により圧損する可能性がある。比較例3においてはキャニング面圧−初期高温面圧が正となることから、バーミキュライト含有率は33重量%以下とすることが望ましい。
【0055】
熱膨張性層に耐熱性の劣るセラミックファイバーを使用した場合
実施例3と比較例4について比較を行うと、熱膨張性層に結晶性アルミナファイバーを使用した実施例3については高温耐久試験後面圧は耐熱性を十分有すると判定される32kPaを上回ることが確認されたが、熱膨張性層がアルミナ含有量約50重量%のセラミックファイバーで構成される比較例4については十分な耐熱性が得られないことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の触媒担体保持材の一部を示す斜視図である。
【図2】本発明による触媒コンバータの典型的な構成を示した斜視図である。
【符号の説明】
【0057】
1…耐熱性層、
2…熱膨張性層、
3…触媒担体保持材。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶質アルミナ繊維と、該結晶質アルミナ繊維に均一に含浸された熱分解によって消失する有機バインダーとを、有する耐熱性層;及び
該耐熱性層に積層された、結晶質アルミナ繊維と、該結晶質アルミナ繊維に分散された熱分解によって消失する有機バインダーと、該結晶質アルミナ繊維に分散されたバーミキュライトとを、有する熱膨張性層;
を有する、触媒担体保持材であって、
該結晶質アルミナ繊維が触媒担体保持材中1400g/m以上の量で存在しており、
該耐熱性層中に存在する結晶質アルミナ繊維の量と前記熱膨張性層中に存在する結晶質アルミナ繊維の量との比率が0.98〜1.98であり、
該バーミキュライトが熱膨張性層中に23〜33重量%の量で存在している、触媒担体保持材。
【請求項2】
厚さ方向に圧縮されて、厚さが7〜25mmである請求項1に記載の触媒担体保持材。
【請求項3】
筒状に形成された排気ガス浄化用触媒の担体と、該担体を収容し排気ガス導管に接続されるケーシングと、該担体に巻回されて担体とケーシングとの間隙に充填される触媒担体保持材とを有する触媒コンバータであって、
該触媒担体保持材が請求項1又は2に記載の触媒担体保持材であり該耐熱性層が担体側に向くように配置されている、触媒コンバータ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−270673(P2007−270673A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−94932(P2006−94932)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(599056437)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (1,802)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】