触媒活性の高い細孔分布をもつペロブスカイト型複合酸化物および触媒
【課題】自動車排ガス浄化触媒の担体に好適な低温域で高い触媒活性を与える物質を提供する。
【解決手段】細孔半径10〜50nmの細孔の占める細孔容積の合計が0.05cc/g以上である、例えば希土類元素類の1種以上と遷移金属元素の1種以上を含むペロブスカイト型複合酸化物。特に構造式RTO3において、Rは希土類元素類の1種以上で構成され、Tは遷移金属元素の1種以上で構成されるもの、あるいはまた、Rは希土類元素類の1種以上と、アルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素の中から選ばれる1種以上とで構成され、Tは遷移金属元素の1種以上で構成されるものが好適に採用できる。ここで「希土類元素類」とは希土類元素にYを加えた元素群をいう。
【解決手段】細孔半径10〜50nmの細孔の占める細孔容積の合計が0.05cc/g以上である、例えば希土類元素類の1種以上と遷移金属元素の1種以上を含むペロブスカイト型複合酸化物。特に構造式RTO3において、Rは希土類元素類の1種以上で構成され、Tは遷移金属元素の1種以上で構成されるもの、あるいはまた、Rは希土類元素類の1種以上と、アルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素の中から選ばれる1種以上とで構成され、Tは遷移金属元素の1種以上で構成されるものが好適に採用できる。ここで「希土類元素類」とは希土類元素にYを加えた元素群をいう。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車排ガス浄化触媒の担体として好適な高い活性をもつペロブスカイト型複合酸化物、およびそれを用いた排ガス浄化触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
1960年後半、大気汚染物質の発生源のひとつとして自動車排ガスが問題視され、その浄化技術開発が進められた。この中で自動車排ガス浄化触媒は1975年より実用化され、現在では米国および日本の殆どの自動車に採用され、更にEUおよび各国での採用が急速に進みつつあり、環境浄化触媒として定着している。
【0003】
自動車排ガスの浄化触媒としては、排ガス中に含まれる大気汚染物質である炭化水素(HC),一酸化炭素(CO),窒素酸化物(NOx)を同時に酸化又は還元する三元触媒が主流である。その構成はハニカム形状の基材に比表面積の大きいγ−アルミナをコートし、その上に活性種であるPt,Pd,Rhといった貴金属を担持させ、更に酸素の吸放出能を持つCe酸化物等を添加したものとなっている。
【0004】
1990年代に入ると地球規模の環境変化が問題視され、自動車排ガス浄化触媒にも更なる技術革新が求められている。その様な中、新規な触媒材料としてペロブスカイト型複合酸化物を自動車排ガス浄化触媒に適用しようとする試みが数多くなされている。その一例として以下の特許文献が挙げられる。
【0005】
【特許文献1】特許第1020168号公報
【特許文献2】特許第2620624号公報
【特許文献3】特許第1877483号公報
【特許文献4】特許第3222184号公報
【特許文献5】特開平9−86928号公報
【特許文献6】特開平11−169711号公報
【特許文献7】特開平8−12334号公報
【特許文献8】特開2004−41866号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のような多くの試みにもかかわらず、浄化性能やペロブスカイト型複合酸化物自体の製造性等の面でまだまだ不十分であり、広く実用化されるには至っていない。また、排ガス浄化触媒はその特性上、一般に低温での浄化効率が低いことから、自動車メーカーではエンジン始動直後の浄化効率を向上させるために、触媒位置を排ガス流路のできるだけ上流側にしたり、排ガス流路を2重管にして触媒に到達するまでの排ガスを保温したりするなどの対策をとっている。しかしそのような対策は自動車の設計自由度を制約したり、排ガス流路部材のコスト増を招くことになり、触媒自体の浄化効率を低温域において向上させる技術の確立が強く望まれている。
【0007】
本発明は、比較的低温域での有害ガス成分除去効率の向上をもたらし得る機能的な材料を開発し提供するとともに、それを用いた優れた排ガス浄化触媒を提供しようというものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の特許文献に示されるように、これまで排ガス浄化触媒分野におけるペロブスカイト型複合酸化物触媒の開発は、それ自体の成分・組成の検討や、組み合わせる貴金属および耐熱酸化物の検討を中心になされており、ペロブスカイト型複合酸化物自体の物理的な性質に関してはあまり注目されてなかった。
【0009】
発明者らはペロブスカイト型複合酸化物の物理的特性について詳細に調査したところ、例えば非晶質物質から直接加熱生成させたペロブスカイト型複合酸化物において、非常に高い活性を有するものが実現できることを見出した。このペロブスカイト型複合酸化物を触媒に用いると、当該複合酸化物自体のもつ高い活性によって、比較的低温から触媒活性を向上でき、その結果、低温域での排ガス浄化性能が大幅に向上するのである。このペロブスカイト型複合酸化物の高い活性は、当該粉末が触媒活性を高める上で極めて有利な細孔分布を有していることに起因していることがわかった。本発明はこのような知見に基づいて完成したものである。
【0010】
すなわち、本発明で提供するペロブスカイト型複合酸化物は、細孔半径10〜50nmの細孔の占める細孔容積の合計が0.05cc/g以上となるものであり、特に、貴金属元素を担持させる触媒用途に供するものとして好適である。
【0011】
ここで、細孔半径10〜50nmの細孔の占める細孔容積の合計値は、窒素ガス吸着法によって求まる細孔分布から定まる値が採用される。
【0012】
このペロブスカイト型複合酸化物として希土類元素類の1種以上と遷移金属元素の1種以上を含むものが採用でき、特に構造式RTO3において、Rは希土類元素類の1種以上で構成され、Tは遷移金属元素の1種以上で構成されるもの、あるいはまた、Rは希土類元素類の1種以上と、アルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素の中から選ばれる1種以上とで構成され、Tは遷移金属元素の1種以上で構成されるものが好適に採用できる。このうち後者のものは、前者のRを構成する希土類元素類の一部をアルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素の中から選ばれる1種以上の元素で置換した構造を有するものである。
なお「希土類元素類」とは希土類元素にYを加えた元素群をいう。
【0013】
また本発明では、このようなペロブスカイト型複合酸化物を用いた排ガス浄化触媒、特に当該ペロブスカイト型複合酸化物にPdなどの貴金属元素を担持させてなる排ガス浄化用触媒が提供される。特に、貴金属元素を担持させた後において、細孔半径10〜50nmの細孔の占める細孔容積の合計が0.05cc/g以上である排ガス浄化用触媒が好適な対象となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、比較的低温で高い活性を有するペロブスカイト型複合酸化物が提供された。このペロブスカイト型複合酸化物を自動車排ガス浄化触媒に使用すると、エンジン始動開始直後の比較的低温域においてCOガス等の浄化効率が向上し、触媒に到達する排ガスの温度低下を防止するための種々の対策を軽減することができる。したがって本発明は、実用価値の高い排ガス浄化触媒の普及に寄与しうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
発明者らは詳細な実験の結果、同じ組成のペロブスカイト型複合酸化物であっても、その焼成体によって、Pd等を担持させた場合の触媒活性に差が生じることを見出した。そして、触媒活性の高いものは特に低温域での触媒活性の向上効果が大きい。
【0016】
発明者らは、ペロブスカイト型複合酸化物の特性と、それを使用した触媒の排ガス浄化効率との関係について種々検討してきた。その結果、特定の細孔分布を有するペロブスカイト型複合酸化物の粉末において、高い触媒活性が得られることを見出した。
【0017】
固体触媒は一つの結晶子である一次粒子およびその集合体である二次粒子から構成され、一般的には二次粒子の内部すなわち一次粒子同士の間隙に細孔が形成されている。複合酸化物の細孔半径が小さすぎるとガス拡散性が低下するため、空間速度が高い条件下における反応活性が低下する。一方、細孔半径が大きすぎると高温下で一次粒子が再配列し、凝集し細孔容積が低下しやすくなる。このようなことから、適切な細孔半径を持つ細孔が多く存在する構造の粉末において高い触媒活性が得られるものと考えられる。
【0018】
種々検討を重ねた結果、ペロブスカイト型複合酸化物において、特に低温域での排ガス浄化性能向上に繋がる触媒活性の向上をもたらす適切な細孔半径の範囲は、10〜50nmであることが見出された。つまり、細孔半径10〜50nmの細孔が多く存在するペロブスカイト型複合酸化物は、従来一般的なものより触媒活性が向上し、特に低温域での排ガス浄化性能の改善をもたらす。
【0019】
具体的には、細孔半径10〜50nmの細孔の占める細孔容積の合計が0.05cc/g以上であるとき、そのペロブスカイト型複合酸化物粉末は高い触媒活性を与える。細孔半径10〜50nmの細孔の占める細孔容積の合計が0.10cc/g以上になると触媒活性の向上効果は一層顕著になり、特に0.15cc/g以上であることが一層好ましい。
【0020】
上記のように高い触媒活性を呈する細孔分布のペロブスカイト型複合酸化物は、希土類元素類の1種以上と遷移金属元素の1種以上を含む組成のものにおいて好適に実現される。例えば、ペロブスカイト型複合酸化物の一般式RTO3において、Rは希土類元素類の1種以上で構成され、Tは遷移金属元素の1種以上で構成されるものが採用できる。あるいはまた、Rは希土類元素類の1種以上と、アルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素の中から選ばれる1種以上とで構成され、Tは遷移金属元素の1種以上で構成されるものが採用できる。
【0021】
Rを構成する希土類元素類としては特に限定されないが、Y,La,Ce,Nd,Sm,Pr等が挙げられる。Tを構成する遷移金属元素としては特に限定されないが、Co,Fe,Ni,Mn,Cu,Cr,V,Nb,Ti,Zr,Pt,Pd,Ru,Rh,Au,Ag等が挙げられる。なお、Rを構成する希土類元素類以外の元素として、希土類元素類の一部を置換する形で含有されるアルカリ金属元素あるいはアルカリ土類金属元素が挙げられる。例えば、Li,K,Na,Mg,Sr,Ca,Ba等である。
【0022】
従来一般にペロブスカイト型複合酸化物の製造は、水酸化物,炭酸塩,蓚酸塩,酢酸塩,シアン塩,酸化物などの中間物質から合成する手法が採用されていた。しかし、前記のような高い触媒活性を有するペロブスカイト型複合酸化物を、このような結晶性中間物質から製造することはできなかった。発明者らは詳細な実験の結果、低温域での排ガス浄化性能向上作用の大きい優れた触媒活性を発揮するペロブスカイト型複合酸化物は、上記のような結晶性中間物質を経由することなく、非晶質の前駆体物質から直接、低温かつ短時間の熱処理条件でペロブスカイト型複合酸化物を合成する手法によって得ることができることを見出した。
【0023】
すなわち、優れた触媒活性を与える本発明のペロブスカイト型複合酸化物は、R元素とT元素を含む粉状の非晶質からなる前駆体物質を低温で熱処理することによって得ることができる。この前駆体物質は、例えば希土類元素類の少なくとも1種と遷移金属元素の少なくとも1種を主要構成成分とし、目的とする複合酸化物を生成するに必要な量比のRおよびT成分を含有する非晶質物質である。従って、X線回折パターンはブロードな状態のままであり、明確なピークは存在しない。この非晶質はペロブスカイト型複合酸化物を得るための熱処理温度に至るまでその非晶質状態を維持していることが望ましい。
【0024】
このような非晶質の前駆体は、R元素およびT元素のイオンを含む水溶液と、炭酸アルカリまたはアンモニウムイオンを含む炭酸塩などの沈殿剤とを、反応温度60℃以下,pH6以上で反応させて沈殿生成物を作り、その濾過物を乾燥させて得ることができる。
【0025】
より具体的には、まず、Rの硝酸塩,硫酸塩,塩化物等の水溶性鉱酸塩と、Tの硝酸塩,硫酸塩,塩化物等の水溶性鉱酸塩を、R元素とT元素のモル比がほぼ1:1となるように溶解させた水溶液を用意する。R元素とT元素のモル比は、理想的にはほぼ1:1とするのがよいが、正確に1:1でなくてもペロブスカイト型複合酸化物を形成できることもある。したがって、R元素とT元素のモル比は1:1から多少ずれても、ペロブスカイト型複合酸化物が形成可能な値であればよい。なお、R元素は2成分以上であってもよく、T元素も2成分以上であってもよい。その場合には、Rを構成する元素の総モル数とTを構成する元素の総モル数の比がほぼ1:1となるように各成分を溶解させるとよい。
【0026】
本発明の効果を妨げない範囲内であれば、アルミナ,シリカ,チタニア,ジルコニアなどの材料やこれらの複合酸化物といった耐熱性材料を前駆体物質に添加することも可能である。この場合には、これらの物質とともに前駆体物質を熱処理することによって、これらの耐熱性材料にペロブスカイト型複合酸化物が介在した状態のものが得られる。
【0027】
沈殿を生成させる液中のRおよびTのイオン濃度は、用いる塩類の溶解度によって上限が決まるが、RまたはTの結晶性化合物が析出しない状態が望ましい。通常は、RとTの合計イオン濃度が0.01〜0.60mol/L程度の範囲であるのが望ましいが、場合によっては、0.60mol/Lを超えてもよい。
【0028】
この液から非晶質の沈殿を得るには、炭酸アルカリまたはアンモニウムイオンを含む炭酸塩からなる沈殿剤を用いるのがよく、このような沈殿剤としては、炭酸ナトリウム,炭酸水素ナトリウム,炭酸アンモニウム,炭酸水素アンモニウム等を使用することができ、必要に応じて、水酸化ナトリウム,アンモニア等の塩基を加えることも可能である。また、水酸化ナトリウム,アンモニア等を用いて沈殿を形成した後、炭酸ガスを吹き込むことによっても本発明のペロブスカイト型複合酸化物に適した非晶質前駆体を得ることができる。非晶質の沈殿を得る際、液のpHを6〜11の範囲に制御するのがよい。pHが6未満の領域では、Rを構成する希土類元素類が沈殿を形成しない場合があるので不適切である。他方、pHが11を超える領域では、沈殿剤単独の場合には生成する沈殿の非晶質化が十分に進行せずに、水酸化物などの結晶性の沈殿を形成する場合がある。また、反応温度は60℃以下にするのがよい。60℃を超える温度で反応を開始した場合、RあるいはTの結晶性の化合物粒子が生成する場合があり、前駆体物質の非晶質化を妨げるので好ましくない。
【0029】
生成した沈殿は、濾過,遠心沈降,デカンテーション等により固液分離し、水洗を行って不純物イオンの残留を少なくするのが望ましい。得られた非晶質の沈殿物を自然乾燥,加熱乾燥,真空乾燥等の方法で乾燥させ、乾燥処理後に必要に応じて粉砕処理や分級処理を実施する。このようにして得た非晶質物質は、触媒活性の高いペロブスカイト型複合酸化物を得るための前駆体物質として好適である。
【0030】
本発明のペロブスカイト型複合酸化物は、この前駆体物質を熱処理することにより直接合成される。熱処理温度があまり低いとペロブスカイト型複合酸化物が生成しにくいので、少なくとも450℃以上に昇温する必要があり、500℃以上とすることが好ましい。一方、熱処理温度が高すぎると生成物の触媒活性が低下するので、1000℃以下、好ましくは800℃以下、更に好ましくは700℃以下とするのがよい。熱処理雰囲気は、大気中または酸化性雰囲気中であればよく、ペロブスカイト型複合酸化物が得られる酸素濃度,温度範囲ならば窒素雰囲気等でもよい。
【0031】
このようにして得られた触媒活性の高い細孔分布をもつペロブスカイト型複合酸化物の焼成体に、貴金属元素を担持させると、低温域での触媒活性に優れた触媒が得られ、エンジン始動直後の低温時に優れた排ガス浄化性能を発揮する。また、RTO3構造のT元素にPt,Pd,Rh等の活性種となりうる貴金属元素を含有させた場合、そのペロブスカイト型複合酸化物自体が優れた活性を呈する触媒として機能し得る。T元素にPt,Pd,Rh等の貴金属元素を含有させた上で、更にこれを担体として貴金属元素を担持させることも有効である。
【実施例】
【0032】
〔実施例1〕
硝酸ランタンと硝酸ストロンチウムと硝酸鉄を、ランタン元素とストロンチウム元素と鉄元素のモル比が0.8:0.2:1となるように混合した。この混合物を、ランタン元素とストロンチウム元素と鉄元素の液中モル濃度の合計が0.2mol/Lとなるように水に添加して原料溶液を得た。この溶液を攪拌しながら溶液の温度を25℃に調整し、温度が25℃に到達した段階で、沈殿剤として炭酸アンモニウム溶液を添加しながらpH=8に調整した。その後、反応温度を25℃に保ちながら攪拌を12時間継続することにより、沈殿の生成を十分進行させた。得られた沈殿を濾過して回収した後、水洗し、110℃で乾燥した。得られた粉末を前駆体粉と言う。
【0033】
この前駆体粉のX線粉末回折(Co−Kα線使用)を行ったところ、図1に示すようにピークが現れないブロードな回折結果となり、非晶質材料であることが確認された。
次に、この前駆体粉を大気雰囲気下600℃で熱処理して焼成した。得られた焼成体のX線粉末回折(Co−Kα線使用)を行ったところ、図1に示すように、(La0.8Sr0.2)FeO3のペロブスカイト型複合酸化物単相であることが確認された。
【0034】
上記ペロブスカイト型複合酸化物の焼成体について、日本ベル社製のBELSORP28SAを用いて、窒素ガス吸着法により細孔分布を求めた。結果を図2に示す。図2は、横軸に細孔半径r(対数目盛)、縦軸にrよりも大きな半径を有する細孔の容積を採った積分型の細孔分布曲線である(後述の図3〜11も同様)。この細孔分布から細孔半径10〜50nmの細孔の占める細孔容積の合計を求めると0.220cc/gであった。
【0035】
〔実施例2〕
硝酸ランタンと硝酸鉄を、ランタン元素と鉄元素のモル比が1:1となるように混合した以外は、実施例1を繰り返した。
得られた焼成体のX線粉末回折を行ったところLaFeO3のペロブスカイト型複合酸化物単相であることが確認された。
このペロブスカイト型複合酸化物の焼成体について、実施例1と同様に細孔分布を求めた。その結果を図3に示す。この細孔分布から細孔半径10〜50nmの細孔の占める細孔容積の合計を求めると0.169cc/gであった。
【0036】
〔実施例3〕
硝酸ランタンと硝酸ストロンチウムと硝酸マンガンを、ランタン元素とストロンチウム元素とマンガン元素のモル比が0.8:0.2:1となるように混合した以外は、実施例1を繰り返した。
得られた焼成体のX線粉末回折を行ったところ(La0.8Sr0.2)MnO3のペロブスカイト型複合酸化物単相であることが確認された。
このペロブスカイト型複合酸化物の焼成体について、実施例1と同様に細孔分布を求めた。その結果を図4に示す。この細孔分布から細孔半径10〜50nmの細孔の占める細孔容積の合計を求めると0.328cc/gであった。
【0037】
〔比較例1〕
一般的な複合酸化物の製法の1つである共沈法によってペロブスカイト型複合酸化物を製造した。
沈殿剤として水酸化ナトリウムを添加しながらpHを12に調整した以外は、実施例1と同様に沈殿を生成させ、これを濾過、水洗、乾燥して前駆体粉を得た。この前駆体粉を大気雰囲気下600℃で熱処理して焼成した。しかしながらペロブスカイト型複合酸化物単相とはならず、順次熱処理温度を上昇させたところ、900℃で熱処理した場合には(La0.8Sr0.2)FeO3のペロブスカイト型複合酸化物単相からなる焼成体が得られることがX線粉末回折により確認された。そこでこの比較例では焼成温度を900℃とした。
900℃の焼成温度で得られた(La0.8Sr0.2)FeO3ペロブスカイト型複合酸化物の焼成体について実施例1と同様に細孔分布を求めた。その結果を図5に示す。この細孔分布から細孔半径10〜50nmの細孔の占める細孔容積の合計を求めると0.012cc/gであった。
【0038】
〔比較例2〕
一般的な複合酸化物の製法の1つであるクエン酸錯体法によってペロブスカイト型複合酸化物を製造した。
実施例2と同様に、硝酸ランタンと硝酸鉄を、ランタン元素と鉄元素のモル比が1:1となるように混合した。この混合物を、ランタン元素と鉄元素の液中モル濃度の合計が0.2mol/Lとなるように水に添加し、更にランタン元素と鉄元素の液中モル濃度の合計に対して1.2倍量のクエン酸を添加して原料溶液を得た。
この原料溶液をロータリー・エバポレーターで減圧しながら80℃の湯浴中で約3時間かけて蒸発乾固させ、クエン酸錯体を作製した。
【0039】
得られたクエン酸錯体の前駆体粉を大気雰囲気下600℃で熱処理して焼成した。この焼成体のX線粉末回折を行ったところLaFeO3のペロブスカイト型複合酸化物単相であることが確認された。
このペロブスカイト型複合酸化物の焼成体について、実施例1と同様に細孔分布を求めた。その結果を図6に示す。この細孔分布から細孔半径10〜50nmの細孔の占める細孔容積の合計を求めると0.032cc/gであった。
【0040】
〔触媒性能評価〕
前記実施例1〜3、比較例1,2で得られた各焼成体について、以下のとおりPdを担持し、触媒性能を評価した。
(a)Pd担持:焼成体に、Pdにして含有量が2.0重量%に相当する硝酸パラジウム水溶液を含浸させて原料スラリーとした。この原料スラリーをロータリー・エバポレーターで減圧しながら110℃の油浴中で約3時間かけて蒸発乾固させ、更に大気雰囲気下600℃で熱処理してPd担持ペロブスカイト型複合酸化物を得た。
このPd担持ペロブスカイト型複合酸化物の焼成体について、前記と同様の方法で細孔分布を求めた。結果を図7〜11に示す。これらの細孔分布から細孔半径10〜50nmの細孔の占める細孔容積の合計を求めた。
(b)ペレット作製:Pd担持した焼成体を粉砕して粉末とし、これを錠剤成形機で加圧し、厚さ約2〜3mmの板状にした後、破砕、篩い分けにより1〜2mmのペレット状に整粒した。
(c)触媒活性評価:流通式固定床に上記ペレットを3ccの容積となるように充填した後、空間速度60000/hで表1に示す自動車排気モデルガス(当量点組成)を接触させ、出口においてHC濃度を汎用型ガス分析ユニットFIA−510(株式会社堀場製作所製)で、CO濃度を汎用型ガス分析ユニットVIA−510(株式会社堀場製作所製)でそれぞれ測定した。測定の際は、昇温速度10℃/分で室温から600℃まで昇温しながら、HC,COのそれぞれのガス成分について、その浄化率が50%に達するペレットの温度(以下「T50」という)を求めて活性の指標とした。結果を表2に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
表2から判るように、細孔半径10〜50nmの細孔の占める細孔容積の合計が0.05cc/g以上と大きいペロブスカイト型複合酸化物を担体に用いた実施例のものは、Pdを担持させた触媒においても細孔半径10〜50nmの細孔の占める細孔容積の合計が0.05cc/g以上となった。その結果、比較例のものよりも特にCOガスのT50が低くなり、エンジン始動開始直後の低温域での排ガス浄化性能が向上することが確かめられた。HCガスについても比較例のものと同等以上の低温浄化性能を示した。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】実施例1における非晶質前駆体、ペロブスカイト型複合酸化物およびPdを担持した後のペロブスカイト型複合酸化物について、X線回折パターンを例示した図。
【図2】実施例1のペロブスカイト型複合酸化物の細孔分布を示すグラフ。
【図3】実施例2のペロブスカイト型複合酸化物の細孔分布を示すグラフ。
【図4】実施例3のペロブスカイト型複合酸化物の細孔分布を示すグラフ。
【図5】比較例1のペロブスカイト型複合酸化物の細孔分布を示すグラフ。
【図6】比較例2のペロブスカイト型複合酸化物の細孔分布を示すグラフ。
【図7】実施例1のペロブスカイト型複合酸化物にPdを担持させた「Pd担持ペロブスカイト型複合酸化物」の細孔分布を示すグラフ。
【図8】実施例2のペロブスカイト型複合酸化物にPdを担持させた「Pd担持ペロブスカイト型複合酸化物」の細孔分布を示すグラフ。
【図9】実施例3のペロブスカイト型複合酸化物にPdを担持させた「Pd担持ペロブスカイト型複合酸化物」の細孔分布を示すグラフ。
【図10】比較例1のペロブスカイト型複合酸化物にPdを担持させた「Pd担持ペロブスカイト型複合酸化物」の細孔分布を示すグラフ。
【図11】比較例2のペロブスカイト型複合酸化物にPdを担持させた「Pd担持ペロブスカイト型複合酸化物」の細孔分布を示すグラフ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車排ガス浄化触媒の担体として好適な高い活性をもつペロブスカイト型複合酸化物、およびそれを用いた排ガス浄化触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
1960年後半、大気汚染物質の発生源のひとつとして自動車排ガスが問題視され、その浄化技術開発が進められた。この中で自動車排ガス浄化触媒は1975年より実用化され、現在では米国および日本の殆どの自動車に採用され、更にEUおよび各国での採用が急速に進みつつあり、環境浄化触媒として定着している。
【0003】
自動車排ガスの浄化触媒としては、排ガス中に含まれる大気汚染物質である炭化水素(HC),一酸化炭素(CO),窒素酸化物(NOx)を同時に酸化又は還元する三元触媒が主流である。その構成はハニカム形状の基材に比表面積の大きいγ−アルミナをコートし、その上に活性種であるPt,Pd,Rhといった貴金属を担持させ、更に酸素の吸放出能を持つCe酸化物等を添加したものとなっている。
【0004】
1990年代に入ると地球規模の環境変化が問題視され、自動車排ガス浄化触媒にも更なる技術革新が求められている。その様な中、新規な触媒材料としてペロブスカイト型複合酸化物を自動車排ガス浄化触媒に適用しようとする試みが数多くなされている。その一例として以下の特許文献が挙げられる。
【0005】
【特許文献1】特許第1020168号公報
【特許文献2】特許第2620624号公報
【特許文献3】特許第1877483号公報
【特許文献4】特許第3222184号公報
【特許文献5】特開平9−86928号公報
【特許文献6】特開平11−169711号公報
【特許文献7】特開平8−12334号公報
【特許文献8】特開2004−41866号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のような多くの試みにもかかわらず、浄化性能やペロブスカイト型複合酸化物自体の製造性等の面でまだまだ不十分であり、広く実用化されるには至っていない。また、排ガス浄化触媒はその特性上、一般に低温での浄化効率が低いことから、自動車メーカーではエンジン始動直後の浄化効率を向上させるために、触媒位置を排ガス流路のできるだけ上流側にしたり、排ガス流路を2重管にして触媒に到達するまでの排ガスを保温したりするなどの対策をとっている。しかしそのような対策は自動車の設計自由度を制約したり、排ガス流路部材のコスト増を招くことになり、触媒自体の浄化効率を低温域において向上させる技術の確立が強く望まれている。
【0007】
本発明は、比較的低温域での有害ガス成分除去効率の向上をもたらし得る機能的な材料を開発し提供するとともに、それを用いた優れた排ガス浄化触媒を提供しようというものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の特許文献に示されるように、これまで排ガス浄化触媒分野におけるペロブスカイト型複合酸化物触媒の開発は、それ自体の成分・組成の検討や、組み合わせる貴金属および耐熱酸化物の検討を中心になされており、ペロブスカイト型複合酸化物自体の物理的な性質に関してはあまり注目されてなかった。
【0009】
発明者らはペロブスカイト型複合酸化物の物理的特性について詳細に調査したところ、例えば非晶質物質から直接加熱生成させたペロブスカイト型複合酸化物において、非常に高い活性を有するものが実現できることを見出した。このペロブスカイト型複合酸化物を触媒に用いると、当該複合酸化物自体のもつ高い活性によって、比較的低温から触媒活性を向上でき、その結果、低温域での排ガス浄化性能が大幅に向上するのである。このペロブスカイト型複合酸化物の高い活性は、当該粉末が触媒活性を高める上で極めて有利な細孔分布を有していることに起因していることがわかった。本発明はこのような知見に基づいて完成したものである。
【0010】
すなわち、本発明で提供するペロブスカイト型複合酸化物は、細孔半径10〜50nmの細孔の占める細孔容積の合計が0.05cc/g以上となるものであり、特に、貴金属元素を担持させる触媒用途に供するものとして好適である。
【0011】
ここで、細孔半径10〜50nmの細孔の占める細孔容積の合計値は、窒素ガス吸着法によって求まる細孔分布から定まる値が採用される。
【0012】
このペロブスカイト型複合酸化物として希土類元素類の1種以上と遷移金属元素の1種以上を含むものが採用でき、特に構造式RTO3において、Rは希土類元素類の1種以上で構成され、Tは遷移金属元素の1種以上で構成されるもの、あるいはまた、Rは希土類元素類の1種以上と、アルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素の中から選ばれる1種以上とで構成され、Tは遷移金属元素の1種以上で構成されるものが好適に採用できる。このうち後者のものは、前者のRを構成する希土類元素類の一部をアルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素の中から選ばれる1種以上の元素で置換した構造を有するものである。
なお「希土類元素類」とは希土類元素にYを加えた元素群をいう。
【0013】
また本発明では、このようなペロブスカイト型複合酸化物を用いた排ガス浄化触媒、特に当該ペロブスカイト型複合酸化物にPdなどの貴金属元素を担持させてなる排ガス浄化用触媒が提供される。特に、貴金属元素を担持させた後において、細孔半径10〜50nmの細孔の占める細孔容積の合計が0.05cc/g以上である排ガス浄化用触媒が好適な対象となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、比較的低温で高い活性を有するペロブスカイト型複合酸化物が提供された。このペロブスカイト型複合酸化物を自動車排ガス浄化触媒に使用すると、エンジン始動開始直後の比較的低温域においてCOガス等の浄化効率が向上し、触媒に到達する排ガスの温度低下を防止するための種々の対策を軽減することができる。したがって本発明は、実用価値の高い排ガス浄化触媒の普及に寄与しうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
発明者らは詳細な実験の結果、同じ組成のペロブスカイト型複合酸化物であっても、その焼成体によって、Pd等を担持させた場合の触媒活性に差が生じることを見出した。そして、触媒活性の高いものは特に低温域での触媒活性の向上効果が大きい。
【0016】
発明者らは、ペロブスカイト型複合酸化物の特性と、それを使用した触媒の排ガス浄化効率との関係について種々検討してきた。その結果、特定の細孔分布を有するペロブスカイト型複合酸化物の粉末において、高い触媒活性が得られることを見出した。
【0017】
固体触媒は一つの結晶子である一次粒子およびその集合体である二次粒子から構成され、一般的には二次粒子の内部すなわち一次粒子同士の間隙に細孔が形成されている。複合酸化物の細孔半径が小さすぎるとガス拡散性が低下するため、空間速度が高い条件下における反応活性が低下する。一方、細孔半径が大きすぎると高温下で一次粒子が再配列し、凝集し細孔容積が低下しやすくなる。このようなことから、適切な細孔半径を持つ細孔が多く存在する構造の粉末において高い触媒活性が得られるものと考えられる。
【0018】
種々検討を重ねた結果、ペロブスカイト型複合酸化物において、特に低温域での排ガス浄化性能向上に繋がる触媒活性の向上をもたらす適切な細孔半径の範囲は、10〜50nmであることが見出された。つまり、細孔半径10〜50nmの細孔が多く存在するペロブスカイト型複合酸化物は、従来一般的なものより触媒活性が向上し、特に低温域での排ガス浄化性能の改善をもたらす。
【0019】
具体的には、細孔半径10〜50nmの細孔の占める細孔容積の合計が0.05cc/g以上であるとき、そのペロブスカイト型複合酸化物粉末は高い触媒活性を与える。細孔半径10〜50nmの細孔の占める細孔容積の合計が0.10cc/g以上になると触媒活性の向上効果は一層顕著になり、特に0.15cc/g以上であることが一層好ましい。
【0020】
上記のように高い触媒活性を呈する細孔分布のペロブスカイト型複合酸化物は、希土類元素類の1種以上と遷移金属元素の1種以上を含む組成のものにおいて好適に実現される。例えば、ペロブスカイト型複合酸化物の一般式RTO3において、Rは希土類元素類の1種以上で構成され、Tは遷移金属元素の1種以上で構成されるものが採用できる。あるいはまた、Rは希土類元素類の1種以上と、アルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素の中から選ばれる1種以上とで構成され、Tは遷移金属元素の1種以上で構成されるものが採用できる。
【0021】
Rを構成する希土類元素類としては特に限定されないが、Y,La,Ce,Nd,Sm,Pr等が挙げられる。Tを構成する遷移金属元素としては特に限定されないが、Co,Fe,Ni,Mn,Cu,Cr,V,Nb,Ti,Zr,Pt,Pd,Ru,Rh,Au,Ag等が挙げられる。なお、Rを構成する希土類元素類以外の元素として、希土類元素類の一部を置換する形で含有されるアルカリ金属元素あるいはアルカリ土類金属元素が挙げられる。例えば、Li,K,Na,Mg,Sr,Ca,Ba等である。
【0022】
従来一般にペロブスカイト型複合酸化物の製造は、水酸化物,炭酸塩,蓚酸塩,酢酸塩,シアン塩,酸化物などの中間物質から合成する手法が採用されていた。しかし、前記のような高い触媒活性を有するペロブスカイト型複合酸化物を、このような結晶性中間物質から製造することはできなかった。発明者らは詳細な実験の結果、低温域での排ガス浄化性能向上作用の大きい優れた触媒活性を発揮するペロブスカイト型複合酸化物は、上記のような結晶性中間物質を経由することなく、非晶質の前駆体物質から直接、低温かつ短時間の熱処理条件でペロブスカイト型複合酸化物を合成する手法によって得ることができることを見出した。
【0023】
すなわち、優れた触媒活性を与える本発明のペロブスカイト型複合酸化物は、R元素とT元素を含む粉状の非晶質からなる前駆体物質を低温で熱処理することによって得ることができる。この前駆体物質は、例えば希土類元素類の少なくとも1種と遷移金属元素の少なくとも1種を主要構成成分とし、目的とする複合酸化物を生成するに必要な量比のRおよびT成分を含有する非晶質物質である。従って、X線回折パターンはブロードな状態のままであり、明確なピークは存在しない。この非晶質はペロブスカイト型複合酸化物を得るための熱処理温度に至るまでその非晶質状態を維持していることが望ましい。
【0024】
このような非晶質の前駆体は、R元素およびT元素のイオンを含む水溶液と、炭酸アルカリまたはアンモニウムイオンを含む炭酸塩などの沈殿剤とを、反応温度60℃以下,pH6以上で反応させて沈殿生成物を作り、その濾過物を乾燥させて得ることができる。
【0025】
より具体的には、まず、Rの硝酸塩,硫酸塩,塩化物等の水溶性鉱酸塩と、Tの硝酸塩,硫酸塩,塩化物等の水溶性鉱酸塩を、R元素とT元素のモル比がほぼ1:1となるように溶解させた水溶液を用意する。R元素とT元素のモル比は、理想的にはほぼ1:1とするのがよいが、正確に1:1でなくてもペロブスカイト型複合酸化物を形成できることもある。したがって、R元素とT元素のモル比は1:1から多少ずれても、ペロブスカイト型複合酸化物が形成可能な値であればよい。なお、R元素は2成分以上であってもよく、T元素も2成分以上であってもよい。その場合には、Rを構成する元素の総モル数とTを構成する元素の総モル数の比がほぼ1:1となるように各成分を溶解させるとよい。
【0026】
本発明の効果を妨げない範囲内であれば、アルミナ,シリカ,チタニア,ジルコニアなどの材料やこれらの複合酸化物といった耐熱性材料を前駆体物質に添加することも可能である。この場合には、これらの物質とともに前駆体物質を熱処理することによって、これらの耐熱性材料にペロブスカイト型複合酸化物が介在した状態のものが得られる。
【0027】
沈殿を生成させる液中のRおよびTのイオン濃度は、用いる塩類の溶解度によって上限が決まるが、RまたはTの結晶性化合物が析出しない状態が望ましい。通常は、RとTの合計イオン濃度が0.01〜0.60mol/L程度の範囲であるのが望ましいが、場合によっては、0.60mol/Lを超えてもよい。
【0028】
この液から非晶質の沈殿を得るには、炭酸アルカリまたはアンモニウムイオンを含む炭酸塩からなる沈殿剤を用いるのがよく、このような沈殿剤としては、炭酸ナトリウム,炭酸水素ナトリウム,炭酸アンモニウム,炭酸水素アンモニウム等を使用することができ、必要に応じて、水酸化ナトリウム,アンモニア等の塩基を加えることも可能である。また、水酸化ナトリウム,アンモニア等を用いて沈殿を形成した後、炭酸ガスを吹き込むことによっても本発明のペロブスカイト型複合酸化物に適した非晶質前駆体を得ることができる。非晶質の沈殿を得る際、液のpHを6〜11の範囲に制御するのがよい。pHが6未満の領域では、Rを構成する希土類元素類が沈殿を形成しない場合があるので不適切である。他方、pHが11を超える領域では、沈殿剤単独の場合には生成する沈殿の非晶質化が十分に進行せずに、水酸化物などの結晶性の沈殿を形成する場合がある。また、反応温度は60℃以下にするのがよい。60℃を超える温度で反応を開始した場合、RあるいはTの結晶性の化合物粒子が生成する場合があり、前駆体物質の非晶質化を妨げるので好ましくない。
【0029】
生成した沈殿は、濾過,遠心沈降,デカンテーション等により固液分離し、水洗を行って不純物イオンの残留を少なくするのが望ましい。得られた非晶質の沈殿物を自然乾燥,加熱乾燥,真空乾燥等の方法で乾燥させ、乾燥処理後に必要に応じて粉砕処理や分級処理を実施する。このようにして得た非晶質物質は、触媒活性の高いペロブスカイト型複合酸化物を得るための前駆体物質として好適である。
【0030】
本発明のペロブスカイト型複合酸化物は、この前駆体物質を熱処理することにより直接合成される。熱処理温度があまり低いとペロブスカイト型複合酸化物が生成しにくいので、少なくとも450℃以上に昇温する必要があり、500℃以上とすることが好ましい。一方、熱処理温度が高すぎると生成物の触媒活性が低下するので、1000℃以下、好ましくは800℃以下、更に好ましくは700℃以下とするのがよい。熱処理雰囲気は、大気中または酸化性雰囲気中であればよく、ペロブスカイト型複合酸化物が得られる酸素濃度,温度範囲ならば窒素雰囲気等でもよい。
【0031】
このようにして得られた触媒活性の高い細孔分布をもつペロブスカイト型複合酸化物の焼成体に、貴金属元素を担持させると、低温域での触媒活性に優れた触媒が得られ、エンジン始動直後の低温時に優れた排ガス浄化性能を発揮する。また、RTO3構造のT元素にPt,Pd,Rh等の活性種となりうる貴金属元素を含有させた場合、そのペロブスカイト型複合酸化物自体が優れた活性を呈する触媒として機能し得る。T元素にPt,Pd,Rh等の貴金属元素を含有させた上で、更にこれを担体として貴金属元素を担持させることも有効である。
【実施例】
【0032】
〔実施例1〕
硝酸ランタンと硝酸ストロンチウムと硝酸鉄を、ランタン元素とストロンチウム元素と鉄元素のモル比が0.8:0.2:1となるように混合した。この混合物を、ランタン元素とストロンチウム元素と鉄元素の液中モル濃度の合計が0.2mol/Lとなるように水に添加して原料溶液を得た。この溶液を攪拌しながら溶液の温度を25℃に調整し、温度が25℃に到達した段階で、沈殿剤として炭酸アンモニウム溶液を添加しながらpH=8に調整した。その後、反応温度を25℃に保ちながら攪拌を12時間継続することにより、沈殿の生成を十分進行させた。得られた沈殿を濾過して回収した後、水洗し、110℃で乾燥した。得られた粉末を前駆体粉と言う。
【0033】
この前駆体粉のX線粉末回折(Co−Kα線使用)を行ったところ、図1に示すようにピークが現れないブロードな回折結果となり、非晶質材料であることが確認された。
次に、この前駆体粉を大気雰囲気下600℃で熱処理して焼成した。得られた焼成体のX線粉末回折(Co−Kα線使用)を行ったところ、図1に示すように、(La0.8Sr0.2)FeO3のペロブスカイト型複合酸化物単相であることが確認された。
【0034】
上記ペロブスカイト型複合酸化物の焼成体について、日本ベル社製のBELSORP28SAを用いて、窒素ガス吸着法により細孔分布を求めた。結果を図2に示す。図2は、横軸に細孔半径r(対数目盛)、縦軸にrよりも大きな半径を有する細孔の容積を採った積分型の細孔分布曲線である(後述の図3〜11も同様)。この細孔分布から細孔半径10〜50nmの細孔の占める細孔容積の合計を求めると0.220cc/gであった。
【0035】
〔実施例2〕
硝酸ランタンと硝酸鉄を、ランタン元素と鉄元素のモル比が1:1となるように混合した以外は、実施例1を繰り返した。
得られた焼成体のX線粉末回折を行ったところLaFeO3のペロブスカイト型複合酸化物単相であることが確認された。
このペロブスカイト型複合酸化物の焼成体について、実施例1と同様に細孔分布を求めた。その結果を図3に示す。この細孔分布から細孔半径10〜50nmの細孔の占める細孔容積の合計を求めると0.169cc/gであった。
【0036】
〔実施例3〕
硝酸ランタンと硝酸ストロンチウムと硝酸マンガンを、ランタン元素とストロンチウム元素とマンガン元素のモル比が0.8:0.2:1となるように混合した以外は、実施例1を繰り返した。
得られた焼成体のX線粉末回折を行ったところ(La0.8Sr0.2)MnO3のペロブスカイト型複合酸化物単相であることが確認された。
このペロブスカイト型複合酸化物の焼成体について、実施例1と同様に細孔分布を求めた。その結果を図4に示す。この細孔分布から細孔半径10〜50nmの細孔の占める細孔容積の合計を求めると0.328cc/gであった。
【0037】
〔比較例1〕
一般的な複合酸化物の製法の1つである共沈法によってペロブスカイト型複合酸化物を製造した。
沈殿剤として水酸化ナトリウムを添加しながらpHを12に調整した以外は、実施例1と同様に沈殿を生成させ、これを濾過、水洗、乾燥して前駆体粉を得た。この前駆体粉を大気雰囲気下600℃で熱処理して焼成した。しかしながらペロブスカイト型複合酸化物単相とはならず、順次熱処理温度を上昇させたところ、900℃で熱処理した場合には(La0.8Sr0.2)FeO3のペロブスカイト型複合酸化物単相からなる焼成体が得られることがX線粉末回折により確認された。そこでこの比較例では焼成温度を900℃とした。
900℃の焼成温度で得られた(La0.8Sr0.2)FeO3ペロブスカイト型複合酸化物の焼成体について実施例1と同様に細孔分布を求めた。その結果を図5に示す。この細孔分布から細孔半径10〜50nmの細孔の占める細孔容積の合計を求めると0.012cc/gであった。
【0038】
〔比較例2〕
一般的な複合酸化物の製法の1つであるクエン酸錯体法によってペロブスカイト型複合酸化物を製造した。
実施例2と同様に、硝酸ランタンと硝酸鉄を、ランタン元素と鉄元素のモル比が1:1となるように混合した。この混合物を、ランタン元素と鉄元素の液中モル濃度の合計が0.2mol/Lとなるように水に添加し、更にランタン元素と鉄元素の液中モル濃度の合計に対して1.2倍量のクエン酸を添加して原料溶液を得た。
この原料溶液をロータリー・エバポレーターで減圧しながら80℃の湯浴中で約3時間かけて蒸発乾固させ、クエン酸錯体を作製した。
【0039】
得られたクエン酸錯体の前駆体粉を大気雰囲気下600℃で熱処理して焼成した。この焼成体のX線粉末回折を行ったところLaFeO3のペロブスカイト型複合酸化物単相であることが確認された。
このペロブスカイト型複合酸化物の焼成体について、実施例1と同様に細孔分布を求めた。その結果を図6に示す。この細孔分布から細孔半径10〜50nmの細孔の占める細孔容積の合計を求めると0.032cc/gであった。
【0040】
〔触媒性能評価〕
前記実施例1〜3、比較例1,2で得られた各焼成体について、以下のとおりPdを担持し、触媒性能を評価した。
(a)Pd担持:焼成体に、Pdにして含有量が2.0重量%に相当する硝酸パラジウム水溶液を含浸させて原料スラリーとした。この原料スラリーをロータリー・エバポレーターで減圧しながら110℃の油浴中で約3時間かけて蒸発乾固させ、更に大気雰囲気下600℃で熱処理してPd担持ペロブスカイト型複合酸化物を得た。
このPd担持ペロブスカイト型複合酸化物の焼成体について、前記と同様の方法で細孔分布を求めた。結果を図7〜11に示す。これらの細孔分布から細孔半径10〜50nmの細孔の占める細孔容積の合計を求めた。
(b)ペレット作製:Pd担持した焼成体を粉砕して粉末とし、これを錠剤成形機で加圧し、厚さ約2〜3mmの板状にした後、破砕、篩い分けにより1〜2mmのペレット状に整粒した。
(c)触媒活性評価:流通式固定床に上記ペレットを3ccの容積となるように充填した後、空間速度60000/hで表1に示す自動車排気モデルガス(当量点組成)を接触させ、出口においてHC濃度を汎用型ガス分析ユニットFIA−510(株式会社堀場製作所製)で、CO濃度を汎用型ガス分析ユニットVIA−510(株式会社堀場製作所製)でそれぞれ測定した。測定の際は、昇温速度10℃/分で室温から600℃まで昇温しながら、HC,COのそれぞれのガス成分について、その浄化率が50%に達するペレットの温度(以下「T50」という)を求めて活性の指標とした。結果を表2に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
表2から判るように、細孔半径10〜50nmの細孔の占める細孔容積の合計が0.05cc/g以上と大きいペロブスカイト型複合酸化物を担体に用いた実施例のものは、Pdを担持させた触媒においても細孔半径10〜50nmの細孔の占める細孔容積の合計が0.05cc/g以上となった。その結果、比較例のものよりも特にCOガスのT50が低くなり、エンジン始動開始直後の低温域での排ガス浄化性能が向上することが確かめられた。HCガスについても比較例のものと同等以上の低温浄化性能を示した。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】実施例1における非晶質前駆体、ペロブスカイト型複合酸化物およびPdを担持した後のペロブスカイト型複合酸化物について、X線回折パターンを例示した図。
【図2】実施例1のペロブスカイト型複合酸化物の細孔分布を示すグラフ。
【図3】実施例2のペロブスカイト型複合酸化物の細孔分布を示すグラフ。
【図4】実施例3のペロブスカイト型複合酸化物の細孔分布を示すグラフ。
【図5】比較例1のペロブスカイト型複合酸化物の細孔分布を示すグラフ。
【図6】比較例2のペロブスカイト型複合酸化物の細孔分布を示すグラフ。
【図7】実施例1のペロブスカイト型複合酸化物にPdを担持させた「Pd担持ペロブスカイト型複合酸化物」の細孔分布を示すグラフ。
【図8】実施例2のペロブスカイト型複合酸化物にPdを担持させた「Pd担持ペロブスカイト型複合酸化物」の細孔分布を示すグラフ。
【図9】実施例3のペロブスカイト型複合酸化物にPdを担持させた「Pd担持ペロブスカイト型複合酸化物」の細孔分布を示すグラフ。
【図10】比較例1のペロブスカイト型複合酸化物にPdを担持させた「Pd担持ペロブスカイト型複合酸化物」の細孔分布を示すグラフ。
【図11】比較例2のペロブスカイト型複合酸化物にPdを担持させた「Pd担持ペロブスカイト型複合酸化物」の細孔分布を示すグラフ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細孔半径10〜50nmの細孔の占める細孔容積の合計が0.05cc/g以上であるペロブスカイト型複合酸化物。
【請求項2】
希土類元素類の1種以上と遷移金属元素の1種以上を含む請求項1に記載のペロブスカイト型複合酸化物。
【請求項3】
構造式RTO3で表される請求項1に記載のペロブスカイト型複合酸化物。
ただし、Rは希土類元素類の1種以上で構成され、Tは遷移金属元素の1種以上で構成される。
【請求項4】
構造式RTO3で表される請求項1に記載のペロブスカイト型複合酸化物。
ただし、Rは希土類元素類の1種以上と、アルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素の中から選ばれる1種以上とで構成され、Tは遷移金属元素の1種以上で構成される。
【請求項5】
用途が排ガス浄化用触媒である請求項1〜4に記載のペロブスカイト型複合酸化物。
【請求項6】
用途が貴金属元素を担持させる触媒用である請求項1〜4に記載のペロブスカイト型複合酸化物。
【請求項7】
請求項1〜4に記載のペロブスカイト型複合酸化物を用いた排ガス浄化用触媒。
【請求項8】
請求項1〜4に記載のペロブスカイト型複合酸化物に貴金属元素を担持させてなる排ガス浄化用触媒。
【請求項9】
前記貴金属元素がPdである請求項8に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項10】
細孔半径10〜50nmの細孔の占める細孔容積の合計が0.05cc/g以上である請求項8または9に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項1】
細孔半径10〜50nmの細孔の占める細孔容積の合計が0.05cc/g以上であるペロブスカイト型複合酸化物。
【請求項2】
希土類元素類の1種以上と遷移金属元素の1種以上を含む請求項1に記載のペロブスカイト型複合酸化物。
【請求項3】
構造式RTO3で表される請求項1に記載のペロブスカイト型複合酸化物。
ただし、Rは希土類元素類の1種以上で構成され、Tは遷移金属元素の1種以上で構成される。
【請求項4】
構造式RTO3で表される請求項1に記載のペロブスカイト型複合酸化物。
ただし、Rは希土類元素類の1種以上と、アルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素の中から選ばれる1種以上とで構成され、Tは遷移金属元素の1種以上で構成される。
【請求項5】
用途が排ガス浄化用触媒である請求項1〜4に記載のペロブスカイト型複合酸化物。
【請求項6】
用途が貴金属元素を担持させる触媒用である請求項1〜4に記載のペロブスカイト型複合酸化物。
【請求項7】
請求項1〜4に記載のペロブスカイト型複合酸化物を用いた排ガス浄化用触媒。
【請求項8】
請求項1〜4に記載のペロブスカイト型複合酸化物に貴金属元素を担持させてなる排ガス浄化用触媒。
【請求項9】
前記貴金属元素がPdである請求項8に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項10】
細孔半径10〜50nmの細孔の占める細孔容積の合計が0.05cc/g以上である請求項8または9に記載の排ガス浄化用触媒。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−62942(P2006−62942A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−283476(P2004−283476)
【出願日】平成16年9月29日(2004.9.29)
【出願人】(000224798)同和鉱業株式会社 (550)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年9月29日(2004.9.29)
【出願人】(000224798)同和鉱業株式会社 (550)
【Fターム(参考)】
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