説明

記録装置

【課題】コストを抑えたまま、従来の構成よりも、記録ヘッドと記録媒体との近接を精度良く判定できる技術を提供する。
【解決手段】記録媒体と記録ヘッドとの間のインクの吐出方向に沿った距離を検知するセンサと、センサからの出力信号に基づいて記録ヘッドと記録媒体とが近接しているか否かを判定する信号処理手段とを具備する。センサは、発光素子と光を記録媒体に照射して得られる反射光を受光する受光素子とのペアを複数有するとともに、受光素子により受光される反射光の受光量のピークが記録媒体と記録ヘッドとの装置設計上の距離よりも短い距離で発光素子からの光が記録媒体上で反射された場合に得られるように設定される。複数のペアは、発光素子と受光素子とを結ぶ光軸を含む平面が、他のいずれかのペアに含まれる発光素子と受光素子とを結ぶ光軸を含む平面と交差する位置関係を持つように記録ヘッドの吐出口面と平行する平面上に配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録ヘッドからインクを吐出して記録媒体上に画像を記録する記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット方式の記録装置(以下、記録装置と略す)では、記録媒体に対して記録ヘッドからインクを吐出して記録を行なう。このような記録装置の高画質化を妨げる要因の1つとして、記録ヘッドと記録媒体との間の距離(以下、ヘッド−記録媒体間距離と略す)の変動が挙げられる。例えば、厚手と薄手の記録媒体では、ヘッド−記録媒体間距離が変わってくる。
【0003】
このような事態に対処するため、特許文献1には、ヘッド−記録媒体間距離の変動に基づいてインクの吐出タイミングを制御することでインク液滴の記録媒体への着弾位置を補正する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−331315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
記録装置の高画質化のためには、ヘッド−記録媒体間距離を狭小化することが望ましい。狭小化するほど、インクの吐出距離が短くなり、インクの着弾位置の精度を向上させられるためである。
【0006】
しかし、大判サイズの記録媒体(例えば、A2以上のサイズ)に対応した記録装置では、記録媒体の平面性を確保することが困難な場合があり、このような記録媒体のサイズの大きさがヘッド−記録媒体間距離を狭小化するための障壁となることがある。
【0007】
大判サイズに対応した記録装置では、一般に、巻き癖のあるロール紙が記録媒体として使用される。ロール紙では、温度や湿度によって巻き癖とは反対向きの反りが発生する場合もあれば、また、ロール紙がインクを吸収することで収縮が生じ、その表面にボコツキができる場合もある。
【0008】
このような状況において、ヘッド−記録媒体間距離を狭小化しようとすると、記録ヘッドと記録媒体とが擦れてしまう恐れがある。このような擦れが生じてしまうと、記録媒体の表面をインクで汚してしまうため、記録品位を損ねてしまったり、また、記録ヘッドに物理的な損傷を与えてしまったりする。
【0009】
ここで、ヘッド−記録媒体間距離を測定できるのであれば、記録媒体が記録ヘッドに擦れるほど浮き上がっていることを検知可能であると考えられる。しかし、記録装置に通常用いられる光学的センサを測定手段として使用する場合、以下に述べる2つの技術的な課題がある。
【0010】
1つ目には、測定手段の測定レンジである。通常時のヘッド−記録媒体間距離を精度良く測定するには、その距離に適した光学的な構成が必要となる。記録ヘッドと記録媒体が擦れるほどの近接を検知するには、やはりその距離に適した光学的な構成が必要となり、通常時のヘッド−記録媒体間距離を測定する場合と両立することはできない。
【0011】
2つ目には、記録媒体の反射の問題がある。光学的センサでは、記録媒体に向かって光を照射し、その反射光に応じて距離を測定する。記録媒体の反射率がその時々によって異なってくると、測定距離も影響を受ける。つまり、記録前の白紙の状態と記録後とでは反射が異なってくるため、測定された距離の精度に影響を与えてしまう。
【0012】
そのため、測定精度を確保できるのは、記録前の白紙の状態のように状態が限定されてしまう。特に、記録媒体の端部に反りがあるか捲れたような状態では、光学的センサに対して反射面の角度も大きく変化する。
【0013】
ここで、1つの光学的センサでこれら2つの問題を解決しようとすると、高価な変位センサが必要となってしまう。すなわち、直線性の優れたレーザや分解能に優れた受光素子の他、集光用のレンズ等が必要となる。そのため、記録装置の価格に適したセンサの搭載は実質的に不可能であり、コストの掛かる高精度な測定手段でなければ、上記問題を解決することはできない。
【0014】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、コストを抑えたまま、従来の構成よりも、記録ヘッドと記録媒体との近接を精度良く判定できるようにした技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、本発明の一態様は、複数の記録素子を配列した記録ヘッドからインクを吐出させて記録媒体上に画像を記録する記録装置であって、前記記録媒体と前記記録ヘッドとの間の前記インクの吐出方向に沿った距離を検知するセンサと、前記センサからの出力信号に基づいて前記記録ヘッドと前記記録媒体とが近接しているか否かを判定する信号処理手段とを具備し、前記センサは、光を照射する発光素子と該光を前記記録媒体に照射して得られる反射光を受光する受光素子とのペアを複数有するとともに、前記受光素子により受光される前記反射光の受光量のピークが前記インクの吐出方向において前記記録媒体と前記記録ヘッドとの装置設計上の距離よりも短い距離で前記発光素子からの光が前記記録媒体上で反射された場合に得られるように設定され、前記複数のペアは、前記発光素子と前記受光素子とを結ぶ光軸を含む平面が、他のいずれかのペアに含まれる前記発光素子と前記受光素子とを結ぶ光軸を含む平面と交差する位置関係を持つように前記記録ヘッドの吐出口面と平行する平面上に配置されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、コストを抑えたまま、従来の構成よりも、記録ヘッドと記録媒体との近接を精度良く判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施の形態に係わる記録装置30の外観斜視の一例を示す図。
【図2】記録ヘッド20の構成の一例を示す図である。
【図3】近接センサ10の構成の一例を示す図である。
【図4】第1の光学系及び第2の光学系と記録媒体2との位置関係の一例を示す図。
【図5】記録装置30の制御系の構成の一例を示す図。
【図6】信号処理部13の比較処理の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。以下の説明においては、インクジェット記録方式を用いた記録装置を例に挙げて説明する。記録装置は、例えば、記録機能のみを有するシングルファンクションプリンタであっても良いし、また、例えば、記録機能、FAX機能、スキャナ機能等の複数の機能を有するマルチファンクションプリンタであっても良い。また、例えば、カラーフィルタ、電子デバイス、光学デバイス、微小構造物等を所定の記録方式で製造するための製造装置であっても良い。
【0019】
なお、以下の説明において、「記録」とは、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わない。更に人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かも問わず、広く記録媒体上に画像、模様、パターン、構造物等を形成する、又は媒体の加工を行なう場合も表す。
【0020】
また、「記録媒体」とは、一般的な記録装置で用いられる紙のみならず、布、プラスチック・フィルム、金属板、ガラス、セラミックス、樹脂、木材、皮革等、インクを受容可能なものも表す。
【0021】
更に、「インク」とは、上記「記録」の定義と同様広く解釈されるべきものである。従って、記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成又は記録媒体の加工、或いはインクの処理(例えば、記録媒体に付与されるインク中の色剤の凝固または不溶化)に供され得る液体を表す。
【0022】
図1は、本発明の一実施の形態に係わる記録装置の外観斜視の一例を示す図である。なお、ここでは、エンジン部分の機械的な構成要素のみを示し、その他の構成要素については図示を省略する。
【0023】
インクジェット記録装置(以下、記録装置と呼ぶ)30は、インクジェット方式に従ってインクを吐出して記録を行なうインクジェット記録ヘッド(以下、記録ヘッドと呼ぶ)20をキャリッジ1に搭載する。そして、キャリッジ1をガイドシャフト3に沿って主走査方向(矢印A方向:記録媒体の搬送方向と交差する方向)に往復移動させて記録を行なう。
【0024】
プラテン4は、記録の際に必要な記録媒体2の平面保持を行なう。記録ヘッド20から記録媒体2に向けたインクの吐出方向は、矢印C方向(プラテン4の平面と直交する方向:インク吐出方向)となる。プラテン4の両端には、インクの予備吐孔5(5a、5b)が設けられており、インクの予備吐孔5は、記録媒体2にインクを吐出する前に予備的に吐出されたインクを回収する。
【0025】
また、キャリッジ1には、記録ヘッド20の他、近接センサ10も搭載されている。近接センサ10は、矢印C方向に沿った記録媒体2と記録ヘッド20との間の距離を検知する。詳細については後述するが、近接センサ10は、記録媒体2と記録ヘッド20との間の理想的な距離(装置設計上の距離)よりも短い測定レンジに設定されている。
【0026】
記録媒体2は、LFローラ6とピンチローラ7(7a〜7e)とで狭持されており、LFローラ6の回転により搬送される。より具体的には、記録媒体2は、記録ヘッド20に対して矢印B方向に相対移動する。
【0027】
ここで、記録装置30は、記録媒体2をLFローラ6を用いて給紙し、記録位置まで記録媒体2を搬送する。そして、その記録位置において記録ヘッド20から記録媒体2にインクを吐出することで記録を行なう。記録ヘッド20による1回の記録走査が終了すると、LFローラ6が回転し、記録媒体2は、記録ヘッド20の記録幅に対応した量だけ副走査方向(矢印B方向)に搬送される。このような記録走査と搬送動作とを繰り返すことにより、記録媒体2に画像が記録される。
【0028】
図2(a)及び図2(b)を用いて、図1に示す記録ヘッド20の構成について説明する。まず、図2(a)を用いて、矢印C方向側から見た記録ヘッド20の構成について説明する。すなわち、記録媒体2に対して対向する位置に設けられる吐出口面の構成の一例について説明する。
【0029】
記録ヘッド20には、記録素子として、例えば、電気熱変換体(ヒータ)が設けられている。より具体的には、記録ヘッド20には、複数の吐出口が配列されており、各吐出口に対応して電気熱変換体が設けられている。なお、本実施形態においては、インクの吐出方式として、ヒータを用いてインクを吐出する場合について説明するが、これに限定されない。例えば、ピエゾ素子を用いた方式、静電素子を用いた方式、MEMS素子を用いた方式など、様々なインクジェット方式を採用しても良い。
【0030】
ここで、記録ヘッド20には、複数の記録素子が所定方向に配列されることにより記録素子列203(203a〜203f)が形成されている。記録素子列203は、記録ヘッド20の吐出口面上に複数設けられている。記録素子列203a〜203cは、記録素子基板201aに設けられており、記録素子列203d〜203fは、記録素子基板201bに設けられている。記録ヘッド20に損傷を与えるのは、記録媒体2と記録素子列203との擦れである。
【0031】
なお、本実施形態においては、記録素子基板201a及び記録素子基板201bと、記録素子列203a〜203fとは、同一平面上にあると見なして説明する。そのため、記録媒体2と記録素子列203の近接は、記録媒体2と記録素子基板201a及び201bの近接に置き換えて考えることができる。
【0032】
封止剤202aは、記録素子基板201aの周囲を覆い、記録素子基板201aの内部にインクが混入するのを防ぐ役割を果たす。また、封止剤202bは、記録素子基板201bの周囲を覆い、記録素子基板201bの内部にインクが混入するのを防ぐ役割を果たす。封止剤202a及び封止剤202bにより形成される固着部は、記録素子基板201a及び記録素子基板201bから矢印C方向に突出するように形成されている。
【0033】
次に、図2(b)を用いて、矢印B方向側から見た記録ヘッド20の構成について説明する。
【0034】
上述した通り、封止剤202aは、記録素子基板201aを覆い、封止剤202bは、記録素子基板201bを覆う。これら封止剤202の固着部は、それぞれ矢印C方向(インクの吐出方向)に沿って記録媒体側に突出するように形成されている。記録媒体2は、プラテン4に平面保持されるが、図2(a)で説明した通り、プラテン4から矢印C方向に浮き上がることがある。
【0035】
その要因は様々であるが、例えば、大判サイズの記録装置では、記録媒体2として巻き癖のあるロール紙が用いられるため、当該巻き癖に起因してプラテン4から浮き上がることがある。また、ロール紙は、温度や湿度によって巻き癖とは反対向きの反りが発生する場合もあれば、ロール紙がインクを吸収することで収縮が生じて表面にボコツキができる場合もある。
【0036】
近接センサ10は、記録媒体2の浮き上がりに起因して記録ヘッド20と記録媒体2とが所定距離内に近接していることを検知する。近接センサ10が主として検知可能な距離の範囲は、光学的な機構によって決められる。近接センサ10は、矢印C方向(インクの吐出方向)において記録素子基板201a及び201bの表面から封止剤202a及び202bの固着部の先端までの範囲(約、0.2mm程度)を検出可能となるように測定レンジが設定されている。
【0037】
ここで、図3(a)及び図3(b)を用いて、近接センサ10の概略構成について説明する。
【0038】
近接センサ10は、発光素子としての役割を果たす発光ダイオード101(101a、101b)と、受光素子としての役割を果たすフォトトランジスタ102(102a、102b)とのペアを複数有している(本実施形態においては、2組の光学系)。
【0039】
より具体的には、発光ダイオード101a(第1の発光素子)及びフォトトランジスタ(第1の受光素子)102aがペアとなり、第1の光学系(第1のペア)が形成されている。また、発光ダイオード(第2の発光素子)101b及びフォトトランジスタ(第2の受光素子)102bがペアとなり、第2の光学系(第2のペア)が形成されている。
【0040】
ペアとなる発光ダイオード101及びフォトトランジスタ102は、記録媒体2からの正反射光を検知するため、矢印C方向(インクの吐出方向)に対して光軸が等角となるようにそれぞれ配置されている。すなわち、ペアとなる発光ダイオード101及びフォトトランジスタ102は、発光ダイオード101とフォトトランジスタ102とを結ぶ光軸が等角となるように配置されている。
【0041】
絞り103(103a、103b)は、発光ダイオード101から射出される照射光を絞り、記録媒体上に照射される光の光径を小さくする。記録媒体2上に画像が記録された状態では、照射光の反射条件は、記録媒体2上における各位置に応じて大きく変化する。また更に、照射光の反射条件は、インクが付着していない白紙の状態かインクが付着した状態かに応じて、また、付着したインクの濃淡に応じても変化する。絞り103を用いて照射光の光径を小さくすることで、光径によって様々な反射条件が混在することを回避することができる。
【0042】
フォトトランジスタ102(102a、102b)は、絞り104(104a、104b)及びバンドパスフィルタ105(105a、105b)を介して記録媒体2上からの反射光を受光する。絞り104(104a、104b)は、フォトトランジスタ(102a、102b)が受光する光の光径を絞る。より具体的には、記録媒体上からの反射光を覆い、且つ、なるべく当該反射光の光径よりも大きくならないように光を絞る。これは、記録媒体2上の反射光のうち、正反射成分以外をなるべく排除するためである。
【0043】
バンドパスフィルタ105は、フォトトランジスタ102が受ける光の波長を制限する。バンドパスフィルタ105を通過する光の中心波長は、発光ダイオード101の中心波長に合わせて調整される。
【0044】
ここで、発光ダイオード101から発せられた照射光が記録媒体上で反射され、フォトトランジスタ102においてその反射光の受光量のピークが検出される矢印C方向に沿った位置(ピーク位置)は、記録素子基板201の矢印C方向に沿った高さと一致する。すなわち、フォトトランジスタ102の出力信号は、矢印C方向に沿って記録素子基板201a及び201bの位置まで記録媒体2が浮き上がった場合にピーク値(すなわち、極大)となる。
【0045】
ここで、第1の光学系(発光ダイオード101a、フォトトランジスタ102a)及び第2の光学系(発光ダイオード101b及びフォトトランジスタ102b)は、光の中心波長が互いに異なるように構成されている。これは、一方の乱反射成分が他方に与える影響を低減するためである。
【0046】
このような構成を実現するため、本実施形態においては、第1の光学系の発光ダイオード101aから出射される光を赤色(第2の光学系よりも波長の長い光)とする。また、第2の光学系の発光ダイオード101bから出射される光を緑色(第1の光学系よりも波長の短い光)とする。なお、バンドパスフィルタ105a及びバンドパスフィルタ105bを通過する光の中心波長は、それらに合わせて調整すれば良い。それぞれの光学系において使用する中心波長は、上記例示に限られず、適宜変更すれば良い。
【0047】
また、図3(b)に示すように、近接センサ10を矢印C方向(インクの吐出方向)側から見ると、第1の光学系の光軸を含む平面及び第1の光学系の光軸を含む平面は、矢印Cに示すインクの吐出方向と平行となることが分かる。また更に、両光学系の光軸を含む平面は、互いに直交した関係となる。
【0048】
ここで、図4(a)及び図4(b)を用いて、第1の光学系及び第2の光学系と、記録媒体2との位置関係について説明する。
【0049】
図4(a)の場合、記録媒体2は、矢印C方向に沿って、第1の光学系(発光ダイオード101a、フォトトランジスタ102a)のピーク位置にある。しかし、この場合、フォトトランジスタ102aにおいては、記録媒体2の巻癖の影響で記録媒体2からの反射光のうち正反射成分を受光できない。すなわち、第1の光学系では、記録媒体2の近接を検知することができない。
【0050】
ここで、図4(b)は、図4(a)に示す状態にある記録媒体2を、矢印B方向(記録媒体の搬送方向)から見た図である。図4(b)を参照すると、記録媒体2は、矢印C方向に沿って、第2の光学系(発光ダイオード101b、フォトトランジスタ102b)のピーク位置にある。第2の光学系と記録媒体2とが図4(b)に示す位置関係にある場合、ロール紙特有な巻癖があったとしても、第2の光学系のフォトトランジスタ102bは、記録媒体2からの反射光のうち正反射成分を受光することができる。そのため、記録媒体2の浮き上がりが生じている場合に、第1の光学系で近接を検知できなかったとしても、第2の光学系では、記録媒体2の近接を検知できる場合がある。これと同様に、第1の光学系で検知できて第2の光学系では検知できない場合もある。
【0051】
このように本実施形態においては、第1の光学系と第2の光学系とにより記録媒体の近接を検知する。これにより、比較的コストを抑えながら、従来の構成よりも精度良く記録媒体の近接を検知できることになる。
【0052】
次に、図5を用いて、記録装置30における制御系の構成の一例について説明する。ここでは、近接センサ10からの出力信号を処理する構成について説明する。
【0053】
近接センサ10には、上述した通り、第1の光学系40a及び第2の光学系40bが設けられている。近接センサ10のフォトトランジスタ102(102a、102b)からは、信号処理部13に向けて出力信号がそれぞれ出力される。
【0054】
信号処理部13は、近接センサ10からの出力信号を処理して、記録媒体2と記録ヘッド20との近接を示す近接信号を出力する。信号処理部13には、第1の比較回路11aと、第2の比較回路11bと、論理和回路12とが設けられる。
【0055】
第1の比較回路11a及び第2の比較回路11bは、それぞれに対して近接センサ10から入力される出力信号が、所定の閾値を越えているか否かを比較する。より具体的には、近接センサ10からのいずれかの出力信号が所定の閾値を越えている場合、第1の光学系40a及び第2の光学系40bのいずれかにおいて、記録媒体2と記録素子との近接が検知されていることを示す。
【0056】
比較回路11a及び11bからの比較結果としては、近接センサ10からのいずれかの出力信号が所定の閾値を越えている場合に「1」が出力され、そうでない場合に「0」が出力される。論理和回路12においては、第1の比較回路11a及び第2の比較回路11bからの比較結果の論理和をとり、その結果を近接信号として出力する。すなわち、論理和回路12からは、第1の比較回路11a及び第2の比較回路11bからの比較結果の少なくともいずれか一方が「1」であれば、近接していることを示す近接信号(値:1)が出力される。また、比較結果の両方の値が「0」であれば、論理和回路12からは、近接していないことを示す近接信号(値:0)が出力される。
【0057】
ここで、図6(a)及び図6(b)を用いて、信号処理部13の第1の比較回路11a及び第2の比較回路11bの比較処理の一例について説明する。
【0058】
上述した通り、記録媒体2が、記録素子基板201a及び201bの矢印C方向に沿った高さと一致した場合、フォトトランジスタ102(102a、102b)からの出力信号は、ピーク値となる。
【0059】
第1の比較回路11a及び第2の比較回路11bにおいては、これらフォトトランジスタ102からの出力信号が、閾値を越えた場合にオン(値:1)と判定する(すなわち、近接が発生したと判定する)。
【0060】
また、記録済みの記録媒体2では、出力信号の大きさが変化する。白紙の状態では、記録媒体2における反射が強くなり出力信号が大きくなる。逆に、濃度の濃い記録が行なわれた状態では、記録媒体2における反射が弱くなり出力信号が小さくなる。
【0061】
そのため、閾値には、状況に応じた適切な値を設定する必要がある。このような適切な閾値を設定することにより、記録の有無によらず、記録媒体2が矢印C方向に沿った所定位置に浮き上がったことを判定することができる。
【0062】
なお、図6(b)に示すように、いずれかのフォトトランジスタ102(この場合、102b)のみで近接が判定される場合もある。この場合、フォトトランジスタ102aでは、記録媒体2が所定以上に浮き上がっているにもかかわらず、正反射光を受光できておらず、出力信号が閾値に達していない。
【0063】
そのため、フォトトランジスタ102aからの出力信号では、記録媒体2の近接を検知できない。しかし、このような場合であっても、フォトトランジスタ102bにおいて、正反射成分を受光できているため、記録媒体2と記録ヘッド20との近接を検知できることになる。
【0064】
以上説明したように本実施形態によれば、記録媒体と記録ヘッドとの間の装置設計上の距離よりも短い測定レンジを有する第1の光学系と第2の光学系との2組を用いて、記録媒体と記録ヘッドとが所定距離内に近接しているか否かを検知する。
【0065】
そのため、記録媒体の反射面の角度が1組の光学系にとって正反射成分を受光できないような場合であっても、他の組の光学系が正反射成分を受光可能となり、従来の構成よりも、記録ヘッドと記録媒体との近接を精度良く判定できる。
【0066】
また、第1の光学系及び第2の光学系は、第1の光学系の光軸を含む平面と、第2の光学系の光軸を含む平面とがインク吐出方向(矢印C方向:すなわち、光軸方向)から見た場合に直交するように配置されている。そのため、1組の光学系にとって記録媒体の反射面の角度が不利な状態であっても、直交する他の組の光学系が反射面の角度を検知することができる。すなわち、近接検知に際して記録媒体の反射面の角度による影響を低減できるため、近接検知を精度良く行なえることになる。また更に、ある程度の大きさを持った発光素子及び受光素子を用いる場合であっても、直交した位置関係に両光学系を配置するため、省スペース化を図れるので無理なく実装することができる。
【0067】
また、第1の光学系と第2の光学系とにおいては、互いに中心波長の異なる光を用いるため、一方の乱反射成分が他方に与える影響を低減できる。
【0068】
また、第1の光学系及び第2の光学系においては、受光素子(フォトトランジスタ)に入射される光の波長を制限するバンドパスフィルタが設けられているため、それぞれの光学系において互いに乱反射成分が与える影響を低減できる。
【0069】
また、受光素子の出力信号の大きさを所定の閾値と比較する比較回路を用いて受光素子の出力信号をアナログ的に処理せず、オン/オフで処理するため、近接検知に際して反射条件の変化の影響を低減できる。
【0070】
また更に、第1の光学系及び第2の光学系は、発光素子(発光ダイオード)、受光素子(フォトトランジスタ)、バンドパスフィルタ、及びそれらへの絞りから構成されているため、安価な構成となり、コスト面においても優れているといえる。
【0071】
以上が本発明の代表的な実施形態の一例であるが、本発明は、上記及び図面に示す実施形態に限定することなく、その要旨を変更しない範囲内で適宜変形して実施できるものである。
【0072】
例えば、上述した実施形態においては、反射光の受光量のピークを検出できる矢印C方向に沿った位置(ピーク位置)が、記録素子基板201の矢印C方向における位置と一致するように設定する場合について説明した。この場合、近接センサ10からの出力信号がオン(値:1)であれば、記録素子に記録媒体2が接触しており、記録ヘッド20を損傷させるような近接であると判定できる。近接が検知された場合には、例えば、記録動作を停止させて、ユーザに警告を通知するようにしても良い。
【0073】
また、上記ピーク位置は、矢印C方向(インクの吐出方向)に沿った封止剤202a及び202bの固着部の先端に設定するようにしても良い。この場合、記録素子に対して記録媒体2は接触しないが、封止剤202a及び202bの固着部に記録媒体2が接触し、記録媒体2を汚すような近接を判定することができる。近接が検知された場合には、例えば、記録動作を停止させるようにしても良いが、記録動作の停止は、ユーザの判断に委ねても良い。これにより、記録媒体に汚れが付くのを嫌うユーザの場合は、記録動作を停止でき、記録品質よりも生産性を重要視するユーザの場合は、記録動作を続行できる。
【0074】
また、上述した実施形態においては、第1の光学系の光軸を含む平面と、第2の光学系の光軸を含む平面とが矢印C方向から見た場合に直交するように両光学系が設けられている場合について説明したが、両光学系の位置関係はこれに限られない。例えば、両光学系は、両光学系の光軸を含む平面が互いに交差(クロス)するような位置関係で配置されても良い。この場合にも、近接検知に際してある程度の精度を維持できるとともに、また、省スペースを図ることができる。
【0075】
また、上述した実施形態においては、第1の光学系と第2の光学系との2組を用いて、近接検知を行なう場合について説明したが、これに限られず、3組以上の光学系で近接検知を行なうようにしても良い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の記録素子を配列した記録ヘッドからインクを吐出させて記録媒体上に画像を記録する記録装置であって、
前記記録媒体と前記記録ヘッドとの間の前記インクの吐出方向に沿った距離を検知するセンサと、
前記センサからの出力信号に基づいて前記記録ヘッドと前記記録媒体とが近接しているか否かを判定する信号処理手段と
を具備し、
前記センサは、
光を照射する発光素子と該光を前記記録媒体に照射して得られる反射光を受光する受光素子とのペアを複数有するとともに、前記受光素子により受光される前記反射光の受光量のピークが前記インクの吐出方向において前記記録媒体と前記記録ヘッドとの装置設計上の距離よりも短い距離で前記発光素子からの光が前記記録媒体上で反射された場合に得られるように設定され、
前記複数のペアは、
前記発光素子と前記受光素子とを結ぶ光軸を含む平面が、他のいずれかのペアに含まれる前記発光素子と前記受光素子とを結ぶ光軸を含む平面と交差する位置関係を持つように前記記録ヘッドの吐出口面と平行する平面上に配置される
ことを特徴とする記録装置。
【請求項2】
前記複数のペアは、2つのペアであり、
光を照射する第1の発光素子と、前記光を前記記録媒体に照射して得られる反射光を受光する第1の受光素子とを有する第1のペアと、
光を照射する第2の発光素子と、前記光を前記記録媒体に照射して得られる反射光を受光する第2の受光素子とを有する第2のペアと
を具備することを特徴とする請求項1記載の記録装置。
【請求項3】
前記第1の発光素子及び前記第2の発光素子は、異なる中心波長の光を出射する
ことを特徴とする請求項2記載の記録装置。
【請求項4】
前記複数の記録素子は、
前記記録ヘッドの前記吐出口面に形成される記録素子基板に配されており、
前記記録素子基板は、
前記インクの吐出方向に沿って前記記録媒体側に突出するように封止剤の固着部が形成されており、
前記第1のペア及び前記第2のペアは、
前記第1の受光素子及び前記第2の受光素子により受光する前記反射光の受光量のピークが前記インクの吐出方向において一致するように構成されており、
前記インクの吐出方向に沿った前記ピークの位置は、
前記インクの吐出方向に沿った記録素子基板から前記封止剤の固着部の先端までの範囲で設定される
ことを特徴とする請求項2又は3記載の記録装置。
【請求項5】
前記第1のペア及び前記第2のペアは、
それぞれの光軸を含む平面が直交する位置関係となるように配される
ことを特徴とする請求項2から4のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項6】
前記第1のペア及び前記第2のペアは、
前記第1の受光素子及び前記第2の受光素子へ入射する光の波長を制限するためのバンドパスフィルタ
を更に具備することを特徴とする請求項2から5のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項7】
前記信号処理手段は、
前記第1の受光素子及び前記第2の受光素子それぞれからの出力信号と、所定の閾値とを比較し、いずれかの出力信号が前記所定の閾値を越えていれば、前記記録ヘッドと前記記録媒体とが近接していると判定する
ことを特徴とする請求項2から6のいずれか1項に記載の記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−35216(P2013−35216A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−173276(P2011−173276)
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】