説明

誘導加熱装置

【課題】誘導コイルにより発熱体を均一に誘導加熱することができる高周波加熱装置を提供する。
【解決手段】導電性材料で形成されると共に内部に熱処理対象物Xを収容可能な発熱体13と、発熱体13の外周に沿って巻き付けられた誘導コイル12と、誘導コイル12に高周波電流を供給する電源部30と、を備えた誘導加熱装置10において、誘導コイル12は、コイル軸方向に沿って直列に配置された複数の分割誘導コイル12a,12bからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、発熱体の近傍に配置した誘導コイルに高周波電流を供給することで、発熱体を誘導加熱する高周波加熱装置が知られている。
高周波加熱装置としては、円筒形等の箱体に形成した発熱体内に熱処理対象物を収容し、誘導加熱された発熱体からの輻射熱により熱処理対象物を熱処理する加熱炉がある。このような加熱炉では、誘導コイルは円筒形の発熱体の外周側面に沿って巻き付くように配置されている。
そして、誘導コイルに高周波電流を印加して、誘導コイルの周辺に高周波磁界を発生させて発熱体に渦電流を発生させることにより、発熱体は渦電流によるジュール熱で加熱される。
【特許文献1】特開平1−56832号公報
【特許文献2】特許第3572513号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述した誘導コイルの周辺に発生する磁界の強さは、誘導コイルの両端部が中央部に比べて低くなる。誘導コイルの両端部では磁束密度が低くなるからである。
このため、誘導コイルが外周側面に巻き付けられた発熱体には、両端領域が中央領域に比べて低温となる部温度分布が発生するので、その内部に収容された熱処理対象物は不均一に加熱されてしまう。したがって、所望の品質を有する熱処理対象物が得られないという問題がある。
【0004】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたもので、誘導コイルにより発熱体を均一に誘導加熱することができる高周波加熱装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る誘導加熱装置では、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
本発明は、導電性材料で形成されると共に内部に熱処理対象物を収容可能な発熱体と、前記発熱体の外周に沿って巻き付けられた誘導コイルと、前記誘導コイルに高周波電流を供給する電源部と、を備えた誘導加熱装置において、前記誘導コイルは、コイル軸方向に沿って直列に配置された複数の分割誘導コイルからなることを特徴とする。
【0006】
また、前記複数の分割誘導コイルは、前記電源部に電気的に並列に接続されることを特徴とする。
また、前記分割誘導コイルは、前記コイル軸方向に沿って、それぞれ移動可能に構成されることを特徴とする。
また、前記分割誘導コイルの前記コイル軸方向の配置位置は、前記発熱体内に収容される熱処理対象物に応じて設定されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば以下の効果を得ることができる。
発熱体の外周に沿って巻き付けられる誘導コイルが複数に分割されているので、単一の誘導コイルの場合に比べて、発熱体を均一に誘導加熱することができる。これにより、発熱体内に収容される熱処理対象物が不均一に熱処理されることを防止することができる。
また、複数の誘導コイルの位置を変更することで、発熱体の加熱状態を任意に調整することができる。
また、複数の誘導コイルを電気的に並列に接続することで、誘導コイルへの印加電圧を下げられるので、誘導コイルを真空内で使用する場合に発生する放電現象を抑制することができる。
また、複数の誘導コイルの配置位置を、発熱体内に収容される熱処理対象物に応じて設定することで、熱処理対象物の熱処理をより確実に均一化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の誘導加熱装置の実施形態について図を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る誘導加熱炉10の概略構成を示す断面図である。
誘導加熱炉10は、円筒箱形に形成されると共にその内部に熱処理対象物であるルツボXを収容する加熱室13と、加熱室13の外側全体を隙間無く覆う断熱材14と、断熱材14の外周に沿って巻き付けられた誘導コイル12と、これらを内部に収容する真空容器11と、を備えている。
【0009】
加熱室13は、高純度のグラファイトで形成されており、誘導コイル12により誘導加熱される。加熱室13は、ルツボXの焼成温度である約2000℃であっても充分な耐熱性を有する。また、高い導電性も有する。したがって、耐久性に優れると共に、加熱効率の向上と内部空間の均熱化が図ることが可能となっている。
加熱室13の内部には、直径φ650mm、高さ750mmの空間が形成されており、セラミックスからなる焼成処理前のルツボXがスペーサを介して配置される。
【0010】
断熱材14は、グラファイトを主体として形成されており、2200℃に耐える高温用断熱材である。したがって、誘導コイル12により誘導加熱された加熱室13の熱が外部に放熱されることが防止される。
なお、加熱室13及び断熱材14の上部の円形平板部は、取り外し可能に構成されている。そして、この円形平板部を取り外すことで、ルツボXを加熱室13内に出し入れ可能となっている。
【0011】
誘導コイル12は、高周波数交流電流の供給により交流磁場を発生させて加熱室13を誘導加熱する。そして、加熱室13からの輻射熱により、加熱室13内の熱処理対象物であるルツボXが加熱されるようになっている。
円筒形の断熱材14の外周面に巻き付けられる誘導コイル12は、断熱材14の上半側に配置される上側誘導コイル12aと、下半側に配置される下側誘導コイル12bとから構成される。
上側誘導コイル12aと下側誘導コイル12bとは、同一材料、同一形状(同一巻数)に形成されており、真空容器11外に配置された高周波電源30に対して電気的に並列に接続されている。すなわち、上側誘導コイル12aと下側誘導コイル12bのそれぞれの端子部が高周波電源30に接続される。なお、高周波電源30は、整流器、直流リアクトル、インバータ等を備えており、上側誘導コイル12aと下側誘導コイル12bに電圧及び周波数を調整した高周波電流を供給する。
【0012】
また、上側誘導コイル12aと下側誘導コイル12bは、断熱材14(加熱室13)に対して、それぞれ独立して上下方向、すなわち誘導コイル12(12a,12b)のコイル軸方向にその配置位置を変更可能に構成されている。
具体的には、後述する支持部材11c上に、スペーサ22bを介して下側誘導コイル12bが配置され、更にこの下側誘導コイル12b上にスペーサ22aを介して上側誘導コイル12aが配置される。そして、スペーサ22a,22bは、シム調整によりその厚み(高さ)を任意に調整可能となっている。
したがって、スペーサ22a,22bの厚みを調整することで、加熱室13に対する上側誘導コイル12a及び下側誘導コイル12bの位置(コイル軸方向の位置)を所望の位置に配置させることができる。
【0013】
真空容器11は、略円筒形に形状設定されており、この円筒形の中心軸が水平となるように姿勢設定される。真空容器11の一方側(図1における左側)には、真空容器11の軸方向に水平移動するクラッチ式の蓋体11bが設置される。
蓋体11bの内側下方には、水平方向に延設された支持部材11cが固着される。そして、この支持部材11c上に加熱室13と断熱材14と誘導コイル12とが載置される。また、蓋体11bの下方には、蓋体11bを支持すると共に、蓋体11bを水平方向に移動させる可動支持台20が設けられる。
このような構成により、蓋体11bを真空容器11に向けて水平移動させると、加熱室13と断熱材14と誘導コイル12とが真空容器11に収容される。そして、蓋体11bを真空容器本体11aに連結することで、真空容器11の内側空間は外部と遮断された密閉状態となる。
【0014】
真空容器11には、不図示の真空ポンプが接続され、真空容器11の内部空間が真空引きされる。また、加熱室13内には、不活性ガス(例えば、アルゴンガス)を導入するために、不図示のガス導入管が接続されている。
【0015】
次に、誘導加熱炉10によるルツボXの焼成処理について説明する。
まず、予め乾燥処理と脱脂処理が施されたルツボXを誘導加熱炉10の加熱室13内に搬入する。具体的には、蓋体11bが真空容器本体11aから分離された状態において、加熱室13及び断熱材14の上部の円形平板部を取り外し、加熱室13内にルツボXを搬入する。そして、加熱室13及び断熱材14の上部の円形平板部を取り付けることで、加熱室13内にルツボXを収容する。
【0016】
次いで、上側誘導コイル12aと下側誘導コイル12bの配置位置を調整する。上側誘導コイル12aと下側誘導コイル12bの配置位置は、上述したように、スペーサ22a,22bの厚みを調整することで行われる。
なお、上側誘導コイル12aと下側誘導コイル12bの配置位置は、加熱室13内に収容される熱処理対象物(ルツボX等)の形状、数量、配置等に応じて規定される。つまり、加熱室13内に収容された熱処理対象物の略全てが均一に加熱されるように、上側誘導コイル12aと下側誘導コイル12bの配置位置を規定する。
上側誘導コイル12aと下側誘導コイル12bの配置位置をどのように規定すべきか、すなわち、加熱室13内に収容される熱処理対象物の略全てが均一に加熱されるか否かは、実験を繰り返すことで、経験的に求められる。
【0017】
次に、蓋体11bを真空容器本体11aに向けて水平移動し、蓋体11bと真空容器本体11aとを連結する。続いて、真空容器11の内部空間を真空引きし、その後、加熱室13内に不活性ガスを導入する。
そして、高周波電源30を作動させることで、焼成処理を開始する。具体的には、高周波電源30から上側誘導コイル12a及び下側誘導コイル12bに対して高周波交流電流を供給して、加熱室13を予め設定された温度パターンに従って誘導加熱する。これにより、加熱室13内のルツボXが加熱・焼成される。
そして、ルツボXの加熱が完了した後は、上記工程を逆の順序に行って、加熱室13からルツボXを搬出することで、ルツボXの焼成処理が完了する。
【0018】
ここで、上側誘導コイル12a及び下側誘導コイル12bにより誘導加熱された加熱室13の側壁の温度分布について従来例と比較しつつ説明する。
図2は、加熱室13の側壁の温度分布を示す図である。また、図3は、従来の加熱室の側壁の温度分布を示す図である。
なお、図2,3において、加熱室13の側壁の色の濃淡は温度の高低を示し、色の濃い部分が高温、薄い部分が低温を示す。
まず、図3に示すように、従来例の加熱室13の側壁では、中央部が上部及び下部に比べて高温となる。つまり、中央部と上部及び下部との温度差が大きくなっている。これに伴って、加熱室13内のルツボXも、高さ方向の中央部が上部及び下部に比べて高温に加熱されてしまう。
このため、ルツボXの上部及び下部が十分に加熱されず、焼成が不十分となってしまう可能性がある。このような不都合を回避するために、焼成(加熱)の時間を延ばしたり、加熱温度を高くしたりしなければならない。
【0019】
一方、図2に示すように、本実施形態の加熱室13の側壁では、中央部と上部及び下部との温度差が従来例に比べて小さくなっている。したがって、加熱室13内のルツボXは、均一に加熱、焼成される。このため、従来例に比べて効率のよい焼成処理が可能となる。
特に、誘導コイル12を、上側誘導コイル12aと下側誘導コイル12bに分割し、電気的に並列に接続しているので、上側誘導コイル12aと下側誘導コイル12bに印加すべき高周波電流の電圧を低く抑えることが可能となっている。つまり、上側誘導コイル12aと下側誘導コイル12bに分割しているので、従来例に比べて印加電圧を約半減させることができ、したがって効率のよい誘導加熱が可能となっている。
また、上側誘導コイル12aと下側誘導コイル12bに印加すべき高周波電流の電圧を低く抑えることができるので、真空容器11内における放電現象の発生も抑制される。
【0020】
上述したように、上側誘導コイル12aと下側誘導コイル12bの配置位置(高さ)は、加熱室13内に収容される熱処理対象物の形状、数、配置、材質等に応じて、適宜、調整される。予め実験的に焼成処理を行うことで、上側誘導コイル12aと下側誘導コイル12bの最適な配置位置(高さ)を求めておくことで、最適な焼成処理を行うことができる。
【0021】
以上説明したように、本実施形態の誘導加熱炉10によれば、加熱室13の外周に沿って巻き付けられる誘導コイル12が複数に分割(上側誘導コイル12a,下側誘導コイル12b)されているので、単一の誘導コイルの場合に比べて、加熱室13を均一に誘導加熱することができる。これにより、加熱室13内に収容される熱処理対象物(ルツボX)が不均一に熱処理されることを防止することができる。
また、上側誘導コイル12aと下側誘導コイル12bの位置を変更することで、加熱室13の加熱状態を任意に調整することができる。
そして、上側誘導コイル12aと下側誘導コイル12bの配置位置を、加熱室13内に収容された熱処理対象物(ルツボX)の形状、数、配置等に応じて設定することで、熱処理対象物の熱処理をより確実に均一化することができる。
また、上側誘導コイル12aと下側誘導コイル12bとを電気的に並列に接続することで、誘導コイル12への印加電圧を下げられるので、誘導コイル12を真空内で使用する場合に発生する放電現象を抑制することができる。
【0022】
なお、上述述した実施形態における各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0023】
例えば、誘導コイル12が二つの誘導コイル(上側誘導コイル12a,下側誘導コイル12b)で構成される場合について説明したが、これに限らず、三つやそれ以上の誘導コイルで構成される場合であってもよい。
【0024】
また、各誘導コイル12a,12bは、必ずしも同一形状、同一巻数である必要はない。また、各誘導コイル12a,12bに印加する高周波電流の周波数や電圧を異ならせるようにしてもよい。
【0025】
誘導加熱炉10としては、バッチ式の焼成炉に限らず、連続式の焼成炉であってもよい。また、真空容器11を備えるものである必要はない。
また、加熱室13の形状としては、円筒形に限らず、直方体形であってもよい。また、箱体に限らず、上方に開口を有するカップ形等であってもよい。
また、熱処理対象物としては、セラミックスからなるルツボXに限らない。金属類を溶解処理する場合等であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施形態に係る誘導加熱炉10の概略構成を示す断面図である。
【図2】加熱室13の側壁の温度分布を示す図である。
【図3】加熱室の側壁の温度分布を示す図である。
【符号の説明】
【0027】
10…誘導加熱炉(誘導加熱装置)
11…真空容器
11a…真空容器本体
11b…蓋体
11c…支持部材
12…誘導コイル
12a…上側誘導コイル(分割誘導コイル)
12b…下側誘導コイル(分割誘導コイル)
13…加熱室(発熱体)
14…断熱材
20…可動支持台
22a,22b…スペーサ
30…高周波電源部
X…ルツボ(熱処理対象物)




【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性材料で形成されると共に内部に熱処理対象物を収容可能な発熱体と、
前記発熱体の外周に沿って巻き付けられた誘導コイルと、
前記誘導コイルに高周波電流を供給する電源部と、
を備えた誘導加熱装置において、
前記誘導コイルは、コイル軸方向に沿って直列に配置された複数の分割誘導コイルからなることを特徴とする誘導加熱装置。
【請求項2】
前記複数の分割誘導コイルは、前記電源部に電気的に並列に接続されることを特徴とする請求項1に記載の誘導加熱装置。
【請求項3】
前記分割誘導コイルは、前記コイル軸方向に沿って、それぞれ移動可能に構成されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の誘導加熱装置。
【請求項4】
前記分割誘導コイルの前記コイル軸方向の配置位置は、前記発熱体内に収容される熱処理対象物に応じて設定されることを特徴とする請求項3に記載の誘導加熱装置。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−311299(P2007−311299A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−141593(P2006−141593)
【出願日】平成18年5月22日(2006.5.22)
【出願人】(000002059)神鋼電機株式会社 (1,111)
【Fターム(参考)】