説明

計測対象保持具、生体保持具及び光計測装置

【課題】生体を計測対象とした光断層情報を得るときに、円滑な計測を可能とする。
【解決手段】計測対象保持具として用いて検体ホルダ64は、近赤外光及び蛍光が等方散乱しながら伝播する光学特性を有する材質で形成されている。また、検体ホルダは、軸心を含む面でブロック66とブロック68に分割可能となっている。ブロック66、68には、検体の外形形状及び大きさに合わせ凹部66A、68Aが形成されている。検体は、この凹部によって形成される空洞部に表面が緊密に接触するように収容される。これにより、検体に対する計測を行うときに、検体が本来の形状及び臓器位置が維持された状態で保持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光を用いたトモグラフィー(Tomography)に係り、詳細には、小動物などの生体を計測対象とするときに該計測対象を保持する計測対象保持具、生体保持具及び、光計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生体を計測対象として断層画像を撮影する方法としては、X線を用いたX線CT(Computerized Tomography)、超音波を用いた超音波CT、核磁気共鳴を用いたNMR−CT、プロトンなどの粒子線を用いた陽子線CTなどがある。
【0003】
一方、生体組織では、近赤外線などの所定波長の光に対して透過性を有することから、小動物の断層観察に、光トモグラフィー(以下、光CTとする)を適用することができる。
【0004】
生体では、光が照射されることにより、この光が等方的に散乱しながら透過し、これにより、照射された光に応じた光が生体の周囲から射出される。ここから、光CTでは、所定波長の光を計測対象である生体へ照射し、計測対象を透過して周囲に射出される光の強度を検出する。また、光CTでは、光の照射位置を変えて、射出光を受光することにより、計測対象の断層情報(光断層情報)の元となる計測情報を取得することができる。
【0005】
生体中などでは、光の直進性が確保できる空気中などと異なり、光の散乱、吸収が生じる。このために、生体の適正な断層情報を得るためには、計測対象の外形を適正に把握する必要がある。
【0006】
例えば、非特許文献1では、予め形状を3D計測するように提案されており、また、特許文献1では、光に対する吸収係数、散乱係数などの光学特性が計測対象と略一致する溶液を満たし、この溶液中に計測対象を漬け、容器を含めた断層情報を取得する提案がなされている。
【非特許文献1】IEEE TRANSACTION ON MEDICAL IMAGING,VOL.23,NO.4,APRIL 2004
【特許文献1】特開平11−173976号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
計測対象の外形を既知とできるので、計測対象である生体を含めた適正な断層情報を得ることができる。ただ、これらの方法では、一つの生体に対する計測を行うごとに、3D計測を行ったり、溶液を入れ替えるなどの作業が必要となり、このために、多数の生体について計測を行う場合には、多大な労力と時間が必要になる。
【0008】
一方、生体の光断層情報を得るためには、生体を一定状態に保持して、その周囲に対して所定の間隔で光を照射すると共に、それぞれの照射位置で生体から射出された光を受光する必要がある。このとき、生体に対して一周分のデータを取得する間に、生体が動くと適正な断層情報が得られなくなり、計測のやり直しなどの対処が必要となる。ここから、生体に麻酔薬を投与して、生体の動きを止めた状態で計測が行われる。
【0009】
しかしながら、生体に麻酔薬を投与すると、筋肉が弛緩してしまう。このために、生体内の臓器などが本来の位置に保持されなくなり、適正な光断層情報が得られなくなる。
【0010】
例えば、生体を光学特性が略同等の容器に漬けて計測を行うときに、生体を生かした状態とするためには、生体の頭部を溶液中から出した状態で吊り下げるように胴部以下を溶液中に漬ける必要がある。このような状態では、生体に麻酔が投与されていると、生体の体内の臓器が下方へ移動し、本来の位置の把握が困難となる。
【0011】
本発明は上記事実に鑑みてなされたものであり、生体を計測対象としたときに、適正な光断層情報の取得が容易となる計測対象保持具、生体保持具及び光計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するための本発明の計測対象保持具は、内部で光の等方散乱が生じる生体を計測対象とし、該計測対象から射出される光を受光する光計測装置において、前記計測対象の保持に用いられる計測対象保持具であって、内部で前記光の等方散乱が生じる光学特性を有する材質によって予め設定された外形形状で形成されたブロックと、前記計測対象の外形に沿った内面形状で前記ブロックの内部に形成されて、前記計測対象が収容される空洞部と、を含む。
【0013】
この発明によれば、外形形状が予め設定されているブロック内に、計測対象の外形に沿うように合わせた内面形状の空洞部を形成している。この空洞部は、例えば、計測対象の大きさよりも僅かに小さくして、計測対象が収容されたときに、計測対象が僅かに締めつけられる程度となり、計測対象の表皮がなじんで、空洞部の内面に計測対象の表面が緊密に接するものであることが好ましい。これにより、計測対象が本来の形状を維持された状態で収容されて保定される。
【0014】
また、このブロックは、光浸達長を超える領域で、光の散乱が等方的(以下、等方散乱とする)になり、空洞部内でこのブロックの内面に計測対象が接していることにより計測対象内でも実質的に等方散乱が継続されていると見なしうる光学特性を有する材質で形成されている。
【0015】
これにより、光を用いて計測対象である生体の光断層情報を得るための計測を行うときに、計測誤差を少なくすることができる。また、計測対象に対する光断層情報を得るための計測を行うときに、計測対象が動いてしまうのを防止できると共に、計測対象が弛緩した状態であっても、計測対象の外形形状が崩れるのを防止して、計測対象内の臓器などを本来の位置の近くに保持することができる。
【0016】
また、本発明の計測対象保持具は、前記ブロックが円筒状に形成され、該ブロックの軸方向に前記計測対象の体長方向が沿うように前記空洞部が形成される。
【0017】
この発明によれば、ブロックの外形形状を円筒状に形成している。これにより、光源及び受光素子を計測対象に対して体長方向へ相対移動したときにも、ブロックの外形形状が変化してしまうことがない。
【0018】
また、本発明の計測対象保持具は、前記ブロックが、前記空洞部を通過する面で複数に分割される。
【0019】
この発明によれば、ブロックを分割することにより空洞部を形成する凹部が開放されて、凹部、すなわち空洞部内への計測対象の収容及び取り出しが容易となる。これにより、計測対象に対する計測作業の作業性を向上することができる。なお、ブロックの分割は、計測対象の体長方向に沿った面であることが好ましい。
【0020】
また、本発明の計測対象保持具では、前記空洞部が、少なくとも前記計測対象で計測部位として設定されている部位を収容するように形成されているものであれば良い。
【0021】
このような本発明が適用される生体保持具としては、内部で光の等方散乱が生じる光学特性を有する材質によって予め設定された外形形状で形成され、かつ、内部に光の等方散乱が生じる生体の外形形状に沿った内面形状で空洞部が形成され、該空洞部内に前記生体が収容されることにより該生体が保持されるブロック、を有する。
【0022】
また、本発明の生体保持具は、前記ブロックが円筒状に形成され、その軸方向が前記生体の体長方向に沿うように前記空洞部が形成することができ、前記ブロックが、前記空洞部を通過する面で複数に分割されることが好ましい。
【0023】
本発明が適用される光計測装置は、励起光が照射されることにより蛍光を発する蛍光体が投与された生体が収容される前記生体保持具と、前記生体が収容された前記生体保持具の前記ブロックを前記生体の体長方向の両端部で保持する保持手段と、前記保持手段に保持された前記ブロック内の前記生体へ向けて前記励起光を照射する光源ヘッドと、前記光源ヘッドから照射された前記励起光により前記生体内の前記蛍光体から発せられる蛍光を受光する受光ヘッドと、を含むことができる。
【0024】
このような光計測装置では、生体保持具のブロックと生体とを一体に見なして、生体から射出される光を計測することができる。
【0025】
また、本発明の光計測装置では、前記蛍光体ごとに定まる前記励起光の波長、前記蛍光の波長及び、前記励起光が前記ブロックに照射されることにより前記ブロック内で生じるラマン効果によりブロックから発せられるラマン散乱光の波長に基づいて、前記蛍光の波長と前記ラマン散乱光の極大値を取る波長とが所定長以上離間するように、前記励起光の波長及び前記蛍光体並びに前記ブロックの材質が設定されている。
【0026】
光透過性を有するブロックに光を照射した場合、ラマン効果によるラマン散乱光が発生する。このラマン散乱光の波長が、受光ヘッドで受光される波長内であると、受光ヘッドで受光される光量に誤差が生じる。
【0027】
また、ラマン散乱光のピーク波長は、ブロックの材質と、ブロックに照射される光である励起光の波長に応じてシフトする。すなわち、励起光の波長を変化させることにより、ラマン散乱光のピーク波長が変化し、励起光の波長を換えずにブロックの材質を変えることにより、ラマン散乱光のピーク波長が変化する。
【0028】
ここから、蛍光の波長とラマン散乱光の極大値を取る波長とが所定長以上離間するように、蛍光体(励起光の波長と蛍光の波長)及びブロックの材質を適切に設定することにより、ラマン散乱光に起因する計測誤差を抑えることができる。
【0029】
この場合、前記蛍光の波長と前記ラマン散乱光の極大値を取る波長とを離間する前記所定波長が、前記受光ヘッドに設ける光学フィルタの分光特性によって定めた波長とすることができ、これにより、受光ヘッドに設ける光学フィルタにより、ラマン散乱光に起因するノイズが計測されてしまうのを防止できる。
【0030】
このとき、励起光の波長及び、蛍光の波長に基づいて設定された材質で前記ブロックが形成されるものであっても良く、ブロックの材質に応じて、生体に投与する蛍光体及び蛍光体に応じて光源ヘッドから照射する励起光の波長、受光ヘッドで受光する蛍光の波長を変えるものであっても良い。
【発明の効果】
【0031】
以上説明したように本発明の計測対象保持具及び生体保持具は、計測対象とする生体の外形形状や臓器などの本来の位置を保持した状態に維持しながら保定することができ、光断層情報を得るための的確な計測が容易となる。
【0032】
また、本発明の計測対象保持具及び生体保持具では、計測対象とする生体の収容及び取り出しを迅速かつ円滑に行うことができ、これにより、適正な光断層情報を得るときの円滑な計測が可能となる。
【0033】
また、本発明の光計測装置では、ラマン散乱光が起因する計測誤差を抑えて、高精度の断層画像の再構成を可能とする計測データが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下に、図面を参照しながら本発明の実施の一形態を説明する。図3には、光計測装置の一例とする本実施の形態に係る光断層計測装置10の概略構成が示されている。この光断層計測装置10は、計測部12と、計測部12から出力された電気信号に基づいて断層の再構成を行う画像処理部14と、を含んで形成されている。画像処理部14には、表示手段(表示デバイス)としてCRT、LCDなどのモニタ16が設けられている。
【0035】
本実施の形態に適用した光断層計測装置10は、例えば、ヌードマウス等の小動物などの生体を計測対象(以下、検体18とする)として、この検体18へ所定波長の光(例えば、近赤外線)を照射する。検体18では、照射された光が検体18内を散乱しながら透過し、この照射された光に応じた光が検体18の周囲へ射出される。光断層計測装置10では、検体18への光の照射位置を変えながら、それぞれの照射位置で検体18から射出される光(光強度)を検出し、この検出結果に対して所定のデータ処理を施す。光断層計測装置10では、この計測結果から得られる検体18の光断層情報に応じた画像をモニタ16に表示する。
【0036】
また、検体18に蛍光体を含む物質や薬剤(蛍光標識剤など)を投与し、この蛍光体に対する励起光を検体18に照射することにより、検体18内での蛍光体の濃度分布に応じた蛍光が検体18の周囲から射出される。光断層計測装置10では、この蛍光を検出して、所定のデータ処理(画像処理)を施すことにより、断層情報として検体18中での蛍光体の濃度(蛍光の強度)を含む分布情報を得る。
【0037】
光断層計測装置10は、この蛍光体の分布情報を画像化して、検体18の光断層情報として表示可能とするものであっても良い。なお、以下では、一例として、所定波長の光(以下、励起光とする)が照射されることにより発光を発する蛍光体(図示省略)を検体18に投与し、この検体18中の蛍光体の濃度分布を取得することにより、検体18中での蛍光体の移動、集積過程などを観察可能とするものとして説明する。
【0038】
図3及び図4に示されるように、計測部12は、基台20上に計測ユニット22が設けられている。計測ユニット22は、基台20から立設された板状のベース24を備え、このベース24の一方の面にリング状の機枠26が配置されている。
【0039】
機枠26には、励起光を発する光源ヘッド28と、検体18から射出される蛍光を受光する複数の受光ヘッド30とが所定の角度間隔で、機枠26の軸心を中心に放射状に配置されている。光源ヘッド28及び受光ヘッド30は、光源ヘッド28と光源ヘッド28に隣接する受光ヘッド30及び、互いに隣接する受光ヘッド30の角度間隔が角度θで等間隔となるように配置されている。なお、本実施の形態では、一例として、11台の受光ヘッド30を設け、角度θを30°(θ=30°)としている。
【0040】
光断層計測装置10では、計測ユニット22の機枠26の軸心部に検体18が配置されるようになっている。なお、ベース24には、機枠26と同軸的に開口部が形成されており、検体18は、機枠26の軸方向に沿って相対移動される。
【0041】
計測ユニット22では、機枠26がその軸心を中心に回転可能となるようにベース24に取り付けられている。また、基台20には、回転モータ32が取り付けられており、この回転モータ32が駆動されることにより、機枠26がその軸心を回転中心として回転される。
【0042】
これにより、光断層計測装置10では、光源ヘッド28から射出される励起光の照射位置を、検体18の周囲で移動させながら、それぞれの照射位置で、受光ヘッド30のそれぞれで並行して蛍光の受光が可能となっている。
【0043】
なお、光断層計測装置10では、一例として、30°ステップで機枠26を検体18に対して相対回転させながら計測を行うようにしている。また、機枠26の回転機構は、任意の機構を用いることができる。さらに、本実施の形態では、検体18と機枠26とを相対回転するように説明するが、これに限らず、例えば、光源ヘッド28と受光ヘッド30との機能が一体化された計測ヘッドを用い、この計測ヘッドを機枠26に所定の角度間隔で取り付ける構成などを適用しても良い。
【0044】
一方、図4に示されるように、光断層計測装置10には、検体18を保持する保持手段として、一対のアーム34が設けられている。アーム34は、計測ユニット22のベース24を挟んで所定間隔を隔てて配置されている。
【0045】
また、基台20上には、帯板状のスライド板36が配置されている。ベース24の基台20側の端部には、矩形形状の開口部24Aが形成さている。スライド板36は、長手方向が機枠26の軸方向に沿って配置されて、ベース24の開口部24Aへ挿通されている。また、スライド板36の長手方向の両端部には、前記アーム34の支柱38が取り付けられ、これにより一対のアーム34が、一定間隔を隔てた状態で基台20上に保持されている。
【0046】
図3及び図4に示されるように、基台20には、長手方向に沿ってガイド溝40が形成されている。図4に示されるように、スライド板36には、ガイド溝40の開口幅に合わせた脚部42が取り付けられており、この脚部42が、ガイド溝40に挿入されている。これにより、計測部12では、スライド板36が、基台20上を機枠26の軸方向に沿って移動可能となっている。
【0047】
また、基台20内には、送りねじ44及び、この送りねじ44を回転駆動する移動モータ46が配置されている。この送りねじ44には、ガイド溝40に挿通された脚部42が螺合されている。これにより、計測部12では、移動モータ46の駆動によって送りねじ44が回転されると、スライド板36がガイド溝40に沿って移動される。計測部12では、このスライド板36の移動によって、検体18を保持する一対のアーム34が、一定間隔を保った状態で機枠26の軸方向に沿って移動される。
【0048】
図5には、計測部12の作動を制御する制御ユニット50の概略構成が示されている。この制御ユニット50には、CPU、ROM、RAM等を含むマイクロコンピュータを備えたコントローラ52が設けられている。このコントローラ52は、予め記憶されているプログラム又は記録媒体を介して入力されるプログラム等に基づいて作動して各種の制御を行う。
【0049】
制御ユニット50には、回転モータ32を駆動する駆動回路54及び、移動モータ46を駆動する駆動回路56が設けられ、これらがコントローラ52に接続されている。コントローラ52では、駆動回路54、56の作動を制御することにより、回転モータ32の駆動による機枠26の回転角を制御すると共に、移動モータ46の駆動による一対のアーム34、すなわち、機枠26(光源ヘッド28及び受光ヘッド30)に対する検体18の位置を制御する。なお、回転モータ32及び移動モータ46としては、角度や位置を規定し易いパルスモータを適用することが好ましいが、駆動量が適正に制御可能であれば任意のモータを用いることができる。
【0050】
制御ユニット50には、光源ヘッド28を駆動する発光駆動回路58が設けられ、この発光駆動回路58がコントローラ52に接続されている。また、制御ユニット50には、受光ヘッド30から出力される電気信号を増幅する増幅器(Amp)60、増幅された電気信号をデジタル信号に変換するA/D変換器62が設けられている。
【0051】
コントローラ52は、光源ヘッド28の発光(励起光の発光)を制御しながら、受光ヘッド30から出力される電気信号(受光ヘッド30で検出する蛍光の強度に応じた電気信号)を、順にデジタル信号に変換して、計測データを生成する。
【0052】
このコントローラ52によって生成された計測データは、所定のタイミングで画像処理部14に出力される。画像処理部14は、CPU、ROM、RAM、HDD等がバス(何れも図示省略)によって接続されたコンピュータを含んで構成されている。画像処理部14では、計測部12で生成された計測データを読み込んで、この計測データに基づいた検体18の断層画像(画像データ)を生成する。なお、画像処理部14での処理は、公知の構成を適用でき、ここでは詳細な説明を省略する。
【0053】
ところで、光断層計測装置10では、励起光として波長が700nm〜1μmにピークを持つ近赤外線を用いており、光源ヘッド28はこの近赤外線を射出する。また、光断層計測装置10で観察される検体18は、この近赤外線が照射されることにより所定波長の蛍光を発する蛍光体が投与されている。
【0054】
ここで、図3及び図4に示されるように、光断層計測装置10では、計測対象保持具、生体保持具として検体ホルダ64が用いられ、検体18が、この検体ホルダ64に収容される。また、光断層計測装置10では、この検体ホルダ64が、一対のアーム34に掛け渡されて計測部12に装着される。
【0055】
図1に示されるように、この検体ホルダ64は、半円柱状の二つのブロック66、68によって形成され、このブロック66、68を重ね合わせることにより円柱状に形成される(図2参照)。すなわち、本実施の形態に適用した検体ホルダ64は、円柱状のブロックを、軸線と平行とされる面に沿ってブロック66、68に2分割した形状となっている。
【0056】
このブロック66、68には、検体ホルダ64内に収容される検体18の外形形状に沿った内面形状の凹部66A、68Aが形成されている。すなわち、検体ホルダ64は、ブロック66、68を重ね合わせることにより、凹部66A、68Aによって内面形状が検体18の外形形状と略一致された空洞部が形成される。
【0057】
これにより、検体ホルダ64は、内部に検体18が収容可能となっている。また、検体ホルダ64は、内部に収容された検体18の表皮が凹部66A、68Aの内面に密着されるようになっている。
【0058】
ここで、ブロック66、68に形成される凹部66A、68Aの形状は、検体18の本来の形状(通常状態での形状)に合わせた内面形状となるように形成されているが、例えば、検体18よりも僅かに小さい形状として、検体18が収容されたときに検体18が僅かに締めつけられる程度とするか、収容された検体18が凹部66A、68Aの形状になじむことにより内面に検体18の表皮が密着するものであればよい。また、凹部66A、68Aへの検体18の密着状態は、光の散乱に影響を与えない範囲であれば良い。なお、本実施の形態では、一例として、検体18の体長方向が検体ホルダ64の軸方向とされ、検体ホルダ64の内部に収容される検体18の体長方向に沿う面で分割するようにしているが、分割位置は、これに限らず、任意の位置を適用することができる。
【0059】
一方、検体18内では、励起光や蛍光に対して吸収及び散乱が生じる。すなわち、検体18に照射された励起光及び、検体18内の蛍光体から発せられる蛍光は、検体18内で散乱、減衰しながら透過し、検体18の周囲から射出される。
【0060】
一般に、検体18として適用するヌードマウスなどの生体は、光に対して異方性散乱媒質となっている。この異方性散乱媒質は、光浸達長(等価散乱長)に達するまでは前方散乱が支配的な領域であるが、光浸達長を超える領域では、光の散乱が等方的となる(等方散乱領域)。すなわち、異方性散乱媒質では、入射された光が光浸達長に達するまでは波動的な性質が保持されるが、等方散乱領域では光の偏向がランダムな多重散乱(等方散乱)が生じる。
【0061】
光が高密度媒質内で散乱を受けながら伝播するとき、光子のエネルギーの流れを記述する基本的な方程式である光(光子)の輸送方程式は、散乱が等方散乱と近似されることにより、光拡散方程式が導出され、この光拡散方程式を用いて反射散乱光の解を求めることができる。
【0062】
光断層計測装置10では、検体18内の蛍光体から発せられて、検体18の周囲に射出される蛍光を受光し、この光拡散方程式を用いて、検体18内の蛍光体の位置及び蛍光の強度の分布を取得する。なお、光拡散方程式を用いた演算は、公知の構成を適用でき、ここでは詳細な説明を省略する。
【0063】
ここで、本実施の形態では、検体ホルダ64(ブロック66、68)を形成する材質として、異方性散乱媒質の一例であり、光の等価散乱係数μs’が1.05mm−1のポリアセタール樹脂(POM)を用いている。また、検体ホルダ64のブロック66、68は、凹部66A、68Aの内面で検体18の表皮に接するが、このときに、ブロック66、68は、励起光が凹部66A、68Aに達するまで、すなわち、検体18に接する点までに等方散乱となる厚さ(光浸達長以上の厚さ)で形成されたものであればよい。
【0064】
なお、等価散乱係数μs’は、散乱係数μs、散乱方向の余弦平均として与えられるパラメータ(非等方散乱係数)gから、μs’=(1−g)・μsと定義される。このパラメータgは、純粋な後方散乱の−1と前方散乱の+1の間の値であり、g=0のときが等方散乱を表す。また、吸収のない異方性散乱媒質に対する光浸達長(1/μs’)は等価散乱長となる。
【0065】
異方性散乱媒質同士が接している場合、一方の異方性散乱媒質で等方散乱を繰り返しながら伝播した光が、他方の異方性散乱媒質に入射されたときには、他方の異方性散乱媒質内で、実質的に等方散乱状態が継続されると見なすことができる。
【0066】
これにより、検体18と検体ホルダ64を一体で異方性散乱媒質と見なすことができる。なお、検体18と検体ホルダ64のブロック66、68との間に間隙が生じると、等方散乱性が維持されなくなる可能性があるが、本実施の形態では、計測部12の計測データに基づいた数学的モデルの演算から得られる蛍光体の濃度分布の誤差が、予め設定している許容範囲内に収まる範囲の散乱状態である間隙であれば、検体18とブロック66,68とが接していると見なす。
【0067】
表1には、波長が730nmの光に対して、検体18の一例とするヌードマウスの体組織ごと及び、ブッロク66、68の材質の一例とするPOM及びシリコン+TiOの光浸達長(等価散乱長)、等価散乱係数μs’を示している。また、図6には、対組織及び材質における等価散乱長に対する等価散乱係数を示している。
【0068】
【表1】

【0069】
表1及び図6に示されるように、検体(ヌードマウス)18では、等価散乱係数μs’は、2.08mm−1〜0.34mm−1と幅がある。ポリアセタール樹脂であるM25−34ジュラコン樹脂は、等価散乱係数が1.05mm−1であり、ここから、検体ホルダ64としては、このポリアセタール樹脂を用いることができる。
【0070】
また、シリコンゴム中に酸化チタン(TiO)を分散することにより光散乱性を持たせることができ、炭素(C)を分散することにより光吸収性を持たせることができる。表1に示されるように、例えば、シリコンに16mg/ml程度の酸化チタン(TiO)を含ませたときに、検体18の体組織と同等の等価散乱係数μs’が得られる。
【0071】
ここから、検体ホルダ64は、例えば、シルボット184(東レダウンコーニング(株)の商品名)などの透明2液硬化型シリコンゴムに、散乱材料とする化粧品用微粒子酸化チタンなどの酸化チタン粉末と、吸収材料とする煤などのカーボンブラックと、を混合して形成したものであっても良い。
【0072】
以下に、本実施の形態の作用を説明する。
【0073】
光断層計測装置10では、検体18の計測を行うときに、検体18が検体ホルダ64に収容され、この検体ホルダ64が計測部12の一対のアーム34に装着される。このとき、検体18には、予め蛍光体が投与される。
【0074】
計測部12では、検体18が収容された検体ホルダ64が装着されると、移動モータ46を駆動して、検体18を機枠26の軸方向に移動し、検体18の計測部位に光源ヘッド28及び受光ヘッド30を対向させる。この後、計測部12では、光源ヘッド28を駆動して検体18へ励起光を照射すると共に、この励起光に基づいて検体18から射出される蛍光を、検体18の周囲に配置している受光ヘッド30によって受光して、1回分の計測データを取得する。また、計測部12では、回転モータ32を駆動して、機枠26を回転することにより、光源ヘッド28を次の照射位置へ対向させて励起光を照射し、次の計測データを取得する。
【0075】
計測部12では、光源ヘッド28及び受光ヘッド30の移動を繰り返すことにより、励起光の照射位置及び蛍光の受光位置を検体18の体長方向と交差する面に沿って相対移動して、該当平面(計測面)上で検体18の一周分の計測を行うことにより一つの断層情報(検体18の所定位置での断層情報)を得るための計測データを取得する。
【0076】
画像処理部14では、計測部12で検体18の1周分の計測データが生成されると、この計測データを読み込んで、所定のデータ処理(画像処理、断層の再構成)を行う。これにより、画像処理部14では、検体18の該当部位に対する断層情報(ここでは、蛍光体の濃度分布)を得る。なお、計測部12では、移動モータ46の駆動によって検体18を移動することにより、検体18の体長方向に沿った複数位置の断層情報が得られる。
【0077】
ヌードマウスなどの生体では、各種の臓器が胴部に集中しており、臓器などに付着した蛍光体の濃度分布を計測する場合には、この胴部を計測部位とすることができる。この場合、機枠26の計測面に対して、検体18の胴部が対向されるように検体ホルダ64を軸方向に移動する。このとき、検体ホルダ64の移動を、検体18の体長方向(検体ホルダ64の軸方向)に沿った複数箇所で停止し、それぞれの停止位置で、計測データを取得することにより、検体18の体長方向に沿った複数箇所における断層情報を得ることができる。
【0078】
なお、検体18に対する計測部位は、検体18の胴部に限らず、予め設定した任意の部位とすることができ、設定された計測部位が機枠26の軸心部(計測面)に対向されるように、検体ホルダ64を移動させればよい。
【0079】
ところで、計測部12では、軸方向と交差する方向に沿った断面における外形形状が既知の検体ホルダ64を用い、この検体ホルダ64に検体18を収容している。この検体ホルダ64は、軸方向に沿った面(例えば、軸心を含む面)で二つのブロック66、68に分割可能となっており、また、ブロック66、68には、検体18の外形形状に合わせた内面形状の凹部66A、68Aを形成している。
【0080】
これにより、この検体ホルダ64への検体18の収容が容易となっていると共に、検体ホルダ64に収容された検体18が、ブロック66、68の凹部66A、68Aの内面に緊密に接する。
【0081】
ここで、計測部12では、この検体ホルダ64の外周面へ励起光を照射する。この励起光は、検体ホルダ64内を散乱しながら伝播し、検体18に達すると、この検体18内を散乱しながら伝播する。これにより、励起光が検体18に中に投与されている蛍光体に達すると、この蛍光体から蛍光が射出される。
【0082】
検体18中の蛍光体から発せられた蛍光は、検体18中を散乱しながら伝播し、検体18の表皮から射出されると検体ホルダ64(ブロック66、68)中を散乱しながら伝播し、検体ホルダ64の外周面から周囲に射出される。
【0083】
前記したように光断層計測装置10は、検体18から射出される蛍光の強度分布から、数学的モデルを用いた解析を行うことにより、検体18内での蛍光体の濃度分布を示す断層情報を再構成する。
【0084】
ここで、本実施の形態に適用している検体ホルダ64は、外周面から照射された励起光が検体18に達するまでに等方散乱する。これにより、励起光は、ブロック66、68の凹部66A、66Bの表面に接している検体18へ等方散乱しながら入射される。また、検体18内の蛍光体から発せられる蛍光は、等方散乱しながら表皮から射出されて、この表皮に接しているブロック66、68内を等方散乱しながら伝播して、検体ホルダ64の外周面から射出される。
【0085】
検体18が収容されている検体ホルダ64は、異方性散乱媒質を用いてブロック66、68が形成され、検体18が、このブロック66、68の凹部66A、68Aに密着されて収容される。これにより、検体18と検体ホルダ64とを、一体で既知の外形の異方性散乱媒質とみなすことができる。
【0086】
したがって、検体ホルダ64のブッロク66、68と検体18との間では、励起光及び蛍光が等方散乱しながら伝播する。これにより、検体18と検体ホルダ64とを一体で計測対象と見なして、検体ホルダ64から射出される蛍光から数学的モデルを用いた解析を行うことができる。
【0087】
すなわち、検体ホルダ64へ照射された励起光が検体18に達するまでに等方散乱となっていない場合、又は、検体18から射出された蛍光がブロック66、68に入射されたときに等方散乱となっていない場合、等方散乱を前提とした数学的モデルと合致しないため、蛍光体の濃度分布の特定精度が悪くなったり、特定が困難となる。
【0088】
これに対して、検体ホルダ64では、励起光が検体18中の蛍光体に達するまで、及び、検体18中の蛍光体から発せられる蛍光が検体ホルダ64から射出されるまで、光の等方散乱が継続されるので、数学的モデルを用いた解析による蛍光体の濃度分布の特定精度が低下してしまうことがない。
【0089】
一方、検体18の断層情報を再構成するときには、該当部位に対する1周分の計測データが必要となる。また、検体18に投与した蛍光体の移動、蓄積状態を観察するためには、検体18を生きたままにする必要がある。すなわち、検体18の観察を行うときには、検体18が動いてしまうことがあり、これにより、機枠26に対する検体18中での蛍光体の相対位置が変化すると、適正な蛍光体の濃度分布が得られなくなる。
【0090】
検体18が動いてしまうのを防止するために検体18に麻酔薬などを投与するが、検体18に麻酔薬などを投与すると、検体18の筋肉などが弛緩して、検体18が本来の形状を保つことができなくなる。これに伴って、検体18中の臓器などは勿論、検体18中の蛍光体なども移動してしまう。
【0091】
このような状態では、検体18の蛍光体の濃度分布が得られても、検体18中の臓器の相対位置、臓器と蛍光体の相対位置の特定が困難となってしまう。
【0092】
ここで、検体ホルダ64は、ブロック66の凹部66A及びブロック68の凹部68Aを、検体18の本来の外形形状(定常状態での外形形状、体型)応じた内面形状で形成しており、検体18は、この凹部66A、68A内に収容される。このために、検体18に麻酔薬等を投与して弛緩状態となっても、検体18の外形形状を本来の形状に保つことができ、臓器などの位置の変化も抑えることができる。
【0093】
したがって、この検体ホルダ64を用いることにより、検体18を生存させている状態で、かつ、検体18中の臓器などに対する相対位置を含めた適正な検体18中の蛍光体の濃度分布を得ることができる。
【0094】
さらに、この検体ホルダ64は、ブロック66、68に分割可能となっており、分割することにより、検体18の装着及び取り出しを行うことができる。このために、一つの検体18の計測を終えて、次の検体18の計測を行うときに、検体18の円滑な入替を行うことができる。
【0095】
これにより、光断層計測装置10では、短時間で多数の検体18に対する計測を行うことができ、例えば、検体18を溶液中に漬けるなどして計測する場合に比べて、格段にスループットを向上することができる。
【0096】
このように、予め規定している外形形状で、検体18の吸収係数μa、等価散乱係数μs’などの光学特性に合わせ、光が等方散乱する材質によって形成した検体ホルダ64を用いると共に、この検体ホルダ64内に、検体18の外形に合わせた空洞部(ここでは、凹部66A、68A)を形成することにより、適正な検体18の光断層情報(蛍光体の濃度分布)を、円滑に得ることができる。
【0097】
光断層計測装置10では、計測対象である蛍光体に由来しない不要な光が受光ヘッド30に入射すると、計測データに誤差が生じる。そのために、蛍光体、光源ヘッド28から発する励起光の波長、検体ホルダ64(ブロック66、68)の材質を決める際に以下の検討を行っている。
【0098】
検体18などの生体において透過性の良い光の波長帯は、700nm〜1100nmとなっている。ここから、検体18の投与する蛍光体(蛍光標識剤)は、この波長域の蛍光を発するものを用いる。このような蛍光体としては、例えば、Alexa Flour 750(ライフテクノロジーズジャパン株式会社の商品名)などがあり、以下の説明では、この蛍光体を例とする。この蛍光体は、光吸度のピークの波長が約750nmにあり、波長が720nm〜750nmの励起光により効率良く蛍光を発する。
【0099】
図7には、励起光に対する蛍光体の蛍光の分光特性(波長に対する光強度)を正規化して示している。なお、励起光の光源は、発光波長が730nmの半導体レーザとしている。
【0100】
図7に示されるように、730nmの波長の励起光に対して上記蛍光体が発する蛍光は、ピーク波長が約770nmであり、半値幅が50nmとなっている。
【0101】
励起光を発する光源に半導体レーザを使用するのは、波長帯域が狭い(単色性を有する)ことと、狭い帯域でピークの光強度を大きく取れることにある。
【0102】
しかし、半導体レーザから発する励起光が単色(波長帯域が狭い)であると、検体ホルダ64の材質に起因するラマン散乱光を考慮する必要がある。ラマン散乱光は、入射された光の一部が、物質を構成する分子や原子に衝突し、エネルギーの授受が行われることにより、入射された光とは異なる波長の光が散乱される現象である。なお、入射された光の大部分は、物質を構成する分子や原子に衝突してもエネルギーを保ち、同じ波長の光として伝播する。
【0103】
前記した本実施の形態では、検体ホルダ64(ブロック66、68)の材質として、検体18の光学特性に合わせた異方性散乱媒質であるポリアセタール樹脂(以下、POMとする)を使用している。
【0104】
図8には、発光波長が730nmの半導体レーザにより励起された蛍光体が発する蛍光の分光特性(波長に対する光強度)を破線で示し、POMから発せられるラマン散乱光の分光特性(波長に対する光強度)を実線で示している。なお、それぞれの分光特性は、正規化されて示されている。
【0105】
図8に示されるように、POMのラマン散乱光は、750nm以上の波長帯域で、複数のピーク(極大値)を有することがわかる。また、POMのラマン散乱光は、ピーク波長の一つが、蛍光体の発する蛍光のピーク波長と接近しており、その間隔は、波長で約10nmとなっている。
【0106】
ここで、計測すべき蛍光のスペクトル(光強度)にノイズを含ませないためには、POMのラマン散乱光を分離して検出する必要がある。このような分離には、後述するように光学フィルタを用いるのが一般的となっている。
【0107】
光学フィルタは、受光ヘッド30の受光素子(図示省略)よりも光の入射側に配置される(図示省略)。図9には、本実施の形態で適用される光学フィルタの分光特性(波長に対する光透過率)を示している。
【0108】
受光ヘッド30には、光学フィルタとして、ハイパス干渉フィルタ、色ガラスフィルタ、ローパス干渉フィルタが設けられる。ハイパス干渉フィルタは、長い波長帯の光を透過し、短い波長帯の光の透過を阻止する特性となっている。受光ヘッド30では、このハイパス干渉フィルタが励起光の除去に用いられる。ハイパス干渉フィルタは、励起光を除去して、励起光より長い波長の光を透過する励起光カットフィルタとして機能する。
【0109】
受光ヘッド30では、色ガラスフィルタが、補助的に励起光をカットする目的で用いられる。色ガラスフィルタは、ハイパス干渉フィルタで除去しきれなかった励起光の透過を阻止する。
【0110】
ローパス干渉フィルタは、短い波長帯の光を透過し、長い波長帯の光の透過を阻止する特性となっている。受光ヘッド30では、このローパス干渉フィルタにより、蛍光よりも短い波長帯の光、すなわち、ラマン散乱光の除去に用いられる。ローパス干渉フィルタは、蛍光を含めた短い波長の光を透過し、蛍光よりも長い波長の光の透過を阻止するラマン散乱光カットフィルタとして機能する。
【0111】
ここで、ラマン散乱光を効果的に除去するときのローパス干渉フィルタは、以下の二つの機能を含むものが用いられる。その一つは、蛍光のピーク波長と約10nmの間隔で接近しているPOMのラマン散乱光のピーク波長のスペクトルを取り除くことであり、これは、ローパス干渉フィルタの半値波長を適切に設定することで実現される。もうひとつは、蛍光のスペクトルのない900nm以上の波長帯のラマン散乱光を取り除くことで、これは、ローパス干渉フィルタの阻止域(光の非透過域)で実現することができる。
【0112】
したがって、蛍光体から発せられる蛍光の波長(ピーク波長)と、ラマン散乱光のピーク波長との差が、光学フィルタにより蛍光のスペクトルからラマン散乱光の成分を除去されたとみなせられる差であれば、ラマン散乱光に起因するノイズが、計測データに影響を及ぼしてしまうのを防止できる。
【0113】
しかし、蛍光のピーク波長とラマン散乱光のピーク波長とが接近し、実質的に蛍光とラマン散乱光が重なってしまうと、光学フィルタによりラマン散乱光を分離除去することが困難となる。すなわち、蛍光のピーク波長とラマン散乱光のピーク波長とが離れていれば、光学フィルタの組み合わせによりラマン散乱光を分離除去してラマン散乱光を抑制し、実質的にラマン散乱光の成分(ノイズ成分)を含んでいないとみなせる蛍光を抽出することが可能であるが、蛍光のピークとラマン散乱光のピークが重なると光学フィルタの組み合わせによるラマン散乱光の分離除去は困難となる。
【0114】
ラマン散乱光のピーク波長は、透過する光(蛍光体の励起光)の波長及び、光が透過する物質の分子構造に応じてシフトする。また、蛍光体が発する蛍光のピーク波長は、励起光の波長には依存しない。
【0115】
ここから、励起光の波長をより長い波長に設定することで、ラマン散乱光のピーク波長が、蛍光体の発する蛍光のピーク波長から離れるようにすることができる。これにより、ラマン散乱光は、ローパス干渉フィルタにより蛍光のピーク波長から分離される状態となる。このとき、励起光の波長と蛍光のピーク波長が、より接近することになるために、必要があれば、前述したハイパス干渉フィルタ及び色ガラスフィルタの特性を設定しなおせば良い。
【0116】
本実施の形態では、検体ホルダ64の材質としてPOM(ポリアセタール樹脂)を用いているが、例えば、光学特性がPOMと同様の材質には、ポリエチレン(PE)があり、検体ホルダ64の材質としては、このポリエチレンを用いることができる。
【0117】
図10には、発光波長が730nmの半導体レーザにより励起された蛍光体が発する蛍光の分光特性(波長に対する光強度)を破線で示し、ポリエチレンから発せられるラマン散乱光の分光特性(波長に対する光強度)を実線で示している。なお、ポリエチレンのラマン散乱光は、図8に示されるPOMのラマン散乱光の最大強度を1として正規化したときの相対強度を示している。
【0118】
図10に示されるように、波長が730nmの光を励起光としたときに、ポリエチレンが発するラマン散乱光は、POMで顕著な780nm付近の波長での強度が小さく(図8参照)、また、ラマン散乱光のピーク波長は、蛍光のピーク波長に近いものでも800nmを越え(約810nm)、光学フィルタ(ローパス干渉フィルタ)を用いることによる蛍光のピーク波長からの分離も容易となっている。
【0119】
このような光学特性を有するポリエチレンを用いて検体ホルダ64(ブロック66、68)を製作することにより、受光ヘッド30でラマン散乱光が検出されるのが抑えられる。これにより、光断層計測装置10の計測部12では、POMによって形成した検体ホルダ64を用いた場合に比べて、より適正な断層画像の再構成が可能となる計測データが得られる。
【0120】
なお、ここでは、ラマン散乱光が検出されるのを抑えるためにラマン散乱光のピーク波長が、蛍光のピーク波長から離れたポリエチレンを例に説明したが、検体ホルダ64の材質は、これに限らず、検体18の光学特性に合わせた異方性散乱媒質であり、ラマン散乱光が受光ヘッド30で蛍光を検出するときのノイズ成分となることがないものであれば、任意の材質を適用することができる。
【0121】
以上のように、計測データ上でのラマン散乱光に起因するノイズ成分を抑える方法として、励起光の波長のみを変える方法、検体ホルダ64の材質のみを変える方法があるか、これに限らず、励起光の波長と蛍光体と検体ホルダ64の材質との組み合わせを適宜選択して、蛍光の波長のピーク波長とラマン散乱光のピーク波長が離れるようにしても良い。
【0122】
このように、ラマン散乱光のピーク波長が、蛍光の波長から離れるように検体ホルダ64の材質を選択して、ラマン散乱光が、受光ヘッド30で受光される蛍光の強度に影響を及ぼすのを抑制することにより、ラマン効果に起因する計測誤差が生じるのを防止し、高精度の光断層画像の再構成を行い得る計測データが得られる。
【0123】
なお、以上説明した本実施の形態では、計測対象の生体である検体18を一体で収容する凹部66A、68Aを形成するようにしたが、本発明はこれに限らず、少なくとも、計測対象(生体)の計測部位を含む所定の部位を、その部位の本来の外形形状又は該当部位の内部の組織の基本的位置を変化させてしまうことなく収容可能な空洞部が形成された構成であれば良い。
【0124】
このとき、本実施の形態ではブロックを複数に分割して収容するようにしているがこれに限らず、例えば、ブロック内の空洞部が外に向けて開口され、この開口から計測部位をブロックの空洞部内に挿入することにより、検体の計測部位が、ホルダ内に保持されるものであっても良い。
【0125】
また、本実施の形態では、外形形状が円柱状の検体ホルダ64を用いて説明したが、本発明が適用される計測対象保持具及び生体保持具は、外形形状が予め明確にされたものであれば任意の外形形状を適用することができる。このとき、四角などの角柱状または断面楕円形など機枠26の軸方向に沿った断面積及び形状が一定であることが好ましく、これにより、計測位置を移動したときにも、外形形状(断面形状)が変化しないので、断面積を再構成するときの演算処理が容易となる。
【0126】
さらに、本実施の形態では、励起光の照射位置を30°ステップで12段階に変化させるように構成しており、ここから、計測対象保持具及び生体保持具としては、正十二角柱(検体18の体長方向と交差する方向に沿った断面における外形形状が正十二角)とすることもできる。このとき、計測対象保持具及び生体保持具の長手方向が生体の体長方向となるように形成する。これにより、それぞれの平面へ向けて励起光を照射できると共に、平面のそれぞれから射出される蛍光を検出するようにできる。
【0127】
また、本実施の形態では、計測対象をヌードマウスなどの小動物として説明したが、本発明は、計測対象とされる生体として哺乳動物などの任意の脊椎動物に適用でき、計測対象保持具は、計測対象とする生体又は計測対象とする生体の特定部位(計測部位)を、本来の形状で保持可能とするものであればよい。また、計測対象保持具及び計測対象保持具内に形成する空洞部は、少なくとも計測対象とする生体の計測部位を、本来の状態で保持可能とするものであれば良い。
【0128】
また、本実施の形態では、光断層計測装置10を用いて説明したが、本発明の計測対象保持具及び生体保持具は、これに限らず、検体18などの生体を計測対象として、この計測対象に照射した光を用いた各種の計測や、計測対象内から発せられた光を用いた計測を行う任意の構成の光計測装置に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0129】
【図1】本実施の形態に係る検体ホルダを分割した状態を示す概略斜視図である。
【図2】検体ホルダに検体を収容した上体を示し概略斜視図である。
【図3】本実施の形態に係る光断層計測装置の概略構成図である。
【図4】計測ユニットの一例を示す要部の概略斜視図である。
【図5】計測部に設ける制御ユニットの概略構成図である。
【図6】等価散乱長に対する等価散乱係数を示す図表である。
【図7】励起光に対する蛍光体が発する蛍光の分光特性の一例を示す線図である。
【図8】波長が730nmの励起光に対する蛍光及びPOMのラマン散乱光の分光特性を示す線図である。
【図9】本実施の形態に適用可能な光学フィルタの分光特性の一例を示す線図である。
【図10】波長が730nmの励起光に対する蛍光及びポリエチレン(PE)のラマン散乱光の分光特性を示す線図である。
【符号の説明】
【0130】
10 光断層計測装置
12 計測部
14 画像処理部
18 検体(計測対象、生体)
22 計測ユニット
28 光源ヘッド
30 受光ヘッド
64、80 検体ホルダ(計測対象保持具、生体保持具)
66、68 ブロック
66A、68A 凹部(空洞部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部で光の等方散乱が生じる生体を計測対象とし、該計測対象から射出される光を受光する光計測装置において、前記計測対象の保持に用いられる計測対象保持具であって、
内部で前記光の等方散乱が生じる光学特性を有する材質によって予め設定された外形形状で形成されたブロックと、
前記計測対象の外形に沿った内面形状で前記ブロックの内部に形成されて、前記計測対象が収容される空洞部と、
を含む計測対象保持具。
【請求項2】
前記ブロックが円筒状に形成され、該ブロックの軸方向に前記計測対象の体長方向が沿うように前記空洞部が形成された請求項1に記載の計測対象保持具。
【請求項3】
前記ブロックが、前記空洞部を通過する面で複数に分割される請求項1又は請求項2に記載の計測対象保持具。
【請求項4】
前記空洞部が、少なくとも前記計測対象で計測部位として設定されている部位を収容するように形成されている請求項1から請求項3の何れか1項に記載の計測対象保持具。
【請求項5】
内部で光の等方散乱が生じる光学特性を有する材質によって予め設定された外形形状で形成され、かつ、内部に光の等方散乱が生じる生体の外形形状に沿った内面形状で空洞部が形成され、該空洞部内に前記生体が収容されることにより該生体が保持されるブロック、
を有する生体保持具。
【請求項6】
前記ブロックが円筒状に形成され、その軸方向が前記生体の体長方向に沿うように前記空洞部が形成された請求項5に記載の生体保持具。
【請求項7】
前記ブロックが、前記空洞部を通過する面で複数に分割される請求項5又は請求項6に記載の生体保持具。
【請求項8】
励起光が照射されることにより蛍光を発する蛍光体が投与された生体が収容される前記請求項5から請求項7の何れか1項に記載の生体保持具と、
前記生体が収容された前記生体保持具の前記ブロックを前記生体の体長方向の両端部で保持する保持手段と、
前記保持手段に保持された前記ブロック内の前記生体へ向けて前記励起光を照射する光源ヘッドと、
前記光源ヘッドから照射された前記励起光により前記生体内の前記蛍光体から発せられる蛍光を受光する受光ヘッドと、
を含む光計測装置。
【請求項9】
前記蛍光体ごとに定まる前記励起光の波長、前記蛍光の波長及び、前記励起光が前記ブロックに照射されることにより前記ブロック内で生じるラマン効果によりブロックから発せられるラマン散乱光の波長に基づいて、前記蛍光の波長と前記ラマン散乱光の極大値を取る波長とが所定長以上離間するように、前記励起光の波長及び前記蛍光体並びに前記ブロックの材質が設定されている請求項8に記載の光計測装置。
【請求項10】
前記蛍光の波長と前記ラマン散乱光の極大値を取る波長とを離間する前記所定波長が、前記受光ヘッドに設ける光学フィルタの分光特性によって定めた波長である、請求項9に記載の光計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−197381(P2010−197381A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−13232(P2010−13232)
【出願日】平成22年1月25日(2010.1.25)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】