誘導電動機の回転子時定数推定装置
【課題】本発明は、周辺環境または運転条件の影響を少なく受けて、常に一定水準のトルクを発生する誘導電動機の回転子時定数推定装置を提供する。
【解決手段】本発明は、d軸電流指令及びq軸電流指令を受信して、q軸電圧指令を出力し、q軸電圧推定値を出力して、前記q軸電圧指令と前記q軸電圧推定値との差である回転子時定数の変動値を出力し、前記回転子時定数の変動値を回転子時定数に加算して、変更された回転子時定数を出力する。
【解決手段】本発明は、d軸電流指令及びq軸電流指令を受信して、q軸電圧指令を出力し、q軸電圧推定値を出力して、前記q軸電圧指令と前記q軸電圧推定値との差である回転子時定数の変動値を出力し、前記回転子時定数の変動値を回転子時定数に加算して、変更された回転子時定数を出力する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転子時定数推定技術に関し、より詳細には誘導電動機の回転子の時定数を推定する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ハイブリッド自動車(Hybrid Electric Vehicle,HEV)や電気自動車(Electric Vehicle,EV)等、電動機を動力源とする車両では高い水準のトルク(torque)制御精度が求められる。
【0003】
最近、稀土類の価格上昇等で永久磁石型電動機の価格が上昇することによって、誘導電動機がHEV/EVの駆動電動機として注目されている。
【0004】
誘導電動機は、直接ベクター制御または間接ベクター制御を行うが、通常、電動機時定数変化に比較的影響を少なく受ける間接ベクター制御を利用する。しかし、間接ベクター制御を行う誘導電動機の場合、外部要因(特に、温度)の変化による回転子時定数の変化がトルクの発生に影響を与えて、発生トルクの変化が大きくなる場合、加速性能、乗車感及び運転感が、外部要因により変わる問題がある。従って、回転子時定数をリアルタイムで推定して発生トルクの変動量を最小化する技術が開示されている。
【0005】
図1は、従来の誘導電動機の回転子時定数推定装置の構成図である。
【0006】
【表1】
【0007】
【表2】
【0008】
【表3】
【0009】
従来の推定装置は、前記のように回転子時定数を推定し、これによって発生トルクの変動量を最小化する。
【0010】
【表4】
【0011】
【表5】
【0012】
【表6】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、周辺環境または運転条件の影響を少なく受けて常に一定水準のトルクを発生する誘導電動機の回転子時定数推定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記技術的課題を解決するために、回転子時定数を推定する本発明の推定装置は、d軸電流指令及びq軸電流指令を受信してq軸電圧指令を出力する電流制御部、d軸電流指令及びq軸電流指令を受信してq軸電圧推定値を出力する推定部、前記q軸電圧指令と前記q軸電圧推定値の差である回転子時定数の変動値を出力する制御部、及び前記回転子時定数の変動値を回転子時定数に加算して、変更された回転子時定数を出力する加算部を含む。
【0015】
本発明の一実施形態において、前記電流制御部は、前記変更された回転子時定数によって電流制御を行うことが好ましい。
【0016】
本発明の一実施形態において、前記推定部は、q軸電圧方程式を利用してq軸電圧推定値を出力することが好ましい。
【0017】
本発明の一実施形態において、前記制御部は、比例積分制御を介して回転子時定数の変動値を出力することが好ましい。
【0018】
本発明の一実施形態において、所定の第1参照表を利用して、前記誘導電動機の温度に応じて前記回転子時定数を選択する第1選択部をさらに含むことが好ましい。
【0019】
本発明の一実施形態において、所定の第2参照表を利用して、前記誘導電動機のd軸電流に応じて前記回転子時定数を選択する第2選択部をさらに含むことが好ましい。
【0020】
本発明の一実施形態において、所定の第3参照表を利用して、前記誘導電動機の温度に応じて前記回転子時定数を選択する第3選択部、及び所定の第4参照表を利用して、前記誘導電動機のd軸電流に応じて回転子時定数を選択する第4選択部をさらに含むことが好ましい。
【0021】
本発明の一実施形態において、前記第1及び第3参照表は、前記誘導電動機の固定子の温度に応じて変化する回転子抵抗変化による前記回転子時定数の変化を利用して作成した。
【0022】
本発明の一実施形態において、前記第2及び第4参照表は、前記d軸電流の大きさに応じて変化するインダクタンスによる前記回転子時定数の変化を利用して作成した。
【0023】
本発明の一実施形態において、所定の速度以下で、前記第1選択部、前記第2選択部及び前記第4選択部の出力のうちいずれか一つと、前記加算部の出力を所定割合で組み合わせて、最終回転子時定数を出力する組合せ部をさらに含むことが好ましい。
【0024】
本発明の一実施形態において、前記組合せ部は、前記所定の速度以上では前記加算部の出力を前記最終回転子時定数で出力することが好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明により、低速区間では参照表を用いて全速度範囲区間において温度補償を行って、EV/HEVで常に類似した加速性能及び運転感を維持させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】従来の誘導電動機の回転子時定数推定装置の構成図である。
【図2】本発明の電動機の温度による回転子時定数の推定を説明するための一つの例示図である。
【図3】本発明の電動機のd軸電流に応じた回転子時定数の推定を説明するための一つの例示図である。
【図4】本発明の電動機の温度及びd軸電流に応じた回転子時定数の推定を説明するための一つの例示図である。
【図5】図4の参照表を2次元で実現した一つの例示図である。
【図6】本発明に係る回転子時定数推定装置の第1実施形態の構成図である。
【図7A】電動機の固定子温度が、各々低温と高温の場合に最大トルク指令印加後のd軸電圧及びq軸電圧の変化を測定した一実施形態グラフである。
【図7B】電動機の固定子温度が、各々低温と高温の場合に最大トルク指令印加後のd軸電圧及びq軸電圧の変化を測定した一実施形態グラフである。
【図8A】電動機の固定子温度が高温の場合に、各々低トルク指令と高トルク指令が印加された後、d軸電圧及びq軸電圧の変化を測定した一実施形態グラフである。
【図8B】電動機の固定子温度が高温の場合に、各々低トルク指令と高トルク指令が印加された後、d軸電圧及びq軸電圧の変化を測定した一実施形態グラフである。
【図9】本発明に係る回転子時定数推定装置の第2実施形態の構成図である。
【図10】図9の組合せ部が組み合わせを行う方式を説明するための一つの例示図である。
【図11】本発明に係る回転子時定数推定装置の第3実施形態の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明は、種々の変更を加えることができ、多様な実施形態を有し、特定実施形態を図面に例示して詳細に説明する。
【0028】
しかし、これは本発明を特定の実施形態に対して限定しようとするものではなく、本発明の思想及び技術範囲に含まれる全ての変更、均等物乃至代替物を含むものと理解しなければならない。
【0029】
第1、第2等の序数を含む用語は、種々の構成要素を説明するために用いられるが、前記構成要素は前記用語によって限定されない。
【0030】
前記用語は、一つの構成要素を他の構成要素から区別する目的にだけ用いられる。例えば、本発明の権利範囲を逸脱しない限り、第2構成要素は第1構成要素に命名でき、同様に第1構成要素も第2構成要素に命名できる。
【0031】
ある構成要素が他の構成要素に「連結されて」いる、または「接続されて」いると記述する場合には、その他の構成要素に直接的に連結、または接続されていてもよく、その中間に他の構成要素が存在してもよいことを理解しなければならない。一方、ある構成要素が、他の構成要素に「直接連結されて」いる、または「直接接続されて」いると記述する場合には、その中間に他の構成要素が存在しないことを理解しなければならない。
【0032】
本願に使われた用語は、単に特定の実施形態を説明するために使われたものであって、本発明を限定する意図はない。単数の表現は、文脈上明白に異なることを意味しない限り、複数の表現を含む。
【0033】
本願において、「含む」または「有する」等の用語は、明細書上に記載された特徴、数字、段階、動作、構成要素、部品またはこれらを組み合わせたものが存在することを指定するものであって、一つまたはそれ以上の他の特徴や数字、段階、動作、構成要素、部品またはこれらを組み合わせたもの等の存在または付加可能性を予め排除しないものと理解しなければならない。
【0034】
また、本願に添付された図面は、説明の便宜のために、拡大または縮小して示されたものと理解しなければならない。
【0035】
【表7】
【0036】
産業用電動機は多くは速度を制御する装置に使われて、トルク制御は相対的にその重要度が小さかったが、トルク制御が重要視されるEV/HEV用誘導電動機制御においては温度に対する影響を考慮しなければならない。
【0037】
【表8】
【0038】
以下、添付図面を参照して本発明に係る好ましい一実施形態を詳細に説明する。
【0039】
図2は、本発明の電動機の温度による回転子時定数の推定を説明するための一つの例示図である。
【0040】
【表9】
【0041】
【表10】
【0042】
参照表Aは、固定子の温度に応じて変化する回転子抵抗変化による回転子時定数の変化を利用して作成した。
【0043】
例えば、入力{20[℃]、40[℃]、60[℃]、80[℃]}のような固定子温度に応じて、{300[ms]、270[ms]、250[ms]、240[ms]}のような参照表Aを構成して、表にない値は、前記値を線形補間して用いられる。
【0044】
【表11】
【0045】
【表12】
【0046】
【表13】
【0047】
図4は、本発明の電動機の温度及びd軸電流に応じた回転子時定数の推定を説明するための一例示図であり、図2及び図3の参照表A及びBを各々利用して回転子時定数を推定したものを示した。
【0048】
【表14】
【0049】
この時、本発明の推定では、図3の参照表Bを百分率を利用して{120[%]、100[%]、85[%]、75[%]}のように構成し、100%時の値を図2の参照表Aを利用して求めると、参照表A及びBを利用して簡単に実現できる。
【0050】
図5は、図4の参照表を2次元的に実現した一例示図であり、図4の推定と同様の方式で回転子時定数を推定できる。
【0051】
図6は、本発明に係る回転子時定数推定装置の第1実施形態の構成図である。
【0052】
【表15】
【0053】
図示したように、本発明の推定装置は、電流制御部10、q軸電圧推定部20、制御部30及び加算部40を含む。
【0054】
【表16】
【0055】
【表17】
【0056】
【表18】
【0057】
【表19】
【0058】
この二つの値の差を最小化するために、本発明の制御部30は、例えば、比例積分制御器(Proportional Integral Contol)である。
【0059】
【表20】
【0060】
【表21】
【0061】
【表22】
【0062】
従って、制御部30は変更されたq軸電圧指令がq軸電圧推定値と同じになる時まで回転子時定数を変更し、これにより、一定のトルクが得られる。
【0063】
【表23】
【0064】
【表24】
【0065】
図7A及び図7Bは、電動機の固定子温度が各々低温と高温の場合に、最大トルク指令印加後のd軸電圧及びq軸電圧の変化を測定した一実施形態グラフである。
【0066】
図示したように、低速ではd軸及びq軸電圧の変化が微小で、高速になる程温度による電圧差は、q軸電圧がより大きいことが分かる。これは、回転子時定数の変化がq軸電圧出力に及ぼす影響がより大きいものであり、q軸電圧を利用することが回転子時定数の温度補償にさらに有利であることを意味する。
【0067】
図8A及び図8Bは、電動機の固定子温度が高温の場合に、各々低トルク指令と高トルク指令が印加された後、d軸電圧及びq軸電圧の変化を測定した一実施形態グラフである。
【0068】
図示したように、負荷に変動がある場合にも、q軸電圧は比較的一定水準を維持するため、従来のd軸電圧を用いる方式と異なり、本発明の推定装置は全負荷領域で使用できる。
【0069】
また、本発明の推定装置では基本的に電圧を利用するため、速度が高いほど正確度が高くなる。
【0070】
図9は、本発明に係る回転子時定数推定装置の第2実施形態の構成図であり、図6の回転子時定数推定装置に図2乃至図4の回転子時定数推定を結合したものである。従って、図9の実施形態においては、図4の方式を挙げて説明したが、これに限定されるものではないことは自明である。
【0071】
図示したように、本発明の推定装置は、電流制御部10、q軸電圧推定部20、制御部30、加算部40、参照表選択部1(50)、参照表選択部2(60)、及び組合せ部70を含む。
【0072】
電流制御部10、q軸電圧推定部20、制御部30及び加算部40の動作については、図6の説明と同様であるため、その説明は省略する。
【0073】
参照表選択部1(50)は、図2のような方式で電動機の温度により参照表Aを利用して回転子時定数を選択し、参照表選択部2(60)は図3と同様の方式で電動機のd軸電流により参照表Bを利用して回転子時定数を選択し、参照表選択部2(60)から出力された回転子時定数が加算部40に入力される。
【0074】
【表25】
【0075】
【表26】
【0076】
このような方式で、実際電動機の温度に対するトルク誤差を5%以内に制御することができる。下記表は低温(30℃)及び低温(80℃)で各々速度を変更した場合、補償前及び補償後のトルク誤差を示したものである。各トルク誤差の単位は%である。
【0077】
【表27】
【0078】
このように、補償前よりトルク誤差が大変少なくなることが分かる。
【0079】
図11は、本発明に係る回転子時定数推定装置の第3実施形態の構成図であり、d軸電圧を利用した推定部1とq軸電圧を利用した推定部2を含んで構成されるものである。
【0080】
d軸電圧を利用した推定部1は、図1の推定装置と同様の構成で、q軸電圧を利用した推定部2は、図6の推定装置と同様の構成である。
【0081】
d軸電圧を利用した推定部1は、既に説明したように主に低速において効率的であり、q軸電圧を利用した推定部2は主に高速において効率的であるため、両推定部1、2の出力を組合せ部80が組み合わせて、温度補償性能を高めることができる。
【0082】
図11の構成要素の機能については、既に説明したものと同様であるため、省略する。
【0083】
従来の回転子時定数推定は、産業用技術として、正格速度の2〜3倍以上速度範囲で運転するEV/HEV駆動用誘導電動機の運転条件に対する考慮が足りなかった。高速運転が多い誘導電動機の場合、d軸電圧を利用するよりq軸電圧を利用することが有利である。
【0084】
本発明は、低速区間おいては参照表を用い、全速度範囲区間において温度補償ができ、これにより、常に似たような加速性能及び運転感を維持することができる。
【0085】
以上から代表的な実施形態をもって本発明について詳細に説明したが、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者は、前述した実施形態に対して本発明の範疇から逸脱しない限り、多様な変形が可能であることを理解しなければならない。従って、本発明の権利範囲は、説明された実施形態に限って定まってはならず、後述する特許請求の範囲だけでなく、この特許請求範囲と均等物等によって定めるべきである。
【符号の説明】
【0086】
10、110 電流制御部
20 q軸電圧推定部
30 制御部
40 加算部
50 参照表選択部1
60 参照表選択部2
70、80 組合せ部
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転子時定数推定技術に関し、より詳細には誘導電動機の回転子の時定数を推定する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ハイブリッド自動車(Hybrid Electric Vehicle,HEV)や電気自動車(Electric Vehicle,EV)等、電動機を動力源とする車両では高い水準のトルク(torque)制御精度が求められる。
【0003】
最近、稀土類の価格上昇等で永久磁石型電動機の価格が上昇することによって、誘導電動機がHEV/EVの駆動電動機として注目されている。
【0004】
誘導電動機は、直接ベクター制御または間接ベクター制御を行うが、通常、電動機時定数変化に比較的影響を少なく受ける間接ベクター制御を利用する。しかし、間接ベクター制御を行う誘導電動機の場合、外部要因(特に、温度)の変化による回転子時定数の変化がトルクの発生に影響を与えて、発生トルクの変化が大きくなる場合、加速性能、乗車感及び運転感が、外部要因により変わる問題がある。従って、回転子時定数をリアルタイムで推定して発生トルクの変動量を最小化する技術が開示されている。
【0005】
図1は、従来の誘導電動機の回転子時定数推定装置の構成図である。
【0006】
【表1】
【0007】
【表2】
【0008】
【表3】
【0009】
従来の推定装置は、前記のように回転子時定数を推定し、これによって発生トルクの変動量を最小化する。
【0010】
【表4】
【0011】
【表5】
【0012】
【表6】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、周辺環境または運転条件の影響を少なく受けて常に一定水準のトルクを発生する誘導電動機の回転子時定数推定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記技術的課題を解決するために、回転子時定数を推定する本発明の推定装置は、d軸電流指令及びq軸電流指令を受信してq軸電圧指令を出力する電流制御部、d軸電流指令及びq軸電流指令を受信してq軸電圧推定値を出力する推定部、前記q軸電圧指令と前記q軸電圧推定値の差である回転子時定数の変動値を出力する制御部、及び前記回転子時定数の変動値を回転子時定数に加算して、変更された回転子時定数を出力する加算部を含む。
【0015】
本発明の一実施形態において、前記電流制御部は、前記変更された回転子時定数によって電流制御を行うことが好ましい。
【0016】
本発明の一実施形態において、前記推定部は、q軸電圧方程式を利用してq軸電圧推定値を出力することが好ましい。
【0017】
本発明の一実施形態において、前記制御部は、比例積分制御を介して回転子時定数の変動値を出力することが好ましい。
【0018】
本発明の一実施形態において、所定の第1参照表を利用して、前記誘導電動機の温度に応じて前記回転子時定数を選択する第1選択部をさらに含むことが好ましい。
【0019】
本発明の一実施形態において、所定の第2参照表を利用して、前記誘導電動機のd軸電流に応じて前記回転子時定数を選択する第2選択部をさらに含むことが好ましい。
【0020】
本発明の一実施形態において、所定の第3参照表を利用して、前記誘導電動機の温度に応じて前記回転子時定数を選択する第3選択部、及び所定の第4参照表を利用して、前記誘導電動機のd軸電流に応じて回転子時定数を選択する第4選択部をさらに含むことが好ましい。
【0021】
本発明の一実施形態において、前記第1及び第3参照表は、前記誘導電動機の固定子の温度に応じて変化する回転子抵抗変化による前記回転子時定数の変化を利用して作成した。
【0022】
本発明の一実施形態において、前記第2及び第4参照表は、前記d軸電流の大きさに応じて変化するインダクタンスによる前記回転子時定数の変化を利用して作成した。
【0023】
本発明の一実施形態において、所定の速度以下で、前記第1選択部、前記第2選択部及び前記第4選択部の出力のうちいずれか一つと、前記加算部の出力を所定割合で組み合わせて、最終回転子時定数を出力する組合せ部をさらに含むことが好ましい。
【0024】
本発明の一実施形態において、前記組合せ部は、前記所定の速度以上では前記加算部の出力を前記最終回転子時定数で出力することが好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明により、低速区間では参照表を用いて全速度範囲区間において温度補償を行って、EV/HEVで常に類似した加速性能及び運転感を維持させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】従来の誘導電動機の回転子時定数推定装置の構成図である。
【図2】本発明の電動機の温度による回転子時定数の推定を説明するための一つの例示図である。
【図3】本発明の電動機のd軸電流に応じた回転子時定数の推定を説明するための一つの例示図である。
【図4】本発明の電動機の温度及びd軸電流に応じた回転子時定数の推定を説明するための一つの例示図である。
【図5】図4の参照表を2次元で実現した一つの例示図である。
【図6】本発明に係る回転子時定数推定装置の第1実施形態の構成図である。
【図7A】電動機の固定子温度が、各々低温と高温の場合に最大トルク指令印加後のd軸電圧及びq軸電圧の変化を測定した一実施形態グラフである。
【図7B】電動機の固定子温度が、各々低温と高温の場合に最大トルク指令印加後のd軸電圧及びq軸電圧の変化を測定した一実施形態グラフである。
【図8A】電動機の固定子温度が高温の場合に、各々低トルク指令と高トルク指令が印加された後、d軸電圧及びq軸電圧の変化を測定した一実施形態グラフである。
【図8B】電動機の固定子温度が高温の場合に、各々低トルク指令と高トルク指令が印加された後、d軸電圧及びq軸電圧の変化を測定した一実施形態グラフである。
【図9】本発明に係る回転子時定数推定装置の第2実施形態の構成図である。
【図10】図9の組合せ部が組み合わせを行う方式を説明するための一つの例示図である。
【図11】本発明に係る回転子時定数推定装置の第3実施形態の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明は、種々の変更を加えることができ、多様な実施形態を有し、特定実施形態を図面に例示して詳細に説明する。
【0028】
しかし、これは本発明を特定の実施形態に対して限定しようとするものではなく、本発明の思想及び技術範囲に含まれる全ての変更、均等物乃至代替物を含むものと理解しなければならない。
【0029】
第1、第2等の序数を含む用語は、種々の構成要素を説明するために用いられるが、前記構成要素は前記用語によって限定されない。
【0030】
前記用語は、一つの構成要素を他の構成要素から区別する目的にだけ用いられる。例えば、本発明の権利範囲を逸脱しない限り、第2構成要素は第1構成要素に命名でき、同様に第1構成要素も第2構成要素に命名できる。
【0031】
ある構成要素が他の構成要素に「連結されて」いる、または「接続されて」いると記述する場合には、その他の構成要素に直接的に連結、または接続されていてもよく、その中間に他の構成要素が存在してもよいことを理解しなければならない。一方、ある構成要素が、他の構成要素に「直接連結されて」いる、または「直接接続されて」いると記述する場合には、その中間に他の構成要素が存在しないことを理解しなければならない。
【0032】
本願に使われた用語は、単に特定の実施形態を説明するために使われたものであって、本発明を限定する意図はない。単数の表現は、文脈上明白に異なることを意味しない限り、複数の表現を含む。
【0033】
本願において、「含む」または「有する」等の用語は、明細書上に記載された特徴、数字、段階、動作、構成要素、部品またはこれらを組み合わせたものが存在することを指定するものであって、一つまたはそれ以上の他の特徴や数字、段階、動作、構成要素、部品またはこれらを組み合わせたもの等の存在または付加可能性を予め排除しないものと理解しなければならない。
【0034】
また、本願に添付された図面は、説明の便宜のために、拡大または縮小して示されたものと理解しなければならない。
【0035】
【表7】
【0036】
産業用電動機は多くは速度を制御する装置に使われて、トルク制御は相対的にその重要度が小さかったが、トルク制御が重要視されるEV/HEV用誘導電動機制御においては温度に対する影響を考慮しなければならない。
【0037】
【表8】
【0038】
以下、添付図面を参照して本発明に係る好ましい一実施形態を詳細に説明する。
【0039】
図2は、本発明の電動機の温度による回転子時定数の推定を説明するための一つの例示図である。
【0040】
【表9】
【0041】
【表10】
【0042】
参照表Aは、固定子の温度に応じて変化する回転子抵抗変化による回転子時定数の変化を利用して作成した。
【0043】
例えば、入力{20[℃]、40[℃]、60[℃]、80[℃]}のような固定子温度に応じて、{300[ms]、270[ms]、250[ms]、240[ms]}のような参照表Aを構成して、表にない値は、前記値を線形補間して用いられる。
【0044】
【表11】
【0045】
【表12】
【0046】
【表13】
【0047】
図4は、本発明の電動機の温度及びd軸電流に応じた回転子時定数の推定を説明するための一例示図であり、図2及び図3の参照表A及びBを各々利用して回転子時定数を推定したものを示した。
【0048】
【表14】
【0049】
この時、本発明の推定では、図3の参照表Bを百分率を利用して{120[%]、100[%]、85[%]、75[%]}のように構成し、100%時の値を図2の参照表Aを利用して求めると、参照表A及びBを利用して簡単に実現できる。
【0050】
図5は、図4の参照表を2次元的に実現した一例示図であり、図4の推定と同様の方式で回転子時定数を推定できる。
【0051】
図6は、本発明に係る回転子時定数推定装置の第1実施形態の構成図である。
【0052】
【表15】
【0053】
図示したように、本発明の推定装置は、電流制御部10、q軸電圧推定部20、制御部30及び加算部40を含む。
【0054】
【表16】
【0055】
【表17】
【0056】
【表18】
【0057】
【表19】
【0058】
この二つの値の差を最小化するために、本発明の制御部30は、例えば、比例積分制御器(Proportional Integral Contol)である。
【0059】
【表20】
【0060】
【表21】
【0061】
【表22】
【0062】
従って、制御部30は変更されたq軸電圧指令がq軸電圧推定値と同じになる時まで回転子時定数を変更し、これにより、一定のトルクが得られる。
【0063】
【表23】
【0064】
【表24】
【0065】
図7A及び図7Bは、電動機の固定子温度が各々低温と高温の場合に、最大トルク指令印加後のd軸電圧及びq軸電圧の変化を測定した一実施形態グラフである。
【0066】
図示したように、低速ではd軸及びq軸電圧の変化が微小で、高速になる程温度による電圧差は、q軸電圧がより大きいことが分かる。これは、回転子時定数の変化がq軸電圧出力に及ぼす影響がより大きいものであり、q軸電圧を利用することが回転子時定数の温度補償にさらに有利であることを意味する。
【0067】
図8A及び図8Bは、電動機の固定子温度が高温の場合に、各々低トルク指令と高トルク指令が印加された後、d軸電圧及びq軸電圧の変化を測定した一実施形態グラフである。
【0068】
図示したように、負荷に変動がある場合にも、q軸電圧は比較的一定水準を維持するため、従来のd軸電圧を用いる方式と異なり、本発明の推定装置は全負荷領域で使用できる。
【0069】
また、本発明の推定装置では基本的に電圧を利用するため、速度が高いほど正確度が高くなる。
【0070】
図9は、本発明に係る回転子時定数推定装置の第2実施形態の構成図であり、図6の回転子時定数推定装置に図2乃至図4の回転子時定数推定を結合したものである。従って、図9の実施形態においては、図4の方式を挙げて説明したが、これに限定されるものではないことは自明である。
【0071】
図示したように、本発明の推定装置は、電流制御部10、q軸電圧推定部20、制御部30、加算部40、参照表選択部1(50)、参照表選択部2(60)、及び組合せ部70を含む。
【0072】
電流制御部10、q軸電圧推定部20、制御部30及び加算部40の動作については、図6の説明と同様であるため、その説明は省略する。
【0073】
参照表選択部1(50)は、図2のような方式で電動機の温度により参照表Aを利用して回転子時定数を選択し、参照表選択部2(60)は図3と同様の方式で電動機のd軸電流により参照表Bを利用して回転子時定数を選択し、参照表選択部2(60)から出力された回転子時定数が加算部40に入力される。
【0074】
【表25】
【0075】
【表26】
【0076】
このような方式で、実際電動機の温度に対するトルク誤差を5%以内に制御することができる。下記表は低温(30℃)及び低温(80℃)で各々速度を変更した場合、補償前及び補償後のトルク誤差を示したものである。各トルク誤差の単位は%である。
【0077】
【表27】
【0078】
このように、補償前よりトルク誤差が大変少なくなることが分かる。
【0079】
図11は、本発明に係る回転子時定数推定装置の第3実施形態の構成図であり、d軸電圧を利用した推定部1とq軸電圧を利用した推定部2を含んで構成されるものである。
【0080】
d軸電圧を利用した推定部1は、図1の推定装置と同様の構成で、q軸電圧を利用した推定部2は、図6の推定装置と同様の構成である。
【0081】
d軸電圧を利用した推定部1は、既に説明したように主に低速において効率的であり、q軸電圧を利用した推定部2は主に高速において効率的であるため、両推定部1、2の出力を組合せ部80が組み合わせて、温度補償性能を高めることができる。
【0082】
図11の構成要素の機能については、既に説明したものと同様であるため、省略する。
【0083】
従来の回転子時定数推定は、産業用技術として、正格速度の2〜3倍以上速度範囲で運転するEV/HEV駆動用誘導電動機の運転条件に対する考慮が足りなかった。高速運転が多い誘導電動機の場合、d軸電圧を利用するよりq軸電圧を利用することが有利である。
【0084】
本発明は、低速区間おいては参照表を用い、全速度範囲区間において温度補償ができ、これにより、常に似たような加速性能及び運転感を維持することができる。
【0085】
以上から代表的な実施形態をもって本発明について詳細に説明したが、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者は、前述した実施形態に対して本発明の範疇から逸脱しない限り、多様な変形が可能であることを理解しなければならない。従って、本発明の権利範囲は、説明された実施形態に限って定まってはならず、後述する特許請求の範囲だけでなく、この特許請求範囲と均等物等によって定めるべきである。
【符号の説明】
【0086】
10、110 電流制御部
20 q軸電圧推定部
30 制御部
40 加算部
50 参照表選択部1
60 参照表選択部2
70、80 組合せ部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘導電動機のトルク制御に用いられる回転子時定数を推定する推定装置において、
d軸電流指令及びq軸電流指令を受信して、q軸電圧指令を出力する電流制御部と、
d軸電流指令及びq軸電流指令を受信して、q軸電圧推定値を出力する推定部と、
前記q軸電圧指令と前記q軸電圧推定値との差である回転子時定数の変動値を出力する制御部と、及び
前記回転子時定数の変動値を回転子時定数に加算して、変更された回転子時定数を出力する加算部と、を含むことを特徴とする、推定装置。
【請求項2】
前記電流制御部は、前記変更された回転子時定数を用いて電流制御を行うことを特徴とする、請求項1に記載の推定装置。
【請求項3】
前記推定部は、q軸電圧方程式を利用して前記q軸電圧推定値を出力することを特徴とする、請求項1または2に記載の推定装置。
【請求項4】
前記制御部は、比例積分制御を用いて前記回転子時定数の変動値を出力することを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の推定装置。
【請求項5】
所定の第1参照表を利用して、前記誘導電動機の温度に応じて前記回転子時定数を選択する第1選択部をさらに含むことを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の推定装置。
【請求項6】
所定の第2参照表を利用して、前記誘導電動機のd軸電流に応じて前記回転子時定数を選択する第2選択部をさらに含むことを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の推定装置。
【請求項7】
所定の第3参照表を利用して、前記誘導電動機の温度に応じて前記回転子時定数を選択する第3選択部と、及び
所定の第4参照表を利用して、前記誘導電動機のd軸電流に応じて前記回転子時定数を選択する第4選択部と、をさらに含むことを特徴とする、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の推定装置。
【請求項8】
前記第1及び第3参照表は、前記誘導電動機の固定子の温度に応じて変化する回転子抵抗変化による前記回転子時定数の変化を利用して作成したものであることを特徴とする、請求項5または7に記載の推定装置。
【請求項9】
前記第2及び第4参照表は、前記d軸電流の大きさに応じて変化するインダクタンスによる前記回転子時定数の変化を利用して作成したものであることを特徴とする、請求項6または7に記載の推定装置。
【請求項10】
所定の速度以下においては、前記第1選択部、前記第2選択部、及び前記第4選択部の出力のうちいずれか一つと、前記加算部の出力を所定割合で組み合わせて、最終回転子時定数を出力する組合せ部をさらに含むことを特徴とする、請求項5乃至7のいずれか一項に記載の推定装置。
【請求項11】
前記組合せ部は、前記所定の速度以上においては、前記加算部の出力を前記最終回転子時定数に出力することを特徴とする、請求項10に記載の推定装置。
【請求項1】
誘導電動機のトルク制御に用いられる回転子時定数を推定する推定装置において、
d軸電流指令及びq軸電流指令を受信して、q軸電圧指令を出力する電流制御部と、
d軸電流指令及びq軸電流指令を受信して、q軸電圧推定値を出力する推定部と、
前記q軸電圧指令と前記q軸電圧推定値との差である回転子時定数の変動値を出力する制御部と、及び
前記回転子時定数の変動値を回転子時定数に加算して、変更された回転子時定数を出力する加算部と、を含むことを特徴とする、推定装置。
【請求項2】
前記電流制御部は、前記変更された回転子時定数を用いて電流制御を行うことを特徴とする、請求項1に記載の推定装置。
【請求項3】
前記推定部は、q軸電圧方程式を利用して前記q軸電圧推定値を出力することを特徴とする、請求項1または2に記載の推定装置。
【請求項4】
前記制御部は、比例積分制御を用いて前記回転子時定数の変動値を出力することを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の推定装置。
【請求項5】
所定の第1参照表を利用して、前記誘導電動機の温度に応じて前記回転子時定数を選択する第1選択部をさらに含むことを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の推定装置。
【請求項6】
所定の第2参照表を利用して、前記誘導電動機のd軸電流に応じて前記回転子時定数を選択する第2選択部をさらに含むことを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の推定装置。
【請求項7】
所定の第3参照表を利用して、前記誘導電動機の温度に応じて前記回転子時定数を選択する第3選択部と、及び
所定の第4参照表を利用して、前記誘導電動機のd軸電流に応じて前記回転子時定数を選択する第4選択部と、をさらに含むことを特徴とする、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の推定装置。
【請求項8】
前記第1及び第3参照表は、前記誘導電動機の固定子の温度に応じて変化する回転子抵抗変化による前記回転子時定数の変化を利用して作成したものであることを特徴とする、請求項5または7に記載の推定装置。
【請求項9】
前記第2及び第4参照表は、前記d軸電流の大きさに応じて変化するインダクタンスによる前記回転子時定数の変化を利用して作成したものであることを特徴とする、請求項6または7に記載の推定装置。
【請求項10】
所定の速度以下においては、前記第1選択部、前記第2選択部、及び前記第4選択部の出力のうちいずれか一つと、前記加算部の出力を所定割合で組み合わせて、最終回転子時定数を出力する組合せ部をさらに含むことを特徴とする、請求項5乃至7のいずれか一項に記載の推定装置。
【請求項11】
前記組合せ部は、前記所定の速度以上においては、前記加算部の出力を前記最終回転子時定数に出力することを特徴とする、請求項10に記載の推定装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−99245(P2013−99245A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−230771(P2012−230771)
【出願日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【出願人】(593121379)エルエス産電株式会社 (221)
【氏名又は名称原語表記】LSIS CO., LTD
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【出願人】(593121379)エルエス産電株式会社 (221)
【氏名又は名称原語表記】LSIS CO., LTD
【Fターム(参考)】
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