説明

誘導電動機の制御装置及び誘導電動機の制御方法

【課題】誘導電動機の制御において、装置の耐久性を損なうことなく、通常よりも高いトルクでの制御を行うこと。
【解決手段】誘導電動機の制御装置であって、誘導電動機の動作条件に応じて必要とされるトルクの値を時系列に求め、誘導電動機の回転速度に応じたトルクが予め定められたトルク制御パターンと比較して必要とされるトルクが満たされているか否か確認し、BASE速度以下の速度領域において必要とされるトルクが満たされていない場合、定トルク制御における励磁電流の最大値が高くなるようにトルク制御パターンを変更し、BASE速度以上の速度領域において必要とされるトルクが満たされていない場合、BASE速度を通常よりも高くするように変更するトルク特性設定装置21と、変更されたトルク制御パターンに応じて磁界制御パターンを変更する磁束指令変更装置140とを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導電動機の制御装置及び誘導電動機の制御方法に関し、特に、一時的に通常よりも高いトルクを得るための制御に関する。
【背景技術】
【0002】
圧延機においては、誘導電動機を用いて被圧延材を圧延加工することが行われる。一般的な誘導電動機においては、ベース速度まではトルク一定の制御を行い、ベース速度からトップ速度までは、電動機出力一定(パワー一定)となるような方法で制御されている。
【0003】
圧延機においては、圧延機入側および出側にて被圧延材に張力をかけた状態で、回転する作業ロール間で被圧延材を潰して加工し、加工後の被圧延材を押し出すことで、連続的に圧延加工が実行される。そして、圧延機において、電動機は、被圧延材に張力を与えたり、加工に必要となる回転力を得るために使用される。
【0004】
電動機は、圧延操業に必要なトルクまたは出力を得ることが可能なトルク−速度特性を有する物が設備計画時に選定され、設置される。そして、誘導電動機のトルク−速度特性を変更する方法として、高速度域でのトルクを犠牲にする代わりに、低速度域でのトルクを高くする方法(例えば、特許文献1参照)や、利用可能な速度域を狭める代わりにトルクを高く保つ方法(例えば、特許文献2参照)がある。
【0005】
他方、誘導電動機のトルク−速度特性を変更する場合の具体的な処理としては、電動機制御において予め記憶してある複数の界磁パターンを切替えて使用することで、異なる特性の電動機として使用する方法(例えば、特許文献3参照)や、電動機制御において界磁を補正することで、大きな電動機トルクを得る方法(例えば、特許文献4参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−42562号公報
【特許文献2】特開2006−42570号公報
【特許文献3】特開2000−116199号公報
【特許文献4】特開平8−70600号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
設備計画時には、ある製品となる被圧延材を想定し、その生産が可能となるような出力が得られる電動機が選定される。その場合、生産する機会が非常に低い被圧延材も考慮して電動機を選定すると、圧延操業の大多数において、電動機の出力が無駄になる。また、設備計画時の想定を超えるトルクまたは出力を必要とする様な被圧延材を圧延することが必要となる場合も発生する。そのような場合、現状では例えば圧下率を下げ、トルクを抑える工夫をして圧延を実施することが行われている。製品として必要な板厚は製品仕様より決まるから、圧下率を下げることは、圧延回数を増やすことにつながり操業効率が低下するという問題が有った。
【0008】
以上の問題を解決するためには、BASE速度領域において、一時的に高トルクが得られるように、電動機のトルク特性を変更する必要がある。ここで、上記BASE速度とは、一般的に、利用可能な速度範囲において最も高いトルクに対応する速度である。また、誘導電動機が適用される圧延設備以外の工作機械や鉄道車両、搬送設備等においても、操業条件により電動機に要求されるトルクが大きく変動する場合が発生する。要求されるトルクが電動機出力トルクより大きい場合は操業条件を満たすことができない。そのような場合においても、電動機のトルク特性を高トルクが得られるように変更することができれば対応可能である。
【0009】
その場合、特許文献3にあるように、予め記憶してある複数の界磁パターンを選択して使用すると、予め定められた界磁パターンでしか電動機を使用できなくなり、電動機性能が十分発揮できなくなる。また、特許文献4にあるように、界磁を補正して大きなトルクを得ることができるようにすると、回転速度が増大した場合、電動機の端子電圧が増大し、最大電圧に達すと界磁を弱める必要があるため出力トルクが低下する問題がある。
【0010】
このように一時的に高トルクを得るための誘導電動機の制御においては、トルク電流及び励磁電流の少なくともいずれか一方を、通常の制御よりも高い値とする必要がある。これは、誘導電動機に印加する電圧を上げることによって実現可能である。しかしながら、誘導電動機にて許容される電圧には限界があり、それを超えた電圧を印加すると装置の故障や耐久性の低下を招く。
【0011】
本発明における課題は、誘導電動機の制御において、装置の耐久性を損なうことなく、通常よりも高いトルクでの制御を可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様は、誘導電動機の制御装置であって、誘導電動機の動作条件に応じて必要とされるトルクの値を時系列に求め、誘導電動機の回転速度に応じたトルクが予め定められたトルク制御パターンと比較することにより、必要とされるトルクの値が満たされているか否か確認し、所定の回転速度よりも遅い速度領域において必要とされるトルクの値が満たされていない場合、定トルク制御における励磁電流の最大値が高くなるようにトルク制御パターンを変更するトルク特性設定装置21と、変更されたトルク制御パターンに応じて磁界制御パターンを変更する磁束指令変更装置140とを含むことを特徴とする。
【0013】
また、本発明の他の態様は、誘導電動機の制御方法であって、誘導電動機の動作条件に応じて必要とされるトルクの値を時系列に求め、誘導電動機の回転速度に応じたトルクが予め定められたトルク制御パターンと比較することにより、必要とされるトルクの値が満たされているか否か確認し、所定の回転速度よりも遅い速度領域において必要とされるトルクの値が満たされていない場合、定トルク制御における励磁電流の最大値が高くなるようにトルク制御パターンを変更し、変更されたトルク制御パターンに応じて磁界制御パターンを変更することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明を用いることで、誘導電動機の制御において、装置の耐久性を損なうことなく、通常よりも高いトルクでの制御が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係る圧延装置の全体構成を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係る電動機制御装置の構成を示す図である。
【図3】本発明の実施形態に係る電動機制御装置の構成を示す図である。
【図4】本発明の実施形態に係る誘導電動機の等価回路を示す図である。
【図5】本発明の実施形態に係る誘導電動機の電流及び電圧のベクトル関係を示す図である。
【図6】一般的な誘導電動機の制御におけるトルク−速度特性を示す図である。
【図7】圧延に必要な電気トルクの式を示す図である。
【図8】誘導電動機に求められるトルク−速度特性の例を示す図である。
【図9】本発明の実施形態に係る誘導電動機のトルク−速度特性を示す図である。
【図10】従来技術に係る誘導電動機のトルク−速度特性を示す図である。
【図11】トルク倍率と線電流の変化との関係を示す図である。
【図12】本発明の実施形態に係る誘導電動機のトルク−速度特性を示す図である。
【図13】本発明の実施形態に係る誘導電動機のトルク−速度特性を示す図である。
【図14】本発明の実施形態に係る誘導電動機の制御システム構成を示す図である。
【図15】本発明の実施形態に係る圧延操業状態を示す図である。
【図16】本発明の実施形態に係るトルク−速度特性と必要トルクとの比較例を示す図である。
【図17】本発明の実施形態に係るトルク−速度特性と必要トルクとの比較例を示す図である。
【図18】本発明の実施形態に係るトルク−速度特性の変更動作を示す図である。
【図19】本発明の実施形態に係るトルク−速度特性の変更動作を示す図である。
【図20】本発明の実施形態に係るトルク電流指令の変更態様を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。本実施形態においては、シングルスタンド圧延機に本発明を適用する場合を例として説明する。図1に、シングルスタンド圧延機の構成を示す。シングルスタンド圧延機は、圧延機1の圧延方向に対して入側に入側TR(テンションリールをTRと略記する)2、出側に出側TR3を持ち、圧延は、入側TR2から巻き出された被圧延材を圧延機1で圧延した後、出側TR3で巻き取ることにより行われる。
【0017】
圧延機1には、ロールギャップを変更することで被圧延材の板厚を制御することを可能とするためのロールギャップ制御装置7と圧延機1の速度を制御するためのミル速度制御装置4が設置される。入側TR2および出側TR3は電動機にて駆動されるが、その電動機と電動機を駆動するための装置として、入側TR制御装置5および出側TR制御装置6が設置される。それら制御装置への指令は、圧延制御装置20より出力される。
【0018】
なお、シングルスタンド圧延機においては、圧延方向を入れ替えるリバース圧延が行われるため、圧延方向によって、入側、出側は反転するが、機械構成上の定義として、本実施例としては、圧延機左側を入側テンションリール、圧延機右側を出側テンションリールとする。
【0019】
圧延時は、圧延速度設定装置10より速度指令がミル速度制御装置4に対して出力され、ミル速度制御装置4は、圧延機1の速度を一定とするような制御を実施する。圧延機1の入側、出側では、被圧延材に張力をかけることで圧延を安定かつ効率的に実施する。そのために必要な張力を計算するのが入側張力設定装置11および出側張力設定装置12である。
【0020】
入側張力電流変換装置15および出側張力電流変換装置16は、それぞれ入側張力設定装置11および出側張力設定装置12にて計算された入側および出側張力設定値に基づき、設定張力を被圧延材に加えるために必要な電動機トルクを得るための電流値を求める。入側張力電流変換装置15および出側張力電流変換装置16は、上述したように求めたそれぞれの電流値を入側TR制御装置5および出側TR制御装置6に与える。
【0021】
入側TR制御装置5および出側TR制御装置6は、入側張力電流変換装置15および出側張力電流変換装置16から与えられた電流となるように電動機電流を制御する。これにより、電動機電流より入側TR2および出側TR3に与えられる電動機トルクにより被圧延材に所定の張力が加えられる。
【0022】
張力電流変換装置15、16は、TR機械系およびTRの電動機制御装置のモデルに基き張力設定値となるような電流設定値(電動機トルク電流設定値)を演算するが、使用するモデルに誤差を含む。そのため、入側張力制御13および出側張力制御14が、圧延機1の入側および出側に設置された入側張力計8および出側張力計9で測定された実績張力を用いて張力設定値に補正を加えて、張力電流変換装置15、16に入力する。これにより、入側TR制御装置5および出側TR制御装置6に設定される電流値が補正される。なお、ここで言うTR制御装置は、TR機械系を駆動するための電動機およびその制御装置から構成されるものである。
【0023】
また、被圧延材の板厚は製品品質上重要であるため、板厚制御が実施される。圧延機1出側の板厚は、出側板厚計17にて検出された実績板厚より出側板厚制御装置18が圧延機1のロールギャップをロールギャップ制御装置7を用いて操作することで制御される。
【0024】
以上述べたように、シングルスタンド圧延機においては、巻取および巻出に用いられるTRは、電動機が発生するトルクを一定とするトルク一定制御が用いられ、張力計で検出した実績張力を用いて電動機電流指令を補正することで被圧延材にかかる張力を一定とする制御が行われている。電動機トルクは、電動機に与えられる界磁とトルク電流から実際に出力される電動機トルクが決まるため、トルク一定とするためには、界磁に応じて電流指令を変更する必要がある。
【0025】
圧延は、入側テンションリール2より被圧延材を巻出して、圧延機1にて圧延し、出側テンションリール3で圧延された被圧延材を巻取ることで行われる。図2に、ミル速度制御装置4である誘導電動機の速度制御構成を示す。誘導電動機101は、圧延速度設定装置10からの速度指令Nref(電動機回転速度指令)に追従して駆動するようになっている。速度指令Nrefは、回転速度N(r/min)の目標値である。なお、誘導電動機101は、熱間圧延設備、冷間圧延設備、プロセッシングライン設備等の生産設備で用いられる。
【0026】
速度制御器104は、上述した速度指令Nrefと、速度センサ103で検出された誘導電動機101の回転速度Nとの差(Nref−N)に基づいて、トルク電流指令Iqrefをトルク電流励磁電流制御器107に出力する。即ち、速度制御器104が、トルク電流制御部として機能する。また、磁束指令器105は、速度センサ103で検出された回転速度Nに基づいて、界磁磁束の磁束指令φrefを励磁電流演算器106に出力する。なお、磁束指令器105には、回転速度Nに対する磁束指令φrefが予め設定されている。この、回転速度Nに対する磁束指令φrefが、磁界制御パターンとして用いられる。
【0027】
磁束指令器105は、後述するトルク−速度特性に応じた磁束φ−速度特性に基づき、回転速度Nに応じた磁束φを決定する。この磁束φ−速度特性が、上述した磁界制御パターンである。また、速度制御器104は、後述するトルク−速度特性に応じたトルク−電流変換係数に基づき、上述した(Nref−N)に応じたIqrefを出力する。このトルク−速度特性は、磁束指令変更装置140が記憶しており、トルク−速度特性が変更されると、磁束指令変更装置140が、速度制御器104及び磁束指令器105に対して、変更後のトルク−速度特性に応じたトルク−電流変換係数及び磁束φ−速度特性を夫々設定する。
【0028】
励磁電流演算器106は、磁束指令器105からの磁束指令φrefに基づいて、誘導電動機101の励磁電流を演算し、励磁電流指令Idrefを励磁電流制御器106に出力する。即ち、磁束指令器105及び励磁電流演算器106が励磁電流制御部として機能する。電流演算器109では、電流センサ110で検出された誘導電動機101に流れる一次電流(固定子電流)に基づいて、トルク電流Iおよび励磁電流Iを演算する。すなわち、電流演算器109は、誘導電動機101の線電流を、電力変換器112の出力の電源周波数に同期して回転するq軸およびd軸座標系に変換する。そして、電流演算器109は、演算したトルク電流Iおよび励磁電流Iを出力する。
【0029】
トルク電流励磁電流制御器107は、電流演算器109から出力されたトルク電流Iを速度制御器104から出力されたトルク電流指令Iqrefに追従させるためのトルク電圧指令V、および電流演算器109から出力された励磁電流Iを励磁電流演算器106から出力された励磁電流指令Idrefに追従させるための励磁電圧指令Vを座標変換器111に出力する。なお、電流演算器109の出力の周波数の設定は公知の技術であるため、図2、3ではそれに関する記載を省略している。
【0030】
座標変換器111は、前記したトルク電圧指令Vおよび励磁電圧指令Vを固定座標系へ座標変換し、3相分の電圧指令Vを生成する。そして、座標変換器111は、生成した電圧指令Vを電力変換器112に出力する。電力変換器112は、例えばPWM(pulse width modulation)インバータである。
【0031】
電力変換器112は、前記した電圧指令Vに基づいて、直流電源113の電力を変換(例えばPWM変換)し、3相の交流電力を誘導電動機101に供給する。このように構成することにより、誘導電動機101の一次電流が制御され、誘導電動機101の速度制御が行われるようになっている。
【0032】
入側TR制御装置5および出側TR制御装置6においては、TRから被圧延材に与える張力を一定とするための電流制御が行われる。図3に誘導電動機の電流制御構成を示す。速度制御の場合と異なり、電流制御の場合はトルク電流指令IqrefとなるIrefが直接与えられるため、速度制御器104が無い以外は、図2の速度制御構成と同様である。
【0033】
誘導電動機の1相分のT形等価回路を図4に示す。励磁電流Iが励磁回路に流れ、トルク電流Iが固定子回路に流れるようになっている。励磁回路は、励磁回路インダクタンスLを含んで構成され、固定子回路は、回転子回路抵抗R2をすべりSで減じた抵抗(R2/S)を含んで構成されている。そして、励磁電流Iおよびトルク電流Iの二乗和平方根で求められる一次電流(固定子電流)Iが固定子巻線に流れるようになっている。
【0034】
なお、図4において、Vは端子電圧、R1は固定子回路抵抗、L1は固定子回路インダクタンス、L2は回転子回路インダクタンス、Eは内部誘導起電力(励磁回路電圧)を示す。図4に示したT形等価回路の電流および電圧の関係は、図5のベクトル図で示される。このベクトル図により、端子電圧Vと内部誘導起電力Eとの関係が決定される。ωは電源角周波数を示す。
【0035】
ここで、誘導電動機101の界磁φおよびトルクTは、以下の式(1)及び式(2)によって算出することができる。


ここでK´、Kは誘導電動機の特性によって決まる係数である。
【0036】
誘導電動機の電気定数が判れば、上記(1)式より、励磁電流Iが、さらに圧延に必要なトルクが判れば、(2)式よりトルク電流Iが求まる。さらに、それらを得るための線間電圧Vは、図5より以下の式(3)〜(4)を用いて求めることができる。



【0037】
次に、誘導電動機の制御特性について説明する。図6は、誘導電動機の一般的な制御特性を示す図である。誘導電動機は、予め定められた所定の回転速度であるBASE速度までは、出力トルクを一定とする定トルク制御によって制御され、BASE速度からTOP速度までは電動機出力(パワー)を一定とする定出力制御により制御される。そのためトルク電流一定であれば、BASE速度までは出力トルク一定となり、BASE速度以上では回転速度に反比例してトルクが減少する。また、BASE速度に達するまでの間に内部誘導起電力Eが最大となり、定出力制御の間その値が維持される。
【0038】
磁束指令器105は、定トルク制御時は、界磁を一定とするように、式(1)に従って、誘導電動機101の回転速度N(角速度ω)の上昇に比例して内部誘導起電力Eを大きくしていく。そして、角速度ωがBASE速度に達すると、内部誘導起電力Eを一定に保つ。これにより、BASE速度以上では、界磁φが角速度ωに反比例して減少し、同様に出力トルクTも速度に反比例して減少することになる。この時、(3)〜(5)式より、線間電圧Vは角速度ωの上昇に従って増加する。線間電圧Vが線間最大電圧VsMAXに達する角速度ωがTOP速度となり、誘導電動機はそれ以上の速度では回転できなくなる。
【0039】
圧延機における、ミルおよびTRの電動機は、圧延設備の目的に応じて、圧延操業を行う最大速度、必要となる最大トルク等より図6に示すような速度−トルク特性が決定され、それに応じた特性を持った電動機が製作、設置される。
【0040】
図7に圧延に必要な電動機トルクの式の一例を示すが、製品仕様と圧延機仕様より、入側TR2、圧延機1、出側TR3それぞれに必要なトルクTqETR、TqMILL、TqDTRを求めることができる。このトルクが操業に必要な圧延速度から求められる電動機回転角速度ωにて得られる様な電動機が圧延設備に必要となる。電動機回転角速度ωは、圧延速度から圧延機仕様を用いて求めることができる。圧延速度は、操業効率や被圧延材の製品仕様等を考慮して決めることができる。
【0041】
図8(a)〜(c)に、圧延に必要なトルク−速度特性の簡単な一例を示す。図8(a)〜(c)においては、要求されるトルク及び速度の組み合わせを星印で示している。図8(a)の場合は、トルク−速度特性Aを持つ電動機を選択することにより圧延に必要となるトルク−速度特性を満足することができる。
【0042】
これに対して、図8(b)の場合は、トルク−速度特性Aでは、低速領域において、トルク−速度特性が満足できていない。そのため速度全域においてトルク−速度特性を満足させようとすると、トルク−速度特性Bを持つ電動機が必要となる。これは、出力の大きな電動機が必要となることになり、電動機および電動機制御装置の容量が大きくなり、設備投資額が増大する。
【0043】
ここで、図8(b)の例においては、大きなトルクは低速度領域で求められている。このため、低速度で大きなトルクが出るようなトルク−速度特性を同一電動機で得ることができれば、同じ電動機および電動機制御装置を用いて、図8(a)の要求も図8(b)の要求も満たすことが可能である。これに対して、電動機に印加可能な端子電圧には限界があり、電動機の最大の出力にも限界がある。従って、通常よりも高いトルクを得るためには、BASE速度を下げる必要がある。即ち、通常はトルク−速度特性Aを持つ電動機として使用し、大きなトルクを必要とする圧延を実施する場合は、図8(c)に示すトルク−速度特性Cを持つ電動機として電動機制御装置が制御すれば、設備投資額を増大することなく、要求される圧延操業が実施可能となる。
【0044】
これを実現するため、本実施形態に係る電動機速度制御装置100は、(1)式におけるEを大きくして界磁φを大きくする。これを実現するには、図9に示すように、端子電圧Vの速度変化に対する増加レートを大きくして、低速度で最大端子電圧VsMAXとなるようにすれば良い。そして、定出力制御の間その最大端子電圧VsMAXが維持されるように、誘導電動機内部の励磁回路の電圧である内部誘導起電力Eが回転速度の増加に伴って低くなるように制御される。
【0045】
そして、増加レートが大きくなったことにより通常よりも多く印加された端子電圧Vの電力は、励磁電流Iを通常の制御よりも高くするために用いられる。その結果、界磁磁束φが高くなり、トルクTが高くなる。この場合、図9に示すように、BASE速度を超えた所定の速度領域において、通常の制御よりも得られるトルクが低くなるが、低速度で高トルクを得ることが目的であり、圧延操業において圧延速度を制限すればよい。
【0046】
もうひとつのトルク−速度特性を変更する方法として、トルク電流指令を増加させる方法がある。図10にその場合のトルクー速度特性を示す。この場合、トルク電流の増加に比例してトルクは増大する。図9における1次電流Iの上昇幅と、図10における1次電流Iの上昇幅とを比較すると、トルクTの上昇幅は図9の方が大きいにも関わらず、図9の場合、即ち、本実施形態において適用する態様のほうが1次電流Iの上昇幅が少ないことがわかる。
【0047】
一般的に、励磁電流はトルク電流の30%程度である。例えば、トルクを10%増大したい場合、上述した式(1)、(2)から解るように、励磁電流を10%増大する(図9の場合)方法とトルク電流を10%増大する(図10の場合)方法がある。そして、上述したように励磁電流はトルク電流の30%程度であるため、励磁電流を10%増大させる方が線電流の増大が小さくてすむ。尚、線電流Iは、以下の式(6)によって求まる。

【0048】
図11に、トルクと線電流の関係を示す。図11において、実線はトルク電流を変更した場合のトルク倍率に応じた線電流の変化を示すグラフであり、破線は励磁電流を変更した場合のトルク倍率に応じた線電流の変化を示すグラフである。図11に示すように、励磁電流を変更してトルクを変更する方が、トルク電流を変更する場合に比較して線電流変化が小さい。従って、トルクを低減させる場合はトルク電流を操作し、トルクを増大させる場合は励磁電流を操作することで、線電流の増大を抑制しつつ誘導電動機トルク増大が可能となる。線電流の増大を抑えることで、熱損失を抑制するとともに電動機および電動機制御装置の発熱も防止できる。
【0049】
図8(d)では、BASE速度を超えた速度でトルク−速度特性Aより大きなトルクを必要とする圧延がある場合を示している。これを実現するには、トルク−速度特性Dのようにすれば良い。このようにトルク−速度特性を変更する場合、図12に示すように、誘起電圧を速度に応じて増大させるのを停止するBASE速度を端子電圧が最大電圧となるまで上げて、一定トルクの回転速度領域を増大させる。
【0050】
大きなトルクが必要とされる圧延を実施する場合は、圧延を低速度で実施することとすれば、トルク−速度特性を変更することで対応可能である。この場合、当然ながら、電動機の発熱や、電動機制御装置の容量等による制約条件は発生するため、制約条件内で可能な限り実施することとなる。また、この方法は、圧延設備を計画時には想定していなかった様な圧延トルクが必要な圧延を行う場合でも利用可能である。
【0051】
以上で説明したように、圧延機に使用される電動機のトルク−速度特性は、電動機制御における界磁φのパターンを変更することで変えることにより、装置において許容されている印加電圧の範囲内において効率的に高トルクを得ることが可能となる。従って、高いトルクを必要とする圧延を行う場合等、最適なトルク−速度特性を与えることで現状の圧延設備内で設備の耐久性を損なうような制御を行うことなく、効率的な圧延が可能となる。
【0052】
尚、図9においては、BASE速度、即ち、定トルク制御から定出力制御に切り替える誘導電動機の回転速度を、デフォルトの値、即ち定格の値よりも低くし、そのBASE速度に達するまでの定トルク制御の間に端子電圧Vを最大値であるVsMAXに到達させ、その際にデフォルトの状態よりも多めに供給される電力を励磁電流に振り分け、界磁弱め制御を行う定出力制御の速度範囲においては、内部誘導起電力Eが次第に下がるように制御することによって励磁電流Iが下がるようにする場合を例として説明した。
【0053】
しかしながら、本実施形態に係る要旨は、BASE速度に達するまでの定トルク制御の間に端子電圧VをVsMAXに到達させ、デフォルトの状態よりも多めに供給される電力を励磁電流に振り分け、その結果BASE速度において発揮されるトルクTをデフォルトの状態よりも高くすることにある。従って、図9に示すように、BASE速度をデフォルトの状態、即ち定格よりも低くすることは必ずしも必要ではなく、図13に示すように、BASE速度を維持したままで上述したような制御を行っても、本実施形態に係る効果を得ることが可能である。
【0054】
ここで、図13を図10と比較すると、図13、図10共にBASE速度は変化せず、トルクの増加量も同一であるが、1次電流Iの増加幅が異なり、図10の場合に比べて図13の場合の方が1次電流Iの増加幅が狭いことがわかる。このように、本実施形態に係る誘導電動機の制御装置、制御方法を用いることにより、同一の電動機出力トルクを得る場合であっても、励磁を大きくした方が少ない線電流で実現可能である。
【0055】
他方、BASE速度を維持した状態において上述した制御をおこなうことにより得られる電力の上昇分では、所望のトルクTを得られないような場合は、図9に示すように、BASE速度の値を下げることにより、低い速度において所望のトルクTを得ることが可能となる。尚、BASE速度は、定出力制御を行う速度ωの範囲のうち、最も低い速度であり、最も高い速度がTOP速度である。
【0056】
次に、図9、図12及び図13に示すように誘導電動機のトルク−速度特性を変更する制御を行うための具体的な構成について説明する。図14は、本実施形態に係る誘導電動機のトルク−速度特性を変更する場合の制御システム構成を示す図である。図1に示すように、シングルスタンド圧延機の制御構成のミル速度制御装置4は、具体的には、圧延機1の作業ロールを駆動するための誘導電動機1−101、誘導電動機の回転速度を検出するための速度センサ1−103、および電動機速度制御装置141より構成される。
【0057】
また、入側TR制御装置5は、入側TR2を駆動するための誘導電動機2−101、誘導電動機の回転速度を検出するための速度センサ2−103、および電動機電流度制御装置142より構成される。同様に、出側TR制御装置6は、出側TR3を駆動するための誘導電動機3−101、誘導電動機の回転速度を検出するための速度センサ3−103、および電動機電流度制御装置142より構成される。
【0058】
圧延制御装置20内の、入側張力電流変換装置15からは、入側TR制御装置5の電動機電流制御装置142に対して電流指令Irefが与えられ、出側張力電流変換装置16からは、出側TR制御装置6の電動機電流制御装置142に対して電流指令Irefが与えられ、圧延速度設定装置10からは、ミル速度制御装置4の電動機速度制御装置141に対して速度指令Nrefが与えられる。電動機速度制御装置141および電動機電流制御装置142は、それぞれ与えられた速度指令および電流指令となるように誘導電動機1−101、2−101、3−101を制御する。
【0059】
圧延に必要な電動機トルクは、図7に示すように、入側TR2および出側TR3については、被圧延材の張力とリール径により決定される。また、圧延機1については、被圧延材の加工に必要なトルクと、圧延機1入側および出側の張力と電動機が駆動するロール径に応じたトルクの和により決定される。
【0060】
トルク特性設定装置21は、図7に示すように、製品仕様と機械仕様から、圧延に必要なトルクを求め、電動機特性と比較することで、圧延中に必要な電動機のトルクを確保する。トルク特性設定装置21は、テンションリール等電流指令により駆動される電動機電流制御装置142に対する界磁変更指令を作成する電流制御トルク特性設定装置22と、圧延機等速度指令により駆動される電動機速度制御装置141に対する界磁変更指令を作成する速度制御トルク特性設定装置23とを含む。
【0061】
電流制御トルク特性設定装置22は、入側張力設定装置11および出側張力設定装置12より圧延機入側および出側の張力指令を受け取り、圧延速度パターン、入側TR2および出側TR3のリール半径より、設定された張力が圧延中維持可能となるように電流制御される電動機のトルク−速度特性を決定し、電動機電流制御装置142の磁束指令変更装置140に送ることでトルク−速度特性を変更する。
【0062】
図15は、圧延操業方法を示す図である。圧延は入側TR2から送り出された被圧延材を出側TR3に巻き取ることによって行われるから、圧延開始前は、RETRは大きく、圧延終了時はRDTRが大きくなる。また、圧延速度も圧延開始時の0から徐々に大きくして、圧延終了時までに徐々に小さくして0とする。TR半径が変化するため、圧延操業中、電動機に必要とされるトルクは常に変化する。
【0063】
入側TRについては、圧延開始時に最も大きなトルクを必要とし、出側TRについては、圧延終了時に最も大きなトルクを必要とする。また、圧延は圧延機の速度を基準として速度操作を実施する。つまり、図15の圧延速度は圧延機の速度である。このため、圧延速度一定でもTR半径が大きい場合は電動機回転速度が小さく、TR半径が小さい場合は電動機回転速度が大きくなる。例えば、入側TRが必要とするトルクは、図16図(c)の実線のようになる。
【0064】
ここで、電動機のトルク−速度特性が、図16(d)の一点鎖線のようになっているとすると、時間経過に対する電動機のトルクは図16(a)の一点鎖線のようになり、実線の入側TR必要トルクより小さい部分(破線楕円で示した電動機トルクが不足する部分)が存在する。この部分では、電動機トルクが不足するため被圧延材の張力が維持できなくなる。
【0065】
この時、電動機のトルク−速度特性を、図16(e)のように変更する(BASE速度を上げる)と、図16(b)に示すように、電動機のトルクより、必要トルクが圧延中全て小さくなり、張力を維持することが可能となる。
【0066】
また、図17(a)に示すように、低速度領域において電動機トルクが不足する場合は、図17(d)に示すトルク特性Bを、図17(e)に示すトルク特性Cに変更する(BASE速度を下げ、BASE速度に達するまでの定トルク制御領域での界磁電流を上げる)ことで、張力を維持することが可能となる。
【0067】
電流制御トルク特性設定装置22の動作を図18に示す。ここでは、入側TR2について、トルク−速度特性を変更する場合につき説明するが、出側TR3についても同様に変更する。図18に示すように、電流制御トルク特性設定装置22は、入側張力設定装置11から張力設定を取得すると、取得した張力設定に基づき、図7において説明した式を用いてリール半径に応じた必要トルクを演算し(S1801)、図16(a)及び図17(a)において説明したように、誘導電動機の各種の動作条件に応じて必要とされるトルクの値を時系列に求め、必要トルクよりも現状のトルク−速度設定が大きいことを確認する(S1802)。即ち、S1801及びS1802においては、電流制御トルク特性設定装置22が、トルク確認部として機能する。
【0068】
S1802の確認の結果、現状のトルク−速度設定において必要トルクを下回る部分がなければ(S1802/NO)、張力は維持できるのでそのまま処理を終了する。他方、現状のトルク−速度設定において必要トルクを下回る部分がある場合(S1803/YES)、張力が維持できなくなるためトルク−速度設定を変更する処理を開始する。
【0069】
その場合、現状のトルク−速度設定において必要トルクを下回る部分のリール速度が、BASE速度以下であるか否かにより処理が異なる。必要トルクを下回る部分のリール速度がBASE速度以下の場合(S1803/YES)、トルクを上げるためには、図8(c)及び図9に示すように、界磁電流を増加させると共にBASE速度を下げ(S1804)、新たなトルク−速度特性を作成する(S1806)。即ち、S1806においては、電流制御トルク特性設定装置22が、トルク制御パターン変更部として機能する。
【0070】
尚、上述したように、BASE速度を維持したまま界磁電流を増加させる場合もあり得る。例えば、必要トルクを下回る部分のリール速度がBASE速度に達する直前の速度である場合、必要トルクを満たすためには、BASE速度を維持したまま界磁電流を増加させる。
【0071】
他方、リール速度がBASE速度より大きい場合は、図8(d)及び図12のようにトルク−速度特性を変更するために励磁電流を弱め始める速度タイミングを変化させることによりBASE速度を上げ、新たなトルク−速度特性を作成する(S1806)。。
【0072】
S1806において作成した新たなトルク−速度特性は、制御対象となる入側テンションリール電動機2−101および電動機電流制御装置142で実現可能である必要が有り、そのためには線間電圧を制限値以下としなければならない。そこで、電流制御トルク特性設定装置22は、励磁電流およびトルク電流より線間電圧の予測計算を実施し、線間電圧が制限値を超過するようであれば(S1807/NO)、変更を中断し、圧延を継続した場合に張力が維持できないアラームをオペレータに対して出力する(S1808)。その場合、トルク電流を上げて対応するか、張力を下げるかの選択をオペレータは実施し圧延を継続する。もちろん圧延を停止するという選択も有る。
【0073】
線電圧が制限値内である場合は(S1807/YES)、現トルク−速度特性を「トルク−速度特性変更」に変更し(S1809)、それを電動機電流制御装置内の磁束指令変更装置140に出力する。磁束指令変更装置140においては、与えられたトルク−速度特性となるような磁束φ−速度特性を求め、磁束指令器105に設定する。即ち、磁束指令変更装置140が、磁界制御パターン変更部として機能する。ここで、トルク−速度特性から磁束−速度特性は、誘導電動機の電気的特性から公知の技術により求めることができる。
【0074】
電動機のトルク−速度特性が変わると、トルク−電流変換係数も変化する。入側張力電流変換装置15においては、入側設定張力および入側リール半径より求めたトルクを、トルク−電流変換係数を用いて電流に変換して電動機電流制御装置142に出力している。磁束指令変更装置140は、トルク−速度特性の変更により磁束指令器105の磁束φ−速度特性を変更する場合、それに応じて速度制御器104のトルク−電流変換係数も変更する(S1810)。即ち、磁束指令変更装置140が、トルク−速度特性の変更に応じて変換係数を変更する変換係数変更部としても機能する。
【0075】
ここでは、入側張力設定装置11で設定される入側張力設定値からトルクを演算する場合について説明したが、図1に示すように入側張力計8での張力検出値を用いた入側張力制御13が実施されている場合は、入側張力設定値+入側張力制御13出力が入側張力指令となるので、これを用いてトルク演算をするように変更することで対応可能である。
【0076】
圧延機1の電動機1−101は電動機速度制御装置141により速度が指令に追従するように制御されている。また、圧延機1においては、圧延により被圧延材が加工されているためそれに要するトルクも電動機から与える必要がある。そのため、入側TR、出側TRのように必要となるトルクを演算するのは困難である。
【0077】
図7に示すように、製品仕様と機械仕様からトルクTqMILLを計算する事は可能であるが、トルクアーム係数および圧延荷重式の計算誤差から実際に必要となる圧延機トルクTqMILLは計算値と異なる場合が多い。そのため、速度制御トルク特性設定装置23においては、電動機速度制御装置141が実際に制御している速度制御器104の出力であるトルク電流指令Iqrefより、電動機に必要なトルクを演算し、その結果を用いてトルク−速度特性を変更する。
【0078】
図19に、速度制御トルク特性設定装置23の動作概要を示す。図19に示すように、速度制御トルク特性設定装置23は、電動機速度制御装置141より、速度制御器104からの出力である速度制御器トルク電流指令を受け取り、トルク電流換算係数を用いて必要トルク演算を行う(S1901)。これ以降は、図18に示した電流制御トルク特性設定装置と同様である。圧延機の場合は、圧延不能時の選択肢として、圧延機にて被圧延材の出側板厚設定を変更する(厚めに設定替)事や、張力を変更する(大きめに設定替)する事が考えられる。また、S1910において変更されたトルク−電流換算係数は、次回のS1901における処理において用いられる。
【0079】
電動機速度制御装置141内の、磁束指令変更装置140に対してトルク−速度特性を与えて磁束−速度特性を作成する。同時に、磁束が変更されるので、電動機の出力トルクを一定とするため速度制御器104が出力するトルク電流指令も変更する必要がある。図20に、処理概要を示す。速度制御器104内では、速度偏差ΔNの比例積分制御によりトルク電流指令Iqrefを求めているとする。この場合、トルク電流指令Iqrefは、以下の式(7)に示すように、比例項IqPrefと積分項IqIrefの和となる。

【0080】
ここで、電動機出力トルクを一定にしたまま磁束φを変更するためには、トルク電流指令Iqrefを界磁φの変化に応じて変更する必要がある。界磁特性切替点の前後で界磁が界磁(A)φから界磁(B)φに変わったとすると、界磁(A)におけるトルク電流指令をIqref(A)とすると、界磁(B)におけるトルク電流指令は、以下の式(8)のようにする必要がある。

【0081】
ここで、比例項出力IqPrefは、界磁が変化しても一定となるから、比例項の補正を積分項にて実施する。従って、積分項の値を、以下の式(9)となるように変更する。これにより、界磁を切り替えても切替前後で電動機トルクを一定とすることが可能である。

【0082】
図20では、界磁をステップ状に切替る場合について説明したが、界磁特性の切替は数秒程度の時間でランプ関数状に行うことも可能である。これは、電流制御トルク特性設定装置22の動作においても同様である。
【0083】
以上述べたように、図14の様な構成をとることにより、圧延操業中に、圧延状態に応じて誘導電動機のトルク−速度特性を変化させて使用することが可能となる。これにより、圧延可能な材料や板厚、板幅の範囲を電動機を変更することなく可能となり、設備投資額を抑制することが可能となる。また、トルク電流を用いて電動機の発生トルクを増大させる場合と異なり、線電流の増大を抑制することが可能であり、トルク増大の割合を向上および銅損(発熱による電流損失)の低減が実現できる。更に、許容範囲を超えた電力での稼動を回避することにより、装置の耐久性を損なうことを回避することができる。
【0084】
尚、上記実施形態においては図1に示すように、シングルスタンド圧延機を例として説明したが、シングルスタンド圧延機だけでなく、複数の圧延機を連続的に並べたタンデム圧延機にも利用可能である。
【0085】
また、上記実施形態においては、圧延機に用いられる誘導電動機を例として説明したが、圧延機だけでなく、電動機に要求される操業に必要なトルクが、操業条件により大きく変動する様な生産機械、例えば工作機械や鉄道車両、搬送設備等にも利用可能である。
【0086】
また、図14に示す圧延制御装置20及びトルク特性設定装置21は、ソフトウェアとハードウェアとの組み合わせによって実現される。即ち、圧延制御装置20及びトルク特性設定装置21は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、HDD(Hard Disk Drive)等の不揮発性記憶媒体及びLCD(Liquid Crystal Display)やキーボード、マウス等のユーザインタフェース等、一般的なサーバやPC(Personal Computer)等の情報処理端末と同様のハードウェア構成を有する。
【0087】
このようなハードウェア構成において、ROMやHDD等の記録媒体に格納されたプログラムがRAMに読み出され、CPUがそのプログラムに従って演算を行うことにより、ソフトウェア制御部が構成される。このようにして構成されたソフトウェア制御部と、ハードウェアとの組み合わせによって、本実施形態に係る圧延制御装置20及びトルク特性設定装置21の機能が実現される。
【符号の説明】
【0088】
1 圧延機
2 入側TR
3 出側TR
4 ミル速度制御装置
5 入側TR制御装置
6 出側TR制御装置
7 ロールギャップ制御装置
8 入側張力系
9 出側張力系
10 圧延速度設定装置
11 入側張力設定装置
12 出側張力設定装置
13 入側張力制御
14 出側張力制御
15 入側張力電流変換装置
16 出側張力電流変換装置
17 出側板厚計
18 出側板厚制御装置
20 圧延制御装置
21 トルク特性設定装置
22 電流トルク特性設定装置
23 速度制御トルク特性設定装置
100 電動機速度制御装置
101 誘導電動機
103 速度センサ
104 速度制御器
105 磁束指令器
106 励磁電流演算器
107 トルク電流励磁電流制御器
109 直流電流演算器
110 電流センサ
111 座標変換器
112 電力変換器
113 直流電流
115 速度演算器
120 電動機電流制御装置
140 磁束指令変更装置
141 電動機速度制御装置
142 電動機電流制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁界を発生させるための励磁電流及び前記磁界に応じたトルクを発生させるためのトルク電流によってトルクを得る誘導電動機の制御装置であって、
予め定められた所定の回転速度に達するまでの間はトルクが一定となる定トルク制御を行うと共に、前記所定の回転速度から最大の回転速度までの間は前記励磁電流を減少させることによりトルク及び回転速度によって求められる誘導電動機の出力が一定となる定出力制御を行い、前記定トルク制御においては、前記励磁電流を最大値で固定すると共に前記定出力制御においては回転速度の上昇に従って前記励磁電流を減少させる磁界制御パターンに従って前記励磁電流を制御する励磁電流制御部と、
前記誘導電動機の動作条件に応じて必要とされるトルクの値を時系列に求め、前記誘導電動機の回転速度に応じたトルクが予め定められたトルク制御パターンと比較することにより、前記求めた必要とされるトルクの値が満たされているか否か確認するトルク確認部と、
前記所定の回転速度よりも遅い速度領域において前記求めた必要とされるトルクの値が満たされていない場合、前記定トルク制御における前記励磁電流の最大値が高くなるように前記トルク制御パターンを変更するトルク制御パターン変更部と、
前記変更されたトルク制御パターンに応じて前記磁界制御パターンを変更する磁界制御パターン変更部とを含むことを特徴とする誘導電動機の制御装置。
【請求項2】
前記トルク制御パターン変更部は、前記所定の回転速度よりも遅い速度領域において前記求めた必要とされるトルクの値が満たされていない場合、前記所定の回転速度を前記通常の制御における所定の回転速度よりも低くするように前記トルク制御パターンを変更することを特徴とする請求項1に記載の誘導電動機の制御装置。
【請求項3】
前記トルク制御パターン変更部は、前記所定の回転速度よりも速い速度領域において前記求めた必要とされるトルクの値が満たされていない場合、前記所定の回転速度を前記通常の制御における所定の回転速度よりも高くするように前記トルク制御パターンを変更することを特徴とする請求項1または2に記載の誘導電動機の制御装置。
【請求項4】
前記誘導電動機は、被圧延材を少なくとも一対のロールで挟むことによって圧延する圧延機において前記ロールの回転のために用いられるものであり、
前記被圧延材の張力指令値を変換係数に基づいて前記トルク電流の指令値に変換するトルク電流制御部と、
前記変更されたトルク制御パターンに応じて前記変換係数を変更する変換係数変更部とを含むことを特徴とする請求項1乃至3いずれか1項に記載の誘導電動機の制御装置。
【請求項5】
前記トルク制御パターン変更部は、前記トルク制御パターンを変更した場合に、変更後における前記誘導電動機に供給される前記励磁電流及び前記トルク電流によって定まる線電流の値を計算し、その計算結果が予め定められた制限値内であるか否か確認し、前記線電流の値が前記制限値を超えている場合、制御不可能であることをオペレータに通知することを特徴とする請求項1乃至4いずれか1項に記載の誘導電動機の制御装置。
【請求項6】
磁界を発生させるための励磁電流及び前記磁界に応じたトルクを発生させるためのトルク電流によってトルクを得る誘導電動機の制御方法であって、
予め定められた所定の回転速度に達するまでの間はトルクが一定となる定トルク制御を行うと共に、前記所定の回転速度から最大の回転速度までの間は前記励磁電流を減少させることによりトルク及び回転速度によって求められる誘導電動機の出力が一定となる定出力制御を行い、前記定トルク制御においては、前記励磁電流を最大値で固定すると共に前記定出力制御においては回転速度の上昇に従って前記励磁電流を減少させる磁界制御パターンに従って前記励磁電流を制御し、
前記誘導電動機の動作条件に応じて必要とされるトルクの値を時系列に求め、前記誘導電動機の回転速度に応じたトルクが予め定められたトルク制御パターンと比較することにより、前記求めた必要とされるトルクの値が満たされているか否か確認し、
前記所定の回転速度よりも遅い速度領域において前記求めた必要とされるトルクの値が満たされていない場合、前記定トルク制御における前記励磁電流の最大値が高くなるように前記トルク制御パターンを変更し、
前記変更されたトルク制御パターンに応じて前記磁界制御パターンを変更することを特徴とする誘導電動機の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2013−13242(P2013−13242A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−144329(P2011−144329)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】