説明

誘導加熱用クラッド材

【課題】表面均熱性に優れ、しかも熱変形を容易に抑制することができる誘導加熱用クラッド材を提供する。
【解決手段】磁性材で形成された磁性層1と、前記磁性層1に積層された変形防止層2と、前記変形防止層2に積層された均熱層3を備え、前記均熱層3は純Cu、純Al、熱伝導率が100W/(m・K)以上のCu合金またはAl合金から選択された高熱伝導金属で形成され、前記変形防止層2は、前記磁性層1を形成する磁性材の熱膨張率の90%以下の熱膨張率を有する低熱膨張金属で形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱器や調理器などに用いられる誘導加熱用材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、調理器、加熱器などの誘導加熱用材料として炭素鋼板や磁性ステンレス鋼板が用いられてきたが、これらの板材を単層材として用いる場合、板厚が薄いと発熱部と周辺部との温度差により熱変形が生じ、加熱効率や温度制御性の低下、被処理物の姿勢の不安定化などの問題が生じる。このため、板厚が16〜20mm程度の厚いものが用いられていた。しかし、このような板厚では、温度上昇に時間を要し、温度制御性に劣り、また重量が重いという問題がある。
【0003】
そこで、このような問題を改善すべく、特開平6−141979号公報(特許文献1)には、3層構造の誘導加熱用複合材が提案されている。この誘導加熱用複合材は、炭素鋼やステンレス鋼板からなる、厚さ数ミリ程度の磁性層の上に、熱伝導性に優れた銅又は銅合金からなる中間層を積層し、さらにその上に耐食性の向上を企図して板厚0.3〜2mm程度のステンレス鋼板からなる表面層を積層したものである。
【0004】
しかし、前記特許文献1に記載の誘導加熱用複合材でも、熱膨張係数の大きい銅材で形成された中間層とこれに比して熱膨張係数が小さい磁性層とが接合されているため、やはり比較的大きい熱変形が発生する。前記表面層のステンレス鋼板は、磁性層と相まって中間層の熱膨張を抑制するように作用するが、この表面層は耐食性改善のために積層されたものであるため、板厚が0.3〜2mm程度と薄く、変形防止には有効に作用しない。このため、従来の単層部材に比して薄いとはいえ、全体の層厚が6〜12mm程度は必要とされている。
【0005】
また、特開2001−18075号公報(特許文献2)には、磁性層に、銅あるいはアルミニウムで形成した中間層を積層し、その上に熱変形防止層を形成した誘導加熱用複合材が記載されている。この複合材では、磁性層と熱変形防止層とを同じ材料で形成することにより熱変形を防止することができる。しかし、熱膨張率の大きい中間層の熱変形を防止するためには、熱変形防止層をある程度の厚さに形成する必要がある。また、表面側に熱伝導性に優れた層が配置されていないため、表面均熱性に劣るという問題がある。
【特許文献1】特開平6−141979号公報
【特許文献2】特開2001−18075号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる問題に鑑みなされたもので、表面均熱性に優れ、しかも熱変形を容易に抑制することができる誘導加熱用クラッド材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る誘導加熱用クラッド材は、磁性材で形成された磁性層と、前記磁性層に積層された変形防止層と、前記変形防止層に積層された均熱層を備え、前記均熱層は、純Cu、熱伝導率が100W/(m・K)以上のCu合金、純Al、熱伝導率が100W/(m・K)以上のAl合金から選択された高熱伝導金属で形成され、前記変形防止層は、前記磁性層を形成する磁性材の熱膨張率の90%以下の熱膨張率を有する低熱膨張金属で形成されたものである。
【0008】
本発明のクラッド材によると、表面側に熱伝導率の高い高熱伝導金属で形成された均熱層を備えるので、表面均熱性に優れる。また、磁性層と均熱層との間には磁性材の熱膨張率の90%以下の低熱膨張金属で形成された変形防止層が配置されているので、磁性層と変形防止層とが磁性層側が凸になるように変形しようとすると共に均熱層と変形防止層とは均熱層側が凸になるように変形しようとするため、両変形を互いに相殺させることができ、クラッド材の平坦性を容易に改善することができる。また、変形防止層は磁性材に比して所定比率の熱膨張率の低熱膨張金属で形成されるため、その厚さを薄く形成することができ、クラッド材の全体厚さを薄くすることができる。これらの効果が相まって平坦性、加熱効率、温度制御性を向上させることができる。
【0009】
また、磁性層は電磁誘導加熱のための有効磁束を確保すると共に磁束の浸透深さを超えて厚くする必要がないので0.2〜0.8mm程度でよく、また均熱層は高熱伝導金属で形成されるため、表面均熱性を確保するには0.2〜0.8mm程度でよい。磁性層、均熱層を0.2〜0.8mm程度とすることで、変形防止層も1mm程度以下にすることができ、クラッド材の全体厚さを薄くすることができ、加熱効率、温度制御性をさらに向上することができる。
【0010】
また、前記磁性層は磁性ステンレス鋼で形成することが好ましい。磁性ステンレス鋼は、耐食性を備え、比較的安価な材料で、さらに熱膨張係数が10.0×10-8/K程度と比較的大きいため、変形防止層を形成する低熱膨張金属を広範囲の材料から容易に選択することができる。
【0011】
また、前記変形防止層を形成する低熱膨張金属としては、磁性金属が好ましい。前記変形防止層を磁性金属で形成することにより、磁性層を磁束の浸透深さより厚い層厚とした場合でも磁性層から漏れ出た磁束によって発熱するため加熱効率を向上させることができる。また、磁性層を磁束の浸透深さより薄くしても、変形防止層において誘導加熱により発熱するため、磁性層の厚さ低減と相まって、優れた加熱効率が得られる。
【0012】
前記変形防止層を形成する磁性金属としてはFe−Ni合金、Fe−Ni−Co合金、Fe−Ni−Cr合金などの磁性FeNi系合金が好ましい。これらのFe系合金は、Niなどの合金元素量によって熱膨張係数の調整が容易であり、汎用材であるため容易に入手することができ、コスト的にも有利である。
【0013】
また、上記クラッド材において、均熱層の上に表面保護層を形成することができる。表面保護層を形成することにより、均熱層の表面酸化や表面腐食を防止することができ、耐久性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の誘導加熱用クラッド材によれば、均熱層を表面側に配置し、磁性層を形成する磁性材の熱膨張率より所定量小さい熱膨張率を有する低熱膨張金属で形成された変形防止層を前記均熱層と磁性層との間に設けたので、表面均熱性に優れ、また薄い変形防止層にによりクラッド材の平坦性を容易に改善することができ、加熱効率、温度制御性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は本発明の実施形態にかかる誘導加熱用クラッド材の断面構造を示しており、磁性材で形成された磁性層1と、その上に接合された変形防止層2と、さらにその上に接合された均熱層3とを備えている。前記クラッド材は、適宜の形態に加工された後、前記磁性層1の外方(下方)に電磁コイルを設け、これによって発生した交番磁界により、前記磁性層1を電磁誘導加熱し、発生した熱を変形防止層2及び均熱層3に伝導して、前記均熱層3の表面側に設けた被加熱処理物を加熱する。
【0016】
前記磁性層1を形成する磁性材としては、最大比透磁率が4000程度以上のFe系磁性金属が好ましく、例えば、磁性軟鉄、磁性ステンレス鋼、Fe−Ni合金、Fe−Ni−Cr合金を用いることができる。特に、磁性ステンレス鋼は、磁性軟鉄に比して耐食性が良好で、他の合金材料に比して安価であり、熱膨張係数が10.0×10-3/Kと比較的大きく、後述する変形防止層を形成する低熱膨張金属の選択肢が広がるため好適である。好ましい磁性材の例を最大比透磁率、熱膨張係数と共に下記表1に示す。なお、最大比透磁率は、測定試料を1100℃で3hr保持後、600℃から100℃/secで冷却し、JIS C2531に則り測定した値である。
【0017】
【表1】

【0018】
前記均熱層3は、表面均熱性を確保するため、熱伝導率が100W/(m・K)以上、好ましくは200W/(m・K)以上の高熱伝導金属で形成される。このような高熱伝導金属として、Cu系金属すなわち純CuあるいはCuが80mass%以上、好ましくは90mass%以上、より好ましくは95mass%以上のCu合金を用いることができる。また、Al系金属すなわち純AlあるいはAlが80mass%以上、好ましくは90mass%以上、より好ましくは95mass%以上のAl合金を用いることができる。これらの高熱伝導金属の具体例をその熱的特性と共に下記表2に示す。
【0019】
【表2】

【0020】
前記変形防止層2を形成する低熱膨張金属としては、その熱膨張率が前記磁性層1を形成する磁性金属の熱膨張率の90%以下のFe合金を用いることが好ましい。また、前記均熱層3を形成する高熱伝導金属の熱膨張係数が小さいほど、均熱層3と変形防止層2との熱変形が抑制されるように、熱膨張係数の小さい低熱膨張金属を用いることが好ましい。例えば、均熱層3をAl系金属で形成した場合はその熱膨張率の90%以下、均熱層3をCu系金属で形成した場合はその熱膨張率の80%以下の熱膨張率を有する低熱膨張金属が好ましい。低熱膨張金属の熱膨張率の下限は特に制限されないが、あまりに小さいと均熱層と変形防止層との境界に大きな応力が生じるようになるので、熱膨張率の下限は20%程度、好ましくは30%程度に止めるのがよい。
【0021】
前記低熱膨張金属としては、Fe−Ni合金、Fe−Ni−Co合金、Fe−Ni−Cr合金が好適である。これらのFeNi系合金はNi量を調整することで幅広く熱膨張率を調整することができる。また、これらのFeNi系合金は磁性金属であるため、熱変形の防止を図りながら、誘導加熱により発熱するため、磁性層の厚さを磁束の浸透深さより薄くすることができ、引いてはクラッド材の全体厚さを容易に薄くすることができ、優れた加熱効率を得ることができる。また、磁性層が磁束の浸透深さより厚い場合でも漏れ磁束により発熱し、加熱効率を向上させることができる。FeNi系低熱膨張金属の例をその前記最大比透磁率、熱膨張係数と共に下記表3に示す。上記のとおり、表1に示すFe−Ni−Cr合金も低熱膨張金属として用いることができ、その熱膨張係数については同表に示す。
【0022】
【表3】

【0023】
前記磁性層1の厚さは、0.2〜0.8mm程度が好ましい。磁性層1を通過する有効磁束を十分確保するには少なくとも0.2mmは必要であり、一方0.8mmを超えて厚くしても磁性層1を通過する磁束の浸透深さを超えるために発熱には必要でない。このため、磁性層1の厚さの下限を0.2mm、好ましくは0.4mmとし、その上限を0.8mm、好ましくは0.7mmとするのがよい。なお、変形防止層2を前記磁性FeNi系合金で形成する場合、変形防止層2も誘導加熱による発熱に寄与するので、磁性層1の厚さは0.1〜0.2mm程度でもよい。
【0024】
また、前記均熱層3の厚さは、0.2〜0.8mm程度が好ましい。0.2mm未満では表面均熱性が不十分となり、0.8mmを超えても均熱効果が飽和し、加熱効率が低下するようになる。このため、均熱層の厚さの下限は0.2mm、好ましくは0.3mmとし、その上限を0.8mm、好ましくは0.6mmとするのがよい。
【0025】
前記変形防止層2の厚さは、均熱層側と磁性層側の熱変形が相殺されるように設定すればよいが、本発明では変形防止層2を形成する低熱膨張金属の熱膨張率を磁性層1の熱膨張率に応じて小さく設定しているので、比較的薄い厚さにすることができる。このため、磁性層1、均熱層3をそれぞれ0.2〜0.8mm程度に設定する場合、クラッド材の全体厚さも3mm程度以下に抑えることができ、優れた加熱効率が得られる。熱変形が生じないようにするには、上記のとおり、変形防止層2の厚さを調整すればよいが、このほか前記均熱層3、磁性層1の厚さを所定範囲内で調整するようにしてもよい。特に、均熱層3は熱膨張率が磁性金属に比して大きいので、厚さ調整効果は大きい。
【0026】
前記クラッド材は、磁性層1の元になる磁性金属シートと変形防止層2の元になる低熱膨張金属シートとを重ね合わせて冷間でロール圧接(圧下率50〜80%)し、得られた二層シートに必要に応じて中間焼鈍を施した後、その変形防止層側に均熱層3の元になる高熱伝導金属シートを重ね合わせて冷間あるいは温間でロール圧接(圧下率50〜80%)し、得られた3層複合シートに拡散焼鈍を行った後、目的の厚さになるように冷間圧延することにより製造される。前記中間焼鈍は、焼鈍温度800〜1100℃程度、保持時間は1〜3分程度とすればよく、一方前記拡散焼鈍は、高熱伝導金属としてCu系金属を用いた場合は700〜1000℃程度、Al系金属を用いた場合は400〜600℃程度で、保持時間は1〜3分程度とすればよい。
【0027】
図2は、第2実施形態にかかる誘導加熱用クラッド材であり、このクラッド材は、磁性層1、変形防止層2及び均熱層3が同順序で接合されたクラッド材本体を備え、さらに前記均熱層3の上に表面保護層4が形成されたものである。前記表面保護層4としては、均熱層3を形成する高熱伝導金属よりも耐食性や耐酸化性の良好な材料のめっき皮膜、蒸着皮膜、陽極酸化皮膜などを用いることができる。例えば、均熱層をCu系金属で形成した場合、Niめっき皮膜(膜厚2〜60μm 程度)、TiN蒸着皮膜(膜厚0.2〜2μm 程度)、あるいはNiめっき皮膜の上にTiN蒸着皮膜を積層させた複合皮膜を用いることができ、また均熱層をAl系金属で形成した場合、酸化アルミニウム皮膜を用いることができる。
【0028】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はかかる実施例によって限定的に解釈されるものではない。
【実施例】
【0029】
全体の厚さが2mm程度以下になるように磁性層1、変形防止層2、均熱層3をこの順序で接合した、図1の構成のクラッド材の試料を室温(25℃程度)で製作した。また、比較のため、磁性層1と均熱層3のみを接合した比較例に係るクラッド材の試料も製作した。各試料における各層の材質、層厚、熱膨張係数などを表4に併せて示す。なお、純CuはJIS規定C1020(無酸素銅)、純AlはJIS規定A1050Pを用いた。
【0030】
上記クラッド材から圧延方向が長さ方向となるようにして幅10mm、長さ200mmの短冊形試験片を採取し、加熱試験を行った。試験要領は、図3に示すように、前記試験片Sの均熱層3を上側とし、無拘束長さLが150mmになるように試験片Sの端部をクランプ11に固定し、室温から100℃に加熱し、熱変形により湾曲状に反った試験片Sの先端における反り量Dを測定し、反り率(D/L×100%)を求めた。測定結果を表4に併せて示す。なお、表中、反り率が正値は図のように均熱層側(上側)への反りを、負値は磁性層側への反りを示す。
【0031】
表4より、変形防止層2を備えていない試料No. 20では、熱変形が生じにくいように磁性層を1.8mmと厚くし、均熱層を0.2mmと薄くしたが、反り率は1.0%であった。一方、磁性層1を形成する磁性ステンレス鋼(SUS430)、Fe−45%Ni合金の熱膨張率に対して、87〜20%の熱膨張率を有する低熱膨張金属で変形防止層2を形成することにより、クラッド材の全体厚さを2mm程度以下に押さえつつ、反り率を0.5%以下に止めることができ、熱変形が50%以上改善された。
【0032】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】実施形態に係る誘導加熱用クラッド材の断面説明図である。
【図2】表面保護層を有する他の実施形態に誘導加熱用クラッド材の断面説明図である。
【図3】熱変形を評価するための加熱試験要領を示す説明図である。
【符号の説明】
【0034】
1 磁性層
2 変形防止層
3 均熱層
4 表面保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性材で形成された磁性層と、前記磁性層に積層された変形防止層と、前記変形防止層に積層された均熱層を備え、
前記均熱層は、純Cu、熱伝導率が100W/(m・K)以上のCu合金、純Al、熱伝導率が100W/(m・K)以上のAl合金から選択された高熱伝導金属で形成され、
前記変形防止層は、前記磁性層を形成する磁性材の熱膨張率の90%以下の熱膨張率を有する低熱膨張金属で形成された、誘導加熱用クラッド材。
【請求項2】
前記磁性層および均熱層の厚さがそれぞれ0.2〜0.8mmとされた、請求項1に記載したクラッド材。
【請求項3】
前記磁性層が磁性ステンレス鋼で形成された、請求項1又は2に記載したクラッド材。
【請求項4】
前記変形防止層が磁性金属で形成された、請求項1から3のいずれか1項に記載したクラッド材。
【請求項5】
前記変形防止層を形成する磁性金属が磁性FeNi系合金である、請求項4に記載したクラッド材。
【請求項6】
前記均熱層の上に表面保護層が形成された、請求項1から5のいずれか1項に記載したクラッド材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−228853(P2008−228853A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−69904(P2007−69904)
【出願日】平成19年3月19日(2007.3.19)
【出願人】(304051908)株式会社NEOMAXマテリアル (50)
【Fターム(参考)】