説明

認証装置および携帯電話機

【課題】認証に係るユーザの負担を小さくして生体認証を行う。
【解決手段】鼓膜130の振動に影響しやすい或いは影響しにくい周波数や、これによる音圧の低下量は鼓膜130の形状や寸法等の性質に依存するし、参照音の反射波においてもユーザの耳穴の寸法や形状に依存して複雑な進行方向を辿ることになる。このような理由から、参照音の反射波の周波数特性は、極めてユーザの固有性の高い生体情報であるといえる。よって、携帯電話機は、所定の参照音を耳100に放音し、反射音の周波数特性を認証情報として用いて、両者の一致度に基づいてユーザ認証を行う。これにより、ユーザは携帯電話機を自身の耳に当てるだけで生体情報を入力することができるから、認証に係るユーザの負担を小さくして生体認証を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体認証に関する。
【背景技術】
【0002】
指紋や声紋等の生体認証システムにあっては、ユーザ固有の生体情報を用いるという点でセキュリティの面で優れている反面、システム構成が複雑化してしまうとともに、その導入において高コストを要してしまうという短所もある。ところで、センサ等の技術分野では、特定の物理量を検出するために、その利用のしやすさから音波を用いたものも多く、生体認証においてもこれを利用することができれば、生体認証システムの構成を簡素化させる効果を期待することができる。特許文献1には、音波を対象物に送信し、その反射波を検出して対象物の材質を判定することが開示されている。
【特許文献1】特開2005−98744号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
生体認証に際してユーザには生体情報を入力するという負担が強いられ、この入力動作が煩わしいことがあるから、認証に係る煩雑な動作をユーザが行わなくて済めば便利である。
そこで、本発明は、認証に係るユーザの負担を小さくして生体認証を行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上述した課題を解決するため、本発明の第1の構成の認証装置は、ユーザの耳が当てられる受音領域に設けられた放音手段と、前記受音領域に設けられた収音手段と、前記放音手段に所定の参照音を放音させる放音制御手段と、ユーザの耳穴に前記参照音が放音されたときの、当該参照音の反射音の特徴を記憶する記憶手段と、前記放音手段により放音された前記参照音の反射音として前記収音手段により収音された音の特徴と、前記記憶手段に記憶された前記反射音の特徴とを照合して、ユーザを認証する認証手段とを備えることを特徴とする認証装置を提供する。
【0005】
本発明の第2の構成の認証装置は、上記第1の構成の認証装置において、前記記憶手段は、前記反射音の特徴として周波数成分を記憶し、前記認証手段は、前記収音手段により収音された前記反射音の周波数成分と、前記記憶手段に記憶された前記反射音の周波数成分とを照合することを特徴とする。
【0006】
本発明の第3の構成の認証装置は、上記第1又は2の構成の認証装置において、前記放音制御手段は、前記放音手段に複数の前記参照音を放音させ、前記認証手段は、複数の前記参照音の各々の反射音に基づいてユーザを認証することを特徴とする。
【0007】
本発明の第4の構成の携帯電話機は、上記第1〜3のいずれか1の構成の認証装置と、無線による送受信を行う通信手段と、前記収音手段とは異なる収音手段であって、前記受音領域以外の領域に設けられた第2の収音手段と、前記通信手段により受信した音声データに応じた音を前記放音手段に放音させ、前記第2の収音手段により収音した音に応じた音声データを前記通信手段から送信させる制御手段とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、認証に係るユーザの負担を小さくして生体認証を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
次に、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下で述べる「携帯電話機」は、法令上の携帯電話機に限らず、これと同等の機能を有するPHS(Personal Handyphone System;登録商標)等の電話機も含み、ユーザが携帯可能で、無線通信を利用して送受信を行う電話機全体を指すものとする。
(1)構成
図1は、携帯電話機10の外観を示した図である。
携帯電話機10は、複数のボタンからなる操作部13や、各種情報を表示する表示部14を本体前面に有し、また、他の通信機との間でデータを遣り取りするためのアンテナ16を有する。また、表示部14の上方側には受音領域30が設けられている。ユーザは、通話相手の話声等の音声を聴くときには、受音領域30に自身の耳100を当てる。この受音領域30には、図1に示す位置の筐体内部にスピーカ18が設けられており、ユーザはこのスピーカ18近傍に耳を当てることになる。ユーザは、スピーカ18により放音され、携帯電話機10の筐体に設けられた複数の孔を介して伝搬する音声を聞き取る。また、受音領域30には、図1に示す位置の筐体内部に認証用マイクロホン20が設けられ、認証用マイクロホン20は、上記複数の孔とは別の孔を介して伝搬する外部音を収音する。認証用マイクロホン20について詳しくは後述する。また、操作部13の下方側には送音領域40が設けられ、ユーザが携帯電話機10を利用するときには、送音領域40はユーザの口元近くに位置する。この送音領域40には、携帯電話機10の筐体内部に通話用マイクロホン19が設けられている。ユーザの発話音等の音声は、この通話用マイクロホン19によって収音され、相手方の電話機等へと送られる。
【0010】
図2は、携帯電話機10の構成を示すブロック図である。同図に示すように、携帯電話機10は、制御部11と、記憶部12と、操作部13と、表示部14と、通信部15と、アンテナ16と、音声処理部17と、スピーカ18と、通話用マイクロホン19と、認証用マイクロホン20とを備えている。
制御部11は、例えばCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)を備えており、携帯電話機10の各部を制御する。ROMには、CPUが各種制御を実行するための制御プログラムが記憶されており、CPUは、ROMや記憶部12に記憶された制御プログラムに基づいて、RAMをワークエリアとして各種制御を行う。
【0011】
記憶部12は、例えばEEPROM(Electrically Erasable and Programmable Read Only Memory)又はフラッシュメモリであり、制御部11によって実行される処理の手順が記述されたプログラム等の各種情報が記憶されている。また、記憶部12には、携帯電話機10の所有者に対応する認証情報として、認証用周波数特性FU(周波数成分)を表すデータが記憶されている。この認証用周波数特性FUは、図3に示すような周波数特性を示すものであり、携帯電話機10が実行する認証処理で用いられる。認証用周波数特性FUについて詳しくは後述するが、ユーザの耳穴に後述する参照音が放音されたときの、この参照音の反射音の特徴を表すものである。
操作部13は、例えば「0」から「9」までのテンキーや、電話番号等を発信する発信ボタン等を備えており、ユーザによる操作に応じた操作信号を制御部11に供給する。制御部11は、この操作信号に基づき、ユーザの操作によって指示された内容を判断して、その判断結果に応じた制御を行う。表示部14は、例えば液晶ディスプレイや液晶駆動回路を備えており、制御部11の制御に応じて各種情報を表示する。
【0012】
通信部15は、無線による送受信を行う通信手段である。携帯電話機10が通話中の動作をするときには、通信部15は、図示せぬ携帯電話網の基地局から送信されてくる無線信号をアンテナ16によって受信すると、これを復調し、復調して得られるデジタル形式の音データを音声処理部17に出力する。また、通信部15は、音声処理部17からデジタル形式の音データを取得すると、これに変調及び周波数変換等を施して、アンテナ16を介して無線信号を送信させる。これ以外にも、通信部15は、これと同様の制御により、データ通信に関わる各種データを送受信する。なお、以下では、デジタル形式の音データのことを、単に「音データ」ということがあり、アナログ形式の音信号を、単に「音信号」ということがある。
【0013】
音声処理部17は、例えばDSP(Digital Signal Processor)であり、各種音声処理を行う。例えば、音声処理部17は、通信部15から供給される音データに対し、D/A(デジタル/アナログ)変換及び増幅処理を施し、アナログ形式の音信号をスピーカ18に供給する。また、音声処理部17は、通話用マイクロホン19から供給される音信号に対し、増幅及びA/D(アナログ/デジタル)変換を施してデジタル形式の音データに変換し、通信部15に出力する。スピーカ18は、ユーザの耳が当てられる受音領域30に設けられた放音手段であり、供給された音信号に応じて受話音等の音声を放音する。通話用マイクロホン19は、送音領域40に設けられ、携帯電話機10のユーザの送話音声等の音声を収音し、収音した音を表す音信号を音声処理部17に出力する。認証用マイクロホン20は、例えばシリコンマイクであり、受音領域30に設けられた収音手段である。認証用マイクロホン20は、収音した音を表す音信号を制御部11に出力する。
なお、通話用マイクロホン19は認証用マイクロホン20とは異なる収音手段であって、受音領域30以外の領域である送音領域40に設けられた第2の収音手段である。
【0014】
ここで、シリコンマイクである認証用マイクロホン20の構造について説明する。図4は、認証用マイクロホン20の構成を示す分解斜視図である。
筐体201は、セラミック製の箱型をなしており、収音素子202及び信号処理回路203を収容する。収音素子202は、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術により製造された超小型・軽量のマイクロホンである。収音素子202は、振動板として機能する柔軟なシリコン膜211と硬い背面電極212とを備え、シリコン膜211が音圧に応じた量だけ変位することにより、音圧を静電容量に変換する。信号処理回路203は、例えばアナログLSI(Large Scale integrated circuit)であり、収音素子202の静電容量の変化を電気信号に変換し、この電気信号を音信号として音声処理部17に出力する。上面部材204は、金属からなる平面状の部材であり、筐体201の開口部を塞ぐように設けられている。上面部材204の一部に孔Pが設けられており、この孔Pを介して筐体201内部に伝搬する音を、収音素子202は収音する。
【0015】
図5は、図1に示す携帯電話機10の受音領域30を、切断線V−Vで切断したときの断面を表した図である。同図に示すように、受音領域30は、携帯電話機10において、ユーザの耳が当てられるとともに、スピーカ18及び認証用マイクロホン20が設けられた領域である。
図5に示すように、受音領域30においては、電子回路等が設けられる基板301上に、スピーカ18及び認証用マイクロホン20が設けられ、携帯電話機10の筐体302が、これらスピーカ18及び認証用マイクロホン20の周囲を囲むようにして設けられている。スピーカ18によって放音された音は、複数の孔HSを介して、ユーザの耳100側へと伝搬する。一方、ユーザの耳100側から到来する音は、孔HMを介して受音領域30内に伝搬し、認証用マイクロホン20は、この孔HMを介して伝搬してきた音を収音する。ユーザの耳100側から到来する音は、具体的には、ユーザの耳100が受音領域30に当てられているときにスピーカ18によって放音された音のうち、耳100が反射した反射音である。
【0016】
また、受音領域30において、スピーカ18が収容される空間と認証用マイクロホン20が収容される空間とは、筐体302及び仕切部303によって隔絶されている。仕切部303は、受音領域30にユーザの耳100が接触されるようにして当てられたときに、スピーカ18によって放音された音が、直接、認証用マイクロホン20に収音されないようにするために設けられている。このような構成とする理由については後述するが、仕切部303を設けることにより、認証用マイクロホン20は、スピーカ18によって放音されて受音領域30の外部へ伝搬した音のうち、ユーザの耳100側から到来する反射音のみを収音することになる。なお、仕切部303は、筐体302の一部を構成していてもよいし、遮音材等の他の部材によって構成されていてもよい。
以上のような構成を有する携帯電話機10は、ユーザが通話を開始する前に、そのユーザが携帯電話機10の所有者と同一であることを確認するための「認証処理」を実行する。携帯電話機10にあっては、認証用マイクロホン20によって収音した音に基づいて認証処理を行う。
【0017】
図6は、認証処理時における音声処理部17の機能を示したブロック図である。同図に示す各機能は、音声処理部17のハードウェア又はソフトウェアによって実現される。
放音制御部174は、放音指示を取得すると、所定の参照音を放音させるための放音制御信号をスピーカ18に供給し、スピーカ18に参照音を放音させる。ここでは、放音制御部174は、例えば、短い拍の音が所定間隔を空けながら連続する音である、パルス音のような参照音を、スピーカ18に放音させる。参照音は、その音の特徴として、図7(a)に示すような周波数成分(周波数特性FG)を有し、この周波数特性FGを表すデータは、製造段階で予めROM又は記憶部12に記憶されている。この参照音の周波数特性や音量については、ユーザの耳障りとならないように決められている。上記の参照音の放音指示は、ユーザにより発信ボタンが押下されたときに、制御部11によって放音制御部174に供給される。
【0018】
収音音声取得部171は、認証用マイクロホン20によって収音された音を表す音信号SAを取得し、取得した音信号SAをデジタル形式の音データSDに変換して、収音音声解析部172に供給する。ところで、操作部13の発信ボタンがユーザにより押下されると、ユーザは直ちに受音領域30を自身の耳に当てる。よって、放音制御部174は、ユーザの耳100が受音領域30に当てられている状態で参照音を放音させ、収音音声取得部171は、参照音が耳100を反射し、認証用マイクロホン20によって収音された反射音を表す音信号SAを取得することになる。
【0019】
収音音声解析部172は、音データSDを解析して、認証用マイクロホン20によって収音された反射音の周波数特性を求め、この周波数特性を認証部173に供給する。ここでは、収音音声解析部172は、ユーザの耳穴に参照音を放音したときの反射音の特徴として、図7(b)に示すような周波数特性FRを求める。
【0020】
認証部173は、スピーカ18により放音された参照音の反射音として認証用マイクロホン20により収音された音(反射音)の特徴と、記憶部12に記憶された反射音の特徴とを照合して、ユーザを認証し、認証結果を制御部11に供給する。具体的には、認証部173は、認証用マイクロホン20によって収音された反射音の周波数特性FRと、記憶部12に記憶された認証用周波数特性FUとを照合する。記憶部12に記憶されている認証用周波数特性FUは、携帯電話機10の所有者が受音領域30に耳を当てているときに放音された参照音の反射音の周波数特性を表すものである。認証部173は、両者の周波数特性が一致すれば、携帯電話機10の所有者とユーザとが同一であり、認証に成功したと判定して、その認証結果を制御部11に供給する。一方、両者の周波数特性が一致しなければ、認証部173は、携帯電話機10の所有者とユーザとが同一ではなく、認証に失敗したと判定して、その認証結果を制御部11に供給する。
この認証にあっては、認証部173は、例えば、両者の周波数特性の差分スペクトルの全周波数領域に亘る積分値が閾値以下である場合に両者は一致すると判定し、そうでない場合は両者は一致しないと判定する。また、認証部173は、周波数毎の音圧を比較して、両者の音圧が一致する周波数域が閾値以上あれば、両者の周波数特性は一致すると判定するようにしてもよい。つまり、認証部173は、認証用周波数特性FU、及び周波数特性FRのそれぞれから特徴を抽出して、その特徴の一致度に基づいて両者の周波数特性が一致するか否かを判定する。
【0021】
ここで、記憶部12に記憶されている認証用周波数特性FUと、認証用マイクロホン20によって収音される反射音の周波数特性FRとの同一性に基づいてユーザ認証を行うことができる理由について具体的に説明する。
図8は、耳100の構造を模式的に表した図である。同図に示すように、耳100は、受音領域30が接触する耳介110、鼓膜130までの音の伝搬経路となる外耳道120、及びユーザが音を認識するための鼓膜130からなる。なお、本実施形態におけるユーザの耳100における耳穴は、図8に示す外耳道120である。
受音領域30に耳100が当てられると、受音領域30が外耳110に接触された状態となる。このとき、携帯電話機10と耳100とによって形成される空間は、一種の音響空間となり、受音領域30から放音された参照音は、外耳道120を介して鼓膜130に伝搬する。鼓膜130に参照音が伝搬すると、その音圧により鼓膜130は振動させられる。ユーザ(人間)は、この鼓膜130の振動によって、耳100で聞いた音を認識する。この鼓膜130の振動により、参照音の音エネルギーの一部は、鼓膜130を振動させるための振動エネルギーとして消費される。このとき、参照音の周波数成分に対して、鼓膜130の振動に影響しやすい反射音の周波数成分の音圧は低下しやすく、反対に、鼓膜130の振動に影響しにくい反射音の周波数成分の音圧は低下しにくい。各周波数成分における音圧の低下の度合いは各人物で概ね同じ傾向を示すと考えられるが、鼓膜130の形状、大きさ等に依存しても異なるとも考えられる。
【0022】
ところで、上記のようにして鼓膜130に伝搬する参照音の他に、耳100を伝搬する参照音の一部は、例えば耳介110や外耳道120の周囲の内壁、鼓膜130等を反射し、反射音として携帯電話機10の受音領域30に戻る。認証用マイクロホン20は、このようにして耳100から受音領域30に戻ってきた反射音を収音する。耳100を反射して受音領域30に戻る反射音の音エネルギーは、振動エネルギーとして消費された量に応じて、参照音の音エネルギーよりも小さくなる。したがって、図7(a)に示す参照音の周波数特性FGと、同図(b)に示す反射音の周波数特性FRとを比較した場合、特に鼓膜130の振動に影響しやすい周波数成分の音圧にあっては、周波数特性FGに対して周波数特性FRの方が小さくなっている。一方で、鼓膜130の振動に影響しにくい周波数域にあっては、周波数特性FGと周波数特性FRとで音圧の差異はさほど大きくない。また、全周波数域において、周波数特性FGの音圧に対して周波数特性FRの音圧が小さくなっているのは、耳介110や外耳道120を介して耳100以外の部位にも伝搬することで音のエネルギーが失われたことによるものである。
【0023】
以上のような、鼓膜130の振動により音圧が低下しやすい周波数成分や音圧が低下しにくい周波数成分、及び各周波数成分の音圧の低下量は、耳介110や外耳道120、鼓膜130の性質や、ユーザの耳穴の寸法や形状等の種々の性質に依存する。また、参照音が、耳介110や、鼓膜130に達するまでの外耳道120の周囲の内壁によって反射され、その反射波が認証用マイクロホン20に到達することにより収音されるが、この反射音(反射波)は、ユーザの耳穴の寸法や形状等に依存して、その進行方向が複雑に変化する。外耳110の形状は人物毎に違う特徴を持つことが知られているし、耳介110や外耳道120は歪な形状をしていることから、これらの音波の進行方向はユーザの固有性が極めて高いといえる。耳穴の寸法においても、性別、年齢、体格等の様々な要因によって人物毎に異なるから、これらの条件が複数の人物で一致することは極めて稀である。よって、認証用マイクロホン20が収音する参照音の反射音を、ユーザに対する固有性の高い生体情報として用いることができる。
【0024】
以上のことから、携帯電話機10は、所有者に対応する認証用周波数成分FUと、認証用マイクロホン20の収音した反射音に対応する周波数成分FRとを照合して、ユーザ認証を行う。なお、受音領域30において、仕切部303により、スピーカ18が収容される空間と認証用マイクロホン20が収容される空間とが隔絶されることを上述したが、これは反射音の特徴を生体情報として用いるためによるもので、参照音が直接、認証用マイクロホン20に収音されないようにするための構成である。
以上が、認証処理における音声処理部17の機能の説明である。
【0025】
(2)動作
次に、携帯電話機10の制御部11が実行する動作について説明する。
まず、携帯電話機10の所有者であるユーザが、自身の認証情報である反射音の周波数特性を携帯電話機10に対して登録するときの動作について説明する。このとき、携帯電話機10は、所有者の認証情報を登録するための「登録モード」という動作モードで動作する。
ユーザにより携帯電話機10の操作部13が操作されて、「登録モード」として動作することが指示されると、制御部11は、音声処理部17に放音指示を供給して、スピーカ18により所定の参照音を放音させる。続いて、ユーザは受音領域30に耳を当て、参照音が聴こえやすいように、受音領域30の位置や携帯電話機10本体の姿勢を調整する。この調整が完了すると、ユーザは、例えば携帯電話機10の側面部に設けられた所定の決定ボタンを押下し、制御部11は、決定ボタンが押下されたことを示す操作信号を取得すると、それを契機として認証用マイクロホン20によって、耳100からの反射音を収音する。そして、制御部11は、この反射音を表す音信号を解析して周波数特性を求め、認証用周波数特性(ここでは、認証用周波数特性FUとする)を記憶部12に記憶させる。この認証用周波数特性FUが、携帯電話機10の所有者に対応する認証情報となる。
【0026】
続いて、認証処理における携帯電話機10の制御部11の動作について、図9のフローチャートを参照しつつ説明する。
まず、ユーザは通話を開始しようとするときに、操作部13を操作して相手先の電話番号を入力する。そして、電話番号の入力が終わると、ユーザは発信ボタンを押下する。制御部11は、発信ボタンが押下されたことを示す操作信号を操作部13から取得すると、「認証処理」を開始する(ステップS1;YES)。ユーザは発信ボタンを押下すると、通話に備えるために、携帯電話機10の受音領域30を自身の耳100に当てる動作を行うから、ここでは発信ボタンの押下を契機として、携帯電話機10が認証処理を開始するようにしている。
【0027】
認証処理において、まず、制御部11は音声処理部17に放音指示を供給し、スピーカ18によって所定の参照音を放音する(ステップS2)。そして、ユーザは携帯電話機10の受音領域30を自身の耳100に当てる。
次いで、制御部11は、参照音の放音を行うとともに、認証用マイクロホン20によって耳100からの反射音の収音を行い(ステップS3)、音声処理部17によってその反射音を表す音信号を取得する(ステップS4)。次いで、制御部11は、取得した音信号を音声処理部17によって解析し、反射音の周波数特性(ここでは、周波数特性FRとする)を求める(ステップS5)。そして、制御部11は、音声処理部17により求められた、図7(b)に示すような反射音の周波数特性FRと、図3に示すような認証用周波数特性FUとを照合して、ユーザ認証を行う(ステップS6)。そして、制御部11は、携帯電話機10の所有者とユーザとの同一性を判定するべく、ステップS5で求めた反射音の周波数特性FRと、認証用周波数特性FUとが一致するか否かを判定する(ステップS7)。
【0028】
ステップS7において、制御部11は、上記差分スペクトルを用いる等して、周波数特性FRと認証用周波数特性FUとが一致すると判断すると(ステップS7;YES)、認証に成功したと判定する。そして、制御部11は、通話を開始するために、通信部15及びアンテナ16を介して電話番号を発信する(ステップS8)。
そして、通話が開始されると、制御部11は、携帯電話機10の通話中における制御を行う。具体的には、制御部11は、通信部15により受信した音声データに応じた音をスピーカ18に放音させるよう音声処理部17を制御し、通話用マイクロホン19により収音した音に応じた音声データを通信部15から送信させる。
【0029】
一方、ステップS7において、制御部11は、周波数特性FRと認証用周波数特性FUとが一致しないと判断すると(ステップS7;NO)、認証に失敗したと判定する。この場合、制御部11は電話番号を発信せずに、「あなたは本機の所有者ではありません。」というメッセージを表示部14に表示させて、認証を失敗した旨をユーザに通知し(ステップS9)、認証処理を終了する。
これにより、携帯電話機10は、自装置の所有者とユーザとが一致した場合にのみ通話を許可するから、例えば悪意の第三者によって不正に携帯電話機10が使用されるという事態が回避される。
【0030】
以上説明したように、鼓膜130の振動に影響しやすい、或いは影響しにくい周波数や、周波数成分毎の音圧の低下量は、ユーザの耳100の形状や寸法等の性質に依存するし、参照音の反射波においても、ユーザの耳穴の寸法や形状に依存して複雑な進行方向を辿ることになる。よって、参照音の耳100からの反射音の周波数特性は、固有性の高い生体情報であるといえる。このような理由から、携帯電話機10において、参照音の反射音を利用して、高精度のユーザ認証を行うことができる。また、ユーザは携帯電話機を自身の耳に当てるだけで、生体情報を入力することができるから、認証に係るユーザの負担を小さくして生体認証を行うことができる。さらに、携帯電話機10が備える認証用マイクロホン20は小型且つ、軽量なものであるから、ユーザは重量感等の違和感をもつこともなく、一般的な構成の携帯電話機に本発明を適用することも容易に行うことができる。
【0031】
(3)変形例
なお、上記実施形態を次のように変形してもよい。具体的には、例えば以下のような変形が挙げられる。これらの変形は、各々を適宜に組み合わせることも可能である。
(3−1)変形例1
上述した実施形態では、携帯電話機10は、所定の周波数特性FGの参照音を用いて認証処理を行っていたが、複数の参照音を用いるようにしてもよい。つまり、携帯電話機10は、スピーカ18に異なる複数の参照音を放音させ、複数の参照音の各々の反射音に基づいてユーザを認証する。この場合、各々の反射音の認証用周波数特性を、記憶部12に予め登録しておく。認証処理時にあっては、携帯電話機10は、複数の参照音を、順にスピーカ18によって放音し、各々の反射音を認証用マイクロホン20によって収音し、これらの周波数特性を求める。そして、携帯電話機10は、各々の反射音の周波数特性と、記憶部12に記憶しておいた、当該反射音に対応する認証用周波数特性とに基づいてユーザを認証する。そして、携帯電話機10は、複数の参照音の反射音に対応する認証のうち、閾値以上の数に成功すれば、ユーザと自装置の所有者とが同一であると判定する。なお、この閾値は、携帯電話機10のセキュリティに応じて適宜変更されてもよい。このようにすれば、さらに認証処理の精度はさらに高まる。
【0032】
また、携帯電話機10は、ユーザの認証情報として反射音の特徴を表す振幅(以下、「認証用振幅」という)を記憶部12に記憶しておき、認証処理時において、携帯電話機10は、認証用振幅と、認証処理時において収音した反射音の振幅とを照合してユーザを認証してもよい。
実施形態において、両者の周波数特性を比較していたのは、耳100の形状は歪であるし、その寸法等の性質も区々であるから、反射音の周波数特性において、複数の人物で一致することは極めて稀であるという理由に基づくものであった。これと同様の理由により、反射音の振幅も、振動エネルギーの消費によって参照音の振幅に対して小さくなるし、耳穴の形状や大きさによって減衰しやすい場合と、そうでない場合とが考えられる。よって、携帯電話機10の所有者に対する反射音の振幅を予め登録しておき、制御部11は、認証用振幅と、認証処理時に認証用マイクロホン20が収音した反射音の振幅とが閾値以下の差で一致していれば、認証に成功したと判定する。ただし、振幅のみの比較では、周波数特性を利用する場合と比べて偶然一致する可能性も高いと考えられるため、携帯電話機10は、実施形態のような周波数特性の照合によるユーザ認証や、複数の参照音を用いて認証処理を行うことが好ましい。
【0033】
(3−2)変形例2
また、参照音がどのような音であっても、携帯電話機10はユーザ認証を行うことができる。制御部11及び音声処理部17は、反射音の周波数特性や振幅等の一致・不一致によりユーザ認証を行うから、周波数特性や振幅がどのような特徴を持っていてもよい。また、参照音にあっては必ずしも人間が聞き取ることのできる可聴領域の音である必要もない。
【0034】
また、参照音を表す音信号として、理想的なインパルスを近似した、周期の極めて短いパルス信号を意味するインパルス信号を用いてもよい。携帯電話機10及び耳100からなる音の伝搬空間は、実施形態でも述べたように参照音及び反射音が伝搬する一種の音響空間とみなすことができる。よって、インパルス信号を用いた音響特性の測定と同等の原理により、インパルス信号を用いることが効果的なのである。つまり、ユーザ毎に反射音の周波数特性(音響特性)は異なるから、携帯電話機10は、所有者に対する周波数特性を記憶部12に記憶しておき、これと、認証処理時において求めた反射音(インパルス応答)の周波数特性とを照合し、ユーザ認証を行うことができる。
制御部11は、両者の一致度が閾値以上に高ければ、認証に成功したと判定する。ここでの一致度の判断手法は、実施形態で述べた周波数特性の一致・不一致を確認する場合と同様の手法を用いることができる。このように、インパルス信号を用いることで、以下のようなメリットがある。インパルス信号は広帯域の周波数成分を持っているため,測定周波数ごとに音源を切り替えることなしに測定できるから、認証処理に要する時間を短縮することができる。また、反射音を表すインパルス応答からは、残響時間以外にも明瞭度や音の大きさなどに対応した音響特性も同時に求められるから、認証の高精度化の効果を得ることができる。また、インパルス信号に代えて、インパルスの時間軸を引き延ばした信号であるTSP(Time Stretched Pulse)を用いてもよい。
【0035】
(3−3)変形例3
上述した実施形態では、制御部11は、ユーザの認証に成功すれば通話を開始し、認証に失敗すれば通話を許可しなかった。これに対し、制御部11が、照合結果に応じて行う制御の形態はこれに限定されるものではない。例えば、携帯電話機10は、データ通信や、アプリケーションの起動、アドレス帳の開示等の自装置が備える各機能に対して、その実行を許可するか否かを制御するための認証を行ってもよい。また、携帯電話機10は、アラームや、音声以外のバイブレータ機能等によって、ユーザが同一でない旨をユーザに報知するようにしてもよい。
【0036】
(3−4)変形例4
上述した実施形態では、発信ボタンが押下されたことを契機として、制御部11は認証処理を開始したが、例えば、所定の認証処理の実行を指示するボタンが押下されたときであってもよく、認証処理を開始するタイミングはどのように設計されていてもよい。また、認証用周波数特性等の認証用の反射音の特徴は、携帯電話機10の所有者に対応するものに限らない。
また、携帯電話機10は、認証処理が完了してから、電話番号の発信を行っていたが、電話番号の発信中に認証処理を行ってもよい。電話番号の発信時においては、携帯電話機10は、交換機へ電話番号を伝達するために、番号と対応したパルス信号や、DTMF(Dual Tone Multi Frequency)信号等の周波数信号を送信する。そこで、携帯電話機10はこの周波数信号を参照音として、認証処理を行ってもよい。これらの信号は、その周波数成分や音量が既知であるし、携帯電話機10は、通話を開始するまでの期間だけ認証処理を行うから、ユーザ認証のための時間を別に設けなくて済む。この場合、例えば、携帯電話機10は、認証に成功すれば通話を継続するよう制御し、認証に失敗すれば、通話を或る一定時間で中止するようにしたり、通話料金が高い海外等の地域との通信を禁止するという具合に、通話を許可する相手を制限する制御を行うとよい。
【0037】
(3−5)変形例5
上述した実施形態では、携帯電話機10のユーザ認証を行うものであったが、携帯電話機のヘッドセットや、家庭用電話機、ヘッドフォン、トランシーバ等の放音することが可能な装置に本発明を適用することができる。要するに、音が放音される受音領域(スピーカ)を有し、そこにユーザが耳を当てて、音を聞き取るという構成の装置であれば、実施形態と同様にして認証処理を行うことにより、本発明の認証装置とすることができる。
また、上述した実施形態では、放音手段としてのスピーカ18を、認証処理と通話用とで共用していたが、これらを別々に設けてもよい。
また、上述した実施形態では、受音領域30に認証用マイクロホン20を1つだけ設けていたが、複数設けるようにしてもよい。認証用マイクロホン20を複数設けるようにすれば、各マイクロホンの位置が違うから、収音した反射音の特徴においても各々のマイクロホンの解析結果に差異が生じる。よって、制御部11は、各マイクロホンによって収音した反射音を用いて認証処理を行うようにすれば、より認証の精度を高めることができる。
【0038】
(3−6)変形例6
上述した実施形態において、音声処理部17が実行していた認証処理の一部が他のハードウェアとの協働により行われてもよいし、音声処理部17が実行する制御を、これ以外の1又は複数のハードウェアが行うようにしてもよい。また、携帯電話機10の制御部11や音声処理部17によって実行される制御プログラムは、磁気記録媒体(磁気テープ、磁気ディスクなど)、光記録媒体(光ディスク(CD、DVD)など)、光磁気記録媒体、半導体メモリなどのコンピュータ読取り可能な記録媒体に記録した状態で提供し得る。また、インターネットのようなネットワーク経由でダウンロードさせることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】携帯電話機の外観を示した図である。
【図2】携帯電話機の構成を示すブロック図である。
【図3】認証用周波数特性の一例を示した図である。
【図4】認証用マイクロホンの構成を示す分解斜視図である。
【図5】図1に示す携帯電話機の受音領域を、切断線V−Vで切断したときの断面を表した図である。
【図6】音声処理部の機能を示す図である。
【図7】参照音の周波数特性、及び参照音の反射音の周波数特性の一例を示した図である。
【図8】耳の内部構造を模式的に表した図である。
【図9】制御部が実行する処理の手順を示したフローチャートである。
【符号の説明】
【0040】
10…携帯電話機、100…耳、11…制御部、110…耳介、12…記憶部、120…外耳道、13…操作部、130…鼓膜、14…表示部、15…通信部、16…アンテナ、17…音声処理部、171…収音音声取得部、172…収音音声解析部、173…認証部、174…放音制御部、18…スピーカ、19…通話用マイクロホン、20…認証用マイクロホン、201,302…筐体、202…収音素子、211…シリコン膜、212…背面電極、203…信号処理回路、204…上面部材、30…受音領域、301…基板、303…仕切部、40…送音領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザの耳が当てられる受音領域に設けられた放音手段と、
前記受音領域に設けられた収音手段と、
前記放音手段に所定の参照音を放音させる放音制御手段と、
ユーザの耳穴に前記参照音が放音されたときの、当該参照音の反射音の特徴を記憶する記憶手段と、
前記放音手段により放音された前記参照音の反射音として前記収音手段により収音された音の特徴と、前記記憶手段に記憶された前記反射音の特徴とを照合して、ユーザを認証する認証手段と
を備えることを特徴とする認証装置。
【請求項2】
前記記憶手段は、前記反射音の特徴として周波数成分を記憶し、
前記認証手段は、前記収音手段により収音された前記反射音の周波数成分と、前記記憶手段に記憶された前記反射音の周波数成分とを照合する
ことを特徴とする請求項1に記載の認証装置。
【請求項3】
前記放音制御手段は、前記放音手段に複数の前記参照音を放音させ、
前記認証手段は、複数の前記参照音の各々の反射音に基づいてユーザを認証する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の認証装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の認証装置と、
無線による送受信を行う通信手段と、
前記収音手段とは異なる収音手段であって、前記受音領域以外の領域に設けられた第2の収音手段と、
前記通信手段により受信した音声データに応じた音を前記放音手段に放音させ、前記第2の収音手段により収音した音に応じた音声データを前記通信手段から送信させる制御手段と
を備えることを特徴とする携帯電話機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−86328(P2010−86328A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−255383(P2008−255383)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】