説明

記録装置

【課題】駆動部の伝達先を切替える駆動伝達切替機構の破損や誤動作を抑制する。
【解決手段】記録装置は、被記録材に液体を吐出する記録ヘッドを搭載し、移動可能に支持されたキャリッジ2と、複数の駆動部と、駆動伝達切替機構10と、キャリッジロック部35と、駆動切替ロック部36と、を有している。駆動部は駆動力を発生する駆動源によって駆動される。駆動伝達切替機構10は駆動源によって駆動される駆動部を切り替える。キャリッジロック部35は、キャリッジ2の移動を規制及び規制解除する。駆動切替ロック部36は、駆動される駆動部の切り替えを規制及び規制解除する。そして、記録装置は、キャリッジロック部35による規制と駆動切替ロック部36による規制とが同期し、キャリッジロック部35による規制解除と駆動切替ロック部36による規制解除とが同期するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機やインクジェットプリンタ等の記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェット記録装置では、コスト低減及び省スペース化を目的として、少ない駆動源で、被記録材の給送や搬送、記録ヘッドの回復動作等の複数の動作を行わせている。そのため、記録装置には、駆動源からの駆動力を複数の駆動部へ切り替えるための駆動伝達切替機構が設けられている。
【0003】
駆動伝達切替機構に駆動力を供給している駆動源と、別の駆動源により駆動力が供給されている別の機構の動作と、を利用して駆動部の切り替えが行われる駆動伝達切替機構が知られている。このような駆動伝達切替機構のうち、別の機構としてキャリッジを用い、キャリッジの移動を利用して駆動部の切替えを行う装置が知られている(特許文献1参照。)。
【0004】
記録装置において、キャリッジは、例えばインクのような液体を吐出して被記録材に記録する記録ヘッドを搭載し、移動可能に設置されている。
【0005】
特許文献1に記載の装置では、駆動源によって駆動される駆動部を切り替える(シフトする)ためにキャリッジの移動を利用している。具体的には、キャリッジは、スイングアームに形成された拘束部材に係合し、スイングアームに設置された歯車をスライドさせることが出来る。これにより、スイングアームに設置された歯車と歯車列との連結を解除することができる(この状態を、「ニュートラル状態」と呼ぶ。)。歯車列は複数設置されており、それぞれの異なる駆動部と連結されている。
【0006】
ニュートラル状態では、駆動源から駆動力を供給することで、スイングアームが回転移動する。この回転によって、歯車を複数の歯車列のうちの目的とする歯車列の位置まで移動させることができる。その後に、キャリッジを再び移動させることにより、歯車を逆方向にスライドさせ、歯車と歯車列とを連結させる。このようにして、駆動源からの駆動力を異なる駆動部へ切り替えることができる。
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の装置では、装置の輸送や大きな振動及び衝撃などの結果、駆動伝達切替機構に誤動作や破損が発生する可能性がある。例えば、歯車の連結及び連結解除の繰り返しによって装置が破損する可能性や、歯車が予期しない歯車列と連結することによって駆動時(又は起動時)に誤動作する可能性もある。
【0008】
駆動伝達切替機構の誤動作や破損を低減するためには、駆動部の切り替えを規制する必要がある。駆動伝達切替機構の切り替え動作を規制する方法としては、電磁式のロックやロック部材及びバネを利用した方法が知られている。
【0009】
また、駆動部を切り替えるためにキャリッジの移動を利用する場合、キャリッジの移動を規制することも、駆動伝達切替機構の誤動作や破損の低減に有効である。キャリッジの移動の規制に関しては、特許文献2にその一例が開示されている。特許文献2では、キャリッジの移動領域へロックレバーを突き出してキャリッジを固定する方法が開示されている。
【特許文献1】特開2005−330105号公報
【特許文献2】特開2002−36604号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
仮に、駆動伝達切替機構による駆動部の切替えを規制する駆動伝達切替機構と、特許文献2に記載のロックレバーを有する記録装置と、を組み合わせた場合、記録装置の部品数が増え、記録装置の構成が複雑化し、記録装置の制御も複雑化するという課題がある。
【0011】
また、キャリッジの移動の規制と、駆動伝達切替機構による駆動部の切替えの規制と、が独立に行われるため、装置の輸送や大きな振動及び衝撃などの結果、駆動伝達切替機構に誤動作や破損が発生する可能性が残される。このような課題は、頻繁にキャリッジの移動の規制が行われる状況下において顕著に表れ得る。
【0012】
本発明の目的は上記背景技術の課題の少なくとも一つを解決できる記録装置を提供することにある。その目的の一例は、駆動部の伝達先を切替える駆動伝達切替の誤動作や破損が低減された装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題の少なくとも1つを解決するため、本発明の記録装置は、被記録材に液体を吐出する記録ヘッドを搭載し、移動可能に支持されたキャリッジと、駆動力を発生する駆動源によって駆動される複数の駆動部と、前記駆動源によって駆動される前記駆動部を切り替える駆動伝達切替機構と、前記キャリッジの移動を規制及び規制解除するキャリッジロック部と、駆動される前記駆動部の切り替えを規制及び規制解除する駆動切替ロック部と、を有し、前記キャリッジロック部による規制と前記駆動切替ロック部による規制とが同期され、前記キャリッジロック部による規制解除と前記駆動切替ロック部による規制解除とが同期されるように構成されている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、駆動部の伝達先を切替える駆動伝達切替機構の破損や誤動作を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0016】
以下では、被記録材として記録用紙及びカセットを取り扱うインクジェット記録装置を例にとって説明するが、本発明は、記録用紙及びカセットに限らず、プラスチックシートや記録ディスクなどの平板状の記録媒体に記録を行う記録装置全般に適用できる。
【0017】
(第1の実施例)
図1は、本発明の一実施例に係る記録装置の概略構成を示す斜視図である。
【0018】
記録装置1は、記録ヘッド3を搭載して移動可能に支持されたキャリッジ2と、給送機構5及びカセット給送機構6と、搬送機構8と、回復ユニット9と、を備えている。
【0019】
記録ヘッド3は、例えばインクのような液体を被記録材に吐出して、被記録材に記録を行う記録手段である。給送機構5は記録用紙やシートなどの被記録材を、記録ヘッド3の液体が吐出される領域(以下、「記録領域」と呼ぶ場合がある。)へ給送する。カセット給送機構6は、例えば普通紙等の被記録材を記録領域へ給送する。また、搬送機構8は、記録領域に給送された被記録材を搬送し、記録装置1の外部に排送する。
【0020】
回復ユニット9は、記録ヘッド3の回復処理(液体吐出性能の維持回復やメンテナンスなどの処理)を行うために設けられている。
【0021】
記録装置1は、駆動源である第1の駆動モータM1、第2の駆動モータM2、及び第3の駆動モータ(不図示)をさらに有している。第1の駆動モータM1の駆動力は、伝動機構4を介してキャリッジ2に供給される。この駆動力により、キャリッジ2は、図中の矢印A及び矢印Bの方向に移動する。
【0022】
駆動源である第2の駆動モータM2は、駆動部である給送機構5、カセット給送機構6、及び回復ユニット9に駆動力を供給する。また、記録装置1は、第2の駆動モータM2の駆動力の伝達先を、給送機構5とカセット給送機構6と回復ユニット9とに切り替えるための駆動伝達切替機構10を備えている。また、第3の駆動モータは搬送機構8を駆動するために設けられている。
【0023】
記録装置1は、給送機構5またはカセット給送機構6によって、被記録材を記録領域に給送する。そして、搬送機構8により被記録材を所定量移動させながら記録ヘッド3によって、被記録材に所定の記録を行う。その後、記録装置1は、搬送機構8により被記録材を排出して、一連の記録動作を終了する。
【0024】
記録ヘッド3に液体を供給する液体貯留部11は、記録ヘッド3が搭載されるキャリッジ2に着脱自在に装着されている。
【0025】
記録ヘッド3は、液体を吐出する微小な吐出口(オリフィス)を有している。また、記録ヘッド3は、流路と、当該流路の一部に設けられたエネルギー作用部と、このエネルギー作用部にある液体を液滴化して吐出するためのエネルギーを発生する吐出エネルギー発生素子と、を有している。エネルギー発生素子としては、例えばピエゾ素子のような電気機械変換体や、発熱抵抗体を有する発熱素子のような電気熱変換体などが挙げられる。電気熱変換体は、液体を加熱、発泡することで、液体を吐出口から吐出させる。
【0026】
熱エネルギーを利用して液体を吐出させる構成の記録ヘッドは、液体を吐出する吐出口を高密度に配置する事が可能であるため、高解像度の画像を被記録材に記録することができる。エネルギー発生素子としては、電気熱変換体を用いることが好ましい。これにより、記録ヘッドのコンパクト化が容易であり、かつ高密度実装化が容易で、さらに製造コストが安価になる。
【0027】
キャリッジ2は、伝動機構4が有する駆動ベルト12の一部に連結されており、ガイドレール15に沿って走査方向(図中の矢印A、B方向)に摺動自在に案内支持されている。そして、キャリッジ2は、第1の駆動モータM1の正回転及び逆回転によってガイドレール15に沿って往復移動する。
【0028】
記録装置本体には、キャリッジ2の移動方向(図中の矢印A,B方向)における位置を示すコードストリップ13が設けられている。本実施例では、コードストリップ13として、所定のピッチで黒色のバーが施されたPETフィルムが使用されている。コードストリップ13の一方はシャーシ14に固着され、他方は不図示のバネで支持されている。
【0029】
記録装置1には、記録ヘッド3の吐出口に対向してプラテン16が設けられている。プラテン16は、記録領域に給送された被記録材を支持するための台である。第1の駆動モータM1の駆動力によって、記録ヘッド3を搭載したキャリッジ2が往復移動されるとともに、記録ヘッド3に記録信号を与えて記録ヘッド3から液体を吐出する。これにより、プラテン16上に搬送された被記録材の全幅にわたって記録が行われる。
【0030】
搬送機構8は、搬送ローラ17を有している。搬送ローラ17は第3の駆動モータによって駆動される。搬送ローラ17にはピンチローラ18が当接されている。ピンチローラ18は、不図示のバネにより搬送ローラ17に付勢されている。被記録材は、搬送ローラ17とピンチローラ18によって圧接された状態で搬送される。ピンチローラ18は、ピンチローラホルダ19によって、回転自在に支持されている。
【0031】
また、搬送ローラ17の一端には、搬送ローラギア20が設置されている。この搬送ローラギア20に、第3の駆動モータの回転駆動力が不図示の中間ギアを介して伝達されることによって、搬送ローラ17が駆動される。
【0032】
また、搬送機構8は、排出ローラ22及び排出ローラギア21を有している。排出ローラギア21は、記録ヘッド3によって画像が形成された被記録材を記録装置1の外部へ排出するための排出ローラ22に固定されている。排出ローラ22は、第3の駆動モータの回転が不図示の中間ギアを介して排出ローラギア21に伝達されることによって駆動される。
【0033】
なお、排出ローラ22には拍車ローラ23が当接しており、不図示のバネにより拍車ローラ23は、排出ローラ22に付勢されている。被記録材は、排出ローラ22と拍車ローラ23とによって圧接された状態で排出される。拍車ローラ23は、拍車ホルダ24に回転自在に支持されている。
【0034】
図2は、キャリッジ2と駆動伝達切替機構10とその周辺の構成とを示す概略斜視図であり、図3は駆動伝達切替機構10の構成を示す概略斜視図である。
【0035】
駆動伝達切替機構10は太陽ギア51と遊星ギア52とを有している。また、駆動伝達切替機構10の周囲には、複数の駆動入力ギアが設けられている。本実施例では、駆動入力ギアとして、給送用ギア41、カセット給送用ギア42、及び回復用ギア43が設けられている。
【0036】
給送用ギア41は駆動部である給送機構5と連結されており、給送機構5に駆動力を伝達するための駆動入力ギアである。カセット給送用ギア42は駆動部であるカセット給送機構6と連結されており、カセット給送機構6に駆動力を伝達するための駆動入力ギアである。回復用ギア43は駆動部である回復ユニット9と連結されており、回復ユニット9に駆動力を伝達するための駆動入力ギアである。
【0037】
太陽ギア51は回転可能に構成されている。太陽ギア51には、不図示の駆動ギア列によって、第2の駆動モータM2の駆動力が伝達される。この駆動力により、太陽ギア51は回転する。
【0038】
遊星アーム53は太陽ギア51の回転中心を中心に回転可能に構成されている。また、遊星ギア52は遊星アーム53に設置されており、遊星アーム53の回転によって太陽ギア51の周りを公転可能に構成されている。
【0039】
太陽ギア51の回転中心及び遊星ギア52の公転中心は同一であり、そこには通し軸57が設けられている。さらに通し軸57には出力クラッチ58bが設けられており、出力クラッチ58bは太陽ギア51の回転とともに回転する。つまり、太陽ギア51の回転の駆動力は、通し軸57を介して出力クラッチ58bに伝達されている。
【0040】
駆動伝達切替機構10には、出力クラッチ58bに対向して、入力クラッチ58aが配置されている。入力クラッチ58aと遊星アーム53とは、一体的に構成されている。また、入力クラッチ58aと出力クラッチ58bとは、互いに対向する面が互いに係合するように構成されている。
【0041】
遊星アーム53と遊星ギア52と入力クラッチ58aとは、通し軸57の長手方向に移動可能に支持されており、一体となって、通し軸57を回転中心とした公転や、通し軸57の長手方向への移動を行う。入力クラッチ58aが通し軸57の長手方向へ移動することで、入力クラッチ58aと出力クラッチ58bとが係合した状態になったり、離間した状態になったりする。
【0042】
駆動伝達切替機構10には、通し軸57の一領域を取り囲むクラッチケース55が設置されており、入力クラッチ58aと出力クラッチ58bと遊星アーム53の一部とは、クラッチケース55の内部に配置されている。通し軸57には、太陽ギア51、遊星アーム53、クラッチケース55、及びクラッチケースバネ56が、この順番に通し軸57に沿って配置されている。クラッチケース55は、クラッチケースバネ56によって遊星アーム53に付勢されている。
【0043】
さらに、クラッチケース55の内部であって、入力クラッチ58aとクラッチケース55との間には、遊星アームバネが設けられている。遊星アームバネ54によって、クラッチケース55は遊星アーム53に付勢されている。
【0044】
クラッチケースバネ56と遊星アームバネ54とのバネ力によって、その他の外力が印加されていない場合、遊星ギア52は太陽ギア51とかみ合うように位置し、かつ出力クラッチ58bと入力クラッチ58aとが離間している(図3に示す状態。)。この位置関係を「遊星アーム固定位置」と呼ぶ。遊星アーム固定位置では、太陽ギア51の回転によって、遊星ギア52が回転(自転)する。
【0045】
さらに、クラッチケース55の外壁には、突起状のクラッチケースレバー55aと、キャリッジ2の移動方向に略垂直に立てられた動作ロック部60と、が形成されている。
【0046】
キャリッジ2が一の方向(図中のA方向)の端部まで移動した場合に、キャリッジ2はクラッチケースレバー55aと接触し、クラッチケースレバー55aをスライドさせる。このとき、一の方向(図中のA方向)と通し軸57の長手方向とが一致しているため、キャリッジ2はクラッチケースバネ56の付勢に打ち勝ちながら、クラッチケース55を一の方向に移動させる。
【0047】
キャリッジ2がクラッチケース55を一の方向に押すと、駆動伝達切替機構10はキャリッジ2の移動方向に押し付けられる。これにより、遊星ギア52がキャリッジの移動方向に移動し、遊星ギア52が太陽ギア51とかみ合わない位置にずれる。このとき、出力クラッチ58bと入力クラッチ58aとが係合するように位置する。この位置関係を「遊星アーム公転位置」と呼ぶ。
【0048】
遊星アーム公転位置では、出力クラッチ58bと入力クラッチ58aが係合しているため、太陽ギア51の回転駆動が出力クラッチ58bを介して、入力クラッチ58aに伝達される。これにより、入力クラッチ58aが回転するとともに遊星ギア52が通し軸57の周りを公転する。
【0049】
上記のように、駆動伝達切替機構10がキャリッジ2によってキャリッジ2の移動方向に押し付けられることによって、遊星ギア52が公転する。ここで、第2の駆動モータM2の回転方向を変えることにより、遊星ギア52の公転方向を変えることができる。
【0050】
また、第2の駆動モータM2は、コードホイール61と第2のエンコーダ62とからなるロータリエンコーダによって、回転量が検出され、制御されている。このように、第2の駆動モータM2の回転量を制御しながら回転させることで、遊星アーム53及び遊星ギア52を、通し軸57を中心とした任意の回転角度に位置合わせすることが可能となる。
【0051】
遊星アーム53の公転によって、遊星ギア52は、駆動入力ギアである給送用ギア41、カセット給送用ギア42、及び回復用ギア43と連結及び離間可能となっている。また、遊星アーム53はいずれの駆動入力ギアとも連結しない場所に位置することも可能である。このようにして、駆動伝達切替機構10は、第2の駆動モータM2の駆動の伝達先を、給送用ギア41、カセット給送用ギア42、及び回復用ギア43に切り替えることが出来る。
【0052】
以降説明のために、遊星ギア52が、給送用ギア41とかみ合っている状態を「給送状態」、カセット給送用ギア42とかみ合っている状態を「カセット給送状態」、回復用ギア43とかみ合っている状態を「ヘッド回復状態」と呼ぶ。また、どの駆動入力ギアともかみ合っていない状態を「ニュートラル状態」と呼ぶ。
【0053】
次に、図4〜7を参照して、上記の各状態における駆動伝達切替機構10について説明する。図4は、ニュートラル状態の駆動伝達切替機構10の模式的斜視図であり、図5は給送状態の駆動伝達切替機構10の模式的斜視図である。さらに、図6は回復状態の駆動伝達切替機構10の模式的斜視図であり、図7はカセット給送状態の駆動伝達切替機構10の模式的斜視図である。
【0054】
遊星ギア52の公転領域の周囲には、記録装置が有する複数の駆動部のうちのそれぞれと連結されている駆動入力ギアが複数配置されている。駆動部は駆動源である駆動モータによって駆動される。
【0055】
記録装置1には、各駆動入力ギアと遊星ギア52とがかみ合う位置に、遊星アーム53を位置決め、固定するための遊星アーム固定軸44が配されている。また、遊星アーム53がどの駆動入力ギアともかみ合わない位置にも、遊星アーム53を固定するための遊星アーム固定軸44が設けられている。
【0056】
遊星ギア52と駆動入力ギアがかみ合った各状態において、遊星アーム53を遊星アーム固定位置にし、遊星ギア52を回転させることで、駆動入力ギアに駆動力を伝達させることが出来る。これにより、各駆動部は駆動力を発生する駆動源によって駆動される。
【0057】
なお、遊星アーム固定位置では遊星アーム53に形成された凹部に遊星アーム固定軸44が嵌まることで、遊星アーム53の回転しないように固定される。また、遊星アーム公転位置では、遊星アーム53と遊星アーム固定軸44とが、遊星アーム固定軸44の長手方向に対して離間しており、遊星アーム53の公転が規制されないように構成されている。各遊星アーム固定軸44は、上記の構成を実現可能な高さに設定されている。
【0058】
本実施例では、全部で4つの遊星アーム固定軸44を設けて、4つの状態に切り替え可能に構成したが、部品配置のスペースが許す限りは、さらに駆動入力ギアの数を増やして、5つ以上の状態に切り替え可能に構成することも可能である。駆動伝達切替機構10が切り替え可能な状態は、2つまたは3つの状態であっても良い。
【0059】
また、記録ヘッド3を搭載するキャリッジ2の記録動作のための往復移動の範囲外(記録領域外)の所定の位置に、回復ユニット9が設置されている。回復ユニット9は、記録ヘッド3の液体吐出性能を維持すると共に、吐出不良が生じた場合にはこれを回復する機能を有している。
【0060】
図8は、回復ユニット9の構成を示す概略斜視図である。回復ユニット9は、記録ヘッド3の液体が吐出される面(以下、「吐出口面」と呼ぶ。)を覆うキャッピング手段25と、記録ヘッド3の吐出口面をふき取り清掃(クリーニング)するワイピング手段26と、が設けられている。
【0061】
そしてキャッピング手段25により記録ヘッド3の吐出口面を覆って密閉した状態(以下、「キャッピング状態」と呼ぶ。)で、キャッピング手段25に接続された吸引手段27を駆動することにより、吐出口から液体を強制的に排出させる吸引回復処理が行われる。このような吸引回復処理によって、記録ヘッド3の吐出口の内部で増粘した液体(例えば増粘インク)や気泡などを排出除去することで、記録ヘッド3の液体吐出性能の維持回復が図られる。また非記録動作時に記録ヘッド3の吐出口面をキャッピング状態にすることで、記録ヘッド3を保護すると共に液体の乾燥を防止する事ができる。
【0062】
ワイピング手段26は、記録ヘッド3の吐出口面に付着した液滴や紙粉等をふき取るためのものであり、キャッピング手段25の近傍に設置されている。キャッピング手段25、ワイピング手段26、及び吸引手段27により、記録ヘッド3の液体吐出性能が正常な状態に保たれる。
【0063】
キャッピング手段25、ワイピング手段26、吸引手段27などの回復手段へ、駆動力を伝達する手段を、図9を参照して説明する。図9は回復ユニット9とその周辺の機構とを示す概略斜視図である。
【0064】
ヘッド回復状態における駆動伝達切替機構10では、第2の駆動モータM2の駆動力が回復用ギア43に伝達されている。回復用ギア43に伝達された駆動力は、第1の中間ギア30aを経て片方向駆動伝達手段32(ワンウェイクラッチギア)に伝えられる。ここで、第1の中間ギア30a及び第2の中間ギア30bは、それぞれ1つのギアであってもよいし、複数のギアからなるギア列であっても良い。
【0065】
更に、第2の駆動モータM2の駆動力は、片方向駆動伝達手段32から第2の中間ギア30bを介してポンプギア31に伝達される。このポンプギア31の回転駆動によって、吸引手段27であるポンプが作動する。
【0066】
ここで片方向駆動伝達手段32には、カム28が固定されている。片方向駆動伝達手段32が一の回転方向(図中のC方向)に回転しているときにはカム28に駆動力が伝達され、他の回転方向(図中のD方向)に回転しているときは空転してカム28に駆動力が伝達されない構成となっている。さらに、片方向駆動伝達手段32が他の回転方向(図中のD方向)に回転しているときに、吸引手段27が作動するように構成されている。これにより、吸引手段27による吸引動作中には、カム28に駆動力が伝達されない。
【0067】
図10は、本実施例の記録装置1が有するロック部材34とその周辺の構成とを示す概略斜視図である。ロック部材34は、キャリッジ2の移動を規制及び規制解除するキャリッジロック部35と、駆動される駆動部の切り替えを規制及び規制解除する駆動切替ロック部36とを有している。そして、ロック部材34は軸38により回動可能に設けられている。
【0068】
図11(a)はキャリッジ2と駆動伝達切替機構10との動作がロック部材34によって規制されている状態における記録装置1の概略側面図ある。また、図11(b)はキャリッジ2と駆動伝達切替機構10との動作がロック部材34によって規制解除されている状態における記録装置1の概略側面図である。
【0069】
ロック部材34は、その一部である接触部39が、上記のカム28と接触している。また、記録装置本体に固定された面である固定面63に、ロック部材34の一端部であるロックバネ37が固定されている。ロック部材34はロックバネ37によって弾性力を受けており、この弾性力によってロック部材34は軸38を中心として一回転方向に付勢されている。
【0070】
この付勢力によって、ロック部材34の接触部39は、カム28に向けて押し付けられている。そして、カム28回転にともなって、カム28と接触部39との接触面の位置(カム28の回転中心から接触面までの距離)が変化することで、ロック部材34は軸38を中心に回動する。したがって、第2の駆動モータM2によってカム28を駆動することで、ロック部材34が駆動される。
【0071】
キャリッジ2の動作が規制されている状態(図11(a)参照。)において、キャリッジロック部35はキャリッジ2の不図示の溝に挿入されている。そして、キャリッジロック部35がキャリッジ2と接触することで、キャリッジの走査方向(矢印A,B方向)への移動が規制される。
【0072】
さらに、キャリッジ2の動作が規制されている状態において、駆動切替ロック部36が駆動伝達切替機構10のスライドを規制するように配置される。具体的には、駆動切替ロック部36が、クラッチケース55に形成されている動作ロック部60に対して、駆動伝達切替機構10のスライド方向の一端側の面に接触して配置される。これにより、駆動伝達切替機構10のスライドが規制される。
【0073】
キャリッジロック部35と駆動切替ロック部36とは、キャリッジ2と駆動伝達切替機構10との動作の規制が上記のロック部材34によって同期することができるように配置されている。すなわち、キャリッジロック部35による規制と駆動切替ロック部36による規制とが同期し、キャリッジロック部35による規制解除と駆動切替ロック部36による規制解除とが同期するように、記録装置1が構成されている。
【0074】
また、カム28を特定の回転角度だけ回転させて、ロック部材34を回動させることで、キャリッジ2と駆動伝達切替機構10との動作を規制解除することができる(図11(b)参照。)この状態において、キャリッジロック部35が、キャリッジ2の上記の溝から退避して、キャリッジ2の移動の規制が解除される。さらに、クラッチケース55に形成されている動作ロック部60から駆動切替ロック部36が退避することにより、駆動伝達切替機構10の動作の規制が解除される。
【0075】
上述したように、吸引手段27による吸引動作中には、カム28に駆動力は伝達されない。したがって、吸引動作中にキャリッジ2が移動の規制が解除されたり、駆動部の切替えの規制が解除されたりすることはない。カム28は一方向に回転可能に構成されており、カム28の回転角度を制御することで、ロック部材34の動作を制御することができる。
【0076】
本実施例に係る記録装置1は、カム28の回転角度を検出する回転角検出手段を有していることが好ましい。これにより、カム28の回転角度を容易に制御することができる。以下では、本実施例で用いられた回転角検出手段の一例について説明する。
【0077】
本実施例における回転角検出手段は、長さの異なる複数のフラグ29が形成された別のカムと、コードホイール61と第2のエンコーダ62からなるロータリエンコーダ(図2参照)と、から構成される。
【0078】
カム28の回転角度の制御及び検知は、以下のように行われる。別のカムの回転にともなってフラグ29が通過する位置に、第1のエンコーダ33が設けられている(図9参照。)。この第1のエンコーダ33によって赤外光の透過の有無を計測することで、フラグ29が赤外線を照射した位置に有るか無いかを検知する。
【0079】
さらに、上記のロータリエンコーダによって、第2の駆動モータM2の回転角度の検出を行う。この回転角度から、赤外線の照射領域に有るフラグ29の長さが判定される。このフラグ29の長さから、カム28の回転角度を検出することができる。このようにして、ロック部材34が、キャリッジと駆動伝達切替手段との動作を規制している状態と規制していない状態とに、容易に制御することができる。
【0080】
なお、上述の制御方法は一例であって、別の制御方法を用いても良い。例えば、カムの回転角度を直接検出する別のロータリエンコーダを、記録装置1に設置しても良い。また、上記のカム28とは別のカムを設置して、キャッピング手段25の上下移動、ワイピング手段26の往復移動、を制御することも好ましい態様の1つである。
【0081】
本構成の記録装置1によれば、キャリッジの移動と、駆動伝達切替機構10の切替動作と、の規制及び規制解除が同期する。したがって、輸送時やその他意図しない状況で発生する大きな振動及び衝撃によって、駆動伝達切替機構10が破損または誤動作することを抑制することができる。
【0082】
また、キャリッジロック部35と駆動切替ロック部36とが同一の駆動制御手段である第2の駆動モータM2で行われているため、同期制御が容易に実現可能である。さらに、第2の駆動モータM2はロック部材34の駆動と駆動部を駆動とを兼ねているため、記録装置1の構成が簡易になる。
【0083】
また、1つのロック部材34によって規制及び規制解除が行われるため、より正確に同期をとることができる。さらに、部品数が少ないため、記録装置1の製造コストの低減及び省スペース化を図ることができ、さらに記録装置1の構成が簡易となる。
【0084】
本実施例に係る記録装置1は、キャッピング状態のときに、キャリッジ2の移動が規制され、さらに駆動部の切り替えが規制された状態になるように制御されていることが好ましい。これにより、記録ヘッド3の吐出口の内部の液体の吸引中において、キャッピング手段25が外れることを防止することができる。
【0085】
また、キャリッジ2に搭載された記録ヘッド3の内部の液体の乾燥や記録ヘッド3の保護を目的とする場合にも、キャッピング状態とすることが好ましい。このとき、キャリッジ2の移動と駆動伝達切替機構10の動作とを規制することが好ましい。この場合、非記録動作時にはキャッピング状態となるため、頻繁にキャリッジ2の移動の規制が行われる。上記の構成における記録装置1では、キャリッジ2の移動規制に同期して駆動部の切り替えの規制を行うことで、頻繁に移動規制される状況においても、駆動伝達切替機構10の誤動作や破損を低減することができる。
【0086】
第1の実施例では、ロック部材34が同一の部材から構成されているが、ロック部材34は複数の部材で構成されていてもよい。また、ロック部材34の動作を行う駆動源について、第1の実施例では第2の駆動モータM2を使用しているが、他の駆動モータを使用していてもよい。
【0087】
以上、本発明の望ましい実施形態について提示し、詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、要旨を逸脱しない限り、さまざまな変更及び修正が可能であることを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明の一実施例に係る記録装置の模式的斜視図である。
【図2】図1の記録装置のキャリッジ、駆動伝達切替機構、及びそれらの周辺の構成を示す概略斜視図である。
【図3】駆動伝達切替機構の概略構成を示す概略斜視図である。
【図4】ニュートラル状態における駆動伝達切替機構を示す概略斜視図である。
【図5】給送状態における駆動伝達切替機構を示す概略斜視図である。
【図6】ヘッド回復状態における駆動伝達切替機構を示す概略斜視図である。
【図7】カセット給送状態における駆動伝達切替機構を示す概略斜視図である。
【図8】記録装置が有する回復ユニットを示す概略斜視図である。
【図9】回復ユニットの伝動機構としてのギア列及びカムを示す概略斜視図である。
【図10】記録装置が有するロック部材とその周辺の構成とを示す概略斜視図である。
【図11】(a)はキャリッジと駆動伝達切替機構との動作が規制されている状態における記録装置の概略側面図であり、(b)はキャリッジと駆動伝達切替機構との動作が規制解除されている状態における記録装置の概略側面図である。
【符号の説明】
【0089】
1 記録装置
2 キャリッジ
10 駆動伝達切替機構
28 カム
29 フラグ
34 ロック部材
35 キャリッジロック部
36 駆動切替ロック部
41 給送用ギア
42 カセット給送用ギア
43 回復用ギア
51 太陽ギア
52 遊星ギア
55 クラッチケース
55a クラッチケースレバー
60 動作ロック部
64 カム
M2 第2の駆動モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被記録材に液体を吐出する記録ヘッドを搭載し、移動可能に支持されたキャリッジと、
駆動力を発生する駆動源によって駆動される複数の駆動部と、
前記駆動源によって駆動される前記駆動部を切り替える駆動伝達切替機構と、
前記キャリッジの移動を規制及び規制解除するキャリッジロック部と、
駆動される前記駆動部の切り替えを規制及び規制解除する駆動切替ロック部と、を有し、
前記キャリッジロック部による規制と前記駆動切替ロック部による規制とが同期され、前記キャリッジロック部による規制解除と前記駆動切替ロック部による規制解除とが同期されるように構成されている、記録装置。
【請求項2】
前記駆動伝達切替機構が前記キャリッジによって前記キャリッジの移動方向に押し付けられることによって、駆動される前記駆動部が切り替えられるように構成されている、請求項1に記載の記録装置。
【請求項3】
前記キャリッジロック部と前記駆動切替ロック部とが同一の駆動制御手段で制御されている、請求項1または2に記載の記録装置。
【請求項4】
前記駆動源が前記駆動制御手段を兼ねている、請求項3に記載の記録装置。
【請求項5】
前記キャリッジロック部と前記駆動切替ロック部とが同一の部材であるロック部材からなる、請求項1から4のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項6】
前記ロック部材は、
前記キャリッジ及び前記駆動伝達切替機構に接触することで、前記キャリッジの移動及び前記駆動部の切り替えを規制する状態と、
前記キャリッジ及び前記駆動伝達切替機構から退避することで、前記キャリッジの移動及び前記駆動部の切り替えを規制解除する状態と、
に切り替え可能に構成されている、請求項5に記載の記録装置。
【請求項7】
前記ロック部材の一部と接触し、前記ロック部材を動作させるカムをさらに有している、請求項6に記載の記録装置。
【請求項8】
前記カムの回転角度を検出する回転角検出手段をさらに有している、請求項7に記載の記録装置。
【請求項9】
前記記録装置は、前記記録ヘッドの液体が吐出される面である吐出口面を覆うキャッピング手段を有しており、
前記キャリッジロック部及び前記駆動切替ロック部は、前記キャッピング手段で前記吐出口面が覆われたキャッピング状態にあるときに、前記キャリッジの移動の規制及び前記駆動部の切り替えの規制を行うように制御されている、請求項1から8のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項10】
前記キャッピング状態において前記記録ヘッドの内部の前記液体を吸引する吸引手段をさらに有しており、
前記複数の駆動部のうちの1つの駆動部が前記吸引手段である、請求項9に記載の記録装置。
【請求項11】
前記駆動伝達切替機構は、軸を中心に公転可能に設置された遊星ギアと、遊星ギアの公転の領域の周囲に配置され、遊星ギアと連結及び離間可能に設置された複数の駆動入力ギアと、を有しており、
前記複数の駆動入力ギアは、それぞれ前記複数の駆動部のうちの1つと連結されている、請求項1から10のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項12】
前記駆動伝達切替機構が前記キャリッジによって前記キャリッジの移動方向に押し付けられることによって、前記遊星ギアが公転するように構成されている、請求項11に記載の記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−46901(P2010−46901A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−212969(P2008−212969)
【出願日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】