説明

誘導体化三級アミン及びその使用

本発明は、次式で表される三級アミン中間体、及びそれから誘導した求電子性モノマーに関する。本発明はまた、このような求電子性部分から誘導される接着剤又はシーラントにも関し、
【化1】


式中、R=CH、H、CHCH又はその他のアルキル基であり、R=H、C(O)CHOCHCOOH、n=1〜4のC(O)(CHCOOH、又はこれらの組み合わせである。

【発明の詳細な説明】
【開示の内容】
【0001】
〔関連出願の相互参照〕
本出願は、米国特許本出願番号第11/942,035号(2007年11月19日出願)の出願の利益の優先権を主張する。上述の関連する米国特許出願の完全な開示は、本出願において参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
〔発明の分野〕
本発明は、誘導体化三級アミン、(1)1種以上の求電子性部分若しくは誘導体化三級アミンモノマー及び(2)1種以上の求核物質を含む接着剤又はシーラントを含む接着剤又はシーラント、並びに(1)及び(2)の反応生成物を含む、接着剤又はシーラント、に関する。
【0003】
〔発明の背景〕
手術を実施する場合、例えば、血管吻合若しくは肺切除術、又は腎部分摘出治療での止血において、傷口を閉じ、流体漏れを防止するために体内で使用され得る、接着剤又はシーラント材料に対する要求は満たされていない。
【0004】
より具体的には、接着剤又はシーラントポリマーをその場で形成する必要がある場合に、重合可能な構成成分から構成される接着剤又はシーラントを有することが望ましい。液状接着剤又はシーラントが望ましい場合、このような接着剤又はシーラントの構成成分は、水溶性であるか又は少なくとも水混和性溶剤に可溶性でなければならず、かつ少なくとも適用時において、水又は水混和性溶剤中にて、適度に安定していなければならない。加えて、その場で形成される接着剤又はシーラントポリマーは、組織に接着し、かつ分解生成物が分泌により又は自然な生化学的サイクルへ組み込まれるかのいずれかによって自然に除去され得るように、時間の経過と共に、水溶性である分解生成物へと生物分解されなければならない。内部医療用途のためには、接着剤又はシーラントをつくりあげている構成成分のそれぞれ、得られたポリマー及びその分解生成物が、生体適合性でなければならない。
【0005】
接着剤又はシーラント構成成分が、粉末又は固体の形態で、即ち、基材と共に又は基材無しで使用される場合、接着剤又はシーラントの構成成分は、適用箇所にて生理液と接触した際に、接着剤又はシーラント構成成分が可溶化し、かつ互いに及びコラーゲンと適用箇所にて反応することができるように、水溶性でなければならない。それにもかかわらず、その場で形成される接着剤又はシーラントポリマーは依然として組織に接着し、かつ時間の経過と共に水溶性の分解生成物へと生物分解しなければならない。加えて、内部医療用途のためには、接着剤又はシーラントをつくりあげている構成成分のそれぞれ、基材(使用される場合)、得られたポリマー及びその分解生成物が、生体適合性でなければならない。
【0006】
〔発明の概要〕
本発明は、誘導体化三級アミン、(1)1種以上の求電子性部分若しくは誘導体化三級アミンモノマー及び(2)1種以上の求核物質を含む接着剤又はシーラント、並びに(1)及び(2)の反応生成物を含む、接着剤又はシーラント、に関する。
【0007】
〔発明の詳細な説明〕
本発明は、誘導体化三級アミン、(1)1種以上の求電子性部分若しくは誘導体化三級アミンモノマー及び(2)アミン官能性(amine functionality)を有する1種以上の求核物質を含む接着剤又はシーラント系、並びに(1)及び(2)の反応生成物を含む、接着剤又はシーラント、に関する。
【0008】
本発明の接着剤又はシーラントは、複数の医療用途を有し、心臓血管、末梢血管、心胸郭、婦人科、神経及び一般腹腔手術を含む多くのタイプの手術にて使用されてよいが、これらに限定するものではない。
【0009】
例えば、接着剤又はシーラントは、前十字靭帯修復、半月板披裂修復(あるいは半月板交換のためのヒドロゲルとして)、後嚢復元、腱板修復などの整形外科処置における内部外科用接着剤として、及び骨接着剤として使用してもよい。それは、肺容量減少、パッチ固定、皮下組織修復、及び大動脈解離のための接着剤として使用することもできる。特に、それは、胃容量減少のための胃接着剤として使用することが可能であり、ヘルニア修復のためのメッシュ固定、ドレイン固定、バルブ装着、接着防止フィルム付着、組織と組織の付着(例えば合成又は生物組織足場から組織、バイオ組織から組織)、組織から装置(例えばメッシュ、クリップ、フィルム)及び装置から装置のための接着剤として使用することができる。
【0010】
第2に、接着剤又はシーラントは、皮下組織修復のために、並びに乳房切除、乳房再生、豊胸、再建的又は美容上の腹壁形成及び脂肪吸引、美顔手術、帝王切開、肥満患者の子宮摘出、大腿領域の整形術、切開性ヘルニア修復、脂肪腫切除、外傷性損傷、ろう孔治療、グラフト固定、及び神経修復などの処置における漿液腫防止のために使用することができる。
【0011】
第3に、接着剤又はシーラントは、硬膜パッチ製品、胆管、肝臓ベッド内の胆汁漏れ、膀胱漏れ、骨グラフト、火傷グラフト包帯及び液体閉鎖性包帯を付着させ、シールさせるためのシーラントとして使用することができる。シーラントとしては、組織、装置、及び組織−装置境界面上にコーティングすることができ、かつ硬膜−頭蓋骨シーラント、硬膜−脊椎シーラント、心臓/末梢血管シーラント、胃腸シーラント(例えば食道、腸、大きな臓器、膵臓、胃、及び胃潰瘍)、肺シーラント、軟らかい臓器シーラント(例えば肝臓、脾臓、膵臓)、骨ろう代用品、腫瘍シーラント、ステープル/糊の組み合わせ、シーラント、血管鉗子の組み合わせ、尿道シーラントとして使用することができる。それは、胃バイパス、実質性臓器切除、気管開口、潰瘍性大腸炎憩室症、根治的前立腺摘出術、洞再生、胸骨切開、総胆管十二指腸吻合、及び胆嚢ベッドシーリング、並びに胆嚢摘出を含む処置にて使用することができるが、これらに限定するものではない。加えて、接着剤又はシーラントは、縫合糸又はステープルなどの医療用具上にコーティングしてよい。
【0012】
第4に、接着剤又はシーラントは、再建手術及び美容整形における死腔除去(例えばプラスチック/美容上/再建、顔/顔面欠損、又は空洞充填)、尿失禁及びその他婦人科治療、肛門裂傷/ろう孔、うっ血性心不全を治療するための心筋へのカテ−テル挿入、核豊胸、膵臓/肝嚢胞/ろう孔除去、及び小児食道ろう孔を含む処置において、充填剤又は尿道周囲充填剤として使用することができるが、これらに限定されない。
【0013】
第5に、接着剤又はシーラントは、組織工学(例えば組織の足場)用マトリックス、細胞の送達マトリックス、近接照射療法(放射線治療)剤のための送達マトリックス、成長因子の送達マトリックス、空細胞足場をその場で形成するための注入マトリックス、幹細胞送達のための足場のための注入マトリックス、細胞可溶化物、又はその他の生物学的製剤、生物活性物質、薬剤、及び栄養補助食品、化学療法のための局所マトリックス、並びに造影剤のための局所マトリックスとして使用することができる。
【0014】
第6に、接着剤又はシーラントは、心臓、開胸、一般外科、産科及び婦人科手術、整形外科手術、並びに脊椎(例えば人工ディスク)などの処置において、付着防止バリアとして使用することができる。
【0015】
第7に、接着剤又はシーラントは、塞栓形成(例えば胃腸ろう孔、大脳/血管閉塞性脳動脈瘤、卵管閉塞、及び静脈瘤咬合)のための閉塞物として使用することができる。
【0016】
誘導体化三級アミン中間体
テトラキス(2−ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン(本明細書においては、TKHPEDと称する)(商標名クアドロール(Quadrol)としてBASFから入手可能)及び類似化合物であるテトラキス(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミン(本明細書においては、TKHEEDと称され、TCIアメリカ社(TCI America, Inc.)から入手可能)(一般に、次式の三級ジアミンコアで表される)の誘導体化三級アミン中間体が本明細書に記載されている。
【化1】

式中、R=CH(TKHPED)、H(TKHEED)、CHCH又はその他のアルキル基である。
【0017】
誘導体化三級アミンは、一般に、式Iで表されてよい。
【化2】

式中、R=CH、H、CHCH又はその他のアルキル基であり、R=H、C(O)CHOCHCOOH、n=1〜4のC(O)(CHCOOH、又はこれらの組み合わせである。
【0018】
あるいは、誘導体化三級アミンは、式IのRのそれぞれがカルボン酸末端基を有する場合、式Iaで表されてよい。
【化3】

式中、R=CH、H、CHCH又はその他のアルキル基であり、R=CHOCH又はn=1〜4の(CH)nである。
【0019】
一例として、加水分解で分解可能なエステル結合を有する式Iのカルボキシル誘導体化三級アミンは、例えば、テトラ(2−ヒドロキシプロピル)エチレンジアミンを、グルタル酸無水物、無水コハク酸又はジグリコール酸無水物などの無水物と、触媒量の塩基(トリエチルアミンなど)の存在下で反応させることによって合成してよい。反応は、その他の塩基(ピリジンなど)の存在下で、あるいは塩基無しで(テトラ(2−ヒドロキシプロピル)エチレンジアミンの三級窒素が、反応を自触媒し得るため)実施してもよい。
【0020】
あるいは、三級ジアミンコアの誘導体化は、部分的であってよく、0、1個、2個又は3個のカルボン酸末端基を生じてよい。3個のカルボン酸末端基を有する部分的誘導体化三級アミンの一例が、式I’で示されている。
【化4】

式中、R=CH、H、CHCH又はその他のアルキル基であり、R=CHOCH又はn=1〜4の(CHである。
【0021】
誘導体化三級アミンモノマーの求電子性部分
式Iで表される誘導体化三級アミンは、一般に式IIで表される求電子性官能性末端基を有する誘導体化三級アミンモノマーに、更に変換されてよく、ここで、求電子性官能性末端基又は部分は、イソシアネート、N−ヒドロキシスクシンイミド、N−ヒドロキシマレイミド、又はアルデヒドから誘導されてよい。
【化5】

式中、R=CH、H、CHCH又はその他のアルキル基であり、R=C(O)OX、C(O)CHOCHY、C(O)(CHY又はこれらの組み合わせであり、ここで、X=NHS又はNHMであり、n=1〜4、かつY=NCO、C(O)O(NHS)、C(O)O(NHM)又はC(O)Hである。本発明で使用する場合、NHSとは、(CH(CO)N−又は
【化6】

によって表されるN−ヒドロキシスクシンイミドのラジカルを意味し、NHMとは、(CH(CO)N−によって表されるN−ヒドロキシマレイミドのラジカルを意味する。
【0022】
あるいは、式Iaの誘導体化三級アミンから誘導される誘導体化三級アミンモノマーは、式IIaで表されてよい。
【化7】

式中、R=CH、H、CHCH又はその他のアルキル基であり、R=CHOCH又はn=4の(CH、Y=NCO、C(O)O(NHS)、C(O)O(NHM)又はC(O)Hである。本発明で使用する場合、NCOとは、イソシアネートのラジカルを意味する。
【0023】
式IIの具体例は、式A(Q−Glu−NHS)、式B(Q−Digly−NHS)、式C(T−Glu−NHS)及び式D(T−Digly−NHS)によって表される。
【化8】

【化9】

【化10】

【化11】

【0024】
式IIa’に示すように、式Iのカルボキシル誘導体化三級アミンの部分的誘導体化をして、求電子性官能基1、2、又は3と共に部分的に誘導体化されたモノマーを得ることもまた可能である。例えば、求電子性官能性末端基が、N−ヒドロキシスクシンイミド、N−ヒドロキシマレイミド、又はアルデヒドから誘導される場合、部分的又は完全な誘導体化のいずれか一方を得ることが可能である。しかしながら、求電子性官能性末端基がイソシアネートから誘導される場合、完全誘導体化のみを得ることが可能である。
【化12】

式中、R=CH、H、CHCH又はその他のアルキル基であり、R=CHOCH、n=1〜4の(CH)n、Z=COOH、C(O)O(NHS)、C(O)O(NHM)、C(O)H又はこれらの組み合わせである。
【0025】
3個以下の式I’のカルボン酸末端基を有する部分的誘導体化三級アミンはまた、求電子試薬で誘導体化して、例えば、式II’によって示される誘導体化三級アミンモノマーを製造してよい。
【化13】

式中、R=CH、H、CHCH又はその他のアルキル基であり、R=CHOCH、n=1〜4の(CH)nであり、W=C(O)O(NHS)又はC(O)O(NHM)である。
【0026】
あるいは、求電子性官能性末端基を有する誘導体化三級アミンモノマーは、求電子性末端基がNHS又はNHMである場合、式IIIで表されてよい。更に別の代替物では、モノマーは、エステル及びカーボネート結合を含んでよく、ここで、カーボネート結合の数は、式I中のカルボン酸末端基の数に応じて、1、2、3又は4であってよい。
【化14】

式中、R=CH、H、CHCH又はその他のアルキル基であり、M=O(NHS)又はO(NHM)である。
【0027】
カーボネート結合を形成するために、三級アミンコアのヒドロキシル基がNHSで末端保護された実施例が、以下にて式E(Q−カーボネート−NHS)で示されている。
【化15】

【0028】
トリエチルアミン又はピリジンなどの触媒の存在下にて、ジスクシンイミジルカーボネート(DSC)と反応させることによって、あるいは三級ジアミンコア(例えばTKHPED、TKHEED)をプロパン酸、3−[(2,5−ジオキソ−1−ピロリジニル)オキシ]−3−オキソ(又はその他のアルキル基若しくはアルコキシ基を備えた官能性同等部分)と縮合させることによって、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)基をカルボキシル誘導体化三級アミンへとカップリングすることによって、NHS誘導体化三級アミンモノマーを製造してよい。N−ヒドロキシルマレイミド又はN−ヒドロキシルグルタルアミドから誘導される求電子試薬を有する誘導体化三級アミンモノマーを、同様にして製造してよい。
【0029】
カルボキシル誘導体化三級アミンは、クルチウス転位によってイソシアネート含有モノマーへと変換してもよい。具体的には、カルボキシル誘導体化三級アミンは、それを塩化チオニルと反応させることによって、最初に塩化アシルに変換され、次にそれをアジドトリメチルシランと反応させて、アシルアジドを得てよい。次に、アシルアジドをゆっくりと約65℃まで加熱して、アシルアジドをイソシアネート誘導体化三級アミンモノマーへ変換する。
【0030】
アルデヒド誘導体化三級アミンモノマーは、ジシクロヘキシルカルボジイミドなどの脱水剤の存在下で、カルボキシル誘導体化三級アミンを反応させることにより調製されてよい。あるいは、求電子性部分は、ヒドロキシル基を誘導体化することによって、出発物質であるジアミン、TKHPED又はTKHEEDに結合させてもよい。例えば、アルデヒド誘導体化三級アミンモノマーは、カルボジイミドなどの脱水剤の存在下で、TKHPEDをグルタルアルデヒド酸(又は異なるアルキル基の数を持つ一連の関連化合物)と反応させることによって得てもよい。
【0031】
得られた接着剤又はシーラント
本明細書に記載される求電子性部分は、接着剤、シーラント又は得られたポリマー組成物を形成するための、アミン官能基又はチオール官能基を有する、任意の求核性部分と反応し得る反応性分子である。本明細書に記載される求電子性モノマー及び各種求核性部分の幾つかの組み合わせは、反応して、組織に接着する架橋ポリマーを形成することを示してきた。得られたポリマーは、適合するゲル又はコーティング材などの各種形態であってよい。
【0032】
求核性部分、好ましくはアミン官能性を備えたものは、生物源又は合成的に変性された多糖類であって、アミン基を脱アセチル化によって得ることができるものから誘導してよい。求核性部分の生物源の例としては、アルブミンなどのタンパク質、及びε−ポリリシン、キトサンなどの多糖類、ヒアルロン酸並びにグリコサミノグリカンが挙げられるが、これらに限定されない。加えて、アミン官能化カルボキシメチルセルロース(CMC)、アミン官能化若しくはチオール官能化ポリエチレングリコール(PEG)などの合成ポリマー、又はポリリシンなどの活性化多糖類を、求核性部分として使用してよい。他の好適な求核性部分としては、ポリ(エチレンオキシド)イミンが挙げられるが、これに限定されない。
【0033】
本明細書に記載される求電子性部分は、求核性部分と当量比で反応し得る。本明細書で使用するとき、当量とは、モル重量を求電子性又は求核性官能基の総数で除したものを意味する。当量比の範囲は、約1:10〜10:1であることができる。
【0034】
求電子性官能性末端基がNHSである場合、求核性アミン部分との重合は、アミド結合の形成、及びN−ヒドロキシスクシンイミド(小分子のN−ヒドロキシ化合物)が、反応スキームIで一般的に表されるように、縮合副生成物として生じることによって生じる。
【化16】

式中、Rは、例えば式Iaの、誘導体化三級アミンの残余部分であってよく、ここで、カルボキシル基はN−ヒドロキシスクシンイミドと縮合してよく、Rはアミン又はチオール含有部分の残余部分であってよい。
【0035】
液体状態での接着剤又はシーラントの使用が望ましい場合、このような接着剤又はシーラントの構成成分は、水溶性であるか又は少なくとも水混和性有機溶剤(例えば、アセトン、アルコール、若しくはプロピレンカーボネートなどのカーボネート)に可溶性でなければならない。例えば、式A(Q−Glu−NHS)及び式C(T−Glu−NHS)で表される求電子性モノマーは周囲温度にて粘稠液体であり、かつ周囲温度にて3〜5分観察した際にプロピレンカーボネート中で約60%(重量/重量)にて可溶性である。式B(Q−Digly−NHS)及び式D(T−Digly−NHS)で表されるジグリコレートモノマーは、周囲温度にて粉末状固体ではあるが、プロピレンカーボネート中に約60%(重量/重量)で可溶性である。好ましくは、求電子性部分のための溶剤はプロピレンカーボネートである。求核性部分のための好適な溶剤としては、プロピレンカーボネート及びN−メチルピロリドンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0036】
液体状態での接着剤又はシーラントの使用が望ましい場合、このような接着剤又はシーラントの構成成分は、水中にて又は水混和性溶剤中にて、少なくとも適用期間中は、適度に安定していなければならない。その安定性に応じて、本明細書に記載される求電子性モノマーは、使用前に、溶剤と共に又はそれ無しで保存してよい。例えば、保存が望ましい場合、溶剤は、好ましくは、プロピレンカーボネートなどの水混和性有機溶剤である。求電子性モノマーの溶剤中での安定性が適度に良好である場合、溶剤及び求電子性モノマーを混合して保存してよい。求電子性モノマーの溶剤中での安定性が貧弱であり、かつ/又は保存が望ましくない場合には、溶剤及び求電子性モノマーは、所望の箇所へ適用する直前に混合し、次に、無溶剤形態であるか又は求電子体の場合と同一溶剤中にある求核性部分と共に更に混合してよい。求電子性部分はまた、水中で又は水混和性溶剤中にて、求核性部分と共に直接に混合してもよい。例えば、式Dで表されるジグリコレートモノマーは、水溶液中で高度に可溶性であるが、その中では安定ではない。この場合、モノマーは、所望の箇所へ送達する直前に、既に混合された又は水溶液中で保存してあるアルブミンなどの求核性部分と共に、混合することが望ましい場合がある。
【0037】
好ましい求核試薬は、アルブミン及びε−ポリリシンであるが、水溶液形態にて使用するのに好ましい求電子性モノマーは、式C及びDで表されるモノマーである。例えば、(1)式Dで表されるモノマーは、アルブミンと、ほぼ1:1の当量比にて使用されてよく、(2)式Dで表されるモノマーは、ε−ポリリシンと、1:2の当量比にて使用されてよく、(3)式Cで表されるモノマーは、アルブミンと、ほぼ1:1の当量比にて使用されてよく、(4)式Cで表されるモノマーは、ε−ポリリシンと、1:2の当量比にて使用されてよい。
【0038】
粉末又は固体の形態で、基材と共に又は基材無しで、接着剤又はシーラント構成成分を使用することが望ましい場合がある。例えば、式Dで表されるモノマーは、水溶液中で高度に可溶性であり、粉末形態で使用してよい。接着剤又はシーラント構成成分が粉末又は固体の形態である場合の求核性部分は、好ましくは、アルブミン、ε−ポリリシン又はPEG−アミンである。これらの部分の硬化時間は、適合するゲルの形成の目視観測に基づいて、約1〜3分の範囲である。更に、接着剤又はシーラント構成成分は、粉末又は固体形態にて、酸化再生セルロース(ORC)、グリコライド−ラクチドコポリマー又はこれらの組み合わせの、編んだ、織った若しくは織っていないマトリックス又は基材と組み合わされて使用されてよい。接着剤又はシーラント構成成分と共に使用するのに好適な基材は、吸収性又は非吸収性であってよい。
【0039】
粉末又は固体の形態で、基材と共に又は基材無しで使用するのに好ましい求電子性モノマーは、式B及びDで表されるモノマーであるが、好ましい求核試薬は、4−armPEGアミン及びε−ポリリシンである。例えば、(1)式Dで表されるモノマーは、4−Arm−PEGアミンと、ほぼ1:1の当量比にて使用されてよく、(2)式Dで表されるモノマーは、ε−ポリリシンと、1:4の当量比にて使用されてよく、(3)式Bで表されるモノマーは、4−ArmPEG−アミンと、ほぼ1:1の当量比にて使用されてよく、(4)式Bで表されるモノマーは、ε−ポリリシンと、1:4の当量比にて使用されてよい。
【0040】
あるいは、ペースト形態の接着剤又はシーラント構成成分の使用が望ましい場合、求電子性部分及び水溶性求核部分は、使用前に、水混和性溶剤(その中に、求電子性部分のみが可溶性である)と共に保存又は混合してよい。水、好ましくは適用箇所に存在する生理液、と接触すると、求核性部分が、可溶化し、求電子性部分と反応可能であって、適用箇所にて接着剤又はシーラントを形成する。
【0041】
得られたポリマー組成物はまた、縫合糸、ステープル、血管グラフト、縫合糸結紮クリップ、整形外科用ピン、クランプ、ネジ、及びプレート、クリップ(例えば、大静脈用)を含むがこれらに限定されない任意の医療装置に適用されるコーティング材として機能してよい。例えば、医療装置は、求核性部分の溶液でコーティングされ、続いて求電子性部分の溶液でコーティングされてよく、求核性及び求電子性部分を反応させて、装置上のコーティング材として機能する架橋ポリマーを形成する。縫合糸又はステープルの場合、傷口を閉じるために縫合糸又はステープルが使用された後に、生理液と接触すると膨潤するコーティング材を有すること、それによって、縫合針又はステープルによってできる孔を塞ぐことが望ましい場合がある。したがって、PEGアミンを求核性部分として利用することが好ましい場合があるが、これはPEG系材料が水と接触した際に膨潤することが知られているためである。
【0042】
分解生成物
上述したように、その場で形成される接着剤又はシーラントは、分解生成物が分泌により又は自然な生化学的サイクルへ組み込まれるかのいずれかによって自然に除去されるように、時間の経過と共に、水溶性である分解生成物へと生物分解しなければならない。
【0043】
求電子性官能性末端基がNHSである反応スキームIにて示すように、求核性部分との重合は、アミド結合の形成、及びNHSアルコール(水溶性であり、体から排せつされる)の生成を介して生じる。
【0044】
得られた接着剤又はシーラントが一旦その場で形成されると、ポリマーは時間の経過と共に、加水分解又は酵素分解によって分解し得る。例えば、得られたポリマー中のエステル結合の分解は、三級ジアミンコア、例えばTKHPED又はTKHEED、及び二塩基酸部分とアミド結合によって結合した求核性試薬を生成し得る。求核性部分及びカーボネートNHSを有する求電子体物質の反応からウレタン結合が形成される場合、ウレタン結合の分解により、求核性部分及び三級ジアミンコアが生じる。加水分解によるエステル結合の開裂が、約1日〜6日の範囲の期間をかけて生じるものと考えられているが、これに対して、ウレタン結合の分解は、6ヶ月以下で生じると考えられる。求核性部分が、例えば、アルブミンである場合、得られたポリマーの分解は、酵素分解及び加水分解の両方による。アルブミン含有フラグメントの酵素分解は、約1日〜6ヶ月の範囲であると考えられる。求核性部分が、例えば、ε−ポリリシン又はPEG−アミンである場合、得られたポリマーの分解は加水分解によるものであり、ε−ポリリシン又はPEG−アミンフラグメントの分解は、約1日〜6ヶ月の範囲であると考えられる。得られた分解生成物の全ては、水溶性であり、体から排せつされる。
【0045】
実施例1:式Iのカルボキシル誘導体化三級アミン中間体の合成
式I(R=CH及びR=(CH)は、次の様にして合成した。
75mLの乾燥エチルアセテート中の6.97gのテトラ(2−ヒドロキシプロピル)エチレンジアミンに、不活性雰囲気下にて、11.3gのグルタル酸無水物を添加する。窒素下にて一晩混合物を攪拌する。透明な液体に、100mLのエチルアセテートを添加し、50mLの水で2回洗浄する。有機層は、無水硫酸ナトリウムで乾燥させる。揮発物を除去して、16.89gの粘稠な液体を得た。
【0046】
実施例2A:式Aの求電子性モノマーの合成
TKHPED(50g、171mmol)を500mLの乾燥アセトニトリル中に溶解させ、グルタル酸無水物(79g、692mmol)を添加した。わずかに発熱し、次に溶液を周囲温度にて3時間攪拌した。ジスクシンイミジルカーボネート(185g、722mmol)及びピリジン(60mL)を添加し、反応物を周囲温度にて一晩攪拌した。反応物は気体を放出し、ジスクシンイミジルカーボネートはゆっくりと溶解した。溶媒を減圧下で除去し、残留物を1リットルのエチルアセテート中に溶解させた。溶液を500mLの水で3回洗浄した。有機相を硫酸マグネシウムで乾燥させ、溶媒を減圧下で除去し、160gの粘着性固体を得た。溶媒除去後、生成物は粘稠な液体であった。
【0047】
実施例2B:式Bの求電子性モノマーの合成
TKHPED(40g、137mmol)を150mLのDMF中に溶解させ、ジグリコール酸無水物(64g、552mmol)を添加した。わずかに発熱し、次に溶液を周囲温度にて3時間攪拌した。ジスクシンイミジルカーボネート(148g、578mmol)及びピリジン(48mL)を添加し、反応物を周囲温度にて一晩攪拌した。反応物は気体を放出し、ジスクシンイミジルカーボネートはゆっくりと溶解した。溶媒を減圧下、60℃で除去し、残留物を1リットルのエチルアセテート中に溶解させた。溶液を250mLの水で3回洗浄した。有機相を硫酸マグネシウムで乾燥させ、溶媒を減圧下で除去し、88.5gの発泡体を得た。発泡体は、乳鉢及び乳棒にて粉末へと粉砕し、瓶に詰めた。45〜65℃の間の広範囲の温度で加熱することによって、それは軟化して、液体へと変わる。
【0048】
実施例2C:式Cの求電子性モノマーの合成
TKHEED(40g)及びエトキシキン(1g)を乾燥アセトニトリル(400mL)及びピリジン(60mL)中に溶解させた。溶液をアルゴンでパージし、グルタル酸無水物(80g)を添加した。無水物を添加した直後に、わずかな発熱が観察された。次に、溶液を周囲温度にて3時間攪拌した。ジスクシンイミジルカーボネート(185g)を添加し、反応物を周囲温度にて一晩攪拌した。反応物は気体を放出し、ジスクシンイミジルカーボネートはゆっくりと溶解した。均一な溶液が観察された時点で、溶媒を減圧下で除去し、残留物をアセトニトリル(1L)中に溶解させ、溶液をジクロロメタン(1L)で希釈した。得られた溶液をブライン(500mL、毎回)にて2回洗浄した。有機相を硫酸マグネシウムで乾燥させ、溶媒を減圧下で除去した。残留物をアセトニトリル(200mL)中に溶解させ、エチルアセテート(2L)をゆっくりと添加した。得られた混合物を少なくとも1時間静置させ、液をデカントした。この操作を2回繰り返し、混合液からの溶媒を減圧下で除去し、粘着性の粘稠な液体(45g)を得た。
【0049】
実施例2D:式Dの求電子性モノマーの合成
TKHEED(50g、212mmol)及びエトキシキン(2g)を300mLの乾燥アセトニトリル及び150mLのピリジン中に、アルゴンでパージさせながら懸濁させた。ジグリコール酸無水物(100g、862mmol)を添加した。わずかに発熱し、混合物は均質になった。次に、溶液を周囲温度にて3時間攪拌した。ジスクシンイミジルカーボネート(225g、877mmol)を添加し、反応物を周囲温度にて一晩攪拌した。反応物は気体を放出し、ジスクシンイミジルカーボネートはゆっくりと溶解した。溶媒を減圧下で除去し、残留物(400g)を、200mLの乾燥アセトニトリル中に溶解させた。2つの75mL部の溶液を2×250mLの遠心分離ボトルに入れ、175mLのイソプロピルアルコールをそれぞれのボトルに添加した。混合物を攪拌し、次に遠心分離にかけた。液をデカントし、それぞれのボトルからの残留物を25mLの乾燥アセトニトリル中に取った。この操作を更に2回繰り返した。イソプロピルアルコールにて3回処理した後、それぞれのボトル内の残留物を25mLの乾燥アセトニトリル中に溶解させ、175mLの60:40のエチルアセテート/ヘキサンを添加した。混合物を攪拌し、次に遠心分離にかけた。液をデカントし、操作を繰り返した。それぞれのボトル内の残留物を乾燥アセトニトリル中に溶解させ、両溶液を3Lフラスコへ移した。生成物(50g)を減圧下にてオフホワイトの発泡体へと乾燥させた。材料の残りを、同様に処理して、180gの生成物を得た。発泡体を粉末へと粉砕し、ボトルへ移した。40〜55℃の間の広範囲の温度で加熱することによって、それは軟化して、液体へと変わる。
【0050】
実施例2E:式Eの求電子性モノマーの合成
TKHPED(40g、137mmol)を、機械的撹拌機を備えた2Lフラスコ内の250mLの乾燥アセトニトリル中に溶解させた。ジスクシンイミジルカーボネート(211g、824mmol)及びトリエチルアミン(157mL)を添加し、混合物を周囲温度にて一晩攪拌した。得られたスラリーを濾過し、収集した固体をアセトニトリルで洗浄した。有機層を減圧下で濃縮し、得られた残留物を800mLの塩化メチレン中に溶解させた。塩化メチレン溶液は、500mLの5%クエン酸溶液、500mLの水、及び次に500mLの飽和重炭酸ナトリウム溶液により逐次洗浄し、有機相及び水相を得た。有機相を硫酸マグネシウムで乾燥させ、溶媒を減圧下で除去して、88gの式Eの求電子性モノマーを発泡体形態で得た。得られた発泡体は、乳鉢及び乳棒にて粉末へと粉砕し、瓶に詰めた。
【0051】
実施例3A:乾燥調製物及び脾臓又は肝臓モデルの止血におけるその即効性
式Dで表されるモノマー及び分子量4,000のテトラ−armポリエチレングリコール−アミン(PEG−アミン)を、それらの当量で化学量論的に1:1に近い比率で乾燥ブレンドした。4つの2.54cm(1インチ)×2.54cm(1インチ)の正方形を、編まれた酸化再生セルロース材料にニードルパンチされた不織布ポリグラクチン基材から構成された大きな基材の片から切り出し、粉末の担体として使用した。
【0052】
約0.25gのモノマーを0.89gのPEG−アミンと共にバイアル瓶内で混合し、次に約4gのHFE 7000溶剤を混合物に添加した。この混合物をボルテックスして、2種の固体が揮発性液体中に均一に分布するようにした。得られたスラリーを不織布基材上に注いだ。乾燥粉末対不織布基材の比は、重量割合で70対30に保持した。HFE7000を5分間周囲条件下にて蒸発させ、次に得られたドライパッチを不活性雰囲気下にて、使用するまで保存した。
【0053】
ブタの脾臓での切り口の出血部位へ、粉末を組織に向けた状態で、ドライパッチを適用した。パッチの上に緩やかに圧力を加えながら湿ったガーゼを1〜3分間適用し、1/2分の間隔で観察し、止血を目視で確認した。2〜3分にて、止血が観察された。硬化した架橋ポリマーは、対象の湿組織に結合し、出血を止めるためのシーラントとして機能した。ブタの肝臓上の生検パンチにより、コインサイズの病変の円形の切り口に、同じ方法を再び行った。ここでもまた、2〜3分で、止血が完了した。
【0054】
実施例3B:破壊圧力を測定するエクスビボモデルを使用した、ブタのGI組織上のシーラントパッチの有効性
湿式付着及び破裂試験の測定のために、上記実施例3Aのパッチを使用した。試験設定は、固定治具に取り付けられたブタの腸からのGIセクションを含んでおり、ここで、2つの開放端は、圧力計及び直列の注射器エアポンプへのチュービングにつながれた。切り口中央に単一縫合閉塞のある1cmの切り口をGIセクション上に作製した。粉末を有するパッチを、GIセクション上の(中央に縫合糸を持つ)1cmの切り口上に置き、次に、得られたポリマーが硬化するまで、湿ったガーゼをパッチ上に適用した。3分後、硬化が完了した時点で、パッチはGI組織に結合して、傷口を被った。パッチとともにGIセクションを脱イオン水に浸し、GIセクションを膨張させるために、注射器エアポンプを始動させた。結合構造からの気泡の観察により、破壊箇所を確認し、圧力は、mm水銀単位にて、「破壊圧力」として記録した。
【0055】
ブタのGI組織に欠陥が全く無いベースライン破壊圧力は、約13.3kPa(約100mm Hg)であった。パッチを使用しない、単一ループ状縫合のある1cmの切り口の欠陥について観測された破壊圧力は、わずか0.13〜0.27kPa(1〜2mm Hg)であった。縫合された切り口の上にパッチを適用した場合、観察された破壊圧力は1.3〜12.3kPa(10〜90mm Hg)の範囲であった。3.3kPa(25mm Hg)以上の典型的な破壊圧力は、通常、シーラントと組織との間の結合の許容可能なレベルであると考えられた。
【0056】
破壊圧力はまた、異なった求核試薬と式Dで表されるモノマー(乾燥粉末対マトリックスの重量比が70対30)から作製された幾つかのパッチを使用して記録された。観察された破壊圧力は、アルブミンの場合5.5kPa(41mm Hg)、PEG−アミンの場合9.1kPa(68mm Hg)、及びε−ポリリシンの場合5.5kPa(41mm Hg)であった。
【0057】
実施例3C:組織へ結合するための水溶液系2成分シーラント
40重量/重量%アルブミンのリン酸緩衝生理食塩水溶液の0.63gを、1mLのNorm−JECT注射器内に引き込み、取り分けた。別個の1mLのNorm−JECT注射器内で、プランジャを取り外し、0.11gの、式Dで表される、微粉砕モノマー粉末をバレルへ添加した。プランジャを取りはずし、メス−メス型ルアーアダプターを介して、モノマーが入った注射器をアルブミンが入った注射器に取り付けた。シリンジを前後に約20回(30秒以内で)動かし、材料を混合させた。混ぜ合わされた成分が入った注射器は、1つのバレル内にあり、内容物が、取り出されたばかりのブタの腸又は心膜の上へと素早く送達された。混ぜ合わされた成分の上にポリプロピレンメッシュの細片を置き、そのままの状態で更に6分間硬化させた。T型剥離は、インストロンを使用して測定し、ここで、得られたポリマー及びメッシュは、90度の角度で、毎分20cmの一定の引っ張り速度にて、下部の組織から剥離させた。
【0058】
具体的には、ブタの心膜上にて測定したT型剥離は、PBS中40%アルブミン溶液中に直接溶解させて、総固形分%が48%となるようにした(式D対アルブミンの当量比は1:1であった)、式Dで表されるモノマーの非無菌混合物から調製して得られたポリマーについては0.58+/−0.06N/cm(N=4、破壊モード=コヒーシブ(cohesive))であり、25kGyで照射した混合物の無菌サンプルについては、0.70+/−0.15N/cm(N=5、破壊モード=コヒーシブ)であった。ブタの腸管のT型剥離データは、非無菌及び無菌、それぞれについて、0.51+/−0.03N/cm(N=5、破壊モード=コヒーシブ)及び0.52+/−0.05N/cm(N=5、破壊モード=コヒーシブ)であった。
【0059】
ブタの心膜上にて測定したT型剥離は、式Cで表されるモノマーの40%溶液中、混合物を、PBS中40%アルブミン溶液と、pH7.3にて固形分%40%で(式D対アルブミンの当量比は1.3:1であった)混合させて調製して得られたポリマーについては0.79+/−0.07N/cm(N=5、破壊モード=コヒーシブとアドヒーシブの混合)であり、そのブタの腸のT型剥離は、0.58+/−0.03N/cm(N=5、破壊モード=コヒーシブとアドヒーシブの混合)であった。
【0060】
ブタの心膜上にて測定したT型剥離は、そのpHが7.3に調整され、40%の固形分%を有する(式C対ε−ポリリシンの当量比は1:2.4であった)塩酸中の40%ε−ポリリシン溶液と混合された40%溶液中の、式Cで表されるモノマーの無菌混合物から調製して得られたポリマーについて0.52+/−0.01N/cm(N=5、破壊モード=コヒーシブの混合)であり、そのブタの腸のT型剥離は、0.50+/−0.02N/cm(N=5、破壊モード=コヒーシブとアドヒーシブの混合)であった。
【0061】
実施例3D:組織に結合するためのペースト系2成分シーラント
式Bのモノマーのポリプロピレンカーボネート中40%(重量/重量)溶液を、ウシアルブミンの乾燥粉末と、式B対アルブミンの固形分比が約30対70(重量/重量)にてブレンドして、ペーストを形成した。次に、切り口中央に単一縫合閉塞のあるブタの腸のGIセクション上に作製した1cmの切り口の上に、ペーストを適用した。湿ったガーゼを部位の上へ3分間適用し、破裂試験を水中で行なった。破壊圧力は、4.9kPa(37mm Hg)(3.9〜7.7kPa(29〜58mm Hg)の範囲)であると測定された。
【0062】
実施例3E:漏出防止又は低減のための縫合糸及びステープルにおける膨潤性コーティング
2種の異なる架橋ポリマーが、求核性部分としての、分子量4kの4−arm−PEG−アミン並びに(i)式A(Q−Glu−NHS)及び(ii)式E(Q−カーボネート−NHS)で表されるモノマーを使用して調製された。具体的には、求電子性モノマーの20重量%溶液を、1−メチル−2−ピロリドン(NMP)中で調製し、PEG−アミンの30重量%溶液もまた、NMP中で調製した。
【0063】
サイズ5〜0のポリプロピレン単繊維縫合糸は、プラズマチャンバ内で処理して、コーティングのためのその濡れ特性を向上させた。次に、縫合糸をPEG−アミン溶液中に浸漬させ、続いて対流オーブン内にて80℃で約20分間乾燥させた。その後、縫合糸を求電子性溶液(i)中に浸漬させ、80℃にて約20分間再度乾燥させて、架橋ポリマーの層を形成した。上記プロセスを逐次的に繰り返し、架橋ポリマーの5つの層を得て、PEG−アミン求核性部分の最後の最外層を得た。得られたコーティングは、非コーティング縫合糸の直径の約10%であった。コーティングの膨潤は、水と接触させることにより、1〜2分で、光学顕微鏡で観察された。膨潤後の直径は、非コーティング縫合糸の直径の約100%であると観察された。
【0064】
求電子性溶液(i)を使用してコーティングされた縫合糸は、乾燥条件下、圧力計及び生理食塩水で充填されたシリンジポンプへと直列に接続されているePTFEグラフト管を通過した。その後、シリンジポンプを使ってゆっくりとグラフト内の圧力を上昇させることによって、グラフトに生理食塩水を充填した。縫合穴を抜ける漏れ圧力を決定した。コーティングされた縫合糸は、非コーティング縫合糸と比較して、漏れが観察された箇所においてより高い圧力を示した。
【0065】
線状及び円形ステープラーと共に使用されるチタンステープルは、求電子体溶液(ii)及び上記縫合糸をコーティングするための同一手順を使用してコーティングされた。コーティングされたステープルは、スタンドにくくりつけた吊した縫合糸上にステープルを吊すことによって乾燥させた。水と接触させることで、コーティングの膨潤が顕微鏡により観察された。ステープラー(焼成プロセス中に、金属アンビルに対してこすりつけた)から焼成後、ステープル上にコーティングが存在した。
【0066】
ブタの腸(GI)の10cm腸セクションを、ステープラープラットフォームを通して引っ張り、GIの片面をステープルで留めた。臍テープで、GIを試験治具に取り付けた。治具は、それを水中に浸漬させる前に、エアポンプ及び圧力変換器に接続した。ポンプを始動させて、ステープル穴を通る水中での最初に観察した空気漏れの圧力として、漏れ圧力を記録した。非コーティングエチェロン(Echelon)(商標)60ステープルの平均漏れ圧力は、5.7kPa(43mm Hg)(N=5、標準偏差=1.2kPa(9mm Hg))であったが、一方で、求電子性溶液(ii)及びPEG−アミン求核性部分から作製されたコーティングステープルは、9.6kPa(72mmHg)(N=5、標準偏差=1.7kPa(13mm Hg))の漏れ圧力を示した。
【0067】
〔実施の態様〕
(1) 次式で表され、
【化17】

式中、R=CH、H、CHCH又はその他のアルキル基であり、R=H、C(O)CHOCHCOOH、n=1〜4のC(O)(CHCOOH、又はこれらの組み合わせである、誘導体化三級アミン。
(2) 次式で表され、
【化18】

式中、R=CH、H、CHCH又はその他のアルキル基であり、R=C(O)OX、C(O)CHOCHY、C(O)(CHY又はこれらの組み合わせであり、ここで、X=NHS又はNHM、n=1〜4、かつY=NCO、C(O)O(NHS)、C(O)O(NHM)又はC(O)Hである、誘導体化三級アミンモノマー。
(3) (a)実施態様2に記載の1種以上の誘導体化三級アミンモノマー、及び、
(b)アミン又はチオール官能基を有する1種以上の求核性部分、を含む、接着剤又はシーラント系。
(4) 構成成分(a)及び(b)が、医学的用途にて使用する前に別個に保持される、実施態様3に記載の接着剤。
(5) 構成成分(a)及び(b)が混合される、実施態様3に記載の接着剤。
(6) 構成成分(a)及び(b)が、医学的用途にて使用する前に混合される、実施態様3に記載の接着剤。
(7) 実施態様2に記載の1種以上の誘導体化三級アミンモノマー、及びアミン又はチオール官能基を有する1種以上の求核性部分の反応生成物である、接着剤、シーラント又はポリマー。
(8) 吸収性又は非吸収性基材、並びに、
(a)乾燥ブレンドであって、
i.
【化19】

及び、
【化20】

からなる群から選択される1種以上のモノマー、並びに、
ii.アミン官能基を前記基材上に有する水溶性求核性部分、
の乾燥ブレンドを更に含む、実施態様3に記載の接着剤又はシーラント系。
(9) 前記求核性部分が、ε−ポリリシン、ポリリシン又はPEG−アミンである、実施態様8に記載の接着剤又はシーラント系。
(10) 少なくとも第1チャンバ及び第2チャンバを含む送達装置であって、
【化21】

及び、
【化22】

から選択される少なくとも1種のモノマーが、前記第1チャンバ内にあり、アミン官能基を有する水溶性求核性部分が前記第2チャンバ内にある、送達装置を更に含む、実施態様3に記載の接着剤又はシーラント系。
【0068】
(11) 前記求核性部分が、アルブミン又はε−ポリリシンである、実施態様10に記載の接着剤又はシーラント系。
(12) 前記求核性部分が、前記第2チャンバ内の水溶液中にある、実施態様11に記載の接着剤又はシーラント系。
(13) ペーストの形態であり、かつ次式:
【化23】

で表されるモノマー、及びアルブミンを含む、実施態様3に記載の接着剤又はシーラント系。
(14) 縫合糸、ステープル、血管グラフト、縫合糸結紮クリップ、整形外科用ピン、クランプ、ネジ、プレート又はクリップ、及び上にコーティングされる実施態様7に記載のポリマーを含有する、医療装置。
(15) 前記ポリマーが、
【化24】

又は、
【化25】

及びPEGアミンの反応生成物である、実施態様14に記載の医療装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次式で表され、
【化1】

式中、R=CH、H、CHCH又はその他のアルキル基であり、R=H、C(O)CHOCHCOOH、n=1〜4のC(O)(CHCOOH、又はこれらの組み合わせである、誘導体化三級アミン。
【請求項2】
次式で表され、
【化2】

式中、R=CH、H、CHCH又はその他のアルキル基であり、R=C(O)OX、C(O)CHOCHY、C(O)(CHY又はこれらの組み合わせであり、ここで、X=NHS又はNHM、n=1〜4、かつY=NCO、C(O)O(NHS)、C(O)O(NHM)又はC(O)Hである、誘導体化三級アミンモノマー。
【請求項3】
(a)請求項2に記載の1種以上の誘導体化三級アミンモノマー、及び、
(b)アミン又はチオール官能基を有する1種以上の求核性部分、を含む、接着剤又はシーラント系。
【請求項4】
構成成分(a)及び(b)が、医学的用途にて使用する前に別個に保持される、請求項3に記載の接着剤。
【請求項5】
構成成分(a)及び(b)が混合される、請求項3に記載の接着剤。
【請求項6】
構成成分(a)及び(b)が、医学的用途にて使用する前に混合される、請求項3に記載の接着剤。
【請求項7】
請求項2に記載の1種以上の誘導体化三級アミンモノマー、及びアミン又はチオール官能基を有する1種以上の求核性部分の反応生成物である、接着剤、シーラント又はポリマー。
【請求項8】
吸収性又は非吸収性基材、並びに、
(a)乾燥ブレンドであって、
i.
【化3】

及び、
【化4】

からなる群から選択される1種以上のモノマー、並びに、
ii.アミン官能基を前記基材上に有する水溶性求核性部分、
の乾燥ブレンドを更に含む、請求項3に記載の接着剤又はシーラント系。
【請求項9】
前記求核性部分が、ε−ポリリシン、ポリリシン又はPEG−アミンである、請求項8に記載の接着剤又はシーラント系。
【請求項10】
少なくとも第1チャンバ及び第2チャンバを含む送達装置であって、
【化5】

及び、
【化6】

から選択される少なくとも1種のモノマーが、前記第1チャンバ内にあり、アミン官能基を有する水溶性求核性部分が前記第2チャンバ内にある、送達装置を更に含む、請求項3に記載の接着剤又はシーラント系。
【請求項11】
前記求核性部分が、アルブミン又はε−ポリリシンである、請求項10に記載の接着剤又はシーラント系。
【請求項12】
前記求核性部分が、前記第2チャンバ内の水溶液中にある、請求項11に記載の接着剤又はシーラント系。
【請求項13】
ペーストの形態であり、かつ次式:
【化7】

で表されるモノマー、及びアルブミンを含む、請求項3に記載の接着剤又はシーラント系。
【請求項14】
縫合糸、ステープル、血管グラフト、縫合糸結紮クリップ、整形外科用ピン、クランプ、ネジ、プレート又はクリップ、及び上にコーティングされる請求項7に記載のポリマーを含有する、医療装置。
【請求項15】
前記ポリマーが、
【化8】

又は、
【化9】

及びPEGアミンの反応生成物である、請求項14に記載の医療装置。

【公表番号】特表2011−503214(P2011−503214A)
【公表日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−534275(P2010−534275)
【出願日】平成20年11月19日(2008.11.19)
【国際出願番号】PCT/US2008/083996
【国際公開番号】WO2009/067491
【国際公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(591286579)エシコン・インコーポレイテッド (170)
【氏名又は名称原語表記】ETHICON, INCORPORATED
【Fターム(参考)】