説明

誘導溶解炉の制御装置

【課題】簡易な回路構成で、出力を小さくした場合にも高力率を維持して電力損失が生じることを抑制することができる誘導溶解炉の制御装置を提供する。
【解決手段】誘導溶解炉の制御装置は、順変換器41a,41bと、第1および第2スイッチング素子であるIGBTが交互に動作するハーフブリッジ式の逆変換器42a,42bとが直列共振型回路を構成する電力変換部4,5とを有する直列共振型回路(電圧型回路)の電圧変換装置において、制御回路10が、電力変換部4,5の出力力率を検出する力率検出部と、出力力率が1となる周波数で且つ電力変換部4,5の出力電圧が目標電圧となるパルス幅の逆変換器42a,42bに対する制御信号を生成するPLL制御部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
炉壁の外周に設けられた加熱コイルに電力供給手段を介して電力を供給することにより炉内に収納された被溶解材を溶解させる誘導溶解炉の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の誘導溶解炉の制御装置としては、下記特許文献1および2に示すように、順変換器と逆変換器とが並列共振型回路(電流型回路)を構成する電力変換部と、電力変換部の出力力率を検出し、検出された力率から電力変換部の周波数を制御することにより出力力率を所望の値に制御する制御装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭60−84789号公報
【特許文献1】特開昭60−180478号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の誘導溶解炉の制御装置では、電力変換部が並列共振型回路(電流型回路)に構成されることにより、順変換器の位相制御によって出力調整可能に構成されるものの、この特性上、出力を小さくするほど力率が1より小さくなり、高力率を実現できないという問題がある。
【0005】
特に、誘導溶解炉では、被溶解材の加熱調整のためには、広範囲で出力電圧を制御することが求められるが、電力変換部が並列共振型回路(電流型回路)に構成された従来の誘導溶解炉の制御装置では、出力を小さくした場合の力率をある程度は改善することができるものの、回路構成の特性上この問題を根本的に解決することは困難であった。
【0006】
一方、このような回路の特性を解決するために、電力変換部を直列共振型回路(電圧型回路)に構成することも考えられるが、逆変換器をフルブリッジ式とした場合には、回路構成が複雑となり(回路部品の点数が増え)コストが嵩むという問題があり、逆変換器をハーフブリッジ式とした場合には、出力を小さく制御した場合に、無効電流が発生して電力損失が生じるという問題がある。
【0007】
以上の事情に鑑みて、本発明は、簡易な回路構成で、出力を小さくした場合にも高力率を維持して電力損失が生じることを抑制することができる誘導溶解炉の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、炉壁の外周に設けられた加熱コイルに電力供給手段を介して電力を供給することにより炉内に収納された被加熱材を溶解させる誘導溶解炉の制御装置であって、
順変換器と、第1および第2スイッチング素子が交互に動作するハーフブリッジ式の逆変換器とが直列共振型回路を構成する電力変換部と、
前記電力変換部の出力力率を検出する力率検出部と、
前記力率検出部を介して検出される出力力率が1となる周波数で且つ前記電力変換部の出力電圧が目標電圧となるパルス幅の、前記第1および第2スイッチング素子に対する制御信号を生成する制御信号生成部と
を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明の誘導溶解炉の制御装置によれば、制御信号生成部により逆変換器の第1および第2スイッチング素子の制御信号を前記電力変換部の出力電圧が目標電圧となるパルス幅にすることで、電力変換部の出力電圧を可変させることができる。さらに、制御信号生成部により逆変換器の第1および第2スイッチング素子の制御信号を電力変換部の出力力率が1となる周波数にすることで、電力変換部の出力電圧に拘らず、高力率を維持することができ、出力電圧を小さくした場合にも高力率を維持して無効電流が発生して電力損失が生じることを抑制することができる。
【0010】
これにより、直列共振型回路(電圧型回路)の電力変換部において、逆変換器を回路構成が簡単なハーフブリッジ式に構成した場合に、出力を小さくしても高力率を維持して電力損失が生じることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】誘導溶解炉の制御装置の構成を示す全体構成図。
【図2】制御回路の構成を示す説明図。
【図3】制御回路による処理内容を示す説明図。
【図4】制御角を変化させた場合の出力力率と出力電圧実効値との関係を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1を参照して、本実施形態の誘導溶解炉の制御装置について説明する。誘導溶解炉は、溶解炉内に収納された被加熱材Xを溶解させるものである。
【0013】
具体的に、誘導溶解炉の制御装置は、電源1と、高圧受電盤2と、変換装置用変圧器3と、電力変換装置4と、高周波整合装置5と、誘導加熱装置6と、制御回路(コントローラ)10とを備える。
【0014】
なお、電力変換装置4および高周波整合装置5が本発明の電力変換部に相当する。
【0015】
電源1は、定格の交流電源であって、高圧受電盤2に接続されている。
【0016】
高圧受電盤2は、誘導加熱装置への電源通電・停止と故障発生時の電源遮断を行う装置であって、パワーヒューズ2aと遮断機2bとを備える。パワーヒューズ2aは、短絡事故時に電流遮断する手段であって、遮断機2bは、電源の通電と停止に伴う開閉動作を行う。
【0017】
変換装置用変圧器3は、高圧受電盤2に接続され、電力変換装置4への入力電圧が所定の値となるように調整する。
【0018】
電力変換装置4は、変換装置用変圧器3に接続され、50Hzまたは60Hzの商用電源から任意の高周波電流を生成するための装置であって、交流/直流変換器である順変換器41a,41bと、直流/交流変換器である逆変換器42a,42bとを備え、制御回路10からの出力制御信号により制御される。
【0019】
具体的に、電力変換装置4は、入力側にダイオード式順変換器41a,41bを備え、出力側にIGBT式逆変換器42a,42bを備え、順変換器41a,41bにはそれぞれ直列に平滑用リアクトル43a,43bが接続されると共に、順変換器41a,41bに並列に平滑用コンデンサ44aおよび44bが接続される。
【0020】
さらに、電力変換装置4は、順変換器41a,41bの出力側の直流電圧を検出して直流電圧信号(a)を出力する直流電圧検出器45と、直流電流を検出して直流電流信号(b)を出力する直流電流検出器46とを備え、直流電圧検出器45および直流電流検出器46の出力値は、制御回路10に出力される。
【0021】
なお、制御回路10による電力変換装置4の制御内容については詳細を後述する。
【0022】
高周波整合装置5は、電力変換装置4と誘導加熱装置6との間に設けられて、誘導加熱装置6が低力率であるため負荷力率を改善する。
【0023】
具体的に、高周波整合装置5は、共振用コンデンサ51a,51bと、高周波整合装置5の出力電流を検出して出力電流信号(d)を出力する電流検出器52および出力電圧を検出して出力電圧信号(e)を出力する電圧検出器53等から構成される。
【0024】
誘導加熱装置6は、電力変換装置4と高周波整合装置5とから供給される高周波電流を加熱コイル61に通電させることにより、溶解炉本体内に収納された被加熱材Xにうず電流を発生させ、うず電流により金属材料間に発生するジュール熱で被加熱材Xを昇温させて溶解させる。
【0025】
制御回路10は、誘導溶解炉の運転・停止、出力調整等の制御を行うと共に、誘導溶解炉の制御装置として出力力率を検出する力率検出部、IGBT式逆変換器42a,42bの制御を行う制御信号生成部としての機能を備える。
【0026】
図2に示すように、具体的に制御回路10は、力率検出部11と、PLL制御部12とを備える。
【0027】
力率検出部11は、電流検出器52の出力値である高周波整合装置5の出力電流信号(d)と、電圧検出器53の出力値である高周波整合装置5の出力電圧信号(e)とから、高周波整合装置5から出力される交流電流・電圧の出力力率を算出する。
【0028】
PLL制御部12は、基準周波数生成部13と、電圧制御発振器14と、分周器15とを備え、力率検出部11により算出された出力力率に基づいて、IGBT式逆変換器42a,42bの制御を行う制御信号を生成する。
【0029】
具体的には、基準周波数生成部13により基準周波数を与えられ、この基準周波数に対して、力率検出部11により検出された出力力率に応じた値を加減させた周波数(制御周波数)を生成する。そして、この制御周波数を発振周波数とするパルス列を電圧制御発振器14により生成し、このパルス列を分周器15により分周することで、IGBT式逆変換器42a,42bのそれぞれの制御信号を生成する。
【0030】
なお、このときのIGBT式逆変換器42a,42bは、制御信号は、出力基準信号にPLL制御部12により生成された制御信号を加減させた値を用いる。このときの出力基準信号は、直流電圧検出器45の出力値である順変換器41a,41bの出力側の直流電圧(a)と、直流電流検出器46の出力値である順変換器41a,41bの出力側の直流電流(b)とを積算した入力電力を一定に制御するための所定の基準信号である。
【0031】
このようにして生成されたIGBT式逆変換器42a,42bの制御信号(ゲート信号)と、電流検出器52の出力値である高周波整合装置5の出力電流信号(d)と、電圧検出器53の出力値である高周波整合装置5の出力電圧信号(e)との関係を図3に示す。
【0032】
図3(a)は、力率検出部11を介して出力力率が1となるように、IGBT式逆変換器42a,42bの制御信号(ゲート信号)を生成した場合の電流検出器52の出力値である高周波整合装置5の出力電流(d)と、電圧検出器53の出力値である高周波整合装置5の出力電圧(e)との関係を示す。
【0033】
一方、図3(b)は、力率検出部11を介して出力力率が1となる制御を施さずに、IGBT式逆変換器42a,42bの制御信号(ゲート信号)を生成した場合の電流検出器52の出力値である高周波整合装置5の出力電流(d)と、電圧検出器53の出力値である高周波整合装置5の出力電圧(e)との関係を示す。
【0034】
なお、より正確には、図3(b)は、IGBT式逆変換器42a,42bの制御信号(ゲート信号)に対して、出力電圧が遅れ力率となる場合を示している。
【0035】
図3(a)と図3(b)を比較すると、図3(a)に示すように、出力力率が1となる制御を施した場合には、IGBT式逆変換器42a,42bの制御信号(ゲート信号)に対して、これに対応する正規の電圧と共にその両端に出力電流に応じた電圧(図中斜線部)が等しい幅で出現する。
【0036】
これに対して、図3(b)に示すように、出力力率が1となる制御を施さない場合には、IGBT式逆変換器42a,42bの制御信号(ゲート信号)に対して、これに対応する正規の電圧が遅れて出現すると共に、その両端に出現する出力電流に応じた電圧部分(図中斜線部)も左右で不均一となる。そのため、図中に示す領域では、無効電流が生じる。
【0037】
このような無効電流は、出力を小さくした場合に顕著に現れるものであるが、力率検出部11を介して出力力率が1となるようにIGBT式逆変換器42a,42bのそれぞれの制御信号を生成することで、出力を小さくしても高力率を維持して電力損失が生じることを抑制することができる。
【0038】
具体的に、発生する無効電流について、制御角と出力電圧(e)との関係を図4に示す。なお、この制御角が、IGBT式逆変換器42a,42bの制御信号(ゲート信号)のパルス幅であり、出力電圧(e)の大きさに対応したものである。
【0039】
図4では、制御角を横軸として、出力電圧(e)の実効値を縦軸として、出力力率を0.7〜1.0の範囲で変化させた様子を示す。
【0040】
出力力率が0.7に対して、力率を1に近づけることで、制御角を小さくした場合にも無効電流の発生を抑制することができ、出力を制御角に応じて確実に小さくさせることができる。
【0041】
以上説明したように、本実施形態の誘導溶解炉の制御装置によれば、直列共振型回路(電圧型回路)の電力変換装置4において、逆変換器42a,42bを回路構成が簡単なハーフブリッジ式に構成した場合に、出力を小さくしても高力率を維持して電力損失が生じることを抑制することができる。
【符号の説明】
【0042】
1…電源、2…高圧受電盤、3…変換装置用変圧器、4…電力変換装置、5…高周波整合装置、6…誘導加熱装置、10…制御回路(コントローラ)、11…力率検出部、12…PLL制御部(制御信号生成部)、41a,41b…ダイオード式順変換器、42a,42b…IGBT式逆変換器、61…加熱コイル、X…被加熱材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉壁の外周に設けられた加熱コイルに電力供給手段を介して電力を供給することにより炉内に収納された被加熱材を溶解させる誘導溶解炉の制御装置であって、
順変換器と、第1および第2スイッチング素子が交互に動作するハーフブリッジ式の逆変換器とが直列共振型回路を構成する電力変換部と、
前記電力変換部の出力力率を検出する力率検出部と、
前記力率検出部を介して検出される出力力率が1となる周波数で且つ前記電力変換部の出力電圧が目標電圧となるパルス幅の、前記第1および第2スイッチング素子に対する制御信号を生成する制御信号生成部と
を備えることを特徴とする誘導溶解炉の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−258316(P2011−258316A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−129204(P2010−129204)
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【出願人】(000242127)北芝電機株式会社 (53)
【Fターム(参考)】