説明

誘電体フィルタ

【課題】小型でありながら誘電体共振器のQ値を劣化させることなく不要波を抑圧できる誘電体フィルタを提供する。
【解決手段】閉空間を形成する導電性の筐体2と、筐体内に設置され互いに離間して設置された複数の誘電体共振器21乃至24と、を備えた誘電体フィルタ1において、複数の誘電体共振器21乃至24のいずれかとそれぞれ電磁的に結合するよう離間して配置された複数の半同軸金属共振器25、26と、隣り合う複数の誘電体共振器21乃至24および複数の半同軸金属共振器25、26との間の結合度を調整する結合調整ねじ31乃至35と、少なくとも1以上の誘電体共振器および半同軸金属共振器の上方に設置され共振周波数を調整する周波数調整ねじ41乃至46と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体フィルタに関するものであり、特に半同軸金属共振器と組み合わされた誘電体フィルタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、電話、移動体通信、テレビ中継などの通信回線は、マイクロ波を利用しており、これらの通信回線は、電波としてのマイクロ波を送受信するための基地局を備えている。この基地局においては、所望の周波数帯の電波のみを通過させ、不要な周波数帯の電波を除去するためのフィルタが設置されている。
【0003】
従来、この種のフィルタとして、小型で低損失な特性を有する誘電体フィルタが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この従来の誘電体フィルタは、導電性の筐体により形成された閉空間内に設置される複数の誘電体共振器を備えている。これらの誘電体共振器は、互いに仕切りで離隔されており、仕切りに形成された結合窓を介して電磁気的に結合するようになっている。
【0005】
また、導電性の筐体には、結合用プローブが接続された入出力コネクタが設置されており、筐体の外部から伝搬したマイクロ波は、結合用プローブにより誘電体共振器と磁界結合し、誘電体共振器の内部に電界を発生させ、誘電体共振器を励振するようになっている。
【0006】
このような構成により、従来の誘電体フィルタは、誘電体共振器が高いQ値を有しているので、小型でありながら通過帯域の前後における挿入損失を急激に高めるようになっていた。
【特許文献1】特開2002−359502号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に示す誘電体フィルタは、誘電体共振器の特性に起因して、スプリアスの発生など周波数帯域以外の不要波を透過させやすいという問題があった。また、透過する不要波の周波数帯を所望の周波数帯から遠ざけるよう誘電体共振器の形状を変更すると、誘電体共振器のQ値が劣化してしまっていた。また、誘電体共振器の形状を変更せず、この不要波を除去するためのフィルタを設置する場合には、誘電体フィルタが大型になるという問題があった。
【0008】
本発明は、従来の問題を解決するためになされたもので、小型でありながら誘電体共振器のQ値を劣化させることなく不要波を抑圧できる誘電体フィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の誘電体フィルタは、閉空間を形成する導電性の筐体と、前記筐体内に設置され互いに離間して設置された複数の誘電体共振器と、を備えた誘電体フィルタにおいて、前記複数の誘電体共振器のいずれかとそれぞれ電磁的に結合するよう離間して配置された複数の半同軸金属共振器と、隣り合う前記複数の誘電体共振器および前記複数の半同軸金属共振器との間の結合度を調整する結合調整素子と、少なくとも1以上の前記誘電体共振器および前記半同軸金属共振器の上方に設置され共振周波数を調整する周波数調整素子と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
この構成により、本発明の誘電体フィルタは、誘電体共振器のみにより構成される場合と同様に、小型でありながら通過帯域の前後における挿入損失を急激に高めることができるとともに、誘電体共振器のみにより構成される場合に発生するスプリアスなど通過帯域以外における不要波の透過を抑圧することができる。
【0011】
さらに、本発明の誘電体フィルタは、前記誘電体共振器は、前記半同軸金属共振器と同一の動作モードとなる形状を有し、前記筐体は、前記半同軸金属共振器および前記誘電体共振器のうち少なくともいずれか一方を前記半同軸金属共振器の動作モードで励振するための入出力素子を備えたことを特徴とする。
【0012】
この構成により、本発明の誘電体フィルタは、半同軸金属共振器と誘電体共振器とを組み合わせた際に、これらの共振器間のモード変換に起因する損失が生じないので、良好な伝送特性を有することができる。
【0013】
さらに、本発明の誘電体フィルタは、前記複数の半同軸金属共振器および前記複数の誘電体共振器は、前記閉空間を形成する前記筐体の内壁の同一面上に配置されることを特徴とする。
【0014】
この構成により、本発明の誘電体フィルタは、それぞれの半同軸金属共振器および誘電体共振器に対する周波数調整素子が同一方向に設置されるので、小型で軽量にすることができる。
【0015】
さらに、本発明の誘電体フィルタは、互いに隣り合う前記複数の半同軸金属共振器および前記複数の誘電体共振器は、結合度を調整するための結合窓が形成された導電性の壁により仕切られていることを特徴とする。
【0016】
この構成により、本発明の誘電体フィルタは、互いに隣り合う複数の半同軸金属共振器および複数の誘電体共振器が結合窓を介して互いに結合しているので、結合窓の位置や大きさを変えることにより、互いに隣り合う共振器間の結合度を調節することができる。
【0017】
さらに、本発明の誘電体フィルタは、互いに隣り合う前記複数の半同軸金属共振器および前記複数の誘電体共振器の距離を調節することにより結合度が調節されることを特徴とする。
【0018】
この構成により、本発明の誘電体フィルタは、互いに隣り合う複数の半同軸金属共振器および複数の誘電体共振器の距離を調節することにより、共振器間の結合度を定め、所望のフィルタ特性を生成することが可能となる。
【0019】
さらに、本発明の誘電体フィルタは、前記複数の半同軸金属共振器および前記複数の誘電体共振器のうちの少なくとも2以上が、前記複数の半同軸金属共振器および前記複数の誘電体共振器のうち隣接する3つの共振器と互いに電磁気的に結合するよう、結合窓が形成された導電性の壁により仕切られていることを特徴とする。
【0020】
この構成により、本発明の誘電体フィルタは、隣り合い前後の段を形成する2つの半同軸金属共振器および誘電体共振器の結合に加え、前後の段以外の2つの共振器が結合する飛び越し結合を生じさせるので、通過帯域の前後における挿入損失を急激に高めることができ、所望の周波数帯域外の電波を確実に減衰させることができる。また、通過帯域の前後における挿入損失が急激に高まるので、筐体に設置される共振器の数を減少させることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、小型でありながら誘電体共振器のQ値を劣化させることなく不要波を抑圧できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態の誘電体フィルタについて、図面を用いて説明する。
【0023】
(第1の実施の形態)
本発明の第1の実施の形態に係る誘電体フィルタについて、図1乃至図3を参照して説明する。
【0024】
図1は、本発明の第1の実施の形態における誘電体フィルタの構成を模式的に示す斜視図である。図2は、図1の1列目のフィルタ部分における断面図である。
【0025】
本実施の形態に係る誘電体フィルタ1は、図1に示すように、6段フィルタとして機能するものであり、略直方体の形状を有する金属製の筐体2と、筒状の誘電体によって形成される誘電体共振器21乃至24と、半同軸金属共振器25、26と、半同軸金属共振器25に電磁波を入力するための入力側コネクタ3と、半同軸金属共振器26から電磁波を出力するための出力側コネクタ4とを備えている。
【0026】
筐体2は、筐体本体2aと、蓋部2bとによって構成されている。筐体本体2aは、複数の円筒形の空洞をそれぞれ形成する複数の空洞内壁51乃至56を有している。これらの円筒形の空洞は、蓋部2bによって遮蔽されるようになっている。
【0027】
誘電体共振器21乃至24と、半同軸金属共振器25、26は、複数の空洞内にその空洞内壁51乃至56から所定の空間をもってそれぞれ離隔して設置される。本発明においては、前述した空洞内壁51乃至56の空洞の半径および深さは、等しくてもよい。
【0028】
ここで、図1に示す誘電体共振器21乃至24、半同軸金属共振器25、26および空洞内壁51乃至56は、筐体本体2aに3個ずつ2列に並ぶよう配置される。この配置の場合、筐体2の体積がコンパクトになるとともに、入力側コネクタ3および出力側コネクタ4を筐体2の同一の側面に設置できて好適であるが、入力側コネクタ3および出力側コネクタ4の位置はこれに限定されない。なお、これらの共振器21乃至26は、2列以外の配列であってもよく、たとえば1列に並んでいてもよい。
【0029】
誘電体共振器21乃至24および半同軸金属共振器25、26は、長手方向が互いに平行となるよう、筐体2の底面2cにねじ止めなど周知の手段により固定されている。また、これらの誘電体共振器21乃至24は、図示しない低誘電率の支持体によってそれぞれ支持されており、誘電体共振器21乃至24に励振された電磁波が、空洞内壁51乃至56を構成する金属壁によって減衰されないようになっている。
【0030】
筐体本体2aの空洞内壁51乃至56には、隣り合い前後の段を形成する2つの共振器を結合するための結合窓61乃至65が形成されている。本実施の形態においては、結合窓61乃至65は、隣り合う空洞内壁51乃至56により形成される境界部の上部に位置している。
【0031】
半同軸金属共振器25と誘電体共振器21との間には、これらの共振器間の結合度を調整するための結合調整ねじ31が設置されている。
【0032】
同様に、誘電体共振器21乃至24および半同軸金属共振器25、26のうち、互いに隣り合う共振器の間には、共振器間の結合度を調整するための結合調整ねじ32乃至35が設置されている。
【0033】
結合調整ねじ31乃至35は、図2に示すように、筐体2を構成する蓋部2bに形成された貫通孔に挿入され、長手方向が各共振器の長手方向と略平行になるよう設置されている。この結合調整ねじ31乃至35は、筐体2の底面2cに対して垂直方向に摺動するようになっており、結合調整ねじ31乃至35の挿入深さに応じて各共振器の結合度が調整されるようになっている。
【0034】
この結合調整ねじ31乃至35は、所望の挿入深さで固定するための固定部を有した結合度調整棒により構成されていてもよい。また、結合度調整棒の代わりに雄ねじを用い、筐体2の蓋部2bに雌ねじを形成することにより、各共振器21乃至26間の結合度がねじ送り機構により調節されるようにしてもよい。
【0035】
誘電体フィルタ1は、さらに、誘電体共振器21乃至24および半同軸金属共振器25、26の共振周波数を調整するための複数の周波数調整ねじ41乃至46を蓋部2bに有していてもよい。この場合、図2に示すように、各周波数調整ねじ41乃至46の中心軸が、誘電体共振器21乃至24および半同軸金属共振器25、26の中心軸の延長線とそれぞれ重なるように設置する。周波数調整ねじ41乃至46とこれらの共振器21乃至26との間隔を調節することによって、誘電体共振器21乃至24および半同軸金属共振器25、26の共振周波数をそれぞれ変化させることが可能となる。
【0036】
本実施の形態においては、図2に示すように、半同軸金属共振器25、26の直径が、誘電体共振器21乃至24の直径よりも短くなるように構成されている。しかしながら、半同軸金属共振器25、26の直径と、誘電体共振器21乃至24の直径とは等しくてもよい。あるいは、半同軸金属共振器25、26の直径が、誘電体共振器21乃至24の直径よりも長くなってもよい。
【0037】
半同軸金属共振器25、26は、例えば、黄銅、真鍮、アルミニウム、またはインバーなどの金属により形成された筒状の共振素子により構成されている。また、半同軸金属共振器25、26は、無負荷Qを高めるために銀メッキなどの処理が施されてもよい。同様に、誘電体共振器21乃至24および半同軸金属共振器25、26が設置される筐体2の内面にも、これらの共振器の無負荷Qを高めるために銀メッキなどの処理が施されてもよい。
【0038】
入力側コネクタ3は、ループ状の内部導体3aを有している。入力側コネクタ3の内部導体3aは、空洞内壁51により形成される空洞内に設けられ、外部回路から伝搬された電磁波を誘電体共振器および半同軸金属共振器21乃至26に入力するようになっている。
【0039】
同様に、出力側コネクタ4は、空洞内壁56により形成される空洞内に設けられ、誘電体共振器および半同軸金属共振器21乃至26を通過した電磁波を外部回路に出力するようになっている。また、出力側コネクタ4は、入力側コネクタ3と同様にループ状の不図示の内部導体を有している。
【0040】
また、図2に示すように、内部導体3aは、空洞内壁51により形成される空洞内において、半同軸金属共振器25の長手方向と平行になっている。ここで、内部導体3aの先端は、グランドとしての筐体2の底面2cにはんだ付けされていてもよい。あるいは、内部導体3aの先端は、底面2cと接触せず先端が開放状態となるよう形成されていてもよい。
【0041】
また、本実施の形態のように、6段の共振器21乃至26のうち入力側コネクタ3および出力側コネクタ4とそれぞれ結合する1段目および6段目の共振器21、26が半同軸金属共振器により構成されている場合には、内部導体の先端が半同軸金属共振器にそれぞれはんだ付けされるよう構成してもよい。
【0042】
上記のような構成を有する入力側コネクタ3を介して外部回路から誘電体フィルタ1に電磁波が入力されると、半同軸金属共振器25には、準TEMモードの電磁波が励振される。半同軸金属共振器25において励振された電磁波は、結合窓61を介して、誘電体共振器21を励振する。このとき、誘電体共振器21の直径および空洞内壁51との距離を調整することにより、誘電体共振器21には準TEMモードと類似するモードが励振される。
【0043】
図3は、共振器の動作モードを示す図であり、(a)は、半同軸金属共振器の動作モードを、(b)は、誘電体共振器の動作モードを示す図である。
【0044】
図3(a)に示すように、半同軸金属共振器には準TEMモードの電波が励振される。また、誘電体共振器の直径を調整することにより、誘電体共振器には、図3(b)に示すように準TEMモードに類似したモードが励振される。
【0045】
したがって、本実施の形態に係る誘電体フィルタ1は、モード変換に起因した伝搬損失が抑制され、良好な伝搬特性を得ることが可能となる。
【0046】
以上のような構成を有することにより、本発明の誘電体フィルタ1は、誘電体共振器のみにより構成される場合と同様に、小型でありながら通過帯域の前後における挿入損失を急激に高めることができるとともに、誘電体共振器のみにより構成される場合に発生するスプリアスなど通過帯域以外における不要波の透過を抑圧することができる。
【0047】
また、半同軸金属共振器25、26と誘電体共振器21乃至24とを組み合わせた際に、これらの共振器間のモード変換に起因する損失が生じないので、良好な伝送特性を有することができる。
【0048】
また、それぞれの半同軸金属共振器25、26および誘電体共振器21乃至24に対する周波数調整ねじ41乃至46が同一方向に設置されるので、小型で軽量にすることができる。
【0049】
なお、以上の説明においては、誘電体フィルタ1が4つの誘電体共振器21乃至24と、2つの半同軸金属共振器25、26を備える場合について説明した。しかしながら、誘電体フィルタ1は、少なくとも1つの誘電体共振器と、少なくとも1つの半同軸金属共振器と、を備えていればよい。必要とする誘電体共振器の数および半同軸金属共振器の数は、誘電体フィルタの用途に応じて適宜変更するようにする。
【0050】
また、以上の説明においては、入力側コネクタ3と結合する1段目の共振器と、出力側コネクタ4と結合する6段目の共振器が、半同軸金属共振器25、26により構成される場合について説明しているが、これに限定されず、1段目の共振器および6段目の共振器のうちの少なくともいずれか一方が誘電体共振器により構成されていてもよい。また、6段の共振器のうちいずれか1つが半同軸金属共振器により構成されていればよく、本実施の形態における1段目乃至6段目の共振器と、誘電体共振器および半同軸金属共振器との対応は、一例にすぎない。
【0051】
なお、上述した実施の形態においては、半同軸金属共振器25、26が隣り合う1つの誘電体共振器と結合し、誘電体共振器21乃至24が隣り合う2つの共振器、すなわち前後の段同士で結合する場合について説明したが、これに限定されず、次に説明する第2の実施の形態ように、誘電体共振器21乃至24が前後の段以外の共振器とも結合するよう、隣り合う3つの共振器と結合してもよい。
【0052】
(第2の実施の形態)
本発明の第2の実施の形態に係る誘電体フィルタについて、図4を参照して説明する。
【0053】
なお、第2の実施の形態に係る誘電体フィルタ81の構成は、上述の第1の実施の形態に係る誘電体フィルタ1の構成とほぼ同様であり、各構成要素については、図1に示した第1の実施の形態と同様の符号を用いて説明し、特に相違点についてのみ詳述する。
【0054】
図4において、誘電体共振器21乃至24および半同軸金属共振器25、26間の矢印Aは、これらの共振器21乃至26のうち、互いに前後の段を形成している隣り合う2つの共振器間における電磁気的な結合を表わしている。
【0055】
本実施の形態における誘電体フィルタ81は、隣り合う共振器間の結合窓のほかに、誘電体共振器21と誘電体共振器24とを電磁気的に結合するための結合窓など、互いに前後の段を形成していない誘電体共振器間の結合窓を有し、図4に矢印Bで示す結合が生じるようになっている。すなわち、誘電体共振器21および誘電体共振器24は、隣接する3つの共振器と電磁気的に結合するようになっている。ここで、隣接する3つの共振器とは、その共振器に対して前後の段を構成する2つの共振器と、隣の列に形成された3つの共振器のうち最も近接した位置にある1つの共振器をいう。また、矢印Bに示すような互いに前後の段を形成していない共振器間における結合を、飛び越し結合という。
【0056】
飛び越し結合を構成する共振器間の結合窓を有するフィルタは、通過帯域と遮断帯域との間の遷移領域において、伝送零点を含む伝送特性を有するので、急峻なカット特性を有する誘電体フィルタとして機能する。また、前後の段を形成していない共振器間の結合窓の位置を、誘電体共振器21と誘電体共振器24以外の誘電体共振器間の空洞内壁に形成することにより、伝送特性が、通過周波数帯に対して高周波数側あるいは低周波数側のみに伝送零点を有することもできる。
【0057】
(実施例)
本発明に係る誘電体フィルタの伝送特性を図5乃至図7に示す。
【0058】
図5は、本発明の誘電体フィルタの伝送特性を示すグラフである。本実施例においては、第2の実施の形態に示した誘電体フィルタ81を使用した。
【0059】
図5において、実線71は、本発明に係る誘電体フィルタの伝送特性を示す。また、比較のため、誘電体共振器のみにより構成された従来の誘電体フィルタの伝送特性を破線72に示す。
【0060】
破線72が示すように、従来の誘電体フィルタにおいては、2.6GHz付近の通過帯域のみならず、3.3GHz付近や4GHz付近など、通過帯域以外においても伝送特性が上昇する周波数帯域を有しており、これらの周波数帯の不要波が誘電体フィルタに入力された場合には、十分に減衰されずに出力されることとなり、スプリアスの発生などを生じる結果となる。
【0061】
これに対し、実線71が示すように、本発明に係る誘電体フィルタ81の伝送特性は、2.6GHz以外の周波数帯域以外においては十分低くなっている。したがって、誘電体フィルタ81に所望の周波数帯域以外の不要波が入力された場合においても、この不要波は誘電体フィルタ81により確実に減衰されることとなる。
【0062】
図6は、通過周波数帯域の近傍における誘電体フィルタの伝送特性および反射特性を示すグラフである。
【0063】
図6において、実線74は、本発明に係る誘電体フィルタの伝送特性を示す。また、破線75は、本発明に係る誘電体フィルタの反射特性を示す。
【0064】
実線74が示すように、誘電体フィルタ81の伝送特性は、通過帯域76の近傍においては0dBに近い良好な値となっている。また、通過帯域76における反射特性も、破線75が示すように、−20dB以下と十分小さい値を得られている。
【0065】
図7は、通過周波数帯域における誘電体フィルタの伝送特性を示すグラフである。
【0066】
図7において、実線77は、本発明に係る誘電体フィルタの伝送特性を示す。また、比較のため、半同軸金属共振器のみにより構成された従来のフィルタの伝送特性を破線78に示す。
【0067】
実線77に示すように、本発明に係る誘電体フィルタ81の伝送特性は、2.58GHz〜2.6GHzのほぼすべての帯域において−0.5dB以上となる良好な伝送特性を有している。また、破線78に示すように、従来の半同軸金属共振器のみにより構成されたフィルタは、2.58GHz〜2.6GHzのほぼすべての帯域において−1dB程度となる伝送特性を有している。したがって、本発明に係る誘電体フィルタ81は、半同軸金属共振器のみにより構成された従来のフィルタと同様に不要波を抑圧する特性を有し、かつ、従来の誘電体フィルタと同様に挿入損失が小さく良好な伝送特性を有していることが確認された。
【0068】
以上のように、本発明の誘電体フィルタ81は、上述した第1の実施の形態に係る誘電体フィルタ1の効果を有するのみならず、隣り合い前後の段を形成する2つの半同軸金属共振器25、26および誘電体共振器21乃至24の結合に加え、前後の段以外の2つの共振器が結合する飛び越し結合を生じさせるので、伝送零点の形成により通過帯域の前後における挿入損失を急激に高めることができ、所望の周波数帯域外の電波を確実に減衰させることができる。また、通過帯域の前後における挿入損失が急激に高まるので、筐体に設置される共振器の数を減少させることができる。
【0069】
なお、以上の説明においては、筐体2内に主として誘電体共振器21乃至24および半同軸金属共振器25、26が設置される場合について説明したが、これに限定されず、筐体2内に増幅回路や変復調回路などフィルタ以外の機能を有する回路が形成されていてもよい。
【0070】
また、以上の説明においては、隣り合う共振器間の空洞内壁の上部に結合窓が形成される場合について説明したが、これに限定されず、結合窓が隣り合う共振器間の空洞内壁の下部に形成されていてもよい。あるいは、結合窓が隣り合う共振器間の空洞内壁を上下方向に貫くように形成されていてもよい。この場合、隣り合う共振器間の結合度は、形成された窓の幅に応じて定められる。
【0071】
また、互いに隣り合う半同軸金属共振器25、26および誘電体共振器21乃至24の距離を調節することにより結合度を調節するようにしてもよい。
【0072】
また、以上の説明においては、誘電体共振器および半同軸金属共振器のいずれもが円筒形を有する場合について説明した。しかしながら、半同軸金属共振器が円筒形以外の形状を有していてもよい。
【0073】
図8は、本発明の半同軸金属共振器のその他の形状例を模式的に示す断面図であり、入力側コネクタ3側から1列目の共振器を見た図である。図8に示すように、半同軸金属共振器83は、ステップ形状を有している。また、誘電体共振器84は、上記の実施の形態と同様に円筒形を有している。
【0074】
また、以上の説明においては、結合調整ねじ31乃至35が各共振器の間に設置される場合について説明した。しかしながら、結合調整ねじは、必ずしもすべての共振器間に設置される必要はなく、必要に応じて筐体2の蓋部2bに設置すればよい。
【0075】
また、以上の説明においては、周波数調整ねじ41乃至46が誘電体共振器21乃至24および半同軸金属共振器25、26のそれぞれの上部に設置される場合について説明した。しかしながら、周波数調整ねじは、必ずしもこれらの共振器のすべての上部に設置されていなくてもよい。また、誘電体フィルタの周波数調整が不要である場合には、筐体2に周波数調整ねじを設置しなくてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0076】
以上説明したように、本発明に係る誘電体フィルタは、小型で誘電体共振器のQ値を劣化させることなく不要波を抑圧できるという効果を有し、通信分野などに適用することができるという効果を有する誘電体フィルタとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の第1の実施の形態における誘電体フィルタの構成を模式的に示す斜視図である。
【図2】図1の1列目のフィルタ部分における断面図である。
【図3】共振器の動作モードを示す図であり、(a)は、半同軸金属共振器の動作モードを、(b)は、誘電体共振器の動作モードを示す図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態における誘電体フィルタの構成を示す回路図である。
【図5】本発明の誘電体フィルタの伝送特性を示すグラフである。
【図6】通過周波数帯域の近傍における誘電体フィルタの伝送特性および反射特性を示すグラフである。
【図7】通過周波数帯域における誘電体フィルタの伝送特性を示すグラフである。
【図8】本発明の半同軸金属共振器のその他の形状例を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0078】
1 誘電体フィルタ
2 筐体
2a 筐体本体
2b 蓋部
3 入力側コネクタ
3a 内部導体
4 出力側コネクタ
21乃至24 誘電体共振器
25、26 半同軸金属共振器
31乃至35 結合調整ねじ(結合調整素子)
41乃至46 周波数調整ねじ(周波数調整素子)
51乃至56 空洞内壁
61乃至65 結合窓
81 誘電体フィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
閉空間を形成する導電性の筐体と、前記筐体内に設置され互いに離間して設置された複数の誘電体共振器と、を備えた誘電体フィルタにおいて、
前記複数の誘電体共振器のいずれかとそれぞれ電磁的に結合するよう離間して配置された複数の半同軸金属共振器と、
隣り合う前記複数の誘電体共振器および前記複数の半同軸金属共振器との間の結合度を調整する結合調整素子と、
少なくとも1以上の前記誘電体共振器および前記半同軸金属共振器の上方に設置され共振周波数を調整する周波数調整素子と、を備えたことを特徴とする誘電体フィルタ。
【請求項2】
前記誘電体共振器は、前記半同軸金属共振器と同一の動作モードとなる形状を有し、
前記筐体は、前記半同軸金属共振器および前記誘電体共振器のうち少なくともいずれか一方を前記半同軸金属共振器の動作モードで励振するための入出力素子を備えたことを特徴とする請求項1に記載の誘電体フィルタ。
【請求項3】
前記複数の半同軸金属共振器および前記複数の誘電体共振器は、前記閉空間を形成する前記筐体の内壁の同一面上に配置されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の誘電体フィルタ。
【請求項4】
互いに隣り合う前記複数の半同軸金属共振器および前記複数の誘電体共振器は、結合度を調整するための結合窓が形成された導電性の壁により仕切られていることを特徴とする請求項1乃至請求項3に記載の誘電体フィルタ。
【請求項5】
互いに隣り合う前記複数の半同軸金属共振器および前記複数の誘電体共振器の距離を調節することにより結合度が調節されることを特徴とする請求項1乃至請求項4に記載の誘電体フィルタ。
【請求項6】
前記複数の半同軸金属共振器および前記複数の誘電体共振器のうちの少なくとも2以上が、前記複数の半同軸金属共振器および前記複数の誘電体共振器のうち隣接する3つの共振器と互いに電磁気的に結合するよう、結合窓が形成された導電性の壁により仕切られていることを特徴とする請求項1乃至請求項5に記載の誘電体フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−98673(P2010−98673A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−269862(P2008−269862)
【出願日】平成20年10月20日(2008.10.20)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【Fターム(参考)】