説明

誘導加熱装置、および誘導加熱方法

【課題】処理量低減時においても温度履歴曲線を最適に保つことができ、被加熱物同士の溶着等の不具合を抑制することのできる誘導加熱装置を提供する。
【解決手段】少なくとも、ビレット材24を搬送するピンチローラ22と、ビレット材24を加熱するための誘導加熱コイル12(12a,12b)、および誘導加熱コイル12に対して電力を投入する電源部18を有する誘導加熱装置10であって、誘導加熱コイル12は、ピンチローラ22によってビレット材24が搬送される搬送路を囲繞するように、予め定められた加熱領域毎に複数設けられ、各誘導加熱コイル12a,12bは、電源部18に対して並列接続されると共に、個別に共振回路を有し、電源部18と前記共振回路との間には、第1誘導加熱コイル12aを個別に電気的に接離可能とする接離手段16を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導加熱装置、および誘導加熱方法に係り、特に連続加熱方式でビレットを加熱するための誘導加熱装置、および誘導加熱方法に関する。
【背景技術】
【0002】
連続加熱方式のビレット材誘導加熱装置は、加熱コイルの電流密度(=巻数)分布と材料の熱損失のバランスにより、加熱時の昇温履歴曲線が決まる。通常、最も均熱時間を必要とする最大処理量運転時に断面方向温度ムラが許容値以内に収まるように電流密度分布が決定され、昇温履歴曲線は最大処理時に最適化されるように制御されている。
【0003】
しかし、実際の処理量範囲は、材料寸法の違いなどにより最大処理量の1/2〜1/3程度までの減処理運転能力が要求される。
1電源方式の場合誘導加熱コイル内の電流密度分布を変更することが出来ない為、処理量が小さくなると誘導加熱コイル後半の投入電力に対する熱損失の割合が大きくなり、必要以上に長い誘導加熱コイルの為に、昇温履歴曲線は、誘導加熱コイル内で温度ピークを発生し、出口付近で温度が低下するような履歴となる(図4参照)。その為、誘導加熱コイル内オーバーヒートや高温保持時間が長くなることによる材料間接合(溶着)を発生させる要因となる。このような事象に対しては対策として、誘導加熱コイルの長さを短くした減処理用の誘導加熱コイルを別に用意することで、誘導加熱コイルを切替ての運転を行うようにしている。しかしこのような対策では、材料径や処理量の変更範囲が広いと何種類もの減処理用誘導加熱コイルを用意する必要があり、費用的な負担が大きくなってしまう。
【0004】
また、多電源方式の場合、処理量に応じた誘導加熱コイル前後半各部の電流密度分布の変更が可能であるが、構成機器の増加によるコスト増に対する効果が小さく、費用対効果によるメリットが少ない。例えば特許文献1では、前半誘導加熱コイルでの加熱温度を通常よりも低く設定し、後半誘導加熱コイルにより最終調整を行うようにしている。
【0005】
また、連続加熱式のビレット材誘導加熱装置では無いが、バー材の誘導加熱装置として、特許文献2に開示されているようなものが知られている。特許文献2に開示されている誘導加熱装置は、ウォーキングビーム炉による加熱時に生ずるスキッドマークを解消するための加熱炉であり、スキッドマークの間隔程度の隙間をあけて配置された複数の加熱コイルを有する。複数の誘導加熱コイルは、電源部に対して並列に接続されており、バー材の長さに応じて使用する誘導加熱コイルの総長を変化させることを可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−249478号公報
【特許文献2】特開2007−144475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示されているような誘導加熱装置では、前半誘導加熱コイルと後半誘導加熱コイルとの間における温度低下に起因する温度ムラの発生は否めず、最適なヒートパターンを得る事が難しい。
また、特許文献2に開示されている誘導加熱装置は、実質的にバー材を静止加熱するための装置であり、連続加熱におけるヒートパターン改善には寄与しない。
【0008】
そこで本発明では、処理量低減時においても温度履歴曲線を最適に保つことができ、被加熱物同士の溶着等の不具合を抑制し、被加熱物加熱時の歩留まりを向上させることのできる安価な誘導加熱装置、および誘導加熱方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明に係る誘導加熱装置は、少なくとも、被加熱部材を搬送する搬送手段と、前記被加熱物を加熱するための誘導加熱コイル、および前記誘導加熱コイルに対して電力を投入する電源部を有する誘導加熱装置であって、前記誘導加熱コイルは、前記搬送手段によって前記被加熱部材が搬送される搬送路を囲繞するように、予め定められた加熱領域毎に複数設けられ、各誘導加熱コイルは、前記電源部に対して並列接続されると共に、個別に共振回路を有し、前記電源部と前記共振回路との間には、前記各誘導加熱コイルを個別に電気的に接離可能とする接離手段を備えたことを特徴とする。
【0010】
また、上記のような特徴を有する誘導加熱装置では、前記搬送手段による前記被加熱部材の搬送速度の最高速度を基準とし、前記搬送速度の低下に合わせて前記接離手段を離間状態に切替える接離手段制御部を備えるようにすると良い。
このような構成とすることにより、処理量低減時においても自動で、被加熱物の温度履歴曲線を最適なものとすることができる。
【0011】
さらに、上記のような特徴を有する誘導加熱装置において、前記接離手段は、前記搬送路の入口側に位置する誘導加熱コイルに接続されたものから出口側に位置する誘導加熱コイルに接続されたものへと順次離間状態とすると良い。
このような構成とすることにより、加熱開始から終了までの間に温度が上下する虞が無い。また、搬送路の出口にて最適温度に設定することが可能となる。
【0012】
また、上記目的を達成するための本発明に係る誘導加熱方法は、連続加熱型の誘導加熱装置における被加熱物の誘導加熱方法であって、前記被加熱物の搬送経路に直列に配置された誘導加熱コイルの稼動状態を、前記被加熱物の搬送速度に応じて変化させることを特徴とする。
【0013】
また、上記のような特徴を有する誘導加熱方法において前記誘導加熱コイルの稼動状態は、前記被加熱物の最高搬送速度を基準とし、前記搬送速度の低下に伴い、稼動させる前記誘導加熱コイルを減少させるようにすると良い。
このような方法を採ることにより、処理量低減時においても自動で、被加熱物の温度履歴曲線を最適なものとすることができる。
【0014】
さらに、上記のような特徴を有する誘導加熱方法において前記稼動させる誘導加熱コイルの減少は、前記被加熱物の搬送路における入口側から出口側にかけて順次行うことが望ましい。
このような方法を採ることにより、加熱開始から終了までの間に温度が上下する虞が無い。また、搬送路の出口にて最適温度に設定することが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
上記のような特徴を有する誘導加熱装置、および方法によれば、処理量低減時においても温度履歴曲線を最適に保つことができるようになる。また、被加熱物が高温状態に保持される時間が長期化する虞が無くなるため、被加熱物同士の溶着等の不具合を抑制することができる。このため、被加熱物加熱時の歩留まりを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1の実施形態に係る誘導加熱装置の構成を示す図である。
【図2】実施形態に係る誘導加熱装置を用いた場合の最大処理量時におけるビレット材の温度履歴曲線と、1/2減処理時におけるビレット材の温度履歴曲線を示すグラフである。
【図3】第2の実施形態に係る誘導加熱装置の構成を示す図である。
【図4】従来の誘導加熱装置の最大処理量時におけるビレット材の温度履歴曲線と、1/2減処理時におけるビレット材の温度履歴曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の誘導加熱装置、および誘導加熱方法に係る実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
まず、図1を参照して、第1の実施形態に係る誘導加熱装置について説明する。本実施形態に係る誘導加熱装置10は、連続加熱方式のビレット材加熱用のものである。実施形態に係る誘導加熱装置10は、スキッドレール20と、ピンチローラ22、誘導加熱コイル12(12a,12b)、電源部18、およびケーシング26を基本として構成される。
【0018】
スキッドレール20は、詳細を後述する誘導加熱コイル12が備えられた加熱炉内へ被加熱物であるビレット材24を搬送するためのレールである。スキッドレール20は耐熱部材により構成されると共に、内部を中空構造とされ、レール自体が過加熱されてしまうことを防止するための冷媒を送通可能に形成されている。
【0019】
ピンチローラ22は、加熱炉の入口側に配置された一対のローラである。対を成すローラは互いに逆向きの回転をしており、対を成すローラ間に供給されるビレット材24を加熱炉内へ押し出す役割を担う。
【0020】
誘導加熱コイル12は、電磁誘導の作用によりビレット材24を加熱する役割を担う。本実施形態における誘導加熱コイル12は、加熱炉の入口側に配置された第1誘導加熱コイル12aと、出口側に配置された第2誘導加熱コイル12bから成る。各誘導加熱コイル12は、スキッドレール20上を搬送されるビレット材24の断面方向中心が中心位置となるように、ビレット材24の送通路を螺旋状に囲繞する銅管である。内部を中空とすることで、過加熱防止用の冷媒を送通させることが可能となる。
【0021】
電源部18は、図示しない三相交流電源、整流器としてのコンバータ(不図示)、および電力制御を行うインバータ(不図示)などから成り、誘導加熱コイル12へ供給する電力の制御を行う役割を担う。
【0022】
ケーシング26は、加熱炉内におけるビレット材24の送通路を保温すると共に、誘導加熱コイル12によって生ずる磁力線が外部へ漏洩することを抑制する役割を担うカバーである。
【0023】
このような基本構成を有する誘導加熱装置10において、第1誘導加熱コイル12aと第2誘導加熱コイル12bはそれぞれ、電源部18に対して並列に接続される構成を採る。具体的には、電源部18における図示しないインバータに対して、第1誘導加熱コイル12aと第2誘導加熱コイル12bとが並列に接続されることとなる。電源部18と各誘導加熱コイル12との間には、それぞれ共振回路が構成される。本実施形態の場合、電源部18との関係で、並列共振回路を構成することとなるため、各誘導加熱コイル12には並列に、共振コンデンサ14(14a,14b)が配置される。
【0024】
実施形態に係る誘導加熱装置10は、第1誘導加熱コイル12aを有する共振回路と電源部18との間に、第1誘導加熱コイル12aを電気的に接離可能とする接離手段16を有する。このような構成とすることで、ビレット材24の処理量の多寡に応じて使用する誘導加熱コイル12の稼動範囲を切り替えることができる。これにより、ビレット材24の送り速度に対応した加熱温度、および時間の制御が可能となり、誘導加熱コイル12内におけるビレット材24の温度履歴曲線を最適な状態とすることができる。
【0025】
例えば、ビレット材24の処理量が最大、すなわちピンチローラ22による送り速度が最速に設定された場合、接離手段16を接続状態(ON)にし、ビレット材24の加熱処理を行う。一方、ビレット材24の処理量が最大処理量の1/2に設定された場合、すなわちピンチローラ22による送り速度が最速時の1/2の速度に設定された場合には、接離手段16を離間状態(OFF)にして、ビレット材24の加熱処理を行う。
【0026】
このようにしてビレット材24の熱処理を行なうことにより、図2に示すように、最大処理量、1/2減処理量のいずれの場合であっても、ビレット材24は加熱炉の出口付近で温度がピークとなる最適な温度履歴曲線を得ることとなる。このため、オーバーヒートや、高温保持時間の長期化による溶着の発生を抑えることができ、ビレット材熱処理の歩留まりを向上させることができる。
【0027】
次に、本発明の誘導加熱装置に係る第2の実施形態について、図3を参照して説明する。本実施形態に係る誘導加熱装置の基本的構成は、図1に示した第1の実施形態に係る誘導加熱装置10と同様である。よって、その構成を同一とする箇所には、図面に100を足した符号を付して、詳細な説明は省略する。
【0028】
本実施形態に係る誘導加熱装置110は、加熱炉に配置される誘導加熱コイル112をさらに細分化したことを特徴とする。図3には、誘導加熱コイル112を第1の誘導加熱コイル112aから第5の誘導加熱コイル112eまでの5つに分割した場合の例を示す。各誘導加熱コイル112は、第1の実施形態と同様に、電源部に対して並列となるように接続されている。各誘導加熱コイル112には、電源部118との間で共振回路を構成する共振コンデンサ114(114a〜114e)が設けられている。また、第1の誘導加熱コイル112aから第4の誘導加熱コイル112dには、共振回路と電源部118との間にそれぞれ接離手段116(116a〜116d)を設けている。
【0029】
このような構成とすることによれば、例えば処理量を20%減少させる毎に1つの誘導加熱コイル112を電気的に切り離すようにすることで、最大処理量から50%以下の処理量(単純計算すると20%まで)に至るまで、処理対象とされるビレット材は、常に最適な昇温履歴曲線を得ることとなる。
なお、このような構成とする場合、ピンチローラ122によるビレット材の搬送速度(ピンチローラ122の回転速度)を検出する搬送速度検出手段130と、接離手段制御部132を設けるようにしても良い。
【0030】
接離手段制御部132には、ピンチローラ122の回転速度、すなわちビレット材の処理量に対する稼動誘導加熱コイル112の数を予め定めたマッチングテーブルを記憶させておく。そして、接離手段制御部132は、搬送速度検出手段130により検出された搬送速度(回転速度)に対して、マッチングテーブルに定められた数の誘導加熱コイル112を稼動させるように接離手段116を接続、または離間させる。
【0031】
このような制御を行うことで、下流側の加工装置のトラブルにより、ビレット材の搬送速度が極度に低下された場合であっても、それに対応した加熱パターンを自動で選択することができ、最適なヒートパターンを得ることができるようになり、ビレット材のムダ焼き等を減らすことができる。なお、このような処理を行う場合、接離手段116の離間は、ビレット材搬送路の入口側(白抜き矢印で示す第1誘導加熱コイル112a側)から出口側に向けて順次成されるようにする。
【産業上の利用可能性】
【0032】
上記実施形態においては、被加熱物をビレットとして説明したが、ビレット以外を被加熱物として連続加熱する加熱炉に対しても、本願における誘導加熱装置、および方法を適用することができる。
【符号の説明】
【0033】
10………誘導加熱装置、12(12a,12b)………誘導加熱コイル(第1誘導加熱コイル,第2誘導加熱コイル)、14(14a,14b)………共振コンデンサ、16………接離手段、18………電源部、20………スキッドレール、22………ピンチローラ、24………ビレット材、26………ケーシング。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、被加熱部材を搬送する搬送手段と、前記被加熱物を加熱するための誘導加熱コイル、および前記誘導加熱コイルに対して電力を投入する電源部を有する誘導加熱装置であって、
前記誘導加熱コイルは、前記搬送手段によって前記被加熱部材が搬送される搬送路を囲繞するように、予め定められた加熱領域毎に複数設けられ、
各誘導加熱コイルは、前記電源部に対して並列接続されると共に、個別に共振回路を有し、
前記電源部と前記共振回路との間には、前記各誘導加熱コイルを個別に電気的に接離可能とする接離手段を備えたことを特徴とする誘導加熱装置。
【請求項2】
前記搬送手段による前記被加熱部材の搬送速度の最高速度を基準とし、前記搬送速度の低下に合わせて前記接離手段を離間状態に切替える接離手段制御部を備えたことを特徴とする請求項1に記載の誘導加熱装置。
【請求項3】
前記接離手段は、前記搬送路の入口側に位置する誘導加熱コイルに接続されたものから出口側に位置する誘導加熱コイルに接続されたものへと順次離間状態とされることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の誘導加熱装置。
【請求項4】
連続加熱型の誘導加熱装置における被加熱物の誘導加熱方法であって、
前記被加熱物の搬送経路に直列に配置された誘導加熱コイルの稼動状態を、前記被加熱物の搬送速度に応じて変化させることを特徴とする誘導加熱方法。
【請求項5】
前記誘導加熱コイルの稼動状態は、前記被加熱物の最高搬送速度を基準とし、前記搬送速度の低下に伴い、稼動させる前記誘導加熱コイルを減少させることを特徴とする請求項4に記載の誘導加熱方法。
【請求項6】
前記稼動させる誘導加熱コイルの減少は、前記被加熱物の搬送路における入口側から出口側にかけて順次行うことを特徴とする請求項5に記載の誘導加熱方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−38621(P2012−38621A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−178724(P2010−178724)
【出願日】平成22年8月9日(2010.8.9)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】