説明

記録装置、記録方法および画像処理装置

【課題】マルチパス記録を実行する際に複数の記録走査間で記録位置ずれが発生しても、単位領域の濃度変動を確実且つ安定して抑え、濃度むらのない画像を出力する記録装置、記録方法および画像処理装置を提供する。
【解決手段】多階調の画像データを、そのレベルに応じて個々のエリアに対するドットの記録あるいは非記録を定めた複数のドット配置パターンに変換する。その後、これら複数のドット配置パターンは、記録ヘッドの異なる記録走査によって記録媒体に重複して記録される。この際、複数のドット配置パターンは、これら複数のドット配置パターンが互いにずれた場合であっても、重複面積の割合の変化がドットを排他に配置する場合と比較して少なくなるように定められている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクを吐出するためのノズルを備えた記録ヘッドを走査させて記録媒体に記録を行う記録装置及び記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリアル型のインクジェット記録装置では、インクを吐出する記録素子(ノズル)を複数備えた記録ヘッドを用い、当該記録ヘッドを記録媒体に対して移動させながらインクを吐出させる記録走査を、搬送動作を介在させながら繰り返すことにより記録を行う。複数の記録素子間においては、インクの吐出量や吐出方向にどうしてもある程度のばらつきが含まれ、このばらつきが原因で濃度むらやすじが画像内に発生してしまう場合がある。そして、このような濃度むらやすじを軽減するための方法として、従来では例えば特開平5−31922号公報に開示されているようなマルチパス記録方式が知られている。
【0003】
図31は、特許文献1に開示されている一般的なマルチパス記録方式を説明するための模式図である。P0001は記録ヘッドを示し、ここでは簡単のため16個の記録素子(ノズル)を有するものとする。ノズルは、図のように第1〜第4の4つのノズル群に分割され、各ノズル群には4つずつのノズルが含まれている。P0002はマスクパターンを示し、ドットの記録を許容する記録許容エリア(黒)とドットの記録を許容しない記録非許容エリア(白)とが予め定められている。各ノズル群が記録するマスクパターンは互いに補完の関係にあり、これらを重ね合わせると4×4のエリアに対応した領域の記録が完成される構成となっている。
【0004】
P0003〜P0006で示した各パターンは、記録走査を重ねていくことによって画像が完成されていく様子を示したものである。各記録走査が終了するたびに、記録媒体は図の矢印の方向にノズル群の幅分ずつ搬送される。よって、記録媒体の同一領域(各ノズル群の幅に対応する領域)は4回の記録走査によって画像が完成される構成となっている。
【0005】
このようなマルチパス記録を行えば、記録媒体の各領域が複数回の走査で複数のノズル群によって記録されるので、ノズル特有のばらつきや記録媒体の搬送精度のばらつきが分散され、濃度むらやすじを低減させることが出来る。
【0006】
図31では、一例としてマスクパターンP0002を示したが、このようなマスクパターンにおいては、記録許容エリアの配置を工夫することによって、様々な効果を得ることが出来る。
【0007】
例えば、特許文献2には、記録許容エリアの配置を斥力ポテンシャルを用いて定め、記録されたドットの分散性を高めることによって、粒状感の抑えられた一様な画像を出力する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−031922号公報
【特許文献2】特開2006−044258号公報
【特許文献3】特開2001−322262号公報
【特許文献4】特開2003−237141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、近年では、上記マルチパス記録を行うことによって、記録走査単位の記録位置(レジストレーション)のずれに起因する濃度変化が、新たに問題視されるようになって来ている。
【0010】
例えば、図31のような4パスのマルチパス記録を行った場合、記録媒体の搬送ずれが突発的に生じると、異なる記録走査で記録されるドット群間の相対的な記録位置ずれが発生する。具体的には、単位領域に対する1パス目と2パス目の間で搬送ずれが生じた場合には、1パス目で記録したドット群が2〜4パス目で記録したドット群に対し相対的にずれて配置される結果となる。
【0011】
このような記録位置ずれが発生すると、上記マスクパターンによって異なる記録走査で異なる位置に記録されるように定められたドットが、互いに重なり合う箇所が随所に生じてくる。その結果、ドット間の補完関係が崩れ、記録媒体に対するドットの被覆率(エリアファクター)が低下し、単位領域の濃度が低下してしまう。更に、このような記録位置ずれが発生した単位領域と記録位置ずれが発生しない単位領域が同じ記録媒体で混在した場合、上記現象は画像内の濃度むらとなって認知される。
【0012】
特許文献2などに開示されているマスクパターンは、記録位置ずれのない正常な状態において粒状感を重視するため、出来るだけ等間隔かつ分散性の高い状態でドットを配置するように工夫されていた。そのため、突発的な搬送ずれなどに起因してドット群の間に記録位置ずれが生じると、ドットの分散性は大きく崩れ、濃度低下による画像弊害も目立ち易かった。
【0013】
これに対し、例えば特許文献3には、ドットの記録を重複して許容するエリアを設けることにより、記録媒体の搬送ずれが発生しても、濃度低下やバンディングが回避されるような技術が開示されている。この方法によれば、記録位置ずれが発生しても、重複ドットが互いに分離することによってエリアファクターがある程度高められるので、濃度低下を抑制することが期待できる。
【0014】
しかしながら、特許文献3の方法は、マスクパターンにおける記録を許容するエリアを重複させているのみであって、そのエリアに実際に記録データが存在しない限り、重複ドットは記録されない。すなわち、重複エリア以外のエリアに多くの記録データが存在する画像の場合には、その効果を発揮することが出来ないという問題点があった。
【0015】
結果、従来の技術のいずれを鑑みても、突発的な搬送ずれなどに起因する記録位置ずれが発生した場合には、濃度変動を回避することは不可能な状況であった。
【0016】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものである。よって、その目的とするところは、マルチパス記録を実行する際に複数の記録走査間で記録位置ずれが発生しても、単位領域の濃度変動を軽減し、濃度むらのない画像を出力する記録装置および記録方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
記録媒体にドットを記録するための記録ヘッドを走査させることにより、前記記録媒体に画像を記録する記録装置において、1画素に階調表現を行うための画像データを、当該1画素の内の複数のエリアそれぞれにドットの記録あるいは非記録が定められた複数のドット配置パターンに基づいて、エリアごとにドットの記録あるいは非記録が定められた記録データに変換する変換手段と、前記記録データに基づいて、前記記録ヘッドの複数回の走査により前記記録媒体上の単位領域に画像を記録させる記録制御手段とを備え、前記複数のドット配置パターンは、(i)前記複数のエリアに対して記録を定めるドットの数が多いほど、記録が定められたエリアの数に対する複数のドットを記録するエリアの数の割合は増加し、(ii)前記複数のエリアに対して記録を定めるドットの数に関わらず、隣接するエリアの数に対する記録が定められたエリアの数の割合は、0%より大きく、100%より小さいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、実際に記録される紙面上のドットの重複面積の割合を、各レベルにおけるドット配置パターンによって目的の範囲に制御することが出来、記録位置ずれに起因する濃度変動を抑えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態のドット配置パターン設定処理におけるデータの取り扱いを具体的に説明するための図である。
【図2】記録位置ずれの影響を受け易いドット配置パターンの別例を図1と比較しながら説明するための図である。
【図3】本発明の実施形態におけるレベル1のドット配置パターンを示した図である。
【図4】本発明の実施形態におけるレベル2のドット配置パターンを示した図である。
【図5】本発明の実施形態におけるレベル3のドット配置パターンを示した図である。
【図6】本発明の実施形態におけるレベル4のドット配置パターンを示した図である。
【図7】ドットの分散性を重視して作成した、図3と比較するためのレベル1のドット配置パターンである。
【図8】図3で示したドット配置パターンに従って記録データを重複した場合の、記録データの配置状態を示す図である。
【図9】図7で示した比較例のドット配置パターンに従って記録データを重複した場合の記録データの配置状態を、図8と比較して示す図である。
【図10】特許文献2に記載の特徴を有するマスクパターンの一例である。
【図11】図8に示した記録データに従って記録媒体にドットを記録した状態を示す図である。
【図12】図4に示したドット配置パターンに従って記録媒体にドットを記録した状態を示す図である。
【図13】図5に示したドット配置パターンに従って記録媒体にドットを記録した状態を示す図である。
【図14】図6に示したドット配置パターンに従って記録媒体にドットを記録した状態を示す図である。
【図15】ドットの分散性を重視して作成した比較例における、記録媒体でのドット配置を示す図である。
【図16】(a)〜(h)は、本発明の実施形態のレベル1のドット配置において、搬送動作でずれが発生した場合のドット配置の変化の様子を、ずれの量に対応させて示した図である。
【図17】(a)〜(h)は、比較例におけるドット配置の変化の様子を、本実施形態の図16と比較する状態で同様に示した図である。
【図18】搬送のずれ量に対する被覆面積の変化を、本実施形態と比較例を比較しながらグラフに表した図である。
【図19】本発明の実施形態で適用する記録装置の非使用状態の斜視図である。
【図20】本発明の実施形態で適用する記録装置の使用状態の斜視図である。
【図21】本発明の実施形態で適用する記録装置の内部機構を説明するための斜視図である。
【図22】本発明の実施形態で適用する記録装置の内部機構を説明するための斜視図である。
【図23】本発明の実施形態で適用する記録装置の内部機構を説明するための側断面図である。
【図24】本発明の実施形態における電気的回路の全体構成を概略的に説明するためのブロック図である。
【図25】メインPCB E0014の内部構成を示すブロック図である。
【図26】ASICの内部構成例を示すブロック図である。
【図27】本発明の実施形態で適用するヘッドカートリッジに対し、インクタンクを装着する様子を示した図である。
【図28】ヘッドカートリッジの分解斜視図である。
【図29】第1の記録素子基板および第2の記録素子基板の構成を説明するための正面拡大図である。
【図30】本発明の実施形態における画像データ変換処理の流れを説明するためのブロック図である。
【図31】特許文献1に開示されている一般的なマルチパス記録方式を説明するための模式図である。
【図32】本発明に適用可能な記録ヘッドのノズル列の配列構成を説明する為の図である。
【図33】(a)〜(d)は、ドットの分散性を重視して作成した比較例における、重複率を説明する図である。
【図34】(a)〜(h)は、ドットの分散性を重視して作成した比較例における、隣接率を説明する図である。
【図35】(a)〜(d)は、本発明の実施形態における、重複率を説明する図である。
【図36】(a)〜(h)は、本発明の実施形態における、隣接率を説明する図である。
【図37】(a)および(b)は、比較例と本発明の実施形態それぞれの、重複率および隣接率をレベルごとに示す図である。
【図38】(a)および(b)は、重複率および隣接率それぞれについて、比較例と本発明の実施形態それぞれのレベルごとの変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(第1実施形態)
以下に、本発明の第1実施形態を詳細に説明する。まず、本実施形態で適用するインクジェット記録装置の本体構成を説明する。
【0021】
(機構部の構成)
本実施形態における記録装置本体は、各機構の役割から、給紙部、用紙搬送部、排紙部、キャリッジ部、クリーニング部および外装部に分類することができる。以下、これらを項目別に概略を説明していく。
【0022】
(A)給紙部
図19および20は、本実施形態で適用する記録装置の斜視図であり、図19は記録装置の非使用状態、図20は記録装置M1の使用状態をそれぞれ示している。また、図21、24および23は、記録装置本体の内部機構を説明するための図であり、図21は右上部からの斜視図、図22は左上部からの斜視図および図23は記録装置本体の側断面図をそれぞれ示したものである。
【0023】
図19〜23を参照する。給紙部は記録媒体を積載する圧板M2010、記録媒体を1枚ずつ給紙する給紙ローラM2080、記録媒体を分離する分離ローラM2041、記録媒体を積載位置に戻す為の戻しレバーM2020、等がベースM2000に取り付けられる構成となっている。
【0024】
ベースM2000または外装には、積載された記録媒体を保持する為の給紙トレイM2060が取り付けられている。給紙トレイM2060は多段式で使用時は回転させて用いるものである。
【0025】
給紙ローラM2080は、断面円弧の棒状をしている。用紙基準よりに1つの分離ローラゴムが設けられており、これによって記録媒体を給紙する。給紙ローラM2080の駆動力は、給紙部に設けられた専用ASFモータE0105から不図示の駆動伝達ギア、遊星ギアによって伝達される。
【0026】
圧板M2010には可動サイドガイドM2030が移動可能に設けられて、記録媒体の積載位置を規制している。圧板M2010はベースM2000に結合された回転軸を中心に回転可能で、圧板ばねM2012により給紙ローラM2080に付勢される。給紙ローラM2080と対向する圧板M2010の部位には、枚数が残り少なくなった状態での記録媒体の重送を防止するために、人工皮等の摩擦係数の大きい材質からなる分離シートM2013が設けられている。圧板M2010は、圧板カムによって、給紙ローラM2080に、当接、離間できるように構成されている。
【0027】
ベースM2000には、記録媒体を一枚ずつ分離するための分離ローラM2041を取り付けた分離ローラホルダM2040が、ベースM2000に設けられた回転軸を中心に回転可能に設置されている。分離ローラホルダM2040は、不図示の分離ローラバネにより給紙ローラM2080に付勢されている。分離ローラM2041には、不図示のクラッチが取り付けられており、所定以上の負荷がかかると、分離ローラM2041が取り付けられた部分が、回転する構成になっている。分離ローラM2041は、分離ローラリリースシャフトM2044と不図示のコントロールカムによって、給紙ローラM2080に、当接、離間できるように構成されている。これら圧板M2010、戻しレバーM2020、および分離ローラM2041の位置は、オートシートフィードセンサ(以下ASFセンサと言う)E0009によって検知されている。
【0028】
記録媒体を積載位置に戻す為の戻しレバーM2020は、回転可能にベースM2000に取り付けられており、解除方向に不図示の戻しレバーバネで付勢されている。記録媒体を戻す時は、コントロールカムによって回転するように構成されている。
【0029】
以上の構成を用いて給紙する状態を以下に説明する。
【0030】
通常の待機状態において、圧板M2010は圧板カムでリリースされ、分離ローラM2041はコントロールカムでリリースされている。また、戻しレバーM2020は記録媒体を戻し、積載状態の記録媒体が奥に入らないように、積載口を塞ぐような積載位置に設けられている。
【0031】
給紙を行う際には、まずモータ駆動によって、分離ローラM2041が給紙ローラM2080に当接する。そして、戻しレバーM2020がリリースされて、圧板M2010が給紙ローラM2080に当接する。この状態で、記録媒体の給紙が開始される。記録媒体は、ベースM2000に設けられた不図示の前段分離部で制限され、記録媒体の所定枚数のみが給紙ローラM2080と分離ローラM2041から構成されるニップ部に送られる。送られた記録媒体はニップ部で分離され、最上位の記録媒体のみが搬送される。
【0032】
記録媒体が、搬送ローラM3060およびピンチローラM3070まで到達すると、圧板M2010は不図示の圧板カムによって、分離ローラM2041はコントロールカムによって、リリースされる。戻しレバーM2020は、コントロールカムによって積載位置に戻る。これにより、給紙ローラM2080と分離ローラM2041とから構成されるニップ部に到達していた記録媒体は積載位置まで戻される。
【0033】
(B)用紙搬送部
曲げ起こした板金からなるシャーシM1010には、記録媒体を搬送する搬送ローラM3060とペーパエンドセンサ(以下PEセンサと称す)E0007が回動可能に取り付けられている。搬送ローラM3060は、金属軸の表面にセラミックの微小粒がコーティングされた構成となっており、両軸の金属部分を不図示の軸受けが受ける状態で、シャーシM1010に取り付けられている。軸受けと搬送ローラM3060との間には、不図示のローラテンションバネが設けられており、搬送ローラM3060を付勢することにより、回転時に適量の負荷を与えて安定した搬送が行えるようになっている。
【0034】
搬送ローラM3060には、従動する複数のピンチローラM3070が当接して設けられている。ピンチローラM3070は、ピンチローラホルダM3000に保持されているが、不図示のピンチローラバネによって付勢されることで、搬送ローラM3060に圧接し、ここで記録媒体の搬送力を生み出している。この時、ピンチローラホルダM3000の回転軸は、シャーシM1010の軸受けに取り付けられ、この位置を中心に回転する。
【0035】
記録媒体が搬送されてくる入口には、記録媒体をガイドするためのペーパガイドフラッパM3030およびプラテンM3040が配設されている。また、ピンチローラホルダM3000には、PEセンサレバーM3021が設けられており、PEセンサレバーM3021は、記録媒体の先端および後端の検出をPEセンサ−E0007に伝える役割を果たす。プラテンM3040は、シャーシM1010に取り付けられ、位置決めされている。ペーパガイドフラッパM3030は、不図示の軸受け部を中心に回転可能で、シャーシM1010に当接することで位置決めされる。また、軸受け部は、搬送ローラM3060と嵌合して摺動する。
【0036】
搬送ローラM3060の記録媒体搬送方向における下流側には、後述する記録ヘッドH1001が設けられている。
【0037】
上記構成における搬送の過程を説明する。用紙搬送部に送られた記録媒体は、ピンチローラホルダM3000及びペーパガイドフラッパM3030に案内されて、搬送ローラM3060とピンチローラM3070とのローラ対に送られる。この時、PEセンサレバーM3021が、記録媒体の先端を検知して、これにより記録媒体に対する記録位置が求められている。搬送ローラM3060とピンチローラM3070とからなるローラ対は、LFモータE0002の駆動により回転され、この回転により記録媒体がプラテンM3040上を搬送される。プラテンM3040には、搬送基準面となるリブが形成されており、このリブにより、記録ヘッドH1001と記録媒体表面との間のギャップが管理されている。また同時に、当該リブが、後述する排紙部と合わせて、記録媒体の波打ちを抑制する役割も果たしている。またプラテンM3040上には不図示のスポンジ部が設けられており、記録媒体の先端部、後端部の記録時には前記スポンジ部に対応する位置のノズルを使用して画像の形成を行う。
【0038】
搬送ローラM3060が回転するための駆動力は、例えばDCモータからなるLFモータE0002の回転力が、不図示のタイミングベルトを介して、搬送ローラM3060の軸上に配設されたプーリM3061に伝達されることによって得られている。また、搬送ローラM3060の軸上には、搬送ローラM3060による搬送量を検出する為のコードホイールM3062が設けられている。さらに、隣接するシャーシM1010には、コードホイールM3062に形成されたマーキングを読み取るためのエンコードセンサM3090が配設されている。尚、コードホイールM3062に形成されたマーキングは、150〜300lpi(ライン/インチ)のピッチで形成されているものとする。
【0039】
(C)排紙部
排紙部は、第1の排紙ローラM3100および第2の排紙ローラM3110、複数の拍車M3120およびギア列などから構成されている。
【0040】
第1の排紙ローラM3100は、金属軸に複数のゴム部を設けて構成されている。第1の排紙ローラM3100の駆動は、搬送ローラM3060の駆動が、アイドラギアを介して第1の排紙ローラM3100まで伝達されることによって行われている。
【0041】
第2の排紙ローラM3110は、樹脂の軸にエラストマの弾性体M3111を複数取り付けた構成になっている。第2の排紙ローラM3110の駆動は、第1の排紙ローラM3100の駆動が、アイドラギアを介して伝達すること行われる。
【0042】
拍車M3120は、周囲に凸形状を複数設けた例えばSUSでなる円形の薄板を樹脂部と一体としたもので、拍車ホルダに複数取り付けられている。この取り付けは、コイルバネを棒状に設けた拍車バネによって行われているが、同時に拍車バネのばね力は、拍車M3120を排紙ローラM3100およびM3110に対し所定圧で当接させている。この構成によって拍車M3120は、2つの排紙ローラM3100およびM3110に従動して回転可能となっている。拍車M3120のいくつかは、第1の排紙ローラM3100のゴム部、あるいは第2の排紙ローラM3110の弾性体M3111の位置に設けられており、主に記録媒体の搬送力を生み出す役割を果たしている。また、その他のいくつかは、ゴム部あるいは弾性体部M3111が無い位置に設けられ、主に記録時の記録媒体の浮き上がりを抑える役割を果たしている。
【0043】
また、ギア列は、搬送ローラM3060の駆動を排紙ローラM3100およびM3110に伝達する役割を果たしている。
【0044】
第1の排紙ローラM3100と第2の排紙ローラM3110の間には、不図示の紙端サポートが設けられている。紙端サポートは、記録媒体の両端を持ち上げて、第1の排紙ローラM3100の先で記録媒体を保持することにより、記録媒体に成された記録を、キャリッジの擦過などから守る役割を果たしている。具体的には、先端に不図示のコロが設けられた樹脂部材が、不図示の紙端サポートバネによって付勢されて、所定の圧力でコロを記録媒体に押し付けることで、記録媒体の両端が持ち上げられ、こしを作り、所定の位置に保持できるように構成されている。
【0045】
以上の構成によって、画像形成された記録媒体は、第1の排紙ローラM3110と拍車M3120とのニップに挟まれ、搬送されて排紙トレイM3160に排出される。排紙トレイM3160は、複数に分割され、後述する下ケースM7080の下部に収納できる構成になっている。使用時は、引出して使用する。また、排紙トレイM3160は、先端に向けて高さが上がり、更にその両端は高い位置に保持されるよう設計されており、排出された記録媒体の積載性を向上し、記録面の擦れなどを防止している。
【0046】
(D)キャリッジ部
キャリッジ部は、記録ヘッドH1001を取り付けるためのキャリッジM4000を有しており、キャリッジM4000は、ガイドシャフトM4020およびガイドレールM1011によって支持されている。ガイドシャフトM4020は、シャーシM1010に取り付けられており、記録媒体の搬送方向に対して直角方向にキャリッジM4000を往復走査させるように案内支持している。ガイドレールM1011は、シャーシM1010に一体に形成されており、キャリッジM4000の後端を保持して記録ヘッドH1001と記録媒体との隙間を維持する役割を果たしている。また、ガイドレールM1011のキャリッジM4000との摺動側には、ステンレス等の薄板からなる摺動シートM4030が張設され、記録装置の摺動音の低減化を図っている。
キャリッジM4000は、シャーシM1010に取り付けられたキャリッジモータE0001によりタイミングベルトM4041を介して駆動される。また、タイミングベルトM4041は、アイドルプーリM4042によって張設、支持されている。更に、タイミングベルトM4041は、キャリッジM4000とゴム等からなるキャリッジダンパーを介して結合されており、キャリッジモータE0001等の振動を減衰することで、記録される画像のむら等を低減している。
【0047】
キャリッジM4000の位置を検出する為のエンコーダスケールE0005が、タイミングベルトM4041と平行に設けられている。エンコーダスケールE0005上には、150〜300lpiのピッチでマーキングが形成されている。そして、当該マーキングを読み取るためのエンコーダセンサE0004(図24について後述)が、キャリッジM4000に搭載されたキャリッジ基板E0013(図24について後述)に設けられている。キャリッジ基板E0013には、記録ヘッドH1001と電気的な接続を行う為のヘッドコンタクトE0101も設けられている。また、キャリッジM4000には、電気基板であるメインPCB E0014から記録ヘッドH1001へ、駆動信号を伝えるための不図示のフレキシブルケーブルE0012が接続されている。
【0048】
記録ヘッドH1001をキャリッジM4000に固定する為の構成として、記録ヘッドH1001をキャリッジM4000に押し付けながら位置決めする為の突き当て部と、所定の位置に固定する為の不図示の押圧手段が、キャリッジM4000上に設けられている。押圧手段は、ヘッドセットレバーM4010に搭載され、記録ヘッドH1001をセットする際に、ヘッドセットレバーM4010を回転支点中心に回して、記録ヘッドH1001に作用する構成になっている。
【0049】
さらに、キャリッジM4000には、CD−R等の特殊メディアへ記録を行う際や、記録結果や用紙端部等の位置検出用として、反射型の光センサからなる位置検出センサM4090が取り付けられている。位置検出センサM4090は、発光素子より発光し、その反射光を受光することで、キャリッジM4000の現在位置を検出することができる。
【0050】
上記構成において記録媒体に画像形成する場合、行位置に対しては、搬送ローラM3060およびピンチローラM3070からなるローラ対が、記録媒体を搬送して位置決めする。以後、このような搬送方向を副走査方向(第1の方向)と称す。また、列位置に対しては、キャリッジモータE0001によりキャリッジM4000を上記搬送方向と垂直な方向に移動させて、記録ヘッドH1001を目的の画像形成位置に配置させる。以後、このようなキャリッジが移動する方向を主走査方向(第2の方向)と称す。位置決めされた記録ヘッドH1001は、メインPCBE0014からの信号に従って、記録媒体に対しインクを吐出する。記録ヘッドH1001についての詳細な構成および記録システムは後述するが、本実施形態の記録装置においては、記録ヘッドH1001により記録を行いながらキャリッジM4000が列方向に走査する動作を記録走査と称す。また、搬送ローラM3060により記録媒体が上記記録走査とは交差する行方向に搬送される動作を副走査と称す。記録走査と副走査とを交互に繰り返すことにより、記録媒体上に画像を形成していく構成となっている。
【0051】
(E)クリ−ニング部
クリーニング部は、記録ヘッドH1001のクリーニングを行うためのポンプM5000、記録ヘッドH1001の乾燥を抑えるためのキャップM5010、記録ヘッドH1001の吐出口形成面をクリーニングするブレードM5020、などから構成されている。クリーニング部には、専用のクリーニングモータE0003が配されている。クリーニングモータE0003には、不図示のワンウェイクラッチが設けられており、一方向の回転でポンプが作動し、もう一方向の回転ではブレードM5020が動作すると同時にキャップM5010の昇降動作が作用するようになっている。
【0052】
ポンプM5000では、不図示のポンプコロが2本の不図示のチューブをしごくことによって負圧が発生させるように構成されている。またキャップM5010は、不図示の弁などを介してポンプM5000に接続されている。キャップM5010を記録ヘッドH1001のインク吐出口に密着させた状態で、ポンプM5000を作用させると、記録ヘッドH1001から不要なインク等が吸引されるようになっている。更にキャップM5010の内側部分には、吸引後のヘッドH1001のフェイス面に残るインクを削減する為に、キャップ吸収体M5011が設けられている。また、キャップM5010を開けた状態で、キャップM5010に残っているインクを吸引することにより、残インクによる固着およびその後の弊害が起こらないように配慮されている。なお、ポンプM5000で吸引されたインクは廃インクとなり、下ケースM7080に設けられた廃インク吸収体に吸収され、ここに保持される。
【0053】
ブレードM5020の動作、キャップM5010の昇降、および弁の開閉など、連続して行われる一連の動作は、軸上に複数のカムを設けた不図示のメインカムによって制御される。それぞれの部位のカムやアームがメインカムに作用され、所定の動作を行うことが可能となっている。メインカムの位置は、フォトインタラプタ等の位置検出センサで検出することができる。キャップM5010の降時には、ブレードM5020がキャリッジM4000の走査方向に垂直に移動し、記録ヘッドH1001のフェイス面をクリーニングする構成となっている。ブレードM5020は、記録ヘッドH1001のノズル近傍をクリーニングするものと、フェイス面全体をクリーニングするものと、複数設けられている。そして、キャリッジM4000が、一番奥に移動した際には、ブレードクリーナーM5060に当接することにより、ブレードM5020自身へ付着したインクなども除去することができる構成になっている。
【0054】
(F)外装部
(A)〜(E)で説明した各ユニットは、主にシャーシM1010に組み込まれ、記録装置の機構部分を形成している。外装は、その回りを覆うように取り付けられている。外装部は主に、下ケースM7080、上ケースM7040、アクセスカバーM7030、コネクタカバーおよびフロントカバーM7010から構成されている。
【0055】
下ケースM7080の下部には、不図示の排紙トレイレールが設けられており、分割された排紙トレイM3160が収納可能に構成されている。また、フロントカバーM7010は、非使用時に排紙口を塞ぐ構成になっている。
【0056】
上ケースM7040には、アクセスカバーM7030が取り付けられており、回動可能に構成されている。上ケースの上面の一部は開口部を有しており、この位置で、インクタンクH1900および記録ヘッドH1001が交換可能な様に構成されている。なお、本実施形態の記録装置においては、1色のインクを吐出可能な記録ヘッドを複数色分一体的に構成した記録ヘッドユニットに対し、インクタンクH1900が色毎に独立に着脱可能なヘッドカートリッジ構成となっている。更に、上ケースには、アクセスカバーの開閉を検知する為の不図示のドアスイッチレバー、LEDの光を伝達・表示するLEDガイドM7060、基板のスイッチ(SW)に作用するキースイッチM7070等が設けられている。また、多段式の給紙トレイM2060が回動可能に取り付けられており、給紙部が使われない時は、給紙トレイM2060を収納すれることにより、給紙部のカバーにもなるように構成されている。上ケースM7040と下ケースM7080は、弾性を持った勘合爪で取り付けられており、その間のコネクタ部分が設けられている部分を、不図示のコネクタカバーが覆っている。
【0057】
(電気回路構成)
次に本実施形態における電気的回路の構成を説明する。
【0058】
図24は、本発明の実施形態における電気的回路の全体構成を概略的に説明するためのブロック図である。本実施形態で適用する記録装置では、主にキャリッジ基板(CRPCB)E0013、メインPCB(Printed Circuit Board)E0014、電源ユニットE0015、フロントパネルE0106等によって構成されている。ここで、電源ユニットE0015は、メインPCB E0014と接続され、各種駆動電源を供給するものとなっている。
【0059】
キャリッジ基板E0013は、キャリッジM4000に搭載されたプリント基板ユニットであり、ヘッドコネクタ E0101を通じて記録ヘッドH1001との信号の授受を行うインタフェイスとして機能する。また、キャリッジM4000の移動に伴ってエンコーダセンサE0004から出力されるパルス信号に基づいて、エンコーダスケールE0005とエンコーダセンサE0004との位置関係の変化を検出する。更にその出力信号をフレキシブルフラットケーブル(CRFFC)E0012を通じてメインPCB E0014へと出力する。キャリッジ基板E0013には、周囲温度を検出するためのサーミスタなどの温度センサや所要の光学センサが設けられている(以下、これらのセンサをOnCRセンサE0102として参照する)。OnCRセンサE0102により得られる情報は、記録ヘッドカートリッジH1000からのヘッド温度情報とともに、フレキシブルフラットケーブル(CRFFC)E0012を通じてメインPCB E0014へと出力される。
【0060】
メインPCB E0014は、本実施形態におけるインクジェット記録装置の各部の駆動制御を司るプリント基板ユニットである。メインPCB E0014の上には、紙端検出センサ(PEセンサ)E0007、Automatic Sheet Feeder(ASF)センサE0009、カバーセンサE0022およびホストインタフェース(ホストI/F)E0017が配されている。また、キャリッジ走査の駆動源となるキャリッジモータE0001、記録媒体搬送の駆動源となるLFモータE0002、記録ヘッド回復動作の駆動源となるPGモータE0003、記録媒体給紙動作の駆動源となるASFモータE0105などと接続されている。そして、メインPCB E0014は、これら各機能の駆動を制御している。更に、メインPCB E0014は、インクエンプティセンサ、メディア(紙)判別センサ、キャリッジ位置(高さ)センサ、LFエンコーダセンサ、PGセンサなど各種オプションユニットの装着や動作状態を示すセンサからの信号E0104を受信している。そして、各種オプションユニットの駆動制御を行うために、オプション制御信号E0108を出力する。また、メインPCB E0014は、CRFFC E0012、電源ユニットE0015およびフロントパネルE0106とそれぞれ接続し、パネル信号E0107によって情報のやり取りを行うための、インタフェイスを有している。
【0061】
フロントパネルE0106は、ユーザ操作の利便性のために、記録装置本体の正面に設けたユニットである。フロントパネルE0106には、リジュームキーE0019、LED E0020、電源キーE0018、さらにデジタルカメラ等の周辺デバイスとの接続に用いるデバイスI/F E0100が備えられている。
【0062】
図25は、メインPCB E0014の内部構成を示すブロック図である。図において、E1102はASIC(Application Specific Integrated Circuit)である。ASIC E1102は、制御バスE1014を通じてROM E1004に接続され、ROM E1004に格納されたプログラムに従って、各種制御を行っている。例えば、メインPCB E0014上の各センサ出力や、センサ信号E0104、CRPCB E0013上のOnCRセンサ信号E1105からの出力の状態を検出している。また、エンコーダ信号E1020、フロントパネルE0106上の電源キーE0018、リジュームキーE0019からの出力の状態も検出している。また、ホストI/F E0017、フロントパネル上のデバイスI/FE0100の接続およびデータ入力状態に応じて、各種論理演算や条件判断等を行い、各構成要素を制御し、インクジェット記録装置の駆動制御を司っている。更に、本実施形態で使用する特徴的なドット配列パターンやマスクパターンも、ROM E1004に格納されている。
【0063】
E1103は、モータ電源(VM)E1040を駆動源とするドライバ・リセット回路である。ドライバ・リセット回路E1103は、ASIC E1102からのモータ制御信号E1106に従い、CRモータ駆動信号E1037、LFモータ駆動信号E1035、PGモータ駆動信号E1034、ASFモータ駆動信号E1104を生成する。そして、これらモータを駆動する。さらに、ドライバ・リセット回路E1103は、電源回路を有しており、メインPCB E0014、CRPCB E0013、フロントパネルE0106など各部に必要な電源を供給する。さらに、電源電圧の低下を検出して、リセット信号E1015を発生および初期化を行う。
【0064】
E1010は電源制御回路であり、ASIC E1102からの電源制御信号E1024に従って発光素子を有する各センサ等への電源供給を制御する。ホストI/F E0017は、ASIC E1102からのホストI/F信号E1028を、外部に接続されるホストI/FケーブルE1029に伝達し、また同ケーブルE1029からの信号をASIC E1102に伝達する。
【0065】
一方、電源ユニットE0015からは、ヘッド電源(VH)E1039、モータ電源(VM)E1040、およびロジック電源(VDD)E1041が供給される。また、ASIC E1102からのヘッド電源ON信号(VHON)E1022及びモータ電源ON信号(VMOM)E1023が電源ユニットE0015に入力され、それぞれヘッド電源E1039およびモータ電源E1040のON/OFFを制御する。電源ユニットE0015から供給されたロジック電源(VDD)E1041は、必要に応じて電圧変換された上で、メインPCB E0014内外の各部へ供給される。またヘッド電源信号E1039は、メインPCB E0014上で平滑化された後にCRFFC E0012へと送出され、記録ヘッドカートリッジH1000の駆動に用いられる。
ASIC E1102は1チップの演算処理装置内蔵半導体集積回路であり、前述したモータ制御信号E1106、オプション制御信号E0108、電源制御信号E1024、ヘッド電源ON信号E1022、およびモータ電源ON信号E1023等を出力する。そして、ホストI/F E0017との信号の授受を行うとともに、パネル信号E0107を通じて、フロントパネル上のデバイスI/F E0100との信号の授受を行う。さらに、PEセンサE0007からのPE検出信号(PES)E1025、ASFセンサE0009からのASF検出信号(ASFS)E1026、カバーセンサE0022からのカバー検出信号(COVS)E1042の状態を検知する。加えて、パネル信号E0107、センサ信号E0104、およびOnCRセンサ信号E1105の状態も検知する。そして、これら検知結果に応じてパネル信号E0107の駆動を制御してフロントパネル上のLEDE0020の点滅を行う。
【0066】
さらにASIC E1102は、エンコーダ信号(ENC)E1020の状態を検知してタイミング信号を生成し、ヘッド制御信号E1021で記録ヘッドカートリッジH1000とのインタフェイスをとり記録動作を制御する。ここにおいて、エンコーダ信号(ENC)E1020はCRFFC E0012を通じて入力されるCRエンコーダセンサE0004の出力信号である。また、ヘッド制御信号E1021は、フレキシブルフラットケーブルE0012、キャリッジ基板E0013、およびヘッドコネクタE0101を経て記録ヘッドH1001に供給される。
【0067】
図26は、ASIC E1102の内部構成例を示すブロック図である。なお、同図において、各ブロック間の接続については、記録データやモータ制御データ等、ヘッドや各部機構部品の制御にかかわるデータの流れのみを示している。各ブロックに内蔵されるレジスタの読み書きに係わる制御信号やクロック、DMA制御にかかわる制御信号などは図面上の記載の煩雑化を避けるため省略している。
【0068】
図中、E2107はクロック制御部であり、図示しないクロック発振回路からのクロック信号(CLK)E2031を入力とし、必要に応じ周波数を変換してASIC E1102内の大部分へと供給するクロック(図示しない)を発生する。
【0069】
また、E2102は記録制御を含む記録装置全体をコントロールするためのCPUである。CPU E102は、リセット信号E1015、ASIC内各ブロックから出力される割込み信号E2034、制御バスE1014からの制御信号により、以下に示す各ブロックに対するレジスタ読み書き等の制御を行う。また、一部ブロックへのクロックの供給、割り込み信号の受け付け等(いずれも図示しない)も行う。さらにCPU E2102は、内部にRAMを有し、外部デバイスからデバイスI/FE0100を通じて印刷ファイルを受信し、記録データに変換する処理も行う。
【0070】
また、E2005はDRAMであり、記録用のデータバッファとして、受信バッファE2010、ワークバッファE2011、プリントバッファE2014、展開用データバッファE2016などの各領域を有する。さらに、モータ制御用としてモータ制御バッファE2023も有する。
【0071】
また、DRAM E2005は、CPU E2102の動作に必要なワーク領域しても使用されている。すなわち、DRAM制御部E2004による制御の下、制御バスによるCPU E2102からDRAM E2005へのアクセスと、後述するDMA制御部E2003からDRAM E2005へのアクセスとを切り替える。これにより、DRAM E2005への読み書き動作を行っている。
【0072】
DMA制御部E2003では、各ブロックからのリクエスト信号(図示せず)を受け付ける。そして、アドレス信号や制御信号(図示せず)とともに、書込み動作の場合には書込みデータE2038、E2041、E2042、およびE2044などをDRAM制御部に出力してDRAMアクセスを行う。また読み出しの場合には、DRAM制御部E2004からの読み出しデータE2040、E2043、E2045、E2051などを、リクエスト元のブロックに受け渡す。
【0073】
E2007はUniversal Serial Bus(USB)デバイスであり、CPU E2102の制御により、ホストI/F E0017を通じて、図示しない外部ホスト機器との双方向通信インタフェイスとなる。さらに、記録時にはホストI/F E0017からの受信データ(ホスト受信データE2037)をDMA処理により受信制御部E2008に受け渡す。
【0074】
E2101はUSBホストであり、CPU E2102の制御により、デバイスI/F E0100を通じて、図示しない外部デバイス機器との双方向通信インタフェイスとなる。さらに、記録時にはデバイスI/F E0100からの受信データ(デバイス受信データE2108)をDMA処理により受信制御部E2008に受け渡す。受信制御部E2008は、USBデバイスE2007もしくはUSBホストE2101のうちの選択されたI/Fからの受信データ(WDIF)E2038)を、受信バッファ制御部E2039の管理する受信バッファ書込みアドレスに、書込む。
【0075】
E2009は圧縮・伸長DMAコントローラであり、CPU E2102の制御により、受信バッファE2010上に格納された受信データ(ラスタデータ)を、受信バッファ制御部E2039の管理する受信バッファ読み出しアドレスから読み出す。さらに、そのデータ(RDWK)E2040を指定されたモードに従って圧縮・伸長する。得られた各記録コードは、記録ヘッドカートリッジH1000へのデータ転送順序に適するようなワークバッファE2011上のアドレスに並べ替えて転送され、記録コード列WDWK E2041としてワークバッファ領域に書込まれる。
【0076】
E2013は記録バッファ転送DMAコントローラで、CPU E2102の制御により、ワークバッファE2011上の記録コード(RDWP)E2043を読み出し、プリントバッファE2014に転送(WDWP E2044)する。
【0077】
E2012はワーククリアDMAコントローラであり、CPU E2102の制御の下、記録バッファ転送DMAコントローラ E2013による転送が完了したワークバッファ上の領域に対し、指定したワークフィルデータ(WDWF)E2042を繰返し書込む。
【0078】
E2015は記録データ展開DMAコントローラであり、CPU E2102の制御により、プリントバッファ上に書込まれた記録コードと展開用データバッファE2016上に書込まれた展開用データ(展開記録データRDHDG E2045)とを読み出す。このとき、ヘッド制御部E2018からのデータ展開タイミング信号E2050がトリガとなる。さらに、読み出したデータをカラムバッファ書込みデータ(WDHDG)E2047としてカラムバッファE2017に書込む。ここで、カラムバッファE2017は、記録ヘッドカートリッジH1000への転送データ(展開記録データ)を一時的に格納するSRAMである。カラムバッファE2017は、記録データ展開DMAコントローラE2015とヘッド制御部E2018とのハンドシェーク信号(図示せず)によって、両ブロックに共有管理されている。
【0079】
E2018はヘッド制御部であり、CPU E2102の制御により、ヘッド制御信号を介して記録ヘッドカートリッジH1000とのインタフェイスを行う。また、センサ信号処理部E2022からのヘッド駆動タイミング信号E2049に基づき、記録データ展開DMAコントローラに対してデータ展開タイミング信号E2050の出力を行う。さらに、記録時には、ヘッド駆動タイミング信号E2049に従って、カラムバッファから展開記録データ(RDHD)E2048を読み出し、そのデータをヘッド制御信号E1021として記録ヘッドカートリッジH1000に出力する。
【0080】
E2022はセンサ信号処理部であり、センサ信号E0104、OnCRセンサ信号E1105、PE検出信号E1025、ASF検出信号E1026、カバー検出信号E1042、を受ける。そして、CPU E2102の制御で定められたモードに従ってこれらのセンサ情報をCPU E2102に伝達する。また、モータ制御部E2103に対してセンサ検出信号E2052を出力する。さらに、エンコーダ信号(ENC)を受けて、CPU E2102の制御で定められたモードに従ってヘッド駆動タイミング信号E2049を出力する。さらにまた、エンコーダ信号E1020から得られるキャリッジM4001の位置や速度にかかわる情報をレジスタに格納して、CPU E2102に提供する。CPU E2102はこの情報に基づき、CRモータE0001の制御における各種パラメータを決定する。同様に、センサ信号E0104を構成するLFエンコーダセンサ信号を受けて、紙送りの位置や速度にかかわる情報をレジスタに格納して、CPU E2102に提供する。CPU E2102はこの情報に基づき、LFモータE0002の制御における各種パラメータを決定する。
【0081】
E2104はA/Dコンバータであり、センサ信号E0104を構成するメディア判別センサ出力およびインクエンプティセンサ出力、OnCRセンサ信号E1105を構成する環境温度検出サーミスタ出力などのアナログ信号をデジタル値に変換する。また、反射型センサ出力、ヘッド温度検出出力などのアナログ信号もデジタル値に変換する。その後、CPU E2102の制御で定められたモードに従ってこれらのセンサ検出情報をCPU E2102に伝達する。
【0082】
モータ制御部E2103は、CPU E2102の制御により、必要に応じてDRAM E2005上のモータ制御バッファE2023からモータ駆動テーブル(RDPM)E2051を読み出してモータ制御信号E1106を出力する。また、動作モードによっては各種センサ検出信号を制御のトリガとして、モータ制御信号E1106を出力する。
【0083】
E2105はパネルI/F部であり、CPUE2102の制御により、パネル信号E0107を構成するLED制御信号を出力する。また、パネル信号を構成する電源キーおよびリジュームキーの状態出力信号を受けて、CPU E2102に伝達する。E2029はポート制御部であり、CPU E2102の制御により、ヘッド電源ON信号E1022、モータ電源ON信号E1023、及び電源制御信号E1024を出力する。
【0084】
(記録ヘッド構成)
以下に本実施形態で適用するヘッドカートリッジH1000の構成について説明する。 本実施形態のヘッドカートリッジH1000は、記録ヘッドH1001と、インクタンクH1900を搭載する手段、およびインクタンクH1900から記録ヘッドにインクを供給するための手段を有しており、キャリッジM4000に対して着脱可能に搭載される。
【0085】
図27は、本実施形態で適用するヘッドカートリッジH1000に対し、インクタンクH1900を装着する様子を示した図である。本実施形態の記録装置は、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック、レッド、グリーン、およびブルーの7色のインクによって画像を形成し、従ってインクタンクH1900も7色分が独立に用意されている。そして、図に示すように、それぞれがヘッドカートリッジH1000に対して着脱自在となっている。尚、インクタンクH1900の着脱は、キャリッジM4000にヘッドカートリッジH1000が搭載された状態で行えるようになっている。
【0086】
図28は、ヘッドカートリッジH1000の分解斜視図である。図において、ヘッドカートリッジH1000は、第1の記録素子基板H1100および第2の記録素子基板H1101、第1のプレートH1200、第2のプレートH1400を有している。また、電気配線基板H1300、タンクホルダーH1500、流路形成部材H1600、フィルターH1700、シールゴムH1800なども有している。
【0087】
第1の記録素子基板H1100および第2の記録素子基板H1101はSi基板であり、その片面にインクを吐出するための複数の記録素子(ノズル)がフォトリソ技術により形成されている。各記録素子に電力を供給するAI等の電気配線は、成膜技術により形成されており、個々の記録素子に対応した複数のインク流路もまた、フォトリソ技術により形成されている。さらに、複数のインク流路にインクを供給するためのインク供給口が裏面に開口するように形成されている。
【0088】
図29は、第1の記録素子基板H1100および第2の記録素子基板H1101の構成を説明するための正面拡大図である。H2000〜H2600は、それぞれ異なるインク色に対応する記録素子の列(以下ノズル列ともいう)である。第1の記録素子基板H1100には、シアンインクの供給されるノズル列H2000、マゼンタインクの供給されるノズル列H2100、およびイエローインクの供給されるノズル列H2200の3色分のノズル列が構成されている。第2の記録素子基板H1101には、ブラックインク用のノズル列H2300、レッドインク用のノズル列H2400、グリーンインク用のノズル列H2500、およびブルーインク用のノズル列H2600の4色分のノズル列が構成されている。
【0089】
各ノズル列は、記録媒体の搬送方向に1200dpi(dot/inch)の間隔で並ぶ384個のノズルによって構成され、約2ピコリットルのインク滴を吐出させる。各ノズル吐出口における開口面積は、およそ100平方μm2に設定されている。また、第1の記録素子基板H1100および第2の記録素子基板H1101は第1のプレートH1200に接着固定されている。そして、ここには、第1の記録素子基板H1100および第2の記録素子基板H1101にインクを供給するためのインク供給口H1201が形成されている。
【0090】
さらに、第1のプレートH1200には、開口部を有する第2のプレートH1400が接着固定されている。この第2のプレートH1400は、電気配線基板H1300と第1の記録素子基板H1100および第2の記録素子基板H1101とが電気的に接続されるように、電気配線基板H1300を保持している。
【0091】
電気配線基板H1300は、第1の記録素子基板H1100および第2の記録素子基板H1101に形成されている各ノズルからインクを吐出するための電気信号を印加するものである。電気配線基板H1300は、第1の記録素子基板H1100および第2の記録素子基板H1101に対応する電気配線と、この電気配線端部に位置し記録装置本体からの電気信号を受け取るための外部信号入力端子H1301とを有している。外部信号入力端子H1301は、タンクホルダーH1500の背面側に位置決め固定されている。
【0092】
一方、インクタンクH1900を保持するタンクホルダーH1500には、流路形成部材H1600が例えば超音波溶着により固定され、インクタンクH1900から第1のプレートH1200に通じるインク流路H1501を形成している。
【0093】
インクタンクH1900と係合するインク流路H1501のインクタンク側端部には、フィルターH1700が設けられており、外部からの塵埃の侵入を防止し得るようになっている。また、インクタンクH1900との係合部にはシールゴムH1800が装着され、係合部からのインクの蒸発を防止し得るようになっている。
【0094】
さらに、タンクホルダー部と、記録ヘッド部H1001とを、接着等で結合することにより、ヘッドカートリッジH1000が構成されている。ここで、タンクホルダー部は、前述のようにタンクホルダーH1500、流路形成部材H1600、フィルターH1700及びシールゴムH1800から構成されている。また、ヘッドカートリッジH1000は、第1の記録素子基板H1100および第2の記録素子基板H1101、第1のプレートH1200、電気配線基板H1300及び第2のプレートH1400から構成されている。
【0095】
図30は、本実施形態における画像データ変換処理の流れを説明するためのブロック図である。本実施形態で適用するインクジェット記録装置は、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの基本色であるインクのほかに、レッド、グリーンおよびブルーによって記録を行うものであり、そのためにこれら7色のインクを吐出する記録ヘッドが用意されている。図30に示すように、ここに示す各処理は、記録装置とホスト装置としてのパーソナルコンピュータ(PC)によって構成されるものとする。
【0096】
ホスト装置のオペレーティングシステムで動作するプログラムとしてアプリケーションやプリンタドライバがあり、アプリケーションJ0001は記録装置で記録する画像データを作成する処理を実行する。実際の記録時にはアプリケーションで作成された画像データがプリンタドライバに渡される。
【0097】
本実施形態におけるプリンタドライバはその処理として、前段処理J0002、後段処理J0003、γ補正J0004、ハーフトーニングJ0005、および印刷データ作成J0006を有するものとする。ここで、各処理を簡単に説明すると、前段処理J0002は色域(Gamut)のマッピングを行う。そして、sRGB規格の画像データR、G、Bによって再現される色域を、記録装置によって再現される色域内に写像するためのデータ変換を行う。具体的にはR、G、Bのそれぞれが8bitで表現されたデータを3次元のLUTを用いることにより、異なる内容のR、G、Bの8bitのデータに変換する。
【0098】
後段処理J0003は、上記色域のマッピングがなされたデータR、G、Bに基づき、このデータが表す色を再現するインクの組み合わせに対応した色分解データY、M、C、K、R、GおよびBを求める処理を行う。ここでは前段処理と同様に、3次元LUTにて補間演算を併用して行うものとする。
【0099】
γ補正J0004は、後段処理J0003によって求められた色分解データの各色のデータごとにその階調値変換を行う。具体的には、記録装置の各色インクの階調特性に応じた1次元LUTを用いることにより、上記色分解データが記録装置の階調特性に線形的に対応づけられるような変換を行う。
【0100】
ハーフトーニングJ0005は、8ビットの色分解データY、M、C、K、R、GおよびBそれぞれについて4ビットのデータに変換する量子化を行う。本実施形態では、誤差拡散法を用いて256階調の8ビットデータを、16階調の4ビットデータに変換する。この4ビットデータは、記録装置におけるドット配置のパターン化処理における配置パターンを示すためのインデックスとなるデータである。
【0101】
プリンタドライバで行う処理の最後には、印刷データ作成処理J0006によって、上記4ビットのインデックスデータを内容とする印刷イメージデータに印刷制御情報を加えた印刷データを作成する。
【0102】
記録装置は、入力されてきた上記印刷データに対し、ドット配置パターン設定処理J0007を行う。
【0103】
以下に本実施形態のドット配置パターン設定処理J0007について説明する。上述したハーフトーン処理では、256値の多値濃度情報(8ビットデータ)を16値の階調値情報(4ビットデータ)までに階調数を下げている。しかし、実際に本実施形態のインクジェット記録装置が記録できる情報は、インクを記録するか否かの2値情報である。ドット配置パターン設定処理では、0〜15の多値レベルをドットの有無を決定する2値レベルまで低減する役割を果たす。具体的には、ハーフトーン処理部から出力された4ビットデータで表現されるレベル0〜15の600dpiの画素データを、1または0の2値で表される1200dpiの画像データに変換する。
【0104】
本実施形態では、4ビットデータで表現される各画素に対し階調値に対応したドット配置パターンを割当てることで、画素内の2×2の基本画素各々にドットの記録・非記録すなわち「1」または「0」の吐出データ(2値データ)が定義される。本明細書において、画素とは、n個(nは0以上の整数)のドットにより、階調表現を行うことが出来る最小の領域を示す。一方、基本画素は上述の画素を区画して得られる領域であって、ドットの記録、非記録が定められる領域であり、以下エリアとも称する。
【0105】
図1は、本実施形態のドット配置パターン設定処理J0007における、ある一色のデータの取り扱いを具体的に説明するための図である。但し、ドット配置パターンそのものについては、本実施形態の特徴的なドット配置パターンではなく、図1では記録位置ずれの影響を受け易いドット配置パターンの例をまず説明する。
【0106】
600dpiの1画素に対応して、2×2の各エリアにドットの記録・非記録を定義するドット配置パターン100は、データ上図のような8カラム×2ラスタで構成されている。ここではカラムおよびラスタで決まるぞれぞれのエリアに対し、数字とアルファベットの組み合わせで便宜上の名称をつけている。図1では、レベル4の画像データに対するドット配置パターンの一例100が示されており、黒丸は該当するエリアにドットを記録(1)することを示し、空欄はドットを記録しないエリア(0)であることを示している。レベル4の画像データは、ドット配置パターン設定処理において、このように16エリアのうちの4つのエリアにドットを配置する2値信号に変換される。なお、ドット配置パターンは、個々のレベルに対応して定められており、記録装置のROM E1004に予め記憶されている。
【0107】
本実施形態では、ドット配置パターン100の各エリアに対応する2値データをA〜Dの4つの群に分割し、4回の記録走査によってこれらを記録媒体で重ねて記録する。具体的に説明すると、4n+1で表されるカラムのデータ1A、1B、1Cおよび1Dは、記録データ101として分類され、同じ記録走査で記録される。4n+2で表されるカラムのデータ2A、2B、2Cおよび2Dは、記録データ102として分類され、同じ記録走査で記録される。4n+3で表されるカラムのデータ3A、3B、3Cおよび3Dは、記録データ103として分類され、同じ記録走査で記録される。更に、4n(+4)で表されるカラムのデータ4A、4B、4Cおよび4Dは、記録データ104として分類され、同じ記録走査で記録される。
【0108】
これら4つの記録データは、互いに重複する状態でドットが記録される。すなわち、記録媒体における2×2エリアの左上の位置は、1Aと2Aと3Aと4Aのデータが重ねて記録され、本例の場合、左上の位置には4Aによるドットが1つ記録される。また、右上の位置は1Bによるドットが、左下の位置は2Cによるドットが、さらに右下の位置は3Dによるドットが、それぞれ1つずつ記録され、記録媒体における記録状態は105のようになる。
【0109】
ここでは、ドット配置パターン設定処理J0007への入力データがレベル4である場合を例に説明しているが、より大きなレベルの場合には、2×2のエリアの少なくともいずれかは2つ以上のドットが重複して記録される状態となる。そして、最高レベルの場合には、全てのエリアに4つずつのドットが重複されて記録される状態となる。
【0110】
ここで、1パス目で記録データ101が、2パス目で記録データ102が、3パス目で記録データ103が、4パス目で記録データ104が記録される単位領域について考える。4回のパスの間に行われる搬送動作にずれが発生せず、全てのパスにおいてドットが目的の位置に記録された場合、4つのドットの相対的な位置関係は105のようになる。しかし、例えば2パス目と3パス目の間に行われる搬送動作でずれが発生した場合、1パス目と2パス目で記録される2つのドット1Bおよび2Cに対し、3パス目と4パス目で記録される2つのドット3Dおよび4Aはずれて配置する。結果、4つのドットの相対的な位置関係は106のようになる。
【0111】
105と106を比較すると、106では4Aと2Cのドットが部分的に重複している分、記録媒体に対する被覆面積が減少し、白紙部分が目立つ。すなわち、106のようなドットの配置状態は、105のドットの配置状態に比べて濃度が低く検知される。
【0112】
一方、図2は、記録位置ずれの影響を受け易いドット配置パターンの別例を図1と比較しながら説明するための図である。ここでも、同じレベル4に対するドット配置パターンを示しているが、本例のドット配置パターン200では、ドットが実際に配置されるエリアが、図1で説明した例と異なっている。本例の場合、4つの記録データ201、202、203および204が重複する状態で記録されると、記録媒体におけるドットの配列状態は205のようになる。すなわち、2×2エリアの左上の位置は1Aと4Aによる2つのドットが重ねて記録され、右下の位置には2Dと3Dによる2つのドットが重ねて記録され、左下と右上の位置には1つのドットも記録されない。
【0113】
このようなドット配置の状態で、図1で説明した比較例と同様に、2パス目と3パス目の間に行われる搬送動作でずれが発生した場合、4つのドットの相対的な位置関係は206のようになる。すなわち、重複して記録されている1Aのドットと4Aのドットが互いに分離し、同じく重複して記録されている2Dのドットと3Dのドットが互いに分離する。結果、記録媒体に対する被覆面積は記録位置ずれが発生していない205の状態に比べて増加し、濃度は高く検知される。
【0114】
すなわち、図1で説明したように全てのドットが互いに重複せずに記録されている状態では記録位置ずれが発生すると濃度は低下し、図2で示したように全てのドットが互いに重複して記録されている状態では、記録位置ずれが発生すると濃度が上昇する傾向がある。本発明者らは、このような状況を鑑み、以下のような知見に到った。すなわち、記録位置ずれが発生した場合に濃度の低下や上昇を軽減するためには、同じ位置で重複させたり隣接させて部分的に重複させたりするドットの数を、予め調整したドット配置パターンを用意しておくことが有効であると判断した。例えばレベル4では、図1で示したようなドット同士を隣接させて一部重複させたドット配置と図2で示したような同じ位置で重複させたドット配置を所定の割合で混在させておけば、記録位置ずれが発生しても濃度の低下と上昇が互いに相殺し合う。これにより、単位領域全体の濃度変動を抑制することが出来るのである。
【0115】
なお、図1および2では、2パス目と3パス目の間の搬送動作でずれが発生した場合を例に説明したが、これは、この条件が最も濃度変動を招致しやすいからである。4パスのマルチパス記録の場合、2パス目と3パス目の間で記録位置ずれが起きると、約50%ずつのドット群の配置関係が崩れ、被覆面積も大きく変動する。これに対し、1パス目と2パス目の間や3パス目と4パス目の間でも記録位置ずれは起こりうるが、この場合には約75%のドット群に対し25%のドット群が相対的にずれた状態となる。よって、ドットの配置状態は、2パス目と3パス目の間で記録位置ずれが起きた場合ほど大きくは変わらず、濃度変動の程度も少ない。但し、程度の差こそあれ、やはり同様の現象は発生している。
【0116】
図3は、本実施形態におけるレベル1のドット配置パターンを示した図である。太線で囲った領域が600dpiの1画素領域に相当し、その中の個々の四角は、図1および図2で示した8カラム×2ラスタの領域を示している。すなわち、この8カラム×2ラスタの16個のエリアは、図1および図2で説明した構成によって4つの記録データに分類され、互いに異なる4回の記録走査によって記録媒体で重複して記録される。
【0117】
図8は、図3で示したドット配置パターンに従って記録データを重複した場合の、記録データの配置状態を示す図である。本実施形態では、記録エリア(黒)の50%以上が他の記録エリアと隣接するように配置されている。なお、本明細書において、エリア同士の隣接は主走査、副走査あるいは斜め方向に隣接することを指す。
【0118】
図11は、図8に示した記録データに従って記録媒体にドットを記録した状態を示す図である。図8においてデータ上の重複はなくても、実際の記録媒体では、隣接して位置するドット同士が互いに部分的に重複している領域が発生している。以下、ドットによって記録媒体が被覆される面積に対する複数のドットが重複している面積の割合を、重複面積の割合と称する。本実施形態では、図8に示す記録エリア(黒)の50%以上が他の記録エリアと主走査、副走査あるいは斜め方向に隣接するように配置されているので、互いに隣接するドット間で重複領域が生成され、重複面積の割合は約8.4%になっている。つまり、本実施形態では、このように記録媒体にドットを記録した状態において、重複面積の割合が8.4%となるように、レベル1に対するドット配置パターンが定められている。特にレベル1のように8.4%という比較的小さい重複面積の割合を実現するためには、図8に示すように、記録エリア(黒)の多くが、主走査、副走査に隣接するよりも斜め方向に隣接するように配置することが好ましい。本例においては、ドットの記録が定められたエリアの50%以上が、ドットの記録が定められた他のエリアと斜め方向に隣接するように配置されている。
【0119】
一方、図7は、ドットの分散性を重視して作成した、図3と比較するためのレベル1のドット配置パターンである。また、図9は、図7で示した比較例のドット配置パターンに従って記録データを重複した場合の記録データの配置状態を、図8と同様に示す図である。この比較例の場合、ドットの分散性を重視して作成してあるので、記録データはほぼ等間隔に配置され、記録エリア(黒)が他の記録エリアと主走査、副走査あるいは斜め方向に隣接することはない。よって、記録媒体におけるドット配置も、図15のように重複領域を有することなく分散され、重複面積の割合は0%となっている。
【0120】
次に、本実施形態と比較例において、搬送ずれに伴う記録位置ずれが発生した場合のドット配置を説明する。
【0121】
図16(a)〜(h)は、本実施形態のレベル1のドット配置において、搬送動作でずれが発生した場合のドット配置の変化の様子を、ずれの量に対応させて示した図である。ここでは、図1あるいは図2で説明したように、2パス目と3パス目の間に行われる搬送動作で、+0.5エリア〜+2.0エリアのずれ、また−0.5エリア〜−2.0エリアのずれが、それぞれ発生した場合を示している。一方、図17(a)〜(h)は、比較例におけるドット配置の変化の様子を、本実施形態の図16(a)〜(h)と比較する状態で同様に示した図である。
【0122】
図16(a)〜(h)に示す本実施形態では、ずれ量が変化しても、図11に示したずれ量が0の場合に比べて、記録媒体に対する被覆面積はほとんど変化しておらず、単位領域における濃度変動も少ない。これに対し、図17(a)〜(h)に示す比較例では、図15に示したずれ量が0の場合に比べて、記録媒体に対する被覆面積が大きく変化している。ずれ量が大きいほど互いに重なり合うドットの面積が増え、その分白紙領域が目立つようになる。すなわち、比較例の場合には、搬送ずれの程度に応じて、単位領域の濃度が大きく変化してしまっている。
【0123】
図18は、搬送のずれ量に対する被覆面積の変化を、本実施形態と比較例を比較しながらグラフに表した図である。ここでは、搬送ずれが0であった場合に対し、ここからの被覆面積の変化量を、個々の搬送ずれに対応付けて示している。比較例では搬送ずれの量に応じて被覆面積が大きく変化しているのに比べ、本実施形態では殆ど一定の被覆面積を維持していることがわかる。
【0124】
本実施形態では、このように記録位置ずれが発生した場合であっても、記録媒体に対する被覆面積が大きく変動しないようなドット配列が特徴となっている。そして、本発明者らが検討した結果、レベル1程度の階調であれば、上記重複面積の割合は5%以上20%以下程度が好ましいという知見に至った。5%未満であると上記比較例のように記録位置ずれに対する濃度変動が大きく、また、20%よりも大きいとドット同士の分散性が損なわれ、粒状感による画像劣化が目立つようになったからである。無論、このようなドット配列の特徴は、レベル1よりも更に高いレベルでも維持され、レベルが高くなるほど適切な重複面積の割合も増加して行く。
【0125】
図4〜図6は、本実施形態におけるレベル2、レベル3およびレベル4のドット配置パターンをそれぞれ示した図である。また、図12〜図14は、図4〜図6に示したドット配置パターンに従って記録媒体にドットを記録した状態を示す図である。レベルが上がるにつれて、記録エリア(黒)は図4〜図6に示すように増え、重複面積の割合も図12〜図14に示すように、8.4%から42%、57%、71%と増えていることが判る。本発明者らが検討した結果、レベル2程度の階調であれば重複面積の割合は40%以上55%以下程度が好ましく、レベル3程度の階調であれば55%以上70%以下程度が好ましく、レベル4程度の階調であれば70%以上85%以下程度が好ましい状態であった。
【0126】
ここで、本実施形態の特徴的な構成について、従来のドット配置パターンと比較しながら、より具体的に説明する。図33(a)〜(d)は、ドットの分散性を重視して作成した従来のドット配置パターン(レベル1〜レベル4)を示す。ここでは、エリアのそれぞれに記録されるドット数を示している。図33(a)は、図7に対応するレベル1のドット配置バターンであり、図中の1はそのエリアに1つのドットが記録されることを示す。図33(b)はレベル2のドット配置バターン、図33(c)はレベル3のドット配置バターン、図33(d)はレベル4のドット配置バターンを示している。
【0127】
ここで、デジタルデータであるドット配置パターン上において、単位領域(ここでは64エリア)に含まれる記録許容エリア数に対して、重複ドットを記録するエリアの割合を重複率と定義する。従来のドット配置パターンでは、レベル1〜4の全てでドットが重複して記録されるエリアが存在しないため、レベル1〜4のどのドット配置パターンも重複率は0%となる。
【0128】
図34(a)〜(d)は、図33(a)〜(d)のドット配置パターンに更に周囲1エリアを足した図である。ここで、注目エリアに対して、上下左右および斜め方向で接する周囲8エリアを隣接エリアと定義する。図34(e)〜(h)は、従来のレベル1〜4のドット配置パターンにおいて、隣接エリアに存在する記録許容エリアの数を記録許容エリアごとに示したものである。図34(e)に示す従来のレベル1のドット配置パターンでは、分散性を重視しているため、どの記録許容エリアも他の記録許容エリアとは隣接せず、すなわち隣接エリアに記録許容エリアが存在するような記録許容エリアはない。
【0129】
次に、隣接率を定義する。隣接率は、隣接する8エリアの数に対して記録許容エリアの数の割合と定義し、ここでは、単位領域(ここでは64エリア)に含まれる記録許容エリアそれぞれの平均値を算出している。レベル1はどの記録許容エリアも他の記録許容エリアと隣接しておらず、その隣接率は0%である。レベル2では、記録許容エリアの数が32であり、隣接エリアに存在する記録許容エリアの数の合計は96である。そのため、1個の記録許容エリア当たり、隣接する8エリアのうち記録許容エリアが存在する割合は、37.5%(=(96/32)/8*100)となり、これがレベル2の隣接率となる。同様にして、レベル3の隣接率は66.6%、レベル4の隣接率は100%となる。
【0130】
次に、図35(a)〜(d)は本実施形態のレベル1〜レベル4までのドット配置パターンを示しており、図33と同様にエリアごとに記録されるドット数を示している。図35(b)〜(d)に示されるように、本実施形態のレベル2〜4では、複数のドットが記録される重複エリア(数字「2」で示されるエリア)が存在している。
【0131】
ここで、本実施形態のドット配置パターンの重複率について説明する。レベル1では、16個の記録許容エリアのうち重複ドットが記録されるエリア(数字“2”が記されているエリア)は0であり、重複率は0%である。レベル2では、32個の記録許容エリアのうち重複ドットが記録されるエリアは16であり、重複率は50%である。同様に、レベル3の重複率は66.7%であり、レベル4の重複率は75%である。
【0132】
従来のドット配置パターンと比較すると、従来のドット配置パターンではレベル1〜4の全てで重複率が0%であったのに対し、本実施形態のドット配置パターンではレベル2以上で重複ドットを存在させ、更にレベルが上がるにつれて重複率が増加している。
【0133】
また、図36(a)〜(d)は、図35(a)〜(d)の本実施形態のドット配置パターンに更に周囲1エリアを足した図である。図36(e)〜(h)は、本実施形態のレベル1〜4のドット配置パターンにおいて、隣接エリアに存在する記録許容エリアの数を示したものである。図36(e)に示す本実施形態のレベル1のドット配置パターンでは、どの記録許容エリアも、少なくとも1個の他の記録許容エリアと接しており、記録許容エリア同士が全く隣接していなかった従来のレベル1のドット配置とは大きく異なっていることがわかる。
【0134】
ここで、本実施形態のドット配置パターンの隣接率について説明する。レベル1では記録許容エリアの数が16であり、隣接エリアに存在する記録許容エリアの数の合計は28である。そのため、1個の記録許容エリア当たり、隣接する8エリアのうち記録許容エリアが存在する割合は、21.875%(=(28/16)/8*100)となり、これがレベル1の隣接率となる。同様にして、レベル2の隣接率は39.583%、レベル3の隣接率は67.1875%、レベル4の隣接率は90%となる。
【0135】
図37(a)および(b)は、従来のドット配置パターンと本実施形態のドット配置パターンそれぞれの重複率と隣接率をレベルごとに示した表である。また、図38(a)はレベルごとの重複率を従来のドット配置パターンと本実施形態のドット配置パターンそれぞれで示しており、図38(b)はレベルごとの隣接率を従来のドット配置パターンと本実施形態のドット配置パターンそれぞれで示している。
【0136】
本実施形態の特徴について、図37および38を参照しながら説明する。まず、重複率に関して、従来のドット配置パターンでは全レベルで重複率が0%、つまり重複ドットは存在していない。これに対して、本実施形態のドット配置パターンはレベル1で0%、レベル2で重複率が50%、レベル3で重複率が67%、レベル4で重複率が75%、というようにレベルが増加するに連れて重複率も増加している。特に、本実施形態のドット配置パターンは、レベル値をnとすると、その重複率が100×(1−1/n)の関係を満たしており、レベル値の増加分に対する重複率の増加分である増加率(傾き)が徐々に小さくなっている。
【0137】
また、隣接率に関しては、本実施形態のドット配置パターンは、レベルが増加するに連れて隣接率も単調に増加している。さらに、従来のレベル1の隣接率が0%であるのに対し、本実施形態のレベル1では隣接率が22%となっている。この様に、レベル1から積極的にドットを隣接させて配置することにより、突発的な搬送誤差が生じたときの濃度変動(濃度低下)を軽減できるようになっている。また、従来のレベル4の隣接率が100%であるのに対し、本実施形態のレベル4では隣接率が90%なっている。従来例では、全てのドットが隣接し合い、全エリアにドット存在しているため(エリアファクターが高い状態であるため)、突発的な搬送誤差でドットの位置がずれると、ドットの記録されない領域が発生し、著しい濃度低下が生じてしまう。本実施形態は、最高レベルであるレベル4では全てのドット同士を隣接させずに、ドットが存在しないエリアを予め設けておくことで、突発的な搬送誤差が生じたときの濃度変動(濃度低下)を軽減できるようになっている。この様に、本実施形態のドット配置パターンは、レベルに拠らず、隣接率が0%より大きく100%より小さくなっている。この様な結果、本実施形態の方が従来例より、レベル値の増加分に対する隣接率の増加分である増加率(傾き)が小さくなっており、これも本実施形態における特徴と言える。
【0138】
以上説明したように、本実施形態においては、同じ位置で重複するドットや、隣接した位置で部分的に重複するドットの数が、予め適量に調整されたドット配置パターンを各レベルに応じて用意し、これをROM E1004に記憶している。そして、ドット配置パターン設定処理J0007において、各レベルに応じたドット配置パターンを選択し、これを図1および図2で説明した方法で4つの記録走査に分類して記録している。このような構成を採用することにより、記録位置ずれが突発的に発生しても、図16(a)〜(h)あるいは図18に示したように、濃度変動の抑えられた画像を安定して出力することが可能となる。
【0139】
(その他の実施形態)
上記実施形態では、600dpiの1画素に対し16値で濃度表現する場合を例に、各レベルにおいて適切な重複面積の割合が得られるようなドット配置パターンを用意する内容で説明してきたが、本発明の効果はこのような構成に限定されるものではない。適切な重複面積の割合は、記録媒体の種類、記録解像度、ドットの大きさ、インクの種類、など様々な要因によって変化することも十分に考えられる。また、同じレベル1であっても、より多くの階調数(多階調)やより少ない階調数(低階調)で濃度表現する場合には、単位面積あたりに記録するドットの数も異なってくる。どのような階調数であっても、各レベルや条件に対応した重複面積の割合が定められ、この値が記録位置ずれが発生した際にも大きく変動しないようなドット配置パターンが用意されていれば、本発明の効果を発揮することは可能である。
【0140】
また、上記実施形態では、各記録走査の記録データとなるドット配置パターンをマルチパス数分用意する(マルチパス数分に分類する)構成で説明したが、本発明はマスクパターンを用いたマルチパス記録を実行できないわけではない。再度、図30を参照するに、ドット配置パターン設定処理の後に、更にマスクデータ変換処理J0008を用意し、ドット配置パターン設定処理J0007から出力された4種類の2値の記録データと、予め要されたマスクパターンとの間で、論理積を取ってもよい。
【0141】
図10は、特許文献2に記載の特徴を有するマスクパターンの一例であり、ノズル並び方向(副走査方向)にノズル数と等しい384エリア、主走査方向に1534エリアを有する6パス用のマスクパターンである。図では、記録を許容するエリアを黒、非許容のエリアを白で示している。このマスクパターンを用いながら、4つに分類された各記録データに従ってマルチパス記録を行うことにより、単位領域には4×6=24パスの複数回走査によって画像が形成される。
【0142】
また、以上では、主に搬送ずれにともなう記録位置ずれを例に説明してきたが、無論本発明の効果はこのような記録位置ずれに限定されるものではない。記録位置ずれは、搬送動作のみならず記録媒体の撓みや記録媒体の傾きによっても招致されるし、また搬送方向(副走査方向)のみではなく、キャリッジの走査むらなどが原因で主走査方向に発生する場合もある。いずれの方向に記録位置ずれが発生する場合であっても、複数種類のドット配置パターンを、所定の重複面積の割合を実現するように、主走査方向や副走査方向にドットを適宜隣接させながら定めておけば、被覆面積の変動を抑えることが出来る。
【0143】
更に、以上では、図1および図2を用い、1つのドット配置パターンを記録走査の異なる4つのグループに分類する内容で説明したが、本実施形態はより少ないグループあるいはより多いグループに分類することも出来る。具体的には、例えば、ドット配置パターン設定処理において用意するドット配置パターンを4カラム×2ラスタとし、これを奇数カラムと偶数カラムに分類して2パスのマルチパス記録によって記録する形態であっても良い。また、例えば、ドット配置パターン設定処理において用意するドット配置パターンを16カラム×2ラスタとし、これを8つのグループに分類して8パスのマルチパス記録によって記録する形態であっても良い。いずれにしても、所定数のエリアで構成される複数のドット配置パターンを用意し、これらを異なる記録走査で重複するように記録すればよい。
【0144】
更に、上記実施形態では各色1列ずつのノズル列を有する記録ヘッドを用い、4つに分類された記録データを4回の記録走査(パス)で記録したが、4つのグループの記録データは、同色インクを吐出する複数のノズル列で分担して記録することもできる。
【0145】
図32は、このような場合の記録ヘッドのノズル列の配列構成を説明する為の図である。図において、211と218はブラックインク(K)用のノズル列、212と217はシアンインク(C)用のノズル列、213と216はマゼンタインク(M)用のノズル列、214と215はイエローインク用(Y)のノズル列である。本実施形態では、このように各色のノズル列を複数備え、2つのノズル列で4つのグループを2つずつ分担して記録する。再度図1を参照するに、例えば、ブラックでは、記録データ101と記録データ102をノズル列212による2回の記録走査によって記録し、記録データ103と記録データ104をノズル列217による2回の記録走査によって記録すればよい。
【0146】
以上説明した本発明においては、ドット配置パターン設定処理J0007における、図1あるいは図2で説明したようなデータの取り扱いも一つの特徴となっている。従来、一般的なマルチパス記録を行う場合には、記録許容エリアと非記録許容エリアを予め定めたマスクパターンを、マルチパス数に対応して用意し、2値化された記録データとの間で論理積演算を行い、その結果を各記録走査の記録データとしていた。そして、特許文献3によれば、そのような各記録走査に対応したマスクパターン間で、記録許容エリアを所定の割合で重複して設けることにより、記録位置ずれが発生しても被覆面積の変動を抑えることが出来る技術が開示されていた。しかしながら、一般に、記録データは記録許容エリアとは無関係に定まるものであるから、記録許容エリアの重複率を所望の値に設定したところで、実際に記録されたドットの重複率がこれに追従するわけでもなく、濃度変動の懸念は完全には解決されない。
【0147】
これに対し、本実施形態では、ドット配置パターンをマルチパス数分用意し(マルチパス数分に分類し)、これらマルチパス数分のドット配置パターンのドット配置を、所望の重複面積の割合が実現されるように定めている。よって、実際に記録される紙面上のドットの重複面積の割合も、ドット配置パターンから予測し易く、各レベルにおける被覆面積も目的の範囲に制御することが可能となる。その結果、特許文献3に開示されている方法に比べ、記録位置ずれに起因する濃度変動を確実且つ安定して抑えることが出来る。
【0148】
一方、特許文献4には、本発明と同様、与えられた階調を表現するために、1つのエリア(スーパーピクセル)に複数のドットを配置する構成が開示されている。特許文献4によれば、ドットのサイズ、濃度、重複面積のそれぞれについて複数段階を用意し、これらを段階的に切り替えながら、より高精度な濃度表現を実現しようとしている。しかしながら、特許文献4は、マルチパス記録についての言及はなく、マルチパス記録時の主走査方向あるいは副走査方向への記録位置ずれには着目していない。よって、特許文献4の技術を取り入れてマルチパス記録を行った場合、記録位置ずれが発生した際に、スーパーピクセル内のあるいはスーパーピクセル間のドット配置は大きく崩れ、濃度変動が招致されることが懸念される。
【0149】
以上説明したように、本発明によれば、1つのレベルに対するドット配置パターンを複数走査(パス)分用意し、これら複数のドット配置パターンのドット配置を、所望の重複面積の割合が実現されるように定めている。これにより、実際に記録される紙面上のドットの重複面積の割合を、各レベルにおけるドット配置パターンによって目的の範囲に制御することが出来、記録位置ずれに起因する濃度変動を抑えることが可能となる。
【0150】
なお、前述した実施形態の処理は、複数の機器(例えばホストコンピュータ、記録装置)から構成されるシステムで分担して行うようにしても、1つの機器で全てを行うようにしても良い。上記実施形態においては、その処理の全てを記録装置に接続されたホストコンピュータにより行うことも可能であり、この場合にはホストコンピュータ(画像処理装置)が本発明を構成することになる。
【符号の説明】
【0151】
100 ドット配置パターン
101〜104 記録データ
105 記録位置ずれがない場合のドット記録状態
106 記録位置ずれがある場合のドット記録状態
605 ドット記録状態
200 ドット配置パターン
201〜204 記録データ
205 記録位置ずれがない場合のドット記録状態
206 記録位置ずれがある場合のドット記録状態
605 ドット記録状態
J0007 ドット配置パターン設定処理

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体にドットを記録するための記録ヘッドを走査させることにより、前記記録媒体に画像を記録する記録装置において、
1画素に階調表現を行うための画像データを、当該1画素の内の複数のエリアそれぞれにドットの記録あるいは非記録が定められた複数のドット配置パターンに基づいて、エリアごとにドットの記録あるいは非記録が定められた記録データに変換する変換手段と、
前記記録データに基づいて、前記記録ヘッドの複数回の走査により前記記録媒体上の単位領域に画像を記録させる記録制御手段と
を備え、前記複数のドット配置パターンは、
(i)前記複数のエリアに対して記録を定めるドットの数が多いほど、記録が定められたエリアの数に対する複数のドットを記録するエリアの数の割合は増加し、
(ii)前記複数のエリアに対して記録を定めるドットの数に関わらず、隣接するエリアの数に対する記録が定められたエリアの数の割合は、0%より大きく、100%より小さい
ことを特徴とする記録装置。
【請求項2】
前記複数のドット配置パターンは、ドットの記録が定められたエリアの50%以上がドットの記録が定められた他のエリアと隣接するように配置されていることを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【請求項3】
前記複数回の走査のそれぞれの間に前記走査の方向と交差する方向に前記記録媒体を前記単位領域の幅に対応した量だけ搬送させる手段を更に備えることを特徴とする請求項1または2に記載の記録装置。
【請求項4】
前記複数のエリアに対するドットの記録の許容あるいは非許容を定めるマスクパターンを用いて、前記変換手段によってドットの記録が定められたエリアのドットの記録を前記複数回の走査に振り分けるマスクデータ変換手段、を更に備えることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の記録装置。
【請求項5】
前記複数のエリアに1つのドットの記録を定める前記ドット配置パターンは、ドットの記録が定められたエリアの50%以上がドットの記録が定められた他のエリアと斜め方向に隣接するように配置されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の記録装置。
【請求項6】
前記複数のエリアに1つのドットの記録を定める前記ドット配置パターンは、前記単位領域における重複面積の割合が5%以上20%以下であるように定められていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の記録装置。
【請求項7】
前記複数のエリアに2つのドットの記録を定める前記ドット配置パターンは、前記単位領域における重複面積の割合が40%以上55%以下であるように定められていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の記録装置。
【請求項8】
前記複数のエリアに3つのドットの記録を定める前記ドット配置パターンは、前記単位領域における重複面積の割合が55%以上70%以下であるように定められていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の記録装置。
【請求項9】
前記複数のエリアに4つのドットの記録を定める前記ドット配置パターンは、前記単位領域における重複面積の割合が70%以上85%以下であるように定められていることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の記録装置。
【請求項10】
前記記録ヘッドは、インクを吐出して記録媒体にドットを記録することを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の記録装置。
【請求項11】
前記記録ヘッドを前記走査の方向に複数備え、前記記録媒体の単位領域に対し前記複数の記録ヘッドを複数回走査させることにより、前記単位領域に画像を記録することを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載の記録装置。
【請求項12】
前記複数のドット配置パターンは、前記複数のエリアに対して記録を定めるドットの数が多いほど、前記記録が定められたエリアの数に対する複数のドットを記録するエリアの数の割合の増加率が小さくなることを特徴とする請求項1乃至11のいずれかに記載の記録装置。
【請求項13】
前記複数のドット配置パターンは、前記複数のエリアに対して記録を定めるドットの数が多いほど、前記隣接するエリアの数に対する記録が定められたエリアの数の割合が、単調に増加することを特徴とする請求項1乃至12のいずれかに記載の記録装置。
【請求項14】
記録媒体にドットを記録するための記録ヘッドを走査させることにより、前記記録媒体に画像を記録する記録方法であって、
1画素に階調表現を行うための画像データを、当該1画素の内の複数のエリアそれぞれにドットの記録あるいは非記録が定められたドット配置パターンに基づいて、エリアごとにドットの記録あるいは非記録が定められた記録データに変換する変換工程と、
前記記録データに基づいて、前記記録ヘッドの複数回の走査により前記記録媒体上の単位領域に画像を記録する記録工程と
を有し、前記複数のドット配置パターンは、
(i)前記複数のエリアに対して記録を定めるドットの数が多いほど、記録が定められたエリアの数に対する複数のドットを記録するエリアの数の割合は増加し、
(ii)前記複数のエリアに対して記録を定めるドットの数に関わらず、隣接するエリアの数に対する記録が定められたエリアの数の割合は、0%より大きく、100%より小さい
ことを特徴とする記録方法。
【請求項15】
記録データに基づいてドットを記録するための記録ヘッドを、記録媒体上の単位領域に対して複数回走査させることにより前記記録媒体に画像を記録する記録装置で用いられる記録データを処理する画像処理装置であって、
1画素に階調表現を行うための画像データを、当該1画素の内の複数のエリアそれぞれにドットの記録あるいは非記録が定められた複数のドット配置パターンに基づいて、エリアごとにドットの記録あるいは非記録が定められた記録データに変換する変換手段を備え、
前記複数のドット配置パターンは、
(i)前記複数のエリアに対して記録を定めるドットの数が多いほど、記録が定められたエリアの数に対する複数のドットを記録するエリアの数の割合は増加し、
(ii)前記複数のエリアに対して記録を定めるドットの数に関わらず、隣接するエリアの数に対する記録が定められたエリアの数の割合は、0%より大きく、100%より小さい
ことを特徴とする画像処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【公開番号】特開2011−212894(P2011−212894A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81489(P2010−81489)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】