試料分析方法
【課題】 設計寸法が0.1μm程度のLSI内部の特定箇所に電圧を直接印加し、デバイス内に生じる現象を観察可能とする。
【解決手段】 荷電粒子ビームを用いて、対象試料の任意の領域を微小試料片に加工、摘出する工程に、摘出した微小試料片72に微細導線30a,30bを取り付ける工程、取り付けた微細導線に電圧を印加する工程を加える。
【解決手段】 荷電粒子ビームを用いて、対象試料の任意の領域を微小試料片に加工、摘出する工程に、摘出した微小試料片72に微細導線30a,30bを取り付ける工程、取り付けた微細導線に電圧を印加する工程を加える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料分析方法に関わり、特に、半導体、電子デバイス材料等の試料を分析する方法、及びその分析のために用いられる試料ホルダに関する。
【背景技術】
【0002】
LSIの故障箇所や動作特性を制約している故障箇所を探し出すためには、LSI内部の電位を直接測定することが必要である。また、探し出した箇所の故障原因を解明することが必要となる。まず、故障箇所を探し出すためには、従来、細い金属プローブを光学顕微鏡で観察しながら内部配線に接触させ、接続しているオシロスコープで波形を観察し、電圧測定を行っていた。この場合、操作に熟練を要するだけでなく、場合によっては、LSIを壊すこともある。また、エミッション顕微鏡法を用い、発光箇所を1μm以下の位置精度で検出し、故障箇所を決定する方法もある。更に、別の従来技術として、走査電子顕微鏡の、試料表面の電位分布を反映する電位コントラストを利用し、電子ビームを電位測定用プローブとして用い、目的の配線にビームを照射、電位波形をサンプリングし、LSIの電気特性を試験する電子ビームテスターがある。上記いずれの場合も、故障箇所及び動作特性を制約している箇所を確定するのみである。
【0003】
そこで、上記従来技術で解析箇所が決定された場合、次に集束イオンビーム(FIB:Focused Ion Beam)法や走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscopy)法を用いて特定解析箇所をより高倍率で観察していた。解析箇所が表面に無い場合や、その断面を観察しないと故障原因が把握できない場合、FIBを用いて、断面が表面に現れるように加工し、SEMやFIBで観察していた。SEMやFIBより、さらに高分解能で観察が必要な場合は、特開平11−135051号公報に記載のように、FIB照射と試料搬送手段によって試料基板から特定箇所の微小試料を分離して薄膜試料を作製し、透過電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscopy)法で観察を行なっていた。
【特許文献1】特開平05−266849号公報
【特許文献2】特開平11−067884号公報
【特許文献3】特開2000−147070号公報
【特許文献4】実願昭50−020479号(実開昭51−101766号)のマイクロフィルム
【特許文献5】特開平05−052721号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術では、光学顕微鏡を用いているため、分解能が低く、LSIの設計寸法が0.1μm程度の配線への対応については配慮されていなかった。上記他の観察法もLSI内部の電位故障箇所を検出するのみで、故障箇所の動作及び構造変化を直接観察することはできなかった。また、正常箇所の動作について直接観察するという点については、考えられていない。また、上記別の従来技術では、解析箇所を特定した後は、特定箇所を、形態観察用の装置で探し出し、観察を行なっており、断面観察が必要な場合には特定箇所を取り出し薄膜加工し観察していたが、試料微小部に電圧を印加しながら、デバイスに発生する現象を直接観察するという点については、配慮されていなかった。
【0005】
本発明の目的は、従来技術では困難であった設計寸法が0.1μm程度のLSI等の試料内部の特定箇所を摘出後し、TEM用試料とし、その試料微小部に電圧を直接印加し、デバイス内の変化、例えば配線に用いている金属の結晶構造の変化や電圧印加時の絶縁膜の耐圧の測定や電圧による変化などを観察可能とする試料分析方法を提供することにある。本発明の他の目的は、LSI等の試料内部の微小部に直接配線し、電圧を印加した際の電流を直接測定することにより、電位故障箇所の検出が可能な試料分析方法を提供することにある。本発明の更に他の目的は、LSI等の試料内部の微小部に直接配線し、電圧を印加する分析を可能にする試料ホルダを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的は、以下の手段により達成される。本発明による試料ホルダは、試料を取り付けた試料台を保持する手段を備え、試料台に取り付けられた試料が荷電粒子線装置の光軸上に位置するように荷電粒子線装置内に装着される試料ホルダにおいて、試料の所定箇所に電圧を印加するための先端が自由に移動できる一対の微細導線を有することを特徴とする。
【0007】
この試料ホルダは、試料ホルダの軸部を通り外部の電源と接続される一対の導線と、一対の導線の端部に一対の微細導線をそれぞれ着脱自在に接続する手段とを備えるものとすることができる。微細導線は、先端の移動自由度を増すため一部がコイル状になっていることが好ましい。
【0008】
本発明による試料分析方法は、試料から微小試料片を摘出する工程と、微小試料片を試料ホルダに固定する工程と、試料ホルダに固定した微小試料片の所定箇所に一対の微細導線を通電可能に取り付ける工程と、一対の微細導線に電圧を印加する工程と、一対の微細導線を介して微小試料片の所定箇所に流れる電流を測定する工程とを含むことを特徴とする。
【0009】
本発明による試料分析方法は、また、試料から微小試料片を摘出する工程と、微小試料片を試料ホルダに固定する工程と、試料ホルダに固定した微小試料片の所定箇所に一対の微細導線を通電可能に取り付ける工程と、一対の微細導線が取り付けられた微小試料片が固定された試料ホルダを荷電粒子線装置に装着する工程と、一対の微細導線を介して微小試料片の所定箇所に電圧を印加しながら、荷電粒子線装置によって、微小試料片の前記所定箇所を観察する工程とを含むことを特徴とする。
【0010】
試料から微小試料片を摘出する工程は、集束イオンビームを用いた加工により試料から微小試料片を摘出する工程であってもよいし、機械加工により試料から微小試料片を摘出する工程であってもよい。荷電粒子線装置は透過電子顕微鏡とすることができ、その場合、微細導線を介して微小試料片の所定箇所に電圧を印加しながら所定箇所の電子線透過像を観察することができ、試料に電圧印加することによって発生する現象を実時間で観察することができる。
【0011】
微小試料片に一対の微細導線を通電可能に取り付ける工程は、微細導線の先端部あるいは微細導線に固定されたチップの先端部を集束イオンビームにより細く加工する工程と、細く加工された微細導線あるいはチップの先端部を微小試料片上の所定位置に移動させる工程と、細く加工された微細導線あるいはチップの先端部を微小試料片上の所定位置に固定する工程とを含むことができる。
【0012】
細く加工された微細導線あるいはチップの先端部を微小試料片上の所定位置に移動させる工程は、集束イオンビーム装置に備えられた3軸(X,Y,Z)駆動可能なマニュピレータ先端部をビームアシストデポジションにより微細導線あるいはチップの一部に固定し、マニュピレータを移動させることにより行うことができる。
【0013】
本発明による試料分析方法は、また、集束イオンビーム装置に備えられた3軸(X,Y,Z)駆動可能なマニュピレータ先端部をビームアシストデポジションにより第1の微細導線あるいは第1の微細導線に固定された第1のチップの一部に固定する工程と、マニュピレータを移動させることにより第1の微細導線あるいは第1のチップの先端部を試料上の所定位置に移動させる工程と、ビームアシストデポジションにより試料中の所定箇所に第1の微細導線あるいは第1のチップの先端部を取り付ける工程と、前記工程を反復して試料中の所定箇所に第2の微細導線あるいは第2の微細導線に固定された第2のチップの先端部を取り付ける工程と、第1の微細導線と第2の導線の間に電圧を印加する工程と、第1の微細導線と第2の微細導線を介して試料に流れる電流を測定する工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、荷電粒子ビーム装置を用いて、デバイスの微小配線部分に直接電圧を印加し、その変化を観察することにより、電圧印加により実デバイスに発生する現象を直接観察することが可能となり、電圧による故障発生のメカニズムを解明可能とし、故障原因の解明が容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明で用いる集束イオンビーム(FIB)装置の一例を示す概略図である。このFIB装置1は、イオン銃2、コンデンサーレンズ3、絞り4、偏向器5、対物レンズ6、試料微動機構7、試料ホルダ8、二次電子検出器9を備える。試料11は、3軸(X、Y、Z)方向に移動可能で、試料装填部が回転可能な試料ホルダ8に装填されている。試料11の移動は、微動制御部12から制御される試料微動機構7によって行われる。コンデンサーレンズ3と対物レンズ6の間には、試料11に入射する集束イオンビーム10を偏向し、走査するための偏向器5が配置されている。偏向器5は加工領域を制御する偏向信号制御部15によって制御され、偏向信号制御部15は、ビーム位置のデータを得るため、CPU16と接続されている。
【0016】
イオン銃2から放出されたイオンビーム10は、コンデンサーレンズ3及び対物レンズ6を通過し、試料ホルダ8に保持された試料11上に収束される。イオンビーム照射によって試料11から発生した二次電子は二次電子検出器9により検出される。二次電子検出器9の検出信号は増幅器13により増幅され、モニター14に入力される。モニター14の画面上のXY位置信号をイオンビーム10の偏向制御と同期させ、二次電子検出器9からの二次電子強度信号によってモニター14の輝度を変調することにより、モニター14上に試料の走査イオン(SIM:scanning ion microscopy)像が表示される。
【0017】
試料ホルダ8の試料支持部近傍には、後述するように、先端を浮かせた状態で2本の微細導線が取り付けられている。FIB装置1の試料室内には3軸(X、Y、Z)方向に移動可能なマニュピレータ20が配置され、マニュピレータ20はマニュピレータ駆動制御部22の制御のもとにマニュピレータ駆動部21によって駆動される。後述するように、微細導線の先端部の移動は、マニュピレータ20を微細導線に固定し、マニュピレータ20を移動することにより行なう。マニュピレータ20の微細導線への固定は、デポジション銃23からタングステン化合物ガスや炭素化合物ガスを吹き付け、イオンビーム10と反応させる、いわゆるイオンビームアシストデポジションにより行う。
【0018】
図2は、本発明による試料ホルダの一例の先端部の概略構成図である。試料ホルダ8は、試料から摘出した微小試料片を装着し、FIB装置内あるいは透過電子顕微鏡等の他の荷電粒子ビーム装置に挿入して観察するために用いられる。試料ホルダ8の試料固定部周辺には、太さ5〜10μm程度のタングステン、銅等からなる微細導線30a,30bを這わせるための溝31が設けてあり、溝31の内壁は、微細導線が接地しないよう絶縁物でコーティングされている。あるいは、溝31の内壁を絶縁物でコーティングする代わりに、先端部及び末端部以外を絶縁物で被覆した微細導線30a,30bを用いてもよい。試料ホルダ8の軸内に設けられたチューブ32a,32b内には、微細導線より太い導線33a,33bが通され、微細導線30a,30bは、この導線33a,33bの先端部にネジ34a,34bで接続される。導線33a,33bの他端部は、試料ホルダ8の末端部から外部に引き出されている。チューブ32a,32bの内壁は絶縁物でコーティングされている。2本の微細導線30a,30bは先端部を自由に動かすことができ、さらに先端部の移動の自由度を上げるため一部をコイル状としている。試料ホルダ8の軸内に設けられた軸内チューブ32a,32bと導線33a,33bの間には、試料ホルダ8を荷電粒子ビーム装置に挿入した時、荷電粒子ビーム装置試料室内及び観察装置室内の真空を保つために、Oリング35a,35bが配されている。あるいは、軸内チューブ32a,32bと導線33a,33bの間は、樹脂等で封止して気密を保ってもよい。
【0019】
図3は、導線33a,33bに微細導線30a,30bの先端部を固定するための構造を示す詳細図である。図3(a)は上面図、図3(b)は側面図である。図示するように、微細導線30a,30bは、導線33a,33bの端部に着脱自在に固定できる構造になっており、交換することができる。試料ホルダ8の軸内のチューブ32a,32bを通る導線33a,33bには、微細導線30a,30bよりも径の太いものが用いられる。導線33a,33bの端部は2分割されており、2分割された根元にネジ24を有する。微細導線30a,30bの2分割された端部の隙間に導線33a,33bの末端を挟み込み、ネジ34a,34bを締めて隙間の間隔を狭めることにより端部を固定する。図4は試料を取り付けた試料台を試料ホルダ8に固定するための試料押さえ40の概略図であり、図4(a)は試料押さえの表面の図、図4(b)は試料ホルダ8に対面する試料押さえの裏面の図、図4(c)は試料押さえの上面図である。
【0020】
試料を取り付けた試料台(図9等参照)は、試料ホルダ8の中央開口部近傍の半円盤状に低くなっている円環状の試料台受け部36(図2参照)に橋渡しをするように載せられ、その上に試料押さえ40を載せて固定する。試料押え40の左右両端41,42及び開口部の周囲部分43はテーパー状になっている。試料押さえ40は、試料押さえバネ38(図2参照)によって試料ホルダ8に固定される。具体的には、試料押え40のテーパー部分41を図2に示した試料ホルダ8の逆テーパー部分37に差込み、試料押えばね38をセットされた試料押え40のところまで移動し、試料押え40のテーパー部分42に載せるようにして試料台を固定する。試料押さえ40が微細導線30a,30bと接する部分あるいは試料押さえ40の裏面44は、微細導線30a,30bが接地しないよう絶縁物でコーティングされている。
【0021】
FIB装置を用いた加工によって微細導線が固定された試料は、その微細導線から試料に電圧を印加して通電電流が測定され、あるいは電流を流したときの試料の状態変化が観察される。試料の測定、観察は、試料に微細導線を取り付けるのに用いたFIB装置内で引き続き行うこともできるし、測定、観察の目的によってはFIB装置によって試料に微細導線を取り付けた後、試料ホルダをFIB装置から取り外して他の荷電粒子ビーム装置、例えば透過電子顕微鏡等に装着して行うこともできる。図1に示したFIB装置1は、試料ホルダ8から引き出された導線33a,33bに電圧を印加する電圧電源18、及び電圧電源を制御する電圧電源制御部19を備えており、微細導線の取り付け加工を行った試料に対して電圧を印加して引き続き測定や観察を行うことができる。
【0022】
図5は、FIB装置あるいは透過電子顕微鏡等の荷電粒子ビーム装置の鏡筒50に装着された試料ホルダ8の微細導線を介して試料に電圧を印加する試料電圧印加部の詳細図である。試料電圧印加部は、試料ホルダ8及び電圧電源18、電圧電源制御部19で構成される。微小試料片は、試料ホルダ8に取り付けられた例えば半円盤状の試料台にタングステンデポジション膜により予め固定されている。試料台は、試料押さえにより試料ホルダ8に固定されている。微小試料片には、2本の微細導線の先端部がタングステンデポジション膜により固定されている。外部に引き出された導線33a,33bの末端部は電圧電源18に接続され、電圧電源18は電圧電源制御部19に接続されている。試料ホルダ8の軸は、荷電粒子ビーム装置内の真空を保つために、周囲にOリング51を備える。
【0023】
次に、本発明による試料分析方法の一例について、図6から図13を用いて順を追って説明する。
(a)予め、LSI試料60の中の特定箇所を光学顕微鏡等で観察し、レーザーマーカを使って、その周辺にマーキング61a〜61dを施す(図6(a))。
(b)試料60を図1に示したFIB装置に導入する。試料60に集束イオンビーム10を照射し、発生する二次電子によるSIM像を観察する。レーザーマーカで付けたマーキング61a〜61dを目印に、SIM像で、特定箇所を探す(図6(b))。
(c)特定箇所の周囲に、集束イオンビーム10で溝62を加工する(図6(c))。
(d)FIB装置に装着されたXYZ方向に稼動可能なマニュピレータ20を、同じくFIB装置に装着されたビームアシストデポジション機能を用いて、タングステン(W)デポジション膜71で特定箇所を含む微小試料片72の端部に接着する(図7(a))。
(e)微小試料片72を元試料60から完全に切り取り、マニュピレータ20ごと持ち上げ退避させる(図7(b))。
【0024】
(f)電圧印加用の微細導線30a,30bを備えた試料ホルダ8に、微小試料片72を固定するための試料台80をセットし、試料押え40で押さえ込み固定する(図8)。試料ホルダ8をFIB装置の中に導入する。微細導線30a,30bの先端部にはタングステン等からなるチップ39a,39bを固定し、チップの先端は予めFIB10によりサブミクロン程度の径になるように加工しておく。チップ39a,39bは必ずしも用いなくともよい。試料台80の形状は、図では直方体としたが、一般には試料ホルダ8の円環状の試料台受け部36(図2参照)に収まる半円盤状の形をしている。
(g)微小試料片72を接着したマニュピレータ20を移動させ、微小試料片72を試料台80にWデポジション膜81a,81bで固定する(図9(a))。
(h)マニュピレータ20を集束イオンビーム10で切り離す(図9(b))。
(i)薄膜化が必要なときは、集束イオンビーム10で試料微小片72を薄膜加工する(図9(c))。
【0025】
(j)試料ホルダ8に取り付けられた微細導線30aの先端に取り付けたチップ39aの根元部分にマニュピレータ20を接触させ、Wデポジション膜82により、微細導線30aにマニュピレータ20を接着する(図10(a))。
(k)チップ39aの先端部分は、FIB10により、直径0.1μm程度に加工し、尖らせておく。チップ12を用いない場合には、微細導線39a自身の先端を直径0.1μm程度に加工し尖らせておく(図10(b))。
(l)マニュピレータ20を駆動し、微細導線30aのチップ39aの先端部を微小試料片72内の配線に接触させ、Wデポジション膜83aにより、チップ39aと微小試料片72内の配線とを接着する(図11(a))。
(m)マニュピレータ20を集束イオンビーム10で切り離す(図11(b))。
【0026】
(n)同様に、試料微小片72の別の配線部分に他方の微細導線30bを、Wデポジション膜83bにより、接着する(図11(c))。その後、集束イオンビーム10を用いてマニュピレータ20を微細導線30bから切り離す。次に、透過電子顕微鏡などの観察装置に微小試料片72を試料ホルダ8ごと搬送し、微細導線30a,30bが取り付けられた導線33a,33bを装置外に置かれた電圧電源に接続する。
(o)その後、電圧電源を制御し、微細導線30a,30bを接触させた試料微小片72の配線部に電圧を印加し、電流を測定しながら、電圧印加により試料片72内の配線部分に発生する現象を観察する(図12)。例えば、デバイス中の金属配線に大電流を通電すると、配線の金属原子が、電子との衝突により移動し押し流されて空洞やクラックを発生させる。この現象は、マイグレーションと呼ばれているが、上記方法により、このような現象を実時間で観察することが可能になる。
【0027】
上記方法で作製した試料72を透過電子顕微鏡に挿入し、その断面を観察する場合を例にとって説明する。図13は、本発明の方法で観察される現象の一例を説明する模式図である。図13(a)は、金属配線91を有した微小試料片90の断面観察例である。金属配線91は、マイグレーション防止用の金属窒化膜92,93などで覆われている。電圧を印加しない状態では、図13(a)に示すように、配線91には空洞やクラックは観察されず、結晶粒94が敷き詰められたように観察され、結晶粒界95には介在物は観察されない。次に、試料90の配線91に電流を流し、マイグレーションの発生現象を観察する。大電流を流すことにより、空洞96やクラックが発生する様子を直接観察し、最終的には、図13(b)に示すように金属窒化膜93を破って金属結晶粒94が溶融し突出する状態や、空洞96が発生するなどの構造変化が実時間で観察される。また、印加電圧を変化させ、マイグレーション発生の電圧依存性を測定する。得られた結果より、マイグレーション発生のメカニズムを解明することが可能となる。
【0028】
上記した観察例では、試料から光学顕微鏡で特定した部位を摘出したが、FIB装置内で、試料の故障箇所の検出を電圧を印加することによって求め、その部位を摘出しても良い。その方法を図14を用いて説明する。
(a)マニュピレータ20を駆動させ、微細導線30aに取り付けたチップ39aの先端部を試料100内の配線に接触させ、Wデポジション膜101により、チップ39aと試料100内の配線を接着する(図14(a))。
(b)チップ39aからマニュピレータ20を集束イオンビームで切り離し、(a)と同様に試料100内の別の配線に、もう一方の微細導線30bに取り付けたチップ39bを接触させ、Wデポジション膜102により接着する(図14(b))。
(c)チップ39bからマニュピレータ20を集束イオンビームで切り離し、電圧電源25を制御し、接触させた配線部に電圧を印加する。電流を測定し、試料100の状態を観察し、解析箇所を決定する。
【0029】
上記動作により、試料100はバルクの状態で、電圧印加時の平面の観察が可能である。また、決定した解析箇所を図6、図7を用いて説明した工程に従って摘出し、さらにその断面方向からの観察も可能である。また、上記実施例では、特定箇所を摘出し、摘出した微小試料片の一部に電圧を印加したが、予め、機械加工などで薄膜化した試料を用い、図10から図12で説明した工程に従い試料配線に電圧を印加して観察してもよい。
【0030】
また、上記の例では、微細導線30a,30bを試料ホルダ8に取り付けているが、FIB装置の試料室内に配置される試料片の近傍に装着してもよい。図15は、試料に電圧を印加するための微細導線を試料室内に設けたFIB装置の試料室の概略図である。
【0031】
このFIB装置は、試料ホルダ110に装着されて試料室内にセットされた試料111の近傍に2本の中空ポート112,113を設けている。それぞれの中空ポート112,113の内部を通して試料111の近傍に微細導線130a,130bが配置されている。FIB装置の試料室120の真空を維持するために、試料室120の壁部を貫通する中空ポート112,113の周囲には、Oリング121を配してある。中空ポート112,113内には微細導線130a,130bより径の太い導線が配置され、図2、図3にて説明したのと同様の構造で微細導線130a,130bは中空ポート内の導線と着脱自在に接続されている。中空ポート112,113の内壁を絶縁物によりコーティングするか、導線を絶縁物によりコーティングすることにより、導線と中空ポートの間の短絡を防止している。各ポート112,113から出た2本の微細導線130a,130bの先端部を試料111に接着しやすいように、ポート112,113の先端部の間隔が決められている。試料111の微小配線には、2本の微細導線130a,130bの先端部が、それぞれ試料111の断面に対し両側からWデポジション銃23を用いたWデポジション膜により固定される。FIB装置の外部に引き出された導線の末端部は電圧電源118に接続され、電圧電源118は電圧電源制御部119に接続されている。
【0032】
上記実施例では、微細導線の先端部に、微細導線と同材料で、微細導線より直径が太い円錐状のチップをつけ、集束イオンビームでチップ先端を直径0.1ミクロン以下に加工して用いたが、円錐状のチップを使用せずに微細導線自体の先端部を集束イオンビームを用いて加工するようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明で用いる集束イオンビーム(FIB)装置の一例を示す概略図。
【図2】本発明による試料ホルダの一例の先端部の概略構成図。
【図3】導線に微細導線の先端部を固定するための接続構造を示す詳細図。
【図4】試料を取り付けた試料台を試料ホルダに固定するための試料押さえの概略図。
【図5】試料電圧印加部の詳細図。
【図6】本発明による試料分析方法の一例を説明する図。
【図7】本発明による試料分析方法の一例を説明する図。
【図8】試料台をセットした試料ホルダの概略図。
【図9】本発明による試料分析方法の一例を説明する図。
【図10】本発明による試料分析方法の一例を説明する図。
【図11】本発明による試料分析方法の一例を説明する図。
【図12】試料微小片の配線部に電圧を印加している状態の説明図。
【図13】本発明の方法で観察される現象の一例を説明する模式図。
【図14】本発明による試料分析方法の他の例を説明する図。
【図15】微細導線を試料室内に設けたFIB装置の試料室の概略図。
【符号の説明】
【0034】
1…FIB装置、2…イオン銃、3…コンデンサーレンズ、4…絞り、5…偏向器、6…対物レンズ、7…試料微動機構、8…試料ホルダ、9…二次電子検出器、10…集束イオンビーム、11…試料、12…微動制御部、14…モニター、15…偏向信号制御部、16…CPU、18…電圧電源、19…電圧電源制御部、20…マニュピレータ、21…マニュピレータ駆動部、22…マニュピレータ駆動制御部、23…デポジション銃、30a,30b…微細導線、31…溝、32a,32b…チューブ、33a,33b…導線、36…試料台受け部、38…試料押さえバネ、39a,39b…チップ、40…試料押え、41,42…テーパー部分、60…LSI試料、61a〜61d…マーキング、72…微小試料片、80…試料台、90…微小試料片、91…金属配線、92,93…金属窒化膜、94…結晶粒、95…結晶粒界、96…空洞、100…試料、110…試料ホルダ、111…試料
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料分析方法に関わり、特に、半導体、電子デバイス材料等の試料を分析する方法、及びその分析のために用いられる試料ホルダに関する。
【背景技術】
【0002】
LSIの故障箇所や動作特性を制約している故障箇所を探し出すためには、LSI内部の電位を直接測定することが必要である。また、探し出した箇所の故障原因を解明することが必要となる。まず、故障箇所を探し出すためには、従来、細い金属プローブを光学顕微鏡で観察しながら内部配線に接触させ、接続しているオシロスコープで波形を観察し、電圧測定を行っていた。この場合、操作に熟練を要するだけでなく、場合によっては、LSIを壊すこともある。また、エミッション顕微鏡法を用い、発光箇所を1μm以下の位置精度で検出し、故障箇所を決定する方法もある。更に、別の従来技術として、走査電子顕微鏡の、試料表面の電位分布を反映する電位コントラストを利用し、電子ビームを電位測定用プローブとして用い、目的の配線にビームを照射、電位波形をサンプリングし、LSIの電気特性を試験する電子ビームテスターがある。上記いずれの場合も、故障箇所及び動作特性を制約している箇所を確定するのみである。
【0003】
そこで、上記従来技術で解析箇所が決定された場合、次に集束イオンビーム(FIB:Focused Ion Beam)法や走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscopy)法を用いて特定解析箇所をより高倍率で観察していた。解析箇所が表面に無い場合や、その断面を観察しないと故障原因が把握できない場合、FIBを用いて、断面が表面に現れるように加工し、SEMやFIBで観察していた。SEMやFIBより、さらに高分解能で観察が必要な場合は、特開平11−135051号公報に記載のように、FIB照射と試料搬送手段によって試料基板から特定箇所の微小試料を分離して薄膜試料を作製し、透過電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscopy)法で観察を行なっていた。
【特許文献1】特開平05−266849号公報
【特許文献2】特開平11−067884号公報
【特許文献3】特開2000−147070号公報
【特許文献4】実願昭50−020479号(実開昭51−101766号)のマイクロフィルム
【特許文献5】特開平05−052721号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術では、光学顕微鏡を用いているため、分解能が低く、LSIの設計寸法が0.1μm程度の配線への対応については配慮されていなかった。上記他の観察法もLSI内部の電位故障箇所を検出するのみで、故障箇所の動作及び構造変化を直接観察することはできなかった。また、正常箇所の動作について直接観察するという点については、考えられていない。また、上記別の従来技術では、解析箇所を特定した後は、特定箇所を、形態観察用の装置で探し出し、観察を行なっており、断面観察が必要な場合には特定箇所を取り出し薄膜加工し観察していたが、試料微小部に電圧を印加しながら、デバイスに発生する現象を直接観察するという点については、配慮されていなかった。
【0005】
本発明の目的は、従来技術では困難であった設計寸法が0.1μm程度のLSI等の試料内部の特定箇所を摘出後し、TEM用試料とし、その試料微小部に電圧を直接印加し、デバイス内の変化、例えば配線に用いている金属の結晶構造の変化や電圧印加時の絶縁膜の耐圧の測定や電圧による変化などを観察可能とする試料分析方法を提供することにある。本発明の他の目的は、LSI等の試料内部の微小部に直接配線し、電圧を印加した際の電流を直接測定することにより、電位故障箇所の検出が可能な試料分析方法を提供することにある。本発明の更に他の目的は、LSI等の試料内部の微小部に直接配線し、電圧を印加する分析を可能にする試料ホルダを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的は、以下の手段により達成される。本発明による試料ホルダは、試料を取り付けた試料台を保持する手段を備え、試料台に取り付けられた試料が荷電粒子線装置の光軸上に位置するように荷電粒子線装置内に装着される試料ホルダにおいて、試料の所定箇所に電圧を印加するための先端が自由に移動できる一対の微細導線を有することを特徴とする。
【0007】
この試料ホルダは、試料ホルダの軸部を通り外部の電源と接続される一対の導線と、一対の導線の端部に一対の微細導線をそれぞれ着脱自在に接続する手段とを備えるものとすることができる。微細導線は、先端の移動自由度を増すため一部がコイル状になっていることが好ましい。
【0008】
本発明による試料分析方法は、試料から微小試料片を摘出する工程と、微小試料片を試料ホルダに固定する工程と、試料ホルダに固定した微小試料片の所定箇所に一対の微細導線を通電可能に取り付ける工程と、一対の微細導線に電圧を印加する工程と、一対の微細導線を介して微小試料片の所定箇所に流れる電流を測定する工程とを含むことを特徴とする。
【0009】
本発明による試料分析方法は、また、試料から微小試料片を摘出する工程と、微小試料片を試料ホルダに固定する工程と、試料ホルダに固定した微小試料片の所定箇所に一対の微細導線を通電可能に取り付ける工程と、一対の微細導線が取り付けられた微小試料片が固定された試料ホルダを荷電粒子線装置に装着する工程と、一対の微細導線を介して微小試料片の所定箇所に電圧を印加しながら、荷電粒子線装置によって、微小試料片の前記所定箇所を観察する工程とを含むことを特徴とする。
【0010】
試料から微小試料片を摘出する工程は、集束イオンビームを用いた加工により試料から微小試料片を摘出する工程であってもよいし、機械加工により試料から微小試料片を摘出する工程であってもよい。荷電粒子線装置は透過電子顕微鏡とすることができ、その場合、微細導線を介して微小試料片の所定箇所に電圧を印加しながら所定箇所の電子線透過像を観察することができ、試料に電圧印加することによって発生する現象を実時間で観察することができる。
【0011】
微小試料片に一対の微細導線を通電可能に取り付ける工程は、微細導線の先端部あるいは微細導線に固定されたチップの先端部を集束イオンビームにより細く加工する工程と、細く加工された微細導線あるいはチップの先端部を微小試料片上の所定位置に移動させる工程と、細く加工された微細導線あるいはチップの先端部を微小試料片上の所定位置に固定する工程とを含むことができる。
【0012】
細く加工された微細導線あるいはチップの先端部を微小試料片上の所定位置に移動させる工程は、集束イオンビーム装置に備えられた3軸(X,Y,Z)駆動可能なマニュピレータ先端部をビームアシストデポジションにより微細導線あるいはチップの一部に固定し、マニュピレータを移動させることにより行うことができる。
【0013】
本発明による試料分析方法は、また、集束イオンビーム装置に備えられた3軸(X,Y,Z)駆動可能なマニュピレータ先端部をビームアシストデポジションにより第1の微細導線あるいは第1の微細導線に固定された第1のチップの一部に固定する工程と、マニュピレータを移動させることにより第1の微細導線あるいは第1のチップの先端部を試料上の所定位置に移動させる工程と、ビームアシストデポジションにより試料中の所定箇所に第1の微細導線あるいは第1のチップの先端部を取り付ける工程と、前記工程を反復して試料中の所定箇所に第2の微細導線あるいは第2の微細導線に固定された第2のチップの先端部を取り付ける工程と、第1の微細導線と第2の導線の間に電圧を印加する工程と、第1の微細導線と第2の微細導線を介して試料に流れる電流を測定する工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、荷電粒子ビーム装置を用いて、デバイスの微小配線部分に直接電圧を印加し、その変化を観察することにより、電圧印加により実デバイスに発生する現象を直接観察することが可能となり、電圧による故障発生のメカニズムを解明可能とし、故障原因の解明が容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明で用いる集束イオンビーム(FIB)装置の一例を示す概略図である。このFIB装置1は、イオン銃2、コンデンサーレンズ3、絞り4、偏向器5、対物レンズ6、試料微動機構7、試料ホルダ8、二次電子検出器9を備える。試料11は、3軸(X、Y、Z)方向に移動可能で、試料装填部が回転可能な試料ホルダ8に装填されている。試料11の移動は、微動制御部12から制御される試料微動機構7によって行われる。コンデンサーレンズ3と対物レンズ6の間には、試料11に入射する集束イオンビーム10を偏向し、走査するための偏向器5が配置されている。偏向器5は加工領域を制御する偏向信号制御部15によって制御され、偏向信号制御部15は、ビーム位置のデータを得るため、CPU16と接続されている。
【0016】
イオン銃2から放出されたイオンビーム10は、コンデンサーレンズ3及び対物レンズ6を通過し、試料ホルダ8に保持された試料11上に収束される。イオンビーム照射によって試料11から発生した二次電子は二次電子検出器9により検出される。二次電子検出器9の検出信号は増幅器13により増幅され、モニター14に入力される。モニター14の画面上のXY位置信号をイオンビーム10の偏向制御と同期させ、二次電子検出器9からの二次電子強度信号によってモニター14の輝度を変調することにより、モニター14上に試料の走査イオン(SIM:scanning ion microscopy)像が表示される。
【0017】
試料ホルダ8の試料支持部近傍には、後述するように、先端を浮かせた状態で2本の微細導線が取り付けられている。FIB装置1の試料室内には3軸(X、Y、Z)方向に移動可能なマニュピレータ20が配置され、マニュピレータ20はマニュピレータ駆動制御部22の制御のもとにマニュピレータ駆動部21によって駆動される。後述するように、微細導線の先端部の移動は、マニュピレータ20を微細導線に固定し、マニュピレータ20を移動することにより行なう。マニュピレータ20の微細導線への固定は、デポジション銃23からタングステン化合物ガスや炭素化合物ガスを吹き付け、イオンビーム10と反応させる、いわゆるイオンビームアシストデポジションにより行う。
【0018】
図2は、本発明による試料ホルダの一例の先端部の概略構成図である。試料ホルダ8は、試料から摘出した微小試料片を装着し、FIB装置内あるいは透過電子顕微鏡等の他の荷電粒子ビーム装置に挿入して観察するために用いられる。試料ホルダ8の試料固定部周辺には、太さ5〜10μm程度のタングステン、銅等からなる微細導線30a,30bを這わせるための溝31が設けてあり、溝31の内壁は、微細導線が接地しないよう絶縁物でコーティングされている。あるいは、溝31の内壁を絶縁物でコーティングする代わりに、先端部及び末端部以外を絶縁物で被覆した微細導線30a,30bを用いてもよい。試料ホルダ8の軸内に設けられたチューブ32a,32b内には、微細導線より太い導線33a,33bが通され、微細導線30a,30bは、この導線33a,33bの先端部にネジ34a,34bで接続される。導線33a,33bの他端部は、試料ホルダ8の末端部から外部に引き出されている。チューブ32a,32bの内壁は絶縁物でコーティングされている。2本の微細導線30a,30bは先端部を自由に動かすことができ、さらに先端部の移動の自由度を上げるため一部をコイル状としている。試料ホルダ8の軸内に設けられた軸内チューブ32a,32bと導線33a,33bの間には、試料ホルダ8を荷電粒子ビーム装置に挿入した時、荷電粒子ビーム装置試料室内及び観察装置室内の真空を保つために、Oリング35a,35bが配されている。あるいは、軸内チューブ32a,32bと導線33a,33bの間は、樹脂等で封止して気密を保ってもよい。
【0019】
図3は、導線33a,33bに微細導線30a,30bの先端部を固定するための構造を示す詳細図である。図3(a)は上面図、図3(b)は側面図である。図示するように、微細導線30a,30bは、導線33a,33bの端部に着脱自在に固定できる構造になっており、交換することができる。試料ホルダ8の軸内のチューブ32a,32bを通る導線33a,33bには、微細導線30a,30bよりも径の太いものが用いられる。導線33a,33bの端部は2分割されており、2分割された根元にネジ24を有する。微細導線30a,30bの2分割された端部の隙間に導線33a,33bの末端を挟み込み、ネジ34a,34bを締めて隙間の間隔を狭めることにより端部を固定する。図4は試料を取り付けた試料台を試料ホルダ8に固定するための試料押さえ40の概略図であり、図4(a)は試料押さえの表面の図、図4(b)は試料ホルダ8に対面する試料押さえの裏面の図、図4(c)は試料押さえの上面図である。
【0020】
試料を取り付けた試料台(図9等参照)は、試料ホルダ8の中央開口部近傍の半円盤状に低くなっている円環状の試料台受け部36(図2参照)に橋渡しをするように載せられ、その上に試料押さえ40を載せて固定する。試料押え40の左右両端41,42及び開口部の周囲部分43はテーパー状になっている。試料押さえ40は、試料押さえバネ38(図2参照)によって試料ホルダ8に固定される。具体的には、試料押え40のテーパー部分41を図2に示した試料ホルダ8の逆テーパー部分37に差込み、試料押えばね38をセットされた試料押え40のところまで移動し、試料押え40のテーパー部分42に載せるようにして試料台を固定する。試料押さえ40が微細導線30a,30bと接する部分あるいは試料押さえ40の裏面44は、微細導線30a,30bが接地しないよう絶縁物でコーティングされている。
【0021】
FIB装置を用いた加工によって微細導線が固定された試料は、その微細導線から試料に電圧を印加して通電電流が測定され、あるいは電流を流したときの試料の状態変化が観察される。試料の測定、観察は、試料に微細導線を取り付けるのに用いたFIB装置内で引き続き行うこともできるし、測定、観察の目的によってはFIB装置によって試料に微細導線を取り付けた後、試料ホルダをFIB装置から取り外して他の荷電粒子ビーム装置、例えば透過電子顕微鏡等に装着して行うこともできる。図1に示したFIB装置1は、試料ホルダ8から引き出された導線33a,33bに電圧を印加する電圧電源18、及び電圧電源を制御する電圧電源制御部19を備えており、微細導線の取り付け加工を行った試料に対して電圧を印加して引き続き測定や観察を行うことができる。
【0022】
図5は、FIB装置あるいは透過電子顕微鏡等の荷電粒子ビーム装置の鏡筒50に装着された試料ホルダ8の微細導線を介して試料に電圧を印加する試料電圧印加部の詳細図である。試料電圧印加部は、試料ホルダ8及び電圧電源18、電圧電源制御部19で構成される。微小試料片は、試料ホルダ8に取り付けられた例えば半円盤状の試料台にタングステンデポジション膜により予め固定されている。試料台は、試料押さえにより試料ホルダ8に固定されている。微小試料片には、2本の微細導線の先端部がタングステンデポジション膜により固定されている。外部に引き出された導線33a,33bの末端部は電圧電源18に接続され、電圧電源18は電圧電源制御部19に接続されている。試料ホルダ8の軸は、荷電粒子ビーム装置内の真空を保つために、周囲にOリング51を備える。
【0023】
次に、本発明による試料分析方法の一例について、図6から図13を用いて順を追って説明する。
(a)予め、LSI試料60の中の特定箇所を光学顕微鏡等で観察し、レーザーマーカを使って、その周辺にマーキング61a〜61dを施す(図6(a))。
(b)試料60を図1に示したFIB装置に導入する。試料60に集束イオンビーム10を照射し、発生する二次電子によるSIM像を観察する。レーザーマーカで付けたマーキング61a〜61dを目印に、SIM像で、特定箇所を探す(図6(b))。
(c)特定箇所の周囲に、集束イオンビーム10で溝62を加工する(図6(c))。
(d)FIB装置に装着されたXYZ方向に稼動可能なマニュピレータ20を、同じくFIB装置に装着されたビームアシストデポジション機能を用いて、タングステン(W)デポジション膜71で特定箇所を含む微小試料片72の端部に接着する(図7(a))。
(e)微小試料片72を元試料60から完全に切り取り、マニュピレータ20ごと持ち上げ退避させる(図7(b))。
【0024】
(f)電圧印加用の微細導線30a,30bを備えた試料ホルダ8に、微小試料片72を固定するための試料台80をセットし、試料押え40で押さえ込み固定する(図8)。試料ホルダ8をFIB装置の中に導入する。微細導線30a,30bの先端部にはタングステン等からなるチップ39a,39bを固定し、チップの先端は予めFIB10によりサブミクロン程度の径になるように加工しておく。チップ39a,39bは必ずしも用いなくともよい。試料台80の形状は、図では直方体としたが、一般には試料ホルダ8の円環状の試料台受け部36(図2参照)に収まる半円盤状の形をしている。
(g)微小試料片72を接着したマニュピレータ20を移動させ、微小試料片72を試料台80にWデポジション膜81a,81bで固定する(図9(a))。
(h)マニュピレータ20を集束イオンビーム10で切り離す(図9(b))。
(i)薄膜化が必要なときは、集束イオンビーム10で試料微小片72を薄膜加工する(図9(c))。
【0025】
(j)試料ホルダ8に取り付けられた微細導線30aの先端に取り付けたチップ39aの根元部分にマニュピレータ20を接触させ、Wデポジション膜82により、微細導線30aにマニュピレータ20を接着する(図10(a))。
(k)チップ39aの先端部分は、FIB10により、直径0.1μm程度に加工し、尖らせておく。チップ12を用いない場合には、微細導線39a自身の先端を直径0.1μm程度に加工し尖らせておく(図10(b))。
(l)マニュピレータ20を駆動し、微細導線30aのチップ39aの先端部を微小試料片72内の配線に接触させ、Wデポジション膜83aにより、チップ39aと微小試料片72内の配線とを接着する(図11(a))。
(m)マニュピレータ20を集束イオンビーム10で切り離す(図11(b))。
【0026】
(n)同様に、試料微小片72の別の配線部分に他方の微細導線30bを、Wデポジション膜83bにより、接着する(図11(c))。その後、集束イオンビーム10を用いてマニュピレータ20を微細導線30bから切り離す。次に、透過電子顕微鏡などの観察装置に微小試料片72を試料ホルダ8ごと搬送し、微細導線30a,30bが取り付けられた導線33a,33bを装置外に置かれた電圧電源に接続する。
(o)その後、電圧電源を制御し、微細導線30a,30bを接触させた試料微小片72の配線部に電圧を印加し、電流を測定しながら、電圧印加により試料片72内の配線部分に発生する現象を観察する(図12)。例えば、デバイス中の金属配線に大電流を通電すると、配線の金属原子が、電子との衝突により移動し押し流されて空洞やクラックを発生させる。この現象は、マイグレーションと呼ばれているが、上記方法により、このような現象を実時間で観察することが可能になる。
【0027】
上記方法で作製した試料72を透過電子顕微鏡に挿入し、その断面を観察する場合を例にとって説明する。図13は、本発明の方法で観察される現象の一例を説明する模式図である。図13(a)は、金属配線91を有した微小試料片90の断面観察例である。金属配線91は、マイグレーション防止用の金属窒化膜92,93などで覆われている。電圧を印加しない状態では、図13(a)に示すように、配線91には空洞やクラックは観察されず、結晶粒94が敷き詰められたように観察され、結晶粒界95には介在物は観察されない。次に、試料90の配線91に電流を流し、マイグレーションの発生現象を観察する。大電流を流すことにより、空洞96やクラックが発生する様子を直接観察し、最終的には、図13(b)に示すように金属窒化膜93を破って金属結晶粒94が溶融し突出する状態や、空洞96が発生するなどの構造変化が実時間で観察される。また、印加電圧を変化させ、マイグレーション発生の電圧依存性を測定する。得られた結果より、マイグレーション発生のメカニズムを解明することが可能となる。
【0028】
上記した観察例では、試料から光学顕微鏡で特定した部位を摘出したが、FIB装置内で、試料の故障箇所の検出を電圧を印加することによって求め、その部位を摘出しても良い。その方法を図14を用いて説明する。
(a)マニュピレータ20を駆動させ、微細導線30aに取り付けたチップ39aの先端部を試料100内の配線に接触させ、Wデポジション膜101により、チップ39aと試料100内の配線を接着する(図14(a))。
(b)チップ39aからマニュピレータ20を集束イオンビームで切り離し、(a)と同様に試料100内の別の配線に、もう一方の微細導線30bに取り付けたチップ39bを接触させ、Wデポジション膜102により接着する(図14(b))。
(c)チップ39bからマニュピレータ20を集束イオンビームで切り離し、電圧電源25を制御し、接触させた配線部に電圧を印加する。電流を測定し、試料100の状態を観察し、解析箇所を決定する。
【0029】
上記動作により、試料100はバルクの状態で、電圧印加時の平面の観察が可能である。また、決定した解析箇所を図6、図7を用いて説明した工程に従って摘出し、さらにその断面方向からの観察も可能である。また、上記実施例では、特定箇所を摘出し、摘出した微小試料片の一部に電圧を印加したが、予め、機械加工などで薄膜化した試料を用い、図10から図12で説明した工程に従い試料配線に電圧を印加して観察してもよい。
【0030】
また、上記の例では、微細導線30a,30bを試料ホルダ8に取り付けているが、FIB装置の試料室内に配置される試料片の近傍に装着してもよい。図15は、試料に電圧を印加するための微細導線を試料室内に設けたFIB装置の試料室の概略図である。
【0031】
このFIB装置は、試料ホルダ110に装着されて試料室内にセットされた試料111の近傍に2本の中空ポート112,113を設けている。それぞれの中空ポート112,113の内部を通して試料111の近傍に微細導線130a,130bが配置されている。FIB装置の試料室120の真空を維持するために、試料室120の壁部を貫通する中空ポート112,113の周囲には、Oリング121を配してある。中空ポート112,113内には微細導線130a,130bより径の太い導線が配置され、図2、図3にて説明したのと同様の構造で微細導線130a,130bは中空ポート内の導線と着脱自在に接続されている。中空ポート112,113の内壁を絶縁物によりコーティングするか、導線を絶縁物によりコーティングすることにより、導線と中空ポートの間の短絡を防止している。各ポート112,113から出た2本の微細導線130a,130bの先端部を試料111に接着しやすいように、ポート112,113の先端部の間隔が決められている。試料111の微小配線には、2本の微細導線130a,130bの先端部が、それぞれ試料111の断面に対し両側からWデポジション銃23を用いたWデポジション膜により固定される。FIB装置の外部に引き出された導線の末端部は電圧電源118に接続され、電圧電源118は電圧電源制御部119に接続されている。
【0032】
上記実施例では、微細導線の先端部に、微細導線と同材料で、微細導線より直径が太い円錐状のチップをつけ、集束イオンビームでチップ先端を直径0.1ミクロン以下に加工して用いたが、円錐状のチップを使用せずに微細導線自体の先端部を集束イオンビームを用いて加工するようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明で用いる集束イオンビーム(FIB)装置の一例を示す概略図。
【図2】本発明による試料ホルダの一例の先端部の概略構成図。
【図3】導線に微細導線の先端部を固定するための接続構造を示す詳細図。
【図4】試料を取り付けた試料台を試料ホルダに固定するための試料押さえの概略図。
【図5】試料電圧印加部の詳細図。
【図6】本発明による試料分析方法の一例を説明する図。
【図7】本発明による試料分析方法の一例を説明する図。
【図8】試料台をセットした試料ホルダの概略図。
【図9】本発明による試料分析方法の一例を説明する図。
【図10】本発明による試料分析方法の一例を説明する図。
【図11】本発明による試料分析方法の一例を説明する図。
【図12】試料微小片の配線部に電圧を印加している状態の説明図。
【図13】本発明の方法で観察される現象の一例を説明する模式図。
【図14】本発明による試料分析方法の他の例を説明する図。
【図15】微細導線を試料室内に設けたFIB装置の試料室の概略図。
【符号の説明】
【0034】
1…FIB装置、2…イオン銃、3…コンデンサーレンズ、4…絞り、5…偏向器、6…対物レンズ、7…試料微動機構、8…試料ホルダ、9…二次電子検出器、10…集束イオンビーム、11…試料、12…微動制御部、14…モニター、15…偏向信号制御部、16…CPU、18…電圧電源、19…電圧電源制御部、20…マニュピレータ、21…マニュピレータ駆動部、22…マニュピレータ駆動制御部、23…デポジション銃、30a,30b…微細導線、31…溝、32a,32b…チューブ、33a,33b…導線、36…試料台受け部、38…試料押さえバネ、39a,39b…チップ、40…試料押え、41,42…テーパー部分、60…LSI試料、61a〜61d…マーキング、72…微小試料片、80…試料台、90…微小試料片、91…金属配線、92,93…金属窒化膜、94…結晶粒、95…結晶粒界、96…空洞、100…試料、110…試料ホルダ、111…試料
【特許請求の範囲】
【請求項1】
集束イオンビームを用いた加工により試料から微小試料片を摘出し、
前記微小試料片を試料ホルダに固定し、
前記微小試料片の所定箇所に微細導線を通電可能に取り付け、
前記微細導線を介して前記微小試料片の前記所定箇所に電圧を印加し、
前記微小試料片の構造変化を透過電子顕微鏡によって観察する試料分析方法。
【請求項2】
請求項1記載の試料分析方法において、前記微小試料片に前記微細導線を通電可能に取り付ける工程は、前記微細導線の先端部あるいは前記微細導線に固定されたチップの先端部を集束イオンビームにより細く加工する工程と、細く加工された前記微細導線あるいはチップの先端部を前記微小試料片上の所定位置に移動させる工程と、細く加工された前記微細導線あるいはチップの先端部を前記微小試料片上の所定位置に固定する工程とを含むことを特徴とする試料分析方法。
【請求項3】
請求項2記載の試料分析方法において、細く加工された前記微細導線あるいはチップの先端部を前記微小試料片上の所定位置に移動させる工程は、集束イオンビーム装置に備えられた3軸(X,Y,Z)駆動可能なマニュピレータ先端部をビームアシストデポジションにより前記微細導線あるいはチップの一部に固定し、前記マニュピレータを移動させることにより行うことを特徴とする試料分析方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項記載の試料分析方法において、透過電子顕微鏡又は透過走査電子顕微鏡を備えた集束イオンビーム装置を用いることを特徴とする試料分析方法。
【請求項5】
請求項1記載の試料分析方法において、前記微小試料片の構造変化はマイグレーションであることを特徴とする試料分析方法。
【請求項6】
請求項1記載の試料分析方法において、前記微小試料片の構造変化は空洞又はクラックの発生であることを特徴とする試料分析方法。
【請求項1】
集束イオンビームを用いた加工により試料から微小試料片を摘出し、
前記微小試料片を試料ホルダに固定し、
前記微小試料片の所定箇所に微細導線を通電可能に取り付け、
前記微細導線を介して前記微小試料片の前記所定箇所に電圧を印加し、
前記微小試料片の構造変化を透過電子顕微鏡によって観察する試料分析方法。
【請求項2】
請求項1記載の試料分析方法において、前記微小試料片に前記微細導線を通電可能に取り付ける工程は、前記微細導線の先端部あるいは前記微細導線に固定されたチップの先端部を集束イオンビームにより細く加工する工程と、細く加工された前記微細導線あるいはチップの先端部を前記微小試料片上の所定位置に移動させる工程と、細く加工された前記微細導線あるいはチップの先端部を前記微小試料片上の所定位置に固定する工程とを含むことを特徴とする試料分析方法。
【請求項3】
請求項2記載の試料分析方法において、細く加工された前記微細導線あるいはチップの先端部を前記微小試料片上の所定位置に移動させる工程は、集束イオンビーム装置に備えられた3軸(X,Y,Z)駆動可能なマニュピレータ先端部をビームアシストデポジションにより前記微細導線あるいはチップの一部に固定し、前記マニュピレータを移動させることにより行うことを特徴とする試料分析方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項記載の試料分析方法において、透過電子顕微鏡又は透過走査電子顕微鏡を備えた集束イオンビーム装置を用いることを特徴とする試料分析方法。
【請求項5】
請求項1記載の試料分析方法において、前記微小試料片の構造変化はマイグレーションであることを特徴とする試料分析方法。
【請求項6】
請求項1記載の試料分析方法において、前記微小試料片の構造変化は空洞又はクラックの発生であることを特徴とする試料分析方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2007−279070(P2007−279070A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−190890(P2007−190890)
【出願日】平成19年7月23日(2007.7.23)
【分割の表示】特願2001−223167(P2001−223167)の分割
【原出願日】平成13年7月24日(2001.7.24)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000233550)株式会社日立ハイテクサイエンスシステムズ (112)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年7月23日(2007.7.23)
【分割の表示】特願2001−223167(P2001−223167)の分割
【原出願日】平成13年7月24日(2001.7.24)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000233550)株式会社日立ハイテクサイエンスシステムズ (112)
【Fターム(参考)】
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