誘電体シート用組成物の製造方法
【課題】 生成される誘電体層にピンホールが生じ難い誘電体シート用組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】 プラネタリーミキサーで予備混合された混合原料が、粘度が100〜500(Pa・s)と比較的高い状態で三本ロールミルにて分散処理を施されることから、ガラス粉末の良好な分散状態が得られる。また、その後、溶剤を添加してシート成形に適当な程度まで粘度を低下させた状態で密閉容器であるプラネタリーミキサーで混合処理が施されることから、その混合過程でスラリー中の気泡が十分に除去される。そのため、このスラリーから作製したシート状成形体内に残留する気泡が極めて少なくなるので、ラミネータを用いてこれをガラス基板に転写して焼成処理を施せば、ピンホールの少ない透明誘電体が得られる。
【解決手段】 プラネタリーミキサーで予備混合された混合原料が、粘度が100〜500(Pa・s)と比較的高い状態で三本ロールミルにて分散処理を施されることから、ガラス粉末の良好な分散状態が得られる。また、その後、溶剤を添加してシート成形に適当な程度まで粘度を低下させた状態で密閉容器であるプラネタリーミキサーで混合処理が施されることから、その混合過程でスラリー中の気泡が十分に除去される。そのため、このスラリーから作製したシート状成形体内に残留する気泡が極めて少なくなるので、ラミネータを用いてこれをガラス基板に転写して焼成処理を施せば、ピンホールの少ない透明誘電体が得られる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマディスプレイパネル(以下、PDPという)等の誘電体層を形成するために用い得る誘電体シート用組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、絶縁体材料製の基板上に設けた電極或いは導体を誘電体層で覆うことにより、これを電気的に絶縁し、或いはキャパシタとして機能させること等が行われている。
【0003】
例えば、図1に断面構造を模式的に示すPDPは、透明なガラス平板から成る一対の前面板10および背面板12が、図示しない外周縁部において封止されることによって気密容器に構成されたものである。
【0004】
前面板10の内面には、例えば酸化インジウム錫(ITO)が蒸着されることによって帯状に設けられた透明電極14と、その導電性を補う目的でそれよりも細幅寸法で積層された厚膜銀等から形成されるバス電極16とから成る複数対の維持電極18a,18bが備えられている。それら維持電極18a,18b対の相互間には黒色顔料を含む絶縁体厚膜から成るブラックストライプ20が備えられている。これら維持電極18およびブラックストライプ20は、透明誘電体から成る誘電体層22で覆われており、その誘電体層22は、更にMgOから成る薄い保護膜24で覆われている。
【0005】
一方、背面板12の内面には、その全面を覆うアンダーコート26が設けられている。そのアンダーコート26上には、厚膜銀等から成る複数本の帯状の書込電極28が維持電極18と直交する方向に沿って設けられている。書込電極28は、維持電極18bとの間で矢印aで示すように書込放電を発生させることによって発光させる区画を選択するためのものである。アンダーコート26は、この書込電極28と背面板12との反応を防止する目的で設けられたものである。書込電極28は、背面板12の全面に設けられた白色の顔料を含む白色誘電体から成る誘電体層30で覆われている。
【0006】
なお、図示は省略するが、背面板12上には、前記書込電極28の相互間の位置にその書込電極28に沿って伸びるバリアリブが前面板10に向かって突設されており、気密空間が複数本の放電空間に区分されている。各放電空間内には、例えばRGB3色の何れかに発光させられる蛍光体層が放電空間毎に塗り分けられており、放電空間内において矢印sに示すように維持電極18a,18b間で発生させられたガス放電によって励起発光させられ、その光が前面板10を通して射出されることにより、所望の文字や画像等が表示される。
【0007】
前記誘電体層30は、上記のようにして発生させられた光のうち背面板12側に向かう光を前面板10側に反射するためのものである。そのため、この誘電体層30には可及的に高い反射率を有することが求められる。また、前面板10から射出される光を多くして可及的に高い輝度を得るためには、前記誘電体層22には可及的に高い透過率を有することが求められる。
【0008】
従来、PDPを製造するに際して、上記のような誘電体層22,30の形成は、厚膜スクリーン印刷技術を利用した印刷工法で行われていた。しかしながら、印刷工法では、設置規模が大きな印刷機や乾燥機が必要であり、しかも、これらの設備はパネルサイズに応じて用意する必要があって、複数のパネルサイズで共用することが困難である。また、印刷ペーストを塗布した段階での品質検査が困難であり、焼成処理を経た成膜後に膜の欠陥の有無を検査する必要があるため、品質管理も容易ではない。
【0009】
また、白色誘電体から成る誘電体層30は、印刷および焼成処理を1回とすることも可能であるが、透明誘電体から成る誘電体層22は、印刷および焼成処理を少なくとも2回繰り返す必要がある。なお、焼成処理を2回行わないと、耐電圧が不十分になる。また、厚膜スクリーン印刷は、膜厚制御に手間および熟練を必要とするので、高精度を得ることが困難で膜厚のばらつきが生じ易い問題もある。更に、スクリーン印刷では焼成後の膜表面にメッシュ跡が残ることは避け難く、廃ペースト、ウェス、洗浄剤、ペースト容器等、廃棄物が多量に生ずることも問題である。
【0010】
これに対して、誘電体層22,30の形成に転写技術を利用したシート工法が提案されている(例えば特許文献1〜3を参照。)。シート工法は、誘電体スラリーをPETフィルム等から成るカバーフィルム上に塗工してシート状成形体を作成した後、これを基板表面に貼り付けてカバーフィルムを剥離し、焼成処理を施すことによって誘電体層22,30を形成するものである。そのため、透明誘電体を形成する場合にも、シート状成形体の貼り付けおよび焼成処理を各1回実施するだけで足りるため、工数を削減できる利点がある。
【0011】
なお、シート工法では、シート状成形体を貼り付けるためのラミネータが必要になるが、ラミネータは複数のパネルサイズに共用し得る。しかも、乾燥機等は不要であるため、誘電体層22,30形成のための設備の設置面積を小さくすることができる。また、シート状成形体は膜厚管理が容易であって高い膜厚精度を容易に得ることができ、成膜前の検査も可能となる上、印刷工法と異なり、メッシュ跡が生じないため表面状態も良好である。また、シート状成形体の不要部分は回収して再生可能であるため、廃棄される原料資材は専らカバーフィルムだけであり、廃棄物が殆ど生じない利点もある。
【0012】
また、他のシート工法として、自立性多孔質シートを用いて誘電体層22,30を形成する技術も提案されている(例えば特許文献4を参照。)。この技術によれば、カバーフィルムを使用しないので廃棄物が一層少なくなる。
【特許文献1】特許第3442069号公報
【特許文献2】特開2005−067959号公報
【特許文献3】特開2005−100892号公報
【特許文献4】特開2004−146233号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところで、上記のようなシート工法による誘電体層形成では、工程が簡便になる反面で、生成された誘電体層22,30にピンホール等の欠陥が生じ易い問題があった。このような欠陥が存在すると耐電圧が低下すると共に、透明誘電体においては透過率が低下することとなる。例えば、従来の印刷工法では、30(μm)の膜厚とした場合に、耐電圧が1.8(kV)程度、拡散透過率が82(%)程度、直線透過率が63(%)程度であったが、シート工法では、同一材料系でそれぞれ1.5(kV)程度、77(%)程度、52(%)程度に留まっていた。また、自立性多孔質シートを用いるシート工法では、緻密な誘電体層を得るためには、ガラス基板上で多孔質シートの空孔を潰して膜を緻密化させる必要がある。そのため、形成される膜の緻密性が多孔質シートの製造条件や熱圧着条件の微妙な変化に影響されるので、欠陥の少ない耐電圧や透光性に優れた誘電体層を得ることが困難な面がある。
【0014】
上記欠陥の生ずる原因は、誘電体スラリーの調製過程における混練時に、ガラス粉末が凝集してスラリー全体に十分に分散させられないためと考えられる。ガラス粉末の凝集延いては偏在は、有機結合剤の凝集をも招き、焼成処理の際に膜内の気泡の排出を妨げる。そのため、形成された誘電体層内にピンホールが存在することとなるのである。
【0015】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであって、その目的は、生成される誘電体層にピンホールが生じ難い誘電体シート用組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
斯かる目的を達成するため、本発明の要旨とするところは、焼成処理を施して誘電体層を形成するためのシート状成形体を製造するための誘電体シート用組成物を製造する方法であって、(a)誘電体を構成するためのセラミック原料粉末と、有機結合剤と、所定の第1溶剤とを含む原料を混合する予備混合工程と、(b)前記予備混合工程で得られた混合原料を三本ロールミルで混練する混練工程と、(c)前記混練工程に次いで、前記混合原料に所定の第2溶剤を添加して粘度を低下させて密閉容器中で混合する密閉混合工程とを、含むことにある。
【発明の効果】
【0017】
このようにすれば、予備混合した原料が分散能力の極めて高い三本ロールミルで混練処理された後、溶剤を添加して粘度を低下させた上で密閉容器中で混合処理が施されることから、その密閉混合の過程で誘電体シート用組成物中の気泡が十分に除去される。そのため、この誘電体シート用組成物から作製したシート状成形体内に残留する気泡が極めて少なくなるので、これを基板等に転写して焼成処理を施すことにより、ピンホールの少ない誘電体層を形成することができる。これにより、例えば、従来の印刷工法と同等或いはそれ以上の耐電圧が得られ、特に、透明誘電体においては、従来の印刷工法と同等或いはそれ以上の透過率を得ることができる。また、分散性が高められ、気泡が除去される結果として、表面粗さも従来のシート工法に比較しても更に改善される。なお、混合或いは混練処理を施すための装置としては、ボールミル、ビーズミル、ホモミクサー、ファインミル等も一般に用いられているが、ボールミルやホモミクサーではセラミック原料粉末の分散が不十分であり、ビーズミルはセラミック原料粉末の粒径が変化する。また、ファインミルは溶剤の温度が著しく高くなるので、誘電体シート用組成物を適当な粘度に調製するための低分子量の溶剤すなわち低沸点の溶剤を利用できない問題がある。
【0018】
ここで、好適には、前記第1溶剤は沸点が200(℃)以上の高沸点溶剤であり、前記第2溶剤は沸点が200(℃)未満の低沸点溶剤である。このようにすれば、三本ロールミルで混練する混練工程においては、ペーストに適当な粘性を与えるための第1溶剤に高沸点溶剤が用いられていることから、原料が露出した状態で混練処理が施され且つロール間で与えられる作用力によって原料温度が上昇させられて溶剤が揮発し易い状況にあるにも拘わらず、その溶剤の揮発が抑制される。そのため、適度な粘性に維持された状態で混練されるので、セラミック原料粉末の分散性が一層高められ、その凝集が一層抑制される。一方、密閉混合工程においては、低沸点溶剤が添加されることによって粘性が低下させられた状態で、スラリーが外気から遮蔽されて混合される。そのため、その低い粘性に保たれたまま十分に混合されることにより、スラリー中に存在する気泡の排出が一層促進され、誘電体シート用組成物中の気泡が一層除去される。一層好適には、第1溶剤は沸点が250(℃)以上である。
【0019】
また、好適には、前記セラミック原料粉末は鉛ガラス粉末であり、前記第2溶剤はOH基を有しないものである。有鉛ガラスはOH基が存在すると白濁すると共に表面粗さも粗くなる傾向にある。その結果、透明誘電体においては透過率が低下する問題が生じる。また、透明誘電体および白色顔料を含む白色誘電体の何れにおいても、表面の凹凸が大きくなると耐電圧が低下する問題がある。そのため、前記第2溶剤は、OH基の少ないものが好ましく、OH基を有していないものが最も好ましい。したがって、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール(以下、IPAという)等のアルコール系溶剤を用いることは、OH基を有することから好ましくなく、トルエン、キシレン等の炭化水素系や、メチルエチルケトン等のケトン系、直鎖構造の石油系等のOH基を有しない有機溶剤が好ましい。なお、本願において、「セラミック原料粉末」にはガラス粉末が含まれる。本願発明は、種々のセラミック膜用組成物に対して適用し得るが、ガラス膜用組成物に対して特に好適に適用される。
【0020】
また、好適には、前記セラミック原料粉末は無鉛ガラス粉末であり、前記第2溶剤はOH基を有するものである。無鉛ガラスは、有鉛ガラスとは異なり、OH基が存在する方が安定する傾向にある。そのため、第2溶剤は、メタノール、エタノール、IPA等のアルコール系溶剤を用いることが好ましく、このようにすれば、分散性の良好なスラリーが得られ、延いては高い透過率が得られる。
【0021】
また、前記第1溶剤は、一般に印刷用ペーストに用いられているものであれば何れのものも用いることが可能である。三本ロールミルで混練処理を施す段階では、比較的高い粘度が好ましい。そのため、第1溶剤の添加量は、密閉混合する際にシート成形に好適な粘度が得られるように添加される第2溶剤の量に比較して少ない量で足り、例えば、その1/2〜1/4程度でよい。例えば、第1溶剤の添加量は、ガラス粉末100重量部に対して8〜12重量部が好ましく、第2溶剤の添加量は、25〜35重量部が好ましい。したがって、有鉛ガラスに適用される場合においても、第1溶剤にOH基を有しているものを用いることができる。但し、有鉛ガラスに適用される場合には、前述したようにスラリー中のOH基が少ない方が好ましく、例えば、ターピネオール系、ジヒドロターピネオール系、ブチルカルビトール系、アルコールエステル系等が好ましい。
【0022】
また、好適には、前記予備混合工程では、分散剤が添加される。このようにすれば、セラミック原料粉末の分散性が一層高められる。後述するように、第1溶剤はOH基を有するものが用いられても良いので、一般的な分散剤を使用可能であり、分散剤の種類は特に限定されない。例えば、イタコン酸やポリカルボン酸等の有機酸が好適に用いられる。分散剤の添加量は、ガラス粉末100重量部に対して1〜4重量部が好ましく、このうち、イタコン酸の割合が0.05〜2.0重量部であることが好ましい。イタコン酸の割合は、1.5重量部以下が一層好ましく、0.5〜1.0重量部が更に好ましい。
【0023】
また、好適には、前記密閉混合工程に際しても、混合原料に分散剤が添加される。このようにすれば、一旦分散させられたセラミック原料粉末が密閉混合中に再凝集することが抑制される。両工程に用いられる分散剤としては、通常用いられる各種のものを適用し得るが、カルボン酸系、シラン系、カルボキシル基含有モノマー等が好適である。前述したように、セラミック原料粉末が有鉛ガラス粉末である場合には、第2溶剤にはOH基を有していないものが好ましいが、一般的な分散剤はOH基を有しない溶剤系では分散効果を殆ど得られない。上記のカルボン酸系等は、OH基を有する溶剤系にも、OH基を有しない溶剤系にも有効である。特に、カルボキシル基含有モノマーが好ましく、例えば、イタコン酸が好ましい。なお、第1溶剤にOH基を有しないものが用いられる場合にも、分散剤はこれらのものを用いることが好ましい。
【0024】
また、好適には、前記密閉混合工程に際しては、混合原料に可塑剤が添加される。このようにすれば、シート状成形体の柔軟性が高められるので、成形後の取扱中等において割れやクラック等の生ずることが抑制されると共に、ガラス基板等に貼り付ける際の密着性が高められる。可塑剤の種類は特に限定されないが、DBP(フタル酸ジブチル)、DOA(アジピン酸ジオクチル)、DMP(フタル酸ジメチル)、DOP(フタル酸ジ-2エチルヘキシル(フタル酸ジオクチル))等が好適に用いられる。可塑剤量は、ガラス粉末100重量部に対して1〜3重量部が好ましい。
【0025】
また、好適には、前記密閉混合工程は、容器内に配置された複数枚の攪拌羽根が自転しつつ公転させられることにより、前記混合原料を混合するものである。このようにすれば、複数枚の攪拌羽根によって効果的に攪拌されるので、セラミック原料粉末の分散性が一層高められると共に組成物中の気泡が一層除去される。なお、前記予備混合工程で用いられる混合装置は特に限定されず、ボールミルやスタティックミキサー等、種々の装置を利用し得るが、例えば、上記攪拌羽根を備えた攪拌装置を用いてもよい。
【0026】
また、前記有機結合剤は特に限定されず、エチルセルロース、ニトロセルロース、酪酸セルロース、アクリル樹脂、ブチラール樹脂等を用いることができる。すなわち、一般に印刷用ペーストに有機結合剤として添加されるものを用い得る。この中でもエチルセルロース系樹脂は、少量で例えば100〜500(Pa・s)程度の混練に好適な高粘性が得られることから特に好ましい。
【0027】
また、好適には、前記密閉混合工程においても、前記有機結合剤とは別に他の有機結合剤(以下、区別するときは、それぞれ第1の有機結合剤、第2の有機結合剤という。)が添加される。セラミック原料粉末の分散性を高めるための三本ロールミルが用いられる混練工程では、印刷用ペーストと同等の粘性が好ましい一方、密閉混合工程では、シート状成形体の成形に適した粘性が好ましいことから、それぞれの工程で望ましい粘性は相違する。上記のように、両工程でそれぞれ適当な有機結合剤を用いれば、所望する粘性を容易に得ることができる。なお、第1の有機結合剤にエチルセルロースを用いれば、上述したように少量で足りることから、第1の有機結合剤および第2の有機結合剤が用いられる場合には、シート成形のための第2の有機結合剤の割合を多くすることができる利点がある。
【0028】
上記の第2の有機結合剤は、アクリル系、ブチラール系、エチルセルロース系等、特に限定されないが、燃え抜け性のよいもの、基板への貼り付け性のよいものが好ましい。有機結合剤は、分子量が低いほど燃え抜け性に優れているが、添加量が十分に少ないのであれば、分子量が比較的大きいものでも差し支えない。このような燃え抜け性および貼り付け性の優れている有機結合剤としては、例えばアクリル系樹脂が挙げられる。アクリル系樹脂は、エチルセルロース系樹脂と混合可能であるため、第1の有機結合剤がエチルセルロース系樹脂である場合には、第2の有機結合剤としてアクリル系樹脂を用いることが最も好ましい。また、ガラス基板等に誘電体シートを転写するときに接着性が要求されるが、アクリル系はシート状成形体に好適な接着性を付与できる点でも好ましい。
【0029】
また、有機結合剤の量は、誘電体シート組成物中に含まれる全体量がセラミック原料粉末100重量部に対する割合で10〜20重量部の範囲内であることが好ましい。この有機結合剤量は、第1の有機結合剤および第2の有機結合剤が用いられる場合には、これらの合計量である。有機結合剤の量が10重量部よりも少ないと、転写性が悪くなる。すなわち、ガラス基板への接着性が低下し、シート状成形体の割れやクラックが生じ易くなる。20重量部よりも多いと、気泡が生じ易くなると共に表面粗さも荒くなるため、透過率が低下すると共に耐電圧も低下する傾向が生じる。
【0030】
また、前記ガラス粉の種類すなわち組成は特に限定されない。鉛系および非鉛系の何れであっても良い。
【0031】
また、前記ガラス粉は、平均粒径が0.5〜5.0(μm)の範囲内のものが好ましい。平均粒径が0.5(μm)以上になると凝集が生じ難くなり、ガラス粉の分散性の一層良い誘電体シート用組成物が得られる。また、平均粒径が5.0(μm)以下であれば、表面粗さの一層優れた誘電体層を形成可能な誘電体シート用組成物が得られる。ガラス粉の平均粒径は、一層好適には、0.6〜3.0(μm)の範囲内であり、0.8〜1.5(μm)の範囲内が特に好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。
【0033】
図2は、前記図1に示す誘電体層22,30の形成方法の一例を説明するための工程図である。図2において、シート成形工程S1では、別途作製したスラリーおよびPETフィルム等から成るカバーフィルムを用意し、例えばドクターブレード法等の良く知られたシート成形方法を用いて、シート状成形体を製造する。
【0034】
上記のシート成形工程S1で用いられるスラリーは、表1に一例を示す組成となるように、例えば、図3に示される工程で調製される。図3において、予備混合工程SS1では、例えば、有鉛系ガラス粉末、ベヒクル、溶剤、および分散剤をそれぞれ所定量秤量し、プラネタリーミキサーを用いて混合する。これにより、例えば、100〜500(Pa・s)程度の粘度に調製されたペースト状物が得られる。なお、下記の表1には、予備混合工程SS1で混合されるものと、後述する密閉混合工程SS3で添加されるものをまとめて記載した。
【0035】
【表1】
【0036】
上記ガラス粉末は、例えば、PbOが65(wt%)、SiO2が23(wt%)、B2O3が7(wt%)、Al2O3が5(wt%)、Cu2OおよびCeO2が微量含まれる組成を有し、軟化点が535(℃)、平均粒径が1.0(μm)程度のものである。Cu2OおよびCeO2はAgによる着色対策の目的で入れてある。
【0037】
上記ベヒクルは、例えばエチルセルロースを含むものが用いられ、ガラス粉末100重量部に対する樹脂量が1〜2重量部(以下、特に断らない限り、添加量は全てガラス粉末100重量部に対する値とする。)、例えば1.7重量部となるように加えられる。
【0038】
また、溶剤は、沸点が200(℃)以上の高沸点溶剤であり、ターピネオール系、石油系、アルコールエステル系、高級アルコール系等が好ましく、8〜12重量部が加えられる。例えば、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレート(例えば日本香料製NG-120)等のアルコールエステル系溶剤が11.5重量部、ジヒドロターピネオール等のターピネオール系溶剤が7.9重量部、合計で19.4重量部程度が加えられる。
【0039】
また、分散剤は、ポリカルボン酸やイタコン酸等の有機酸溶液であり、前者が1〜2重量部、後者が0.05〜2重量部の範囲で添加される。分散剤の合計量は、1〜4重量部の範囲内、例えば2.5重量部程度である。
【0040】
次いで、混練工程SS2では、混合したペースト状物を三本ロールミルを用いて混練する。これにより、ペースト中のガラス粉末が高い分散性を以て分散させられる。三本ロールミルによる混練は、JIS K5600-2-5に定められた所謂粒ゲージ法で分散の度合いを確認しながら実施する。
【0041】
次いで、密閉混合工程SS3においては、上記ペースト状混合物に、シート用樹脂(例えばメタクリル酸樹脂等のアクリル樹脂系)、可塑剤、溶剤、有機酸溶液(例えばイタコン酸溶液)を添加し、プラネタリーミキサーで混合する。
【0042】
シート用樹脂は上記表1に示されるアクリル系樹脂が好ましく、例えばガラス転移点Tgが10〜50(℃)程度のアクリル系樹脂が用いられる。添加量は、前記予備混合工程SS1で混合された樹脂との合計量が10〜20重量部となるように定められる。すなわち、樹脂合計量が10重量部の組成1では8〜9重量部、合計量が15重量部の組成2では13〜14重量部、合計量が20重量部の組成3では18〜19重量部が添加される。
【0043】
可塑剤は、例えばフタル酸ジブチル(DBP)が用いられ、1〜3重量部、例えば、2.6重量部が添加される。
【0044】
また、溶剤は、沸点が200(℃)未満の低沸点溶剤であるが、OH基を有しないものが好ましく、トルエン、キシレン、アセトン、ケトン系等が好適である。低沸点溶剤の添加量は例えば25〜35重量部が好ましく、所望の粘度が得られるように樹脂量に応じて調節される。すなわち、樹脂合計量が10重量部の場合には28重量部程度、合計量が15重量部の場合には32.5重量部程度、合計量が20重量部の場合には35重量部程度を添加する。
【0045】
また、イタコン酸溶液は、OH基を有しない溶剤に対して好適な分散効果を有するもので、例えば0.6重量部程度が添加される。イタコン酸溶液に代えて、カルボン酸系、シラン系の分散剤が用いられても良く、他のカルボキシル基含有モノマーが用いられても良い。
【0046】
なお、無鉛系ガラス粉末が用いられる場合にも、上記有鉛系ガラス粉末の場合と概略同様な工程でスラリーが調製されるが、下記の表2および表3に示すように、使用する樹脂や溶剤が一部相違するので、相違点を説明する。
【0047】
【表2】
【0048】
【表3】
【0049】
無鉛系ガラスの場合は、予備混合工程SS1で混合される樹脂は、エチルセルロースまたは重量平均分子量が200000程度のアクリル系樹脂、すなわち、上記表3の樹脂D等が好ましい。樹脂量は2〜4重量部である。密閉混合工程SS3において添加される低沸点溶剤は、特に限定されないが、OH基を有するものが好ましく、例えば、IPA、エタノール、メタノール等を用い得る。また、密閉混合工程SS3において添加されるシート用樹脂は、上記表3の樹脂A〜C等が好ましい。添加量は樹脂全体の合計量が所望量例えば10重量部となるように定められるが、無鉛系ガラスの場合には、上記のように予備混合工程SS1で混合される樹脂量がやや多くされるので、密閉混合工程SS3で添加される量はそれに応じて減じられる。
【0050】
上記のようにして密閉混合した後、濾過工程SS4では、混合したスラリーを濾過することにより、前記シート成形工程S1に用いるスラリーが得られる。
【0051】
図2に戻って、シート成形工程S1でシート状成形体がカバーフィルムに支持された状態で成形されると、シートカット工程S2においては、シート状成形体をカバーフィルムと共に例えばPDPのガラス基板の大きさに合わせた寸法に切断する。次いで、ラミネート工程S3においては、電極等が別途設けられたガラス基板を用意し、ラミネータを用いて、その電極等が設けられた一面にシート状成形体を貼り付ける。次いで、フィルム剥離工程S4では、シート状成形体からカバーフィルムを剥離する。そして、焼成工程S5において、例えば540〜580(℃)の範囲で予め定められた所定の焼成温度で焼成処理を施すことにより、透明誘電体から成る誘電体層22が得られる。
【0052】
なお、白色誘電体から成る誘電体層30を形成する場合には、前記の予備混合工程SS1において、適当な量の白色顔料を混合すればよい。他の工程は透明誘電体の場合と同様である。
【0053】
このようにして得られた誘電体層22は、ピンホール、クラック、凹凸、浮き等が殆ど或いは全く存在せず、焼成膜厚が設定値(例えば30(μm))±1(μm)程度の高い膜厚精度を有し、540(℃)で焼成した場合に拡散透過率が85(%)程度、直線透過率が67(%)程度、表面粗さがRa値で0.1(μm)程度、耐電圧が1.9(kV)程度、内部気泡の大きさが10(μm)未満であり、下記の表4に示すPDPの透明誘電体の試験基準を略満たしていた。なお、耐電圧は基準値よりも僅かに劣るが、従来の印刷工法の場合の耐電圧は1.8(kV)程度で、実用上の問題は特に無かった。本実施例の場合の耐電圧は従来の印刷工法と同等以上の値であるから、何ら問題はない。また、「浮き」とは、カバーフィルムとシート状成形体との部分的な剥離を言うものである。
【0054】
【表4】
【0055】
要するに、本実施例によれば、プラネタリーミキサーで予備混合された混合原料が、粘度が100〜500(Pa・s)と比較的高い状態で三本ロールミルにて分散処理を施されることから、ガラス粉末の良好な分散状態が得られる。また、その後、溶剤を添加してシート成形に適当な程度まで粘度を低下させた状態で密閉容器であるプラネタリーミキサーで混合処理が施されることから、その混合過程でスラリー中の気泡が十分に除去される。そのため、このスラリーから作製したシート状成形体内に残留する気泡が極めて少なくなるので、ラミネータを用いてこれをガラス基板に転写して焼成処理を施せば、ピンホールの少ない透明誘電体が得られる。
【0056】
したがって、上述したように、印刷工法と同等以上の耐電圧および透過率を得ることができる。また、スラリー内におけるガラス粉末の分散性が高められると共に、気泡が除去される結果として、表面粗さも印刷工法に比較して改善されることはもちろん、従来のシート工法に比較しても更に改善される。
【0057】
なお、拡散透過率は焼成温度に応じて変化し得る。本実施例のガラスは軟化点が535(℃)であったことから540(℃)の焼成が好適であったが、560〜580(℃)で焼成することも可能である。但し、温度が高くなり過ぎると気泡が生じて透過率が低下する傾向にあるため、560(℃)では83(%)程度の透過率が得られるが、580(℃)では実用的な値ではあるものの78(%)程度まで低下する。
【0058】
これに対して、従来のシート工法では、ガラス粉末、シート用樹脂、可塑剤、および溶剤を容器に投入し、ボールミルにて混合した後、濾過することでスラリーを調製していた。そのため、十分な分散性が得られないことから、拡散透過率は、焼成温度が540(℃)でも77(%)、560(℃)では73(%)、580(℃)では66(%)に留まっていた。図4に、ボールミルで混合した従来の製造方法と、ローラーおよびプラネタリーミキサーで混合した本実施例の製造方法とでそれぞれ形成された透明誘電体層の拡散透過率を測定した結果を示す。図4中「540℃」等の数値はガラス膜の焼成温度である。本実施例によれば、バラツキも小さく、安定して高い透過率が得られるが、従来の製造方法では、得られる最大透過率も低く、バラツキも大きくなる。特に、580(℃)で焼成した場合には、気泡が発生して透過率が低下する傾向があるが、従来の製造方法ではその低下が著しい。
【0059】
しかも、ボールミル混合は、バッチ処理となるため、1(kg)当たりの処理時間は12〜48時間が必要となり、処理時間が遅く、作業性が悪い問題もあった。これに対して、本実施例によれば連続処理も可能であるため、1(kg)当たりの処理時間は2時間程度で良く、処理時間が速く、作業性も良好である。
【0060】
次に、スラリーの組成を種々変更して特性を評価した結果を説明する。下記の表5は、無鉛系ガラス粉末を用いたスラリーにおいて、予備混合工程SS1において混合する樹脂1、高沸点溶剤、密閉混合工程SS3において添加する樹脂2、低沸点溶剤の種類と、各組成における特性値をまとめたものである。表5において、樹脂1,樹脂2,樹脂A〜D、高沸点溶剤A,Bは、何れも前記表2の同一記載に対応している。
【0061】
【表5】
【0062】
表5の実施例1〜4は、予備混合工程SS1において混合される樹脂1としてエチルセルロースを、高沸点溶剤として沸点が200(℃)のターピネオール系または石油系すなわち高沸点溶剤Aを用いたものである。これらは、特に低温焼成の場合に高い透過率が得られないことから、樹脂1にエチルセルロースを用いるのは不適当と考えられる。すなわち、上記高沸点溶剤Aは、低沸点のものに比べて蒸発し難いことから、焼成工程における脱脂時(脱バイ時)まで残ることが多い。そのため、ガラスの焼結も遅くなるため、十分に軟化できなくなると共に、泡抜けも十分ではない。なお、低沸点溶剤にIPAを用いる組成としても、透過率の若干の改善に留まる。また、樹脂2に樹脂Bを用いる組成とすると、耐電圧および直線透過率が僅かではあるが却って低下する。また、樹脂2に樹脂Cを用いる組成では、直線透過率は僅かに改善するが、耐電圧は一層低下し、積分透過率も僅かに低下する。
【0063】
上記の結果によれば、樹脂1にエチルセルロースを用いて、組成の最適化を図ることは困難であるものと考えられる。
【0064】
実施例5〜8は、樹脂1に樹脂Dを用いたものである。この系によれば、耐電圧、透過率共に大幅に改善される。特に、低沸点溶剤としてトルエンに代えてIPAを用いた系では、僅かではあるがトルエンを用いたものに比較して特性が一層高くなる。なお、樹脂2が樹脂A,Bの何れであるかのみが相違する実施例5、7と実施例6,8とを対比すると、僅かな差ではあるが、樹脂2には樹脂Aが好ましいと言える。
【0065】
すなわち、無鉛系ガラスを用いる場合には、IPAのようにOH基を有する溶剤を低沸点溶剤として用いることが好ましい傾向がある。
【0066】
次に、有鉛系の種々の組成について、ガラスの種類、ガラス粉末の平均粒径、樹脂量、樹脂の種類、高沸点溶剤の種類による相違を評価した結果を説明する。
【0067】
下記の表6は、ガラスの種類、具体的には軟化点が相違する2種の有鉛ガラスについて、焼成可能な上限までの温度範囲で表面粗さ、積分透過率、直線透過率、AC耐電圧を3〜4点の焼成温度で焼成して測定した結果をまとめたものである。軟化点が560(℃)のガラスは、540〜560(℃)の範囲で焼成し、軟化点が580(℃)のガラスは560〜590(℃)の範囲で焼成した。下記の測定結果によれば、軟化点が560(℃)のガラスは、540〜550(℃)で焼成したときに透過率および耐電圧が最も高くなる。また、軟化点が580(℃)のガラスは、580(℃)程度で焼成したときに透過率および耐電圧が最も高くなる。したがって、それぞれ、これらの温度で焼成することが好ましい。
【0068】
【表6】
【0069】
下記の表7は、1.0(μm)、1.5(μm)、2.0(μm)の3種の平均粒径のガラス粉末を用意して、540〜570(℃)の焼成温度で焼成して透過率等の特性を測定した結果をまとめたものである。この評価結果によれば、ガラス平均粒径は表面粗さには明らかに影響するが、透過率や耐電圧には殆ど影響せず、何れの平均粒径が好ましいかについての判断は困難である。
【0070】
【表7】
【0071】
図5〜図7に平均粒径と透過率等との関係をグラフに表して示す。なお、図5、図7において「ITO付」は、ガラス基板の上に蒸着形成されたITO膜すなわち透明電極14上に透明誘電体層を形成したものであり、「ITO無」は、ITO膜を設けていない基板上に透明誘電体層を形成したものである。また、各図において「540℃」等はガラス膜の焼成温度である。なお、「560℃(基板B)」は、「560℃」と同一焼成温度であるが、他の評価サンプルとは使用したガラス基板が相違する。また、評価に際しては、有機結合剤としてTgが31(℃)のアクリル樹脂を15重量部とし、分散剤としてポリカルボン酸を、溶剤としてトルエン、ジヒドロターピネオール、および2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレートを用いてスラリーを調製した。
【0072】
上記図5によれば、表面粗さRaは、平均粒径が大きくなるほど悪くなる傾向にあるが、ITOの有無による影響は殆どない。
【0073】
図6は、耐電圧をITO付基板のみで測定した結果を表しており、平均粒径が大きい方がバラツキが大きくなる傾向が若干認められるが、明確ではない。なお、図7に示す用に、平均粒径と透過率との間には明確な傾向が認められなかった。
【0074】
下記の表8は、10重量部、15重量部、20重量部の3種の樹脂量(スラリー中の全量)について、透過率、耐電圧等を測定したものである。樹脂量が多くなるほど耐電圧が高くなる傾向があるが、透過率は15重量部程度で最も高くなる結果が得られた。
【0075】
【表8】
【0076】
図8〜図12は、樹脂量と特性との関係をグラフに表したもので、図8、図9では、ガラス転移点Tgが異なる3種を比較し、図10〜図12では焼成温度の異なる3〜4種を比較した。なお、これらの評価では、前記鉛ガラス粉末を用い、有機結合剤としてTgが31(℃)のアクリル樹脂を、分散剤としてポリカルボン酸を、溶剤としてトルエンおよび2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレートを用いてスラリーを調製した。
【0077】
図8において、ガラス転移点によって多少の傾向の相違はあるが、概ね、樹脂量が多くなるほど透過率が低下する傾向にある。なお、上方の80〜90(%)の範囲内にある測定値は積分透過率であり、70(%)よりも下方にある測定値は直線透過率である。なお、図8、図9の評価においては、焼成処理温度は540(℃)であり、可塑剤としてDBPが2重量部含まれ、焼成後の膜厚は30(μm)である。
【0078】
また、図9において、ガラス転移点が50(℃)と高い樹脂では、樹脂量が多くなるほど表面粗さが悪くなる傾向があるが、ガラス転移点が10(℃)、30(℃)の樹脂では、表面粗さは殆ど変化しない。
【0079】
また、図10は、樹脂量と表面粗さとの関係について、540〜560(℃)の範囲で焼成温度を変化させて評価したものである。バラツキはあるものの、表面粗さは樹脂量が少ないほど良好となる傾向がある。
【0080】
また、図11は、樹脂量と耐電圧との関係について、同じ温度範囲で評価したものである。10重量部、15重量部に一部異常値と考えられる測定値があるが、全体として、樹脂量が少ないほど耐電圧も高くなる。
【0081】
また、図12は、樹脂量と透過率との関係について、同じ温度範囲で評価したものである。この図においても、上方の一群は拡散透過率の測定値で、下方の一群は直線透過率の測定値である。同一の焼成温度およびITOの有無で比較すると、樹脂量が少ない方が若干透過率が高い傾向が認められる。
【0082】
下記の表9は、樹脂のTgと各特性との関係を評価した結果をまとめたものである。表面粗さは、Tg10(℃)の場合にやや値が大きい傾向があり、透過率についても、Tg10(℃)のときの低い測定結果となっている。また、耐電圧は、560(℃)で焼成した場合すなわち焼成温度が高すぎる場合を除き、Tg10(℃)で最低値を示す。したがって、樹脂は、Tgが30(℃)以上のものを用いることが好ましい。
【0083】
【表9】
【0084】
下記の表10は、予備混合工程SS1において混合される高沸点溶剤の沸点の相違と透過率や耐電圧との関係を評価した結果をまとめたものである。高沸点溶剤としては、沸点が200(℃)のターピネオール或いはジヒドロターピネオールと、250(℃)の2,2,4-トリメチル-1,3ペンタジオールモノイソブチレートとを用意し、他の条件は同一とした。表面粗さに関しては、沸点が200(℃)の溶剤を用いた場合の方が良い値が得られたが、透過率や耐電圧については沸点が250(℃)の溶剤の方が優れている結果が得られた。したがって、高沸点溶剤としては、沸点が250(℃)のものが好ましい。
【0085】
【表10】
【0086】
また、具体的なデータの記載は省略するが、密閉混合工程において添加する有機結合剤(すなわちシート用樹脂)の検討結果について説明する。検討材料としてブチラール樹脂、アクリル樹脂、エチルセルロースの3種を挙げ、必要樹脂量がガラス粉末100重量部に対して10〜20重量部であるとして、燃え抜け性を評価した。具体的には、550(℃)×30分保持で焼成して、燃え抜け残渣の量を比較した。燃え抜け性は、良い順にアクリル>エチルセルロース>ブチラールであり、アクリル樹脂が最も好ましいことが判明した。
【0087】
次に、密閉混合工程で添加する低沸点溶剤について検討した結果を説明する。検討に際しては、トルエンおよびエタノールを溶剤として用い、エタノールをガラス粉末100重量部に対して2〜8重量部の範囲で添加して、540(℃)、560(℃)、580(℃)の3つの焼成温度で焼成した後の透過率と表面粗さを評価した。低沸点溶剤の全体量は、例えば、25〜35重量部の範囲内で、シート成形に好適な粘度となるように調節した。結果を図13、図14に示す。何れの焼成温度で焼成しても、拡散透過率は、2重量部程度の僅かな添加量でも低下する傾向が明らかである。また、表面粗さは、4重量部程度までは変化が小さいもののばらつきが大きく、8重量部を超えると、明らかに悪化しばらつきも大きくなる。したがって、アルコール系等のOH基を有する有機溶剤を使用することは好ましくない。
【0088】
次に、分散剤の添加量について検討した結果を説明する。なお、この検討に先立ち、分散剤の種類について検討した結果、カルボキシル基含有モノマー、特に、イタコン酸が最も分散性に優れていた。そこで、イタコン酸の添加量と拡散透過率および表面粗さとの関係を調べた結果を図15、図16に示す。表面粗さは概ねイタコン酸の添加量が多くなるほど悪くなる傾向があり、バラツキも大きいが、1重量部で極小値となる。また、透過率も僅かな変化ではあるものの1重量部で極大値を得た。この結果によれば、イタコン酸量は1重量部前後の添加量とすることが好ましいと言える。
【0089】
以上、本発明を図面を参照して詳細に説明したが、本発明は更に別の態様でも実施でき、その主旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】PDPの構成を模式的に示す要部断面図である。
【図2】誘電体シートの製造方法を説明するための工程図である。
【図3】図2の製造工程に用いるスラリーの調製方法を説明するための工程図である。
【図4】本発明の一実施例の製造方法による拡散透過率をボールミルで混合した場合の拡散透過率と比較して示す図である。
【図5】ガラス粉末の平均粒径と誘電体層の表面粗さとの関係を示す図である。
【図6】ガラス粉末の平均粒径と誘電体層の耐電圧との関係を示す図である。
【図7】ガラス粉末の平均粒径と誘電体層の透過率との関係を示す図である。
【図8】樹脂量と誘電体層の透過率との関係を示す図である。
【図9】樹脂量と誘電体層の表面粗さとの関係を示す図である。
【図10】樹脂量と誘電体層の表面粗さとの関係を示す図である。
【図11】樹脂量と誘電体層の耐電圧との関係を示す図である。
【図12】樹脂量と誘電体層の表面粗さとの関係を示す図である。
【図13】エタノール添加量と誘電体層の透過率との関係を示す図である。
【図14】エタノール添加量と誘電体層の表面粗さとの関係を示す図である。
【図15】イタコン酸添加量と誘電体層の透過率との関係を示す図である。
【図16】イタコン酸添加量と誘電体層の表面粗さとの関係を示す図である。
【符号の説明】
【0091】
10:前面板、12:背面板、14:透明電極、16:バス電極、18:維持電極、20:ブラックストライプ、22:誘電体層、24:保護膜、26:アンダーコート、28:書込電極、30:誘電体層
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマディスプレイパネル(以下、PDPという)等の誘電体層を形成するために用い得る誘電体シート用組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、絶縁体材料製の基板上に設けた電極或いは導体を誘電体層で覆うことにより、これを電気的に絶縁し、或いはキャパシタとして機能させること等が行われている。
【0003】
例えば、図1に断面構造を模式的に示すPDPは、透明なガラス平板から成る一対の前面板10および背面板12が、図示しない外周縁部において封止されることによって気密容器に構成されたものである。
【0004】
前面板10の内面には、例えば酸化インジウム錫(ITO)が蒸着されることによって帯状に設けられた透明電極14と、その導電性を補う目的でそれよりも細幅寸法で積層された厚膜銀等から形成されるバス電極16とから成る複数対の維持電極18a,18bが備えられている。それら維持電極18a,18b対の相互間には黒色顔料を含む絶縁体厚膜から成るブラックストライプ20が備えられている。これら維持電極18およびブラックストライプ20は、透明誘電体から成る誘電体層22で覆われており、その誘電体層22は、更にMgOから成る薄い保護膜24で覆われている。
【0005】
一方、背面板12の内面には、その全面を覆うアンダーコート26が設けられている。そのアンダーコート26上には、厚膜銀等から成る複数本の帯状の書込電極28が維持電極18と直交する方向に沿って設けられている。書込電極28は、維持電極18bとの間で矢印aで示すように書込放電を発生させることによって発光させる区画を選択するためのものである。アンダーコート26は、この書込電極28と背面板12との反応を防止する目的で設けられたものである。書込電極28は、背面板12の全面に設けられた白色の顔料を含む白色誘電体から成る誘電体層30で覆われている。
【0006】
なお、図示は省略するが、背面板12上には、前記書込電極28の相互間の位置にその書込電極28に沿って伸びるバリアリブが前面板10に向かって突設されており、気密空間が複数本の放電空間に区分されている。各放電空間内には、例えばRGB3色の何れかに発光させられる蛍光体層が放電空間毎に塗り分けられており、放電空間内において矢印sに示すように維持電極18a,18b間で発生させられたガス放電によって励起発光させられ、その光が前面板10を通して射出されることにより、所望の文字や画像等が表示される。
【0007】
前記誘電体層30は、上記のようにして発生させられた光のうち背面板12側に向かう光を前面板10側に反射するためのものである。そのため、この誘電体層30には可及的に高い反射率を有することが求められる。また、前面板10から射出される光を多くして可及的に高い輝度を得るためには、前記誘電体層22には可及的に高い透過率を有することが求められる。
【0008】
従来、PDPを製造するに際して、上記のような誘電体層22,30の形成は、厚膜スクリーン印刷技術を利用した印刷工法で行われていた。しかしながら、印刷工法では、設置規模が大きな印刷機や乾燥機が必要であり、しかも、これらの設備はパネルサイズに応じて用意する必要があって、複数のパネルサイズで共用することが困難である。また、印刷ペーストを塗布した段階での品質検査が困難であり、焼成処理を経た成膜後に膜の欠陥の有無を検査する必要があるため、品質管理も容易ではない。
【0009】
また、白色誘電体から成る誘電体層30は、印刷および焼成処理を1回とすることも可能であるが、透明誘電体から成る誘電体層22は、印刷および焼成処理を少なくとも2回繰り返す必要がある。なお、焼成処理を2回行わないと、耐電圧が不十分になる。また、厚膜スクリーン印刷は、膜厚制御に手間および熟練を必要とするので、高精度を得ることが困難で膜厚のばらつきが生じ易い問題もある。更に、スクリーン印刷では焼成後の膜表面にメッシュ跡が残ることは避け難く、廃ペースト、ウェス、洗浄剤、ペースト容器等、廃棄物が多量に生ずることも問題である。
【0010】
これに対して、誘電体層22,30の形成に転写技術を利用したシート工法が提案されている(例えば特許文献1〜3を参照。)。シート工法は、誘電体スラリーをPETフィルム等から成るカバーフィルム上に塗工してシート状成形体を作成した後、これを基板表面に貼り付けてカバーフィルムを剥離し、焼成処理を施すことによって誘電体層22,30を形成するものである。そのため、透明誘電体を形成する場合にも、シート状成形体の貼り付けおよび焼成処理を各1回実施するだけで足りるため、工数を削減できる利点がある。
【0011】
なお、シート工法では、シート状成形体を貼り付けるためのラミネータが必要になるが、ラミネータは複数のパネルサイズに共用し得る。しかも、乾燥機等は不要であるため、誘電体層22,30形成のための設備の設置面積を小さくすることができる。また、シート状成形体は膜厚管理が容易であって高い膜厚精度を容易に得ることができ、成膜前の検査も可能となる上、印刷工法と異なり、メッシュ跡が生じないため表面状態も良好である。また、シート状成形体の不要部分は回収して再生可能であるため、廃棄される原料資材は専らカバーフィルムだけであり、廃棄物が殆ど生じない利点もある。
【0012】
また、他のシート工法として、自立性多孔質シートを用いて誘電体層22,30を形成する技術も提案されている(例えば特許文献4を参照。)。この技術によれば、カバーフィルムを使用しないので廃棄物が一層少なくなる。
【特許文献1】特許第3442069号公報
【特許文献2】特開2005−067959号公報
【特許文献3】特開2005−100892号公報
【特許文献4】特開2004−146233号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところで、上記のようなシート工法による誘電体層形成では、工程が簡便になる反面で、生成された誘電体層22,30にピンホール等の欠陥が生じ易い問題があった。このような欠陥が存在すると耐電圧が低下すると共に、透明誘電体においては透過率が低下することとなる。例えば、従来の印刷工法では、30(μm)の膜厚とした場合に、耐電圧が1.8(kV)程度、拡散透過率が82(%)程度、直線透過率が63(%)程度であったが、シート工法では、同一材料系でそれぞれ1.5(kV)程度、77(%)程度、52(%)程度に留まっていた。また、自立性多孔質シートを用いるシート工法では、緻密な誘電体層を得るためには、ガラス基板上で多孔質シートの空孔を潰して膜を緻密化させる必要がある。そのため、形成される膜の緻密性が多孔質シートの製造条件や熱圧着条件の微妙な変化に影響されるので、欠陥の少ない耐電圧や透光性に優れた誘電体層を得ることが困難な面がある。
【0014】
上記欠陥の生ずる原因は、誘電体スラリーの調製過程における混練時に、ガラス粉末が凝集してスラリー全体に十分に分散させられないためと考えられる。ガラス粉末の凝集延いては偏在は、有機結合剤の凝集をも招き、焼成処理の際に膜内の気泡の排出を妨げる。そのため、形成された誘電体層内にピンホールが存在することとなるのである。
【0015】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであって、その目的は、生成される誘電体層にピンホールが生じ難い誘電体シート用組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
斯かる目的を達成するため、本発明の要旨とするところは、焼成処理を施して誘電体層を形成するためのシート状成形体を製造するための誘電体シート用組成物を製造する方法であって、(a)誘電体を構成するためのセラミック原料粉末と、有機結合剤と、所定の第1溶剤とを含む原料を混合する予備混合工程と、(b)前記予備混合工程で得られた混合原料を三本ロールミルで混練する混練工程と、(c)前記混練工程に次いで、前記混合原料に所定の第2溶剤を添加して粘度を低下させて密閉容器中で混合する密閉混合工程とを、含むことにある。
【発明の効果】
【0017】
このようにすれば、予備混合した原料が分散能力の極めて高い三本ロールミルで混練処理された後、溶剤を添加して粘度を低下させた上で密閉容器中で混合処理が施されることから、その密閉混合の過程で誘電体シート用組成物中の気泡が十分に除去される。そのため、この誘電体シート用組成物から作製したシート状成形体内に残留する気泡が極めて少なくなるので、これを基板等に転写して焼成処理を施すことにより、ピンホールの少ない誘電体層を形成することができる。これにより、例えば、従来の印刷工法と同等或いはそれ以上の耐電圧が得られ、特に、透明誘電体においては、従来の印刷工法と同等或いはそれ以上の透過率を得ることができる。また、分散性が高められ、気泡が除去される結果として、表面粗さも従来のシート工法に比較しても更に改善される。なお、混合或いは混練処理を施すための装置としては、ボールミル、ビーズミル、ホモミクサー、ファインミル等も一般に用いられているが、ボールミルやホモミクサーではセラミック原料粉末の分散が不十分であり、ビーズミルはセラミック原料粉末の粒径が変化する。また、ファインミルは溶剤の温度が著しく高くなるので、誘電体シート用組成物を適当な粘度に調製するための低分子量の溶剤すなわち低沸点の溶剤を利用できない問題がある。
【0018】
ここで、好適には、前記第1溶剤は沸点が200(℃)以上の高沸点溶剤であり、前記第2溶剤は沸点が200(℃)未満の低沸点溶剤である。このようにすれば、三本ロールミルで混練する混練工程においては、ペーストに適当な粘性を与えるための第1溶剤に高沸点溶剤が用いられていることから、原料が露出した状態で混練処理が施され且つロール間で与えられる作用力によって原料温度が上昇させられて溶剤が揮発し易い状況にあるにも拘わらず、その溶剤の揮発が抑制される。そのため、適度な粘性に維持された状態で混練されるので、セラミック原料粉末の分散性が一層高められ、その凝集が一層抑制される。一方、密閉混合工程においては、低沸点溶剤が添加されることによって粘性が低下させられた状態で、スラリーが外気から遮蔽されて混合される。そのため、その低い粘性に保たれたまま十分に混合されることにより、スラリー中に存在する気泡の排出が一層促進され、誘電体シート用組成物中の気泡が一層除去される。一層好適には、第1溶剤は沸点が250(℃)以上である。
【0019】
また、好適には、前記セラミック原料粉末は鉛ガラス粉末であり、前記第2溶剤はOH基を有しないものである。有鉛ガラスはOH基が存在すると白濁すると共に表面粗さも粗くなる傾向にある。その結果、透明誘電体においては透過率が低下する問題が生じる。また、透明誘電体および白色顔料を含む白色誘電体の何れにおいても、表面の凹凸が大きくなると耐電圧が低下する問題がある。そのため、前記第2溶剤は、OH基の少ないものが好ましく、OH基を有していないものが最も好ましい。したがって、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール(以下、IPAという)等のアルコール系溶剤を用いることは、OH基を有することから好ましくなく、トルエン、キシレン等の炭化水素系や、メチルエチルケトン等のケトン系、直鎖構造の石油系等のOH基を有しない有機溶剤が好ましい。なお、本願において、「セラミック原料粉末」にはガラス粉末が含まれる。本願発明は、種々のセラミック膜用組成物に対して適用し得るが、ガラス膜用組成物に対して特に好適に適用される。
【0020】
また、好適には、前記セラミック原料粉末は無鉛ガラス粉末であり、前記第2溶剤はOH基を有するものである。無鉛ガラスは、有鉛ガラスとは異なり、OH基が存在する方が安定する傾向にある。そのため、第2溶剤は、メタノール、エタノール、IPA等のアルコール系溶剤を用いることが好ましく、このようにすれば、分散性の良好なスラリーが得られ、延いては高い透過率が得られる。
【0021】
また、前記第1溶剤は、一般に印刷用ペーストに用いられているものであれば何れのものも用いることが可能である。三本ロールミルで混練処理を施す段階では、比較的高い粘度が好ましい。そのため、第1溶剤の添加量は、密閉混合する際にシート成形に好適な粘度が得られるように添加される第2溶剤の量に比較して少ない量で足り、例えば、その1/2〜1/4程度でよい。例えば、第1溶剤の添加量は、ガラス粉末100重量部に対して8〜12重量部が好ましく、第2溶剤の添加量は、25〜35重量部が好ましい。したがって、有鉛ガラスに適用される場合においても、第1溶剤にOH基を有しているものを用いることができる。但し、有鉛ガラスに適用される場合には、前述したようにスラリー中のOH基が少ない方が好ましく、例えば、ターピネオール系、ジヒドロターピネオール系、ブチルカルビトール系、アルコールエステル系等が好ましい。
【0022】
また、好適には、前記予備混合工程では、分散剤が添加される。このようにすれば、セラミック原料粉末の分散性が一層高められる。後述するように、第1溶剤はOH基を有するものが用いられても良いので、一般的な分散剤を使用可能であり、分散剤の種類は特に限定されない。例えば、イタコン酸やポリカルボン酸等の有機酸が好適に用いられる。分散剤の添加量は、ガラス粉末100重量部に対して1〜4重量部が好ましく、このうち、イタコン酸の割合が0.05〜2.0重量部であることが好ましい。イタコン酸の割合は、1.5重量部以下が一層好ましく、0.5〜1.0重量部が更に好ましい。
【0023】
また、好適には、前記密閉混合工程に際しても、混合原料に分散剤が添加される。このようにすれば、一旦分散させられたセラミック原料粉末が密閉混合中に再凝集することが抑制される。両工程に用いられる分散剤としては、通常用いられる各種のものを適用し得るが、カルボン酸系、シラン系、カルボキシル基含有モノマー等が好適である。前述したように、セラミック原料粉末が有鉛ガラス粉末である場合には、第2溶剤にはOH基を有していないものが好ましいが、一般的な分散剤はOH基を有しない溶剤系では分散効果を殆ど得られない。上記のカルボン酸系等は、OH基を有する溶剤系にも、OH基を有しない溶剤系にも有効である。特に、カルボキシル基含有モノマーが好ましく、例えば、イタコン酸が好ましい。なお、第1溶剤にOH基を有しないものが用いられる場合にも、分散剤はこれらのものを用いることが好ましい。
【0024】
また、好適には、前記密閉混合工程に際しては、混合原料に可塑剤が添加される。このようにすれば、シート状成形体の柔軟性が高められるので、成形後の取扱中等において割れやクラック等の生ずることが抑制されると共に、ガラス基板等に貼り付ける際の密着性が高められる。可塑剤の種類は特に限定されないが、DBP(フタル酸ジブチル)、DOA(アジピン酸ジオクチル)、DMP(フタル酸ジメチル)、DOP(フタル酸ジ-2エチルヘキシル(フタル酸ジオクチル))等が好適に用いられる。可塑剤量は、ガラス粉末100重量部に対して1〜3重量部が好ましい。
【0025】
また、好適には、前記密閉混合工程は、容器内に配置された複数枚の攪拌羽根が自転しつつ公転させられることにより、前記混合原料を混合するものである。このようにすれば、複数枚の攪拌羽根によって効果的に攪拌されるので、セラミック原料粉末の分散性が一層高められると共に組成物中の気泡が一層除去される。なお、前記予備混合工程で用いられる混合装置は特に限定されず、ボールミルやスタティックミキサー等、種々の装置を利用し得るが、例えば、上記攪拌羽根を備えた攪拌装置を用いてもよい。
【0026】
また、前記有機結合剤は特に限定されず、エチルセルロース、ニトロセルロース、酪酸セルロース、アクリル樹脂、ブチラール樹脂等を用いることができる。すなわち、一般に印刷用ペーストに有機結合剤として添加されるものを用い得る。この中でもエチルセルロース系樹脂は、少量で例えば100〜500(Pa・s)程度の混練に好適な高粘性が得られることから特に好ましい。
【0027】
また、好適には、前記密閉混合工程においても、前記有機結合剤とは別に他の有機結合剤(以下、区別するときは、それぞれ第1の有機結合剤、第2の有機結合剤という。)が添加される。セラミック原料粉末の分散性を高めるための三本ロールミルが用いられる混練工程では、印刷用ペーストと同等の粘性が好ましい一方、密閉混合工程では、シート状成形体の成形に適した粘性が好ましいことから、それぞれの工程で望ましい粘性は相違する。上記のように、両工程でそれぞれ適当な有機結合剤を用いれば、所望する粘性を容易に得ることができる。なお、第1の有機結合剤にエチルセルロースを用いれば、上述したように少量で足りることから、第1の有機結合剤および第2の有機結合剤が用いられる場合には、シート成形のための第2の有機結合剤の割合を多くすることができる利点がある。
【0028】
上記の第2の有機結合剤は、アクリル系、ブチラール系、エチルセルロース系等、特に限定されないが、燃え抜け性のよいもの、基板への貼り付け性のよいものが好ましい。有機結合剤は、分子量が低いほど燃え抜け性に優れているが、添加量が十分に少ないのであれば、分子量が比較的大きいものでも差し支えない。このような燃え抜け性および貼り付け性の優れている有機結合剤としては、例えばアクリル系樹脂が挙げられる。アクリル系樹脂は、エチルセルロース系樹脂と混合可能であるため、第1の有機結合剤がエチルセルロース系樹脂である場合には、第2の有機結合剤としてアクリル系樹脂を用いることが最も好ましい。また、ガラス基板等に誘電体シートを転写するときに接着性が要求されるが、アクリル系はシート状成形体に好適な接着性を付与できる点でも好ましい。
【0029】
また、有機結合剤の量は、誘電体シート組成物中に含まれる全体量がセラミック原料粉末100重量部に対する割合で10〜20重量部の範囲内であることが好ましい。この有機結合剤量は、第1の有機結合剤および第2の有機結合剤が用いられる場合には、これらの合計量である。有機結合剤の量が10重量部よりも少ないと、転写性が悪くなる。すなわち、ガラス基板への接着性が低下し、シート状成形体の割れやクラックが生じ易くなる。20重量部よりも多いと、気泡が生じ易くなると共に表面粗さも荒くなるため、透過率が低下すると共に耐電圧も低下する傾向が生じる。
【0030】
また、前記ガラス粉の種類すなわち組成は特に限定されない。鉛系および非鉛系の何れであっても良い。
【0031】
また、前記ガラス粉は、平均粒径が0.5〜5.0(μm)の範囲内のものが好ましい。平均粒径が0.5(μm)以上になると凝集が生じ難くなり、ガラス粉の分散性の一層良い誘電体シート用組成物が得られる。また、平均粒径が5.0(μm)以下であれば、表面粗さの一層優れた誘電体層を形成可能な誘電体シート用組成物が得られる。ガラス粉の平均粒径は、一層好適には、0.6〜3.0(μm)の範囲内であり、0.8〜1.5(μm)の範囲内が特に好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。
【0033】
図2は、前記図1に示す誘電体層22,30の形成方法の一例を説明するための工程図である。図2において、シート成形工程S1では、別途作製したスラリーおよびPETフィルム等から成るカバーフィルムを用意し、例えばドクターブレード法等の良く知られたシート成形方法を用いて、シート状成形体を製造する。
【0034】
上記のシート成形工程S1で用いられるスラリーは、表1に一例を示す組成となるように、例えば、図3に示される工程で調製される。図3において、予備混合工程SS1では、例えば、有鉛系ガラス粉末、ベヒクル、溶剤、および分散剤をそれぞれ所定量秤量し、プラネタリーミキサーを用いて混合する。これにより、例えば、100〜500(Pa・s)程度の粘度に調製されたペースト状物が得られる。なお、下記の表1には、予備混合工程SS1で混合されるものと、後述する密閉混合工程SS3で添加されるものをまとめて記載した。
【0035】
【表1】
【0036】
上記ガラス粉末は、例えば、PbOが65(wt%)、SiO2が23(wt%)、B2O3が7(wt%)、Al2O3が5(wt%)、Cu2OおよびCeO2が微量含まれる組成を有し、軟化点が535(℃)、平均粒径が1.0(μm)程度のものである。Cu2OおよびCeO2はAgによる着色対策の目的で入れてある。
【0037】
上記ベヒクルは、例えばエチルセルロースを含むものが用いられ、ガラス粉末100重量部に対する樹脂量が1〜2重量部(以下、特に断らない限り、添加量は全てガラス粉末100重量部に対する値とする。)、例えば1.7重量部となるように加えられる。
【0038】
また、溶剤は、沸点が200(℃)以上の高沸点溶剤であり、ターピネオール系、石油系、アルコールエステル系、高級アルコール系等が好ましく、8〜12重量部が加えられる。例えば、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレート(例えば日本香料製NG-120)等のアルコールエステル系溶剤が11.5重量部、ジヒドロターピネオール等のターピネオール系溶剤が7.9重量部、合計で19.4重量部程度が加えられる。
【0039】
また、分散剤は、ポリカルボン酸やイタコン酸等の有機酸溶液であり、前者が1〜2重量部、後者が0.05〜2重量部の範囲で添加される。分散剤の合計量は、1〜4重量部の範囲内、例えば2.5重量部程度である。
【0040】
次いで、混練工程SS2では、混合したペースト状物を三本ロールミルを用いて混練する。これにより、ペースト中のガラス粉末が高い分散性を以て分散させられる。三本ロールミルによる混練は、JIS K5600-2-5に定められた所謂粒ゲージ法で分散の度合いを確認しながら実施する。
【0041】
次いで、密閉混合工程SS3においては、上記ペースト状混合物に、シート用樹脂(例えばメタクリル酸樹脂等のアクリル樹脂系)、可塑剤、溶剤、有機酸溶液(例えばイタコン酸溶液)を添加し、プラネタリーミキサーで混合する。
【0042】
シート用樹脂は上記表1に示されるアクリル系樹脂が好ましく、例えばガラス転移点Tgが10〜50(℃)程度のアクリル系樹脂が用いられる。添加量は、前記予備混合工程SS1で混合された樹脂との合計量が10〜20重量部となるように定められる。すなわち、樹脂合計量が10重量部の組成1では8〜9重量部、合計量が15重量部の組成2では13〜14重量部、合計量が20重量部の組成3では18〜19重量部が添加される。
【0043】
可塑剤は、例えばフタル酸ジブチル(DBP)が用いられ、1〜3重量部、例えば、2.6重量部が添加される。
【0044】
また、溶剤は、沸点が200(℃)未満の低沸点溶剤であるが、OH基を有しないものが好ましく、トルエン、キシレン、アセトン、ケトン系等が好適である。低沸点溶剤の添加量は例えば25〜35重量部が好ましく、所望の粘度が得られるように樹脂量に応じて調節される。すなわち、樹脂合計量が10重量部の場合には28重量部程度、合計量が15重量部の場合には32.5重量部程度、合計量が20重量部の場合には35重量部程度を添加する。
【0045】
また、イタコン酸溶液は、OH基を有しない溶剤に対して好適な分散効果を有するもので、例えば0.6重量部程度が添加される。イタコン酸溶液に代えて、カルボン酸系、シラン系の分散剤が用いられても良く、他のカルボキシル基含有モノマーが用いられても良い。
【0046】
なお、無鉛系ガラス粉末が用いられる場合にも、上記有鉛系ガラス粉末の場合と概略同様な工程でスラリーが調製されるが、下記の表2および表3に示すように、使用する樹脂や溶剤が一部相違するので、相違点を説明する。
【0047】
【表2】
【0048】
【表3】
【0049】
無鉛系ガラスの場合は、予備混合工程SS1で混合される樹脂は、エチルセルロースまたは重量平均分子量が200000程度のアクリル系樹脂、すなわち、上記表3の樹脂D等が好ましい。樹脂量は2〜4重量部である。密閉混合工程SS3において添加される低沸点溶剤は、特に限定されないが、OH基を有するものが好ましく、例えば、IPA、エタノール、メタノール等を用い得る。また、密閉混合工程SS3において添加されるシート用樹脂は、上記表3の樹脂A〜C等が好ましい。添加量は樹脂全体の合計量が所望量例えば10重量部となるように定められるが、無鉛系ガラスの場合には、上記のように予備混合工程SS1で混合される樹脂量がやや多くされるので、密閉混合工程SS3で添加される量はそれに応じて減じられる。
【0050】
上記のようにして密閉混合した後、濾過工程SS4では、混合したスラリーを濾過することにより、前記シート成形工程S1に用いるスラリーが得られる。
【0051】
図2に戻って、シート成形工程S1でシート状成形体がカバーフィルムに支持された状態で成形されると、シートカット工程S2においては、シート状成形体をカバーフィルムと共に例えばPDPのガラス基板の大きさに合わせた寸法に切断する。次いで、ラミネート工程S3においては、電極等が別途設けられたガラス基板を用意し、ラミネータを用いて、その電極等が設けられた一面にシート状成形体を貼り付ける。次いで、フィルム剥離工程S4では、シート状成形体からカバーフィルムを剥離する。そして、焼成工程S5において、例えば540〜580(℃)の範囲で予め定められた所定の焼成温度で焼成処理を施すことにより、透明誘電体から成る誘電体層22が得られる。
【0052】
なお、白色誘電体から成る誘電体層30を形成する場合には、前記の予備混合工程SS1において、適当な量の白色顔料を混合すればよい。他の工程は透明誘電体の場合と同様である。
【0053】
このようにして得られた誘電体層22は、ピンホール、クラック、凹凸、浮き等が殆ど或いは全く存在せず、焼成膜厚が設定値(例えば30(μm))±1(μm)程度の高い膜厚精度を有し、540(℃)で焼成した場合に拡散透過率が85(%)程度、直線透過率が67(%)程度、表面粗さがRa値で0.1(μm)程度、耐電圧が1.9(kV)程度、内部気泡の大きさが10(μm)未満であり、下記の表4に示すPDPの透明誘電体の試験基準を略満たしていた。なお、耐電圧は基準値よりも僅かに劣るが、従来の印刷工法の場合の耐電圧は1.8(kV)程度で、実用上の問題は特に無かった。本実施例の場合の耐電圧は従来の印刷工法と同等以上の値であるから、何ら問題はない。また、「浮き」とは、カバーフィルムとシート状成形体との部分的な剥離を言うものである。
【0054】
【表4】
【0055】
要するに、本実施例によれば、プラネタリーミキサーで予備混合された混合原料が、粘度が100〜500(Pa・s)と比較的高い状態で三本ロールミルにて分散処理を施されることから、ガラス粉末の良好な分散状態が得られる。また、その後、溶剤を添加してシート成形に適当な程度まで粘度を低下させた状態で密閉容器であるプラネタリーミキサーで混合処理が施されることから、その混合過程でスラリー中の気泡が十分に除去される。そのため、このスラリーから作製したシート状成形体内に残留する気泡が極めて少なくなるので、ラミネータを用いてこれをガラス基板に転写して焼成処理を施せば、ピンホールの少ない透明誘電体が得られる。
【0056】
したがって、上述したように、印刷工法と同等以上の耐電圧および透過率を得ることができる。また、スラリー内におけるガラス粉末の分散性が高められると共に、気泡が除去される結果として、表面粗さも印刷工法に比較して改善されることはもちろん、従来のシート工法に比較しても更に改善される。
【0057】
なお、拡散透過率は焼成温度に応じて変化し得る。本実施例のガラスは軟化点が535(℃)であったことから540(℃)の焼成が好適であったが、560〜580(℃)で焼成することも可能である。但し、温度が高くなり過ぎると気泡が生じて透過率が低下する傾向にあるため、560(℃)では83(%)程度の透過率が得られるが、580(℃)では実用的な値ではあるものの78(%)程度まで低下する。
【0058】
これに対して、従来のシート工法では、ガラス粉末、シート用樹脂、可塑剤、および溶剤を容器に投入し、ボールミルにて混合した後、濾過することでスラリーを調製していた。そのため、十分な分散性が得られないことから、拡散透過率は、焼成温度が540(℃)でも77(%)、560(℃)では73(%)、580(℃)では66(%)に留まっていた。図4に、ボールミルで混合した従来の製造方法と、ローラーおよびプラネタリーミキサーで混合した本実施例の製造方法とでそれぞれ形成された透明誘電体層の拡散透過率を測定した結果を示す。図4中「540℃」等の数値はガラス膜の焼成温度である。本実施例によれば、バラツキも小さく、安定して高い透過率が得られるが、従来の製造方法では、得られる最大透過率も低く、バラツキも大きくなる。特に、580(℃)で焼成した場合には、気泡が発生して透過率が低下する傾向があるが、従来の製造方法ではその低下が著しい。
【0059】
しかも、ボールミル混合は、バッチ処理となるため、1(kg)当たりの処理時間は12〜48時間が必要となり、処理時間が遅く、作業性が悪い問題もあった。これに対して、本実施例によれば連続処理も可能であるため、1(kg)当たりの処理時間は2時間程度で良く、処理時間が速く、作業性も良好である。
【0060】
次に、スラリーの組成を種々変更して特性を評価した結果を説明する。下記の表5は、無鉛系ガラス粉末を用いたスラリーにおいて、予備混合工程SS1において混合する樹脂1、高沸点溶剤、密閉混合工程SS3において添加する樹脂2、低沸点溶剤の種類と、各組成における特性値をまとめたものである。表5において、樹脂1,樹脂2,樹脂A〜D、高沸点溶剤A,Bは、何れも前記表2の同一記載に対応している。
【0061】
【表5】
【0062】
表5の実施例1〜4は、予備混合工程SS1において混合される樹脂1としてエチルセルロースを、高沸点溶剤として沸点が200(℃)のターピネオール系または石油系すなわち高沸点溶剤Aを用いたものである。これらは、特に低温焼成の場合に高い透過率が得られないことから、樹脂1にエチルセルロースを用いるのは不適当と考えられる。すなわち、上記高沸点溶剤Aは、低沸点のものに比べて蒸発し難いことから、焼成工程における脱脂時(脱バイ時)まで残ることが多い。そのため、ガラスの焼結も遅くなるため、十分に軟化できなくなると共に、泡抜けも十分ではない。なお、低沸点溶剤にIPAを用いる組成としても、透過率の若干の改善に留まる。また、樹脂2に樹脂Bを用いる組成とすると、耐電圧および直線透過率が僅かではあるが却って低下する。また、樹脂2に樹脂Cを用いる組成では、直線透過率は僅かに改善するが、耐電圧は一層低下し、積分透過率も僅かに低下する。
【0063】
上記の結果によれば、樹脂1にエチルセルロースを用いて、組成の最適化を図ることは困難であるものと考えられる。
【0064】
実施例5〜8は、樹脂1に樹脂Dを用いたものである。この系によれば、耐電圧、透過率共に大幅に改善される。特に、低沸点溶剤としてトルエンに代えてIPAを用いた系では、僅かではあるがトルエンを用いたものに比較して特性が一層高くなる。なお、樹脂2が樹脂A,Bの何れであるかのみが相違する実施例5、7と実施例6,8とを対比すると、僅かな差ではあるが、樹脂2には樹脂Aが好ましいと言える。
【0065】
すなわち、無鉛系ガラスを用いる場合には、IPAのようにOH基を有する溶剤を低沸点溶剤として用いることが好ましい傾向がある。
【0066】
次に、有鉛系の種々の組成について、ガラスの種類、ガラス粉末の平均粒径、樹脂量、樹脂の種類、高沸点溶剤の種類による相違を評価した結果を説明する。
【0067】
下記の表6は、ガラスの種類、具体的には軟化点が相違する2種の有鉛ガラスについて、焼成可能な上限までの温度範囲で表面粗さ、積分透過率、直線透過率、AC耐電圧を3〜4点の焼成温度で焼成して測定した結果をまとめたものである。軟化点が560(℃)のガラスは、540〜560(℃)の範囲で焼成し、軟化点が580(℃)のガラスは560〜590(℃)の範囲で焼成した。下記の測定結果によれば、軟化点が560(℃)のガラスは、540〜550(℃)で焼成したときに透過率および耐電圧が最も高くなる。また、軟化点が580(℃)のガラスは、580(℃)程度で焼成したときに透過率および耐電圧が最も高くなる。したがって、それぞれ、これらの温度で焼成することが好ましい。
【0068】
【表6】
【0069】
下記の表7は、1.0(μm)、1.5(μm)、2.0(μm)の3種の平均粒径のガラス粉末を用意して、540〜570(℃)の焼成温度で焼成して透過率等の特性を測定した結果をまとめたものである。この評価結果によれば、ガラス平均粒径は表面粗さには明らかに影響するが、透過率や耐電圧には殆ど影響せず、何れの平均粒径が好ましいかについての判断は困難である。
【0070】
【表7】
【0071】
図5〜図7に平均粒径と透過率等との関係をグラフに表して示す。なお、図5、図7において「ITO付」は、ガラス基板の上に蒸着形成されたITO膜すなわち透明電極14上に透明誘電体層を形成したものであり、「ITO無」は、ITO膜を設けていない基板上に透明誘電体層を形成したものである。また、各図において「540℃」等はガラス膜の焼成温度である。なお、「560℃(基板B)」は、「560℃」と同一焼成温度であるが、他の評価サンプルとは使用したガラス基板が相違する。また、評価に際しては、有機結合剤としてTgが31(℃)のアクリル樹脂を15重量部とし、分散剤としてポリカルボン酸を、溶剤としてトルエン、ジヒドロターピネオール、および2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレートを用いてスラリーを調製した。
【0072】
上記図5によれば、表面粗さRaは、平均粒径が大きくなるほど悪くなる傾向にあるが、ITOの有無による影響は殆どない。
【0073】
図6は、耐電圧をITO付基板のみで測定した結果を表しており、平均粒径が大きい方がバラツキが大きくなる傾向が若干認められるが、明確ではない。なお、図7に示す用に、平均粒径と透過率との間には明確な傾向が認められなかった。
【0074】
下記の表8は、10重量部、15重量部、20重量部の3種の樹脂量(スラリー中の全量)について、透過率、耐電圧等を測定したものである。樹脂量が多くなるほど耐電圧が高くなる傾向があるが、透過率は15重量部程度で最も高くなる結果が得られた。
【0075】
【表8】
【0076】
図8〜図12は、樹脂量と特性との関係をグラフに表したもので、図8、図9では、ガラス転移点Tgが異なる3種を比較し、図10〜図12では焼成温度の異なる3〜4種を比較した。なお、これらの評価では、前記鉛ガラス粉末を用い、有機結合剤としてTgが31(℃)のアクリル樹脂を、分散剤としてポリカルボン酸を、溶剤としてトルエンおよび2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレートを用いてスラリーを調製した。
【0077】
図8において、ガラス転移点によって多少の傾向の相違はあるが、概ね、樹脂量が多くなるほど透過率が低下する傾向にある。なお、上方の80〜90(%)の範囲内にある測定値は積分透過率であり、70(%)よりも下方にある測定値は直線透過率である。なお、図8、図9の評価においては、焼成処理温度は540(℃)であり、可塑剤としてDBPが2重量部含まれ、焼成後の膜厚は30(μm)である。
【0078】
また、図9において、ガラス転移点が50(℃)と高い樹脂では、樹脂量が多くなるほど表面粗さが悪くなる傾向があるが、ガラス転移点が10(℃)、30(℃)の樹脂では、表面粗さは殆ど変化しない。
【0079】
また、図10は、樹脂量と表面粗さとの関係について、540〜560(℃)の範囲で焼成温度を変化させて評価したものである。バラツキはあるものの、表面粗さは樹脂量が少ないほど良好となる傾向がある。
【0080】
また、図11は、樹脂量と耐電圧との関係について、同じ温度範囲で評価したものである。10重量部、15重量部に一部異常値と考えられる測定値があるが、全体として、樹脂量が少ないほど耐電圧も高くなる。
【0081】
また、図12は、樹脂量と透過率との関係について、同じ温度範囲で評価したものである。この図においても、上方の一群は拡散透過率の測定値で、下方の一群は直線透過率の測定値である。同一の焼成温度およびITOの有無で比較すると、樹脂量が少ない方が若干透過率が高い傾向が認められる。
【0082】
下記の表9は、樹脂のTgと各特性との関係を評価した結果をまとめたものである。表面粗さは、Tg10(℃)の場合にやや値が大きい傾向があり、透過率についても、Tg10(℃)のときの低い測定結果となっている。また、耐電圧は、560(℃)で焼成した場合すなわち焼成温度が高すぎる場合を除き、Tg10(℃)で最低値を示す。したがって、樹脂は、Tgが30(℃)以上のものを用いることが好ましい。
【0083】
【表9】
【0084】
下記の表10は、予備混合工程SS1において混合される高沸点溶剤の沸点の相違と透過率や耐電圧との関係を評価した結果をまとめたものである。高沸点溶剤としては、沸点が200(℃)のターピネオール或いはジヒドロターピネオールと、250(℃)の2,2,4-トリメチル-1,3ペンタジオールモノイソブチレートとを用意し、他の条件は同一とした。表面粗さに関しては、沸点が200(℃)の溶剤を用いた場合の方が良い値が得られたが、透過率や耐電圧については沸点が250(℃)の溶剤の方が優れている結果が得られた。したがって、高沸点溶剤としては、沸点が250(℃)のものが好ましい。
【0085】
【表10】
【0086】
また、具体的なデータの記載は省略するが、密閉混合工程において添加する有機結合剤(すなわちシート用樹脂)の検討結果について説明する。検討材料としてブチラール樹脂、アクリル樹脂、エチルセルロースの3種を挙げ、必要樹脂量がガラス粉末100重量部に対して10〜20重量部であるとして、燃え抜け性を評価した。具体的には、550(℃)×30分保持で焼成して、燃え抜け残渣の量を比較した。燃え抜け性は、良い順にアクリル>エチルセルロース>ブチラールであり、アクリル樹脂が最も好ましいことが判明した。
【0087】
次に、密閉混合工程で添加する低沸点溶剤について検討した結果を説明する。検討に際しては、トルエンおよびエタノールを溶剤として用い、エタノールをガラス粉末100重量部に対して2〜8重量部の範囲で添加して、540(℃)、560(℃)、580(℃)の3つの焼成温度で焼成した後の透過率と表面粗さを評価した。低沸点溶剤の全体量は、例えば、25〜35重量部の範囲内で、シート成形に好適な粘度となるように調節した。結果を図13、図14に示す。何れの焼成温度で焼成しても、拡散透過率は、2重量部程度の僅かな添加量でも低下する傾向が明らかである。また、表面粗さは、4重量部程度までは変化が小さいもののばらつきが大きく、8重量部を超えると、明らかに悪化しばらつきも大きくなる。したがって、アルコール系等のOH基を有する有機溶剤を使用することは好ましくない。
【0088】
次に、分散剤の添加量について検討した結果を説明する。なお、この検討に先立ち、分散剤の種類について検討した結果、カルボキシル基含有モノマー、特に、イタコン酸が最も分散性に優れていた。そこで、イタコン酸の添加量と拡散透過率および表面粗さとの関係を調べた結果を図15、図16に示す。表面粗さは概ねイタコン酸の添加量が多くなるほど悪くなる傾向があり、バラツキも大きいが、1重量部で極小値となる。また、透過率も僅かな変化ではあるものの1重量部で極大値を得た。この結果によれば、イタコン酸量は1重量部前後の添加量とすることが好ましいと言える。
【0089】
以上、本発明を図面を参照して詳細に説明したが、本発明は更に別の態様でも実施でき、その主旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】PDPの構成を模式的に示す要部断面図である。
【図2】誘電体シートの製造方法を説明するための工程図である。
【図3】図2の製造工程に用いるスラリーの調製方法を説明するための工程図である。
【図4】本発明の一実施例の製造方法による拡散透過率をボールミルで混合した場合の拡散透過率と比較して示す図である。
【図5】ガラス粉末の平均粒径と誘電体層の表面粗さとの関係を示す図である。
【図6】ガラス粉末の平均粒径と誘電体層の耐電圧との関係を示す図である。
【図7】ガラス粉末の平均粒径と誘電体層の透過率との関係を示す図である。
【図8】樹脂量と誘電体層の透過率との関係を示す図である。
【図9】樹脂量と誘電体層の表面粗さとの関係を示す図である。
【図10】樹脂量と誘電体層の表面粗さとの関係を示す図である。
【図11】樹脂量と誘電体層の耐電圧との関係を示す図である。
【図12】樹脂量と誘電体層の表面粗さとの関係を示す図である。
【図13】エタノール添加量と誘電体層の透過率との関係を示す図である。
【図14】エタノール添加量と誘電体層の表面粗さとの関係を示す図である。
【図15】イタコン酸添加量と誘電体層の透過率との関係を示す図である。
【図16】イタコン酸添加量と誘電体層の表面粗さとの関係を示す図である。
【符号の説明】
【0091】
10:前面板、12:背面板、14:透明電極、16:バス電極、18:維持電極、20:ブラックストライプ、22:誘電体層、24:保護膜、26:アンダーコート、28:書込電極、30:誘電体層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼成処理を施して誘電体層を形成するためのシート状成形体を製造するための誘電体シート用組成物を製造する方法であって、
誘電体を構成するためのセラミック原料粉末と、有機結合剤と、所定の第1溶剤とを含む原料を混合する予備混合工程と、
前記予備混合工程で得られた混合原料を三本ロールミルで混練する混練工程と、
前記混練工程に次いで、前記混合原料に所定の第2溶剤を添加して粘度を低下させて密閉容器中で混合する密閉混合工程と
を、含むことを特徴とする誘電体シート用組成物の製造方法。
【請求項2】
前記第1溶剤は沸点が200(℃)以上の高沸点溶剤であり、前記第2溶剤は沸点が200(℃)未満の低沸点溶剤である請求項1の誘電体シート用組成物の製造方法。
【請求項3】
前記セラミック原料粉末は鉛ガラス粉末であり、前記第2溶剤はOH基を有しないものである請求項1または請求項2の誘電体シート用組成物の製造方法。
【請求項4】
前記セラミック原料粉末は無鉛ガラス粉末であり、前記第2溶剤はOH基を有するものである請求項1または請求項2の誘電体シート用組成物の製造方法。
【請求項1】
焼成処理を施して誘電体層を形成するためのシート状成形体を製造するための誘電体シート用組成物を製造する方法であって、
誘電体を構成するためのセラミック原料粉末と、有機結合剤と、所定の第1溶剤とを含む原料を混合する予備混合工程と、
前記予備混合工程で得られた混合原料を三本ロールミルで混練する混練工程と、
前記混練工程に次いで、前記混合原料に所定の第2溶剤を添加して粘度を低下させて密閉容器中で混合する密閉混合工程と
を、含むことを特徴とする誘電体シート用組成物の製造方法。
【請求項2】
前記第1溶剤は沸点が200(℃)以上の高沸点溶剤であり、前記第2溶剤は沸点が200(℃)未満の低沸点溶剤である請求項1の誘電体シート用組成物の製造方法。
【請求項3】
前記セラミック原料粉末は鉛ガラス粉末であり、前記第2溶剤はOH基を有しないものである請求項1または請求項2の誘電体シート用組成物の製造方法。
【請求項4】
前記セラミック原料粉末は無鉛ガラス粉末であり、前記第2溶剤はOH基を有するものである請求項1または請求項2の誘電体シート用組成物の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2007−294194(P2007−294194A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−119753(P2006−119753)
【出願日】平成18年4月24日(2006.4.24)
【出願人】(000004293)株式会社ノリタケカンパニーリミテド (449)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年4月24日(2006.4.24)
【出願人】(000004293)株式会社ノリタケカンパニーリミテド (449)
【Fターム(参考)】
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