説明

記録装置および塗布装置

【課題】塗布ローラ部に蓄積される増粘塗布剤を抑制することを実現した塗布部を具備した記録装置をおよび塗布装置を提供すること。
【解決手段】所定時間記録装置が停止する前に、塗布ローラ71Aに対して多孔質体100を押圧、離間して多孔質体に蓄積された塗布剤110を搾り出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録装置および塗布装置に関し、更に詳しくは、記録に用いられる記録媒体に対して、所定の目的で液体を塗布する機構を備えた記録装置に関するものであり、また同様に、所定の目的で媒体に液体を塗布する塗布装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から記録装置の代表的な記録方式には、インクジェット方式、ワイヤドット方式、感熱方式、昇華方式、熱転写方式、電子写真方式、銀塩写真方式等がある。そのうち、インクジェット方式は、中でも比較的簡易な手段、構成で多様な記録媒体に対して高画質な記録をすることができるという利点がある。しかしながらインクジェット方式でも、インク色材や記録媒体の特性によって、インクが記録媒体に好適に吸収されることができず、または好適に発色することができないことがあり、記録品位の低下をもたらす場合がある。例えば、透過型原稿を作成するために非処理のポリエチレンテレフタレート(PET)のシート上にインクを吐出する場合には、シート上でインクが滲んで好適な画質が得られなかった。また、画用紙等のように表面の凹凸が大きな紙に対してインクを吐出する場合には、インクが紙の中に浸透してしまい、好適な発色が得られなかった。これらを改善するために、記録媒体の記録面にインク受容層を形成する液体が、予め塗布された記録媒体(以下、コート紙ともいう)が知られている。
【0003】
しかしながら、これらコート紙の場合は、様々な機械や記録モードになるべく多く対応するために必要以上の液体を塗布することがあり、そのため一般の紙よりも高価になる場合がある。また、様々な風合いを表現したい場合には、その風合いを出す専用のコート紙を揃えなければならない。更にこれらのコート紙は吸湿により品質劣化を生じるため、防湿状態で保存をしなくてはならなかった。
【0004】
この点を解決する手法として、予めインク受容層を形成する液体が塗布された記録媒体を用いるのではなく、インク受容層を形成する塗布剤を塗布する塗布処理部を有した記録装置によって、記録直前に記録媒体に塗布剤を塗布する方法が知られている。この塗布処理部を有した記録装置では記録前に、インクを吸収もしくは発色するような塗布剤を好適な量だけ記録媒体に塗布することにより、塗布後の記録によって好適な画像を得ることができる。
【0005】
この様に、予め記録面に塗布剤を塗布する処理(以下、前処理ともいう)部を有した記録装置には、記録媒体全体に塗布剤を塗布する装置(特許文献1)と、記録媒体の記録する部分にのみ塗布剤を塗布する装置(特許文献2)とがある。
しかしインクジェット方式で記録された記録媒体は、インクが乾燥もしくは記録媒体に吸収されるまでの間はインクが定着しにくく、その間に接触した物に転移し易いことから、他の記録方式で記録された記録媒体より堅牢性が比較的劣るという問題がある。また、インクが乾燥もしくは記録媒体に吸収された後でも、記録面に水を付着させると、インクが滲んだり、流れ出たりする耐水性の問題がある。更に、記録後の記録面の状態は、記録媒体上に色材が露出、付着した状態なので、オゾン等の耐ガス性、蛍光灯や太陽光等の耐光性等を含めた耐候性が劣るという問題がある。一方、耐候性向上のため、顔料を用いた色材を使用した場合には特に、ブロンズ現象や、記録濃度、インク色によって光沢性が異なるといった問題が生じる。
【0006】
これらの問題を解決するために、記録媒体にインクを吐出した後に記録面にオーバーコート剤等の塗布剤を塗布することが知られている。この様に記録後に記録面に塗布剤を塗布する処理(以下、後処理ともいう)部を有した記録装置には、ローラ対等を有して記録面全体に塗布剤を塗布する装置(特許文献3)がある。
【0007】
ここで、前処理および後処理に用いられるそれぞれの塗布剤について説明する。
一般に前処理として用いられる塗布剤は、吐出されたインクと反応して発色を維持させるものが多い。そのため塗布剤は従来から水系インクに対して反応し易い、溶剤を含んだものであることが多い。その例として、記録媒体上に予めカルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル等のポリマ溶液を用いて前処理を行い、ついでそのポリマ溶液が付着した部分にインクを吐出して記録する方法(特許文献4)が挙げられる。また、インク中の染料を不溶化する化合物を含む画像記録促進液を記録媒体に付着させた後にその画像記録促進液が付着した部分にインクを吐出して記録するインクジェット記録方法(特許文献5)もある。
【0008】
また、後処理として用いられる塗布剤は、記録物の光沢感の改善や、耐候性向上のために、記録面へ吸収させるものが多い。そのため後処理として用いられる塗布剤は前処理で用いられる塗布剤のように水系インクと反応し易いものである必要がない。例えば、記録物に耐水性を持たせるため、油性のシリコーンオイル、ワックス、油脂等を用いる(特許文献3および特許文献6)ことがある。
【0009】
ここで、従来の塗布剤塗布機能を有した記録装置の構成について説明する。
図1は、従来の記録装置の塗布剤塗布部を示す断面図である。塗布剤110はタンク16に蓄えられており、第1の塗布ローラ11、第2の塗布ローラ12、第3の塗布ローラ13の各ローラが回転することで転移されて、最終的に第4のローラ15にセットされた記録媒体17に塗布される。
【0010】
このように塗布剤を塗布する構成を具える記録装置は、塗布剤の効果により滲みやカラーブリード(色間の滲み)を低減することができ、画質品質を向上させる利点を有する。
【0011】
【特許文献1】特開平07−156538号公報
【特許文献2】特開昭63−299970号公報
【特許文献3】特開2003−93940号公報
【特許文献4】特開昭56−89595号公報
【特許文献5】特開平8−20161号公報
【特許文献6】特開2003−25559号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、このような記録装置において、塗布ローラに供給された塗布剤が外気に触れて蒸発、揮発、乾燥等することにより増粘、更には固着、析出することがあった。このような増粘などにより塗布剤の品質が劣化した場合、塗布時の塗布量が変動するだけでなく、記録装置を長期放置時に塗布ローラ間で固着した場合には塗布できなくなることも起こりうる。上記の従来の例で、記録媒体17に塗布剤110を塗布した後、再び塗布を行うまでの間の時間が比較的長時間である場合には、各塗布ローラに転移された塗布剤110が長時間放置された状態になり蒸発して増粘する。このように塗布ローラ上で塗布剤110が増粘した場合、塗布ローラの回転トルクが極端に上がって回転しにくくなる。そして、それを防止するために必要以上のトルクを発生する大きなモータを具備しなければならなかった。
【0013】
そこで本発明は、塗布ローラ部に蓄積される増粘塗布剤を抑制することを実現した塗布部を具備した記録装置をおよび塗布装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の記録装置は、記録媒体に塗布剤を塗布する塗布手段と、前記記録媒体に記録を行う記録手段と、を備えた記録装置において、前記塗布手段は、外周面に供給された前記塗布剤を前記記録媒体に塗布する塗布ローラと、前記塗布ローラの外周面に前記塗布剤を供給する多孔質体と、前記塗布ローラの外周面に前記多孔質体を押圧し、且つその押圧力の変更が可能な押圧手段と、を備えることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の塗布装置は、被塗布材に塗布剤を塗布する塗布装置において、外周面に供給された前記塗布剤を前記媒体に塗布する塗布ローラと、前記塗布ローラの外周面に前記塗布剤を供給する多孔質体と、前記塗布ローラの外周面に前記多孔質体を押圧し、且つその押圧力の変更が可能な押圧手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、塗布剤の塗布に用いる多孔質体を、塗布ローラに塗布時よりも強い押圧力で押し付ける。その結果、多孔質体内に含浸されている塗布剤を搾り出すことで、装置の不使用時に塗布剤が外気に触れるのを防止し、塗布剤の増粘や乾燥を防ぎ、塗布剤の粘度を常に好適に維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(第1の実施形態)
以下、図面を参照して本発明の第1の実施形態である記録装置を詳細に説明する。
図2は、本実施形態に係るインクジェット記録装置の画像形成部を示す斜視図である。記録ヘッド205は不図示のノズルを有しており、キャリッジ204に着脱可能に搭載されている。記録ヘッド205は不図示の電気熱変換体を有しており、電気熱変換体が熱エネルギを発生することで、インクを不図示のインク吐出口から吐出させて記録を行う。キャリッジ204は、主走査方向Yと同軸方向の中心軸を有したガイドシャフト203に沿って往復移動する。記録紙、プラスチック薄板等の記録媒体202は、記録ヘッド205のインク吐出口を有する面に対向して平坦な記録面を形成するように、プラテン206により支持される。そして、記録媒体202は紙送りローラ201の回転により副走査方向Xに搬送される。
【0018】
図3は、本実施形態の記録装置の要部を示す断面図である。同図では記録媒体202に対して、記録ヘッド205でインクジェット方式によって記録を行う記録部と、前処理として、記録動作より先に塗布剤110を記録媒体202に塗布するローラ対71A、71B、多孔質体100を含む塗布処理部とを示す。塗布剤110はタンク103内に蓄えられており、供給ポンプ106により供給路102を通って塗布桶101に供給される。そして、塗布桶101から塗布剤110が多孔質体100に供給される。この時に多孔質体100に供給される塗布剤110の量は、最終的に記録媒体202に塗布する量よりも多くなるように供給ポンプ106によって制御している。こうすることで供給ポンプの脈動や、温湿度、塗布剤110の劣化、増粘などによって変動する塗布剤110の供給量の影響が、記録媒体202への塗布量に影響しないようにしている。
【0019】
ここで、タンク103が具備している大気連通弁107は、塗布剤110がタンク103から排出される際に、気液交換を行うためのものである。更に塗布処理部内には、塗布ローラ対71A,71Bがそれぞれ回動可能な状態に具備されている。塗布ローラ71Aには、前述の多孔質体100が押圧されている。これによって多孔質体100に供給された塗布剤110は塗布ローラ71Aに転移される。多孔質体100には前述したように、記録媒体202に塗布する量よりも多くの塗布剤110が供給されていることから、塗布ローラ71Aにも記録媒体202に塗布する量よりも多くの塗布剤110が転移する。この多く転移された塗布剤110は、塗布ローラ71Aへの転移後に塗布ローラ71Aの回転動作に伴って塗布量規制部材109によって適正量まで掻き落とされる。この時に掻き落とされた塗布剤110は外桶105内に滴下して、回収路104を通りタンク103に回収される。なお、この一連の回収時における塗布剤110は、積極的に重力を利用することで、タンク103に回収されるように構成されている。
【0020】
このような構成において、記録媒体202が不図示の給紙カセット等から図中矢印L1方向へ給紙、搬送されて、その搬送過程において塗布剤110が、塗布ローラ71Aと71Bのニップ部によって記録媒体202の記録面に塗布される。塗布ローラ71Aの幅は記録媒体202の幅よりも広くなっている。そのため、塗布ローラ71Aの塗布面において、記録媒体202の幅以外の部分に供給された塗布剤110は、清掃部材108によって掻き落とされる。この際、掻き落とされた塗布剤110も前述の塗布量規制部材109によって掻き落とされた塗布剤110と同様に回収される。
【0021】
その後、記録媒体は、U字パスL2を通過して矢印L3方向へ搬送される。そこで記録部において記録ヘッド205によって記録が行われる。
【0022】
上記のような構成の記録装置において、塗布ローラ71Aは塗布剤110と比較的親和性の高いもので、かつゴミ等の不純物の対しては親和性の低いものが望ましい。そこで、本実施形態においては外形40mmの塗布ローラ71Aに対して、肉厚約5mm、ゴム硬度30°のエピクロルヒドリンゴムが好適であった。
【0023】
また、多孔質体100は、塗布剤110を所定量保持することができ、塗布ローラ71Aとの摩擦に対する耐久性を有し、塗布剤110が酸性であることから、耐薬品性を有するものが好ましい。そこで、本実施形態ではポリプロピレンを発泡させたスポンジを用いた。
【0024】
さらにまた、塗布規制部材109は比較的硬度を有した板状のゴムブレードを用いた。この塗布規制部材109に関しては、ステンレス等の金属板を用いてもよい。清掃部材108にはその機能から、紙粉等のゴミが付着しやすいので、表面をフッ素コートしたゴムブレードを用いた。
【0025】
記録媒体202に塗布する塗布剤110の量については、量が少ない場合にはインクと充分に反応することができずに発色性が悪くなり画質劣化につながる。また逆に、塗布量が多い場合には、塗布後の記録媒体が波打ちしたり、記録直後のインクの乾燥が遅くなったり、更にランニングコストが高くなる等のデメリットがある。そこで、これらを考慮した上で塗布剤110の最適な塗布量を検討した結果、前述した記録装置の構成において記録媒体202に対する最適な塗布量はA4サイズ1枚につき0.1〜0.3gであった。最適な塗布量とは、どの程度画質を追求するかによっても変わる設計的事項であるが、A4サイズ1枚につき0.1g以上の量の塗布剤110を塗布しても、記録結果の出来栄えに大きな変化は見られなかった。そこで、記録媒体への目標塗布量をA4サイズ1枚につき0.2gとした。
【0026】
また、上記構成の記録装置において、動作時に多孔質体100から塗布ローラ71Aへ供給される塗布剤の量は、目標塗布量であるA4サイズ1枚につき0.2gの約5〜10倍に相当する量を供給することが好適であった。
【0027】
また、塗布剤供給部に関しては、記録前と記録後のどちらに配置することも可能だが、本実施形態では記録前に塗布処理を行なう場合について説明した。
【0028】
インクには水を主成分として、ポリマに顔料色材を分散させたものを用いて、前処理用の塗布剤110としては、同じく水を主成分として、硝酸カルシウムを10重量%含有したものを用いた。この塗布剤は、水が主成分となっているため放置することで乾燥して約半分の重量が蒸発する。この塗布剤を、インク受容層を持たない記録媒体(特に普通紙等)に対して塗布処理部にて塗布する。この様に記録表面に塗布剤が塗布された部分に記録部205で記録を行と、インクが不溶化し、定着することでフェザリング・ブリード等の画質向上だけでなく、発色性および擦過性をも向上させることができる。
【0029】
以下に図を用いて本実施形態の記録装置の特徴的な動作について説明する。
図4は、本実施形態の記録装置の要部を示す図であり、多孔質体100と塗布ローラ71Aとを離間させた状態を示す側面図である。また、図5は、多孔質体100と塗布ローラ71Aとが当接し、更に塗布時の押圧力よりも強い押圧力で塗布ローラ71Aに対して押圧した状態を示す側面図である。
【0030】
本実施形態の記録装置は、装置の非作動時に多孔質体100内に残っている塗布剤110が乾燥、蒸発して増粘、固着するのを抑制するため、多孔質体100を、押圧手段115によって、塗布時の押圧力よりも強い力で塗布ローラ71Aに対して押圧する。これによって、多孔質体100の内部に残っている塗布剤110を搾り出す。搾り出された塗布剤110は、塗布桶101から溢れて外桶105内に滴下するか、或いは塗布ローラ71Aに付着する。押圧によって多孔質体100内の塗布剤110を搾り出し、その後図3のように塗布ローラ71Aと多孔質体100を離間させる動作を行う。本実施形態では、多孔質体100を担持している塗布桶101と、塗布涌101に接続されている供給路102と、を押圧手段115によって押圧させることで押圧動作を実現している。この押圧動作は塗布ローラ71Aの回転が停止している状態で実施してもよいが、塗布ローラ71Aが回転している際に押圧動作を行う方が好ましい。こうすることで、搾り出されて塗布ローラ71Aに付着した塗布剤110やニップ部の塗布剤110が清掃部材108によって掻き取られて、塗布ローラ71Aに残留する塗布剤110を極力少なくすることができる。また、この押圧動作を実施するタイミングは、記録動作終了時に実施することが望ましい。こうすることで、多孔質体100とタンク103との間で塗布剤110の循環が頻繁に行われ、高粘度化した塗布剤と未だ高粘度化していない塗布剤とが混合されることで、高粘度化した塗布剤が希釈されて塗布剤の良好な状態を長時間保つことができた。なお、このように高粘度化した塗布剤をタンク103内で希釈することから、タンク103はできるだけ容積の大きいものであることが好ましい。容積が小さい場合には塗布剤110の循環による希釈の効果が減少するからである。
【0031】
(第2の実施形態)
前記実施形態では、最も好適な例として塗布ローラ71A、71Bに供給する塗布剤の量を調節する機能と清掃する機能を有した外桶105を備えた形態を説明したが、必ずしもこの様な外桶が必要なわけではない。本実施形態では、前述した外桶105が無い構成を説明する。
【0032】
図4または図5にあるような外桶105が無い場合の構成について説明する。この場合には、押圧によって塗布桶101から漏れ出した塗布剤110は、塗布部下部に、漏れ出した塗布剤を吸収する部材等を配して廃棄してもよい。この場合、塗布剤110の消費量は多くなるが塗布剤110の増粘により不具合が発生するよりは好ましい。
【0033】
図6は、本実施形態の記録装置の要部を示す図であり、多孔質体100および塗布桶101の位置を、図3に示した塗布ローラ71Aの下部から塗布ローラ71Aの回転方向に90度回転させた位置に配した状態を示す側面図である。
本実施形態では、塗布桶101の多孔質体100の周囲に塗布量規制用のゴム部材111を配し、押圧手段115によって多孔質体100が塗布ローラ71Aに押圧されると、同様にゴム部材111もローラ71Aに密接に当接するように構成されている。この構成において、多孔質体100を塗布ローラ71Aに塗布時の押圧力より強い押圧力で押圧した状態で、供給ポンプ106が作動すると、多孔質体100を含めた塗布桶101内部に負圧が発生する。その負圧によって、タンク103内の塗布剤110が供給路102を通って塗布桶101に供給される。塗布桶101内に塗布剤110が供給されたら、供給ポンプ106の作動を停止させてから押圧力を塗布時の押圧力にする。そして、毛細管力によって塗布桶101に供給された塗布剤110は多孔質体100に吸収される。多孔質体100に吸収された塗布剤110は塗布ローラ71Aに供給される。しかし、この時に供給される塗布剤110の量は多いので塗布ローラ71Aを回転させることによってゴム部材111で余分な塗布剤110は、塗布ローラ71Aから掻き落とされ、適量となった塗布剤110が塗布ローラ71A全体に供給される。所定量の塗布を行い、塗布桶101内の塗布剤110の量が減った場合には、再度供給ポンプ106を作動させて、塗布桶101に塗布剤110を供給する。
【0034】
ゴム部材111で塗布量を調整された塗布剤110は、塗布ローラ71Aとローラ71Bとのニップ部で記録媒体202に塗布されるが、記録媒体202に塗布されずに塗布ローラ71Aに残る塗布剤110もある。この残った塗布剤110は、ほとんどが再度ゴム部材111を通り抜けて多孔質体100に再び吸収される。その際、残った塗布剤110が含んでいる細かな紙粉などは、回転方向に対して多孔質体100の上流側部分に蓄積される。
【0035】
記録装置が所定時間使用されない場合には、以下のようにして多孔質体100内の塗布剤110をタンク103へ回収する。まず、塗布ローラ71Aの回転を停止した状態で、塗布桶101と一体となって多孔質体100が塗布ローラ71Aに塗布時の押圧力より強い押圧力で押圧される。すると多孔質体100に含浸されていた塗布剤110のほとんどは、塗布桶101に戻り、この状態で供給ポンプ106を作動させると、塗布桶101内の塗布剤110は、回収路104を通って供給ポンプ106によってタンク103に回収される。この状態で塗布桶101の、塗布ローラ71Aに対する押圧力を解除すると、塗布ローラ71Aとゴム部材111との離間した隙間から大気がリークして、タンク103から塗布剤110は供給されなくなる。この時大気は多孔質体100を介して流入してくる。したがって多孔質体100内に残留していた塗布剤110も供給ポンプ106によってタンク103に回収されることになる。
【0036】
本実施形態の場合は、この状態で放置するよりも再度塗布ローラ71Aとゴム部材111とを当接させておく状態の方がゴム部材111のキャップ効果が作用し、わずかに残った塗布剤110の乾燥、蒸発等に対し良好であった。
【0037】
このような動作を記録動作終了後に行うことで、塗布剤110の乾燥、蒸発を防止することができ、塗布剤110の増粘による不具合の発生を抑えることができた。
【0038】
なお、構成は複雑になるが、他の構成において、ゴム部材111および塗布桶101を固定した状態で多孔質体100のみ押圧および離間することによって多孔質体100に含浸された塗布剤110を搾り出し、タンク103へ回収することもできる。
【0039】
また、本実施形態におけるゴム部材111の材質は、エラストマ等の弾性体が好適であるが、塗布ローラ71Aに対して押圧した際に、塗布剤110を吸引できる程度の負圧を発生することができる材質であれば他の材質でもよい。
【0040】
また本実施形態では、多孔質体100および塗布桶101の位置を塗布ローラ71Aの下部から、塗布ローラ71Aの回転方向に90度回転させた位置に配したが、これに限定するものではない。つまり、塗布ローラ71Aに多孔質体100を押圧、離間できれば他の位置でもよい。
【0041】
(第3の実施形態)
前記実施形態では、記録装置の動作終了時に常に押圧、離間動作をさせるように説明したが、これに限定するものではない。例えば、一定期間記録装置が使用されない状態を何らかの手段にて検知した場合に、押圧、離間動作を行う。
また、前記第1の実施形態で塗布ローラ71Aが回転している際に押圧動作を行うように説明したが、押圧および離間するだけで、塗布ローラは回転させない。その後、再動作時に回転してから押圧することで、増粘した塗布剤はクリーニング部材に回収される。このようにすることで塗布動作時間を短くすることができる。このように、様々な動作タイミングの適用が考えられる。
【0042】
本実施形態では前記実施形態1において、動作を実行するタイミングを変えて、動作自体の一部(塗布ローラ回転のタイミング)を変更した場合を説明する。
図7は、本実施形態における記録装置の塗布処理部の動作を説明したブロックダイヤグラムである。このブロックダイヤグラムを用いて動作を実行するタイミングと塗布ローラ回転のタイミングを変更した場合について説明する。
【0043】
先ず記録動作を開始し、記録信号が入力されるとタンク103(以下、各符号は図3参照)に具備されている大気連通弁107を開放する。そして供給ポンプ106を始動し、塗布剤110を塗布桶101に対して供給し始める。その後、塗布ローラ対の回転を開始し、多孔質体100から塗布剤110を転移させ易くする。同時に記録媒体に対して当接する塗布ローラ表面を清掃部材108にて清掃される。また、多孔質体100の表面に新しい塗布剤110が充填され始める頃にその多孔質体100を塗布ローラ71Aへ当接する。そのことでもし増粘などした塗布剤が多少当接面に残留していても新たな塗布剤と混合し易くなる。こうして多孔質体100と塗布ローラ71Aとの当接部、および塗布ローラ対のニップ部に新たな塗布剤110が充分に行き渡った時間を見計らって、記録媒体を塗布ローラ対71に給紙する。その後、正常に塗布動作もしくは記録動作が終了すると、その記録装置の待機時間を計測する記録装置もしくはその周辺機器に内蔵されているタイマを起動させる。一方、記録装置は、(引き続き記録信号が来なければ、)終了動作に入る。そこで先ず、大気連通弁107を閉じ、長期放置などによる乾燥を防止し、かつ装置を傾けた際にタンク内の負圧が発生し、極端な漏洩を防止する。次に供給ポンプ106を停止して塗布剤110の多孔質体100に対する供給を停止した後に本発明の特徴である多孔質体100の押圧動作を行う。その後、多孔質体100を離間させ、同時に塗布ローラ対71の回転を停止する。通常は、停止せずに最後にニップしていた個所が清掃部材109を通過するまで回転する方が清掃性の観点からは好ましいが、記録動作終了毎に1回転するとローラおよびゴム部材の耐久性が落ちることおよびユーザがヘッドの交換動作等に移れない等の欠点がある。そのため、通常の記録動作時には最後の清掃動作を行わないようにすることで、上記欠点を解消できる。しかし、記録信号が来ない等で記録装置が長期間放置されるような場合には、塗布ローラ対のみを回転させ、ローラ表層を清掃部材108で清掃することで表層に塗布剤110が固着、増粘することを防止することができる。
【0044】
以上説明した各実施形態によって、塗布ローラに対して多孔質体の押圧、離間を行うことで、多孔質体100内に残留する塗布剤を積極的に減らし、装置不可動時の塗布剤の増粘、固着を抑制することができる。
【0045】
なお、上記全ての実施形態では、説明簡易化のために塗布処理部と記録部とで、記録媒体が一定速度で搬送されるよう説明した。よって上記説明はフルラインタイプの記録装置に好適であるが、これに限定するものではなく、他の方法(シリアルタイプ等)でもよい。
【0046】
また、塗布剤110を含浸した多孔質体100を塗布ローラ71Aに対して、押圧、離間するタイミングは上記実施形態のタイミングに限定するものではなく、予め定められた任意のタイミングで実施してよいし、ユーザが決定してもよい。
【0047】
また、上記の各実施形態において、記録の前に塗布処理を行う所謂前処理の構成について説明したが、これに限定するものではなく、記録の後に塗布処理を行う後処理に適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】従来の記録装置の塗布剤塗布部を示す断面図である。
【図2】本実施形態のインクジェット記録装置の画像形成部を示す斜視図である。
【図3】本実施形態の記録装置の要部を示す断面図である。
【図4】本実施形態の記録装置の要部を示す図で、多孔質体と塗布ローラとを離間させた図である。
【図5】本実施形態の記録装置の要部を示す図で、多孔質体と塗布ローラとが当接した図である。
【図6】本実施形態の記録装置の要部を示す図であり、多孔質体および塗布桶の位置を、変えた状態を示す側面図である。
【図7】本実施形態における記録装置の塗布処理部の動作を説明したブロックダイヤグラムである。
【符号の説明】
【0049】
71A 塗布ローラ
71B 塗布ローラ
100 多孔質体
101 塗布桶
102 供給路
103 タンク
105 外桶
106 供給ポンプ
107 大気連通弁
108 清掃部材
110 塗布剤
111 ゴム部材
115 押圧手段
205 記録ヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体に塗布剤を塗布する塗布手段と、前記記録媒体に記録を行う記録手段と、を備えた記録装置において、
前記塗布手段は、
外周面に供給された前記塗布剤を前記記録媒体に塗布する塗布ローラと、
前記塗布ローラの外周面に前記塗布剤を供給する多孔質体と、
前記塗布ローラの外周面に前記多孔質体を押圧し、且つその押圧力の変更が可能な押圧手段と、
を備えることを特徴とする記録装置。
【請求項2】
前記押圧手段は、前記記録媒体に対する前記塗布剤の塗布が予め定められた時間停止する前に、前記記録媒体に対して前記塗布剤を塗布するときよりも大きな押圧力によって、前記多孔質体を前記塗布ローラの外周面に押圧することを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【請求項3】
前記塗布手段は、前記塗布ローラの外周面に供給された前記塗布剤を回収する回収手段を備えたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の記録装置。
【請求項4】
前記回収手段は、前記塗布ローラの外周面に供給される前記塗布剤の量を規制するための塗布量規制部材と、前記塗布ローラの外周面を清掃する清掃部材と、前記塗布量規制部材および前記清掃部材によって前記塗布ローラの外周面から除去される前記塗布剤を受ける外桶を有することを特徴とする請求項3に記載の記録装置。
【請求項5】
被塗布材に塗布剤を塗布する塗布装置において、
外周面に供給された前記塗布剤を前記媒体に塗布する塗布ローラと、
前記塗布ローラの外周面に前記塗布剤を供給する多孔質体と、
前記塗布ローラの外周面に前記多孔質体を押圧し、且つその押圧力の変更が可能な押圧手段と、
を備えることを特徴とする塗布装置。
【請求項6】
前記押圧手段は、前記被塗布材に対する前記塗布剤の塗布が予め定められた時間停止する前に、前記被塗布材に対して前記塗布剤を塗布するときよりも大きな押圧力によって、前記多孔質体を前記塗布ローラの外周面に押圧することを特徴とする請求項5に記載の塗布装置。
【請求項7】
前記塗布ローラの外周面に供給された前記塗布剤を回収する回収手段を備えた外桶を有していることを特徴とする請求項5に記載の塗布装置。
【請求項8】
前記回収手段は、前記塗布ローラの外周面に供給される前記塗布剤の量を規制するための塗布量規制部材と、前記塗布ローラの外周面を清掃する清掃部材と、前記塗布量規制部材および前記清掃部材によって前記塗布ローラの外周面から除去される前記塗布剤を受ける外桶を有することを特徴とする請求項3に記載の塗布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−301814(P2007−301814A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−131863(P2006−131863)
【出願日】平成18年5月10日(2006.5.10)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】